JP3038503B2 - 歯科用アルギン酸塩印象材 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明はアルギン酸塩を基材とす
る歯科用印象材に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】アルギン酸塩印象材に、殺菌剤や消毒剤
等の殺生物成分を加えて、歯科印象時における感染症の
伝染を防止することは公知である。

【０００３】特開昭６３−１１２５０５号公報には、殺
生物成分として四級アンモニウム化合物、ビスグアニジ
ン化合物、キノリン化合物、置換されたフェノール、ジ
アルキル四級化合物を使用することが記載されている。

【０００４】特開昭64-40410号公報には、殺菌剤として
フェノール誘導体、ハロゲン化フェノール誘導体、フェ
ニルフェノールもしくはその塩の使用が開示されてい
る。

【０００５】また、特開平1-100110号公報には、消毒剤
としてグルタルアルデヒド、次亜鉛素酸ナトリウム、過
酸化水素水、グルコン酸クロルヘキシジン、ポピドンヨ
ード、塩化ベンザルコニウム等が使用されている。

【０００６】

【発明が解決しようとする課題】上記で使用されている
殺菌剤や消毒剤は、医療施設や食品施設での環境殺菌剤
として実際に使用されている代表的な殺菌・消毒剤であ
る。従って人体に対してもある程度の作用を示し、皮膚
の弱い人や、アレルギー体質の人には、かぶれ等の悪影
響を与えるおそれがある。

【０００７】本発明の目的は、人体への影響が極めて少
ない新規なアルギン酸塩印象材を提供するにある。

【０００８】本発明の別の目的はアルギン酸塩印象材に
微生物が混入し不快な臭気の発生等アルギン酸塩印象材
の劣化の発生を防止することにある。

【０００９】本発明の他の目的は、歯科印象時において
感染症の伝染を防止することにある。

【００１０】

【課題を解決するための手段】本発明者らは、アルギン
酸塩印象材に使用する殺菌剤について、種々検討した結
果、人体への作用がほとんどなく、細菌等微生物にのみ
作用を示す細菌溶解酵素を使用することによって、本発
明の目的を達成した。

【００１１】すなわち本発明は、歯科用アルギン酸塩印
象材において、その固体成分 100重量部に対し0.01〜10
重量部の細菌溶解酵素を含有することを特徴とする歯科
用アルギン酸塩印象材である。

【００１２】本発明の目的に使用される細菌溶解酵素と
しては、アクロモペプチダーゼ、N-アセチルムラミダー
ゼ、リゾペプターゼ、リゾチーム及びこれらのハロゲン
化合物、アセチル化合物等の誘導体がある。これらの細
菌溶解酵素は単独でも複合して使用してもよい。

【００１３】本発明の目的を達成する為には、歯科用ア
ルギン酸塩印象材のアルギン酸塩印象材固体成分 100重
量部に対し細菌溶解酵素を0.01〜10重量部、好ましくは
0.1〜7 重量部、より好ましくは 0.5〜5 重量部を含有
させる。

【００１４】本発明の好ましいアルギン酸塩印象材組成
としては、次の範囲の組成（重量％）を有する。

【００１５】 好ましい範囲 より好ましい範囲 アルギン酸アルカリ金属塩 5〜30％ 8〜20％ 固化剤 5〜60％ 7〜30％ 遅延剤 0.1〜30％ 0.5〜10％ 充填剤 30〜80％ 40〜70％ 表面固化剤 0〜10％ 0.5〜 8％ 抗粉塵化剤 0〜10％ 0.5〜 8％ 細菌溶解酵素 0.01〜10％ 0.3〜 7％

【００１６】本発明のアルギン酸塩印象材の具体的な処
方の例としては次の組成及び配合範囲を挙げることがで
きる。

【００１７】 アルギン酸アルカリ金属塩：アルギン酸カリウム又はアルギン酸ナトリウム 5〜30％ 固化剤：硫酸カルシウム 5〜60％ 遅延剤：ピロリン酸四ナトリウム 0.1〜30％ 充填剤：珪藻土 30〜80％ 硬化剤：フルオロチタン酸カリウム 0〜10％ 抗粉塵化剤：ポリプロピレングリコール 0〜10％ 細菌溶解酵素：塩化リゾチーム 0.1〜10％

【００１８】一般にアルギン酸塩印象材としては、特許
文献等に見られるように各種の処方や添加物を有し、本
発明のアルギン酸塩印象材はこれらの各種処方に対して
応用可能である。

【００１９】アルギン酸塩印象材は、 1重量部のアルギ
ン酸塩印象材固体成分に対し、 2〜3 重量部の水と混合
すると、粘稠でやや流動性のある塊状のゾルを形成し、
これは不可逆的化学反応によりゴム状ゲルに変換され
る。反応は成分を正しく配合することにより、所望の操
作時間、固化反応、寸法正確性及びゲルとしての必要な
物理的性質が調節される。

【００２０】本発明の目的に使用される細菌溶解酵素
は、一般に粒径が 0.1〜500 μm の固体粉末で得られる
ので、他のアルギン酸塩印象材固体成分と共に、粉砕混
合機等で混合される。

【００２１】

【作用】細菌溶解酵素を含有したアルギン酸塩印象材
は、第一の目的である微生物混入による不快な臭気の発
生防止を実現する。

【００２２】また、細菌溶解酵素を含有したアルギン酸
塩印象材は、水と混合して得たゲルが、Staphylo-coccu
s aurcus や Escherichia coli 等細菌に対して殺菌
作用を示すので、第二の目的である歯科印象時の感染症
の防止にも寄与する。

【００２３】

【実施例】次に実施例により本発明を説明するが、本発
明はこれらに限定されるものではない。

【００２４】実施例１ 下記の配合をブレンダーで混合し、更に微量の顔料と香
料を加えて均一に混合し、本発明の酵素含有アルギン酸
塩印象材を得た。

【００２５】アルギン酸ナトリウム
15重量部 硫酸カルシウム二水塩 15重量部 ピロリン酸四ナトリウム 2重量部 珪藻土 65重量部 フルオロチタン酸カリウム 1重量部 ポリプロピレングリコール 1重量部 塩化リゾチーム 1重量部

【００２６】得られた粉末 7重量部と水20重量部とをゴ
ム製ボールに採り、スパチュラーを用いて通法に従い練
和した。

【００２７】実施例２ 実施例１の塩化リゾチームをアクロモペプチダーゼに変
更した以外は実施例１と同様に行い、本発明の酵素含有
アルギン酸塩印象材を得た。また、得られた粉末を実施
例１と同様に練和した。

【００２８】実施例３ 実施例１の塩化リゾチームをN-アセチルムラミダーゼに
変更した以外は実施例１と同様に行い、本発明の酵素含
有アルギン酸塩印象材を得た。また、得られた粉末を実
施例１と同様に練和した。

【００２９】実施例４ 実施例１の塩化リゾチームをリゾペプターゼに変更した
以外は実施例１と同様に行い、本発明の酵素含有アルギ
ン酸塩印象材を得た。また、得られた粉末を実施例１と
同様に練和した。

【００３０】比較例１ 実施例１の塩化リゾチームを除き、珪藻土を 1重量部増
加させて、酵素なしアルギン酸塩印象材を得た。また、
得られた粉末を実施例１と同様に練和した。

【００３１】物性試験 実施例１〜４及び比較例１の印象材としての物性を、JI
S T-6505に準拠して測定し、その硬化時間、硬化物の弾
性歪み及び永久歪みの測定値を表１に示す。

【００３２】

【表１】

【００３３】抗菌力試験 次に実施例１〜４及び比較例１の抗菌力試験を以下の方
法により実施した。

【００３４】１. サンプル 実施例１〜４、比較例１で作成した練和硬化物。

【００３５】２. 試験菌種 (a) Staphilococcus aureus (b) Escherichia coli

【００３６】３．試験用培地 前培養培地・・・Brain Heart Infusion Agar 本培養培地・・・Nutrient Broth 菌数測定用培地・・・Tryptone Glucose Extract Agar

【００３７】４．試験菌の培養 前培養 試験菌株を前培養培地に接種し、37℃で18
時間培養した。 本培養 前培養した試験菌株の菌体
を本培養培地に接種し、37℃で 8時間振とう培養した。

【００３８】５．試験菌懸濁液の調整 本培養で得られた培養菌液を、Nutrient Brothを用いて
1ml当りの菌数が約108 個となるように調整した後、さ
らにリン酸緩衝液を用いて 1ml当りの菌数が約105 個と
なるように希釈して試験菌懸濁液とした。

【００３９】６．試験操作 三角フラスコ（スクリューキャップ付 200ml容）にリン
酸緩衝液を70ml注入して滅菌した後、試験菌懸濁液を 5
ml添加して試験液とした。次にサンプル2gを添加し、25
℃で 1時間振とうした。

【００４０】なお、振とう条件は約100rpmの水平振とう
とした。また、試験菌株毎に 2検体を準備して試験し
た。

【００４１】７．生菌数の測定 振とう前（サンプル添加前）及びサンプルを添加して一
時間振とうした後の各試験液中の生菌数を、菌数測定用
培地を用いた混釈平板培養法（37℃、48時間培養）によ
り測定した。

【００４２】８．試験結果 振とう前及び一時間振とう後の各試験液1ml 当りの生菌
数の測定結果を表２に示す。

【００４３】

【表２】

【００４４】また、次式により生菌数の減少率を算出
し、表３に示した。

【００４５】減少率（％）＝｛(B−A)／(B) ｝×100 A ：振とう後の試験液 1ml当りの生菌数 B ：振とう前の試験液 1ml当りの生菌数

【００４６】

【表３】

【００４７】

【発明の効果】表１に示すとおり、酵素含有アルギン酸
塩印象材は、酵素含有のない印象材と同様、歯科用印象
材としての必要なJIS 規格を満たしている。

【００４８】また、表３に示すとおり、本発明の酵素含
有アルギン酸塩印象材は優れた抗菌力を示す。

フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭63−112505（ＪＰ，Ａ) 特開 昭64−40410（ＪＰ，Ａ) 特開 平１−100110（ＪＰ，Ａ) (58)調査した分野(Int.Cl.⁷，ＤＢ名) A61K 6/10 ＭＥＤＬＩＮＥ（ＳＴＮ) ＷＰＩ（ＤＩＡＬＯＧ)

Claims (5)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 歯科用アルギン酸塩印象材において、そ
   の固体成分 100重量部に対し0.01〜10重量部の細菌溶解
   酵素を含有することを特徴とする歯科用アルギン酸塩印
   象材。
2. 【請求項２】 細菌溶解酵素がアクロモペプチダーゼ及
   びその誘導体である、請求項１に記載の酵素含有アルギ
   ン酸塩印象材。
3. 【請求項３】 細菌溶解酵素がN-アセチルムラミダーゼ
   及びその誘導体である、請求項１に記載の酵素含有アル
   ギン酸塩印象材。
4. 【請求項４】 細菌溶解酵素がリゾペプターゼ及びその
   誘導体である、請求項１に記載の酵素含有アルギン酸塩
   印象材。
5. 【請求項５】 細菌溶解酵素がリゾチーム及びその誘導
   体である、請求項１に記載の酵素含有アルギン酸塩印象
   材。