JP2024096988A - リプログラミングベクター - Google Patents

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Abstract

【課題】iPSCリプログラミングを誘発するため、異種成分不含であり、cGMP準拠のDNAベクターを生成するための、ロバストで、再現可能であり、そしてスケーラブルである機構を提供する。
【解決手段】本発明者らは、一過性ベクターを用いて、外因性リプログラミング因子を一過性発現する方法であって、ベクターが閉鎖直鎖DNAである前記方法を提供する。この方式で開発された多能性幹細胞は安定であり、そしてESCなどの天然幹細胞に表現型がより近い。
【選択図】図18-1

Description

リプログラミングは、ヒトまたは動物の体の任意の成熟細胞または体細胞の多能性幹細胞への「変換」を可能にする。リプログラミングは、外因性因子、通常は転写因子の導入を通じて、成熟細胞に誘導可能である。このプロセスは、胚の使用を伴わずに、人工多能性幹細胞の産生を可能にし、これには、該幹細胞を個体から産生して、同じ個体に戻す/再移植することが可能である利点が伴う。
リプログラミングすることによって樹立された細胞株は、人工多能性幹細胞(iPSC)と称され、そして胚性幹細胞(ESC)に特徴的であるものと同じ多能性および自己再生特性を示す。
人工多能性幹細胞は、無制限の増殖が可能であり、そして体のすべての細胞タイプに分化する潜在能力を有し、そしてしたがって疾患モデリングおよび薬剤発見に有用である。幹細胞研究は、細胞に基づく療法剤の生成のために、そしてヒト発生および再生医学研究の補助に、非常に有望である。ヒト体細胞のヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)への遺伝的リプログラミングは、多くの研究使用および最終的には療法のために、補充可能な細胞供給源を提供しうる。例えば、誘導幹細胞を用いて、ヒト細胞集団の生理学的および病的反応を評価することも可能である。
成熟細胞タイプからの多能性幹細胞生成の誘導は、多くの方法によって実行可能であるが、大部分は、リプログラミングを誘導するために、外因性のリプログラミング因子の発現を伴う。iPSC生成の成功には、一般的に、2~4週間のリプログラミング因子の発現を必要とする。このウィンドウは、一過性ベクターの単回トランスフェクションの使用を妨げる長さである。したがって、これらの外因性リプログラミング因子は、一過性DNA発現ベクター、メッセンジャーRNAまたはタンパク質の多数回の適用によって提供されてもよい。あるいは、ゲノム組込み性レトロウイルスベクターまたは非組込み性エピソームベクターの単回形質導入/トランスフェクションは長期間の発現を提供するであろう。トランスフェクションされる細胞の宿主ゲノム内へのDNAカセットの組込みを用いる方法は、外因性リプログラミング因子をコードする遺伝子が、続いてサイレンシングされるかまたは切除されたとしても、この挿入性突然変異誘発によって、研究および臨床適用の両方において細胞の有用性が制限されうるため、より望ましくない。したがって、非組込み性エピソームベクターの使用の利点は、細胞の連続増殖が、DNAベクターの希釈および最終的には除去を生じ、したがって、これらが所持する遺伝物質が最終的に失われることを確実にする点である。
リプログラミングに現在用いられるエピソームプラスミド(環状二本鎖DNA)は、OriP/EBNA1(エプスタイン-バー核抗原-1)に基づくエピソームベクターである。エプスタイン-バーウイルス(EBV)、OriP/EBNA1ベクターに由来するものは、ウイルス送達ベクター内にパッケージングされることなくトランスフェクション可能であるため、体細胞内にリプログラミング因子を導入するために適している。シス作用性OriP要素およびトランス作用性EBNA1遺伝子は、哺乳動物細胞におけるOriP/EBNA1ベクターの安定な染色体外複製を確実にする。OriP/EBNA1ベクターは、細胞周期あたり一度しか複製せず、そしてEBNA1タンパク質は、OriPを所持するプラスミドが、増殖中の細胞において複製し、そしてかつ分離することを可能にする。EBNA1は、有糸分裂安定性のため、最終的にプラスミドを宿主染色体に係留する。しかし、ENBA1はよく特徴づけられているが;癌遺伝子としてのその役割はそれほどよく定義されていない。EBNAは、EBV関連癌において一貫して発現される。
したがって、iPSCからエピソームプラスミドを除去する機構に関わらず、ある程度のEBNA1コード配列が保持されうる可能性がある。EBNA1の持続発現が細胞DNA損傷を引き起こすことが立証されてきている。実際、EBNA1ベクターを用いて生成されたiPSCは、ESCよりも高い度合いで遺伝子突然変異を集積させることが立証されてきている。さらに、EBNA1タンパク質の発現は、EBNA1存在の結果として潜在的に活性化される数百の遺伝子を含む、細胞内の遺伝子発現に影響を及ぼすことが知られる。EBV由来EBNA1タンパク質はまた、トランスフェクションされた細胞の免疫細胞認識を増加させる可能性もあり、発現が完全に除去されなければ、影響を有する可能性もある。実施例において、リプログラミングされた細胞におけるインターフェロン発現レベルの比較を行う。これらの結果は、OriP/EBNA1を含有するプラスミドを用いてリプログラミングされた細胞が、インターフェロン遺伝子および他の免疫系に関連する遺伝子の発現の増加を生じたことを立証する。さらに、長期のEBNA1発現の転写上のおよびエピジェネティック上の結果は、完全に調べられてはおらず、そしてiPSCから生じるいかなる疾患モデルにも負の影響を有する可能性がある。しかし、これらの潜在的な不利益と天秤にかけられるのは、OriP/EBNA1なしには、特に成熟体細胞タイプのリプログラミングを達成するために十分な時間、プラスミドが保持されないという事実である。
OriP/EBNA1ベクターは、細胞周期あたり1回複製可能であり、そして通常の一過性プラスミドが除去されるほど迅速には除去されない。非選択条件下で、プラスミドは細胞周期あたり、約5%の率で除去される(Nanbo, A., Sugden, A.およびSugden, B.(2007) EMBO J 26, 4252-4262)。したがって、これらのベクターが満足できるレベルまで除去されるために、少なくとも14回の継代を要する。細胞を生存状態にしておくため、細胞を新しい容器に継代培養する必要がある。この継代培養は「継代」として知られる。継代数は、細胞培養が継代培養されている回数である。これらの継代中、本発明者らは、ある程度の細胞の自発的な分化が起こり、これらの細胞を取り除くかまたは細胞全体を放棄する必要が生じる可能性もあることを観察してきている。したがって、iPSCがトランスフェクション30日以内に生成される一方、細胞はベクターの喪失を確実にするために数ヶ月間培養中に維持しなければならない。これらの多くの継代中に自発的分化が起こる可能性があるため、再生医学における適用のために必要とされるスケールアッププロセスが複雑になり、そしてEBNA1仲介性ゲノム突然変異の潜在的可能性が増加する。
あるいは、OriP/EBNA1の使用を伴わないリプログラミングに使用するために、ミニサークルベクターが提唱されてきている。これらは、発現される真核プロモーターおよびcDNA(単数または複数)にのみ含有される最小限のベクターである。ヒト脂肪間質/幹細胞(hASC)において発現されるミニサークルベクターは、およそ28日間で、トランスフェクションされた細胞のわずか0.005%をリプログラミング可能であった(Narsinh KH, Jia F, Robbins RC, Kay MA, Longaker MT, Wu JC. Nature Protoc. 2011;6:78-88)。しかし、これらの細胞(hASC)はすでに、ある程度の多分化能特性を有し、これらが多能性を持つようリプログラミングすることはより容易であることが示唆される。この方法は、新生線維芽細胞をリプログラミングする際にさらにより効率的ではなく、そして他の体細胞のリプログラミングが成功したという公表された報告はない。実際、Narsinhらは、「本文献に記載するプロトコルは、いまだ、成人供給源由来のヒト皮膚線維芽細胞のリプログラミングに成功裡に適用されてきていない」と警告している。したがって、ミニサークルベクターの使用は、現在、脂肪組織から単離された多分化能hASCに限定されている。こうした組織は、侵襲性技術である脂肪吸引処置中に非常に大量に採取されうる。いくつかのグループは、ミニサークルベクターが十分なレベルの発現を提供するために反復トランスフェクションを要することを見出してきてい
る。容易にアクセス可能である供給源に由来し、そして成熟している体細胞をリプログラミング可能であることが望ましい。ミニサークルベクターは、プラスミドと類似の二本鎖環状DNA分子であるが、より小さい。原理的には、これらは、プラスミド使用に対する解決策であるように見えるが、実際、これらは産生が困難でそして時間が掛かる。本発明者らは、ミニサークルベクター産生プロトコルが、何らかの最小限の細菌DNAの保持を生じることに注目してきており、これは望ましくない。細菌DNA上のメチル化マークは、ヒト細胞におけるベクターからの遺伝子発現を抑制する効果を有する可能性もあり、これは、ベクターの有用性を減少させ、そして細菌DNAに対する自然免疫反応を誘導する。
ヒト療法使用の見込みを達成するため、ヒトiPSCが外因性DNAを含まず、そして原核DNA配列に曝露されたことがないことが理想的である。エピソームベクターを除去した後、増殖および発生潜在能力においてヒト胚性幹(ES)細胞と類似である、ベクターおよび導入遺伝子配列をまったく含まないiPS細胞が得られる。療法使用には、「フットプリントフリー」細胞が最も望ましい。iPSCの有用性は、ゲノム完全性および安定性に強く依存し、そしてしたがって安定細胞が非常に望ましい。
iPSCのヒト療法使用は、なお完全には達成されておらず、そして今日まで、iPSCを用いた臨床試験を実現しようと望むものは、リプログラミングを促進しようと行われる活動のいずれもが、移植された細胞のゲノムに対して有害な影響を持たないことを、ゲノム配列決定によって立証しなければならない。したがって、本質的に初期発癌事象でもあるリプログラミング技術の使用は、新規セッティングにおいて、移植された細胞が発癌性にならないことを確実にするため、可能な限り取り除かれる可能性が高い。したがって、例えば、発癌性であることが知られる要素の使用、例えばp53の抑制、c-Mycの包含およびEBNA1の使用の減少のみが、細胞療法オプションとしてのiPSCの普及を改善しうる。
現在まで、本出願者らは、iPSCリプログラミングを誘発するため、異種成分不含であり、cGMP準拠のDNAベクターを生成するための、ロバストで、再現可能であり、そしてスケーラブルである機構を知らない。
Nanbo, A., Sugden, A.およびSugden, B.(2007) EMBO J 26, 4252-4262 Narsinh KH, Jia F, Robbins RC, Kay MA, Longaker MT, Wu JC. Nature Protoc. 2011;6:78-88
本発明者らは、したがって、非エピソーム性一過性ベクターを用いて、外因性リプログラミング因子を一過性発現する方法であって、ベクターが閉鎖直鎖DNAである前記方法を開発した。本発明者らは、閉鎖直鎖DNAベクターがiPSCリプログラミングを促進可能であるという、予期されぬそして例外的な観察を示す新規データを生成している。意外なことに、本発明者らは、閉鎖直鎖DNAベクターが、染色体付着、保持または分離のいかなる機構に関する必要性も伴わずに、リプログラミングにおいて長期発現を維持する能力を有することを見出してきている。驚くべきことに、閉鎖直鎖DNA分子は、p53抑制を伴わずに、長期発現を維持し、そしてリプログラミングを達成することが可能である。さらに、閉鎖直鎖DNAのトランスフェクションを用いて得られる細胞は、OriP/EBNA1を所持する匹敵する環状プラスミドでトランスフェクションされた細胞より
もより安定であるようであり、これは閉鎖直鎖DNA構築物が、OriP/EBNA1を所持するプラスミドよりも、はるかにより迅速に細胞から自然に失われるためである。これは、図14Aおよび図14Bに提示するデータによって裏付けられる。染色体足場付着および/またはp53抑制を使用しないと、大部分のベクターは必要なリプログラミング因子を発現するために十分な時間維持されないため、これらの結果は驚くべきことである。さらに、閉鎖直鎖DNAベクターは、アクセサリー配列、要素または発現カセットの必要性を伴わずに、リプログラミングを達成するようである。本発明者らはまた、閉鎖直鎖DNAベクターが、標準的なOriP/EBNA1に基づく方法を用いたリプログラミングに非妥協的である細胞のリプログラミングを達成可能であることも見出した。実施例5および図11を参照されたい。驚くべきことに、この方式で発生した多能性幹細胞は安定であり、そして胚性幹細胞などの天然幹細胞に表現型がより近い。
発明の概要
本発明者らは、リプログラミング因子をコードする1つまたはそれより多い閉鎖直鎖DNAベクターを用いて、体細胞をリプログラミングすることが可能であることを見出してきている。体細胞をこの方式でトランスフェクションし、そして十分な期間培養すると、人工多能性幹細胞の安定でそして均質な集団を得ることが可能である。
十分な期間/十分な時間は、通常、約30日間、すなわち25~35日間の期間、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35日間の任意の1つである。
本発明はしたがって、人工多能性幹細胞を産生するための1つまたはそれより多いリプログラミング因子をコードする閉鎖直鎖DNAベクターの使用に関する。
本発明はさらに、1つまたはそれより多いリプログラミング因子を含む1つまたはそれより多い閉鎖直鎖ベクターを、体細胞集団内に導入し、そして前記細胞を培養して、1つまたはそれより多いリプログラミング因子の発現を達成する工程を含む、人工多能性幹細胞(iPSC)を産生する方法に関する。前記導入は、トランスフェクション/ヌクレオフェクションを通じてであってもよい。細胞を、十分な期間、例えば約15~30日間培養して、細胞が多能性を有するようなリプログラミングを誘導することも可能である。
本発明の任意の部分のために必要とされるリプログラミング因子は、すべて、1つの閉鎖直鎖DNAベクター上にコードされてもよいし、あるいは、必要なリプログラミング因子が、2つまたはそれより多い閉鎖直鎖DNAベクター間に分割されてもよい。任意の数の閉鎖直鎖DNAベクターを用いてもよい。2つまたはそれより多い閉鎖直鎖DNAベクター、あるいは3、4、5、6、7、8またはそれより多くのベクターを用いてもよい。
閉鎖直鎖DNAベクター(単数または複数)は、染色体足場付着および複製のための配列、例えばOriP/EBNA1を欠いていてもよい。さらにまたはあるいは、閉鎖直鎖DNAベクターは、例えばRNA干渉によって、p53の抑制のための配列を欠いていてもよい。
閉鎖直鎖DNAベクター(単数または複数)によって発現されるリプログラミング因子は、成熟細胞をiPSCにリプログラミングするために必要な任意のリプログラミング因子であってもよい。リプログラミングベクターは、天然であっても、修飾されていても、または合成因子であってもよい。これらは、1つまたはそれより多くの山中因子であってもよい。閉鎖直鎖DNAベクター(単数または複数)を用いて、人工多能性幹細胞を産生するため、体細胞をトランスフェクションすることも可能である。体細胞は、一般的に、生殖系列細胞とは対照的に、体の細胞を指すために用いられ、そして卵または精子細胞以外の体のすべての細胞タイプを含む。
リプログラミングを達成するため、閉鎖直鎖DNAベクター(単数または複数)を体細胞にトランスフェクションする。トランスフェクションの任意の方法を用いることが可能であり、そしてこうした方法は、トランスフェクションを経るドナー細胞のタイプに依存しうる。いくつかの場合には、ヌクレオフェクションが必要とされる可能性もある。
次いで、トランスフェクションされた細胞を、適切な条件を用いて培養して、閉鎖直鎖DNAベクターからリプログラミング因子の発現を可能にする。リプログラミングを可能にするための条件は、一般的に当該技術分野に知られ、そして任意の適切な条件を選択することも可能である。理想的には、ヒト療法的使用のため、得られた細胞がいかなる動物構成要素混入も含まない(異種成分不含)ように、フィーダーフリー系で培養を行うことも可能である。細胞が多能性を有するように誘導するため、この培養工程を十分な時間行う。十分な時間は先に記載されている。
閉鎖直鎖DNAは、一般的に、各端で共有的に閉鎖されている二本鎖DNAであると理解される。したがって、DNAには未結合(free)3’または5’端はない。直鎖部分の二本鎖DNAは、配列が相補的である。変性した際、閉鎖直鎖DNAは、一本鎖サークルを形成可能である。DNAを任意の適切な配列によって各端で閉鎖して、任意の二次構造、例えばヘアピンまたはヘアピンループ、あるいはより複雑な構造、例えば十字型を形成してもよい。直鎖DNAの閉鎖端での配列は、相補的でもまたは非相補的でもよい。閉鎖直鎖DNAは、任意の適切な方法によって作製されてもよい。ヒト細胞におけるDNAベクターの使用を考慮すると、閉鎖直鎖DNAがいかなる原核DNA配列、例えば抗生物質耐性遺伝子または複製起点も含まないことを確実にすることが好ましい可能性もある。
本発明はさらに、本発明の方法を用いて作製された細胞に関し、これは、本発明者らが、これらが代替エピソームベクターを用いてトランスフェクションされたものに比較して、より高い等級にあるかまたはより安定であることを見出したためである。
本発明は、したがって、人工多能性幹細胞集団であって、本明細書に記載するような任意の使用または方法を用いて作製される、前記幹細胞集団にさらに関する。前記細胞集団は、閉鎖直鎖DNAベクターが細胞維持中に自然に失われるため、もはや閉鎖直鎖DNAベクターを持たない可能性もあり、このためこれらは、リプログラミング因子が除去されないレトロウイルス法を含めた現在の方法によって誘導される細胞よりもはるかにより安全なものになっている。前記発明には、したがって、少なくとも1つのリプログラミング因子をコードする閉鎖直鎖DNAベクターで誘導された、安定多能性幹細胞の療法的および/または優良製造基準(GMP)等級の集団が含まれる。
本発明の細胞は、好ましくはヒトである。
培養した際、多能性幹細胞は、一般的に密に充填される。分化した際、細胞はより疎に充填され、そしてしたがって、混合細胞集団(多能性および分化)において、少ない割合の分化細胞がより多く見える可能性もある。多能性幹細胞コロニーは、当業者によって等級付けされる。等級Aのコロニーは、明らかな縁および境界を持つ、明白な多能性幹細胞コロニーであり、細胞は密に充填され、そして分化はまったく見られず、またコロニーの縁の周囲には、分散した細胞はない。等級Bのコロニーは、縁に、自発的に分化した細胞を有し、これらはより分散しているため同定される。等級Cのコロニーは、主に自発的に分化しており、分散した細胞中にところどころ多能性幹細胞が残るのみである。
本発明者らは、閉鎖直鎖DNAベクターを用いて得られたコロニーのより多くが、カテゴリーAと分類され、特に当該技術分野の現在の技術を用いて得られる細胞に比較した際
にはそうであることを同定してきている。
安定性に関する指標となるデータは、等級Aと分類されるコロニーの生成である。こうした分析および分類には、特に、自発的分化に関して調べるためにコロニー境界を見る、適切な細胞コロニーの視覚的(顕微鏡によるものを含む)観察が含まれる。分化した細胞はより疎に充填されるため、これにより、コロニーは、より分散した縁を有するようになる。明らかな縁または境界を持つコロニーは等級Aに分類され、そしてしたがって、より安定であると定義され、これは、これらが多能性表現型を保持するためである。多能性状態において安定でない細胞は、自発的に分化する。したがって、視覚的検査によって、コロニー中の細胞の安定性を決定することが可能になる。
自発的分化はまた、分化に関するマーカー、または多能性に関するマーカーのいずれかの存在を用いて決定することも可能である。例えば、SSEA-1は、極初期分化/多能性状態からの退出のマーカーであり、そしてTRA-1-60およびTRA-1-81は、ヒトの多能性マーカーである。コロニーを抽出して、そして蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を用いた分析に供することも可能である。細胞を培養から解離させ、そして個々の細胞を、特定の細胞マーカー(すなわちSSEA-1またはTRA-18-1)に対するフルオロフォア・コンジュゲート化抗体を用いて標識する。次いで、これらがフルオロフォアで標識されているかどうかに応じて、細胞を分離する。現在、生存細胞に対してFACSを行って、そしてソーティング後に培養し続けることが可能である。
さらに、アルカリホスファターゼ(AP)活性は多能性状態と関連づけられており、そして個々の細胞または細胞コロニーに適用可能である比色基質アッセイを用いて、これを定量化することも可能である。AP活性に関して細胞を染色して、そしてコロニー中の細胞が多能性を持つことを視覚的に決定することが可能である。この染色は、プレート上で細胞を調べるために十分であるほど感度が高い。さらに、コロニー中のAP染色のレベルを決定する技術を用いて、定量的結果を提供することが可能である。この定量的データは、方法論間の比較を可能にする。APは、さらなる確認が必要な場合、当業者がコロニーを等級付けることを可能にしうる。
これらはすべて、多能性幹細胞コロニーの安定性を決定可能である方法の例である。
本発明にはしたがって、閉鎖直鎖DNAベクターで誘導された安定多能性幹細胞集団、特にEBNA1、あるいはその機能的変異体または誘導体を含有しない閉鎖直鎖DNAベクターで誘導された安定多能性幹細胞集団が含まれる。好ましくは、閉鎖直鎖DNAベクターはまた、OriP配列、あるいはその機能的変異体または誘導体も欠く。随意に、閉鎖直鎖DNAベクター(単数または複数)は、染色体足場付着のための遺伝子を欠く。さらにまたはあるいは、閉鎖直鎖DNAベクターは、p53抑制のための配列も欠いてもよい。
本発明の安定細胞またはリプログラミングされた細胞は、リプログラミングの他の方法では一般的な問題である、自発的分化を経る可能性がより少ない。実際、実施例において、閉鎖直鎖DNAによってコードされるリプログラミングベクターを用いてリプログラミングされた細胞は、標準的ベクターによって発現されるものよりもより安定であることが示されている(図5)。リプログラミングにおいて、外縁に、多能性を失い、そして分化している細胞を含むコロニーが一般的に観察される。この問題に取り組むため、一般的に、細胞はコロニーから機械的に切除される。本発明者らは、リプログラミング因子をコードする閉鎖直鎖DNAベクターを用いてリプログラミングされた細胞が、外縁で分化せず、そして切除される必要がないことを観察してきている。より多くのコロニーが等級Aと分類される。閉鎖直鎖DNAベクターによって発現されるリプログラミング因子を用いて生成されたiPS細胞の安定性を、多様な継代数で(すなわち継代10、15等で)FA
CsTM(蛍光活性化細胞ソーティング)を用いて確認することも可能である。細胞ソーティングを可能にする初期分化マーカーおよび/または多能性マーカーを用いて細胞を調べることも可能である。安定iPS細胞は、あるとしてもわずかな前者のマーカーしか持たず、そしてより多くの後者のマーカーを有するであろう。理想的には、本発明の方法にしたがって誘導されたiPSCは、細胞表面マーカーSSEA1の発現を低くしか、またはまったく持たず、そしてその表面上に、細胞表面マーカー、SSEA3、TRA-1-60またはTRA-1-81を発現するであろう。
FACS分析を用いて安定性を決定する際、細胞試料を評価するときに、最適なゲート化戦略を用いることが重要であろう。当業者は、破片を排除し、適切な陰性対照を含め、非生存細胞を排除し、適切な場合、共有されるマーカーで染色し、そして適切なフルオロフォア分析プロットをセッティングするため、適切なゲート化戦略を決定する際に考慮する必要がある要因を知っている。得られる結果は、ゲート化戦略の成功に依存するであろう。
本発明の細胞は、好ましくは、その産生を誘導するために用いた、閉鎖直鎖DNAベクター(単数または複数)を欠く。
本発明の方法および使用は、より遺伝的および表現型的に安定でありそしてより安全なiPSC集団を生じるため、これらはしたがって、臨床的および/または療法的に用いられることが可能である可能性がより高く、これらの細胞を得るための閉鎖直鎖DNAベクターの使用は新規である。本発明はしたがって、少なくとも1つのリプログラミング因子をコードする閉鎖直鎖DNAベクターを含む、療法的に許容されうる人工多能性幹細胞を調製するための組成物にさらに関する。本発明にはしたがって、少なくとも1つのリプログラミング因子をコードする閉鎖直鎖DNAベクター、および少なくとも1つの薬学的に許容されうる賦形剤を含む薬学的組成物がさらに含まれる。
閉鎖直鎖DNA(図においてdbDNAと示す)リプログラミング構築物の内容を概略するベクターマップ。構築物1は、2つの導入遺伝子L-mycおよびLIN28を含む、dbDNA-hULを示す。構築物2は、閉鎖直鎖DNA構築物内にshp53が含まれない点で、OriP-EBNA1導入遺伝子とは異なる、dbDNA-OCT3/4である。最後に、構築物3は、2つの導入遺伝子SOX2およびKLF4を含む、dbDNA-hSKを指す。実施例に用いた閉鎖直鎖DNA系は、したがって、リプログラミングを誘導するために使用可能である5つの導入遺伝子で構成される、3つのベクター系である。 図2A:閉鎖直鎖DNAまたは閉鎖直鎖DNAが由来したプラスミド:dbDNA-eGFPまたはプロTLxプラスミド-eGFPのいずれかでトランスフェクションした細胞からの緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現に関する蛍光強度中央値(MFI)を示すプロット。発現細胞から6つの時点に渡ってMFI値を収集した。MFI値は、GFP発現強度への指標を提供し、そしてこうしたものとして、どのくらい多くの細胞がGFPを発現するか、および発現強度への洞察を提供しうる。図2B:細胞が:閉鎖直鎖DNA(dbDNA)、閉鎖直鎖DNAが由来したプラスミド(プロTLx)またはOriP/EBNA1の追加を含むプロTLxの1つでトランスフェクションされた実験における、GFP分解動力学を示すプロット。トランスフェクションから20日後までの6つの時点で発現細胞から測定を行う。 (AおよびB、どちらも第14日、第15日および第18日):写真。リプログラミング中の異なる時点に渡る初期コロニー発展の例。線維芽細胞を閉鎖直鎖DNA(dbDNA)およびOriP-EBNA1リプログラミングベクターの両方でヌクレオフェクションした。A)閉鎖直鎖DNAトランスフェクション細胞、ならびに第14日および第18日の間の初期コロニー形成を示す。B)同様に、OriP-EBNA1トランスフェクション細胞、ならびに第14日および第18日の間の初期コロニー形成を示す。画像は、言及する期間に渡る、同じ実験の代表である。 写真。これらの画像は、閉鎖直鎖DNAまたはOriP-EBNA1を含むプラスミドのいずれかによるトランスフェクションによって産生された初期iPSコロニーに相当する。示す細胞はすべて、初期リプログラミングフラスコからの継代後の継代1の細胞である。 CLN3バッテン病の患者から採取され、そして閉鎖直鎖DNAでトランスフェクションされた皮膚線維芽細胞から生成された継代16のiPS細胞。OriP-EBNA1トランスフェクションを通じて得られる細胞はすでに分化を経ていたため、こうした細胞の写真は入手不能であった。したがって、閉鎖直鎖DNAに基づくリプログラミング因子でトランスフェクションされた細胞(dbDNA-iPSC)は、OriP/EBNA1を所持するプラスミド上の同じ因子でトランスフェクションされた細胞よりも、より安定であり、そしてはるかにより優れてその多能性特性を保持した。 (A~J):写真。CLN3バッテン病の患者から採取され、そして閉鎖直鎖DNAでトランスフェクションされた皮膚線維芽細胞から生成されたiPS細胞上の多分化能マーカーに関する免疫細胞化学染色(ICC)、陽性対照細胞の写真を伴う:A)OCT4発現に関してマーキングされた、閉鎖直鎖DNAトランスフェクション細胞。B)SOX2発現に関してマーキングされた、閉鎖直鎖DNAトランスフェクション細胞。C)NANOG発現に関してマーキングされた、閉鎖直鎖DNAトランスフェクション細胞。D)TRA-1-81発現に関してマーキングされた、閉鎖直鎖DNAトランスフェクション細胞。E)OCT4発現に関してマーキングされた、OriP-EBNA1プラスミドトランスフェクション細胞。F)SOX2発現に関してマーキングされた、OriP-EBNA1トランスフェクション細胞。G)TRA-1-81発現に関してマーキングされた、OriP-EBNA1トランスフェクション細胞。H)OCT4に関して染色された、陽性対照フィーダーフリーESC細胞。I)SOX2に関して染色された、陽性対照フィーダーフリーESC細胞。J)TRA-1-81に関して染色された、陽性対照フィーダーフリーESC細胞。 (A~D):CLN3バッテン病iPSCから分化した胚様体の写真。CLN3バッテン病の患者から採取され、そして閉鎖直鎖DNAでトランスフェクションされた皮膚線維芽細胞から生じたiPs細胞を、8日後、続いて分化させて胚様体を形成するよう強制し、その後さらに8日間、自発的に分化させた。A)閉鎖直鎖DNAで誘導されたiPSCが胚様体を形成する(倍率4x)。B)閉鎖直鎖DNAで誘導されたiPSCが胚様体を形成する(倍率10x)。C)閉鎖直鎖DNAで誘導されたiPSCが胚様体を形成し、そして次いで自発的分化を経る(倍率10x)。D)閉鎖直鎖DNAで誘導されたiPSCが胚様体を形成し、そして次いで自発的分化を経る(倍率10x)。 (A~C):閉鎖直鎖DNAで誘導されたiPSC:3胚葉系譜のマーカーに関して陽性染色された、これに由来するiPS成長。A)内胚葉系譜に関するSOX17染色。B)中胚葉系譜に関するα-平滑筋。C)神経外胚葉系譜に関するβ-IIIチューブリン。これは、iPS細胞が3つすべての細胞タイプを形成する能力を示し、細胞の多能性を示すことを示す。 (A~G):CLN3バッテン病の患者から採取され、そして閉鎖直鎖DNAまたはOriP/EBNA1の両方でトランスフェクションされた皮膚線維芽細胞(hDF)を利用したiPSCリプログラミング実験からのデータ。A)出発hDF、第1日(倍率4x)。B)閉鎖直鎖DNAベクターを利用してリプログラミングされている細胞において示される間葉系から上皮遷移の例(倍率10x)。C)閉鎖直鎖DNAベクターを用いた、第13日の初期潜在的コロニー形成(倍率20x)。D)第26日のiPSコロニー形成に向かう初期閉鎖直鎖DNAトランスフェクションドナー細胞(倍率4x)。E)第26日の初期閉鎖直鎖DNAトランスフェクションドナー細胞のiPSコロニー形成(倍率20x)。F)第13日のiPSコロニー形成に向かう初期OriP/EBNA1トランスフェクションドナー細胞(倍率10x)。G)第26日のOriP/EBNA1トランスフェクションドナー細胞からの初期iPSコロニー形成。 細胞写真。図10Aは、陰性対照およびプラスミド・プロTLx-Kを用いたリプログラミング実験からの結果を示す。このプラスミドは、主鎖の付加を伴う対応する閉鎖直鎖DNAベクターの全配列を含有し、そして二本鎖環状形式である。該プラスミドは、別に示さない限り、OriP/EBNA1を含有しない。各細胞タイプに関する最初の3つのパネルは、示す日の細胞の写真である。これらの実験中、1つの潜在的コロニーのみが形成された。この単一コロニーのアルカリホスファターゼ生存染色(AP)は、陰性を示し、これらの細胞が多能性幹細胞ではないことが示された(最後のパネル)。したがって、単純に、プラスミド中に提供される閉鎖直鎖DNAベクター配列中に存在するリプログラミング因子の配列のみでは、細胞のリプログラミングを達成するために十分ではない。 細胞写真。図10Bは、プラスミド・プロTLx-k、閉鎖直鎖DNAおよびOriP/EBNA1を含むプラスミドを用いたリプログラミング実験の比較を示す。プロTLx-kトランスフェクション細胞は、完全なリプログラミングに失敗し、部分的なリプログラミング領域が強調されるが、生存コロニーはまったく形成されていない。このプラスミドを閉鎖直鎖DNAまたはOriP/EBNA1を含むプラスミドに変換することによって、初期コロニー形成の産生が可能になった。これらの結果は、図11に立証するように、リプログラミングにおける有用性のためには、配列のみではなく、ベクター構造が必要であることを指し示す。 細胞写真。これらは、閉鎖直鎖DNAおよびOriP-EBNA1ベクターを用いたリプログラミング実験からの初期結果を示す。各細胞タイプに関する最初の3つのパネルは、示す日の細胞の写真である。アルカリホスファターゼ生存染色(AP)結果は陽性であり、これらの細胞が多能性幹細胞であることを示す(最後のパネル)。したがって、これは、閉鎖直鎖DNAベクターが、リプログラミングを達成するために十分なリプログラミング因子を発現したことを示す。 (AおよびB):実験中に形成されたiPS細胞の進行を示す写真。ドナー細胞をプロTLx(染色体付着手段を持たないプラスミド)でトランスフェクションした場合、iPS細胞はまったく生成されなかった。A列:閉鎖直鎖DNAトランスフェクション、列BはOriP/EBNA1トランスフェクションである。 多様なドナー細胞を用い、閉鎖直鎖DNAベクターによって発現されるリプログラミング因子を用いて生成されたiPS細胞。関連する箇所に倍率を示す。細胞は、バッテン病患者「CLN3」(縦列1)、「CLN7」(縦列2)由来であるか、あるいは細胞は非疾患hDF(縦列3)由来である。細胞を、リプログラミング因子をコードする閉鎖直鎖DNA(「dbDNA」)ベクターでトランスフェクションし、そして細胞を培養中に維持した。iPSCコロニーを形成する細胞の写真撮影をした。これは、いくつかの細胞タイプにおける本発明の有用性を立証する。 図14Aは、ベクター保持を示す実験からの結果を示す。これは、トランスフェクション細胞における閉鎖直鎖DNA(dbDNA)およびOriP/EBNA1ベクターの両方の保持を示す、アガロースゲル電気泳動に供されたPCRアンプリコンの写真である。PCR 25または35周期のいずれかに関する結果を示す。OriP/EBNA1エピソームベクターは、閉鎖直鎖DNAベクターよりもより多量に保持される。図14Bは、ベクター保持を立証する実験からの結果を示す。第35日の閉鎖直鎖DNAベクターまたはエピソームプラスミドベクター(OriP/EBNA1)の量を比較する。再び、エピソームプラスミドは、閉鎖直鎖DNAよりも、より多量に保持される。 図15は、iPSC集団の特性を示す図であり、細胞が多能性幹細胞であるかどうかを決定するために使用可能な特性を示す。 アガロースゲル電気泳動の写真。ESCおよびiPS細胞(CLN3バッテン病患者から採取した皮膚線維芽細胞を用い、閉鎖直鎖DNAベクターによって発現されるリプログラミング因子を用いて生成される)から単離されたRNAを逆転写して、第一鎖cDNAを産生した後、多能性遺伝子の内因性発現に関して特異的なPCR増幅を経た。PCRを30周期行った。OCT4、SOX2、LIN28、NANOG、E-カドヘリンの内因性発現を分析した。RN18S1を対照として用いた。 40の相対蛍光単位(RFU)のFACS分析閾値で、OriP/EBNA1ベクターまたは閉鎖直鎖DNAのいずれかを用いて誘導されたSSEA1発現iPSC細胞の割合を示すヒストグラム。アイソタイプ対照中に示されるバックグラウンド染色に基づき、40の相対蛍光単位の閾値を用いて、SSEA-1陽性細胞を決定し、これらの上および下のヒストグラム下面積を計算して、パーセンテージを決定した。本発明の方法にしたがって誘導したものよりも、OriP/EBNA1誘導細胞において、より多くのSSEA1陽性細胞が観察された。 図18(a):dbDNA(閉鎖直鎖DNA)およびOriP/EBNA1ベクターで生成したiPSCにおける多能性関連転写物の単色ヒートマップ比較。ヒトiPSC株をdbDNAベクターまたはOriP/EBNA1エピソームプラスミドを用いて生成し、そして親正常ヒト皮膚線維芽細胞株およびShef3ヒトESC株と並べて、RNA配列決定を用いて比較した。多能性関連転写物の階層的クラスター形成は、閉鎖直鎖DNA生成iPSCが、OriP/EBNA1を用いて生成したものよりも、ESCにより似ていることを示した。 図18(b)は着色した同じヒートマップである。 図19(a):dbDNA(閉鎖直鎖DNA)およびOriP/EBNA1ベクターで生成したiPSCの間の多能性幹細胞分化と関連する転写物の比較を示す単色ヒートマップ。ヒトiPSC株をdbDNAベクターまたはOriP/EBNA1エピソームプラスミドを用いて生成し、そしてRNA配列決定を用いて、Shef3ヒトESC株と比較した。初期分化と関連する転写物の階層的クラスター形成は、閉鎖直鎖DNA生成iPSCが、OriP/EBNA1を用いて生成したものよりも、ESCにより似ていることを示した。 図19(b)は着色した同じヒートマップである。 RNA配列決定データからのヒストグラム、実施例9。図20A(OriP-EBNA1濃縮遺伝子のリアクトーム経路分析)は、免疫系、シグナル伝達、代謝、タンパク質の代謝、遺伝子発現(転写)、発生生物学、疾患、細胞外マトリックス構成、止血、外部刺激に対する細胞反応、小分子の輸送、小胞仲介性輸送、RNA代謝、細胞周期、筋収縮、細胞-細胞コミュニケーション、神経系、プログラム細胞死、クロマチン構成、細胞内小器官生合成および維持、DNA修復、再生、概日時計、DNA複製、マイトファジーならびに消化および吸収に関連する遺伝子を示す。 図20B(免疫系反応-OriP-EBNA1)は、インターフェロンアルファ、ベータおよびガンマシグナル伝達が、dbDNA(閉鎖直鎖DNA)仲介性iPSC生成に比較した際、OriP/EBNA1において最も強く過剰提示されていることを、リアクトーム下位分類が示すことを示す。インターロイキンおよびNF-κB炎症性シグナル伝達もまた過剰提示される。免疫系および自然免疫におけるサイトカインシグナル伝達は、dbDNA(閉鎖直鎖DNA)仲介性iPSC生成に比較した際、OriP/EBNA1において最も過剰提示されるリアクトームである。閉鎖直鎖DNA iPSCに比較して、OriP/EBNA1 iPSCにおいて最も有意に過剰提示される転写物を、リアクトーム経路分析を用いて分析した。 (a~g)OriP/EBNA1対dbDNA(閉鎖直鎖DNA)iPSCにおけるインターフェロン(IFN)シグナル伝達の定量的RT-PCR比較。OriP/EBNA1エピソームプラスミドまたは閉鎖直鎖DNAベクターを用いて生成したiPSCから総RNAを抽出した。すべての生得的IFNシグナル伝達関連転写物は、dbDNA-iPSCに比較して、OriP/EBNA-iPSCで上昇していた。試験したマーカーは:21A-IRF9、21B-IRAK1、21C-IFI27、21D-IRAK4、21E-IRF7、21F-MYD88、および21G-IRF1であり、そして相対発現レベルを示す。 (aおよびb)OriP/EBNA1対dbDNA(閉鎖直鎖DNA)iPSCにおける炎症性マーカーの定量的RT-PCR比較。OriP/EBNA1エピソームプラスミドまたは閉鎖直鎖DNAベクターを用いて生成したiPSCから、総RNAを抽出した。図22Aは、HMOX1(酸化ストレスマーカー)に関するデータを示し、そして図22bはNFKB1(炎症マーカー)を示し、どちらも閉鎖直鎖(dbDNA)-iPSCに比較して、OriP/EBNA1-iPSCにおいて上方制御されている。 (a~c):閉鎖直鎖DNA-iPSC(doggybone-閉鎖直鎖DNA)に比較したOriP/EBNA1-iPSCにおける分化マーカーの上方制御を示すプロットである。定量的RT-PCRを用いて、初期分化マーカーとして、中内胚葉形成および初期内胚葉を示す転写物を評価した。すべての例において、定常状態条件下で培養した閉鎖直鎖DNA-iPSCに比較して、OriP/EBNA1-iPSCにおいて、初期分化マーカー増加があった。さらに、dbDNA-iPSCに比較して、OriP/EBNA1-iPSCにおいて、細胞周期阻害剤であるCDKN1A(p21)の発現増加があった。CDKN1A仲介性増殖阻害は、多能性幹細胞分化のさらなる指標である。図24Aは、グースコイドを示し、図24BはSOX17を示し、そして図24CはCDKN1Aを示す。リプログラミング工程に関し、ベクタータイプに対して相対発現値をプロットする。
詳細な説明
本発明者らは、細胞分裂中に細胞の染色体に係留し、そして/または染色体とともに分離する手段、あるいは細胞におけるベクターの維持を延長する手段を欠く、一過性ベクターを用いた、人工多能性幹細胞を生成する方法を開発してきている。これは、多くの利点を有し、特に、潜在的に発癌性であるEBNA1または他の発現遺伝子の使用を回避することが可能である。さらに、コードされるリプログラミング因子の発現は十分であるが一過性であるため、これもまた、発現が有害でありうるように、リプログラミングプロセスを越えた長期間に渡って、誘導された細胞がこれらの因子に曝露されないことを確実にする。これは、いくつかのリプログラミング因子、例えばc-Mycはそれ自体、癌遺伝子であることが知られるため、有益でありうる。したがって、こうした因子の発現時間を限定することが好ましい。本発明によって開発された使用および方法は、多能性を誘導するために必要な最低限の期間に渡ってのみ発現され、そして次いで、細胞が増殖するにつれて、ベクターの喪失に伴い、発現は自然に失われる。本発明のベクターは、細胞における複製が可能ではない。このベクターの使用は、安定した多能性幹細胞コロニーの産生を生じることが見出されてきており、こうしたコロニーは、標準的OriP/EBNA1ベクターで作製したものに先立って使用に利用可能であり、これは後者の細胞が、エピソームベクターを取り除くため、より長い間培養しなければならないためである。
多能性は、多能性細胞に特異的なシグナル伝達分子および遺伝子ネットワークの複雑な系によって補助される。多能性の維持に最も強く関与する遺伝子は、転写因子をコードするOct4、Sox2、およびNANOG遺伝子である。人工多能性幹細胞は、広い範囲の特徴においてESCとよく似ている。これらは、類似の形態および増殖上の振る舞いを有し、そして増殖因子およびシグナル伝達分子に等しく感受性である。ESC同様、iPSCはin vitroで3つすべての初期胚葉(神経外胚葉、中胚葉、および内胚葉)の派生物に分化可能である。多能性遺伝子発現、例えばNANOG発現は、後期中にのみ発現され、そして忠実なリプログラミングを示す。NANOG発現は、したがって、例えば、多能性の指標として使用可能である。
したがって、多様な体細胞タイプから多能性幹細胞の調製を可能にする一方、細胞を「フットプリントフリー」(リプログラミング因子を発現する遺伝子を含まない)にする傑出した方法は、こうした細胞の療法的使用を望む者には高い関心の対象となる。理想的には、体細胞を個体から採取し、多能性状態に誘導し、必要に応じて修飾し、必要な細胞タ
イプに分化させ(必要な場合)、そして同じ個体に再導入することも可能である。したがって、ヒトおよび動物療法は、iPSCへの変換および必要に応じた分化後に細胞を自己移植することを想定する。ドナーまたは元来の細胞が臍帯血などの供給源から採取されている場合、同種異系移植が適切である可能性もある。
1つの側面において、本発明はしたがって、人工多能性幹細胞を産生するための、1つまたはそれより多いリプログラミング因子をコードする閉鎖直鎖DNAベクターの使用に関する。1つまたはそれより多い、あるいは2つまたはそれより多い閉鎖直鎖DNAベクターが、先に記載するように必要とされうる。
閉鎖直鎖DNAベクターを用いて、細胞、好ましくは体細胞、最も好ましくは成熟体細胞をトランスフェクションしてもよい。そのいくつかを本明細書に記載する任意の適切な手段によって、トランスフェクションを実行してもよい。
トランスフェクション後、多能性幹細胞へのリプログラミングを補助することが知られる任意の適切な条件を用いて細胞を培養する;これらの方法のいくつかを本明細書に記載する。
使用は、1つまたはそれより多いリプログラミング因子をコードする、1つの閉鎖直鎖DNAベクター種のものであってもよいし、あるいは各々少なくとも1つの異なるリプログラミング因子をコードする、2つまたはそれより多い閉鎖直鎖DNAベクターのものであってもよい。単独でまたは組み合わせて、閉鎖直鎖DNAベクターは、細胞に、多能性を誘導するために必要なリプログラミング因子を供給することも可能である。閉鎖直鎖DNAベクターが、ある比率の必要なリプログラミング因子を細胞に供給し、そして残りの必要な因子を、細胞における発現されたリプログラミング因子の効果に「つぎ足す(top up)」ため、細胞に外因性に供給することが可能である。この場合、閉鎖直鎖DNAは、多能性を誘導するために必要なリプログラミング因子の50、55、60、65、70、75、80、85、90または95%あるいはそれより多くを提供することも可能である。残りの比率は、例えば、細胞の培地に直接添加される因子によって、外因性に供給されることも可能である。
他よりも多量に1つまたはそれより多いリプログラミング因子を発現する必要がある可能性もあり、そしてしたがって、特定のリプログラミング因子は、2つまたはそれより多くの閉鎖直鎖DNA分子上にコードされることも可能であるし、あるいは1つの閉鎖直鎖DNAが、他に比較して因子の発現を増加させるため、2コピーのリプログラミング因子を含むことも可能である。あるいは、各リプログラミング因子に関する独立のプロモーターを用いることによって、発現を制御することも可能である。さらなる代替法として、1つまたはそれより多くのリプログラミング因子の上流で、1つまたはそれより多いIRES配列(内部リボソーム進入部位)を用いることによって、発現を制御することも可能である。
したがって、1つの側面において、本発明は、1つまたはそれより多いリプログラミング因子を含む1つまたはそれより多い閉鎖直鎖ベクターを体細胞集団内に導入して、そして前記細胞を培養して、1つまたはそれより多いリプログラミング因子の発現を達成する工程を含む、人工多能性幹細胞(iPSC)を産生する方法に関する。
多能性特性が観察されるまで細胞を培養してもよく、そしてこうしたコロニーを、必要に応じて、さらなる増殖のために単離してもよい。培養条件は当業者に知られ、そしていくつかの例示的な方法を本明細書に論じる。多能性を誘導するために十分な時間、細胞を培養する。
閉鎖直鎖DNAを、トランスフェクションを通じて体細胞内に導入してもよい。任意の適切なトランスフェクション手段を用いてもよく;このうちいくつかを本明細書に記載する。
本発明の任意の部分に関する必要なリプログラミング因子は、すべて、1つの閉鎖直鎖DNAベクター上にコードされてもよいし、あるいは必要なリプログラミング因子は、2つまたはそれより多い閉鎖直鎖DNAベクター間に分配されてもよい。任意の数の閉鎖直鎖DNAベクターを用いてもよい。最終的にiPSCを生じるために、本発明の方法または使用において、1つまたはそれより多くの異なる閉鎖直鎖ベクターを用いてもよい。閉鎖直鎖DNAベクターは、各々、1つまたはそれより多い異なるリプログラミング因子を発現してもよい。閉鎖直鎖DNAベクターは各々、2つまたはそれより多いリプログラミング因子、例えば2つ、3つ、4つ、5つまたは6つのリプログラミング因子を発現してもよい。
本発明の任意の側面の閉鎖直鎖DNAには、好ましくは、リプログラミング因子に作動可能であるように連結されたプロモーターまたはエンハンサーが含まれる。1つまたはそれより多いプロモーターまたはエンハンサーを必要に応じて用いてもよい。各々は、異なる因子に連結されていてもよい。
「プロモーター」は、ポリヌクレオチドの転写を開始し、そして制御するヌクレオチド配列である。プロモーターには、誘導性プロモーター(プロモーターに作動可能であるように連結されたポリヌクレオチド配列の発現が、分析物、補因子、制御性タンパク質等によって誘導される場合)、抑制可能プロモーター(プロモーターに作動可能であるように連結されたポリヌクレオチド配列の発現が、分析物、補因子、制御性タンパク質等によって抑制される場合)、および恒常性プロモーターが含まれうる。用語「プロモーター」または「エンハンサー」には、全長プロモーター領域およびこれらの領域の機能性(例えば転写または翻訳を制御する)セグメントが含まれると意図される。
「作動(機能)可能であるように連結された(operably linked)」は、通常の機能を
実行するために、こうして記載される構成要素が設定されている、要素の配置を指す。したがって、核酸配列に作動可能であるように連結された所定のプロモーターは、適切な酵素が存在した際、その配列の発現を達成することが可能である。プロモーターは、配列の発現を導くように機能する限り、該配列と連続している必要はない。したがって、例えば、介在する翻訳されないが転写される配列が、プロモーター配列および核酸配列の間に存在してもよく、そしてプロモーター配列は、なお、コード配列に「作動可能であるように連結されている」と見なされうる。したがって、用語「作動可能であるように連結された」は、転写複合体によるプロモーター要素の認識に際して、関心対象のDNA配列の転写開始を可能にする、プロモーター要素および関心対象のDNA配列(例えばリプログラミング因子)のいかなる間隔または配向も含むよう意図される。実施例において、CAG合成プロモーター融合配列を用いる。CAGは、CMVエンハンサー、ニワトリ・ベータ-アクチンプロモーターおよびウサギ・ベータ-グロビン・スプライスアクセプター部位を表し、効率的な発現のための組み合わせ融合物である。したがって、この融合物において、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーをニワトリ・ベータ-アクチンプロモーターの上流で用いて、これは、ニワトリ・ベータ-アクチン遺伝子の第一エクソンおよび第一イントロンと関連している。これは、これらの実施例に関して用いる特に有用な配列であるが、他の適切な配列を用いてもよい。閉鎖直鎖DNAベクターは、好ましくは、宿主/ドナー細胞の分裂中に複製し、そして分配する能力を欠く。したがって、閉鎖直鎖DNAベクター(単数または複数)は、染色体足場付着のためのいかなる機能配列も欠くことも可能である。したがって、閉鎖直鎖DNAベクターは、好ましくは、EBNA1、あ
るいはその機能的誘導体、変異体、または修飾のための配列を欠く。EBNA1のこうした機能的誘導体、変異体または修飾型は、EBNA1の天然配列に対して、90%またはそれより高く、好ましくは95%相同である。EBNA1は、N末端フックモチーフであり、ATリッチ染色体領域に結合するLR1およびLR2を通じて、ベクターを宿主細胞DNAに付着させることが可能である。閉鎖直鎖DNAはまた、あるいは別に、OriP配列を欠くことも可能である。OriPは、ヒト細胞におけるベクターの複製および安定な維持を支持するエプスタイン-バーウイルス(EBV)染色体の1.7kb領域である。OriPは、DSおよびFRと称される2つの必須構成要素を含有し、これらはどちらも、EBVにコードされるタンパク質、EBNA-1の多数の結合部位を含有する。閉鎖直鎖DNAベクターは、好ましくは、OriP配列またはその機能的誘導体を欠く。OriPのこうした機能的誘導体または修飾型は、OriPの天然配列に対して、90%またはそれより高く、好ましくは95%相同である。本明細書において、「機能的」は、変異体または誘導体が、エピソームベクターの複製および分割において、非修飾型と同じ方式で働くことを意味する。OriP配列はまた、遺伝子発現のエンハンサーとして機能することも可能である。遺伝子発現を増進するこの能力を保持する一方、クロマチンに係留する能力を維持しないOriP配列の断片または部分を用いることも可能でありうる。OriP配列のこうした断片または部分は、細胞分裂中の配列保持に関する限り、OriPの機能的誘導体であると見なされないであろう。
染色体足場付着として作用しうる他の遺伝子または配列には、足場/マトリックス付着領域(S/MAR)が含まれる。付着する能力を保持するこうした配列あるいは機能的相同体または誘導体もまた、閉鎖直鎖DNAベクターには存在しなくてもよい。
しかし、閉鎖直鎖DNAベクターが単に機能的OriP/EBNA1配列を欠き、そしてしたがって、細胞分裂中にドナー/宿主細胞の染色体に係留不能であることが好ましい。
閉鎖直鎖DNAベクターは、望ましい機能および構造に必要な配列(すなわちこれらが送達する配列、および二本鎖直鎖セクションの末端で、閉鎖端、例えば十字型、ヘアピンまたはヘアピンループをコードする配列)のみを含む最少ベクターであるように設計されていることも可能である。閉鎖直鎖DNAベクターから排除されてもよい不要なまたは外来の配列(細菌またはウイルス配列としてもまた記載される)には、細菌複製起点、細菌選択マーカー(例えば抗生物質耐性遺伝子)、および非メチル化CpGジヌクレオチドが含まれてもよい。こうした配列を含まないことによって、これは外来遺伝物質を含有しない「最小限」のベクターの生成を可能にする。これは、ベクターの性能に影響を及ぼしうるかまたは不要な副作用を引き起こしうる遺伝物質(すなわち抗生物質耐性遺伝子)が導入されないため、細胞を療法目的に用いようとする場合、好ましい可能性もある。
さらに、プロモーター、エンハンサーまたはターミネーター配列以外の哺乳動物ウイルス由来の配列を省くことが望ましい可能性もある。哺乳動物ウイルス配列は、ベクターDNAの宿主細胞DNAへの組込みを促進する能力を有しうる。したがって、閉鎖直鎖DNAは、組込みを促進するウイルス配列を含まなくてもよい。こうした配列は、任意の哺乳動物ウイルスに由来しうるが、特に、宿主DNA内に組込む潜在能力を有するウイルス、例えばレトロウイルスに由来する。DNAを組込む能力を有する他のウイルスクラスには、パルボウイルス科(ヒトパルボウイルスおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)を含む)、ヘパドナウイルス科(B型肝炎ウイルスを含む)、ヘルペスウイルス科(ヘルペスウイルス)、パピローマウイルス科(ヒトパピローマウイルスを含む)およびポリオーマウイルス科(シミアンウイルス40を含む)が含まれる。組込みを促進する要素には、インテグラーゼ酵素または例えば反転末端反復中のRep結合部位などの配列が含まれうる。
実施例において、閉鎖直鎖DNAベクター(単数または複数)は、p53の抑制のためのいかなる手段も欠いてもよいことが示されてきている。腫瘍タンパク質53(p53)遺伝子のノックアウトは、リプログラミングを促進すると報告されてきているが、また、ゲノム不安定性にも関連付けられる。細胞周期制御因子p53は、重要な安全装置機構として作用し、細胞がDNA損傷後に制御されない増殖を経るのを止める。さらに、p53はまた、リプログラミングプロセスに対するバリアとして働くことも示されてきている。p53の阻害は、リプログラミング効率には好適であるが、ゲノム不安定性を引き起こすこともまた見出されてきている。本出願の発明者らは、閉鎖直鎖DNAベクターが、p53の抑制を引き起こす配列を伴わなくても、リプログラミングを引き起こしうることを見出した。p53のノックダウンは、小分子干渉RNA(siRNA)または小分子ヘアピンRNA(shRNA)の発現を含む、多くの手段によって達成されてもよい。閉鎖直鎖DNAベクターが、一般的に、sip53およびshp53と示される、p53に対してターゲティングされるsiRNAおよびshRNAの両方を欠くことが好ましい。
1つまたはそれより多い閉鎖直鎖DNAベクターによって発現されるリプログラミング因子は、体細胞をiPSCにリプログラミングするために必要とされる任意のリプログラミング因子であってもよい。リプログラミングベクターは、天然であっても、修飾されていても、または合成因子であってもよい。リプログラミング因子は、閉鎖直鎖DNAベクターから発現されるポリペプチド、糖ペプチドまたはタンパク質であってもよい。こうしたリプログラミング因子には転写因子が含まれる。転写因子は、特定のDNA配列に結合することによって、DNAからメッセンジャーRNAへの遺伝情報の転写速度を制御するタンパク質である。あるいは、リプログラミング因子は、閉鎖直鎖デオキシリボ核酸(DNA)から発現される機能的リボ核酸(RNA)分子であってもよい。こうした機能的RNA分子には、マイクロRNA(miRNA-メッセンジャーRNA上の相補配列に結合し、そして遺伝子の発現をブロッキングする小分子RNA分子)が含まれる。胚性幹細胞特異的マイクロRNA分子(例えばmiR-291、miR-294およびmiR-295)は、c-Myc/L-Mycの下流に作用することによって、人工多能性の効率を増進させる。発現されてもよいRNAの他のタイプには、リボザイム、アプタマー、および小分子干渉RNA(siRNA)が含まれる。さらに、リプログラミング因子は、長鎖非コードRNAであってもよい。これらは、長さ200ヌクレオチドよりも長く、ペプチドをコードせず、そして制御機能を有する。長鎖非コードRNAは、細胞分化および発生のために重要である。これらは、以前、遺伝子クラスターを停止させることが可能であることが示されてきており、長鎖非コードDNAの例には、HOTAIR RNAおよびXist RNAが含まれる。
1つまたはそれより多いリプログラミング因子は、転写因子であってもよい。例えば、1つまたはそれより多くは、山中因子であってもよく;これには、転写因子Myc、Oct3/4、Sox2およびKlf4が含まれる。これらは、山中ら(Takahashi, K; Yamanaka, S (2006). ”Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors”. Cell. 126 (4): 663-76. doi:10.1016/j.cell.2006.07.024)によって立証されるように、成熟細胞が多能性を持つように誘導しうることが示された、最初の4因子である。
しかし、それ以来、さらなる研究によって、リプログラミングベクターの他の組み合わせを用いてもよいことが立証されてきている。例えば、OCT4、SOX2、NANOG、およびLIN28の組み合わせは、体細胞において多能性を誘導することが見出されてきている。
したがって、任意の組み合わせの転写因子を、本発明の任意の側面にしたがったリプログラミング因子として用いてもよい。また、任意の転写因子を他のリプログラミング因子、例えばsiRNA、miRNA、長鎖非コードRNA、リボザイムおよび/またはアプタマーと組み合わせてもよい。
Oct-3/4およびSox遺伝子ファミリーの特定の産物(Sox1、Sox2、Sox3、およびSox15)は、誘導プロセスに関与する転写制御因子として同定されてきている。
しかし、Klfファミリーの特定のメンバー(Klf1、Klf2、Klf4、およびKlf5)、Mycファミリー(c-myc、L-myc、およびN-myc)、NANOG、およびLIN28を含むさらなる遺伝子が、誘導効率を増加させると同定されてきている。
Oct-3/4(Pou5f1)は、八量体転写因子ファミリーのメンバーであり、そして多能性を維持する際に必須の役割を果たす。したがって、Oct-3/4の存在は、胚性幹細胞の多能性および分化潜在能力を生じさせる。
転写因子のSoxファミリーは、Oct-3/4に類似の方式で、多能性の維持に関連する。Sox2は誘導のために用いられた最初の遺伝子(山中)であったが、Soxファミリーの他の転写因子もまた、誘導プロセスにおいて働くことが見出されてきている。Sox1、Sox3、Sox15、およびSox18もまた、減少した効率ではあるが、多能性細胞を生成する。
転写因子のKlfファミリーのKlf4は、ヒト多能性細胞の生成のための因子として山中によって最初に同定された。しかし、他の研究者らが、ヒト多能性細胞の生成にはKlf4は不要であることに注目してきている。Klf2およびKlf4は、多能性細胞を生成可能な因子であることが見出され、そして関連遺伝子Klf1およびKlf5は、類似の効果を有しうる。
転写因子のMycファミリーは、癌に関連付けられる癌原遺伝子である。山中は、c-mycが、ヒト多能性細胞の生成に関与する因子であることを立証した。多能性幹細胞の誘導における遺伝子の「myc」ファミリーの使用は、臨床療法としてのこれらの細胞の最終的な使用には厄介である。N-mycおよびL-mycは、類似の効率で、c-mycの代わりに誘導することが同定されてきている。
胚性幹細胞において、NANOGは、Oct-3/4およびSоx2とともに、多能性の促進に必要である。因子の1つとして、NANOGを用いて、多能性幹細胞を生成することが可能である。
LIN28は、胚性幹細胞において発現されるmRNA結合タンパク質である。LIN28は、時にOCT4、SOX2、およびNANOGと組み合わせられる、多能性幹細胞生成における因子であることが立証されてきている。
Glis1は、多能性を誘導するため、Oct-3/4、Sox2およびKlf4とともに用いられて、c-Mycを置き換えることが可能である転写因子である。
したがって、本発明にしたがって、1つまたはそれより多いリプログラミング因子を以下の任意の組み合わせより選択してもよい:
Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Klf1、Klf2、Klf4、Klf5、c-myc、L-myc、およびN-myc、NANOG、およびL
IN28。
現在、当該技術分野において、任意の供給源由来の細胞に供給されるリプログラミング因子の最小数は、全部で4であると見なされている。この最小数は、リプログラミングを促進するために必要であるようである。しかし、将来的に、わずか2、3またはそれより多いリプログラミング因子を用いて、リプログラミングを促進することも可能でありうる。
コードされるリプログラミングベクターは、本明細書記載の配列いずれかの機能的誘導体または変異体であってもよい。これらの機能的誘導体または変異体は、リプログラミングにおいて同じ機能的効果を有するが、野生型配列と比較した際、改変された配列を有する。機能的誘導体または変異体は、野生型配列に対して、少なくとも90%同一、少なくとも95%、96%、97%、98%または99%同一である。
特定の態様において、閉鎖直鎖DNAが、必要なリプログラミングベクターの一部の発現を細胞に提供し;培養中に細胞に供給される外因性供給リプログラミング因子もまた、多能性に到達するために必要である。したがって、ハイブリッドアプローチを考慮する。これらの外因性増殖因子は、転写因子の作用を模倣する小分子化学物質であることも可能であり、そしてこれには、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤のバルプロ酸、BIX-01294でのヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT)の阻害が含まれる。これらの小分子化合物は、リプログラミング因子を補償しうる。しかし、いかなるハイブリッドアプローチにおいても、必要なリプログラミング因子の少なくとも50%は、閉鎖直鎖DNAベクターの発現によって提供されるであろう。これは、例えば、必要な4つの因子のうち、少なくとも2つが、閉鎖直鎖DNAベクター上で提供されることを意味する。必要なリプログラミング因子の少なくとも60、70、80、90または95%が閉鎖直鎖DNAベクターを通じて供給されることが好ましい可能性もある。
人工多能性幹細胞を産生するため、閉鎖直鎖DNAベクター(単数または複数)を用いて、体細胞をトランスフェクションしてもよい。体細胞は幹細胞または成熟細胞であってもよい。これらの細胞は、「ドナー細胞」と称されうる。成体幹細胞は体全体でみられる未分化細胞である。これらは死んだ細胞を補充し、そして損傷を受けた組織を再生するため、細胞分裂によって複製可能である。成体または体性幹細胞は、脳、骨髄、末梢血、血管、骨格筋、皮膚、歯、心臓、腸、肝臓、卵巣上皮、および精巣を含む、多くの臓器および組織において同定されてきている。これらは「幹細胞ニッチ」と呼ばれる各組織の特定の領域中に存在し、そしてその組織のみに細胞供給源を提供すると考えられる。成体幹細胞タイプには、造血幹細胞(これらはすべてのタイプの血球を生じる)、間葉系幹細胞(多くの組織中、例えば骨髄中に存在する)、神経幹細胞(脳および神経系)、上皮幹細胞(消化管)、皮膚幹細胞(上皮基底層および毛包の根本)が含まれる。成体幹細胞は、ひとたび体の外に出ると、増殖は困難であることが立証されうる。
成熟細胞がドナー細胞として採取される場合、これらは体の任意の組織、臓器、体液または排泄物に由来してもよい。したがって、細胞は、限定されるわけではないが、骨、歯科組織、心臓、肺、脳、膵臓、肝臓、腎臓、膀胱、子宮、腸、胃、胆嚢、筋肉、脂肪、精巣、粘膜、眼、包皮、前立腺、脾臓または任意の他の組織を含む任意の組織または臓器に由来する、皮膚細胞、毛包細胞、血球、尿から抽出される細胞、生検によって収集される細胞等であってもよい。
細胞療法の臨床適用には、患者からの組織収集が、可能な限り最小限に侵襲性であり、そして生検によるヒト皮膚線維芽細胞の採取が、患者の体に小さな傷しか残さない必要がある。多能性幹細胞は、近年、抜き取られた毛髪から誘導されたヒト角化細胞から生成さ
れてきている。口腔歯肉および口腔粘膜線維芽細胞は、より侵襲性でなく得られることが可能であり;やはり、iPSC生成のために調べられてきている。尿中に排出される腎臓細胞もまた、細胞の有用な供給源であり、そしてまた非侵襲性に収集可能である。
臍帯血もまた、別のドナー細胞供給源である。臍帯血由来細胞は、リプログラミング因子を導入する前に、侵襲性生検を必要としない。保存された臍帯血細胞は、免疫学的情報がすでに入手可能であり、したがって同系異種移植が起こることを可能にするために、iPSC生成における使用には、比較的複雑でない。
末梢血細胞もまた魅力的な細胞供給源であり、これは、患者からの細胞採取のための方法がより侵襲性でないためである。
しかし、本発明の使用および方法のためには、細胞の任意の適切な供給源を「ドナー細胞」として用いてもよい。
療法的臨床的目的のため、患者から細胞を生成し、そしてこれらの細胞を同じ患者に戻す(自己移植)ことを目的とするが、本発明の使用および方法はまた、1人の被験体由来の細胞を別の被験体にトランスファーする、同種異系移植にも拡張可能である。
リプログラミングを達成するため、閉鎖直鎖DNAベクター(単数または複数)を体細胞内にトランスフェクションする。トランスフェクションの任意の方法を用いてもよく、そしてこうした方法は、トランスフェクションを経るドナー細胞のタイプに依存しうる。
陽イオン性脂質がドナー細胞内へのDNA送達を促進する、陽イオン性脂質トランスフェクションを使用してもよい。この方法の代替法には、陽イオン性ペプチドおよびその誘導体(例えばポリリジン、ポリオルニチン)、直鎖または分枝鎖合成ポリマー(例えばポリブレン、ポリエチレンイミン)、多糖に基づく送達分子(例えばシクロデキストリン、キトサン)、天然ポリマー(例えばヒストン、コラーゲン)、ならびに活性化および非活性化デンドリマーの使用が含まれる。
エレクトロポレーション技術は、細胞膜に一時的に穴をあけて、電場を用いたDNA進入を可能にするか、またはDNAのエンドサイトーシスを促進する。ヌクレオフェクションTM(Lonza)は、エレクトロポレーションに基づくトランスフェクション法であり、該方法は、特定の電圧および試薬を適用することによって、細胞内へのDNAおよびRNAなどの核酸のトランスファーを可能にする。
特定のドナー細胞には、リン酸カルシウム共沈殿を用いてもよい。
次いで、適切な条件を用いて、トランスフェクション細胞を培養して、閉鎖直鎖DNAベクターからのリプログラミング因子の発現を可能にする。リプログラミングを可能にするための条件は、一般的に、当該技術分野に知られ、そして任意の適切な条件を選択してもよい。理想的には、ヒト療法的使用のため、得られる細胞がいかなる動物(異種成分)混入も含まないように、培養をフィーダーフリー系で行ってもよい。
実施例において、第0日、ヒト皮膚線維芽細胞(hDF)を、閉鎖直鎖DNAに基づくリプログラミング因子(SOX2、OCT4、KLF4、L-Myc、LIN28)でヌクレオフェクションし(図1)、こうした因子は多能性状態を誘導するために必要である。次いで、細胞を、完全DMEM中、単一の6ウェル上に蒔いた。
続いて、第1日、培地を新鮮にした後、続いて、2日ごとに交換した。>90%の集密度に到達したら、次いで、hDFを継代し、そしてフラスコに植え付けた。第8日、リプログラミング中のhDFを、細胞解離酵素を利用して解離させた後、60,000の細胞
を、フィーダー層iMEFを含有するフラスコに再植え付けした。24時間後、次いで、細胞培地を完全DMEMからhESC培地に交換して、これを2日ごとに補充した。
閉鎖直鎖DNAは、一般的に、各端で共有的に閉鎖された二本鎖DNAであると理解される。したがって、DNAの二本鎖部分は相補的である。変性した際、閉鎖直鎖DNAは一本鎖サークルを形成しうる。DNAは、好ましさに応じて、十字型、ヘアピンまたはヘアピンループを含む、任意の適切な構造によって、各端で閉鎖されていることも可能である。閉鎖直鎖DNAの末端は、非相補配列で構成されて、したがって、十字型、ヘアピンまたはヘアピンループで、DNAを一本鎖立体配置に強制することも可能である。あるいは、配列は相補的であってもよい。プロテロメラーゼ(protelomerase)酵素のターゲット配列の部分によって、末端を形成することが好ましい可能性もある。プロテロメラーゼターゲット配列は、DNAテンプレート中の存在がプロテロメラーゼの酵素活性を可能にする、任意のDNA配列であり、該酵素は、DNAの二本鎖部分を切断し、そして再連結して、共有閉鎖端を残す。一般的に、プロテロメラーゼターゲット配列は、任意の完全なパリンドローム配列、すなわち、2回回転対称を有する任意の二本鎖DNA配列、あるいは完全反転反復を含む。閉鎖直鎖DNAは、一方または両方の端に、プロテロメラーゼターゲット配列の部分を有してもよい。プロテロメラーゼターゲット配列は、各端に同じ同族プロテロメラーゼを有してもよいし、または各端に異なるプロテロメラーゼを要する。多様なプロテロメラーゼ酵素の作用を通じて構築された閉鎖直鎖DNAは、本出願者らによって、WO2010/086626、WO2012/017210およびWO2016/132129に以前開示されており、これらはすべて本明細書に援用される。in vitro DNA増幅後、プロテロメラーゼ酵素での切断を用いて構築された閉鎖直鎖DNAは、閉鎖直鎖DNAが、in vitroの細胞不含環境で産生され、そして商業的産生のためにスケールアップ可能である利点を有する。これらの閉鎖直鎖DNAベクターは、Doggybone DNAまたはdbDNATMとして知られる。閉鎖直鎖DNAベクターが、本出願者らの先の方法を用いて、少なくとも1つのプロテロメラーゼターゲット配列を含むDNAテンプレートのポリメラーゼに基づく増幅に基づき、そして増幅されたDNAをプロテロメラーゼでプロセシングして閉鎖直鎖DNAを産生する、in vitroの細胞不含方式で作製されることが好ましい。
必要なプロテロメラーゼターゲット配列を含むプラスミドの閉鎖直鎖DNAへの変換によって、閉鎖直鎖DNAを構築してもよいが、これは産生の効率的な方法ではない。
他の閉鎖直鎖DNAベクターが、PCR産物のキャップ化および「最小免疫原性定義遺伝子発現(minimalistic immunogenic defined gene expression)(MIDGE)」ベクターを含む多様なin vitro戦略によって構築されてきている。MIDGEは、細菌細胞からプラスミドを単離した後、原核および真核主鎖を消化し、その後、末端再充填のため、必要なDNA配列をヘアピン配列内に連結することによって生成される。
プロテロメラーゼの作用に基づき、細胞培養において、in vivo方式で産生されるDNA「ミニストリング」もまた、本発明における使用に適しているであろう閉鎖直鎖DNAベクターである。
適切でありうる閉鎖直鎖DNAの他の型には、十字型構造を持つ、末端で閉鎖されたものが含まれ、これもまた、細胞培養中で製造可能である。
閉鎖直鎖DNAが細胞不含系で製造されることが好ましい可能性もあり、これは、こうした場合、産物の純度が確実になるためであり、別の方法では、細胞を用いる方法によって作製された閉鎖直鎖DNAの厳重な精製が、規制当局によって必要とされるであろう。
本発明はさらに、本発明の方法を用いて作製される細胞に関し、これは、本発明者らが
、代替エピソームベクター、例えばOriP/EBNA1および/またはp53をノックダウンする配列を含むベクターを用いてトランスフェクションされたものに比較して、これらの細胞がより安定であることを見出したためである。
本発明の細胞は、限定されるわけではないが:特殊化された細胞の異なるタイプに分化する潜在能力、未分化状態を維持しながら、細胞分裂の多くの周期を経る能力、多能性遺伝子の発現、胚性幹細胞と関連するエピジェネティックパターン、胚様体および奇形腫を形成する能力、ならびに多様なキメラを形成する能力を含めて、多能性幹細胞に必要とされる特性をすべて有する。これらを以下により詳細に論じる。
形態学的には、iPSCは丸い形状、大きな仁およびわずかな細胞質を有することが予期される。iPSCのコロニーは、hESCと類似の、はっきりした縁、平らで緊密に充填されたコロニーを形成すると予期される。
倍加時間および有糸分裂活性は、幹細胞増殖の基礎であり、これは、こうした細胞が、その定義の一部として自己再生しなければならないためである。本発明記載のiPSCは、有糸分裂的に活性であり、活発に自己再生し、そして増殖すると予期される。
コロニーが出現する前に、iPSCの初期同定のために、アルカリホスファターゼ(AP)染色を用いてもよい。生存細胞に対して多様な染色を使用して、さらなる培養(例えばThermoFisherのAP Live)および反復試験を可能にすることも可能である。APは、一般的に、ESC、胚性生殖細胞、およびiPSCを含む細胞に適用可能な多能性マーカーである。幹細胞の多能性状態は、随意に、転写因子、Nanog、Oct4、Sox2、ステージ特異的胚性抗原、および腫瘍関連抗原、TRA-1-60、TRA-1-81の1つまたはそれより多くを含む、多数の多能性マーカーの発現とともに、指標となるAP発現によって、特徴づけることも可能である。
幹細胞マーカー:iPSCは、ESC上に発現される細胞表面抗原マーカーを発現した。ヒトiPSCは、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-49/6E、およびNANOGを含む、hESCに特異的なマーカーを発現した。ヒトiPSCはまた、SSEA-1など、分化に関連するマーカーを欠く可能性もある。
以前記載されたように(Andrews PWら: Robertson EJ監修 Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: a Practical Approach. Oxford: IRL Press; 1987a中)、トリプシン-EDTAを用いて、単細胞懸濁物として培養を採取した後、フローサイトフルオロメトリーによって検出される免疫蛍光を用いて、細胞表面抗原発現を評価してもよい。モノクローナル抗体を用いて、表面抗原発現を検出することも可能である。
実施例において、本発明の方法によって誘導されるiPSCが、標準的ベクターを用いて誘導された細胞よりもより低いレベルのステージ特異的胚性抗原-1(SSEA-1)を発現することがわかる(図17)。SSEA-1は、細胞表面炭水化物エピトープであり、そして初期分化マーカーであり、そして多能性状態からの出口の非常に初期の段階で存在する一方、多能性を保持する細胞には存在しない。したがって、これは、細胞が自発的分化の初期段階にある非常に初期のマーカーであり、そしてしたがって、多能性細胞におけるこのマーカーの発現が低レベルであることが望ましい。ヒト胚性幹細胞は、SSEA1を発現しない(Henderson J.Kら, Stem Cells, 20 (2002), pp. 329-337)。したがって、iPSCが多能性状態で安定
である1つの指標は、細胞表面上のSSEA-1発現の欠如である。
SSEA-3は、多能性状態にある際に、細胞上で発現される細胞表面スフィンゴ糖脂質であり、そして細胞がこの多能性状態を失い、そして分化するにつれて、発現が失われる。ヒト胚性幹細胞は、その表面上にSSEA-3を発現する(Hendersonら)。したがって、iPSCが多能性状態で安定である別の指標は、細胞表面上のSSEA-3発現の存在である。
TRA-1-81は、多能性状態にある際に、細胞上で発現される炭水化物であり、そしてこの炭水化物の発現は、細胞がこの多能性状態を失い、そして分化するにつれて失われる。ヒト胚性幹細胞は、その表面上に炭水化物TRA-1-81を発現する。したがって、iPSCが多能性状態で安定である別の指標は、細胞表面上の炭水化物TRA-1-81発現の存在である。TRA-1-81は、分化中に下方制御される。
多くの幹細胞マーカー、例えばSSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60およびTRA-1-81は、炭水化物エピトープである。したがって、幹細胞は、分化した細胞タイプからこれらを区別する、特徴的なグリコシル化プロファイルを示しうる。したがって、安定細胞は、ヒト胚性幹細胞上で見られるパターンと類似でありうる、細胞表面でのグリコシル化プロファイルによって示されうる。
iPSCは、未分化ESCにおいてやはり発現される、以下のOct-3/4、Sox2、NANOG、GDF3、REX1、FGF4、ESG1、DPPA2、DPPA4、およびhTERTを含む遺伝子を発現することも可能である。このリストには、H3K4me3およびH3K27me3の遺伝子発現がさらに含まれうる。
iPSCはまた、高いテロメラーゼ活性を示し、そしてテロメラーゼタンパク質複合体中に必要な構成要素であるhTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)を発現しうる。
iPSCはまた、神経分化および心臓分化も可能でありうる。さらに、これらは;免疫不全マウス内に注入された際には、奇形腫を形成可能である。奇形腫は、3つの胚葉、内胚葉、中胚葉および外胚葉に由来する組織を含有する多数の系譜の腫瘍である。幹細胞はまた、胚様体形成も可能である可能性もあり;培養中で、有糸分裂活性であり、そして分化中である幹細胞のコア、およびすべての三胚葉から完全に分化した周辺部からなる、「胚様体」と称されるボール様の胚様構造を自発的に形成する。さらに、キメラを形成する能力がiPSCの指標であり;これは、細胞を胚盤胞の栄養膜内に注入し、そしてレシピエントメス動物(マウス)にトランスファーして、そして生じる子孫のキメラ化を試験することによって試験されうる。
監視可能なiPSCにおけるエピジェネティックリプログラミングには、プロモーター、例えばOct-3/4、Rex1、およびNANOGを含む多能性関連遺伝子のプロモーターにおけるCpG部位の脱メチル化が含まれる。より一般的には、ヒストン脱メチル化を含むDNAメチル化パターンが改変される可能性もある。
上記特性の任意の1つまたはそれより多くを用いることによって、細胞が、本発明記載のiPSCであることを決定することが可能である。
「安定」によって、本発明の方法および使用にしたがって生成される人工多能性幹細胞が、限定されるわけではないが、「多能性培地」と称されうる、適切な培地中での継代を含む、該細胞が多能性を維持するために適切な条件下で培養されている間、OriP/EBNA1ベクターから発現される他の同じリプログラミング因子を用いて作製される細胞に比較した際、自発的分化のための能力が減少していることを意味する。言い換えると、多能性幹細胞は、有意な比率の細胞(5%またはそれより多く)が自発的に分化すること
なく、少なくとも28日間培養可能であることを意味する。細胞は、少なくとも25~60日間、随意に、28~50日間、さらに随意に、30~40日間、さらに少なくとも35日間培養されるであろう。これらの期間中に多能性を維持する細胞の比率は、100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%または90%もしくはそれより多くである。したがって、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、またはそれより多くが自発的分化を経ている可能性もある。
安定な細胞は、先に論じるように、等級Aと分類されうる。
安定な細胞はまた、ゲノム安定性および完全性を持つ細胞と記載されうる。ゲノム安定性は、長期培養中の細胞のゲノム(核型および下位核型(sukaryotypic)レベルを含む)およびエピゲノム異常を見ることによって、定量化可能である。ゲノムおよびエピゲノム安定性を確立するため、核型決定(Gバンド核型決定を含む)、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、スペクトル核型決定(SKY)、コピー数変動(CNV)を検出するためのアレイに基づく比較ゲノムハイブリダイゼーション、やはりCNVをそしてまたヘテロ接合性の喪失を検出するための一塩基多型(SNP)に基づくマイクロアレイ、ゲノム組込み部位の分析、全体的遺伝子発現メタ分析、および最も包括的には全ゲノム配列決定を含む、多様な方法を適用してもよい。これらのうち、Gバンド核型決定は、全ゲノムのスナップショットを提供可能であり、そして全体的な異常を迅速に検出するために特に有用でありうるが、大きな異常に限定される。したがって、いくつかの技術を混合する必要がありうる。
随意に、本発明の細胞は、長期培養多能性細胞のゲノムにおいて見られる一般的な変化を欠く場合、安定であると記載されうる。こうした再発性変化には、12pのトリソミーまたは増幅、トリソミーX、トリソミー17、17qの増幅、20q11.21の増幅、二動原体同腕(isodicentric)X、18q12.1の欠失、1p36.13の増幅、1p36.33の増幅、2p11.2の増幅、7q35の増幅、14q32.32の増幅、15q11.2の欠失、21q11.2の増幅、21q11.22の増幅、22q11.21の欠失、トリソミー8、トリソミー20q、1q31.3の増幅、17q21.1の欠失および8q24.3の欠失が含まれる。これらは、上に概略する方法によって評価されうる。本発明の細胞が、これらの異常すべてを欠くことが好ましい。これらのうち、12pのトリソミーまたは増幅、トリソミーX、17qの増幅、17qの増幅、20q11.21の増幅、トリソミー8、トリソミー20q、1q31.3の増幅、17q21.1の欠失および8q24.3の欠失は、ヒトiPSC培養中に最も一般的に見られる。随意に、安定細胞は、これらの異常をすべて欠く。
特定のゲノム/エピゲノム異常は、腫瘍発生を引き起こす潜在的可能性を有するため、ゲノム的に安定である細胞を産生することが望ましいことが理解されるであろう。
さらに、本発明の方法によって得られる細胞を、実施例において、これらの細胞における多様なRNA配列のレベル、そのトランスクリプトームに基づいて、さらなるアッセイに供した。RNA配列決定に基づくアッセイ(RNA-seq)は、分子プロファイリングデータの視覚化を可能にするヒートマップを生じる。細胞内のRNAを分析することは、それによって相対発現レベルとともに、発現されている遺伝子の検出が可能になる利点を有する。細胞または細胞集団におけるRNA分子のセットをこの方式で分析することも可能である。細胞/集団から総RNAを単離し、分析法がこの工程を必要とするならばDNAに逆転写して、そして好ましくはハイスループット法において配列決定することも可能である。多くの方法が利用可能であり、そしてこうした方法は、例えばマイクロ流体プラットフォーム(すなわちFluidgm Cl)またはマイクロタイタープレートプラットフォーム(すなわちSmart-Seq 2)などの系を用いることも可能である。
あるいは、特定のRNA配列に関する固定標識プローブまたは捕捉剤を含む、マイクロアレイチップ等を利用することも可能である。特定のRNA配列の結合を検出することも可能であり、そして検出される各配列の量を決定可能であるため、これはまた調製しようとする細胞/集団中に存在するRNA配列のヒートマップも可能にする。アレイからのシグナル強度は、RNAレベルに正比例するであろう。
こうした方法によって決定されるRNA配列決定ヒートマップは、本発明の方法にしたがって作製される細胞に関して、幹細胞分化に関連するRNA発現のレベルが低く、そして実際、現在の技術を用いて誘導された匹敵する細胞よりも低いことを立証してきている。これは、分化に関連するRNA発現レベルがOriP/EBNA1ベクターで誘導された細胞よりも低く、そして天然に得られる幹細胞における発現レベルと匹敵するため、本発明の細胞が、OriP/EBNA1ベクターを用いて誘導されたものよりより安定であることを示す。
図18(aおよびb)および19(aおよびb)は、細胞をその発現レベルに関して調べた際に得られるRNA配列マップである。実施例9は行われた実験を記載する。
本発明者らは、胚性幹細胞に比較した、iPSC内の多様なRNA配列を研究している。実施例において、多様なRNA配列を調べ、そして多様な表現型/条件/状態に関連することが知られるRNA配列群を調べた。特に、インターフェロンシグナル伝達に関連するRNA配列を調べた。このセットのRNA配列を調べると、本発明の方法にしたがって誘導した細胞は、これらのRNA配列のレベルに関して、OriP/EBNA1ベクターで誘導した細胞よりも、ESCにより近いことが明らかである(図18aまたはbを参照されたい)。インターフェロン(IFN)経路は、ヒト免疫反応に非常に重要な役割を果たし、そしてこれらの結果から、本発明の方法を用いて誘導された細胞において、これらの細胞中のインターフェロンシグナル伝達レベルが、EBNA1ベクターで誘導されたiPSCに比較して減少していることがわかる。多能性を維持するために必要な因子は、IFNに基づく反応を誘発する際に関与するものとは不適合であることが見出されてきている(Type I interferon response impairs differentiation potential of pluripotent stem cells, Julie Eggenbergerら, PNAS January 22, 2019 116(4) 1384-1393.)。したがって、iPSCにおいて、IFN経路遺伝子の発現は、多能性を維持しようとする場合には望ましくない。実施例(図20(aおよびb)および図21(aおよびb)、実施例9を参照されたい)で調べたインターフェロンシグナル伝達RNA配列には、STAT1、IRAK1、EIF2AK2、STAT2、IRF9、IRF7、ISG20、IFIT1、MyD88、IFI27、TNFSF10、MX1、ISG15およびNFKBIAが含まれる。細胞または細胞集団内のこれらのRNA配列のレベルのすべてまたはいくつかの分析は、これらのマーカーに関する高レベルのRNAは多能性が維持されていない可能性があることを示すため、iPSCの安定性に関する重要な指標を生じうる。
実際、実施例は、標準的ベクターによって形質導入された細胞において、STAT1が非常に上方制御されている一方、本発明にしたがって形質導入された細胞がこの上方制御を欠くことを示す。STAT1(転写シグナル形質導入因子および活性化因子1)は、転写因子であり、そしてインターフェロンの主な制御因子である。
さらに、分化に関連するRNA配列を調べ、これらには、CXCR4、FGF8、SOX17、グースコイド、ブラキュリ、GBX2、OLIG3、HAND1、WNT3、TWIST1、MEOX1、CER1、FOXA2、GDF3、BMP4、SLUG、EOMES、AFP、CDH1およびTUJ1が含まれた。本発明にしたがって誘導された細胞におけるRNAレベルは、OriP/EBNA1ベクターを用いて誘導されたiPSC
において見られるレベルよりも、ESCにおいて見られる天然レベルにより緊密に関連することが見出された(図19aおよびb、実施例9を参照されたい)。細胞または細胞集団内のこれらのRNA配列のレベルのすべてまたはいくつかの分析は、これらのマーカーに関する高レベルのRNAは、分化し始めている可能性があるか、または既に分化していることを示すため、iPSCの安定性に関する重要な指標を生じうる。
同様に、RNA Seqを用いて、多能性マーカーを調べた。これらのマーカーには、LIN28、SOX2、BUB1 TET1、SALL4、ZIC3、LIN28B、MYC、POU5F1、NANOG、TCL1B、REXO1およびKLF4が含まれた。本発明にしたがって誘導された細胞におけるRNAレベルは、OriP/EBNA1ベクターを用いて誘導されたiPSCにおいて、そして実際、両方のセットのiPSCが得られた分化した細胞において見られるレベルよりも、ESCにおいて見られる天然レベルにより緊密に関連することが見出された(図18aおよびb、実施例9を参照されたい)。細胞または細胞集団内のこれらのRNA配列のレベルのすべてまたはいくつかの分析は、これらの多能性マーカーに関するより低いレベルのRNAは、細胞が分化し始めている可能性があるか、または既に分化していることを示すため、iPSCの安定性に関する重要な指標を生じうる。
増殖のCDKN1A仲介性阻害は、多能性幹細胞の分化のさらなる指標である。
安定である人工多能性幹細胞は、形態学的外見に基づいて、等級Aと分類される。幹細胞の等級決定は、以前論じられている。安定iPSCは、ESCに類似の分類を有する。
安定である人工多能性幹細胞は、OriP/EBNA1ベクターを用いてリプログラミングされた細胞よりも、胚性幹細胞に表現型がより近い。本明細書に提示するデータは、この主張を裏付ける。
したがって、人工多能性幹細胞の背景において、安定は以下の表現型のいずれか1つまたはそれより多くとして定義されることも可能である:
(a)培養中の自発的分化レベルの減少;
(b)細胞表面上のSSEA1の低発現;
(c)多能性状態と関連する細胞表面抗原(例えばSSEA3、TRA-1-81および/またはTra-1-60)の発現;
(d)分化と関連するRNA配列(例えば、CXCR4、FGF8、SOX17、グースコイド、ブラキュリ、GBX2、OLIG3、HAND1、WNT3、TWIST1、MEOX1、CER1、FOXA2、GDF3、BMP4、SLUG、EOMES、AFP、CDH1および/またはTUJ1の任意の1つ、2つ、3つまたはそれより多く)の低レベルまたは無視できるレベル;
(e)インターフェロンシグナル伝達と関連するRNA配列(例えば、STAT1、IRAK1、EIF2AK2、STAT2、IRF9、IRF7、ISG20、IFIT1、MyD88、IFI27、TNFSF10、MX1、ISG15および/またはNFKBIAの任意の1つ、2つ、3つまたはそれより多く)の低レベルまたは無視できるレベル;ならびに/あるいは
(f)多能性に関連するRNA配列(例えば、LIN28、SOX2、BUB1 TET1、SALL4、ZIC3、LIN28B、MYC、POU5F1、NANOG、TCL1B、REXO1および/またはKLF4の任意の1つ、2つ、3つまたはそれより多く)の存在。
「無視できる」は、非常に少ないかまたは重要であるほど有意でない量を示す。
本発明はしたがって、人工多能性幹細胞集団であって、前記細胞集団が、本明細書に記載するようないずれかの使用または方法を用いて作製される、前記集団にさらに関する。
したがって、細胞は、本明細書に記載するような1つまたはそれより多くのリプログラミング因子を発現するトランスフェクションされた閉鎖直鎖DNAの使用によって生成される。細胞は、好ましくは、均質であるかまたは未分化である。細胞集団またはコロニー中の細胞の10%未満が分化しており、好ましくは、9、8、7、6、5、4、3、2、または1%未満の細胞が再分化していることが好ましい。
前記細胞集団は、閉鎖直鎖DNAベクターが細胞維持中に自然に失われるため、もはやこうしたベクターを含まない可能性もあり、これによって、これらはリプログラミング因子が除去されないレトロウイルス法を含む、現在の方法によって誘導される細胞よりもはるかにより安全なものになっている。リプログラミング因子の発現はもはや必要ではないため、細胞がその誘導において用いられる閉鎖直鎖DNAベクターを欠くことが好ましい。先に論じたように、いくつかのリプログラミング因子は癌遺伝子でありうるため、これは有益であり、そして細胞に対して外因性である配列が失われているため、DNAベクターの喪失が望ましい。
したがって、前記発明には、少なくとも1つのリプログラミング因子をコードする閉鎖直鎖DNAベクターで誘導された、療法等級の安定な多能性幹細胞集団が含まれる。細胞は、閉鎖直鎖DNAベクターを少なくとも90%~100%含まず、随意に閉鎖直鎖DNAベクターを90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%含まない。これは、閉鎖直鎖DNAベクターに特有な配列を探すPCR増幅を用いて試験されうる。例えば、CAGプロモーターモジュールを用いる場合、その特有の配列のため、該モジュールは増幅に適したターゲットである。図14Aおよび14Bは、細胞からのベクターの喪失のプロセスを示す。
あるいは、安定多能性幹細胞は、閉鎖直鎖DNAベクターを欠くため、療法使用に適した、優良製造基準(GMP)等級として記載されることも可能である。あるいは、細胞は、「臨床等級」と記載されることも可能である。
本発明の細胞は、細胞培養として、好ましくはフィーダー層不含培養として提供されることも可能である。
本発明の細胞は、好ましくは動物細胞、最も好ましくはヒト細胞である。
したがって、本発明には、閉鎖直鎖DNAベクターで誘導された安定多能性幹細胞集団、特に、OriP/EBNA1を含有しない閉鎖直鎖DNAベクターで誘導された安定多能性幹細胞集団が含まれる。本発明の請求項を生じるために用いられる閉鎖直鎖DNAベクターおよび方法は、先に広く記載されてきており、そしてこれらもまたここで当てはまる。
本発明の細胞は、好ましくは閉鎖直鎖DNAベクター(単数または複数)を欠く。
以前記載するように、本発明の閉鎖直鎖DNAの使用を通じて生成される細胞は、OriP/EBNA1ベクターを用いて生成される細胞に比較した際、より安定であることが見出されてきている。
細胞は、OriP/EBNA1ベクターを用いて誘導された細胞よりも、天然存在幹細胞に表現型がより近いことが見られうる。この表現型を本明細書に提示する実施例で広く調べるが、これらには以下が含まれる:
(i)分化マーカー(すなわちSSEA1);
(ii)多能性マーカー;
(iii)免疫系遺伝子発現;
(iv)サイトカインシグナル伝達;
(v)インターフェロンシグナル伝達;および/または
(vi)炎症反応。
遺伝子発現分析を用いて、表現型を確立することも可能であり、これに続いて、分析および階層クラスター形成を行うことも可能である。実験は、本明細書において、本発明の方法によって誘導された多能性幹細胞が、他の人工多能性幹細胞タイプよりも、天然ヒト幹細胞により近くクラスター形成することを広く示す。
本発明の方法および使用は、より安定なiPSC集団を生じ、そしてしたがって、療法的に用いられることが可能である可能性がより高いため、これらの細胞を得るための閉鎖直鎖DNAベクターの使用もまた新規である。本発明はしたがって、少なくとも1つのリプログラミング因子をコードする閉鎖直鎖DNAベクターを含む、療法的に許容されうる人工多能性幹細胞を調製するための組成物にさらに関する。該組成物は、任意の許容されうる形式であってもよく、そしてこれには任意の適切な賦形剤が含まれてもよい。該組成物にはさらに、トランスフェクション試薬などの、トランスフェクション法を補助する剤が含まれてもよい。
本発明にはさらに、少なくとも1つのリプログラミング因子をコードする閉鎖直鎖DNAベクター、および少なくとも1つの薬学的に許容されうる賦形剤を含む、薬学的組成物が含まれる。本発明の細胞を、ヒト療法セッティングにおいて最終的に用いてもよく、そしてこれらの細胞の産生法は、GMPにしたがうことが重要である。したがって、薬学的に適切な賦形剤に、閉鎖直鎖DNAを安定化させるか、トランスフェクションを補助するか、または細胞の調製に有益でありうる剤が含まれる、閉鎖直鎖DNAベクターの薬学的組成物が必要でありうる。
ひとたび多能性が達成されたら、本発明の細胞を多能性細胞として療法的に用いてもよいし、または遺伝子療法等の目的のために修飾してもよい。細胞を培養する条件を改変することによって、細胞を多分化能成体幹細胞に分化させるか、または特定の細胞タイプに最終分化させてもよい。iPSCを望ましいタイプの細胞に分化させるための多くの方法が当該技術分野に知られる。
iPSCに由来する細胞を含む、本発明の細胞を、経皮、皮下、筋内、非経口、経腸、静脈内、腹腔内、眼窩内、網膜内投与、組織移植、そして脳脊髄液内投与を含む任意の適切な手段によって、レシピエント体内に移植してもよい。
iPSCに由来する細胞を含む、本発明の細胞を、薬学的に許容されうる培地中で投与してもよい。これらは、例えばその増殖を支持するため、適切な媒体または支持体として、またはこれらと組み合わせて、提供されることも可能である。
iPSCに由来する細胞を含む、本発明の細胞を、療法に使用してもよい。
幹細胞一般および初期分化に関するいくつかのマーカー:
多能性幹細胞
アルカリホスファターゼ:この酵素の発現上昇は、未分化多能性幹細胞(PSC)と関連する。
アルファ-フェトプロテイン(AFP):内胚葉。原始内胚葉の発展中に発現されるタンパク質;内皮分化多能性幹細胞を反映する。
骨形成タンパク質-4:中胚葉。初期中胚葉形成および分化中に発現される増殖および分化因子。
ブラキュリ:中胚葉。中胚葉形成および分化の最初期に重要な転写因子;中胚葉形成の最初期指標として用いられる。
PSC上に特異的に見られるクラスター命名(cluster designation)30(CD30)表面受容体分子。
Cripto(TDGF-1)心筋細胞。ES細胞、原始外胚葉、および発生中の心筋細胞によって発現される増殖因子遺伝子。
GATA-4遺伝子:内胚葉。ESが内胚葉に分化するにつれて発現が増加する。
GCTM-2 ES:未分化PSCによって合成される特異的細胞外マトリックス分子に対する抗体。
Genesis:PSCの未分化状態においてまたは該状態中のいずれかでES細胞によって特有に発現される転写因子。
生殖細胞核因子:PSCによって発現される転写因子。
肝細胞核因子-4(HNF-4):内胚葉。内胚葉形成初期に発現される転写因子。
ネスチン:外胚葉、神経および膵臓前駆体。細胞内の中間径フィラメント;原始神経外胚葉形成に特徴的。
神経細胞接着分子(N-CAM):外胚葉。細胞-細胞相互作用を促進する細胞表面分子;原始神経外胚葉形成を示す。
OCT4/POU5F1:PSCに特有な転写因子;未分化PSCの樹立および維持に必須。
Pax6:ES細胞が神経上皮に分化する際に発現される外胚葉転写因子。
ステージ特異的胚性抗原-3(SSEA-3):初期胚発生において、そして未分化PSCによって特異的に発現される糖タンパク質。
ステージ特異的胚性抗原-4(SSEA-4):初期胚発生において、そして未分化PSCによって特異的に発現される糖タンパク質。
幹細胞因子(SCFまたはc-Kitリガンド):ESおよびEC細胞、造血幹細胞(HSC)、ならびに間葉系幹細胞(MSC)の増殖を増進させる膜タンパク質;受容体c-Kitに結合する。
テロメラーゼ:不死細胞株と特有に関連する酵素;未分化PSCを同定するために有用である。
TRA-1-60:特異的細胞外マトリックス分子に対する抗体が、未分化PSCによって合成される。
TRA-1-81:通常、未分化PSCによって合成される、特異的細胞外マトリックス分子に対する抗体。
ビメンチン:外胚葉、神経および膵臓前駆体。細胞内の中間径フィラメント;原始神経外胚葉形成に特徴的。
配列に関するGenBank寄託番号:
EBNA1のゲノム配列: NC_007605.1。
OriPのゲノム配列: AJ012167.1
Oct3/4: Z11898.1およびNM_002701.5
Sox2の遺伝子配列: KU342033.1
Sox1の遺伝子配列: Y13436.1
Sox3の遺伝子配列: X71135.1
Sox15のmRNA配列: NM_006942.1
klf1のmRNA配列: NM_006563.4
転写変異体1 klf4のmRNA配列: NM_001314052.1、変異体2
mRNA klf4: NM_004235.5、小分子アイソフォームklf4 CDS: HM026463.1。
klf5のmRNA配列: AF287272.1; 変異体2 klf5 mRNA: NM_001286818.1; 変異体1 mRNA klf5: NM_001730.4; アイソフォームD klf5 CDS: HQ628641.1; アイソフォームB klf5 CDS: HQ628639.1。
c-Mycの遺伝子配列: AH002906; c-MycのmRNA配列: AH004538.1。
L-Mycの遺伝子配列: M19720.1; L-Mycのエクソン1~2: X07262.1
N-Mycの遺伝子配列: Y00664.1; N-Mycのエクソン2および3:
M13241.1。
NANOGの遺伝子配列: JX105036.1
LIN28A相同体の遺伝子配列: NM_024674.5、およびLIN28B相同体の遺伝子配列: NM_001004317.3。
GenBank寄託番号LQ432011.1、LQ432012.1、LQ432013.1、LQ432014.1、LQ432015.1、LQ432016.1、LQ432017.1およびLQ432018.1は、本発明の閉鎖直鎖DNAに用いられうる特定のプロテロメラーゼのターゲット配列を記載する。
本発明はここで、以下の限定されない実施例に関連して記載されるであろう。
材料および方法
細胞培養:表1:細胞培養試薬
Figure 2024096988000002
培地および構成要素:
表2:完全DMEM
Figure 2024096988000003
表3:ヒト胚性幹細胞(hESC)培地:
Figure 2024096988000004
対照新生皮膚線維芽細胞(nhDF)をFisher Scientificより購入
した(C0045C)。CLN3、CLN6およびCLN7遺伝子における突然変異によって引き起こされたバッテン病(BD)患者から得られたヒト皮膚線維芽細胞を、UCLの分子細胞生物学実験室よりSara Mole教授から得た。Shef3ヒト胚性幹細胞(hESC)をUK幹細胞バンクより入手した(SCSC10-48)。最後に、MEFフィーダー細胞を、Cambridge Bioscienceより購入した(CBA-310)。
ヒト尿由来細胞の単離および培養:
倫理委員会より認可を得た後、本研究を行い、そしてインフォームドコンセントを得てヒト尿試料を収集した。細胞を単離するため、尿を無菌容器内に収集した。
標準的リプログラミング法を用いて、尿から単離した細胞からiSPCを生成するための代替法に相当する:Zhouら, Nature Protocols 第7巻, 2080-2089ページ(2012)に記載される方法にしたがって、リプログラミングのために細胞を単離し、そして調製した。ひとたびリプログラミングのために調製したら、本明細書記載の方法を用いて、本明細書記載のベクターでトランスフェクションすることによって、細胞をリプログラミングした。
末梢血試料由来の単球を含む血球の単離および培養:
倫理委員会より認可を得た後、本研究を行い、そしてヒト血液試料をインフォームドコンセントとともに収集した。単球は、およそ3%~8%の比率で末梢血中に含有される。
本発明の方法を用いてリプログラミングする前に:Isogaiら, Cell Reprogram. 2018 Dec 1; 20(6): 347-355に記載される方法にしたがったリプログラミングのために、細胞を単離し、そして調製した。
細胞培養方法論:
マウス胚性線維芽細胞(MEF)の培養および不活性化:
解凍に際して、1x(v/v)非必須アミノ酸を補充した完全DMEM中で、MEFを培養した。細胞培地を1日おきにルーチンに置き換え、そして90~95%集密に到達したら、次いで、細胞を継代した。最初にTrypLE 150μL/cmを用いてトリプシン処理して、細胞を解離させた後、収集し、そして258gで5分間遠心分離して、MEFを1:4比でスプリットした。細胞ペレットをさらに、再プレーティングの前に、適切な体積の培地中に再懸濁した。
継代4(P4)まで増幅した後、次いで、完全DMEM中のマイトマイシンC(0.1μg/μL)と37℃で3時間インキュベーションして、MEFを有糸分裂的に不活性化した。インキュベーション後、次いで、10mLのダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)中の4回の洗浄工程を経た後、再び、150μL/cmのTrypLEを用いて、MEFを酵素的に剥離した。>90%の細胞がフラスコ表面から解離したら、次いで、これらを、~5x10細胞/mLの密度で10%(v/v)ジメチルスルホキシド(DMSO)を補充したFBS中、-80℃で保存した。さらに、多能性幹細胞(PSC)の培養前に、0.1%(w/v)ゼラチン中でプレコーティングした培養プレート/フラスコ上に、5x10細胞/cmの密度で、MEFを植え付けた。
一過性トランスフェクションのため、細胞を>90%の集密度まで培養した。PEIのセット体積をまず、OptiMEMに再懸濁した後、DNAのセット濃度を、OptiMEM中に別個に再懸濁した。次いで、PEI-DNA複合体形成を促進するため、PEI/DNAアリコットを合わせた。20分間室温でインキュベーション期間を置いた後、PEI-DNA複合体をHEK293T細胞のウェル上にトランスファーした。次いで、3
7℃で2~3時間インキュベーションした。インキュベーション後、OptiMEMおよびいかなる残りのPEI/DNAもウェルから除去し、そして2mLの完全DMEMを添加した。
PEI調製:OptiMEM体積327.25μL、PEI体積2.75μL。
DNA調製:OptiMEM体積327.25μL、DNA濃度2.75μg。
ヒト皮膚線維芽細胞(hDF)培養および維持:
完全DMEM中、1日おきの定期的な培地交換を伴い、hDFを培養した。TrypLEを用いて酵素的に解離した後、258gで5分間遠心分離して、細胞をルーチンに継代した。次いで、細胞を~3x10cmの密度で植え付けた。
多能性幹細胞(PSC)の培養および継代:
hESCおよびiPSC(PSC)を、ihESC培地中、MEFフィーダー層(iMEF)上で培養し、培地をルーチンに1日おきに新しくした。PSCコロニーを、コロニー形態に応じて、4~10日おきに定期的に継代した。継代前に、新鮮なhESC培地を細胞上に入れた。次いで、PSCコロニーをフラスコから新鮮な培地に手動で取り除いた。次いで、新鮮なiMEF上に置く前に、ピペットを通過させることによって、コロニーをさらに解離させた。
体細胞リプログラミングおよびiPSCの産生:
HDFをリプログラミングするための方法論を本明細書に提示し、そして本発明者らによって収集され、そしてリプログラミングされた他の体細胞タイプに関して、類似の方法論を用いた。
Amaxa Nucleofector 2bを利用して、HDFをヌクレオフェクションした。これは、多能性状態を誘導するために必要な、エピソームプラスミドに基づくまたは閉鎖直鎖DNAに基づくリプログラミング因子(SOX2、OCT4、KLF4、l-Myc、shp53)を細胞に供給する。さらに、効率改善のため、プラスミド系を利用した場合には、さらなるEBNA発現プラスミドもまた追加した。
表4:リプログラミングベクター
Figure 2024096988000005
最初に、110μlのNucleofector溶液を産生した。これは、90μLのNHDF NucleofectorTM溶液+20μLの補充剤1(LONZA:VPD-1001)からなった。次いで、総量8μgをNucleofector溶液中に入れた。~4.5x10 hDFを続いてNucleofector/プラスミド溶液中に再懸濁した後、キュベットにトランスファーし、そしてヌクレオフェクションを行った(P-022プログラム:ヒト皮膚線維芽細胞-高生存度)。次いで、細胞を完全DMEM中、単一の6ウェル上に植え付けた。これを第0日と見なす。
続いて、第1日、培地を新しくした後、2日ごとに連続して交換した。>90%の集密に到達したら、次いで、hDFを継代し、そしてT75cmフラスコ内に植え付けた。
第8日、150μL/cmのTrypLEを用いて、リプログラミングされたhDFを解離させた後、フィーダー層iMEFを含有するT25cm上に60,000細胞を再プレーティングした。さらに、24時間後、次いで、細胞培地を完全DMEMからhESC培地に交換し、これを2日ごとに同様に補充した。
表5:iPSc産生のための実験室プロトコル。
プロセスは、第0日、リプログラミング因子(いかなるベクターでもよい)での線維芽細胞のトランスフェクションで始める。完全DMEM中で細胞を連続培養し、そして適宜スプリットする。第8日、60,000細胞を、T25cm中のiMEFフィーダー層上に再プレーティングした後、hESC培地に切り替えた。コロニー形成まで、細胞を連続培養する。
Figure 2024096988000006
表6:分子生物学試薬
Figure 2024096988000007
免疫細胞化学:
培地をまず、組織培養処理プラスチックウェル上で培養した細胞から取り除いた後、DPBSで3回洗浄した。次いで、PBS中の4%パラホルムアルデヒド(PFA)(v/v)を用いて、細胞を室温でおよそ20分間固定した。次いで、細胞を洗浄し、再び固定後、次いで、関心対象のタンパク質が膜性でない場合、透過処理した。PBS中の0.3% Triton X(v/v)を利用して、室温で10分間、透過処理を行った。透過処理に続いて、細胞はさらなるDPBS洗浄を経た後、次いで、PBS中の2%ウシ血清アルブミン(BSA)(w/v)+0.1%(v/v)Tween20を用いて最低30分間ブロッキングした。次いで、一次抗体をブロッキング緩衝液中で適切な濃度(表)に希釈し、そして続いて4℃で一晩インキュベーションした。その後、細胞を洗浄した後、二次抗体をブロック中で希釈し(1:500)、そして暗所、室温で1時間放置した。さらなる洗浄工程後、PBS中でDAPIを1分間添加した後、除去し、そしてLeica
CTR 6000生存細胞画像化顕微鏡上で細胞を視覚化した。
表7:抗体
Figure 2024096988000008
ベクターレスキューおよびPCR検出:
細胞をトランスフェクション/ヌクレオフェクションして、そして最小限24時間インキュベーションした後、ベクターレスキューのため溶解した。その後、細胞から培地を除去した後、DPBSを用いて洗浄し、そして150μL/cmのTrypLEでトリプシン処理した。1000rpmで5分間、遠心分離(Eppendorf遠心分離装置5804R)した後、細胞をペレットにした。表8に概略する以下の工程は、QIAprepスピンミニプレップキット由来の構成要素を利用した。
表8:工程
Figure 2024096988000009
ベクター単離に続いて、PCR分析を行って、半定量的および定性的方式で、存在するいかなるベクターも増幅した。各ベクターの非転写領域、CAGエンハンサーを増幅するためにプライマーを設計した(配列は以下)。適切な時点で、半定量的測定に関しては25周期、および定性的測定に関しては35周期のPCRを用いて、ベクターレスキュー試料をCAGエンハンサーDNA配列の存在に関して分析した。
配列:CAGエンハンサー:
順方向プライマー:ACGCCAATAGGGACTTTCCA
逆方向プライマー:TAGGGGGCGTACTTGGCATA
表9:反応セットアップ
Figure 2024096988000010
PCR周期パラメータ:
半定量的ベクター検出:
95℃x5分間、95℃x15秒間、60℃x30秒間、72℃x60秒間、(は25周期に関するマーキング)、72℃x5分間、10℃で保持。
定性的ベクター検出:
95℃x5分間、95℃x15秒間**、60℃x30秒間**、72℃x60秒間**、(**は35周期に関する)、72℃x5分間、10℃で保持。
RNA抽出、cDNA合成:
ヒト細胞株からのRNA抽出:
Qiagen RNeasyミニキットおよびその続くプロトコルを利用して総RNA抽出を行った。抽出中、RNAは、RQ1 DNアーゼキット(Promega)を用いて、カラム上でDNアーゼ処理を経る。ミニキットは、細胞溶解物由来のRNAに結合するシリカ膜の使用を採用する。30μLのRNアーゼ不含水を用いて、高純度RNAをさらにカラムから溶出させた後、-80℃で保存した。溶解が困難な細胞に関しては、ホモジナイズ工程中にプラスチック乳棒を利用した。
逆転写酵素を用いたRNAからのcDNA生成
RNA出発産物を利用して、Promegaモロニーネズミ白血病逆転写酵素とともに、ランダム六量体プライマー(Promega)を用いて、第一鎖cDNAを合成した。1μgのRNAを0.5μg(1μl)のランダムプライマーに添加して、これを同様に、HO中、最大15μLの総体積にした。次いで、試料を70℃に5分間加熱し、二次構造形成を防いだ後、直ちに氷上で冷却した。続いて、表10中の構成要素を以下の順で添加して、逆転写酵素反応およびcDNA合成を促進した:
表10:構成要素
Figure 2024096988000011
次いで、反応を37℃で60分間インキュベーションした後、続いて-20℃で保存し
た。
iPSC多能性RT-PCR特徴づけ:
逆転写酵素-PCR(RT-PCR)増幅を通じて、重要な多能性因子の内因性発現を決定した。前述のようなQiagen RNeasyミニキットを利用してRNAを単離した。Promegaモロニーネズミ白血病逆転写酵素をランダム六量体プライマーとともに用いて、cDNA合成を同様に開始した。次いで、RT-PCR増幅の出発産物として、cDNAを利用した-内容物は表11に概略する通りであった。
表11:構成要素
Figure 2024096988000012
表12:プライマー
Figure 2024096988000013
PCRサイクリングパラメータ:
98℃x5分間、98℃x30秒間、55℃x30秒間、72℃x60秒間、(は35周期に関する)、72℃x5分間。
実施例1:発現比較-GFP
本発明者らは、細胞にひとたびトランスフェクションされた際の、ベクターからの発現強度を調べた。GFPをマーカーとして用いてこれを行い、そして細胞を、GFPを発現する閉鎖直鎖DNA(dbDNA-eGFP)ベクターで、または閉鎖直鎖DNAベクターと同一の配列を含有し、やはりGFPを発現するが、閉鎖直鎖DNAベクターには存在しない主鎖配列も含むプラスミド(プロTLxプラスミド-eGFP)でトランスフェクションした。したがって、異なる形式で提示される同じ配列間で比較を行った。プラスミドはOriP/EBNA1を含有しなかった。細胞をトランスフェクションし、そしてGFP陽性細胞内の発現強度を測定した。細胞の蛍光強度中央値(MFI)の分析を行った。MFIは、細胞のGFP陽性集団内の発現強度に関するデータを提供する。6つの時点に渡る、dbDNA-eGFPおよびプロTLxプラスミド-eGFPの両方に関する蛍光強度中央値。図2Aは、結果のプロットである。MFI値は、GFP発現強度を示す。図2Aから、閉鎖直鎖DNAベクターに関するMFI値は、匹敵するプラスミドからのものより高いことがわかり、遺伝子の発現にはベクターの構造が重要であるという結論が導
かれる。これらの結果から、閉鎖直鎖DNAベクターは、プラスミド中の匹敵する配列よりもより高いGFPを発現することが明らかである。
結果は、dbDNA-eGFPベクターが、プロTLx系に基づくプラスミドに対して、有意に延長された寿命をどのように示すかを立証する。第1日を超えたすべての時点で、より高い割合の細胞においてベクターが発現され、そしてこうしたものとして、その発現は、実験時間経過中、保持された。プロTLxおよびdbDNAベクターの両方に関して計算された蛍光強度中央値(MFI)は、dbDNAベクターがそのプラスミド対応物よりもはるかにより長く発現されるだけでなく、同様に、より高い強度でもまた発現されることを立証する。
閉鎖直鎖DNAベクターからの発現をさらに分析するため、上に概略する方法を用いて、GFP分解の動力学の分析を完了した。細胞を:閉鎖直鎖DNA(dbDNA)、閉鎖直鎖DNAが由来したプラスミド(プロTLx)またはOriP/EBNA1を加えたプロTLxの1つでトランスフェクションした。トランスフェクションから20日後まで6つの時点で発現細胞から測定を行い、そして図2Bのようにプロットした。これらの結果は、閉鎖直鎖DNAベクターが、実験の経過に沿って、発現の最高レベルを可能にしたことを示す。
実施例2:OriP-EBNA1ベクターに対する閉鎖直鎖DNAベクターを用いたリプログラミング
閉鎖直鎖DNAリプログラミングベクターが、望ましいタンパク質産生を上方制御し(データ未提示)、そして相対的機能性を示したことを確認する分析を受けて、リプログラミング実験を行った。OriP-EBNA1構築物もまた、比較目的のために該実験内で利用し、これは閉鎖直鎖DNAの陽性対照として作用した(図1)。総量8μgの閉鎖直鎖DNAまたはOriP-EBNA1ベクターの両方を、HDFに別個にトランスフェクションした後、実験室プロトコルにしたがって培養した(表8)。バッテン病と診断された患者から単離され、生検が2017年に単離された、CLN3-HDFをまず利用した。該細胞は、以前のリプログラミング実験によって、多能性を持つことが示されてきており、そして初期iPS細胞を産生することが示されてきているが、安定化に成功してきていない。したがって、これらの細胞は、リプログラミングに対して比較的耐性であるかまたは非妥協的である。
図3は、この実験中に発展した、初期コロニーの例を示す。Aとマーキングされたものは、閉鎖直鎖DNAベクターでトランスフェクションされ、そしてBはOriP-EBNA1ベクターでトランスフェクションされた。
続いて、iPS発生の成熟期を通じて、導入遺伝子非依存性安定化期へと細胞を仲介するため、細胞を連続継代した。この実験の前に、CLN3-hDFから産生したiPS細胞は、真のiPS細胞を産生するような安定化を経ていなかった。さらに、OriP-EBNA1ベクターからのこのリプログラミング実験から得た細胞は、継代5を超えては安定化せず、自発的な分化を経た(データ未提示)。なお、dbDNAリプログラミングベクターから産生されたiPS細胞は、継代18でもなお持続する、より安定した性質のiPS細胞を産生した。
細胞の適切な写真を図4および5に示す。
これは、閉鎖直鎖DNAベクターが、代替ベクターを用いたリプログラミング法に以前耐性であったドナー細胞において、リプログラミング因子を発現するための有効なビヒクルであることを示す。実際、標準的なプラスミドは、この実験において、細胞をリプログラミングできなかった。
実施例3:多能性の決定
形態学的にiPS細胞に似ている細胞の産生に続いて、本発明者らは、細胞が多能性細胞としてもまた機能することを確実にする特徴づけ試験を行った。したがって、細胞が、生来多能性であり、そして重要な多能性マーカーを発現していることを決定するため、免疫細胞化学染色(ICC)を展開した。導入遺伝子関連でありそしてかつ内因性に類似であるいくつかのマーカーを選択した。OCT4およびSOX2は、選択された多能性の導入遺伝子特異的マーカーである。OCT4およびSOX2はどちらも、多能性の再構築および細胞の自己再生能の維持に必須であり、したがって、iPS細胞は、これらの多能性マーカーの両方の存在に関して、同様に陽性に染色されるはずである。さらに、トランスフェクションされた導入遺伝子を通じて過剰発現されない多能性マーカーに関して染色することもまた重要である。TRA-1-81は、未分化細胞において一般的に発現され、そして分化中に有意に下方制御されるケラチン硫酸プロテオグリカンである。陽性に発現される内因性マーカーであるため、したがって、これは、細胞が完全なリプログラミングを経て、多能性を再構築したことを示す。さらに、別の内因性多能性因子であるNANOGを、dbDNA iPS細胞に関してさらに染色したが、OriP-EBNA1 iPSコロニーはこの時点までに分化を経ており、そしてさらなるデータは収集不能であった。NANOGは、多能性細胞分裂および自己再生を維持するように同様に働く転写因子である。
再び、閉鎖直鎖ベクターは、リプログラミングベクターが標準的エピソームリプログラミングプラスミド上に含まれる細胞よりも優れた性能を示す、リプログラミングされた細胞を生じた。
図6は、多能性マーカーに関して、iPS細胞の免疫細胞化学染色(ICC)を示す。
多能性因子に関するICC染色を利用する特徴づけに成功した後、さらなる特徴づけ試験を行った。多能性細胞は、三胚葉の細胞に分化する能力を維持する。したがって、リプログラミング中に形成されたiPS細胞は、分化して、そして内胚葉、外胚葉および中胚葉マーカーを発現する細胞を形成することが可能であるはずである。dbDNAリプログラミングベクター構築物から産生されたiPS細胞を摘み取って、胚様体(EB)を形成させた後、再プレーティングして自発的成長を可能にした。
続いて、プレーティングしたEB由来のいかなる自発的成長物も3胚葉の細胞に対応するマーカーに関して染色した。最初に、細胞を、外胚葉発生に大きく関与する転写因子であり、そしてしたがって決定的外胚葉マーカーであるSOX17に関して染色した。同様に、B-III-チューブリンは、神経拘束の最初期マーカーの1つであり、そしてしたがって、内胚葉マーカー存在に関する完璧な候補である、神経特異的マーカーである。最後に、中胚葉特異的マーカーに関しては、非常に保存された細胞骨格タンパク質であり、そして一般的に利用される、α-平滑筋アクチン(α-SMA)を利用した。こうしたものとして、これらの3つのマーカーに関して染色された成長物は、dbDNAリプログラミング構築物によって産生されるiPS細胞の分化潜在能力に洞察を提供するはずである。
これらの細胞の写真を図7および8に示す。細胞はiPS細胞に関して予期されるように振る舞い、閉鎖直鎖DNAがリプログラミングを実行するために有効なベクターであることを立証した。
続いて、dbDNAによって産生されるiPS細胞の特徴づけにおける最後の工程は、RT-PCRアッセイであった。RNAを単離し、そして逆転写した後、いくつかの多能性遺伝子の内因性発現を、ESC対照に比較して半定量化した。OCT4、SOX2およ
びLIN28は、すべて導入遺伝子に発現される多能性因子である一方、NANOGおよびE-カドヘリンは独立の内因性多能性因子である。RT-PCRの有望さは、リボソームタンパク質(RN18S1)対照とともに、内因性多能性遺伝子発現に関する半定量的洞察を提供することであった。結果を図16に示す。
閉鎖直鎖DNAベクターによって産生されるiPS細胞は、これらがICC染色において陽性結果を生じるいくつかの確認分析を経た。したがって、細胞は、導入遺伝子由来である多能性遺伝子だけでなく、内因性に発現される多能性遺伝子を発現することも示された。これによって、細胞は多能性を有することが示される。ICC染色は、iPS細胞に対して行われる標準法である。閉鎖直鎖DNAトランスフェクション系は、一過性臨床等級DNAベクターであるベクターの付加される特徴を持つ他の方法によってトランスフェクションされた細胞に対するものと同一の陽性染色を提供する。さらに、2つの細胞タイプの定性的実験において認められる共通の特徴は、閉鎖直鎖DNAを用いて生成されたiPSCが、外見的に、自発的分化の減少した傾向を有することである。iPSCが多能性培地中にある間、閉鎖直鎖DNAを用いて作製されるiPSCは、OriP-EBNA1を用いて生成されたiPSCよりも、より高い度合いの多能性を維持するようである。これには、閉鎖直鎖DNAからの導入遺伝子の発現がより一過性であることを含めて、いくつかの理由がある可能性がある。さらに、最少レベルの分化を維持するにもかかわらず、その一方で、iPS細胞は、培養中で、必要な場合は分化して、そして3胚葉の細胞を形成する能力をなお伝達することが立証されている。したがって、これらの細胞は、多能性幹細胞のすべての特性を示す。
先の文献の多くは、OriP-EBNA1系と独立の標準的エピソームプラスミドリプログラミングと関連する困難を記載する。後の実施例に示すように(プロTLx系)、プラスミド単独では完全なリプログラミングを誘導するには一過性であり過ぎる。こうしたものとして、癌ウイルス由来OriP-EBNA1系は、ベクターの寿命を延長させるために用いられてきているが、その期間はiPS細胞産生をはるかに超えている。閉鎖直鎖DNAベクターは、GMP等級の細菌配列不含DNAで構成され;単回トランスフェクションによって、いくつかのhDF株からiPS細胞を産生しうる。構築物は、非常に機能的なiPS細胞を産生することが立証されてきている。したがって、この系は、より高い安定性で、臨床等級iPS細胞を産生することが可能な、より安全なリプログラミングベクターの新規世代に相当する(多能性細胞として培養した際に分化がより少ない)。
実施例4:さらなるリプログラミング研究
いくつかの異なる起源に由来する線維芽細胞のリプログラミング内での閉鎖直鎖DNAベクターの能力を決定するため、いくつかのさらなるリプログラミング実験を行った。異なるバッテン病遺伝的変異体、CLN7由来の線維芽細胞を、対照新生線維芽細胞とともに利用した。これは、構築物が、「疾患」線維芽細胞とともに健康な対照線維芽細胞もリプログラミングする能力を有するかどうかを決定するためであった。結果を図9に示す。さらに、尿から単離された腎臓細胞および末梢血から単離された単球を含む、異なる起源の細胞もまたリプログラミングした。
閉鎖直鎖DNAベクターおよびOriP-EBNA1構築物の両方でのトランスフェクションによって産生されたiPS細胞を、確認染色に供して、内因性および導入遺伝子に発現された多能性因子の両方の発現があることを確認した。結果を図13に示す。この実施例において、どちらのベクターもドナー細胞をリプログラミングすることが可能であった。
実施例5:以前非妥協的であった細胞のリプログラミング
以前、OriP/EBNA1構築物でのリプログラミング後に不安定であり、そしてし
たがって安定なiPSCを産生できなかった、CLN3バッテン病患者から採取した皮膚線維芽細胞において、さらなるリプログラミング実験を行った。閉鎖直鎖DNAベクターがこれらの細胞をリプログラミングして、そして安定化されたiPS細胞を産生することが可能であるかどうかを決定するため、実験を行った。
閉鎖直鎖DNAベクターおよびOriP-EBNA1ベクターの両方を用いて、線維芽細胞をトランスフェクションした。継代1において(図11)、どちらのベクターもリプログラミングを誘導可能であったが、より後のデータ(未提示)によって、標準エピソームプラスミド(OriP/EBNA1)は、リプログラミングされた細胞を分化なしに維持できない一方、閉鎖直鎖DNAでトランスフェクションされた細胞は、多能性を維持可能であることが確認された。
実施例6:リプログラミング:陰性対照、プロTLxプラスミド、閉鎖直鎖DNA(dbDNA)およびOriP-EBNA1プラスミドの比較
材料および方法:表13a、bおよびc-リプログラミングのためのDNAベクター
Figure 2024096988000014
Figure 2024096988000015
Figure 2024096988000016
90μL NHDF NucleofectorTM溶液+20μLの補充剤1(LONZA:VPD-1001)からなる110μlのNucleofector溶液を産生した。次いで、総量8μgのdbDNA、OriP-EBNA1およびプロTLx-KのDNAを、別個にNucleofector溶液に入れた。~4.5x105 hDFをNucleofector/DNA溶液に再懸濁した後、キュベットにトランスファーし、そしてヌクレオフェクションを行った(P-022プログラム:ヒト皮膚線維芽細胞-高生存度)。次いで、細胞を完全DMEM中、単一の6ウェル上に植え付けた。これを第0日と見なす。
第1日、培地を新しくして、そして2日ごとに連続して交換した。第8日、150μL/cmのTrypLEを用いて、リプログラミングされたhDFを解離させた後、フィーダー層iMEFを含有する単一6ウェル内に30,000細胞を再プレーティングした
。さらに、24時間後、次いで、細胞培地を完全DMEMからhESC培地に交換し、これを2日ごとに同様に補充した。続いて、第28日、細胞にアルカリホスファターゼ染色を行って、生存コロニー形成を決定した。単一SIGMAFASTTM BCIP(登録商標)/NBT(B5655)錠剤を10mLのDPBSに室温で完全に溶解した。いかなる培地もまず除去した後、2mL SIGMAFASTTM BCIP(登録商標)/NBT溶液をウェルに添加した。室温で~30-60分間、暗所でインキュベーションした後、EVOS XLコア細胞画像化系を用いて、生存コロニーの存在を示す色変化に関して、コロニーを分析した。EVOS XIコア細胞画像化系を用いて、生存コロニーの存在を示す色変化に関して、コロニーを分析した。
結果を図10~12に示す。このデータは、明らかに、リプログラミングに必要であるのは配列のみではなく;閉鎖直鎖DNAの構造が非常に重要であることを示す。閉鎖直鎖DNAベクター配列を含有するプラスミド(細胞をリプログラミングできなかった)を用いた実験によって、この結論が裏付けられる。
実施例7:ベクターレスキュー
ベクター特異的プライマーを用いて、ヌクレオフェクション1日後およびヌクレオフェクション35日後の、OriP-EBNA1ベクターに対する、閉鎖直鎖DNAベクターの保持を半定量的に評価した。方法セクションに記載するようにベクターをレスキューして、そして次いで、25および35周期のPCR増幅に供した。どちらのサイクリング条件下でも、OriP-EBNA1ベクターが閉鎖直鎖DNAベクターよりもより高い度合いに保持されることが明らかであった。
結果を図14aおよび14bに示す。結果は、閉鎖直鎖DNAベクターが、細胞を試験した時点で、同等のOriP-EBNA1ベクターに比較した際、より少量しか保持されないことを明らかに示す。
実施例8:多能性の細胞表面マーカー
本発明の方法(閉鎖直鎖DNAベクター)または標準OriP-EBNA1ベクターのいずれかを用いて誘導されたiPSCを、細胞表面マーカーに関する適切な抗体を用いたFACS分析に供した。
以前記載されるように(Andrews PWら: Robertson EJ監修 Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: a Practical Approach. Oxford: IRL Press中; 1987. pp. 207-248、およびAndrews PWら Cancer Res. 1987;47:740-746.)、トリプシン-EDTAを用いて単細胞懸濁物として培養を採取した後、フローサイトメトリーによって検出される免疫蛍光によって、細胞表面抗原発現を評価した。
以下のモノクローナル抗体を用いて、表面抗原発現を検出することも可能である:
抗ステージ特異的胚性抗原-3(SSEA3)、抗ステージ特異的胚性抗原-1(SSEA1)、TRA-1-60およびTRA-1-81。
SSEA1に関して、40の相対蛍光単位の閾値を用いて、アイソタイプ対照中に提示されるバックグラウンド染色に基づいて、SSEA-1陽性細胞を決定し、これらの上および下のヒストグラム下の面積を計算して、パーセンテージを決定した。より多くの陽性細胞が、EBNA1で誘導された細胞で観察され、当該技術分野の現在の状態にしたがって誘導された細胞では、分化が起こり始め、そして多能性が失われ始めていることを示しているという結論が導かれた。
図17は、SSEA1サンプリングに関する結果を示す。
実施例9:iPSCにおける遺伝子発現のRNA配列決定
分析:
総RNA調製物に対して、Illumina NextSeq 550プラットフォーム上で、ハイスループット配列決定を行った。配列QC分析後、閉鎖直鎖DNAベクター(dbDNA)またはOriP-EBNA1ベクターによって誘導された多能性細胞由来のプローブを、こうしたものとして、≦0.05のカットオフp値を伴うスチューデントのt検定に供した。この分析から、結果を次いで、ベンジャミニ-ホッホベルグ分析に供して、偽発見率(FDR)を決定した。これは、1型エラーの可能性を減少させ、そしてそれによってデータセット内の偽陽性結果の包含を制限するためであった。≦0.05のFDRカットオフを利用した。続いて、閉鎖直鎖DNA(dbDNA)およびOriP-EBNA1ベクターを用いて誘導された細胞の間の倍変化発現を計算し、そして≧1.5の倍変化相違を持つプローブを先に進めた。
これらの有意なプローブを用いて、ソフトウェアを利用して、転写因子濃縮タームを決定した。リアクトームデータベース(https://reactome.org)を利用して、ヒトゲノム上に有意なプローブを投影して、細胞周期、代謝、免疫機能等に関する相互作用経路の解明を補助した。さらに、遺伝子セット濃縮分析(GSEA)のMSigDB関数を用いて、濃縮分析を同様に行った。この関数は、次いで、MSigDB系内の遺伝子間の重複を通じて生成される、特定のよく定義された生物学的プロセスを要約し、そしてそれに相当する顕著な遺伝子に関する情報を提供しうる。続いて、分析は、各所定の遺伝子セットに関して変化がどのくらい有意であるかの測定値を示す、顕著なプロセス各々に関するp値を提供することも可能であり;統計の絶対値がより高ければ、その有意性はより高い。GSEAはまた、k/K値も提供し、これによって、k=クエリーセット中の遺伝子数であり、そしてK=MSigDBデータベース中の遺伝子数である。これはしたがって、有意なプローブ各々に関する生物学的プロセスの変化の方向に関する情報を提供しうる。最後に、多数の仮説試験に関する修正後のp値のFDR類似物であり、そして再び、偽陽性結果を含む可能性を減少させる、q値を提供する。
ヒートマップ産生:
上記分析後、プローブ発現値をヒートマップに発展させて、異なる細胞タイプに関する遺伝子発現プロファイルの全体の視覚化を提供することも可能である。Rスタジオを用いて、ヒートマップを生成した。
得られた結果のヒートマップを、図18(a)および(b)ならびに図19(a)および(b)に示す。
ヒストグラム産生:
上記分析後、特定の遺伝子に関して、または特定の遺伝子群に関して、特定の遺伝子発現プロファイルを得た。多様な遺伝子発現パターンを図20(aおよびb)および21(aおよびb)に示す。
図20(aおよびb)は、免疫系および自然免疫におけるサイトカインシグナル伝達に関する遺伝子発現を示す。これらの遺伝子が、閉鎖直鎖DNA(dbDNA)仲介性iPSC生成に比較した際、OriP/EBNA1で誘導された細胞において、最も過剰提示されるリアクトームであることがわかる。閉鎖直鎖DNA誘導性iPSCに比較して、OriP/EBNA1 iPSCにおいて最も有意な過剰提示転写物を、次いで、リアクトーム経路分析を用いて分析した。
図21(aおよびb)は、リアクトーム下位分類を示す。結果は、インターフェロンア
ルファ、ベータおよびガンマシグナル分析が、閉鎖直鎖DNA(dbDNA)仲介性iPSC生成に比較した際、OriP/EBNA1誘導性iPSCにおいて、最も強く過剰提示されることを示す。インターロイキンおよびN-KB炎症性シグナル伝達もまた、過剰提示される。
実施例10:定量的RT-PCR
標準OriP/EBNA1ベクターまたは閉鎖直鎖DNAのいずれかによって誘導されたiPSCに対して、定量的RT-PCRを行った。特に、インターフェロンシグナル伝達、自然免疫系および炎症性マーカーと関連する遺伝子を調べるか、または中内胚葉形成および初期内胚葉に相当する転写物を調べた。標準法を用いて、細胞から総RNAを抽出した。
見いだされた結果は以下の通りであった:
図22(a~g)は、OriP/EBNA1誘導性対閉鎖直鎖DNA(dbDNA)誘導性iPSCにおけるインターフェロンシグナル伝達の定量的RT-PCRおよび比較の結果を示す。OriP/EBNA1エピソームプラスミドまたは閉鎖直鎖DNAベクターを用いて生成したiPSCから、総RNAを抽出した。すべての生得的IFNシグナル伝達関連転写物は、dbDNA-iPSCに比較して、OriP/EBNA1-iPSCにおいて上昇した。
図23(aおよびb)は、OriP/EBNA1誘導性対閉鎖直鎖DNA(dbDNA)誘導性iPSCにおける炎症性マーカーの定量的RT-PCRおよび比較の結果を示す。OriP/EBNA1エピソームプラスミドまたは閉鎖直鎖DNAベクターを用いて生成したiPSCから、総RNAを抽出した。HMOX1(酸化ストレスマーカー)およびNFKB1(炎症マーカー)は、閉鎖直鎖DNA-iPSCに比較して、OriP/EBNA1-iPSCにおいて上方制御される。
図24(a~d):閉鎖直鎖DNA-iPSCに比較したOriP/EBNA1-iPSCにおける分化マーカーの上方制御を示す(doggybone/dbDNA)。定量的RT-PCRを用いて、初期分化マーカーとして、中内胚葉形成および初期内胚葉を示す転写物を評価した。すべての例において、定常状態条件下で培養した閉鎖直鎖DNA(dbDNA)-iPSCに比較して、OriP/EBNA1-iPSCにおいて、初期分化マーカー増加があった。さらに、本発明者らは、閉鎖直鎖DNA-iPSCに比較して、OriP/EBNA1-iPSCにおいて、細胞周期阻害剤であるCDKN1A(p21)の発現増加があることに気づいた。CDKN1A仲介性増殖阻害は、多能性幹細胞分化のさらなる指標である。
得られた結果のヒートマップを、図18(a)および(b)ならびに図19(a)および(b)に示す。
ヒストグラム産生:
上記分析後、特定の遺伝子に関して、または特定の遺伝子群に関して、特定の遺伝子発現プロファイルを得た。多様な遺伝子発現パターンを図20(aおよびb)に示す。
図20(a)は、免疫系および自然免疫におけるサイトカインシグナル伝達に関する遺伝子発現を示す。これらの遺伝子が、閉鎖直鎖DNA(dbDNA)仲介性iPSC生成に比較した際、OriP/EBNA1で誘導された細胞において、最も過剰提示されるリアクトームであることがわかる。閉鎖直鎖DNA誘導性iPSCに比較して、OriP/EBNA1 iPSCにおいて最も有意な過剰提示転写物を、次いで、リアクトーム経路分析を用いて分析した。
20(b)は、リアクトーム下位分類を示す。結果は、インターフェロンアルファ、ベータおよびガンマシグナル分析が、閉鎖直鎖DNA(dbDNA)仲介性iPSC生成に比較した際、OriP/EBNA1誘導性iPSCにおいて、最も強く過剰提示されることを示す。インターロイキンおよびN-KB炎症性シグナル伝達もまた、過剰提示される。
見いだされた結果は以下の通りであった:
21(a~g)は、OriP/EBNA1誘導性対閉鎖直鎖DNA(dbDNA)誘導性iPSCにおけるインターフェロンシグナル伝達の定量的RT-PCRおよび比較の結果を示す。OriP/EBNA1エピソームプラスミドまたは閉鎖直鎖DNAベクターを用いて生成したiPSCから、総RNAを抽出した。すべての生得的IFNシグナル伝達関連転写物は、dbDNA-iPSCに比較して、OriP/EBNA1-iPSCにおいて上昇した。
22(aおよびb)は、OriP/EBNA1誘導性対閉鎖直鎖DNA(dbDNA)誘導性iPSCにおける炎症性マーカーの定量的RT-PCRおよび比較の結果を示す。OriP/EBNA1エピソームプラスミドまたは閉鎖直鎖DNAベクターを用いて生成したiPSCから、総RNAを抽出した。HMOX1(酸化ストレスマーカー)およびNFKB1(炎症マーカー)は、閉鎖直鎖DNA-iPSCに比較して、OriP/EBNA1-iPSCにおいて上方制御される。
図24(a~):閉鎖直鎖DNA-iPSCに比較したOriP/EBNA1-iPSCにおける分化マーカーの上方制御を示す(doggybone/dbDNA)。定量的RT-PCRを用いて、初期分化マーカーとして、中内胚葉形成および初期内胚葉を示す転写物を評価した。すべての例において、定常状態条件下で培養した閉鎖直鎖DNA(dbDNA)-iPSCに比較して、OriP/EBNA1-iPSCにおいて、初期分化マーカー増加があった。さらに、本発明者らは、閉鎖直鎖DNA-iPSCに比較して、OriP/EBNA1-iPSCにおいて、細胞周期阻害剤であるCDKN1A(p21)の発現増加があることに気づいた。CDKN1A仲介性増殖阻害は、多能性幹細胞分化のさらなる指標である。

Claims (21)

  1. 人工多能性幹細胞を産生するための、1つまたはそれより多いリプログラミング因子をコードする閉鎖直鎖DNAベクターの使用。
  2. 1つまたはそれより多いリプログラミング因子をコードする1つまたはそれより多い閉鎖直鎖ベクターを、体細胞集団内に導入し、そして前記細胞を培養して、1つまたはそれより多いリプログラミング因子の発現を達成する工程を含む、人工多能性幹細胞(iPSC)を産生する方法。
  3. 各々、1つまたはそれより多い異なるリプログラミング因子をコードする、2つまたはそれより多い閉鎖直鎖DNAベクターを提供する、請求項1の使用または請求項2の方法。
  4. 前記リプログラミング因子が:Oct 3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox18、Klf1、Klf2、Klf4、Klf5、c-myc、L-myc、およびN-myc、NANOG、および/またはLIN28の任意の1つまたはそれより多くより選択される、先行する請求項いずれかの使用または方法。
  5. 前記閉鎖直鎖DNAベクターが、EBNA1、あるいはEBNA1および/またはOriPの機能的誘導体または変異体、あるいはOriPの機能的誘導体または変異体を欠く、先行する請求項いずれかの使用または方法。
  6. 前記閉鎖直鎖DNAベクターが、p53のノックダウンのためのいかなる配列も欠く、先行する請求項いずれかの使用または方法。
  7. 前記リプログラミング因子が、1つまたはそれより多いプロモーターに作動可能であるように連結されている、好ましくは、閉鎖直鎖DNAベクター上の同じプロモーターに作動可能であるように連結されている、先行する請求項いずれかの使用または方法。
  8. 前記閉鎖直鎖DNAベクターが:
    (i)細菌CpGモチーフ;
    (ii)細菌複製起点;および/または
    (iii)抗生物質耐性遺伝子
    の1つまたはそれより多くを欠く、先行する請求項いずれかの使用または方法。
  9. 閉鎖直鎖DNAベクターが、体細胞、随意に成熟体細胞内に導入されている、先行する請求項いずれかの使用または方法。
  10. 前記閉鎖直鎖DNAベクターが、トランスフェクションを通じて、随意にヌクレオフェクションを通じて、導入されている、先行する請求項いずれかの使用または方法。
  11. 細胞を、リプログラミングが完了する前に、トランスフェクションおよびヌクレオフェクション後、およそ30日間、好ましくは28~32日間培養する、請求項10の使用または方法。
  12. 少なくとも1つのリプログラミング因子をコードする閉鎖直鎖DNAベクターで誘導された、多能性幹細胞集団。
  13. 各々、1つまたはそれより多い異なるリプログラミング因子をコードする、2つまたは
    それより多い閉鎖直鎖DNAベクターで誘導された前記細胞を提供する、請求項12に請求するような細胞集団。
  14. 前記閉鎖DNAベクターが:
    (i)Oct 3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox18、Klf1、Klf2、Klf4、Klf5、c-myc、L-myc、およびN-myc、NANOG、および/またはLIN28の任意の1つまたはそれより多くより選択される1つまたはそれより多いリプログラミング因子をコードし;
    (ii)EBNA1、あるいはEBNA1および/またはOriPの機能的誘導体または変異体、あるいはOriPの機能的誘導体または変異体を欠き;
    (iii)p53のノックダウンのためのいかなる配列も欠き;そして/または
    (iv)
    (a)細菌CpGモチーフ;
    (b)細菌複製起点;および/または
    (c)抗生物質耐性遺伝子
    の1つまたはそれより多くを欠く、請求項13に請求するような細胞集団。
  15. 前記細胞が、請求項1~10のいずれか一項の使用または方法にしたがって調製される、請求項12に請求するような細胞集団。
  16. 療法および/またはGMP等級である、請求項12~15のいずれか一項に請求するような細胞集団。
  17. これらを誘導するために用いた閉鎖直鎖DNAベクターを欠く、請求項12~16のいずれか一項に請求するような細胞集団。
  18. OriP/EBNA1ベクターで誘導された多能性幹細胞に対するよりも、胚性幹細胞に表現型がより近い、請求項12~17のいずれか一項に請求するような細胞集団。
  19. 表現型が:
    (i)分化マーカー;
    (ii)多能性マーカー;
    (iii)免疫系遺伝子発現;
    (iv)サイトカインシグナル伝達;
    (v)インターフェロンシグナル伝達;および/または
    (vi)炎症反応
    より選択されうる、請求項18に請求するような細胞集団。
  20. 前記細胞が安定であり、そして随意に、継代中の自発的分化に抵抗するかまたはこうした分化が遅延している、請求項12~19のいずれか一項に請求するような細胞集団。
  21. 前記細胞がヒトである、先行する請求項いずれかの使用、方法または細胞集団。
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