JP2557778B2 - 家畜雌雄の産み分け方法およびこれに用いる処理剤 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、家畜雌雄の産み分け方
法に関し、更に詳細には、生体外（インビトロ）で受精
卵を得る体外受精や、生体内（インビボ）で受精卵を得
る人工授精方法において、高い確率で雌雄を産み分ける
方法および試薬に関するものであり、更に、人工授精や
体外受精において高い受胎率を得られる方法および処理
剤に関する。

【０００２】

【従来の技術】畜産業においては、遺伝的に優秀な家畜
を多く得ることが極めて重要であり、優れた家畜を得る
ための手段が古くから知られている。また、家畜が雄で
あるか雌であるかは実際上経済的に大きな意味を持ち、
家畜の産み分けができる技術の確立が古来から求められ
ている。

【０００３】近年、遺伝的に優れた家畜個体を得る方法
として、優れた雌畜にホルモン処理を施して過剰排卵を
誘起し、次いで未受精卵を取り出した後、優れた能力を
有する雄畜の精子で体外受精を行ない、この受精卵を別
の雌畜（レシピエント）に移植する体外受精法が知られ
ている。

【０００４】また、上述の過排卵処理後、生体内で人工
授精をし、多くの受精卵を得て、この受精卵を別の雌畜
（レシピエント）に移植する方法も知られている。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】しかし、家畜の雌と雄
の生まれる確率はそれぞれ約５０％であり、その大きな
要求にも係わらず、雌雄の生み分ける技術は未だ確立さ
れていないのが実情である。

【０００６】さらに、受精卵移植においては、受胎率が
５０％程度と低く、また、人工授精においても８０％の
受胎率であり、より受胎率を向上させるための解決方法
も求められている。

【０００７】

【課題を解決するための手段】本発明者らは、体外受精
や人工授精について、幅広く研究を行っていたところ、
受精卵が雌卵になるか雄卵になるかは、卵子が受精する
時の環境と大きく係わっていることに気づいた。

【０００８】そして、更に研究を進めたところ、卵子が
受精する際の塩基性アミノ酸の存在量と雌卵、雄卵の存
在割合の間に高い相関関係があることを見出し、本発明
を完成した。

【０００９】すなわち、本発明の第一の目的は、卵子を
体外に取り出し、精子で受精させた後、当該受精卵を雌
子宮内に移植する体外受精方法において、卵子または精
子を塩基性アミノ酸溶液で処理することを特徴とする家
畜雌雄の産み分け方法を提供することである。

【００１０】また、本発明の第二の目的は、人工授精に
先立ち、雌子宮を塩基性アミノ酸溶液で処理することを
特徴とする家畜雌雄の産み分け方法を提供することであ
る。

【００１１】更に、本発明の別の目的は、上記方法にお
いて用いられる処理剤を提供することである。

【００１２】本発明の家畜雌雄の産み分け方法は、体外
受精および人工授精の何れの技術においても適用するこ
とができるが、その実施に当っては、塩基性アミノ酸の
利用およびその溶液の濃度と処理時間が極めて重要であ
る。

【００１３】すなわち、優先的に雌畜を得たい場合に
は、塩基性アミノ酸溶液濃度を例えば、７〜２０％程度
と高くすることが必要であり、一方、優先的に雄畜を得
たい場合には、塩基性アミノ酸溶液濃度を１〜６％と低
くすることが必要である。

【００１４】家畜雌雄の産み分けに使用される塩基性ア
ミノ酸は、４種類の塩基性アミノ酸（アルギニン、リジ
ン、オルニチン、シトルリン）の何れであっても良い。

【００１５】体外受精において、本発明を実施するに
は、過排卵処理により得た卵子または精子のいずれかを
塩基性アミノ酸溶液で処理した後、これらから受精卵を
得て、この受精卵を別の雌畜（レシピエント）に移植す
れば良い。

【００１６】例えば、精子を塩基性アミノ酸処理する場
合は、これを生理食塩水または精子希釈用液に所定の濃
度で希釈した塩基性アミノ酸に浸漬し、ついでこの精子
で卵子を受精せしめれば良い。

【００１７】精子を塩基性アミノ酸溶液に浸漬する時間
は、１〜３分程度で良い。

【００１８】また、卵子を塩基性アミノ酸処理する場合
は、未受精卵培養用培地に塩基性アミノ酸を添加して所
定の濃度とし、一定期間卵子を培養後、これを精子で受
精せしめれば良い。

【００１９】この体外受精を効果的に行うためには、上
記の様にして得られた受精卵をレシピエントに移植する
に先立ち、着床する子宮部位に塩基性アミノ酸溶液を注
入し、それから４〜６分経過後に当該受精卵を移植すれ
ば良い。

【００２０】一方、人工授精において、本発明を実施す
るには、人工授精に先立ち、精子を注入する子宮部位
を、例えばストロー詰めの塩基性アミノ酸溶液で処理
し、次いで、精子を注入し、受精せしめれば良い。

【００２１】ここで用いる塩基性アミノ酸溶液は、前記
塩基性アミノ酸を精液希釈用液（ＮＦ−３；武田薬品
（株）製）、生理食塩水等で希釈したものであり、例え
ば、雌牛の子宮を処理する場合には、０.５〜１ｍｌ程
度注入すれば良い。 なお、精子の注入は、塩基性アミ
ノ酸処理後１〜６分後に行えば良く、より具体的には、
雄用の場合は１〜３分後に、雌用の場合には４〜６分後
に注入すればよい。

【００２２】以上説明した本発明方法は、哺乳動物、例
えば、牛、豚、馬、山羊、羊、犬等の大動物や、ネコ、
ウサギ、マウス、モルモット、ハムスター等の実験小動
物に広く利用できるものであり、必要な性の動物を優先
的に収得することができるものである。

【００２３】

【作用】本発明の家畜雌雄の産み分け方法の作用機序に
ついては、未だ明らかでない点もあり、将来解明すべき
点も多いが、現時点では、受精能獲得の際、高濃度の塩
基性アミノ酸ではＸ精子が受精能を獲得し、低濃度塩基
性アミノ酸ではＹ精子が受精能を獲得し、受胎が容易に
なると同時に特定の性の偏りが生じるためと考えられ
る。

【００２４】

【実施例】次に、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説
明するが、本発明はこれら実施例になんら制約されるも
のではない。

【００２５】実 施 例 １ （１）精子の塩基性アミノ酸処理による、性のコントロ
ール：１３％のアルギニンを精液希釈液ＮＦ−３（武田
薬品（株）製）に配合し、雌用の塩基性アミノ酸溶液を
調製した。 この溶液０.５ｍｌに牛精子を１〜３分間浸
漬した後、これを用いて牛卵子を受精させ、受精卵を得
た。 この受精卵を雌（レシピエント）に移植した。 同
様に、アルギニンを３％含有する精液希釈液（雄用アミ
ノ酸溶液）に精子を浸し、この精子で受精した卵子をレ
シピエントに移植した。 レシピエントの分娩後、生ま
れた仔牛の性を判定した。 この結果を表１に示す。

【００２６】（２）卵子の塩基性アミノ酸処理による、
性のコントロール：牛の未受精卵子を、アルギニンを１
３％添加した卵子培養液（ＴＣＭ−１９；ギブコ社製）
で培養した後、牛精子を用いて受精卵を得た。 この受
精卵を雌（レシピエント）に移植し、分娩後性を判定し
た。 同様にして、アルギニンを３％添加した卵子培養
液で培養した後、牛精子を用いて受精卵を得、これを雌
（レシピエント）に移植した。 これらの結果も表１に
示す。

【００２７】

【００２８】上記の結果から明らかなように、精子を雌
用のアミノ酸溶液に浸した区では、出生仔牛のうち８８
％が雌であり、また、雄用のアミノ酸溶液に浸した区で
は９１％が雄仔牛であった。 一方、卵子を雌用培地で
培養した場合は８６％が雌に生まれ、雄用培地では８９
％が雄に生まれた。

【００２９】このことから、精子または卵子を濃度の異
なる塩基性アミノ酸溶液と接触させることにより受精卵
の性を一方に偏らせることができることが明らかになっ
た。アルギニンに代えてリジン、オルニチン、シトルリ
ンを用いた場合も、同様な結果を得た。

【００３０】実 施 例 ２ 体内受精における雌雄の産み分け：精液希釈用液ＮＦ−
３にアルギニンを１３％となるように配合し、雌用のア
ミノ酸溶液を調製した。 一方、同じ精液希釈液にアル
ギニンを３％となるように配合し、雄用のアミノ酸溶液
を調製した。 これらアミノ酸溶液を、０.５〜１ｍｌの
人工授精用のストローに詰め、−２０℃の冷凍庫または
−１９６℃（液体窒素）で保管し、雌用処理液および雄
用処理液を調製した。

【００３１】これらの処理液を、雄用処理液の場合は牛
の人工授精１〜３分前に、また雌用処理液の場合は４〜
６分前にそれぞれ子宮に注入した。 次いで常法に従い
人工授精を行い、分娩時に出産した仔牛の性を判別し
た。 この結果を表２に示す。

【００３２】

【００３３】この結果から明らかなように、対照区での
雌雄の出生比率は、ほぼ１：１（雌４９％、雄５１％）
だったが、雌用アミノ酸溶液で牛子宮を処理した場合、
出生する仔牛は、その８９％が雌に偏り、雌の割合が３
９％増加した。 一方、雄用のアミノ酸溶液で牛子宮を
処理した場合には９３％が雄仔牛であり、雄の割合が４
３％増加した。

【００３４】実 施 例 ３ 凍結人工授精用精子を用いた雌雄の産み分け：あらかじ
め、アルギニンを１３％添加した精液希釈用液を用い、
以下、常法にしたがって牛精液を処理し牛人工授精用凍
結精子（雌用）を調製した。また、アルギニンを３％添
加した精液希釈用液を用い、同様にして牛人工授精用凍
結精子（雄用）を調製した。これらの凍結精子を用いて
人工授精を行い、雌雄の出生比率を調べた。この結果を
表３に示す。

【００３５】

【００３６】この結果から明らかなように、対照区での
雌雄の比率は４８：５２であったのに対し、雌用凍結精
子区では雌の比率が８１％であり３３％も雌の出生率が
増加した。 また、雄用凍結精子区でも雄の比率が８２
％となり、雄の出生率が増加した。

【００３７】実 施 例 ４ 受 胎 率 向 上 ：雄畜、雌畜の産み分けのために、牛
の子宮に塩基性アミノ酸溶液を注入後、人工授精または
受精卵移植をした場合における受胎率の変化を調べた。
この受胎率は体外受精卵移植または人工授精後、６０
日目で直腸検査法で受胎を確認し、これから求めた。
結果を表４に示す。

【００３８】

【００３９】* １３％アルギニンを含む精液希釈用液
０.５〜１ｍｌで牛子宮を処理したもの。 ** ３％アルギニンを含む精液希釈用液０.５〜１ｍｌ
で牛子宮を処理したもの。

【００４０】この結果から明らかなように、人工授精に
おいて、雌用処理液を使用した場合では、１１％、雄用
処理液を使用した場合では１３％それぞれ受胎率が向上
した。 一方、牛の受精卵移植では、雌用処理液を使用
した場合では１２％、雄用処理液を使用した場合は１５
％それぞれ受胎率が向上した。

【００４１】これは塩基性アミノ酸により子宮環境が受
胎しやすい状態になるからであると考えられ、本発明の
家畜雌雄の産み分け方法を家畜に適用すればより高い受
胎率が得られることが明らかになった。

【００４２】

【発明の効果】本発明によれば、塩基性アミノ酸処理に
より、生体内と生体外の受精において雌雄の産み分けが
可能となり、また副次的な効果として、人工授精と受精
卵移植の受胎率を引き上げることが可能となるものであ
る。従って、遺伝的に優れた形質を有する動物を効率よ
く、低コストで生産することができ、畜産やライフサイ
エンス分野において極めて有利な技術である。 以 上

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 新城 明久 沖縄県中頭郡西原町字翁長485−11 坂 田ハイツＤ−３ (72)発明者 黒木 常春 宮崎県宮崎市福島町寺山3041−６ (72)発明者 原田 宏 宮崎県宮崎市学園木花台南３丁目17−９ (72)発明者 黒木 保雅 宮崎県宮崎市江南１丁目１の１

Claims (14)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 卵子を体外に取り出し、精子で受精させ
   た後、当該受精卵を雌子宮内に移植する体外受精方法に
   おいて、卵子または精子を塩基性アミノ酸溶液で処理す
   ることを特徴とする家畜雌雄の産み分け方法。
2. 【請求項２】 卵子または精子を７〜２０％の塩基性ア
   ミノ酸溶液で処理し、優先的に雌畜を得る、請求項第１
   項記載の家畜雌雄の産み分け方法。
3. 【請求項３】 卵子または精子を１〜６％の塩基性アミ
   ノ酸溶液で処理し、優先的に雄畜を得る、請求項第１項
   記載の家畜雌雄の産み分け方法。
4. 【請求項４】 人工授精に先立ち、雌子宮を塩基性アミ
   ノ酸溶液で処理することを特徴とする家畜雌雄の産み分
   け方法。
5. 【請求項５】 雌子宮を７〜２０％の塩基性アミノ酸溶
   液で処理し、優先的に雌畜を得る、請求項第４項記載の
   家畜雌雄の産み分け方法。
6. 【請求項６】 塩基性アミノ酸がアルギニン、リジン、
   オルニチンまたはシトルリンである請求項第１〜５項の
   何れかの項記載の家畜雌雄の産み分け方法。
7. 【請求項７】 雌子宮を１〜６％の塩基性アミノ酸溶液
   で処理し、優先的に雄畜を得る、請求項第４項記載の家
   畜雌雄の産み分け方法。
8. 【請求項８】 精液希釈液または生理食塩水に、７〜２
   ０％の塩基性アミノ酸を添加したことを特徴とする雌家
   畜優先出生用処理剤。
9. 【請求項９】 精液希釈液または生理食塩水に、１〜６
   ％の塩基性アミノ酸を添加したことを特徴とする雄家畜
   優先出生用処理剤。
10. 【請求項１０】 卵子培養用培地に、７〜２０％の塩基
    性アミノ酸を添加したことを特徴とする雌家畜優先出生
    用卵子処理剤。
11. 【請求項１１】 卵子培養用培地に、１〜６％の塩基性
    アミノ酸を添加したことを特徴とする雄家畜優先出生用
    卵子処理剤。
12. 【請求項１２】 塩基性アミノ酸がアルギニン、リジ
    ン、オルニチンまたはシトルリンである請求項第８〜１
    １項の何れかの項記載の処理剤。
13. 【請求項１３】 塩基性アミノ酸を７〜２０％添加した
    精液希釈液を用いて調製された人工授精雌用凍結精子。
14. 【請求項１４】 塩基性アミノ酸を１〜６％添加した精
    液希釈液を用いて調製された人工授精雄用凍結精子。