JP2024052199A - 積層心筋細胞シート付細胞培養基材およびその製造方法、並びに生体移植用正常心筋細胞シートの評価方法 - Google Patents

積層心筋細胞シート付細胞培養基材およびその製造方法、並びに生体移植用正常心筋細胞シートの評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】正常心筋細胞シートの生体移植による治癒効果を評価するための積層心筋細胞シート付細胞培養基材およびその製造方法を提供すること。さらに、生体移植用正常心筋細胞シートの治癒効果の評価方法を提供することを目的とする。【解決手段】細胞培養基材上に、2層以上の心筋細胞シートを有する積層心筋細胞シート付細胞培養基材であって、細胞培養基材は、帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域とが交互に配列した交互配列部分を有し、細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、2層以上の心筋細胞シートを有し、心筋細胞シートとして、疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シート、および健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを、少なくともそれぞれ1層ずつ有する、積層心筋細胞シート付細胞培養基材。【選択図】なし

Description

本発明は、積層心筋細胞シート付細胞培養基材およびその製造方法、並びに生体移植用正常心筋細胞シートの評価方法に関する。
生体外で心筋細胞のシートを作製し、心疾患患者の心臓の患部に移植することで、心臓機能を回復させる治療法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
移植用の心筋細胞シートは、患者本人の体細胞からiPS細胞を作製し、心筋細胞へと分化誘導された患者由来の細胞からなる自家細胞を使用する場合と、ストックされた健常人由来のiPS細胞から心筋細胞へと分化誘導された、患者とは由来の異なる他家細胞を使用する場合がある。
特開2003-306434号公報
移植用の心筋細胞シートとして、自家細胞を使用した場合であっても、また、他家細胞を使用した場合であっても、移植用心筋細胞シートの作製には、患者または健常人からの細胞検体の採取、iPS細胞から心筋細胞への分化誘導、および細胞シート作製など、移植準備に時間を要し、また費用負担も大きいにも関わらず、実際に移植治療を行うまで、心筋細胞シート移植による治癒効果を評価できないことが課題である。
そのため事前に移植効果を評価する手段が求められている。
本発明は、正常心筋細胞シートの生体移植による治癒効果を評価するための積層心筋細胞シート付細胞培養基材およびその製造方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、生体移植用正常心筋細胞シートの治癒効果の評価方法を提供することを目的とする。
本発明の上記課題は、以下の<1>~<7>の構成によって解決することができる。
<1> 細胞培養基材上に、2層以上の心筋細胞シートを有する積層心筋細胞シート付細胞培養基材であって、細胞培養基材は、帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域とが交互に配列した交互配列部分を有し、細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、2層以上の心筋細胞シートを有し、心筋細胞シートとして、疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シート、および健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを、少なくともそれぞれ1層ずつ有する、積層心筋細胞シート付細胞培養基材。
<2> 前記細胞培養基材上に前記正常心筋細胞シートが付着し、前記正常心筋細胞シート上に前記疾患心筋細胞シートが積層された、<1>に記載の積層心筋細胞シート付細胞培養基材。
<3> 前記細胞培養基材上に前記疾患心筋細胞シートが付着し、前記疾患心筋細胞シート上に前記正常心筋細胞シートが積層された、<1>に記載の積層心筋細胞シート付細胞培養基材。
<4> 帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域が交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材を準備する工程と、細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを形成する工程と、前記正常心筋細胞シート上に疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シートを形成する工程と、をこの順で有する、積層心筋細胞シート付細胞培養基材の製造方法。
<5> 帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域が交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材を準備する工程と、細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シートを形成する工程と、前記疾患心筋細胞シート上に健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを形成する工程と、をこの順で有する、積層心筋細胞シート付細胞培養基材の製造方法。
<6> 帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域が交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シートを形成する工程と、帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域が交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを形成する工程と、前記疾患心筋細胞シートおよび前記正常心筋細胞シートのいずれか一方を前記細胞培養基材から分離して、他方の心筋細胞シート上に積層する工程と、を有する、積層心筋細胞シート付細胞培養基材の製造方法。
<7> <1>~<3>のいずれか1つに記載された心筋細胞シート付細胞培養基材の疾患心筋細胞シートの運動機能の変化および生理学的特性の変化から選択される少なくとも1つの変化を評価する工程を有する、生体移植用正常心筋細胞シートの評価方法。
本発明によれば、正常心筋細胞シートの生体移植による治癒効果を評価するための積層心筋細胞シート付細胞培養基材およびその製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、生体移植用正常心筋細胞シートの治癒効果の評価方法を提供することができる。
交互配列部分の一実施形態における同部材の構成を示す図であり、(a)は交互配列部分の構造をシャーレとともに示す斜視図であり、(b)は交互配列部分の表面の一部を拡大して示す斜視図であり、(c)は交互配列部分の表面の一部を拡大して示す平面図であり、(d)は交互配列部分の一部を拡大して示す部分断面図である。 交互配列部分の製造方法の一例を説明するための工程図である。 (a)~(c)は、細胞シートの製造過程を説明するための模式図である。 ライブセルイメージング装置を用いて測定した、心拍数(BR)の結果を示すグラフである。 ライブセルイメージング装置を用いて測定した、収縮速度(CV)の結果を示すグラフである。 ライブセルイメージング装置を用いて測定した、弛緩速度(RV)の結果を示すグラフである。 ライブセルイメージング装置を用いて測定した、収縮弛緩持続時間(補正値)(CRD(補正値))の結果を示すグラフである。 ライブセルイメージング装置を用いて測定した、配向度の結果を示すグラフである。 カルシウムイメージング解析で測定した、培養21日目における50%高さの線幅(Duration)を示すグラフである。 カルシウムイメージング解析で測定した、培養21日目における50%高さの線幅(Duration)および波形ピークの間隔(Interval)から算出した、Duration/(Interval)1/2を示すグラフである。
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限および下限は任意に組み合わせることができる。
[積層心筋細胞シート付細胞培養基材]
本発明の積層心筋細胞シート付細胞培養基材は、細胞培養基材上に、2層以上の心筋細胞シートを有する積層心筋細胞シート付細胞培養基材であって、細胞培養基材は、帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域とが交互に配列した交互配列部分を有し、細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、2層以上の心筋細胞シートを有し、心筋細胞シートとして、疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シート、および健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを、少なくともそれぞれ1層ずつ有する。すなわち、前記2層以上の心筋細胞シートは、少なくとも1層の疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シート、および少なくとも1層の健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを有する。
本発明の積層心筋細胞シート付細胞培養基材は、生体移植用正常心筋細胞シートの評価に好適に使用可能である。
健常人由来の分化誘導された心筋細胞(以下、「正常心筋細胞」ともいう)からなる正常心筋細胞シートと、疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞(以下、「疾患心筋細胞」ともいう)からなる疾患心筋細胞シートとを、特定の細胞培養基材上に積層してなる心筋細胞シート付細胞培養基材を、生体移植後のモデルとして使用することにより、生体移植用正常心筋細胞シートによる治癒効果をより正確に評価可能である。
上記の効果が得られる詳細な機構は不明であるが、一部は以下のように考えられる。
本実施形態の積層心筋細胞シート付細胞培養基材は、帯状の細胞付着領域と、帯状の細胞付着抑制領域とが交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材(以下、「配向性培養基材」ともいう)上に心筋細胞シートを有することで、心筋細胞の長軸方向が一方向に揃った状態で、心筋細胞が培養される。すなわち、心筋細胞が一方向に配向した細胞シートとなることで、より生体内に近い状態で心筋細胞が培養される。その結果、正常心筋細胞シートを移植した際の効果を、より生体内に近い環境で評価することが可能であると考えられる。
なお、疾患心筋細胞を配向性培養基材上に単層培養した場合、配向性培養基材上の疾患心筋細胞の機能は、平面培養基材上に単層培養した場合に比して正常心筋細胞機能へ有意に近づく。疾患心筋細胞が一方向に配向した心筋細胞シートとなることで、より有意に生体内に近い環境で心筋細胞が培養され、心筋機能が正常化の方向に変化する。
そのため、配向性基材上に疾患心筋細胞を単層培養した細胞シートを解析することで、配向性基材上に単層培養した正常心筋細胞での移植による疾患の治療効果の評価が可能である。またこれらの結果より本交互配列を持つ本配向基材を疾患心筋組織に直接患部に付着させ疾患心機能を正常化へ治療する効果を示すデバイスとして利用できる。
なお、心筋細胞を成熟化させる手段として、細胞を生体に近い状態で培養する方法が有効であると考えられている。生体内の心筋は、一方向に配向した状態で存在し、細胞間結合を介して細胞間の電気伝導が行われ、収縮および/または弛緩といった機能を発揮している。
本実施形態では、配向性培養基材を使用し、心筋細胞を配向した状態で培養することで、心筋細胞の成熟化(生理活性や運動機能の改善)が促進され、より生体内に近い環境で、生体移植用正常心筋細胞シートの治癒効果が評価される。
<心筋細胞>
本実施形態において、心筋細胞シートは、心筋細胞から構成される。
前記心筋細胞としては、無脊椎動物、ヒトおよび非ヒトを含む脊椎動物の心筋細胞が例示され、脊椎動物としては、魚類、両生類、は虫類、鳥類、および哺乳類を含む。具体的には、例えば、哺乳類としては、マウス、ラット、フェレット、ハムスター、モルモット、またはウサギ等のげっ歯類、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、または、アカゲザル、チンパンジー、オランウータン、ヒト等を含む霊長類等であってもよい。また、哺乳類の他にも、魚類、家禽を含む鳥類、爬虫類等を含む。
これらの中でも、ヒトやマウスを含む哺乳類の心筋細胞であることが好ましく、ヒトの心筋細胞であることがより好ましい。
本実施形態において、心筋細胞は、健常人または疾患患者に由来し、分化誘導された細胞(differentiation induced cell)である。
各種の中胚葉系への分化誘導因子等を用いた手法により多能性幹細胞(幹細胞)から分化誘導された心筋細胞であってもよい。加えて、本実施形態において、心筋細胞は、患者等の線維芽細胞や血液細胞に転写因子を導入して誘導されるinduced cardiomyocyte(iCM、ダイレクトリプログラミングにより得られた心筋細胞)であってもよい。
これらの中でも、心筋細胞は、幹細胞由来の心筋細胞であることが好ましい。
ここで、幹細胞は、多分化能および自己複製能を有する細胞であり、例えば、ヒトを含む霊長類、霊長類以外のほ乳類等の生物で各種細胞に分化が可能な、多分化能を備える幹細胞(Stem Cell)を含む。幹細胞は、継代可能であり、継代しても分化が進まない状態を保ち、核型等が変化しにくく、またはエピジェネティックな表現型が変化しにくい性質を有することが好適である。また、幹細胞は、これに関連して、生体外(in vitro)で十分な増殖能力を備えていることが好適である。このような幹細胞の具体例としては、胚性幹細胞(Embryonic Stem Cell、以下、「ES細胞」という。)、人工多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem Cell、以下、「iPS細胞」という。)、その他の人工的に生成され若しくは選択された多能性を備える幹細胞等が挙げられる。これらの幹細胞は、特定の遺伝子を含むレトロウイルスやアデノウイルスやプラスミド等の各種ベクター、RNA、低分子化合物等により、体細胞を再プログラミングして作製された幹細胞であってもよい。
なお、幹細胞としては、必ずしも全能性(万能性、pluripotent)に近い多分化能を備えている細胞である必要はないものの、通常より多分化能が高い多能性(multipotency)な細胞を用いることが好ましい。また、幹細胞は、疾患の患者から得られた細胞から作製された細胞、その他の疾患のモデルとなる細胞、レポーター遺伝子が組み込まれた細胞(レポーター細胞)、コンディショナルノックアウトが可能な細胞、その他の遺伝子組み換えされた細胞等であってもよい。この遺伝子組み換えは、染色体内の遺伝子の追加や修飾や削除、各種ベクターや人工染色体による遺伝子等の付加、エピジェネティック制御の変更、PNA等の人工遺伝物質の付加、その他の遺伝子組み換えを含む。
これらの中でも、本実施形態において、心筋細胞は、入手容易性および心筋細胞への分化誘導性の観点から、ES細胞またはiPS細胞由来の心筋細胞であることが好ましい。
(正常心筋細胞)
正常心筋細胞は、健常人由来の分化誘導された細胞であり、すなわち、健常人から採取した細胞から分化誘導した心筋細胞である。ここで、分化誘導された正常心筋細胞とは、特定の疾病を有していることが明らかではない心筋細胞を意味し、疾患の治療を目的とした生体移植用心筋細胞シートを構成する心筋細胞である。
対象とする心疾患が遺伝性の心疾患である場合には、正常心筋細胞は、他家細胞由来の正常心筋細胞であってもよく、また、ゲノム編集等により遺伝子変異を修正して正常化した正常心筋細胞であってもよい。
また、対象とする心疾患が遺伝性の心疾患ではない場合には、正常心筋細胞は、他家細胞由来の正常心筋細胞であってもよく、また、自家細胞由来の正常心筋細胞であってもよい。
(疾患心筋細胞)
疾患心筋細胞とは、疾患患者由来の心筋細胞である。ここで、分化誘導された疾患心筋細胞とは、疾患(心疾患)を有する患者から得られた心筋細胞であり、疾患細胞由来の心筋細胞および心筋細胞シートは、当該疾患の病態を有し、モデルとして使用可能である。
疾患(心疾患)としては、具体的には、心筋症(肥大型心筋症、拡張型心筋症、拘束型心筋症)、心不全(慢性心不全、重症心不全、うっ血性心不全)、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、不整脈、スポーツによる心肥大などが例示される。
これらの中でも、再生医療における生体移植の対象となる疾患であることが好ましい観点から、疾患心筋細胞は、肥大型心筋症、拡張型心筋症、および拘束型心筋症などの遺伝性心疾患、並びにスポーツによる心肥大など後天的な心疾患よりなる群から選択されるいずれか1つの疾患を有する患者から樹立された細胞に由来する心筋細胞であることが好ましい。
なお、疾患心筋細胞または疾患心筋細胞シートは、その疾患に応じて、正常心筋細胞シートまたは正常心筋細胞シートと比べて、心拍数((BR:beating rate))の低下、収縮速度(CV:contractile velocity)の低下、弛緩速度(RV:relaxation velocity)の低下、収縮弛緩持続時間(CRD:contraction-relaxation duration)の短縮などの運動機能の変化や、生理学的特性の変化が認められる。
<心筋細胞シートの積層>
本実施形態において、配向性培養基材上に、2層以上の心筋細胞シートを有し、心筋細胞シートとして、疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シート、および健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを、少なくともそれぞれ1層ずつ有する。また、疾患心筋細胞シートと、正常心筋細胞シートとは、少なくとも1面で接している。
積層心筋細胞シートは、2層以上の心筋細胞シートから構成されていれば特に限定されず、3層以上の心筋細胞シートから構成されていてもよい。積層心筋細胞シート付細胞培養基材の製造容易性の観点から、積層心筋細胞シートを構成する心筋細胞シートの層数は、好ましくは2層以上10層以下、より好ましくは2層以上5層以下、さらに好ましくは2層以上3層以下、よりさらに好ましくは2層である。
ここで、3層以上の心筋細胞シートから構成されている場合、疾患心筋細胞シート/疾患心筋細胞シート/正常心筋細胞シートまたは正常心筋細胞シート/正常心筋細胞シート/疾患心筋細胞シートのように、同種の心筋細胞シートを積層した構成、すなわち、積層構成中で同種の心筋細胞シートが重ね合わさった構成を有していてもよい。
ここで、心筋細胞シートとして、正常心筋細胞シートと、疾患心筋細胞シートとを、それぞれ1層以上有するものである。
第1の実施形態の積層心筋細胞シート付細胞培養基材は、配向性基材上に、正常心筋細胞シートが付着し、正常心筋細胞シート上に、疾患心筋細胞シートが積層された構成を有している。上記の構成を有すると、配向した正常心筋細胞シート上に、疾患心筋細胞を播種することができ、疾患心筋細胞が配向しやすく、より生体内に近い環境で評価可能となると考えられる。また、疾患心筋細胞シートが上層となることから、疾患心筋細胞シートの観察がしやすい。
第2の実施形態の積層心筋細胞シート付細胞培養基材は、配向性基材上に、疾患心筋細胞シートが付着し、疾患心筋細胞シート上に、正常心筋細胞シートが積層された構成を有していてもよい。上記の構成を有すると、実際に再生医療により心筋細胞シートを移植する場合には、疾患を有する心臓上に、正常の心筋細胞シートを移植すると考えられ、より実際の再生医療の状態に近い環境で評価可能となると考えられる。
<配向性基材>
本実施形態において、積層心筋細胞シート付細胞培養基材の細胞培養基材は、帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域とが交互に配列した交互配列部分を有する。
細胞付着領域は、平坦部であり、また、細胞付着領域は、複数の凹凸を備える凹凸部である。各平坦部は、第1方向に延びる形状を有し、かつ、前記複数の平坦部は前記表面の全体で前記第1方向と交差する第2方向に並び、各凹凸部は、相互に隣り合う前記平坦部の間を埋める複数の段差構造を含む。すなわち、細胞付着領域である帯状の平坦部と、細胞付着抑制領域である凹凸部が、交互に配列した交互配列部分を有する。
凹凸部の前記段差構造のピッチは、100nm以上10μm以下であることが好ましい。前記段差構造は、凸部であり、前記凹凸部は、相互に隣り合う前記平坦部に挟まれた凹部の底面に複数の前記凸部を備えており、交互配列部分の厚み方向において、前記凹凸部における先端面の高さと、前記平坦部の高さとの差が0.5μm以下であることが好ましい。
図1(a)が示すように、交互配列部分100は、例えば、シャーレの培養皿110に載置されるシート材である。シャーレは、培養皿110と蓋120とに囲まれた空間に細胞懸濁液を保持する。なお、シャーレの底部が、上記した、特定の平坦部と凹凸部とを有する表面形状に加工されていてもよく、その場合には、シャーレ自体が、交互配列部分を有する細胞培養基材である。
図1(b)が示すように、交互配列部分100の表面111は、複数の平坦部130と、複数の凹凸部140とを備える。凹凸部140は、複数の段差構造から構成され、複数の段差構造は、相互に隣り合う平坦部130の間を埋める。段差構造は、凸部である。なお、凹凸部140は、相互に隣り合う平坦部130に挟まれた凹部と、凹部の底面に位置する複数の凸部141とを備える。
図1(c)が示すように、各平坦部130は、1つの方向である第1方向(図1(c)の上下方向)に延びる平坦面である。各平坦部130は、表面111の全体において、第1方向と直交する第2方向(図1(c)の左右方向)に並ぶ。各凹凸部140もまた、第1方向に延び、かつ、表面111の全体において、第2方向に並ぶ。
凹凸部140を構成する各凸部141は、表面111と対向する方向から見て、例えば、三角格子の各頂点に位置する。各凹凸部140は、凸部141のこうした配列を、第1方向、および、第2方向に繰り返す。三角格子の各頂点に凸部141が位置する凹凸部140であれば、凸部141を形成するための原盤を、微小な繰り返し構造を形成することに適したマスク、例えば、単粒子膜をマスクとしたエッチング法によって形成することが可能となる。
表面111と対向する方向から見て、各凸部141は、例えば円形状を有する。相互に隣り合う凸部141の中心間の距離の最頻値は、凸部141のピッチである。また、凸部141の平面視形状における凸部の最大幅は、凸部141の直径である。
凸部141のピッチが下記(A)(B)を満たす構成は、心筋細胞の伸長方向を第1方向に揃える観点において好適である。すなわち、凸部141のピッチが下記(A)(B)を満たす構成は、心筋細胞の接着に対する優劣が、平坦部130と凹凸部140との間で明確に区画される観点において好適である。
(A)凸部141のピッチ:100nm以上10μm以下
(B)凸部141の直径:凸部141のピッチの50%以上100%以下
各平坦部130の第2方向(短辺方向)での長さは、平坦部130の幅である。また、相互に隣り合う平坦部130間の第2方向(短辺方向)での長さは、凹凸部140の幅である。
平坦部130の幅、および、凹凸部140の幅は、例えば、培養の対象となる細胞の大きさ(5μm以上100μm以下)の1/10倍以上10倍以下である。平坦部130の幅、および、凹凸部140の幅が下記(C)(D)を満たす構成は、心筋細胞の伸長方向を第1方向に揃えることを容易なものとする観点において好適である。
(C)平坦部130の幅:10μm以上50μm以下
(D)凹凸部140の幅:10μm以上50μm以下
図1(d)に示すように、凹凸部140は、相互に隣り合う凸部141、および、平坦部130とそれに隣接する凸部141との間に、凹部142を備えてもよい。複数の凸部141が凹凸部140に点在するため、凸部141間の空間である凹部142は、凹凸部140において、第1方向、および、第2方向に連なる。
交互配列部分100の厚み方向において、凹部142の底面と平坦部130との間の長さは、平坦部130の高さである。また、交互配列部分100の厚み方向において、各凸部141の先端面と平坦部130との間の高低差は、境界段差である。凹部142の底面と各凸部141の先端面の高低差は、凸部141の高さである。各凸部141の先端面と平坦部130とが面一である構成では、平坦部130の高さと、凸部141の高さとが、相互に等しい。凸部141の高さに対する凸部141のピッチの比は、凸部141のアスペクト比である。
境界段差が下記(E)を満たす構成は、心筋細胞シートの平坦性を高める観点において好適である。凸部141の高さが下記(F)を満たす構成、また、凸部141のアスペクト比が下記(G)を満たす構成は、凹凸部140の構造上での安定性を高められる観点、また、凹凸部140の形成を容易なものとする観点において好適である。
(E)境界段差:0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下
(F)凸部141の高さ:50nm以上5μm以下
(G)凸部141のアスペクト比:0.1以上10以下
そして、上記(A)(B)を満たす構成であれば、平坦部130に対する接着が優勢である細胞が平坦部に優先的に接着し、凹凸部140に対する接着の劣勢と相まって、双方の構造体の延在方向である第1方向に、細胞の伸長方向が揃えられる。結果として、表面111に沿った二次元方向に広がる心筋細胞シートにおいて、細胞の伸長方向を一次元方向に揃えること、すなわち、細胞の配向性を向上させることが可能となる。
また、上記(E)を満たす構成、特に、各凸部141の先端面と平坦部130とが面一である構成は、凹凸部140と平坦部130とを覆うように形成された心筋細胞シートにおいて、それの平坦性を高めることを可能とする。さらに、上記(F)を満たす構成は、心筋細胞シートの平坦性をより一層に高めることが可能である。
また、交互配列部分100の表面111は、細胞の接着性を高めることを目的として、例えば、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ポリリシン(PDLまたはPLL)、ヒアルロン酸などの細胞外マトリックス、ポリマー、ゲル等の接着因子を含む有機物が塗布されてもよく、あるいは、金属から構成される面であってもよい。また、交互配列部分100の表面111は、細胞の接着性や細胞シートの平坦性を高めることを目的として、親水性、あるいは、疎水性を有してもよい。
また、細胞シート形成後に細胞シートの剥離・回収を容易にするために、刺激応答性材料を塗布してもよい。刺激応答性材料としては、温度変化によって水親和性が変化する温度応答性ポリマーが好ましい。具体的にはポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)が好ましい。刺激応答性材料は慣用の塗布方法を用いて基材に塗布してもよいし、刺激応答性材料を処理した基材に下記に記載した方法を用いて構造を加工してもよい。
(交互配列部分を有する細胞培養基材の製造方法)
交互配列部分を有する細胞培養基材の製造方法の一例について説明する。なお、以下の説明では、ナノインプリント法を用いて、交互配列部分の表面111を、凹版150の転写によって形成する例を説明する。
図2が示すように、交互配列部分を有する細胞培養基材の製造方法は、凹版150を形成する工程と、交互配列部分100の表面111を凹版150の転写によって形成する工程とを含む。
凹版150の下面は、第1方向(紙面と直交する方向)に延びる形状を有し、かつ、第1方向と交差する第2方向(紙面の左右方向)に並ぶ複数の平坦部と、相互に隣り合う平坦部の間を埋める複数の段差構造から構成された凹凸部とを備える。凹版150の平坦部は、交互配列部分100の平坦部130を転写によって形成するための部分である。凹版150の凹凸部は、交互配列部分100の凹凸部140を転写によって形成するための部分である。
凹版150の段差構造は、凸部、または、凹部である。なお、本実施形態における凹版150の段差構造は、凸部141を形成するための凹部151であり、凹部151のピッチは、100nm以上10μm以下である。凹版150を形成する工程では、例えば、凹版150を形成するためのシリコン基板に対する、フォトリソグラフィー法、コロイダルリソグラフィー法、陽極酸化法、および、干渉露光法の少なくとも1種を用いて、凹凸部が形成される。また、凹版150自体を原盤からの1回、あるいは複数回の転写によって得てもよい。原盤には、例えば、シリコン基板に対するフォトリソグラフィー法、コロイダルリソグラフィー法、陽極酸化法、および、干渉露光法の少なくとも1種を用いて凹版150の表面形状に対応する形状が作り込まれている。
次に、交互配列部分100を形成するための基材160の表面111に、凹版150の下面を対向させる。基材160の形成材料は、例えば、熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂である。そして、基材160が流動性を有する状態で、基材160の表面111に、凹版150の下面を押し付ける。次いで、基材160の流動性を抑えた状態で、凹版150を基材160の表面111から離型する。これによって、基材160の表面111に凹版150の凹部151が転写され、平坦部130と凹凸部140とが形成される。
基材160の形成材料の熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂の表面に、細胞の接着性を高めることを目的として、例えば、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ポリリシン(PDLまたはPLL)、ヒアルロン酸などの細胞外マトリックス、ポリマー、ゲルなどの接着因子を含む有機物が塗布されていてもよい。また、基材160の形成材料として、多糖類やタンパク質などの生体材料を用いてもよい。
<積層心筋細胞シート付細胞培養基材の製造方法>
交互配列部分100を有する細胞培養基材を用いて製造される積層心筋細胞シート付細胞培養基材の製造方法について説明する。
上記(A)を満たす交互配列部分を有する細胞培養基材では、図3(a)が示すように、交互配列部分100に保持された細胞懸濁液の細胞が、平坦部130に対して優先的に接着する細胞S1であり、平坦部130よりも劣勢ではあるが、凹凸部140に対する接着を許容された細胞S2でもある。
この場合、図3(b)に示すように、平坦部130、および、凹凸部140は、第1方向に延び、第2方向に交互に配置される。そのため、交互配列部分の表面111には、例えば、平坦部130に優先的に接着された細胞S1の配向性が、平坦部130の構造、および、それを区画する凹凸部140の構造によって制御される。
そして、相互に隣り合う平坦部130に挟まれた凹凸部140においては、平坦部130よりも劣勢ではあるが、凹凸部140に接着した細胞S2にて、平坦部130による配向性の制御が反映される。結果として、図3(c)が示すように、第1方向に配向性の制御された細胞S1,S2が、表面111の全体に広がる培養細胞シートSAを形成する。
従って、配向性基材上の心筋細胞シートは、心筋細胞に配向性が付与される。
本実施形態の積層心筋細胞シート付細胞培養基材は、以下の方法1~方法3のいずれかにより製造することが好ましい。
(方法1)
帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域が交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材を準備する工程と、
細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを形成する工程と、
前記正常心筋細胞シート上に疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シートを形成する工程と、をこの順で有する、
積層心筋細胞シート付細胞培養基材の製造方法。
(方法2)
帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域が交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材を準備する工程と、
細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シートを形成する工程と、
前記疾患心筋細胞シート上に健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを形成する工程と、をこの順で有する、
積層心筋細胞シート付細胞培養基材の製造方法。
(方法3)
帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域が交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シートを形成する工程と、
帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域が交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを形成する工程と、
前記疾患心筋細胞シートおよび前記正常心筋細胞シートのいずれか一方を前記細胞培養基材から分離して、他方の心筋細胞シート上に積層する工程と、を有する、
積層心筋細胞シート付細胞培養基材の製造方法。
方法1では、上述した交互配列部分を有する細胞培養基材の少なくとも交互配列部分の上に、正常心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを形成する。すなわち、交互配列部分に接するように、正常心筋細胞を播種、培養して、正常心筋細胞シートを形成する。なお、少なくとも交互配列部分の上に正常心筋細胞シートを形成すればよく、細胞培養基材の全面に正常心筋細胞シートを形成してもよい。交互配列部分の上に、正常心筋細胞シートを形成すると、上記第1方向に細胞が配向した正常心筋細胞シートが形成される。
正常心筋細胞シートが形成された後、疾患心筋細胞を播種、培養して、正常心筋細胞シートの上に、疾患心筋細胞シートを形成する。なお、疾患心筋細胞シートは、少なくとも交互配列部分の上に形成された正常心筋細胞シート上に形成すればよく、細胞培養基材の全面に疾患心筋細胞シートを形成してもよい。配向した正常心筋細胞シート上に疾患心筋細胞シートを形成することにより、疾患心筋細胞シートも正常心筋細胞シートと同様に配向する。
方法1では、細胞培養基材、正常心筋細胞シート、および疾患心筋細胞シートがこの順で積層されてなる積層心筋細胞シートが製造される。
方法2では、上述した交互配列部分を有する細胞培養基材の少なくとも交互配列部分の上に、疾患心筋細胞からなる疾患心筋細胞シートを形成する。すなわち、交互配列部分に接するように、疾患心筋細胞を播種、培養して、疾患心筋細胞シートを形成する。なお、少なくとも交互配列部分の上に疾患心筋細胞シートを形成すればよく、細胞培養基材の全面に疾患心筋細胞シートを形成してもよい。交互配列部分の上に、疾患心筋細胞シートを形成すると、上記第1方向に細胞が配向した疾患心筋細胞シートが形成される。
疾患心筋細胞シートが形成された後、正常心筋細胞を播種、培養して、疾患心筋細胞シートの上に、正常心筋細胞シートを形成する。なお、正常心筋細胞シートは、少なくとも交互配列部分の上に形成された疾患心筋細胞シート上に形成すればよく、細胞培養基材の全面に正常心筋細胞シートを形成してもよい。配向した疾患心筋細胞シート上に正常心筋細胞シートを形成することにより、正常心筋細胞シートも疾患心筋細胞シートと同様に配向する。
方法2では、細胞培養基材、疾患心筋細胞シート、および正常心筋細胞シートがこの順で積層されてなる積層心筋細胞シートが製造される。
方法3では、交互配列部分を有する細胞培養基材の少なくとも交互配列部分の上に、疾患心筋細胞を播種、培養して、疾患心筋細胞シートを形成する。これにより、配向した疾患心筋細胞シートが形成される。
また、交互配列部分を有する細胞培養基材の少なくとも交互配列部分の上に、正常心筋細胞を播種、培養して、正常心筋細胞シートを形成する。これにより、配向した正常心筋細胞シートが形成される。
なお、疾患心筋細胞シートと、正常心筋細胞シートとは、別の細胞培養基材上に形成する。
その後、疾患心筋細胞シートおよび正常心筋細胞シートのいずれか一方を細胞培養基材から分離して、他方の心筋細胞シート上に積層する。細胞培養基材からの分離は、心筋細胞がシート状を維持した状態で行う。このような方法としては、細胞シートの剥離・回収を容易にするために、あらかじめ細胞培養基材に刺激応答性材料を塗布する方法が例示される。刺激応答性材料としては、温度変化によって水親和性が変化する温度応答性ポリマーが好ましく、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)が例示される。刺激応答性材料は慣用の塗布方法を用いて基材に塗布してもよいし、刺激応答性材料を処理した平面基材に上述した方法を用いて凹凸構造を形成してもよい。
細胞培養基材から剥離した心筋細胞シートは、配向方向が、細胞培養基材上の心筋細胞シートの配向方向と同じになるように積層することが好ましい。
なお、疾患心筋細胞シートを細胞培養基材から剥離して、正常心筋細胞シート上に積層した場合、細胞培養基材、正常心筋細胞シート、および疾患心筋細胞シートがこの順に積層してなる、積層心筋細胞シート付細胞培養基材が得られる。
また、正常心筋細胞シートを細胞培養基材から剥離して、疾患心筋細胞シート上に積層した場合、細胞培養基材、疾患心筋細胞シート、および正常心筋細胞シートがこの順に積層してなる、積層心筋細胞シート付細胞培養基材が得られる。
[生体移植用正常心筋細胞シートの評価方法]
本実施形態の心筋細胞シート付細胞培養基材は、疾患心筋細胞シートと正常心筋細胞シートとが積層されてなり、心疾患患者の心臓に、正常心筋細胞シートを生体移植した場合の疾患の治癒効果の評価モデルとして使用可能である。
正常心筋細胞シートを積層された疾患心筋細胞シートの運動機能の変化および生理学的特性の変化から選択される少なくとも1つの変化を評価する工程を有することが好ましい。
前記運動機能の変化は、ライブセルイメージングにより観察できる変化が例示される。また、生理学的特性としては、Ca-イメージング解析、パッチクランプ法等により測定される電気生理学的変化、生死、形状変化等の状態の変化が例示される。
なお、疾患心筋細胞シート単独での運動機能および生理学的特性が、正常心筋細胞での運動機能および生理学的特性に近づいた場合、治癒効果があると判断される。なお、このとき、ポジティブコントロールとして正常心筋細胞シート単独での運動機能および生理学的特性を採用してもよい。
<ライブセルイメージング>
心筋細胞から構成される心筋細胞シートは、心筋細胞の収縮・弛緩に伴う動き変化が検出可能である。生体内では、心筋細胞は一方向に配向しており、配向方向に収縮・弛緩を行うことが観察される。
顕微鏡および動画撮影が可能であるカメラを備えるライブセルイメージング装置(例えば、SI8000、ソニー株式会社製)を用いて、培養細胞シート(生細胞)を、培養条件下で撮影することで得られた動画データから、心筋細胞の収縮・弛緩に伴う動きベクトル(速度、方向、数量)を検出することで、心拍数(BR:beating rate)、収縮速度(CV:contractile velocity)、弛緩速度(RV:relaxation velocity)、収縮弛緩持続時間(CRD:contraction-relaxation duration)、および配向度の解析が可能である。ライブセルイメージングによるBR、CV、RV、CRD等の測定については、例えば、Methods in Molecular Biology,vol.2320,Chapter 15が参照される。
また、これらの測定方法については、実施例に記載の方法が参照される。
ここで、配向度は、測定により得られた画像の画面水平方向を0°としたとき、動きベクトルの角度を求め、ベクトル角度の最頻値の角度から±5°を示すベクトルの数と、検出されたベクトル数の総和の比を求めることで算出される。ライブセルイメージング装置から得られた配向度は、下記式で求められる。
配向度(%)
=(最頻値の±5°の範囲に含まれるベクトルの数)/(ベクトルの総数)×100
本実施形態において、積層心筋細胞シートのいずれかの層において、ライブセルイメージングを用いて測定される配向度は、配向性基材上において、好ましくは10%以上、より好ましくは12%以上、さらに好ましくは16%以上、よりさらに好ましくは18%以上、特に好ましくは20%以上である。配向度の上限は特に限定されない。配向度が上記範囲内であると、より生体内に近い状態で心筋細胞シートが培養されており、より生体内に近い環境での評価が可能となる。
ライブセルイメージングにおいて、成人の心拍数は平均60回/分であるため、一般的には心拍数(BR)が60回/分に近い方が正常の成熟化心筋細胞に近づく。また、正常心拍数に準じた、収縮速度(CV)、弛緩速度(RV)、収縮弛緩持続時間(CRD)であることが正常心筋細胞に近いと考える。正常心筋細胞を同様の方法で培養し、測定されたBR、CV、RV、CRD等をポジティブコントロール(正常化の目標値)としてもよい。
疾患心筋細胞シート単独で測定されたBR、CV、RV、CRD等が、正常心筋細胞シートの積層によって、より正常に近い状態に変化した場合、当該正常心筋細胞シートの生体移植を行った場合に、疾患の治癒効果が得られると考えられる。
また、その改善の程度によって、治癒効果を測ることも可能である。
<Ca-イメージング解析>
心筋細胞では、心筋収縮に伴い、活動電位によって惹起されて細胞質全体のCa濃度がほぼ同時に上昇する、カルシウムトランジェントという現象が観察される。本実施形態の心筋細胞シートを蛍光Ca指示薬で処理し、共焦点定量イメージサイトメーターで観察(Ca-イメージング解析)することで、カルシウムトランジェントを経時的に観察することが可能である。カルシウムトランジェントのシグナル情報から、波形グラフを作成し、下記に記すパラメータを解析する方法としては、専用の解析ソフトを使用する。
未熟な心筋細胞や病気により何らかの異常が現れた心筋細胞では、正常な成熟化心筋細胞に比べて、カルシウムトランジェントの波形ピークの50%高さの線幅(Duration)が延長する傾向がある。
50%高さの線幅(Duration)は心拍数により変動するため、Duration(秒)をInterval(秒)の1/2乗で除した、Duration/(Interval)1/2を使用することも好ましい。
なお、一般的にはカルシウムトランジェント持続時間を反映する50%高さの線幅(Duration)は短いほど成熟した心筋細胞に近い傾向がある。50%高さの線幅が短くなると、疾患心筋細胞が正常心筋細胞に近づいたといえる。Intervalは、心拍によって影響を受ける。通常、心電図の解析では、活動電位持続時間は心拍数で補正した値が使用されることに従い、上記のように、Duration/(Interval)1/2を採用してもよい。
従って、疾患心筋細胞シートから得られたカルシウムトランジェントの持続時間が、正常心筋細胞シートの積層によって、正常心筋細胞と同等になった場合には、正常心筋細胞シートの移植による治癒効果が得られると考えられる。
<パッチクランプ法>
パッチクランプ試験は、25℃のTyrode溶液中の心筋細胞をカレントクランプ下、0.2Hzで、20pA~100pAの電流を細胞内に投入して、活動電位を発生させて、電位の変化を測定するものである。なお、電流は、適切な活動電位を発生させることができる範囲で、適宜選択すればよい。
生理学的特性として、最大拡張期電位および活動電位持続時間が例示される。
なお、活動電位持続時間の指標として、活動電位80%再分極持続時間が例示される。これは、電流を与えてから、第1相として示される活動電位のピークの高さと、最大拡張期電位との差を100%とした場合に、80%再分極に相当する電位となるまでに必要な時間である。すなわち、活動電位の立ち上がり時間から、活動電位が80%再分極に相当する電位となるまでに必要な時間である。
心筋細胞が成熟化すると、未成熟の心筋細胞に比べて、活動電位持続時間が長く、また、最大拡張期電位が深くなる傾向にある。
本実施形態において、積層心筋細胞シートの疾患心筋細胞の活動電位80%再分極持続時間は、好ましくは600msec以上、より好ましくは650msec以上、さらに好ましくは700msec以上、よりさらに好ましくは750msec以上であり、そして、上限は特に限定されないが、生体内の心筋細胞と同程度の活動電位持続時間であることが好ましい観点から、好ましくは1200msec以下、より好ましくは1050msec以下、さらに好ましくは900msec以下である。
また、本実施形態の積層細胞シート付細胞培養基材を構成する疾患心筋細胞の最大拡張期電位は、生体内の新規細胞により近い値であることが好ましい観点から、好ましくは-60mV以下、より好ましくは-62.5mV以下、さらに好ましくは-65mV以下、よりさらに好ましくは-67.5mV以下である。また、下限は特に限定されないが、成人の心室心筋細胞は約-80mVのため、-80mVに近い値であることが好ましい。
なお、ヒト由来の正常単離心室筋細胞での活動電位持続時間および最大拡張期電位(静止膜電位)については、Circulation,2013;127:575-584が参照される。
<その他>
疾患心筋細胞シートの運動機能の変化および生理学的特性の変化から選択される少なくとも1つの変化としては、疾患心筋細胞シートに対する殺細胞効果を評価してもよい。トリパンブルー染色等により、正常心筋細胞シートの積層により、疾患心筋細胞シートに対して殺細胞効果を有しないことを評価してもよい。
また、疾患心筋細胞シートの疾患心筋細胞の形状変化を評価してもよい。
<積層心筋細胞シート付細胞培養基材の用途>
本実施形態の積層心筋細胞シート付細胞培養基材は、種々の用途に使用することができ、例えば、再生医療における治癒効果の評価の用途に使用できる。疾患心筋細胞シートに正常心筋細胞シートを積層することにより、どの程度、正常心筋細胞シートに近い運動機能、生理学的特性に変化するのかにより評価できる。また、正常心筋細胞シートの積層により、疾患心筋細胞シートを構成する心筋細胞が形状変化を生じたり、生細胞数の減少などが生じたりすることがないことを評価できる。
具体的には、心筋梗塞、狭心症等の虚血性疾患により障害を受けた心臓(以下、「障害心臓」ともいう)の心筋組織の障害部位へ心臓組織の収縮と同じ方向になるように正常心筋細胞シートを直接貼付、貼付後に縫合、挿入等の方法で移植した場合の治癒効果の評価に使用可能である。
なお、実際の再生医療に使用する際には、単層の正常心筋細胞シートを使用してもよくまたは複層の正常心筋細胞シートを数枚重ね合わせて積層化した後に使用してもよい。なお、積層する場合には、配向方向を揃えて積層することが好ましく、具体的には、正常心筋細胞シートの収縮の方向、または配向の方向を揃えて積層すればよい。
以下に、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例では、心疾患のモデルとしてiPS細胞由来の肥大型心筋症心筋細胞(HCM)を使用し、正常心筋細胞として、iPS細胞由来心筋細胞(CM2)を使用した。初めに、生体内の心臓の環境を再現するため、正常心筋細胞を配向性基材上で播種、培養することで、長軸方向が一方向に揃った状態の正常心筋細胞シートを作製した。細胞が配向した正常心筋細胞シートを形成した後に、肥大型心筋症心筋細胞(HCM)を正常心筋細胞シート上に播種し、正常心筋細胞シート上に肥大型心筋症心筋細胞シートを形成した。所定の日数維持培養を行い、肥大型心筋症心筋細胞シートの機能を測定し、移植による治療効果を評価した。
なお、対照として、HCMを単層で平面基材または配向性基材に播種、培養した疾患心筋細胞シート付細胞培養基材、CM2を積層で平面基材または配向性基材に播種、培養した積層正常心筋細胞シート付細胞培養基材を作製し、同様に評価を行った。
なお、CM2を単層で播種、培養して作製した単層正常心筋細胞シート付細胞培養基材を用いて得られた結果は、CM2とCM2とを積層して作製した、積層正常心筋細胞シート付細胞培養基材を用いて得られた結果と同等であった。
(1)ヒトiPS細胞由来心筋細胞(正常心筋細胞)の培養(CM2)
ヒトiPS細胞由来の心筋細胞として、iCell心筋細胞(iCell Cardiomyocyte v2.0、FUJIFILM Cellular Dynamics)(以下CM2)を使用した。培養は以下の手順で実施した。
凍結細胞サンプルは、37℃のウォーターバスで3分間加温し、溶解した。細胞液は、50mL遠沈管に移し、あらかじめ37℃に加温したplating medium(iCell 心筋細胞 解凍用培地、FUJIFILM Cellular Dynamics社製)を9mL加えて混合し、細胞液を希釈した。
希釈した細胞懸濁液を一部採取し、等量のトリパンブルーと混合し、血球計算盤を使用して生細胞数を測定した。
細胞濃度をplating mediumを使用して調整し、6×10cells/wellの濃度で、あらかじめフィブロネクチンコーティングした96ウェルプレートに播種した。96ウェルプレートは、配向性基材(配向性プレート、ND Cell Aligner、96ウェルプレートタイプ)、対照として、培養面が平坦形状の市販96ウェルプレート(平面プレート)に播種した。
播種後の細胞は、37℃のCOインキュベーターで4時間静置した後、Maintenance Medium(iCell 心筋細胞 維持用培地、FUJIFILM Cellular Dynamics社製)を使用して培地交換を行った。培地交換後の細胞は、2日毎に培地交換を行い、所定期間、維持培養を行った。
上記(1)および後述の実施例で使用したND Cell Alignerは、帯状の平坦部(細胞付着領域)および帯状の凹凸部(細胞付着抑制領域)を有し、各平坦部は、第1方向に伸びる形状を有し、かつ、表面における全体で、第1方向と交差する第2方向に並び、各平坦部の幅(第2方向での長さ)は10μmであった。各凹凸部は、相互に隣り合う平坦部の間を埋める複数の段差構造から構成され、各平坦部間の第2方向での長さは10μmであり、凹凸部における凸部のピッチは300nmであった。凹凸部における各凸部の高さをAFMを用いて測定した結果、凹部の底面から凸部の先端までの高さの平均は446nmであった。また、凹部の底面から平坦部の高さの平均は455nmであった。
(2)疾患ヒトiPS細胞由来の心筋細胞(疾患心筋細胞)の培養(HCM)
肥大型心筋症の病態を示す心筋細胞として、疾患ヒトiPS細胞由来の心筋細胞(Mycell心筋細胞(MYH7 R403Q) 01178(FUJIFILM Cellular Dynamics))(以下HCM)を使用した。該細胞は、β-ミオシン重鎖7遺伝子の403残基のアルギニンがグルタミンのミスセンス変異(R403Q)を有する疾患患者のiPS細胞から心筋細胞に分化した、肥大型心筋症の疾患心筋細胞である。培養はCM2と同様の手順で実施した。
生細胞数を測定した細胞液は細胞濃度をplating mediumを使用して調整し、6×10cells/wellの濃度で96ウェルプレートの培養容器に播種した。
(3)単層培養の実施
平面プレートと配向性プレートでHCMを培養し、各培養基材で培養した細胞シートの運動機能を測定し、評価を行った。
上記(2)に記載した手順で、平面プレートと配向性プレートに、HCMを6×10cells/wellの濃度で播種し培養を行った。
播種当日を0日目とし、培養5日目にライブセルイメージング装置(SI8000、ソニー株式会社製)で各種パラメータを測定した。また、21日目に共焦点蛍光顕微鏡(共焦点定量イメージサイトメーターCQ1、横河電機株式会社製)で各種パラメータを測定した。
(4)積層培養の実施
積層培養は、初めに下層となる細胞(CM2)を播種・培養し、播種当日を0日目とし、10日目に下層の細胞の上に上層となる細胞(CM2またはHCM)を播種・培養する積層培養を行った。
上記(1)に記載した手順で、平面プレートと配向性プレートに、下層となるCM2を6×10cells/wellの濃度で播種した。10日目に、培養中のCM2の上に、上層としてCM2またはHCMを6×10cells/wellの濃度で播種・培養した。積層培養開始日を0日目として、5日目にライブセルイメージング装置(SI8000、ソニー株式会社製)で画像データを取得した。また、21日目に共焦点蛍光顕微鏡(共焦点定量イメージサイトメーターCQ1、横河電機株式会社製)で画像データを取得した。
(5)成熟化確認試験:ライブセルイメージング装置を使用した動き試験法による解析
各培養プレートに播種した心筋細胞の収縮・弛緩に伴う動き変化を検出するため、ライブセルイメージング装置(SI8000、ソニー株式会社製)にて動画データを取得した。測定条件は、位相差像、倍率10倍(対物レンズ)、150フレーム/秒、解像度2048×2048ピクセル、8ビット深度で行った。画像取得時間は、10秒で行った。
動画データから、心筋細胞の収縮・弛緩に伴う動きベクトル(速度、方向、数量)を検出し、各パラメータ(心拍数(beating rate;BR)、収縮速度(contractile velocity;CV)、弛緩速度(relaxation velocity;RV)、収縮弛緩持続時間(contraction-relaxation duration;CRD)、配向度)を解析した。収縮弛緩持続時間(CRD)は拍動数(BR)による変動を補正するため、Fredericaの式を参考にして、次の式で補正した。
CRD(補正値)=CRD/(60/BR)×(1/3)
配向度は、画面水平方向を0°とした場合の、動きベクトルの角度を求め、ベクトル角度の最頻値の角度から±5°の角度を示すベクトルの数と、検出されたベクトル数の総和の比を求めることで、下記式に基づき算出した。
配向度(%)
=(最頻値の±5°範囲に含まれるベクトルの数)/(ベクトルの総数)×100
なお、一般的に、心拍数(BR)が多いほど、成熟心筋細胞に近く、収縮速度(CV)および弛緩速度(RV)が速いほど、成熟心筋細胞に近く、収縮弛緩持続時間(CRD)が少ないほど、成熟心筋細胞に近い傾向にある。
ライブセルイメージング装置を用いた各測定結果を、図4~図8に示す。
(6)成熟化確認試験:共焦点イメージング装置を使用したCa-イメージング解析
各培養プレートに播種した心筋細胞の収縮に伴うCa蛍光強度の変化をCQ1(共焦点蛍光顕微鏡、横河電機株式会社製)にて測定した。
Caイオンフラックスを可視化するため、心筋細胞シートに、蛍光Ca指示薬(EarlyTox carditotoxicity kit、Molecular Devices社製)を添加し、37℃で15分間静置した。CQ1の測定条件は、励起波長488nm/蛍光波長525nm、データ取得時間60秒で行った。また、解析には、セルパスファインダーを使用した。
測定データから、パラメータとして、Caトランジェント波形ピークの50%高さの線幅(Duration)、波形ピークの間隔(Interval)を選び、解析を行った。Caトランジェントの波形ピークの50%高さの線幅(Duration)は、波形ピークの間隔(Interval)変動を補正するため、通常、心電図の解析では、活動電位持続時間は心拍数で補正した値が使用されることに従い、Duration/(Interval)1/2を採用した。
Duration(補正値)=Duration/(Interval)1/2
共焦点イメージング装置を用いた各測定結果を、図9および10に示す。
<配向性プレートのiPS由来心筋細胞(CM2)の積層培養の結果>
積層培養は、初めに下層となる細胞(CM2)を播種、培養した。播種当日を0日目とし、10日目に下層のCM2の上に上層となる細胞(CM2)を播種し、培養した。上層の細胞の播種当日を0日目とし、5日目にライブセルイメージング装置(SI8000、ソニー株式会社製)で画像データを取得した。また、21日目にCQ1(共焦点蛍光顕微鏡、横河電機株式会社製)で画像データを取得した。
SI8000の動きベクトル解析による測定結果から、配向性プレートで積層培養したCM2は、平面プレートで積層培養したCM2と比較して、培養5日目において、心拍数(BR)、弛緩速度(RV)、収縮弛緩持続時間(CRD、心拍数で補正)が有意に増加し(いずれも、p<0.01)、細胞の配向度(最頻値±5°)は有意に高かった(p<0.01)。一方、配向性プレートで積層培養したCM2は、平面プレートで積層培養したCM2と比較して、収縮速度(CV)は有意に減少した(p<0.01)(各グラフ(図4~図8)の平面CM2/CM2と配向CM2/CM2とを対比)。
SI8000での測定は、培養した細胞の最上層の細胞にフォーカスを合わせ、データを取得した。そのため、測定値は積層培養の上層の細胞を観察した結果を示している。
CQ1の測定結果から、配向性プレートで積層培養したCM2は、平面プレートで積層培養したCM2と比較して、Caイオントランジェントのピークの50%高さの線幅が有意に短縮した。
また、波形ピークの間隔(Interval)で補正した波形ピークの50%高さの線幅(Duration)(補正値)は、配向性プレートで積層培養したCM2は、平面プレートで積層培養したCM2と比較して、有意に短縮した(p<0.05)。
CQ1での測定は、培養した細胞の最上層の細胞にフォーカスを合わせ、データを取得した。そのため、測定値は積層培養の上層の細胞を観察した結果を示している。
配向性プレートで培養したCM2/CM2の積層培養は、正常心筋細胞を生体内と同じように一方向に配向した状態で培養しており、生体内の心筋細胞に近い状態であると考えられる。
疾患細胞を何らかの方法で治療し、症状が改善した場合は、疾患細胞の測定結果が、配向性プレートで培養したCM2/CM2の積層培養の数値に近づくと考えられ、本実施例においては、HCMの各測定値が、CM2の値に近づくことが、HCMの疾患状態の改善を示す。
<配向性プレートの疾患ヒトiPS細胞由来心筋細胞(HCM)の単層培養の結果>
SI8000の動きベクトル解析による測定結果から、配向性プレートで単層培養したHCMは、平面プレートで培養したHCMと比較して、培養5日目において、心拍数(BR)、弛緩速度(RV)、収縮弛緩持続時間(CRD、心拍数で補正)が有意に増加し、細胞の配向度(最頻値±5°)は有意に高かった(いずれもp<0.01)。一方、配向性プレートで単層培養したHCMは、平面プレートで培養したHCMと比較して、収縮速度(CV)は減少した(p<0.01)(各グラフ(図4~図8)の平面HCMと配向HCMとを対比)。
培養21日目のCQ1の測定結果から、配向性プレートで単層培養したHCMは、平面プレートで単層培養したHCMと比較して、Caイオントランジェントのピークの50%高さの線幅は同程度だった。
また、波形ピークの間隔(Interval)で補正した波形ピークの50%高さの線幅(Duration)(補正値)は、配向性プレートで単層培養したHCMと、平面プレートで単層培養したHCMで同程度だった。
以上の結果から、配向性プレートで心疾患細胞のHCMを培養した結果、心拍数の改善、不整脈に影響を及ぼす弛緩スピードの改善が確認された。これにより、配向性プレートを用い、細胞を配向した状態での培養は、肥大型心筋症心筋細胞の不整脈を改善する培養方法であることが示された。
しかし、配向性プレートで単層培養したHCMは、配向度を除くすべてのパラメータにおいて、配向性プレートで積層培養したCM2の測定値には到達しなかった。HCMの症状のさらなる改善のためには、配向性培養と他の治療法の組み合わせが必要であると考えられる。
<平面プレートと配向性プレート上の正常の心筋細胞CM2にHCMを積層培養の結果>
積層培養は、初めに下層となる細胞(CM2)を播種、培養した。播種当日を0日目とし、10日目に下層のCM2の上に上層となる細胞(HCM)を播種し、培養した。上層の細胞の播種当日を0日目とし、5日目にSI8000で画像データを取得した。また、21日目にCQ1で画像データを取得した。
SI8000の動きベクトル解析による測定結果から、配向性プレートでCM2に重ねて積層培養したHCMは、平面プレートでCM2に重ねて積層培養したHCMと比較して、培養5日目において、心拍数(BR)、弛緩速度(RV)、収縮弛緩持続時間(CRD、心拍数で補正)が有意に増加し、細胞の配向度(最頻値±5°)は有意に高かった。
一方、配向性プレートでCM2に重ねて積層培養したHCMは、平面プレートでCM2に重ねて積層培養したHCMと比較して、収縮速度(CV)は減少した。
CQ1の測定結果から、配向性プレートでCM2に重ねて積層培養したHCMは、平面プレートでCM2に重ねて積層培養したHCMと比較して、Caイオントランジェントのピークの50%高さの線幅が有意に短縮した。
また、波形ピークの間隔(Interval)で補正した波形ピークの50%高さの線幅(Duration)(補正値)は、配向性プレートでCM2に重ねて積層培養したHCMは、平面プレートでCM2に重ねて積層培養したHCMと比較して、有意に短縮した。
以上の結果から、配向性プレートでCM2に重ねて心疾患細胞のHCMを積層培養した結果、心拍数の改善、不整脈に影響を及ぼす弛緩スピード、収縮弛緩持続時間の改善が確認された。これにより、配向性プレートを用いて、CM2に重ねて心疾患細胞のHCMを積層培養した培養は、肥大型心筋症心筋細胞の不整脈を改善する培養方法であることが示された。
以上の結果より、配向性プレートにおいて、正常心筋細胞と心疾患心筋細胞を積層培養する培養方法は、心筋細胞シート移植のモデル系として使用できることが明らかになった。配向性プレートを使用して正常心筋細胞を培養した下層の上に、心疾患患者由来の心筋細胞を重ねて培養し、運動機能や生理活性を測定、パラメータを解析することで、心疾患患者由来の心筋細胞は配向した正常心筋細胞を移植することにより、機能改善が可能か評価することができる。
また、配向性プレートは心不全の治療のための配向運動をする心筋細胞シートを作成し、該心筋細胞シートを移植し、不整脈を治療するツールとしての可能性が示唆された。
100 交互配列部分
111 表面
110 培養皿
120 蓋
130 平坦部
140 凹凸部
141 凸部
142 凹部

Claims (7)

  1. 細胞培養基材上に、2層以上の心筋細胞シートを有する積層心筋細胞シート付細胞培養基材であって、
    細胞培養基材は、帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域とが交互に配列した交互配列部分を有し、
    細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、2層以上の心筋細胞シートを有し、
    心筋細胞シートとして、疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シート、および健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを、少なくともそれぞれ1層ずつ有する、
    積層心筋細胞シート付細胞培養基材。
  2. 前記細胞培養基材上に前記正常心筋細胞シートが付着し、前記正常心筋細胞シート上に前記疾患心筋細胞シートが積層された、請求項1に記載の積層心筋細胞シート付細胞培養基材。
  3. 前記細胞培養基材上に前記疾患心筋細胞シートが付着し、前記疾患心筋細胞シート上に前記正常心筋細胞シートが積層された、請求項1に記載の積層心筋細胞シート付細胞培養基材。
  4. 帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域が交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材を準備する工程と、
    細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを形成する工程と、
    前記正常心筋細胞シート上に疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シートを形成する工程と、をこの順で有する、
    積層心筋細胞シート付細胞培養基材の製造方法。
  5. 帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域が交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材を準備する工程と、
    細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シートを形成する工程と、
    前記疾患心筋細胞シート上に健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを形成する工程と、をこの順で有する、
    積層心筋細胞シート付細胞培養基材の製造方法。
  6. 帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域が交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、疾患患者由来の分化誘導された心筋細胞からなる疾患心筋細胞シートを形成する工程と、
    帯状の細胞付着領域と帯状の細胞付着抑制領域が交互に配列した交互配列部分を有する細胞培養基材の少なくとも前記交互配列部分の上に、健常人由来の分化誘導された心筋細胞からなる正常心筋細胞シートを形成する工程と、
    前記疾患心筋細胞シートおよび前記正常心筋細胞シートのいずれか一方を前記細胞培養基材から分離して、他方の心筋細胞シート上に積層する工程と、を有する、
    積層心筋細胞シート付細胞培養基材の製造方法。
  7. 請求項1~3のいずれか1項に記載された心筋細胞シート付細胞培養基材の疾患心筋細胞シートの運動機能の変化および生理学的特性の変化から選択される少なくとも1つの変化を評価する工程を有する、生体移植用正常心筋細胞シートの評価方法。
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