JP2024504356A - 駆動輪ハブとスプライン付き伝動カップとに用いられる密封装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】車輪ハブと伝動カップとを回転連結するスプラインを露出させる軸方向クリアランスを覆うことが可能な静的密封装置を提案する。【解決手段】本発明は、車輪ハブ(6)のハブ後端(9)と伝動カップ(7)の伝動カップ前面(7c)との間に形成された軸方向クリアランス(8)を覆うことが可能な静的密封装置(11)に関する。静的密封装置(11)は、車輪ハブ(6)の転がり軸受(2)の内輪(5)の内輪後面(13)と協働することが可能な軸方向密封要素と、伝動カップ(7)の球状部延設部(7b)と協働することが可能な径方向密封要素と、を備える。また、静的密封装置(16)は、ハブ後端(9)に形成された先端ドーム状の円環部(20b)と協働することによって当該静的密封装置(11)の前部の密封に寄与する。【選択図】図2
Description
本発明は、概して、自動車の技術分野に関するものであり、詳細には、駆動輪ハブアセンブリの技術分野に関する。
本発明は、より具体的には、転がりアセンブリと伝動カップとの間に形成された少なくとも1つの隙間を有する駆動輪ハブアセンブリ、およびこの少なくとも1つの隙間(以下、軸方向クリアランスと称する)を保護する密封装置に関する。
駆動輪ハブアセンブリでは、車輪ハブが、車輪支持体に機械的に固定された転がり軸受によって回転案内される。自動車の伝動装置からの回転運動を駆動輪に伝えるため、同ハブは、伝動カップに対し、ともに回転するようにスプライン一式を介して連結される。このようなアセンブリには軸方向クリアランスがあり、この軸方向クリアランスを密封して上記スプライン一式を保護するための装置が追加で必要となる。
本明細書の残りにおいて「縦方向」および「横方向」という用語は、車輪ハブや伝動カップの主軸に対してそれぞれ平行、垂直な軸や平面の方向のことを意味する。同様に、「前」および「後」という用語も、それぞれ車輪がハブに装着されている側、伝動装置が伝動カップに接続されている側に相当する。「上」および「下」は、それぞれ車輪のサスペンションの法線方向の向きである。
しかし、駆動輪ハブアセンブリは極めて露出した位置に設けられることになるため、その構成部品は車輪や道路からの飛散物に曝される。駆動輪ハブと伝動カップは、一般的に、これら車輪ハブおよび伝動カップのうちの互いに協働することになる部分に形成された、軸方向又は径方向のスプライン一式によって回転が固定される。同車輪ハブは、転がり軸受を介して車輪支持体に機械的に連結されるようになっており、そのうちの後側軸受は、伝動カップに面することになる。
伝動カップのスプラインと車輪ハブのスプラインとを組み付けると、これら車輪ハブおよび伝動カップのうちの、同スプライン間に確立された接触部と対面する部分間にて、1つ以上の隙間が形成される。締付けを行うことで、この接触部を、同スプラインの全周にわたって隙間のない状態に形成することも可能である。厳密に言えば、伝動カップと車輪ハブとの組付品ではクリアランスが生じていないものの、以下では、この接触領域のことを、隙間の有無にかかわらず、分かり易く「軸方向クリアランス」と称することにする。実際、この軸方向クリアランスはスプラインを汚染物に曝して損傷させてしまう可能性がある。
伝動カップと車輪ハブは相対運動可能でないため、軸方向クリアランスを覆ってスプラインを保護するのであれば、静的密封で十分である。
この軸方向クリアランス用の静的密封装置には、既知のものがある。先行技術では、該静的密封装置が、後側転がり軸受の内輪に機械的に連結された静的シールで構成されている。該後側転がり軸受は、さらに、内輪と外輪との間の伝動カップ側に挿入された例えばカセットシール等の動的シールによって保護されている。また、該後側軸受の内輪には、通常、アキシアル型エンコーダが取り付けられている。
この構成では、狭い領域に多数の部品を装着することになり、かつ、複雑な形状の金属製補強材に大概オーバーモールド成形で組み付けられてなる可撓性部品からなる、複雑な形状の静的シールが必要となる。
EP 2 042 755 A1(特許文献1)およびUS 2011/077089 A1(特許文献2)には、このような複合型の静的密封装置が記載されており、車輪ハブの後端のスプラインと伝動カップの前面のスプラインとの間に形成される軸方向クリアランスを覆うことができる。該複合型の静的密封装置は、車輪ハブの転がり軸受の内輪の後面を押圧することが可能な軸方向密封要素と、伝動カップの球状部延設部の外周を押圧することが可能な径方向密封要素と、を備える。
つまり、先行技術のシールは、製造が高価になるほか、ハブと伝動カップとの組付が複雑なので、追加のコストが発生する。競争の激しい自動車構造分野では価格が大きな要素となるため、伝動カップ及びハブのスプラインの箇所にある軸方向クリアランスを密封する解決手段として、製造や組付がより安価なものを検討する必要がある。
本発明の目的は、特に、車輪ハブと伝動カップとを回転連結するスプラインを露出させる軸方向クリアランスを覆うことが可能な静的密封装置を提案することにより、先行技術の全て又は一部の短所を改善することである。
この目的のために、本発明は、第1の態様において、車輪ハブのハブ後端と伝動カップの伝動カップ前面との間に形成された軸方向クリアランスを覆うことが可能な静的密封装置に関する。同静的密封装置は、前記車輪ハブの転がり軸受の内輪の後面と協働することが可能な軸方向密封面と、前記伝動カップの球状部延設部と協働することが可能な径方向密封面と、を備える。また、同静的密封装置は、前記ハブ後端に形成された先端ドーム状の円環部と協働することによって当該静的密封装置の前部の密封に寄与する。
第1の実施形態において、前記密封装置は、さらに、当該静的密封装置(16)の前部が前記先端ドーム状の円環部(20b)に当接することによって形成される第2の径方向密封要素、を備える。
有利には、前記静的密封装置が密封スリーブからなり、かつ/あるいは、前記軸方向密封要素が前記密封スリーブの前端によって形成され、かつ/あるいは、前記第1の径方向密封要素は、前記密封スリーブの内側面(内側エンベロープ)の少なくとも一部が前記伝動カップの前記球状部延設部を押圧することによって形成される。
好ましくは、補強材は、前記密封スリーブのうちの、前記径方向密封要素とは異なる部分に組み込まれており、前記伝動カップの前記球状部延設部に挟持状態で取り付けられることが可能である。
有利には、前記密封スリーブが、高分子材料、例えば、PA6またはPA12タイプの熱可塑性材料、ゴム、NBR、HNBR、ACMまたはFKMタイプのエラストマー系材料等からなる。
第2の実施形態において、前記静的密封装置は、前記先端ドーム状の円環部に焼き嵌めされる。
有利には、前記密封要素が:前記内輪側に鍔部を有し、当該鍔部の前面が前記内輪後面に圧接するものであり;かつ/あるいは、前記径方向密封要素が、前記伝動カップの前記球状部延設部に圧接する径方向密封リップにより形成される。
好ましくは、前記シールの前記鍔部が、前記ドームに焼き嵌めされるものであり、かつ/あるいは、前記鍔部に設けられた舌部が、前記内輪後面と先端ドーム状の円環部との間に収まるものであり、かつ/あるいは、前記径方向密封リップが、前記伝動カップ側に向いた収束外形部からなる。
有利には、前記静的密封装置(11)が、熱可塑性材料、例えば、TPE、TPP、TPC、TPA、TPV、ポリウレタン、ポリウレタン発泡体等からなる。
任意で、第1または第2の実施形態の静的密封装置の外周に、車輪支持体に機械的に連結されて当該静的密封装置近傍に配置される相補的要素と協働することが可能な、バッフル装置が設けられていてもよい。
好ましい一実施形態では、前記静的密封装置が、前記内輪後面から前記伝動カップの球状部まで軸方向に略延びて、かつ/あるいは、前記静的密封装置の一部に、エンコーダが設けられている。
有利には、前記エンコーダが、前記密封装置を構成する材料、または前記密封装置にオーバーモールド成形されたか若しくは取り付けられた高分子マトリクス、に分散された強磁性粒子によって形成されている。
本発明の第2の態様では、駆動輪ハブアセンブリが、車輪ハブの回転部に機械的に連結された少なくとも1つの内輪を含む転がり軸受と、ハブ後端と伝動カップ前面との間に軸方向クリアランスを形成するように車輪ハブの前記回転部に機械的に少なくとも回転連結された伝動カップと、を備える。同駆動輪ハブアセンブリは、さらに、前記軸方向クリアランスを覆う前述の静的密封装置、を備える。
本発明の第3の態様では、自動車が、前述の駆動輪ハブアセンブリを少なくとも1つ備える。
本発明の第4の態様において、前述の静的密封装置を取り付ける方法は、まず、前記密封スリーブが、前記伝動カップの前記球状部延設部に嵌合されてから、前記密封スリーブの前端が前記内輪後面に圧接するまで、前記伝動カップが前記車輪ハブに近付けられる。
本発明の第5の態様において、前述の静的密封装置を取り付ける方法は、まず、前記シールの前記鍔部が、前記車輪ハブに取り付けられてから、前記伝動カップが、前記車輪ハブに近付けられて前記シールに嵌め込まれる。
本発明のその他の特徴および利点は、本発明の各種態様についての、本発明を限定しない例示的な実施形態の以下の説明によって明確化される。
本明細書は、添付の図面を参照する。同図面も、本発明についての、本発明を限定しない例示的な実施形態によって与えられたものである。
分かり易くするために、同一又は同様の構成要素は、全ての図をとおして同一の参照符号で特定している。
図1に、車輪ハブ6と伝動カップ7とを備える駆動輪ハブアセンブリ1を示す。車輪ハブ6は、転がり軸受2を介して車輪支持体4に連結されている。車輪支持体4は、自動車のシャーシ(図示せず)の一部に連結されている。図面に例示した転がり軸受2は、前側玉軸受2aおよび後側玉軸受2bからなる。いずれも、「O」字状に取り付けられたアンギュラ玉軸受である。前側玉軸受2aの内輪は、車輪ハブ6の回転部6aに直接形成されており、後側玉軸受2bの外輪および前側玉軸受2aの外輪は、車輪ハブ6のフランジ6bに直接形成されている。後側玉軸受2bの内輪5は、車輪ハブ6の回転部6aに装着されたものであり、かつ、ハブ後端9にある冷間成形後のドーム20によってその軸方向後側が係止されている。ドーム20は、内輪5の後面13を押圧することによって当該後面13の固定を行う。本説明例では前側玉軸受2aおよび後側玉軸受2bがアンギュラ玉軸受であるものの、当然ながら、円錐ころなどの別の転動体も使用されてよい。同様に、前側転がり軸受の外輪や内輪についても、車輪ハブの回転部と静止側部に直接形成するのではなく、別体とされてよい。
伝動カップ7は、球状部7aで構成されている。球状部7aからは、球状部延設部7bが前方に延びている。球状部延設部7bの前端に設けられたチューリップ前面7cには、フェイススプラインが形成されている。当該フェイススプラインは、ドーム後面20aに形成された別のフェイススプラインと協働する。これらフェイススプライン同士は、車輪ハブ6経由で駆動輪に駆動トルクを伝える役割を果たす。フェイススプラインに代えて、軸方向スプライン一式や、2つの軸体同士の回転を固定することが可能な他のあらゆる機械装置によっても、モータトルクの伝達を行うことが可能である。
球状部延設部7bの前端にあるフェイススプラインとドーム後面20aにあるフェイススプラインとが係合すると軸方向隙間8が形成され、車輪や車輪を取り付けたハブが動作中に触れる媒体由来の汚染された液体飛沫や液体流に起因する汚染物に、フェイススプラインが曝されることになる。ドーム後面20aのフェイススプラインは、例えばドーム形成時の揺動鍛造などの各種冷間鍛造技術によって形成され得る。
クリアランス8は、スプラインにより相互に連結される伝動カップ7および車輪ハブ6aの回転部にそれぞれ属する、球状部延設部7bの前端とドーム後面20aとの間に形成される。これら2種類の機械要素は車輪ハブ10の軸心を中心として同じ速度で回転することになり、隙間8を静的密封装置により覆うことで、スプライン同士の保護を行うことができる。本発明の本例の実施形態では、隙間8を覆う密封装置が、図2に示す後述の静的シール11である。
図2に、静的シール11の第1の例示的な実施形態を示す。静的シール11は、車輪ハブ6側を向いた鍔部12によって前部が終端している略円筒形状、すなわち、軸対称形状を呈している。鍔部12は、静的シール11の径方向外方に延出しており、これにより、車輪ハブ10の軸心に対して横方向に設けられた鍔部前面18が形成されている。鍔部前面18が内輪後面13を押圧することにより、軸方向密封要素が車輪ハブ6側に形成される。内輪後面13は比較的大きな表面積を有しているので、突き合わせられる鍔部前面18の形状を当該内輪後面13と相補的な形状や凹形状にするといった様々な実施形態の前記軸方向密封要素により、その軸方向密封を実現することが可能である。あるいは、鍔部前面18が、内輪後面13への接触力を局所的なものにするために例えばリップ、膨出部などといった凸部を有していてもよい。鍔部前面18を内輪後面13に押圧する力は、伝動カップ7の球状部7aによって伝えられ得て、シール12を後端から前側へと押し付ける。
好ましくは、静的シール11は、先端ドーム状の円環部20bに焼き嵌めされる。先端ドーム状の円環部20bは凸形状をしているので、当該先端ドーム状の円環部にシール11が焼き嵌めされることで、車輪ハブ6aの回転部に対する静的シール11の機械強度が確保される。また、焼き嵌めにより、内輪後面13への鍔部前面18の押圧に寄与する力が発生する。焼き嵌めによって発生する圧接力は、単独で又は球状部7aから静的シール11の後端へと伝わる圧接力と協働で、内輪後面13に対する鍔部前面18の押圧確立に寄与する。
有利には、鍔部前面18は、静的シール11の内側に向かって延出することで舌部21を呈している。舌部21は、内輪後面13と先端ドーム状の円環部20bとの間の、当該先端ドーム状の円環部20bの直径が小さくなっている内輪13近傍の区域に収められる。この舌部21は、内輪後面13に対する鍔部前面18の圧力を局所的に増大させることによって、車輪ハブ6側で鍔部12により達成される軸方向密封の向上に寄与する。また、舌部21は、内輪後面13と、内輪5に向かって傾斜した斜面を形成する先端ドーム状の円環部20bとの間に食い込むことで、ドーム20に対する接触型の径方向シールおよび内輪後面13に対する接触型の軸方向シールを行う。先端ドーム状の円環部20bへの鍔部18の焼き嵌めにより、静的シール11が内輪後面13に対して軸方向に押圧されるほか、先端ドーム状の円環部20bにより形成された傾斜斜面の作用により、舌部21が内輪後面13に向かって押し付けられるような傾向を呈するため、舌部21と内輪後面13との間の密封が向上する。変形例として、舌部21により、車輪ハブ6側のみを上記のように密封するようにしてもよい。
伝動カップ7側では、径方向密封リップ14が当該伝動カップの球状部延設部の外側面(外側エンベロープ)15に圧接することにより、静的シール11による径方向シールが実現される。伝動カップ7を車輪ハブ6に組み付ける際には、球状部延設部7bが、シール11内側に環状に設けられた径方向密封リップ14へと挿設される。静的シール11に球状部延設部7bを嵌合させ易くするため、径方向密封リップ14は、伝動カップ7の球状部延設部7b周囲の嵌合を案内するように当該伝動カップ(7)側に収束する外形部からなるものとされる。図3では、この収束外形部が、伝動カップ7側に向いた面取り部19によって形成されている。収束外形部の形状としては、切欠きのような別の形状を使用することも可能である。
また、車輪ハブ6に組み付けられた球状部7aは、シール11の後端を押圧するようになる。つまり、シール11は、内輪後面13と球状部7aとの間で軸方向に圧縮されることになり、これにより、鍔部前面18が内輪後面13上で確実に良好に支持される。また、シール11の後端が球状部7aの円錐状部に圧接されることになり、径方向密封リップ14を補助する予備的密封が生じる。
組付時、静的シール11は、まず、前記車輪ハブの回転部6aのドーム20に焼き嵌めされる。焼き嵌めにより、鍔部前面18が内輪後面13に圧接する。任意の構成として、舌部21が、内輪後面13と先端ドーム状の円環部の前部20bとの間に挿入される。焼き嵌めに代えて又は焼き嵌めに加えて、内輪5とドーム20との間に舌部21が食い込むことで静的シール11が前記車輪ハブの回転部6aに留め付けられ、これにより、機械的な保持が確実なものになる。先端ドーム状の円環部20bにおける静的シール11の保持が向上することにより、取付段階や取付段階に由来する操作のあいだ、静的シール11と車輪ハブ6とがより良好に確実に一つにまとまる。次に、車輪ハブ6の回転部のフェイススプラインと前記伝動カップのフェイススプラインとが係合するまで、伝動カップ7が軸方向に車輪ハブの回転部6aに近付けられる。この操作時に、球状部延設部7bが静的シール11の径方向密封リップ14に嵌合する。
シール11の機械強度は、先端ドーム状の円環部20bへの焼き嵌めによって確保される。よって、シール11は、車輪ハブアセンブリ1に予め設置することができ、このことから、伝動カップ7と組み付けられる前の状態で、軸受供給元によって車輪ハブアセンブリ1と一緒に供給されることが可能である。
図3に、静的シール11の別の構成を示す。本例のシールは、内輪後面13から伝動カップ7の球状部7aまで延びるのではなくて、径方向密封リップ14で停止している。球状部延設部の外側面15の直径は、径方向密封リップ14から当該球状部延設部の外側面15に対して良好な圧力を発生させるのに好適な干渉を確保するのに適した直径となっている。任意の構成として、径方向密封リップ14は、さらに、面取り部19を有していてもよい。
図4では、密封装置(本例では、シール11)の外周23にバッフル装置22が設けられている。バッフル装置22は、前記密封装置の外周23に設置された2つの円環状のバッフル22aによって形成されている。これら2つの円環状のバッフル22aは、シール11の周囲に配置された車輪支持体4の環状延設部24と協働する。このバッフル装置22により、例えばカセットシール28等によって補われる前記後側転がり軸受の動的密封を向上させることができる。バッフル装置22は、さらに、車輪ハブアセンブリ1のこの繊細な区域に飛散する土や小石に対する第一の障壁を形成するように自身以外の密封要素を支援する。翼部22aは、組付時に環状延設部24の両側にフィットしたり型抜きが出来たりするための変形が可能となるように十分な可撓性を有する。変形例として、バッフル装置22は、図5及び図6に示す後述の第2の実施形態の密封装置の第2の実施形態にも設けられてよい。
シール11は、軸方向の密封領域および径方向の密封領域に十分な圧力を作用させつつ径方向に大きく弾性変形することのできる材料、例えば、TPE、TPP、TPC、TPA、TPV、ポリウレタン、ポリウレタン発泡体などの可撓性を有する熱可塑性材料からなる。
図5は、車輪ハブアセンブリ1の、軸方向クリアランス8および後側玉軸受2bの内輪5の箇所の詳細図である。本例の実施形態の静的密封装置は、軸方向クリアランス8を覆うことで、前記ハブの回転部6aと伝動カップ7とを回転連結するスプラインの保護を行うことが可能となっている。図5の静的密封装置は、内輪5の後面13から伝動カップ7の球状部7aの基部まで略延びる略円筒形状の密封スリーブ16からなる。密封スリーブ16の前端16aは、内輪後面13に押圧されることで、軸方向クリアランス8の内輪5側の保護を行う軸方向シールを実現する。密封スリーブ16の後部は、前記伝動カップの球状部延設部7bに焼き嵌めされる。これにより、前記密封スリーブの内側面16bが球状部延設部の外側面15に押圧されて、伝動カップ7側から軸方向クリアランス8を保護する径方向の密封を実現する。
本構成例では、例えば金属製の補強材17に対して密封スリーブ16が例えばオーバーモールド成形によって機械的に留め固定されており、同補強材17が球状部延設部7bに挟持状態で取り付けられる。本例では、補強材17によって伝動カップ7上での密封スリーブ16の機械強度が確保されるとともに、当該密封スリーブの内側面16bの一部が前記球状部延設部の外側面15に圧力をかけることによって径方向の密封が確保される。球状部延設部7bに当該補強材を取り付ける前の時点で、密封スリーブ16の内側面は、当該密封スリーブの内側面16bのうち、球状部延設部の外側面15を押圧して径方向の密封を確保する部分よりも大径である。
実際には、密封スリーブ16は、図5に示すものよりも後側が短寸化されてもよく、密封スリーブ16のうちの前記球状部延設部と係合する表面積が伝動カップ7上の当該密封スリーブ16の機械強度および前述の径方向シールを確保するのに十分なものであれば、球状部7aの基部よりも前で停止していてもよい。密封スリーブ16は、良好な質の径方向および軸方向の密封を確保するのに十分な耐摩耗性および可撓性を有するとともに球状部延設部7bに焼き嵌め可能な高分子材料からなる。密封スリーブ16は、例えば、PA6やPA12の熱可塑性材料からなり得て、当該熱可塑性材料には、後述のようにフェライト粒子が充填され得る。好ましくは、ゴム、NBR、HNBR、ACM、FKMタイプのエラストマー系材料からなり、当該エラストマー系材料にも、必要に応じて、所定の領域にフェライト粒子が充填される。また、内輪後面13に対する軸方向の密封区域、および前記伝動カップにおける径方向の密封区域は、外形によっても実現される。例えば、前記エラストマーの接触力を厳密に局所的なものにするために、静的密封ビーズを先端に設けるようにしてもよい。
組付時には、まず、密封スリーブ16が前記伝動カップの球状部延設部7bに焼き嵌めされる。焼き嵌めされることで、前記密封スリーブの内側面16bが球状部延設部の外側面15を押圧し、伝動カップ7側の径方向密封を実現する。次に、車輪ハブの回転部6aのフェイススプラインと伝動カップ7のフェイススプラインとが係合するまで、伝動カップ7が車輪ハブの回転部6aに近付けられる。この操作により、前記スリーブの前端16aが先端ドーム状の円環部20bに嵌め付けられて前記密封リングの後面13を押圧することで、内輪5側の軸方向密封が実現される。これに代えて又は同軸方向シールとの併用で、前述のように、密封スリーブの前部27が先端ドーム状の円環部20bに嵌め付けられる際に、密封スリーブの当該前部27が先端ドーム状の当該円環部20bを押圧するという構成を取ることにより、第2の径方向シールを実現するようにしてもよい。
密封スリーブ16の機械強度は、球状部延設部7bへの焼き嵌めによって確保される。よって、前記密封スリーブは、前記伝動カップに焼き嵌めされた状態で伝動装置供給元によって当該伝動カップと一緒に供給されて車輪ハブアセンブリ1に組み付けられるという構成が可能である。
車輪の回転速度を測定できるように、シール11または密封スリーブ16は、さらに、ラジアル型エンコーダ26を具備している。ラジアル型エンコーダ26は、シール11または密封スリーブ16の円筒状部に設けられている。ラジアル型エンコーダ26は、シール11または密封スリーブ16の外周上に等間隔を空けて設けられた相異なる極性の区域を形成するようにして、当該シール11または当該密封スリーブ16を構成する材料に分散されたフェライト粒子又はその他の任意の強磁性材料で構成されている。シール11または密封スリーブ16のうちのラジアル型エンコーダ26を有する領域に径方向に対向して、前記車輪ハブの回転部6aとラジアル型エンコーダ26との一緒の回転によって生じる磁場の変動を測定するための電磁センサ(図示せず)が配置されている。
変形例として、前記エンコーダは、例えばシール11の鍔部12の後面等に設けられたフェイス型エンコーダ(図示せず)であってもよい。前記エンコーダは、シール11又は密封スリーブ16を形成する材料に分散された強磁性粒子で構成されるものに代えて、シール11又は密封スリーブ16にオーバーモールド成形されるか又は機械的に取り付けられる高分子マトリクスに分散された強磁性粒子によって形成されるものであってもよい。
図6に、内輪後面13に対する軸方向密封が第2の径方向密封に置き換えられた、密封スリーブ16の一例を示す。この第2の径方向密封は、前記密封スリーブの前部27が先端ドーム状の円環部20bを押圧することによって実現される。任意の構成として、先端ドーム状の円環部20b上で形成されるこの第2の径方向シールは、内輪後面13に対して形成される軸方向密封と併用されてもよい。
図6は、車輪ハブ6のハブ後端9と伝動カップ7の伝動カップ前面7cとの間に形成された軸方向クリアランス8を覆うことが可能な静的密封装置を示す図である。密封スリーブ16の形態である同密封装置は、伝動カップ7の球状部延設部7bと協働することが可能な径方向密封要素と、先端ドーム状の円環部20bの延設部と圧力によって協働することが可能な第2の径方向密封要素と、を備える。この第2の径方向密封要素は、必ずしも前記内輪に軸方向に圧接せずとも、当該内輪側から軸方向クリアランス8の保護を行う。当然ながら、本例の密封スリーブ16は、前端16aが内輪後面13を押圧するというかたちの密封スリーブについて既述した、別のどのような構成とも組み合わされてよい。上記径方向密封要素は、例えば、前記密封スリーブの内側面16bの少なくとも一部が伝動カップ7の球状部延設部7bを押圧することによって形成されるものである。
以上のように、本発明の目的は、車輪ハブ6のハブ後端9と伝動カップの前面7cとの間に形成された軸方向クリアランス8を覆うことが可能な静的密封装置11又は16によって達成される。静的密封装置11又は16は、軸受2の内輪後面13と協働することが可能な軸方向密封要素18又は16aと、伝動カップ7の球状部延設部7bと協働することが可能な第1の径方向密封要素16bと、を備える。また、密封装置11又は16の前部は、ハブ後端9に形成された先端ドーム状の円環部20bと協働することによって当該静的密封装置11又は16の前部の密封に寄与する。
自動車の推進の種類に応じて、駆動輪ハブアセンブリ1は、走行型車両の前輪、推進型車両の後輪、または統合走行型自動車の全四輪に設置される。
これまでの説明でも述べたように、本発明の各種態様は、場面に応じて、既述したものとは異なる変更構成によっても実施が可能である。例えば、車輪ハブの回転部に駆動トルクを伝えることのできるスプラインは、径方向スプラインとされてもよいし、軸方向スプラインとされてもよい。同じく、任意の構成である前記バッフル装置が、鍔部付きシールや略円筒形状の密封スリーブに追加で設置されてもよい。
当然ながら、本発明についてのこれまでの説明は、例示に過ぎない。当業者であれば、本発明の範囲を逸脱しない範疇で、本発明の様々な変更形態を作り出すことができるという点を理解されたい。
Claims (15)
- 車輪ハブ(6)のハブ後端(9)と伝動カップ(7)の伝動カップ前面(7c)との間に形成された軸方向クリアランス(8)を覆うことが可能な静的密封装置であって、
-前記車輪ハブ(6)の転がり軸受(2)の内輪(5)の内輪後面(13)と協働することが可能な軸方向密封要素(16a)と、
-前記伝動カップ(7)の球状部延設部(7b)と協働することが可能な第1の径方向密封要素(16b)と、
を備える、静的密封装置(16)において、
当該静的密封装置(16)は、前記ハブ後端(9)に形成された先端ドーム状の円環部(20b)と協働することによって当該静的密封装置(11又は16)の前部の密封に寄与することを特徴とする、静的密封装置。 - 請求項1に記載の静的密封装置において、さらに、
当該静的密封装置(16)の前部が前記先端ドーム状の円環部(20b)に当接することによって形成される第2の径方向密封要素、
を備えることを特徴とする、静的密封装置。 - 請求項2に記載の静的密封装置において、
-当該静的密封装置が密封スリーブ(16)を備え、かつ/あるいは、
-前記軸方向密封要素は、前記密封スリーブの前端(16a)によって形成され、かつ/あるいは、
-前記第1の径方向密封要素は、前記密封スリーブの内側面(16b)の少なくとも一部が前記伝動カップ(7)の前記球状部延設部(7b)を押圧することによって形成されることを特徴とする、静的密封装置。 - 請求項3に記載の静的密封装置において、さらに、
-前記密封スリーブ(16)のうちの、前記径方向密封要素とは異なる部分に組み込まれており、前記伝動カップ(7)の前記球状部延設部(7b)に挟持状態で取り付けられることが可能な、補強材(17)、
を備えることを特徴とする、静的密封装置。 - 請求項3または4に記載の静的密封装置において、前記密封スリーブ(16)が、高分子材料、例えば、PA6またはPA12タイプの熱可塑性材料、ゴム、NBR、HNBR、ACM、FKMのようなエラストマー系材料等からなることを特徴とする、静的密封装置。
- 請求項1に記載の静的密封装置において、当該静的密封装置(11)が、前記先端ドーム状の円環部(20b)に焼き嵌めされることを特徴とする、静的密封装置。
- 請求項6に記載の静的密封装置において、
-前記密封要素が、前記内輪(5)側に鍔部(12)を有し、当該鍔部の前面(18)が前記内輪後面(13)に圧接するものであり、
-前記径方向密封要素が、前記伝動カップ(7)の前記球状部延設部(7b)に圧接する径方向密封リップ(14)により形成されることを特徴とする、静的密封装置。 - 請求項7に記載の静的密封装置において、
-前記シール(11)の前記鍔部(12)が、前記ドーム(20)に焼き嵌めされるものであり、かつ/あるいは
-前記鍔部(12)に設けられた舌部(21)が、前記内輪後面(13)と先端ドーム状の円環部(20b)との間に収まるものであり、かつ/あるいは
-前記径方向密封リップ(14)が、前記伝動カップ(7)側に向いた収束外形部(19)からなることを特徴とする、静的密封装置。 - 請求項6から8のいずれか一項に記載の静的密封装置において、当該静的密封装置(11)が、熱可塑性材料、例えば、TPE、TPP、TPC、TPA、TPV、ポリウレタン、ポリウレタン発泡体等からなることを特徴とする、静的密封装置。
- 請求項1から9のいずれか一項に記載の静的密封装置において、
-さらに、当該密封装置(11又は16)の外周に設けられており、車輪支持体(4)に機械的に連結されて当該静的密封装置(11;16)近傍に配置される相補的要素(24)と協働することが可能な、バッフル装置(22)を備え、かつ/あるいは、
エンコーダ(26)が、当該静的密封装置(11;16)の一部に設けられており、かつ/あるいは、
-当該静的密封装置が、前記内輪後面(13)から前記伝動カップ(7)の球状部(7a)まで略軸方向に延びることを特徴とする、静的密封装置。 - 請求項10に記載の静的密封装置において、前記エンコーダ(26)が、
-当該密封装置(11;16)を構成する材料、または
-当該密封装置(11;16)にオーバーモールド成形されたか若しくは取り付けられた高分子マトリクス、
に分散された強磁性粒子によって形成されていることを特徴とする、静的密封装置。 - -車輪ハブの回転部(6a)に機械的に連結された少なくとも1つの内輪(5)を含む転がり軸受(2)と、
-ハブ後端(9)と伝動カップ前面(7c)との間に軸方向クリアランス(8)を形成するように車輪ハブの前記回転部(6a)に機械的に少なくとも回転連結された伝動カップ(7)と、
を備える、駆動輪ハブアセンブリにおいて、さらに、
前記軸方向クリアランス(8)を覆う、請求項1から11のいずれか一項に記載の静的密封装置(11;16)、
を備えることを特徴とする、駆動輪ハブアセンブリ。 - 請求項12に記載の駆動輪ハブアセンブリを少なくとも1つ備えることを特徴とする、自動車。
- 請求項2から5のいずれか一項、あるいは、請求項2から5のいずれか一項に従属するときの請求項10または11に記載の静的密封装置を取り付ける方法であって、
-まず、前記密封スリーブ(16)が、前記伝動カップ(7)の前記球状部延設部(7b)に嵌合され、次に、
-前記スリーブ(16)が前記先端ドーム状の円環部(20)に嵌め付けられて前記密封スリーブの前端(16a)が前記内輪後面(13)に圧接するまで、前記伝動カップ(7)が前記車輪ハブ(6)に近付けられる、方法。 - 請求項6から9のいずれか一項、あるいは、請求項6から9のいずれか一項に従属するときの請求項10または11に記載の静的密封装置を取り付ける方法であって、
-まず、前記シール(11)の前記鍔部(12)が、前記車輪ハブ(6)に取り付けられ、次に、
-前記伝動カップが、前記車輪ハブ(6)に近付けられて前記シール(11)に嵌め込まれる、方法。
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