JP2024062396A - 妊孕性を判定するためのバイオマーカー及びそれを用いた判定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、不妊治療において体外受精後、胚培養を経て得られた胚の中から、着床・妊娠確率の高い、すなわち妊孕性の高い胚の選別を可能とするバイオマーカー及びその判断基準を提供することを目的とする。【解決手段】不妊治療における採卵時に卵子と同時に採取される卵胞液中に存在するTACEレベル(濃度又は活性)を測定することで、着床・妊娠に適切な卵子を判断できる基準を提供する。【選択図】図1

Description

本発明は、ヒト体液中のTACE(Tumor necrosis factor-α-converting enzyme)を指標として、卵子または胚の妊孕性を判定する方法等に関する。
2017年の日本の不妊治療における治療周期数は40万周期数を超え、出生児数は5万人を超える。今後も晩婚化等の影響により、不妊治療の件数増加と体外受精による出生児が増加していくことが予測される(非特許文献1)。
不妊の要因は男女ともに存在する。男性の場合は主に造精機能障害、精子輸送路閉塞、精子機能障害等が挙げられる。一方女性の場合、加齢の他、婦人科疾患(子宮内膜症、子宮筋腫等)、内分泌、代謝疾患等が挙げられる。しかし一般的な不妊検査で異常が認められない原因不明なケースもあり、明らかな異常が認められない場合、卵質の低下による妊孕性の低下が考えられる。採卵で得られる卵子の質は判断できない為、体外受精を行い、胚培養を経て得られた良好な胚を移植しても、着床に至る確率は最も高い確率でも30%程度である(非特許文献1)。この着床確率を上げるため、体外受精にて得られた胚を複数移植する試みが行われていたが、多胎妊娠は身体的負担が大きいため、現在は原則1個のみ胚移植を行う単一胚移植とすることが示されている(非特許文献2)。
現在の胚移植には、分割胚にて行う分割胚移植と、胚盤胞に達した胚を移植する胚盤胞移植がある。各胚移植時に評価する形態学的な方法として、それぞれVeeck分類(非特許文献3)及びGardner分類(非特許文献4)が主に使用されている。一般的に体外受精にて得られた胚の形態学的な評価後、同一周期内でトップ評価の胚を移植するが、最も評価が高い胚を移植しても必ずしも着床・妊娠に至る訳ではなく、またその逆もあることから、形態学的な胚評価は実際の胚の質と厳密に相関している訳ではない。近年、胚の成長過程を確認するタイムラプス培養が開発された。胚培養後の最終的な形態学的判断ではなく、胚の成長過程をもって評価する方法も提唱されているが(非特許文献5)、明確な判断基準があるわけでは無い。その為、着床・妊娠が見込まれる可能性の高い単一胚の移植を判断するため、形態学的な評価と合わせる事で、より良好な客観的判断基準を提供できるバイオマーカーが求められている。
近年不妊治療を対象としたバイオマーカーの研究は多数報告されている。特許文献1には非侵襲的に体外受精の評価を行うバイオマーカーとしてMICA(MHCクラスI 鎖関連タンパク質A)を開示している。ヒト検体中のMICAレベルが閾値を超えた場合、着床不全率、体外受精の失敗または流産を示すバイオマーカーとして提案されているが、実際の卵子もしくは胚の質を示すものではない。
特許文献2には子宮内着床に適格な胚を予備選択する為のバイオマーカーとして、可溶性CD146を提案している。胚培養液中に確認できる可溶性CD146を指標として、移植に的確な胚を選択する方法を開示しているが、ヒト体液を対象としていない。
特許文献3には妊娠受容能をもつ卵母細胞を同定する遺伝学的手段が開示されている。卵丘細胞から得られる遺伝子群のアッセイ評価を行うことで、該当の卵母細胞を移植した際に、生存可能な妊娠をもたらすことが可能である指標を開示しているが、タンパク質レベルで検討を行っておらず、ヒト体液を対象としていない。
本発明で注目したTACEは、ADAM17(Disintegrin and metalloproteinase domain-containing protein 17)とも呼ばれる。亜鉛結合配列を有するI型膜タンパク質であり、細胞表面で多くの種類の膜に固定されたサイトカインやタンパク質の切断に関与することが知られている。
腫瘍に出血性壊死を起こさせる因子として発見されたTNF-α(tumor necrosis factor alpha)は膜結合型(pro-TNF-α)と可溶型(TNF-α)が存在するが、Furinにより活性化されたTACEにより可溶型に変換される。また腫瘍細胞増殖因子であるTGF-α(Transforming Growth Factor-α)も膜結合型(pro-TGF-α)と可溶型(TGF-α)が存在するが、同じく活性化されたTACEにより可溶型に変換される。
さらに近年の研究で様々な膜結合型タンパク質がTACEにより切断されていることが知られており、その中にCD163も含まれる。CD163は炎症性疾患や感染症を対象とした研究で、単球やマクロファージに発現することが知られており、加えて我々は、卵胞液中に存在する膜から切断された可溶化CD163が、卵の質にかかわる妊孕性マーカーとして報告している(特許文献4)。ただし、CD163の切断メカニズムに関する報告は複数あるが、in vivoにおける明確な報告はなされていない。非特許文献6ではin vivo実験でリポ多糖(LPS)を被験者に投与し、疑似的にエンドトキシン血症を引き起こす事で、可溶性CD163の濃度が上昇する事を確認している。一方、細胞由来の単球を用いたin vitro実験で、Protein kinase Cが関与している報告もある(非特許文献7)。その為、CD163の可溶化メカニズムには、複数のプロテアーゼや条件が関与している事が予測され、CD163の存在は必ずしもTACE活性とパラレルではないと考えられる。
またADAM17は癌の予後予測関連遺伝子シグネイチャーとしても報告されている(特許文献5)。特許文献5の方法では癌、特に初期ステージの肺癌の予後予測に有用な遺伝子として報告されている。
またTACEを標的としたアルツハイマー病(AD)の予防、発症遅延又は治療できる可能性も報告されている(非特許文献8)。ADはアミロイドβペプチドの沈着が、神経細胞の萎縮を引き起こすことで発症する。アミロイドβペプチドは、その前駆体タンパク質がβセクレターゼ等よってタンパク質分解された産物である。TACEはα-セクレターゼを制御しているとされ、TACEが亢進する事でβアミロイドの産生を阻害出来ることから、アルツハイマー病の治療標的として注目されている。
国際公開第2008/084105号パンフレット 国際公開第2016/170021号パンフレット 国際公開第2011/060080号パンフレット 国際公開第2022/149410号パンフレット 国際公開第2010/064702号パンフレット
日本産婦人科学会 2018年ARTデータブック 日本産婦人科学会「生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解」平成20年4月発表 Atlas of The Human Oocyte & Early Conceptus, 2, 1991 Gardner DK, et al., Fertil. Steril., 73: 1155-1158, 2000 Pribenszky et al., Reprod. Biomed. Online, 35(5): 511-520, 2017 Hintz KA, et al., J Leukoc Biol. 2002; 72: 711-717. Droste A, et al., Biochem Biophys Res Commun 1999;256:110-113. Meng Q, et al., Cell Mol. Neurobiol., 2016 May;36(4):471-482.
本発明は、不妊治療において体外受精後、胚培養を経て得られた胚の中から、着床・妊娠確率の高い、即ち妊孕性の高い胚を判定することができるバイオマーカー及びそれを用いた判定方法、及び判定試薬を提供することを目的とする。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、体外受精の際に行われる採卵時に卵子と同時に採取される卵胞液中に存在する、TACEレベルを測定することにより、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判断できることを見出し、以下の本願発明を完成した。
即ち本発明は以下の通りである。
[1]TACE(Tumor necrosis factor-α-converting enzyme)からなる、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するためのバイオマーカー。
[2]TACEの、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するためのバイオマーカーとしての使用。
[3]ヒト体液中のTACEレベルを測定し、その測定値から卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定する方法。
[4]TACEレベルが基準値よりも高い場合には、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性が高いと判定し、当該基準値は、ヒト卵子から受精後に発生する胚を移植して妊娠が不成立だった他のヒト体液中のTACEの濃度又は活性である、[3]に記載の方法。
[5]前記体液が、卵胞液、全血、血清、血漿又は尿である、[3]又は[4]に記載の方法。
[6]TACEレベルがTACEの濃度であり、前記濃度を測定する方法が免疫学的測定法である、[3]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]TACEレベルを測定する方法が活性測定法である、[3]~[5]のいずれかに記載の方法。
[8]TACEを特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、[6]に記載の方法に使用するための判定試薬又は判定キット。
[9]TACEを特異的に認識する抗体の、妊孕性を判定するための試薬又は判定キットの製造における使用。
[10]TACEを特異的に認識する抗体の、妊孕性の判定における使用。
[11]妊孕性の判定のために使用される、TACEを特異的に認識する抗体。
[12]患者における不妊症を治療する方法又は体外受精による妊娠成立を高める方法であって、
(i)患者から採取した体液中のTACEの濃度又は活性を測定する工程、
(ii)前記測定値が予め設定した基準値より高い場合に、同患者から前記検体と同日に採取された卵子又は該卵子から受精後に発生した胚を妊孕性が高いと同定する工程、及び
(iii)(ii)で同定された卵子から受精後に発生した胚又は同定された胚を、前記患者に移植する工程、を含む方法。
本発明によれば、これまで医師の経験による形態学的な判断に頼るだけではなく、客観的な数値を加味して、移植に適した胚の選定が可能となり、医師による胚の評価・選定判断の大きな補助となる。
SensoLyte(R) 520 TACE (α-Secretase) Activity Assay Kit Fluorimetric(AnaSpec Inc.社)を用いて、胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液と、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液の間で卵胞液中のTACE活性値を対比した結果を示すボックスプロットである。Mann Whitney testでP=0.0449であった。 胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液と、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液とにおけるTACE活性の受信者動作特性(ROC)曲線解析の結果を示す図である。 Human TACE/ADAM17 ELISA kit(Innovative Research社)を用いて、胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液と、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液の間で卵胞液中のTACE濃度を対比した結果を示すボックスプロットである。Mann Whitney testでP=0.1204であった。
本発明の第一の態様は、不妊治療における卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するためのバイオマーカーである。本発明のバイオマーカーは、ヒト体液中に存在するTACEからなる。
TACEは824アミノ酸からなるI型膜タンパク質であり、主に心臓や骨格筋で発現している。金属イオン結合サイトを有する、分子量約93kDaのタンパク質であり、N末端側ドメインがFurinにより切断されることで活性化する。
後述の実施例が示す通り、胚移植を行い妊娠が成立した卵子を含んでいた卵胞液中のTACEの濃度又は活性(これらをまとめてレベルともいう)は、妊娠が成立しなかった卵子を含んでいた卵胞液のそれに比べて有意に高い。そのため、卵胞液中のTACEは、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するための指標となり得る。
本態様の別の側面は、TACEの卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するためのバイオマーカーとしての使用である。
かかる知見に基づく本発明の第二の態様は、ヒト体液中のTACEの濃度又は活性を測定し、その測定値から卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定する方法である。ヒト体液中におけるTACEの濃度又は活性の測定は、通常インビトロ(in vitro)で行われる。この方法により、妊孕性の高い卵子又は卵子から受精後に発生する胚を選択することができる。その結果、従来の顕微鏡観察による胚盤胞の形態学的評価に加えて、子宮へ移植するのに適した胚を選択するための判断材料が提供され、妊娠成立の確率を高めることができる。
なお、本発明の方法は、妊孕性を判定する段階までを含むものであり、胚の移植可否に
関する最終的な判断行為は含まれない。医師は、本発明の方法による判定結果等を参照して、子宮への移植の可否を決定したり、移植に適した胚を選択したり、不妊治療の方針を立てたりする。したがって、本発明の方法は、妊孕性の高い卵子又は卵子から受精後に発生する胚を選択するための判断材料を提供する方法と言い換えることができる。前記判断材料は、判断するための根拠となる情報と言い換えてもよい。
本明細書において「妊孕性」とは、卵子又は卵子から受精後に発生する胚が、着床して妊娠に至る全ての過程を達成できる能力の程度のことをいう。子宮へ移植する前に、妊孕性が高い胚を選択することで、妊娠成立の確率を高めることができる。
ヒト検体中のTACEレベルは、その濃度もしくは活性の測定により調べることができる。測定されるTACEは、遊離して存在するものの他、他のタンパク質等と結合ないしは会合した形態で検体中に存在するものも包含される。従って、本発明においてバイオマーカーとして使用される「TACE」という語には、検体中に遊離して存在するTACEの全長タンパク質及びその部分断片、並びに他のタンパク質又はタンパク質断片と結合ないしは会合した形態で検体中に存在するTACE及びその部分断片が包含される。
ヒト検体とは、ヒト体液であり、卵胞液、全血、血清、血漿、尿等を用いることができるが、卵胞液、全血、血清又は血漿を用いることが望ましく、特に卵胞液を用いることがさらに望ましい。本発明の方法に用いられる検体は、被験者から採取された、すなわち単離された検体を指す。
検体を採取されるヒト(被験者)は、通常、不妊治療において体外受精適応となる女性患者である。
被験者からの検体採取は、通常は排卵前に行われる採卵と同日に好ましくは同時に行われる。検体が卵胞液である場合は、通常は卵巣から卵子を採取(採卵)するときに共に採取される。検体が、血清、血漿、尿等の場合は、採卵の直前に検体を採取すると、採取された卵子の状態をより反映していると考えられるため好ましい。
本発明の方法の測定・判定を行う時期は、胚移植前であれば、採卵後、受精後、胚盤胞まで分割した後等のいつでもよい。通常は、医師が胚の移植可否を判断するときまでに測定・判定し、好ましくは、医師が胚盤胞を顕微鏡で観察し形態学的にグレード分類した結果と、本発明の方法による判定結果とを、移植可否の決定時点までに出す。
また、採卵後の早い時期に本発明の方法による測定・判定を行うことも不妊治療の効率の観点から好ましい。これは、妊孕性が高いと判定された卵子を、受精させる工程、培養する工程に進めることで、妊娠の可能性を高めることができるからである。
卵胞液とは、成熟した卵胞中に存在する。適切な排卵誘発管理により成熟した卵胞より採卵針を用いて採取する際に、卵子と共に採取される。通常の不妊治療では卵胞液は廃棄されるので、本発明の判定を行うことによる患者への更なる負担は伴わない。
ヒト検体中のTACEレベルを測定する方法は、免疫学的測定法(免疫測定法とも記す)、活性測定法、液体クロマトグラフィー法、電気泳動法、質量分析法等定量性のある測定法であれば特に限定されない。このうち活性測定法は、TACEの酵素活性を測定するものであり、免疫測定法等のようにタンパク質を測定するものとは厳密には異なるものであるが、本発明においてはどちらを測定してもよい。免疫測定法は大掛かりな機器類が不要であり測定操作も簡便なので、本発明においても好ましく用いることができる。
免疫測定自体はこの分野において周知である。免疫測定法を反応形式に基づいて分類すると、サンドイッチ法、競合法、凝集法、ウェスタンブロット法等があり、また、標識に基づいて分類すると、酵素免疫分析、放射免疫分析、蛍光免疫分析等がある。本発明においては、定量的検出が可能な免疫測定方法のいずれを用いてもよい。特に限定されないが
、例えば、サンドイッチELISA等のサンドイッチ法を好ましく用いることができる。
本発明に用いられる抗体の製法は特に限定はなく、典型的には、マウス、ウサギ等の非ヒト動物で調製された非ヒト動物ポリクローナル又はモノクローナル抗体である。また、上述の通りTACEのアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列も公知であるので、常法のハイブリドーマ法等によりTACEの特定部位を特異的に認識するTACE抗体を調製して用いてもよい。
本発明に用いられる抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。ポリクローナル抗体として抗血清を用いてもよい。本発明において、ポリクローナル抗体という語には、精製前の抗血清も包含される。また、抗体に代えて該抗体の抗原結合性断片を用いることもできる。以下、本明細書において、文脈からそうではないことが明らかな場合を除き、「抗体」という語には当該抗体の抗原結合性断片も包含される。ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗原結合性断片は、いずれも周知の常法により調製することができる。
具体的には、TACEの特定部位を認識するポリクローナル抗体は、例えば、当該部位を特異的に認識するモノクローナル抗体を複数種混合して得ることができる。又は、化学合成等の周知の手法により調製したTACEの当該部位を含むポリペプチド、組換えTACE又はこれらをコードするポリヌクレオチドなどを免疫原として適宜アジュバントと共に非ヒト動物に免疫し、該動物から採取した血液から抗血清を得て、該抗血清中のポリクローナル抗体(非ヒト動物抗可溶性TACEポリクローナル抗体)を精製することで得ることができる。免疫は、被免疫動物中での抗体価を上昇させるため、通常数週間かけて複数回行なう。抗血清中の抗体の精製は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿や陰イオンクロマトグラフィーによる分画、アフィニティーカラム精製等により行なうことができる。
モノクローナル抗体の周知の作製方法の一例として、ハイブリドーマ法を挙げることができる。具体的には、例えば、上記のように免疫した非ヒト動物から脾細胞やリンパ球のような抗体産生細胞を採取し、これをミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを調製し、TACEの特定部位と結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択し、これを増殖させて培養上清から非ヒト動物抗TACEの特定部位を特異的に認識するモノクローナル抗体を得ることができる。
「抗原結合性断片」とは、例えば免疫グロブリンのFab断片やF(ab’)2断片のような、当該抗体の対応抗原に対する結合性(抗原抗体反応性)を維持している抗体断片を意味する。このような抗原結合性断片もイムノアッセイに利用可能であることは周知であり、もとの抗体と同様に有用である。Fab断片やF(ab’)2断片は、周知の通り、抗体をパパインやペプシンのようなタンパク分解酵素で処理することにより得ることができる。なお、抗原結合性断片は、Fab断片やF(ab’)2断片に限定されるものではなく、対応抗原との結合性を維持しているいかなる断片であってもよく、遺伝子工学的手法により調製されたものであってもよい。また、例えば、遺伝子工学的手法により、一本鎖可変領域(scFv:
single chain fragment of variable region)を大腸菌内で発現させた抗体を用いることもできる。scFvの作製方法も周知であり、上記の通りに作製したハイブリドーマのmRNAを抽出し、一本鎖cDNAを調製し、免疫グロブリンH鎖及びL鎖に特異的なプライマーを用いてPCRを行なって免疫グロブリンH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子を増幅し、これらをリンカーで連結し、適切な制限酵素部位を付与してプラスミドベクターに導入し、それで大腸菌を形質転換し、大腸菌からscFvを回収することによりscFvを作製することができる。このようなscFvも「抗原結合性断片」に包含される。
免疫測定法自体は周知の技術であるが、簡単に記載すると、例えば、サンドイッチ法で
は、TACEに結合する抗体を固相に不動化し(固相化抗体)、試料と反応させ、必要に応じて洗浄後、固相化抗体と同一又は異なる部位でTACEに結合する抗体に標識を付した標識抗体を反応させ、洗浄後、固相に結合した標識抗体を測定する。
標識抗体の測定は、標識物質からのシグナルを測定することにより行なうことができる。シグナルの測定方法は、標識物質の種類に応じて適宜選択される。例えば、酵素標識の場合、該酵素に対応した発色基質、蛍光基質又は発光基質等の基質を該酵素と反応させ、その結果発生する発色や発光等のシグナルを吸光光度計やルミノメータ等の適当な機器で測定することにより、酵素活性を求め測定対象物を測定することができる。例えば、標識物質としてALPを用いる場合、3-(4-メトキシスピロ(1,2-ジオキセタン-3,2’-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン)-4-イル)フェニルホスフェート2ナトリウム(例えば商品名AMPPD)などの発光基質を用いることができる。標識抗体は、標識物質が当該抗体に直接結合されていてもよいし、ビオチン又はハプテン等の特異結合分子を抗体に結合させ、標識物質を結合した特異結合分子のパートナー(ストレプトアビジン又はハプテン抗体等)を反応させることにより、間接的に標識物質が結合されていてもよい。TACEを種々の濃度で含む濃度既知の標準試料について、抗TACE抗体又はその抗原結合性断片を用いて免疫測定を行ない、標識からのシグナルの量と標準試料中のTACEの濃度との相関関係をプロットして検量線を作成しておき、TACE濃度が未知の検体について同じ操作を行なって標識からのシグナル量を測定し、測定値をこの検量線に当てはめることにより、検体中のTACE濃度を定量することができる。
またTACEレベルを検討する場合、TACEの活性を測定する方法も用いられる。例えば既知のTACE標的配列に蛍光物質と消光物質を結合させた基質を用いてTACEに作用させその反応生成物の蛍光強度を測定することで、試料中に存在するTACE活性を測定する事が可能である。得られたシグナルは、既知濃度の標準物質を用いることで値付けが可能である。
体液中のTACEレベルが高いか否かは、例えば、妊娠が不成立だった胚の元の卵子を含んでいた他の体液中の、TACEレベルから定められた基準値を閾値とし、この閾値との比較により判断することができる。基準値は、例えば妊娠が不成立だった胚の元の卵子を含んでいた、多数の卵胞液中のTACEの濃度の中央値を基準とすることができる。そして、被検体となる採卵で得られた各卵胞液中のTACEレベルの測定値が、この基準値よりも高い場合には、妊孕性が高いすなわち卵子の質が高く着床・妊娠に至る可能性が高い、と判断することができる。この閾値は、年代ごと(例えば、30歳未満、30歳代、40歳代、50歳代など)に設定してもよい。
本発明の方法において、妊孕性を判定される卵子又は胚は、測定に供される検体の採取日又は採取時に採取された卵子又は該卵子から受精後に発生した胚である。本発明の方法において、妊孕性を判定することができる胚としては、分割胚、胚盤胞のどちらでもよいが、好ましくは胚盤胞である。
本発明の妊孕性を判定する方法は、不妊治療方法に適用することができる。すなわち、本発明により、患者における不妊症を治療する方法又は体外受精による妊娠成立を高める方法であって、
(i)患者から採取した体液中のTACEの濃度又は活性を測定する工程、
(ii)前記測定値が予め設定した基準値より高い場合に、同患者から前記検体と同日に採取された卵子又は該卵子から受精後に発生した胚を妊孕性が高いと同定する工程、及び(iii)(ii)で同定された卵子から受精後に発生した胚又は同定された胚を、前記患者に移植する工程、を含む方法が提供される。
また本発明の第三の態様は、TACEを特異的に認識する抗体を含有する、妊孕性を判定する方法に使用するための試薬に関する。
この判定試薬は、TACEを特異的に認識する抗体ないし抗原結合性断片のみからなっていてもよいし、これら抗体又はその抗原結合性断片の安定化等に有用な他の成分をさらに含んでいてもよい。また、これら抗体又はその抗原結合性断片は、標識物質ないしはビオチン等の特異結合分子が結合した形態や、プレート、粒子等の固相に固定化された形態であってもよい。
本発明の第四の態様はまた、上記した本発明の判定試薬を含む、妊孕性を判定するキットであってもよい。当該キットは免疫測定キットであり、免疫測定に必要な他の試薬類等も含んでいてよい。免疫測定に必要な他の試薬類は周知である。例えば、当該キットには、上記した判定試薬のほか、検体希釈液、洗浄液、及び、標識抗体に使用されている標識物質が酵素の場合には該酵素の基質液等がさらに含まれ得る。また、キットには通常、使用説明書が含まれる。
本態様の別の側面は、TACEを特異的に認識する抗体の、妊孕性を判定するための試薬又は判定キットの製造における使用である。
また別の側面は、TACEを特異的に認識する抗体の、妊孕性の判定における使用である。
また別の側面は、妊孕性の判定のために使用される、TACEを特異的に認識する抗体である。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
<実施例1>活性測定を用いた卵胞液中のTACEの測定
妊娠成立及び不成立が判明している卵子を含んでいた卵胞液検体は、適切な排卵誘発を行った患者より卵子を採取した時に、同時に採取できるものを使用した。卵胞液は回収した後、-80℃で保存した。採卵された卵子の培養記録と患者の妊娠可否を照合し、妊娠成立群と妊娠不成立群に群分けを行い、妊娠成立が認められた卵胞液12検体、妊娠不成立だった卵胞液12検体を用いた。
TACEの活性測定は購入したSensoLyte(R) 520 TACE (α-Secretase) Activity Assay Kit Fluorimetric(AnaSpec Inc.社)を使用した。卵胞液の測定は添付の希釈液を用いて希釈し、添付のプロトコル通りに行った。
結果を図1に示す。妊娠不成立群と比較して、妊娠成立群では明らかに卵胞液中のTACEレベルが高値であった。前述のTACE活性測定キットにおいて、TACEの基質「QXL(TM)520/5-FAM」はTACEにより切断されて5-FAMを生じる。その5-FAMの濃度が、妊娠不成立群の中央値では80.8 nM(5-FAM)であったのに対し、妊娠成立群の中央値は87.7 nM(5-FAM)であった。
表1及び図2は、卵胞液中のTACEによる妊娠成立の検出能をROC解析により評価した結果である。この結果より、独立変数である卵胞液中のTACEレベルと二分変数である妊娠成立の有無というアウトカムとの関係が示唆された。また、ROC曲線下面積(AUC: area under the curve)は0.743であった。
Figure 2024062396000002
<実施例2>ELISA kitを用いた卵胞液中のTACEの測定
妊娠成立及び不成立が判明している卵子を含んでいた卵胞液検体は、適切な排卵誘発を行った患者より卵子を採取した時に、同時に採取できるものを使用した。卵胞液は回収した後、-80℃で保存した。採卵された卵子の培養記録と患者の妊娠可否を照合し、妊娠成立群と妊娠不成立群に群分けを行い、妊娠成立が認められた卵胞液14検体、妊娠不成立だった卵胞液12検体を用いた。
TACE ELISA測定は購入したHuman TACE/ADAM17 ELISA kit(Innovative Research社)を使用した。卵胞液の測定は添付の希釈液を用いて希釈し、添付のプロトコル通りに行った。
結果を図3に示す。妊娠不成立群と比較して、妊娠成立群では卵胞液中のTACE濃度が高値であった。妊娠成立群の中央値は26.7 pg/mLであったのに対し、妊娠不成立群の中央値は24.7 pg/mLであった。また表2は、卵胞液中のTACEによる妊娠成立の検出能をROC解析により評価した結果である。ROC曲線下面積(AUC)は0.682であった。
Figure 2024062396000003

Claims (12)

  1. TACE(Tumor necrosis factor-α-converting enzyme)からなる、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するためのバイオマーカー。
  2. TACEの、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定するためのバイオマーカーとしての使用。
  3. ヒト体液中のTACEレベルを測定し、その測定値から卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性を判定する方法。
  4. TACEレベルが基準値よりも高い場合には、卵子又は卵子から受精後に発生する胚の妊孕性が高いと判定し、当該基準値は、ヒト卵子から受精後に発生する胚を移植して妊娠が不成立だった他のヒト体液中のTACEの濃度又は活性である、請求項3に記載の方法。
  5. 前記体液が、卵胞液、全血、血清、血漿又は尿である、請求項3又は4に記載の方法。
  6. TACEレベルがTACEの濃度であり、前記濃度を測定する方法が免疫学的測定法である、請求項3又は4に記載の方法。
  7. TACEレベルを測定する方法が活性測定法である、請求項3又は4に記載の方法。
  8. TACEを特異的に認識する抗体を含有することを特徴とする、請求項6に記載の方法に使用するための判定試薬又は判定キット。
  9. TACEを特異的に認識する抗体の、妊孕性を判定するための試薬又は判定キットの製造における使用。
  10. TACEを特異的に認識する抗体の、妊孕性の判定における使用。
  11. 妊孕性の判定のために使用される、TACEを特異的に認識する抗体。
  12. 患者における不妊症を治療する方法又は体外受精による妊娠成立を高める方法であって、
    (i)患者から採取した体液中のTACEの濃度又は活性を測定する工程、
    (ii)前記測定値が予め設定した基準値より高い場合に、同患者から前記検体と同日に採取された卵子又は該卵子から受精後に発生した胚を妊孕性が高いと同定する工程、及び
    (iii)(ii)で同定された卵子から受精後に発生した胚又は同定された胚を、前記患者に移植する工程、を含む方法。
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