JP2024000440A - 継目無鋼管 - Google Patents

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Naoki Kuroda
勇次 荒井
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Takahiro Kamo
健太 山田
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直人 藤山
Naoto Fujiyama
祐太 清水
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Abstract

【課題】高強度を有し、円周溶接後のHAZ靭性が優れる、継目無鋼管を提供する。【解決手段】本開示による継目無鋼管は、明細書に記載の化学組成を有し、式(1)で定義されるFn1が0.010~0.450であり、式(2)で定義されるFn2が0.400以上であり、式(3)で定義されるFn3が1.50~5.50であり、式(4)で定義されるFn4が5.00以下である。降伏強度が450MPa以上である。Ti含有量が70質量%以上を満たし、円相当径が0.10μm以下のTi含有粒子の個数密度をND個/mm2と定義したとき、Fn2と、NDとが、式(5)を満たす。Fn1=Cr+1.2Mo+V+8Nb (1)Fn2=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 (2)Fn3=Ti/N (3)Fn4=Ti/Ca (4)20.0×Fn2-ND×10-6≦7.0 (5)【選択図】図1

Description

本開示は、継目無鋼管に関し、さらに詳しくは、ラインパイプとしての使用に適した継目無鋼管に関する。
地上や海底面等に設置され、天然ガスや原油等を移送するシステムをパイプラインという。海底に敷設されるパイプラインは、複数の鋼管(ラインパイプ)で構成される。海底に敷設されるパイプラインはさらに、パイプライン内部を通る生産流体から高い圧力を受ける。パイプラインはさらに、波浪による繰り返し歪みと海水圧とを外部から受ける。したがって、パイプラインを構成する鋼管(ラインパイプ)には、高い強度と、優れた靱性とが求められる。
これまでに、ラインパイプ用鋼材の強度と靭性とを高める技術が、特開2010-174343号公報(特許文献1)、特開2015-190042号公報(特許文献2)、及び、国際公開第2016/056216号(特許文献3)に提案されている。
特許文献1に提案される鋼材は、厚肉高張力熱延鋼板であって、質量%で、C:0.02~0.25%、Si:1.0%以下、Mn:0.3~2.3%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Al:0.1%以下、Nb:0.03~0.25%、Ti:0.001~0.10%を含み、Nb、Ti、Cが式((Ti+Nb/2)/C<4)を満足するように含有し、残部がFe及び不純物からなる。この鋼材はさらに、表面から板厚方向に1mmの位置における組織が、ベイナイト相又はベイニティックフェライト相からなる単相で、かつ粒界セメンタイトが全粒界長さに対する粒界セメンタイト長さの比率で10%以下となる組織である。この鋼材によれば、高強度で優れた低温靭性を確保できる、と特許文献1には開示されている。
特許文献2に提案される鋼材は、高強度ラインパイプ用鋼板であって、質量%で、C:0.02~0.20%、Si:0.02~0.50%、Mn:0.6~2.0%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:0.010~0.080%、Nb:0.002~0.060%、Ti:0.003~0.030%、Ca:0.0003~0.0060%、N:0.0010~0.010%、REM:0.0001~0.0300%、及び、Zr:0.0001~0.0200%を含有し、残部がFe及び不純物である。この鋼材はさらに、t/4(t:板厚)の位置における平均結晶粒径が10μm以下であり、指定温度のシャルピー試験片破面から測定したセパレーション指数SIが0.30mm/mm2以下である。この鋼材は、高強度であり、セパレーションが発生した場合においても高い限界CTOD値が確保可能である、と特許文献2には開示されている。
特許文献3に提案される鋼材は、ラインパイプ用鋼板であって、質量%で、C:0.02~0.10%、Si:0.01~0.50%、Mn:0.10~1.0%、P:0.015%以下、S:0.0020%以下、Ca:0.0002~0.0050%、Nb:0.03~0.15%、Ti:0.002~0.070%、Al:0.002~0.080%、及び、N:0.001~0.008%を、CP(=4.46[C]+2.37[Mn]/6+22.36[P])値が0.85以下であり、かつ、式(0.8≦[Mn]/[Nb]≦25)を満足する範囲にて含有し、残部がFe及び不純物からなる。この鋼材はさらに、ベイナイトを主体とする組織を有する。この鋼材は、高強度及び高靭性で、かつ優れた耐HIC性を有する、と特許文献3には開示されている。
特開2010-174343号公報 特開2015-190042号公報 国際公開第2016/056216号
近年、従来よりも苛酷な環境の油井及びガス井の開発が進められてきている。このような苛酷な環境に用いられるパイプラインは、従来よりも高い強度を有することが求められる。また、このような苛酷な環境に敷設されるパイプライン用の鋼管として、溶接鋼管に代わり、溶接部を有さない継目無鋼管が用いられてきている。ここで、パイプラインに用いられる継目無鋼管は、その管端部同士が、円周溶接により接合される。このようにして、複数の継目無鋼管(ラインパイプ)が連結され、パイプラインの一部が形成される。
一方、複数の継目無鋼管同士を円周溶接した場合、溶接の熱影響部(以下、HAZ(Heat Affected Zone)という)の靭性が低下しやすい。このように、ラインパイプとしての使用が想定された継目無鋼管には、高強度だけでなく、溶接後のHAZにおいて、優れた靭性を示すことが求められてきている。一方、特許文献1~3では、溶接鋼管用の鋼板について検討されているが、円周溶接が実施される継目無鋼管について検討されていない。特許文献1~3ではさらに、鋼材の靭性について検討されているが、HAZ靭性について検討されていない。
本開示の目的は、高強度を有し、円周溶接後のHAZ靭性が優れる、継目無鋼管を提供することである。
本開示による継目無鋼管は、
質量%で、
C:0.030~0.080%、
Si:0.25%以下、
Mn:1.00~2.50%、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Cu:1.00%以下、
Ni:0.25~1.00%、
Ti:0.001~0.050%、
Al:0.050%以下、
N:0.0020~0.0150%、
Ca:0.0005~0.0050%、及び、
B:0.0005%以下を含有し、
Cr:0.01~0.50%、
Mo:0.01~0.30%、
V:0.01~0.10%、及び、
Nb:0.01~0.05%からなる群から選択される1元素以上を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1)で定義されるFn1が0.010~0.450であり、
式(2)で定義されるFn2が0.400以上であり、
式(3)で定義されるFn3が1.50~5.50であり、
式(4)で定義されるFn4が5.00以下であり、
降伏強度が450MPa以上であり、
前記継目無鋼管中において、
Ti含有量が70質量%以上を満たし、円相当径が0.10μm以下のTi含有粒子の個数密度をND個/mm2と定義したとき、
前記Fn2と、前記NDとが、式(5)を満たす。
Fn1=Cr+1.2Mo+V+8Nb (1)
Fn2=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 (2)
Fn3=Ti/N (3)
Fn4=Ti/Ca (4)
20.0×Fn2-ND×10-6≦7.0 (5)
ここで、式(1)~(4)中の元素記号には、対応する元素の含有量が質量%で代入される。なお、対応する元素が含有されない場合、当該元素記号には「0」が代入される。
本開示による継目無鋼管は、高強度を有し、円周溶接後のHAZ靭性が優れる。
図1は、本実施例におけるFnA(=20.0×Fn2-ND×10-6)と、HAZ靭性の指標である-20℃のCTOD値との関係を示す図である。
まず、本発明者らは、ラインパイプへの使用が想定された継目無鋼管の強度を高め、溶接後のHAZ靭性を高めることについて、化学組成の観点から検討した。その結果、本発明者らは、質量%で、C:0.030~0.080%、Si:0.25%以下、Mn:1.00~2.50%、P:0.050%以下、S:0.0050%以下、Cu:1.00%以下、Ni:0.25~1.00%、Ti:0.001~0.050%、Al:0.050%以下、N:0.0020~0.0150%、Ca:0.0005~0.0050%、及び、B:0.0005%以下を含有し、Cr:0.01~0.50%、Mo:0.01~0.30%、V:0.01~0.10%、及び、Nb:0.01~0.05%からなる群から選択される1元素以上を含有し、残部がFe及び不純物からなる継目無鋼管であれば、450MPa以上の高い降伏強度を有し、溶接後に優れたHAZ靭性を得られる可能性があると考えた。
次に本発明者らは、上述の化学組成を有する継目無鋼管について、降伏強度を高め、溶接後のHAZ靭性を高める手法について、詳細に検討した。その結果、次の知見を得た。
[島状マルテンサイト(M-A組織)について]
上述の化学組成を有する継目無鋼管の溶接後のHAZ靭性を低下させる要因として、本発明者らはまず、溶接時に形成される島状マルテンサイト(以下、M-A組織(Martensite-Austenite constituent)ともいう)に着目した。上述のとおり、本実施形態による継目無鋼管は、Cr、Mo、V、及び、Nbからなる群から選択される1元素以上を含有する。これらの元素は、焼入れ性を高め、継目無鋼管の強度を高める。一方、これらの元素の含有量が高すぎれば、溶接時に局所的な焼入れ性が高まり、HAZにおいてM-A組織が形成されやすくなる。M-A組織は、硬い組織であるため、溶接後のHAZの靭性を顕著に低下させる。
そこで本発明者らは、Cr、Mo、V、及び、Nbの含有量を調整して、溶接後のHAZにおいてM-A組織を形成されにくくすることを検討した。具体的に、Fn1=Cr+1.2Mo+V+8Nbと定義する。Fn1は、継目無鋼管の降伏強度と、溶接後のHAZにおけるM-A組織の形成されやすさとを示す指標である。Fn1が低すぎれば、450MPa以上の高い降伏強度が得られない。一方、Fn1が高すぎれば、溶接後のHAZにM-A組織が形成されやすくなり、HAZ靭性が低下する。
したがって、本実施形態による継目無鋼管は、上述の化学組成を満たすことを前提に、次の式(1)で定義されるFn1を0.010~0.450とする。その結果、本実施形態の他の構成を満たすことを条件に、450MPa以上の高い降伏強度を有し、溶接後に優れたHAZ靭性を示す継目無鋼管が得られる。
Fn1=Cr+1.2Mo+V+8Nb (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量が質量%で代入される。なお、対応する元素が含有されない場合、当該元素記号には「0」が代入される。
[強度について]
上述の化学組成を有する継目無鋼管の強度を高める方法として、本発明者らは、次の式Fn2に着目した。Fn2=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5と定義する。Fn2は継目無鋼管の硬さを示す指標である。Fn2が低すぎれば、450MPa以上の高い降伏強度が得られない。
したがって、本実施形態による継目無鋼管は、上述の化学組成を満たし、Fn1が0.010~0.450であることを前提に、次の式(2)で定義されるFn2を0.400以上とする。その結果、本実施形態の他の構成を満たすことを条件に、450MPa以上の高い降伏強度を有し、溶接後に優れたHAZ靭性を示す継目無鋼管が得られる。
Fn2=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 (2)
ここで、式(2)中の元素記号には、対応する元素の含有量が質量%で代入される。なお、対応する元素が含有されない場合、当該元素記号には「0」が代入される。
[Ti含有粒子について]
上述の化学組成を有する継目無鋼管の溶接後のHAZ靭性を高める手法について、さらに詳細に検討した。その結果、本発明者らは、鋼材中に介在物又は析出物(以下、鋼材中の介在物又は析出物を、単に「粒子」ともいう)を多数析出させれば、溶接後のHAZにおいて、旧オーステナイト粒の粗大化を抑制できるのではないかと考えた。具体的に本発明者らは、円相当径が0.10μm以下のTi含有粒子に着目し、HAZ靭性を高めることを詳細に検討した。以下、円相当径が0.10μm以下のTi含有粒子を、「微細Ti含有粒子」ともいう。なお、本明細書において、「Ti含有粒子」とは、後述の方法で特定した、質量%で、Ti含有量が70%以上である粒子を意味する。
上述の化学組成を有する継目無鋼管において、微細Ti含有粒子は、そのほとんどが微細なTi窒化物であることを、本発明者らは知見した。そこで本発明者らは、化学組成を調整して、微細Ti含有粒子(微細なTi窒化物)を多数分散させることを考えた。本発明者らの詳細な検討の結果、Ti、N、及び、Caの含有量を調整することにより、微細Ti含有粒子を多数分散させられる可能性があることを知見した。
具体的に、Fn3=Ti/Nと定義する。Fn3は、継目無鋼管中のTi窒化物の析出量と析出挙動とを示す指標である。Fn3が小さすぎれば、Ti窒化物の析出量が少なく、微細Ti含有粒子の個数密度が低下する。一方、Fn3が大きすぎれば、Ti窒化物が粗大化する。その結果、微細Ti含有粒子の個数密度がかえって低下する。さらに、Fn4=Ti/Caと定義する。Fn4はTi窒化物の粗大さを示す指標である。Fn4が大きすぎれば、粗大なTi窒化物が形成され、微細Ti含有粒子の個数密度が低下する。
したがって、本実施形態による継目無鋼管は、上述の化学組成を満たし、Fn1が0.010~0.450であり、Fn2が0.400以上であることを前提に、次の式(3)で定義されるFn3を1.50~5.50とし、かつ、次の式(4)で定義されるFn4を5.00以下とする。その結果、本実施形態の他の構成を満たすことを条件に、450MPa以上の高い降伏強度を有し、溶接後に優れたHAZ靭性を示す継目無鋼管が得られる。
Fn3=Ti/N (3)
Fn4=Ti/Ca (4)
ここで、式(3)及び(4)中の元素記号には、対応する元素の含有量が質量%で代入される。
以上の知見を考慮して、本発明者らは、上述の化学組成を有し、Fn1~Fn4が本実施形態の範囲を満たす継目無鋼管について、微細Ti含有粒子の個数密度と、溶接後のHAZ靭性との関係について、さらに詳細に検討した。その結果、上述の化学組成を有し、Fn1~Fn4が本実施形態の範囲を満たす継目無鋼管では、上述の式(2)で定義されるFn2と、微細Ti含有粒子の個数密度ND(個/mm2)とが、次の式(5)を満たすことで、溶接後のHAZ靭性が顕著に高まることが明らかになった。
20.0×Fn2-ND×10-6≦7.0 (5)
FnA=20.0×Fn2-ND×10-6と定義する。FnAは、上述の化学組成を有し、Fn1~Fn4が本実施形態の範囲を満たす継目無鋼管における、溶接後のHAZ靭性の指標である。以下、FnAと溶接後のHAZ靭性との関係について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、後述する実施例のうち、上述の化学組成を有し、Fn1~Fn4が本実施形態の範囲を満たす実施例について、FnAの値と、溶接後のHAZ靭性の指標である-20℃のCTOD値(mm)との関係を示す図である。なお、FnAの値と、CTOD値とは、後述する方法で求めた。また、図1に示される実施例では、いずれも降伏強度は450MPa以上であった。
図1を参照して、FnAが7.0を超えると、CTOD値が急激に低下して、0.25mm未満になる。一方、FnAが7.0以下であれば、CTOD値が安定して0.25mm以上となる。すなわち、FnAが7.0以下であれば、安定してHAZ靭性を高められることが、図1によって証明されている。
FnAを7.0以下にすることにより、継目無鋼管の溶接後のHAZ靭性が顕著に高まる理由の詳細は、明らかになっていない。しかしながら、本発明者らは次のように推察している。上述のとおり、Fn2は強度の指標であり、Fn2が大きいほど、継目無鋼管の強度は高まる。一方、継目無鋼管の強度が高まれば、溶接後のHAZの強度も高まり、HAZ靭性が低下しやすくなる。そのため、継目無鋼管の強度が高まっても、優れたHAZ靭性を得るためには、より多くの微細Ti含有粒子を分散させる必要があるのではないかと考えられる。このようにして、Fn2に応じて、微細Ti含有粒子の個数密度NDを調整し、FnAを7.0以下にすることによって、450MPa以上の高い降伏強度を有する継目無鋼管であっても、溶接後のHAZ靭性を顕著に高められるのではないか、と本発明者らは考えている。なお、上記メカニズムとは異なるメカニズムによって、FnAを7.0以下にすることにより、継目無鋼管の溶接後のHAZ靭性が顕著に高まっている可能性もある。しかしながら、FnAを7.0以下にすることにより、継目無鋼管の溶接後のHAZ靭性が顕著に高まることは、後述の実施例によって証明されている。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による継目無鋼管の要旨は、次のとおりである。
[1]
継目無鋼管であって、
質量%で、
C:0.030~0.080%、
Si:0.25%以下、
Mn:1.00~2.50%、
P:0.050%以下、
S:0.0050%以下、
Cu:1.00%以下、
Ni:0.25~1.00%、
Ti:0.001~0.050%、
Al:0.050%以下、
N:0.0020~0.0150%、
Ca:0.0005~0.0050%、及び、
B:0.0005%以下を含有し、
Cr:0.01~0.50%、
Mo:0.01~0.30%、
V:0.01~0.10%、及び、
Nb:0.01~0.05%からなる群から選択される1元素以上を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1)で定義されるFn1が0.010~0.450であり、
式(2)で定義されるFn2が0.400以上であり、
式(3)で定義されるFn3が1.50~5.50であり、
式(4)で定義されるFn4が5.00以下であり、
降伏強度が450MPa以上であり、
前記継目無鋼管中において、
Ti含有量が70質量%以上を満たし、円相当径が0.10μm以下のTi含有粒子の個数密度をND個/mm2と定義したとき、
前記Fn2と、前記NDとが、式(5)を満たす、
継目無鋼管。
Fn1=Cr+1.2Mo+V+8Nb (1)
Fn2=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 (2)
Fn3=Ti/N (3)
Fn4=Ti/Ca (4)
20.0×Fn2-ND×10-6≦7.0 (5)
ここで、式(1)~(4)中の元素記号には、対応する元素の含有量が質量%で代入される。なお、対応する元素が含有されない場合、当該元素記号には「0」が代入される。
[2]
[1]に記載の継目無鋼管であって、
前記継目無鋼管は、ラインパイプ用継目無鋼管である、
継目無鋼管。
以下、本実施形態による継目無鋼管について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[化学組成]
本実施形態による継目無鋼管は、次の元素を含有する。
C:0.030~0.080%
炭素(C)は鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。C含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が高くなりすぎ、溶接後のHAZ靭性が低下する。したがって、C含有量は0.030~0.080%である。C含有量の好ましい下限は0.035%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.045%であり、さらに好ましくは0.050%である。C含有量の好ましい上限は0.075%であり、さらに好ましくは0.070%である。
Si:0.25%以下
ケイ素(Si)は不可避に含有される。すなわち、Si含有量の下限は0%超である。Siは鋼を脱酸する。一方、Si含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、溶接後のHAZにおいて、M-A組織が形成されやすくなる。その結果、HAZ靭性が低下する。したがって、Si含有量は0.25%以下である。Si含有量の好ましい上限は0.23%であり、さらに好ましくは0.20%である。上記効果をより有効に得るための好ましいSi含有量の下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Mn:1.00~2.50%
マンガン(Mn)は鋼を脱酸する。Mnはさらに、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Mn含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の焼入れ性が高くなりすぎ、溶接後のHAZ靭性が低下する。したがって、Mn含有量は1.00~2.50%である。Mn含有量の好ましい下限は1.10%であり、さらに好ましくは1.20%であり、さらに好ましくは1.30%である。Mn含有量の好ましい上限は2.30%であり、さらに好ましくは2.00%であり、さらに好ましくは1.80%である。
P:0.050%以下
燐(P)は不純物である。すなわち、P含有量の下限は0%超である。P含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Pが粒界に偏析し、溶接後のHAZ靭性が低下する。したがって、P含有量は0.050%以下である。P含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.020%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。
S:0.0050%以下
硫黄(S)は不純物である。すなわち、S含有量の下限は0%超である。S含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中に粗大なMnSが形成され、母材及び溶接後のHAZ靭性が低下する。したがって、S含有量は0.0050%以下である。S含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
Cu:1.00%以下
銅(Cu)は不可避に含有される。すなわち、Cu含有量の下限は0%超である。Cuは鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。一方、Cu含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の焼入れ性が高くなりすぎ、溶接後のHAZ靭性が低下する。したがって、Cu含有量は1.00%以下である。Cu含有量の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.60%である。上記効果をより有効に得るためのCu含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Ni:0.25~1.00%
ニッケル(Ni)は鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Ni含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Ni含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の焼入れ性が高くなりすぎ、溶接後のHAZ靭性が低下する。したがって、Ni含有量は0.25~1.00%である。Ni含有量の好ましい下限は0.30%であり、さらに好ましくは0.35%であり、さらに好ましくは0.40%である。Ni含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%である。
Ti:0.001~0.050%
チタン(Ti)はNと結合して微細なTi窒化物を形成して、微細Ti含有粒子の個数密度NDを高める。その結果、溶接後のHAZ靭性が高まる。Ti含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Ti含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Ti窒化物が粗大化して、微細Ti含有粒子の個数密度NDが低下する。その結果、かえって溶接後のHAZ靭性が低下する。したがって、Ti含有量は0.001~0.050%である。Ti含有量の好ましい下限は0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.004%であり、さらに好ましくは0.005%である。Ti含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.020%である。
Al:0.050%以下
アルミニウム(Al)は不可避に含有される。すなわち、Al含有量の下限は0%である。Alは鋼を脱酸する。一方、Al含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物系介在物が形成され、溶接後のHAZ靭性が低下する。したがって、Al含有量は0.050%以下である。Al含有量の好ましい上限は0.045%であり、さらに好ましくは0.040%である。上記効果をより有効に得るためのAl含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.015%である。本明細書にいう「Al」含有量は「酸可溶Al」、つまり、「sol.Al」の含有量を意味する。
N:0.0020~0.0150%
窒素(N)はTiと結合して微細Ti窒化物を形成して、微細Ti含有粒子の個数密度NDを高める。その結果、溶接後のHAZ靭性が高まる。N含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、N含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Ti窒化物が粗大化して、微細Ti含有粒子の個数密度NDが低下する。その結果、かえって溶接後のHAZ靭性が低下する。したがって、N含有量は0.0020~0.0150%である。N含有量の好ましい下限は0.0025%であり、さらに好ましくは0.0028%であり、さらに好ましくは0.0030%である。N含有量の好ましい上限は0.0120%であり、さらに好ましくは0.0100%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0060%である。
Ca:0.0005~0.0050%
カルシウム(Ca)はTi窒化物の形状を制御して、Ti窒化物を微細化し、微細Ti含有粒子の個数密度NDを高める。Ca含有量が低すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Ca含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物が形成され、溶接後のHAZ靭性が低下する。したがって、Ca含有量は0.0005~0.0050%である。Ca含有量の好ましい下限は0.0006%であり、さらに好ましくは0.0008%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%である。
B:0.0005%以下
ホウ素(B)は不可避に含有される。すなわち、B含有量の下限は0%超である。Bは鋼に固溶して鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。一方、B含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な窒化物が形成され、溶接後のHAZ靭性が低下する。したがって、B含有量は0.0005%以下である。B含有量の好ましい上限は0.0004%であり、さらに好ましくは0.0003%である。上記効果をより有効に得るためのB含有量の好ましい下限は0.0001%である。
本実施形態による継目無鋼管は、Cr、Mo、V、及び、Nbからなる群から選択される1元素以上を含有する。すなわち、Cr、Mo、V、及び、Nbは、いずれか1元素のみを含有し、その他の元素の含有量が0%であってもよい。これらの元素はいずれも、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。
Cr:0.01~0.50%
クロム(Cr)は鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。一方、Cr含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、焼入れ性が高くなりすぎ、溶接後のHAZにおいて、M-A組織が形成されやすくなる。その結果、HAZ靭性が低下する。したがって、含有される場合、Cr含有量は0.01~0.50%である。上記効果をより有効に得るためのCr含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cr含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.30%である。
Mo:0.01~0.30%
モリブデン(Mo)は鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。一方、Mo含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、焼入れ性が高くなりすぎ、溶接後のHAZにおいて、M-A組織が形成されやすくなる。その結果、HAZ靭性が低下する。したがって、含有される場合、Mo含有量は0.01~0.30%である。上記効果をより有効に得るためのMo含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.04%である。Mo含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.18%である。
V:0.01~0.10%
バナジウム(V)は鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。一方、V含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、焼入れ性が高くなりすぎ、溶接後のHAZにおいて、M-A組織が形成されやすくなる。その結果、HAZ靭性が低下する。したがって、含有される場合、V含有量は0.01~0.10%である。上記効果をより有効に得るためのV含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。V含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.07%であり、さらに好ましくは0.06%である。
Nb:0.01~0.05%
ニオブ(Nb)は鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。一方、Nb含有量が高すぎれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、焼入れ性が高くなりすぎ、溶接後のHAZにおいて、M-A組織が形成されやすくなる。その結果、HAZ靭性が低下する。したがって、含有される場合、Nb含有量は0.01~0.05%である。上記効果をより有効に得るためのNb含有量の好ましい下限は0.02%である。Nb含有量の好ましい上限は0.04%であり、さらに好ましくは0.03%である。
本実施形態による継目無鋼管の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、本実施形態による継目無鋼管を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は、製造環境などから混入されるものであって、本実施形態による継目無鋼管に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[Fn1]
本実施形態による継目無鋼管は、上述の化学組成を満たすことを前提に、次の式(1)で定義されるFn1を0.010~0.450とする。その結果、本実施形態の他の構成を満たすことを条件に、450MPa以上の高い降伏強度を有し、溶接後に優れたHAZ靭性を示す継目無鋼管が得られる。
Fn1=Cr+1.2Mo+V+8Nb (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量が質量%で代入される。なお、対応する元素が含有されない場合、当該元素記号には「0」が代入される。
Fn1は、継目無鋼管の降伏強度と、溶接後のHAZにおけるM-A組織の形成されやすさとを示す指標である。Fn1が低すぎれば、450MPa以上の高い降伏強度が得られない。一方、Fn1が高すぎれば、溶接後のHAZにM-A組織が形成されやすくなり、HAZ靭性が低下する。したがって、本実施形態では、Fn1を0.010~0.450とする。Fn1の好ましい下限は0.030であり、さらに好ましくは0.050であり、さらに好ましくは0.080であり、さらに好ましくは0.100である。Fn1の好ましい上限は0.440であり、さらに好ましくは0.430である。
[Fn2]
本実施形態による継目無鋼管は、上述の化学組成を満たすことを前提に、次の式(2)で定義されるFn2を0.400以上とする。その結果、本実施形態の他の構成を満たすことを条件に、450MPa以上の高い降伏強度を有し、溶接後に優れたHAZ靭性を示す継目無鋼管が得られる。
Fn2=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 (2)
ここで、式(2)中の元素記号には、対応する元素の含有量が質量%で代入される。なお、対応する元素が含有されない場合、当該元素記号には「0」が代入される。
Fn2は継目無鋼管の硬さを示す指標である。Fn2が低すぎれば、450MPa以上の高い降伏強度が得られない。したがって、本実施形態では、Fn2を0.400以上とする。Fn2の好ましい下限は0.405であり、さらに好ましくは0.410であり、さらに好ましくは0.420であり、さらに好ましくは0.425である。Fn2の上限は特に限定されない。Fn2の上限は、たとえば、0.806であってもよく、0.750であってもよく、0.700であってもよく、0.650であってもよい。
[Fn3]
本実施形態による継目無鋼管は、上述の化学組成を満たすことを前提に、次の式(3)で定義されるFn3を1.50~5.50とする。その結果、本実施形態の他の構成を満たすことを条件に、450MPa以上の高い降伏強度を有し、溶接後に優れたHAZ靭性を示す継目無鋼管が得られる。
Fn3=Ti/N (3)
ここで、式(3)中の元素記号には、対応する元素の含有量が質量%で代入される。
Fn3は、継目無鋼管中のTi窒化物の析出量と析出挙動とを示す指標である。Fn3が小さすぎれば、Ti窒化物の析出量が少なく、微細Ti含有粒子の個数密度が低下する。一方、Fn3が大きすぎれば、Ti窒化物が粗大化して、微細Ti含有粒子の個数密度が低下する。したがって、本実施形態では、Fn3を1.50~5.50とする。Fn3の好ましい下限は1.51であり、さらに好ましくは1.53である。Fn3の好ましい上限は4.50であり、さらに好ましくは4.20である。
[Fn4]
本実施形態による継目無鋼管は、上述の化学組成を満たすことを前提に、次の式(4)で定義されるFn4を5.00以下とする。その結果、本実施形態の他の構成を満たすことを条件に、450MPa以上の高い降伏強度を有し、溶接後に優れたHAZ靭性を示す継目無鋼管が得られる。
Fn4=Ti/Ca (4)
ここで、式(4)中の元素記号には、対応する元素の含有量が質量%で代入される。
Fn4はTi窒化物の粗大さを示す指標である。Fn4が大きすぎれば、粗大なTi窒化物が形成され、微細Ti含有粒子の個数密度が低下する。したがって、本実施形態では、Fn4を5.00以下とする。Fn4の好ましい上限は4.80であり、さらに好ましくは4.70であり、さらに好ましくは4.50である。Fn4の下限は特に限定されない。Fn4の下限は、たとえば、0.20であってもよく、0.50であってもよく、1.00であってもよい。
[降伏強度]
本実施形態による継目無鋼管の降伏強度は、450MPa以上である。本実施形態による継目無鋼管は、上述の化学組成を有し、Fn1が0.010~0.450であり、Fn2が0.400以上であり、Fn3が1.50~5.50であり、Fn4が5.00以下であり、FnAが7.0以下である。その結果、本実施形態による継目無鋼管は、降伏強度が450MPa以上を有し、溶接後に優れたHAZ靭性を示す。
本実施形態による継目無鋼管の降伏強度の好ましい下限は455MPaであり、さらに好ましくは460MPaである。本実施形態による継目無鋼管の降伏強度の上限は特に限定されない。降伏強度の上限は、たとえば、650MPaであってもよく、600MPaであってもよい。
本実施形態による継目無鋼管の降伏強度は、次の方法で求めることができる。具体的に、JIS Z 2241(2011)に準拠した方法で、引張試験を行う。まず、本実施形態による継目無鋼管から、引張試験片を作製する。ここで、継目無鋼管の肉厚が20mm以上の場合、肉厚中央部から、JIS Z 2241(2011)に規定される4号試験片(丸棒試験片)を、引張試験片として作製する。継目無鋼管の肉厚が20mm未満の場合、厚さを全肉厚として、鋼管の外径に応じてJIS Z 2241(2011)に規定される12A、12B、12C号試験片(円弧状試験片)のいずれかを、引張試験片として作製する。引張試験片の長手方向は鋼管の管軸方向とする。作製した引張試験片を用いて、常温(25℃)、大気中で引張試験を実施して、得られた0.2%オフセット耐力を、降伏強度(MPa)と定義する。また、一様伸び中の最大応力を引張強度(MPa)と定義する。
[微細Ti含有粒子]
本実施形態による継目無鋼管は、上述の化学組成を有し、Fn1~Fn4が本実施形態の範囲を満たすことを前提に、上述の式(2)で定義されるFn2と、円相当径が0.10μm以下のTi含有粒子(微細Ti含有粒子)の個数密度ND(個/mm2)とが、次の式(5)を満たす。その結果、本実施形態の他の構成を満たすことを条件に、450MPa以上の高い降伏強度を有し、溶接後に優れたHAZ靭性を示す継目無鋼管が得られる。
20.0×Fn2-ND×10-6≦7.0 (5)
FnA(=20.0×Fn2-ND×10-6)は、上述の化学組成を有し、Fn1~Fn4が本実施形態の範囲を満たす継目無鋼管における、溶接後のHAZ靭性の指標である。FnAが高すぎれば、継目無鋼管の溶接後のHAZ靭性が低下する。したがって、本実施形態では、上述の化学組成を有し、Fn1~Fn4が本実施形態の範囲を満たすことを前提に、FnAを7.0以下とする。FnAの好ましい上限は6.9であり、さらに好ましくは6.8であり、さらに好ましくは6.7である。FnAの下限は特に限定されない。FnAの下限は、たとえば、-3.0であってもよく、-2.0であってもよく、-1.0であってもよい。
また、本実施形態において、微細Ti含有粒子の個数密度NDは、上述の式(5)を満たせば特に限定されない。微細Ti含有粒子の個数密度NDは、たとえば、0.5×106~15.0×106(個/mm2)であってもよい。
本実施形態では、微細Ti含有粒子の個数密度NDを、次の方法で求めることができる。本実施形態による継目無鋼管の肉厚中央部から、組織観察用の試験片を作製する。試験片の表面を鏡面研磨した後、メタノール中で超音波洗浄する。洗浄した表面を、カーボン蒸着膜で覆う。蒸着膜で表面を覆った試験片を、20℃の電解液(10%アセチルアセトン-1%テトラメチルアンモニウムクロライド-メタノール溶液)に浸漬して、電解を実施する。電解条件は、電圧:100mV、電解量:10C/cm2とする。電解した試験片から、蒸着膜を剥離する。得られた蒸着膜をエタノールで洗浄した後、シートメッシュですくい取り、乾燥する。
この蒸着膜(レプリカ膜)を、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)で観察する。具体的には、蒸着膜から任意の位置を特定し、観察倍率を2万倍、加速電圧を200kVとして観察する。なお、観察視野の大きさ、及び、観察視野の数は特に限定されないが、観察視野の総面積は1000μm2以上とする。たとえば、観察視野が4.0μm×5.0μmである場合、観察視野の数を50以上とし、観察視野の総面積を1000μm2以上とする。
各観察視野において、円相当径が0.10μm以下の粒子を特定する。なお、粒子は、コントラストから特定可能である。また、粒子の円相当径は、TEM観察における観察画像を画像解析することによって求めることができる。なお、本実施形態では、特定する円相当径が0.10μm以下の粒子の、円相当径の下限は特に限定されないが、たとえば、0.01μmである。すなわち、本実施形態では、円相当径が0.01~0.10μmの粒子を特定する。
特定した粒子に対して、エネルギー分散型X線分析法(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometry)による点分析を行う。EDSの点分析により、各粒子中に含まれる元素の含有量を求める。EDSの点分析では、加速電圧を200kVとし、対象元素をTi、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Mo、及び、Nbとして定量する。円相当径が0.10μm以下の各粒子に対するEDS分析結果に基づいて、質量%で、Ti含有量が70%以上である粒子を「微細Ti含有粒子」と特定する。
10視野で特定された微細Ti含有粒子の総個数を計数して求める。微細Ti含有粒子の総個数と、10視野の総面積とに基づいて、微細Ti含有粒子の個数密度ND(個/mm2)を求める。本実施形態では、円相当径が0.10μm以下のTi含有粒子の個数密度ND(個/mm2)を求める際、単位を106個/mm2として、個数密度を指数表記により得られる仮数部の数値の小数第二位を四捨五入する。
ここで、上述の化学組成を有する鋼材に対するEDSの点分析において、窒素(N)含有量の正確な定量は、現在の技術では困難である場合が多い。そこで本実施形態では、円相当径が0.10μm以下の粒子のうち、Ti含有量が70質量%以上である粒子を、微細Ti含有粒子と特定する。すなわち、本実施形態による微細Ti含有粒子とは、Ti窒化物以外のTi化合物も含み得る。しかしながら、上述の化学組成を有する継目無鋼管では、微細Ti含有粒子において、Ti窒化物以外のTi化合物(Ti炭化物やTi酸化物等)は、無視できるほど少ない。すなわち、本実施形態において、微細Ti含有粒子の個数密度ND(個/mm2)とは、実質的に、円相当径が0.10μm以下のTi窒化物の個数密度(個/mm2)に相当する。
[HAZ靭性]
本実施形態による継目無鋼管は、上述の化学組成を有し、Fn1が0.010~0.450であり、Fn2が0.400以上であり、Fn3が1.50~5.50であり、Fn4が5.00以下であり、FnAが7.0以下である。その結果、本実施形態による継目無鋼管は、450MPa以上の降伏強度を有し、かつ、溶接後に優れたHAZ靭性を示す。ここで、優れたHAZ靭性とは、次のように定義される。
本実施形態による継目無鋼管に形成したHAZに対して、ISO 12135(2021)に準拠した方法でCTOD試験を実施して、-20℃におけるCTOD値を求める。具体的に、まず、本実施形態による継目無鋼管から溶接継手を作製する。開先形状はレ型(single-bevel)とし、溶接方法はガスメタルアーク溶接とする。溶接のシールドガスとして、80%Ar及び20%CO2を含むガスを用いる。溶接入熱は2.0kJ/mm、予熱及び層間温度は125~150℃とする。溶接ワイヤは、JIS Z 3312(2009)に規定されるG69A2UCN1M2Tを用い、溶接ワイヤの径は1.2mmとする。
API RP 2Z(2005)に準拠して、溶接継手のレ型開先のストレート側において、溶融線近傍(以下、「FL」(Fusion Line)ともいう)のHAZから任意の位置を特定する。特定した位置をノッチ位置として、ISO 15653(2018)に準拠した方法で、3点曲げCTOD試験片を作製する。本実施形態において、CTOD試験片は、片側ノッチ付き曲げ(SENB:Single Edge Notched Bend)試験片を用いる。なお、CTOD試験片は、厚さをBとして、幅Wを2Bとし、長さLを10Bとする。CTOD試験片はさらに、厚さBをなるべく大きくするように作製する。CTOD試験片のノッチは、幅を2mmとし、先端形状を60°とする。
作製されたCTOD試験片に対して、予き裂を導入するための疲労試験を実施する。本実施形態では、初期相対き裂長さa0/Wを0.50とする。具体的に、常温(25℃)にて疲労試験を実施し、ノッチの先端に長さ2mmの疲労予き裂を導入して、初期き裂長さa0をBとする。疲労予き裂が導入されたCTOD試験片に対して、ISO 12135(2021)に準拠して、-20℃にてCTOD試験を実施する。CTOD試験によって得られた、荷重-開口量曲線における破断時の荷重と、クリップゲージ開口変位の塑性成分量とから、ISO 12135(2021)に基づき、CTOD値(mm)を求める。なお、同様の試験を3回実施して、最小のCTOD値(mm)を、継目無鋼管の-20℃におけるCTOD値(mm)と定義する。
なお、CTOD試験では、API RP 2Z(2005)に準拠して、試験の妥当性を評価する。具体的に、試験片の厚さBの中央部であり、疲労予き裂全長の2/3の領域において、疲労予き裂が評価対象組織であるFLに隣接する粗粒HAZ(Coarse-grain HAZ)を15%以上通過している場合、試験結果が適正であると判断する。試験結果が不適正と判断された場合、CTOD試験片の作製から、CTOD試験を再度実施する。本実施形態では、以上の方法で求めた-20℃におけるCTOD値が0.25mm以上であれば、溶接後に優れたHAZ靭性を示すと判断する。
[ミクロ組織]
好ましくは、本実施形態による継目無鋼管のミクロ組織は、主として焼戻しベイナイトからなる。より具体的には、本実施形態による継目無鋼管のミクロ組織は、焼戻しベイナイトの体積率が90%以上である。ミクロ組織の残部はたとえば、フェライト、又は、パーライトである。なお、本実施形態による継目無鋼管のミクロ組織には、焼戻しベイナイト、フェライト、及び、パーライト以外に、析出物や介在物等を微小量含んでもよい。しかしながら、本実施形態による継目無鋼管のミクロ組織において、析出物や介在物等の体積率は、焼戻しベイナイト、フェライト、及び、パーライトと比較して、無視できるほど小さい。
なお、焼戻しベイナイトの体積率を観察により求める場合、以下の方法で求めることができる。まず、本実施形態による継目無鋼管の肉厚中央部から、管軸方向と管径方向とを含む面を観察面とする試験片を作製する。試験片の観察面を鏡面に研磨した後、ナイタール腐食液に10秒程度浸漬して、エッチングによる組織現出を行う。エッチングした観察面を、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、二次電子像にて10視野観察する。視野面積は、たとえば、0.01mm2(倍率1000倍)である。各視野において、コントラストから焼戻しベイナイトを特定する。特定した焼戻しベイナイトの面積率を求める。面積率を求める方法は特に限定されず、周知の方法でよい。たとえば、画像解析によって、焼戻しベイナイトの面積率を求めることができる。本実施形態では、全ての視野で求めた、焼戻しベイナイトの面積率の算術平均値を、焼戻しベイナイトの体積率と定義する。
[継目無鋼管の形状]
本実施形態による継目無鋼管の形状は、継目無鋼管であれば特に限定されない。すなわち、外径、肉厚、及び、長さについては、特に限定されない。本実施形態による継目無鋼管がラインパイプ用継目無鋼管である場合、好ましい外径は50~600mmである。また、本実施形態による継目無鋼管がラインパイプ用継目無鋼管である場合さらに、好ましい肉厚は5~60mmである。とりわけ、肉厚が20mm以上の厚肉であっても、高強度を有し、円周溶接後のHAZ靭性が優れる。
[製造方法]
以下、本実施形態による継目無鋼管の製造方法を説明する。以下に説明する継目無鋼管の製造方法は、本実施形態による継目無鋼管を製造する方法の一例である。すなわち、本実施形態による継目無鋼管は、以下に説明する製造方法以外の他の製造方法によって、製造されてもよい。本実施形態による継目無鋼管の製造方法の一例は、溶鋼を鋳造して素材を製造する製鋼工程と、素材を熱間加工して素管を製造する熱間加工工程と、素管に対して焼入れを実施する焼入れ工程と、焼入れされた素管に対して焼戻しを実施する焼戻し工程とを備える。
[製鋼工程]
製鋼工程では、まず、上述の化学組成を満たす溶鋼を製造する。溶鋼を製造する方法は、特に限定されず、周知の方法でよい。すなわち、上述の化学組成を満たす溶鋼を製造できれば、製造方法は限定されない。次に、準備された溶鋼を鋳造して、素材を製造する。鋳造する方法は、特に限定されないが、たとえば、連続鋳造法である。連続鋳造法により素材を製造する場合、次の方法で実施するのが好ましい。
連続鋳造法により素材を製造する場合、製造される素材は断面円形のビレット(丸ビレット)であるのが好ましい。好ましくは、鋳造された丸ビレットは、1400℃から1000℃までの平均冷却速度を10.0~13.0℃/分として、室温まで冷却される。本明細書において、1400℃から1000℃までにおけるビレットの平均冷却速度を「ビレット平均冷却速度」ともいう。なお、ビレット平均冷却速度は、ビレット表面の温度を非接触型温度計で測定することによって求めることができる。
ビレット平均冷却速度が遅すぎれば、溶鋼中でTi窒化物が粗大化する場合がある。その結果、製造された継目無鋼管において、微細Ti含有粒子の個数密度が低下して、FnAが大きくなりすぎる場合がある。一方、ビレット平均冷却速度が速すぎれば、Ti窒化物の晶出量及び/又は析出量が減少する場合がある。その結果、製造された継目無鋼管において、微細Ti含有粒子の個数密度が低下して、FnAが大きくなりすぎる場合がある。したがって、本実施形態では、ビレット平均冷却速度を10.0~13.0℃/分とするのが好ましい。
以上の方法により、溶鋼を鋳造して、素材を製造する。上述のとおり、素材は断面円形のビレット(丸ビレット)が好ましい。この場合、溶鋼を鋳造して、断面矩形状のビレットを製造してもよく、ブルームを製造してもよい。これらの場合、分塊圧延を実施して、断面矩形のビレット、又は、ブルームから、丸ビレットを製造するのが好ましい。
[熱間加工工程]
熱間加工工程では、準備された素材を熱間加工して素管を製造する。始めに、ビレットを加熱炉で加熱する。好ましくは、ビレットの加熱において、連続式の加熱炉に装入して加熱する。以下、連続式の加熱炉に装入して加熱する場合について説明する。この場合、加熱炉は、ロータリーハース型の加熱炉であってもよいし、ウォーキングビーム型の加熱炉であってもよい。
連続式の加熱炉では、加熱炉の装入口から装入されたビレットは、加熱炉内を移動しながら加熱される。このとき、加熱炉は、装入口から抽出口に向かって順に、予熱帯、加熱帯、均熱帯に区分される。ここで、予熱帯は装入口を有する区間であり、3つの区間のうち最も炉内温度が低い。加熱帯は予熱帯と均熱帯との間に配置される区間である。均熱帯は加熱帯に続く区間であり、後端に抽出口を有する。
本実施形態では、予熱帯における加熱条件を、つぎのとおりにするのが好ましい。
予熱帯の炉内温度T1:1050~1200℃
予熱帯の在炉時間t1:70~200分
さらに、予熱帯の炉内温度T1(℃)と、在炉時間t1(分)とが、次の式(A)を満たす。
(273.15+T1)×(20+Log(t1/60))≧28000 (A)
本実施形態では、予熱帯における炉内温度T1を1050~1200℃とするのが好ましい。予熱帯の炉内温度T1が高すぎれば、製造された継目無鋼管において、微細Ti含有粒子の個数密度が低下する場合がある。この場合、溶接後のHAZ靭性が十分に得られない。一方、予熱帯の炉内温度T1が低すぎれば、素管の加熱が不足して、後述する熱間加工における設備負荷が増大する。したがって、本実施形態のその他の好ましい製造方法を満たすことを条件に、予熱帯における炉内温度T1を1050~1200℃とすることで、製造された継目無鋼管のFnAを7.0以下にすることができる。
本実施形態では、予熱帯における在炉時間t1を70~200分とするのが好ましい。予熱帯の在炉時間t1が短すぎれば、素管の中心部が十分に加熱されず、後述する熱間加工を安定して実施するのが困難になる場合がある。一方、予熱帯の在炉時間t1が長すぎれば、素管中のTi窒化物が固溶しすぎる場合がある。この場合、製造された継目無鋼管中の微細Ti含有粒子の個数密度が低下して、溶接後のHAZ靭性が十分に得られない。したがって、本実施形態のその他の好ましい製造方法を満たすことを条件に、予熱帯における在炉時間t1を70~200分とすることで、製造された継目無鋼管のFnAを7.0以下にすることができる。
本実施形態では、予熱帯における炉内温度T1(℃)と、在炉時間t1(分)とが、次の式(A)を満たすのが好ましい。
(273.15+T1)×(20+Log(t1/60))≧28000 (A)
LMP1=(273.15+T1)×(20+Log(t1/60))と定義する。LMP1は、予熱帯におけるLarson-Millerパラメータである。LMP1が低すぎれば、製造された継目無鋼管において、微細Ti含有粒子の個数密度が低下する場合がある。この場合、溶接後のHAZ靭性が十分に得られない。したがって、本実施形態のその他の好ましい製造方法を満たすことを条件に、LMP1を28000以上にすることで、製造された継目無鋼管のFnAを7.0以下にすることができる。なお、LMP1の上限は特に限定されない。LMP1の上限は、たとえば、30233であってもよく、30000であってもよい。
なお、連続式の加熱炉を用いる場合に、予熱帯における加熱条件を調整することによって、製造された継目無鋼管のFnAを調整できる詳細な理由は明らかになっていない。しかしながら、少なくとも、上述の化学組成を有し、Fn1~Fn4が本実施形態の範囲を満たす素管について、予熱帯における加熱条件が本実施形態の範囲を満たせば、その他の製造方法が本実施形態の好ましい範囲を満たすことを条件に、FnAが7.0以下になることは、後述する実施例によって証明されている。
本実施形態ではさらに、加熱帯及び均熱帯における加熱条件を、次のとおりにするのが好ましい。
加熱帯の炉内温度:1200~1320℃
加熱帯の在炉時間:40~100分
均熱帯の炉内温度:1200~1320℃
均熱帯の在炉時間:30~70分
本実施形態では、加熱帯及び均熱帯における炉内温度を1200~1320℃とするのが好ましい。加熱帯及び均熱帯の炉内温度が高すぎれば、製造された継目無鋼管において、結晶粒径が大きくなりすぎ、製造された継目無鋼管の靭性が低下する場合がある。一方、加熱帯及び均熱帯の炉内温度が低すぎれば、素管の加熱が不足して、後述する熱間加工における設備負荷が増大する。
本実施形態では、加熱帯の在炉時間を40~100分とするのが好ましい。本実施形態ではさらに、均熱帯の在炉時間を30~70分とするのが好ましい。これらの在炉時間が短すぎれば、素管の中心部が十分に加熱されず、後述する熱間加工を安定して実施するのが困難になる場合がある。一方、これらの在炉時間が長すぎても、加熱の効果が飽和する。
以上のとおり、連続式の加熱炉を用いる場合、上述の条件で加熱を実施するのが好ましい。しかしながら、本実施形態による継目無鋼管は、連続式の加熱炉を用いずに製造することもできる。要するに、製造された継目無鋼管において、上述の化学組成を有し、Fn1~Fn4が本実施形態の範囲を満たし、FnAが7.0以下とすれば、本実施形態の継目無鋼管は450MPa以上の降伏強度と、溶接後の優れたHAZ靭性を示すことができる。以下、加熱後の熱間加工について説明する。
加熱炉から抽出されたビレットに対して熱間加工を実施して、素管(継目無鋼管)を製造する。本実施形態において、熱間加工の方法は特に限定されず、周知の方法でよい。たとえば、熱間加工としてマンネスマン法を実施して、素管を製造してもよい。この場合、穿孔機により丸ビレットを穿孔圧延する。穿孔圧延する場合、穿孔比は特に限定されないが、たとえば、1.0~4.0である。穿孔圧延された丸ビレットをさらに、マンドレルミル、レデューサー、サイジングミル等により熱間圧延して素管にする。熱間加工工程での累積の減面率はたとえば、20~70%である。また、他の熱間加工方法を実施して、ビレットから素管を製造してもよい。エルハルト法等の鍛造により素管を製造してもよい。以上の工程により素管が製造される。
熱間加工により製造された素管は空冷されてもよい(As-Rolled)。熱間加工により製造された素管は、常温まで冷却せずに、熱間加工後に直接焼入れを実施してもよく、熱間加工後に補熱(再加熱)した後、焼入れを実施してもよい。以下、焼入れ工程について詳述する。
[焼入れ工程]
焼入れ工程では、準備された素管に対して、焼入れを実施する。本明細書において、「焼入れ」とは、A3点以上の素管を急冷することを意味する。好ましい焼入れ温度は800~1000℃である。焼入れ温度が高すぎれば、旧γ粒の結晶粒が粗大になり、製造された継目無鋼管の溶接後のHAZ靭性が低下する場合がある。したがって、焼入れ温度は800~1000℃であるのが好ましい。
焼入れ方法はたとえば、焼入れ開始温度から素管を連続的に冷却し、素管の表面温度を連続的に低下させる。連続冷却処理の方法は特に限定されず、周知の方法でよい。連続冷却処理の方法はたとえば、水槽に素管を浸漬して冷却する方法や、シャワー水冷又はミスト冷却により素管を加速冷却する方法である。以下、焼戻し工程について詳述する。
[焼戻し工程]
焼戻し工程では、上述の焼入れが実施された素管に対して、焼戻しを実施する。本明細書において、「焼戻し」とは、焼入れ後の素管をAc1点未満の温度で再加熱して、保持することを意味する。ここで、焼戻し温度とは、焼入れ後の素管を加熱して、保持する際の炉の温度に相当する。焼戻し時間とは、素管の温度が所定の焼戻し温度に到達してから、熱処理炉から抽出されるまでの時間を意味する。
焼戻し温度は、継目無鋼管の化学組成、及び、得ようとする降伏強度に応じて適宜調整する。つまり、本実施形態の化学組成を有する素管に対して、焼戻し温度を調整して、継目無鋼管の降伏強度を450MPa以上に調整する。本実施形態による焼戻し工程において、好ましい焼戻し温度は500~700℃である。また、本実施形態の焼戻し工程において、焼戻し時間は5~240分とするのが好ましい。
以上の製造方法によって、本実施形態による継目無鋼管を製造することができる。しかしながら、上述のとおり、上記製造方法は一例であり、他の製造方法によって製造されてもよい。以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。
表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。なお、表1中の「-」は、各元素の含有量が不純物レベルであることを意味する。具体的に、試験番号1のMo含有量及びNb含有量は、小数第三位を四捨五入して0%であったことを意味する。また、試験番号6のCr含有量は、小数第三位を四捨五入して0%であったことを意味する。試験番号21のV含有量は、小数第三位を四捨五入して0%であったことを意味する。また、各試験番号の元素含有量と、上述の式(1)~(4)から求めたFn1~Fn4を表1に示す。
Figure 2024000440000002
各試験番号の溶鋼を用いて、連続鋳造法によって丸ビレットを製造した。連続鋳造後、各試験番号の丸ビレットを、表2に記載のビレット平均冷却速度(℃/分)で1400℃から1000℃まで冷却し、さらに室温まで冷却した。冷却後の各試験番号の丸ビレットを連続式の加熱炉を用いて加熱して、熱間加工を実施した。連続式の加熱炉は、予熱帯、加熱帯、及び、均熱帯を有していた。各試験番号の丸ビレットの加熱において、予熱帯の炉内温度T1(℃)、在炉時間t1(分)、及び、T1とt1と式(A)とから求めたLMP1を表2に示す。さらに、加熱帯の炉内温度(℃)、在炉時間(分)、均熱帯の炉内温度(℃)、及び、在炉時間(分)を表2に示す。
Figure 2024000440000003
得られた各試験番号の素管に対して、焼入れ及び焼戻しを実施した。具体的には、各試験番号の素管に対して、850~1000℃で5~90分間保持した後、水冷する焼入れを実施した。焼入れされた各試験番号の素管に対してさらに、500~700℃で5~240分間保持する焼戻しを実施した。以上の製造工程により、各試験番号の継目無鋼管を得た。各試験番号の継目無鋼管について、外径(mm)及び肉厚(mm)を表2に示す。
[評価試験]
上記の焼戻し後の各試験番号の継目無鋼管に対して、以下に説明する引張試験、微細Ti含有粒子個数密度測定試験、及び、HAZ靭性評価試験を実施した。
[引張試験]
各試験番号の継目無鋼管に対して、JIS Z 2241(2011)に準拠した方法で、引張試験を実施した。具体的に、各試験番号の継目無鋼管の肉厚中央部から、JIS Z 2241(2011)に規定される4号試験片を引張試験片として作製した。引張試験片の長手方向は鋼管の管軸方向であった。作製した引張試験片を用いて、常温(25℃)、大気中でJIS Z 2241(2011)に準拠した引張試験を実施して、得られた0.2%オフセット耐力を、降伏強度(MPa)と定義した。同様の引張試験で得られた一様伸び中の最大応力を引張強度(MPa)と定義した。各試験番号の継目無鋼管について、得られた降伏強度(MPa)を「YS(MPa)」として、引張強度を「TS(MPa)」として表2に示す。
[微細Ti含有粒子個数密度測定試験]
各試験番号の継目無鋼管に対して、微細Ti含有粒子個数密度測定試験を実施して、微細Ti含有粒子の個数密度ND(個/mm2)を求めた。具体的に、各試験番号の継目無鋼管の肉厚中央部から、組織観察用の試験片を作製した。作製した各試験番号の試験片を用いて、上述の方法でレプリカ膜を作製した。作製したレプリカ膜に対して上述の方法でTEM観察を行い、円相当径が0.10μm以下の粒子を特定した。特定した各粒子に対してEDSの点分析を実施して、Ti含有量が70質量%以上の粒子を特定した。特定した微細Ti含有粒子の総個数と、観察視野の総面積とに基づき、微細Ti含有粒子の個数密度ND(個/mm2)を求めた。さらに、微細Ti含有粒子の個数密度ND(個/mm2)と、上記Fn2とを用いて、FnAを求めた。得られた各試験番号の微細Ti含有粒子の個数密度ND(個/mm2)を、表2に示す。得られた各試験番号のFnAを表2に示す。
[HAZ靭性評価試験]
各試験番号の継目無鋼管に対して、HAZ靭性評価試験を実施して、溶接後のHAZの靭性を評価した。具体的に、各試験番号の継目無鋼管を用いて、上述の方法で溶接継手を作製した。作製した各試験番号の溶接継手から、上述の方法で3点曲げCTOD試験片を作製した。なお、各試験番号のCTOD試験片の厚さB(mm)は、表2に記載のとおりであった。各試験番号のCTOD試験片に対して、上述の方法でCTOD試験を実施して、-20℃のCTOD値(mm)を求めた。得られた各試験番号の-20℃のCTOD値(mm)を、表2の「CTOD値(-20℃)(mm)」欄に示す。
[試験結果]
表1及び表2を参照して、試験番号1~14の継目無鋼管の化学組成は適切であり、Fn1、Fn2、Fn3、及び、Fn4は本実施形態の範囲を満たしていた。さらに、製造方法も上述の好ましい条件を満たしていた。その結果、これらの継目無鋼管は、降伏強度が450MPa以上であり、FnAが7.0以下となった。その結果、これらの継目無鋼管は、HAZ靭性評価試験において、-20℃のCTOD値が0.25mm以上となり、優れたHAZ靭性を示した。なお、これらの継目無鋼管はいずれも、主として焼戻しベイナイトからなるミクロ組織を有していた。
一方、試験番号15及び16の継目無鋼管は、Fn1が高すぎた。その結果、これらの継目無鋼管は、HAZ靭性評価試験において、-20℃のCTOD値が0.25mm未満となり、優れたHAZ靭性を示さなかった。
試験番号17及び18の継目無鋼管は、Fn2が低すぎた。その結果、これらの継目無鋼管は、降伏強度が450MPa未満となり、所望の強度が得られなかった。
試験番号19の継目無鋼管は、Fn3が低すぎた。その結果、FnAが7.0を超えた。その結果、この継目無鋼管は、HAZ靭性評価試験において、-20℃のCTOD値が0.25mm未満となり、優れたHAZ靭性を示さなかった。
試験番号20の継目無鋼管は、Fn3が高すぎた。さらにFn4が高すぎた。その結果、FnAが7.0を超えた。その結果、この継目無鋼管は、HAZ靭性評価試験において、-20℃のCTOD値が0.25mm未満となり、優れたHAZ靭性を示さなかった。
試験番号21の継目無鋼管は、Fn4が高すぎた。その結果、FnAが7.0を超えた。その結果、この継目無鋼管は、HAZ靭性評価試験において、-20℃のCTOD値が0.25mm未満となり、優れたHAZ靭性を示さなかった。
試験番号22の継目無鋼管は、ビレット平均冷却速度が遅すぎた。その結果、FnAが7.0を超えた。その結果、この継目無鋼管は、HAZ靭性評価試験において、-20℃のCTOD値が0.25mm未満となり、優れたHAZ靭性を示さなかった。
試験番号23の継目無鋼管は、ビレット平均冷却速度が速すぎた。その結果、FnAが7.0を超えた。その結果、この継目無鋼管は、HAZ靭性評価試験において、-20℃のCTOD値が0.25mm未満となり、優れたHAZ靭性を示さなかった。
試験番号24の継目無鋼管は、予熱帯の炉内温度が高すぎた。その結果、FnAが7.0を超えた。その結果、この継目無鋼管は、HAZ靭性評価試験において、-20℃のCTOD値が0.25mm未満となり、優れたHAZ靭性を示さなかった。
試験番号25の継目無鋼管は、予熱帯のLMP1が低すぎた。その結果、FnAが7.0を超えた。その結果、この継目無鋼管は、HAZ靭性評価試験において、-20℃のCTOD値が0.25mm未満となり、優れたHAZ靭性を示さなかった。
試験番号26~28の継目無鋼管は、ビレット平均冷却速度が遅すぎた。さらに予熱帯のLMP1が低すぎた。その結果、FnAが7.0を超えた。その結果、これらの継目無鋼管は、HAZ靭性評価試験において、-20℃のCTOD値が0.25mm未満となり、優れたHAZ靭性を示さなかった。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (2)

  1. 継目無鋼管であって、
    質量%で、
    C:0.030~0.080%、
    Si:0.25%以下、
    Mn:1.00~2.50%、
    P:0.050%以下、
    S:0.0050%以下、
    Cu:1.00%以下、
    Ni:0.25~1.00%、
    Ti:0.001~0.050%、
    Al:0.050%以下、
    N:0.0020~0.0150%、
    Ca:0.0005~0.0050%、及び、
    B:0.0005%以下を含有し、
    Cr:0.01~0.50%、
    Mo:0.01~0.30%、
    V:0.01~0.10%、及び、
    Nb:0.01~0.05%からなる群から選択される1元素以上を含有し、
    残部がFe及び不純物からなり、
    式(1)で定義されるFn1が0.010~0.450であり、
    式(2)で定義されるFn2が0.400以上であり、
    式(3)で定義されるFn3が1.50~5.50であり、
    式(4)で定義されるFn4が5.00以下であり、
    降伏強度が450MPa以上であり、
    前記継目無鋼管中において、
    Ti含有量が70質量%以上を満たし、円相当径が0.10μm以下のTi含有粒子の個数密度をND個/mm2と定義したとき、
    前記Fn2と、前記NDとが、式(5)を満たす、
    継目無鋼管。
    Fn1=Cr+1.2Mo+V+8Nb (1)
    Fn2=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 (2)
    Fn3=Ti/N (3)
    Fn4=Ti/Ca (4)
    20.0×Fn2-ND×10-6≦7.0 (5)
    ここで、式(1)~(4)中の元素記号には、対応する元素の含有量が質量%で代入される。なお、対応する元素が含有されない場合、当該元素記号には「0」が代入される。
  2. 請求項1に記載の継目無鋼管であって、
    前記継目無鋼管は、ラインパイプ用継目無鋼管である、
    継目無鋼管。
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