JP2916188B2 - 物質設計支援システム - Google Patents

物質設計支援システム

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JP2916188B2 JP2002544A JP254490A JP2916188B2 JP 2916188 B2 JP2916188 B2 JP 2916188B2 JP 2002544 A JP2002544 A JP 2002544A JP 254490 A JP254490 A JP 254490A JP 2916188 B2 JP2916188 B2 JP 2916188B2
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Description

【発明の詳細な説明】 [発明の目的] (産業上の利用分野) 本発明は工業的に有用な物質を合成するに先立って、
実験することなしに計算機によってそれを探索しそうし
た物質の性質を理論的に予測する『物質設計』に関する
ものであり、とくに物質の微視的構造に着目しながらそ
の安定性を理論的に論じる設計手段を、計算機シミュレ
ーションの立場から支援するものであって、先端デバイ
ス分野に於ける新物質・新材料の開発に主に利用され
る。
(従来の技術) その利用分野に応じて物質を合成していくことは『工
学』の基本的な目的の一つであり、その方法論として化
学や物理学は「工学」に対して大きな貢献をしてきた。
この結果として生まれたものが基本的に私達の生活を支
えている。
様々な要求に応じて物質を合成するには、いかような
要求にも対応し切れる合成技術と、出来上がったものが
本当に要求通りになっているか否か、なっていない場合
は何故なっていないのかを知ることができる評価手段と
が必要である。しかし、必要な物質を合成して利用する
場合、要求される項目として原子がどこにどう並んでい
てという微視的な要件であることはまず無く、通常は電
気伝導度がこれこれの配線材料とか、融点がこれこれの
耐熱材料とかいった場合がほとんどである。このために
要求される物性を実現するにはどういう種類の原子をど
ういう順番に並べれば良いかを知る術が必要である。こ
の様なことは本質的に実験することができない。実験は
自然界の中で実現される場合しか起こし得ないのである
から、試しに原子をこういう配置で置いてもみるという
わけにはいかない。したがって、ミクロな構造とマクロ
な物性とを実験することなしに定量的かつ非経験的に結
び付ける必要がある。近年、物性理論も大変発達し、様
々な物理量を非経済的に予測することが出来るようにな
りつつある。そしてなによりもスーパーコンピュータの
飛躍的な発展が膨大な量の数値計算を可能として、理論
的な予測を定量的なものとすることに一部成功しだし、
実験との直接的な比較もおこなわれている。この様な機
運の中で、『物質設計』ないし『物質設計法』が脚光を
浴びている。
『物質設計』は、半導体デバイスの設計のように電子
計算機上に構築されたCADの力を借りてシミュレーショ
ンを繰り返しながら物質を設計し、要求仕様通りの特性
が得られた段階でこれを現実に合成するものである。原
理的にはこれを行うのは難しいことではない。例えば多
くの物性はその物質の電子の基底状態が分かればそれか
ら予測することが可能である。したがって電子状態を非
経験的に計算する必要がある。物質の電子状態を記述す
る基本方程式はすでに分かっているので、これを与えら
れた境界条件を満足するように数値的に解けば良い。境
界条件は通常、原子の配置を決めれば一対一で決まるも
のである。原子の位置が実験で決まる場合はそれを使っ
ても良い。系の全エネルギーの計算から非経験的にその
系の安定状態を探索することで理論的に決めることも出
来る。それは自然界に存在するものは温度の効果を考え
なければその全エネルギーが最小になる場合のみが存在
を許されるからである。このためにこの様なCADが構築
されていれば、固体物理に関する深い知識と経験がなく
ても比較的容易に物質設計を行うことが出来る。しか
し、このCADが要求する数値計算量は莫大であって、近
未来のスーパーコンピュータをもってしてもこれを実時
間の内に行うことは不可能であろう。また、同時に半導
体デバイスの設計もそうであるが、シミュレーションを
流すこと自体は確かに素人でも出来るが、この結果を解
析してここから所望の特性を得ることはどのパラメータ
をどう変えればいいか、あるいはそもそもどういう状態
のシミュレーションを行うかは、その対象に対する深い
理解と知識がなければ容易には出来ない。つまり、いか
に優れたCADを使用しても設計者の設計対象に関する優
れたセンスなしには良いものは設計できないものであ
る。その意味で、CADはあくまでも支援システムなので
ある。CADは道具であるから、真にエキスパートなら並
のCADを使用しても大変優れた設計を行うことができ
る。物質設計支援システムも同じであって、ある程度の
経験者が使用することを前提にすればこのためのCADの
構成も簡単になり、計算量も減り、現在の電子計算機を
ベースとしても実現出来る。
分子計算において最も重要なことはその分子構造であ
る。したがって合成化学者は常に分子構造を念頭に置き
ながら、合成プロセスを設計し実験する。単純な構造を
持つ場合はともかく、複雑な構造の場合は経験者といえ
ども分子模型を使って分子構造を視覚化することが重要
になってくる。現在市販されている分子模型は相対的な
原子間距離やイオン半径、ファンデァワールス半径を考
慮して作られているので、これで該当する分子を作って
みると、その分子のどこに隙間があるかとか、反応性に
富む官能基がどこにあるかなどが直ぐに分かる。最近で
はコンピュータグラフィックスを使ってCRT上に分子を
表示させ、いろいろな角度から見たり、あるいは複雑な
分子の場合は分子の隙間を視点としていわば分子の内側
を見ることもできるし、DNAのような極端に複雑な分子
の場合はこれを実体模型として作成することは困難であ
るが、コンピュータフラフィックスによれば原子の座標
さえ入力すれば瞬時に表示することができる。しかしコ
ンピュータグラフィックスによるものも分子模型という
範疇に含めるにしても、現在ある分子模型はどれも表示
するだけで、それだけでは構造の安定性を知ることは出
来ない。ボール・スティックモデルでは原子に相当する
ボール部に結合角に対応した角度でスティックが挿せる
ように穴が開いており、スティックはある程度の曲げに
耐えられるようになっているので、スティックの曲り具
合でこの分子構造の安定度が分からないでもないが、こ
れは最近の分子科学の精度から言えば余りにも粗い見積
りしか与えない。また、実体モデルでは任意の原子を一
個取り除いてみるなどと言うことはかなり面倒な作業で
ある。もちろんコンピュータグラフィックスを使えばこ
れは簡単に表示できるものの、一個の原子を取り除いた
影響、固体で言えば点欠陥の影響を簡単に見積もること
は出来ない。一方、物質に関するある程度の知識のある
設計者にとっては発生した点欠陥が安定した時のその周
辺の微視的構造からこれが様々な物性にどの様な影響を
与えるか、予測することができる。例えば2個の点欠陥
を独立に発生させてこれが集まる傾向を示せば、このこ
とから、多数の点欠陥の導入はボイドの発生を引き起こ
し、ひいてはクラックの原因になるだろうと予想され
る。さらに点欠陥近傍の緩和過程が局所的な対称性を壊
すならば、電子論の知識を使って吸収スペクトルの変化
を定性的に予測することができる。この様な事はもちろ
ん非経験的に計算によって詰めることも出来るがそこま
でしなくても分かるのである。
自然界にはエネルギー的に安定なものしか定常的には
存在しない。従って、安定な原子配置を知ることは物質
設計において最も基本的なことである。原子の配置が単
純であるうちは物理的・化学的な常識でその配置は予想
されるが、系が複雑になってくると経験を積んだ研究者
でもその予測は困難である。この様な立場から、原子間
またはその集団間に働く力を計算してこの影響を考慮す
ることは重要であるにもかかわらず、現在のところの様
な事を実現する物質設計支援システムは存在しない。さ
らに、与えられた原子配置を初期配置としてこの系の電
子状態を非経験的に計算し、各原子にかかる力をこれか
ら求めて、最終的な安定配置を得ることも可能であり、
実際その様な計算も研究レベルでは行われているが、こ
れは物質設計支援という観点ではなく、且つ、これは先
に述べたように計算量が多すぎて現実的ではない。従っ
て、比較的計算量の少ない方法で原子間の力を考慮し、
対話処理的な作業を可能としながら構造模型を作成する
CADはまったく存在しない。しかし、こうしたCADに対す
る潜在的な要求は極めて高く、早々に出現するものと予
想される。
(発明が解決しようとする課題) 以上のようにこれまで、物質を構成する原子またはそ
の集団間に働く力を計算してその影響を考慮することを
可能とするような物質設計支援システムは存在しなかっ
た。
そこで本発明は、ある程度経験のある技術者・研究者
向けに原子間やそれらの集団間に働く力を考慮し、対話
処理的な作業を可能として、ビルディングブロック方式
で原子を設計者の思い通りに置いてみて、作業者が物質
設計をする際の助けとなるような物質設計支援システム
を提供することを目的とする。
[発明の構成] (課題を解決するための手段) 本発明に係る物質設計支援システムは、原子またはそ
の集団の種類と位置、さらに必要ならイオン半径、ファ
ンデァワールス半径、原子間ポテンシャルなどを対話処
理的あるいは非対話処理的に入力できる入力手段と、入
力された原子またはその集団に対する情報から定められ
た手順にしたがって原子またはその集団相互間に働く力
の方向および大きさを、原子間データベースを用いて求
める計算手段と、入力された原子またはその集団の配置
と共に計算により求まったこれらに働く力を視覚的に表
示する表示手段と、を備えたことを特徴とする。
本発明は好ましくは、前記の方法によって得られた力
に従って原子またはその集団を動かし、その平衡位置を
視覚的に表示できるようにし、また動いていく道筋の表
示も行い得るようにする。さらに入力手段を使用して、
この系に任意個の原子やその集団を移動、付加、削除し
たときに、これによる力の変化を計算して、この系全体
の安定配置を視覚的に表示できるようにする。
(作用) 入力手段は原子またはその集団の種類や位置を対話処
理的あるいは非対話処理的に入力することを可能とす
る。対話処理的な入力方法とは設計者が本システムと対
話処理をしながら、入力できる形のものを指しており、
これによって設計者の意図するところに沿って任意の原
子を並べたり、移動させたりすることが出来る。一方、
大量の入力データがある場合やあるいは既にデータベー
ス化されているものを入力データベースにするには非対
話処理的な入力手段によって一括処理するほうが効率的
なので、これが行えるえるように非対話処理的な入力手
段を備えておく。
計算手段はプログラム内蔵方式の電子計算機で構成さ
れ、入力された原子やその集団の種類や位置に応じてそ
れらの間に働く力の大きさを定められた手順にしたがっ
て計算する。定められた手段はもちろんこれに内蔵され
るプログラムに反映される。また、原子間に働く力の方
向および大きさを計算するにはデータベースが必要であ
ることも多く、このための外部記憶媒体を持つ必要もあ
るし、外部のデータベースステーションと接続するため
に通信機能を持っていことも必要である。これらは電子
計算機の周辺装置として作用する。
表示装置は入力された原子またはその集団の3次元的
な配置を写実的に表示し、またこれに掛かる力の方向と
大きさを視覚的に表示する。表示媒体はCRT、プラズマ
ディスプレイ、液晶パネルのいずれかで構成され、さら
にこれらの結果を出力するための出力手段も補助的にそ
なえることも出来る。すなわち印刷手段によって印刷す
ることや、ビデオ信号に変換してビデオレコーダで録画
することを可能とする。表示手段は対話処理的な入力手
段と密接に関係する。複雑な系を写実的に表示するには
隠れ面処理や陰影付け処理等、複雑な処理を必要とす
る。しかも表示している対象物を任意の方向に回した
り、拡大・縮小したり、またある面で対象物を輪切りに
してその断面を表示させたり、さらに外側の原子または
その集団を半透明にして内部の構成要素を表示させるこ
とも必要であるが、これらは実時間のうちに行われる必
要がある。この様な処理はユーザ側のプログラムにほと
んど依存しないので、ハードウエア的に高速処理するこ
とが可能である。このための画像処理専用の付加的なハ
ードウエアおよびそれを動かすためのソフトウエアもこ
の表示装置に含まれる。
(実施例) 第1図に本発明の一実施例のシステム構成を示す。本
システムは高速計算を可能とする電子計算機を使って構
成される。図において、1はキーボード、2はマウス、
3はそれ以外の非対話的入力装置、4はコンピュータ本
体、5は表示装置、6は本システムをデータベース・ス
テーション7や他のシステム8,9と接続する通信ライン
である。
キーボード1とマウス2は作業者が対話処理的に行う
入力装置を構成する。場合によってはライトペンやデジ
タイザーのような座標入力装置を補助的に備えていても
良い。少なくともキーボードとマウスは備えてなくては
ならない。これらは原子やその集団の位置を与えたり、
一度与えた原子やそれらの集団の座標を変えたり、新た
な構成要素の削除、追加が出来る。従って作業者は与え
るべき原子の種類を指定し、これをどこに置くかをこれ
らの入力装置によって行う。マウスでCRT上の対象物を
クリックしこれを所望のところにもってくるような手順
となる。もちろんCRTは二次元であるからこの上で原子
を配置しただけでは二次元的な配置となってしまうので
奥行き方向も指定できなければならない。このような指
定はなるべく容易に、且つ、対話処理的に出来なければ
ならない。指定される単位は個々の原子ばかりではな
い。メチル基、アセチル基、カルボキシル基と言った官
能基やベンゼン環のようなそれ自体極めて安定な原子団
は原子団ごと扱えたほうが便利であるので、例えばメチ
ル基を選択すれば一度の動作で−CH3を任意の所に置く
ことが出来るようにすべきである。この様な原子団はこ
の後のシミュレーションの最中ずっとその相対位置が固
定されているのではなく、固定されていてもいいし、あ
るいは固定されてなくて、例えば原子近傍の原子を取り
除いときにこの影響が原子団自身にどのくらいはね返る
のかを知りたいときは原子団の中までの動かすこともで
きるように、選択できなければならない。より複雑な対
象系向けには領域指定による原子団の選択指定も必要で
あろう。
非対話処理的な入力装置3は、キーボード以外の、カ
ード入力、紙テープその他の記憶媒体装置(MT、磁気記
憶装置、フロッピーディスクなど)を用いた入力装置で
ある。とくに表示する系の構成要素が大変多い複雑な
系、例えばDNA・RNAなどではその構造解析はコンピュー
タを駆使して行われる。回折実験のデータをコンピュー
タの中に入力し、パターンソン関数を計算して、実空間
での原子配列を推定する。したがって実験から得られる
原子の座標は既にコンピュータの中に入っているのでこ
れを本システムの入力に直接持ってくれば良い。このた
めにも非対話処理的な入力装置は必要である。
コンピュータ本体4では、定められた手順にしたがっ
て現在対象としている系を構成する原子または原子団に
掛かる力を計算する。表示装置5は、CRTやプラズマデ
ィスプレイ等で構成される。原子乃至集団を3次元的に
表示することが必要であるので、適当な方法で陰影付け
を行い、写実的にこれを表現することが肝要である。こ
のためには表示専用のハードウエアによって処理を高速
化することも考えられる。ここに描いた表示装置5には
そうした付加的なハードウエアも含まれるものとする。
任意の配置で原子間に働く力を計算することは原理的
には容易である。すなわち、与えられた配置で電子の基
底状態を求め、得られた自己無撞着な波動関数から電子
の空間分布すなわち電荷密度が分かる。この系の全エネ
ルギーは電荷密度の汎函数であり、電荷密度が基底状態
を正しく記述する波動函数から得られる真の電荷密度で
あるときには最小値をとる。全エネルギーを原子の位置
に関して微分すればそれは原子に掛かる力を与える。こ
うして与えられた配置に対して完全に非経験的に掛かる
力を求めることは可能である。が、これに要する計算量
は膨大であって、とても対話処理的な作業を許すもので
はない。もちろん、将来、コンピュータの処理速度が現
在と比較にならない程、高速化されれば、この様な直接
的な方法の実現性もでてくるかもしれないが、それは容
易なことでは実現されない。そこで、本実施例ではこの
計算量を著しく減らすために近似的な手法を導入する。
原子間に働く力というものは、本来、二体力に帰着さ
せ得ないものであるが、二体力が最も大きな寄与をし、
三体力、四体力となるにつれてその影響は小さくなる。
とくに化学結合に方向性が少ない場合(金属結合やイオ
ン結合物質の場合)、その原子間力は二体力ではほとん
ど完全に記述されてしまう。方向性が強い場合でも(共
有結合性の半導体や絶縁体の場合)、二体力と三体力で
十分記述でききることが知られている。そこであらかじ
め原子間力の関数形を仮定してこれに含まれるパラメー
タをべつの方法から定める。この関数形は物理的な要求
から大体決めることができるし、有利関数による一般的
な近似法(パデ近似)を使用すれば用いる関数形の特殊
性から逃れることができる。さて問題はこの数の中に含
まれるパラメータの決定法である。これはこれまで種々
の実験結果を再現するように決められている。すなわち
原子間力が与えられればその系での格子振動スペクトル
や分子振動スペクトルを計算することができるから、原
子間力にパラメータが含まれていればこれを含んだ形で
振動スペクトルが得られる。一方振動スペクトルはラマ
ン散乱、ブリルアン散乱や赤外吸収スペクトルなどから
実験的に求めることが出来る。したがってこれらが一致
するように原子間力のパラメータを決めようという方針
である。あるいは、とくに実験しにくい系であればあら
かじめ理論的にこれを計算しておくことができる。原子
間力はそれ程遠方までは達しない事が様々な実験から分
かっている。これはどんな場合であっても同じである。
今、AとBの二種類の原子からなる系を調べる支援シス
テムであるとしよう。さらに三体力まで考慮すればよい
とする。そうすると考えなくてはならない原子間力は、
二体力としてA−B,A−A,B−Bの三種類、三体力として
A−A−A,A−A−B,A−B−A,A−B−B,B−A−B,B−
B−Bの六種類である。これを求めるには適当なクラス
ターを作り、その電子状態を非経験的に計算してしま
う。もちろんすべての位置に関して計算するのは小さい
クラスターを使っても無理であるが、代表的な配置で幾
つか計算して残りの配置に関しては補間する。例えばA
−A間の原子間力の場合、A−A間の距離が任意の場合
すべてが本当は必要であるが、これをA−A間の距離が
1オングストロームの時、2オングストロームの時、3
オングストロームの時と1オングストローム刻みで計算
しておいて、1.3−オングストロームの時の力が必要に
なったら、この値を補間する。あるいはもっと計算を省
力化することも出来る。それは先に上げたように函数フ
ィッティングを行うことである。原子間力の関数形とし
て有理関数形を使えば、このフィッティングは非線形の
最小二乗法を使って容易に出来る。こうして非経験的な
計算をもとに原子間力を決めることができる。クラスタ
ーを使って非経験的に原子間力を計算しておくことは、
信頼性の高いシミュレーションを行う際には極めて重要
である。それに先の述べたように代表的な実験を再現で
きれば良いとすると、現実の系から比較的近い系しか扱
い得ないし、あるいはシミュレーションの最中に電荷移
動が大きくなったりするとまったく信頼性の無い結果し
か与えないであろう。こうした場合にも非経験的な計算
結果は正しく結果を与える。このように現実から離れた
系を精度良くシミュレーションするには非経験的な計算
が必要である。また、この様な計算は一度行っておきさ
えすればデータベースとして後で何度でも使用できるの
で、たとえ、ある系の原子間力を非経験的に計算するの
に幾分手間が掛っても、全体的に見れば大したことはな
い。しかも、このデータベースは基本的には本システム
とは切り離しておくことも可能であるから、本支援シス
テムが何セットか存在するのに対して、物質設計支援シ
ステム向けデータベースステーションが一ケ所存在すれ
ば良い。この様なシステムの構成法はデータベース重複
に起因する無駄が省けると同時に、データベースの管理
運用が効率良く行え、そのメンテナンスやヴァージョン
アップも容易に行い得るといった利点がある。
現時点のコンピュータの処理能力では、原子間力をそ
の瞬間瞬間ごとに計算してシミュレーションすることは
困難である。近い将来のスーパーコンピュータを使って
も同様であろうと思われるが、しかし可能となればもち
ろんこれを行って本システムを構成しても構わない。な
お、原子間力は先に指摘したように二体力、三体力でほ
とんど記述できてしまうので、その値はお互い独立に評
価できる。このためベクトルコンピュータや並列処理コ
ンピュータのアーキテクチャとの親和性は大変良い。こ
の様なハードウエアを用意すれば高速処理できる可能性
がある。この様なハードウエア乃至これに付随するソフ
トウエアは電子計算機の範疇であるからこれを使用して
本システムを構成しても、勿論良い。
さて上記の入力装置によって設計者の思い通りに原子
を並べたとしてこれが安定かどうは、何をおいても知り
たいことである。本システムではこれを、原子配置と共
に原子間力データベースから原子にかかる力を計算して
これを視覚的にCRT上に表示することで行う。これは各
原子上に掛かっている力の大きさに比例した長さを持ち
掛かっている力の方向を向いた矢印でベクトル的に表示
するのが最も理解しやすい。もちろん、ある一定以上の
力が加わっている事を示す矢印は矢印と色を変えてさら
に判別し易くする等、カラーグラフイックスを使えばい
ろいろと変形例はあり得る。
具体的にいえば、シリコンの上に金属の薄膜をつけ
て、電気伝導度の改善を試みるときに、シリコン上に薄
膜成長させる具体的なプロセスを探すことは重要である
が、それよりもその金属が本当に安定にシリコンの上に
乗るのかという問題に対する答えを知るほうが重要であ
る。さもなくば自然界が存在を許さないものを求め続け
てしまう危険性に陥ってしまうからである。本支援シス
テムではこれが効率的に行える。このような時には、ま
ず基板となるシリコンの表面を入力装置で入れる。理想
的なシリコンの表面を計算機の中にいれるのは非対話処
理的に入れたほうが容易であろう。この後、今ターゲッ
トにしている金属を一層だけ置いてみて力を表示させ
る。通常、表面や界面では構成原子の位置が理想的なと
ころからずれ、格子緩和や構造の再構成がみられる。こ
れがお互いの母相の結晶構造と相入れないとここに大き
な内部応力が発生し、その後の熱工程などでクラックや
剥離の原因となる。したがってここで余計な力が働かな
いものをうまく配置することが安定は金属薄膜形成には
欠かせない。一層つけてうまくいったら二層目をつけて
みる、次に三層目をといった具合に少しずつ成長させて
いけば成長がうまくいかなくて破錠が生ずるときにもど
こで破錠が生じるかが分かる。この様な物質設計には対
話処理的な作業が欠かせないので本システムのような支
援システムが必要である。さらに設計者が考えた配置で
は力が掛かるので、力の掛からない位置、すなわち平衡
位置を計算しこれを表示する。これには現在の配置で掛
かっている力が分っているので力の方向に、微少量、原
子を動かしてみてまた力を計算し、次にその力に応じて
原子をまた微少移動させると行ったことを、原子に力が
働かなくなるまで行う。これに要する計算量は大したも
のではない。この原子の動く道筋は、当然、視覚的にし
かも実時間でCRT上に表現されなければならない。これ
によって付着させた原子がどこに安定していくかが分か
るから、例えばCVDプロセスの細部にわたる検討が可能
となるであろう。
第2図は、以上のべた本システムでの処理フローの一
例である。また第3図は、CRT表示装置5上の表示の一
例である。第3図では、シクロヘプタジエンからCH2
を一つ取り除いた分子の例を示している。すなわち、11
が炭素原子、12が水素原子、13がこれらの原子間結合を
模式的に示す棒であり、矢印14が各原子に掛かる力(向
きが力の方向,長さが力の大きさ)を示している。
対象とする系が極端に複雑な場合、個々の原子を動か
したりあるいはどの原子がどの位の力を受けているのか
を知ることよりも、まとまった集団がどうなのかを知り
たいことの方が多い。とくに蛋白質工学では個々のアミ
ノ酸はそれ自体としてはかなり構造的に安定であるのに
対して、これを繋いでいる部分は軟らかく、全体として
無機物質より柔らかな構造をもっている。しかも蛋白質
の場合アミノ酸配列によってその蛋白質がもっている反
応性が決まってしまうので、相対的な原子集団の配置
(コンフォーメーション)は極めて重要な問題である。
安定な蛋白質は反応性に富む官能基をもっていてもこれ
を蛋白質分子の内側にもってくるようにして反応性が出
ないようにしていることが多い。これをちょっと変えた
ら蛋白質分子がどう変わるかは、蛋白質を工業的に利用
していく上で重要な問題である。この様な場合は原子個
々に掛かる力やあるいはその安定な位置はさして問題で
なく、個々のアミノ酸がその集団としてどこに落ち着こ
うとしているのかが重要である。この様な場合は任意の
原子集団を塊として扱い、この間に働く力だけを考えた
方が設計者にとって理解しやすい結果を与える。この結
果を参考にしながら、設計者はそれぞれの物理的・化学
的知識とこれまでの経験に照らして、最適な物質の設計
が行えるのである。
[発明の効果] 本発明の物質設計支援システムによれば、与えられた
配置の原子またはその集団の視覚的な表示とそれにかか
る力を計算して表示することにより、基本的には与えら
れた系の安定性と最終的な安定配置を容易に理解するこ
とが可能である。さらにある程度の物質に関する知識と
経験を持ち合わせた物質設計に携わる設計者(研究者・
技術者)であれば、この様に表示された情報からその物
理的・化学的知識を使って物性をある程度予想し、また
新たな物質を開発する際の指針をこれから得ることがで
きる。したがって本システムは新物質・新材料の研究・
開発を効率的に行うことを支援できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の物質設計支援システムの構成を示す
図、 第2図はそのシステムの動作を示す流れ図、 第3図は同じく表示例を示す図である。 1…キーボード、2…マウス、3…非対話処理的作業に
適した入力装置、3…コンピュータ本体、5…表示装
置、6…通信ライン、7…データベース、8,9…他のシ
ステム、11…炭素原子、12…水素原子、13…原子間結合
棒、14…力。

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】原子またはその集団の種類および位置を入
    力する手段と、 この入力手段により入力された原子またはその集団の相
    互間に働く力の方向および大きさを原子間力データベー
    スを用いて求める計算手段と、 前記入力手段により入力された原子またはその集団の配
    置と共に、前記計算手段により求まった力の方向および
    大きさを表示する表示手段と、 を有することを特徴とする物質設計支援システム。
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