JP3313994B2 - 光熱ベンディング分光装置および分光法 - Google Patents

光熱ベンディング分光装置および分光法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、薄膜中の欠陥準位
や不純物濃度および膜中の含有水素量や窒素量の測定が
可能な光熱分光装置および光熱分光法に関するものであ
り、さらに詳細には、試料が吸収した光エネルギーが熱
エネルギーに変換された時に試料の膨張によって試料自
体に発生する反りをレーザー光にて検出することにより
試料中の欠陥準位や不純物濃度および膜中の含有水素量
や窒素量を測定できる光熱ベンディング分光装置および
その装置を使用した分光法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】薄膜太陽電池や薄膜トランジスター等に
利用される薄膜半導体および絶縁体の開発は今後その重
要性を増すと考えられ、その膜質の向上のための基礎研
究をはじめ事業化された場合の作製工程での品質管理が
非常に重要と考えられる。このため薄膜中の欠陥準位や
不純物濃度および膜中の含有水素量や窒素量を同時に一
つの測定装置で高感度に測定できる光熱分光装置の開発
が望まれている。
【0003】上記目的のためには、従来の光の透過を用
いる方法より、吸収した光エネルギーが非輻射再結合に
より発生する熱エネルギーを直接検出する光熱変換分光
法が有効である。しかし、現在までに開発された光音響
分光法(PAS)や光熱偏向分光法(PDS)は溶媒中
または気体中において測定する必要があり、試料への影
響が大きい。また、雰囲気ガスや溶媒により界面物性が
大きく影響される薄膜材料では気体中や真空中での測定
が必要となる。
【0004】ここで従来からの分光法の概要を示す。測
定方法の感度を表す量として光吸収係数と膜厚を掛けた
量αdが用いられ、値が小さいほど感度が良い。光透過
法:基板上の薄膜試料に光を照射し、試料の裏面に透過
した光強度を測定する方法である。試料の光吸収が小さ
い場合には、入射光強度とほぼ同程度の透過光が観測さ
れる事になり、光吸収係数の小さい場合や試料の膜厚が
小さい場合には後述する手法に比べて感度が小さい。た
だし測定が簡便である利点があり、空気中や真空中での
測定が可能である。1μm程度の膜厚を用いた場合の測
定感度はαd=10-2程度である。
【0005】光音響分光法:試料が吸収した光エネルギ
ーが熱エネルギーに変換されて、その熱エネルギーが試
料周囲の気体に伝わる際に発生する音波をマイクロフォ
ンを用いて観測する手法である。測定感度はαd=10
-3である。音波を効率よく収集するために試料を密閉し
た光音響セル中に入れ、気体を試料周囲に満たす必要が
ある。試料にて散乱された励起光が光音響セルに吸収さ
れるために、雑音を低減することが原理的に難しい。
【0006】光熱偏向分光法:試料が吸収した光エネル
ギーが熱エネルギーに変換され、その熱エネルギーが試
料周囲の液体に伝わる際に発生する試料表面の液体の熱
膨張により屈折率が変化し、その液体が屈折率の変化し
ている場所にHeNeレーザー等の集光ビームを通した
場合光ビームの偏向が生ずる。その偏向による光ビーム
の位置変化を位置敏感素子を用いて検出する手法であ
る。測定感度はαd=10-5程度で感度が良い手法であ
る。しかし感度を上げるためにはレーザー光を試料表面
上〜50μm程度のところを通す必要があり測定が難し
い。また光透過性で試料に影響を与えない液体を用いる
必要がある。一般には四塩化炭素が用いられるがフラー
レン薄膜や有機薄膜を溶かす場合があり、液体による試
料の変質が無いことを確認するのが難しい。また液体に
よる赤外光領域の吸収が生ずるので可視光領域ではよい
が、赤外領域への測定の拡張は難しくなる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上述したように従来よ
り用いられている光熱変換分光法は、試料を気体中や液
体中に設置する必要があり、試料に影響を与えることが
懸念されていた。そこで、本発明は気体中、液体中、真
空中にて測定ができ、いろいろな種類の試料に適用でき
応用範囲が広く、また測定時の光学系のセッティングも
容易であり、すぐに測定を始められることができる光熱
ベンディング分光装置および分光法を提供することによ
り、上記諸問題を解決するとを目的とする。
【0008】本発明による光熱ベンディング分光装置は
高感度で真空中での測定が可能であり、薄膜中の欠陥準
位や不純物濃度および薄膜中の含有水素量や窒素量の測
定が可能である。また、光熱ベンディング分光法は光が
照射された領域の試料に曲がりが生ずる現象を利用しそ
の変位をレーザー光にて検出するため、従来の分光法に
比較して感度が良い。例えば、50μm厚の石英基板上
に厚みが0.8μm〜1μmのa- Si:Hを堆積させ
て作製した試料にて得られた感度は現在のところαd=
10-5程度である。この光熱ベンディング分光装置およ
び分光法は従来の光熱分光法では測定が不可能であった
真空中での薄膜中の欠陥準位やその密度、不純物濃度お
よび膜中の含有水素量や窒素量が測定可能になり、その
有効性は非常に大きい。
【0009】
【課題を解決するための手段】このため、本発明が採用
した技術解決手段は、励起光源系A、信号検出系Bおよ
び制御系Cとを備えてなる光熱ベンディング分光装置で
あって、前記励起光源系Aは可視光領域から赤外領域ま
での波長領域の光源と、該光源からの光を単色化された
励起光とするモノクロメータと、前記励起光を一定周波
数とする光チョッパーとを有し、前記信号系は試料ホル
ダー6と試料のたわみ量を検出するたわみ量検出レーザ
ー7と、前記レーザー光の位置変化を検出する位置敏感
検出素子8と、前記レーザー光の変位に対応する信号成
分を検出するロックインアンプとを有し、さらに、前記
制御系はロックインアンプ9の出力信号からコンピュー
タを用いてデータの取り込みと蓄積を行うとともに、モ
ノクロメータの波長送りおよび光フィルターの変更を行
う機能を有していることを特徴とする光熱ベンディング
分光装置であり、
【0010】試料の片端を試料ホルダーに固定し、その
試料の表面または裏面に測定したい波長の励起光を照射
し、この際に生ずる試料の反りであるたわみ量をレーザ
ー光の変位として検出することにより、薄膜試料の光吸
収スペクトルを計測することを特徴とする光熱ベンディ
ング分光法である。
【0011】
【実施の形態】以下、図面に基づいて本発明の実施の形
態を説明すると、図1は本発明の実施の形態に係る光熱
ベンディング分光装置の構成図であり、同光熱ベンディ
ング分光装置は図のように励起光源系A、信号検出系B
および制御系Cから構成されている。以下それぞれの系
の詳細な構成を説明する。
【0012】励起光源系 励起光源系は光源1、モノクロメータ2、光チョッパー
3、反射鏡4、集光用のサファイアレンズ5等より構成
される。光源1は、タングステンハロゲンランプ1aと
シリコユニット発熱体1bを用いる。タングステンハロ
ゲンランプ1aは可視光領域から近赤外領域の光の波長
領域を測定するために用いる。なお、ハロゲンランプに
代えてキセノンランプもこの波長領域の光源として使用
できる。しかし、キセノンランプを使用する場合には励
起光源の強度は大きくなるが、空冷等が必要となり、雑
音が大きくなり信号に対するバックグラウンドの雑音が
大きくなりダイナミックレンジを稼げない。シリコニッ
ト発熱体1bは赤外領域の測定に用いる。
【0013】前記各光源から照射される光は凹面鏡1c
にて集光し、モノクロメータ2に入射させ分光し、単色
光を励起光とする。分光に用いるモノクロメータ2は測
定できる領域が可視領域から赤外領域まで広いことか
ら、3個のモノクロメータ2a、2b、2cを使用する
が、このモノクロメータの数は装置の仕様に応じて増減
することができる。前記複数の光源1a、1bおよび複
数のモノクロメータ2a、2b、2cは、Xステージ上
に配置されており試料の同じ所に励起光が照射されるよ
うに、手動または後述するコンピュータからの指令によ
り自動的に微調整ができるようになっている。
【0014】モノクロメータにて単色化された励起光を
光チョッパー3を用いて一定周波数の断続光とし、さら
に反射鏡4を介してサファイアレンズ5で集光し試料に
照射する。使用するチョッピング周波数は0.1Hz程
度から10KHz程度の信号対雑音比が大きく取れる周
波数を用いる。特に試料の形状と励起光が照射される試
料位置にて決まる共振周波数での測定は感度を向上させ
る。
【0015】信号検出系 信号検出系Bは薄膜ホルダー6、たわみ量検出レーザー
7、位置敏感検出素子8、ロックインアンプ9より構成
される。薄膜ホルダー6は基本的には試料の片端を固定
する機能を有していればよく、試料は空気中に晒されて
いても測定ができる。また、空気による疎密波(音)に
て生ずる試料の振動を低減させるために、剛体を用いて
試料の周囲を囲うことにより雑音を減らし、測定感度を
あげることができる。
【0016】たわみ量検出レーザー7は、ヘリウムネオ
ンレーザー、近赤外から可視光領域の半導体レーザーを
使用する。レーザー光を絞るためのレンズを用いても、
半導体レーザーの方がより大きなレーザー強度が得られ
るために測定感度を向上させる事ができる。前記レーザ
ー光は前記チョッピング周波数と同じ周期を有するもの
であり、レーザー光の変位に対応する信号成分を後述す
るロックインアンプを用いて検出する。レーザー光とし
ては 等を使用することもできる。位置敏感検
出素子8はたわみ量に比例するレーザー光の位置変化を
検出するものである。ロックインアンプ9は位置敏感検
出素子8からの出力信号を増幅する機能を有している。
【0017】制御系 制御系はロックインアンプ9からの出力信号からコンピ
ュータ10を用いてデータの取り込みと蓄積を行うとと
もに、モノクロメータの波長送りおよび光フィルターの
変更を行う。モノクロメータの波長送りおよび光フィル
ターの変更は次のようにして行う。モノクロメータの波
長送りは、パルスモーター等およびコンピュータにて制
御するためのインターフェースを有する波長送り用駆動
電源を用いる。コンピュータより出される信号によりパ
ルスモータ等を駆動させ、所望の測定波長にモノクロメ
ータの波長を調整する。光フィルターはグレーティング
の2次光をカットするためにモノクロメータの出射口の
前に設置される。複数個のモノクロメータのグレーティ
ングの2次光をカットするために複数個の光フィルター
を用いる。所望の測定波長の場合に必要な光フィルター
がモノクロメータの出射口の前にセットできるフィルタ
ー交換器を用いる。フィルター交換器はパルスモータお
よびコンピュータにて制御するためのインターフェース
を有する駆動電源より構成され、コンピュータにて制御
される。
【0018】以上のように構成された光熱ベンディング
分光装置を使用した分光法について測定原理および測定
方法を説明する。本発明では、薄膜試料に照射された光
は薄膜試料中にて吸収され、熱に変換される。その信号
強度をSとする。今、ある光の波長での薄膜試料の吸収
係数をαとし、その薄膜の試料の厚みをdとする。試料
中への光の侵入長はα-1であるので、光の侵入長が薄膜
より大きい場合α-1>dの条件のとき波長を変えて測定
した熱信号Sは光吸収係数スペクトルに比例する。ま
た、光の侵入長が薄膜より小さい場合、α-1<dのとき
は入射した光のエネルギーの全てが熱信号に変換され
る。そのときの信号強度をSsat とするとSをSsat
て規格化することにより吸収係数スペクトルの絶対値が
決定できる。この原理は理論的に示されている。従って
光吸収により発生する熱をいかに感度良く計測するかが
重要な点であり、本光熱ベンディング分光法は薄膜の吸
収係数を感度よく測定する手法として優れたものであ
る。
【0019】この手法において使用される試料の一例と
して、10μm〜100μm程度の厚みの光透過性の基
板の上に測定したい薄膜試料を作製する。基板の材質は
石英、サファイア、結晶シリコン、マイカ等が使用され
る。基板の形状は1〜3mmの幅で10〜20mm程度
の長さの基板を用いる。このような試料の片端を図のよ
うに試料ホルダーに固定する。測定に適した薄膜試料は
約1〜10μm程度の厚みが望ましい。
【0020】このような試料の片端を図1に示すように
試料ホルダーに固定する。測定したい波長の励起光を試
料の表面または裏面に照射する。基板はその波長に対し
て光透過性が大きく吸収はほとんど無視できるので、薄
膜試料に光吸収にて発生した熱が試料を膨張させる。一
方、薄膜試料で発生した熱の伝導は遅れて基板に到達す
る。さらに熱伝導性が悪い基板を用いれば熱信号Sはよ
り大きくなる。この際に生ずる試料の反りであるたわみ
量をレーザー光の変位として検出することにより、薄膜
試料の光吸収スペクトルが計測できる。
【0021】図2に本発明に係わる光熱ベンディング分
光法(PBS)スペクトルと、従来例としての光熱偏向
分光法(PDS)スペクトルの比較図を示す。PBSス
ペクトルにおいて0.9eV以下の幾つかのピ─クは,
mica基板のO−H吸収を示している。図から明らか
なようにPBSスペクトルはPDSスペクトルと極めて
似ている。この結果は,PBSが低い光学吸収測定に適
用され得る事を充分に示しており、さらにPBS技術
は,真空中でクライオスタットを用いることによって,
光学吸収の温度依存性を測定することが可能であり、P
BS技術は,C60のような周囲に敏感な材質に対して非
常に便利な方法であるといえる。
【0022】上述したように本発明は、試料自体をカン
チレバーとして用い、光が照射された領域の試料に曲が
りが生ずる現象を利用して薄膜中の欠陥準位やその密
度、不純物濃度および膜中の含有水素量や窒素量がこの
光熱ベンディング分光法の一つで測定可能になり、その
有効性は非常に大きい。なお、本発明はその精神また主
要な特徴から逸脱することなく、他の色々な形で実施す
ることができ、そのため前述の実施の形態は単なる例示
に過ぎず、限定的に解釈してはならない。更に特許請求
の範囲の均等範囲に属する変形や変更は全て本発明の範
囲内のものである。
【0023】
【発明の効果】以上詳細に説明したように本発明は、真
空中での測定が可能であるため、従来の光熱分光法に比
較して試料への影響が少なく、薄膜中の欠陥準位やその
密度、不純物濃度および膜中の含有水素量や窒素量を精
度良く測定可能になり、その有効性は非常に大きい。新
しい分光法として計測機器業界が使用できるだけでな
く、半導体薄膜製造ラインにおける品質管理にも大きく
貢献できる。等の優れた効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る光熱ベンディング分光
装置の構成図である。
【図2】光熱ベンディング分光法(PBS)スペクトル
と、従来例としての光熱偏向分光法(PDS)スペクト
ルの比較図である。
【符号の説明】
1 光源 2 モノクロメータ 3 光チョッパー 4 反射鏡 5 サファイアレンズ 6 試料ホルダー 7 たわみ量検出レーザー 8 位置敏感検出素子 9 ロックインアンプ 10 コンピュータ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭63−292045(JP,A) 特開 平3−56846(JP,A) 特開 平6−94604(JP,A) 特開 平5−288698(JP,A) 特開 平6−27059(JP,A) 特開 平3−221854(JP,A) 特開 平9−127065(JP,A) 特表 平8−508571(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G01N 25/16 G01J 3/00 G01N 21/35 JICSTファイル(JOIS)

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】励起光源系A、信号検出系Bおよび制御系
    Cとを備えてなる光熱ベンディング分光装置であって、
    前記励起光源系Aは可視光領域から赤外領域までの波長
    領域の光源と、該光源からの光を単色化された励起光と
    するモノクロメータと、前記励起光を一定周波数とする
    光チョッパーとを有し、前記信号系は試料ホルダー6と
    試料のたわみ量を検出するたわみ量検出レーザー7と、
    前記レーザー光の位置変化を検出する位置敏感検出素子
    8と、前記レーザー光の変位に対応する信号成分を検出
    するロックインアンプとを有し、さらに、前記制御系は
    ロックインアンプ9の出力信号からコンピュータを用い
    てデータの取り込みと蓄積を行うとともに、モノクロメ
    ータの波長送りおよび光フィルターの変更を行う機能を
    有していることを特徴とする光熱ベンディング分光装置
  2. 【請求項2】前記光源はタングステンハロゲンランプと
    シリコユニット発熱体とからなることを特徴とする請求
    項1に記載の光熱ベンディング分光装置。
  3. 【請求項3】前記モノクロメータは複数個設けられてお
    り可視領域から赤外領域までの波長を分光すべく構成し
    たことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光
    熱ベンディング分光装置。
  4. 【請求項4】前記光源およびモノクロメータはXステー
    ジ上に配置され、位置を微調整可能に構成されているこ
    とを特徴とする請求項1〜請求項3のいづれか1項に記
    載の光熱ベンディング分光装置。
  5. 【請求項5】試料の片端を試料ホルダーに固定し、その
    試料の表面または裏面に測定したい波長の励起光を照射
    し、この際に生ずる試料の反りであるたわみ量をレーザ
    ー光の変位として検出することにより、薄膜試料の光吸
    収スペクトルを計測することを特徴とする光熱ベンディ
    ング分光法。
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