JP3089882B2 - 表面性状に優れた耐摩耗鋼及びその製造方法 - Google Patents

表面性状に優れた耐摩耗鋼及びその製造方法

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JP3089882B2
JP3089882B2 JP05047937A JP4793793A JP3089882B2 JP 3089882 B2 JP3089882 B2 JP 3089882B2 JP 05047937 A JP05047937 A JP 05047937A JP 4793793 A JP4793793 A JP 4793793A JP 3089882 B2 JP3089882 B2 JP 3089882B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、建設、土木、鉱山等の
分野で使用される産業機械・部品・運搬機器(パワーシ
ョベル、ブルドーザー、ホッパー、バケット等)等で、
岩石、砂、鉱石等によるアブレッシブ摩耗、すべり摩耗
あるいは衝撃摩耗等を受ける部材に使用される耐摩耗鋼
及びその製造方法に関し、特に表面性状に優れた耐摩耗
鋼及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】建設、
土木、鉱山等の分野で使用される産業機械・部品・運搬
機器(パワーショベル、ブルドーザー、ホッパー、バケ
ットコンベヤー、岩石破砕装置等)等で、岩石、砂、鉱
石等によるアブレッシブあるいは衝撃摩耗等を受ける部
材には、それらの機械、機器、部品等の寿命を長くする
ため、耐摩耗性に優れた鋼が使用されている。従来か
ら、鋼の耐摩耗性は鋼の硬度を高くすることで向上する
ことが知られており、Cr、Mo等の合金元素を大量に
添加した合金鋼を焼入等の熱処理を行って製造する高硬
度鋼が使用されてきた。
【0003】高硬度を確保する耐摩耗鋼に関する先行技
術としては、特開昭62−142726、特開昭63−
169359、特開平1−142023等がある。これ
らに開示された鋼は、常温の硬度(HB等)が約300
以上で、それぞれ溶接性、靭性、曲げ加工性等を改善し
たものとなっており、高硬度を達成することで耐摩耗性
を向上させている。
【0004】しかしながら、近年の耐摩耗鋼に要求され
る耐摩耗性は、より一層厳しくなっており、従来のよう
に単に硬度を高めるという方法では、本質的な耐摩耗性
の改善になってはいないのが現状である。
【0005】また、硬度を上昇させるためには、固溶に
よる硬化、変態による硬化、析出による硬化等を活用し
ているのが一般的であるが、従来の技術の延長上で、固
溶、変態、析出硬化を活用して、硬度を顕著に高めた場
合には、結果的に溶接性、加工性が劣化し、さらに高合
金化のために、顕著なコスト上昇となる。したがって、
実用鋼において耐摩耗性を向上させるために、硬度を著
しく高めることは実用上は困難であることが容易に予想
される。
【0006】さらに、耐摩耗鋼は実使用条件下では、表
面に岩石、鉱石等が接触、衝突するため、表面に欠陥が
存在すると、割れ等の原因になる。このような表面欠陥
は割れ発生起点になるため、表面性状が重要な特性であ
る。
【0007】本発明は、かかる事情に鑑みてなされたも
のであって、硬度を上昇させることなく安価に耐摩耗性
を向上させることができ、割れの起点となる表面欠陥の
少ない表面性状に優れた耐摩耗鋼及びその製造方法を提
供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段及び作用】これらの課題を
解決するために、発明者らは、先ず硬度を上昇させるこ
となく耐摩耗性を向上させるべく鋭意研究を行った結
果、耐摩耗性のみを向上させる観点からは、大量のTi
を添加した特定組成の鋼を用いて凝固時に粗大なTiC
を主体とする析出物を生成させることが有効であること
を見出した。また、このような原理で耐磨耗性を向上さ
せるためには鋼は高価な合金成分を多量に使用する必要
がないため安価である。しかし、その後の研究の中で、
このような粗大なTiCを主体とする析出物を析出させ
る場合には、以下のような問題点があることを見出し
た。
【0009】(1)インゴット鋳造においては、凝固速
度が著しく遅いため、生成する析出物が顕著に大きくな
ってしまい、実使用において単に脱落してしまって耐摩
耗性を向上させることが不可能である。その上限のサイ
ズはせいぜい50μm以下である必要がある。 (2)さらに、インゴット鋳造では、最終凝固部分に大
量のTiが存在し、鋼材全体にわたって均一な析出物の
分布を得ることは困難である。
【0010】(3)Tiは酸化性の強い元素であるた
め、鋳造時、鋼材の加熱・熱間圧延時において、大量の
Tiを添加した鋼には、表面近傍が通常鋼よりも顕著に
酸化が促進され、表面性状が著しく劣化する。
【0011】本発明発明者らは、このような問題点をも
解消すべくさらに研究を重ねた結果、上記の(1)
(2)で示される問題点は、連続鋳造を適用することで
解決でき、(3)の大量のTi添加による表面性状の劣
化の問題は、後述するTi*で示されるパラメーターの
値を制限することで改善できることを見出した。本発明
は、本願発明者らのこのような知見に基づいてなされた
ものであり、
【0012】第1に、質量%で、C:0.10〜0.4
5%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0
%、P:0.04%以下、S:0.04%以下、Ti:
0.10〜1.0%、N:0.01%以下、を含み、残
部Fe及び不可避不純物からなり、0.5μm以上の大
きさを有するTiCあるいはTiCとTiN,TiSの
複合した粗大な析出物を1mm2当たり400個以上を
含み、且つ、以下の式で示されるTi*が0.05%以
上0.4%未満であり、連続鋳造で形成されたことを特
徴とする表面性状に優れた耐摩耗鋼を提供するものであ
る。 〈式〉 log[Ti][C]=(−10580/T)+4.3
8 [Ti]=4×[C]+{Ti(a)−4×C} 但し、Ti(a)=Ti−{(48/14)N+(48
/32)S} Ti,C,N,Sは添加量(質量%)を表す。 Ti*=Ti(a)−[Ti]
【0013】また、第2に、上記組成を有し、かつ上記
Ti*0.05%以上0.4%未満である溶鋼を連続鋳
造してその段階で鋳片中にTiCあるいはTiCとTi
N,TiSとの複合した粗大な析出物を析出させ、引き
続き鋳片中に存在するTiCあるいはTiCとTiN,
TiSの複合した粗大な析出物を実質的に再固溶、再析
出させないように1300℃以下の温度領域に加熱して
熱間加工及び焼入れ処理を行うことを特徴とする表面性
状に優れた耐摩耗鋼の製造方法を提供するものである。
【0014】また、上記組成にさらに質量%で、Cu:
0.1〜2.0%、Ni:0.1〜10.0%、Cr:
0.1〜3.0%、Mo:0.1〜3.0%、B:0.
0003〜0.01%のうち一種又は二種以上を含有さ
せてもよく、Nb:0.005〜1.0%、V:0.0
1〜1.0%のうち一種又は二種を含有させてもよい。
また、これら添加物群の両方を含有させてもよい。以
下、本発明について詳細に説明する。
【0015】上記構成の本発明は、上述したような従来
の耐磨耗鋼とは全く異なる思想に基づくものである。す
なわち、従来における高硬度を活用した耐摩耗鋼におい
ては、Ti添加の目的は主として、TiCの微細析出物
による析出硬化を活用している。析出硬化を活用するた
めのTiCのサイズとしては、0.1μm以下にする必
要がある。このような微小な析出物を析出させるために
は、製造工程の中で、一旦、Tiを固溶させてから、析
出させる必要がある。具体的には熱間圧延工程での加熱
時あるいは熱処理時にTiは固溶され、圧延中あるいは
焼戻処理等の熱処理において析出される。
【0016】また、従来鋼において、析出硬化以外のT
i添加の目的は、焼入れ性に有効な固溶Bを確保するた
めに、Bと結合しやすいNをTiNとして固定するため
であり、N含有量にもよるが例えばN量が0,01質量
%の場合には、その添加量はせいぜい0.04質量%程
度以下である。TiNとしてTiを活用する場合には、
高温加熱時における結晶粒の粗大化を防止する目的から
も使用されることがあり、この場合のTi添加量もせい
ぜい0.04質量%程度以下である。しかしながら、一
般には、TiNは延靭性を劣化させると考えられてお
り、結果的に、鋼中N量を製鋼段階で極力低下させ、T
i添加量を最低限に抑えてTiN量を少なくする方法が
採用されており、その添加量は高々0.02質量%程度
である。以上のような従来技術におけるTi添加の目的
および添加量の考え方をまとめると次のようになる。 (1)微細TiC析出物による析出硬化を活用し、鋼の
マトリックス硬度を上昇させる。この硬度上昇効果を活
用して、耐磨耗性を向上させる。
【0017】(2)TiNを活用して、Bの焼入れ性向
上効果の活用あるいは結晶粒の微細化を目的とする場合
には、最大でも0.04質量%程度であり、実用的には
0.02質量%程度以下である。
【0018】このような従来技術に対して、本発明では
連続鋳造時の凝固の際に積極的にTiCを主体とする粗
大な析出物を大量に生成させ得る大量のTiを添加した
鋼を用いることで、著しく耐摩耗性を向上させるもので
ある。本発明鋼においては、0.5μm以上のTiCを
主体とする析出物(例えばTiC析出物あるいはTiC
とTiN、TiSとの複合析出物)を活用している。こ
のような従来検討されていなかったTiCを主体とする
粗大な析出物は、高い硬度を有しており、耐摩耗性を著
しく向上させることが可能である。
【0019】従来のように析出硬化を発揮させるために
は、上述のように析出物サイズが0.1μm以下である
必要があるが、本発明で規定している0.5μm以上の
析出物は全く析出硬化には寄与しない。本発明では、耐
摩耗性に優れているだけでなく、粗大析出物の存在によ
り、むしろマトリックス硬度が同時に低下することが重
要な特長のひとつである。つまり、大量のTiCを主体
とする析出物の析出により、固溶C量が低減するため、
鋼のマトリックスの硬度は析出物の析出によってむしろ
低下する。この硬度低下による効果は、曲げ加工性を向
上させることが可能であるということである。従って、
本発明の鋼は耐摩耗性に著しく優れているとともに加工
性も良好であるという特長を有するものである。実用的
な観点からの硬度の上限は、ブリネル(HB)硬度でせ
いぜい600であるが、ブリネル硬度が600以上でも
当然粗大析出物による耐摩耗性向上効果は存在してお
り、曲げ加工性を全く必要としない場合には、本発明と
同様の考え方で耐磨耗性を向上させることは可能であ
る。
【0020】このような粗大析出物の効果を十分に活用
するためには、連続鋳造時の凝固の際に析出した0.5
μm以上の粗大なTiCを主体とする析出物、複合析出
物を後工程において可能な限りほとんど固溶させないこ
とが重要である。すなわち、実用的には1300℃程度
以下の熱間加工時の加熱温度あるいは熱処理温度におい
ても十分にTiCを主体とする析出物、複合析出物を安
定して存在させる必要がある。この粗大析出物中には、
Nb、V等を複合添加した鋼では、Nb(C、N)ある
いはV(C、N)等の析出物も同時に存在しているし、
Ti、Nb、V等を同時に含む複合析出物も存在してい
る。耐摩耗性に対しては、Ti系の析出物が最も有効で
あるが、Nb系、V系析出物も効果を有している。
【0021】このように、本発明においては硬度を高め
ることなく耐摩耗性を向上させる観点からなされたもの
であり、硬度が低く加工性が必要とされる部材にも適用
可能であるのであって、従来の耐磨耗鋼とは全く異なる
独創的なものである。すなわち、同等の硬度水準で比較
すると、従来鋼の耐磨耗性は本発明に係る鋼の耐磨耗性
よりも著しく低下してしまうし、逆に耐摩耗性を重視し
た場合には従来鋼では著しく硬度を上昇させる必要があ
り、加工性を要求されるような部材への適用は実質的に
不可能である。
【0022】一方、上述したように、Ti系の粗大析出
物を形成して耐磨耗性を向上させる場合に予想される析
出物の過度の粗大化及び析出物分布の不均一性の問題に
ついては、連続鋳造を適用することで解決される。連続
鋳造はインゴットに比較して、凝固速度が速いため、粗
大析出物は均一に分散することが可能であることに加え
て、著しく粗大な析出物にはならず、0.5〜20μm
程度になる。すなわち、連続鋳造を採用することによ
り、実使用において容易に脱落しない程度の粗大析出物
を大量に含ませることができ、しかもその析出物が均一
に分散することできるのである。従って、連続鋳造材の
耐摩耗性はインゴット材に比較して安定的に均一かつ良
好である。
【0023】さらに、Tiが大量に含有されるため、表
面近傍が通常鋼よりも顕著に酸化が促進され、表面性状
が著しく劣化するが、このような表面性状の劣化は、上
述したTi*で示されるパラメータの量を制限すること
で改善できることが明らかになった。つまり、Ti*を
所定の範囲内にすることで、良好な耐摩耗性と優れた表
面性状を同時に確保することが可能となる。Ti*をこ
の範囲よりも増大させることで、耐摩耗性のみを向上さ
せることは可能であるが、その場合には表面性状は劣化
し、実使用に供することは不可能になる。次に、本発明
の組成の限定理由について説明する。なお、以下の%表
示はいずれも質量%を示す。 C:0.10〜0.50%
【0024】CはTiCを主体とする析出物を形成させ
るために必須の元素である。しかしながら、0.10%
未満ではTiCを主体とする析出物を有効に析出し得
ず、逆に0.45%を超えた場合には硬度の上昇ととも
に溶接性、加工性等を劣化させてしまう。従ってC含有
量を0.10〜0.45%の範囲に規定する。 Si:0.1〜1.0%
【0025】Siは脱酸元素として有効な元素であり、
その効果を得るためには少なくとも0.1%以上の添加
が必要である。また、Siは固溶強化に対しても有効な
元素であるが、1.0%を超えて含有させると延靭性が
低下したり、介在物が増加する等の問題がある。従って
Si含有量を0.1〜1.0%の範囲に規定する。 Mn:0.1〜2.0%
【0026】Mnは焼入性確保の観点から有効な元素で
あり、その効果を得るためには0.1%以上の添加が必
要である。しかし、2.0%を超えて含有させた場合に
は溶接性が劣化する。従ってMn含有量を0.1〜2.
0%の範囲に規定する。 P:0.04%以下
【0027】Pは不純物元素であり、鋼の延靭性を低下
させるため、極力低減するのが望ましいが、極端に低下
させるためにはコスト増加が著しくなる。従って、この
ような悪影響を及ぼさず、しかもコストが著しく上昇さ
せない観点から、P含有量を0.04%以下に規定す
る。 S:0.04%以下
【0028】Sは大量に添加すると、熱間延性の低下、
延靭性を低下させるため、極力低減することが望ましい
が、極端に低下させるためにはコスト増加となる。従っ
て、このような悪影響を及ぼさず、しかもコストを上昇
させない観点から、S含有量を0.04%以下に規定す
る。 Ti:0.10〜1.0%
【0029】Tiは本発明において、Cと共に最も重要
な元素であり、安定して大量のTiCを主体とする粗大
な析出物を生成させるために必須な元素である。このよ
うな粗大な析出物を生成させる観点からは、少なくとも
0.10%含有させる必要がある。また、1.0%を超
えた場合には耐摩耗性は良好であるが、コスト上昇にな
るとともに溶接性、加工性が低下する。従って、Ti含
有量を0.1〜1.0%に規定する。 N:0.0015〜0.01%
【0030】NはSと同様に析出物を形成し、TiCを
均一に分散させることを容易にさせる効果がある。ま
た、TiN自体の硬度も高く耐摩耗性を向上させる効果
も存在している。しかしながら、0.0015%未満で
はその効果が得られず、また0.01%を超える大量の
Nの添加は、表面性状を劣化させるとともに溶接性を劣
化させる。従ってNの含有量を0.0015〜0.01
%の範囲に規定した。
【0031】本発明では、これらの他、Cu:0.1〜
2.0%、Ni:0.1〜10.0%、Cr:0.1〜
3.0%、Mo:0.1〜3.0%、B:0.0003
〜0.01%のうち1種又は2種以上を含有させること
もできる。 Cu:0.1〜2.0%
【0032】Cuは焼入性を高める元素であり、目的に
応じて硬度を制御するために有効な元素であるが、0.
1%未満ではこの効果を発揮することができず、2.0
%を超える添加では、熱間加工性が低下するとともに、
コストも上昇する。従って、Cuを含有させる場合には
その量を0.1〜2.0%の範囲に規定する。 Ni:0.1〜10.0%
【0033】Niは焼入性を高めるとともに、低温靭性
を向上させる元素であるが、0.1%未満ではこの効果
を発揮することができず、10.0%を超える添加で
は、コストが著しく上昇する。従って、Niを含有させ
る場合にはその量を0.1〜10.0%の範囲に規定す
る。 Cr:0.1〜3.0%
【0034】Crは焼入性を高める元素であるが、0.
1%未満ではこの効果を発揮することができず、3.0
%を超える添加では、溶接性が劣化するとともに、コス
トが上昇する。従って、Crを含有させる場合にはその
量0.1〜3.0%の範囲に規定する。 Mo:0.1〜3.0%
【0035】Moは焼入性を高める元素であるが、0.
1%未満ではこの効果を発揮することができず、3.0
%を超える添加では、溶接性が劣化するとともに、コス
トが上昇する。従って、Moを含有させる場合にはその
量を0.1〜3.0%の範囲に規定する。 B:0.0003〜0.01%
【0036】Bは微量添加で焼入れ性を高める元素であ
るが、0.0003%未満ではこの効果を発揮すること
ができず、0.01%を超える添加では、溶接性が劣化
するとともに、むしろ焼入れ性が低下する。従って、B
を含有させる場合にはその量を0.0003〜0.01
の範囲に規定する。
【0037】本発明では、上記基本組成に対して、又は
上記選択元素を添加した組成に対してさらに、Nb:
0.005〜1.0%、V:0.01〜1.0%のうち
1種又は2種を含有させることができる。 Nb:0.005〜1.0%
【0038】Nbは析出強化に有効な元素であり、目的
に応じて鋼の硬度を制御できる効果を有しており、さら
にTiと同様に、粗大析大物の形成にも有効である。し
かし、0.005%未満ではこれらの効果を発揮するこ
とができず、1.0%を超える添加では溶接性が劣化す
る。従って、Nbを含有させる場合にはその量を0.0
05〜1.0%の範囲に規定する。 V:0.01〜1.0%
【0039】Vは析出強化に有効な元素であり、目的に
応じて鋼の硬度を制御できる効果を有しており、さらに
Tiと同様に、粗大析大物の形成にも有効である。しか
し、0.01%未満ではこれらの効果を発揮することが
できず、1.0%を超える添加では溶接性が劣化する。
従って、Vを含有させる場合にはその量を0.01〜
1.0%の範囲に規定する。
【0040】本発明に係る鋼は、このような組成限定の
ほかに析出物の大きさ及び個数も限定される。すなわ
ち、TiCを主体とする0.5μm以上の析出物を1m
当たり400個以上含むことが必要とされる。本発
明において最も重要な特性である耐摩耗性は、TiCを
主体とする粗大析出物あるいは複合析出物を大量に生成
させることであるが、0.5μm未満の小さな析出物で
は耐摩耗性向上効果が小さく、さらに、小さな析出物で
は析出硬化による硬度あるいは強度の上昇を伴う。その
ため、本発明の目的とする析出によるマトリックスの軟
化効果を達成できない。従って、粗大析出物のサイズと
しては、0.5μm以上にする必要がある。さらに、
0.5μm以上の析出物が存在している場合でも、1m
2当たりの個数が400個未満では、耐摩耗性向上効
果がほとんどない。従って、TiCを主体とする析出物
について、その大きさを0.5μm以上、その個数を1
mm2当たり400個以上に規定した。また、以下の式
で示されるTi*が0.05%以上0.4%未満である
ことも必要である。 log[Ti][C]=(−10580/T)+4.3
8 [Ti]=4×[C]+{Ti(a)−4×C} 但し、Ti(a)=Ti−{(48/14)N+(48
/32)S} Ti,C,N,Sは添加量(質量%)を表す。 Ti*=Ti(a)−[Ti]
【0041】Ti*で表される量はTiCを主体とした
析出物量を所定量確保するとともに、優れた表面性状を
安定して確保するための条件を示すパラメーターであ
る。Ti*が0.05%以上0.4%未満の範囲では、
良好な耐摩耗性と優れた表面性状を確保することが可能
である。Ti*が0.05%未満では耐摩耗性が劣化
し、0.4%以上では耐摩耗性は良好であるが、表面性
状は著しく劣化してしまう。
【0042】本発明においては、さらに連続鋳造した鋳
片を使用することを前提としている。本発明のような高
Ti鋼の製造においては、一般のインゴットによる鋳片
では、凝固速度が著しく遅いためインゴット軸心部、頭
部での偏析が顕著になり、さらに、偏析部分や最終凝固
部分にTiCを主体とする析出物が集中してしてしま
い、最終製品全体にわたっての均一な特性が得られな
い。それに対して、凝固速度の速い連続鋳造で製造した
鋳片ではインゴットに比較して、均一にTiC析出物、
複合析出物を分散させることが可能であり、本発明にお
いては、連続鋳造が必須となる。また、コストの面から
も、連続鋳造法が有利である。次に、本発明に係る耐磨
耗鋼の製造方法について説明する。
【0043】この発明においては、上記組成を有し、T
i*が上記範囲を満足する溶鋼を連続鋳造してその段階
で鋳片中にTiCを主体とする粗大な析出物を析出さ
せ、引き続き鋳片中に存在するTiCを主体とする粗大
な析出物を実質的に再固溶、再析出させないように13
00℃以下の温度領域に加熱して熱間加工及び焼入れ処
理を行う。
【0044】上記組成を有し、Ti*が上記範囲の溶鋼
を用いて通常の連続鋳造条件で連続鋳造を行えば、その
段階で鋳片中に所望の大きさ及び個数のTiCを主体と
する析出物を析出させることができる。
【0045】次の段階の熱間加工及び焼入れ処理におい
て重要であるのは、熱間加工、焼入れ工程において、連
続鋳造で生成したTiCを主体とする粗大な析出物を実
質的に固溶、再析出させないことである。ただし、仮に
多少固溶した場合でもパラメーターTi*が0.05〜
0.4%未満を満足していれば実質的に再析出は生じず
問題はない。TiCを主体とする粗大な析出物を実質的
に固溶、再析出させない観点からは、加熱温度は低い方
が良いが、加熱温度が著しく低い場合には熱間延性が低
下し、圧延が困難になるとともに、生産性が低下する。
以上の点から、加熱温度の上限を1300℃に規定す
る。所望の析出物を得る観点からは1200℃以下の加
熱が望ましく、できれば、1100℃以下の範囲で加熱
することが良い。一方、加熱温度が1300℃を超える
場合には、加熱中の酸化が著しく進み、特に、本発明に
おいては、Tiが大量に含まれているため、酸化スケー
ルの発生が多くなり、結果的に表面性状が劣化すること
になる。このような観点からも、加熱温度は1300℃
以下に制限される。
【0046】加熱後、熱間加工により所定の形状に仕上
げられた鋼は、最終製品段階で焼入れ処理に供される。
焼入れ処理の目的は、変態硬化を活用するためであり、
耐摩耗性を安定させる目的である。従来の鋼ではこのよ
うな焼入れ処理を実施した場合、変態硬化が顕著にな
り、加工性、溶接性等が劣化していたが、本発明では、
粗大析出物が大量に存在することでマトリックス硬度が
低下しているため、硬度の上昇は結果的に低く抑えるこ
とが可能である。
【0047】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。
【0048】連続鋳造又はインゴット鋳造により鋳片又
は鋳塊を得、これらを所定温度に加熱後、熱間加工及び
焼入れ処理を行って表1に示す組成の鋼を得た。表1
中、鋼1〜22は本発明の範囲内に含まれる実施例であ
り、鋼A〜Kは本発明の範囲から外れる比較例である。
【0049】
【表1】
【0050】表2には、供試鋼の製造条件を示す。表2
中「CC」とあるのは連続鋳造を示し、INGとあるの
はインゴット鋳造を示す。実施例の鋼は全て連続鋳造で
製造されているが、比較例の鋼は一部インゴット鋳造を
採用している。そして、加熱温度を1000〜1250
℃の範囲の種々の温度に設定して熱間加工を行い、焼入
れ温度は850〜970℃の範囲で実施している。ま
た、表2には析出物個数も合わせて記載している。ここ
でいう析出物個数はサイズが0.5μm以上であるTi
Cを主体とする析出物(あるいは複合析出物)の1mm
2 中の個数を示す。
【0051】このようにして製造した供試鋼について、
ブリネル硬さHBを測定し、耐磨耗性及び表面性状を試
験した。耐磨耗性はASTM G−65に準拠した摩耗
試験によって行い、SS400(軟鋼)の耐摩耗性を
1.0として耐磨耗比で示した。すなわち、耐磨耗比が
大きいほうが耐磨耗性に優れている。なお、この試験で
は磨耗砂として100%SiO2 砂を使用した。表面性
状は表面欠陥として、深さが0.2mm以上ある欠陥を
対象として、その面積率によって以下の基準で判定し
た。 ○:上記の欠陥の総面積が25cm2 /1m2 未満 ×:上記の欠陥の総面積が25cm2 /1m2 以上 これらの結果も合わせて表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】表2から明らかなように、本発明の範囲を
満足する鋼1〜22では、表面硬さが比較的低いのにも
かかわらず、耐磨耗比が高く、表面性状も良好であるこ
とが確認された。
【0054】これに対して、比較例の鋼A〜DはTi添
加量が本発明の範囲外で低く、特に、鋼A、B、Dでは
析出物個数が0であり、本発明の最も重要な析出物の効
果が発揮されていないことが確認された。そのため、表
面性状は良好であるが、耐摩耗性は著しく低くく、耐摩
耗鋼としての特性が得られていない。また、鋼CではT
i添加量が低いことと、析出物個数が少ないため、例え
ば実施例である鋼4に比較して耐摩耗性が著しく低くか
った。
【0055】鋼E、Kは、それぞれ、鋼5、9の比較で
ある。鋼E、Kは本発明の成分を満足し、Ti*も満足
しているが、製造方法はインゴットであり、著しく粗大
な析出物が生成しているため、表面性状が劣っているこ
とに加えて、実施例の鋼に比較して耐摩耗性も劣化して
いる。析出物量は比較例である鋼E、Kと実施例である
鋼5、9とを比較すると、鋼E、Kでは析出物のサイズ
が大きくなっているため、析出物の個数はむしろ鋼5、
9よりも少なくなっている。耐摩耗性が本発明鋼よりも
比較鋼が劣っているのは、摩耗条件下では著しく粗大な
析出物が落下してしまうためである。
【0056】鋼F〜Jは製造方法は連続鋳造であるが、
Ti*の値が本発明の範囲外であり、耐摩耗性は良好で
あるが、表面性状が顕著に劣化しており、実使用に適用
することは困難であることが確認された。
【0057】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、硬度を
上昇させることなく安価に耐摩耗性を向上させることが
でき、割れの起点となる表面欠陥の少ない表面性状に優
れた耐摩耗鋼及びその製造方法が提供される。従って、
従来、使用中の摩耗が顕著であること及び割れが発生す
ることで寿命の短くなることが多かった機械、部品等の
寿命を長くすることができるといった著しい効果を得る
ことができる。
フロントページの続き (72)発明者 平部 謙二 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日本鋼管株式会社内 (72)発明者 国定 泰信 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日本鋼管株式会社内 (56)参考文献 特開 平4−228536(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 301 C21D 8/00 C22C 38/14

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】質量%で、C:0.10〜0.45%、S
    i:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:
    0.04%以下、S:0.04%以下、Ti:0.10
    〜1.0%、N:0.01%以下、を含み、残部Fe及
    び不可避不純物からなり、0.5μm以上の大きさを有
    するTiC析出物あるいはTiCとTiN,TiSとの
    複合析出物を1mm2当たり400個以上を含み、且
    つ、以下の式で示されるTi*が0.05%以上0.4
    %未満であり、連続鋳造で形成されたことを特徴とする
    表面性状に優れた耐摩耗鋼。 〈式〉 log[Ti][C]=(−10580/T)+4.3
    8 [Ti]=4×[C]+{Ti(a)−4×C} 但し、Ti(a)=Ti−{(48/14)N+(48
    /32)S} Ti,C,N,Sは添加量(質量%)を表す。 Ti*=Ti(a)−[Ti]
  2. 【請求項2】さらに、質量%で、Cu:0.1〜2.0
    %、Ni:0.1〜10.0%、Cr:0.1〜3.0
    %、Mo:0.1〜3.0%、B:0.0003〜0.
    01%のうち一種又は二種以上を含むことを特徴とする
    請求項1に記載の表面性状に優れた耐摩耗鋼。
  3. 【請求項3】さらに、質量%で、Nb:0.005〜
    1.0%、V:0.01〜1.0%のうち一種または二
    種を含み、Nb(C,N)あるいはV(C,N)の析出
    物も同時に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載
    の表面性状に優れた耐摩耗鋼。
  4. 【請求項4】質量%で、C:0.10〜0.45%、S
    i:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜2.0%、P:
    0.04%以下、S:0.04%以下、Ti:0.10
    〜1.0%、N:0.01%以下、を含み、残部Fe及
    び不可避不純物からなり、かつ以下の式で示されるTi
    *が0.05%以上0.4%未満である溶鋼を連続鋳造
    してその段階で鋳片中にTiCあるいはTiCとTi
    N,TiSの複合した粗大な析出物を析出させ、引き続
    き鋳片中に存在するTiCあるいはTiCとTiN,T
    iSの複合した粗大な析出物を実質的に再固溶、再析出
    させないように1300℃以下の温度域に加熱して熱間
    加工及び焼入れ処理を行なうことを特徴とする表面性状
    に優れた耐摩耗鋼の製造方法。 〈式〉 log[Ti][C]=(−10580/T)+4.3
    8 [Ti]=4×[C]+{Ti(a)−4×C} 但し、Ti(a)=Ti−{(48/14)N+(48
    /32)S} Ti,C,N,Sは添加量(質量%)を表す。 Ti*=Ti(a)−[Ti]
  5. 【請求項5】さらに、質量%で、Cu:0.1〜2.0
    %、Ni:0.1〜10.0%、Cr:0.1〜3.0
    %、Mo:0.1〜3.0%、B:0.0003〜0.
    01%のうち一種又は二種以上を含むことを特徴とする
    請求項4に記載の表面性状に優れた耐摩耗鋼の製造方
    法。
  6. 【請求項6】さらに、質量%で、Nb:0.005〜
    1.0%、V:0.01〜1.0%のうち一種または二
    種を含み、Nb(C,N)あるいはV(C,N)の析出
    物も同時に含むことを特徴とする請求項4又は5に記載
    の表面性状に優れた耐摩耗鋼の製造方法。
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