JP2926165B2 - 直接噴射式ディーゼル機関 - Google Patents

直接噴射式ディーゼル機関

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、直接噴射式ディーゼ
ル機関における燃料噴射の制御と燃焼室の形状の改良に
関するものである。
【0002】
【従来の技術】直接噴射式ディーゼル機関の燃焼室にお
いて、上端開口部が内部の最大径よりも小径に形成され
ているものは従来から知られている。このような燃焼室
の形状を改良したものとしては例えば特開昭55−51
917号公報があり、これは燃焼状態を改善して出力を
向上し、同時にNOxの発生量を低減することを目的と
している。従来の燃焼室の上端開口部は加工時に生ずる
自然Rが付いている程度で一般に比較的鋭いエッジとな
っており、噴射された燃料はこのエッジ部で上下に二分
されてピストン上面と燃焼室内部とに向かうことにな
る。上記公報のものも同様である。また、上記公報では
噴射開始の初期からこの上端開口部に向かって燃料が噴
射されるようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、燃料消
費率の改善や排気ガスの浄化等に対する社会の要求は年
々厳しくなり、単に燃焼室の形状を改良するだけでこれ
らの要求を満たすことは困難となりつつある。この発明
はこの点に着目し、更に燃焼状態を改善してNOxを低
減することを課題としてなされたものであり、従来あま
り注目されていなかった燃焼室の形状と燃料の噴射方向
及び噴射率との関係を研究したものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記の課題を達成するた
めに、この発明では、噴射期間の初期において全噴射期
間の少なくとも1/3の期間について噴射率を抑制した
後に噴射圧力が最大となるように燃料噴射を制御し、燃
焼室はその最大径よりも小径に形成されている上端開口
部をR加工された滑らかな曲面を有するものとし、噴射
率が抑制されている期間中は燃焼室の上端開口部より下
部の傾斜した側壁に対して燃料が噴射されると共に、噴
射圧力が最大となる時期にはピストンの下降に伴い上端
開口部に対して燃料が噴射されるように構成している。
また、ピストン上面の上端開口部の周囲に浅い凹部を設
けることにより、燃焼室の上端開口部からピストン上面
にかけて滑らかに連続する薄い燃焼空間を形成してい
る。また、上端開口部の噴射燃料の中心が当たる部分を
ノズル方向に突出させている。
【0005】
【作用】噴射初期には燃料が上端開口部に当たらないた
め乱流が発生せず、しかも噴射率が抑制されているの
で、燃焼は比較的静かで緩やかなものとなってNOxの
発生が少なくなる。また燃焼中期以降は高圧の燃料噴霧
の中心がR加工された上端開口部に当たり、噴霧外周部
の低濃度燃料がピストン上面に速やかに拡散してリーン
状態の燃焼が行われるので、NOxの発生が抑えられる
と共に燃料消費の少ない高効率の燃焼状態が得られる。
また、ピストン上面に薄い燃焼空間を設けることによ
り、この燃焼空間内の空気が有効に利用されてより良好
な燃焼状態が得られる。また、上端開口部の噴射燃料の
中心が当たる部分をノズル方向に突出させることによ
り、混合気や火炎がピストンが下降して生ずるピストン
頂部の燃焼空間に速やかに拡散するようになり、より良
好な燃焼状態が得られる。
【0006】
【実施例1】以下、図示の実施例について説明する。ま
ず、図1によりこの発明における燃料噴射制御について
述べる。図の横軸はクランク角、縦軸は弁リフト量と噴
射圧力であって、図のように噴射期間の初期に噴射率を
抑制し、その後に噴射圧力が最大となるように燃料噴射
を制御しており、噴射率抑制期間θ1は全噴射期間θの
1/3以上に選定される。噴射は例えば上死点前10°
付近から上死点付近までの間、好ましくは上死点前5°
付近で開始され、上死点後25°付近から35°付近ま
での間、好ましくは30°付近で終了するように制御さ
れ、全噴射期間θは25〜35°程度となる。また噴射
圧力は上死点後20°付近で最大となるように制御され
る。このような燃料噴射制御は以下に述べる各実施例に
共通なものである。
【0007】図3及び図4に示す実施例1は請求項1の
発明の第1の実施例である。図3は上死点付近での噴射
開始時の状態を、図4は上死点後20°付近での高圧噴
射時の状態をそれぞれ示しており、(a)は平面図、(b)は
断面図である。図において、1はピストン、2は燃焼
室、3はシリンダ、4は噴射ノズルである。なお、噴射
ノズルは位置のみを示している。燃焼室2は従来と同様
にピストン1の上面11を凹状にえぐって形成したもの
で底部中央に隆起部21を備えており、隆起部21から
滑らかに連続する側壁22は上部が小径となるように内
側に傾斜している。そしてこの側壁22の上端にはR加
工されて滑らかな曲面となった上端開口部23が形成さ
れてピストン1の上面11に連続している。
【0008】図示のように、シリンダ径をD、上端開口
部23の直径をd1、上面11との境界の直径をd2、燃
焼室2の最大直径をd3、上端開口部23のR加工部の
半径をRとすると、d1<d3、d2=d1+2Rの関係に
あり、またd1/D=50〜80%に、R=3〜10mm
に選定されている。また、5は噴射燃料を、51はその
中心を示しており、ノズル4の噴孔角αは、噴射率が抑
制されている噴射初期には側壁22に対して燃料が噴射
され、噴射圧力が最大となる時期にはピストン1が下降
して上端開口部23に対して燃料が噴射されるように、
燃焼室2の形状と寸法に応じて例えば120〜160°
程度に選定されている。
【0009】実施例は上述のような構成であり、図3の
ようにピストン1が上死点付近にある噴射開始時には噴
射燃料5は側壁22に対して噴射される。このため乱流
は発生せず、しかもこの時は噴射率が抑制されていて燃
料の供給も少ないので、燃焼は比較的静かで緩やかなも
のとなり、NOxの発生が少なくなる。燃焼中期以降は
噴射圧力が高くなり、またピストン1が次第に下降して
高圧の燃料噴霧の中心51が上端開口部23に当たり、
R加工された上端開口部23の表面に沿って上下に分流
するようになる。従って、燃料が燃焼室2内の空気とよ
く混合されると共にピストン1の上面11にも速やかに
拡散して燃焼する。特に上面11には噴霧外周部の低濃
度燃料がバックスキッシュ流と共に流入して燃焼はリー
ンの状態で行われるので、NOxの発生が抑えられると
共に燃料消費の少ない高効率の燃焼状態が得られること
になる。
【0010】
【実施例2】図5及び図6に示す実施例2は請求項1の
発明の第2の実施例であり、上端開口部23の上部周縁
にテーパ部24を設けてある。図5は上死点付近での噴
射開始時の状態を、図6は上死点後20°付近での高圧
噴射時の状態をそれぞれ示している。(a)は平面図、(b)
は断面図である。各部の寸法は、d1<d3、d2>d3
1/D=50〜65%、d2/D≧70%の関係にあ
り、またR=3〜15mmに選定され、ノズル4の噴孔角
αは上述の実施例1よりも若干小さく、例えば110〜
150°程度に選定される。この実施例では、テーパ部
24の作用によりピストン1の上面11での空気と燃料
の混合が促進されるので、図2で説明するように特に黒
煙の排出が低減される。
【0011】
【実施例3】図7及び図8に示す実施例3は請求項2の
発明の実施例であり、図7は上死点付近での噴射開始時
の状態を、図8は上死点後20°付近での高圧噴射時の
状態をそれぞれ示している。(a)は平面図、(b)は(a)の
A−A線断面図である。従来、機関の形式やバルブの形
状等によっては、ピストン1がバルブに接触しないよう
に上面11にバルブリセスを設けることがあるが、この
実施例はこれらのバルブリセスではなく、上端開口部2
3の上部の周囲全体に浅い凹部25を設けることによ
り、燃焼室2の上端開口部23からピストン1の上面1
1にかけて滑らかに連続する薄い燃焼空間26を形成し
ている。この実施例はバルブリセスを有する機関の場合
を示しており、凹部25とバルブリセス27とが連続し
て形成されている。なお、図では凹部25はバルブリセ
ス27より浅くなっているが、場合によっては同じ深さ
で形成されることもある。この実施例は上述のような構
成であり、ピストン上面に全体にわたって形成された薄
い燃焼空間26内の空気が燃焼に有効に利用されるの
で、バルブリセスのみが形成されているものよりも燃焼
状態が改善される。
【0012】
【実施例4】図9及び図10に示す実施例4は請求項3
の発明の実施例であり、図9は上死点付近での噴射開始
時の状態を、図10は上死点後20°付近での高圧噴射
時の状態をそれぞれ示している。(a)は平面図、(b)は
(a)のA−A線断面図である。この実施例は図3及び4
の実施例1における上端開口部23の形状を改良したも
のである。すなわち、上端開口部23の燃料噴霧の中心
51が当たる部分23aのR加工部の半径R1とその間
に存在する噴霧中心51が当たらない部分23bのR加
工部の半径R2を異ならせ、R1<R2として部分23a
をノズル4方向に相対的に突出させてあり、それぞれ直
径に相当する部分23a間の寸法d1と部分23b間の
寸法d4はd1<d4の関係となっている。また、上から
見た部分23aの突出半径はR3、部分23bのくぼみ
半径はR4であるが、部分23aが球面状に突出した状
態となって両者は全体として滑らかな曲面で連続したも
のとなっている。なお、突出した部分23aの数はノズ
ル4からの噴霧本数と同数である。
【0013】上述のような構成であり、図9のようにピ
ストン1が上死点付近にある噴射開始時には、噴射燃料
5は側壁22に対して噴射されるので上端開口部23の
凹凸はほとんど無関係であり、実施例1と同様に燃焼は
比較的静かで緩やかなものとなってNOxの発生は少な
い。一方、燃焼中期以降の噴射圧力が高くなる時期に
は、高圧の燃料噴霧の中心51が上端開口部23の突出
した部分23aに当たり、部分23aの球面状の表面に
沿って周囲に分流する。従って、燃焼室2内での燃料と
空気の混合が促進されると共に、ピストン1の上面11
への拡散も活発に行われ、実施例1の場合よりも広範囲
に拡散して良好な燃焼状態が得られるのである。
【0014】図2は以上の実施例と従来例とをNOx量
と黒煙あるいは排気色Sdについて比較したものであ
り、横軸は燃料消費率の無次元表示、縦軸は従来例を1
とした無次元表示となっている。図において、黒丸は従
来例、白丸は実施例1、三角は実施例2、Xは実施例4
を示しており、実施例3はほぼ実施例1と同程度であっ
たので省略してある。実施例1に着目して従来例と比較
的すれば、例えば同一の燃料消費率f=0.9ではNO
xは1から0.8となって約20%低減され、黒煙(排
気色)Sdは1から0.75となって約25%低減され
ている。また同一のNOx(=0.8)では燃料消費率f
は1から0.9となって約10%低減されている。また
全体としては実施例1と実施例2はNOxとSdで優劣
が逆転しているが従来例よりも優れている。また実施例
4はいずれの点においても最も良好な結果となってお
り、この発明の効果が示されている。なお、請求項2の
燃焼空間を設ける構造に請求項3の構造を併用すること
も可能であり、相乗効果によって単独実施の場合よりも
優れた効果を得ることができる。また、バルブリセス付
きのものに請求項3の構造を採用することもできる。
【0015】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、この発
明の直接噴射式ディーゼル機関は、噴射期間の初期に噴
射率を抑制してその後に噴射圧力が最大となるように燃
料噴射を制御し、また燃焼室はその最大径よりも小径の
上端開口部をR加工して滑らかな曲面を有するものと
し、噴射率抑制期間中は燃焼室の上端開口部より下部の
傾斜した側壁に燃料を噴射すると共に、噴射圧力が最大
となる時期には上端開口部に対して燃料を噴射するよう
にしたものである。従って、噴射初期には乱流が発生せ
ず、抑制された噴射率のもとで緩やかに燃焼してNOx
の発生が少なくなる。また燃焼中期以降は噴射された燃
料がR加工された上端開口部に当たり、燃料がピストン
上面に速やかに拡散してリーン状態の燃焼が行われるの
で、NOxの発生が抑えられると共に燃料消費の少ない
高効率の燃焼状態が得られるのであり、燃料消費率の改
善と排気ガスの浄化に対する厳しい要求に応えることが
可能となる。
【0016】また、燃焼室の上端開口部からピストン上
面にかけて滑らかに連続する薄い燃焼空間を形成したも
のでは、この燃焼空間内の空気が有効に利用されてより
良好な燃焼状態が得られる。更に、上端開口部の噴射燃
料の中心が当たる部分をノズル方向に突出させたもので
は、燃焼中期以降に噴射された燃料が突出部に当たって
混合気や火炎がピストン頂部に生ずる燃焼空間に速やか
に拡散するようになり、より良好な燃焼状態となって燃
料消費率の改善と排気ガスの浄化を一層進めることが可
能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明における燃料噴射制御の説明図であ
る。
【図2】NOx量及び黒煙あるいは排気色と燃料消費率
との関係について従来例とこの発明の実施例とを比較し
たグラフである。
【図3】実施例1の噴射開始時におけるピストン頂部の
平面図及び断面図である。
【図4】同実施例の高圧噴射時におけるピストン頂部の
平面図及び断面図である。
【図5】実施例2の噴射開始時におけるピストン頂部の
平面図及び断面図である。
【図6】同実施例の高圧噴射時におけるピストン頂部の
平面図及び断面図である。
【図7】実施例3の噴射開始時におけるピストン頂部の
平面図及びA−A線断面図である。
【図8】同実施例の高圧噴射時におけるピストン頂部の
平面図及びA−A線断面図である。
【図9】実施例4の噴射開始時におけるピストン頂部の
平面図及びA−A線断面図である。
【図10】同実施例の高圧噴射時におけるピストン頂部
の平面図及びA−A線断面図である。
【符号の説明】
1 ピストン 2 燃焼室 3 シリンダ 4 噴射ノズル 11 上面 22 側壁 23 上端開口部 24 テーパ部 25 凹部 26 薄い燃焼空間 23a 突出した部分 θ 全噴射期間 θ1 噴射率抑制期間 α ノズルの噴孔角
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭59−58127(JP,A) 実開 昭61−173728(JP,U) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) F02D 41/00 - 41/40 F02B 23/06

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ピストン頂部に形成されている燃焼室に
    向けて燃料噴射を行う直接噴射式ディーゼル機関であっ
    て、噴射期間の初期において全噴射期間の少なくとも1
    /3の期間について噴射率を抑制した後に噴射圧力が最
    大となるように燃料噴射を制御し、燃焼室はその最大径
    よりも小径に形成されている上端開口部をR加工された
    滑らかな曲面を有するものとし、噴射率が抑制されてい
    る期間中は燃焼室の上端開口部より下部の傾斜した側壁
    に対して燃料が噴射されると共に、噴射圧力が最大とな
    る時期にはピストンの下降に伴い上端開口部に対して燃
    料が噴射されるように構成されたことを特徴とする直接
    噴射式ディーゼル機関。
  2. 【請求項2】 ピストン上面の上端開口部の周囲に浅い
    凹部を設けることにより、燃焼室の上端開口部からピス
    トン上面にかけて滑らかに連続する薄い燃焼空間を形成
    した請求項1記載の直接噴射式ディーゼル機関。
  3. 【請求項3】 上端開口部の噴射燃料の中心が当たる部
    分をノズル方向に突出させた請求項1記載の直接噴射式
    ディーゼル機関。
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