JP2024046200A - 樹脂成形品のボイドを予測する方法、樹脂成形品のボイドを低減する方法、樹脂成形品のボイドを予測するためのプログラム及び樹脂成形品のボイドを低減するためのプログラム - Google Patents

樹脂成形品のボイドを予測する方法、樹脂成形品のボイドを低減する方法、樹脂成形品のボイドを予測するためのプログラム及び樹脂成形品のボイドを低減するためのプログラム Download PDF

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Abstract

【課題】熱可塑性樹脂を金型に射出成形してなる射出成形品の内部に生じるボイドの発生挙動を予測する方法を提供する。【解決手段】前記射出成形品を複数の要素に分割した解析用モデルを作成することと、熱可塑性樹脂を成形する工程における前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めることと、前記温度分布を用いて、離型後の冷却過程における温度分布を算出することと、前記温度分布及び前記圧力分布から、予め測定された前記熱可塑性樹脂の、弾性定数の温度依存性データ、熱膨張率のデータ及びPVTデータを使用して、前記解析用モデルの弾性定数分布及び温度荷重分布を算出することと、前記離型後の冷却過程における前記弾性定数分布及び前記温度荷重分布を用いた構造解析によって、解析用モデルの各要素に発生するひずみを算出することと、前記ひずみからボイドの発生場所及び/又はボイド量を予測することとを含む方法。【選択図】図2

Description

本開示は、樹脂成形品の成形不良発生の予測に関する。
熱可塑性樹脂を用いた複雑な形状の部品製造において射出成形が用いられる。その成形条件又は製品形状によっては、樹脂成形品に「ヒケ(成形品表面に生じる窪み)」又は「ボイド(成形品内部に生じる空洞)」と呼ばれる成形不良が生じることがある。
ヒケ及びボイドは熱可塑性樹脂の射出成形において、溶融状態で射出された熱可塑性樹脂が冷却され固化する過程で生じる。特に結晶性樹脂の場合、金型充填直後はランダム状態だった分子鎖が、結晶化により配向(折りたたまれて整列)し、その結果、金型充填直後の体積(金型寸法)よりも体積が減少(収縮)することによってヒケ又はボイドが生じる。
これらの成形不良が発生すると、製品の寸法精度低下(例えば、気密用途の部品では窪みによって相手側部材と接するシール面に隙間ができる)又は強度低下(ボイドを起点として破壊が生じやすくなる)が起こり得る。そこでヒケ及びボイドの抑制に関する技術向上が求められている。
ヒケ及びボイドを抑制する対策としては、実際に成形した成形品を確認して成形条件を変更する、又は、成形品のゲート又は肉厚の設計変更等をする。しかし、それらに掛る時間及び費用が膨大になることから、近年では、流動解析ソフトウェアを用いた射出成形シミュレーションによりヒケ及び/又はボイドの発生を予測し、製品形状及び成形条件の適正化ができないか検討されてきた。
特許文献1では、流動解析ソフトにより得られたデータを構造解析ソフトによる歪み解析に応用し、ボイドの発生を予測する。
特開第2009-233882号公報
既存の手法では、樹脂材料による射出成形プロセスにおいて、冷却後の成形品のボイドの発生が十分な精度で予測できないことがあった。
本開示の目的は、樹脂材料による射出成形プロセスによる樹脂成形品のボイドの発生挙動を精度よく予測する方法を提供することである。この課題を解決することにより、ボイドの発生しない成形品を得るための製品形状設計、金型設計、成形条件設定、成形材料を設計段階で事前に想定することが可能となり、製品化を効率的に行うことができる。
本開示は以下の態様を含む。
[1]熱可塑性樹脂を金型に射出成形してなる射出成形品の内部に生じるボイドの発生挙動を予測する方法であって、
前記射出成形品を複数の要素に分割した解析用モデルを作成するステップ(S1)と、
熱可塑性樹脂を成形する工程における前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)と、
前記温度分布及び前記圧力分布を用いて、離型後の冷却過程における前記解析用モデルの温度分布を算出するステップ(S3)と、
前記温度分布及び前記圧力分布から、予め測定された前記熱可塑性樹脂の、弾性定数の温度依存性データ、熱膨張率のデータ及びPVTデータを使用して、前記解析用モデルの弾性定数分布及び温度荷重分布を算出するステップ(S4)と、
前記離型後の冷却過程における前記弾性定数分布及び前記温度荷重分布を用いた構造解析によって、前記解析用モデルの各要素に発生するひずみを算出するステップ(S5)と、
前記ひずみからボイドの発生場所及び/又はボイド量を予測するステップ(S6)と、を含む方法。
[2]前記熱可塑性樹脂を成形する工程における前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)は、前記熱可塑性樹脂を前記金型のゲートからキャビティへ射出してから離型する工程において前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)である、[1]に記載の方法。
[3]前記解析用モデルの弾性定数分布及び温度荷重分布を算出するステップ(S4)において、前記弾性定数分布及び前記温度荷重分布はゲートシールを始点とし、射出開始から設定された時間が経過するのを終点として算出する、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記ひずみを算出するステップ(S5)において、前記射出成形品が保圧冷却された離型時を始点とし、射出開始から設定された時間が経過するのを終点として前記温度分布から算出した温度依存性を考慮した、前記弾性定数分布及び前記温度荷重分布を用いて算出する、[1]から[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]前記ゲートシールが、前記解析用モデルについての流動解析において、前記射出成形品の重量が最大であって、かつ前記ゲートシールまでの時間が最小となるように、成形条件が設定されることによって決定される、[3]に記載の方法。
[6]前記ゲートシールが、ゲート中心部の温度が流動停止温度Tsに達する時点である、[3]に記載の方法。
[7]前記流動停止温度Tsは、前記PVTデータに対して、2-domain Tait PVTモデルのデータフィッティング係数b5及びb6を用いて、圧力Pについて、Ts=b5+b6×Pとする、[6]に記載の方法。
[8]前記流動停止温度Tsは、比熱測定において1℃/minから50℃/minにて冷却した際の変曲点とする、[6]に記載の方法。
[9]前記熱可塑性樹脂を成形する工程における前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)において、交流定常法(ISO22007-6)と呼ばれる熱伝導率測定手法にて求めた熱伝導率を計算に用いる、[1]から[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10]熱可塑性樹脂を金型に射出成形してなる射出成形品の内部に生じるボイドを低減する方法であって、[1]から[9]のいずれか一項に記載された方法によって予測されたボイド量に対し、設計、成形条件及び成形材料のうちの1つ以上を変化させたときの予測結果を比較して、ボイド量が所定の量以下に低減されるまでこれを繰り返す、方法。
[11]コンピュータに、[1]から[9]のいずれか一項に記載の方法を実行させるプログラム。
[12]コンピュータに、[10]に記載の方法を実行させるプログラム。
図1は、射出成形の各工程を説明するための図である。 図2は、実施形態に係る、ボイドの発生挙動を予測する方法の例を示すフローチャートである。 図3は、熱可塑性樹脂の弾性定数の温度依存性データの例を示す図である。 図4は、熱可塑性樹脂のPVTデータの例を示す図である。 図5は、実施例に係る形状の3次元CADモデルを示す図である。 図6は、実施例に使用した形状についての解析用モデルの断面図である。 図7は、ボイド発生の比較であって、Aは実成形品のX線CT、Bは流動解析のみの従来手法による比較例、Cは流動解析と構造解析の連成解析を行う参考例、及び、Dは改良手法による実施例をそれぞれ示す図である。
図1は、射出成形の各工程を説明するための図である。図1は一つの金型に注目して、成形の時系列を示している。
射出成形は、金型キャビティ内にゲートを通じて樹脂を射出することから開始する。射出直後は樹脂の送出速度が制御されているが、例えば予め設定された量の99%の樹脂が充填された時に、樹脂圧力の制御(保圧)に切り替えられる(V-P切替)。切り替え後は保圧して射出が続けられる。
ここで、安定した射出成形品を得るための指標の一つとしてゲートシールがある。ゲートシールとはゲート部の樹脂が固化し、流動停止する現象であり、このようにゲート部の樹脂が固化し、流動停止する時間はゲートシール時間と呼ばれる。ゲートシール時間前に保圧を停止すると、溶融樹脂がゲートを通じて射出成形機側に逆流するため充填不良や重量減少を生じる。一方ゲートシール時間以降に保圧を停止してもゲートは固化しているため樹脂が逆流することはなく、安定した射出成形品を得ることができるため、成形現場では必ず測定する指標である。
ゲートシール時間は、成形品の重量が最大であって、かつゲートシールまでの時間が最小になるように成形条件を設定することによって決定してもよい。成形品の重量及びゲートシールまでの時間は実験(計量)によって取得してもよい。成形品の重量及びゲートシールまでの時間は実験に代えて流動解析によりシミュレーションで求めてもよい。
あるいは、ゲート中心部の温度が流動停止温度Tsに達する時点をゲートシール時間としてもよい。ゲート中心部の温度が流動停止温度Tsに達する時点は実験によって取得してもよいし、シミュレーションで求めてもよい。
流動停止温度Tsは、比熱測定において1℃/minから50℃/minにて冷却した際の変曲点としてもよい。
または、流動停止温度Tsは、前記PVTデータに対し、2-domain Tait PVTモデルのデータフィッティング係数b5及びb6を用いて、圧力Pについて、Ts=b5+b6×Pとしてもよい。ここで、2-domain Tait PVTモデルは、温度T及び圧力Pにおける比容積v(T,P)が、定数Cと指数関数B(T)により、v(T,P)=v(T)[1-C×ln(1+P/B(T))]+v(T,P)のように表されるとするものである。とくに、v(T)はTの1次式であって、所定の温度Ttに対してv(T,P)は高温側(T>Tt)では零であるが、低温側(T<Tt)ではTとPの指数関数になる。そして、このモデルにおいて、PVTデータからTt=b5+b6×Pのように、Pの1次式でフィッティングされる。
なお、b5はPVTデータ(図4参照)の変曲点になる。b5を境に傾きが変化しており、固相-液相転移が起こっている。
保圧に引き続き、予め定められた冷却時間の間、金型内で射出成形品を冷却する(金型内冷却)。冷却時間を経過すると、型が開かれ、射出成形品を金型から突出して離型する。その後、金型は再び締められて金型キャビティを形成して、次の射出成形品を得るための成形に移る。突出された射出成形品を金型の外で冷却する(金型外冷却)ことができる。金型外冷却は、例えば射出成形品が室温になるまで続けることができる。
実際の射出成形品においては、特に製品が肉厚の場合、ボイドは製品が金型外へ取り外された後(離型後)発生している場合がある。従来の流動解析ソフトでは金型内での温度と圧力しか計算ができないため、金型外における温度推移を計算して実際の現象を考慮することができない。
そのため、従来の流動解析ソフトを使用する手法では、ボイドの発生を精度よく予測できない場合があると考えられる。
さらに、金型外における温度推移を計算してそこからボイドの発生を予測する手法は知られていない。
本開示では、金型から離型した後の冷却を考慮した解析を行う。それにより得られた温度データから、弾性定数分布及び体積収縮率分布を得て、構造解析(ひずみ解析)に応用する連成解析により、実際の製品における結果と遜色ないレベルでボイドの発生場所と量の予測ができることが見出された。なお、本開示では金型の内外で、空冷によって冷却することを詳細に説明するが、冷却手段は空冷に限らない。
以下、本開示の実施形態にかかるボイドの発生挙動を予測する方法について詳細に説明する。なお、本開示は以下の実施形態に限定されない。
(一実施形態)
(ボイドの発生挙動を予測する方法)
本実施形態のボイドの発生挙動を予測する方法の一例について、図2を参照して詳細に説明する。この方法は、流動解析の結果を構造解析に応用する連成解析を行う。
図2のフローチャートに示すように、本実施形態のボイドの発生挙動を予測する方法の一例は、解析用モデルの作成(S1)、熱可塑性樹脂を射出して成形する工程(射出成形工程)における温度分布及び圧力分布の算出(S2)、離型後の冷却過程における温度分布の算出(金型外冷却解析)(S3)、弾性定数分布及び温度荷重分布の算出(S4)、解析用モデルの各要素に発生するひずみの算出(S5)、及び、ボイドの発生場所及び/又はボイド量の予測(S6)の各ステップを含む。
(解析用モデルの作成(S1))
射出成形品を複数の要素に分割した解析用モデルを作成するステップ(S1)は射出成形品の形状を微小な要素に分割して、シミュレーションの実行に必要なモデルを作成する(例として図6参照)。例えば、3次元形状測定、又は、CADシステム等により、射出成形品の形状(これは射出成形品の設計上の形状又は金型の形状等とすることができる。金型の形状としては、ランナー及びゲートの位置、数、大きさなどの条件も含む)を計算機に取り込む。ついで、要素分割プリプロセッサ等で計算機に取り込んだ形状を複数の3次元要素に分割して、解析用モデルを作成する。
なお流動解析と構造解析の連成解析に際して、流動解析用モデルとそれとは別の構造解析用モデルを用意して解析を実行することもあり得る。しかし、本実施形態では流動解析から構造解析へ同じ解析用モデルを引き継いで解析する例を詳しく説明する。
(射出成形工程における温度分布及び圧力分布の算出(S2))
熱可塑性樹脂を射出して成形する工程(射出成形工程)における解析用モデルの温度分布及び圧力分布を算出するステップ(S2)では、作成した解析用モデルを使用して、射出成形の流動解析(シミュレーション)を実行する。流動解析によって、熱可塑性樹脂を射出して成形する工程(金型内冷却工程も含みうる)における解析用モデルの各要素の温度及び圧力を算出する。これにより、射出成形工程における解析用モデルの温度分布及び圧力分布を算出する。
流動解析を実行する際には、射出成形に使用する熱可塑性樹脂についての物性値を入力する。流動解析に使用する物性値には、圧力、体積、及び温度の関係を表すデータ(以下、「PVTデータ」と称する。例として図4参照。)、熱伝導率データ、及び、比熱データ等がある。
なお、熱可塑性樹脂について、比熱は示差走査熱量計(DSC)により測定することができる。熱可塑性樹脂の熱伝導率は交流定常法(ISO 22007-6)にて求めた熱伝導率を用いることができる。
熱伝導率測定手法には、交流定常法、熱線法やホットディスク法などがある。交流定常法は良好な精度を与える。
次に、熱可塑性樹脂の流動解析を行うための解析条件を入力する。成形条件としては、樹脂(シリンダー)温度、金型温度、射出速度、保圧力及び保圧時間などを含む。なお、金型温度は冷却水温度もしくはヒーター設定温度と同様である。
また、成形条件には流動解析の始点と終点の指定を含む。流動解析の始点は例えば金型のゲートからキャビティに熱可塑性樹脂を射出し始めた時点とすることができる。
流動解析の終点は、溶融した熱可塑性樹脂を金型キャビティへ射出後、冷却時間が終了し、離型前までとすることができる。特に離型の時点までとすることができる。流動解析における離型の時点は射出開始から設定されたある時間(実工程における離型までの時間との比較で決めてもよい)が経過した時点として指定し得る。
(金型外冷却解析(S3))
金型外冷却解析のステップ(S3)では、算出した温度分布を用いて離型後の冷却過程における、解析用モデルの各要素の温度分布を算出する。このステップについては、構造解析ソフトを使用して解析することができる。
金型外冷却解析の始点は離型時となる。金型内での解析の場合、射出成形品に加えて、金型自体をモデル化し、成形品と金型との相互作用を考慮するため、金型の有限要素モデルを用いる必要がある。一方、金型外での解析の場合、金型自体のモデルは必要ないため、射出成形品のモデル自体及び境界条件を大きく変える必要があり、金型内での解析の延長としても、解析条件の設定が極めて困難になる。
金型外冷却解析の終点は、例えば射出成形品が金型外で室温になる時点とすることができる。「射出成形品が金型外で室温になる時点」については、例えば射出開始から実工程で計測して得られた射出成形品が金型外で室温となる時間で指定してもよい。あるいは、例えば金型外冷却解析の中で射出成形品の温度が室温になる時点を求めてもよい。一般的には射出開始から設定されたある時間を経過した時点を金型外冷却解析の終点とすることができる。
(弾性定数分布及び温度荷重分布の算出(S4))
弾性定数分布及び温度荷重分布を算出するステップ(S4)では、算出された温度分布(熱可塑性樹脂を成形する工程における温度分布及び離型後の冷却過程における温度分布)と圧力分布(熱可塑性樹脂を成形する工程における圧力分布)を用いて射出成形品の弾性定数分布と温度荷重分布(温度差の分布)を求める。特に温度分布及び圧力分布から、計算機のための変換プログラムによって、射出成形品の弾性定数分布と温度荷重分布を算出することができる。また、温度荷重分布とともに体積収縮率分布も算出し得る。
(弾性定数分布)
射出成形品の弾性定数分布は、予め取得した成形材料(熱可塑性樹脂)の弾性定数(一般には応力とひずみの比例係数)の温度依存性データを、流動解析により得た温度分布に当てはめることにより、求めることができる。
図3は、ある熱可塑性樹脂の弾性定数の温度依存性データを示している。横軸は温度であり、縦軸は弾性定数(ヤング率)である。横軸上の温度Tcは、熱可塑性樹脂の転移温度を示す。転移温度とは、固化領域と溶融領域とに分ける温度のことであり、ノーフロー温度、固体化温度、固化温度、又は、固液転移温度とも呼ばれている。
図3のように、熱可塑性樹脂の弾性定数の温度依存性データが得られていれば、温度分布から弾性定数の分布を得ることができる。
なお、弾性定数は、単軸応力に対する弾性率(ヤング率)、ポアソン比及びせん断弾性率の3種類の値を含むことができる。これら3種類の値の弾性定数の使用により、より精度の高い解析が可能になる。
(ポアソン比分布)
射出成形品のポアソン比分布は、予め取得した成形材料(熱可塑性樹脂)の弾性定数(ヤング率)の温度依存性データおよびPVTデータから求めた体積弾性率から計算した値を、流動解析により得た温度分布に当てはめることにより、求めることができる。
(せん断弾性率分布)
射出成形品のせん断弾性率分布は、弾性定数(ヤング率)の温度依存性データおよびポアソン比の温度依存性データから計算した値を、流動解析により得た温度分布に当てはめることにより、求めることができる。
(体積収縮率分布)
射出成形品の体積収縮率分布は、予め取得(実測)した成形材料(熱可塑性樹脂)の圧力、体積、及び温度の関係を表すデータ(「PVTデータ」)を、流動解析により得た温度分布と圧力分布データに当てはめることにより、求めることができる。
図4は、ある熱可塑性樹脂のPVTデータを示している。横軸は温度(単位は℃)であり、縦軸は密度の逆数、すなわち、比容積(単位はcm/g)である。図4に示されているのは圧力(P)が50MPaの場合の温度と比容積の関係である。50MPa以外のいくつかの圧力についても、温度と比容積の関係が予め実測されているとする。実測値のない圧力における温度と比容積の関係は、実測値のある圧力における温度と比容積の関係から、例えば内挿で取得できる。
図4では、圧力(P)が50MPaの場合に、ゲート部の熱可塑性樹脂が固化し、流動停止する時間(「ゲートシール時間」と言う)において、熱可塑性樹脂の温度が200℃で、比容積が約0.82cm/gであることを示す。同様に、熱可塑性樹脂による射出成形品の温度が金型温度となる時点において、熱可塑性樹脂の温度が40℃で、比容積が約0.70cm/gであることを示す。
射出成形品の体積収縮率分布は、つぎのように算出する。
まず、流動解析により得た温度分布データと圧力分布データから、収縮前のある時点での温度(T)と圧力(P)を求める。これらを予め取得した熱可塑性樹脂のPVTデータに当てはめることにより、収縮前の時点での体積(V)に換算する。
図4のゲートシール時間の例では、T=200℃、P=50MPaであって、比容積は約0.82cm/gである。つまり、この時点での単位重量(1g)あたりの体積は、V=約0.82cmである。
同様に、流動解析により得た温度分布データと圧力分布データから、収縮後のある時点での温度(T)と圧力(P)を求める。これをPVTデータに当てはめることにより、収縮後の時点での体積(V)に換算する。
なお、収縮後のある時点については、射出開始から設定されたある時間(例えば実工程における、射出成形品が金型温度となる時間との比較で決めてもよい)が経過した時点として指定し得る。
図4の金型温度まで冷却された例では、T=40℃、P=50MPaであって、比容積は約0.70cm/gである。つまり、この時点での単位重量(1g)あたりの体積は、V=約0.70cmである。
そして収縮前後の各要素の体積(V、V)から、各要素の体積収縮率((収縮前の体積-収縮後の体積)÷(収縮前の体積)、つまり、(V-V)/V)の分布を求める。つまり、圧力が50MPaで一定(P=P=50MPa)であって、T=200℃からT=40℃まで冷却するときの体積収縮率は、(V-V)/V=(0.82-0.70)/0.82=0.146、つまり、14.6%と算出できる。
収縮の前後で圧力が一定でなくても、流動解析によって、収縮前の各要素の温度(T)と圧力(P)と、収縮後の各要素の温度(T)と圧力(P)が算出されている。収縮前後の圧力(P、P)における温度(T、T)と比容積の関係(PVTデータ)が予め取得されていれば、各要素の体積収縮率(V-V)/Vは算出できる。
このように、PVTデータと、温度分布及び圧力分布から体積収縮率分布を算出できる。
(温度荷重)
各要素の体積収縮率を予め取得した熱可塑性樹脂の体積膨張率で割ることにより温度差に換算することで、温度荷重(温度差の分布)を求める。体積膨張率は元の体積Vが温度上昇ΔTによってΔVだけ変化した際の関係式ΔV/V=βΔTの係数βである。なお一般的には体積膨張率はPVTデータより求めるが、熱可塑性樹脂が等方性の場合、体積膨張率は線膨張率の3倍の値であるから、PVTデータより求めた体積膨張率に代えて、予め測定した線膨張率から取得してもよい。体積膨張率と線膨張率を熱膨張率と総称する。熱膨張率(体積膨張率及び線膨張率)は温度依存性を有してもよい。
なお、温度荷重は「収縮前後の温度差」を意味するものであり、収縮率分布を求める過程で利用した「収縮前のある時点での温度」と「収縮後のある時点での温度」の差とは区別される。流動解析で得た温度データから差を求めた後者の温度差は、単に「温度のみ」を計算したものである。それに対して、前者の温度荷重は、一度PVTデータにより「温度と圧力」から体積を求めた上で体積膨張率を用いて温度に戻した値であることから、「温度のみ」ではなく「温度と圧力」を用いて計算したものである。よって、温度荷重は、実際の成形において樹脂が受ける圧力の影響を考慮した「温度差」となっている点で、収縮前のある時点と収縮後のある時点での温度のみの差とは異なり、温度荷重を使用する方がより精度の高い解析結果が得られる。
(解析用モデルの各要素に発生するひずみの算出(S5))
解析用モデルの各要素に発生するひずみを算出するステップ(S5)では、離型後の冷却過程における弾性定数分布(特にヤング率分布、ポアソン比分布及びせん断弾性率分布)と、体積収縮率分布及び/又は温度荷重分布(体積収縮率分布と温度荷重分布のうちの少なくとも1つ)を用いた構造解析を行い、解析用モデルの各要素に発生するひずみ(解析用モデルにおけるひずみ量の分布)を算出する。
なお、離型後の温度分布を求める際に、離型直後の初期温度を求める必要があり、金型内における温度分布にて初期温度を求めている。
ひずみの算出の時間的始点は、例えば、保圧冷却された離型の時点とすることができる。ひずみの算出の時間的終点は、例えば、射出成形品が室温となった時点とすることができる。あるいは、ひずみの算出の時間的終点は、射出開始から設定されたある時間(例えば実工程との比較により設定してもよい)を経過した時点とすることができる。
(ボイドの発生場所及び/又はボイド量の予測(S6))
ボイドの発生場所及び/又はボイド量を予測するステップ(S6)においては、解析用モデルにおけるひずみ量の分布に基づいて変形量を算出してボイドの発生を予測する。
ひずみ量の分布からまずヒケの発生を予測して、ヒケが発生した形状についての解析をすることによって、ボイドの発生を予測することができる。
またはヒケ発生の予測をせずに、例えば、解析用モデルの各要素におけるひずみが、樹脂材料ごとに予め実測で求めたボイド発生の閾値以上となる場合に、その要素でボイドが発生すると予測することができる。
従来の解析ソフトでは、弾性定数(ヤング率、ポアソン比及びせん断弾性率)及び線膨張率の温度依存性を考慮しないことから、常温の弾性定数(一つの値)しか入力できないため、温度が変化した場合の各部の弾性定数の変化の考慮が不足しており、ボイド発生について正確な予測ができなかった。これに対して、本開示に係る改良手法では、流動解析で得た温度分布と圧力分布とに基づいて、各要素の温度変化による弾性定数分布(特にヤング率分布、ポアソン比分布及びせん断弾性率分布)に加え、体積収縮率分布より計算した温度荷重を用いて成形品各部のひずみ量が算出できるため、予測精度が向上している。
さらに、本開示の方法では、金型外での冷却時における解析用モデルの各要素の温度分布及び圧力分布の算出すること(S3)により、金型外冷却を考慮したボイドの発生予測を行うことができるため、予測精度がさらに向上している。
次に、本実施形態に係る方法(以下、単に「改良手法」とも言う)による実施例及び従来手法による比較例を示し、本開示の実施形態に係るヒケ及びボイドの予測について具体的に説明する。なお、本開示はこれらの実施例に限定されない。
(製品形状及び成形材料)
図5に実施例に係る、ボルト状の厚肉でリブを有する成形品形状の3次元CADモデルを示す。実成形品の成形材料(熱可塑性樹脂)はポリプラスチックス製ジュラコン(登録商標)POM M90-44(無充填材)である。なお、成形材料の比熱は示差走査熱量計(DSC)により測定し、熱伝導率を交流定常法(ISO22007-6)と呼ばれる熱伝導率測定手法にて求めた。
図5に示すように、六角形フランジ部の幅は20mmで厚さは6mmである。また、円柱の高さは15mmである。六角形フランジ部の一辺にゲートがある。
なお、実施例及び比較例における流動解析には、Autodesk社製 Moldflow(登録商標) Insight 2019.0.5 (3次元ソリッドモデル)ビルド20180921.0959_C70L71(以下、Moldflowと称する)を用いた。
実施例における金型外冷却解析及び構造解析には株式会社アライドエンジニアリング製 Adventure Cluster2021(以下、ADVCと称する)を用いた。
実施例における弾性定数分布及び体積収縮率分布の算出(S5)には、Visual Basic(登録商標)による自作の変換プログラムを使用した。
(実施例)
実成形品の成形条件と本手法による解析条件を表1に示した。実施例において、熱可塑性樹脂の物性値は、実成形品の熱可塑性樹脂の物性値と同じにしている。
Figure 2024046200000002
また、図6に実施例に使用した解析用モデルの断面図を示す。
実施例においては射出、保圧及び金型内冷却の解析(図2のS2)を行い、金型外冷却解析(図2のS3)による温度分布から、変換プログラムによって、射出成形品(内部及び表面)の弾性定数分布(特にヤング率分布、ポアソン比分布及びせん断弾性率分布)と体積収縮率分布から計算した温度荷重を得て(図2のS4)、構造解析を行い、ひずみを算出して、ボイドの発生場所及びボイド量の予測を行った(図2のS5とS6)。
(比較例)
従来手法に係る比較例では、実施例と同じ解析用モデルに対して、実施例と同じ熱可塑性樹脂の物性値(弾性定数等の温度依存性を除く)及び同じ解析条件を使用して、流動解析によって算出した体積収縮率分布の値からボイドの予測をした。前述のように、従来手法では、弾性定数(ヤング率、ポアソン比及びせん断弾性率)、及び線膨張率は温度依存性を考慮していないため、温度が変化した場合の各部の弾性定数の変化を考慮していない。つまり、比較例では金型内冷却の解析精度が劣る結果となっている。
そして、比較例ではボイドの予測のための連成解析は行わずに、流動解析から得た体積収縮率分布からボイドの予測をした。
(参考例)
さらに参考例では、実施例と同じ解析用モデルに対して、実施例と同じ熱可塑性樹脂の物性値(弾性定数等の温度依存性も含む)及び同じ解析条件を使用して、連成解析を行い、構造解析で得られたひずみからボイドの予測をした。参考例における解析条件は表1の実成形品の成形条件と同じにしている。また、参考例において、熱可塑性樹脂の物性値は、実成形品の熱可塑性樹脂の物性値と同じにしている。
なお、参考例では金型外冷却の解析を行っていない。金型内冷却の解析だけ行っている。
(ボイド予測の比較)
図7に、実成形品、従来手法による比較例、金型外解析を行わない参考例及び改良手法による実施例における、ボイド発生の比較を示す。
図7のAからD(以下図7Aから図7Dと称する)には、実成形品のX線CT、流動解析のみの従来手法による比較例、流動解析と構造解析の連成解析を行うが、金型外冷却解析は行わない参考例、及び、改良手法による実施例をそれぞれ示す。
比較例では成形品内部の全体にボイドが発生しており、実成形品でのボイド発生箇所との乖離が大きくなる。
実施例では、実成形品と解析のボイド発生箇所が近づき、実際のボイド発生現象を連成解析で精度よく表現できるようになっている。
(ボイドを低減する方法)
本開示には、熱可塑性樹脂を金型に射出成形してなる射出成形品の内部に生じるボイドを低減する方法も含まれる。
すなわち、上述したボイドの発生挙動を予測する方法によって、予測されたボイド量に対し、設計、成形条件及び成形材料のうちの1つ以上を変化させたときの予測結果を比較して、ボイド量が所定の量以下に低減されるまでこれを繰り返すようにする。
本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、上述の構成に対して、構成要素の付加、削除又は転換を行った様々な変形例も含むものとする。また、各実施例が様々に組み合わせることが可能である。
特に、本開示は、形状、材料又は条件について、上記の実施形態又は実施例に限定されて解釈されるべきではない。
さらに本開示に係るボイドの発生挙動を予測する方法、又は、本開示に係るボイドを低減する方法を1又は複数のプロセッサに実行させるためのプログラムも本開示に含まれる。当該プログラムは、コンピュータ読み取り可能で非一時的な(non-transitory)記憶媒体に記録されて提供されてよい。

Claims (12)

  1. 熱可塑性樹脂を金型に射出成形してなる射出成形品の内部に生じるボイドの発生挙動を予測する方法であって、
    前記射出成形品を複数の要素に分割した解析用モデルを作成するステップ(S1)と、
    熱可塑性樹脂を成形する工程における前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)と、
    前記温度分布を用いて、離型後の冷却過程における前記解析用モデルの温度分布を算出するステップ(S3)と、
    前記温度分布及び前記圧力分布から、予め測定された前記熱可塑性樹脂の、弾性定数の温度依存性データ、熱膨張率のデータ及びPVTデータを使用して、前記解析用モデルの弾性定数分布及び温度荷重分布を算出するステップ(S4)と、
    前記離型後の冷却過程における前記弾性定数分布及び前記温度荷重分布を用いた構造解析によって、前記解析用モデルの各要素に発生するひずみを算出するステップ(S5)と、
    前記ひずみからボイドの発生場所及び/又はボイド量を予測するステップ(S6)と、を含む方法。
  2. 前記熱可塑性樹脂を成形する工程における前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)は、前記熱可塑性樹脂を前記金型のゲートからキャビティへ射出してから離型する工程において前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記解析用モデルの弾性定数分布及び温度荷重分布を算出するステップ(S4)において、前記弾性定数分布及び前記温度荷重分布はゲートシールを始点とし、射出開始から設定された時間が経過するのを終点として算出する、請求項1に記載の方法。
  4. 前記ひずみを算出するステップ(S5)において、前記射出成形品が保圧冷却された離型時を始点とし、射出開始から設定された時間が経過するのを終点として前記温度分布から算出した温度依存性を考慮した、前記弾性定数分布及び前記温度荷重分布を用いて算出する、請求項1に記載の方法。
  5. 前記ゲートシールが、前記解析用モデルについての流動解析において、前記射出成形品の重量が最大であって、かつ前記ゲートシールまでの時間が最小となるように、成形条件が設定されることによって決定される、請求項3に記載の方法。
  6. 前記ゲートシールが、ゲート中心部の温度が流動停止温度Tsに達する時点である、請求項3に記載の方法。
  7. 前記流動停止温度Tsは、前記PVTデータに対し、2-domain Tait PVTモデルのデータフィッティング係数b5及びb6を用いて、圧力Pについて、Ts=b5+b6×Pとする、請求項6に記載の方法。
  8. 前記流動停止温度Tsは、比熱測定において1℃/minから50℃/minにて冷却した際の変曲点とする、請求項6に記載の方法。
  9. 前記熱可塑性樹脂を成形する工程における前記解析用モデルの温度分布及び圧力分布を求めるステップ(S2)において、交流定常法(ISO22007-6)と呼ばれる熱伝導率測定手法にて求めた熱伝導率を計算に用いる、請求項1に記載の方法。
  10. 熱可塑性樹脂を金型に射出成形してなる射出成形品の内部に生じるボイドを低減する方法であって、請求項1に記載された方法によって予測されたボイド量に対し、設計、成形条件及び成形材料のうちの1つ以上を変化させたときの予測結果を比較して、ボイド量が所定の量以下に低減されるまでこれを繰り返す、方法。
  11. コンピュータに、請求項1に記載の方法を実行させるプログラム。
  12. コンピュータに、請求項10に記載の方法を実行させるプログラム。
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