JP3554822B2 - 最適化排他的二値化相関計測方法および最適化排他的二値化計測装置およびその方法を実行するプログラム - Google Patents

最適化排他的二値化相関計測方法および最適化排他的二値化計測装置およびその方法を実行するプログラム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,最適化排他的二値化相関計測方法および最適化排他的二値化計測装置およびその方法を実行するプログラムに関するものである。特に,移動する計測対象の信号である計測信号と参照信号の相関を計測するものである。高速に移動する物体の移動速度,移動方向等を観測することを可能にするものであり,地球大気のゆらぎの観測等にも利用できるものである。
【0002】
星のまたたきは,星からの光が地球大気圏の屈折率ゆらぎによって波面(位相)を乱されることによって生じる。この星の瞬きが地表に生成するランダムパターンを観測することによりゆらぎ層における風向,風速,ゆらぎ層の高度,ゆらぎの強度等を計測することができる。このランダムパターンは高速に移動するので,高速な画像処理を必要とする。
【0003】
【従来の技術】
このような,ランダムパターンの観測には,ランダムパターンの二次元画像の一部の画像信号を参照信号として高速に取得し,ランダムパターンの二次元画像を計測信号として,両者の相関をとることによりランダムパターンを計測する。
【0004】
図12(a)は計測信号を表し,図12(b)は参照信号を表す。
Aは計測対象の計測信号,Bは参照信号である。
【0005】
計測信号Aと参照信号Bの相関をとり,両者が同一の信号であるかどうかを判別する。計測信号Aと参照信号Bは,A=<A>+α,B=<B>+βで表すことができる。
【0006】
【数1】
Figure 0003554822
【0007】
【数2】
Figure 0003554822
【0008】
であり,<A>,<B>は,それぞれの信号強度の平均値を表す。αは計測信号Aの平均値からの変動量,βは参照信号Bの平均値からの変動を表す。
【0009】
計測信号Aと参照信号Bとの相関Cは次の式で計算する。
【0010】
Figure 0003554822
ここに,<>はAとBの平均を表す。AおよびBがランダムに変動するものであると,<α>=0,<β>=0である。
【0011】
また,計測信号Aと参照信号Bが同一でないとき時(A≠B)
<αβ>=0
計測信号Aと参照信号Bが同一である時(A=Bの時)
<αβ>=σとなる。σは計測信号Aと参照信号の分散である。
【0012】
従って,C=<A> (A≠Bの時)
C=<A>+σ(A=Bの時)
で表される。
【0013】
例えば,図1(a)の装置でランダムに変動するパターンが,パターン形状を変えないで移動する場合の移動速度を計測すると考える(図1(a)の詳細は後述する)。
【0014】
アレイ素子光検出器5と単素子光検出器6は,同期して複数(i=1,2,・・・・,N)のデータ対を取得する。
【0015】
計測信号Aはランダムパターン1がアレイ素子光検出器5の任意の一つの画素で観測される信号Aの集合である。参照信号Bはピンホール7を介して単素子光検出器6で観測される信号で,対となっているアレイ素子光検出器5のデータ取得時刻から遅延時間τだけ遅れて取得された信号Bの集合である。
【0016】
図1(a)の装置で,参照信号と計測信号の一般的な相関Cは上記の式のようになる。
【0017】
その結果からランダムパターン1が形状を変えずに移動している場合には,この相関Cを計算することにより,ランダムパターン1の移動する方向と速度を
求めることができる。
【0018】
この一般的な相関Cの計算に対して,相関を計算する前に計測信号Aのi番目の要素と参照信号Bのi番目の要素を比較して,それらが異なる場合は両方の要素の値をゼロにしてから排他的相関C’を
C’=<A×B>
を計算することにより
C’=0 (A≠B)
C’=<A>+σ(A=Bの時) (20) のように相関の無い部分の値を減らすことで,ピークをより鮮明にすることができる。その結果として少ない信号要素数で相関を計算することができる。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
上記の方法は,後述するように,計測信号か参照信号,あるいはその両方に計測雑音が含まれる場合には,A=Bであった信号が,A=B+ε(εは計測雑音)と変化してしまうためそのまま適用すると上記式(20)で示されたピークの高さが大幅に減少してしまう。そのため,A=B±δの範囲にある場合は,A=Bと見なす許容誤差幅δを導入する必要がある。この許容誤差幅δの値をどのように設定するかは,以下に説明するように非常に重要である。
【0020】
このδのを適切に設定しないと,例えば,δが小さすぎる場合は,本来はA=Bであった信号がA≠Bと判定される確率が高くなり,相関のピークが減少する。また,δが大きすぎる場合は,本来はA≠Bであった信号がA=Bと判定される確率が高くなり,相関の無い部分の値が増加し,ピークを明瞭に判定できなくなる。そこで,本発明では信号変動幅と計測雑音を考慮して最適な許容誤差幅δを求め,排他的二値化を最適化して相関計測を行なう最適化排他的二値化相関計測方法および最適化排他的二値化計測装置およびその方法を実行するプログラムを提供することを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明は,参照信号と移動する計測対象の信号である計測信号の相関を計測する最適化排他的二値化計測方法および最適化排他的二値化計測装置およびその方法を実行するプログラムにおいて,参照信号と計測信号のそれぞれの信号値を比較し,参照信号と計測信号の値が同じか否かに応じて計測信号を排他的に二値化するものであり,参照信号と計測信号の値が同じか否かを判定する基準として最適化された許容誤差幅をもたせ,参照信号と計測信号と該許容誤差幅との関係により計測信号に対して排他的二値化をし,参照信号と計測信号の相関を計測するようにした。
【0022】
そして,許容誤差幅は,計測環境に応じて定めるものである。許容誤差幅は計測環境中の計測雑音に応じて定まるものであり,参照信号と計測信号の差と最適化された該許容誤差幅の大小関係に応じて排他的二値化を行なうようにした。
【0023】
さらに,相関ピークの期待値と相関が無い部分の期待値の差を,これらの期待値のゆらぎの大きさで割った量をSN比とした時,SN比が最大になるように該許容誤差幅を最適化するものである。
【0024】
ここでSN比とは,相関ピークの期待値と相関が無い部分の期待値の差を,これらの期待値のゆらぎの大きさで割った量で,SN比が大きいほど相関ピークが鮮明であることを示すものである。
【0025】
本発明は,相関をとる二次元画像の計測信号と参照信号の信号強度が同じであるかないかを判断を,SN比ができるかぎり良くなるように求めた許容誤差幅に基づいて排他的に二値化して計測信号と参照信号の相関をとるようにしたので,SN比が良い相関が得られる。また,信号強度の異なる部分は画素値を,例えば,0にし,信号強度が同じ部分の画素値を,例えば,1にするように二値化してから,相関をとるようにしたので,保存データ量も少なくてすみ,簡単な計算で高速に相関処理を行なうことができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の実施の形態1を示す図である。図1(a)は観測装置を示し,図1(b)は観測方法の説明図である。
【0027】
図1(a)において,1は計測対象の光パターンであり,ランダムパターンである。ランダムパターン1は,例えば,高速で移動する物体から放射される光,あるいは星が地表面につくるランダムパターン等である。3は集光レンズであり,ランダムパターン1から放射される光を集光するものである。集光レンズ3は望遠鏡でも良い。4はビームスプリッタであり,ランダムパターン1から放射される光を計測光8と参照光9に分離するものである。5はアレイ素子光検出器であり,例えば,CCDのような二次元の光検出器である。6は単素子光検出器であり,ピンホール7を通過する狭い視野の光を検出するものである。単素子光検出器6はアレイ素子光検出器5に比べて高速にサンプリングできるものである(例えば,光電子増倍管等を使用する)。7はピンホールである。8は計測光であり,アレイ素子光検出器5に入射する光である。9は参照光であって,単素子光検出器6に入射する光である。
【0028】
図1(a)の構成において,ランダムパターン1からの放射光は集光レンズ3で集光され,アレイ素子光検出器5に入射される。また,その放射光の一部はビームスプリッタ4で分離され,ピンホール7で視野を狭められて単素子光検出器6に入射される。
【0029】
アレイ素子光検出器5はシャッターを有しており,ランダムパターン1の移動速度に対して十分な短時間露光が可能である。ピンホール7の位置は,ランダムパターン1のうち,アレイ素子光検出器5の中心のアレイ素子で観測される部分が単素子光検出器でも観測されるように調整されている。アレイ素子(アレイ素子光検出器5のアレイ素子)と単素子(単素子光検出器6の単素子)が同期してデータを取得する。一回の露光で,時間毎のアレイ素子のフレーム画像と遅延時間τの異なる単素子の一組のデータ対ができる。
【0030】
図1(b)を参照して,図1(a)の観測装置によりランダムパターン1を観測する方法を説明する。図1(b)はアレイ素子と単素子が同期して取得した一組のデータ対を表している。図1(b)において,15はアレイ素子光検出器5の一回の露光で得られたフレーム画像で,16はフレーム画像15と同期して取得された単素子光検出器のデータ列である。
【0031】
図1(b)のフレーム画像15に対して,次のフレーム画像を取得するまでの間に実際に二次元アレイに投影される画像はたえず時間とともに変化している。単素子光検出器6はその間のフレーム画像の中心部の光強度変化を記録し続け,一連のデータ列を取得する。図1(b)はこのフレーム画像15と同期して取得された単素子光検出器のデータ列との一組のデータ対の関係を示している。
【0032】
25は計測光の像Aであり,ランダムパターン1の一部Rが,アレイ素子光検出器5上に投影されたものである。
【0033】
は,遅延時間τ経過した後には移動して,ピンホール7を介して単素子光検出器6によって参照光Bとして検出される。
【0034】
vpはアレイ素子光検出器5上の中心アレイから測ったアレイ素子の位置を示すベクトルである(以下添字のvはその参照記号がベクトル量を表していることを示す)。
【0035】
アレイ素子光検出器のフレーム画像15は,遅延時間τ=0の画像である。遅延時間τにおける単素子光検出器6のデータB(光強度)と遅延時間0におけるアレイ素子光検出器5の各アレイの各画素との相関をとると,データBの光強度と像Aがもっとも相関が高いとする。このことは,計測光の像A(座標位置xvp)はτ秒後にはピンホールの位置,即ちアレイ素子光検出器5の中心のアレイ素子に移動することを表している。従って,ランダムパターン1が形状を変えずに移動するものであれば,フレーム画像15中の計測光の像Aと,データ列16の遅延時間τにおける参照光のデータBとは同一の値が記録されている。そこで,このようなデータ対を多数取得して相関計算をすると,フレーム画像15における計測光の像Aの位置に相関ピークが現れる。
【0036】
このように,パターンの一部Rは,アレイ素子光検出器5の露光時には,座標位置xvpにあり,遅延時間τ経過した後は,座標位置0に移動することを観測できる。従って,図1(b)の観測方法により,アレイ素子光検出器5に投影されるランダムパターンの移動速度と移動方向を観測することができる。
【0037】
以下において,SD(Single Detector)は単素子光検出器6,TAD(Two Dimensional Array Detector)はアレイ素子光検出器5を表す。ランダムパターン1は形を変えずに速度v(速さvのベクトル)で視線に垂直な面を移動するものとする。ランダムパターンの強度分布はガウス分布(N(m,σ ))であるとする。ここでmは平均,σは標準偏差である。パターン(前記のランダムパターン,以下同様)は,TAD上に焦点が合わされ,隣接するピクセルと統計的に独立しているとする。入射光の半分はビームスプリッタ4で分離されてSDに投射される。SDに入射される光の視野は,TADの中央画素の領域に照射されるのと同じになるように制限される。
【0038】
TADはM画素×M画素であり,画素の幅はΔdである。測定可能な最大変移はdmax =(M/2)Δdである。画素間の感度の差はあらかじめ補正しておく。アレイ素子光検出器5および単素子光検出器6の露光時間Δtは十分に短く,その間のランダムパターンの移動距離は1画素の幅以下であるようにする。フレーム間隔tmax は十分に長く,アレイ素子光検出器5はその移動を検出できるものとする。SDはTADの露光の開始に同期してデータサンプリングを開始し,次のフレームの開始までサンプリングを継続する。SDもTADもパターンの強度変化を検出するのに必要な分解能を備えている。ここで,最小測定速度および最高測定速度はそれぞれ,vvmin=Δd/tmax ,およびvvmax=dmax /で表される。速度分解能Δv/vはΔt/tmax (v<Δd/Δtの時)およびΔd/dmax (v>Δd/Δtの時)である。
【0039】
TADの画像フレーム(以下フレームと称する)の画素とSDのデータ列のデータ対の関係は,図1(b)で前述した通りである。参照光(参照信号Aに同じ)と計測光(計測信号Bに同じ)の平均をとるのに必要な十分な数の参照光と計測光のデータ対が測定される。画面の位置xの光強度をI(x,t)であらわす(xはベクトルである)。xはTADの画素の座標に対応する。座標xの原点はTADの中心とする。SDはTADの画素のアレイの原点の光強度を観測する。TADのi番目のフレームの座標x,時刻tの画素値をI(x,t)で表す。i番目のフレームが開始されてからτ秒後のSDで記録されるデータの値をI SD(τ)で表す。i番目のデータ対(計測光の各アレイ素子と参照光とのデータ対のことであって,以下同じ)は,I SD(τ)=I(0,t+τ)であり,ここに,tは,i番目のフレームの開始時刻である。τはiフレームが開始されてからの遅延時間である。測定を実行した結果として,TADの各画素の強度変化はITAD (x)={I TAD }(i=1,2,・・・のITAD の集合),およびSDにおいてISD={I SD(τ)}(i=1,2,・・・)の各フレームにおける遅延時間τのISDの集合)が得られる。位置xvpに対して,ITAD (xvp)=ISD(τ)があるτに対して求まると,速度vは,v=−x/τで求まる。xvpを特定するためにITAD (x)とISD(τ)の相関を計算する。実際の測定では,必要なデータに計測雑音が含まれる。簡単化のために,検出器SDとTADの各画素が独立に雑音を生成し,その分布は平均0,分散σ のガウス分布N(0,σ )であるとする。
【0040】
画素xvpの光強度I=ITAD (xvp)とし,他の画素の光強度I=ITAD (x≠xvp)とする。パターンは形状を変えないで移動しているとする。装置に雑音がなければ,Iは対になったSDのデータ列の中で遅延時間τの光強度ISD(τ)に等しい。しかし,計測雑音のために,TADによるIとSDの値とに違いを生じる。相関のある画素xvpの強度をIとする。TADのそれ以外の画素での強度をIとする(バックグラウンドレベル)。遅延時間τのSDのデータをIとする。それぞれの計測雑音をE,EおよびEとする。この時,これらは次のように表される。
【0041】
=I+E
=I+E (1)
=I+E
式(1)において,各変数のi番目のデータは,Aのように,上付き添字で表す。
【0042】
上記において,相関のある座標での強度(ピークレベル)とバックグラウンドでの強度では差がある。ピークレベルはIとIの相関であり,バックグラウンドレベルはIとIの相関である。ピークレベルとバックグラウンドの大きさの雑音による変動は,相関強度の決定にエラーを生じる。
【0043】
本発明の計算方法について,二次元モデルを例として相関の求め方について説明する。
【0044】
(1)一般的方法(従来の方法)
二次元の相関は次の式のようになる。
【0045】
Figure 0003554822
相関強度のピークは次の式で表される。
【0046】
ここでは,あとの計算の単純化のために,前述した従来技術の説明におけるCの計算をする前に平均値をひいてある。
【0047】
=<(I −<I >)×(I −<I >)> (3)
およびEは分散σ のガウス分布であるとする。また,計測対象のランダムパターンは分散σ のガウス分布であるとすると,式(1)および雑音がガウス分布であることから,IとIの分布はガウス分布N(m,σ +σ )で表される。ここにmは平均であり,σ +σ は分散である。二つの信号IとIは式(1)の共通項Iによって統計的に依存している。Cの期待値CpEと非バイアス標準偏差σCPはNデータペアに対して
pE=σ (4)
【0048】
【数3】
Figure 0003554822
【0049】
である。
【0050】
一方,バックグラウンドレベルに対しては,
=<(I −<I >)×(I −<I >)> (6)
とIは独立であるから,Cの期待値CBEと非バイアス標準偏差σCBはN個のデータペアに対して次のようになる。
【0051】
BE=0 (7)
【0052】
【数4】
Figure 0003554822
【0053】
結果的に,一つのデータ対当たりに規格化されたピークのSN比は,次のようになる。
【0054】
【数5】
Figure 0003554822
【0055】
ここに,は規格化されたことを表す。
【0056】
σ<σの時,SNRは,光強度の変動が大きくなるにつれ,1/31/2 で一定になる(後述する)。SN比を向上させるにはNを大きくする必要がある。その時,SNRは,ほぼSNR1/2 に比例するように修正される。
(2) 排他的二値化法
本発明の最適化排他的二値化法(EBM)による相関計算方法に従えば,上記のような一般的方法でのランダムパターンのSNRの限界を越えることが可能になる。EBMは,TADの画素のデータのうち,ペアになるSDの値と等しくないもの(相関のない画素)のデータを除外する(画素値を0にする)。各TADのフレームでのI TAD (x)は,ペアのSDの記録データであるI SD(τ)と比較され,次のように二値化される。即ち,両者が同じ値の時,画素値を1し,両者の値が異なる時,画素値を0にする。実際は雑音の影響があるので,両者が全く同じであることはないので,本発明では,両者の大きさがある許容誤差範囲δの範囲にある時に両者は等しいとする。そのため,本発明の排他的二値化画像は次のように表される。
【0057】
SD(τ)−δ≦I TAD (x)≦I SD(τ)+δの時
(x)=1 (10)
ここで,δ=0として,B(x)=1の代わりに,B(x)=Aとすると,前述した従来の技術の説明における排他的相関C’(式20)と同じになる。
【0058】
それ以外の時
(x)=0 (10)’
この方法の場合,許容誤差幅δのとり方でSN比(相関ピーク値とバックグラウンドとの相関値の割合)が変化するので,本発明では許容誤差幅δを,以下に説明するようにランダムパターンの変動の大きさと計測雑音の割合を考慮して最適になるように定める。
【0059】
二次元の相関強度B(x)は排他的二値化画像{B(x)}の平均で求められる。即ち,
B(x)=<B(x)> (11)
この式は,一般的方法の式(2)に相当する。相関ピークはB(x)のピークとして現れる。
【0060】
EBMでは,相関強度のピークは,強度I が正しくI に等しいとして認識される確率Pである。雑音強度を除いて,I とI に含まれるI は等しい。誤りは,E とE が許容誤差範囲δより大きい時に生じる。従って,この誤差を生じる時の確率は次の式で表される。
【0061】
【数6】
Figure 0003554822
【0062】
ここに,N(0,2σ )は平均0,分散2σ の合成ガウス分布である。
【0063】
一般的方法と異なり,Pはσの依存性がない。δ〜σの時,式(12)の確率密度のほとんど全部をカバーしている。この時,Pはほぼ1に等しい。その期待値BPEと非バイアスの標準偏差σBPは次のようになる。
【0064】
PE=P (13)
【0065】
【数7】
Figure 0003554822
【0066】
一方,非相関信号であるべき強度I が雑音のためにI 程度で現れ,相関がある信号として処理されることがある。この誤認識する確率Pは,I =(I +E )とI =(I +E )の差が許容誤差範囲δの中にある確率と同じである。その時,確率は,I,I,EおよびEの合成確率密度関数を使用して次のように表される。
【0067】
【数8】
Figure 0003554822
【0068】
ここに,N(0,2σ +2σ )は,合成ガウス確率密度関数である。平均値は0,偏差は2σ +2σ である。δ〜σ≪σ(即ち,δ≪2σ +2σ である)。式(15)において,Pは確率密度関数のI=0付近の小さい部分である。そのためP=0に近い。N個のデータペアに対するその期待値BBEと非バイアス標準偏差σBBは次のようになる。
【0069】
BE=P (16)
【0070】
【数9】
Figure 0003554822
【0071】
式(9)のように,一つのデータ対当たりに規格化されたピークのSN比は次のようになる。
【0072】
【数10】
Figure 0003554822
【0073】
Nデータペアに対するSN比は,Nが増加するにつれSNRはSNR ×N1/2 に比例する。
【0074】
ここで重要な点は,PとPがランダムパターンの光強度の変動σに影響されないことである。これらは,主に計測雑音σにのみ決められる。式(12)からPはσと独立である。Pは光の強度変動に影響されるが(式15),確率はδにより調整できる。計測雑音σは光強度の変動σより一般的に小さい。従って,排他的二値化によってSN比を向上させることが可能である。実際の装置にEBMを適用する前に,許容誤差幅δは,ある与えられたσとσに関して最良のSN比になるように最適化しておく。SN比を検討する場合,あらかじめ概算されたパラメータσ/σとδ/σが利用できる。というのは,システムが改良されてσが減少しても,δ/σを一定になるようにすることにより,式(12)のPは同じになるからである。最適化は式(12)と式(15)を使用して式(18)を数値計算し,SNR が大きくなるようにすることにより達成できる。σ/σに関してパラメータδ/σの最適値が図2(a)の表の第2欄とに挙げられ,図2(b)にプロットされている。最適値はσとσに弱く依存している。3から100のσ/σの現実的な場合に,δ/σは2.5から4.3に変化する。
【0075】
(3)一般的方法と排他的二値化法との比較
排他的二値化法と一般的方法とにより計算されたそれぞれのSN比のグラフが図3(a)と図2(a)の表の第3欄と第4欄に示されている。図3(a)のグラフにおいて,EBMはσ/σに対してSN比が最大になるδ/σを用いたものである。EBMにより得られる最適SN比はσ/σが増加するにつれて増加するが,一般的な方法のSN比はσ/σ>2で一定(=1/31/2 )である。現実的な装置のσ/σは,2から100程度あるので,SNR は0.6から6.0に増加する。図3(b)は排他的二値化法と一般法とでのSN比の割合を示す。その割合はσ/σの平方根にほぼ比例して増加するが,データ数には依存しない。σ/σ≧21/2 のとき,SNR はSNRより大きく,例えば,SNR/SNR=3.3と10.3(σ/σ=10と100)である。しかし,σ/σ≦21/2 のとき,SNRはSNRより小さい。このことから分かるように,良いSN比で測定するためには,計測雑音を減少させることがEBMでは重要である。
【0076】
シミュレーションの例
EBMの有効性を示すために,前出のモデルで説明された場合についてシミュレーションを行なった。次のパラメータが仮定されている。TAD画素は11×11(M=11)である。画素の大きさはΔd=1mmである。フレーム間隔はtmax =5msである。SDのサンプリング間隔はΔt=1msである。各画素の光強度は統計的に独立であり,ガウス分布しているとする(平均m=10,標準偏差σ=1,N(10,1))。統計的に独立な計測雑音を,TADとSDの各画素により得られたデータに付加した。その確率密度関数は平均0のガウス関数である。計測雑音の標準偏差に対して2つの場合が考えられる。σ=0.1(すなわち,σ/σ=10)と他の場合はσ=0.01(即ち,σ/σ=100)である。雑音は光強度と統計的に独立であると仮定されている。EBMのパラメータδ/σはσ/σ=10およびσ/σに対して,図2(a)の表と図2(b)を参照して,最適値として3.2と4.1をセットする。ランダムパターンは速度v=(v,v),v=−1m/s,v=−1m/sで移動する。TADフレームとSDデータの25ペアが同期的に得られ,以下の相関計算に使用された。
【0077】
図4(a)と(b)は,遅延時間0の状態の排他的二値化法による場合と一般的方法による場合の3次元プロットを示している。図4(a)は排他的二値化法の場合であり,図4(b)は一般的方法の場合である。σ/σ=10の場合である。遅延時間0の二次元の相関をEBMの式(11)と一般的方法の式(2)を使用して計算する。これらの図は次のように規格化されている。相関のある場合は1に規格化した,また,相関のない期待値は0に規格化した。
【0078】
EBMにより決定されたピーク高さのSN比は,一般的方法より良くなっている。SNR=11であり,SNR=2.9である(図2(a)の表もしくは図2(b)の評価は,9.0と2.8である)。
【0079】
図5(a),(b)は,それぞれ図4(a),(b)の遅延時間τ=3msの二次元の相関強度である。そのパターンは3ms後に中心に移動するように現れている。これらの結果は,EBMでは二次元の相関においてはバックグラウンドレベルの変動が減少している。そのために,一般的方法より明瞭にピーク相関位置の動きを決定することができることを示している。
【0080】
図6と図7は,図4と図5と同様のものを示していて,σ/σ=100の場合である。図6(a)は排他的二値化方法の初期状態を示し,図7(a)は排他的二値化方法の遅延時間τ=3msの状態を示す。図6(b)は一般的方法の初期状態を示し,図7(b)は一般的方法の遅延時間τ=3msの状態を示す。相関期待値は,BPE=1,0,BBE=0.02である(σ/σ=100)。EBMの場合にはSN比が向上している。SNR=29であり,SNR=2.8である。図2(a)の表と図2(b)のグラフによる評価では29と2.8である。
【0081】
図8は,本発明の装置構成の実施の形態を示す図である。
【0082】
図8において,5はアレイ素子光検出器(TAD)である。6は単素子光検出器(SD)である。21は入力インタフェースであって,アレイ素子光検出器(TAD)5,単素子光検出器(SD)6の入力インタフェースである。22はコンピュータである。23は入力部であって,キーボード等である。24は出力部であって,ディスプレイ,プリンタ等である。
【0083】
31はパラメータ保持部であって,相関演算に必要な各種パラメータを保持するものである。32は相関演算部であって,アレイ素子光検出器5および単素子光検出器6のデータおよび各種パラメータにより計測信号Aと参照信号Bの相関を求めるものである。相関演算部32は二値化されたフレーム画像の画素値を画素毎に累積して保持する二値化相関バッファを備える。33はデータ保持部,アレイ素子光検出器5および単素子光検出器6から入力されるデータを保持するものである。34は同期制御部であって,アレイ素子光検出器5および単素子光検出器6から入力されるデータの同期をとるものである。35は最適パラメータ演算部であって,各種パラメータに従って,SN比が最大にあるようなδ/σを求めるものである。
【0084】
図2の構成において,σ,σ,最適なδ等の各種パラメータが入力部23から入力され,パラメータ保持部31に保持される。σとσは予め計測して求めておくか,あるいはSDの遅延時間0の記録データを使用して求める。この場合,データ保持部33の記録データをもとに,最適パラメータ演算部35で計算させることができる。同期制御部34はアレイ素子光検出器5,単素子光検出器6から時系列に沿って入力されるデータの同期をフレーム毎にとる。同期をとって入力されたそれぞれのデータはデータ保持部33に保持される。相関演算部32はデータ保持部33に保持されているアレイ素子光検出器5および単素子光検出器6からの入力データと,パラメータ保持部31に保持されているパラメータに従って,前述の排他的二値化方法により排他的二値化を行ない,参照信号と計測信号の相関演算を行ない,相関ピークを求める。求められた相関ピークの座標,遅延時間等は出力部24に出力される。
【0085】
入力部23から最適パラメータを求めるのに必要な各種パラメータが入力される。σとσは,あらかじめ求めておいたものを入力するか,あるいはデータ保持部33の記録データをもとに最適パラメータ演算部35で求めるようにしても良い。最適パラメータ演算部35は,各種パラメータに従って,σ/σに対してSN比が最大になるように最適化されたδ/σを求める。その演算結果は出力部24に出力される。
【0086】
図9は,本発明のデータ記録のフローチャートである。図9は図1(a),(b)の構成において,TADのフレーム画像とSDのデータを同期的に取得する動作のフローチャートである。図1(a)のアレイ素子光検出器5(TAD)とビームスプリッタ4の間にシャッタがあって,アレイ素子光検出器5の露光が終了した後も,単素子光検出器6(SD)はデータを取得し続けることができる。
【0087】
S1でi=1に初期化する。S2でTADの露光,SDのデータ取得を同期して開始する。S3で露光時間待つ(この間,TADの画像データを取得するとともにSDの一連のデータをとる)S4で露光時間を終了する。S5で所定の時間待つ(τの最大値より大きい時間とる)。この間,SDは一連のデータを録りつづける。S6で一連のSDデータの取得を終了する。S7でTADのフレーム画像,SDのデータ列を記録して保存する。S8で予定数の画像フレームのデータが取得できたか判定し,予定数のデータが取得できていれば,処理を終了し,予定数のデータがとれていなければS9でiを更新し,S2以降の処理を繰り返す。
【0088】
図10は本発明の相関演算のフローチャートである。
【0089】
S1 二値化相関値バッファの画素値を全て0に初期化する(i=1)。
【0090】
S2でiフレームのTADとSDのデータ対を入力する。S3でSDの記録データとTADの各画素値を比較する。S4とS5で画素値が(I SD−δ)と(I SD+δ)の間にあるか,ないかを判定する。画素値が(I SD−δ)と(I SD+δ)の間にあれば,S6で画素値を1にする。間になければ,S7で画素値を0にする。S8で二値化されたTADのフレーム画像の画素値を二値化相関値バッファに加算する。S9でさらにデータ対を追加するか判定し,さらに追加するのであれば,S10でi=i+1とし,S2以降の処理を繰り返す。なお,本発明は,取得したデータを保存してから相関計算する方法だけでなく,データを取得しながら相関計算をすることも可能である。従って,S9における追加は,データ保持部33に記録されたデータ対を読み出すか,あるいは新たなデータ対を取得することを意味する。S9の判断でさらに追加しないのであれば,S11で二値化相関値バッファの各画素値をiで割り,平均をとる。S12で相関結果を出力して,処理を終了する。
【0091】
図11は本発明の最適パラメータ決定のフローチャートである。
【0092】
S1でσとσを定める。S2で,δ/σの値を変えながら各δ/σに対してP(式12)とP(式15)を数値計算する。S3でSN比(式18)を計算し,σ/σ毎にSN比を最大するδ/σを選ぶ。
【0093】
S4で最適パラメータを出力する。
【0094】
【発明の効果】
本発明によれば,参照信号と計測信号の大きさの違いに基づく二値化を,最適化された誤差許容幅に従って,相関ピークの鮮明さを示すSN比が最大になるように行なうことができる。そのため,高い精度で,相関ピークを決定することができる。そのため,高速度で移動する物体の動き等を高速で正確に測定できる。そのため,地球大気のゆらぎの観測等に利用することも可能で,地球大気のゆらぎ層の風速,風向を正確に観測することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1を示す図である。
【図2】本発明の結果を示すグラフ1を示す図である。
【図3】本発明の結果を示すグラフ2を示す図である。
【図4】本発明の相関結果の三次元図1である。
【図5】本発明の相関結果の三次元図2である。
【図6】本発明の相関結果の三次元図3である。
【図7】本発明の相関結果の三次元図4である。
【図8】本発明の実施の形態2を示す図である。
【図9】本発明のデータ記録のフローチャートを示す図である。
【図10】本発明の相関演算のフローチャートを示す図である。
【図11】本発明の最適パラメータ決定のフローチャートを示す図である。
【図12】従来の技術の説明図である。
【符号の説明】
1:ランダムパターン
3:集光レンズ
4:ビームスプリッタ
5:アレイ素子光検出器
6:単素子光検出器
7:ピンホール
8:計測光
9:参照光

Claims (9)

  1. 参照信号と移動する計測対象の信号である計測信号の相関を計測する方法において,
    参照信号と計測信号のそれぞれの信号値を比較し,参照信号と計測信号の値が同じか否かに応じて計測信号を排他的に二値化するものであり,参照信号と計測信号の値が同じか否かを判定する基準として最適化された許容誤差幅をもたせ,参照信号と計測信号と該許容誤差幅との関係により計測信号に対して排他的二値化をし,参照信号と計測信号の相関を計測することを特徴とする最適化排他的二値化相関計測方法。
  2. 許容誤差幅は,計測環境に応じて定めるものであり,参照信号と計測信号の差と最適化された該許容誤差幅の大小関係に応じて排他的二値化を行なうものであることを特徴とする請求項1に記載の最適化排他的二値化相関計測方法。
  3. 相関ピークの期待値と相関が無い部分の期待値の差を,これらの期待値のゆらぎの大きさで割った量をSN比とした時,SN比が最大になるように該許容誤差幅を最適化することを特徴とする請求項1または2に記載の最適化排他的二値化相関計測方法。
  4. 計測対象は形状を変えずに移動するランダムなパターンであって,計測信号は計測対象の二次元画像の信号であり,参照信号は該計測信号の二次元画像の限られた領域の画像の信号であって計測信号と同期して取得されるものであり,参照信号と計測信号の相関により計測対象の動きを計測するものであることを特徴とする請求項1,2または3に記載の最適化排他的二値化相関計測方法。
  5. 計測光を受光するアレイ素子光検出器と計測光の一部を受光する単素子光検出器と,アレイ素子光検出器から出力される計測信号と,単素子光検出器の出力する参照信号の相関を取る相関演算部とを備えた最適化排他的二値化相関計測装置であって,
    該相関演算部は,参照信号と計測信号のそれぞれの信号値を比較し,参照信号と計測信号の値が同じか否かに応じて計測信号を排他的に二値化するものであり,参照信号と計測信号の値が同じか否かを判定する基準として最適化された許容誤差幅をもたせ,参照信号と計測信号と許容誤差幅との関係により計測信号の排他的二値化を最適化し,参照信号と計測信号の相関を計測することを特徴とする最適化排他的二値化相関計測装置。
  6. 許容誤差幅は,計測環境に応じて定めるものであり,参照信号と計測信号の差と最適化された該許容誤差幅の大小関係に応じて排他的二値化を行なうものであることを特徴とする請求項5に記載の最適化排他的二値化相関計測装置。
  7. 相関ピークの期待値と相関が無い部分の期待値の差を,これらの期待値のゆらぎの大きさで割った量をSN比とした時,SN比が最大になるように該許容誤差幅を最適化することを特徴とする請求項5または6に記載の最適化排他的二値化相関計測装置。
  8. 参照信号と移動する計測対象の信号である計測信号の相関を計測するプログラムにおいて,
    参照信号と計測信号のそれぞれの信号値を比較し,参照信号と計測信号の値が同じか否かに応じて計測信号を排他的に二値化するものであり,参照信号と計測信号の値が同じか否かを判定する基準として最適化された許容誤差幅をもたせ,参照信号と計測信号と該許容誤差幅との関係により計測信号に対して排他的二値化をし,参照信号と計測信号の相関を計測することにより最適化排他的二値化相関計測を実行することを特徴とするプログラム。
  9. 最適化排他的二値化相関計算を最適化するプログラムにおいて,参照信号と計測信号のそれぞれの信号値を比較し,参照信号と計測信号の値が同じか否かに応じて計測信号を排他的に二値化するものであり,参照信号と計測信号の値が同じか否かを判定する基準として許容誤差幅をもたせ,参照信号と計測信号と該許容誤差幅との関係により計測信号に対して排他的二値化をするものであって,
    許容誤差幅は,計測環境に応じて定めるものであり,
    相関ピークの期待値と相関が無い部分の期待値の差を,これらの期待値のゆらぎの大きさで割った量をSN比とした時,SN比が最大になるように最適化された該許容誤差幅を求めることを特徴とするプログラム。
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