JP2024002994A - 送電装置、ワイヤレス電力伝送システム、制御方法及び制御プログラム - Google Patents

送電装置、ワイヤレス電力伝送システム、制御方法及び制御プログラム Download PDF

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Abstract

Figure 2024002994000001
【課題】受信信号の電波伝搬チャネル特性に基づくアンテナ指向性を適切に制御する。
【解決手段】送電装置10は、受電装置から送信される受信信号の受信を行う受信部と、送信信号の受電装置への送信をアンテナにより行う送信部と、送信信号を送信する電波の、受電装置とは異なる物体が存在する領域における強度が所定以下となるように、物体の大きさに基づいてアンテナの指向性を制御するウェイト生成部17と、を備える。
【選択図】図14

Description

本出願は、送電装置、ワイヤレス電力伝送システム、制御方法及び制御プログラムに関する。
アレーアンテナを用いた無線給電では、レトロディレクティブ方式が用いられることがある。レトロディレクティブ方式は、電力伝送に先立ち受電装置からパイロット信号を送信し、送電装置側でパイロット信号の電波伝搬チャネル特性を推定し、これをもとに送信ウェイトを生成することでアンテナ指向性を制御する。特許文献1には、複数のアンテナ素子と給電対象機器のアンテナとの間の伝搬係数を計算し、伝搬係数に基づいて給電信号の位相及び振幅を複数のアンテナ素子ごとに調整する無線給電装置が開示されている。
特開2020-10485号公報
レトロディレクティブ方式において、受電装置と送電装置の間に人間が存在する場合、受電装置が送信するパイロット信号は、人体で大きく減衰するため、パイロット信号の電波伝搬チャネル特性に基づいてアンテナ指向性を制御すると、送電装置から人体に向けて放射される電波の強度は弱くなり、人体に対する安全性が高いとされている。しかし、送電装置からの電波の適切な放射について改善の余地があった。
態様の1つに係る送電装置は、受電装置から送信される受信信号の受信を行う受信部と、送信信号の前記受電装置への送信をアンテナにより行う送信部と、前記送信信号を送信する電波の、前記受電装置とは異なる物体が存在する領域における強度が所定以下となるように、前記物体の大きさに基づいて前記アンテナの指向性を制御するウェイト生成部と、を備える。
態様の1つに係るワイヤレス電力伝送システムは、受電装置と、前記受電装置から送信される受信信号の受信を行う受信部、送信信号の前記受電装置への送信をアンテナにより行う送信部、及び、前記送信信号を送信する電波が、前記受電装置とは異なる物体が存在する領域における強度が所定以下となるように、前記物体の大きさに基づいて前記アンテナの指向性を制御するウェイト生成部を有する送電装置と、を備える。
態様の1つに係る制御方法は、受電装置から送信される受信信号の受信を行う受信工程と、送信信号の前記受電装置への送信をアンテナにより行う送信工程と、前記送信信号を送信する電波の、前記受電装置とは異なる物体が存在する領域における強度が所定以下となるように、前記物体の大きさに基づいて前記アンテナの指向性を制御する制御工程と、を備える。
また、態様の1つに係る制御プログラムは、コンピュータに、受電装置から送信される受信信号の受信を行う受信工程と、送信信号の前記受電装置への送信をアンテナにより行う送信工程と、前記送信信号を送信する電波の、前記受電装置とは異なる物体が存在する領域における強度が所定以下となるように、前記物体の大きさに基づいて前記アンテナの指向性を制御する制御工程と、を実行させる。
図1は、実施形態に係るワイヤレス電力伝送システムの概要を説明するための図である。 図2は、従来のレトロディレクティブ方式で参考用送電装置が放射した電波の強度分布を計算機シミュレーションによって計算した結果の一例を示す図である。 図3は、実施形態1に係る送電装置の構成の一例を示す図である。 図4は、アダプティブアレーアンテナの等価低域系解析モデルの一例を示す図である。 図5は、アダプティブアレーアンテナと指向性の一例を示す図である。 図6は、実施形態1に係る受電装置の構成の一例を示す図である。 図7は、図1に示すシステムの送電装置の処理手順の一例を説明するための図である。 図8は、図7に示す送電装置のデータフローを説明するための図である。 図9は、実施形態1に係る送電装置の動作例を説明するための図である。 図10は、図9に示す送電装置が放射した電波の強度分布を計算機シミュレーションによって計算した結果の一例を示す図である。 図11は、実施形態1に係る送電装置の電波の指向性パターンの一例を示す図である。 図12は、実施形態1の変形例に係る送電装置の構成の一例を示す図である。 図13は、実施形態1の変形例に係る送電装置の構成の一例を示す図である。 図14は、実施形態2に係る送電装置の構成の一例を示す図である。 図15は、アダプティブアレーアンテナの等価低域系解析モデルの一例を示す図である。 図16は、アダプティブアレーアンテナと指向性の一例を示す図である。 図17は、微係数拘束時のベクトル化の一例を示す図である。 図18は、実施形態2に係る受電装置の構成の一例を示す図である。 図19は、図1に示すシステムの送電装置の処理手順の一例を説明するための図である。 図20は、図19に示す送電装置のデータフローを説明するための図である。 図21は、実施形態2に係る送電装置の動作例を説明するための図である。 図22は、図21に示す送電装置が放射した電波の強度分布を計算機シミュレーションによって計算した結果の一例を示す図である。 図23は、送電装置の電波の指向性パターンの一例を示す図である。 図24は、実施形態2の変形例に係る送電装置の構成の一例を示す図である。 図25は、実施形態2の変形例に係る送電装置の他の構成の一例を示す図である。 図26は、実施形態2の変形例に係る送電装置のデータフローを説明するための図である。 図27は、実施形態3に係る送電装置の構成の一例を示す図である。 図28は、アダプティブアレーアンテナの等価低域系解析モデルの一例を示す図である。 図29は、アダプティブアレーアンテナと指向性の一例を示す図である。 図30は、多点ヌル拘束方式のベクトル化の一例を示す図である。 図31は、微係数拘束方式のベクトル化の一例を示す図である。 図32は、前処理部のヌル深度の処理例を示す図である。 図33は、前処理部のヌル深度の他の処理例を示す図である。 図34は、実施形態3に係る受電装置の構成の一例を示す図である。 図35は、図1に示すシステムの送電装置の処理手順の一例を説明するための図である。 図36は、図35に示す送電装置のデータフローの一例を説明するための図である。 図37は、図35に示す送電装置のデータフローの他の一例を説明するための図である。 図38は、実施形態3に係る送電装置の動作例を説明するための図である。 図39は、実施形態3に係る送電装置の電波の指向性パターンの一例を示す図である。 図40は、実施形態3に係る送電装置の電波の指向性パターンの他の一例を示す図である。 図41は、実施形態3の変形例に係る送電装置の構成の一例を示す図である。 図42は、実施形態3の変形例に係る送電装置の構成の一例を示す図である。 図43は、実施形態3の変形例に係る送電装置の構成の一例を示す図である。
本出願に係る送電装置、ワイヤレス電力伝送システム、制御方法等を実施するための複数の実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。以下の説明において、同様の構成要素について同一の符号を付すことがある。さらに、重複する説明は省略することがある。
図1は、実施形態に係るワイヤレス電力伝送システムの概要を説明するための図である。図1に示すシステム1は、例えば、マイクロ波伝送型(空間伝送型)のワイヤレス電力伝送が可能なワイヤレス電力伝送システムを含む。ワイヤレス電力伝送は、例えば、ケーブルやプラグを用いることなく、電力を伝送することが可能な仕組みである。マイクロ波伝送型のシステム1は、レトロディレクティブ方式を用いることができる。マイクロ波伝送型のシステム1は、エネルギー伝送として電波(マイクロ波)を使用する。マイクロ波伝送型のシステム1において使用する電波の周波数は、複数の周波数帯が利用可能であり、例えば、日本では、920MHz帯、2.4GHz帯、5.7GHz帯等を含む。本実施形態では、システム1は、状況に適した給電効率の向上及び安全性の確保を両立することを可能とする。システム1は、例えば、宇宙太陽光発電等に適用することもできる。
図1に示す一例では、システム1は、マルチパス・レトロディレクティブ方式を用いている。システム1は、送電装置10と、受電装置20と、を備える。システム1は、複数のパス(伝搬チャネル)を使って送電装置10から受電装置20に電力を伝送する。送電装置10は、システム1において、ワイヤレスにより電力を伝送する伝送装置であり、給電用の電波を伝送可能な装置である。送電装置10は、アレーアンテナ11の近傍の人体等の物体を検出可能なセンサ部15を備えている。以下の説明において、送電装置10を「自機」と表記する場合がある。
受電装置20は、システム1において、給電用の電波を受信して電力を得る被給電装置である。受電装置20は、例えば、スマートフォン、タブレット端末、IoT(Internet of Things)センサ、ノート型パーソナル・コンピュータ、ドローン、電気自動車。電動自転車、ゲーム機等を含む。このように、本開示の受電装置は、移動可能な装置であるとしてよい。
場面C1では、受電装置20は、送電装置10との間で定められた規定信号1000を送信できる。規定信号1000は、例えば、ビーコン、パイロット信号等を含む。受電装置20は、例えば、送信周期で規定信号1000を送信できる。受電装置20は、規定信号1000を含む電波を放射することで、規定信号1000を送信できる。一方、送電装置10は、規定信号1000を受信すると、当該規定信号1000に基づいて受電装置20から送電装置10への複数パスの特性値(アレー応答ベクトル)を推定する。送電装置10は、推定した受電装置20に対するアレー応答ベクトルを用いて送信用の重み係数を算出する。
場面C2では、送電装置10は、各アンテナに重み係数を乗算して指向性制御を行い、給電用の送信信号2000を含む電波を放射する。指向性制御は、例えば、電波の放射方向と放射強度との関係を制御することを意味する。規定信号1000と送信信号2000の周波数が同一で伝搬路の時間変動を無視すれば、送電装置10から受電装置20への複数パスの特性は、受電装置20から送電装置10への特性と一致する。これにより、送電装置10から放射される電波2000Wは、受電装置20に向かうパスだけでなく、受電装置20とは異なる方向に向かうパスも活かした放射パターンになる。
図2は、従来のレトロディレクティブ方式で参考用送電装置100Aが放射した電波の強度分布を計算機シミュレーションによって計算した結果の一例を示す図である。図2が示す強度分布3000は、部屋4000の中に参考用送電装置100Aと受電装置20を配置し、物性が人体と似た物体5000を配置し、レトロディレクティブ方式で参考用送電装置100Aから送信信号2000を含む電波2000Wを放射した場合の強度分布を示している。参考用送電装置100Aは、本実施形態に係る送電装置10と同様に、規定信号1000に基づいて受電装置20から送電装置10への複数パスの特性値を推定し、当該特性値を用いてアンテナ指向性を制御し給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを送信可能な構成になっている。部屋4000は、3m×3m×3mの壁素材がコンクリートの部屋になっている。物体5000は、参考用送電装置100Aと受電装置20との間で、参考用送電装置100Aと受電装置20とを結ぶ直線上から左にずれた位置に配置されている。物体5000は、例えば、比誘電率が35.4、導電率が5.17の物性を有している。
図2に示す一例では、強度分布3000は、参考用送電装置100Aから受電装置20に直接向かう電波2000W-1と、参考用送電装置100Aから物体5000に向かう電波2000W-2の強度が強くなっている。すなわち、強度分布3000は、参考用送電装置100Aが受電装置20から規定信号1000を直接受信するとともに、物体5000で反射した規定信号1000を受信していることを示していると考えられる。本開示では、システム1は、受電装置20からの規定信号1000が人体に反射し、送電装置10に到達する場合に、従来のマルチパス・レトロディレクティブ方式より人体への影響を低減する技術を提供する。
(実施形態1)
[実施形態1に係る送電装置の構成]
図3は、実施形態1に係る送電装置10の構成の一例を示す図である。図4は、アダプティブアレーアンテナの等価低域系解析モデルの一例を示す図である。図5は、アダプティブアレーアンテナと指向性の一例を示す図である。
図3に示すように、送電装置10は、アレーアンテナ11と、送信信号発生部12と、送受信部13と、推定部14と、センサ部15と、検出部16と、ウェイト生成部17と、乗算部18と、を備える。
アレーアンテナ11は、指向性制御(ビームフォーミング)が可能な構成になっている。アレーアンテナ11は、複数のアンテナ素子11Aを備えている。アレーアンテナ11は、例えば、複数のアンテナ素子11Aのそれぞれが同じ電波を放射し、それぞれの位相と電力強度を調整することで、特定の方向では電波を強め、別の方向では打ち消し合って弱めることが可能な構成になっている。アレーアンテナ11は、送信信号2000を含む電波を放射し、受電装置20からの規定信号1000を含む電波を受信する。アレーアンテナ11は、受信した信号を送受信部13に供給する。本実施形態では、説明を簡単化するために、アレーアンテナ11は、3つ以上のアンテナ素子11Aを備える場合について説明するが、アンテナ素子11Aの数はこれに限定されない。
送信信号発生部12は、受電装置20に送信する給電用の送信信号2000を生成する。送信信号2000は、電力を供給可能な電波2000Wを放射するための信号である。例えば、送信信号2000はベースバンド帯の信号であってもよい。送信信号2000は、例えば、無変調信号でもよいし、変調信号でもよい。無変調信号の場合、送信期間中、送信信号2000の時間変動はない。変調信号の場合、送信期間中、送信信号発生部12は送信信号2000を時間変動させる。送信信号発生部12は、例えば、規定信号1000を受信するタイミングには送信信号2000を停止することを含む。送信信号発生部12は、乗算部18と電気的に接続されており、生成した送信信号2000を乗算部18に供給する。
送受信部13は、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aの各々と電気的に接続された複数の送受信回路13Aを有する。送受信回路13Aは、推定部14、乗算部18等と電気的に接続されている。送受信回路13Aは、アンテナ素子11Aで受信した受信信号を抽出して推定部14に供給する。送受信回路13Aは、乗算部18で送信ウェイトが乗算された送信信号2000をアンテナ素子11Aから放射させる。送信ウェイトは、例えば、振幅及び位相を調整可能な重み係数を含む。送受信部13は、送信ウェイト(複素振幅)が乗算された送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから同時に放射させることで、送電装置10は指向性が制御された電波2000Wを放射する。
推定部14は、複数のアンテナ素子11Aで受信した受信信号に含まれる規定信号1000から伝搬チャネル特性(インパルス応答)を推定する。伝搬チャネル特性(インパルス応答)は、例えば、振幅特性、位相特性を含む。アレー応答ベクトルは、例えば、アンテナ本数分のチャネル特性を示す。アレー応答ベクトルは、例えば、複数のアンテナ素子11Aごとの伝搬チャネル特性(インパルス応答)を並べたベクトルを含む。受信処理におけるアレー応答ベクトルは、受信応答ベクトルとも称する。推定部14は、例えば、特開2002-43995号公報に開示されているように周知のアルゴリズムを用いて受信応答ベクトルを推定する。推定部14は、アレー応答ベクトルのベクトルデータをウェイト生成部17に供給する。
センサ部15は、送電装置10の電波伝搬環境における物体5000の有無、方向等を検出可能な情報を取得できる。電波伝搬環境は、例えば、送電装置10と受電装置20との間で電波2000Wを伝搬する空間を含む。センサ部15は、例えば、カメラ、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、ミリ波レーダなどのレーダ、ToF(Time of Flight)センサ、赤外線センサ、人感センサ等を用いて、電波伝搬環境に存在する物体5000に関する情報を取得する。センサ部15は、送電装置10の外部に設けられてもよい。センサ部15は、検出部16と電気的に接続されており、電波伝搬環境における物体5000の方向を検出可能なセンサ情報を検出部16に供給する。センサ情報は、例えば、物体5000の有無、距離、位置、画像等の情報を含む。
検出部16は、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の位置に関する情報を検出する。物体5000は、例えば、人間、動物、ロボット、移動体、植物、食物、電磁波を送信又は受信する機器等を含む。検出部16は、アレーアンテナ11からの物体5000の方向を検出する。例えば、検出部16は、センサ情報が示す物体5000の方向、位置等と、センサ部15とアレーアンテナ11との相対位置関係に基づいて、アレーアンテナ11からの物体5000の方向を検出する。複数の物体5000が存在する場合、検出部16は、複数の物体5000の位置を検出する。検出部16は、ウェイト生成部17と電気的に接続されており、アレーアンテナ11からの物体5000の方向を示す方向情報をウェイト生成部17に供給する。方向情報は、例えば、アレーアンテナ11からの物体5000の方向等を示す情報を含む。このように、本開示の検出部16は、センサ部15からの、物体5000のGPS情報などの位置情報、方向情報、距離情報などを含むセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の位置に関する情報を検出する。
ウェイト生成部17は、推定部14の推定結果である受電装置20に対するアレー応答ベクトルと検出部16からの物体5000の方向情報に基づいて、電力伝送用ウェイトを生成する。ウェイトの生成方法は、例えば、MIMOで用いられるZF(Zero-Forcing)アルゴリズム、MMSE(Minimum Mean Square Error)アルゴリズム等を用いることができる。ウェイト生成部17は、乗算部18と電気的に接続されており、電力伝送用ウェイトを示すウェイト情報を乗算部18に供給する。以下の説明では、説明を簡単化するために、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aが水平方向において等間隔で並んでいる場合について説明する。
図4に示すように、アダプティブアレーアンテナ送信は、送信信号2000に複素振幅w(ウェイト)の複素共役w を乗じた後、K本のアンテナ素子11Aから同時に電波2000Wを放射する。なお、本開示において、(・)のように文字の右肩に「*」を記している場合、複素共役を意味する。ウェイトwは、k=0,・・・,K-1である。受信点200Pでは、K本のアンテナ素子11Aから放射された電波2000Wの合成信号が観測される。このとき、伝搬チャネルごとに振幅・位相が変化する。そこで、#0から#K-1のアンテナ素子11Aと受信点200P間の伝搬チャネルのインパルス応答をZ(複素数)とすると、解析的なアレーアンテナ特性は、以下の(式11)で与えられる。
Figure 2024002994000002
本開示では、解析的なアレーアンテナ特性は、アレー応答値ARと称する。ウェイトベクトルをW、アレー応答ベクトルをVとすると、(式11)は複素ベクトルの内積として以下の(式12)で表せる。なお、本開示において、(・)のように文字の右肩に「H」を記している場合、複素共役転置(エルミート転置)を意味する。
AR=WV ・・・(式12)
ウェイトベクトルWとアレー応答ベクトルVを具体的な要素で表すと、以下の(式13)のようになる。
Figure 2024002994000003
アレー応答ベクトルVが既知であれば、適切なウェイトベクトルWを与えることで、受信点200Pでのアレー応答値ARを制御できる。なお、ウェイトベクトルWを決める際には、送信電力の合計が一定になるように、ウェイトベクトルWのノルムの2乗が1(||W||=1)という制約条件を課すものとする。
レトロディレクティブ方式のシステム1では、受電装置20から送信される規定信号1000(パイロット信号)に基づいてアレー応答ベクトルVを推定し、これを利用して最適なウェイトベクトルWoptを生成する。伝搬チャネルの時間変動を無視すれば、伝搬チャネルの可逆性(相反性)によりアレー応答ベクトルVを送電装置10から受電装置20へのアレー応答ベクトルとみなせる。ただし、パイロット信号は送電時の電波と同じ周波数とする。||W||=1という条件のもとアレー応答値の大きさ|W|を最大にする最適なウェイトベクトルWoptは、以下の(式14)とすることができる。
Figure 2024002994000004
以上のように、レトロディレクティブ方式の送信の最適なウェイトベクトルWoptは、受信したパイロット信号のアレー応答ベクトルVだけでよく、受信点200Pの方向などの情報は不要である。
次に、レトロディレクティブ方式と複数(例えばM個)のヌル形成の同時実現について説明する。
ヌルは、アレーアンテナ11の指向性において、方向、点等の利得がゼロになることを意味する。アレーアンテナ11でヌルを形成するには、ヌルに対応するアレー応答ベクトルV(i=1,・・・,M)に対し、アレー応答値の大きさ|W|をゼロにすればよい。この条件のもと、アレー応答ベクトルVのアレー応答値の大きさ|W|を最大化する。これは以下のような(式15)に示す最適化問題として定式化できる。本開示では、これを線形拘束付きレトロディレクティブ方式と称する。ここで、Kはアンテナ素子11Aの数である。Mはヌルの数である。自由度はK-1であるため、M<Kとしている。argmax(argument of the maximum)は、最大値を達成する値の集合を意味する。(式15)は、ウェイトベクトルWで|W|が最大となる最適なウェイトベクトルWoptを求める式である。
Figure 2024002994000005
(式15)の最適化問題は、閉形式の解が存在する。
以下のように(式16)を定義すると、最適なウェイトベクトルWoptは(式17)で与えられる。
Figure 2024002994000006
Figure 2024002994000007
ここで、AはM個の複素列ベクトルであるアレー応答ベクトルV,V,・・・,Vを並べた(式18)に示す行列である。
Figure 2024002994000008
は、Aのムーア・ペンローズ一般逆行列である。ムーア・ペンローズ一般逆行列Aは、AAA=A,AAA=A,(AA=AA,(AA)=AAを満足する。複素列ベクトルであるアレー応答ベクトルV,V,・・・,Vが線形独立の場合は、A=(AA)-1となる。
ヌルに対応するアレー応答値は、W=0(i=1,・・・・,M<K)を満足しなければならない。そこで、これらを同次連立一次方程式と考えると, M個の複素列ベクトルであるアレー応答ベクトルV,V,・・・,Vを並べた行列Aを使ってAW=0のように行列とベクトルの積で表される。この一般解はムーア・ペンローズ一般逆行列Aを用いて、W=(I-AAz=(I-AA)zで与えられる。zは、任意の複素ベクトルである。最大化したいアレー応答値の大きさ|W|にW=(I-AAz=(I-AA)zを代入すると、|W|=|z(I-AA)V|が得られる。そして、コーシー・シュワルツの不等式より、|W|=|z(I-AA)V|≦||z||・||(I-AA)V||が成り立つ。|W|が最大になるのは当該不等式の等号のときであり、このとき、z=α(I-AA)Vを満たす。αは、複素定数である。
最適なウェイトベクトルWoptは、上述したW=(I-AAz=(I-AA)zに、z=α(I-AA)Vを代入することで、Wopt=α(I-AA)Vが与えられる。ここで、(式16)のようにV’=(I-AA)Vとすると、||Wopt||=|α|||V’||=1を満足するためにはα=1/||V’||とすればよい。よって、最適なウェイトベクトルWoptは、上述した(式17)としてよいことになる。
次に、ヌルに対応するアレー応答ベクトルの算出方法の一例を説明する。送電装置10と受電装置20との間のアレー応答ベクトルは、規定信号1000から推定するが、ヌルを向けたい対象からは、規定信号1000が送出されないと仮定すると、別の方法でアレー応答ベクトルを算出する必要がある。本開示では、送電装置10からヌルを向けたい対象へ直接向かう電波を回避することを目的とし、センサ部15を用いて取得したヌル対象である物体5000の方向からアレー応答ベクトルを算出する。
図5に示すように、K個のアンテナ素子11Aが等間隔に並ぶリニアアレーにおいて、ブロードサイドから時計回りにθ(-π/2<θ<π/2)だけ回転した向きに放射される遠方界でのアレー応答ベクトルは、以下の(式19)のように与えられる。ブロードサイドは、アンテナ素子11Aを並べた方向に対し垂直な向きであり、図5における上方である。基準点200Bの#0のアンテナ素子11Aから#kのアンテナ素子11Aまでの素子間距離がkdとなっている。基準点200B#0のアンテナ素子11Aから#K-1のアンテナ素子11Aまでの素子間距離が(K-1)dとなっている。
Figure 2024002994000009
ここで、インパルス応答Zは、(式20)とする。
Figure 2024002994000010
これにより、ヌル対象の方向θが分かれば、アレー応答ベクトルVを(式21)のように算出できる。なお、方向θは、θ=θであり、i=1,・・・,Mである。jは、虚数単位であり、j=-1である。ここで、インパルス応答Zは、(式22)で得ることができる。
Figure 2024002994000011
Figure 2024002994000012
ウェイト生成部17は、ヌル対象の方向θからヌルに対応するアレー応答ベクトルVを(式21)及び(式22)を用いて導出し、続いて(式18)を用いて行列(I-AA)を算出する。ウェイト生成部17は、算出した行列(I-AA)と、受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVとから、アレー応答値の大きさ|W|を最大にする最適なウェイトベクトルWoptを決定するが、一般的には行列(I-AA)とアレー応答ベクトルVで算出されるタイミングが異なる。そこで、ウェイト生成部17は、行列(I-AA)を記憶部17Dに記憶できる。
記憶部17Dは、半導体記憶媒体、及び磁気記憶媒体等の任意の非一過的な記憶媒体を含んでよい。記憶部17Dは、メモリカード、光ディスク、又は光磁気ディスク等の記憶媒体と、記憶媒体の読み取り装置との組み合わせを含んでよい。記憶部17Dは、RAMなどの一時的な記憶領域として利用される記憶デバイスを含んでよい。記憶部17Dは、ウェイト生成部17の外部に設けてもよい。
図3に示すように、乗算部18は、ウェイト生成部17のウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの送信信号2000にウェイトを乗算する。乗算部18は、例えば、乗算器を有する。乗算部18は、アンテナ素子11Aに対応するウェイトを乗算した送信信号2000を、当該アンテナ素子11Aの送受信回路13Aに供給する。
以上、本実施形態に係る送電装置10の機能構成例について説明した。なお、図3を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る送電装置10の機能構成は係る例に限定されない。本実施形態に係る送電装置10の機能構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形可能である。
[実施形態1に係る受電装置]
図6は、実施形態1に係る受電装置20の構成の一例を示す図である。図6に示すように、受電装置20は、アンテナ21と、送受信部22と、信号発生部23と、受電部24と、を備える。本開示の受電装置20は、移動可能な装置であるとしてよい。例えば、このような受電装置20として、モバイルバッテリー、スマートフォン、カメラ、振動センサ、生体センサ、温度センサ、警報などのドローンや車などの移動体に搭載される機器、自動運転車両、設置位置が可変な振動センサ、生体センサ、温度センサ、警報などとしてよい。本開示では、受電装置20は、移動可能な装置であるため、規定信号に基づく伝搬チャネルの特性が受電装置20の位置に応じて変化しうるとしてよい。
アンテナ21は、送受信部22と電気的に接続されている。アンテナ21は、送電装置10からの電波2000Wを受電可能な受電アンテナである。アンテナ21は、例えば、パッチアンテナ、ダイポールアンテナ、パラボラアンテナ等を用いることができる。アンテナ21は、例えば、規定信号1000を含む電波を放射し、送電装置10からの送信信号2000を含む電波2000Wを受信する。アンテナ21は、受信した電波2000Wの受信信号を送受信部22に供給する。
送受信部22は、信号発生部23及び受電部24と電気的に接続されている。送受信部22は、信号発生部23からの規定信号1000を含む電波をアンテナ21から放射させる。送受信部22は、アンテナ21で受信した電波の受信信号を受電部24に供給する。
信号発生部23は、規定信号1000を生成する。信号発生部23は、送受信部22を介して、該規定信号1000を含む電波をアンテナ21に放射させる。信号発生部23は、送信周期に基づいて規定信号1000を生成できる。信号発生部23は、規定信号1000とは異なる信号を生成する構成としてもよい。
受電部24は、アンテナ21で受信した電波2000Wを直流電流に変換し、この直流電流を利用して電力を受電する。受電部24は、例えば、公知である整流回路等を用いて、電波を直流電流に変換する。受電部24は、受電した電力を、例えば、Qi(ワイヤレス給電の国際標準規格)に対応したバッテリ、負荷等に供給する。負荷は、例えば、機械設備、IoT(Internet of Things)センサ、電子機器、照明機器等を含む。
以上、本実施形態に係る受電装置20の機能構成例について説明した。なお、図6を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る受電装置20の機能構成は係る例に限定されない。本実施形態に係る受電装置20の機能構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形可能である。
[実施形態1に係る送電装置の処理手順例]
図7は、図1に示すシステム1の送電装置10の処理手順の一例を説明するための図である。図8は、図7に示す送電装置10のデータフローを説明するための図である。
図7に示すように、システム1において、受電装置20は、規定信号1000を送出する。送電装置10は、アレーアンテナ11で規定信号1000を含む電波を受信すると、受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVを推定する(ステップS111)。例えば、図8に示すように、送電装置10は、推定部14で、複数のアンテナ素子11Aで受信した受信信号に含まれる規定信号1000の伝搬チャネル特性を推定し、アレー応答ベクトルVを推定する。送電装置10は、ステップS111の処理が終了すると、処理をステップS131に進める。
また、送電装置10は、検出部16で、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の方向を検出する(ステップS121)。例えば、図8に示すように、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000をヌル対象と検出している場合、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出してウェイト生成部17に供給する。図7に戻り、送電装置10は、ステップS121の処理が終了すると、処理をステップS122に進める。
送電装置10は、ウェイト生成部17で、ヌルに対応したアレー応答ベクトル化および行列演算を行う(ステップS122)。例えば、図8に示すように、送電装置10は、ウェイト生成部17が物体5000の方向θ,θ,・・・,θと上述した(式21)及び(式22)に基づいて、ヌルに対応したアレー応答ベクトル化(V,V,・・・,V)を行う(ステップS171)。送電装置10は、続いてウェイト生成部17が行列演算を行う(ステップS172)。詳細には、送電装置10は、ヌルに対応したアレー応答ベクトルV=V,V,・・・,Vを用いて(I-AA)の行列演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶する。ただし、A=[V ・・・ V]である。図7に戻り、送電装置10は、ステップS122の処理が終了すると、処理をステップS131に進める。
送電装置10は、送信ウェイトを生成する(ステップS131)。例えば、図8に示すように、送電装置10は、行列とベクトルの積算を行う(ステップS173)。詳細には、送電装置10は、ウェイト生成部17が推定部14によって推定されたアレー応答ベクトルVと記憶部17Dの行列の(I-AA)との積を算出してアレー応答ベクトルV’を算出する。送電装置10は、ウェイト生成部17が算出したアレー応答ベクトルV’を、(式17)を用いて正規化し、最適なウェイトベクトルWoptを生成する(ステップS174)。図7に戻り、送電装置10は、ステップS131の処理が終了すると、処理をステップS132に進める。
送電装置10は、送信ウェイトを乗算する(ステップS132)。例えば、送電装置10は、乗算部18が最適なウェイトベクトルWoptを示すウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの給電用の送信信号2000にウェイトを乗算し、送受信回路13Aに供給する。これにより、送電装置10は、給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから放射させる。この場合、送電装置10は、物体5000にヌルを向けているので、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成されるが、物体5000においては弱め合うように合成される。
受電装置20は、例えば、受信した給電用の電波2000Wを直流電流に変換し、この直流電流を利用してバッテリを充電したり、充電した電力によって動作したりする。その後、受電装置20は、規定信号1000を送出する。
送電装置10は、アレーアンテナ11で規定信号1000を含む電波を受信すると、上述した処理手順を繰り返すことで、ウェイトベクトルWoptを生成して送信信号2000の電波2000Wをアレーアンテナ11から放射する。これにより、送電装置10は、受電装置20や物体5000が移動しても、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成され、物体5000においては弱め合うように合成されることを維持できる。
図7に示す送電装置10の処理手順は、規定信号1000に応じたアレー応答ベクトルVの推定(ステップS111)と物体5000の方向に応じたアレー応答ベクトルVの算出及び行列演算(ステップS122)を同期する必要がない。例えば、規定信号1000を受信する周期と検出部16が情報を提供する周期が異なっていてもよい。また、例えば、物体5000の方向に変化がない場合、送電装置10は、過去のアレー応答ベクトルVを用いてもよい。
図9は、実施形態1に係る送電装置10の動作例を説明するための図である。図10は、図9に示す送電装置10が放射した電波の強度分布を計算機シミュレーションによって計算した結果の一例を示す図である。図11は、実施形態1に係る送電装置10の電波2000Wの指向性パターンの一例を示す図である。
図9及び図10に示す場面では、システム1は、部屋4000の中に送電装置10と受電装置20を配置し、物性が人体と同じ物体5000が存在している。部屋4000は、3m×3m×3mの壁素材がコンクリートの部屋になっている。物体5000は、送電装置10と受電装置20との間で、送電装置10と受電装置20とを結ぶ直線上からずれた位置に配置されている。すなわち、図10に示す測定環境は、図2に示した環境と同一になっている。
図10に示すように、システム1は、送電装置10と受電装置20との間の近傍に物体5000が存在する場合、送電装置10がセンサ部15のセンサ情報に基づいて物体5000の方向を検出できる。受電装置20は、規定信号1000を含む電波を放射すると、送電装置10に直接向かうパスと、物体5000で反射して送電装置10に向かうパスが主要なパスとなる。この場合、送電装置10は、アレーアンテナ11で受信した規定信号1000を含む電波の伝搬チャネル特性を推定し、アレー応答ベクトルVを推定する。図2の参照用送電装置100Aはこのアレー応答ベクトルVのみを用いて送信ウェイトを生成したが、送電装置10は、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、受電装置20とは異なる物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出する。送電装置10は、物体5000の方向より、ヌルに対応したアレー応答ベクトルVを計算し、当該アレー応答ベクトルVとアレー応答ベクトルVと用いて最適なウェイトベクトルWoptを生成する。送電装置10は、最適なウェイトベクトルWoptを乗算した送信信号2000の電波2000Wがアレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aから放射される。
これにより、図10に示す強度分布3100に示すように、送電装置10は、物体5000の方向から規定信号1000を受信しても、放射する電波2000Wを受電装置20の方向に向けることができ、かつ、物体5000に向かう電波2000Wの放射を抑制することができる。その結果、送電装置10は、受電装置20からの規定信号1000を含む電波が人体に反射して届く環境であっても、人体に向かう電波2000Wを抑制できるので、安全なワイヤレス電力伝送を実現することができる。
送電装置10は、伝搬環境に複数の物体5000が存在しても、複数の物体5000の方向を検出し、複数の物体5000の各々にヌルを向けるように、ウェイトベクトルWoptを生成することができる。なお、本開示において、ウェイト生成部17は、物体の方向の利得がヌルから所定以内の利得範囲となるように送信ウェイトを生成するとしてもよい。例えば、ウェイト生成部17は、ヌルをA[dB]とした場合に、物体の方向の利得がヌルA[dB]からB[dB]以内の利得範囲となるように送信ウェイトを生成するとしてもよい。ここで、Bの値は、0.9A、0.8A、0.7A、0.98A、0.99A、1.1A、1.01AなどAの所定の倍数であってもよい。
図11に示すグラフは、例えば、2つの物体5000が存在する場合における実施形態1に係る送電装置10から放射される電波2000Wの指向性パターンを示している。図11に示すグラフは、縦軸がアレー応答値の電力(絶対値の2乗)[dB]、横軸が電波2000Wの放射方向[°]をそれぞれ示している。図11に示す一例では、送電装置10は、アンテナ素子11Aの数が8、隣り合うアンテナ素子11A同士の間隔がλ/2であり、アンテナ配置が等間隔リニアアレーになっている。λは波長を表す。送電装置10は、30°の方向が受電装置20への電波2000Wの放射方向と推定し、放射方向における-10°及び-45°が2つの物体5000の方向と検出している。送電装置10は、30°の方向の受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVと、-10°の方向のヌルに対応したアレー応答ベクトルVと、-45°の方向のヌルに対応したアレー応答ベクトルVとに基づいてウェイトベクトルWoptを生成する。送電装置10は、最適なウェイトベクトルWoptを乗算した送信信号2000の電波2000Wがアレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aから放射される。図11に示す一例では、送電装置10は、放射方向が30°の方向付近でアレー応答値の電力が大きくなり、-10°の方向D1及び-45°の方向D2付近でアレー応答値の電力が小さくなっている。これにより、送電装置10は、複数の物体5000を検出しても、放射する電波2000Wを受電装置20の方向に向けることができ、かつ、複数の物体5000に向かう電波2000Wの放射を抑制することができる。なお、一般にマルチパス環境における受電装置20に対するアレー応答ベクトルVは指向性パターンにおいて特定の方向にはならないが、図11の例では、理解しやすいように30°の方向のアレー応答ベクトルとした。
上述した実施形態1では、送電装置10は、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aが等間隔のリニアアレーである場合について説明したが、これに限定されない。送電装置10は、物体5000の方向からアレー応答ベクトルVを算出可能であれば、複数のアンテナ素子11Aの配置は、等間隔リニアアレーでなくてもよい。
[実施形態1に係る送電装置の変形例]
図12及び図13は、実施形態1の変形例に係る送電装置10の構成の一例を示す図である。図12に示すように、送電装置10は、センサ部15と検出部16とを、送電装置10の外部の電子機器30に設けてもよい。この場合、送電装置10は、電子機器30からデータの受信が可能な構成とし、電子機器30から物体5000の検出結果を取得してもよい。図13に示すように、送電装置10は、センサ部15のみを装置の外部に設けてもよい。この場合、送電装置10は、外部のセンサ部15からセンサ情報等を取得可能な構成とし、センサ部15からのセンサ情報等に基づいて検出部16が物体5000を検出してもよい。
(実施形態2)
[実施形態2に係る送電装置の構成]
図14は、実施形態2に係る送電装置10の構成の一例を示す図である。図15は、アダプティブアレーアンテナの等価低域系解析モデルの一例を示す図である。図16は、アダプティブアレーアンテナと指向性の一例を示す図である。図17は、微係数拘束時のベクトル化の一例を示す図である。
図14に示すように、送電装置10は、アレーアンテナ11と、送信信号発生部12と、送受信部13と、推定部14と、センサ部15と、検出部16と、ウェイト生成部17と、乗算部18と、を備える。
アレーアンテナ11は、指向性制御(ビームフォーミング)が可能な構成になっている。アレーアンテナ11は、複数のアンテナ素子11Aを備えている。アレーアンテナ11は、例えば、複数のアンテナ素子11Aのそれぞれが同じ電波を放射し、それぞれの位相と電力強度を調整することで、特定の方向では電波を強め、別の方向では打ち消し合って弱めることが可能な構成になっている。アレーアンテナ11は、送信信号2000を含む電波を放射し、受電装置20からの規定信号1000を含む電波を受信する。アレーアンテナ11は、受信した信号を送受信部13に供給する。本実施形態では、説明を簡単化するために、アレーアンテナ11は、3つ以上のアンテナ素子11Aを備える場合について説明するが、アンテナ素子11Aの数はこれに限定されない。
送信信号発生部12は、受電装置20に送信する給電用の送信信号2000を生成する。送信信号2000は、電力を供給可能な電波2000Wを放射するための信号である。例えば、送信信号2000はベースバンド帯の信号であってもよい。送信信号2000は、例えば、無変調信号でもよいし、変調信号でもよい。無変調信号の場合、送信期間中、送信信号2000の時間変動はない。変調信号の場合、送信期間中、送信信号発生部12は送信信号2000を時間変動させる。送信信号発生部12は、例えば、規定信号1000を受信するタイミングには送信信号2000を停止することを含む。送信信号発生部12は、乗算部18と電気的に接続されており、生成した送信信号2000を乗算部18に供給する。
送受信部13は、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aの各々と電気的に接続された複数の送受信回路13Aを有する。送受信回路13Aは、推定部14、乗算部18等と電気的に接続されている。送受信回路13Aは、アンテナ素子11Aで受信した受信信号を抽出して推定部14に供給する。送受信回路13Aは、乗算部18で送信ウェイトが乗算された送信信号2000をアンテナ素子11Aから放射させる。送信ウェイトは、例えば、振幅及び位相を調整可能な重み係数を含む。送受信部13は、送信ウェイト(複素振幅)が乗算された送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから同時に放射させることで、送電装置10は指向性が制御された電波2000Wを放射する。
推定部14は、複数のアンテナ素子11Aで受信した受信信号に含まれる規定信号1000から伝搬チャネル特性(インパルス応答)を推定する。伝搬チャネル特性(インパルス応答)は、例えば、振幅特性、位相特性を含む。アレー応答ベクトルは、例えば、アンテナ本数分のチャネル特性を示す。アレー応答ベクトルは、例えば、複数のアンテナ素子11Aごとの伝搬チャネル特性(インパルス応答)を並べたベクトルを含む。受信処理におけるアレー応答ベクトルは、受信応答ベクトルとも称する。推定部14は、例えば、特開2002-43995号公報に開示されているように周知のアルゴリズムを用いて受信応答ベクトルを推定する。推定部14は、アレー応答ベクトルのベクトルデータをウェイト生成部17に供給する。
センサ部15は、送電装置10の電波伝搬環境における物体5000の有無、方向、領域等を検出可能な情報を取得できる。電波伝搬環境は、例えば、送電装置10と受電装置20との間で電波2000Wを伝搬する空間を含む。物体5000の領域は、例えば、電波伝搬環境における物体5000の領域、自機からの物体5000の角度広がりに関する情報を含む。センサ部15は、例えば、カメラ、ミリ波レーダなどのレーダ、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、ToF(Time of Flight)センサ、赤外線センサ、人感センサ、深度センサ等を用いて、電波伝搬環境に存在する物体5000に関する情報を取得する。センサ部15は、送電装置10の外部に設けられてもよい。センサ部15は、検出部16と電気的に接続されており、電波伝搬環境における物体5000の方向及び領域を検出可能なセンサ情報を検出部16に供給する。センサ情報は、例えば、物体5000の有無、距離、位置、画像等の情報を含む。
検出部16は、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の位置及び領域に関する情報を検出する。物体5000は、例えば、人間、動物、ロボット、移動体、植物、食物、電磁波を送信又は受信する機器等を含む。検出部16は、センサ情報が示す画像に対して公知である物体認識処理を実行し、物体5000の領域、形状、電波伝搬環境における物体が存在する領域、自機からの物体5000の方向及び領域等を検出する。例えば、検出部16は、センサ情報が示す物体5000の方向、位置、領域等と、センサ部15とアレーアンテナ11との相対位置関係に基づいて、アレーアンテナ11からの物体5000の方向、領域等を検出する。複数の物体5000が存在する場合、検出部16は、複数の物体5000の位置及び領域を検出する。検出部16は、ウェイト生成部17と電気的に接続されており、アレーアンテナ11からの物体5000の方向、領域等を識別可能な方向情報としてウェイト生成部17に供給する。このように、本開示の検出部16は、センサ部15からの、物体5000のGPS情報などの位置情報、方向情報、距離情報などを含むセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の位置に関する情報を検出する。
方向情報は、例えば、アレーアンテナ11からの物体5000の方向、領域等を示す情報を含む。方向情報は、例えば、図14に示すように、物体5000を含む領域151、大きさ152等の識別可能な情報を含む。なお、方向情報は、複数のアンテナ素子11Aの配置に応じて設定された物体5000の大きさを識別可能な情報とすることができる。例えば、複数のアンテナ素子11Aがマトリックス状に配置されている場合、物体5000の領域151は、縦横の長さ、位置、物体5000の形状等を設定できる。例えば、複数のアンテナ素子11Aが一方の方向に並んで配置されている場合、物体5000の大きさ152は、幅、高さ等の一方の方向における長さや距離、自機からの角度範囲等を設定できる。物体5000の領域151は、物体5000の外形等に応じた空間領域としてもよい。
ウェイト生成部17は、推定部14の推定結果である受電装置20に対するアレー応答ベクトルと検出部16からの物体5000の方向情報に基づいて、電力伝送用ウェイトを生成する。ウェイトの生成方法は、例えば、MIMOで用いられるZF(Zero-Forcing)アルゴリズム、MMSE(Minimum Mean Square Error)アルゴリズム等を用いることができる。ウェイト生成部17は、乗算部18と電気的に接続されており、電力伝送用ウェイトを示すウェイト情報を乗算部18に供給する。以下の説明では、説明を簡単化するために、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aが水平方向において等間隔で並んでいる場合について説明する。
図15に示すように、アダプティブアレーアンテナ送信は、送信信号2000に複素振幅w(ウェイト)の複素共役w を乗じた後、K本のアンテナ素子11Aから同時に電波2000Wを放射する。なお、本開示において、(・)のように文字の右肩に「*」を記している場合、複素共役を意味する。ウェイトwは、k=0,・・・,K-1である。受信点200Pでは、K本のアンテナ素子11Aから放射された電波2000Wの合成信号が観測される。このとき、伝搬チャネルごとに振幅・位相が変化する。そこで、#0から#K-1のアンテナ素子11Aと受信点200P間の伝搬チャネルのインパルス応答をZ(複素数)とすると、解析的なアレーアンテナ特性は、以下の(式211)で与えられる。
Figure 2024002994000013
本開示では、解析的なアレーアンテナ特性は、アレー応答値ARと称する。ウェイトベクトルをW、アレー応答ベクトルをVとすると、(式211)は複素ベクトルの内積として以下の(式212)で表せる。なお、本開示において、(・)のように文字の右肩に「H」を記している場合、複素共役転置(エルミート転置)を意味する。
AR=WV ・・・(式212)
ウェイトベクトルWとアレー応答ベクトルVを具体的な要素で表すと、以下の(式213)のようになる。
Figure 2024002994000014
アレー応答ベクトルVが既知であれば、適切なウェイトベクトルWを与えることで、受信点200Pでのアレー応答値ARを制御できる。なお、ウェイトベクトルWを決める際には、送信電力の合計が一定になるように、ウェイトベクトルWのノルムの2乗が1(||W||=1)という制約条件を課すものとする。
レトロディレクティブ方式のシステム1では、受電装置20から送信される規定信号1000(パイロット信号)に基づいてアレー応答ベクトルVを推定し、これを利用して最適なウェイトベクトルWoptを生成する。伝搬チャネルの時間変動を無視すれば、伝搬チャネルの可逆性(相反性)によりアレー応答ベクトルVを送電装置10から受電装置20へのアレー応答ベクトルとみなせる。ただし、パイロット信号は送電時の電波と同じ周波数とする。||W||=1という条件のもとアレー応答値の大きさ|W|を最大にする最適なウェイトベクトルWoptは、以下の(式214)とすることができる。
Figure 2024002994000015
以上のように、レトロディレクティブ方式の送信の最適なウェイトベクトルWoptは、受信したパイロット信号のアレー応答ベクトルVだけでよく、受信点200Pの方向などの情報は不要である。
次に、レトロディレクティブ方式と複数(例えばM個)のヌル形成の同時実現について説明する。
ヌルは、アレーアンテナ11の指向性において、方向、点等の利得がゼロになることを意味する。アレーアンテナ11でヌルを形成するには、ヌルに対応するアレー応答ベクトルV(i=1,・・・,M)に対し、アレー応答値の大きさ|W|をゼロにすればよい。この条件のもと、アレー応答ベクトルVのアレー応答値の大きさ|W|を最大化する。これは以下のような(式215)に示す最適化問題として定式化できる。本開示では、これを線形拘束付きレトロディレクティブ方式と称する。ここで、Kはアンテナ素子11Aの数である。Mはヌルの数である。自由度はK-1であるため、M<Kとしている。argmax(argument of the maximum)は、最大値を達成する値の集合を意味する。(式215)は、ウェイトベクトルWで|W|が最大となる最適なウェイトベクトルWoptを求める条件式である。
Figure 2024002994000016
(式215)の最適化問題は、閉形式の解が存在する。
以下のように(式216)を定義すると、最適なウェイトベクトルWoptは(式217)で与えられる。
Figure 2024002994000017
Figure 2024002994000018
ここで、AはM個の複素列ベクトルであるアレー応答ベクトルV,V,・・・,Vを並べた(式218)に示す行列である。
Figure 2024002994000019
は、Aのムーア・ペンローズ一般逆行列である。ムーア・ペンローズ一般逆行列Aは、AAA=A,AAA=A,(AA=AA,(AA)=AAを満足する。複素列ベクトルであるアレー応答ベクトルV,V,・・・,Vが線形独立の場合は、A=(AA)-1となる。
ヌルに対応するアレー応答値は、W=0(i=1,・・・・,M<K)を満足しなければならない。そこで、これらを同次連立一次方程式と考えると、M個の複素列ベクトルであるアレー応答ベクトルV,V,・・・,Vを並べた行列Aを使ってAW=0にように行列とベクトルの積で表される。この一般解はムーア・ペンローズ一般逆行列Aを用いて、W=(I-AAz=(I-AA)zで与えられる。zは、任意の複素ベクトルである。最大化したいアレー応答値の大きさ|W|にW=(I-AAz=(I-AA)zを代入すると、|W|=|z(I-AA)V|が得られる。そして、コーシー・シュワルツの不等式より、|W|=|z(I-AA)V|≦||z||・||(I-AA)V||が成り立つ。|W|が最大になるのは当該不等式の等号のときであり、このとき、z=α(I-AA)Vを満たす。αは、任意の複素定数である。
最適なウェイトベクトルWoptは、上述したW=(I-AAz=(I-AA)zに、z=α(I-AA)Vを代入することで、Wopt=α(I-AA)Vが与えられる。ここで、(式216)のようにV’=(I-AA)Vとすると、||Wopt||=|α|||V’||=1を満足するためにはα=1/||V’||とすればよい。よって、最適なウェイトベクトルWoptは、上述した(式217)としてよいことになる。
次に、ヌルに対応するアレー応答ベクトルの算出方法の一例を説明する。送電装置10と受電装置20との間のアレー応答ベクトルは、規定信号1000から推定するが、ヌルを向けたい対象からは、規定信号1000が送出されないと仮定すると、別の方法でアレー応答ベクトルを算出する必要がある。本開示では、送電装置10からヌルを向けたい対象へ直接向かう電波を回避することを目的とし、センサ部15を用いて取得したヌル対象である物体5000の方向からアレー応答ベクトルを算出する。
図16に示すように、K個のアンテナ素子11Aが等間隔に並ぶリニアアレーにおいて、ブロードサイドから時計回りにθ(-π/2<θ<π/2)だけ回転した向きに放射される遠方界でのアレー応答ベクトルは、以下の(式219)のように与えられる。ブロードサイドは、アンテナ素子11Aを並べた方向に対し垂直な向きであり、図16における上方である。基準点200Bの#0のアンテナ素子11Aから#Kのアンテナ素子11Aまでの素子間距離がkdとなっている。基準点200Bの#0のアンテナ素子11Aから#K-1のアンテナ素子11Aまでの素子間距離が(K-1)dとなっている。
Figure 2024002994000020
ここで、インパルス応答Zは、(式220)とする。
Figure 2024002994000021
これにより、ヌル対象の方向θが分かれば、アレー応答ベクトルVを(式221)のように算出できる。なお、方向θは、θ=θであり、i=1,・・・,Mである。jは、虚数単位であり、j=-1である。ここで、インパルス応答Zは、(式222)で得ることができる。
Figure 2024002994000022
Figure 2024002994000023
ウェイト生成部17は、ヌル対象の方向θからヌルに対応するアレー応答ベクトルVを(式221)及び(式222)を用いて導出し、続いて(式218)を用いて行列(I-AA)を算出する。ウェイト生成部17は、算出した行列(I-AA)と、受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVから、アレー応答値の大きさ|W|を最大にする最適なウェイトベクトルWoptを決定するが、一般的には行列(I-AA)とアレー応答ベクトルVでは算出されるタイミングが異なる。そこで、ウェイト生成部17は、行列(I-AA)を記憶部17Dに記憶できる。
記憶部17Dは、半導体記憶媒体、及び磁気記憶媒体等の任意の非一過的な記憶媒体を含んでよい。記憶部17Dは、メモリカード、光ディスク、又は光磁気ディスク等の記憶媒体と、記憶媒体の読み取り装置との組み合わせを含んでよい。記憶部17Dは、RAMなどの一時的な記憶領域として利用される記憶デバイスを含んでよい。記憶部17Dは、ウェイト生成部17の外部に設けてもよい。
次に、ヌルを広角化する一例を説明する。ヌル対象の物体5000は拡がりを持っており、物体5000の領域に応じてヌルを広角化することが望ましい。ヌルを広角化するには、複数の方法を用いることができる。本開示では、微係数拘束(Derivative Constraints)を用いる場合について説明する。上述した(式211)、(式212)に(式219)、(式220)を代入すると、θ方向のK素子等間隔リニアアレーのアレー応答値は、(式223)で得られる。
Figure 2024002994000024
V=D(θ)とする。D(θ)は、アレー応答関数あるいはアレーファクタと呼ばれる。D(θ)は、θの連続関数であり、θで微分可能である。また、この絶対値|D(θ)|を図示したものは、アレーアンテナの指向性パターンになる。
(式223)にθ=θ(i=1,・・・,M)を代入したD(θ)は、θ方向のアレー応答値である。また、(式223)は、微分可能であるから、θ=θの近傍であるθ=θ+Δθのアレー応答値D(θ+Δθ)は、L次近似式を用いて以下の(式224)のように表せる。
Figure 2024002994000025
(式224)において、微係数D(l)(θ)(l=1,・・・,L)がゼロならば、D(θ+Δθ)≒D(θ)となり、θの近傍θ+Δθでアレー応答値を同程度にできる。これをヌル(D(θ)=0)に対して適用したものが微係数拘束によるヌルの広角化であり、近似式の次数のLにより広角化の度合いを制御できる。本開示では、文字の右肩の(l)は、微分の階数を示す。
微係数拘束条件D(l)(θ)=0(l=1,・・・,L)は、以下の(式225)の等価になる。
Figure 2024002994000026
そこで、対角行列Qを以下の(式226)とすると、(式225)は以下の(式227)と表せる。なお、(式226)および(式227)は、l=1,・・・,Lである。
=diag[0 ・・・ (K-1)]・・・(式226)
(Q)=0 ・・・(式227)
以下の(式228)及び(式229)としてまとめると、l階微係数の拘束条件は、以下の(式230)で与えられる。なお、(式229)は、l=1,・・・,Lである。(式230)において、l=0,・・・,Lである。V (l)は前記アレー応答ベクトルと異なるが、(式230)より(式215)の拘束条件と同じように扱える。そこで、本開示では(式230)のV (l)を拘束ベクトルと称する。
(0)=V ・・・(式228)
(l)=Q ・・・(式229)
(l)=0 ・・・(式230)
(式230)の拘束条件のもと、アレー応答ベクトルVのアレー応答値の大きさ|W|を最大化する最適化問題は、以下の(式231)のように定式化できる。
Figure 2024002994000027
ここで、Kはアンテナ素子11Aの数であり、Mはヌルの数である。ヌルの数は、検出部16が検出した物体5000の数である。L,L,・・・,Lは各ヌルの広角化の度合いを決める数であり、本開示ではこれを広角度と称する。広角度は、検出部16が検出した物体5000の領域に応じて決まり、広角度分拘束ベクトルが追加される。自由度はK-1であるため、M+L+L+・・・+L<Kとしている。また、アレー応答ベクトルV (l)(l=0,・・・,K-1)は線形独立である。
上記の(式215)と(式231)の比較からわかるように、線形拘束付きレトロディレクティブ方式のアルゴリズムを踏襲しつつ、ヌルを広角化することが可能である。本開示では、これを微係数拘束付きレトロディレクティブ方式と称する。
ウェイト生成部17は、規定信号1000の伝搬チャネル特性と検出部16が検出した物体5000の方向及び領域の検出結果に基づいて、物体5000の方向及び領域にヌルが向くように送信ウェイトを生成する。前記送信ウェイトを生成するために、例えば、ウェイト生成部17は、前記広角度Lを決定する。
例えば、ウェイト生成部17は、方向θから(式221)と(式222)を用いてアレー応答ベクトルVを算出する。例えば、ウェイト生成部17は、図17に示すように、ヌル対象の方向θと領域δとを示す情報をテーブル170に適用して広角度Lを求める。領域δは、物体5000の領域、大きさ等に関する情報を含む。広角度Lは、広角化パラメータであり、物体5000の領域δだけでなく方向θにも依存するため、テーブル170を用いて求めてもよいし、機械学習等を用いて求めてもよい。本実施形態では、テーブル170は、記憶部17Dに記憶されており、方向θと領域δから広角度Lを導き出すルックアップテーブルである。
ウェイト生成部17は、求めた広角度Lとアレー応答ベクトルVとから、上記の(式226)、(式228)、(式229)を用いてベクトル化することで、拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。ウェイト生成部17は、拘束ベクトルV (l)を用いて、アレー応答値の大きさ|W|を最大にする最適なウェイトベクトルWoptを、上述した(式231)によって決定する。なお、送電装置10は、広角度Lをヌル対象ごとに設定できる。送電装置10は、ヌルを向ける方向及び領域から算出する行列と、規定信号1000の伝搬チャネル特性とを独立して算出できる。
図14に示すように、乗算部18は、ウェイト生成部17のウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの送信信号2000にウェイトを乗算する。乗算部18は、例えば、乗算器を有する。乗算部18は、アンテナ素子11Aに対応するウェイトを乗算した送信信号2000を、当該アンテナ素子11Aの送受信回路13Aに供給する。
以上、本実施形態に係る送電装置10の機能構成例について説明した。なお、図14を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る送電装置10の機能構成は係る例に限定されない。本実施形態に係る送電装置10の機能構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形可能である。
[実施形態2に係る受電装置]
図18は、実施形態2に係る受電装置20の構成の一例を示す図である。図18に示すように、受電装置20は、アンテナ21と、送受信部22と、信号発生部23と、受電部24と、を備える。本開示の受電装置20は、移動可能な装置であるとしてよい。例えば、このような受電装置20として、モバイルバッテリー、スマートフォン、カメラ、振動センサ、生体センサ、温度センサ、警報などのドローンや車などの移動体に搭載される機器、自動運転車両、設置位置が可変な振動センサ、生体センサ、温度センサ、警報などとしてよい。本開示では、受電装置20は、移動可能な装置であるため、規定信号に基づく伝搬チャネルの特性が受電装置20の位置に応じて変化しうるとしてよい。
アンテナ21は、送受信部22と電気的に接続されている。アンテナ21は、送電装置10からの電波2000Wを受電可能な受電アンテナである。アンテナ21は、例えば、パッチアンテナ、ダイポールアンテナ、パラボラアンテナ等を用いることができる。アンテナ21は、例えば、規定信号1000を含む電波を放射し、送電装置10からの送信信号2000を含む電波2000Wを受信する。アンテナ21は、受信した電波2000Wの受信信号を送受信部22に供給する。
送受信部22は、信号発生部23及び受電部24と電気的に接続されている。送受信部22は、信号発生部23からの規定信号1000を含む電波をアンテナ21から放射させる。送受信部22は、アンテナ21で受信した電波の受信信号を受電部24に供給する。
信号発生部23は、規定信号1000を生成する。信号発生部23は、送受信部22を介して、該規定信号1000を含む電波をアンテナ21に放射させる。信号発生部23は、送信周期に基づいて規定信号1000を生成できる。信号発生部23は、規定信号1000とは異なる信号を生成する構成としてもよい。
受電部24は、アンテナ21で受信した電波2000Wを直流電流に変換し、この直流電流を利用して電力を受電する。受電部24は、例えば、公知である整流回路等を用いて、電波を直流電流に変換する。受電部24は、受電した電力を、例えば、Qi(ワイヤレス給電の国際標準規格)に対応したバッテリ、負荷等に供給する。負荷は、例えば、機械設備、IoT(Internet of Things)センサ、電子機器、照明機器等を含む。
以上、本実施形態に係る受電装置20の機能構成例について説明した。なお、図18を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る受電装置20の機能構成は係る例に限定されない。本実施形態に係る受電装置20の機能構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形可能である。
[実施形態2に係る送電装置の処理手順例]
図19は、図1に示すシステム1の送電装置10の処理手順の一例を説明するための図である。図20は、図19に示す送電装置10のデータフローを説明するための図である。
図19に示すように、システム1において、受電装置20は、規定信号1000を送出する。送電装置10は、アレーアンテナ11で規定信号1000を含む電波を受信すると、受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVを推定する(ステップS111)。例えば、図20に示すように、送電装置10は、推定部14で、複数のアンテナ素子11Aで受信した受信信号に含まれる規定信号1000の伝搬チャネル特性を推定し、アレー応答ベクトルVを推定する。図19に戻り、送電装置10は、ステップS111の処理が終了すると、処理をステップS131に進める。
また、送電装置10は、検出部16で、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の方向及び領域を検出する(ステップS121)。例えば、図20に示すように、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000をヌル対象と検出している場合、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出する。そして、送電装置10は、複数の物体5000の領域δ,δ,・・・,δを検出する。送電装置10は、検出した物体5000の方向θ,θ,・・・,θ及び領域δ,δ,・・・,δをウェイト生成部17に供給する。図19に戻り、送電装置10は、ステップS121の処理が終了すると、処理をステップS122に進める。
送電装置10は、ウェイト生成部17で、ヌルに対応した拘束ベクトル化及び行列演算を行う(ステップS122)。例えば、図20に示すように、送電装置10は、方向θと領域δとを示す情報をテーブル170に適用して広角度Lを求め、広角度Lとアレー応答ベクトルVとから、上記の(式226)、(式228)、(式229)を用いてベクトル化することで、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める(ステップS171)。送電装置10は、続いてウェイト生成部17が行列演算を行う(ステップS172)。詳細には、送電装置10は、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)を用いて(I-AA)の行列演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶する。ただし、A=[V (0),・・・,V (L1),V (0),・・・,V (L2),・・・,VM (0),・・・,VM (LM)]である。図19に戻り、送電装置10は、ステップS122の処理が終了すると、処理をステップS131に進める。
送電装置10は、送信ウェイトを生成する(ステップS131)。例えば、図20に示すように、送電装置10は、行列とベクトルの積算を行う(ステップS173)。詳細には、送電装置10は、ウェイト生成部17が推定部14によって推定されたアレー応答ベクトルVと記憶部17Dの(I-AA)との積を算出してアレー応答ベクトルV’を算出する。そして、送電装置10は、正規化を行う(ステップS174)。詳細には、送電装置10は、ウェイト生成部17が算出したアレー応答ベクトルV’を、(式217)を用いて正規化し、最適なウェイトベクトルWoptを生成する。図19に戻り、送電装置10は、ステップS131の処理が終了すると、処理をステップS132に進める。
送電装置10は、送信ウェイトを乗算する(ステップS132)。例えば、送電装置10は、乗算部18が最適なウェイトベクトルWoptを示すウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの給電用の送信信号2000にウェイトを乗算し、送受信回路13Aに供給する。これにより、送電装置10は、給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから放射させる。この場合、送電装置10は、物体5000の領域にヌルを向けているので、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成されるが、物体5000においては弱め合うように合成される。
受電装置20は、例えば、受信した給電用の電波2000Wを直流電流に変換し、この直流電流を利用してバッテリを充電したり、充電した電力によって動作したりする。その後、受電装置20は、規定信号1000を送出する。
送電装置10は、アレーアンテナ11で規定信号1000を含む電波を受信すると、上述した処理手順を繰り返すことで、ウェイトベクトルWoptを生成して送信信号2000の電波2000Wをアレーアンテナ11から放射する。これにより、送電装置10は、受電装置20や物体5000が移動しても、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成され、物体5000においては弱め合うように合成されることを維持できる。
図19に示す送電装置10の処理手順は、規定信号1000に応じたアレー応答ベクトルVの推定(ステップS111)と物体5000の方向及び領域に応じた拘束ベクトルV (l)との算出及び行列演算(ステップS122)は同期する必要がない。よって、例えば、規定信号1000を受信する周期と検出部16が情報を提供する周期が異なっていてもよい。また、例えば、物体5000の方向及び領域に変化がない場合、送電装置10は、過去の拘束ベクトルV (l)を用いてもよい。
図21は、実施形態2に係る送電装置10の動作例を説明するための図である。図22は、図21に示す送電装置10が放射した電波の強度分布を計算機シミュレーションによって計算した結果の一例を示す図である。図23は、実施形態2に係る送電装置10の電波2000Wの指向性パターンの一例を示す図である。
図21及び図22に示す場面では、システム1は、部屋4000の中に送電装置10と受電装置20を配置し、物性が人体と同じ物体5000が存在している。部屋4000は、3m×3m×3mの壁素材がコンクリートの部屋になっている。物体5000は、送電装置10と受電装置20との間で、送電装置10と受電装置20とを結ぶ直線上からずれた位置に配置されている。すなわち、図22に示す測定環境は、図2に示した環境と同一になっている。
図22に示すように、システム1は、送電装置10と受電装置20との間の近傍に物体5000が存在する場合、送電装置10がセンサ部15のセンサ情報に基づいて物体5000の方向を検出できる。受電装置20は、規定信号1000を含む電波を放射すると、送電装置10に直接向かうパスと、物体5000で反射して送電装置10に向かうパスが主要なパスとなる。この場合、送電装置10は、アレーアンテナ11で受信した規定信号1000を含む電波の伝搬チャネル特性を推定し、アレー応答ベクトルVを推定する。送電装置10は、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の方向及び領域を検出し、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θ及び領域δ,δ,・・・,δを検出する。なお、図22においてはM=1である。送電装置10は、物体5000の方向、すなわちヌルに対応したアレー応答ベクトルVを計算するとともに、物体5000の領域に基づいて拘束ベクトルV (l)を計算し、拘束ベクトルとする。当該拘束ベクトルV (l)とアレー応答ベクトルVと用いて最適なウェイトベクトルWoptを生成する。送電装置10は、最適なウェイトベクトルWoptを乗算した送信信号2000の電波2000Wがアレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aから放射される。
これにより、図22に示す強度分布3100に示すように、送電装置10は、物体5000の方向から規定信号1000を受信しても、放射する電波2000Wを受電装置20の方向に向けることができ、かつ、物体5000の領域に広角化したヌルを形成することで、物体5000に向かう電波2000Wの放射を抑制することができる。その結果、送電装置10は、受電装置20からの規定信号1000が人体に反射して届く環境であっても、人体に向かう電波2000Wを抑制できるので、安全なワイヤレス電力伝送を実現することができる。
送電装置10は、伝搬環境に複数の物体5000が存在しても、複数の物体5000の方向及び領域を検出し、複数の物体5000の各々にヌルを向けるように、ウェイトベクトルWoptを生成することができる。
図23に示すグラフは、例えば、2つの物体5000が存在する場合における実施形態2に係る送電装置10から放射される電波2000Wの指向性パターンの一例を示している。図23に示すグラフは、縦軸がアレー応答値の電力(絶対値の2乗)[dB]、横軸が電波2000Wの放射方向[°]をそれぞれ示している。図23に示す一例では、送電装置10は、アンテナ素子11Aの数が8、隣り合うアンテナ素子11A同士の間隔がλ/2であり、アンテナ配置が等間隔リニアアレーになっている。λは波長を表す。送電装置10は、30°の方向が受電装置20への電波2000Wの放射方向と推定し、放射方向における-10°及び-45°が2つの物体5000の方向と検出している。送電装置10は、30°の方向の受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVと、-10°の方向のヌルに対応したアレー応答ベクトルVと、-45°の方向のヌルに対応したアレー応答ベクトルVとそれぞれのヌルの広角度に基づいてウェイトベクトルWoptを生成する。送電装置10は、最適なウェイトベクトルWoptを乗算した送信信号2000の電波2000Wがアレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aから放射される。図23に示す一例では、送電装置10は、放射方向が30°の方向付近でアレー応答値の電力が大きくなり、-10°の方向D1及び-45°の方向D2付近でアレー応答値の電力が小さくなっている。これにより、送電装置10は、複数の物体5000を検出しても、放射する電波2000Wを受電装置20の方向に向けることができ、かつ、複数の物体5000に向かう電波2000Wの放射を抑制することができる。なお、一般にマルチパス環境における受電装置20に対するアレー応答ベクトルVは指向性パターンにおいて特定の方向にならないが、図23の例では、理解しやすいように30°の方向のアレー応答ベクトルとした。
上記した実施形態2では、送電装置10は、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aが等間隔のリニアアレーである場合について説明したが、これに限定されない。送電装置10は、物体5000の方向からアレー応答ベクトルVを算出可能であれば、複数のアンテナ素子11Aの配置は、等間隔リニアアレーでなくてもよい。
[実施形態2に係る送電装置の変形例]
図24は、実施形態2の変形例に係る送電装置10の構成の一例を示す図である。図25は、実施形態2の変形例に係る送電装置10の他の構成の一例を示す図である。図24に示すように、送電装置10は、センサ部15と検出部16とを、送電装置10の外部の電子機器30に設けてもよい。この場合、送電装置10は、電子機器30からデータの受信が可能な構成とし、電子機器30から物体5000の検出結果を取得してもよい。図25に示すように、送電装置10は、センサ部15のみを装置の外部に設けてもよい。この場合、送電装置10は、外部のセンサ部15からセンサ情報等を取得可能な構成とし、センサ部15からのセンサ情報等に基づいて検出部16が物体5000を検出してもよい。
[実施形態2に係る任意の条件下で生成されたウェイトに微係数拘束を適用した例]
微係数拘束付きレトロディレクティブ方式において、Vはレトロディレクティブ方式における最適ウェイトと同じ方向であり、行列(I-AA)は行列Aの列ベクトルが張る部分空間の直交部分空間への射影行列である。行列Aの列ベクトルが張る部分空間の要素はAxで与えられる。行列(I-AA)にベクトルAxを右から掛けると(I-AA)Ax=(I-AAA)x=(A-A)x=0となる。これは任意のベクトルに対し、当該行列を左から掛けることにより、行列Aの列ベクトルが張る部分空間と平行な成分はゼロになり、直交する成分だけ残ることを意味する。よって、行列Aの列ベクトルが張る部分空間の直交部分空間への射影行列である。
すなわち、送電装置10は、行列(I-AA)によりヌル方向へ向かう放射成分を取り除くことができる。これはある条件下で算出されたあらゆる送信ウェイトに適用することができることを意味する。図26は、実施形態2の変形例に係る送電装置のデータフローを説明するための図である。なお、ある条件は、物体5000の方向及び領域に基づいて一般化された複数の条件を含む。
図26に示す送電装置10は、ウェイト生成部17がある条件下で生成されたウェイトベクトルWと、記憶部17Dの(I-AA)との積を算出してウェイトベクトルW’を算出する(ステップS175)。そして、送電装置10は、ウェイト生成部17が算出したウェイトベクトルW’を正規化して最適なウェイトベクトルWopt(=W’/||W’||)を生成する(ステップS176)。ただし、A=[V (0),・・・,V (L1),V (0),・・・,V (L2),・・・,VM (0),・・・,VM (LM)]である。送電装置10は、上述したステップS132で送信ウェイトを乗算する。例えば、送電装置10は、乗算部18が最適なウェイトベクトルWoptを示すウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの給電用の送信信号2000にウェイトを乗算し、送受信回路13Aに供給する。これにより、送電装置10は、給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから放射させる。その結果、送電装置10は、物体5000の領域にヌルを向けているので、電波2000Wが受電装置20に向かうが、物体5000に向かう放射を減少させることができる。このように、送電装置10は、構成を変更しても、上述した作用効果を得ることができる。
[実施形態2に係るヌルの広角化に多点ヌル拘束方式を適用した例]
ヌルを広角化する他の例を説明する。ヌルを広角化するために、例えば、物体5000の領域に複数のヌル点を配置してもよい。例えば、ウェイト生成部17は、ヌル対象の物体5000の方向θと領域δから当該方向の最小値θmin と最大値θmax を決定する。ウェイト生成部17は、予め定められた刻み幅でθminからθmaxをカバーする方向θ (0),θ (1),・・・,θ (Li)を決定する。なお、刻み幅は、物体5000の方向θによらず、一定でもよいし物体5000の方向θごとに変更してもよい。ウェイト生成部17は、(式221)と(式222)を用いて、θ (l)からアレー応答ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を算出し、これらを(式231)の拘束ベクトルV (l)としてもよい。本開示では、物体5000の領域に渡ってヌルを設定する方式を多点ヌル拘束付きレトロディレクティブ方式と称する。多点ヌル拘束付きレトロディレクティブ方式も微係数拘束付きレトロディレクティブ方式も(式231)を用いる。よって、ヌル広角化において、複数のヌルを設定する前記多点ヌル拘束付きレトロディレクティブ方式と広角度に従って複数の拘束ベクトルを設定する前記微係数拘束付きレトロディレクティブ方式を組み合わせてもよい。
[実施形態2に係る物体の方向及び領域を限定した例]
物体5000の方向及び領域は特定の条件によって限定してもよい。例えば、検出部16は、人間であれば、センサ情報が示す画像に対して公知である物体認識処理により人間に対する方向及び領域のうち頭部に限定してもよい。また、例えば、送電装置10が受信した規定信号1000に対して公知である到来方向推定処理により、物体5000の方向及び領域を規定信号1000が到来する方向及び領域に限定してもよい。また、例えば、物体5000の領域を分割し、ヌルの対象領域を分割した領域に限定してもよい。その際、分割した領域を時間的に切り替えてもよい。
[実施形態2に係る微係数拘束条件の変換]
微係数拘束条件D(l)(θ)=0(l=1,・・・,L)と、上述した(式225)が等価になることを以下に証明する。
まず、以下の(式2C1)が成り立つことを示す。なお、Fln(θ)はθの関数である。
Figure 2024002994000028
[2-1]l=1のときを考える。
以下の(式2C1a)の両辺をθで微分することで(式2C1b)が得られる。
Figure 2024002994000029
Figure 2024002994000030
よって、以下の(式2C2)が得られる。
Figure 2024002994000031
以下の(式2C2a)及び(式2C2b)とすると、(式2C3)が得られる。
Figure 2024002994000032
Figure 2024002994000033
Figure 2024002994000034
以上のようにl=1のとき(式2C1)を満たす。
[2-2]l=pのとき、(式2C1)が以下の(式2C4)のように成立しているとする。
Figure 2024002994000035
(式2C4)の両辺をθで微分すると、以下の(式2C5)が得られる。
Figure 2024002994000036
(式2C2b)の両辺をθで微分すると、以下の(式2C6)が得られる。
Figure 2024002994000037
(式2C6)に(式2C5)を代入すると、以下の(式2C61)が得られる。
Figure 2024002994000038
(式2C61)の両辺を(j2πd/λ)cosθで割ると、以下の(式2C7)が得られる。
Figure 2024002994000039
ここで、以下の(式2C8)、(式2C9)、(式2C10)とする。ただし、(式2C9)において、n=2,・・・,pである。
Figure 2024002994000040
Figure 2024002994000041
Figure 2024002994000042
(式2C8)、(式2C9)、(式2C10)により、(式2C7)は、以下の(式2C11)となる。
Figure 2024002994000043
以上により、l=pにおいて、(式2C1)が成り立てば、l=p+1の時も(式2C1)が成り立つ。
上記の[2-1]及び[2-2]から数学的帰納法により(式2C1)は成立する。
(式2C1)にθ=θ及びZ=Z(θ)を代入すると、以下の(式2C12)となる。
Figure 2024002994000044
(式2C12)より、D(l)(θ)=0(l=1,・・・,L)であれば、以下の(式2C12a)となる。ただし、(式2C12a)において、l=1,・・・,Lである。
Figure 2024002994000045
逆に、(式2C12)より、以下の(式2C12b)であれば、以下の(式2C12c)となる。ただし、(式2C12c)において、l=1,・・・,Lである。
Figure 2024002994000046
Figure 2024002994000047
そこで、以下の(式2C12d)ならば、D(l)(θ)=0(l=1,・・・,L)を示す。
Figure 2024002994000048
[2-A]l=1のときを考える。
11(θ)・D’(θ)=0ならば、F11(θ)=λ/(j2πd・cosθ)≠0よりD’(θ)=0である。
[2-B]l=p(<L)のときD(l)(θ)=0(l=1,・・・,p)とすると、以下の(式2C12e)となる。
Figure 2024002994000049
上記の(式2C10)より、以下の(式2C12f)であるから、D(p+1)(θ)=0となる。
Figure 2024002994000050
よって、D(l)(θ)=0(l=1,・・・,p+1)である。
上記の[2-A]及び[2-B]から以下の(式2C12g)ならば、D(l)(θ)=0(l=1,・・・,p+1)となる。
Figure 2024002994000051
よって、以下の(式2C12h)ならば、D(l)(θ)=0(l=1,・・・,L)である。以上により、題意は示された。
Figure 2024002994000052
[実施形態2に係る微係数拘束ベクトルの独立性]
アレー応答ベクトルV (l)(l=0,・・・,K-1)が線形独立であることを証明する。
まず、アレー応答ベクトルV (l)(l=0,・・・,K-1)が線形独立であるためには、以下の(式2D1)とすると、これが成り立つのは、a=0(l=0,・・・,K-1)の時のみであることを示せばよい。
Figure 2024002994000053
ここで、以下の(式2D2)とすると、(式2D1)は、Aa=0となり、「a=0が唯一の解であること」と「Aの逆行列が存在すること」は等価になる。よって、Aの行列式がゼロでないことを示せばよい。
Figure 2024002994000054
上述した(式221)、(式226)、(式228)及び(式229)より、以下の(式2D3)となるので、行列式|A|は以下の(式2D4)になる。
Figure 2024002994000055
Figure 2024002994000056
(式2D4)の第1行に対して余因子展開を行うと、以下の(式2D5)になる。
Figure 2024002994000057
また、一般に、(式2D51)が成り立つので、(式2D5)は以下の(式2D6)になる。
Figure 2024002994000058
Figure 2024002994000059
また、(式2D6)はヴァンデルモンドの行列式を含み、ヴァンデルモンドの行列式は以下の(式2D61)となることから、以下の(式2D62)となる。
Figure 2024002994000060
Figure 2024002994000061
よって、|A|≠0である。以上により、題意は示された。
[実施形態2に係る対角行列の変更]
上述した(式226)に示したQ=diag[0 ・・・ (K-1)]は、Q’=diag[ql,0l,1 ・・・ql,K-1]に置き換えることができる。このことを、以下に証明する。
ここで、ql,kを以下の(式2E1)とする。ただし、k=0,・・・,K-1である。
Figure 2024002994000062
(式2E1)からQ’=diag[ql,0l,1 ・・・ql,K-1]は、以下の(式2E2)になる。
Figure 2024002994000063
ここで、以下の(式2E3)と置くと、Q’は以下の(式2E4)で表せる。ただし、cl,1,・・・,cl,lは定数である。
Figure 2024002994000064
Figure 2024002994000065
(式2E4)の両辺にViを右から掛けると、以下の(式2E5)及び(式2E6)により、以下の(式2E7)が与えられる。
Figure 2024002994000066
Figure 2024002994000067
Figure 2024002994000068
(式2E7)を書き並べると、以下の(式2E8)になることから、V (l)(l=0,・・・,L)を横に並べた行列A=[V (0) (1) ・・・ V (Ll)]と、V’ (l)(l=0,・・・,L)を横に並べた行列A’=[V’ (0) V’ (1) ・・・ V’ (Ll)]は、以下の(式2E9)を使ってA’=Aと表せる。ただし、V’ (0)=V=V (0)である。また、Cr,r≠0(r=1,・・・,L)により、行列Bは正則である。
Figure 2024002994000069
Figure 2024002994000070
以下の(式2E10)に示す行列Aと以下の(式2E11)に示す行列A’は、以下の(式2E12)に示す行列Bを使って、A’=ABと表せる。
Figure 2024002994000071
Figure 2024002994000072
Figure 2024002994000073
上述した行列Bが正則であるので、AB=AAAB=ABB-1AB=AB(B-1)ABとなり、(AB)=B-1である。よって、A’A’=AB(AB)=ABB-1=AAである。行列Aは、演算AAに使われ、Qを使った時のAAの演算結果と、Q’を使った時のA’A’の演算結果が等しいことから、Qの代わりにQ’を使って演算してもよいことが分かる。以上により、題意は示された。
[実施形態2に係るムーア・ペンローズ一般逆行列の演算]
Aのムーア・ペンローズ一般逆行列Aは特異値分解により演算できる。また、複素列ベクトルV,V,・・・,Vが線形独立の場合は、A=(AA)-1として計算できる。ここで行列A=[V ・・・ V]である。一方、複素列ベクトルV,V,・・・,Vの線形独立性が保証されない場合は、公知である正則化パラメータαを用いてA=(αI+AA)-1とすることで近似的に解を求めることができる。例えば、ウェイト生成部17の行列演算(ステップS172)において、正則化パラメータを使った演算を行ってもよい。
(実施形態3)
[実施形態3に係る送電装置の構成]
図27は、実施形態3に係る送電装置10の構成の一例を示す図である。図28は、アダプティブアレーアンテナの等価低域系解析モデルの一例を示す図である。図29は、アダプティブアレーアンテナと指向性の一例を示す図である。
図27に示すように、送電装置10は、アレーアンテナ11と、送信信号発生部12と、送受信部13と、推定部14と、センサ部15と、検出部16と、ウェイト生成部17と、乗算部18と、前処理部19と、を備える。
アレーアンテナ11は、指向性制御(ビームフォーミング)が可能な構成になっている。アレーアンテナ11は、複数のアンテナ素子11Aを備えている。アレーアンテナ11は、例えば、複数のアンテナ素子11Aのそれぞれが同じ電波を放射し、それぞれの位相と電力強度を調整することで、特定の方向では電波を強め、別の方向では打ち消し合って弱めることが可能な構成になっている。アレーアンテナ11は、送信信号2000を含む電波を放射し、受電装置20からの規定信号1000を含む電波を受信する。アレーアンテナ11は、受信した信号を送受信部13に供給する。本実施形態では、説明を簡単化するために、アレーアンテナ11は、3つ以上のアンテナ素子11Aを備える場合について説明するが、アンテナ素子11Aの数はこれに限定されない。アレーアンテナ11は、アンテナの一例である。
送信信号発生部12は、受電装置20に送信する給電用の送信信号2000を生成する。送信信号2000は、電力を供給可能な電波2000Wを放射するための信号である。例えば、送信信号2000はベースバンド帯の信号であってもよい。送信信号2000は、例えば、無変調信号でもよいし、変調信号でもよい。無変調信号の場合、送信期間中、送信信号2000の時間変動はない。変調信号の場合、送信期間中、送信信号発生部12は送信信号2000を時間変動させる。送信信号発生部12は、例えば、規定信号1000を受信するタイミングには送信信号2000を停止することを含む。送信信号発生部12は、乗算部18と電気的に接続されており、生成した送信信号2000を乗算部18に供給する。
送受信部13は、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aの各々と電気的に接続された複数の送受信回路13Aを有する。送受信回路13Aは、推定部14、乗算部18等と電気的に接続されている。送受信回路13Aは、アンテナ素子11Aで受信した受信信号を抽出して推定部14に供給する。送受信回路13Aは、乗算部18で送信ウェイトが乗算された送信信号2000をアンテナ素子11Aから放射させる。送信ウェイトは、例えば、振幅及び位相を調整可能な重み係数を含む。送受信部13は、送信ウェイト(複素振幅)が乗算された送信信号2000を含む電波を複数のアンテナ素子11Aから同時に放射させることで、送電装置10は指向性が制御された電波2000Wを放射する。なお、送電装置10は、送信信号が無変調波の場合、乗算部18を不要としてもよい。
推定部14は、複数のアンテナ素子11Aで受信した受信信号に含まれる規定信号1000から伝搬チャネル特性(インパルス応答)を推定する。伝搬チャネル特性(インパルス応答)は、例えば、振幅特性、位相特性を含む。アレー応答ベクトルは、例えば、アンテナ本数分のチャネル特性を示す。アレー応答ベクトルは、例えば、複数のアンテナ素子11Aごとの伝搬チャネル特性(インパルス応答)を並べたベクトルを含む。受信処理におけるアレー応答ベクトルは、受信応答ベクトルとも称する。推定部14は、例えば、特開2002-43995号公報に開示されているように周知のアルゴリズムを用いて受信応答ベクトルを推定する。推定部14は、アレー応答ベクトルのベクトルデータをウェイト生成部17に供給する。
センサ部15は、送電装置10の電波伝搬環境における物体5000の有無、位置、領域、距離(深度)等を検出可能な情報を取得できる。電波伝搬環境は、例えば、送電装置10と受電装置20との間で電波2000Wを伝搬する空間を含む。物体5000の領域は、例えば、電波伝搬環境における物体5000の領域、自機からの物体5000の角度、角度広がりに関する情報を含む。センサ部15は、例えば、カメラ、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、ミリ波レーダなどのレーダ、ToF(Time of Flight)センサ、赤外線センサ、人感センサ、深度センサ等を用いて、電波伝搬環境に存在する物体5000に関する情報を取得する。センサ部15は、送電装置10の外部に設けられてもよい。センサ部15は、検出部16と電気的に接続されており、電波伝搬環境における物体5000の少なくとも方向及び距離を検出可能なセンサ情報を検出部16に供給する。センサ情報は、例えば、物体5000の有無、距離、位置、画像等の情報を含む。このように、本開示の検出部16は、センサ部15からの、物体5000のGPS情報などの位置情報、方向情報、距離情報などを含むセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の位置に関する情報を検出する。
検出部16は、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の、例えば、位置、領域及び距離に関する情報を検出する。物体5000は、例えば、人間、動物、ロボット、移動体、植物、食物、電磁波を送信又は受信する機器等を含む。検出部16は、センサ情報が示す画像に対して公知である物体認識処理を実行し、物体5000の有無、形状、電波伝搬環境における物体が存在する領域、自機からの物体5000の方向及び距離等を検出する。例えば、検出部16は、センサ情報が示す物体5000の方向、位置、領域等と、センサ部15とアレーアンテナ11との相対位置関係に基づいて、アレーアンテナ11からの物体5000の方向、領域、位置、距離等を検出する。複数の物体5000が存在する場合、検出部16は、複数の物体5000ごとの位置及び距離等を検出する。検出部16は、前処理部19と電気的に接続されており、アレーアンテナ11からの物体5000の方向、領域、距離等を識別可能な方向情報として前処理部19に供給する。
方向情報は、例えば、アレーアンテナ11からの物体5000の方向、領域、距離等を示す情報を含む。方向情報は、例えば、図27に示すように、物体5000を含む領域151、大きさ152、距離153等の識別可能な情報を含む。なお、方向情報は、複数のアンテナ素子11Aの配置に応じて設定された物体5000の大きさを識別可能な情報とすることができる。例えば、複数のアンテナ素子11Aがマトリックス状に配置されている場合、物体5000の領域151は、縦横の長さ、位置、物体5000の形状等を設定できる。例えば、複数のアンテナ素子11Aが一方の方向に並んで配置されている場合、物体5000の大きさ152は、幅、高さ等の一方の方向における長さや距離、自機からの角度範囲等を設定できる。物体5000の距離153は、センサ部15から物体5000までの最短、最長、その平均等の距離、深度等を設定できる。なお、物体5000の領域151は、物体5000の外形等に応じた空間領域としてもよい。
前処理部19は、検出部16からの方向情報に基づいて、ベクトル化及びヌル深度の大きさを識別可能な情報として生成する処理を行う。物体5000の大きさに合わせてヌルを広角化する場合、前処理部19は、例えば、多点ヌル拘束方式及び微係数拘束方式の少なくとも一方を用いて、ベクトル化を行うことができる。前処理部19の処理については、後述する。前処理部19は、ウェイトの生成に関する前処理を行い、処理結果をウェイト生成部17に供給する。
ウェイト生成部17は、推定部14の推定結果である受電装置20に対するアレー応答ベクトルと検出部16の方向情報に基づいて前処理部19において演算した結果から、電力伝送用ウェイトを生成する。ウェイトの生成方法は、例えば、MIMOで用いられるZF(Zero-Forcing)アルゴリズム、MMSE(Minimum Mean Square Error)アルゴリズム等を用いることができる。ウェイト生成部17は、乗算部18と電気的に接続されており、電力伝送用ウェイトを示すウェイト情報を乗算部18に供給する。以下の説明では、説明を簡単化するために、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aが水平方向において等間隔で並んでいる場合について説明する。
図28に示すように、アダプティブアレーアンテナ送信は、送信信号2000に複素振幅(ウェイトw)の複素共役w を乗じた後、K本のアンテナ素子11Aから同時に電波2000Wを放射する。なお、本開示において、(・)のように文字の右肩に「*」を記している場合、複素共役を意味する。ウェイトwは、k=0,・・・,K-1である。受信点200Pでは、K本のアンテナ素子11Aから放射された電波2000Wの合成信号が観測される。このとき、伝搬チャネルごとに振幅・位相が変化する。そこで、#0から#K-1のアンテナ素子11Aと受信点200P間の伝搬チャネルのインパルス応答をZ(複素数)とすると、解析的なアレーアンテナ特性は、以下の(式311)で与えられる。
Figure 2024002994000074
本開示では、解析的なアレーアンテナ特性は、アレー応答値ARと称する。ウェイトベクトルをW、アレー応答ベクトルをVとすると、(式311)は複素ベクトルの内積として以下の(式312)で表せる。なお、本開示において、(・)のように文字の右肩に「H」を記している場合、複素共役転置(エルミート転置)を意味する。
AR=WV ・・・(式312)
ウェイトベクトルWとアレー応答ベクトルVを具体的な要素で表すと、以下の(式313)のようになる。
Figure 2024002994000075
アレー応答ベクトルVが既知であれば、適切なウェイトベクトルWを与えることで、受信点200Pでのアレー応答値ARを制御できる。なお、ウェイトベクトルWを決める際には、送信電力の合計が一定になるように、ウェイトベクトルWのノルムの2乗が1(||W||=1)という制約条件を課すものとする。
レトロディレクティブ方式のシステム1では、受電装置20から送信される規定信号1000(パイロット信号)に基づいてアレー応答ベクトルVを推定し、これを利用して最適なウェイトベクトルWoptを生成する。伝搬チャネルの時間変動を無視すれば、伝搬チャネルの可逆性(相反性)により受信時のアレー応答ベクトルVを送電装置10から受電装置20への送信時のアレー応答ベクトルとみなせる。ただし、受信時のパイロット信号は送電時の電波と同じ周波数とする。||W||=1という条件のもとアレー応答値の大きさ|W|を最大にする最適なウェイトベクトルWoptは、以下の(式314)とすることができる。
Figure 2024002994000076
以上のように、レトロディレクティブ方式の送信の最適なウェイトベクトルWoptは、受信したパイロット信号のアレー応答ベクトルVだけでよく、受信点200Pの方向などの情報は不要である。
次に、レトロディレクティブ方式と複数(例えばM個)のヌル形成の同時実現について説明する。
ヌルは、アレーアンテナ11の指向性において、方向、点等の利得がゼロになることを意味する。アレーアンテナ11でヌルを形成するには、ヌルに対応するアレー応答ベクトルV(i=1,・・・,M)に対し、アレー応答値の大きさ|W|をゼロにすればよい。この条件のもと、アレー応答ベクトルVのアレー応答値の大きさ|W|を最大化する。これは以下のような(式315)に示す最適化問題として定式化できる。本開示では、これを線形拘束付きレトロディレクティブ方式と称する。ここで、Kはアンテナ素子11Aの数である。Mはヌルの数である。自由度はK-1であるため、M<Kとしている。argmax(argument of the maximum)は、最大値を達成する値の集合を意味する。(式315)は、ウェイトベクトルWで|W|が最大となる最適なウェイトベクトルWoptを求める式である。
Figure 2024002994000077
(式315)の最適化問題は、閉形式の解が存在する。
(式316)を定義すると、最適なウェイトベクトルWoptは(式317)で与えられる。
Figure 2024002994000078
Figure 2024002994000079
ここで、AはM個の複素列ベクトルであるアレー応答ベクトルV,V,・・・,Vを並べた(式318)に示す行列である。
Figure 2024002994000080
は、Aのムーア・ペンローズ一般逆行列である。ムーア・ペンローズ一般逆行列Aは、AAA=A,AAA=A,(AA=AA,(AA)=AAを満足する。複素列ベクトルであるアレー応答ベクトルV,V,・・・,Vが線形独立の場合は、A=(AA)-1となる。
ヌルに対応するアレー応答値は、W=0(i=1,・・・・,M<K)を満足しなければならない。そこで、これらを同次連立一次方程式と考えると、M個の複素列ベクトルであるアレー応答ベクトルV,V,・・・,Vを並べた行列Aを使ってAW=0にように行列とベクトルの積で表される。この一般解はムーア・ペンローズ一般逆行列Aを用いて、W=(I-AAz=(I-AA)zで与えられる。zは、任意の複素ベクトルである。最大化したいアレー応答値の大きさ|W|にW=(I-AAz=(I-AA)zを代入すると、|W|=|z(I-AA)V|となる。そして、コーシー・シュワルツの不等式より、|W|=|z(I-AA)V|≦||z||・||(I-AA)V||が成り立つ。|W|が最大になるのは当該不等式の等号のときであり、このとき、z=α(I-AA)Vを満たす。αは、任意の複素定数である。
最適なウェイトベクトルWoptは、上述したW=(I-AAz=(I-AA)zに、z=α(I-AA)Vを代入することで、Wopt=α(I-AA)Vが与えられる。ここで、(式316)のようにV’=(I-AA)Vとすると、||Wopt||=|α|||V’||=1を満足するためにはα=1/||V’||とすればよい。よって、最適なウェイトベクトルWoptは、上述した(式317)としてよいことになる。
次に、ヌルに対応するアレー応答ベクトルの算出方法の一例を説明する。送電装置10と受電装置20との間のアレー応答ベクトルは、規定信号1000から推定するが、ヌルを向けたい対象からは、規定信号1000が送出されないと仮定すると、別の方法でアレー応答ベクトルを算出する必要がある。本開示では、送電装置10からヌルを向けたい対象へ直接向かうパスをヌル対象とすることを目的とし、センサ部15を用いて取得したヌル対象である物体5000の方向からアレー応答ベクトルを算出する。
図29に示すように、K個のアンテナ素子11Aが等間隔に並ぶリニアアレーにおいて、ブロードサイドから時計回りにθ(-π/2<θ<π/2)だけ回転した向きに放射される遠方界でのアレー応答ベクトルは、以下の(式319)のように与えられる。ブロードサイドは、アンテナ素子11Aを並べた方向に対し垂直な向きであり、図29における上方である。基準点200Bの#0のアンテナ素子11Aから#kのアンテナ素子11Aまでの素子間距離がkdとなっている。基準点200B#0のアンテナ素子11Aから#K-1のアンテナ素子11Aまでの素子間距離が(K-1)dとなっている。
Figure 2024002994000081
ここで、インパルス応答Zは、以下の(式320)で与えられる。
Figure 2024002994000082
これにより、ヌル対象の方向θが分かれば、アレー応答ベクトルVを以下の(式321)のように算出できる。なお、方向θは、θ=θであり、i=1,・・・,Mである。jは、虚数単位であり、j=-1である。ここで、インパルス応答Zは、以下の(式322)で得ることができる。
Figure 2024002994000083
Figure 2024002994000084
ウェイト生成部17は、ヌル対象の方向θからヌルに対応するアレー応答ベクトルVを(式321)及び(式322)を用いて導出し、続いて(式318)を用いて行列(I-AA)を算出する。ウェイト生成部17は、算出した行列(I-AA)と、受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVとから、アレー応答値の大きさ|W|を最大にする最適なウェイトベクトルWoptを決定する。
記憶部17Dは、半導体記憶媒体、及び磁気記憶媒体等の任意の非一過的な記憶媒体を含んでよい。記憶部17Dは、メモリカード、光ディスク、又は光磁気ディスク等の記憶媒体と、記憶媒体の読み取り装置との組み合わせを含んでよい。記憶部17Dは、RAMなどの一時的な記憶領域として利用される記憶デバイスを含んでよい。記憶部17Dは、ウェイト生成部17の外部に設けてもよい。
次に、ヌルを広角化する一例を説明する。ヌル対象の物体5000は拡がりを持っており、物体5000の領域に応じてヌルを広角化することが望ましい。ヌルを広角化するには、複数の方法を用いることができる。ヌルの広角化には、例えば、多点ヌル拘束(Multiple Null Constraints)方式、微係数拘束(Derivative Constraints)方式等を用いることができる。
多点ヌル拘束方式は、ヌル対象の大きさに合わせ、一方向ではなく、その近傍の複数の方向にヌルを形成することで、ヌルの広角化を図る方法である。例えば、上述した(式315)のアレー応答ベクトルVは、ヌル対象の方向であるθから(式321)と(式322)を用いて計算されるが、ヌル対象の大きさに合わせヌル近傍の複数方向もヌル対象の方向として与えることで広角化を実現する。
微係数拘束方式は、θ方向のアレー応答値の連続性を用いて、微係数より平坦化を図る方法である。以下に、微係数拘束方式の詳細を説明する。
K個のアンテナ素子11Aが等間隔リニアアレーのθ方向のアレー応答ベクトルV(θ)に対するアレー応答値は、θの関数であり、これをD(θ)とする。上述した(式311)、(式312)に(式319)、(式320)を代入すると、D(θ)は、以下の(式323)で与えられる。
Figure 2024002994000085
D(θ)は、アレー応答関数、あるいはアレーファクタと呼ばれる。D(θ)は、θの連続関数であり、θで微分可能である。なお、この絶対値|D(θ)|を図示したものは、アレーアンテナの指向性パターンになる。
(式323)にθ=θ(i=1,・・・,M)を代入したD(θ)は、θ方向のアレー応答値である。また、(式323)は、微分可能であるから、θ=θの近傍であるθ=θ+Δθのアレー応答値D(θ+Δθ)は、L次近似式を用いて以下の(式324)のように表せる。
Figure 2024002994000086
(式324)において、微係数D(l)(θ)(l=1,・・・,L)がゼロならば、D(θ+Δθ)≒D(θ)となり、θの近傍θ+Δθでアレー応答値を同程度にできる。これをヌル(D(θ)=0)に対して適用したものが微係数拘束によるヌルの広角化であり、近似式の次数のLにより広角化の度合いを制御できる。本開示ではLを広角度と称する。本開示では、微係数D(l)(θ)の右肩の(l)は、微分の階数を示す。
ヌルの方向をθ(i=1,・・・,M)、近似式の次数をLとすると、微係数拘束条件は、以下の(式325)となる。ただし、(式325)は、l=1,・・・,Lである。なお、V (l)の右肩の(l)は、微分の階数ではなく、インデックスに過ぎない。
(l))=W(l))=0 ・・・(式325)
(式325)は、以下の(式326)と等価である。ただし、(式326)は、l=1,・・・,Lである。ここでQは対角行列であり、以下の(式327)で与えられる。なお、微係数拘束条件の変換については、後述する。
(Q)=W(QV(θ))=0 ・・・(式326)
=diag[0 ・・・ (K-1)]・・・(式327)
よって、上述した(式315)のアレー応答ベクトルVとしてV (l)=Qを追加することで、微係数拘束によるヌルの広角化を実現できる。ここでl=1,・・・,Lである。V (l)は正しくはアレー応答ベクトルではなく、この場合(式315)のVをアレー応答ベクトルと呼ぶのは不適切である。そこで、拘束条件を与えるベクトルとして、以降では、(式315)のVを拘束ベクトルと称することがある。
上述したようにヌルを広角化するには、拘束ベクトル数を増やさなければならない。これにより、ウェイトベクトルWの制約が厳しくなり、受電装置20のアレー応答値|W|が小さくなる可能性がある。その一方で、送電装置10と物体5000との距離が離れている場合、深いヌルを形成する必要がなく、ヌル深度を制御することで、受電装置20への電力供給を改善することが見込まれる。以下では、ヌル深度の制御方法の一例について説明する。
上述した(式315)の拘束条件の一部を変更した最適化問題を、以下の条件式の(式328)のように定式化できる。詳細には、(式328)は、(式315)のW=0を、|W=|εに変更している。
Figure 2024002994000087
ここで、Kはアンテナ素子11Aの数であり、Mはヌルの数である。ヌルの数Mは、検出部16が検出した物体5000の領域に応じた数である。
(式328)の最適なウェイトベクトルWoptは、上述した(式316)を用いて以下の(式329)で与えられる。
Figure 2024002994000088
ここで、V’=(I-AA)V、Vε=(Aεである。Aは、M個の複素列の拘束ベクトルV,V,・・・,Vを並べた行列であり、Aは、Aのムーア・ペンローズ一般逆行列である。また、ε=[ε ε ・・・ εであり、εの絶対値|ε|は、(式328)により与えられる。本開示において、(・)のように文字の右肩に「T」を記している場合、転置を意味する。εの偏角は、ベクトル(A)の各要素と同じ値とすることで、アレー応答値|W|を最大化できる。なお、(式329)におけるαは、以下の(式330)で与えられる。
Figure 2024002994000089
(式329)及び(式330)によってウェイトベクトルWと拘束ベクトルVの内積の大きさ|W|を|ε|にできるが、上述した(式316)及び(式317)に比べ、Vεとαの演算が必要な分、複雑になる。
上述した(式328)は、近似解にすることで、処理を簡単化できる。以下に、近似解の求め方の一例について説明する。
ウェイトベクトルWのノルムの2乗が1(||W||=1)であり、||V||は既知であるので、|W|を最大化することは、|W|/(||W||・||V||)を1に近づけることと等価である。これは、W/||W||≒V/||V||と考えることができる。すなわち、W≒γVとなる。γは、比例定数である。また、|W=|εをW≒0に変更する。これにより、(式328)の最適化問題は、近似的に以下の条件式の(式331)ように考えることができる。(式331)において≒は左辺の値と右辺の値をできるだけ近づけることを意味する。
Figure 2024002994000090
(式331)の最適なウェイトベクトルWoptは、以下の(式332)を定義すると、以下の(式333)で与えられる。なお、近似解によるヌル深度制御については、後述する。
Figure 2024002994000091
Figure 2024002994000092
ここで、A’は、M個の複素列ベクトルα,α,・・・,αを並べた行列A’=[α α ・・・ α]である。α(i=1,・・・,M)は、Vに対する重み係数である。上述した絶対値|ε|の代わりにαを用いることで、ヌル深度を制御できる。このように、ヌル深度を制御するアルゴリズムは、厳密解から求めてもよいし、近似解を用いてもよい。また、ヌル深度を制御するアルゴリズムは、厳密解から求めても、近似解を用いて求めても、いずれもヌル広角化に対応できる。
ウェイト生成部17は、規定信号1000の伝搬チャネル特性と、検出部16が検出した物体5000の方向、領域及び距離を識別可能な方向情報に基づいて前処理部19において演算した結果から、物体5000の領域にヌルが向くように送信ウェイトを生成する。領域にヌルを向ける場合、拘束ベクトルVはV (l)(l=0,・・・,L)となる。
図30は、多点ヌル拘束方式のベクトル化の一例を示す図である。多点ヌル拘束方式を用いる場合、前処理部19は、図30に示すように、ヌル対象の物体5000の方向θと領域δから(式321)と(式322)を用いてアレー応答ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。詳細には、前処理部19は、物体5000の方向θと領域δから当該方向の最小値θmin と最大値θmax を決定する。ウェイト生成部17は、予め定められた刻み幅でθminからθmaxをカバーする方向θ(0) ,・・・,θ(Li) を決定する。なお、刻み幅は、物体5000の方向θによらず一定でもよいし、物体5000の方向θごとに変更してもよい。前処理部19は、方向θ(0) ,・・・,θ(Li) から(式321)と(式322)を用いて、拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。本開示では、微係数拘束方式において近似式の次数Lを広角化の度合いを表す尺度として広角度と称したが、多点ヌル拘束方式における前記Lも広角度と称することがある。
図31は、微係数拘束方式のベクトル化の一例を示す図である。微係数拘束方式を用いる場合、前処理部19は、図31に示すように、方向θと領域δから(式321)と(式322)等を用いてアレー応答ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。詳細には、前処理部19は、方向θと物体500の領域δから広角度Lを求める。広角度Lは、領域δだけではなく方向θにも依存する。このため、前処理部19は、これらの情報から広角度Lを導き出すテーブル、機械学習等を用いることで、広角度Lを求める。
図31に示す一例では、前処理部19は、方向θと領域δとを示す情報をテーブル170に適用して広角度Lを求める。領域δは、例えば、物体5000の領域、距離等に関する情報を含む。テーブル170は、記憶部17Dに記憶されており、方向θと領域δから広角度Lを導き出すルックアップテーブルである。前処理部19は、求めた広角度Lとアレー応答ベクトルVとから、上記の(式325)、(式326)、(式327)を用いてベクトル化することで、拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。ここでV (0)=Vとする。
図32は、前処理部19のヌル深度の処理例を示す図である。図32に示す一例は、前処理部19が上述した(式328)を用いる場合の処理例を示している。前処理部19は、図32に示すように、ヌル深度の大きさについての処理を行うことができる。上述した(式328)の場合、ヌル対象までの距離dから電波2000Wの強度の減衰量が推定できる。前処理部19は、事前に測定した結果に基づく距離dと絶対値|ε|のテーブルを用いて、絶対値|ε|を求める。絶対値|ε|は、例えば、アンテナ素子自体の指向性を考慮し、物体5000の方向θごとに変更してもよい。
図32の19Aに示す多点ヌル拘束方式の場合、前処理部19は、距離d,d,・・・,dと、広角度L,L,・・・,Lとを用いて、例えば、同一のヌル対象に対して全て同じ値でヌル深度の大きさを示すベクトルP1を求める処理を実行する。ベクトルP1は、例えば、[|ε|,|ε|,・・・,|ε|,|ε|,|ε|,・・・,|ε|,・・・.|ε|,|ε|,・・・,|ε|]である。
図32の19Bに示す微係数拘束方式の場合、前処理部19は、距離d,d,・・・,dと、広角度L,L,・・・,Lを用いて、V (0)に対応するヌル深度の大きさを|ε|とし、V (l)(l=1,・・・,L)に対応するヌル深度の大きさをゼロとし、ヌル深度の大きさを示すベクトルP2を求める処理を実行する。ベクトルP2は、例えば、[|ε|,0,・・・,0,|ε|,0,・・・,0,・・・.|ε|,0,・・・,0]である。
送電装置10が上述した(式328)を用いる場合、前処理部19は、求めた拘束ベクトルV (l)を用いて、(I-AA)、A等の行列演算を行い、ヌル深度の大きさを示すベクトルP1,P2の演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶してウェイト生成部17に供給する。
図33は、前処理部19のヌル深度の他の処理例を示す図である。図33に示す一例は、前処理部19が上述した(式331)を用いる場合の処理例を示している。前処理部19は、図33に示すように、ヌル深度の大きさについての処理を行うことができる。上述した(式331)の場合、前処理部19は、事前に測定した結果に基づく距離dと重み係数αのテーブルを用いて、重み係数αを求める。重み係数αは、例えば、アンテナ素子自体の指向性を考慮し、物体5000の方向θごとに変更してもよい。
図33の19Cに示す多点ヌル拘束方式の場合、前処理部19は、距離d,d,・・・,dと、広角度L,L,・・・,Lを用いて、同一のヌル対象に対して同じ値でヌル深度の大きさを示すベクトルP3を求める処理を実行する。ベクトルP3は、例えば、[α,α,・・・,α,α,α,・・・,α,・・・.α,α,・・・,αである。
図33の19Dに示す微係数拘束方式の場合、前処理部19は、距離d,d,・・・,dと、広角度L,L,・・・,Lを用いて、V (0)に対応するヌル深度の大きさをαとし、V (l)(l=1,・・・,L)に対応するヌル深度の大きさを固定値(α>>1)とし、ヌル深度の大きさを示すベクトルP4を求める処理を実行する。ベクトルP4は、例えば、[α,α,・・・,α,α,α,・・・,α,・・・.α,α,・・・,αである。
送電装置10が上述した(式331)を用いる場合、前処理部19は、求めた拘束ベクトルV (l)とヌル深度の大きさを示すベクトルP3,P4を用いて、(I-A’(I+A’A’)-1A’)の行列演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶してウェイト生成部17に供給する。
ウェイト生成部17は、推定部14の推定結果である受電装置20に対するアレー応答ベクトルVと、記憶部17Dに記憶された情報を用いて、最適なウェイトベクトルWoptを、上述した(式329)または(式333)によって求める。
ウェイト生成部17は、生成した方向、領域及び距離に適したウェイトベクトルを識別可能なウェイト情報を記憶部17Dに記憶できる。なお、送電装置10は、広角度Lをヌル対象ごとに設定できる。送電装置10は、ヌルを向ける方向、領域及び距離から算出する行列やベクトルと、規定信号1000の伝搬チャネル特性とを独立して算出できる。
図27に示すように、乗算部18は、ウェイト生成部17のウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの送信信号2000にウェイトを乗算する。乗算部18は、例えば、乗算器を有する。乗算部18は、アンテナ素子11Aに対応するウェイトを乗算した送信信号2000を、当該アンテナ素子11Aの送受信回路13Aに供給する。
以上、本実施形態に係る送電装置10の機能構成例について説明した。なお、図27を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る送電装置10の機能構成は係る例に限定されない。本実施形態に係る送電装置10の機能構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形可能である。
[実施形態3に係る受電装置]
図34は、実施形態3に係る受電装置20の構成の一例を示す図である。図34に示すように、受電装置20は、アンテナ21と、送受信部22と、信号発生部23と、受電部24と、を備える。本開示の受電装置20は、移動可能な装置であるとしてよい。例えば、このような受電装置20として、モバイルバッテリー、スマートフォン、カメラ、振動センサ、生体センサ、温度センサ、警報などのドローンや車などの移動体に搭載される機器、自動運転車両、設置位置が可変な振動センサ、生体センサ、温度センサ、警報などとしてよい。本開示では、受電装置20は、移動可能な装置であるため、規定信号に基づく伝搬チャネルの特性が受電装置20の位置に応じて変化しうるとしてよい。
アンテナ21は、送受信部22と電気的に接続されている。アンテナ21は、送電装置10からの電波2000Wを受電可能な受電アンテナである。アンテナ21は、例えば、パッチアンテナ、ダイポールアンテナ、パラボラアンテナ等を用いることができる。アンテナ21は、例えば、規定信号1000を含む電波を放射し、送電装置10からの送信信号2000を含む電波2000Wを受信する。アンテナ21は、受信した電波2000Wの受信信号を送受信部22に供給する。
送受信部22は、信号発生部23及び受電部24と電気的に接続されている。送受信部22は、信号発生部23からの規定信号1000を含む電波をアンテナ21から放射させる。送受信部22は、アンテナ21で受信した電波の受信信号を受電部24に供給する。
信号発生部23は、規定信号1000を生成する。信号発生部23は、送受信部22を介して、該規定信号1000を含む電波をアンテナ21に放射させる。信号発生部23は、送信周期に基づいて規定信号1000を生成できる。信号発生部23は、規定信号1000とは異なる信号を生成する構成としてもよい。
受電部24は、アンテナ21で受信した電波2000Wを直流電流に変換し、この直流電流を利用して電力を受電する。受電部24は、例えば、公知である整流回路等を用いて、電波を直流電流に変換する。受電部24は、受電した電力を、例えば、Qi(ワイヤレス給電の国際標準規格)に対応したバッテリ、負荷等に供給する。負荷は、例えば、機械設備、IoT(Internet of Things)センサ、電子機器、照明機器等を含む。
以上、本実施形態に係る受電装置20の機能構成例について説明した。なお、図34を用いて説明した上記の構成はあくまで一例であり、本実施形態に係る受電装置20の機能構成は係る例に限定されない。本実施形態に係る受電装置20の機能構成は、仕様や運用に応じて柔軟に変形可能である。
[実施形態3に係る送電装置の処理手順例]
図35は、図1に示すシステム1の送電装置10の処理手順の一例を説明するための図である。図36は、図35に示す送電装置10のデータフローの一例を説明するための図である。図36は、送電装置10が上述した(式328)を用いる場合を示している。
図35に示すように、システム1において、受電装置20は、規定信号1000を含む電波を放射する。送電装置10は、アレーアンテナ11で規定信号1000を含む電波を受信すると、受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVを推定する(ステップS111)。例えば、図36に示すように、送電装置10は、推定部14で、複数のアンテナ素子11Aで受信した受信信号に含まれる規定信号1000の伝搬チャネル特性を推定し、アレー応答ベクトルVを推定する。図35に戻り、送電装置10は、ステップS111の処理が終了すると、処理をステップS131に進める。
また、送電装置10は、検出部16で、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の方向、領域及び距離を検出する(ステップS121)。例えば、図36に示すように、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000をヌル対象と検出している場合、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出する。送電装置10は、複数の物体5000の領域δ,δ,・・・,δを検出する。送電装置10は、複数の物体5000の距離d,d,・・・,dを検出する。送電装置10は、検出した物体5000の方向θ,θ,・・・,θ、領域δ,δ,・・・,δ及び距離d,d,・・・,dを前処理部19に供給する。図35に戻り、送電装置10は、ステップS121の処理が終了すると、処理をステップS122に進める。
送電装置10は、前処理を実行する(ステップS122)。例えば、微係数拘束方式を用いる場合、図36に示すように、送電装置10は、前処理部19で、ベクトル化を行う(ステップS191)。例えば、送電装置10は、方向θと領域δとを示す情報をテーブル170に適用して広角度Lを求め、広角度Lとアレー応答ベクトルVとからベクトル化することで、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。
送電装置10は、前処理部19が行列演算を行う(ステップS192)。詳細には、送電装置10は、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)を用いて(I-AA)、Aの行列演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶する。ただし、A=[V(0) ,・・・,V(L1) ,V(0) ,・・・,V(L2) ,・・・,V(0) M,・・・,V(LM) M]である。
送電装置10は、前処理部19がヌル深度の大きさを算出する(ステップS193)。詳細には、送電装置10は、検出部16からの距離dとステップS191で求めた広角度Lとに基づいて、微係数拘束に対応する箇所をゼロとし、ヌル深度の大きさを示すベクトルP2を求めて記憶部17Dに記憶する。図35に戻り、送電装置10は、ステップS122の処理が終了すると、処理をステップS131に進める。
送電装置10は、送信ウェイトを生成する(ステップS131)。例えば、図36に示すように、送電装置10は、ウェイト生成部17が行列とベクトルの積算を行う(ステップS171)。詳細には、送電装置10は、ウェイト生成部17が演算結果(I-AA)とアレー応答ベクトルVの積算を行う。例えば、送電装置10は、記憶部17Dの(I-AA)の演算結果と推定部14からのアレー応答ベクトルVを積算してベクトルV’を求める。
送電装置10は、ウェイト生成部17が行列とベクトルの積算を行う(ステップS172)。詳細には、送電装置10は、ウェイト生成部17が演算結果(A)とアレー応答ベクトルVの積算を行う(ステップS172)。例えば、送電装置10は、記憶部17Dの(A)の演算結果と推定部14からのアレー応答ベクトルVを積算してベクトル(A)を求める。送電装置10は、ウェイト生成部17がベクトルεの生成を行う(ステップS173)。例えば、送電装置10は、記憶部17Dのヌル深度の大きさを示すベクトルP2とステップS172のベクトル(A)とに基づいて、ベクトルεを生成する。
送電装置10は、ウェイト生成部17がベクトルVεの生成を行う(ステップS174)。例えば、送電装置10は、記憶部17Dの(A)の演算結果とステップS173のベクトルεとに基づいてベクトルVεを生成する。送電装置10は、ウェイト生成部17が係数演算を行う(ステップS175)。例えば、送電装置10は、ステップS171のベクトルV’とステップS174のベクトルVεとに基づいて係数αの演算を行う。
送電装置10は、ウェイト生成部17がウェイトベクトルWoptの生成を行う(ステップS176)。例えば、送電装置10は、ステップS171のV’とステップS174のVεとステップS175のαとに基づいて、(式328)を用いた最適なウェイトベクトルWopt=αV’+Vεを生成する。図35に戻り、送電装置10は、ステップS131の処理が終了すると、処理をステップS132に進める。
送電装置10は、送信ウェイトを乗算する(ステップS132)。例えば、送電装置10は、乗算部18が最適なウェイトベクトルWoptを示すウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの給電用の送信信号2000にウェイトを乗算し、送受信回路13Aに供給する。これにより、送電装置10は、給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから放射させる。この場合、送電装置10は、ヌル対象の物体5000までの距離dから電波2000Wの強度の減衰量を考慮して物体5000の領域にヌルを向けているので、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成されるが、物体5000においては弱め合うように合成される。
受電装置20は、例えば、受信した給電用の電波2000Wを直流電流に変換し、この直流電流を利用してバッテリを充電したり、充電した電力によって動作したりする。その後、受電装置20は、規定信号1000を送出する。
送電装置10は、アレーアンテナ11で規定信号1000を含む電波を受信すると、上述した処理手順を繰り返すことで、ウェイトベクトルWoptを生成して送信信号2000の電波2000Wをアレーアンテナ11から放射する。これにより、送電装置10は、受電装置20や物体5000が移動しても、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成され、物体5000においては弱め合うように合成されることを維持できる。
[実施形態3に係る送電装置の処理手順の他の例]
図37は、図35に示す送電装置10のデータフローの他の一例を説明するための図である。図37は、送電装置10が上述した(式331)を用いる場合を示している。なお、送電装置10は、上述した図35に示した処理手順と同一の処理手順を実行する。
図35に示すように、システム1において、受電装置20は、規定信号1000を含む電波を放射する。送電装置10は、アレーアンテナ11で規定信号1000を含む電波を受信すると、受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVを推定する(ステップS111)。例えば、図37に示すように、送電装置10は、推定部14で、複数のアンテナ素子11Aで受信した受信信号に含まれる規定信号1000の伝搬チャネル特性を推定し、アレー応答ベクトルVを推定する。図35に戻り、送電装置10は、ステップS111の処理が終了すると、処理をステップS131に進める。
また、送電装置10は、検出部16で、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の方向、領域及び距離を検出する(ステップS121)。例えば、図37に示すように、送電装置10は、検出部16がM個の物体5000をヌル対象と検出している場合、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θを検出する。送電装置10は、複数の物体5000の領域δ,δ,・・・,δを検出する。送電装置10は、複数の物体5000の距離d,d,・・・,dを検出する。送電装置10は、検出した物体5000の方向θ,θ,・・・,θ、領域δ,δ,・・・,δ及び距離d,d,・・・,dを前処理部19に供給する。図35に戻り、送電装置10は、ステップS121の処理が終了すると、処理をステップS122に進める。
送電装置10は、前処理を実行する(ステップS122)。例えば、微係数拘束方式を用いる場合、図37に示すように、送電装置10は、前処理部19で、ベクトル化を行う(ステップS194)。例えば、送電装置10は、方向θと領域δとを示す情報をテーブル170に適用して広角度Lを求め、広角度Lとアレー応答ベクトルVとからベクトル化することで、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)(l=0,・・・,L)を求める。
送電装置10は、前処理部19がヌル深度の大きさを算出する(ステップS195)。詳細には、送電装置10は、検出部16からの距離dとステップS194で求めた広角度Lとに基づいて、微係数拘束に対して固定値としてヌル深度の大きさを示すベクトルP4を求める。
送電装置10は、前処理部19が行列演算を行う(ステップS196)。詳細には、送電装置10は、ヌルに対応した拘束ベクトルV (l)とステップS195のベクトルP4を用いて、(I-A’(I+A’A’)-1A’)の行列演算を行い、演算結果を記憶部17Dに記憶する。ただし、A’=[α(0) α(1) ・・・α(L1) α(0) α(1) ・・・α(L2) ・・・ α(0) α(1) ・・・α(LM) ]である。図35に戻り、送電装置10は、ステップS122の処理が終了すると、処理をステップS131に進める。
送電装置10は、送信ウェイトを生成する(ステップS131)。例えば、図37に示すように、送電装置10は、ウェイト生成部17が行列とベクトルの積算を行う(ステップS177)。詳細には、送電装置10は、ウェイト生成部17が演算結果(I-A’(I+A’A’)-1A’)とアレー応答ベクトルVの積算を行う。例えば、送電装置10は、記憶部17Dの(I-A’(I+A’A’)-1A’)の演算結果と推定部14からのアレー応答ベクトルVを積算してアレー応答ベクトルV’’=(I-A’(I+A’A’)-1A’)Vを求める。
送電装置10は、ウェイト生成部17が算出したアレー応答ベクトルV’’を正規化する(ステップS178)。例えば、送電装置10は、(式333)を用いて最適なウェイトベクトルWoptを生成する。図35に戻り、送電装置10は、ステップS131の処理が終了すると、処理をステップS132に進める。
送電装置10は、送信ウェイトを乗算する(ステップS132)。例えば、送電装置10は、乗算部18が最適なウェイトベクトルWoptを示すウェイト情報に基づいて、複数のアンテナ素子11Aごとに、送信信号発生部12からの給電用の送信信号2000にウェイトを乗算し、送受信回路13Aに供給する。これにより、送電装置10は、給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから放射させる。この場合、送電装置10は、ヌル対象の物体5000までの距離dから電波2000Wの強度の減衰量を考慮して物体5000の領域にヌルを向けているので、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成されるが、物体5000においては弱め合うように合成される。
受電装置20は、例えば、受信した給電用の電波2000Wを直流電流に変換し、この直流電流を利用してバッテリを充電したり、充電した電力によって動作したりする。その後、受電装置20は、規定信号1000を送出する。
送電装置10は、アレーアンテナ11で規定信号1000を含む電波を受信すると、上述した処理手順を繰り返すことで、ウェイトベクトルWoptを生成して送信信号2000の電波2000Wをアレーアンテナ11から放射する。これにより、送電装置10は、受電装置20や物体5000が移動しても、電波2000Wは受電装置20において強め合うように合成され、物体5000においては弱め合うように合成されることを維持できる。
図35に示す送電装置10の処理手順は、規定信号1000に応じたアレー応答ベクトルVの推定(ステップS111)と物体5000の方向、領域及び距離に応じた前処理(ステップS122)は同期する必要がない。よって、例えば、規定信号1000を受信する周期と検出部16が情報を提供する周期が異なっていてもよい。また、例えば、物体5000の方向、領域及び距離に変化がない場合、送電装置10は、過去の拘束ベクトルV (l)、類似した環境下の過去の拘束ベクトルV (l)等を用いてもよい。
図38は、実施形態3に係る送電装置10の動作例を説明するための図である。図39は、実施形態3に係る送電装置10の電波2000Wの指向性パターンを計算機シミュレーションによって計算した結果の一例を示す図である。図40は、実施形態3に係る送電装置10の電波2000Wの指向性パターンを計算機シミュレーションによって計算した結果の他の一例を示す図である。
図38に示すように、システム1は、送電装置10と受電装置20との間の近傍に物体5000が存在する場合、送電装置10がセンサ部15のセンサ情報に基づいて物体5000の方向を検出できる。受電装置20が放射した規定信号1000を含む電波は、送電装置10に直接向かうパスと、物体5000で反射して送電装置10に向かうパスが存在する。送電装置10は、アレーアンテナ11で受信した規定信号1000を含む電波の伝搬チャネル特性を推定し、アレー応答ベクトルVを推定するが、当該アレー応答ベクトルVには、受電装置20に直接向かうパスと、物体5000に向かうパスの特性を含む。
送電装置10は、センサ部15からのセンサ情報に基づいて、電波伝搬環境における受電装置20とは異なる物体5000の方向、領域及び距離を検出し、複数の物体5000の方向θ,θ,・・・,θ、領域δ,δ,・・・,δ及び距離d,d,・・・,dを検出する。送電装置10は、物体5000の方向、すなわちヌル対象に対応したアレー応答ベクトルVを計算するとともに、物体5000の領域および距離に基づいて拘束ベクトルV (l)を計算し、当該拘束ベクトルV (l)とアレー応答ベクトルVと用いて物体5000の方向の電波強度を低減する最適なウェイトベクトルWoptを生成する。送電装置10からは、最適なウェイトベクトルWoptを乗算した送信信号2000の電波2000Wがアレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aから放射される。
これにより、送電装置10は、物体5000の方向から規定信号1000を受信しても、放射する電波2000Wを受電装置20において強め合うようにでき、かつ、物体5000の領域及び距離に応じて広角化およびヌル深度を制御したヌルを形成することで、物体5000に向かう電波2000Wの放射を抑制することができる。その結果、送電装置10は、受電装置20からの規定信号1000が人体等に反射して届く環境であっても、人体等に向かう電波2000Wを抑制できるので、安全なワイヤレス電力伝送を実現することができる。
送電装置10は、伝搬環境に複数の物体5000が存在しても、複数の物体5000の方向、領域及び距離を検出し、複数の物体5000の各々にヌルを向けるように、ウェイトベクトルWoptを生成することができる。
図39に示すグラフは、例えば、2つの物体5000が存在する場合における実施形態3に係る送電装置10に多点ヌル拘束方式を用いた場合の送電装置10から放射される電波2000Wの指向性パターンの一例を示している。図39に示すグラフは、縦軸がアレー応答値の電力(絶対値の2乗)[dB]、横軸が電波2000Wの放射方向[°]をそれぞれ示している。図39に示す一例では、送電装置10は、アンテナ素子11Aの数が8、隣り合うアンテナ素子11A同士の間隔がλ/2であり、アンテナ配置が等間隔リニアアレーになっている。λは波長を表す。送電装置10は、30°の方向が受電装置20への電波2000Wの放射方向と推定し、放射方向における-10°及び-45°が2つの物体5000の方向と検出している。送電装置10は、-10°の方向のヌル深度を0.001、-45°の方向のヌル深度を0.01と算出している。送電装置10は、30°の方向の受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVと、-10°の方向の領域のヌルに対応したアレー応答ベクトルVと、-45°の方向の領域のヌルに対応したアレー応答ベクトルVとに基づいてウェイトベクトルWoptを生成する。送電装置10は、最適なウェイトベクトルWoptを乗算した送信信号2000の電波2000Wがアレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aから放射される。
図39に示す一例では、送電装置10は、放射方向が30°の方向付近でアレー応答値が高くなり、-10°の方向D1及び-45°の方向D2付近でアレー応答値が低くなっており、ヌルの深さが方向D1で-60dB、方向D2で-40dBになっている。これにより、送電装置10は、複数の物体5000の方向から規定信号1000を受信しても、放射する電波2000Wを受電装置20の方向に向けることができ、かつ、複数の物体5000に向かう電波2000Wの放射を抑制することができる。
図40に示すグラフは、例えば、2つの物体5000が存在する場合における実施形態3に係る送電装置10に微係数拘束方式を用いた場合の送電装置10から放射される電波2000Wの指向性パターンの一例を示している。図40に示すグラフは、縦軸がアレー応答値の電力(絶対値の2乗)[dB]、横軸が電波2000Wの放射方向[°]をそれぞれ示している。図40に示すグラフは、図39に示した測定条件と同一である。送電装置10は、30°の方向が受電装置20への電波2000Wの放射方向と推定し、放射方向における-10°及び-45°が2つの物体5000の方向と検出している。送電装置10は、-10°の方向のヌル深度を0.001、-45°の方向のヌル深度を0.01と算出している。送電装置10は、30°の方向の受電装置20に対応したアレー応答ベクトルVと、-10°の方向の領域のヌルに対応したアレー応答ベクトルVと、-45°の方向の領域のヌルに対応したアレー応答ベクトルVとに基づいてウェイトベクトルWoptを生成する。送電装置10は、最適なウェイトベクトルWoptを乗算した送信信号2000の電波2000Wがアレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aから放射される。
図40に示す一例では、送電装置10は、放射方向が30°の方向付近でアレー応答値が高くなり、-10°の方向D1及び-45°の方向D2付近でアレー応答値が低くなっており、ヌルの深さが方向D3で-60dB、方向D4で-40dBになっている。これにより、送電装置10は、複数の物体5000の方向から規定信号1000を受信しても、放射する電波2000Wを受電装置20の方向に向けることができ、かつ、複数の物体5000に向かう電波2000Wの放射を抑制することができる。
以上により、送電装置10は、多点ヌル拘束方式を用いても、微係数拘束方式を用いても、同様の作用効果を得ることができる。その結果、システム1において、送電装置10は、受電装置20からの規定信号1000の電波伝搬チャネルの特定結果に基づいてアンテナ指向性を制御しても、安全性を向上させることができる。なお、一般にマルチパス環境における受電装置20に対するアレー応答ベクトルVは指向性パターンにおいて特定の方向にならないが、図39および図40の例では、理解しやすいように30°の方向のアレー応答ベクトルとした。
上記した実施形態3では、送電装置10は、アレーアンテナ11の複数のアンテナ素子11Aが等間隔のリニアアレーである場合について説明したが、これに限定されない。送電装置10は、物体5000の方向からアレー応答ベクトルVを算出可能であれる場合、複数のアンテナ素子11Aの配置は、等間隔リニアアレーでなくてもよい。
[実施形態3に係る送電装置の変形例]
図41及び図42は、実施形態3の変形例に係る送電装置10の構成の一例を示す図である。図41に示すように、送電装置10は、センサ部15と検出部16と前処理部19とを、送電装置10の外部の電子機器30に設けてもよい。この場合、送電装置10は、電子機器30からデータの受信が可能な構成とし、電子機器30から物体5000の検出結果を取得してもよい。図42に示すように、送電装置10は、センサ部15のみを装置の外部に設けてもよい。この場合、送電装置10は、外部のセンサ部15からセンサ情報等を取得可能な構成とし、センサ部15からのセンサ情報等に基づいて検出部16が物体5000を検出してもよい。
上述した送電装置10は、ヌル広角化を多点ヌル拘束方式と微係数拘束方式とを組み合わせてもよい。上述した送電装置10は、ヌル広角化を多点ヌル拘束方式と微係数拘束方式との少なくとも一方を用いる構成としてもよい。上述した送電装置10は、ヌル広角化を、ヌル対象の領域に渡って複数のヌルを設定する方法と微係数拘束による方法とを組み合わせてもよい。
上述した送電装置10は、(式331)の場合、W≒γVをW≒Wと置き換えてもよい。すなわち、ある条件下で導出した送信ウェイトWにも適用できることを意味する。ある条件下で導出した送信ウェイトWは、ヌルを形成していないなどの複数のウェイトを含む。このとき、上述した(式332)は、以下の(式334)に置き換えればよい。これにより、送電装置10は、送信ウェイトWに近いウェイトで、人体への影響を低減することができる。
Figure 2024002994000093
図43は、実施形態3の変形例に係る送電装置10の構成の一例を示す図である。図43に示すように、送電装置10は、アレーアンテナ11と、送信信号発生部12と、送受信部13と、センサ部15と、検出部16と、ウェイト生成部17と、乗算部18と、前処理部19と、生成部10Aと、を備える。
生成部10Aは、ある条件下で送信ウェイトWを生成する。生成部10Aは、生成した送信ウェイトWをウェイト生成部17に供給する。例えば、ある条件下での送信ウェイトWは記憶部17Dに記憶されたウェイトでもよい。ウェイト生成部17は、送信ウェイトWを(式334)に適用してウェイトベクトルWoptを生成する。これにより、送電装置10は、給電用の送信信号2000を含む電波2000Wを複数のアンテナ素子11Aから放射させる。その結果、送電装置10は、物体5000の領域に電波2000Wが向かわないので、物体5000に向かう放射を減少させることができる。このように、送電装置10は、送信ウェイトWを用いる構成に変更しても、上述した作用効果を得ることができる。
上述した送電装置10は、検出した物体5000を、例えば人体、動物、植物等のカテゴリ分けすることで、カテゴリごとにヌル深度を調整する構成としてもよい。送電装置10は、物体5000が人体、動物等の場合にヌル深度を深くし、植物等の場合にヌル深度を浅くするように制御してもよい。
[実施形態3に係る微係数拘束条件の変換]
上述した(式325)のD(l))=W(l))=0は、上述した(式326)のW(Q)=W(QV(θ))=0と等価になることを以下に証明する。ただし、(式325)及び(式326)は、l=1,・・・,Lである。ここで、Q=diag[0 ・・・ (K-1)]である。
まず、以下の(式3C1)、(式3C2)となるθの関数Fl,n(θ)が存在することを示す。(式3C1)を満たせば、以下の(式3C3)となる。
Figure 2024002994000094
l,l(θ)≠0 ・・・(式3C2)
Figure 2024002994000095
(式3C3)と(式3C2)にθ=θを代入すると、以下の(式3C31)、(式3C32)が得られる。
Figure 2024002994000096
l,l(θ)≠0 ・・・(式3C32)
これらを利用して数学的帰納法により、以下の(式3C33)を示す。
Figure 2024002994000097
[3-1]l=1のときを考える。
(式320)をθで微分すると、以下の(式3C4)になる。
Figure 2024002994000098
ここで、以下の(式3C5)とおくと、(式3C5)は(式3C2)を満足する。
Figure 2024002994000099
そして、(式3C4)は、以下の(式3C6)のように表せる。
Figure 2024002994000100
(式319)をθで微分すると、(式3C6)により以下の(式3C7)で表せる。よって、l=1の時は、(式3C1)を満足する。
Figure 2024002994000101
ここで、(式3C7)にθ=θを代入すると、V’(θ)=F1.1(θ)・QV(θ)となる。よって、D’(θ)=WV’(θ)=F1.1(θ)・WV(θ)となる。(式3C5)より、F1.1(θ)≠0から、以下の(式3C71)が成立する。
Figure 2024002994000102
[3-2]l=p(<L)のとき、(式3C1)及び(式3C2)が、以下の(式3C8)及び(式3C9)のように成立しているとする。
Figure 2024002994000103
p,p(θ)≠0 ・・・(式3C9)
(式3C8)をθで微分し、(式3C7)により以下の(式3C81)となる。
Figure 2024002994000104
定義によりQ=Qn+1となることから、以下の(式3C82)となる。
Figure 2024002994000105
ここで、以下の(式3C83)とすると、(式3C5)及び(式3C9)より、以下の(式3C10)となる。
p+1,1(θ)=F’ p,1(θ)
p+1,n(θ)=F’ p,n(θ)+Fp,n-1(θ)F1,1(θ)
(n=2,・・・,p)
p+1,p+1(θ)=Fp,p(θ)F1,1(θ) ・・・(式3C83)

p+1,p+1(θ)≠0 ・・・(式3C10)
よって、l=p+1の時も(式3C2)を満足する。また、(式3C82)は(式3C83)より以下の(式3C11)となり、l=p+1の時も(式3C1)を満足する。
Figure 2024002994000106
ここで、(式3C11)にθ=θを代入すると、以下の(式3C12)が得られる。
Figure 2024002994000107
(式3C12)より、W=0(l=1,・・・,p+1)ならば、D(p+1)(θ)=0となる。これにより、W=0(l=1,・・・,p)ならばD(l)(θ)=0(l=1,・・・,p)が成り立っているとすると、W=0(l=1,・・・,p+1)ならばD(l)(θ)=0(l=1,・・・,p+1)が成り立つことになる。
逆に、D(l)(θ)=0(l=1,・・・,p)ならばW=0(l=1,・・・,p)が成り立っているとすると、D(l)(θ)=0(l=1,・・・,p+1)ならば、(式3C12)より、以下の(式3C13)となる。
Figure 2024002994000108
(式3C10)より、Fp+1,p+1(θ)≠0からWp+1V(θ)=0が得られる。これにより、以下の(式3C14)が成り立つ。
Figure 2024002994000109
上記の[3-1]及び[3-2]から、以下の(式3C15)が成立することが証明された。
Figure 2024002994000110
[実施形態3に係るヌル深度制御の最適ウェイト]
ウェイトベクトルWとヌルの拘束ベクトルVi(i=1,・・・,M<K)の内積の大きさ|W|を|εに拘束する最適化問題の最適ウェイトは以下の(式N1)としてもよいことを以下に証明する。
Figure 2024002994000111
ここで、V’=(I-AA)V,Vε=(Aεである。Aは、M個の複素列の拘束ベクトルV,V,・・・,Vを並べた行列であり、Aは、Aのムーア・ペンローズ一般逆行列である。また、ε=[ε ε ・・・ εであり、εの偏角はAの各要素と同じ値とする。αは、上述した(式330)を満たす。
まず、条件|W=|εに対するラグランジュ乗数をλ、||W||=1に対する乗数をμとし、以下の(式N2)とおく。なお、λ、μは、実数である。
Figure 2024002994000112
ラグランジュの未定乗数法により、以下の(式N3)から以下の(式D1)、(式D2)、(式D3)が得られる。ただし、i=1,・・・,Mである。
Figure 2024002994000113
Figure 2024002994000114
Figure 2024002994000115
W=1 ・・・(式D3)
W及びV Wは、複素スカラであるので、α、βを使ってV W=μα、λ W=μβとおくと、(式D1)は、以下の(式D4)となる。
Figure 2024002994000116
ここで、(式D4)は、A=[V ・・・ VM]とb=[β β ・・・ βを用いて以下の(式D5)と書き換えられる。
W=αV-Ab ・・・(式D5)
(式D5)を(式D2)に代入すると、以下の(式D51)が得られる。よって、(式D51)は、αV -V Ab=εとしてもよい。
Figure 2024002994000117
これは、A=[V ・・・ VM]とε=[ε ε ・・・ εを使うと、以下の(式D6)と表せる。よって、以下の(式D7)が得られる。
αA-AAb=ε ・・・(式D6)
Ab=αA-ε ・・・(式D7)
(式D7)より、bの一般解は、(式D71)で与えられる。なお、zは任意の複素ベクトル、Iは単位行列、()はムーア・ペンローズ一般逆行列である。
Figure 2024002994000118
一般に、A=(AA)であるから、以下の(式D8)となるが、(式D8)を(式D7)に代入すると、以下の(式D81)であり、A=A(A=AA(AA)=AAAより、AA(AA)ε=εを満足する必要がある。よって、A(Aε=εとなる。
Figure 2024002994000119
Figure 2024002994000120
これは、ε=Axのとき成り立つ。すなわち、ε=V xを満たす複素ベクトルxが存在する必要がある。Vが線形従属の場合、等式ε=Axを満たさない場合があり、そのときは解が存在しないことを意味する。
ところで、(式D8)を(式D5)に代入すると、以下の(式D9)が得られる。
Figure 2024002994000121
(式D9)を(式D3)に代入すると、WW=|α| (I-AA)V+ε(Aε=1より、以下の(式D91)となる。
Figure 2024002994000122
(式D91)を満足するαとして以下の(式D10)を選んでもよい。
Figure 2024002994000123
ところで、Wに(式D9)を代入すると、以下の(式D11)となる。
Figure 2024002994000124
複素数の三角不等式より、以下の(式D11a)という関係が成り立つ。
Figure 2024002994000125
等号は、εがαV (I-AA)Vの正の実数倍のときに成り立つ。(式D10)よりαは非負の実数であり、(I-AA)がエルミート行列であるから、V (I-AA)Vも非負の実数である。よって、εが非負の実数になるように複素数のベクトルεの各要素の偏角を調整すればよい。具体的には、εの各要素の偏角がAの各要素の偏角と一致するようにする。
ここで、V’=(I-AA)V、Vε=(Aεとすると、(式D9)より、以下の(式D12)となる。
opt=αV’+Vε ・・・(式D12)
また、(式D10)は、以下の(式D13)になる。
Figure 2024002994000126
以下にウェイト算出手順を整理する。
(PC1)AからAを求める。
(PC2)Aから各要素の偏角を求め、この偏角と|ε|よりεを作る。
(PC3)V’=(I-AA)VとVε=(Aεを計算し、(式D13)によりαを求める。
(PC4)(式D12)を使ってαとV’とVεからWoptを算出する。
[実施形態3に係る近似解によるヌル深度制御]
W≒γV及びW≒0(i=1,・・・,M<K)を満足する最適なウェイトベクトルWoptは、以下の(式E1)とすると、以下の(式E2)で与えられることを以下に証明する。ただし、||W||=1である。
Figure 2024002994000127
Figure 2024002994000128
ここで、A’はM個の複素列ベクトルα,α,・・・,αを並べた以下の(式E3)であり、以下の(式E4)は重み係数である。
Figure 2024002994000129
Figure 2024002994000130
まず、以下の(式E5)に示す評価関数J(W)を最小にすることを考える。
Figure 2024002994000131
以下の(式E6)により以下の(式E7)となるので、以下の(式E8)が得られる。
Figure 2024002994000132
Figure 2024002994000133
Figure 2024002994000134
(式E3)を使えば、以下の(式E9)が得られる。
(I+A’A’)W=γV ・・・(式E9)
(I+A’A’)は正定値行列であり、逆行列が存在するため、最適なウェイトベクトルWoptは、以下の(式E10)が得られる。
Figure 2024002994000135
ここで、V’’=(I-A’(I+A’A’)-1A’)Vとおくと、以下の(式E11)となる。
Figure 2024002994000136
最後に||W||=|γ|||V’’||=1を満足するγとして、γ=1/||V’’||を選ぶことができる。よって(式E11)は、上述した(式E2)となる。
添付の請求項に係る技術を完全かつ明瞭に開示するために特徴的な実施形態に関し記載してきた。しかし、添付の請求項は、上記実施形態に限定されるべきものでなく、本明細書に示した基礎的事項の範囲内で当該技術分野の当業者が創作しうるすべての変形例及び代替可能な構成を具現化するように構成されるべきである。本開示の内容は、当業者であれば本開示に基づき種々の変形および修正を行うことができる。したがって、これらの変形および修正は本開示の範囲に含まれる。例えば、各実施形態において、各機能部、各手段、各ステップなどは論理的に矛盾しないように他の実施形態に追加し、若しくは、他の実施形態の各機能部、各手段、各ステップなどと置き換えることが可能である。また、各実施形態において、複数の各機能部、各手段、各ステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。また、上述した本開示の各実施形態は、それぞれ説明した各実施形態に忠実に実施することに限定されるものではなく、適宜、各特徴を組み合わせたり、一部を省略したりして実施することもできる。
1 システム
10 送電装置
10A 生成部
11 アレーアンテナ
11A アンテナ素子
12 送信信号発生部
13 送受信部
14 推定部
15 センサ部
16 検出部
17 ウェイト生成部
17D 記憶部
18 乗算部
19 前処理部
20 受電装置
21 アンテナ
22 送受信部
23 信号発生部
24 受電部
100A 従来のレトロディレクティブ方式を用いた参考用送電装置
200B 基準点
200P 受信点
1000 規定信号
2000 送信信号
2000W 電波
3000 参考用送電装置を用いた場合の電波の強度分布
4000 部屋
5000 物体
ヌルに対応したアレー応答ベクトル
受電装置に対応したアレー応答ベクトル
opt ウェイトベクトル

Claims (11)

  1. 受電装置から送信される受信信号の受信を行う受信部と、
    送信信号の前記受電装置への送信をアンテナにより行う送信部と、
    前記送信信号を送信する電波の、前記受電装置とは異なる物体が存在する領域における強度が所定以下となるように、前記物体の大きさに基づいて前記アンテナの指向性を制御するウェイト生成部と、
    を備える、送電装置。
  2. 前記受信信号は複数の伝搬チャネルの特性を推定するための規定信号を含み、
    前記ウェイト生成部は、前記規定信号の前記伝搬チャネルの特性と、前記領域の大きさとに基づいて、前記指向性を制御するための送信ウェイトを生成する、
    請求項1に記載の送電装置。
  3. 前記受電装置とは異なる前記物体の方向及び前記領域を検出するためのセンサ部を備える、請求項1に記載の送電装置。
  4. 前記ウェイト生成部は、
    前記受電装置から送信される規定信号により生成されたアレー応答ベクトルと、前記物体の方向及び領域に対する拘束ベクトルとに基づいて、前記拘束ベクトルとウェイトベクトルの内積をゼロとし、ウェイトベクトルのノルムを一定とし、この条件で前記アレー応答ベクトルとウェイトベクトルの内積の大きさを最大化する送信ウェイトを生成する、請求項3に記載の送電装置。
  5. 前記ウェイト生成部は、
    前記受電装置から送信される規定信号により生成されたアレー応答ベクトルをVとし、前記アンテナが有する複数のアンテナ素子の数をKとし、複数の前記物体の数をMとし、ウェイトベクトルをWとし、前記ウェイトベクトルの複素共役転置(エルミート転置)をWとし、前記物体の方向に基づいて算出した拘束ベクトルをV (0)(i=1,・・・,M)とし、前記物体の領域に基づいて追加された拘束ベクトルV (l)(l=1,・・・,L)とした場合に、アレー応答ベクトルVとウェイトベクトルの内積の大きさ|W|を最大にするウェイトベクトルWoptを、条件式を示す下記(式1)により決定し、前記ウェイトベクトルWoptを送信ウェイトとして生成する、請求項3に記載の送電装置。
    Figure 2024002994000137
  6. 前記ウェイト生成部は、規定信号の伝搬チャネル特性と検出部が検出した前記物体の方向及び領域の検出結果と当該検出結果に応じた広角化パラメータに基づいて、前記物体の領域にヌルが向くように送信ウェイトを生成する、請求項3に記載の送電装置。
  7. 前記ウェイト生成部は、
    前記物体の存在する領域の幅の広さに応じてウェイトを決める、請求項1に記載の送電装置。
  8. 前記ウェイト生成部は、
    前記物体の存在する領域に、電波強度が低減した複数の部分を有する送信信号を形成するようウェイトを生成する、請求項1に記載の送電装置。
  9. 受電装置と、
    前記受電装置から送信される受信信号の受信を行う受信部、
    送信信号の前記受電装置への送信をアンテナにより行う送信部、及び、
    前記送信信号を送信する電波の、前記受電装置とは異なる物体が存在する領域における強度が所定以下となるように、前記物体の大きさに基づいて前記アンテナの指向性を制御するウェイト生成部を有する送電装置と、
    を備える、ワイヤレス電力伝送システム。
  10. 受電装置から送信される受信信号の受信を行う受信工程と、
    送信信号の前記受電装置への送信をアンテナにより行う送信工程と、
    前記送信信号を送信する電波の、前記受電装置とは異なる物体が存在する領域における強度が所定以下となるように、前記物体の大きさに基づいて前記アンテナの指向性を制御する制御工程と、
    を備える、制御方法。
  11. コンピュータに、
    受電装置から送信される受信信号の受信を行う受信工程と、
    送信信号の前記受電装置への送信をアンテナにより行う送信工程と、
    前記送信信号を送信する電波の、前記受電装置とは異なる物体が存在する領域における強度が所定以下となるように、前記物体の大きさに基づいて前記アンテナの指向性を制御する制御工程と、
    を実行させる、制御プログラム。
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