JP2024051906A - モータ制御装置及びモータ制御方法 - Google Patents

モータ制御装置及びモータ制御方法 Download PDF

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Abstract

【課題】変調領域において騒音の発生を抑制し安定したモータ制御を実現すること。【解決手段】本発明の一形態に係るモータ制御装置は、インバータ及び二相変調処理部を備える。二相変調処理部は、インバータの三相の出力を生成するにあたり、1つの固定相と、2つの変調相とを所定期間ごとに切り替えて設定し、インバータの上アーム素子及び下アーム素子を制御する電圧指令値として、固定相について上アーム素子をオンにし下アーム素子をオフにする上固定二相変調と、固定相について上アーム素子をオフにし下アーム素子をオンにする下固定二相変調とが所定期間ごとに切り替わる上下固定二相変調の方式で二相変調電圧指令値を生成する。この時、二相変調処理部は、過変調領域において、上固定二相変調と下固定二相変調とが切り替わるタイミングで電圧指令値にギャップが生じないように二相変調電圧指令値を生成する。【選択図】図3

Description

本発明は、モータの制御を行うモータ制御装置及びモータ制御方法に関する。
従来、インバータのPWM制御によりモータを制御する方法が知られている。この方法では、モータに印加すべき電圧指令信号をもとにインバータのPWM制御が行われる。インバータは、直流電圧を電圧指令信号に対応する三相交流電圧に変換してモータに印加する。
また、PWM制御において、変調率を大きくすることで、電圧利用率が1を超える過変調を実現する技術も開発されている。
例えば特許文献1には、三相交流電圧の出力方式(変調方式)として、複数の方式を切り替えて実行するモータ制御装置が記載されている。この装置では、上アームを構成するスイッチング素子を120度ずつ順次固定して二相変調を行う上固定120度二相変調、下アームを構成するスイッチング素子を120度ずつ順次固定して二相変調を行う下固定120度二相変調、上アーム及び下アームを構成するスイッチング素子を60度ずつ順次固定して二相変調を行う上下60度固定二相変調といった変調方式の中から最も低損失となる変調方式を適宜切り替えて用いる。例えば、過変調領域では、下固定120度二相変調に代えて、上下60度固定二相変調、または、上固定120度二相変調が用いられる。これにより、高効率運転を的確に実行することができるとされている(特許文献1の明細書段落[0030]、[0036]、[0041]、[0110]、図1、図16等)。
特開2013-141336号公報
インバータのPWM制御において、電圧指令信号としての相電圧の理想波形(以下、連続波形と記載することがある)に対し、実際の電圧指令信号は、キャリア周期毎に離散的に出力され、その波形(以下、離散波形と記載することがある)は、連続波形に比べて粗いものとなる。この時、連続波形やキャリア周期によっては、連続波形と離散波形とのずれが大きくなることがある。過変調領域では、このような波形のずれによって、モータの出力トルクが脈動するビート現象等が発生する可能性がある。この結果、騒音が発生することやモータの制御が不安定になることが考えられる。
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、過変調領域において騒音の発生を抑制し安定したモータ制御を実現することが可能なモータ制御装置及びモータ制御方法を提供することにある。
本発明の一形態に係るモータ制御装置は、直流電圧を三相交流電圧に変換するインバータを備えたモータ制御装置であって、二相変調処理部を備える。
前記二相変調処理部は、前記インバータの三相の出力を生成するにあたり、電圧が固定される1つの固定相と、電圧が変調される2つの変調相とを所定期間ごとに切り替えて設定し、前記インバータがモータに出力する電圧の相ごとに設けられた上アーム素子及び下アーム素子のオン及びオフを制御する電圧指令値として、前記固定相について前記上アーム素子をオンにし前記下アーム素子をオフにする上固定二相変調と、前記固定相について前記上アーム素子をオフにし前記下アーム素子をオンにする下固定二相変調とが前記所定期間ごとに切り替わる上下固定二相変調により二相変調された電圧を前記モータに印加するための二相変調電圧指令値を生成する。また前記二相変調処理部は、過変調領域において、前記上固定二相変調と前記下固定二相変調とが切り替わるタイミングで電圧指令値にギャップが生じないように前記二相変調電圧指令値を生成する。
このモータ制御装置では、上下固定二相変調を行う二相変調電圧指令値が生成される。この二相変調電圧指令値は、過変調領域において、上固定二相変調と下固定二相変調とが切り替わるタイミングで電圧指令値にギャップが生じないように生成される。これにより、インバータのPWM制御に用いる各相電圧の波形を適正な波形にすることが可能となる。この結果、ビート現象等の発生が抑制され、過変調領域において騒音の発生を抑制し安定したモータ制御を実現することが可能となる。
前記モータ制御装置は、さらに、前記電圧指令値のギャップを補正するオフセット電圧を算出するオフセット電圧算出部を備えてもよい。この場合、前記二相変調処理部は、前記過変調領域において、前記オフセット電圧に基づく補正処理を実行して前記二相変調電圧指令値を生成してもよい。
オフセット電圧を用いることで、上固定二相変調及び下固定二相変調の切り替わりでの電圧指令値のギャップを容易に抑制することが可能となる。
前記オフセット電圧に基づく補正処理は、前記上固定二相変調を実行する期間は、前記オフセット電圧の大きさで3相分の電圧指令値を正の電圧方向にシフトする処理を実行し、前記下固定二相変調を実行する期間は、前記オフセット電圧の大きさで3相分の電圧指令値を負の電圧方向にシフトする処理を実行してもよい。
これにより、電圧指令値のギャップを十分に抑制することが可能となり、過変調領域において騒音の発生等を十分に抑制することが可能となる。
前記モータ制御装置は、さらに、電圧利用率から過変調度を算出する過変調度算出部と、d軸及びq軸の電圧指令値を変換した三相分の三相電圧指令値を取得し、前記三相電圧指令値を前記過変調度に応じて増幅した過変調電圧指令値を生成する過変調処理部を備えてもよい。この場合、前記二相変調処理部は、前記過変調電圧指令値に対して前記オフセット電圧に基づく補正処理を実行して前記二相変調電圧指令値を生成してもよい。
過変調の補正の後にオフセット電圧による補正が実行されるため、オフセット電圧による補正の影響が抑えられ、モータの制御精度を高いレベルで維持することが可能となる。
前記二相変調処理部は、前記過変調電圧指令値に対して、二相変調の信号に変換する二相変調処理と、前記オフセット電圧に基づく補正処理とを実行し、前記二相変調処理及び前記補正処理の両方が実行された電圧指令値を前記直流電圧に基づいて制限するリミット処理を実行して、前記二相変調電圧指令値を生成してもよい。
これにより、電圧指令値のギャップを抑制する二相変調電圧指令値を適正に生成することが可能となり、過変調領域において騒音の発生等を十分に抑制することが可能となる。
前記過変調度算出部は、前記オフセット電圧に基づく補正処理を実行した場合でも、前記電圧利用率と、前記インバータにおける実際の電圧利用率である実電圧利用率との関係が線形となるように前記過変調度を算出してもよい。
これにより、二相変調電圧指令値を精度よく生成することが可能となり、十分に安定した精度のよいモータ制御を実現することが可能となる。
前記オフセット電圧は、前記二相変調処理により生じるピーク電圧と、前記直流電圧との差の半分の値であってもよい。
これにより、電圧指令値のギャップが解消された二相変調電圧指令値を生成することが可能となり、騒音の発生を確実に抑制し、十分に安定したモータ制御が実現できる。
前記オフセット電圧算出部は、前記電圧利用率をRvとし、前記過変調度をRomとし、前記直流電圧をVdcとして、前記オフセット電圧Voffsetを以下に示す関係式に従って算出してもよい。
これにより、電圧指令値のギャップが解消された二相変調電圧指令値を生成することが可能となり、騒音の発生を確実に抑制し、十分に安定したモータ制御が実現できる。
前記所定期間は、前記モータの電気角で60度に対応する期間であってもよい。
これにより、制御に必要な演算量を抑制しつつ、高効率なモータ制御を実現することが可能となる。
本発明の一形態に係るモータ制御方法は、直流電圧を三相交流電圧に変換するインバータを用いてモータを制御するモータ制御方法であって、前記インバータの三相の出力を生成するにあたり、電圧が固定される1つの固定相と、電圧が変調される2つの変調相とを所定期間ごとに切り替えて設定するステップと、前記インバータがモータに出力する電圧の相ごとに設けられた上アーム素子及び下アーム素子のオン及びオフを制御する電圧指令値として、前記固定相について前記上アーム素子をオンにし前記下アーム素子をオフにする上固定二相変調と、前記固定相について前記上アーム素子をオフにし前記下アーム素子をオンにする下固定二相変調とが前記所定期間ごとに切り替わる上下固定二相変調により二相変調された電圧を前記モータに印加するための二相変調電圧指令値を生成するステップとを実行する。
前記二相変調電圧指令値を生成するステップは、過変調領域において、前記上固定二相変調と前記下固定二相変調とが切り替わるタイミングで電圧指令値にギャップが生じないように前記二相変調電圧指令値を生成する。
本発明によれば、過変調領域において騒音の発生を抑制し安定したモータ制御を実現することが可能となる。
本発明の一実施形態に係るモータ制御装置の構成例を示すブロック図である。 IPMの構成例を示す回路図である。 変調処理部の構成例を示すブロック図である。 変調処理部の基本的な動作例を示すフローチャートである。 固定相を設定する処理の一例を示すグラフである。 上下60度固定補正信号ΔVの一例を示すグラフである。 電圧利用率Rvが0.8である場合の二相変調前電圧指令値の一例を示すグラフである。 電圧利用率Rvが0.8である場合の二相変調後電圧指令値の一例を示すグラフである。 電圧利用率Rvが0.8である場合の線間電圧の一例を示すグラフである。 電圧利用率Rvが1である場合の二相変調前電圧指令値の一例を示すグラフである。 電圧利用率Rvが1である場合の二相変調後電圧指令値の一例を示すグラフである。 電圧利用率Rvが1である場合の線間電圧の一例を示すグラフである。 電圧利用率と過変調度との対応関係の一例を示すグラフである。 電圧指令値のギャップについて説明するための模式的なグラフである。 ギャップがある信号を非同期PWM制御に適用した際の電圧のバランスについて説明するための模式的なグラフである。 ギャップがない信号を非同期PWM制御に適用した際の電圧のバランスについて説明するための模式的なグラフである。 電圧利用率Rvが1.07である場合のリミット処理されていない二相変調後電圧指令値の一例を示すグラフである。 電圧利用率Rvが1.07である場合のリミット処理された二相変調後電圧指令値の一例を示すグラフである。 電圧利用率Rvが1.07である場合の線間電圧の一例を示すグラフである。 比較例として挙げる変調処理部の構成例を示すブロック図である。 電圧利用率Rvが1.07である場合のリミット処理されていない二相変調後電圧指令値の比較例を示すグラフである。 電圧利用率Rvが1.07である場合のリミット処理された二相変調後電圧指令値の比較例を示すグラフである。 電圧利用率Rvが1.07である場合の線間電圧の比較例を示すグラフである。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
[モータ制御装置]
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置の構成例を示すブロック図である。
モータ制御装置100は、直流電圧を三相交流電圧に変換するインバータを備えた装置である。具体的には、モータ制御装置100は、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)信号を用いたPWM制御によりインバータを制御して、モータ30に供給する電力を制御する。図1に示す例では、モータ30に接続されるIPM35がインバータに相当する。
モータ30は、三相交流電圧により駆動される三相交流モータである。モータ30は、回転軸を中心に回転する回転子と、回転子を支持する固定子とを有する。
モータ30の固定子には、三相の交流電圧がそれぞれ印加される三相の巻線(コイル)が設けられる。以下では、三相交流の各相をU相、V相、W相と記載する。
モータ30の回転子には、モータ30の回転軸と直交するように永久磁石が配置される。ここで、永久磁石のN極の磁束の方向(N極側が+方向)をd軸とし、d軸と直交する軸をq軸とする。
また、電気角で表した回転子の推定位置(U軸を基準とした推定角度)をθeと記載し、電気角で表した回転子の推定角速度をωeと記載する。
モータ30は、例えば空気調和機に搭載された圧縮機を回転するコンプレッサモータや、ファンを回転するファンモータ等である。なお、本発明に係るモータ制御装置100は、空気調和機に搭載されるモータ30の制御以外にも、任意の用途に用いられるモータ30の制御に適用可能である。
モータ制御装置100は、モータ30のベクトル制御を行う。ベクトル制御では、モータ30の固定子に設けられた三相の巻線に流す電流を、モータ30の回転子に磁束を発生させる電流成分(d軸電流)と、回転子にトルクを発生する電流成分(q軸電流)とに分けて、それぞれの電流成分が独立に制御される。
図1に示すように、モータ制御装置100は、駆動回路31と、電流検出回路32と、演算回路33とを有する。
駆動回路31は、モータ30に対する制御指令値に基づいてモータ30を駆動するインバータ駆動回路である。駆動回路31は、固定座標系(UVW座標系)における電圧指令ベクトル(U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、W相電圧指令値Vw)を演算回路33から受け、モータ30を駆動するための直流電圧Vdcを電源10から受ける。U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、W相電圧指令値Vwは、ベクトル制御の制御指令値である。
また駆動回路31は、U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、W相電圧指令値Vw、及び直流電圧Vdcに応じて、三相の交流電圧をU相、V相、W相の各相の巻線を介してモータ30へ供給することにより、モータ30を駆動する。
具体的には、駆動回路31は、PWM変調器34及びインテリジェントパワーモジュール(IPM)35を有する。
PWM変調器34は、演算回路33から受けた制御指令値(U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、W相電圧指令値Vw)をそれぞれPWM信号に変換してIPM35へ供給する。例えば各電圧指令値に応じたパルス幅が設定されたPWM信号が生成される。
本実施形態では、PWM変調器34において非同期のPWM制御が実行される。従って、PWM信号のキャリア周期は、各電圧指令値の周期とは同期せず、独立した周期として適宜設定される。
IPM35は、複数のスイッチング素子を有し、PWM信号をPWM変調器34から受け、PWM信号に従って複数のスイッチング素子を所定のタイミングでスイッチング動作させることで電力変換動作を行い、生成された三相の交流電圧をモータ30へ供給することにより、モータ30を駆動する。
図2は、IPM35の構成例を示す回路図である。
IPM35は、電源側配線60と、GND側配線61と、U相用スイッチ部62uと、V相用スイッチ部62vと、W相用スイッチ部62wとを有する。電源側配線60は、電源10の出力端子に接続される。GND側配線61は、GNDに接続される。
モータ30は、U相巻線63uと、V相巻線63vと、W相巻線63wとを有する。各巻線の一端は中性点64に接続され、他端は各スイッチ部に接続される。
U相用スイッチ部62uは、第1スイッチ素子65uと、第2スイッチ素子66uと、第1ダイオード67uと、第2ダイオード68uとを有する。第1スイッチ素子65u及び第2スイッチ素子66uはこの順番で電源側配線60とGND側配線61との間に接続される。また第1ダイオード67u及び第2ダイオード68uはこの順番で電源側配線60とGND側配線61との間に接続される。U相巻線63uの中性点64と反対側の端子は、第1スイッチ素子65u及び第2スイッチ素子66uの接続点と、第1ダイオード67u及び第2ダイオード68uの接続点とに接続される。
V相用スイッチ部62vは、第1スイッチ素子65vと、第2スイッチ素子66vと、第1ダイオード67vと、第2ダイオード68vとを有する。V相用スイッチ部62vは、U相用スイッチ部62uと同様に構成され、各スイッチ素子の接続点及び各ダイオードの接続点がV相巻線63vの中性点64と反対側の端子に接続される。
W相用スイッチ部62wは、第1スイッチ素子65wと、第2スイッチ素子66wと、第1ダイオード67wと、第2ダイオード68wとを有する。W相用スイッチ部62wは、U相用スイッチ部62u(V相用スイッチ部62v)と同様に構成され、各スイッチ素子の接続点及び各ダイオードの接続点がW相巻線63wの中性点64と反対側の端子に接続される。
各スイッチ部において、電源側配線60に接続されるスイッチ素子を上アーム素子と記載する。すなわち、U相用スイッチ部62uの第1スイッチ素子65u、V相用スイッチ部62vの第1スイッチ素子65v、W相用スイッチ部62wの第1スイッチ素子65wは、各スイッチ部の上アーム素子として機能する。
また各スイッチ部において、GND側配線61に接続されるスイッチ素子を下アーム素子と記載する。すなわち、U相用スイッチ部62uの第2スイッチ素子66u、V相用スイッチ部62vの第2スイッチ素子66v、W相用スイッチ部62wの第2スイッチ素子66wは、各スイッチ部の下アーム素子として機能する。
図1に戻り、電流検出回路32は、モータ30に流れるモータ電流を検出する。電流検出回路32は、例えばモータ30に流れるモータ電流を単一のシャント抵抗を用いて検出する1シャント抵抗検出方式の回路である。また電流検出回路32として、例えばCT(Current Transformer)などの他の電流検出手段が用いられてもよい。電流検出回路32の検出結果は、演算回路33に出力される。
演算回路33は、モータ30の制御に必要な演算処理を行う回路である。演算回路33は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等を搭載したコンピュータを用いて構成される。
演算回路33には、電流検出回路32の検出値や、モータ30の回転数を指定する指令値等が入力される。これらの入力に応じて、モータ30のベクトル制御を行うための制御指令値が生成される。
演算回路33は、機能ブロックとして、UVW-dq変換器36、モータ位置検出部38、及び電圧指令生成部39を有する。演算回路33の各機能ブロックは、専用のIC等を用いて構成されてもよい。
UVW-dq変換器(UVW/d-q)36は、U相電流iu、W相電流iw、V相電流ivのうち、2つの電流値を電流検出回路32から受け、それらの電流値をもとに残りの相の電流値を算出する。またUVW-dq変換器36は、回転子の推定位置(電気回転角度θe)を積分器44から受け、固定座標系(UVW座標系)における電流ベクトル(iu,iv,iw)を回転座標系(d-q座標系)における電流ベクトル(id,iq)へ変換する。
なお、電流ベクトル(id,iq)における各成分は、検出された電流ベクトル(iu,iv,iw)から変換されたものなので、検出値と見做すことができる。以下の説明では、idをd軸電流又はd軸電流値ともいい、iqをq軸電流又はq軸電流値ともいう。
モータ位置検出部38は、d軸電流値id及びq軸電流値iqをUVW-dq変換器36から受け、モータ30の回転子の電気回転角度θe、推定角速度ωe、及び機械角速度ωmを算出する。図1に示すように、モータ位置検出部38は、軸誤差演算処理部42、PLL制御器43、積分器44、ローパスフィルタ45、及び変換器46を含む。
軸誤差演算処理部42は、d軸電流値id及びq軸電流値iqの各検出値をUVW-dq変換器36から受け、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを電圧指令生成部39から受け、d軸電流値id、q軸電流値iq、d軸電圧指令値Vd、及びq軸電圧指令値Vqに応じて、回転子の実際の位置と推定位置との偏差である軸誤差Δθを求め、PLL制御器43へ出力する。
PLL制御器43は、軸誤差Δθに応じて、直前に推定した推定角速度ωeを修正する。PLL制御器43は、修正された推定角速度ωeを積分器44及びローパスフィルタ45へ出力する。PLL制御器43は、積分器及び比例器を有するPI制御器を用いて実現される。
積分器44は、推定角速度ωeを積分することにより、固定座標系(UVW座標系)における回転子の推定位置として電気回転角度θeを算出し、UVW-dq変換器36及び電圧指令生成部39へそれぞれ出力する。電気回転角度θeは、モータ30の回転子(ロータ)の位相を表す量である。
ローパスフィルタ45は、PLL制御器43による推定角速度ωeの修正で発生するノイズ(修正ノイズ)による誤動作を防止するためのフィルタである。ローパスフィルタ45は、修正ノイズが多い場合にその修正ノイズを除去するため、推定角速度ωeに対してローパスフィルタ処理を施す。ローパスフィルタ45は、処理後の推定角速度ωeを変換器46へ出力する。
変換器46は、固定座標系(UVW座標系)における推定角速度ωeをモータ30の極対数Pnで割る(極対数の逆数1/Pnをかける)ことにより、機械角で表したロータの機械角速度ωmを求め、電圧指令生成部39へ出力する。
電圧指令生成部39は、d軸電流値id及びq軸電流値iqをUVW-dq変換器36から受け、電気回転角度θe及び機械角速度ωmをモータ位置検出部38から受け、d軸電流指令値idを図示しないd軸電流指令値設定部から受け、機械角速度指令値ωmを外部(例えば、図示しない上位のコントローラ)から受け、d軸電流値id、q軸電流値iq、電気回転角度θe、機械角速度ωm、d軸電流指令値id、及び機械角速度指令値ωmに応じて、制御指令値(U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv、W相電圧指令値Vw)を生成する。
電圧指令生成部39は、減算器47、速度制御器48、減算器49、減算器50、d軸電流制御器51、q軸電流制御器52、非干渉化制御器53、加算器54、加算器55、及び変調処理部20を備える。
減算器47は、機械角速度指令値ωmを外部から受け、推定値である機械角速度ωmをモータ位置検出部38から受け、機械角速度指令値ωmから機械角速度ωmを減算し、減算結果を角速度差分として速度制御器48へ出力する。
速度制御器48は、例えば、積分器及び比例器を有し、機械角速度指令値ωm(速度指令値)と機械角速度ωm(推定速度)との差分である角速度差分(速度差分)に応じて、q軸電流指令値iq(電流指令値)を生成する。
減算器49は、d軸電流指令値idを外部から受け、d軸電流値idをUVW-dq変換器36から受け、d軸電流指令値idからd軸電流値idを減算し、その減算結果をd軸電流制御器51へ出力する。
減算器50は、q軸電流指令値iqを速度制御器48から受け、q軸電流値iqをUVW-dq変換器36から受け、q軸電流指令値iqからq軸電流値iqを減算し、その減算結果をq軸電流制御器52へ出力する。
d軸電流制御器51は、例えば、積分器及び比例器を有するPI制御器を用いて実現され、減算器49からの出力に応じて、積分器及び比例器を用いてd軸電圧指令値Vd**を生成する。
q軸電流制御器52は、例えば、積分器及び比例器を有するPI制御器を用いて実現され、減算器50からの出力に応じて、積分器及び比例器を用いてq軸電圧指令値Vq**を生成する。
非干渉化制御器53は、q軸電圧指令値Vq**とd軸電圧指令値Vd**とを非干渉化する。具体的には、非干渉化制御器53は、d軸電流値idをUVW-dq変換器36から受け、d軸電流値idに応じて、q軸電圧指令値Vq**を非干渉化するための非干渉化補正値Vqaを求め、非干渉化補正値Vqaを加算器55へ出力する。また、非干渉化制御器53は、q軸電流値iqをUVW-dq変換器36から受け、q軸電流値iqに応じて、d軸電圧指令値Vd**を非干渉化するための非干渉化補正値Vdaを求め、非干渉化補正値Vdaを加算器54へ出力する。
加算器54は、d軸電圧指令値Vd**をd軸電流制御器51から受け、非干渉化補正値Vdaを非干渉化制御器53から受け、d軸電圧指令値Vd**から非干渉化補正値Vdaを減算し、その減算結果を非干渉化後のd軸電圧指令値Vdとして変調処理部20及び軸誤差演算処理部42に出力する。
加算器55は、q軸電圧指令値Vq**をq軸電流制御器52から受け、非干渉化補正値Vqaを非干渉化制御器53から受け、q軸電圧指令値Vq**と非干渉化補正値Vqaとを加算し、その加算結果を非干渉化後のq軸電圧指令値Vqとして変調処理部20及び軸誤差演算処理部42に出力する。
変調処理部20は、d軸電圧指令値Vdを加算器54から受け、q軸電圧指令値Vqを加算器55から受け、電気回転角度θeを積分器44から受け、例えば、電気回転角度θeに応じて、回転座標系(d-q座標系)における電圧指令ベクトル(Vd,Vq)から、固定座標系(UVW座標系)における電圧指令ベクトル(Vu,Vv,Vw)を生成する。電圧指令ベクトル(Vu,Vv,Vw)は、PWM変調器34に出力される電圧指令値である。
本開示において、電圧指令値を生成することは、電圧指令値を得ることを意味する。例えば、各種の式を用いて電圧指令値を算出することや、各種の処理を実行して電圧指令値を得ることは、電圧指令値を生成することに含まれる。以下では、"算出"や"処理の実行"の結果として電圧指令値を得ることを、電圧指令値を生成すると記載する。
変調処理部20では、三相分の電圧指令ベクトル(Vu,Vv,Vw)として、上下固定二相変調方式の電圧指令値が生成される。またモータ30を過変調領域で駆動する場合には、過変調度に応じて補正された上下固定二相変調方式の電圧指令値が生成される。
このように、変調処理部20は、過変調領域であるか否かにかかわらず、つねに上下固定二相変調方式の電圧指令値を生成する。
また、モータ制御装置100には、図示しないDC検出回路が設けられる。DC検出回路は、電源10から供給される直流電圧Vdcの電圧値を検出する回路である。以下では、直流電圧Vdcの電圧値を、同じ符号を用いて直流電圧値Vdcと記載する。直流電圧値Vdcは、IPM35における出力電圧限界値である。DC検出回路の検出結果は、演算回路33に出力される。
例えば、電源10に供給される外部電源の電圧や負荷の変動等により電源10の電圧値が変化する場合があり得る。このような場合、演算回路33ではDC検出回路の検出結果を用いて制御指令値が調整される。これにより電源10の電圧が変化してもモータ30を安定して駆動することが可能となる。
なお、DC検出回路が設けられない場合には、直流電圧値Vdcとして、予め設定された定数(規定値)を用いることも可能である。
[変調処理部の構成]
図3は、変調処理部20の構成例を示すブロック図である。
変調処理部20は、電圧利用率算出部21と、dq-UVW変換器22と、過変調度算出部23と、過変調処理部24と、オフセット電圧算出部25と、二相変調処理部26とを有する。
電圧利用率算出部21は、d軸電圧指令値Vdを加算器54から受け、q軸電圧指令値Vqを加算器55から受け、d軸電圧指令値Vdとq軸電圧指令値Vqより、出力電圧振幅Vaを算出する。出力電圧振幅Vaは、以下の式に従って算出される。
・・・(1)
また電圧利用率算出部21は、電源10の直流電圧値Vdcを図示しないDC検出回路から受け、出力電圧振幅Vaと直流電圧値Vdcより電圧利用率Rvを算出する。電圧利用率Rvは、以下の式に従って算出される。
・・・(2)
ここで、電圧利用率Rvと、PWM制御におけるデューティDと、変調率mとの関係について説明する。
電圧利用率Rvは、例えば、直流電圧値Vdcに対する線間電圧の基本波振幅MLの比率(Rv=ML/Vdc)である。ここで、線間電圧は、モータ30に印加されるU相、V相、W相のうちの2相間の電圧であり、各相電圧の差分で表される。また基本波振幅MLは、線間電圧を構成する基本波(正弦波)の振幅である。
上記した出力電圧振幅Vaは、d-q座標系における電圧指令ベクトル(Vd,Vq)の大きさであり、線間電圧の基本波振幅MLに対応する。そこで、電圧利用率算出部21では、(2)式に従って、出力電圧振幅Vaから電圧利用率Rvが算出される。これにより、線間電圧を算出することなく、電圧利用率Rvを算出することが可能となる。
デューティDは、例えば、直流電圧値Vdcに対する相電圧の電圧値VLの比率(D=VL/Vdc)である。従ってデューティDは、あるタイミングにおける相電圧の瞬間的な値(電圧値VL)のVdcに対する比率である。従って、相電圧の電圧値VLが最大となるタイミングでは、デューティDも最大となる。
変調率mは、例えば、直流電圧値Vdcの半分の値に対する相電圧の基本波振幅MPの比率(m=MP/(Vdc/2))である。ここで、相電圧は、U相、V相、W相の各相の電圧である。なお三相交流では、相電圧にsqrt(3)を乗算した値が線間電圧となる。ここでsqrt(x)は、xの平方根を意味する。
従って、変調率mは、以下の式に従って算出される。
m=(2/sqrt(3))×(ML/Vdc)
=(2/sqrt(3))×Rv
・・・(3)
本開示では、電圧利用率Rvが1より大きくなる領域、すなわちRv>1となる領域を過変調領域とする。すなわち、出力電圧振幅Vaが直流電圧値Vdcよりも大きくなる領域(Va>Vdc)を過変調領域とする。
ここで(3)式を参照すると、Rv=1の場合、変調率mは2/sqrt(3)≒1.15となる。従って、過変調領域とは、変調率mが1.15よりも大きい領域(m>1.15)であるとも言える。
過変調領域では、インバータ(IPM35)に供給する電圧の電圧利用率Rvが1(100%)を超える値に設定される。
また本開示では、電圧利用率Rvが1以下となる領域、すなわちRv≦1となる領域を通常領域とする。すなわち、出力電圧振幅Vaが直流電圧値Vdc以下となる領域(Va≦Vdc)を通常領域とする。
通常領域では、インバータ(IPM35)に供給する電圧の電圧利用率Rvが1(100%)以下の値に設定される。
dq-UVW変換器22は、d軸電圧指令値Vdを加算器54から受け、q軸電圧指令値Vqを加算器55から受け、電気回転角度θeを積分器44から受け、回転座標系(dq座標系)における電圧指令ベクトル(Vd,Vq)を、固定座標系(UVW座標系)における電圧指令ベクトル(Vu0,Vv0,Vw0)に変換する。
Vu0,Vv0,Vw0は、後述する過変調処理や二相変調処理等を受けていない変調前の三相電圧指令値である。また、三相電圧指令値は、各相の電圧指令値が変化する三相変調方式の電圧指令値である。このように、dq-UVW変換器22は、d軸及びq軸の電圧指令値を変換して三相分の三相電圧指令値(Vu0,Vv0,Vw0)を生成する。
過変調度算出部23は、電圧利用率Rvを電圧利用率算出部21から受け、電圧利用率Rvから過変調度Romを算出する。
過変調度Romは、過変調領域である場合に、変調前の三相電圧指令値(Vu0,Vv0,Vw0)を増幅するための増幅率である。過変調度Romは、電圧利用率算出部21により算出される電圧利用率Rvと、インバータ(IPM35)における実電圧利用率Rv'とが同等となるように調整される。この点については、後に詳しく説明する。
なお、過変調度算出部23は、通常領域である場合(過変調領域外である場合)は、電圧指令値の増幅の必要はないため、過変調度Romとして1を出力する。
過変調処理部24は、三相分の三相電圧指令値(Vu0,Vv0,Vw0)をdq-UVW変換器22から受け、過変調度Romを過変調度算出部23から受け、三相電圧指令値(Vu0,Vv0,Vw0)を過変調度に応じて増幅した電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)を生成する。
具体的には、過変調領域である場合に、変調前の三相電圧指令値(Vu0,Vv0,Vw0)に過変調度Romを乗算し、電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)を出力する。従って、電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)は、過変調度Romで増幅された増幅電圧指令値であるともいえる。
なお、通常領域である場合は、Rom=1であるため、電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)は、dq-UVW変換器22から出力された三相電圧指令値(Vu0,Vv0,Vw0)と同じ電圧指令値となる。
以下では、電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)を二相変調処理部26により変調される前の電圧指令値であるとして、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)と記載する。なお、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)は、過変調領域では、過変調度Romで増幅された過変調電圧指令値となる。
オフセット電圧算出部25は、電源10の直流電圧値Vdcを図示しないDC検出回路から受け、電圧利用率Rvを電圧利用率算出部21から受け、過変調度Romを過変調度算出部23から受け、直流電圧値Vdcと電圧利用率Rvと過変調度Romとに基づいて、オフセット電圧Voffsetを算出する。
オフセット電圧Voffsetは、過変調領域である場合に、後述する上固定二相変調と下固定二相変調とが切り替わるタイミングにおいて、駆動回路31に出力される電圧指令値にギャップが生じないように各値をシフトするためのパラメータである。
ここで、電圧指令値のギャップとは、電圧指令値が不連続に変化し、波形が段差状になる部分である。従って電圧指令値のギャップとは、電圧指令値の傾きが実質的に無限大になる部分であるともいえる。
このように、オフセット電圧算出部25は、電圧指令値のギャップを補正するオフセット電圧Voffsetを算出する。
なお、オフセット電圧算出部25は、通常領域である場合は、電圧指令値をシフトしないため、オフセット電圧Voffsetとして0を出力する。
二相変調処理部26は、電源10の直流電圧値Vdcを図示しないDC検出回路から受け、オフセット電圧Voffsetをオフセット電圧算出部25から受け、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)を過変調処理部24から受け、直流電圧値Vdcとオフセット電圧Voffsetとに基づいて、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)から電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)を生成する。
二相変調処理部26では、三相変調の電圧指令値から二相変調の電圧指令値を生成する二相変調処理が実行される。二相変調処理は、通常領域及び過変調領域の両方で実行される。また過変調領域である場合には、さらに、電圧指令値の値をシフトするオフセット処理、電圧指令値の値を制限するリミット処理が実行される。
ここで、二相変調処理の概要について説明する。
二相変調処理部26は、IPM35の三相の出力を生成するにあたり、電圧が固定される1つの固定相と、電圧が変調される2つの変調相とを所定期間ごとに切り替えて設定する。
固定相の電圧は、IPM35が出力可能な最大値である直流電圧値Vdc、またはIPM35が出力可能な最小値である0Vに固定される。また固定相を設定することで発生する電圧の増加分または減少分は、他の2つの変調相にも適用される。
これにより、固定相では電圧を変調させるためのスイッチング動作が不要となる。従って固定相を設けることで、1相分のスイッチングによる電力の損失(スイッチング損失)を抑えることが可能となる。
二相変調処理部26は、固定相及び変調相の電圧指令値をそれぞれ参照して、上下固定二相変調方式の電圧指令値を生成する。
ここで上下固定二相変調は、固定相について上アーム素子をオンにし下アーム素子をオフにする上固定二相変調と、固定相について上アーム素子をオフにし下アーム素子をオンにする下固定二相変調とが所定期間ごとに切り替わる変調方式である。
図2を参照して説明したように、IPM35では、U相、V相、W相の各相において、第1スイッチ素子(65u、65v、65w)が上アーム素子であり、第2スイッチ素子(66u、66v、66w)が下アーム素子である。
上固定二相変調では、固定相の上アーム素子(第1スイッチ素子)がオンとなり下アーム素子(第2スイッチ素子)がオフとなる。この結果、固定相の巻線は電源側配線60に接続され、固定相の電圧は直流電圧値Vdcに固定される。
下固定二相変調では、固定相の上アーム素子(第1スイッチ素子)がオフとなり下アーム素子(第2スイッチ素子)がオンとなる。この結果、固定相の巻線はGND側配線61に接続され、固定相の電圧はGND電圧(0V)に固定される。
このように、二相変調処理部26は、IPM35がモータ30に出力する電圧の相ごとに設けられた上アーム素子及び下アーム素子のオン及びオフを制御する電圧指令値として、上下固定二相変調により二相変調された電圧をモータ30に印加するための電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)を生成する。
上下固定二相変調方式とすることで、常時1相分のスイッチング損失を抑えることが可能となる。このため、電力の利用効率を十分に向上することが可能となる。
さらに、二相変調処理部26は、過変調領域において、上固定二相変調と下固定二相変調とが切り替わるタイミングで電圧指令値にギャップが生じないように電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)を算出する。
例えば、上固定二相変調と下固定二相変調とが切り替わる切替タイミングでは、電圧指令値の生成する方法によっては、不連続に値が変化してギャップが発生することが考えられる。二相変調処理部26は、過変調領域である場合には、Vu2,Vv2,Vw2にギャップが発生しないように、各指令値を生成する。
本実施形態では、二相変調処理部26は、過変調領域において、オフセット電圧Voffsetに基づく補正処理(オフセット処理)を実行して電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)を生成する。オフセット処理は、オフセット電圧Voffsetの値で電圧指令値をシフトする処理である。具体的には、オフセット処理は、電圧指令値にオフセット電圧Voffsetを加算する処理、又は電圧指令値からオフセット電圧Voffsetを減算する処理である。
なお、通常領域である場合には、上記したようにVoffset=0であり、電圧指令値はシフトされない。
また、過変調領域では、二相変調処理部26は、リミット処理を実行する。この処理は、二相変調処理やオフセット処理を受けた電圧指令値が、IPM35において出力可能な電圧の上限値や下限値を超えないように制限する処理である。
なお、通常領域である場合には、電圧指令値が上限値や下限値を超えることはないため、リミット処理は実行されない。
以下では、電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)を二相変調処理部26により変調された後の電圧指令値であるとして、二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)と記載する。図3に示すように、二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)は、変調処理部20から最終的に出力される電圧指令値である。従って、Vu2=Vuであり、Vv2=Vvであり、Vw2=Vwである。
本実施形態では、二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)は、二相変調電圧指令値に相当する。
[変調処理部の動作]
図4は、変調処理部20の基本的な動作例を示すフローチャートである。図4に示す処理は、図3を参照して説明した変調処理部20が実行する処理である。またこの処理が実行される間、d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vq、電気回転角度θe、及び直流電圧値Vdcを算出する処理が適宜実行される。
なお図4に示す処理では、過変調領域(Rv>1)である場合と、過変調領域ではない通常領域(Rv≦1)である場合とで、算出されるパラメータ(RomやVoffset)の値が異なる。このため、ステップ103~ステップ107の動作に違いが生じる。これらのステップについては、通常領域と過変調領域とを分けて説明する。
まず、dq-UVW変換器22により、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqが、三相分の三相電圧指令値(Vu0,Vv0,Vw0)に変換される(ステップ101)。三相電圧指令値(Vu0,Vv0,Vw0)は、過変調処理部24に出力される。
次に、電圧利用率算出部21により、d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vq、及び直流電圧値Vdcから、電圧利用率Rvが算出される(ステップ102)。電圧利用率Rvの算出には、上記した(1)式及び(2)式が用いられる。電圧利用率Rvは、過変調度算出部 と、オフセット電圧算出部25に出力される。
なおステップ101及び102の処理の順番は限定されず、ステップ102が先に実行されてもよい。
[通常領域での動作]
まず、通常領域(Rv≦1)での動作について説明する。
過変調度算出部23により、過変調度Romが算出される(ステップ103)。過変調度算出部23は、ステップ102で算出された電圧利用率Rvが1以下の場合、通常領域であると判断し、過変調度Romを1に設定する。
過変調処理部24により、過変調処理が実行される(ステップ104)。過変調処理は、三相分の三相電圧指令値(Vu0,Vv0,Vw0)に過変調度Romを乗算して二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)を生成する処理である。通常領域では、Rom=1であるので、以下に示すように三相電圧指令値がそのまま二相変調前電圧指令値となる。
Vu1=Vu0
Vv1=Vv0
Vw1=Vw0
・・・(4)
オフセット電圧算出部25により、オフセット電圧Voffsetが算出される(ステップ105)。オフセット電圧算出部25は、ステップ102で算出された電圧利用率Rvが1以下の場合、通常領域であると判断し、オフセット電圧Voffsetを0に設定する。
二相変調処理部26により、二相変調処理が実行される(ステップ106)。二相変調処理では、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)から二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)が生成される。
通常領域では、過変調度Romにより増幅されていない三相電圧指令値をそのまま変換して二相変調後電圧指令値が生成される。また、オフセット電圧Voffsetは0であるため、二相変調後電圧指令値に影響しない。このように、通常領域では、過変調度Rom及びオフセット電圧Voffsetによる補正処理は実行されないともいえる。
上記したように、二相変調処理部26は、上固定二相変調と下固定二相変調とが所定期間で切り替わる上下固定二相変調方式の二相変調後電圧指令値を生成する。本実施形態では、所定期間は、モータの電気角で60度に対応する期間に設定される。つまり上固定二相変調と下固定二相変調とが、電気角が60度変化するごとに切り替えられる。このような変調方式を上下60度固定二相変調方式と記載する。
図5は、固定相を設定する処理の一例を示すグラフである。図5には二相変調処理を受ける前の二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)の波形を表すグラフが図示されている。グラフの縦軸は電圧指令値であり、横軸は電気角θeである。各電圧指令値は、位相が120度ずれた正弦波となる。以下では、Vu1が増加して電圧指令値が0となる電気角を0度として説明する。
なお図5では、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)の各相の電圧が最小となる部分Vminと最大となる部分Vmaxとが太線により強調して表示されている。
上下60度固定二相変調では、Vmaxとなる相及びVminとなる相が、60度ごとに交互に固定相に設定される。このうち、Vmaxとなる相が固定相になる場合、上固定二相変調が実行され、Vminとなる相が固定相になる場合、下固定二相変調が実行される。図5では、上固定二相変調及び下固定二相変調となる区間が、それぞれ黒色の矢印及び白色の矢印で模式的に図示されている。
図5に示す例では、電気角が0度~60度の区間では、V相の電圧指令値Vv1が0Vに固定される(下固定)。また電気角が60度~120度の区間では、U相の電圧指令値Vu1が直流電圧値Vdcに固定される(上固定)。また電気角が120度~180度の区間では、W相の電圧指令値Vw1が0Vに固定される(下固定)。同様に、180度以降の区間でも60度の期間ごとに、上固定と下固定が切り換えて実行される。
このように、3つの相のうち常にいずれか1相が、0V(デューティD=0)、または、直流電圧値Vdc(デューティD=1)に設定されることで、その相のスイッチングが停止する。このため3つの相を全て変調させる三相変調方式と比べて、スイッチング回数が2/3に減少し、スイッチング損失を低減することが可能となる。
次に、上下60度固定二相変調を実現するために、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)を補正するための補正信号(上下60度固定補正信号ΔV)について説明する。
図6は、上下60度固定補正信号ΔVの一例を示すグラフである。グラフの縦軸は電圧指令値に作用する補正電圧であり、横軸は電気角θeである。
上下60度固定補正信号ΔVは、電気角が0度~60度、120度~180度、240度~300度の区間では、下固定(0V)とするための補正量となり、また、電気角が60度~120度、180度~240度、300度~360度の区間では上固定(直流電圧値Vdc)とするための補正量となるように算出される。
より詳しくは、下固定時のΔVは、0Vと最小電圧Vminとの差分によって算出される。また、上固定時のΔVは、直流電圧値Vdcと最大電圧Vmaxとの差分によって算出される。従って、下固定時及び上固定時のΔVは、以下の式に従って算出される。
下固定時:ΔV=0-Vmin
上固定時:ΔV=Vdc-Vmax
・・・(5)
(5)式に従って算出された上下60度固定補正信号ΔVの一例を図6に示す。ここでは、Vdc=100Vとし、電圧利用率Rv=0.8としている。
例えば、電気角が0度~60度の区間は下固定に設定される区間であり、VminとなるのはVv1であるため、ΔV=0-Vv1となる。また例えば、電気角が60度~120度の区間は上固定に設定される区間であり、VmaxとなるのはVu1であるため、ΔV=Vdc-Vu1となる。
二相変調処理では、二相変調処理部26により、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)から図5に示すようにVmin、および、Vmaxが求められる。そして、Vmin及びVmaxの算出結果に従って、図6に示すように上下60度固定補正信号ΔVが算出される。
なお、図5及び図6の説明は、0VをデューティD=0(0%)とし、電源10の直流電圧値VdcをデューティD=1(100%)と定義した場合の説明である。デューティ値の設定の仕方はこれに限定されない。
例えば、-Vdc/2をデューティD=0とし、+Vdc/2をデューティD=1と定義することも可能である。この場合、下固定時は-Vdc/2に固定され、上固定時は+Vdc/2に固定されるような上下60度固定補正信号ΔVを算出すればよい。
二相変調後の相電圧を-Vdc/2と+Vdc/2に固定する場合の上下60度固定補正信号ΔVは、以下の式に従って算出される。
下固定時:ΔV=-Vdc/2-Vmin
上固定時:ΔV=+Vdc/2-Vmax
・・・(6)
以降の説明では、図5及び図6で説明した場合と同様に、0VをデューティD=0とし、直流電圧値VdcをデューティD=1として説明する。もちろん、-Vdc/2をデューティD=0とし、+Vdc/2をデューティD=1と定義する場合にも、(6)式を適用することで、本発明を用いることが可能である。
上下60度固定補正信号ΔVが算出されると、二相変調処理部26により、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)の各々に上下60度固定補正信号ΔVが加算され、二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)が生成される。従って、二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)は、以下の式に従って生成される。
Vu2=Vu1+ΔV
Vv2=Vv1+ΔV
Vw2=Vw1+ΔV
・・・(7)
図4に戻り、二相変調処理部26により、リミット処理が実行される(ステップ107)。リミット処理は、(7)式に従って生成された電圧指令値を、上限値(直流電圧値Vdc)と下限値(0V)の間の値に制限する処理である。
なお、過変調領域である場合には、上限値より大きな電圧指令値や、下限値より小さい電圧指令値が生成されるが、通常領域では、電圧指令値が上限値や下限値を超えることはない。このため、通常領域では、リミット処理によって二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)の値は変化しない。
二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)が生成されると、例えばステップ101以降の処理が再度実行され、上下60度固定二相変調方式でのモータ制御が継続される。
上下60度固定二相変調方式の二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)は、60度毎に、固定相となる一相が0VもしくはVdcで固定される。これにより、U相、V相、W相の各相で1/3の期間のスイッチング回数が減り、スイッチング損失を低減することが可能となる。
また以下に示すように、通常領域では、上下60度固定二相変調による線間電圧Vuv、Vvw、Vwuは三相変調と同様の正弦波形状を保つことが可能である。なお各線間電圧は、以下の式に従って算出される。
Vuv=Vu2-Vv2
Vvw=Vv2-Vw2
Vwu=Vw2-Vu2
・・・(8)
図7Aは、電圧利用率Rv=0.8での二相変調前電圧指令値の一例を示すグラフである。図7Bは、電圧利用率Rv=0.8での二相変調後電圧指令値の一例を示すグラフである。図7Cは、電圧利用率Rv=0.8での線間電圧の一例を示すグラフである。また図8Aは、電圧利用率Rv=1での二相変調前電圧指令値の一例を示すグラフである。図8Bは、電圧利用率Rv=1での二相変調後電圧指令値の一例を示すグラフである。図8Cは、電圧利用率Rv=1での線間電圧の一例を示すグラフである。
以下では、直流電圧値Vdc=100Vであるものとする。図7A~図7C、及び図8A~図8Cに示すグラフは、いずれも通常領域(Rv≦1)での波形を表している。
図7Aに示すように、電圧利用率Rv=0.8の二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)は、120度ずつ位相がずれた正弦波形の信号となる。なお図7Aのグラフは図5に示すグラフと同様である。
図7Bに示す二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)は、図7Aに示す二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)に、電圧利用率Rv=0.8の状態に対応した上下60度固定補正信号ΔVを加算した信号である。
例えば、下固定二相変調の区間(0度~60度、120度~180度、240度~300度)では、最も電圧が低い相が固定相となり、その電圧指令値は0Vに固定される。また、上固定二相変調(60度~120度、180度~240度、300度~360度)の区間では、最も電圧が高い相が固定相となり、その電圧指令値はVdc=100Vに固定される。
また、各区間において固定相とならない2つの変調相にもΔVが加算される。これにより固定相の電圧を一定値(0V又はVdc)にしても、モータ30に印加する電圧を適正に変調することが可能となる。
このため、例えば下固定二相変調から上固定二相変調に切り替わるタイミングでは、電圧が増加する方向に各電圧指令値がシフトする。逆に、上固定二相変調から下固定二相変調に切り替わるタイミングでは、電圧が減少する方向に各電圧指令値がシフトする。この結果、各電圧指令値は、上固定二相変調と下固定二相変調との切替タイミングで不連続になる。
図7Cに示す線間電圧(Vuv,Vvw,Vwu)は、図7Bに示す二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)から(8)式に従って算出される。二相変調後電圧指令値とは異なり、線間電圧は正弦波形状の波形となり不連続に変化することはない。
図8Aに示すように、電圧利用率Rv=1の二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)は、図7Aと同様に120度ずつ位相がずれた正弦波形の信号となる。なお各電圧指令値の振幅は図7Aとは異なる。
図8Bに示す二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)は、図8Aに示す二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)に、電圧利用率Rv=1の状態に対応した上下60度固定補正信号ΔVを加算した信号である。例えば下固定二相変調の区間では、固定相の電圧指令値は0Vに固定され、上固定二相変調の区間では、固定相の電圧指令値はVdc=100Vに固定される。
なお、図7Bとは異なり、電圧利用率Rv=1の場合には、固定二相変調と下固定二相変調との切替タイミングで各電圧指令値が不連続になることはない。
図8Cに示す線間電圧(Vuv,Vvw,Vwu)は、図8Bに示す二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)から(8)式に従って算出される。この場合、図8Bに示す二相変調後電圧指令値とは異なり、線間電圧は正弦波形状の波形となる。
このように、通常領域(Rv≦1)では、上下60度固定二相変調の電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)を用いても、線間電圧Vuv、Vvw、Vwuは正弦波形状を保つことが可能である。これにより、モータ30を安定して駆動することが可能である。
[過変調領域での動作]
次に過変調領域(Rv>1)での動作について説明する。
過変調度算出部23により、過変調度Romが算出される(ステップ103)。過変調度算出部23は、ステップ102で算出された電圧利用率Rvが1より大きい場合、過変調領域であると判断し、電圧利用率Rvに応じた過変調度Romを算出する。
図9は、電圧利用率Rvと過変調度Romとの対応関係の一例を示すグラフである。
図9には、シミュレーションにより算出された、上下60度固定二相変調における電圧利用率Rvと過変調度Romの対応関係を示すグラフが図示されている。グラフの横軸は電圧利用率Rvであり、グラフの縦軸は過変調度Romである。
図9において、実線のグラフは、オフセット処理により電圧指令値がシフトされる場合(オフセット補償がある場合)の電圧利用率Rvと過変調度Romとの対応関係を示すグラフである。過変調度算出部23では、実線のグラフを用いて過変調度Romが算出される。一方、点線のグラフは、比較例として挙げたグラフであり、オフセット処理が行われない場合(オフセット補償がない場合)の電圧利用率Rvと過変調度Romとの対応関係を示すグラフである。点線のグラフは、過変調度Romの算出には用いられず、ここでは比較のために図示している。
過変調度Romは、過変調領域において、三相電圧指令値(Vu0,Vv0,Vw0)を増幅する増幅率である。上記した通常領域(Rv≦1)の場合は、Rom=1に設定されたが、過変調領域(Rv>1)では、過変調度Romは1よりも大きい値、すなわちRom>1に設定される。
過変調度Romは、電圧利用率算出部21より算出される電圧利用率Rvと、IPM35における実際の電圧利用率である実電圧利用率Rv'とが同等となるように調整される。
ここで、実電圧利用率Rv'は、二相変調処理部26から最終的に出力される二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)を用いてIPM35を動作させた際の、直流電圧値Vdcと線間電圧(Vuv,Vvw,Vwu)の基本波振幅との比率である。実電圧利用率Rv'は、例えばシミュレーションにより算出される理論値である。
従来、電圧利用率Rvと過変調度Romとの対応関係を求める際には、オフセット処理を実行しないで生成された二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)が用いられた。この方法では、過変調度Romで増幅された二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)に対して二相変調処理及びリミット処理だけを実行して二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)が生成される。この場合、電圧利用率Rvと過変調度Romとの対応関係は、点線のグラフとなる。
これに対し、本願では、過変調度Romで増幅された二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)に対して、オフセット処理、二相変調処理、及びリミット処理が実行される。このようにオフセット処理により電圧指令値がオフセット補償される場合、点線のグラフが示す対応関係をそのまま適用すると、実電圧利用率Rv'が減少し、電圧利用率Rvとの線形性が担保できなくなる。
そこで、本実施形態では、オフセット補償がある場合の電圧利用率Rvと過変調度Romとの対応関係(実線のグラフ)がシミュレーションされ、その結果に従って過変調度Romが算出される。すなわち、過変調度算出部23は、オフセット電圧Voffsetに基づく補正処理(オフセット処理)を実行した場合でも、電圧利用率Rvと、インバータにおける実際の電圧利用率である実電圧利用率Rv'との関係が線形となるように過変調度Romを算出する。
図9に示すように、オフセット補償を行う場合、電圧利用率Rvと実電圧利用率Rv'の線形性を担保するための過変調度Rom(実線のグラフ)は、オフセット補償を行わない場合における過変調度Rom(点線のグラフ)よりも増加する。例えば、オフセット補償を行うことで、リミット処理により制限される電圧指令値の範囲が変化し、電圧指令値が上限値及び下限値の両方によって制限される(図10等参照)。一方で、オフセット補償を行なわない場合には、電圧指令値は上限値及び下限値の一方によって制限される。このため、オフセット補償を行なう場合、オフセット補償を行なわない場合と比べ、モータに供給される電圧が全体として減少する。この減少分を補うために、過変調度Romが増加する。
このようにオフセット補償を考慮したシミュレーション結果を用いることで、オフセット補償による電圧の減少分を補うとともに、電圧利用率Rvと実電圧利用率Rv'の線形性を担保することが可能となる。この結果、二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)を精度よく生成することが可能となり、十分に安定した精度のよいモータ制御を実現することが可能となる。
図9に示すように、電圧利用率Rvと過変調度Romとの対応関係は非線形である。そこで、過変調度算出部23は、過変調度Romを以下の式に従って算出する。
Rom=f(Rv) ・・・(9)
(9)式において、f(Rv)は、Rvの関数である。f(Rv)としては、以下に記載するテーブルや二次関数が用いられる。
例えば、実線のグラフが示すシミュレーション結果をテーブルとして所定のメモリに保存される。この場合、過変調処理部24は、テーブルを参照して、電圧利用率Rvに対応する過変調度Romを算出する。
また例えば、実線のグラフが示すシミュレーション結果をいくつかの区間に分割し、区間ごとに電圧利用率Rvを変数とする二次関数近似等を用いて過変調度Romが算出されてもよい。この場合、過変調度算出部23は、過変調度Romを、区間ごとに設定された以下の式に従って算出する。
Rom=a×Rv2+b×Rv+c ・・・(10)
(10)式においてa、b、cは、シミュレーション結果を分割する区間ごとに設定される定数である。
過変調度Romが算出されると、過変調処理が実行される(ステップ104)。具体的には、過変調処理部24により、過変調度Romに応じて三相電圧指令値(Vu0,Vv0,Vw0)が増幅され二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)が生成される。ここでは、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)は、以下の式に従って生成される。
Vu1=Rom×Vu0
Vv1=Rom×Vv0
Vw1=Rom×Vw0
・・・(11)
[電圧指令値のギャップ]
過変調領域(Rv>1)では、(11)式で生成される二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)に対して、上下60度固定二相変調方式の信号に変換する二相変調処理だけを適用すると、上固定二相変調と下固定二相変調との切替タイミングにおいて電圧指令値にギャップが発生することが考えられる。電圧指令値のギャップとは、前述の通り、電圧指令値が不連続に変化し、波形が段差状になる部分である。
本発明者は、過変調領域における電圧指令値のギャップにより、モータ制御が不安定になる可能性があることを見出した。ここでは、電圧指令値のギャップと、モータ制御との関係について説明する。
図10は、電圧指令値のギャップについて説明するための模式的なグラフである。
図10には、比較用の電圧指令値(Vu',Vv',Vw')のグラフが図示されている。比較用の電圧指令値(Vu',Vv',Vw')は、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)に対して二相変調処理を実行し、上下60度固定二相変調方式の電圧指令値に変換したものである。ここでは、オフセット処理及びリミット処理は実行していない。
過変調領域における二相変調処理の内容は、(7)式を参照して説明した通常領域での処理と同様である。すなわち、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)が上下60度固定二相変調方式の電圧指令値となるように、上下60度固定補正信号ΔVが算出される。そして各二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)にΔVが加算される。従って、比較用の電圧指令値(Vu',Vv',Vw')は、以下の式に従って算出される。
Vu'=Vu1+ΔV
Vv'=Vv1+ΔV
Vw'=Vw1+ΔV
・・・(12)
図10に示すように、比較用の電圧指令値(Vu',Vv',Vw')では、上固定二相変調と下固定二相変調との切替タイミングで、各電圧指令値が不連続になる。
このうち、切替タイミングの前後で固定相となる相には、切替タイミングを挟んで電圧指令値が上限値(ここではVdc=100V)よりも大きい値となる部分や、下限値(ここでは0V)よりも小さい値となる部分が含まれる。
例えば、60度の切替タイミングを見ると、切替タイミングの後で上固定用の固定相となるU相の電圧指令値Vu'は、上限値よりも大きい値から上限値に変化する。また、切替タイミングの前に下固定用の固定相であったV相の電圧指令値Vv'は、下限値から下限値よりも小さい値に変化する。
このように、上限値又は下限値を超えた部分は、リミット処理により上限値又は下限値に制限することが可能である。従って、切替タイミングの前後で固定相となる相については、リミット処理を行うことで電圧指令値のギャップが発生しなくなる。
一方で、切替タイミングの前後で固定相とならない相では、上限値及び下限値の中間の値となる中間電圧(ここでは50V)の付近に電圧指令値のギャップが発生する。
例えば、60度の切替タイミングを見ると、切替タイミングの前後で固定相とならないW相の電圧指令値Vw'では、中間電圧を挟んで電圧指令値が不連続に減少してギャップが発生する。また例えば120度の切替タイミングを見ると、切替タイミングの前後で固定相とならないV相の電圧指令値Vv'では、中間電圧を挟んで電圧指令値が不連続に増加してギャップが発生する。これらのギャップは、リミット処理を行っても解消されることはない。
また電圧利用率Rvが大きくなるほど、上固定二相変調と下固定二相変調の切替タイミングにおける電圧指令値のギャップが大きくなる。これに起因してモータ電流の脈動が発生し、モータの出力トルクが脈動するビート現象等が発生しやすくなる。
以下では、二相変調処理後の電圧指令値に対して、リミット処理を行っても中間電圧付近に残るギャップを、ギャップGと記載する。
図11は、ギャップGがある信号を非同期PWM制御に適用した際の電圧のバランスについて説明するための模式的なグラフである。図11には、連続波形信号11及び離散波形信号12が実線及び点線のグラフにより模式的に図示されている。
ここで、連続波形信号11は、電圧指令値の理想波形を表す仮想的な信号である。連続波形信号11の波形は、PWM変調器34に入力されるUVWの各相電圧の電圧指令値を表している。
離散波形信号12は、連続波形信号11を非同期PWM制御によりキャリア周期毎に離散的に出力した信号であり、PWM変調器34により制御されたIPM35から実際にモータ30に印加される電圧指令値である。
各グラフ上に示されたポイントは、連続波形信号11を離散化する際のプロット点(サンプリング点)であり、キャリア周期毎に離散波形信号12に設定される電圧値を表している。なお、非同期PWM制御においては、連続波形信号11とキャリア周期は同期しないため、連続波形信号11の波形に対してプロット点が取られるタイミングは、連続波形信号11の周期によって異なる。
上下60度固定二相変調方式の電圧指令値を過変調化すると、出力される連続波形信号11は、図11に示すように中間電圧(デューティD=0.5)を挟んで電圧が不連続となり、ギャップGを持つ。一方で実際にモータ30に入力される電圧は、連続波形信号11をキャリア周期でプロットした離散波形信号12となる。
ここで、連続波形信号11にはギャップGが存在するため、連続波形信号11をプロットした場合、中間電圧を含めギャップGとなる部分の電圧がプロットされることはない。
例えば、非同期PWM制御により生成される離散波形信号12では、プロット点が中間電圧の上側又は下側のどちらかに偏ることが考えられる。例えば図11では、260度付近の切替タイミング(ギャップG)の前後では、中間電圧の上側のプロット点が、下側のプロット点よりも少ない。
このような場合、ギャップGとなる部分の電圧がプロットされないことで、中間電圧と離散波形信号12とで囲まれた電圧領域15(図中のグレーの領域)の上下の面積がアンバランスとなる。例えば図11では、上側の電圧領域15の面積が、下側の電圧領域15の面積よりも小さくなっている。
このように、上下の電圧領域15の面積がアンバランスになることで、モータ30に作用する電圧のバランスが崩れ、モータ制御が不安定になる可能性がある。またビート現象等が発生することが考えられ、モータ30を駆動する際に騒音を発生させる可能性がある。また電圧利用率Rvが大きくなるほど、ギャップGが大きくなる。この結果、電圧領域15の上下のアンバランスがより顕著になり、ビート現象等が発生しやすくなる。
図12は、ギャップGがない信号を非同期PWM制御に適用した際の電圧のバランスについて説明するための模式的なグラフである。図12には、ギャップGがない連続波形信号11と、その信号をキャリア周期でプロットした離散波形信号12とが実線及び点線のグラフにより模式的に図示されている。
図12に示すように、連続波形信号11にギャップGがない場合、中間電圧(デューティD=0.5)付近の電圧値もプロットすることが可能となる。すなわち、上固定二相変調と下固定二相変調との切替タイミングの付近でも、連続的に変化する電圧値をプロットすることが可能となる。これにより、非同期PWMにおける電圧領域15の上下のアンバランス(上下の電圧領域15の面積の差分)が抑制され、制御の安定化、ひいては騒音低減につながる。
このように、ギャップGを解消することで、電圧領域15の上下のアンバランスを抑制することが可能となる。
[オフセット電圧]
ここで図10を参照し、ギャップGが発生する比較用の電圧指令値(Vu',Vv',Vw')について考察する。例えば下固定二相変調の区間(0度~60度、120度~180度、240度~300度)では、固定相を0Vにするために他の2相の電圧指令値が高く設定される。逆に、上固定二相変調の区間(60度~120度、180度~240度、300度~360度)では、固定相を直流電圧値Vdc(=100V)にするために他の2相の電圧指令値が低く設定される。
このように、下固定二相変調及び上固定二相変調を行うための変調処理は、基準となる電圧が異なっている。このため、下固定二相変調と上固定二相変調との切替タイミングでは、ギャップGが発生する。すなわち、下固定二相変調時は0Vを基準に各電圧指令値の変調波形を生成し、上固定二相変調時は直流電圧値Vdcを基準に各電圧指令値の変調波形を生成している点が、電圧不連続(ギャップG)の要因となっている。
図10に示すようなギャップGの発生を回避するためには、過変調領域において、下固定二相変調及び上固定二相変調の固定位置(固定する電圧指令値)をずらし、切替タイミングの前後で固定相とならない相の電圧指令値が中間電圧(Vdc/2)で接続するようにすればよい。
本発明者は、この点に着目し、ギャップGの発生を回避する方法を見出した。
本実施形態では、ギャップGの発生を回避するために、オフセット電圧Voffsetに基づく補正処理(オフセット処理)が実行される。オフセット処理では、下固定二相変調となる区間では変調時の基準位置を0Vよりも引き下げ、上固定二相変調となる区間では変調時の基準位置を直流電圧値Vdcよりも引き上げる。つまり、下固定二相変調となる区間では三相分の電圧指令値が引き下げられる一方、上固定二相変調となる区間では三相分の電圧指令値が引き上げられる。これにより、切替タイミングの前後で固定相とならない相の電圧指令値が中間電圧(Vdc/2)で接続し、ギャップGの発生が回避される。この時の引き下げ量及び引き上げ量がオフセット電圧Voffsetである。
具体的には、オフセット電圧は、二相変調処理により生じるピーク電圧Vpと、直流電圧値Vdcとの差の半分の値に設定される。
ここで、二相変調処理により生じるピーク電圧Vpとは、過変調処理により生成された二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)に、上下60度固定補正信号ΔVを加算する二相変調処理を実行して出力される電圧指令値のピーク値である。
例えば図10では、U相、V相、W相の各電圧指令値(Uu',Uv',Uw')のピーク電圧Vpが一点鎖線により模式的に図示されている。
二相変調処理により生じるピーク電圧Vpは、直流電圧値Vdcに電圧利用率Rvと過変調度Romとを乗算した値となる(Vp=Vdc×Rv×Rom)。この値と直流電圧値Vdcとの差分をとり、それを半分にした値がオフセット電圧Voffsetとなる。従って、オフセット電圧Voffsetは以下に示す関係式に従って算出される。
・・・(13)
本実施形態では、オフセット電圧算出部25により、オフセット電圧Voffsetが算出される(ステップ105)。オフセット電圧算出部25は、電圧利用率Rv(Rv>1)と、過変調度Rom(Rom>1)と、直流電圧値Vdcとを読み込み、(13)式に従ってオフセット電圧Voffsetを算出する。
算出されたオフセット電圧Voffsetは、二相変調処理部26に出力される。
オフセット電圧Voffsetが算出されると、二相変調処理部26により、二相変調処理が実行される(ステップ106)。二相変調処理部26は、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)と、オフセット電圧Voffsetとを読み込み、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)に対してオフセット電圧Voffsetに基づく補正処理(オフセット処理)を実行して二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)を生成する。
上記したように、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)は、過変調度Romで増幅された電圧指令値である。従って、過変調度Romによる増幅後にオフセット処理が実行される。このため、オフセット電圧Voffsetによる補正の影響が抑えられ、モータ30の制御精度を高いレベルで維持することが可能となる。
本実施形態では、オフセット電圧Voffsetにより、上下60度固定補正信号ΔVが補正される。ここでは、(5)式で算出される上下60度固定補正信号ΔVの値が、オフセット電圧Voffsetによりシフトされる。
以下では、オフセット電圧Voffsetにより補正された上下60度固定補正信号をΔV'と記載する。
下固定時の上下60度固定補正信号ΔV'では、(5)式に示すΔVからオフセット電圧Voffsetが減算される。また、上固定時の上下60度固定補正信号ΔV'では、(5)式に示すΔVにオフセット電圧Voffsetが加算される。従って、下固定時及び上固定時のΔV'は、以下の式に従って算出される。
下固定時:ΔV'=0-Vmin-Voffset
上固定時:ΔV'=Vdc-Vmax+Voffset
・・・(14)
上下60度固定補正信号ΔV'が算出されると、二相変調処理部26により、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)の各々に上下60度固定補正信号ΔV'が加算され、二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)が生成される。従って、二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)は、以下の式に従って生成される。
Vu2=Vu1+ΔV'
Vv2=Vv1+ΔV'
Vw2=Vw1+ΔV'
・・・(15)
このように、本実施形態では、Voffsetにより補正されたΔV'が用いられる。これにより、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)に対して、二相変調の信号に変換する二相変調処理と、オフセット電圧Voffsetに基づく補正処理(オフセット処理)とが同時に実行される。
なお、オフセット処理を実行するタイミングは限定されない。例えば、二相変調処理を実行してからその処理結果にオフセット処理を実行してもよい。また二相変調処理を実行する前にオフセット処理を実行してもよい。
(14)式及び(15)式に示すように、オフセット処理では、下固定二相変調を実行する期間は、オフセット電圧Voffsetの大きさで三相分の電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)を負の電圧方向にシフトする処理が実行される。
またオフセット処理では、上固定二相変調を実行する期間は、オフセット電圧Voffsetの大きさで三相分の電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)を正の電圧方向にシフトする処理が実行される。
例えば図10に示す電圧指令値に対してオフセット処理を実行した場合、下固定二相変調の区間では、三相分の電圧指令値がVoffsetだけ負の電圧方向にシフトされる。また上固定二相変調の区間では、三相分の電圧指令値がVoffsetだけ正の電圧方向にシフトされる。なお図10には、各区間でのシフト方向が白い矢印により模式的に図示されている。
このような補正により、上固定二相変調と下固定二相変調との切替タイミングの前後で固定相とならない相の電圧指令値が中間電圧(Vdc/2)で接続するようになる。この結果、例えば後述する図13Aに示すように、二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)では、ギャップGが発生しなくなる。
なお、切替タイミングの前後で固定相とならない相の電圧指令値を中間電圧(Vdc/2)で接続するような補正を通常領域(Rv≦1)で適用すると、固定相が上限値や下限値から外れてしまい、二相変調でなく三相変調となってしまう。このため、オフセット処理は、過変調領域に限定して実行される。
二相変調処理が実行されると、二相変調処理部26により、リミット処理が実行される(ステップ107)。リミット処理では、上記した二相変調処理及びオフセット処理の両方が実行された電圧指令値が直流電圧値Vdcに基づいて制限される。
例えば、二相変調処理及びオフセット処理により上下60度固定二相変調方式に変換されたVu2、Vv2、Vw2では、上限電圧である直流電圧値Vdcより大きくなる部分や、下限電圧である0Vより小さくなる部分が発生する。このため、リミット処理では、(15)式に従って生成された電圧指令値のうち、上限値(直流電圧値Vdc)より大きい値は上限値に設定され、下限値(0V)より小さい値は下限値に設定される。
このように、過変調領域では、二相変調処理及びオフセット処理の両方が実行された電圧指令値に対してリミット処理を実行して、二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)が生成される。
これにより、ステップ106の処理によりギャップGが解消されることに加え、上限値及び下限値の間に収まる値として、電圧指令値を適正に生成することが可能となる。
図13Aは、電圧利用率Rv=1.07でのリミット処理されていない二相変調後電圧指令値の一例を示すグラフである。図13Bは、電圧利用率Rv=1.07でのリミット処理された二相変調後電圧指令値の一例を示すグラフである。図13Cは、電圧利用率Rv=1.07での線間電圧の一例を示すグラフである。
図13A~図13Cでは、オフセット電圧Voffsetによりオフセット処理が実行されている。またここでは電圧利用率Rv=1.07、すなわち電圧利用率Rv=1.07となるように過変調度Romが調整されている。この場合、変調度mは、m=1.15×1.07≒1.23となる。
図13Aに示す二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)は、二相変調前電圧指令値(Vu1,Vv1,Vw1)に、上下60度固定補正信号ΔV'を加算した信号である。ここで、ΔV'は、電圧利用率Rv=1.07の状態に対応した補正信号を(14)式に従ってオフセット電圧Voffsetで補償したものである。
この結果、切替タイミングの前後で固定相とならない相の電圧指令値のギャップGが解消され、そのグラフは中間電圧を通る滑らかな波形となる。また、図10において切替タイミングの前後で固定相となる相に発生していたギャップも解消される。この結果、各相電圧は、フラットな山部分と谷部分をもつ滑らかな変調波形となる。なお山部分の電圧指令値は、上限値(Vdc)よりも大きく、谷部分の電圧指令値は、下限値(0V)よりも小さい。
図13Bには、図13Aに示す二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)に対してリミット処理を行った結果が図示されている。図13Aにおいて、上限値(Vdc)よりも大きい部分は上限値に制限され、下限値(0V)よりも小さい部分は下限値に制限される。なお、上限値と下限値との間の電圧指令値には変化がない。これにより、ギャップGが解消され、かつ適正な電圧の範囲に値が制限された電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)が生成される。図13Bに示すVu2、Vv2、Vw2は、演算回路33(変調処理部20)の最終的な出力として、PWM変調器34に送信される。
図13Cに示す線間電圧(Vuv,Vvw,Vwu)は、図13Bに示すリミット処理をした二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)から(8)式に従って生成される。この線間電圧は、通常領域の場合と異なり、正弦波形状の波形にはならないが、切替タイミングを含む全区間で電圧値のギャップは発生しない。
以上、本実施形態に係るモータ制御装置100では、上下60度固定二相変調を行う二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)が生成される。この二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)は、過変調領域において、上固定二相変調と下固定二相変調とが切り替わる切替タイミングで電圧指令値にギャップGが生じないように生成される。これにより、IPM35のPWM制御に用いる各相電圧の波形を適正な波形にすることが可能となる。この結果、ビート現象等の発生が抑制され、過変調領域において騒音の発生を抑制し安定したモータ制御を実現することが可能となる。
[比較例]
図14は、比較例として挙げる変調処理部120の構成例を示すブロック図である。変調処理部120は、電圧利用率算出部121と、dq-UVW変換器122と、過変調度算出部123と、過変調処理部124と、二相変調処理部126とを有する。このように、変調処理部120は、本実施形態に係る変調処理部20から、オフセット電圧算出部25を除いた構成となっている。
電圧利用率算出部121、dq-UVW変換器122、及び過変調処理部124は、例えば図3に示す電圧利用率算出部21、dq-UVW変換器22、及び過変調処理部24と同様に構成される。
過変調度算出部123は、電圧利用率Rvから過変調度Romを算出する。この処理では、オフセット処理を想定しないで算出されたRvとRomとの関係を示すデータ(図9の点線のグラフ)が用いられる。
二相変調処理部126は、過変調処理部124から出力される二相変調前電圧指令値に対して、二相変調処理及びリミット処理を実行する。なお、二相変調処理部126では、オフセット処理は実行されない。
図15Aは、電圧利用率Rv=1.07でのリミット処理されていない二相変調後電圧指令値の比較例を示すグラフである。図15Bは、電圧利用率Rv=1.07でのリミット処理された二相変調後電圧指令値の比較例を示すグラフである。図15Cは、電圧利用率Rv=1.07での線間電圧の比較例を示すグラフである。
図15A~図15Cは、図14に示す変調処理部120による過変調領域での算出結果である。ここでは、上記したオフセット電圧Voffsetによるオフセット処理が実行されていない。
図15Aに示すように、リミット処理前の二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)には、各切替タイミングにおいて全ての相でギャップが発生する。なお図15Aは、図10に示すグラフと同様のグラフである。
図15Aに示す二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)に対してリミット処理を行った結果を図15Bに示す。ここでは、上限値(Vdc)より上側及び下限値(0V)より下側のギャップは解消されるものの、上限値と下限値との間のギャップGは解消されない。すなわち、切替タイミングの前後で固定相とならない相の電圧指令値には、ギャップGが残る。
またギャップGが解消されないため、図15Cに示すように、線間電圧(Vuv,Vvw,Vwu)にもギャップが発生する。
このように、モータ30の制御に用いる電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)にギャップGが発生することで、図11等を参照して説明したように、PWM変調された離散波形信号12において、上下の電圧領域15の面積がアンバランスになる。この結果、モータ制御が不安定になるとともに、ビート現象等によりモータ30から騒音が発生する可能性がある。
これに対し、本実施形態では、二相変調処理部26によりギャップGが生じないように二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)が生成される。具体的には、オフセット電圧算出部25により生成されたオフセット電圧Voffsetを用いて、電圧指令値に対するオフセット処理が実行される。オフセット処理では、上固定変調となる区間及び下固定変調となる区間で、切替タイミングでの電圧指令値が滑らかにつながるように3相分の電圧指令値がシフトされる。
これにより、過変調領域において二相変調処理を行うことで発生するギャップGを容易に抑制することが可能となる。ギャップGを抑制することで、実際にモータ30に出力される離散波形信号12において、電圧領域15の上下のアンバランスを抑制することが可能となる。この結果、ビート現象等の発生が抑制され、過変調領域において騒音の発生を抑制し安定したモータ制御を実現することが可能となる。
またオフセット電圧Voffsetは(13)式に従って算出される。これにより、図13A及び図13Bに示すように、切替タイミングの前後で固定相とならない相の電圧指令値を、中間電圧で接続することが可能となり、ギャップGを解消することが可能となる。
また二相変調後電圧指令値(Vu2,Vv2,Vw2)においてギャップGが解消されるため、図13Cに示すように、線間電圧にはギャップが発生しない。このため、線間電圧にギャップが発生する場合(図15C参照)と比べて、十分に安定したモータ制御を実現することが可能となる。
例えば電圧利用率Rv等に応じて変調方式を切り替えることで、ギャップを抑制する方法が考えられる。この場合、変調方式が変わることによりスイッチング損失が急激に変化し、出力変化に伴う制御の乱れが発生する可能性がある。
これに対し、本実施形態では、通常領域及び過変調領域の両方で、上下固定60度二相変調によるモータ制御が行われる。このため、変調方式を切り替える必要はなく、スイッチング損失が急激に変化するといった事態を回避することが可能である。
またオフセット電圧Voffsetは、電圧利用率Rv及び過変調度Romの積に比例する。このため、RvやRomが増減してもVoffsetが急激に変化することはない。これにより、上下固定二相変調を用いた効率のよいモータ制御を安定して継続することが可能である。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
上記の実施形態では、オフセット電圧Voffsetを用いたオフセット処理により、ギャップGを抑制する方法について説明した。ギャップGを抑制する方法は、オフセット処理に限定されず、他の方法が用いられてもよい。
例えば、図10において、ギャップGの周辺で電圧指令値を局所的に補正し、切替タイミングの前後の電圧指令値を連続的に接続する補正ラインを導入してもよい。この場合、例えば切替タイミングの前後の所定区間において、電圧指令値が補正ラインに置き換えられる。あるいは、切替タイミングの前後の所定区間において、電圧指令値と補正値とが乗算され、電圧指令値の波形が補正ラインに沿った波形に補正される。これにより、切替タイミングでのギャップGを解消することが可能となる。
補正ラインとしては、有限の傾きで変化する直線や、非線形な曲線等を用いることが可能である。なお、補正ラインによる補正は、U相、V相、W相の全てに適用される。
また、補正ラインを用いる場合、電圧利用率Rvと過変調度Romとの関係を示すデータは、補正ラインによる補正を想定したシミュレーションを実行して算出される。これにより、補正ラインを用いる場合でも、電圧利用率Rvと実電圧利用率Rv'との線形性を保つことが可能となる。
上記の実施形態では、上固定二相変調と下固定二相変調とが切り替わる期間(所定期間)が60度に設定された上下60度固定二相変調を用いる場合について説明した。上固定二相変調と下固定二相変調とが切り替わる所定期間は、60度に限定されない。
例えば所定期間は60度よりも短い期間に設定されてもよい。この場合、例えば30度、20度、10度といった60度を整数で割った期間が所定期間として設定される。また図5に示すように、3相の中で1つの相が最大又は最小となる期間は120度である。この期間(120度)が所定期間として設定されてもよい。
10…電源
20…変調処理部
21…電圧利用率算出部
22…dq-UVW変換器
23…過変調度算出部
24…過変調処理部
25…オフセット電圧算出部
26…二相変調処理部
30…モータ
34…PWM変調器
35…IPM
65u、65v、65w…第1スイッチ素子
66u、66v、66w…第2スイッチ素子
100…モータ制御装置

Claims (10)

  1. 直流電圧を三相交流電圧に変換するインバータを備えたモータ制御装置であって、
    前記インバータの三相の出力を生成するにあたり、電圧が固定される1つの固定相と、電圧が変調される2つの変調相とを所定期間ごとに切り替えて設定し、
    前記インバータがモータに出力する電圧の相ごとに設けられた上アーム素子及び下アーム素子のオン及びオフを制御する電圧指令値として、前記固定相について前記上アーム素子をオンにし前記下アーム素子をオフにする上固定二相変調と、前記固定相について前記上アーム素子をオフにし前記下アーム素子をオンにする下固定二相変調とが前記所定期間ごとに切り替わる上下固定二相変調により二相変調された電圧を前記モータに印加するための二相変調電圧指令値を生成する
    二相変調処理部を備え、
    前記二相変調処理部は、過変調領域において、前記上固定二相変調と前記下固定二相変調とが切り替わるタイミングで電圧指令値にギャップが生じないように前記二相変調電圧指令値を生成する
    モータ制御装置。
  2. 請求項1に記載のモータ制御装置であって、さらに、
    前記電圧指令値のギャップを補正するオフセット電圧を算出するオフセット電圧算出部を備え、
    前記二相変調処理部は、前記過変調領域において、前記オフセット電圧に基づく補正処理を実行して前記二相変調電圧指令値を生成する
    モータ制御装置。
  3. 請求項2に記載のモータ制御装置であって、
    前記オフセット電圧に基づく補正処理は、
    前記上固定二相変調を実行する期間は、前記オフセット電圧の大きさで3相分の電圧指令値を正の電圧方向にシフトする処理を実行し、
    前記下固定二相変調を実行する期間は、前記オフセット電圧の大きさで3相分の電圧指令値を負の電圧方向にシフトする処理を実行する
    モータ制御装置。
  4. 請求項2に記載のモータ制御装置であって、さらに、
    電圧利用率から過変調度を算出する過変調度算出部と、d軸及びq軸の電圧指令値を変換した三相分の三相電圧指令値を取得し、前記三相電圧指令値を前記過変調度に応じて増幅した過変調電圧指令値を算出する過変調処理部とを備え、
    前記二相変調処理部は、前記過変調電圧指令値に対して前記オフセット電圧に基づく補正処理を実行して前記二相変調電圧指令値を生成する
    モータ制御装置。
  5. 請求項4に記載のモータ制御装置であって、
    前記二相変調処理部は、前記過変調電圧指令値に対して、二相変調の信号に変換する二相変調処理と、前記オフセット電圧に基づく補正処理とを実行し、前記二相変調処理及び前記補正処理の両方が実行された電圧指令値を前記直流電圧に基づいて制限するリミット処理を実行して、前記二相変調電圧指令値を生成する
    モータ制御装置。
  6. 請求項4に記載のモータ制御装置であって、
    前記過変調度算出部は、前記オフセット電圧に基づく補正処理を実行した場合でも、前記電圧利用率と、前記インバータにおける実際の電圧利用率である実電圧利用率との関係が線形となるように前記過変調度を算出する
    モータ制御装置。
  7. 請求項5に記載のモータ制御装置であって、
    前記オフセット電圧は、前記二相変調処理により生じるピーク電圧と、前記直流電圧との差の半分の値である
    モータ制御装置。
  8. 請求項4に記載のモータ制御装置であって、
    前記オフセット電圧算出部は、前記電圧利用率をRvとし、前記過変調度をRomとし、前記直流電圧をVdcとして、前記オフセット電圧Voffsetを以下に示す関係式に従って算出する
    モータ制御装置。
  9. 請求項1から8のうちいずれか1項に記載のモータ制御装置であって、
    前記所定期間は、前記モータの電気角で60度に対応する期間である
    モータ制御装置。
  10. 直流電圧を三相交流電圧に変換するインバータを用いてモータを制御するモータ制御方法であって、
    前記インバータの三相の出力を生成するにあたり、電圧が固定される1つの固定相と、電圧が変調される2つの変調相とを所定期間ごとに切り替えて設定するステップと、
    前記インバータがモータに出力する電圧の相ごとに設けられた上アーム素子及び下アーム素子のオン及びオフを制御する電圧指令値として、前記固定相について前記上アーム素子をオンにし前記下アーム素子をオフにする上固定二相変調と、前記固定相について前記上アーム素子をオフにし前記下アーム素子をオンにする下固定二相変調とが前記所定期間ごとに切り替わる上下固定二相変調により二相変調された電圧を前記モータに印加するための二相変調電圧指令値を生成するステップと
    を実行し、
    前記二相変調電圧指令値を生成するステップは、過変調領域において、前記上固定二相変調と前記下固定二相変調とが切り替わるタイミングで電圧指令値にギャップが生じないように前記二相変調電圧指令値を生成する
    モータ制御方法。
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