JP2024033220A - 非鉄金属材料内部への侵入水素の電気化学的測定方法及び装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】水素検出側の残余電流の低下及び水素導入側の腐食による減肉を抑制できる、Mg合金に最適な試験溶液を用いた金属内部への侵入水素量の測定方法の提供。【解決手段】Mg系金属材料からなる被検体2の一方の面を水の電気分解が起こる電位又は電流に制御された水素が侵入する面、他方の面を水素原子が水素イオンに酸化される電位に制御された水素検出面とするとき、前記水素侵入面側に、第1の電気化学セル1aを設け、第1の電気化学セル1aの内部に飽和Mg(OH)2水溶液を充填すると共に、第1の参照電極3aと第1の対極4aを設置し、前記水素検出面側に、第2の電気化学セル1bを設け、第2の電気化学セル1bの内部に水を可溶な有機溶媒および上記有機溶媒に0,01%以上50%以下の水溶液を溶かしたものを充填すると共に、第2の参照電極3bと第2の対極4bを設置し、さらに第1の電源6aと第2の電源6bを設けたものである。【選択図】図1

Description

本発明は、常温での非鉄金属材料中における水素の拡散係数を算出できる非鉄金属材料内部への侵入水素の電気化学的測定方法及び装置に関する。
近年、金属材料の高強度化に伴い、金属材料中に侵入した水素が材料を脆化させる「水素脆化」の危険性が高まりつつある。水素脆化機構の解明および耐水素脆化性を向上させる新材料の開発には、金属材料中を拡散する水素の拡散速度を求める手法が必要である。従来より、鉄鋼材料をターゲットとして、材料中を拡散する水素の拡散速度を求める手法としての電気化学的水素透過試験が採用されてきた(特許文献1、2、非特許文献1、2など)。
このように、試料中を拡散した水素を電流の増減として検出する手法が電気化学的水素透過法である。電気化学的水素透過法による鉄鋼材料中の水素拡散速度の決定については、例えば非特許文献1や2に詳しい記述がある。水素検出側で得られる水素に起因する電流は非常に小さいため(一般的に10μA/cm以下)、検出側における残余電流(水溶液につけた際に流れる鉄の溶解電流)を可能な限り小さくする必要があり(一般的に0.1μA/cm以下)、これまで、鉄鋼材料においては検出面をPdやNiでめっきする、水溶液にNaOHを使うことで表面を不働態化させるなどの工夫がなされてきた。
近年、鉄鋼材料に代わる構造材料として、比強度に優れ鉄鋼材料よりも軽量なAl合金やMg合金などの非鉄軽金属材料の使用が高まっている。これまで、金属材料の水素脆化問題は主に高強度鋼のみで報告され、ほとんどの水素脆化研究が鉄鋼材料をターゲットとしたものであったが、近年の非鉄材料の使用拡大を受け、これらの材料の水素脆化研究が加速しつつある。
特許6172097号 特許5777098号
水流徹、材料と環境、第63巻、pp.3-9(2014) 坂入正敏、材料と環境、第67巻、pp.191-196(2018) M.A.V.Devanathan, Z.Stachurski;Proc. Roy. Soc. London, Ser. A, 270, 90(1962)
そこで、水素脆化研究をAl合金やMg合金を代表とした非鉄金属材料に適用する場合に、非鉄金属材料中の水素拡散速度を簡便に求められる電気化学的水素透過試験の実施も今後高まっていくと予想される。しかし、鉄鋼材料と異なり、非鉄金属材料の水素透過試験は非常に難しい。
その理由として、非鉄金属材料の典型事例である、Al合金やMg合金が腐食しやすいことが挙げられる。先に述べた通り、水素検出側における試料の残余電流は0.1μA/cm以下が求められる。しかし、Al合金やMg合金の残余電流は水溶液で0.1μA/cm以下とすることが難しく、鉄鋼材料のようにPdめっきやNiめっきを均一かつ簡便に施す手法も構築されていない。
また、水素導入側に関しても、カソード電流もしくはカソード電位を付与することで、還元性の環境にしているにもかかわらず、Al合金やMg合金は腐食するために試料が徐々に減肉し正確な水素の拡散速度を求められないという課題があった。
即ち、具体的な課題としては、非鉄金属材料の電気化学的水素透過試験を行う上で必要な、次の2課題を同時に解決するものである。
(1) 水素検出側における残余電流0.1μA/cm以下、
(2) 水素導入側における腐食減肉および腐食生成物の形成の抑制。
本発明はこのような課題を解決するもので、水素検出側の残余電流の低下および水素導入側の腐食による減肉を抑制ができる、非鉄金属材料に最適な試験溶液を用いた、新たな電気化学的水素透過法を用いた非鉄金属材料内部への侵入水素の電気化学的測定方法及び装置を提案することを目的とする。
[1]本発明の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法は、例えば図1に示すように、非鉄金属材料からなる被検体2の腐食に伴って発生し金属内部に侵入する水素の量を、電気化学的水素透過法を用いて測定する方法であって、該被検体2の一方の面を水の電気分解による水素発生が起こる電位又は電流に制御された水素が侵入する面、他方の面を水素原子が水素イオンに酸化される電位に制御された水素検出面とするとき、
水素侵入面側に、第1の電気化学セル1aを設け、第1の電気化学セル1aの内部に25℃において1μS/cm以上2×10μS/cm以下の電気伝導率を有する水溶液を充填すると共に、第1の参照電極3aと第1の対極4aを設置し、
水素検出面側に、第2の電気化学セル1bを設け、第2の電気化学セル1bの内部に水を可溶な有機溶媒および上記有機溶媒に0.01%以上50%以下の水溶液を溶かしたものを充填すると共に、第2の参照電極3bと第2の対極4bを設置し、
第1の電気化学セル1aでは、第1の電源6aを第1の参照電極3aと第1の対極4aに接続すると共に、第1の電源6aが電位制御の場合には、-10Vより高電位かつ被検体2の浸漬電位より低電位を与え、第1の電源6aが電流制御の場合には、-0.01mA/cm以上-100mA/cm以下の定電流を与え、
第2の電気化学セル1bでは、第2の電源6bを第2の参照電極3bと第2の対極4bに接続すると共に、第2の電源6bでは標準水素電極に対する電位が0V以上1V以下の電位を与え、被検体2の浸漬24時間後の残余電流が-0.1μA/cm以上0.1μA/cm以下のものである。
[2]本発明の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法[1]において、好ましくは、前記非鉄金属材料は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、若しくはこれら非鉄金属元素を50原子%以上含有する合金であって、鉄(Fe)よりも標準電極電位の低い非鉄金属元素又は合金であるとよい。
[3]本発明の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法[1]又は[2]において、好ましくは、前記非鉄金属材料はAl系金属材料であり、第1の電気化学セル1aに充填される水溶液は、クエン酸緩衝溶液(pH5-9)、又はホウ酸緩衝溶液(pH5-9)であるとよい。
[4]本発明の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法[1]又は[2]において、好ましくは、前記非鉄金属材料はMg系金属材料であり、第1の電気化学セル1aに充填される水溶液は、0.001M~飽和NaOH水溶液、0.001M~飽和MgSO水溶液、又は0.001M~飽和Mg(OH)水溶液であるとよい。
[5]本発明の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法[1]乃至[4]において、好ましくは、前記水を可溶な有機溶媒が、エタノール、メタノール、2-プロパノール、エチレングリコールの少なくとも1種類であり、前記水溶液量は0.01%以上50%以下であることよい。
[6]本発明の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定装置は、例えば図1に示すように、非鉄金属材料からなる被検体2の腐食に伴って発生し金属内部に侵入する水素の量を、電気化学的水素透過法を用いて測定する装置であって、該被検体2の一方の面を水の電気分解が起こる電位として水素が侵入する面、他方の面を水素原子が水素イオンに酸化される電位又は電流に制御された水素検出面とするとき、
水素侵入面側に設けられると共に、第1の参照電極3aと第1の対極4aを第1の電解液7aに浸漬けされた状態で設置される第1の電気化学セル1aと、水素検出面側に設けられると共に、第2の参照電極3bと第2の対極4bを第2の電解液7bに浸漬けされた状態で設置される第2の電気化学セル1bと、を備えると共に、
第1の電解液7aは、25℃において1μS/cm以上2×10μS/cm以下の電気伝導率を有すると共に、第1の電気化学セル1aの内部に充填される水溶液であり、
第2の電解液7bは、水を可溶な有機溶媒および上記有機溶媒に0.01%以上50%以下の水溶液を溶かしたものであると共に、第2の電気化学セル1bの内部に充填されるものであり、
第1の電気化学セル1aでは、第1の電源6aを第1の参照電極3aと第1の対極4aに接続すると共に、第1の電源が電位制御の場合には、-10Vより高電位かつ被検体2の浸漬電位より低電位を与え、第1の電源が電流制御の場合には、-0.01mA/cm以上-100mA/cm以下の定電流を与え、
第2の電気化学セル1bでは、第2の電源6bを第2の参照電極3bと第2の対極4bに接続すると共に、第2の電源では標準水素電極に対する電位が0V以上1V以下の電位を与え、
被検体2の浸漬24時間後の残余電流が-0.1μA/cm以上0.1μA/cm以下のものである。
[7]本発明の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法は、例えば図11に示すように、非鉄金属材料からなる被検体の腐食に伴って発生し金属内部に侵入する水素の量を、電気化学的水素透過法を用いて測定する方法であって、該被検体の一方の面を腐食面とし、他方の面を水素原子が水素イオンに酸化される電位に制御された水素検出面とするとき、
前記腐食面は、大気に開放された大気腐食環境とする面、水蒸気に接する水蒸気腐食環境とする面、又は水溶液腐食環境とする面の何れかとし、
水素検出面側に、電気化学セル1cを設け、電気化学セル1cの内部に水を可溶な有機溶媒および上記有機溶媒に0.01%以上50%以下の水溶液を溶かしたものを充填すると共に、参照電極3cと対極4cを設置し、
電気化学セル1cでは、電源6cを参照電極3cと対極4cに接続すると共に、電源6cでは標準水素電極に対する電位が0V以上1V以下の電位を与え、
被検体2の浸漬24時間後の残余電流が-0.1μA/cm以上0.1μA/cm以下のものである。
[8]本発明の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法[7]において、好ましくは、前記非鉄金属材料は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、若しくはこれら非鉄金属元素を50原子%以上含有する合金であって、鉄(Fe)よりも標準電極電位の低い非鉄金属元素又は合金であるとよい。
[9]本発明の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法[7]又は[8]において、好ましくは、前記水を可溶な有機溶媒が、エタノール、メタノール、2-プロパノール、エチレングリコールの少なくとも1種類であり、前記水溶液量は0.01%以上50%以下であることよい。
[10]本発明の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定装置は、例えば図11に示すように、非鉄金属材料からなる被検体の腐食に伴って発生し金属内部に侵入する水素の量を、電気化学的水素透過法を用いて測定する装置であって、該被検体の一方の面を腐食面とし、他方の面を水素原子が水素イオンに酸化される電位に制御された水素検出面とするとき、
腐食面側に設けられる、大気に開放された環境、水蒸気環境、又は水溶液腐食環境と、
水素検出面側に設けられると共に、参照電極3cと対極4cを第3の電解液7cに浸漬けされた状態で設置される電気化学セル1cと、を備えると共に、
第3の電解液7cは、水を可溶な有機溶媒および上記有機溶媒に50%以下の水溶液を溶かしたものであると共に、電気化学セル1cの内部に充填されるものであり、
電気化学セル1cでは、電源6cを前記参照電極3cと対極4cに接続すると共に、前記電源6cでは標準水素電極に対する電位が0V以上1V以下の電位を与え、
被検体2の浸漬24時間後の残余電流が-0.1μA/cm以上0.1μA/cm以下のものである。
本発明の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法では、常温水溶液環境での水素侵入による水素拡散係数を測定可能であるため、実際の使用環境(すなわち、腐食により侵入する水素)における水素拡散係数を小さな誤差で測定可能である。また、溶液に安価で取り扱いが容易な有機溶媒や水溶液を使用するため試験の実施が容易であり、高額な設備導入などの必要もない。
本発明の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法によれば、有機溶媒を使用することで、浸漬直後わずかの時間で残余電流が0.1μA/cm以下を示すため、待機時間を非常に短くすることができる。
本発明に用いられる電気化学的水素透過試験装置(Devanathan-Stachurskiセル)の概略的構成図である。 本発明の一実施例及び比較例を示す、各溶液中で分極した際の純鉄の残余電流を示す図である。 本発明の一実施例を示す、純鉄の水素透過電流を示す図である。 本発明の一実施例及び比較例を示す、各溶液中で分極した純Mgの残余電流を示す図である 本発明の一実施例を示す、水素導入側における純Mgの表面変化を示す図で、(A)は飽和Mg(OH)を用いた際の被検体表面、(B)は(A)の白点線部における断面形状、(C)は(B)の縦軸拡大図を示している。 本発明の比較例を示す図で、(A)は0.1M NaOH水溶液を用いた際の被検体表面、(B)は(A)の白点線部における断面形状を示している。 本発明の比較例を示す図で、(A)は0.1M MgSO水溶液を用いた際の被検体表面、(B)は(A)の白点線部における断面形状を示している。 本発明の一実施例を示す、純MgおよびAZ31の水素透過電流を示す図で、(A)は横軸を線形軸にしたもの、(B)は横軸を対数軸にしたものを示している。 本発明の一実施例を示す、AZ31の長期の水素透過電流を示す図で、(A)は横軸を線形にしたもの、(B)は横軸を対数にしたものを示している。 本発明の一実施例を示す、純Alの水素透過電流を示す図である。 本発明の他の実施例を示す電気化学的水素透過試験装置(改良型Devanathan-Stachurskiセル)の概略的構成図である。
本発明における実施例を以下に示す。用いた被検体は実施例として純Mg、AZ31(Mg合金)、純Al、比較例として純鉄である。なお、本明細書では電位の表記として○V(vs.SHE)などSHE基準で示している。SHEは標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode)を指す。
本発明の金属内部への侵入水素量の測定方法では、金属材料の腐食に伴い発生し内部に侵入する水素の量を、電気化学的水素透過法の測定原理を適用して測定するもので、水素侵入面側の金属材料被検体の表面を腐食環境に曝すことにより、腐食時に発生した水素が金属材料被検体中に侵入するので、反対面側から水素を取り出すことによって侵入水素量を測定する。
電気化学的水素透過法は、1962年にDevanathanとStachurskiによって開発された手法(非特許文献3)で、図1に模式的に示すように、2つの電解槽1a、1bが1枚の被検体2を挟んで向かい合わせに配置されている。同図の場合、左側の電解槽1aの被検体面を定電位または定電流でカソード分極して、水素発生・水素チャージを行い、右側の電解槽1bでは被検体2を定電位アノード分極することによって被検体2を透過してきた水素を水素イオンに酸化し、その電流値から透過した水素の量を求めるものである。
図中、符号3a、3bは参照電極、4a、4bは電極であり、特に4bは対極または係数電極という。そして、電極4aは、定電位を付与するポテンショスタットまたは定電流を付与するガルバノスタットである電源6aと接続され、一方と電極4bは、定電位を付与するポテンショスタットである電源6bと接続されている。なお、5a、5bは、金属試料2と電解槽1a、1bを密着させ、液漏れを防ぐためのOリングである。電解槽1aは電解液7aで内部が充填されており、参照電極3aと対極4a並びに被検体2との間の電気伝導を可能としている。電解液7aとしては、例えば25℃において1μS/cm以上2×10μS/cm以下の電気伝導率を有する水溶液を用いる。電気伝導性の範囲として、電気分解に使用すると考えられる水溶液のうち、下限を蒸留水程度である1μS/cm以上、上限を1 M KCl水溶液(1.28×10μS/cm)に余裕を持たせて2×10μS/cm以下としている。
電解槽1bは電解液7bで内部が充填されており、参照電極3bと対極4b並びに被検体2との間の電気伝導を可能としている。電解液7bとしては、例えば水を可溶な有機溶媒および上記有機溶媒に0.01%以上50%以下の水溶液を溶かしたものを充填するとよい。有機溶媒に水溶液を溶かした下限値である0.01%以上は、市販の有機溶媒のうち最も高純度なものに合わせている。
上記した電気化学的水素透過法そのものは、「鋼材中の水素拡散係数の測定手法」として従来から良く知られた手法で、次のような測定手順を踏んでいる。以下に、Devanathanらによる鋼材を用いた電気化学的水素透過法を説明する。
(i)鉄鋼材料の薄板1枚を被検体2とし、Devanathan-Stachurskiセルと呼ばれる2個の電気化学セル1a、1bにより挟み込み固定する。この時、被検体の片側をPdやNiによってめっきすることが多い。
(ii)被検体のPdめっき又はNiめっきした側を水素検出側、めっきしていない側を水素導入側とし、それぞれの電気化学セル1a、1bを水溶液(電解液7a、7b)で満たす。この時、水素導入側には電気伝導率の高い水溶液7a(例えば、0.5M NaClや0.1M NaOH)を用い、水素検出側には電気伝導率が高く腐食性の小さい溶液7b(例えば、鉄鋼材料の場合は0.1M NaOH)を用いる。
(iii)それぞれの電気化学セル1a、1bに参照電極3a、3b、対極4a、4bを設置し、電源6a、6b(一般的にはポテンショスタットを用いる)に接続する。
(iv)水素導入側では被検体にカソード電流もしくはカソード電位を与える。これにより被検体2上で水の電気分解が生じ、発生した水素の一部が被検体中に侵入する。
(v)水素検出側では被検体2を水素発生電位以上(0V vs.SHE以上、一般的には0.2V vs.SHE程度)に分極する。これにより、水素導入側から拡散してきた水素が水素イオンへと酸化され、生じた電子が電流として検出される。被検体2の浸漬24時間後の残余電流は、測定次第で負の値を取りえるため、-0.1μA/cm以上0.1μA/cm以下のものとなる。
<比較例>
<純鉄を用いた電気化学的水素透過試験>
比較例では、被検体には純鉄の薄板を用いた。この被検体の両面をSiC耐水研磨紙で#2000まで湿式研磨した後、2-プロパノール中で5分間超音波洗浄した。電気化学的水素透過法の直前に被検体の厚さをマイクロメーターを用いて計測した。
(残余電流測定)
検出側に用いた溶液中で分極した際の残余電流を比較するため、図1に示したDevanathan-Stachurskiセルの片側のみを試験溶液で満たし、作製した純鉄の薄板の被検体2を各溶液中で分極した。Devanathan-Stachurskiセルへの固定時には、セル1a、1bと被検体2の間から試験溶液が漏れないようOリング5a、5bで固定した。試験溶液は、0.1M NaOH(NaOHと表記、従来法に該当)、2-プロパノール(純度>99.7%)に0.1M NaOHを体積換算で1%加えたもの(IPA+NaOHと表記)、2-プロパノール(IPAと表記)である。被検体の反応面積が2cmとなるよう電気化学セル1a、1bに固定し、セル内を試験溶液で満たした後、+200mV(vs.SHE)に分極した。参照電極3a、3bにはAg/AgClを用い、対極4a、4bにはPt線を用いた。測定時間は24時間とした。
図2に分極開始から24時間(約8万6400秒)の純鉄の残余電流密度を示す。いずれの試験溶液においても時間の経過とともに残余電流が減少し、24時間後には全ての試験溶液中で残余電流0.1μA/cm以下を達成したことがわかる。また、残余電流の値はNaOH>IPA+NaOH>IPAとなり、溶液中の有機溶媒の比率が増加するほど残余電流が小さくなる傾向が得られた。以上より、有機溶媒中において残余電流の測定が可能であること、有機溶媒の使用によりより短い時間で残余電流の低減が可能であることが明らかとなった。
(電気化学的水素透過試験)
作製した純鉄の薄板の被検体をDevanathan-Stachurskiセルで挟み込み、セルと被検体の間から試験溶液が漏れないようOリングで固定した。被検体の反応面積は水素導入側、水素検出側どちらも2cmとした。水素導入側の溶液として0.1M NaOHを用い、水素検出側の水溶液として2-プロパノールと従来法との比較のために0.1M NaOHを用いた。水素導入側、水素検出側どちらも参照電極にはAg/AgClを、対極にはPt線を用いた。はじめに、水素検出側を試験溶液で満たした後、被検体を+200mV(vs.SHE)で分極し、24時間後に残余電流が0.1μA/cm以下となったことを確認し、水素導入側を0.1M NaOHで満たした。その後、水素検出側に-1mA(5A/m)の電流を付与ことで水素を発生させ、被検体中へ水素を侵入させた。被検体中を拡散し水素検出側に到達した水素を、水素透過電流として計測した。
図3に水素検出側の試験溶液にIPAとNaOHを使用した純鉄の水素透過電流密度を示す。いずれの溶液においても、試験開始約200秒で水素透過による電流の立ち上がりが認められ、その後電流は時間の対数に比例して増加し、約2万秒後(約5時間30分)に定常となった。試験溶液の違いによる電流の立ち上がり時間や電流増加の傾き、定常に達する時間や定常値に違いはなく、有機溶媒が従来法と同様に水素透過電流を測定できることが明らかとなった。
<Mg系材料を用いた電気化学的水素透過試験>
実施例1では、被検体には純MgおよびAZ31合金(Mg-3Al-1Zn)の薄板を用いた。この被検体の両面をSiC耐水研磨紙で#2000まで湿式研磨した後、2-プロパノール中で5分間超音波洗浄した。電気化学的水素透過法の直前に被検体の厚さをマイクロメーターを用いて計測した。
(残余電流測定)
検出側に用いた溶液中で分極した際の残余電流を比較するため、作製した純Mg被検体をDevanathan-Stachurskiセルに固定し各溶液中で分極した。使用した試験溶液は、0.1M NaOH(NaOHと表記)、2-プロパノールに0.1M NaOHを体積換算で10%加えたもの(IPA+NaOH(10%)と表記)、2-プロパノールに0.1M NaOHを体積換算で5%加えたもの(IPA+NaOH(5%)と表記)、2-プロパノールに0.1M NaOHを体積換算で1%加えたもの(IPA+NaOH(1%)と表記)、2-プロパノール(IPAと表記)である。被検体の反応面積が2cmとなるよう電気化学セルに固定し、セル内を試験溶液で満たした後、+200mV(vs.SHE)に分極した。参照電極にはAg/AgClを用い、対極にはPt線を用いた。測定時間は24時間とした。
図4に分極開始から24時間(約8万6400秒)の純Mgの残余電流密度を示す。純Mgにおいては、NaOH、IPA+NaOH(10%)、IPA+NaOH(5%)においてNaOH水溶液の含有量の低下とともに残余電流が低下する傾向が見られたものの、残余電流0.1μA/cm以下は達成できなかった。また、試験後の被検体表面は激しく腐食しており電気化学的水素透過試験には適用できないことが明らかとなった。一方で、IPA+NaOH(1%)およびIPAでは残余電流0.1μA/cm以下を達成できており、Mg系材料の電気化学的水素透過試験には水分含有量を1%以下にした有機溶媒が適していることが明らかとなった。
(水素導入側の被検体表面変化測定)
Mg系材料は水溶液中で容易に腐食し減肉するため、水素導入側の溶液にはMg系材料を極力腐食させないことが求められる。電気伝導性がよく、Mgの腐食を抑制する3種類の塩基性溶液を用いて、電気化学的水素透過法と同様に-1mA(5A/m)の電流を24時間流した際の被検体の表面変化と減肉量を測定した。試験溶液には0.1M NaOH(NaOHと表記)、0.1M MgSO水溶液(MgSOと表記)、飽和Mg(OH)水溶液(Mg(OH)と表記)を用いた。試験後の被検体表面像および被検体表面の高低差をワンショット3D形状測定器(VR-3000、キーエンス)を用いて計測した。
図5~図7にそれぞれの試験溶液中で分極した被検体表面写真と被検体表面の高低差を示す。
図5は、本発明の一実施例を示す水素導入側における純Mgの表面変化を示す図で、(A)は飽和Mg(OH)を用いた際の被検体表面、(B)は(A)の白点線部における断面形状、(C)は(B)の縦軸拡大図を示している。
Mg(OH)に浸漬させた被検体では図5(A)、(B)より、被検体表面に若干の変色が認められたもののほとんど変化はなく、高低差測定からも腐食生成物の形成や減肉、局部腐食の発生は認められなかった。図5(C)に図5(B)の拡大図を示す。被検体の凹凸は最大で5μm程度でありほぼ平滑を保てていることがわかった。以上より、Mg系材料における電気化学的水素透過試験の水素導入側の水溶液には飽和Mg(OH)水溶液が適している。
図6は、本発明の比較例を示す図で、(A)は0.1M NaOH水溶液を用いた際の被検体表面、(B)は(A)の白点線部における断面形状を示している。被検体表面の高低差は、被検体表面写真の白い点線部において測定した。NaOHに浸漬させた被検体では、純Mgの表面が激しく腐食しており(図6(A))、ところどころに深い局部腐食の跡が観察された。
図6(B)より、被検体表面への腐食生成物の形成による被検体厚さの増加、減肉による被検体厚さの減少、約100μm~200μmの深さに達する局部腐食が見て取れ、均一な被検体表面が求められる電気化学的水素透過試験には適用できないことがわかる。
図7は、本発明の比較例を示す図で、(A)は0.1M MgSO水溶液を用いた際の被検体表面、(B)は(A)の白点線部における断面形状を示している。
同様に図7(A)、(B)より、MgSOに浸漬した被検体でも局部腐食の形成は抑制されたものの被検体厚さの増減が確認され、電気化学的水素透過試験には適用できないことが明らかとなった。Mg系材料は塩基性溶液中で高耐食性を発揮するとされているが、これは表面に腐食生成物である高耐食性のMg(OH)皮膜を形成するためである。しかし、電気化学的水素透過試験では、Mg(OH)皮膜の形成により被検体厚さに変化が生じたり、皮膜中を透過する水素の拡散係数は母材中の拡散係数と異なるなどの課題から、極力皮膜の形成は避けたい。よって、水素導入側には腐食を抑制するとともに皮膜の形成も抑制する試験溶液が求められる。
(電気化学的水素透過試験)
電気化学的水素透過試験には、図1に示す、Devanathan-Stachurskiセルを用いた。被検体には純MgおよびAZ31を用いた。作製した被検体をDevanathan-Stachurskiセルで挟み込み、セルと被検体の間から試験溶液が漏れないようOリングで固定した。被検体の反応面積は水素導入側、水素検出側どちらも2cmとした。水素導入側の溶液として飽和Mg(OH)水溶液を用い、水素検出側の水溶液として2-プロパノールを用いた。水素導入側、水素検出側どちらも参照電極にはSSEを、対極にはPt線を用いた。はじめに、水素検出側をIPAで満たした後、被検体を+200mV(vs.SHE)で分極し、残余電流が0.1μA/cm以下となったことを確認してから、水素導入側を飽和Mg(OH)水溶液で満たした。その後、水素検出側に-1mA(5A/m)の電流を流すことで水素を発生させ、被検体中へ侵入させた。被検体中を拡散し水素検出側に到達した水素を、水素透過電流として計測した。
図8に純MgおよびAZ31の水素透過電流密度を示す。図8(A)には横軸を時間の線形軸とした時の水素透過電流密度を、図8(B)には横軸を時間の対数軸とした時の水素透過電流密度を示している。純Mgにおいては約5万秒(約14時間)経過後に水素透過電流の立ち上がりが認められ、AZ31においては約10万秒(約28時間)経過後に立ち上がりが認められた。いずれの被検体においても水素検出側にIPAを使用することで水素透過電流の立ち上がりを明瞭に計測できている。
図9にAZ31を用いて長期間(約3ヶ月間)連続して水素透過電流を測定し続けた結果を示す(図9(A)は横軸時間の線形軸、(B)は横軸時間の対数軸)。立ち上がりから約500万秒(約58日)経過後の定常値に達するまでの水素透過電流が明瞭に計測できている。水素透過電流から水素の拡散係数を求める方法として、いくつかの手法が提案されている。ここでは、Half-rise time法とBreakthrough time法(いずれも非特許文献1に詳細が記載されている)を用いてAZ31中の水素拡散係数を求めた。
・Half-rise time法
水素透過電流が定常値の1/2となる時間t1/2は以下の式で表される。
1/2=0.14L/D
ここでLは被検体の厚さ(m)、Dは水素の拡散係数(m/s)である。図9(B)に示した通りt1/を求めDを計算すると、D=4.89×10-15/sが得られた。
・Breakthrough time法
図8(B)に示す通り、水素透過電流で描かれる曲線の接線と時間軸の交点をtbとすると、以下の式が得られる。
tb=0.5L/π
ここからDを計算すると、D=4.56×10-15/sが得られた。
上記の結果より、常温におけるAZ31中の水素拡散係数は10-15m2/sオーダーであることが推測される。
<純Alを用いた電気化学的水素透過試験>
実施例2では、被検体には純Al(A1050)の薄板を用いた。この被検体の両面をSiC耐水研磨紙で#2000まで湿式研磨した後、2-プロパノール中で5分間超音波洗浄した。電気化学的水素透過法の直前に被検体の厚さをマイクロメーターを用いて計測した。
(電気化学的水素透過試験)
電気化学的水素透過試験には、図1に示す、Devanathan-Stachurskiセルを用いた。作製した被検体をDevanathan-Stachurskiセルで挟み込み、セルと被検体の間から試験溶液が漏れないようOリングで固定した。被検体の反応面積は水素導入側、水素検出側どちらも2cmとした。水素導入側の溶液として0.1Mクエン酸緩衝溶液(pH5.1)および0.1Mホウ酸緩衝溶液(pH8.4)を用い、水素検出側の水溶液として2-プロパノールを用いた。水素導入側、水素検出側どちらも参照電極にはAg/AgClを、対極にはPt線を用いた。はじめに、水素検出側をIPAで満たした後、被検体を+200mV(vs. SHE)で分極し、残余電流が0.1μA/cm以下となったことを確認してから、水素導入側をクエン酸緩衝溶液またはホウ酸緩衝溶液で満たした。その後、水素検出側に-1mA(5A/m)もしくは-10mA(50A/m)の電流を流すことで水素を発生させ、被検体中へ侵入させた。被検体中を拡散し水素検出側に到達した水素を、水素透過電流として計測した。
図10に水素検出側の試験溶液にIPAを使用し、水素導入側の試験溶液にクエン酸緩衝溶液およびホウ酸緩衝溶液を使用した純Alの水素透過電流密度を示す。
-1mAの電流を付与した場合には、クエン酸緩衝溶液、ホウ酸緩衝溶液いずれにおいても30万秒(約84時間)までに水素透過電流の立ち上がりは認められなかった。一方で、-10mAの電流を付与した際には、クエン酸緩衝溶液で約5万秒(約14時間)、ホウ酸緩衝溶液で約15万秒(約42時間)で電流の立ち上がりが認められた。
一般的に、導入側の電流値は導入される水素量および水素透過電流の絶対値に影響し、水素透過電流の立ち上がり時間や水素透過電流の概形には影響しない。しかし、純Alにおいては表面に形成する酸化皮膜が水素の侵入を妨げ、さらには酸化皮膜中の水素の拡散速度も小さいことが知られている。-1mAの場合には表面酸化皮膜の破壊が生じなかったため測定期間内に水素が検出まで到達できず、-10mAの場合には表面酸化皮膜が破壊され、純Al中を拡散した水素を測定できたと考えられる。
クエン酸緩衝溶液とホウ酸緩衝溶液では溶液のpHが異なるために、酸化皮膜破壊に要する時間が変化したと考えられる。水素導入側の電流が大きい場合に酸化皮膜が破壊された理由として、表面近傍のpH低下が挙げられる。水素導入側のAl表面では水の電気分解に伴いH+が発生する。電流が大きいほど発生するH+も多くなるので、試料表面近傍のpHが低下し酸化皮膜を破壊したと考えられる。このことから、Al系材料においては、水素透過電流には表面酸化皮膜の影響が含まれ、水素導入側の電流や溶液の違いにより水素透過電流の挙動に変化が生じることがわかった。
図11は、本発明の他の実施例を示す電気化学的水素透過試験装置(改良型Devanathan-Stachurskiセル)の概略的構成図である。
被検体2の腐食面は、大気腐食環境、水蒸気腐食環境、又は水溶液腐食環境7dに面したもので、被検体2を電気化学透過試験中に腐食させる。なお、大気腐食環境、水蒸気腐食環境、又は水溶液腐食環境7dは、電気化学セル1dで外部環境とは区分されていても良い。大気腐食環境の場合は、電気化学セル1dを設けていなくても良い。
腐食させる手段としては、液滴による腐食、溶液浸漬による腐食、水蒸気による腐食、サイクル腐食試験(CCT:cyclic corrosion test)による腐食などが挙げられる。CCTの1サイクルは、例えば乾燥(50%RH、5.75h)、湿潤(98%RH、1.75h)および塩水噴霧(0.5%NaCl水溶液、0.5h)のステージからなるとよいが、これに限定されるものではない。CCT全行程で温度は30℃に保つとよい。CCT後、腐食した被検体2は温湿度制御下での電気化学的水素透過試験に供する。好ましくは、腐食試料の表面は走査電子顕微鏡(SEM)で観察するとよい。
被検体2に非鉄金属材料を用いる場合には、電解槽1cを満たす水溶液(電解液7c)として、水を可溶な有機溶媒を用いるとよい。水を可溶な有機溶媒として、エタノール、メタノール、2-プロパノール、エチレングリコールの少なくとも1種類を用い、前記水溶液量は0.01%以上50%以下とするのがよいが、水を可溶な有機溶媒はこれらに限定されない。
被検体2の電気化学透過試験においては、被検体2の一方の面は腐食面を有すると共に、大気側に開放されている。被検体2の一方の面は電解槽1cと接触している。電解槽1cでは被検体2を定電位アノード分極することによって被検体2を透過してきた水素を水素イオンに酸化し、その電流値から透過した水素の量を求めるものである。
図中、符号3cは参照電極、4cは電極であり、特に4cは対極または係数電極という。そして、電極4cは、定電位を付与するポテンショスタットである電源6cと接続されている。なお、5cは、被検体2と電解槽1cを密着させ試験溶液の漏れを防ぐためのOリングである。
このように構成された電気化学的水素透過試験装置を用いて、次のように実験を行なうとよい。片面が腐食した被検体2を改造型のDevanathanセルに固定する。次に、水素引き抜き側の試料面をセル(電解槽)1c内の有機溶媒に向け、電解槽1c内にはAg/AgCl参照電極およびPt対極を設置する。電解槽1cは恒温恒湿槽(図示せず)中に入れ、被検体2および各電極3c、4cは恒温恒湿槽のポートを通じてポテンショスタット6cの対応する端子R、C、Wと接続する。
水素引き抜き側は+200mVで分極し、水素透過電流を5秒毎にデータロガー(図示せず)で記録する。透過試験に先んじて、水素透過電流に対してバックグラウンドとなる不働態保持電流密度を0.1μA/cm以下となるようにするとよい。恒温恒湿槽内の温度は30℃に保ち、相対湿度を段階的に例えば、50、70、80、98%RHの順で増加させるとよいが、これに限定されるものではない。50-70%RHのそれぞれの湿度には約2時間保つとよい。98%RHまで上昇させた後、その湿度で10h保持し、その後相対湿度を段階的に低下させるとよい。
なお、図11に示す実施例においては、被検体2の一方の面を腐食面とすると共に、大気側に開放されているものを示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、被検体2の一方の面を腐食面とすると共に、水蒸気腐食環境である面としてもよく、又は水の電気分解が起こる電位である水溶液腐食環境とする面としてもよい。
以上詳述したように、本発明に係る金属内部への侵入水素量の測定方法によれば、水素検出側の残余電流の低下ができる、非鉄金属材料に最適な試験溶液を用いて非鉄金属材料内部への侵入水素量を測定しているので、実際の使用環境(すなわち、腐食により侵入する水素)における水素拡散係数を小さな誤差で測定可能であり、実用上の効果は大きい。
1a、1b、1c 電解槽(電気化学セル)
1d 大気腐食環境、水蒸気腐食環境、又は水溶液腐食環境
2 金属試料(被検体)
3a、3b、3 参照電極
4a、4b、4 対極
5a、5b Oリング
6a、6b、6 電源(ポテンショスタット)
7a、7b、7c 電解液

Claims (10)

  1. 非鉄金属材料からなる被検体の腐食に伴って発生し金属内部に侵入する水素の量を、電気化学的水素透過法を用いて測定する方法であって、
    該被検体の一方の面を水の電気分解が起こる電位として水素が侵入する面、他方の面を水素原子が水素イオンに酸化される電位又は電流に制御された水素検出面とするとき、
    前記水素侵入面側に、第1の電気化学セルを設け、前記第1の電気化学セルの内部に25℃において1μS/cm以上2×10μS/cm以下の電気伝導率を有する水溶液を充填すると共に、第1の参照電極と第1の対極を設置し、
    前記水素検出面側に、第2の電気化学セルを設け、前記第2の電気化学セルの内部に水を可溶な有機溶媒および上記有機溶媒に0.01%以上50%以下の水溶液を溶かしたものを充填すると共に、第2の参照電極と第2の対極を設置し、
    前記第1の電気化学セルでは、第1の電源を前記第1の参照電極と第1の対極に接続すると共に、前記第1の電源が電位制御の場合には、-10Vより高電位かつ前記被検体の浸漬電位より低電位を与え、前記第1の電源が電流制御の場合には、-0.01mA/cm以上-100mA/cm以下の定電流を与え、
    前記第2の電気化学セルでは、第2の電源を前記第2の参照電極と第2の対極に接続すると共に、前記第2の電源では標準水素電極に対する電位が0V以上1V以下の電位を与え、
    前記被検体の浸漬24時間後の残余電流が-0.1μA/cm以上0.1μA/cm以下であることを特徴とする非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法。
  2. 前記非鉄金属材料は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、若しくはこれら非鉄金属元素を50原子%以上含有する合金であって、鉄(Fe)よりも標準電極電位の低い非鉄金属元素又は合金である請求項1に記載の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法。
  3. 前記非鉄金属材料はAl系金属材料であり、
    前記第1の電気化学セルに充填される水溶液は、クエン酸緩衝溶液(pH5-9)、又はホウ酸緩衝溶液(pH5-9)である、
    請求項1又は2に記載の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法。
  4. 前記非鉄金属材料はMg系金属材料であり、
    前記第1の電気化学セルに充填される水溶液は、0.001M~飽和NaOH水溶液、0.001M~飽和MgSO水溶液、又は0.001M~飽和Mg(OH)水溶液である、
    請求項1又は2に記載の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法。
  5. 前記水を可溶な有機溶媒が、エタノール、メタノール、2-プロパノール、エチレングリコールの少なくとも1種類であり、
    前記水溶液量は0.01%以上50%以下であることを特徴とする請求項1乃至4に記載の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法。
  6. 非鉄金属材料からなる被検体の腐食に伴って発生し金属内部に侵入する水素の量を、電気化学的水素透過法を用いて測定する装置であって、
    該被検体の一方の面を水の電気分解が起こる電位として水素が侵入する面、他方の面を水素原子が水素イオンに酸化される電位又は電流に制御された水素検出面とするとき、
    前記水素侵入面側に設けられると共に、第1の参照電極と第1の対極を第1の電解液に浸漬けされた状態で設置される第1の電気化学セルと、
    前記水素検出面側に設けられると共に、第2の参照電極と第2の対極を第2の電解液に浸漬けされた状態で設置される第2の電気化学セルと、
    を備えると共に、
    前記第1の電解液は、25℃において1μS/cm以上2×10μS/cm以下の電気伝導率を有すると共に、前記第1の電気化学セルの内部に充填される水溶液であり、
    前記第2の電解液は、水を可溶な有機溶媒および上記有機溶媒に0,01%以上50%以下の水溶液を溶かしたものであると共に、前記第2の電気化学セルの内部に充填されるものであり、
    前記第1の電気化学セルでは、第1の電源を前記第1の参照電極と第1の対極に接続すると共に、前記第1の電源が電位制御の場合には、-10Vより高電位かつ前記被検体の浸漬電位より低電位を与え、前記第1の電源が電流制御の場合には、-0.01mA/cm以上-100mA/cm以下の定電流を与え、
    前記第2の電気化学セルでは、第2の電源を前記第2の参照電極と第2の対極に接続すると共に、前記第2の電源では標準水素電極に対する電位が0V以上1V以下の電位を与え、
    前記被検体の浸漬24時間後の残余電流が-0.1μA/cm以上0.1μA/cm以下であることを特徴とする非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定装置。
  7. 非鉄金属材料からなる被検体の腐食に伴って発生し金属内部に侵入する水素の量を、電気化学的水素透過法を用いて測定する方法であって、
    該被検体の一方の面を腐食面とし、他方の面を水素原子が水素イオンに酸化される電位に制御された水素検出面とするとき、
    前記腐食面は、大気に開放された面、水蒸気環境である面、又は水溶液腐食環境とする面の何れかとし、
    前記水素検出面側に、電気化学セルを設け、前記電気化学セルの内部を水を可溶な有機溶媒および上記有機溶媒に0.01%以上50%以下の水溶液を溶かしたものを充填すると共に、参照電極と対極を設置し、
    前記電気化学セルでは、電源を前記参照電極と対極に接続すると共に、前記電源では標準水素電極に対する電位が0V以上1V以下の電位を与え、
    前記被検体の浸漬24時間後の残余電流が-0.1μA/cm以上0.1μA/cm以下であることを特徴とする非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法。
  8. 前記非鉄金属材料は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、若しくはこれら非鉄金属元素を50原子%以上含有する合金であって、鉄(Fe)よりも標準電極電位の低い非鉄金属元素又は合金である請求項7に記載の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法。
  9. 前記水を可溶な有機溶媒が、エタノール、メタノール、2-プロパノール、エチレングリコールの少なくとも1種類であり、
    前記水溶液量は0.01%以上50%以下であることを特徴とする請求項7又は8に記載の非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定方法。
  10. 非鉄金属材料からなる被検体の腐食に伴って発生し金属内部に侵入する水素の量を、電気化学的水素透過法を用いて測定する装置であって、
    該被検体の一方の面を腐食面とし、他方の面を水素原子が水素イオンに酸化される電位に制御された水素検出面とするとき、
    前記腐食面側に設けられる、大気に開放された環境、水蒸気環境、又は水溶液腐食環境と、
    前記水素検出面側に設けられると共に、参照電極と対極を第3の電解液に浸漬けされた状態で設置される電気化学セルと、
    を備えると共に、
    前記第3の電解液は、水を可溶な有機溶媒および上記有機溶媒に0.01%以上50%以下の水溶液を溶かしたものであると共に、前記電気化学セルの内部に充填されるものであり、
    前記電気化学セルでは、電源を前記参照電極と対極に接続すると共に、前記電源では標準水素電極に対する電位が0V以上1V以下の電位を与え、
    前記被検体の浸漬24時間後の残余電流が-0.1μA/cm以上0.1μA/cm以下であることを特徴とする非鉄金属材料内部への侵入水素量の測定装置。

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