JP3557273B2 - 磁気共鳴イメージング装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置に係り、とくに「Reverse MTC (Magnetization Transfer Contrast)効果」を利用した医療用に好適な磁気共鳴イメージング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、磁気共鳴イメージングの一手法としてMTC(Magnetization Transfer Contrast)効果を利用して生体のMTC効果の有無による異なるコントラスト像を得るものが知られている。このイメージング法の具体的な一例は米国特許公報第5、050、609号("Magnetization Transfer Contrast and Proton Re-laxation and Use Thereof In Magnetic Resonance Imaging", by Robert S.Balaban et al.)により開示されている。
【0003】
MTC効果は"Forsen &Hoffman"によるST(Saturation Transfer)法に端を発しており(Forsen et al., Journal of Chemical Physics, vol.39(11), pp.2892-2901(1963)」参照)、複数種の原子核プールとしての例えば自由水と高分子間のプロトン同士の化学的交換(chemical exchange)及び/又は交差緩和(cross relaxation)に基づいている。
【0004】
自由水と高分子のプロトンのMR(Magnetic Resonance)関係は、T2緩和(横緩和)時間の長い自由水(T2=約100msec)とT2緩和時間の短い高分子(T2=約0.1〜0.2msec)が同じ周波数に共鳴している。図9(a)の左側コラムに自由水と高分子の周波数スペクトラム上の関係を、同図(a)の右側コラムに磁化の交換・緩和関係を各々示す(同図(b)(c)についても同様)。自由水の信号値の場合、そのT2緩和時間が長いことに因って、フーリエ変換後の信号値は図示のように半値幅の狭い鋭いピークを示す。これに対し、プロテイン等の高分子間で動きの制限された(restricted)プロトンの信号値の場合、T2緩和時間が短いため、フーリエ変換後の信号値は半値幅が広く、スペクトラム上でピークとしては現れない。
【0005】
従来のMTC効果を利用したイメージング法では、自由水のピ−クを中心周波数と考えたとき、同図(b)に示すように周波数選択的プリパルス(MTCパルス)で自由水の共鳴周波数から例えば500Hzずれた周波数を励起する(off-resonance 励起)。これにより、自由水の磁化Hfが高分子の磁化Hrに移動し、同図(c)に示すように高分子のプロトンからのMR信号値は低下するが、自由水のプロトンからのMR信号値はそれ以上の割合で低下する。したがって、自由水と高分子間の化学的交換及び/又は交差緩和が反映される部位とそうでない部位とで信号値に差が生じるので、異なるコントラスト像が得られ、生体などの病巣部と正常組織との識別などに使用できる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のMTC効果は、off-resonance 励起によって自由水プロトンの磁化Hfを高分子プロトンの磁化Hrに移動させ、自由水のMR信号値を下げる、いわば"negative"な磁化移動に基礎を置いていた。この結果、S/N比が低く、また画像コントラストの分解能の低さを受容せざるを得なかった。
【0007】
さらに、MTCパルスを画像収集シーケンス前に印加したり、加算平均法で画像を作成したりすることも必要になるので、どうしても全体の撮像時間が長くなる傾向にあった。
【0008】
本発明は上述した状況に鑑みてなされたもので、とくに、自由水などの原子核プールのMR信号値を上げることができる、"positive"なMTC効果を利用した高S/N比のMR信号収集方法、磁気共鳴イメージング方法及び磁気共鳴イメージング装置を提供することを、その目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の磁気共鳴イメージング装置は、その一態様として、化学的変換現象及び交差緩和現象の内の少なくとも一方に基づく結合関係にある被検体の所望のスライス面内の少なくとも2種類の原子核プールの内、観測対象として指定された一種類の原子核プールの磁気共鳴現象によるMR信号を収集する磁気共鳴イメージング装置であって、前記指定原子核プールを、この指定原子核プールの周波数スペクトラム上の帯域幅に実質的に合致した周波数帯域幅を有する高周波パルスで周波数選択的に励起する励起手段と、この励起後に、前記化学的変換現象及び交差緩和現象の内の少なくとも一方の現象を反映させた前記指定原子核プールのMR信号を収集する収集手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
好適には、前記指定原子核プールは、横緩和(T2)時間がその他の前記原子核プールに比べて長い原子核の集まりである。例えば、前記指定原子核プールは前記被検体内の自由水のプロトンの集まりである。また例えば、前記高周波パルスは原子核スピンのフリップ角を90゜以上に倒す高周波パルスである。
【0011】
さらに好適には、前記高周波パルスは90゜パルスである。例えば前記90゜パルスは、グラディエントフィールドエコー(FE)法、高速グラディエントフィールドエコー(Fast FE)法、スピンエコー(SE)法、高速スピンエコー(Fast SE)法、及びこれらのエコー法を応用したエコープラナーイメージング(EPI)法の内のいずれかに基づくパスシーケンスに組み込まれた励起パルスである。また、例えば前記励起手段及び前記収集手段は、グラディエントフィールドエコー(FE)法、高速グラディエントフィールドエコー(Fast FE)法、スピンエコー(SE)法、高速スピンエコー(Fast SE)法、及びこれらのエコー法を応用したエコープラナーイメージング(EPI)法の内のいずれかに基づくパルスシーケンスを実行して前記励起及び収集を行うように構成される。
【0012】
さらに好適には、前記高周波パルスは180゜パルスである。例えば、前記180゜パルスは、反転回復(IR)法及び高速反転回復(Fast IR:FLAIR)法の内のいずれかに基づくパルスシーケンスに組み込まれた反転パルスである。例えば、前記励起手段及び前記収集手段は、反転回復(IR)法及び高速反転回復(FastIR:FLAIR)法の内のいずれかに基づくパルスシーケンスを実行して前記励起及び収集を行うように構成される。
【0013】
さらに例えば、前記高周波パルスの帯域幅は800Hz以下であることが望ましい。
【0014】
さらに例えば、前記励起手段及び前記収集手段は、NMRスペクトロスコピーにおける飽和移転(ST)法に基づくパルスシ−ケンスを実行して前記励起及び収集を行うように構成される。
【0015】
また、本発明の別の態様に係る磁気共鳴イメージング装置は、化学的変換現象及び交差緩和現象の内の少なくとも一方に基づく結合関係にある被検体の所望のスライス面内の少なくとも2種類の原子核プールの内の観測対象として指定された一種類の原子核プールを、この指定原子核プールの周波数スペクトラム上の帯域幅に実質的に合致した周波数帯域幅を有する第1の高周波パルスで周波数選択的に励起する手段と、この第1の高周波パルスによる周波数選択的な励起の後に、前記少なくとも2種類の原子核プールの内の一方の現象を反映させた前記指定原子核プールのMR信号を収集する手段と、前記少なくとも2種類の原子核プールを、前記指定原子核プールの周波数スペクトラム上の帯域幅よりも広い周波数帯域幅を有する第2の高周波パルスで周波数選択的に励起する手段と、この第2の高周波パルスによる周波数選択的な励起の後に、前記少なくとも2種類の原子核プールの内の一方の現象を反映させた前記指定原子核プールのMR信号を収集する手段と、前記第1の高周波パルス及び前記第2の高周波パルスのそれぞれに基づく周波数選択的な励起に応じて収集されたMR信号に基づいて当該励起毎のコントラスト像を形成する手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
【作用】
本発明の磁気共鳴イメージング装置によれば、被検体の所望のスライス面内の、観測対象として指定された原子核プール(例えば自由水のプロトン)は、狭帯域、すなわち指定原子核プールの周波数帯域とほぼ同じ帯域幅に設定された高周波パルスを使って周波数選択的に励起される。この励起に際し、この原子核プールと化学的結合関係(化学的交換及び/又は交差緩和)にある他の原子核プール(例えば高分子のプロトン)の磁化スピンは殆ど(極力)飽和されないが、指定原子核プールの磁化スピンは充分に飽和される。このため、この狭帯域選択励起パルス(帯域幅は例えば800Hz)による励起後、上記他の原子核プールの磁化が化学的交換及び/又は交差緩和に拠って指定原子核プールの磁化に移動し、例えば、横緩和(T2)時間の長い自由水などの原子核プールのMR信号値が上がる。したがって、指定された原子核プールのMR信号のS/N比が上がる。
【0017】
このように本発明のMTC効果は、自由水のプロトンなど、指定原子核プールのMR信号値を上げるように作用するので、従来のMR信号値を下げる、"negative"なMTC効果に対して、"positive"なMTC効果と位置付けることができ、この"positive"なMTC効果を本発明者は"Reverse MTC効果"と呼ぶことにする。
【0018】
この"Reverse MTC効果"を使って磁気共鳴イメージングやST法によるスペクトロスコピーを行うと、上記MR信号値の増大によって、コントラスト像の分解能を上げることができ、またスペクトロスコピーの分析能を向上させることができる。
【0019】
【実施例】
以下、この発明の第1実施例を、図1〜図7を参照して説明する。
【0020】
この実施例にかかる磁気共鳴イメージング装置の概略構成を図1に示す。この磁気共鳴イメージング装置は、静磁場発生用の磁石部と、静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場部と、MR信号受信用の送受信部と、システムコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部とを備えている。
【0021】
磁石部は、例えば超電導方式の磁石1と、この磁石1に電流を供給する静磁場電源2とを備え、被検体Pが遊挿される円筒状の開口部のZ軸方向に静磁場H0を発生させる。なお、この磁石部には、一次のシミング用のシムコイル14が設けられ、このシムコイル14に供給する電流を調整することで、シミングを行えるようになっている。
【0022】
傾斜磁場部は、磁石1に組み込まれたX、Y、Z軸方向の3組の傾斜磁場コイル3x〜3zと、この傾斜磁場コイル3x〜3zに電流を供給する傾斜磁場電源4と、この電源4を制御するためのシーケンサ5内の傾斜磁場シーケンサ5aとを備える。この傾斜磁場シーケンサ5aはコンピュータを備え、装置全体のコントローラ6(コンピュータを搭載)からFE法、SE法、高速FE法、高速SE法などに係る収集パルスシーケンスを指令する信号を受ける。これにより、傾斜磁場シ−ケンサ5aは、指令されたパルスシーケンスにしたがってX、Y、Z軸方向の各傾斜磁場の印加及びその強度を制御し、それらの傾斜磁場が静磁場H0に重畳可能になっている。この実施例では、互いに直交する3軸の内のZ軸方向の傾斜磁場をスライス用傾斜磁場GSとし、X軸方向のそれを読出し用傾斜磁場GRとし、さらにY軸方向のそれを位相エンコ−ド用傾斜磁場GEとする。
【0023】
送受信部は、磁石1内の撮影空間にて被検体Pの近傍に配設される高周波コイル7と、このコイル7に接続された送信機8T及び受信機8Rと、この送信機8T及び受信機8Rの動作を制御するためのシ−ケンサ5内のRFシーケンサ5b(コンピュータを搭載)とを備える。この送信機8T及び受信機8Rは、RFシーケンサ5bの制御のもとで、核磁気共鳴(NMR)を励起させるためのプリパルスやラーモア周波数のRF電流パルスを高周波コイル7に供給する一方、高周波コイル7が受信したMR信号(高周波信号)を受信し、各種の信号処理を施して、この信号に対応するデジタル信号を形成するようになっている。
【0024】
さらに、制御・演算部は、上述したコントローラ6のほか、受信機8Rで形成されたMR信号のデジタルデータを入力し、画像データを演算する演算ユニット10と、演算した画像データを保管する記憶ユニット11と、画像を表示する表示器12と、入力器13とを備えている。演算ユニット10は、具体的には、メモリ空間である2次元フーリエ空間への実測データの配置、画像再構成のためのフーリエ変換などの処理を行う。コントローラ6は傾斜磁場シーケンサ5a及びRFシーケンサ5bの同期をとりながら、両者の動作内容及び動作タイミングを制御する。
【0025】
次に、この実施例の動作を説明する。
【0026】
この磁気共鳴イメージング装置が起動すると、コントローラ6は所定メインプログラムを実行し、傾斜磁場シーケンサ5a及びRFシーケンサ5bに例えば図2に示す高速SE法のパルスシーケンスの開始を指令する。傾斜磁場シーケンサ5aは、図2に示すシーケンスに基づいてスライス用傾斜磁場GS、読出し用傾斜磁場GR、及び位相エンコード用傾斜磁場GEを制御する。これと並行して、RFシーケンサ5bは、図2に示すシーケンスで、被検体Pに90゜RFパルス及び180゜RFパルスを印加させる。
【0027】
本実施例で印加する90゜RFパルスは図3に示すように、シンク(sinc)関数のサイドロブを長くとって、そのπ(パイ)数を増加させ、全体としてパルス長を長く設定してある。この90゜RFパルスのパルス長は、その励起範囲が、被検体の対象とする原子核プール(pool of nuclei)が有する周波数スペクトラム上の帯域幅に殆ど一致するように設定される。
【0028】
いま、被検体内の、化学的交換及び/又は交差緩和の結合関係にある2種類の原子核の一方が自由水のプロトンであり、もう一方が高分子のプロトンであり、いま自由水のプロトンを観測対象の原子核プールとする。この場合、90゜RFパルスのπ(パイ)数は例えば好適には、(−4、+1)πで、パルス長22msecに設定される。この結果、90゜RFパルスの励起帯域幅は227Hzとなり、図4に示すように自由水のスペクトル曲線の帯域幅とほぼ合致する「狭帯域」となる。また、例えばπ数=±2π且つパルス長=15msecの場合、励起帯域幅=267Hzの「狭帯域」となる。通常のシーケンスにおける従来の励起用のRFパルスのパルスは短く、±1π(2msec)の場合、帯域幅=1000Hz、また±2πの場合、帯域幅=2000Hzの「広帯域」に設定される。
【0029】
本実施例の高速SE法に係るパルスシーケンスは上述の如く「狭帯域」に設定された90゜RFパルスを使用することを特徴とする。
【0030】
そこで、図2に戻って、このシーケンスを説明する。最初に、スライス用傾斜磁場GSが傾斜磁場電源4から傾斜磁場コイル3z、3zを介して印加され、この傾斜磁場GSが一定値まで立ち上がった時点で、送信機8T及び高周波コイル7を介して狭帯域90゜RFパルスが1回だけ印加される。これにより、被検体の所定スライス幅の領域が選択されるとともに、その面内の自由水のプロトンスピンが周波数選択的に励起され、y´軸(回転座標)までフリップする。このとき、90゜RFパルスは自由水のみを周波数選択的に充分に励起するのみであり、その帯域幅は図4に示すように狭いことから、高分子のプロトンスピンを励起させるのは極めて狭い帯域に限られる。つまり、高分子のプロトンスピンは上述の狭帯域90゜RFパルスによっては殆ど励起(飽和)されない。
【0031】
従って、自由水のプロトンスピンによる磁化Hfと高分子のプロトンスピンによる磁化Hrとは励起前には図5(a)に示す如く互いの化学的な結合関係を維持しながら平衡状態にあったものが、励起後には、同図(b)に示すごとく、励起されていない(飽和していない)高分子の磁化Hrから充分に励起(飽和)された自由水の磁化Hfに磁化の移動が起こる。
【0032】
シーケンス上では次いで、スライス用傾斜磁場GSの反転と共に、読出し用傾斜磁場GRが傾斜磁場コイル3x、3xを介して印加される。これは、スライス面内のGR方向に並んだスピンの位相が各エコーの中心時刻に揃うようにするための印加である。
【0033】
次いで、スライス用傾斜磁場GSとともに最初の180゜RFパルスが印加される。ここでの180゜RFパルスは通常の広帯域パルスに設定してある。これにより、自由水のプロトンスピンが180度、y´軸の回りに回転する。さらに、最初の位相エンコード用傾斜磁場GE=Aが傾斜磁場電源4から傾斜磁場コイル3y、3yを介して被検体Pに印加された後、傾斜磁場コイル3x、3xを介して印加される読出し用傾斜磁場GRとともに、最初のスピンエコー信号R1が高周波コイル7を介して収集される。
【0034】
この後、反転させた位相エンコード用傾斜磁場GE=−Aを印加させる。これは疑似エコー(stimulated echo)による画質劣化を避けるため、180゜RFパルスの印加時にk空間上の位相エンコード方向の中心位置(ke=0)にエンコード位置を引き戻すためである。
【0035】
次いで、スライス用傾斜磁場GSとともに2番目の180゜RFパルスを印加した後、2番目の位相エンコード用傾斜磁場GE=Bを印加する。そして、2番目のスピンエコー信号R2が、読出し用傾斜磁場GRの印加とともに、高周波コイル7を介して収集される。
【0036】
同様に、3番目及び4番目のスピンエコー信号R3、R4が収集される。
【0037】
この4エコーR1〜R4の収集は、所定数の狭帯域90゜RFパルスによる高周波励起毎に繰り返される。
【0038】
このように収集されたエコー信号は順次、受信機8Rに送られ、そこで増幅、中間周波変換、位相検波、低周波増幅などの各種の処理を受けた後、A/D変換されてエコーデータに生成される。このエコーデータは演算ユニット10で、フーリエ変換可能な、k空間に対応したメモリ領域にデータが配置される。そして、2次元フーリエ変換により実空間の画像に再構成される。この画像は記憶ユニット13に記憶されるとともに、表示器14に表示される。
【0039】
このように狭帯域90゜RFパルスを使用することで、励起時に極力、飽和させないように温存した高分子のスピンによる磁化Hrを励起後に、化学的交換及び/又は交差緩和を介して自由水に移動させることができる。これによって、イメージングに反映される自由水のMR信号(エコー信号)の値を従来の“negative”なMTC効果を使って収集した場合に比べて、高い信号値を得ることができ、S/N比を改善させ、また画像コントラストの分解能を向上させることができる。さらに、S/N比が改善されるので、従来行われていた加算平均の手法を採用しなくても済むとともに、MTCパルスも不要であるので、撮像時間も短くすることができる。
【0040】
なお、MTCパルス(図9参照)を掛けない通常のMR信号収集であっても、従来は90゜選択励起パルスはその帯域幅が約1000Hzと広いため、実際にはMTC効果が発生しており、自由水の低い信号値を観測していた。しかし、本発明を実施することで、そのような事態を回避でき、イメージングに寄与する自由水の高いMR信号値が得られる。
【0041】
人体においてMTC効果が高いと報告されている部位は、脳白質/灰白質、肝臓、軟骨、腎臓等である。従って、これらの部位の信号値は、従来の"negative"なMTC効果の場合、低下させていたことになる。本発明を用いることで、これらの部位の信号は高くなる。
【0042】
これらのMTC効果を発揮する部位、組織を含む同一部分に対して、上述の如く"Reverse MTC効果"を発生させるイメージングシーケンスと、MTC効果を発生させない通常のイメージングシーケンスとを各々個別に起動させ、これによって得られた2枚の画像から病巣部とノーマル組織の識別などを行うことができる。
【0043】
本出願人は実際に90゜励起パルスの帯域幅を変えFE法で、MTC効果が観測されているpolyvinyl alcohol(PVA)ファントムを使ってPVAの自由水の信号値を測定した。この測定結果を図6に示す。同図に示すグラフは、縦軸にPVA信号値を参照(reference)用水信号で正規化(normalize)した数値、横軸に90゜励起パルスの周波数帯域を表している。周波数帯域を1000Hzから230Hzにすることで信号値は約2倍近く向上することが分かった。また、このグラフから帯域幅が約800Hz以下になると"Reverse MTC効果"が実質的に現れることも確認できた。
【0044】
さらに、狭帯域RFパルスのフリップ角が"Reverse MTC効果"に及ぼす影響について、本出願人は図7に示す関係を得ている。同図は縦軸に、PVAの信号値(任意)を示し、横軸にフリップアングルを示すもので、スライス選択励起パルスの周波数帯域は狭帯域の場合(同図中の黒角印参照)、高分子からの“Reverse MTC効果”があるため、信号値は上がる。同図に示すグラフから、狭帯域90°パルスの場合、周波数帯域幅(BW)=227Hzであることから、フリップ角は90゜以上であることが望ましいことも同様に判明した。
【0045】
上記実施例では、この"Reverse MTC効果"を高速SE法によるイメージングに適用したが、この他にもSE法、FE法、高速FE法など、FE法またはSE法系のEPI(エコープラナーイメージング)法にも適用でき、それらのシーケンスにおける励起パルスを前述した狭帯域RFパルスに置換して実施できる。
【0046】
また本発明の"Reverse MTC効果"に係る狭帯域RFパルスはFE系、SE系のEPIのみならず、IR法及び高速FI法(Fast IR法:FLAIR法)のIR(反転回復)パルスとして用いることもできる。IR法の場合、特にMTC効果をもつ物質のT1時間は"Reverse MTC効果"により変化する。IRパルスを狭帯域に設定すると、図10(a)から(b)にその変化を示すように"Reverse MTC効果"が発生し、観測される信号(自由水)は"Positive"なMTC効果の性質の寄与を受けて高信号になる。
【0047】
さらに本発明の"Reverse MTC効果"に係る狭帯域RFパルスは、前述のように磁気共鳴イメージングに適用する場合に限定されず、Forsen&Hoffmanが報告しているNMR現象としてのST(Saturation Transfer)法においても好適に実施できる。図8に示すように化学的交換及び/又は交差緩和の関係にある2種類の原子核プールA、Bに対して、その一方の原子核プールAを狭帯域RFパルスで励起させることで、励起後にもう一方の原子核プールBから磁化の移動を受け、一方の原子核プールAのMR信号値を向上させることができる。これにより、S/N比を向上させて、NMR現象を利用した高精度なスペクトロスコピーが可能になる。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の磁気共鳴イメージング装置は、ST効果及びMTC効果を極力低減させ、被検体の所望のスライス面内の、観測対象とする1つの原子核プールのスピンのみを狭帯域RFパルスで周波数選択励起することで、化学的交換及び/又は交差緩和の関係にあるもう1つの原子核プールから励起後に磁化を移動させ、その観測対象原子核プールからのMR信号値を向上させるという新しい知見による"Reverse MTC効果"を用いたものである。このため、従来のST法、MTC法のように周波数選択的にpre-irradiationにて励起することで、それと化学的交換及び/又は交差緩和の関係にあるもう1つの原子核プールの信号値の低下を観測するものとは大きく異なり、MR信号値の向上によってS/N比を改善し、高画質のMRイメージング及び高精度なNMRスペクトロスコピー分析が行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る磁気共鳴イメージング装置の概略ブロック図。
【図2】同実施例において実行される高速SE法のパルスシーケンス。
【図3】狭帯域90゜RFパルスの波形図。
【図4】狭帯域90゜RFパルスの励起幅を説明する図。
【図5】同図(a)(b)は"Reverse MTC効果"に係る励起前後の磁化状態を説明する図。
【図6】狭帯域RFパルスの周波数帯域幅とMR信号値の関係例を示す実験グラフ。
【図7】フリップ角と信号値の関係の一例を示す実験グラフ。
【図8】ST法における"Reverse MTC効果"を説明する図。
【図9】(a)〜(c)は従来のMTC効果を磁化状態と伴に説明する図。
【図10】(a),(b)はIR法における“Reverse MTC効果”を説明する図。
【符号の説明】
1 磁石
2 静磁場電源
3x〜3y 傾斜磁場コイル
4 傾斜磁場電源
5 シーケンサ
6 コントローラ
7 高周波コイル
8T 送信機
8R 受信機
10 演算ユニット
11 記憶ユニット
13 入力器
Claims (13)
- 化学的変換現象及び交差緩和現象の内の少なくとも一方に基づく結合関係にある被検体の所望のスライス面内の少なくとも2種類の原子核プールの内、観測対象として指定された一種類の原子核プールの磁気共鳴現象によるMR信号を収集する磁気共鳴イメージング装置であって、
前記指定原子核プールを、この指定原子核プールの周波数スペクトラム上の帯域幅に実質的に合致した周波数帯域幅を有する高周波パルスで周波数選択的に励起する励起手段と、この励起後に、前記化学的変換現象及び交差緩和現象の内の少なくとも一方の現象を反映させた前記指定原子核プールのMR信号を収集する収集手段と、を有することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。 - 前記指定原子核プールは、横緩和(T2)時間がその他の前記原子核プールに比べて長い原子核の集まりであることを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
- 前記指定原子核プールは前記被検体内の自由水のプロトンの集まりであることを特徴とする請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
- 前記高周波パルスは原子核スピンのフリップ角を90゜以上に倒す高周波パルスであることを特徴とする請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
- 前記高周波パルスは90゜パルスであることを特徴とする請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
- 前記90゜パルスは、グラディエントフィールドエコー(FE)法、高速グラディエントフィールドエコー(Fast FE)法、スピンエコー(SE)法、高速スピンエコー(FastSE)法、及びこれらのエコー法を応用したエコープラナーイメージング(EPI)法の内のいずれかに基づくパルスシーケンスに組み込まれた励起パルスであることを特徴とする請求項5記載の磁気共鳴イメージング装置。
- 前記励起手段及び前記収集手段を、グラディエントフィールドエコー(FE)法、高速グラディエントフィールドエコー(Fast FE)法、スピンエコー(SE)法、高速スピンエコー(Fast SE)法、及びこれらのエコー法を応用したエコープラナーイメージング(EPI)法の内のいずれかに基づくパルスシーケンスを実行して前記励起及び前記収集を行うように構成したことを特徴とする請求項5記載の磁気共鳴イメージング装置。
- 前記高周波パルスは180゜パルスであることを特徴とする請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
- 前記180゜パルスは、反転回復(IR)法及び高速反転回復(Fast IR:FLAIR)法の内のいずれかに基づくパルスシーケンスに組み込まれた反転パルスであることを特徴とする請求項8記載の磁気共鳴イメージング装置。
- 前記励起手段及び前記収集手段を、反転回復(IR)法及び高速反転回復(Fast IR:FLAIR)法の内のいずれかに基づくパルスシーケンスを実行して前記励起及び前記収集を行うように構成したことを特徴とする請求項8記載の磁気共鳴イメージング装置。
- 前記高周波パルスの帯域幅は800Hz以下であることを特徴とする請求項1ないし10の何れか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
- 前記励起手段及び前記収集手段を、NMRスペクトロスコピーにおける飽和移転(ST)法に基づくパルスシーケンスを実行して前記励起及び前記収集を行うように構成したことを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
- 化学的変換現象及び交差緩和現象の内の少なくとも一方に基づく結合関係にある被検体の所望のスライス面内の少なくとも2種類の原子核プールの内の観測対象として指定された一種類の原子核プールを、この指定原子核プールの周波数スペクトラム上の帯域幅に実質的に合致した周波数帯域幅を有する第1の高周波パルスで周波数選択的に励起する手段と、
この第1の高周波パルスによる周波数選択的な励起の後に、前記少なくとも2種類の原子核プールの内の一方の現象を反映させた前記指定原子核プールのMR信号を収集する手段と、
前記少なくとも2種類の原子核プールを、前記指定原子核プールの周波数スペクトラム上の帯域幅よりも広い周波数帯域幅を有する第2の高周波パルスで周波数選択的に励起する手段と、
この第2の高周波パルスによる周波数選択的な励起の後に、前記少なくとも2種類の原子核プールの内の一方の現象を反映させた前記指定原子核プールのMR信号を収集する手段と、
前記第1の高周波パルス及び前記第2の高周波パルスのそれぞれに基づく周波数選択的な励起に応じて収集されたMR信号に基づいて当該励起毎のコントラスト像を形成する手段と、を備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
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