JP2585920B2 - 高性能摺動部材とその製造方法 - Google Patents

高性能摺動部材とその製造方法

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JP2585920B2 JP4103470A JP10347092A JP2585920B2 JP 2585920 B2 JP2585920 B2 JP 2585920B2 JP 4103470 A JP4103470 A JP 4103470A JP 10347092 A JP10347092 A JP 10347092A JP 2585920 B2 JP2585920 B2 JP 2585920B2
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田 一 隆 神
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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、トリバロイ(デロロー
ステライト社の商品名)として知られているモリブデ
ン、クロム、珪素を主要成分とするコバルト基若しくは
ニッケル基摺動面材料の被膜を利用した高性能摺動部材
及びそれを製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から、耐摩耗性、耐食性の要求され
る機械部品には、その耐摩耗性、耐食性を付与するため
の各種のコーティングを行っている例が多い。そのコー
ティング法には、通常、PVD、CVD、溶射などの様
々な方法が用いられている。しかるに、近年は、耐摩耗
性や耐食性の性能に対する要求が一層厳しくなっている
ため、その厳しい要求を満たす材料の開発が急務となっ
ている。
【0003】その要求を満たすものとして、最近、非常
に高い耐摩耗性、耐食性をもつトリバロイ(モリブデ
ン、クロムを主成分とするコバルト基若しくはニッケル
基摺動面材料)の被膜についての研究が行われている。
この被膜のコーティングには、プラズマ溶射や燃焼ガス
による溶射(デトネーション溶射、ジェットコート)等
の各種溶射方法が用いられているが、一般に、密着性が
良くて緻密な被膜の作成は困難である。また、被膜の硬
さが十分でないなどの問題があり、満足できる被膜は得
られていない。しかも、一番広く用いられているプラズ
マ溶射では、母材温度を1000℃以上に加熱する必要
があり、大型の部材に溶射を行いたいときに、母材加熱
が困難である。さらに、このプラズマ溶射による被膜
は、粉末が完全に溶解できないために、気孔率の大きな
被膜となることが避けられない。また、減圧プラズマ溶
射などにおいては、融点が高かったり溶融物の粘度、表
面張力が大きい場合、合金組成を制御することは困難で
ある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の技術的課題
は、トリバロイとして知られている非常に高い耐摩耗
性、耐食性を有する摺動面材料が、完全な溶融・凝固組
織を呈し、且つ母材との界面に合金化層が形成されて密
着性が改善された溶射層を形成する摺動部材を提供し、
さらに、上記摺動部材をレーザ・プラズマハイブリッド
溶射により容易に形成する方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段及び作用】上記課題を解決
するための本発明の高性能摺動部材は、重量比率で、C
r:8.5〜17.5%、Mo:28.5〜32.5%
及びSi:2.6〜3.4%を主要成分の中心値として
含むCo基若しくはNi基合金(トリバロイ)からなる
溶射材が、母材上に溶射されて耐摩耗性の溶射層が形成
された摺動部材において、減圧プラズマ溶射にレーザ照
射を併用したレーザ・プラズマハイブリッド溶射をする
ことにより、前記母材と溶射層との間の界面に、その母
材と溶射材との合金層が形成され、この合金層が、前記
母材表面と溶射層とが溶融した後、再凝固して、母材と
溶射層とが拡散した合金組織を呈することを特徴とする
ものである。 また、母材上に耐摩耗性の溶射層が形成
された上記高性能摺動部材を製造するための本発明の製
造方法は、前記トリバロイからなる溶射材を、母材上に
溶射して耐摩耗性の溶射層を形成する摺動部材の製造方
法において、母材上に前記溶射材の粉末を、減圧プラズ
マ溶射にレーザ照射を併用したレーザ・プラズマハイブ
リッド溶射により被着し、前記母材と溶射層との間の界
面に、前記母材表面と溶射層とが溶融した後、再凝固し
て、母材と溶射層とが拡散した組織の合金層を形成する
ことを特徴とするものである。
【0006】上記トリバロイの溶射に際しては、例え
ば、母材にプラズマ溶射のための溶射ガンを対向配置
し、母材上にトリバロイの粉末を定常的に供給すると同
時に、その母材を2次元的に移動させながら、母材表面
に垂直にプラズマ溶射を行い、且つ母材の表面に対して
傾斜した方向から上記溶射位置に高出力レーザビームを
照射すればよい。これにより、母材表面と溶射層とが溶
融した後、再凝固して、母材と溶射層とが拡散した組織
の合金層、即ち完全な溶融・凝固組織を呈する合金層を
形成することができる。
【0007】上記トリバロイは、非常に高い耐摩耗性、
耐食性をもっているが、前述したように、プラズマ溶射
等では、密着性の高い緻密な被膜は得られていない。し
かるに、上述した本発明の方法に基づいてレーザ・プラ
ズマハイブリッド溶射によりそれらの溶射被膜を作成す
れば、トリバロイの被着により、耐摩耗性、耐食性にお
いて極めて優れた摺動部材が得られるのは勿論である
が、さらに、次のような特徴のある高性能摺動部材を容
易に得ることができる。
【0008】即ち、母材表面にレーザ溶射を行うと、レ
ーザによる局所的な加熱により母材と被膜の界面に合金
層が形成され、減圧プラズマ溶射で形成した厚膜では充
分とはいえない被膜密着性を向上させると同時に、緻密
な溶射被膜を得ることができる。しかも、減圧プラズマ
溶射に上記レーザ照射を併用したレーザ・プラズマハイ
ブリッド溶射を行うと、上記レーザ溶射による特徴に加
えて、減圧プラズマ溶射で必然的に発生する被膜中の気
孔やスプラット等の欠陥を補い、レーザ照射による被膜
の溶解により緻密で均質な被膜にすることができる。
【0009】特に、本発明の溶射法では、母材を全体的
に加熱することなく、母材との界面での拡散反応をレー
ザ照射により自由に制御できるため、大型部材表面への
被膜形成にも簡単且つ容易に適用できる。しかも、被膜
を完全に溶解凝固したものとし、極めて緻密な被膜を得
ることができ、密着性の著しく大きな被膜の形成も容易
である。
【0010】この場合に、後述する実施例から明らかな
ように、レーザ・プラズマハイブリッド溶射により、密
着性が改善されると同時に、摩擦係数、摩耗量において
も改善される。また、レーザを用いた本発明の溶射法
は、溶射雰囲気に制限がない点でも有利なものである。
【0011】なお、トリバロイの溶射に際して、予
め、母材表面をアルミナショットした後、有機溶剤を用
いて超音波洗浄したり、トランスファーアークでスパッ
タリングし、あるいはその他の方法により、清浄な表面
としておくのが望ましい。
【0012】
【実施例】トリバロイを用いて、レーザ・プラズマハイ
ブリッド溶射法により母材上に被膜を形成し、その被膜
の性能について試験した結果を以下に示す。被膜の性能
は、組織観察、X線回折、往復摺動摩擦摩耗試験等によ
って確認した。
【0013】試験片としては、母材にSS41材(14
mm×17mm×70mm)を用い、その表面を清浄化
した後、17mm×70mmの面に、昭和キャボット製
の被膜形成用トリバロイ(T−400,700または8
00)の粉末(<40μm)を溶射した。トリバロイ
粉末の組成(wt%)は、表1の通りである。
【0014】
【表1】
【0015】溶射条件としては、試験片から250mm
の位置に溶射ガンを配置して、試験片を移動させながら
その表面に垂直にプラズマ溶射を行い、且つ試験片の表
面に対して傾斜した方向から上記溶射位置にレーザビー
ムを照射した。その他のプラズマ溶射条件は次の通りで
ある。 プラズマガス : Ar 45〜60psi 補助ガス : He 50〜120psi または H50psi キャリアガス : Ar 10〜20psi アーク電流/電圧 : 850A/39V,700A/37V 真空チャンバー内圧力: 〜50 Torr ガン・ワーク間距離: 250 mm
【0016】また、レーザ照射条件は次の通りである。 発振器 : 川崎重工業製安定共振型4kW級シングルモードCOレーザ 出力 : 実験条件により 2.0〜3.0 kW 照射角度 : 試験片表面に対して23゜傾斜 ビームスポット径:φ4〜7 mm
【0017】上述した条件により、4kW級COレー
ザを用いたレーザ・プラズマハイブリッド溶射により被
膜を形成し、また比較例としてプラズマ溶射のみにより
被膜を形成した。被膜を形成した試験片について断面組
織写真により観察した結果、プラズマ溶射のみの被膜中
には気孔が多く見られるのに対し、レーザ・プラズマハ
イブリッド溶射被膜では、気孔が殆ど消滅していた。こ
れは、ハイブリッド溶射の場合、レーザ照射により被膜
が溶融し、気孔が消滅したためと考えられる。
【0018】また、プラズマ溶射のみの場合には、母材
と被膜との間に明瞭な境界が見られることから、合金層
を形成していないと考えられるのに対し、ハイブリッド
溶射の試験片では母材と被膜の界面に溶融層が見られ、
従って、この部分には母材表面と溶射層とが溶融した
後、再凝固して、母材と溶射層とが拡散した組織の合金
が形成されていると考えられる。そして、ハイブリッ
ド溶射の試験片で被膜の密着性が向上しているのは、こ
の合金層が形成されているためと考えられる。
【0019】さらに、プラズマ溶射だけの場合(比較
例)と、4kW級COレーザを用いたレーザ・プラズ
マハイブリッド溶射による場合の試験片を作成して、硬
度、摩擦係数、摩耗量を測定し、それらを比較した。こ
の場合の試験片としては、前述の母材に表1の被膜形成
トリバロイの粉末を溶射した。
【0020】摩擦試験条件は、次の通りである。 試験機 : 往復動摩擦試験機 摩擦速度 : 600 spm (平均速度:1m/s) 試験時間 : 30 min 荷重 : 98N 相手材 : SUJ2ボール(φ7.9mm) 潤滑油 : SAE SF級エンジンオイル(50μl)
【0021】図1に、トリバロイを減圧プラズマした場
合とレーザ・プラズマハイブリッド溶射した場合の硬度
についての測定結果を比較して示している。この測定結
果によれば、何れの場合においても、レーザ・プラズマ
ハイブリッド溶射被膜の方が減圧プラズマ溶射のみによ
る被膜よりも高い硬度を示している。これは、レーザの
急速加熱、急速冷却の効果による組織の微細化及び固溶
強化のためと考えられる。
【0022】図2には、トリバロイを減圧プラズマ溶射
及びレーザ・プラズマハイブリッド溶射した場合の各被
膜の摩擦係数を、図3にはそれらの各被膜の摩耗量を示
している。被膜の摩擦係数、摩耗量を比較すると、一般
的に減圧プラズマのみのものよりもレーザ・プラズマハ
イブリッド溶射した場合の方が小さい値を示し、特に摩
耗量に関しては、著しく低い値を示している。これは、
レーザ・プラズマハイブリッド溶射した場合の方が前述
のように硬度が高くなっているためと考えられる。な
お、T−800のトリバロイを溶射した場合の摩擦係数
は、レーザ・プラズマハイブリッド溶射の場合の方が大
きい値を示しているが、この場合は絶対値自体が十分に
低いので、問題にはならない。
【0023】また、図4及び図5には、上記トリバロイ
のハイブリッド溶射による摺動面被膜のX線回折パター
ンをプラズマ溶射による被膜と比較して示している。こ
のX線回折による分析の結果によれば、被膜の合金組成
が異なり、つまり、レーザ・プラズマハイブリッド溶射
においては、金属間化合物等のピークが不鮮明となって
いる。このように、X線回折パターンがブロードになる
場合(アモルファス、微細な結晶、不完全な固溶体、準
安定な金属間化合物等の存在)は、すぐれたトライボロ
ジー特性を示す。
【0024】
【発明の効果】以上に詳述したように、本発明によれ
ば、トリバロイとして知られている非常に高い耐摩耗
性、耐食性を有する摺動面材料が、完全な溶融・凝固組
織を呈し、且つ母材との界面に合金化層が形成されて密
着性が改善された溶射層を形成する摺動部材を提供し、
さらに、上記摺動部材をレーザ・プラズマハイブリッド
溶射により容易に形成する方法を提供することができ、
これにより、緻密で、密着性、耐摩耗性、耐食性に優れ
トリバロイの溶射層を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法によって得られたトリバロイの被
膜及び比較例についての硬度の測定結果を示すグラフで
ある。
【図2】本発明の方法によって得られたトリバロイの被
膜及び比較例についての摩擦係数の測定結果を示すグラ
フである。
【図3】本発明の方法によって得られたトリバロイの被
膜及び比較例についての摩耗量の測定結果を示すグラフ
である。
【図4】本発明によって得られたトリバロイ(T−70
0)被膜のX線回折パターンを減圧プラズマ溶射被膜と
比較したグラフである。
【図5】同トリバロイ(T−800)被膜のX線回折パ
ターンを減圧プラズマ溶射被膜と比較したグラフであ
る。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C10M 103:04 125:04) C10N 10:12 10:16 30:06 40:02 50:08 70:00 (73)特許権者 000005197 株式会社不二越 富山県富山市不二越本町一丁目1番1号 (73)特許権者 000233321 日立精機株式会社 千葉県我孫子市我孫子1番地 (74)上記6名の代理人 弁理士 林 宏 (外1名) (72)発明者 志 村 洋 文 茨城県つくば市並木1丁目2番地 工業 技術院機械技術研究所内 (72)発明者 佐々木 信 也 茨城県つくば市並木1丁目2番地 工業 技術院機械技術研究所内 (72)発明者 山 下 信 行 長野県岡谷市神明町2−1−13 帝国ピ ストンリング株式会社 製品技術部内 (72)発明者 越 塚 充 欣 神奈川県藤沢市鵠沼神明1−5−50 日 本精工株式会社 材料技術研究所内 (72)発明者 高 須 一 郎 兵庫県姫路市飾磨区中島字一文字3007 山陽特殊製鋼株式会社 技術研究所内 (72)発明者 黒 沢 一 吉 神奈川県平塚市大神2784 日本パーカラ イジング株式会社 総合技術研究所内 (72)発明者 神 田 一 隆 富山県富山市石金20 株式会社不二越 技術本部内 (72)発明者 八 城 勇 一 千葉県我孫子市我孫子1 日立精機株式 会社 技術開発部内 審査官 西川 和子 (56)参考文献 特開 昭59−20393(JP,A) 特開 平3−275798(JP,A) 社団法人日本潤滑学会発行「トライボ ロジー会議予稿集福岡1991−10」第175 −178頁(平成3年9月30日)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量比率で、Cr:8.5〜17.5%、
    Mo:28.5〜32.5%及びSi:2.6〜3.4
    %を主要成分の中心値として含むCo基若しくはNi基
    合金からなる溶射材が、母材上に溶射されて耐摩耗性の
    溶射層が形成された摺動部材において、減圧プラズマ溶射にレーザ照射を併用したレーザ・プラ
    ズマハイブリッド溶射をすることにより、 前記母材と溶
    射層との間の界面に、その母材と溶射材との合金層が形
    成され、この合金層が、前記母材表面と溶射層とが溶融
    した後、再凝固して、母材と溶射層とが拡散した合金組
    織を呈する、 ことを特徴とする高性能摺動部材。
  2. 【請求項2】重量比率で、Cr:8.5〜17.5%、
    Mo:28.5〜32.5%及びSi:2.6〜3.4
    %を主要成分の中心値として含むCo基若しくはNi基
    合金からなる溶射材を、母材上に溶射して耐摩耗性の溶
    射層を形成する摺動部材の製造方法において、 母材上に前記溶射材の粉末を、減圧プラズマ溶射にレー
    ザ照射を併用したレーザ・プラズマハイブリッド溶射に
    より被着し、 前記母材と溶射層との間の界面に、前記母材表面と溶射
    層とが溶融した後、再凝固して、母材と溶射層とが拡散
    した組織の合金層を形成する、 ことを特徴とする高性能摺動部材の製造方法。
JP4103470A 1992-03-30 1992-03-30 高性能摺動部材とその製造方法 Expired - Lifetime JP2585920B2 (ja)

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社団法人日本潤滑学会発行「トライボロジー会議予稿集福岡1991−10」第175−178頁(平成3年9月30日)

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