JP2024027793A - 耐朽性材料及びその製造方法 - Google Patents

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二郎 春日
貴文 伊藤
裕三 古田
圭輔 神代
温子 安武
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Abstract

【課題】木材等に予め薬品による前処理を行うことなく、且つ、特殊な装置や過大なエネルギーを必要とせず、木材等の内部まで均質な耐朽性を有する耐朽性材料及びその製造方法を提供する。【解決手段】木材等に薬品による前処理を行うことなく、塩基性ガス、酸性ガス、塩基性ガスと酸性ガスとの混合ガス、及び、ガス化した塩類のうち少なくとも1つを含有する雰囲気中で、前記木材等を加熱処理する。加熱処理は、150℃~200℃の温度範囲で行う。製造された耐朽性材料に対する、JIS K 1571:2010「木材保存剤-性能基準及びその試験方法(5.2防腐性能5.2.1室内試験5.2.1.1注入処理用)」に準拠して測定した質量減少率の値が、3%以下である。また、耐朽性材料の酸不溶成分の値は、加熱処理前に対して9%以上増加する。【選択図】図3

Description

本発明は、耐朽性材料及びその製造方法に関するものであり、特に、木材等からなり木材腐朽菌に対する抵抗性に優れた耐朽性材料及びその製造方法に関するものである。
木材や合板などの木質材料は、建築材料等として広く用いられており、独特の風合いを有することから構造材のみならず外装材及び内装材としても広く用いられている。しかし、木材等が外装材等として屋外などの厳しい環境下で使用された場合、風雨による劣化や木材腐朽菌による腐食、更にシロアリによる食害を受けるなどの問題があった。そこで、従来は保存剤や樹脂を木材に塗布或いは含浸した防腐加工や防虫加工を行うことが一般的であった。しかし、近年では環境意識や健康意識の高まりから、薬剤を使用しない或いは加工後に薬剤が残存しない木材等からなる耐朽性材料の開発が望まれている。
このような要請から開発されたものに、木材の高温熱処理技術がある。実用化されている代表的な技術としては、 例えば、フィンランドで開発された ThermoWood (登録商標)がある。この技術は、木材を過熱水蒸気雰囲気下で高温加熱することにより、木材の耐朽性を高めると共に、寸法安定性を得ることに成功している(下記特許文献1)。また、日本において開発された技術としては、エステックウッド(登録商標)がある。この技術は、宮城県工業技術センターによるものであって、木材を不活性ガスの窒素雰囲気下で高温加熱して同様の成果を得ている(下記特許文献2)。
一般に、木材の耐朽性を評価する指標として、JIS K 1571:2010「木材保存剤-性能基準及びその試験方法(5.2防腐性能)」が用いられる。上記技術を用いてJIS K 1571の耐朽性の評価を得るには、220℃以上での熱処理により、処理前後の木材の質量減少が18%程度必要となる。しかし、木材は、180℃を超えると可燃性ガスを放出し、更に250℃程度で引火するという性質がある。そこで、上記技術においては、水蒸気雰囲気や不活性ガスの窒素雰囲気という酸素濃度の低い雰囲気下で高温熱処理する必要があるという問題があった。
そこで、木材の燃焼を防止するために200℃以下、好ましくは180℃以下の温度で処理する技術として、例えば、下記特許文献3の高耐久性木材の製造方法が奈良県森林技術センターで開発された。この方法においては、常温でほぼ中性から弱酸性を示す塩の水溶液を予め木材に含浸してから乾燥し、次に加熱処理するという方法である。更に、本発明者らによる下記特許文献4の木材の熱処理方法においては、無機酸を発生させる塩の希薄な水溶液を木材に含浸してから、次に加熱処理するという方法である。
特許第3585492号公報 特公昭58-018205号公報 特開2018-161802号公報 特願2021-030378号
ところで、上記特許文献3及び上記特許文献4の方法においては、通常の熱処理装置を用いて200℃以下の温度で加工することができる。このことにより、熱処理段階での木材の温度管理が容易になると共に、熱処理装置内の酸素を排除することなく木材の燃焼を防止しながら耐朽性材料を得ることができる。しかし、木材に薬品を含浸してから乾燥するという前処理工程を必要とし、乾燥工程を含む前処理工程とその後の熱処理工程とを合わせて相当の時間を要するという問題があった。
そこで、本発明は、上記問題に対処して、木材等に予め薬品による前処理を行うことなく、且つ、特殊な装置や過大なエネルギーを必要とせず、木材等の内部まで均質な耐朽性を有する耐朽性材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、木材等に予め薬品による前処理を行わない場合でも、安全性の高いガスを加熱処理装置の内部に導入し、且つ、処理後はこれらのガスが木材等の内部に残留することがない安全な薬品を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し本発明の完成に至った。
即ち、本発明に係る耐朽性材料は、請求項1の記載によると、
薬品による前処理を行うことなく加熱処理されてなる木材等からなり、
JIS K 1571:2010「木材保存剤-性能基準及びその試験方法(5.2防腐性能 5.2.1室内試験 5.2.1.1注入処理用)」に準拠して測定した質量減少率の値が、3%以下であることを特徴とする。
また、本発明に係る耐朽性材料は、請求項2の記載によると、
薬品による前処理を行うことなく加熱処理されてなる木材等からなり、
前記木材等の加熱処理前の質量を基準として、
加熱処理前の硫酸法による酸不溶成分の比率をA、加熱処理後の硫酸法による酸不溶成分の比率をBとしたときに、
下記の式(1)で示す、
C=[(B-A)/A]×100 ・・・・・ (1)
酸不溶成分の増加率の値Cが、9%以上であることを特徴とする。
また、本発明は、請求項3の記載によると、請求項1又は2に記載の耐朽性材料であって、
寸法安定性の指標である抗膨潤能を測定するにあたり、
減圧加圧注入缶を用いて水を注入した前記耐朽性材料の全乾状態からの寸法変化から算出した吸水後の抗膨潤能(吸水ASE)の値が、40%以上であることを特徴とする。
また、本発明は、請求項4の記載によると、請求項1又は2に記載の耐朽性材料であって、
前記耐朽性材料の表面と内部における褐変の状態が同等であることを特徴とする。
また、本発明に係る耐朽性材料の製造方法は、請求項5の記載によると、
木材等に薬品による前処理を行うことなく、
塩基性ガス、酸性ガス、塩基性ガスと酸性ガスとの混合ガス、及び、ガス化した塩類のうち少なくとも1つを含有する雰囲気中で、前記木材等を加熱処理することを特徴とする。
また、本発明は、請求項6の記載によると、請求項4に記載の耐朽性材料の製造方法であって、
前記塩基性ガスはアンモニアであることを特徴とする。
また、本発明は、請求項7の記載によると、請求項4に記載の耐朽性材料の製造方法であって、
前記酸性ガスは塩化水素であることを特徴とする。
また、本発明は、請求項8の記載によると、請求項4に記載の耐朽性材料の製造方法であって、
前記ガス化した塩類は塩化アンモニウムであることを特徴とする。
また、本発明に係る耐朽性材料の製造方法は、請求項9の記載によると、
密閉されたチャンバーの内部に、薬品による前処理を行っていない木材等と、当該木材等を処理するためのガス発生剤とを収納し、
前記チャンバーの内部を加熱することにより、前記ガス発生剤から塩基性ガス、酸性ガス、塩基性ガスと酸性ガスとの混合ガス、及び、ガス化した塩類のうち少なくとも1つを発生し、当該ガスを含有する雰囲気中で、前記木材等を加熱処理することを特徴とする。
また、本発明は、請求項10の記載によると、請求項9に記載の耐朽性材料の製造方法であって、
前記ガス発生剤は、アンモニア水溶液であることを特徴とする。
また、本発明は、請求項11の記載によると、請求項9に記載の耐朽性材料の製造方法であって、
前記ガス発生剤は、塩酸水溶液であることを特徴とする。
また、本発明は、請求項12の記載によると、請求項9に記載の耐朽性材料の製造方法であって、
前記ガス発生剤は、塩化アンモニウムであることを特徴とする。
また、本発明は、請求項13の記載によると、請求項5又は9に記載の耐朽性材料の製造方法であって、
前記加熱処理は、150℃~200℃の温度範囲で行うことを特徴とする。
また、本発明は、請求項14の記載によると、請求項5又は9に記載の耐朽性材料の製造方法であって、
前記加熱処理による前記木材等の質量減少率は、3質量%~15質量%の範囲内にあることを特徴とする。
また、本発明は、請求項15の記載によると、請求項5又は9に記載の耐朽性材料の製造方法であって、
製造された前記耐朽性材料に対する、JIS K 1571:2010「木材保存剤-性能基準及びその試験方法(5.2防腐性能 5.2.1室内試験 5.2.1.1注入処理用)」に準拠して測定した質量減少率の値が、3%以下であることを特徴とする。
また、本発明は、請求項16の記載によると、請求項5又は9に記載の耐朽性材料の製造方法であって、
前記木材等の加熱処理前の質量を基準として、
加熱処理前の硫酸法による酸不溶成分の比率をA、加熱処理後の硫酸法による酸不溶成分の比率をBとしたときに、
下記の式(1)で示す、
C=[(B-A)/A]×100 ・・・・・ (1)
酸不溶成分の増加率の値Cが、9%以上であることを特徴とする。
また、本発明は、請求項17の記載によると、請求項5又は9に記載の耐朽性材料の製造方法であって、
寸法安定性の指標である抗膨潤能を測定するにあたり、
減圧加圧注入缶を用いて水を注入した前記耐朽性材料の全乾状態からの寸法変化から算出した吸水後の抗膨潤能(吸水ASE)の値が、40%以上であることを特徴とする。
また、本発明は、請求項18の記載によると、請求項5又は9に記載の耐朽性材料の製造方法であって、
前記加熱処理後の前記耐朽性材料の表面と内部における褐変の状態が同等であることを特徴とする。
上記構成によれば、本発明に係る耐朽性材料は、薬品による前処理を行うことなく加熱処理されてなる木材等からなる。また、耐朽性能として、JIS K 1571:2010「木材保存剤-性能基準及びその試験方法(5.2防腐性能 5.2.1室内試験 5.2.1.1注入処理用)」に準拠して測定した質量減少率の値が、3%以下である。また、木材等の加熱処理前の質量を基準として、加熱処理前の硫酸法による酸不溶成分の比率をA、加熱処理後の硫酸法による酸不溶成分の比率をBとしたときに、酸不溶成分の増加率の値C=[(B-A)/A]×100が、9%以上であることが好ましい。また、この耐朽性材料は、減圧加圧注入缶を用いた吸水後の抗膨潤能(吸水ASE)の値が、40%以上であることが好ましい。また、この耐朽性材料は、その表面と内部における加熱処理による褐変の状態が同等であることが好ましい。
このことにより、木材等に予め薬品による前処理を行うことなく、且つ、特殊な装置や過大なエネルギーを必要とせず、木材等の内部まで均質な耐朽性を有する耐朽性材料を提供することができる。
また、上記構成によれば、本発明に係る耐朽性材料の製造方法は、木材等に薬品による前処理を行うことなく、塩基性ガス、酸性ガス、塩基性ガスと酸性ガスとの混合ガス、及び、ガス化した塩類のうち少なくとも1つを含有する雰囲気中で、木材等を加熱処理する。なお、塩基性ガスはアンモニアであることが好ましく、酸性ガスは塩化水素であることが好ましい。また、ガス化した塩類は、塩化アンモニウムであることが好ましい。
このことにより、木材等に予め薬品による前処理を行うことなく、且つ、特殊な装置や過大なエネルギーを必要とせず、木材等の内部まで均質な耐朽性を有する耐朽性材料の製造方法を提供することができる。
また、上記構成によれば、本発明に係る耐朽性材料の製造方法は、まず、密閉されたチャンバーの内部に、薬品による前処理を行っていない木材等と、当該木材等を処理するためのガス発生剤とを収納する。次に、チャンバーの内部を加熱することにより、ガス発生剤から塩基性ガス、酸性ガス、塩基性ガスと酸性ガスとの混合ガス、及び、ガス化した塩類のうち少なくとも1つを発生し、当該ガスを含有する雰囲気中で木材等を加熱処理する。なお、ガス発生剤は、アンモニア水溶液であることが好ましく、又は塩酸水溶液であることが好ましい。また、ガス発生剤は、塩化アンモニウムであることが好ましい。これらのことにより、上記作用効果をより一層具体的に発揮することができる。
また、上記構成によれば、加熱処理は、150℃~200℃の温度範囲で行うことが好ましい。また、加熱処理による木材等の質量減少率は、3質量%~15質量%の範囲内にあることが好ましい。また、製造された耐朽性材料に対する、JIS K 1571:2010「木材保存剤-性能基準及びその試験方法(5.2防腐性能 5.2.1室内試験 5.2.1.1注入処理用)」に準拠して測定した質量減少率の値が、3%以下であることが好ましい。また、木材等の加熱処理前の質量を基準として、加熱処理前の硫酸法による酸不溶成分の比率をA、加熱処理後の硫酸法による酸不溶成分の比率をBとしたときに、酸不溶成分の増加率の値C=[(B-A)/A]×100が、9%以上であることが好ましい。これらのことにより、上記作用効果をより一層具体的に発揮することができる。
また、上記構成によれば、寸法安定性の指標である抗膨潤能を測定するにあたり、減圧加圧注入缶を用いて水を注入した前記耐朽性材料の全乾状態からの寸法変化から算出した吸水後の抗膨潤能(吸水ASE)の値が、40%以上であることが好ましい。また、この耐朽性材料は、その表面と内部における加熱処理による褐変の状態が同等であることが好ましい。これらのことにより、上記作用効果をより一層具体的に発揮することができる。
実施例1において得られた耐朽性材料の各試験片の表面状態を示す写真である。 実施例1において得られた耐朽性材料の各試験片の表面状態と内部状態とを比較した写真である。 実施例1における加熱処理の処理時間と試験片の質量減少率との関係を示すグラフである。 実施例1における加熱処理の処理時間と塩化アンモニウムの質量減少率との関係を示すグラフである。 実施例1における加熱処理の処理時間とオオウズラタケでの抗菌操作による質量減少率との関係を示すグラフである。 実施例1における加熱処理の処理時間とカワラタケでの抗菌操作による質量減少率との関係を示すグラフである。 実施例1における加熱処理による試験片の質量減少率とオオウズラタケでの抗菌操作による質量減少率との関係を示すグラフである。 実施例1における加熱処理による試験片の質量減少率とカワラタケでの抗菌操作による質量減少率との関係を示すグラフである。 実施例1における加熱処理の処理時間と酸不溶成分の比率との関係を示すグラフである。 実施例2における加熱処理の処理時間と抗膨潤能(吸水ASE)・抗吸湿能(MEE)との関係を示すグラフである。
まず、本発明に係る耐朽性材料の原材料となる素材について説明する。一般に、一本の原木から角材や板材を直接必要な寸法に切り出したものを製材或いは無垢材と呼ぶ。一方、木の小さな破片や薄い板を集め、接着剤などで貼りつけて大きな寸法の部材としたものを木質材料と呼ぶ。例えば、合板(べニヤ板を含む)、集成材、LVL(単板積層材)、パーティクルボード、ファイバーボード、MDF(中密度繊維板)などを挙げることができる。なお、本発明においては、上記の製材或いは無垢材などの木材及び木質材料に加え、ヤシや竹などの草本類を含めて、本発明に係る耐朽性材料の原材料を「木材等」と定義する。
また、これらの木材、木質材料、ヤシや竹などの草本類の細胞壁は、リグノセルロースから構成されている。リグノセルロースの主要な構成分子は、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンである。なお、本発明における反応機構は十分に解明されていないが、実施例を評価する際に若干の考察を加えた(後述する)。
従来の耐朽性材料の製造方法においては、上記JIS K 1571:2010「木材保存剤-性能基準及びその試験方法(5.2防腐性能 5.2.1室内試験 5.2.1.1注入処理用)」に準拠して測定した質量減少率の値を3%以下とするためには、少なくとも220℃以上の高温で加熱処理する必要があった。そこで、木材等の燃焼を防止するために、処理装置内及び木材等の内部の空気(酸素)を排除し、過熱水蒸気雰囲気下、或いは、不活性ガスの窒素雰囲気下で処理するものがある(上記特許文献1及び2)。一方、木材等の燃焼を防止するために200℃以下の温度で加熱処理する場合には、木材等を種々の薬品で前処理する必要があった(上記特許文献3及び4)。木材等を種々の薬品で前処理する方法としては、木材等の内部への含浸や表面への塗布などがある。従来の技術では、実用的かつ効果的な方法として減圧・加圧などの注入法で木材等の内部への含浸が行われた。
本発明に係る耐朽性材料の製造方法においては、木材等を加熱処理する前に、その木材等に薬品による前処理を行うことを要しない。本発明の最大の特徴は、木材等を薬品で前処理することなく、且つ、200℃以下の温度で加熱処理することにある。
次に、本発明に係る耐朽性材料及びその製造方法を実施形態により説明する。なお、本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではない。
本実施形態においては、加熱処理装置としてチャンバーを使用するが、これに限定するものではない。チャンバーの内部には、処理対象の木材等と共に、加熱処理の際に有効なガス(以下「処理用ガス」という)がチャンバー内の酸素と共に存在する。本発明は、高温の加熱処理を採用することから、使用する処理用ガスは安全性の高いものであることが好ましい。なお、このような処理用ガスを使用する場合であっても、処理用ガスの急性曝露ガイドライン濃度、腐食性、刺激臭などを十分に配慮した装置で行う必要がある。また、チャンバーは、耐圧容器や厳密な密閉式のものでなくともよい。
本発明においては、木材等の燃焼を防止するために200℃以下の温度で加熱処理を行う。特に、加熱処理の温度は、150℃~200℃の範囲内であり、160℃~180℃の範囲内であることが好ましい。200℃より高い温度では、木材等が燃焼する危険性がある。一方、150℃より低い温度では、充分な耐朽性が得られない。また、加熱処理の処理時間は、処理する木材等の種類と加熱温度などにより適宜調整すればよい。
また、処理する木材等には薬品での前処理を行わないが、木材等の含水率の調整についても特に限定するものではない。なお、加熱処理の安定性と得られる耐朽性を均質にするために、予め木材等の含水率の調整或いは乾燥処理などを行うことが好ましい。本実施形態において、木材等を予め全乾状態としてから処理することとした。
本発明に有効な処理用ガスとしては、アンモニアガス、各種アミンガスなどの塩基性ガス、若しくは、塩化水素ガス、酢酸ガス、ギ酸ガスなどの酸性ガス、又は、これらの塩基性ガスと酸性ガスとの混合ガスを使用することができる。特に、アンモニアガスと塩化水素ガスの混合ガスを使用することが好ましい。また、ガス化した塩類などを使用してもよい。例えば、塩化アンモニウム(分解昇華点:335℃)では、分解昇華点よりもかなり低い温度から昇華が始まるが、初期の段階では分解せずに塩の状態で昇華するという報告もある。また、使用する処理用ガスの濃度と配合割合は、特に限定するものではないが、チャンバーの容量、処理する木材等の量、及び、処理温度と処理時間などにより適宜調整することが好ましい。なお、処理に際してチャンバー内の空気(酸素)を排除することを要しない。
チャンバー内に処理用ガスを供給する方法については、特に限定するものではなく、チャンバー内にガスボンベから直接供給してもよい。或いは、チャンバー外のガス発生装置で予め発生させたガスをチャンバー内に供給してもよい。また、チャンバー内に処理用ガスの発生源となる物質(以下「ガス発生剤」という)を配置して、加熱処理によりチャンバー内の温度が上昇するにつれて処理用ガスがチャンバー内に放出されるようにしてもよい。なお、チャンバー内の処理用ガスの濃度を制御するには、所定量のガス発生剤をチャンバー内に配置することが好ましい。
ガス発生剤としては、処理用ガスの種類と加熱処理温度とを考慮して適宜選定すればよい。例えば、塩基性ガスとしてアンモニアガスを発生させるためには、所定の濃度のアンモニア水溶液を使用する。また、酸性ガスとして塩化水素ガスを発生させるためには、所定の濃度の塩酸水溶液を使用する。また、ガス化した塩類、又は、塩基性ガスと酸性ガスとの混合ガスとしてアンモニアガスと塩化水素ガスとを同時に発生させるためには、これらの塩である塩化アンモニウムを所定量使用する。
本実施形態においては、ガス発生剤として塩化アンモニウムを使用することが好ましい。塩化アンモニウムの分解昇華点は335℃であるが、耐朽性材料の加熱処理温度(200℃以下)よりも低い温度から徐々に昇華してチャンバー内にガス化した塩化アンモニウム、アンモニアガス、塩化水素ガス、或いはこれらの混合ガスが放出される。従って、耐朽性材料の製造に際し、チャンバーの容量、処理する木材等の量、及び、処理温度と時間などを考慮したうえで、処理前にチャンバー内に配置した塩化アンモニウムの量と、処理後にチャンバー内に残留した塩化アンモニウムの量とから、木材等に作用したアンモニアガス及び塩化水素ガスなどの量を把握し制御することが容易となる。
ここで、本発明における処理用ガスの作用について考察する。200℃以下の温度で木材等を処理する際の処理用ガスの作用については、未だ正確に解明されたものではない。しかし、本発明者らは、上記特許文献4(含浸前処理を伴う)を成した際の開発思想と知見、及び、本発明(含浸前処理を伴わない)の開発段階での知見を基に、処理用ガスの作用について次のように考えている。
酸性ガスとして塩化水素ガスを使用した場合、木材等は200℃以下の処理温度で熱分解により質量減少を生じる。この現象は、含浸前処理を伴う上記特許文献4の場合と同様の結果であった。このことから、チャンバー内の塩化水素ガスは、木材等の内部に侵入して木材等の熱分解を促進するものと考えられる。また、処理後の耐朽性材料の良好な性能から(後述する)、耐朽性の低いヘミセルロースを中心に分解を生じさせるものと考えられる。
なお、本発明における加熱処理による木材等の質量減少率は、3質量%~15質量%の範囲内にあることが好ましい。また、質量減少率は、5質量%~13質量%の範囲内にあることがより好ましく、10質量%~13質量%の範囲内にあることが更に好ましい。質量減少率が3質量%~15質量%の範囲内にあることにより、木材等に高い耐朽性や寸法安定性を付与することができる。
また、ガス発生剤として塩化アンモニウムを使用した加熱処理においては、酸不溶成分が増加することを確認した。具体的には、硫酸法により、処理前の木材等と処理後の耐朽性材料の酸不溶成分を定量して比較した。硫酸法とは、木材等の酸不溶成分を定量する一般的な方法であって、「クラーソン法」ともいう(参考:日本木材学会編 木材科学実験書II化学編,中外産業調査会,P.148-153 (1985))。その結果、含浸前処理を伴う上記特許文献4の場合と同様の結果であった。
本発明における加熱処理により得られた耐朽性材料の硫酸法による酸不溶成分の増加率の割合は、次のようにして算出した。まず、加熱処理前の木材等の質量を全乾基準で測定する。この加熱処理前の質量を基準として、加熱処理前の硫酸法による酸不溶成分の比率をAとする。同様に、加熱処理前の質量を基準として、加熱処理後の硫酸法による酸不溶成分の比率をBとする。このとき、下記の式(1)で示すCの値を加熱処理による酸不溶成分の増加率(%)と定義する。
本発明において、加熱処理による酸不溶成分の増加率Cの値は、9%以上であることがよく、20%以上であることが好ましく、また、30%以上であることがより好ましい。また、増加率Cの値の上限は、特に限定するものではないが、実用的には、例えば、9%~50%の範囲内であってもよい。このことにより、木材等に高い耐朽性や寸法安定性を付与することができる。
更に、塩基性ガスとしてアンモニアガスを使用した場合、或いは、ガス発生剤として塩化アンモニウムを使用した場合、処理後の耐朽性材料の内部の窒素成分(アンモニアに由来すると考えられる)が増加することを確認した。具体的には、CNコーダーによる窒素分の定量を行うことができる。このことの作用は、未だ解明されていないが、アンモニアに由来する窒素が耐朽性材料の内部で何らかの反応をして、木材等の耐朽性や寸法安定性の向上に寄与している可能性があると考えられる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例にのみ限定されるものではない。
本実施例1においては、処理用ガスのガス発生剤として塩化アンモニウムを使用し、スギ辺材を加熱処理した。具体的には、内部空間が幅190mm×奥行94mm×高さ50mmのチャンバー(容量893,000mm)を2器使用した。一方、試験片として木口面20mm×20mm、繊維方向10mmのスギ辺材(1条件に各24ピース)を準備し、各チャンバー内にそれぞれ12ピースずつ、同一面上に等間隔に配置した。また、各チャンバー内の同一面上にそれぞれ2カ所ずつ薬品皿を配置し、各薬品皿にそれぞれ1gの塩化アンモニウムをセットした。試験片と薬品皿とを配置した2器のチャンバーを定温乾燥機(ヤマト科学株式会社製、DY300)の庫内に設置し、加熱処理を行った。なお、チャンバーの内部温度と試験片の内部温度を測定する各熱電対温度計をセットした。
各試験片は、質量変化の測定の必要から予め全乾基準の質量を測定してから加熱処理に供した。なお、本実施例1においては、加熱処理温度は180℃で統一し、処理時間を変化させた。加熱処理は、試験片とガス発生剤とを配置してチャンバーの扉を閉鎖してから昇温を開始した。昇温によりチャンバーの内部では、塩化アンモニウムが徐々に昇華してガス化した塩化アンモニウム、アンモニアガス、塩化水素ガス、或いはこれらの混合ガスが放出されたものと思われる。昇温開始後、試験片の内部温度が設定処理温度180℃に達してから、4,8,12,16,20,24時間の各処理時間の加熱処理を行って各試験条件の耐朽性材料(実施例1-6~1-1)を得た。
表1に各試験条件において測定したチャンバー内の平均温度、試験片内部の平均温度、塩化アンモニウムの質量減少率、加熱処理における試験片の質量減少率をそれぞれ試験片24ピースの平均値で示す。図1は、得られた耐朽性材料(実施例1-6~1-1)の各試験片の表面状態を示す写真である。図2は、実施例1において得られた耐朽性材料の各試験片の表面状態と内部状態とを比較した写真である。図3は、加熱処理の処理時間と試験片の質量減少率との関係を示すグラフである。図4は、加熱処理の処理時間と塩化アンモニウムの質量減少率との関係を示すグラフである。
図1及び図2に示す各写真はグレースケールで表されているが、元の写真はカラーである。図1の各試験片の表面状態のカラー写真からは、処理後の試験片の表面が褐変しており、加熱処理の処理時間が長くなるにしたがって、褐変の程度が強くなっていることが分かる。一方、図2の各試験片の表面状態と内部状態とを比較したカラー写真からは、処理後の各試験片の表面側の褐変状態と内部側(繊維方向にスライスした中央部)の褐変状態とが同程度であることが分かる。このことから、加熱処理の雰囲気中に存在するガスによって、試験片の内部(中央部)まで均一に加熱処理されていることが分かる。
表1において、加熱処理の処理時間が長くなるにしたがって、試験片の質量減少率が大きくなっている。処理時間4時間から24時間の範囲では、試験片の質量減少率が約3%から12%まで増加していく。また、図3のグラフから、加熱処理の処理時間と試験片の質量減少率とは、正比例関係にあることが分かる。
一方、加熱処理の処理時間が長くなるにしたがって、塩化アンモニウムの質量減少率も大きくなっている。また、図4のグラフから、加熱処理の処理時間と塩化アンモニウムの質量減少率とは、正比例関係にあることが分かる。このことから、試験片の質量減少率の増加に塩化アンモニウムの質量減少率が影響しているものと考えられる。なお、チャンバーの容積と塩化アンモニウムの質量減少率から、チャンバー内に発生したガス化した塩化アンモニウムガス、アンモニアガス、塩化水素ガス、或いはこれらの混合ガスの濃度を算出できるので、チャンバー内の処理用ガスの濃度と試験片の質量減少率との関係が考察できると考えられる。
次に、本実施例1で得られた耐朽性材料(実施例1-6~1-1)の各試験片の耐朽性を評価した。評価方法は、JIS K 1571:2010「木材保存剤-性能基準及びその試験方法(5.2防腐性能 5.2.1室内試験 5.2.1.1注入処理用)」に準拠して質量減少率の値を測定した。供試菌は、オオウズラタケ及びカワラタケである。
具体的には、耐朽性材料(実施例1-6~1-1)の各試験片と、対照試験片(未処理)として同寸法の未処理のスギ辺材を使用した。なお、耐朽性材料の各試験片には、上記JISに準拠して、耐候操作を実施した後、12週間の抗菌操作を実施した。また、上記JISに準拠して、個々の試験片の耐候操作による質量減少率、及び、抗菌操作による質量減少率を算出し、その平均値および標準偏差を求めた。一方、対照試験片には、耐候操作をせずに抗菌操作を実施した。
表2に防腐性能試験結果から各試験片(実施例1-6~1-1及び未処理)の耐候操作による質量減少率、及び、抗菌操作による質量減少率を示す。図5は、加熱処理の処理時間とオオウズラタケでの抗菌操作による質量減少率との関係を示すグラフである。図6は、加熱処理の処理時間とカワラタケでの抗菌操作による質量減少率との関係を示すグラフである。図7は、加熱処理による試験片の質量減少率とオオウズラタケでの抗菌操作による質量減少率との関係を示すグラフである。図8は、加熱処理による試験片の質量減少率とカワラタケでの抗菌操作による質量減少率との関係を示すグラフである。
表2において、加熱処理の処理時間の長さにかかわらず、全ての処理条件において、耐候操作により2%程度の質量減少がみられた。また、図5において、オオウズラタケでの抗菌操作による質量減少率は、加熱処理の処理時間が短い間は大きく、処理時間が長くなるにしたがって減少した。一方、図6において、カワラタケでの抗菌操作による質量減少率は、加熱処理の処理時間にあまり影響されることなく低い値であった。
次に、加熱処理による試験片の質量減少率と抗菌操作による質量減少率との関係を図7及び図8で確認した。図7において、加熱処理による試験片の質量減少率が6%を超えた辺りから、オオウズラタケでの抗菌操作による質量減少率が10%より小さくなり、その後徐々に低下した。一方、図8において、加熱処理による試験片の質量減少率が3%を超えた辺りから、カワラタケでの抗菌操作による質量減少率が非常に小さくなった。
上記JISにおける防腐性能基準は、対照試験片である未処理試験片の質量減少率がオオウズラタケで30%以上、カワラタケで15%以上の時に、処理試験片の質量減少率がオオウズラタケ及びカワラタケでともに3%以下と定められている。この基準によれば、本実施例1の耐朽性材料のうち、180℃で20時間以上、すなわち、処理による質量減少率が10.5%以上の場合において、オオウズラタケ、カワラタケともに質量減少率が3%以下となり、防腐性能基準を満たした。なお、上記JISの防腐性能基準である質量減少率3%以下でない場合であっても、未処理試験片に比べ大幅な耐朽性の向上を認めた。
次に、本実施例1で得られた耐朽性材料の耐朽性発現の原因を調査する目的で、酸不溶成分の比率を測定した。評価方法は、上述の硫酸法で行い、加熱処理前の各試験片の全乾状態の質量を基準として、加熱処理前の酸不溶成分の比率A、加熱処理後の酸不溶成分の比率Bを測定した。次に、上述の式(1)で示す加熱処理による酸不溶成分の増加率Cを算出した。
具体的には、耐朽性材料(実施例1-6~1-1)の各試験片をアブソリュートミルで粉砕後、40~100メッシュで選別して粒径を揃えたものを常温の脱イオン水で48時間撹拌して水に可溶な成分を溶脱して試験体とした。なお、未処理のスギ辺材を同様にして水に可溶な成分を溶脱して対照試験体とした。
酸不溶成分の測定操作は、上記方法に準拠して、試験片に72%硫酸を滴下し一定時間おきに撹拌しながら室温で4時間静置した。その後、硫酸濃度を3%に希釈して4時間還流煮沸した。酸不溶成分をろ過後、105℃で乾燥して全乾状態とした。その状態で酸不溶残渣量を求め、酸不溶成分の比率を算出した。
表3に硫酸法の結果から各試験片の酸不溶成分の比率A及びB(加熱処理前の各試験片の全乾状態の質量を基準として)の値を示す。また、A及びBの値から算出した加熱処理による酸不溶成分の増加率Cの値を示す。図9は、加熱処理の処理時間と酸不溶成分の比率との関係を示すグラフである。
表3において、加熱処理の処理時間の長さにかかわらず、全ての処理条件において、水での溶脱操作による質量減少率は3%~4%程度であり、未処理と同程度又は少し大きかった。一方、本実施例1で得られた耐朽性材料は、いずれも酸不溶成分の比率が未処理よりも大きな値を示した。また、加熱処理の処理時間が長くなるにしたがって、酸不溶成分の比率が増加していった。なお、図9のグラフから、加熱処理の処理時間と試験片の酸不溶成分の比率とは、少しの乱れを示したが略正比例関係にあることが分かる。
表3において、式(1)で算出した加熱処理による酸不溶成分の増加率Cの値は、加熱処理の処理時間が長くなるにしたがって増加した。加熱処理により酸不溶成分の比率が増加する理由については定かではないが、本発明者らは次のように考えている。加熱により、主にヘミセルロースがガス化、あるいは水溶性物質となって、被処理木材から除去されると同時に、その一部が、アンモニウム中の窒素を取り込んで、木材の他成分とも反応して、耐朽性を示す成分に変成したものと思われる。このように、本実施例1で得られた耐朽性材料は、その酸不溶成分の比率が増加することにより、薬剤を用いないで行う220℃での熱処理に比べて、小さい質量減少率で高い耐朽性が付与されたものと考えられる。
次に、実施例2として、耐朽性材料の寸法安定性の評価を行った。本実施例2においては、上記実施例1と同様に処理用ガスのガス発生剤として塩化アンモニウムを使用し、スギ辺材を加熱処理した。具体的には、接線方向(T)30mm×放射方向(R)30mm×繊維方向(L)約1000mmの大きさに仕上げた、二方柾で無欠点のスギ辺材6本を用意した。次に、各スギ辺材に対して繊維方向に連続して6mmの大きさに切り出し、それぞれ100ピース以上の試験片を作製した。試験片としては、処理条件ごとに元のスギ辺材6本から切り出した試験片から、それぞれ1ピースずつ選び、未処理及び加熱処理の各試験片を1条件につき合計6ピースを使用した。
加熱処理には、上記実施例1と同様のチャンバー(容量893,000mm)を2器使用した。各チャンバー内にそれぞれ3ピースずつ、同一面上に等間隔に配置した。また、各チャンバー内の同一面上にそれぞれ2カ所ずつ薬品皿を配置し、各薬品皿にそれぞれ1gの塩化アンモニウムをセットした。試験片と薬品皿とを配置した2器のチャンバーを上記実施例1と同様の定温乾燥機の庫内に設置し、加熱処理を行った。なお、チャンバーの内部温度と試験片の内部温度を測定する各熱電対温度計をセットした。
各試験片は、寸法安定性の評価の必要から予め全乾基準の質量及び各部位の寸法を測定してから加熱処理に供した。なお、本実施例2においては、加熱処理温度は上記実施例1と同様の180℃で統一し、処理時間を変化させた。加熱処理は、試験片とガス発生剤とを配置してチャンバーの扉を閉鎖してから昇温を開始した。昇温によりチャンバーの内部では、塩化アンモニウムが徐々に昇華してガス化した塩化アンモニウム、アンモニアガス、塩化水素ガス、或いはこれらの混合ガスが放出されたものと思われる。昇温開始後、試験片の内部温度が設定処理温度180℃に達してから、1,2,4,8,12,16,20,24時間の各処理時間の加熱処理を行って各試験条件の耐朽性材料(実施例2-8~2-1)を得た。
《寸法安定性の評価》
ここで、耐朽性材料に対する寸法安定性の指標として、木材等に対する一般的な手法である抗吸湿能(MEE)及び抗膨潤能(吸水ASE)を測定した。
1.抗吸湿能(MEE;Moisture-Excluding Efficiency)
本実施例2においては、耐朽性材料の吸湿性に対する性能評価として抗吸湿能(MEE)を測定した。具体的には、耐朽性材料(実施例2-8~2-1)と未処理の試験片を20℃×相対湿度90%で恒量になるまで調湿し、各試験片の吸湿率の平均値から、下記の式(2)に示す抗吸湿能(MEE、%)を算出した。
2.抗膨潤能(吸水ASE;Anti-Swelling Efficiency)
本実施例2においては、耐朽性材料の膨潤性に対する性能評価として抗膨潤能(吸水ASE)を測定した。特に、耐朽性材料が屋外などの厳しい環境下で使用される場合を想定して、水中での減圧・加圧注入法による含水後の抗膨潤能である吸水ASEを採用した。具体的には、各試験片を蒸留水に沈め、減圧加圧注入缶を用いて、-0.07MPa~-0.10MPaの減圧下で1時間、続いて1.0MPa~1.2MPaの加圧下で1時間、更に常圧に戻した後2時間水中に静置した。その後、各試験片を取り出し、質量と寸法(長さ×幅×厚さ)を測定し、下記の式(3)に示す抗膨潤能(吸水ASE、%)を算出した。
表4に各試験条件において測定した加熱処理における各試験片の質量減少率、調湿後含水率(調湿条件;20℃×90%RH)、並びに、寸法安定性の評価項目として抗吸湿能(MEE)及び抗膨潤能(吸水ASE)をそれぞれ試験片6ピースの平均値で示す。図10は、加熱処理の処理時間と抗膨潤能(吸水ASE)・抗吸湿能(MEE)との関係を示すグラフである。なお、図10には、加熱処理の処理時間と質量減少率との関係も示している。
表1及び図10において、加熱処理の処理時間が長くなるにしたがって、試験片の質量減少率が大きくなっており、上記実施例1と同様であった。処理時間1時間から24時間の範囲では、試験片の質量減少率が約1%から14%まで増加していく。
一方、加熱処理の処理時間が長くなるにしたがって、調湿後含水率(調湿条件;20℃×90%RH)が徐々に減少している。この調湿後含水率の変化を寸法安定性の指標として表した抗吸湿能(MEE)は、加熱処理の処理時間が4時間以上において38%以上の向上を示した。これは、試験片の質量減少率がおよそ4%以上に対応していた。
また、寸法安定性の指標である抗膨潤能(吸水ASE)は、加熱処理の処理時間が4時間以上において42%以上の向上を示した。なお、加熱処理の処理時間が20時間を超えて24時間に至って僅かではあるが低下傾向にあった。しかし、加熱処理の処理時間が8時間から20時間においては、45%を超える大幅な向上を示した。これらのことから、本発明者らは、抗膨潤能(吸水ASE)の値が、40%を超えるものを良好な寸法安定性と評価した。これは、試験片の質量減少率がおよそ3%~13%程度に対応するものと考えられる。このように、本実施例2で得られた耐朽性材料は、薬剤を用いないで行う220℃での熱処理に比べて、小さい質量減少率(およそ3%~13%程度)で良好な寸法安定性が付与されたものと考えられる。
以上説明したように、本発明においては、木材等に予め薬品による前処理を行うことなく、且つ、特殊な装置や過大なエネルギーを必要とせず、木材等の内部まで均質な耐朽性を有する耐朽性材料及びその製造方法を提供することができる。
なお、本発明の実施にあたり、上記実施例に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記実施例1においては、処理用ガスのガス発生剤として塩化アンモニウムを使用し、チャンバー内にガス化した塩化アンモニウムガス、アンモニアガス、塩化水素ガス、或いはこれらの混合ガスを発生させた。しかし、これに限るものではなく、ガス発生剤として塩化アンモニウム以外の塩を使用するようにしてもよい。
(2)上記実施例1においては、処理用ガスのガス発生剤として塩化アンモニウムを使用し、チャンバー内にガス化した塩化アンモニウムガス、アンモニアガス、塩化水素ガス、或いはこれらの混合ガスを発生させた。しかし、これに限るものではなく、単独の塩基性ガス又は酸性ガスを使用してもよい。その場合には、アンモニア水溶液などの単独の塩基性ガス発生剤、或いは、塩酸水溶液などの単独の酸性ガス発生剤をガス発生剤として使用してもよい。
(3)上記実施例1においては、塩化アンモニウムを処理用ガスのガス発生剤として使用した。しかし、これに限るものではなく、酸性ガスや塩基性ガスをチャンバー内に直接供給するようにしてもよい。
(4)上記実施例1においては、加熱処理の処理温度として180℃を採用した。しかし、これに限るものではなく、150℃~200℃の温度範囲であれば他の処理温度で行ってもよい。

Claims (18)

  1. 薬品による前処理を行うことなく加熱処理されてなる木材等からなり、
    JIS K 1571:2010「木材保存剤-性能基準及びその試験方法(5.2防腐性能 5.2.1室内試験 5.2.1.1注入処理用)」に準拠して測定した質量減少率の値が、3%以下であることを特徴とする耐朽性材料。
  2. 薬品による前処理を行うことなく加熱処理されてなる木材等からなり、
    前記木材等の加熱処理前の質量を基準として、
    加熱処理前の硫酸法による酸不溶成分の比率をA、加熱処理後の硫酸法による酸不溶成分の比率をBとしたときに、
    下記の式(1)で示す、
    C=[(B-A)/A]×100 ・・・・・ (1)
    酸不溶成分の増加率の値Cが、9%以上であることを特徴とする耐朽性材料。
  3. 寸法安定性の指標である抗膨潤能を測定するにあたり、
    減圧加圧注入缶を用いて水を注入した前記耐朽性材料の全乾状態からの寸法変化から算出した吸水後の抗膨潤能(吸水ASE)の値が、40%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐朽性材料。
  4. 前記耐朽性材料の表面と内部における褐変の状態が同等であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐朽性材料。
  5. 木材等に薬品による前処理を行うことなく、
    塩基性ガス、酸性ガス、塩基性ガスと酸性ガスとの混合ガス、及び、ガス化した塩類のうち少なくとも1つを含有する雰囲気中で、前記木材等を加熱処理することを特徴とする耐朽性材料の製造方法。
  6. 前記塩基性ガスはアンモニアであることを特徴とする請求項5に記載の耐朽性材料の製造方法。
  7. 前記酸性ガスは塩化水素であることを特徴とする請求項5に記載の耐朽性材料の製造方法。
  8. 前記ガス化した塩類は塩化アンモニウムであることを特徴とする請求項5に記載の耐朽性材料の製造方法。
  9. 密閉されたチャンバーの内部に、薬品による前処理を行っていない木材等と、当該木材等を処理するためのガス発生剤とを収納し、
    前記チャンバーの内部を加熱することにより、前記ガス発生剤から塩基性ガス、酸性ガス、塩基性ガスと酸性ガスとの混合ガス、及び、ガス化した塩類のうち少なくとも1つを発生し、当該ガスを含有する雰囲気中で、前記木材等を加熱処理することを特徴とする耐朽性材料の製造方法。
  10. 前記ガス発生剤は、アンモニア水溶液であることを特徴とする請求項9に記載の耐朽性材料の製造方法。
  11. 前記ガス発生剤は、塩酸水溶液であることを特徴とする請求項9に記載の耐朽性材料の製造方法。
  12. 前記ガス発生剤は、塩化アンモニウムであることを特徴とする請求項9に記載の耐朽性材料の製造方法。
  13. 前記加熱処理は、150℃~200℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項5又は9に記載の耐朽性材料の製造方法。
  14. 前記加熱処理による前記木材等の質量減少率は、3質量%~15質量%の範囲内にあることを特徴とする請求項5又は9に記載の耐朽性材料の製造方法。
  15. 製造された前記耐朽性材料に対する、JIS K 1571:2010「木材保存剤-性能基準及びその試験方法(5.2防腐性能 5.2.1室内試験5.2.1.1注入処理用)」に準拠して測定した質量減少率の値が、3%以下であることを特徴とする請求項5又は9に記載の耐朽性材料の製造方法。
  16. 前記木材等の加熱処理前の質量を基準として、
    加熱処理前の硫酸法による酸不溶成分の比率をA、加熱処理後の硫酸法による酸不溶成分の比率をBとしたときに、
    下記の式(1)で示す、
    C=[(B-A)/A]×100 ・・・・・ (1)
    酸不溶成分の増加率の値Cが、9%以上であることを特徴とする請求項5又は9に記載の耐朽性材料の製造方法。
  17. 寸法安定性の指標である抗膨潤能を測定するにあたり、
    減圧加圧注入缶を用いて水を注入した前記耐朽性材料の全乾状態からの寸法変化から算出した吸水後の抗膨潤能(吸水ASE)の値が、40%以上であることを特徴とする請求項5又は9に記載の耐朽性材料の製造方法。
  18. 前記加熱処理後の前記耐朽性材料の表面と内部における褐変の状態が同等であることを特徴とする請求項5又は9に記載の耐朽性材料の製造方法。
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