JP3338464B2 - Ti−Ni−Cu系機能性合金 - Google Patents

Ti−Ni−Cu系機能性合金

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する分野】この発明は、急冷凝固法により作
製したTi−Ni−Cu系機能性合金に関するものであ
り、特にCu含有量および急冷速度を最適に調整した
弾性、防振性超音波吸収性に優れ、かつ繰返し使用に対
して機能劣化しにくい服飾材料、機械構造部品または建
材用Ti−Ni−Cu系機能性合金に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】従来、超弾性、防振性、超音波吸収性の
機能を付与したTi−Ni−Cu系機能性合金(以下、
Ti−Ni−Cu系機能性合金と称する)は、溶解・熱
間加工プロセスにより最終形状の製品素材を得るのが一
般的であった。この溶解・熱間加工プロセスによれば、
高周波真空溶解、又はプラズマ溶解法等によって作られ
た鋳塊をプレス、圧延、鍛造等の熱間加工手段により所
要の形状に加工して用いるものであった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この溶解・熱
間加工プロセスによりTi−Ni−Cu系機能性合金を
得る場合には、Ti−Ni合金は難加工性ゆえに、生体
などに使用するにあたって、細線(ワイヤー)や薄板等
に加工するのは困難であった。また、溶解加工材料は、
それを構成する結晶粒径が最小でも10ミクロン内外の
粗粒で、その方位もランダムのため、材料強度が低く、
材料全体にわたる、材料全体にわたる変態時期が場所に
よりずれたり、局所部分で塑性ひずみを生じ、その結
果、変態点が不明瞭になり、超弾性特性が低下し、材料
使用規格化に不都合が生じることとなる。
【0004】しかも、結晶組織が粗粒で、基地の転移密
度が小さいために、降伏応力が低く、繰り返し使用中に
材料中に塑性ひずみ(転移等の欠陥)を生じ、超弾性効
果の低下や変態点の変化が起こり、以上のことから機能
性合金の応用範囲を狭めていた。
【0005】また、耐食性についても、本来、TiNi
系は良いのであるが、加工材料の粗結晶粒や表面不均質
のため極く強い酸性・アルカリ性極限環境下での長期使
用には問題が残され、生体中でのNiイオンの溶出によ
る生体毒物(発ガン性等)も危惧され応用範囲が狭くな
っていた。従って、この発明は以上の従来のTi−Ni
−Cu系機能性合金の有する問題を解消し、細線等の最
終製品を容易に得ることができ、超弾性、防振性、超音
波吸収性に優れ、繰返し使用中にそれらの機能の低下を
生じることはなく、しかも極く強い酸性・アルカリ性極
限環境下や生体内での長期使用によっても生体毒物の発
生がないTi−Ni−Cu系機能性合金を提供すること
を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】従来の溶解加工機能性合
金(主としてTi−Ni系)の欠点をできるだけ少なく
するためには、その材料組織自体の改善が必要なことが
解る。即ち、基地組織を急冷凝固処理により微細化・均
質化させ、降伏強度レベルを上げて、材料変形に伴い発
生する基地の塑性ひずみ(不可逆永久変形)をできるだ
け抑え、繰り返し使用に対する疲労劣化も抑制させるよ
うな金属組織変化を与える必要がある。また、できれば
その材料を構成する結晶の方位をできるだけ特定の方向
に揃えた方が大きな超弾性ひずみや完全な結晶変態を起
こさせるのに都合がよい。また、これらの金属組織改変
により、材料の防振性(内耗、各周波数振動に対する動
的減衰性など)の向上が期待できる。また、材料形状も
バルク複合材料化を考えて応用範囲を拡大させるために
は、より薄くしたり細いワイヤー状にして、よりしなや
かさを出す必要がある。
【0007】以上の諸条件を充たす新素材開発のため
に、本発明者らはTiNiCu溶湯をノズルから直接C
u冷却ロールに射出して、最終TiNiCu薄板(約2
0〜300ミクロン厚さ)を得る回転急冷凝固法(Me
lt−spinning Technique)を採用
し試みた。その結果、かかる回転急冷凝固法による急冷
効果により、均質で極く微細な異方性(数ミクロン以下
の柱状結晶)組織を得ることができ、さらに、下部組織
は高転位密度となっているため、降伏による塑性ひずみ
が生じ難く、材料特性、超弾性、防振特性等の機械的特
性の向上および長期使用中の機能特性の劣化も抑制さ
れ、耐食性の向上もはかられることを知見し、本発明を
なすに至った。
【0008】すなわち、前記課題を解決する第一の発明
として、Ti(50yat%)−Ni(50−y−
x)−Cux(−2≦y≦2at%、0x≦10at
%)系合金溶湯を冷却速度1×10 ℃/sec〜1×
10 ℃/secで凝固させて得られることを特徴とす
る超弾性に優れ、かつ繰返し使用に対して機能劣化しに
くい服飾材料用Ti−Ni−Cu系機能性合金が提供さ
れる。
【0009】また、前記課題を解決する第二の発明とし
て、Ti(50yat%)−Ni(50−y−x)−
Cux(−2≦y≦2at%、0x≦10at%)系
合金溶湯を冷却速度1×10 ℃/sec〜1×10
℃/secで凝固させて得られることを特徴とする防振
性、超音波吸収性に優れ、かつ繰返し使用に対して機能
劣化しにくい機械構造部品または建材用Ti−Ni−C
u系機能性合金が提供される。
【0010】この発明において用いられる急冷凝固法と
しては例えば溶湯を直接Cu冷却板などに吹き付け急冷
し小試験片を作成するガン法、連続薄板作成用の回転ロ
ール(単、双ロール)法、細線作製に適する回転液中紡
糸法、急冷粉末を作るスプレー法がある。
【0011】以上の各急冷法によって急冷凝固を行うと
きには、その冷却速度は1×10〜1×10℃/s
ecとするのが良い。冷却速度が1×10℃/sec
未満である場合には急冷金属組織(特に、結晶粒径)が
粗大化し、かつランダム方位化し超弾性効果の低下を生
じ、多結晶の様に超弾性効果、耐疲労劣化性、耐腐食性
が低下してしまう。逆に冷却速度が1×10℃/se
cを越えるようになると、材料強度・延性は向上するも
のの動的周波数に対する材料減衰能が低下し始める。
【0012】この発明において、Cuの含有量xは0
x≦10at%とするのが良い。xが10at%を超え
ると、急冷材料はできるが、一般にはその強度は、飽
和、低下してしまい、超弾性材料などとして不都合な場
合が生じる。
【0013】
【作用】一般に溶湯急冷凝固法により金属溶湯を急冷凝
固させる場合、冷却速度を大きくするに従って、金属組
織はデンドライト相から微細結晶化され、等軸柱状結晶
を経て超急冷速度(1x10℃/sec以上)でアモ
ルファスに変化する。なお、回転ロール法では冷却速度
とロール回転速度は比例関係にあり、冷却速度1×10
〜1×10 ℃/secはロール回転速度1〜20m
/secに相当する。
【0014】Ti−Ni−Cu溶湯について前記推奨の
冷却速度で凝固させると微細柱状組織になり、つぎのよ
うな機能上の特徴を有するに至る。すなわち、柱状晶で
あるため、結晶方位が揃い、全体として同時に均一な変
態を生じさせることができる。これによって、変態ひず
みの大きい結晶方位を材料長手方向に揃えることが可能
となり、材料全体として超弾性及び防振機能を大きくす
ることができる。また、その変態のための熱処理温度の
コントロールも容易である。微細結晶組織であるため、
材料降伏応力が高くなり、負荷応力安定性が向上する。
さらに微細結晶で降伏応力が高く、かつ結晶方位が揃っ
ている結果として、繰返し使用に対して塑性ひずみ・転
位が導入されにくく、機能劣化しにくくなる。
【0015】
【実施例】以下にこの本発明の実施例を説明する。表1
(Cu=10at%の1種類)に示す組成のTi−Ni
−Cu合金溶湯を、高純度Ar雰囲気中で、試料誘導加
熱用コイルが巻回された石英ノズルから直接回転双ロー
ルに溶射して、溶湯接触部において急速に冷却凝固させ
て急冷凝固リボンを得た。その際、ロール(直径=20
0mm)回転速度を100〜1000rpm(1〜10
m/sec)とした。得られたTi−Ni−Cu系機能
性合金リボンの寸法は、板厚が0.06〜0.3mm、
幅が5.0mm、長さが100mmであった。かかる合
金リボンにつき金属組織観察および諸特性評価を行っ
た。また、比較例として従来の溶解加工プロセス材料に
ついてもその機能特性を評価するために実施例と同一組
成の900℃熱間圧延試料を用意した。さらに、以上の
実施例、比較例のサンプルに真空中、650℃、0.5
時間の焼鈍後氷水焼入れして低温マルテンサイト相とす
る熱処理を施した。
【0016】
【表1】(合金化学組成)
【0017】以上の回転急冷凝固法により得られたTi
NiCu合金の金属組織を観察した。ロール回転速度1
m/secの場合を図1に、10m/secの場合を図
2に示す。いずれも柱状組織を示し、ロール速度、すな
わち冷却速度が大きくなるに従って、次第に微細化し、
板厚方向に結晶軸が揃った微細柱状晶(結晶粒径=2〜
10μm)組織となった。この点につきX線結晶構造解
析を行っても結晶方向が揃っていることが確認された。
【0018】以上の回転急冷凝固法により得られたTi
NiCu合金が有する機能特性のうち、超弾性及び防振
・減衰特性を調べた。超弾性については、材料の熱弾性
マルテンサイト変態温度上下にわたる各温度での引張り
応力〜ひすみヒステリシス曲線を求め、そのヒステリシ
ス面積以外の領域から定義されるひずみエネルギー貯蔵
性により評価した。防振・減衰特性については、準静的
範囲での防振性はヒステリシスの面積(=ひずみエネル
ギー吸収能)で評価し、高周波音波吸収能については、
超音波顕微鏡により測定した。なお、準静的範囲での引
っ張り応力〜ひずみヒステリシス曲線から定義されるひ
ずみエネルギー吸収能(防振性)Edと貯蔵性(超弾
性)Erの定義を図3に示す。
【0019】図4は実施例及び比較例の各温度における
応力〜ヒステリシスループを示す。この図4の各温度の
応力〜ひずみヒステリシスループに示されるように、比
較例である従来の溶解加工プロセス材では低温マルテン
サイト相(Mf以下、303K=30℃)と高温安定相
で応力・ひずみヒステリシス曲線の変化が小さく、実施
例の急冷凝固材(以下、RQと表記する)よりも低応力
側で降伏が起こり、高温側でのヒステリシスが残り、超
弾性特性は低い。これに対し実施例のRQ材は低温マル
テンサイト側では、大きなヒステリシスが現れ、この面
積の広さで定義される準静的範囲での材料防振性は大い
に向上した。かかる傾向は特に急冷速度が大きいほどそ
の傾向が強い。また、高温(オーステナイト相、Af以
上)以上での超弾性特性も実施例の方が高応力側までヒ
ステリシスはほとんど現れず、この傾向も急冷速度の増
加と共に上昇する。以上から図5に示されるように実施
例のものは比較例のものよりも良好な超弾性(=ひずみ
エネルギー貯蔵性)及び防振性(ひずみエネルギー貯蔵
性)が認められた。
【0020】また、図7に超音波顕微鏡(基本周波数=
215MHz)を用いて実施例及び比較例の急冷Ti
(50)−Ni(40)−Cu(10at%)試料薄板
に集束レンズにより表面波をたて、そのV(起電力)〜
Z(深さ)波形から計算された高周波減衰能を示す。や
はり、急冷凝固速度の上昇にともなって減衰係数αは増
加しており、急冷に伴う形状記憶変態ひずみの増加との
良い対応関係が認められる。この実施例では215MH
zであったが、さらに急冷速度を上昇させれば、さらに
金属組織は微細化するのでさらに高周波側までの減衰能
の向上が期待できる。
【0021】
【発明の効果】以上のようにこの発明のTi−Ni−C
u系機能性合金によれば、均質で極く微細な異方性(数
μm以下の柱状結晶)組織であるため、また、下部組織
は高転位密度になっているため、降伏による塑性ひずみ
が生じ難く、材料特性、超弾性、防振特性等の機械的特
性の向上および長期使用中の機能特性の劣化も抑制さ
れ、耐食性の向上も図られるという優れた効果が奏され
る。この発明のTi−Ni−Cu系機能性合金は以上の
ような優れた特性を有することから次のような用途に適
している。 1.服飾材料 この発明のTi−Ni−Cu系機能性合金の高温安定性
(Af点以上領域、オーステナイト相)での超弾性(擬
弾性)機能を生かした、しなやかに人体に適合する服飾
材料に適用できる。この場合、服飾材料にはメガネフレ
ーム、ブラジャー、肩パットなどがある。また、この機
能を生かした歯科矯正用ワイヤー、脊椎矯正用棒などの
生体医療用材料も考えられる。このような用途に適用す
る場合、生体環境との適合毒性の有無(耐食性)、長期
使用に伴う材料特性・機能の劣化防止が重要となり、こ
の発明のTi−Ni−Cu系機能性合金ではこれらの特
性が極めて良好であり、その点からも有利である。 2.機械構造部品、建材 低温マルテンサイト相(Mf点以下)での変態ひずみ〜
温度ヒステリシス曲線の掃く面積から定義される準静的
ひずみエネルギー吸収性が従来の溶解加工材料に比べて
最大2倍大きく、超音波域での数百MHzの高周波振動
減衰能も向上していることから、この発明のTi−Ni
−Cu系機能性合金は防振合金や超音波吸収材料、さら
には電磁波吸収材料として適用することができる。すな
わち、この発明のTi−Ni−Cu系機能性合金を他の
金属材料やポリマー、セラミックス中に複合材料化させ
ることにより、機械構造部品や建材に適用できる。この
場合、機械構造部品には機械振動・騒音抑制を目的とし
た部品、耐震材料・マット などがあり、建材には超音波
吸収、電磁波吸収機能を付与した機能性建材などがあ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明のTi−Ni−Cu系機能性合金の
急冷凝固組織(回転ロール速度:1m/sec)の走査
電子顕微鏡(SEM)を用いた金属組織写真である。
【図2】 この発明のTi−Ni−Cu系機能性合金の
急冷凝固組織(回転ロール速度:10m/sec)の走
査電子顕微鏡(SEM)を用いた金属組織写真である。
【図3】 準静的範囲での引張り応力〜ひずみヒステリ
シス曲線から定義されるひずみエネルギー吸収能(防振
性)Ed及び貯蔵性(超弾性)Erの説明図である。
【図4】 実施例の急冷凝固材料と比較例の圧延・加工
材の各温度での応力〜ひずみヒステリシス曲線を示す。
【図5】 各温度での応力〜ひずみヒステリシス曲線か
ら定義される超弾性(Er/Et)と防振性(Ed/E
t)の変化を示す図である。
【図6】 冷却速度(ロール回転速度)と動的減衰能α
(215MHz)と熱弾性的変態ひずみ幅ΔεSME
関係を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭60−138036(JP,A) 特開 平2−175055(JP,A) 特開 昭59−4948(JP,A) 特開 昭58−96844(JP,A) 特開 昭60−82254(JP,A) 特開 平6−172886(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 1/00 - 49/14

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Ti(50yat%)−Ni(50−
    y−x)−Cux(−2≦y≦2at%、0<x≦10
    at%)系合金溶湯を冷却速度1×10 ℃/sec〜
    1×10 ℃/secで凝固させて得られることを特徴
    とする超弾性に優れ、かつ繰返し使用に対して機能劣化
    しにくい服飾材料用Ti−Ni−Cu系機能性合金。
  2. 【請求項2】 Ti(50yat%)−Ni(50−
    y−x)−Cux(−2≦y≦2at%、0x≦10
    at%)系合金溶湯を冷却速度1×10 ℃/sec〜
    1×10 ℃/secで凝固させて得られることを特徴
    とする防振性、超音波吸収性に優れ、かつ繰返し使用に
    対して機能劣化しにくい機械構造部品または建材用Ti
    −Ni−Cu系機能性合金。
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