JP3546503B2 - 熱亀裂位置予測方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、素材に熱負荷を与えて熱亀裂発生位置を予測する方法に係り、特に、実験時間を短縮化した熱亀裂位置予測方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、エンジンの高出力化および燃費向上が要求されるなか、エキゾーストマニホールドやピストン等の耐熱性の向上が求められている。従来、エキゾーストマニホールドやピストン等の耐熱強度については、これらの部品を実際にエンジンに組み付けて熱亀裂が発生するまで過酷な実機テストを行うか、あるいは有限要素法をベースとした計算によるシミュレーション解析が行われていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、実機テストを行った場合、エキゾーストマニホールド等に熱亀裂が発生するまでには、たとえ過酷なエンジン負荷条件下であっても、 600〜700 時間以上の時間がかかる。また、シミュレーション解析を行う場合でも、コンピュータによって熱亀裂発生の位置を予測するためには、初期条件の設定や計算に用いる数値の設定について、やはり材料についての長時間の実験が必要である。
【0004】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、熱負荷が加わる素材に発生する熱亀裂の位置を短時間で予測することができる熱亀裂位置予測方法を提供することにある。
【0005】
なお、関連する技術として特開昭59−153165 号公報等が知られている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく本発明は、素材の表面に磁気特性を有するコーティング層を形成した後、熱負荷を与えて上記コーティング層に素材の熱伸縮による亀裂を生じさせ、この亀裂を磁気探傷法を用いて検出することで素材自体の熱亀裂発生位置を予測するようにしたものである。
【0007】
【作用】
素材の表面に磁気特性を有するコーティング層を被覆したのち熱負荷を与えると、素材の熱伸縮によってその表面に被覆されたコーティング層に歪み模様的な微小な亀裂が発生する。この亀裂は、将来的に素材自体に熱亀裂が発生する位置を暗示する。また、亀裂が発生するコーティング層は、素材自体よりも遥かに耐熱強度が弱いため、極めて短時間で亀裂が発生する。よって、かかる亀裂を磁気探傷法で検出することで、素材自体の熱亀裂位置を短時間で予測できる。
【0008】
【実施例】
本発明の好適実施例を添付図面に基づいて説明する。
【0009】
〔実施例1〕
図1に示すようなエキゾーストマニホールド1にあっては、熱亀裂は経験的に図中斜線で示す領域2(熱亀裂発生危険領域)で発生することが知られている。図中の太線3は過去のエンジン耐久テストで実際に熱亀裂が発生した位置を示す。よって、本実施例では、素材として鋳鉄製のエキゾーストマニホールド1を用い、その熱亀裂発生危険領域2を中心に、熱亀裂位置を予測することとする。
【0010】
まず、上記熱亀裂発生危険領域2を中心にショットブラスティングを行い、表面を洗浄化する。次に、洗浄化された熱亀裂発生危険領域2をバーナにより 100〜300 ℃×10分加熱し、表面に酸化被膜である黒皮部を生成させる。黒皮部の錆の組成は、最外表面にいわゆる赤錆(FeOOHまたはFe2 O3 )が存在し、その下にいわゆる黒錆(Fe3 O4 )が存在する。
【0011】
次に、最外表面の赤錆を再びショットブラスティングによって除去し、その下方の黒錆を露出させる。すると、黒錆(Fe3 O4 :マグネタイト型酸化物)は、容易に酸素で酸化されて3価の酸化物になる。この3価の酸化物を安定化させるために、再びバーナにより 100〜300 ℃×10分の空気酸化を行う。これにより、4Fe3 O4 +O2 →6γ−Fe2 O3 となり、磁気特性を有する安定したγ−Fe2 O3 の酸化被膜が生成される。
【0012】
このように、 100〜300 ℃×10分→ショットブラスト→ 100〜300 ℃×10分→ショットブラスト→の工程を3回繰り返すことにより、エキゾーストマニホールド1の熱亀裂発生危険領域2の表面に、磁気特性を有するγ−Fe2 O3 の酸化被膜がコーテング層として形成される。このコーテング層の厚さは、上記工程を何回繰り返すかによって調節できるが、 5〜200 μmの膜厚が好ましい。
【0013】
なお、このコーテング層(酸化被膜)は、上述のようにバーナによってエキゾーストマニホールド1の熱亀裂発生危険領域2のみに局所的に形成するのではなく、熱処理炉によってエキゾーストマニホールド1全体を加熱することにより、当該マニホールド1全体に形成してもよい。
【0014】
次に、かかるマニホールド1をエンジン実機に取り付けるか、又は実機相当のシミュレーション加熱試験機に取り付け、所定の熱負荷を1〜5時間程度与える。すると、エキゾーストマニホールド1が熱伸縮することにより、マニホールド1自体とそれに密着形成されたコーテング層(酸化被膜)との熱膨張差によって、図2に示すようにコーティング層4に、歪み模様的な微小な亀裂5が発生する。
【0015】
この亀裂5は、将来的に母材としてのマニホールド1自体に熱亀裂が発生する位置を暗示し、その亀裂起点6から扇状に進展する。また、亀裂5が発生するコーティング層4(酸化被膜)は、エキゾーストマニホールド1自体よりも遥かに脆弱で耐熱強度が弱いため、マニホールド1自体に亀裂が発生する時間( 600〜700 時間以上)に比べれば、極めて短時間(1〜5時間)で亀裂5が発生する。よって、かかる亀裂5を磁気探傷法で検出することで、エキゾーストマニホールド1自体の熱亀裂位置を予測できる。
【0016】
具体的には、前記1〜5時間程度の加熱試験の後、エキゾーストマニホールド1をエンジン又はシミュレーション加熱試験機から取り外し、熱亀裂発生危険領域2に形成された磁気特性を有するコーティング層4(酸化被膜:γ−Fe2 O3 )をコイル等によって励磁させながら、その表面に乾燥した磁粉または磁粉を懸濁させた液体を提供する。すると、コーティング層4に生じた微細な亀裂5に基づく漏洩磁束によって、亀裂5部分に図2に示すような歪み模様的な扇状の磁粉模様が現れ、これを目視することで亀裂5を検出できるのである。これにより、従来 600〜700 時間以上かかっていたテスト時間を1〜5時間程度に短縮することができる。
【0017】
なお、上記コーティング層4(酸化被膜:γ−Fe2 O3 )の厚みは、 5〜200 μmが好ましい。 5μm以下では、被膜は、本実施例の目的とする脆い被膜ではなく、母材(エキゾーストマニホールド1自体)の熱伸縮と一体的に伸縮してしまい、母材に先立って亀裂5が発生しないからである。また、200 μm以上では、被膜は、脆くなりすぎて母材の歪に対応せず、ちょっとした変動荷重および歪の変化で亀裂を生じるようになり、母材の亀裂予想の判断材料にならないからである。
【0018】
〔実施例2〕
この実施例は、エキゾーストマニホールド1の熱亀裂発生危険領域2またはマニホールド1の全体に、磁気特性を有するγ−Fe2 O3 の粉末を溶射して、その溶射膜を上記コーティング層4としたものである。前実施例のように熱処理によりコーティング層4を形成する方法と比べると簡便な方法である。
【0019】
溶射の方法は、一般的なガスおよびプラズマ溶射等が利用できるが、出来れば密着強度に優れたHVOF(高速酸素溶射法)が好ましい。HVOFとは、図3に示すように、燃焼室7内に供給された燃料と酸素とを点火プラグ8によって点火燃焼させ、その結果生じた高温高圧な高速ガス流に溶射材料粉末9(γ−Fe2 O3 の粉末)を供給し、半溶融状態の粒子を超高速状態で母材(マニホールド1の熱亀裂発生危険領域2)に溶射するものである。溶射膜(コーティング層4)の厚みは、前実施例と同様の理由により10〜200 μmが好ましい。
【0020】
また、γ−Fe2 O3 の粉末9に、ガラス成分を混入させればさらによい。何故なら、酸化鉄成分(γ−Fe2 O3 )のみの溶射では、溶射粒子間の密着性が悪い場合があり、この密着性の悪さが亀裂検出時に検出精度を低下させる原因となるからである。よって、この粒子間を埋める目的で、ガラス成分を重量比で 5〜30%添加する。また、ガラス成分を全く添加しないと、被覆した溶射膜(コーティング層)自体が耐熱効果を有するようになり、溶射膜に母材の歪量に対応した亀裂を生じさせるために必要な時間(熱テスト時間)が長時間となってしまう。
【0021】
添加するガラス成分として、SiO2 を主成分とする一般的なケイ酸塩ガラスでもよいが、好ましくは鉛の入った低融点ガラス所謂ほうろう用のフリットがよい。フリットとして例えば、SiO2 +Al2 O3 、B2 O3 、Li2 O+Na2 O+K2 O、CaO+ZnO+BaO、CaF2 、Na3 AlF6 +Na2 SiF6 、CoO+NiO+MnO2 、TiO2 、Sb2 O5 等が挙げられる。また、使用する鉄粉は、γ−Fe2 O3 に限られず、純鉄粉や低炭素鉄粉でもよい。磁気特性を有する粉であれば、磁気探傷が行えるからである。
【0022】
フリットは、重量比で 5〜30%添加する。30%を超えると、ガラス成分自体の脆さが影響するため溶射膜(コーティング層)に生じる亀裂が歪模様にならず、熱疲労の亀裂危険度を表示しない亀甲状の亀裂となってしまうからである。他方、 5%以下では、粒子間を埋めるガラス成分の効果が小さく、ガラス成分を添加する意味がない。
【0023】
上記鉄粉(γ−Fe2 O3 粉末等)は約 100〜500 μmが好ましく、フリット材粉(SiO2 +Al2 O3 等)は約10〜300 μmが好ましい。これらの混合粉を、上述のHVOFによってエキゾーストマニホールド1の熱亀裂発生危険領域2に溶射する。なお、鉄粉の外周にフリット材粉を被覆した複合粉末を用いてもよい。この複合粉末は、鉄粉とフリット材粉とを混合して1250〜1350℃に加熱することで、鉄粉の周りにガラス成分であるフリット材粉が溶融被覆されて製造される。
【0024】
鉄粉やそれにフリット材粉を混ぜたもの等を、熱亀裂発生危険領域2またはマニホールド1全体にHVOFにより溶射し、溶射膜によりコーティング層4を形成した後、そのエキゾーストマニホールド1を前実施例と同様にエンジン実機に取り付けるか実機相当のシミュレーション加熱試験機に取り付け、所定の熱負荷を1〜5時間程度与える。
【0025】
すると、前実施例と同様に、図2に示すようにコーティング層4(溶射膜)に、エキゾーストマニホールド1の熱伸縮による歪み模様的な微小な亀裂5が発生する。この亀裂5は、将来的に当該マニホールド1自体に熱亀裂が発生する位置を暗示するため、かかる亀裂5を上述した磁気探傷法で検出することで、エキゾーストマニホールド1自体の熱亀裂位置を短時間で予測できる。
【0026】
〔実施例3〕
この実施例は、図4に示すように、アルミ製のピストン10の頂面に、前述の鉄粉(γ−Fe2 O3 粉末等)にフリット材粉(SiO2 +Al2 O3 等)を被覆したものをHVOF溶射し、その溶射膜をコーティング層11としたものである。溶射膜(コーティング層11)の厚みは、前実施例と同様の理由により10〜200 μmが好ましい。
【0027】
次に、かかるコーティング層11をつけたピストン10をエンジンに組み付け、所定時間(数時間)テスト運転する。密着性のよいHVOF溶射とした理由は、テスト運転中に溶射膜(コーティング層11)がピストン10から剥離しないようにするためである。その後、エンジンからピストン10を取り出す。
【0028】
取り外したピストン10のコーティング層11には、アルミ製ピストン10が熱伸縮することにより、ピストン10自体とコーテング層11との熱膨張差によって、図4に示すように歪み模様的な微小な亀裂12が発生する。この亀裂12は、将来的にピストン10自体に熱亀裂が発生する位置を暗示する。よって、かかる亀裂12を前実施例と同様に磁気探傷法によって検出して目視することにより、極めて短時間でピストン10の熱亀裂発生位置を予測できる。
【0029】
なお、前述の鉄粉にフリット材粉を被覆したものの代わりに、鉄粉(約 100〜500 μm)にアルミナ粉(約10〜50μm)を被覆したものをHVOF溶射してもよい。つまり、溶射材料は、後工程で磁気探傷法を用いるため磁気特性を有することが必要とされ、かつ溶射後、母材であるアルミピストン10にテスト運転による 100〜400 ℃の熱負荷が与えられたとき、アルミピストン10の熱伸縮で亀裂が発生することが必要とされる。
【0030】
また、素材の材質は、前述した鋳鉄、アルミの他、チタン等にも適用できる。また、コーティング層に磁気特性を持たせるので、磁気特性のない素材にも適用できる。また、素材はエキゾーストマニホールド、ピストンに限らず、熱負荷を受ける部材なら何でも適用できる。
【0031】
【発明の効果】
以上説明したように本発明に係る熱亀裂位置予測方法よれば、素材に発生する熱亀裂の位置を短時間で予測特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】コーティング層が形成されるエキゾーストマニホールドの斜視図である。
【図2】コーティング層に発生した亀裂の様子を示す拡大図である。
【図3】コーティング層としての溶射膜を形成するHVOF溶射装置の概略図である。
【図4】コーティング層が形成されるピストンの斜視図である。
【符号の説明】
1 素材としてのエキゾーストマニホールド
4 コーティング層
5 亀裂
10 素材としてのピストン
【産業上の利用分野】
本発明は、素材に熱負荷を与えて熱亀裂発生位置を予測する方法に係り、特に、実験時間を短縮化した熱亀裂位置予測方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、エンジンの高出力化および燃費向上が要求されるなか、エキゾーストマニホールドやピストン等の耐熱性の向上が求められている。従来、エキゾーストマニホールドやピストン等の耐熱強度については、これらの部品を実際にエンジンに組み付けて熱亀裂が発生するまで過酷な実機テストを行うか、あるいは有限要素法をベースとした計算によるシミュレーション解析が行われていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、実機テストを行った場合、エキゾーストマニホールド等に熱亀裂が発生するまでには、たとえ過酷なエンジン負荷条件下であっても、 600〜700 時間以上の時間がかかる。また、シミュレーション解析を行う場合でも、コンピュータによって熱亀裂発生の位置を予測するためには、初期条件の設定や計算に用いる数値の設定について、やはり材料についての長時間の実験が必要である。
【0004】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、熱負荷が加わる素材に発生する熱亀裂の位置を短時間で予測することができる熱亀裂位置予測方法を提供することにある。
【0005】
なお、関連する技術として特開昭59−153165 号公報等が知られている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく本発明は、素材の表面に磁気特性を有するコーティング層を形成した後、熱負荷を与えて上記コーティング層に素材の熱伸縮による亀裂を生じさせ、この亀裂を磁気探傷法を用いて検出することで素材自体の熱亀裂発生位置を予測するようにしたものである。
【0007】
【作用】
素材の表面に磁気特性を有するコーティング層を被覆したのち熱負荷を与えると、素材の熱伸縮によってその表面に被覆されたコーティング層に歪み模様的な微小な亀裂が発生する。この亀裂は、将来的に素材自体に熱亀裂が発生する位置を暗示する。また、亀裂が発生するコーティング層は、素材自体よりも遥かに耐熱強度が弱いため、極めて短時間で亀裂が発生する。よって、かかる亀裂を磁気探傷法で検出することで、素材自体の熱亀裂位置を短時間で予測できる。
【0008】
【実施例】
本発明の好適実施例を添付図面に基づいて説明する。
【0009】
〔実施例1〕
図1に示すようなエキゾーストマニホールド1にあっては、熱亀裂は経験的に図中斜線で示す領域2(熱亀裂発生危険領域)で発生することが知られている。図中の太線3は過去のエンジン耐久テストで実際に熱亀裂が発生した位置を示す。よって、本実施例では、素材として鋳鉄製のエキゾーストマニホールド1を用い、その熱亀裂発生危険領域2を中心に、熱亀裂位置を予測することとする。
【0010】
まず、上記熱亀裂発生危険領域2を中心にショットブラスティングを行い、表面を洗浄化する。次に、洗浄化された熱亀裂発生危険領域2をバーナにより 100〜300 ℃×10分加熱し、表面に酸化被膜である黒皮部を生成させる。黒皮部の錆の組成は、最外表面にいわゆる赤錆(FeOOHまたはFe2 O3 )が存在し、その下にいわゆる黒錆(Fe3 O4 )が存在する。
【0011】
次に、最外表面の赤錆を再びショットブラスティングによって除去し、その下方の黒錆を露出させる。すると、黒錆(Fe3 O4 :マグネタイト型酸化物)は、容易に酸素で酸化されて3価の酸化物になる。この3価の酸化物を安定化させるために、再びバーナにより 100〜300 ℃×10分の空気酸化を行う。これにより、4Fe3 O4 +O2 →6γ−Fe2 O3 となり、磁気特性を有する安定したγ−Fe2 O3 の酸化被膜が生成される。
【0012】
このように、 100〜300 ℃×10分→ショットブラスト→ 100〜300 ℃×10分→ショットブラスト→の工程を3回繰り返すことにより、エキゾーストマニホールド1の熱亀裂発生危険領域2の表面に、磁気特性を有するγ−Fe2 O3 の酸化被膜がコーテング層として形成される。このコーテング層の厚さは、上記工程を何回繰り返すかによって調節できるが、 5〜200 μmの膜厚が好ましい。
【0013】
なお、このコーテング層(酸化被膜)は、上述のようにバーナによってエキゾーストマニホールド1の熱亀裂発生危険領域2のみに局所的に形成するのではなく、熱処理炉によってエキゾーストマニホールド1全体を加熱することにより、当該マニホールド1全体に形成してもよい。
【0014】
次に、かかるマニホールド1をエンジン実機に取り付けるか、又は実機相当のシミュレーション加熱試験機に取り付け、所定の熱負荷を1〜5時間程度与える。すると、エキゾーストマニホールド1が熱伸縮することにより、マニホールド1自体とそれに密着形成されたコーテング層(酸化被膜)との熱膨張差によって、図2に示すようにコーティング層4に、歪み模様的な微小な亀裂5が発生する。
【0015】
この亀裂5は、将来的に母材としてのマニホールド1自体に熱亀裂が発生する位置を暗示し、その亀裂起点6から扇状に進展する。また、亀裂5が発生するコーティング層4(酸化被膜)は、エキゾーストマニホールド1自体よりも遥かに脆弱で耐熱強度が弱いため、マニホールド1自体に亀裂が発生する時間( 600〜700 時間以上)に比べれば、極めて短時間(1〜5時間)で亀裂5が発生する。よって、かかる亀裂5を磁気探傷法で検出することで、エキゾーストマニホールド1自体の熱亀裂位置を予測できる。
【0016】
具体的には、前記1〜5時間程度の加熱試験の後、エキゾーストマニホールド1をエンジン又はシミュレーション加熱試験機から取り外し、熱亀裂発生危険領域2に形成された磁気特性を有するコーティング層4(酸化被膜:γ−Fe2 O3 )をコイル等によって励磁させながら、その表面に乾燥した磁粉または磁粉を懸濁させた液体を提供する。すると、コーティング層4に生じた微細な亀裂5に基づく漏洩磁束によって、亀裂5部分に図2に示すような歪み模様的な扇状の磁粉模様が現れ、これを目視することで亀裂5を検出できるのである。これにより、従来 600〜700 時間以上かかっていたテスト時間を1〜5時間程度に短縮することができる。
【0017】
なお、上記コーティング層4(酸化被膜:γ−Fe2 O3 )の厚みは、 5〜200 μmが好ましい。 5μm以下では、被膜は、本実施例の目的とする脆い被膜ではなく、母材(エキゾーストマニホールド1自体)の熱伸縮と一体的に伸縮してしまい、母材に先立って亀裂5が発生しないからである。また、200 μm以上では、被膜は、脆くなりすぎて母材の歪に対応せず、ちょっとした変動荷重および歪の変化で亀裂を生じるようになり、母材の亀裂予想の判断材料にならないからである。
【0018】
〔実施例2〕
この実施例は、エキゾーストマニホールド1の熱亀裂発生危険領域2またはマニホールド1の全体に、磁気特性を有するγ−Fe2 O3 の粉末を溶射して、その溶射膜を上記コーティング層4としたものである。前実施例のように熱処理によりコーティング層4を形成する方法と比べると簡便な方法である。
【0019】
溶射の方法は、一般的なガスおよびプラズマ溶射等が利用できるが、出来れば密着強度に優れたHVOF(高速酸素溶射法)が好ましい。HVOFとは、図3に示すように、燃焼室7内に供給された燃料と酸素とを点火プラグ8によって点火燃焼させ、その結果生じた高温高圧な高速ガス流に溶射材料粉末9(γ−Fe2 O3 の粉末)を供給し、半溶融状態の粒子を超高速状態で母材(マニホールド1の熱亀裂発生危険領域2)に溶射するものである。溶射膜(コーティング層4)の厚みは、前実施例と同様の理由により10〜200 μmが好ましい。
【0020】
また、γ−Fe2 O3 の粉末9に、ガラス成分を混入させればさらによい。何故なら、酸化鉄成分(γ−Fe2 O3 )のみの溶射では、溶射粒子間の密着性が悪い場合があり、この密着性の悪さが亀裂検出時に検出精度を低下させる原因となるからである。よって、この粒子間を埋める目的で、ガラス成分を重量比で 5〜30%添加する。また、ガラス成分を全く添加しないと、被覆した溶射膜(コーティング層)自体が耐熱効果を有するようになり、溶射膜に母材の歪量に対応した亀裂を生じさせるために必要な時間(熱テスト時間)が長時間となってしまう。
【0021】
添加するガラス成分として、SiO2 を主成分とする一般的なケイ酸塩ガラスでもよいが、好ましくは鉛の入った低融点ガラス所謂ほうろう用のフリットがよい。フリットとして例えば、SiO2 +Al2 O3 、B2 O3 、Li2 O+Na2 O+K2 O、CaO+ZnO+BaO、CaF2 、Na3 AlF6 +Na2 SiF6 、CoO+NiO+MnO2 、TiO2 、Sb2 O5 等が挙げられる。また、使用する鉄粉は、γ−Fe2 O3 に限られず、純鉄粉や低炭素鉄粉でもよい。磁気特性を有する粉であれば、磁気探傷が行えるからである。
【0022】
フリットは、重量比で 5〜30%添加する。30%を超えると、ガラス成分自体の脆さが影響するため溶射膜(コーティング層)に生じる亀裂が歪模様にならず、熱疲労の亀裂危険度を表示しない亀甲状の亀裂となってしまうからである。他方、 5%以下では、粒子間を埋めるガラス成分の効果が小さく、ガラス成分を添加する意味がない。
【0023】
上記鉄粉(γ−Fe2 O3 粉末等)は約 100〜500 μmが好ましく、フリット材粉(SiO2 +Al2 O3 等)は約10〜300 μmが好ましい。これらの混合粉を、上述のHVOFによってエキゾーストマニホールド1の熱亀裂発生危険領域2に溶射する。なお、鉄粉の外周にフリット材粉を被覆した複合粉末を用いてもよい。この複合粉末は、鉄粉とフリット材粉とを混合して1250〜1350℃に加熱することで、鉄粉の周りにガラス成分であるフリット材粉が溶融被覆されて製造される。
【0024】
鉄粉やそれにフリット材粉を混ぜたもの等を、熱亀裂発生危険領域2またはマニホールド1全体にHVOFにより溶射し、溶射膜によりコーティング層4を形成した後、そのエキゾーストマニホールド1を前実施例と同様にエンジン実機に取り付けるか実機相当のシミュレーション加熱試験機に取り付け、所定の熱負荷を1〜5時間程度与える。
【0025】
すると、前実施例と同様に、図2に示すようにコーティング層4(溶射膜)に、エキゾーストマニホールド1の熱伸縮による歪み模様的な微小な亀裂5が発生する。この亀裂5は、将来的に当該マニホールド1自体に熱亀裂が発生する位置を暗示するため、かかる亀裂5を上述した磁気探傷法で検出することで、エキゾーストマニホールド1自体の熱亀裂位置を短時間で予測できる。
【0026】
〔実施例3〕
この実施例は、図4に示すように、アルミ製のピストン10の頂面に、前述の鉄粉(γ−Fe2 O3 粉末等)にフリット材粉(SiO2 +Al2 O3 等)を被覆したものをHVOF溶射し、その溶射膜をコーティング層11としたものである。溶射膜(コーティング層11)の厚みは、前実施例と同様の理由により10〜200 μmが好ましい。
【0027】
次に、かかるコーティング層11をつけたピストン10をエンジンに組み付け、所定時間(数時間)テスト運転する。密着性のよいHVOF溶射とした理由は、テスト運転中に溶射膜(コーティング層11)がピストン10から剥離しないようにするためである。その後、エンジンからピストン10を取り出す。
【0028】
取り外したピストン10のコーティング層11には、アルミ製ピストン10が熱伸縮することにより、ピストン10自体とコーテング層11との熱膨張差によって、図4に示すように歪み模様的な微小な亀裂12が発生する。この亀裂12は、将来的にピストン10自体に熱亀裂が発生する位置を暗示する。よって、かかる亀裂12を前実施例と同様に磁気探傷法によって検出して目視することにより、極めて短時間でピストン10の熱亀裂発生位置を予測できる。
【0029】
なお、前述の鉄粉にフリット材粉を被覆したものの代わりに、鉄粉(約 100〜500 μm)にアルミナ粉(約10〜50μm)を被覆したものをHVOF溶射してもよい。つまり、溶射材料は、後工程で磁気探傷法を用いるため磁気特性を有することが必要とされ、かつ溶射後、母材であるアルミピストン10にテスト運転による 100〜400 ℃の熱負荷が与えられたとき、アルミピストン10の熱伸縮で亀裂が発生することが必要とされる。
【0030】
また、素材の材質は、前述した鋳鉄、アルミの他、チタン等にも適用できる。また、コーティング層に磁気特性を持たせるので、磁気特性のない素材にも適用できる。また、素材はエキゾーストマニホールド、ピストンに限らず、熱負荷を受ける部材なら何でも適用できる。
【0031】
【発明の効果】
以上説明したように本発明に係る熱亀裂位置予測方法よれば、素材に発生する熱亀裂の位置を短時間で予測特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】コーティング層が形成されるエキゾーストマニホールドの斜視図である。
【図2】コーティング層に発生した亀裂の様子を示す拡大図である。
【図3】コーティング層としての溶射膜を形成するHVOF溶射装置の概略図である。
【図4】コーティング層が形成されるピストンの斜視図である。
【符号の説明】
1 素材としてのエキゾーストマニホールド
4 コーティング層
5 亀裂
10 素材としてのピストン
Claims (3)
- 素材の表面に磁気特性を有するコーティング層を形成した後、熱負荷を与えて上記コーティング層に素材の熱伸縮による亀裂を生じさせ、この亀裂を磁気探傷法を用いて検出することで素材自体の熱亀裂発生位置を予測するようにしたことを特徴とする熱亀裂位置予測方法。
- 上記コーティング層が、素材の表面に熱処理により形成された磁気特性を有する酸化被膜である請求項1記載の熱亀裂位置予測方法。
- 上記コーティング層が、素材の表面に磁気特性を有する粉末を溶射して形成された溶射膜である請求項1記載の熱亀裂位置予測方法。
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