JP3456004B2 - ゼータ電位測定方法及びパルプスラリーの調製方法 - Google Patents

ゼータ電位測定方法及びパルプスラリーの調製方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、製紙工業におけるゼー
タ電位測定方法に関するものであって、特にオンライン
型の測定装置によって測定値の大小そのものを比較する
のに適するゼータ電位測定方法に関する。また、本発明
は、上記のゼータ電位測定方法によって得られたゼータ
電位測定値を利用したパルプスラリーの調製方法に関す
るものである。
【0002】
【従来の技術】製紙工業においては、抄紙機の操業性と
紙品質の改善及び安定化のためにウエットエンド解析を
行っているが、その過程でゼータ電位の重要性が認識さ
れてきた。ゼータ電位とは、コロイド状態の分散液内に
存在する電荷に相当するが、製紙原料の中に懸濁する微
細繊維や鉱物填料等のコロイド粒子を囲む特定の電荷を
持つイオンの稠密層と、この稠密層を囲む懸濁液の大部
分との電荷の差を意味している。
【0003】ゼータ電位の測定法は、主として電気泳動
法と流動電位法に分けることができる。電気泳動法は、
試料を一旦濾過して分別した微細成分を測定セルに入
れ、セルに電場を与えて荷電したコロイド粒子が移動す
る速度を計測する方法である。この方法を用いることに
より、ゼータ電位の測定データを多数蓄積し、製紙工場
における各抄紙機に最適なゼータ電位を容易に見つける
ことができる。この電気泳動法は、測定装置が簡便で有
効な測定が可能ではあるが、オフライン測定なのでサン
プリングして測定するまでに時間と人手を要し、測定頻
度が限られるために、操業中におけるパルプスラリーの
変動の事態に即応できないという欠点がある。
【0004】一方、流動電位法は、先ずワイヤ上でパル
プマットを生成し、次に圧力を加えてパルプマットを通
じて白水を流し、その時にパルプマットの両端に発生す
る流動電位を計測し、ヘルムホルツ・スモールコフスキ
ーの計算式に代入してゼータ電位を求める方法である。
これらの装置は、オンライン測定が可能であることか
ら、ウエットエンドを最適化する上で重要視され、複数
のオンラインゼータ電位測定装置が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、流動電位の原
理に基づく上記のオンラインゼータ電位測定装置につい
ても、次のような問題が指摘されている。
【0006】先ず、Crillは、Pulp and Paper, 65
(11):92-95(1991 )において、オフライン測定装置と自
社開発したオンライン測定装置とで同じ試料のゼータ電
位を測定した結果を比較している。これによれば、両者
の測定値のトレンドは良く一致したが、オンラインの値
はオフラインの値の約100倍であった。このことか
ら、Crillはオンライン測定値は相対的なものであ
り、限られた系にのみ有効であると結論している。
【0007】また、Pennimanは、Tappi Journa
l,75(8):111-115(1992) において、晒しクラフトパルプ
の懸濁液にカチオン性湿潤紙力剤を少しずつ添加し、ゼ
ータ電位の変化を測定した結果を報告している。この報
告によれば、オフライン測定装置と彼が開発したオンラ
イン測定装置とのトレンドはほぼ同じであったが、薬品
添加率とゼータ電位の関係を示すグラフからカチオニッ
クデマンドを計算してみると、オンライン測定値から求
めたカチオニックデマンドはオフライン測定値から求め
た値の4倍であった。
【0008】更に、Scottらは、1993 Tappi Paper
makers Conference Proceedings,Book2 Tappi Press,At
lanta,p.591-598 において、様々なアニオン性の試料に
カチオン性の薬品を添加する実験を行って、ゼータ電位
の変化をオフライン測定装置と2台のオンライン測定装
置とで計測した結果を報告している。この報告でも、両
者のトレンドはほぼ同じであったが、絶対値が異なり、
オンライン測定値の絶対値はオフライン測定値の絶対値
よりも大きかった。その理由としてScottはオフラ
イン測定では試料をサンプリングしてから測定するまで
に時間を要するので、その間にコロイド表面の吸着した
高分子の再配置が起って電荷が緩和するためであると説
明している。しかし、2台のオンライン測定装置相互の
関係においても、一方が他方の100倍であり、Sco
ttの理論ではこの理由を説明できなかった。
【0009】本発明者らの実験においても上記報告と同
様であって、オンライン測定値は相対的なものにすぎ
ず、測定値の大きさに物理的な意味はないと判断してい
た。このため、オンライン測定装置を工場の抄紙機に設
置した場合にも、専らトレンドをモニターすることによ
ってウエットエンドの異常を早期に察知することのみに
有用であると考えていた。
【0010】本発明は、上記のような流動電位型の測定
装置、特にオンライン測定装置による測定値の問題点を
解消し、機種の異なる流動電位型ゼータ電位測定装置に
ついて、これらの測定値を絶対値として比較することが
可能であり、更に長年に渡って蓄積されてきたオフライ
ン測定装置による測定データとの整合性を見出すことを
課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】一般的に計測装置は使用
する前に、値が既知の標準試料によって検定し補正する
のが通常である。測定値が絶対値としての意味を有する
オフラインの電気泳動法測定装置の場合には、二酸化チ
タンのゼータ電位標準液で検定する。この点、オンライ
ン流動電位型測定装置はワイヤー上でマットを形成させ
るために試料がある程度の大きさを持つことが必要であ
ることから、流動電位用のゼータ電位標準液は作れなか
った。本発明者らは、オンライン流動電位測定装置を検
定するに当たって、上記標準液に類するものを見出せば
よいとの観点から検討を重ねた結果、本発明を完成する
に至った。
【0012】即ち、本発明に係るゼータ電位測定方法
は、任意に選択された流動電位型ゼータ電位測定装置を
用いて得られたゼータ電位測定値を、前記ゼータ電位測
定装置の流動電位電極が標準電導計に対して示す電導度
の偏差によって補正することを特徴とする。また、前記
の補正されたゼータ電位が次の計算式によって算出され
ることを特徴とする。
【数1】ζ=4πηλE/(εP)×(1/A) ζ:補正されたゼータ電位 η:粘度(温度の関数)λ:電導度 E:流動電位(測定値) ε:誘電率(温度の関数) P:圧力(測定値) A:標準電導度計による補正係数であり、A=(λ
λ) 但し、λ1は前記の任意に選択されたゼータ電位測定装
置による特定液の電導度、λは標準電度計による前
記特定液の電導度
【0013】更にまた、パルプスラリーの調整に際し
て、前記記載の方法に従って得られた補正されたゼータ
電位に基づいてパルプスラリー中の添加品の濃度を調
整することを特徴とする。
【0014】
【作用】流動電位は、圧力を加えることによってパルプ
マットを通じて白水を流したときに、パルプマットの両
端に発生する電位差を1組の電極板で測定するものであ
る。一方、電導度は、1組の電極板を試料に浸漬し一定
の電圧を加えて、試料を流れる電流を測定するものであ
る。このように流動電位と電導度とは別々の物性値であ
るが、1組の電極板を使用するという点では共通してい
る。流動電位測定に影響を与える因子は数多くあるが、
最も影響の大きい因子は電極の面積、角度、表面状態な
ど電極に由来する。従って、電極の状態が異なれば電導
度も流動電位も等しく影響を受けると考えられる。そこ
で、流動電位を測定する電極を電導度計のアンプに接続
し、電導度が既知の電解質標準液、例えば塩化ナトリウ
ム溶液の電導度を測定して補正係数を決定し、その係数
をそのまま流動電位の補正係数と見做すことができる。
【0015】そして、補正係数A=(λ1 /λ0 )を使
用して、流動電位、電導度、温度の測定値を下記のヘル
ムホルツ・スモールコフスキーの式に代入することで、
ゼータ電位を求めることができる。なお、粘度、誘電率
は温度の関数として得られる。
【数3】ζ=4πηλE/(εP)×(1/A) ζ:ゼータ電位 η:粘度 λ:電導度 E:流動電位 ε:誘電率 P:圧力
【0016】このように、本発明は電導度を媒介として
いるので、あらゆる種類の流動電位型オンラインゼータ
電位測定装置のデータを、相互に絶対値として比較する
ことができる。
【0017】
【実施例】以下に、本発明を実施例に基づいて説明す
る。
【0018】[オンライン流動電位型ゼータ電位測定装
置のゼータ電位の補正]下記の手順で任意のオンライン
流動電位型ゼータ電位測定装置によって測定されたゼー
タ電位を補正した。 (1)濃度の異なる塩化ナトリウム溶液を3水準調整し
た。 (2)実験室用の標準電導度計(東亜電波工業(株)
製)を用いて、上記塩化ナトリウム溶液の電導度を測定
した。測定値はそれぞれ0.206mS/cm、0.6
30mS/cm、1.100mS/cmであった。 (3)次に補正対象とされたオンライン流動電位型ゼー
タ電位測定装置について、その流動電位電極をオンライ
ン標準電導度計(横河電機(株)製、SC200)のア
ンプに接続し、前記3水準の塩化ナトリウム溶液の電導
度を測定した。測定値は、1.195mS/cm、3.
240mS/cm、6.450mS/cmであった。 (4)上記の結果を纏めると表1の通りとなり、このオ
ンライン流動電位型ゼータ電位測定装置は、標準電導度
計と比べて測定値が大きく、感度が数倍優れていると判
断された。 なお、仮に上記測定値が実験室用の標準電導度計の測定
値と一致すれば、流動電位電極は標準電導度計電極と感
度が等しいと判断されるが、標準電導度計の測定値より
も大きければ感度が優れ、また、小さければ感度が劣る
ことになり、いずれも補正する必要が生じる。
【0019】
【表1】
【0020】(5)表1に基いて、標準電導度計で測定
した電導度をX軸に、流動電位電極で測定した電導度を
Y軸にプロットして直線回帰式を求めると、次式の通り
である。
【数4】Y=5.90X−0.18 つまり、直線の傾きは5.90であり、流動電位電極は
電導度標準電極よりも5.90倍感度が良いことにな
る。従って、このオンライン流動電位型ゼータ電位測定
装置の流動電位電極で測定した試料のゼータ電位は、真
のゼータ電位の5.90倍であると考えられる。そこで
この装置では5.90を流動電位電極の補正係数Aとし
て定義し、ヘルムホルツ、スモールコフスキーの式に導
入すると、次式の通りである。
【数5】ζ=4πηλE/(εP)×(1/A)
【0021】[ゼータ電位の測定例1]最初にメカニカ
ルパルプ、ケミカルパルプ、脱墨パルプを配合してモデ
ル新聞原料を調成した。苛性ソーダを添加してpHを6
にしてから硫酸バンドを少しづつ添加したときのゼータ
電位の変化について、先に補正係数Aを求めたオンライ
ン流動電位型ゼータ電位測定装置とオフライン(電気泳
動法)測定装置とで、それぞれ測定した。図1に示すよ
うに、両方の測定値のトレンドは良く一致し、薬品添加
に従ってゼータ電位はマイナスからプラスに変化した。
ゼータ電位の絶対値は、硫酸バンド添加率が3%以下の
範囲では電気泳動法の方が流動電位法よりも大きかった
が、硫酸バンドを3%以上添加すると、両方の測定値は
一致した。
【0022】[ゼータ電位の測定例2]測定例1におい
て、硫酸バンドに代えてポリエチレンイミン(PEI)
を添加して同様の測定実験を行った。PEIは強カチオ
ンであり添加率は硫酸バンドの約1/10であった。図
2に示すように、ゼータ電位の絶対値は、添加率が0.
3%以下の範囲では電気泳動法の方が流動電位法よりも
大きいが、0.3%以上では、両方の測定値は一致し
た。
【0023】[ゼータ電位の測定例3]測定例1におい
て、硫酸バンドに代えてポリアクリルアミド(PAM)
を添加する実験や、実機の抄紙機のヘッドボックスに硫
酸バンド、PEI、PAMなどの種々カチオン薬品を添
加する実験を行った。そして、全ての測定値について、
Y軸に本発明のオンライン流動電位型ゼータ電位測定装
置によるゼータ電位測定値、X軸に電気泳動法のゼータ
電位測定値をとってプロットして整理した。結果は、図
3に示すように、ゼータ電位の絶対値は、等電点から−
10mvの領域では良く一致した。
【0024】[パルプスラリー調製の実施例]抄紙機に
おけるパルプスラリーのゼータ電位について、その経時
の変化を追跡測定するために、先に補正係数Aを求めた
オンライン流動電位型ゼータ電位測定装置のサンプル取
入口を、ヘッドボックスの上流側に設置した。そして、
連続的に測定されるゼータ電位をフィードバックするこ
とによって、ウェットエンドにおける硫酸バンドの添加
量を制御した。この結果、パルプスラリーは抄紙目的に
適合したゼータ電位に調整された。
【0025】
【発明の効果】本発明に係る流動電位型ゼータ電位測定
方法によれば、測定値が補正されており絶対値としての
意味を有するので、オフライン型(電気泳動法)のゼー
タ電位測定装置による測定値、或いは本発明の方法で補
正された他の流動電位型ゼータ電位測定装置による測定
値とそのまま数値の大小を比較することができる。
【0026】この結果、本発明に係る測定方法による測
定値は、従来のオフライン型ゼータ電位測定装置によっ
て今日まで蓄積されてきたデータ類と直接対比すること
ができるために、経験的なデータ解析の豊富な知見を、
流動電位型ゼータ電位測定においても利用することが可
能となった。
【0027】また、本発明のゼータ電位測定方法をオン
ラインで使用すれば、抄紙機におけるパルプスラリー中
の添加薬品の濃度を容易に調整することが可能になっ
た。
【図面の簡単な説明】
【図1】測定例1におけるゼータ電位測定値の相関関係
を示す図である。
【図2】測定例2におけるゼータ電位測定値の相関関係
を示す図である。
【図3】測定例3におけるゼータ電位測定値の相関関係
を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G01N 27/26

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 任意に選択された流動電位型ゼータ電位
    測定装置を用いて得られたゼータ電位測定値を、前記ゼ
    ータ電位測定装置の流動電位電極が標準電導度計に対し
    て示す電導度の偏差によって補正することを特徴とする
    ゼータ電位測定方法。
  2. 【請求項2】 前記の補正されたゼータ電位が次の計算
    式によって算出されることを特徴とする請求項1に記載
    のゼータ電位測定方法。 【数1】ζ=4πηλE/(εP)×(1/A) ζ:補正されたゼータ電位 η:粘度λ:電導度 E:流動電位 ε:誘電率 P:圧力 A:標準電導度計による補正係数であり、A=(λ
    λ) 但し、λ1は前記の任意に選択されたゼータ電位測定装
    置による特定液の電導度、λは標準電度計による前
    記特定液の電導度
  3. 【請求項3】 前記請求項2に記載の方法に従って得ら
    れた補正されたゼータ電位に基づいてパルプスラリー中
    の添加品の濃度を調整することを特徴とするパルプス
    ラリーの調整方法。
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