JP2898287B2 - ポリカチオン性バッファーおよびそれを用いた核酸のゲル電気泳動法 - Google Patents

ポリカチオン性バッファーおよびそれを用いた核酸のゲル電気泳動法

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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は一般に、核酸の高分解ゲル電気泳動のための
ポリカチオン性バッファーに関する。本発明はさらに、
L−ヒスチジンバッファーを用いた、長さが約2〜70ヌ
クレオチドのオリゴヌクレオチドからなる核酸の高分解
ポリアクリルアミドゲル電気泳動法に関する。
(従来の技術および発明が解決しようとする課題) 変性条件下でのポリアクリルアミドゲル電気泳動は、
核酸の分離法として最も広く用いられている方法の一つ
である。この方法は核酸の混合物を分析するとともに調
製用に核酸を精製するために用いられる。なお本明細書
において用いる「核酸」なる語には、一本鎖および二本
鎖のDNAおよびRNAの両方が含まれる。
核酸の電気泳動バッファーとして一般に広く用いられ
ているものはピーコック(Peacook,A)およびディング
マン(Dingman,C.W.)によって記載されている(ピーコ
ックおよびディングマンの「モレキュラー・ウエイト・
エスティメーション・アンド・セパレーション・オブ・
リボニュークレイック・アシッド・バイ・エレクトロフ
ォレシス・イン・アガロース−アクリルアミド・コンポ
ジット・ゲルズ(Molecular Weight Estimation and Se
paration of Ribonucleic Acid by Electrophoresis in
Agarose−Acrylamide Composite Gels)」、バイオケ
ミストリー、7:668〜674(1968)参照)。89mMトリス−
ホウ酸および2mM EDTA(pH8.3)からなるこのバッファ
ーはDNAまたはRNAの充分な分離をもたらすものである
が、その使用に際して不都合がある。たとえば、このバ
ッファーが比較的高い伝導率を有しているため全体の分
離工程が時間のかかるものとなり、さらにこのトリス−
ホウ酸バッファーを用いて得られたバンド間の分離は理
論的に可能な最大限の分離よりも小さいものである。し
たがって、ゲル電気泳動で核酸の分離および分離がよく
なるようなバッファーが望まれている。
核酸の電気泳動分離を開示したものではないが、イソ
ロイシン、アラニン、バリン、ヒスチジン、トレオニン
およびセリンを含む幾つかのアミン酸の一種によるグリ
シンの置換を、二種のバッファー、すなわち上部タンク
のバッファーと下部タンクのバッファー(上部タンクの
バッファーは下部タンクのバッファーよりも高いpH値を
有する)を用いた不連続バッファーシステム中で行うこ
とによるヘモグロビンの分離法がパーキンソン(Parkin
son)らのAnal.Biochem.,117:6〜11(1981)に開示され
ている。192mMの濃度でのアミノ酸の置換は(1)ゲル
のランニングpHを変え、(2)ムービングフロントの伝
播速度を変える、ためであると言及されており、前者は
タンパク質の絶対的な移動度を変えるものであり、後者
は相対的な移動度を変えるものである。移動距離および
分離の程度は、上記各アミノ酸により最大のものから順
に以下の序列で変わると報告されている。L−イソロイ
シン>DL−アラニン>L−アラニン>DL−バリン>グリ
シン>L−ヒスチジン>DL−トレオニン>L−セリン (課題を解決するための手段) 上記課題を解決すべく本発明は、核酸の分離および分
解能を高めるためのポリカチオン性バッファーを提供す
るものである。とりわけ本発明は、数個から70個のヌク
レオチドの長さである核酸のゲル電気泳動のための、実
質的にヒスチジンからなるバッファーを提供するもので
ある。バッファーはヒスチジンであるのが好ましい。ヒ
スチジン以外の他のポリカチオン性バッファーとしては
スペルミジン、およびエチレンジアミンが挙げられる。
これらの本発明によるポリカチオン性バッファーは分析
用および調製用の両目的に用いることができ、核酸の分
離および分解の両方においてほぼ2倍の改良が得られる
ものである。さらにこれら本発明のポリカチオン性バッ
ファーを用いることによりゲル電気泳動時間が約3倍短
縮されるが、これはバッファーの伝導度が低くなったこ
とによるものである。
(発明の構成および効果) 以下に本発明をさらに詳しく説明する。
電気泳動ゲルの三次元ネットワーク中におけるDNA分
子の移動には爬行メカニズム(reptation mechanism)
(爬虫類様の動き)が関与していると示唆されてきてい
る(ドゥゲン(deGennes,P.G.)らの「スケーリング・
コンセプツ・オブ・ポリマー・フィジックス(Scaling
Concepts of Polymer Physics)」(ニュー・ヨーク、
コーネル大学出版部)、223〜231頁(1979)参照)。ゲ
ル中のDNAの電気泳動移動度とDNAの長さとの関係は次の
式で与えられる。
上記式中、μは電気泳動移動度、λはDNAの長さ、α
は主としてバッファーとその濃度に依存する定数、Cは
ゲル中の架橋度と他の実験因子により変化する乗法定数
(multiplicative constant)をそれぞれ表す(ラーマ
ン(Lerman,L.S.)およびフリッシュ(Frish,H.L.)の
「ファイ・ダズ・ズィ・エレクトロフォレティック・モ
ービリティー・オブ・DNA・イン・ゲルズ・ベアリー・
ウィズ・ザ・レンクス・オブ・ザ・モレキュール?(Wh
y does the electrophoretic mobility of DNA in gels
vary with the length of the molecules?)」,バイ
オポリマーズ、21:995〜997頁(1982)参照)。
理想的なガウス鎖(Gaussian chain)のためには指数
のαは理論的には1である。しかしながら、典型的なバ
ッファーでは実験的に得られるαの値は1よりも小さ
い。DNAの長さの対数に対して移動距離の対数をプロッ
トすると直線が得られ、その傾きはαに等しい。傾きα
は分離の度合いを測定するものさしとなる。異なるα値
を有するがDNAがゲルの上部からほぼ同じ距離だけ移動
した2つのゲルを比較すると、隣接するバンド間の間隔
はαに比例する。したがって、最大の分解能を得るため
にはα値が高いことを特徴とするゲルを用いることが望
ましいことになる。ただしバンドの半幅は大きくなって
はならず、それによって尖鋭さが失われることになるか
らである。
傾きαのバッファー濃度およびゲル組成に対する依存
は複雑であり、ゲル、バッファー、および考慮している
DNAにより変化する。一般にゲルおよびバッファー組成
を変えることによる影響は信頼性をもって予測できるも
のではなく、実験的に決定しなければならないものであ
る。
本発明者らの研究の結果、分析用および調製用の両目
的のための70ヌクレオチドよりも短い長さのオリゴヌク
レオチドの電気泳動に用いるバッファー中に、L−ヒス
チジンを単一の溶質として用いることができることがわ
かった。本発明のバッファーによるDNAの分解能の改良
度は、バンド間の間隔とバンドの半幅との比として約2
倍であった。分解能が改良されたことに加えて、ヒスチ
ジンゲルにより電気泳動時間が約3倍短縮されたが、こ
れは50mM L−ヒスチジンの低い伝導度によるものであ
る。
つぎに本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明す
るが、本発明はこれらに限られるものではない。
実施例1 (A)オリゴヌクレオチドマーカーの調製 長さが12〜48ヌクレオチドの範囲の合成オリゴヌクレ
オチドをアメリカン・バイオネティックス(American B
ionetics)、エメリービル、カリフォルニアから得、そ
の製造説明書に従って放射性ラベルで標識した。またオ
リゴヌクレオチドの別のセットを、M13ファージ中でク
ローン化したC5a遺伝子(マンデッキ(Mandecki,W.)、
モリソン(Mollison,K.W.)、ボリング(Bolling,T.
J.)、パウエル(Powell,B.S.)、カーター(Carter,G.
W.)およびフォックス(Fox,J.L.)の「ケミカル・シン
セシス・オブ・ア・ジーン・エンコーディング・ザ・ヒ
ューマン・コンプリメント・フラグメント・C5a・アン
ド・イッツ・イクスプレッション・イン・エシェリキア
・コリ(Chemical Synthesis of a Gene Encoding the
Human Complement Fragment C5a and its expression i
n Escherichia coli)」、Proc.Nat'l.Acad.Sci.,米
国、82:3543〜3547(1985)参照)を鋳型として用い、
4つのDNAシークエンシング反応(スミス(Smith,A.J.
H.)の「メソッズ・イン・エンジモロジー(Methods in
Enzymology)」、65、パートI;グロスマン(L.Grossma
n)およびモルダブ(K.Moldave)編、ニューヨーク、ア
カデミー・プレス、560〜580頁(1980)参照)により得
た。
(B)ヒスチジンゲルの調製 12%アクリルアミド、50mM L−ヒスチジン変性ゲル
(最終容積100ml)を調製するために、L−ヒスチジン
(0.77g、シグマ社、セント・ルイス、ミズーリ)、40
%アクリルアミドおよび2%N,N′−メチレンビスアク
リルアミド(BIS)を含有する脱イオン化水(30ml)、
尿素(42g)、10%ペルオキソ二硫酸アンモニウム(0.6
ml)および水(36ml)を混合し、溶解し、脱気した。N,
N,N′,N′−テトラメチレンジアミン(TEMED)(30μ
)を加えた後、ゲルを注ぎ、約1時間重合した。典型
的には垂直の200mm×200mm×1.5mmのスラブゲルを注ぐ
が、大きさは特定の目的に従って容易に変えることがで
きる。タンクバッファーはその等電点(pH7.6)で50mM
L−ヒスチジン(1当たり7.7g)である。pHを調節
する必要はない。ゲルからペルオキソ二硫酸アンモニウ
ムイオンを除くために、ゲルを約1時間前以て電気泳動
にかけておく。前電気泳動の完了は電流が安定化するこ
とによって示される。
実施例2 (試料の調製およびゲルランニング) 50%ホルムアミドか、必要に応じてそれに適当な染料
を加えたもの中のDNAを100℃で3分間加熱し、ついで氷
上で冷却した。ついで試料を実施例1の前電気泳動した
ゲル上に負荷した。ヒスチジンバッファーの伝導度が低
いため、電気泳動のあいだ中、標準的なゲルバッファー
を用いた場合に必要な電圧よりも3倍まで高い電圧をか
けることができた。しかし、ゲルの温度は約40℃を越え
ることのないように保持した。もしゲルの温度が40℃を
越えるようなことがあると顕著な褐色反応が観察され、
これはUVを暗くすることによってDNAバンドの視覚化を
不明確にするであろう。この褐色反応は、しかしながら
オートラジオグラフィーによる視覚化を不明確にするも
のではない。50mM L−ヒスチジンを含有する12%アク
リルアミドゲル上で、10残基の長さ(10−mer)のオリ
ゴヌクレオチドではブロムフェノールブルーで、30−me
rのオリゴヌクレオチドではキシレンシアノールで行っ
た。
実施例3 (得られた分解能の比較) 本実施例では、20%ポリアクリルアミドゲルを用いた
他は実施例1に記載の50mMヒスチジンバッファーを用い
て得られたオリゴヌクレオチドの分解能が、標準トリス
−ホウ酸バッファーを用いて得られた分解能に比べては
るかに優れていることが示された。これらの結果は第1
(a)〜(d)図に示した。マーカーとして用いた15個
のオリゴヌクレオチドの長さは48、44、40、36、32、3
0、28、26、24、22、20、18、16、14および12であっ
た。第1(a)図は20%アクリルアミドゲル、89mMトリ
ス−ホウ酸(pH8.3)ゲル;第1(b)図は20%アクリ
ルアミド、50mMヒスチジンゲル(略号のORIはゲルの上
部を表す);第1(c)図および第1(d)図は第1
(a)図および第1(b)図の光学濃度計スキャンをそ
れぞれ表す。
両方のゲル上で比較できる程移動したバンド、すなわ
ちバンド1とバンド2との間の間隔は、ヒスチジンゲル
上のものの方が標準トリス−ホウ酸ゲル上のものよりも
2倍大きかった。オリゴヌクレオチドの長さの対数に対
する移動距離の対数のプロットを第2図に示す。傾きα
の数値は各線に対し図中に示してある。バッファーの種
類およびアクリルアミドの濃度はそれぞれ以下の通りで
ある。
A:89mMトリスホウ酸、2mM EDTA20%アクリルアミド B:100mMヒスチジン、15%アクリルアミド C:50mMヒスチジン、12%アクリルアミド D:20mMヒスチジン、12%アクリルアミド E:10mMヒスチジン、12%アクリルアミド 傾きαを計算したところ、20から150ヌクレオチドの
範囲にわたってトリス−ホウ酸ゲルについてはαは0.7
2、ヒスチジンゲルCについてはαは1.3であった。
実施例4 (ヒスチジンバッファー濃度およびゲル濃度の最適化) 本実施例は、バンドの最大の分離と分解能を得るため
のヒスチジンバッファーとゲルとの両濃度の最適化に関
する。種々の濃度(10mM〜100mM)のヒスチジンバッフ
ァーを用いて多数のゲルについて行い、傾きαを計算し
第3図に示すようにプロットした。ポリアクリルアミド
ゲルの架橋%は12%(実線)および15%(破線)であっ
た。すべてのヒスチジンバッファー濃度について、また
アクリルアミドゲルの両方の架橋%において1を越える
傾きαが得られた。
第4図は、L−ヒスチジンの濃度を一定(50mM)に保
ちながらポリアクリルアミドの%架橋濃度を変化させた
ときに得られるα値を示す。調べたすべてのポリアクリ
ルアミド濃度において、傾きαは標準トリスホウ酸ゲル
について一般に得られる値を上回っていた。
ゲル中のポリアクリルアミドの濃度を変化させL−ヒ
スチジンの濃度を一定に保ったときには、傾きαは15%
ポリアクリルアミドで最大になるものと思われる。しか
しながら、8%や12%のような低いポリアクリルアミド
濃度も電気泳動時間を短縮するために用いるのが好まし
い。ヒスチジン濃度を変化させ%ポリアクリルアミドを
12%の一定に保ったときには、αは20mMヒスチジンまた
はそれ以下で最大になるものと思われる(第3図)。に
もかかわらず、50mMより小さいヒスチジン濃度を用いる
としばしばゲル加工物(artifacts)が生じるので50mM
は好ましいバッファー濃度である。
実施例5 (バンドの半幅) 本実施例では、ヒスチジンゲルを用いて優れた分離が
得られ、しかも得られたDNAバンドはトリス−ホウ酸ゲ
ル上におけるのと同じ位シャープであることが示され
る。バンドの尖鋭さはその半幅により評価され、またゲ
ルの分解能は傾きαとバンド幅との比として定量的に記
載することができる。相対的なバンドの尖鋭さの意味の
ある比較は、同じ距離を移動し、かつ同一のオリゴヌク
レオチドの長さを有するバンドを比較することによって
行うことができる。
第5図には、(a)89mMトリス−ホウ酸、2mM EDTA
バッファー、および(b)50mM L−ヒスチジンバッフ
ァーをそれぞれ含有するゲルを横に並べてそれらのオー
トラジオグラムの断片を示してある。アクリルアミド濃
度はそれぞれ8%(a)および12%(b)である。オリ
ゴヌクレオチドの長さは図に示すとおりである。両ゲル
において31ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチドは
同じ絶対距離、すなわち360mmを移動した。
第1図(c)、(d)、および第5図から、10〜50ヌ
クレオチドの長さのオリゴヌクレオチドに対応するDNA
バンドの半幅はトリス−ホウ酸ゲルおよびヒスチジンゲ
ルの両方においてほぼ同じであることがスキャンからの
直接測定により推定される。ヒスチジンゲルにおいてDN
Aバンド間の間隔が2倍増加するとすれば、ヒスチジン
ゲルにおける分解能は標準トリス−ホウ酸ゲルにおいて
得られるものよりも実際に2倍よくなったことになる。
70ヌクレオチド以上のDNA長さにおいてはヒスチジン
ゲルでのバンドの尖鋭さは低下している。シークエンシ
ングタイプ(sequencing type)のゲルでの100ヌクレオ
チド以上の長さに対応するバンドを同定することは困難
であり、150ヌクレオチドよりも長いDNA分子に対応する
バンドでは不鮮明になる。
このような効果の主な原因は、特定のバッファー中に
おける特定の長さのDNA分子についてのDNA−対イオン複
合体の電荷の不均質性であると思われる。バッファー中
におけるDNA分子の電荷は、対イオンの凝縮のため形式
電荷(リン酸基の数)よりも小さい。補正されない電荷
はNa+水溶液環境下では24%、Mg2+環境下では12%と小
さい(マニング(Manning,G.C.)の「ザ・モレキュラー
・シオリー・オブ・ポリエレクトロライト・ソルーショ
ンズ・ウイズ・アプリケーションズ・トゥ・ザ・エレク
トロスタティック・プロパティーズ・オブ・ポリヌクレ
オチド(The Molecular Theory of the Electrolyte So
lutions with Applications to the Electrostatic Pro
perties of Polypeptides)」、Quart.Rev.Biophys.11:
179〜246(1978)参照)。補正されない電荷はイオン強
度に弱く依存し、DNA分子上に働く静電力を決定し、ゲ
ル内における同分子の移動速度を決定する。ゲル上のDN
Aバンドの半幅は、バッファー中における特定の長さのD
NA分子上の補正されない電荷の変わりやすさの程度によ
り決定することができるであろう。バッファーの組成が
この変わりやすさにどう影響するかは正確にはわかって
いない。
実施例6 (他のポリカチオン性バッファー) DNAゲルの分解能を高めるためのバッファー成分とし
て他のポリカチオン性化合物を試験した。ヒスチジン分
子はpH7.6では2つのイオン形のうちの1つを取るもの
と思われる。イミダゾール基のpKa値は6.0であるので、
溶液中のたいていのヒスチジン分子は双性イオン(NH3
+およびCOO-)であり正味の電荷を有さない。このこと
はヒスチジンバッファーの伝導度が低いことを説明して
いる。しかし分子の断片はプロトン化されたイミダゾー
ル基を有するであろう。このような分子−ポリカチオン
の部類がDNA分離能を高めるための決定因子である。実
際、5mMスペルミジンを89mMトリス−ホス酸バッファー
に加えると傾きαが0.7から1.3〜1.5に上昇する。エチ
レンジアミンでは傾きαはpH11で1.6から1.8の範囲であ
る。しかしながら、これらのバッファーの場合、両方と
も生成するDNAバンドがヒスチジンを用いた場合に得ら
れるものほど明確でないため、これらのバッファーはす
べての目的に有用なものではない。イミダゾールを含有
するバッファーからもまた同様の分解能の結果が得られ
る。それゆえヒスチジンが最も好ましいバッファーであ
るとしても、他のポリカチオン性バッファー、とりわけ
ポリアミン、ポリアミノ酸および脂肪族ポリアミンのよ
うな低い伝導度を有し電気泳動時間を短縮できるものも
またゲル上の核酸の分離能を高めることができる。
実施例7 50mM−ヒスチジンを含有するがペルオキソ二硫酸アン
モニウムを含有しないゲル溶液の伝導度は、89mMトリス
−ホウ酸バッファー(pH8.3)の伝導度の約1/10であ
る。このことの意味するところは、もしこれら2種類の
ゲルについて同じ温度、または同じ出力で電気泳動を行
ったとしたら、ヒスチジンゲルで行った場合にはトリス
−ホウ酸ゲルで行った場合に必要な時間の1/3しかかか
らないということであり、その理由は3倍高い電圧をか
けることができるからである。電気泳動時間を短縮する
ことができることは実験的に確かめられた。一層長く
(40cm)薄い(0.4mm)シークエンシングタイプのゲル
では許容電圧は5000ボルトにも達するか、またはそれを
上回るものであった。それゆえ、典型的な操作時間は3
時間から1時間に短縮されることになる。
上記実施例は、ポリアミン性バッファーを用いた場合
にDNAのゲル電気泳動の分解能が高められることを示す
ものである。好ましいポリカチオン性バッファーとして
はヒスチジン、スペルミジン、エチレンジアミンのよう
なポリアミンが挙げられる。さらにトリス−ホウ酸エチ
レンジアミン四酢酸をバッファー中に含有させてもよ
い。実質的にヒスチジンからなるバッファーを用いて、
数ヌクレオチド〜約70ヌクレオチドの長さの範囲の核酸
のゲル電気泳動の分解能が高められる。さらに好ましく
は、ヒスチジンバッファーの濃度が10mM〜100mMの範囲
であり、ポリアクリルアミドゲルの%架橋濃度が8〜20
%であり、バッファーの伝導度が20〜200mOhm-1である
のが好ましい。最も好ましくはヒスチジンバッファーの
濃度が50mMであり、ポリアクリルアミドゲルの%架橋濃
度が12%であり、バッファーの伝導度が100mOhm-1であ
るのが好ましい。これらに代えて種々の技術を適用する
ことによって、同様に用いることが可能な性質を有する
種々の材料を提供することもできる。また上述の操作手
順に種々変更を加えることも可能である。
以上、本発明を特定の方法および組成のもとに記載し
たが、本発明から当業者が考えられ得る種々の変更を加
えることができることはいうまでもない。たとえば種々
のポリカチオン性化合物が本発明のバッファーとして有
効であり、これら化合物の種々の濃度が有効であるであ
ろう。好ましいバッファーはヒスチジン、エチレンジア
ミンおよびスペルミジンであるが、ポリアミン、ポリア
ミノ酸、脂肪族ポリアミン、ポリヒスチジン、ヒスチジ
ン誘導体および類似化合物などのポリカチオン性バッフ
ァー、特に言及していないが低い伝導度を有する他のポ
リカチオン性バッファーや他の有効なバッファーまたは
これらバッファーの濃度を本発明の範囲から除外するも
のではない。
また核酸のゲル電気泳動分離において首尾よく用いら
れ、したがって同様に有効である限りにおいて、アガロ
ースやメチルセルロースなどのようなポリアクリルアミ
ドゲル以外の他のゲルもまた本発明の範囲に含まれるも
のである。
【図面の簡単な説明】
第1(a)図は従来技術により調製したゲルを用いて行
ったゲル電気泳動の結果を示す模式図、第1(b)図は
本発明によるゲルを用いて行ったゲル電気泳動の結果を
示す模式図、第1(c)図は第1(a)図のゲルの濃度
計スキャンを示すグラフ、第1(d)図は第1(b)図
のゲルの濃度計スキャンを示すグラフ、第2図は種々の
バッファーおよびポリアクリルアミド濃度を用いてゲル
電気泳動を行ったときの移動距離の対数のオリゴヌクレ
オチドの長さの対数に対する関係をプロットしたグラ
フ、第3図は2種の異なるポリアクリルアミド濃度を用
いたときに得られる傾きαのL−ヒスチジンバッファー
濃度に対する関係をプロットしたグラフ、第4図はL−
ヒスチジンバッファーの濃度を50mMの一定に保ちながら
ポリアクリルアミドの濃度を変化させたときに得られる
α値をプロットしたグラフ、第5図は(a)8%ポリア
クリルアミドゲル架橋でトリス−ホウ酸バッファーを用
い、または(b)12%ポリアクリルアミドゲル架橋で50
mMヒスチジンを用いてゲル電気泳動を行ったときのゲル
のオートラジオグラムの断片を示す模式図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭62−66153(JP,A) 特開 昭60−60549(JP,A) 米国特許4279724(US,A) 米国特許439440(US,A) ANALITICAL BIOCHE MISTRY,1981,117,p6−11 (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) G01N 27/447

Claims (11)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】10mM〜100mMの範囲の濃度のヒスチジンか
    らなることを特徴とする、長さが約2〜70ヌクレオチド
    のオリゴヌクレオチドからなる核酸のポリアクリルアミ
    ドゲル電気泳動のためのポリカチオン性バッファー。
  2. 【請求項2】実質的にヒスチジンの水溶液からなること
    を特徴とする、長さが約2〜70ヌクレオチドのオリゴヌ
    クレオチドからなる核酸のポリアクリルアミドゲル電気
    泳動のためのポリカチオン性バッファー。
  3. 【請求項3】前記ヒスチジンの濃度が10mM〜100mMであ
    る特許請求の範囲第(2)項記載のポリカチオン性バッ
    ファー。
  4. 【請求項4】前記ヒスチジンの濃度が50mMである特許請
    求の範囲第(2)項記載のポリカチオン性バッファー。
  5. 【請求項5】実質的にヒスチジンの水溶液、スペルミジ
    ンの水溶液およびエチレンジアミンの水溶液よりなる群
    から選ばれた水溶液からなることを特徴とする、長さが
    約2〜70ヌクレオチドのオリゴヌクレオチドからなる核
    酸のポリアクリルアミドゲル電気泳動のためのポリカチ
    オン性バッファー。
  6. 【請求項6】さらにトリスホウ酸塩を含む特許請求の範
    囲第(5)項記載のポリカチオン性バッファー。
  7. 【請求項7】さらにエチレンジアミン四酢酸を含む特許
    請求の範囲第(5)項記載のポリカチオン性バッファ
    ー。
  8. 【請求項8】(a)特許請求の範囲第(1)項ないし第
    (7)項のいずれか1つに記載のポリカチオン性バッフ
    ァーをポリアクリルアミドゲルに導入し、 (b)変性核酸の試料を該ゲル上に適用し、ついで (c)該変性核酸の試料がその構成成分に分離されるま
    で電動用電位差を該ゲルに流す、 ことを特徴とする、長さが約2〜70ヌクレオチドのオリ
    ゴヌクレオチドからなる核酸のポリアクリルアミドゲル
    電気泳動法。
  9. 【請求項9】前記ポリカチオン性バッファーが、ポリア
    ミン、ポリアミノ酸および脂肪族ポリアミンよりなる群
    から選ばれたものである特許請求の範囲第(8)項記載
    の方法。
  10. 【請求項10】ポリカチオン性バッファーを導入する前
    記工程(a)が、10mM〜100mMの範囲の濃度のヒスチジ
    ン水溶液を適用する工程を含む特許請求の範囲第(8)
    項記載の方法。
  11. 【請求項11】変性核酸の試料をゲル上に適用する前記
    工程(b)が、8%〜15%架橋の濃度のポリアクリルア
    ミドゲルを調製する工程を含む特許請求の範囲第(8)
    項記載の方法。
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