JP2023159309A - 生物活性が低下した抗体バリアント - Google Patents

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Kensaku Hosoguchi
愛 原
Ai Hara
宗太 増田
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美智 ▲高▼城
Michi Takagi
周介 南部
Shusuke Nambu
久美 佐藤
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Abstract

【課題】ネモリズマブの構造変化体(抗体バリアント)、特にネモリズマブよりも生物活性が低い構造変化体を提供する。また、当該変化体を含むネモリズマブ含有組成物、当該変化体の低減化方法、および分析方法も提供する。【解決手段】特定の配列を有するネモリズマブの抗体バリアントを開示する。また、本開示は、当該抗体バリアントを含むネモリズマブ含有組成物、当該抗体バリアントの低減化方法、および分析方法も提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、ネモリズマブの抗体バリアント、例えば、ネモリズマブと比べて生物活性が低い抗体バリアントに関する。本発明はまた、そのような抗体バリアントの含有率が低い医薬組成物にも関する。本発明はさらに、当該抗体バリアントの検出方法および分析方法に関する。
抗体は血漿中での安定性が高く、副作用も少ないことから医薬品として注目されている。中でもIgG型の抗体医薬は多数上市されており、現在も数多くの抗体医薬が開発されている。一般的に、抗体医薬品には、有効成分である目的物質(抗体)の他に、目的物質からの構造変化体(抗体バリアント)を含む様々な構成成分が含まれる。そのような構造変化体は、有効性と安全性が目的物質と同等である目的物質関連物質、および目的物質と同等でない目的物質由来不純物に分類され、原薬の製造過程の条件により生成率が変動するものもある。このように、抗体医薬品には不均一性が存在するため、各構成成分について原薬および製剤の出荷規格および有効期間内規格を設定し、抗体医薬品の品質を管理することが求められる。
近年、インターロイキン-31 (IL-31)レセプターA (IL-31RA)に結合し、IL-31のIL-31RAへの結合を阻害する機能を有するモノクローナル抗体が見出された(特許文献1~3)。中でも、抗IL-31RA抗体ネモリズマブ(Nemolizumab;CIM331)は、IL-31アンタゴニストとして作用することにより、そう痒誘発性サイトカインとされているIL-31の機能を阻害することから、アトピー性皮膚炎の患者を対象とした臨床試験が行われ、最近、その結果が報告された(非特許文献1)。しかし、ネモリズマブの原薬および製剤の製造において、ネモリズマブと比べて生物活性が低下した抗体バリアントが生成されるかどうか、およびその含有割合は、まだ報告されていない。
WO2007/142325 WO2009/072604 WO2010/064697
N Engl J Med 2020; 383:141-150
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、ネモリズマブの構造変化体(抗体バリアント)、当該抗体バリアントを含むネモリズマブ含有組成物およびその製造方法、当該抗体バリアントの低減化方法、ならびに当該抗体バリアントの分析方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために鋭意研究した結果、本発明者らは、ネモリズマブを有効成分として含む医薬組成物に含まれる複数種の抗体バリアント(ネモリズマブの構造変化体)を同定することに成功した。また、これらの抗体バリアントの中には、ネモリズマブに比べて生物活性(IL-31受容体への結合による、IL-31シグナル伝達の阻害活性)が低い抗体バリアントが含まれることを見出した。さらに、当該抗体バリアントを効率的に検出および分析する方法を見出した。
本開示はこのような知見に基づくものであり、非限定的な一実施態様において以下に関する:
〔1〕アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体のバリアントであって、
(a)前記配列のN末端側から1番目の位置におけるアミノ酸残基D、
(b)前記配列のN末端側から4番目の位置におけるアミノ酸残基D、または
(c)前記配列のN末端側から5番目の位置におけるアミノ酸残基D
がスクシンイミド残基またはイソアスパラギン酸残基である、抗体バリアント。
〔2〕前記配列がCDR配列である、〔1〕の抗体バリアント。
〔2.2〕前記配列がCDR3配列である、〔1〕の抗体バリアント。
〔3〕前記配列が重鎖に含まれる配列である、〔1〕の抗体バリアント。
〔4〕アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する前記抗体が、
(1)配列番号1に記載のCDR1、配列番号2に記載のCDR2、および配列番号3に記載のCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに、配列番号4に記載のCDR1、配列番号5に記載のCDR2、および配列番号6に記載のCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、
(2)配列番号7に記載の重鎖可変領域、および、配列番号8に記載の軽鎖可変領域を含む抗体、または
(3)配列番号9に記載の重鎖、および、配列番号10に記載の軽鎖を含む抗体
のいずれかである、〔1〕の抗体バリアント。
〔5〕アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する前記抗体がネモリズマブである、〔1〕の抗体バリアント。
〔6〕陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて分離した場合に、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する前記抗体よりも保持時間(retention time)が短い、〔1〕~〔5〕のいずれかの抗体バリアント。
〔7〕アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する前記抗体よりも生物活性が低い、〔1〕~〔6〕のいずれかの抗体バリアント。
〔1.2.0〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを含む、医薬組成物。
〔1.2.1〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを含む医薬組成物であって、該医薬組成物中のイソアスパラギン酸残基含有抗体バリアントの、該抗体バリアントおよび修飾を受けていない抗体の合計に対する割合が36%以下であり、かつ/あるいは酵素消化後の該医薬組成物中の該抗体バリアント由来のイソアスパラギン酸残基含有ペプチドの、該イソアスパラギン酸残基含有ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチドの合計に対する割合が20%以下である、医薬組成物。
〔1.2.2〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを含む医薬組成物であって、該医薬組成物中のイソアスパラギン酸残基含有抗体バリアントの、該抗体バリアントおよび修飾を受けていない抗体の合計に対する割合が27.8%以下であり、かつ/あるいは酵素消化後の該医薬組成物中の該抗体バリアント由来のイソアスパラギン酸残基含有ペプチドの、該イソアスパラギン酸残基含有ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチドの合計に対する割合が15%以下である、医薬組成物。
〔1.2.3〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを含む医薬組成物であって、該医薬組成物中のイソアスパラギン酸残基含有抗体バリアントの、該抗体バリアントおよび修飾を受けていない抗体の合計に対する割合が17.9%以下であり、かつ/もしくは酵素消化後の該医薬組成物中の該抗体バリアント由来のイソアスパラギン酸残基含有ペプチドの、該イソアスパラギン酸残基含有ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチドの合計に対する割合が9.4%以下である、医薬組成物。
〔1.2.4〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを含む医薬組成物であって、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて該医薬組成物を分離した場合の全ピーク面積に対する、イソアスパラギン酸残基含有抗体バリアント含有ピークの面積の割合が、40.3 area%以下、30.4 area%以下、または19.3 area%以下である、医薬組成物。
〔1.2.5〕ネモリズマブを含む、〔1.2.1〕~〔1.2.4〕のいずれかの医薬組成物。
〔1.2.6〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを含む医薬組成物であって、該医薬組成物中のスクシンイミド残基含有抗体バリアントの、該抗体バリアントおよび修飾を受けていない抗体の合計に対する割合が36%以下であり、かつ/もしくは酵素消化後の該医薬組成物中の該抗体バリアント由来のスクシンイミド残基含有ペプチドの、該スクシンイミド残基含有ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチドの合計に対する割合が20%以下である、医薬組成物。
〔1.2.7〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを含む医薬組成物であって、該医薬組成物中のスクシンイミド残基含有抗体バリアントの、該抗体バリアントおよび修飾を受けていない抗体の合計に対する割合が27.8%以下であり、かつ/もしくは酵素消化後の該医薬組成物中の該抗体バリアント由来のスクシンイミド残基含有ペプチドの、該スクシンイミド残基含有ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチドの合計に対する割合が15%以下である、医薬組成物。
〔1.2.8〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを含む医薬組成物であって、該医薬組成物中のスクシンイミド残基含有抗体バリアントの、該抗体バリアントおよび修飾を受けていない抗体の合計に対する割合が18.7%以下であり、かつ/もしくは酵素消化後の該医薬組成物中の該抗体バリアント由来のスクシンイミド残基含有ペプチドの、該スクシンイミド残基含有ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチドの合計に対する割合が9.8%以下である、医薬組成物。
〔1.2.9〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを含む医薬組成物であって、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて該医薬組成物を分離した場合の全ピーク面積に対する、スクシンイミド残基含有抗体バリアント含有ピークの面積の割合が、29.1 area%以下、21.6 area%以下、または13.8 area%以下である、医薬組成物。
〔1.2.10〕ネモリズマブを含む、〔1.2.6〕~〔1.2.9〕のいずれかの医薬組成物。
〔1.2.11〕アトピー性皮膚炎、透析掻痒症、および他の掻痒症のうちの少なくとも1つの治療および予防のうちの一方または両方に用いるための医薬組成物である、〔1.2.0〕~〔1.2.9〕のいずれかの医薬組成物。
〔1.2.12〕〔1.2.0〕~〔1.2.9〕のいずれかの医薬組成物を投与する工程を含む、アトピー性皮膚炎、透析掻痒症、および他の掻痒症のうちの少なくとも1つを治療または予防する方法。
〔1.3.1〕アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体あるいは酵素処理された該抗体を含む試料を、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、電荷に基づく分離、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、またはそれらの組み合わせによって分離する工程を含む、〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントの検出方法。
〔1.3.2〕前記イオン交換クロマトグラフィーがアニオン交換クロマトグラフィーであることを特徴とする、〔1.3.1〕の検出方法。
〔1.3.3〕前記アニオン交換クロマトグラフィーが、内径4.6-7.5 mm、長さ35-150 mm、粒径2.5-10 μmのカラムを、カラム温度25-50℃で用いて、pH6.0-10.0の移動相により溶出することを特徴とする、〔1.3.2〕の検出方法。
〔1.3.4〕前記アニオン交換クロマトグラフィーが、内径7.5 mm, 長さ75 mm、粒径2.5 μmのカラムを、カラム温度40℃で用いて、250 mmol/Lの塩化ナトリウムを含むpH7.5の移動相にて溶出することを特徴とする、〔1.3.2〕または〔1.3.3〕の検出方法。
〔1.3.5〕酵素処理された前記抗体を含む試料を分離する前記工程に続いて、質量分析及び/または紫外吸収測定によってペプチドを定量する工程を含む、〔1.3.1〕~〔1.3.4〕のいずれかの検出方法。
〔1.3.6〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを標準物質(標準品)として使用することを特徴とする、〔1.3.1〕~〔1.3.5〕のいずれかの検出方法。
〔1.4.1〕〔1.3.1〕~〔1.3.6〕のいずれかの検出方法を実施する工程を含む、ネモリズマブを含有する組成物の製造方法。
〔1.4.2〕ネモリズマブを含有する組成物の製造方法であって、ネモリズマブを含む溶液を、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、電荷に基づく分離、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、またはそれらの組み合わせによって精製する工程を含む、製造方法。
〔1.4.3〕前記精製する工程が、ネモリズマブ産生細胞から得られたネモリズマブ含有組成物をアフィニティークロマトグラフィーによって精製することを含む、〔1.4.2〕の製造方法。
〔1.4.4〕前記アフィニティークロマトグラフィーによる精製後のネモリズマブ含有溶液の保持時間(hold time)が72時間以内であることを特徴とし、該保持時間がより長い場合と比べて組成物中の〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントの含有率が低い、〔1.4.3〕の製造方法。
〔1.4.5〕前記アフィニティークロマトグラフィーによる精製後のネモリズマブ含有溶液の保持時間が約24時間以内であることを特徴とする、〔1.4.4〕の製造方法
〔1.4.6〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを標準物質(標準品)として使用することを特徴とする、〔1.4.1〕~〔1.4.5〕のいずれかの製造方法。
〔1.5.1.1〕アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体を産生する細胞から得られた抗体含有組成物をアフィニティークロマトグラフィーにより精製する工程を含み、該精製工程を含まない場合と比べて組成物中の〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントの含有率が低い、〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントの含有率を抑制する方法。
〔1.5.1.2〕前記アフィニティークロマトグラフィーによる精製後のネモリズマブ含有溶液の保持時間が48時間以内であることを特徴とし、該保持時間がより長い場合と比べて組成物中の〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントの含有率が低い、〔1.5.1.1〕の方法。
〔1.5.1.3〕前記アフィニティークロマトグラフィーによる精製後のネモリズマブ含有溶液の保持時間が約24時間以内であることを特徴とする、〔1.5.1.2〕の方法。
〔1.5.1.4〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを標準物質(標準品)として使用することを特徴とする、〔1.5.1.1〕~〔1.5.1.3〕のいずれかの方法。
〔1.6.1.1〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを含む組成物であって、該抗体バリアントが、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて分離した場合にネモリズマブよりも保持時間(retention time)が短く、かつネモリズマブよりもイソアスパラギン酸残基を多く含む、組成物。
〔1.6.1.2〕前記抗体バリアントの含有率が、40.3 area%以下、30.4 area%以下、または19.3 area%以下であり、かつ前記組成物がネモリズマブを含有する、〔1.6.1.1〕の組成物。
〔1.6.2.1〕〔1〕~〔7〕のいずれかの抗体バリアントを含む組成物であって、該抗体バリアントが、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて分離した場合にネモリズマブよりも保持時間(retention time)が短く、かつネモリズマブよりもスクシンイミド残基を多く含む、組成物。
〔1.6.2.2〕前記抗体バリアントの含有率が、29.1 area%以下、21.6 area%以下、または13.8 area%以下であり、かつ前記組成物がネモリズマブを含有する、〔1.6.2.1〕の組成物。
〔2.1.1.1〕2本の重鎖と2本の軽鎖から構成されるネモリズマブよりも小さな分子量を有する、ネモリズマブの抗体バリアント。
〔2.1.1.2〕ネモリズマブの重鎖におけるEUナンバリング224位のシステイン同士で結合した、2本の重鎖で形成された構造を有していることを特徴とする、ネモリズマブの抗体バリアント。
〔2.1.1.3〕ネモリズマブの軽鎖におけるEUナンバリング214位のシステイン同士で結合した、2本の軽鎖で形成された構造を有していることを特徴とする、ネモリズマブの抗体バリアント。
〔2.1.1.4〕ネモリズマブの軽鎖におけるEUナンバリング214位のシステインと、ネモリズマブの重鎖におけるEUナンバリング224位のシステインが結合し、さらに重鎖のEUナンバリング227位及び230位のシステインが1本の重鎖内で結合した、1本の軽鎖と1本の重鎖で形成された構造を有していることを特徴とする、ネモリズマブの抗体バリアント。
〔2.1.1.5〕ネモリズマブの軽鎖におけるEUナンバリング214位のシステインと遊離のシステインが結合した、1本の軽鎖で形成された構造を有していることを特徴とする、ネモリズマブの抗体バリアント。
〔2.1.1.6〕ネモリズマブの2本の重鎖と1本の軽鎖から構成されており、2本の重鎖がEUナンバリング227位及び230位の2箇所のシステイン同士でそれぞれ結合し、さらに1本目の重鎖におけるEUナンバリング224位のシステインが軽鎖におけるEUナンバリング214位のシステインと結合し、さらに2本目の重鎖におけるEUナンバリング224位のシステインが遊離のシステインと結合した構造を有していることを特徴とする、ネモリズマブの抗体バリアント。
〔2.1.2〕〔2.1.1.1〕~〔2.1.1.6〕のいずれかの抗体バリアントを含む医薬組成物であって、該医薬組成物中の全抗体分子における該抗体バリアントの割合が11.0 CPA%以下である、医薬組成物。
〔2.2.1〕ネモリズマブ重鎖Kabat番号55位におけるアスパラギンが脱アミド化していることを特徴とする、ネモリズマブの抗体バリアント。
〔2.2.2〕〔2.2.1〕の抗体バリアントを含む医薬組成物であって、該医薬組成物を酵素消化した後の該抗体バリアント由来の脱アミド化含有ペプチドの、該脱アミド化含有ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチドの合計に対する割合が2.0%以下である、医薬組成物。
本発明者らは、ネモリズマブに比べて生物活性が顕著に低い構造変化体(抗体バリアント)の同定に成功した。このような抗体バリアントは、ネモリズマブ含有医薬組成物の品質評価における当該バリアントの検出/分析用の標準物質(標準品)として有用である。
また、本発明者らは、そのような抗体バリアントであるアスパラギン酸異性化バリアントの生成を制御する(低く抑える)方法、および当該バリアントの含量を測定する方法(バリアント検出/分析方法)を見出した。これらの方法は、従来の方法と比べてスループット性が高く、ネモリズマブの品質向上および品質管理において重要な技術である。また、当該抗体バリアントの含有率が低い本発明のネモリズマブ含有医薬組成物は、アトピー性皮膚炎、透析掻痒症および他の掻痒症の治療および/または予防のための手段として有用である。
実施例1に記載されている条件でのアニオン交換高速液体クロマトグラフィーによってネモリズマブ含有溶液を分離した結果を示すクロマトグラムである。カラムとしてTSK DEAE NPR(内径4.6 mm,長さ35 mm,粒径2.5 μm)を用い、表1に示す塩濃度調整条件1で分離を行った。 実施例1に記載されている条件でのアニオン交換高速液体クロマトグラフィーによってネモリズマブ含有溶液を分離した結果を示すクロマトグラムである。カラムとしてTSK DEAE NPR(内径7.5 mm,長さ75 mm,粒径2.5 μm)を用い、表2に示す塩濃度調整条件2で分離を行った。 ネモリズマブのバリアントであるHH dimer及びLL dimerの構造を示す模式図である。 HCCFまたはAffinity poolを23℃で種々の時間保持した後のサンプルに含まれるisoAsp体(上)またはAsu体(下)のペプチド単位での含量をX軸とし、AE-HPLCのPre-Region 1(上)またはPre-Region 2(下)の面積割合をY軸としてプロットした散布図である。 ネモリズマブのバリアントであるHL体の構造を示す模式図である。 ネモリズマブのバリアントであるCysteinylated HHL体(左)およびCysteinylated light chain(右)の構造を示す模式図である。
本発明の一つの実施態様は、生物活性(例えば、IL-31受容体への結合による、IL-31シグナル伝達の阻害活性)が低下した抗体バリアントに関する。これらの抗体バリアントは、本発明者らによるネモリズマブ原薬の分析において、アスパラギン酸異性化バリアント(ネモリズマブにおける少なくとも1つのアスパラギン酸残基がスクシンイミド残基に変化したバリアント(Asu体)およびイソアスパラギン酸残基に変化したバリアント(isoAsp体))として同定された。本明細書において、「抗体バリアント」は、元の抗体の構造変化体、または異性化体、異性化バリアント、もしくは異性体と称されることもある。
ネモリズマブは、IL-31受容体への結合による、IL-31シグナル伝達の阻害活性を示すヒト化IgG2抗体であり、IL-31受容体を認識する重鎖と軽鎖から構成される。具体的には、ネモリズマブは、配列番号1に記載のCDR1、配列番号2に記載のCDR2、および配列番号3に記載のCDR3を含むH鎖可変領域、ならびに、配列番号4に記載のCDR1、配列番号5に記載のCDR2、および配列番号6に記載のCDR3を含むL鎖可変領域を含む。より具体的には、ネモリズマブは、配列番号7に記載のH鎖可変領域、および、配列番号8に記載のL鎖可変領域を含む。さらに具体的には、ネモリズマブは、配列番号9に記載のH鎖、および、配列番号10に記載のL鎖を含む。なお、本明細書において、ネモリズマブとそのバリアントとは区別して記載され、したがって、用語「ネモリズマブ」には、ネモリズマブのバリアント(例えば、アスパラギン酸異性化バリアント)は含まれないものとする。
CDRの定義の方法としては、Kabatらの方法(Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed (1991), Bethesda, MD)、Chothiaらの方法(Science (1986) 233, 755-758)、抗原-抗体の接触(Contact)領域に基づく方法(J Mol Biol (1996) 262, 732-745)などが知られている。具体的には、各方法によるCDRは以下のように定義される。
CDR Kabat Chothia Contact
L1 L24-L34 L24-L34 L30-L36
L2 L50-L56 L50-L56 L46-L55
L3 L89-L97 L89-L97 L89-L96
H1 H31-H35B H26-H32/34 H30-H35B (Kabatナンバリング)
H1 H31-H35 H26-H32 H30-H35 (Chothiaナンバリング)
H2 H50-H65 H52-H56 H47-H58
H3 H95-H102 H95-H102 H93-H101
本開示において、抗体バリアントの生物活性が低下しているとは、当該生物活性が、比較対象とする抗体(例えばネモリズマブ)の生物活性と比べて低いことを意味し、統計学的に有意に低いことが好ましい。一態様において、本発明の抗体バリアントの生物活性は、比較対象とする抗体(例えばネモリズマブ)の生物活性と比べて、10%以上、例えば、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、59%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、79%以上、80%以上、85%以上、または90%以上低い。一態様において、比較対象とする抗体(例えば、CIM331標準物質、すなわちネモリズマブ)の生物活性に対する本発明の抗体バリアントの生物活性(相対的生物活性)は、90%以下、例えば、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、41%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、21%以下、20%以下、15%以下、10%以下、または5%以下である。
一態様において、ネモリズマブまたはその抗体バリアントの生物活性は、IL-31受容体に対する中和活性である。一態様において、IL-31受容体に対する中和活性は、IL-31とIL-31受容体との結合を阻害する活性である。一態様において、IL-31受容体に対する中和活性は、IL-31受容体への結合による、IL-31シグナル伝達の阻害活性(例えば、IL-31依存的な細胞増殖を抑制する活性)である。WO2010/064697にも記載されている通り、ネモリズマブ(CIM331)はヒトIL-31RA及びカニクイザルIL-31RAに対して中和活性を有する。このような中和活性は、例えばWO2010/064697に記載されている方法によって評価することができる。
ネモリズマブまたはその抗体バリアントがIL-31シグナル伝達を阻害するかどうかは、ある一つの方法として、ネモリズマブまたはその抗体バリアントがIL-31とIL-31受容体との結合を阻害するかどうかを調べることにより確認することができる。そのような測定を行うための方法として、ELISAやフローサイトメトリーを利用したアッセイ、表面プラズモン共鳴を利用したアッセイなどを挙げることができる。例えばELISAの場合、プレート上にIL-31受容体(またはIL-31RA)タンパク質を固相化して、そこに結合するIL-31タンパク質の量を、酵素標識された抗IL-31抗体などの二次抗体で検出するような系を用意して、そこにネモリズマブまたはその抗体バリアントを添加した場合に、検出されるIL-31タンパク質の量が減少するかどうかを測定することによって、ネモリズマブまたはその抗体バリアントがIL-31とIL-31受容体との結合を阻害したかどうかを評価することができる。
また、別の方法として、ネモリズマブまたはその抗体バリアントがIL-31シグナル伝達を阻害するかどうかは、IL-31が細胞に作用することによって引き起こされる生理活性がネモリズマブまたはその抗体バリアントにより阻害されるかどうかを調べることによっても確認することができる。前記生理活性は、何らかの方法により定量的あるいは定性的に測定できる活性であれば特に限定されないが、細胞増殖活性やタンパク質リン酸化活性、遺伝子/タンパク質発現誘導活性などを挙げることができる。例えば、表面にIL-31受容体を発現し、外部からのIL-31刺激に応じて増殖活性が誘導されるような細胞を用意して、そこにネモリズマブまたはその抗体バリアントを添加した場合に、IL-31により誘導される細胞増殖活性が低下するかどうかを測定することによって、ネモリズマブまたはその抗体バリアントがIL-31シグナルを阻害したかどうかを評価することができる。そのような細胞としては、生来的にIL-31受容体を発現している天然の細胞を用いてもよいし、人工的にIL-31受容体を発現させた遺伝子組換え細胞を用いてもよい。遺伝子組換え細胞の好適な例として、IL-31受容体を発現させたBa/F3細胞を挙げることができる。また、さらなる別の方法として、Dillonらの文献(Nat Immunol (2004) 5, 752-760)に記載の方法を用いることもできる。
本開示において、ネモリズマブまたはその抗体バリアントがIL-31シグナル伝達を阻害する程度は、限定されないが、例えば10%以上、好ましくは20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、又は98%以上阻害してもよい。
「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、所望の生物活性(例えば、抗原への結合活性)を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二量体、多量体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、抗体誘導体および抗体修飾物であってもよい(Miller K et al. J Immunol. 2003, 170(9), 4854-61)。抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体であってもよく、または他の種由来であっても、人工的に合成したものであってもよい。本明細書中に開示される抗体は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgDおよびIgA)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスであり得る。免疫グロブリンは、任意の種(例えば、ヒト、マウスまたはウサギ)由来であり得る。尚、「抗体」、「免疫グロブリン」および「イムノグロブリン」なる用語は互換性をもって広義な意味で使われる。
また、抗体は、2本の重鎖と2本の軽鎖から構成される抗体分子に限定されず、より小さな分子量を有する抗体断片であってもよい。例えば、2本の重鎖で形成された構造、2本の軽鎖で形成された構造、1本の軽鎖と1本の重鎖で形成された構造、遊離のシステインと結合した1本の軽鎖で形成された構造、および2本の重鎖と1本の軽鎖で形成された構造を有する分子も、本明細書における抗体の定義に含まれる。このような広い定義に照らして、本発明の抗体バリアントも抗体に含まれる。したがって、本明細書における「医薬組成物中の(全)抗体分子」には、抗体とそのバリアントの両方が含まれ得る。
抗体としては、遺伝子組換え技術を用いて産生した組換え型抗体を用いることができる。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ、または抗体を産生する感作リンパ球等の抗体産生細胞からクローニングし、ベクターに組み込んで、これを宿主(宿主細胞)に導入し産生させることにより得ることができる。
本発明において、抗体は当業者に公知の方法により製造することができる。具体的には、目的とする抗体をコードするDNAを発現ベクターへ組み込む。その際、発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。その際には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。
これにより得られた抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、精製することができる。抗体の分離、精製は、通常の抗体の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。本発明の抗体および抗体バリアントの分離、精製については、例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせれば抗体を分離、精製することができる。例えば、クロマトグラフィーカラムを用いた分離、精製においては、陰イオン交換マトリックス、陽イオン交換マトリックス、抗ヒトIgG親和性マトリックス、およびプロテインLマトリックス等の種々のマトリックスを用いることができる。
特定の理論に限定されるものではないが、本発明の抗体バリアントは、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体分子(例えば、ネモリズマブ)の製造プロセス(例えば、精製工程)において生じた当該抗体分子の構造変化体であり得る。一局面において、本発明の抗体バリアントは、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体分子(例えば、ネモリズマブ)と比べて、少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、または3つ)のアミノ酸残基が変化している。一態様において、本発明の抗体バリアントは、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体分子(例えば、ネモリズマブ)と比べて、1つ以上3つ以下、すなわち、1つ、2つ、または3つのアミノ酸残基が変化している。特定の態様において、本発明の抗体バリアントは、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体分子(例えば、ネモリズマブ)と比べて、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)における少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、または3つ)のアミノ酸残基が変化している。特定の態様において、本発明の抗体バリアントは、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体分子(例えば、ネモリズマブ)と比べて、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)における1つ以上3つ以下、すなわち、1つ、2つ、または3つのアミノ酸残基が変化している。
別の局面において、本発明の抗体バリアントは、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体分子(例えば、ネモリズマブ)と比べて、SS結合(システイン残基同士の結合またはシステイン残基と遊離システインとの結合)の組み合わせが異なる。当該局面の一態様において、本発明の抗体バリアントは、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体分子(例えば、ネモリズマブ)と比べて、アミノ酸配列は同一であるが、SS結合(システイン残基同士の結合またはシステイン残基と遊離システインとの結合)の組み合わせが異なり、分子量も異なる。別の態様において、本発明の抗体バリアントは、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体分子(例えば、ネモリズマブ)と比べて、アミノ酸配列が異なり、かつSS結合(システイン残基同士の結合またはシステイン残基と遊離システインとの結合)の組み合わせが異なり、分子量も異なる
一局面において、本発明は、以下の特徴を有する抗体バリアントに関する:
・アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体(例えば、ネモリズマブ)の重鎖CDR内の1つまたは複数のアスパラギン酸(Asp)残基が、スクシンイミド(Asu)残基またはイソアスパラギン酸(isoAsp)残基に変化している;
・前記抗体(例えば、ネモリズマブ)に比べて、生物活性(IL-31受容体への結合によるIL-31シグナル伝達阻害活性)が極めて低い;
・アフィニティークロマトグラフィーによる前記抗体(例えば、ネモリズマブ)精製後の抗体含有溶液の次の工程までの保持時間(hold time)依存的に生成量が増加する。
このような特徴を有する抗体バリアントを、本明細書において、アスパラギン酸異性化バリアントまたはアスパラギン酸異性化体と称することがある。特定の態様において、前記抗体はネモリズマブであり、前記アミノ酸配列はネモリズマブの重鎖CDR3の配列である。
一態様において、本発明のアスパラギン酸異性化バリアントは、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体のバリアントであって、
(a)前記配列のN末端側から1番目の位置におけるアミノ酸残基D(Asp)
または
(b)前記配列のN末端側から4番目の位置におけるアミノ酸残基D(Asp)
または
(c)前記配列のN末端側から5番目の位置におけるアミノ酸残基D(Asp)
がスクシンイミド残基である抗体バリアント(本明細書において、スクシンイミド体もしくはAsu体と称することがある)、またはイソアスパラギン酸残基である抗体バリアント(本明細書において、イソアスパラギン酸体もしくはisoAsp体と称することがある)である。スクシンイミド体におけるスクシンイミド残基の位置は、好ましくは前記配列(配列番号3)のN末端側から1番目または5番目であり、特に好ましくは前記配列のN末端側から5番目である。
特定の態様において、本発明のアスパラギン酸異性化バリアントは、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体のバリアントであって、
(a2)前記配列のN末端側から1番目および5番目の位置におけるアミノ酸残基D(Asp)
または
(b2)前記配列のN末端側から4番目および5番目の位置におけるアミノ酸残基D(Asp)
または
(c2)前記配列のN末端側から1番目および4番目の位置におけるアミノ酸残基D(Asp)
がスクシンイミド(Asu)残基またはイソアスパラギン酸(isoAsp)残基である、抗体バリアントである。そのような抗体バリアントの例としては、前記アミノ酸配列(配列番号3)のN末端側から
1番目の位置がisoAsp残基であり、かつ5番目の位置がAsu残基である抗体バリアント;
1番目の位置がAsu残基であり、かつ5番目の位置がisoAspである抗体バリアント;
1番目および5番目の位置がAsu残基である抗体バリアント;
1番目および5番目の位置がisoAsp残基である抗体バリアント;
4番目の位置がisoAsp残基であり、かつ5番目の位置がAsu残基である抗体バリアント;
4番目の位置がAsu残基であり、かつ5番目の位置がisoAsp残基である抗体バリアント;
4番目および5番目の位置がAsu残基である抗体バリアント;
4番目および5番目の位置がisoAsp残基である抗体バリアント;
1番目の位置がisoAsp残基であり、かつ4番目の位置がAsu残基である抗体バリアント;
1番目の位置がAsu残基であり、かつ4番目の位置がisoAsp残基である抗体バリアント;
1番目および4番目の位置がAsu残基である抗体バリアント;または
1番目および4番目の位置がisoAsp残基である抗体バリアント
が挙げられ、好ましくは、
1番目および4番目の位置がisoAsp残基である抗体バリアント;
1番目および5番目の位置がisoAsp残基である抗体バリアント;
4番目および5番目の位置がisoAsp残基である抗体バリアント;
1番目の位置がisoAsp残基であり、かつ5番目の位置がAsu残基である抗体バリアント;
または
4番目の位置がisoAsp残基であり、かつ5番目の位置がAsu残基である抗体バリアント;
が挙げられる。
特定の態様において、前記抗体はネモリズマブであり、前記アミノ酸配列はネモリズマブの重鎖CDR3の配列である。
別の局面において、本発明は、アスパラギン酸異性化バリアントの検出方法および分析方法にも関する。一態様において、本発明の方法は、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体あるいは酵素処理された該抗体を含む試料を、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、電荷に基づく分離、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、またはそれらの組み合わせによって分離する工程を含む。特定の態様において、本発明の方法は、前記分離工程の前に、抗体を含む試料を酵素処理する工程を含む。抗体を含む試料を処理する酵素としては、トリプシン、Lys-Cが挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様において、本発明の方法は、酵素処理された前記抗体を含む試料を分離する前記工程に続いて、質量分析及び/または紫外吸収測定によってペプチドを同定及び/または定量する工程を含む。
本発明の方法において、配列番号3のアミノ酸配列を有するCDRにおけるアスパラギン酸の構造変化の有無を指標にして検出および分析することができる。当該構造変化は、例えば、LCMS分析における、当該構造変化に起因する分子量のシフトあるいは保持時間(retention time)のシフトを指標として検出することができる。あるいは、イオン交換クロマトグラフィーによる分離度の違いを指標として前記構造変化を検出することもでき、例えば陰イオン交換クロマトグラフィーにより分離した場合、本発明のアスパラギン酸異性化バリアントは、主成分であるネモリズマブの主要ピーク(Main peak)と比べて塩基性側の領域(主要ピークと比べて保持時間(retention time)が短い領域)にて分離される。
本発明の方法の一態様において、イオン交換クロマトグラフィーはアニオン(陰イオン)交換クロマトグラフィーである。一態様において、アニオン交換クロマトグラフィーは、内径4.6-7.5 mm、長さ35-150 mm、粒径2.5-10μmのカラムを、カラム温度25-50℃で用いて、pH6.0-10.0の移動相により溶出することを特徴とする。特定の態様において、アニオン交換クロマトグラフィーは、内径7.5 mm、長さ75 mm、粒径2.5μmのカラムを、カラム温度40℃で用いて、250 mmol/Lの塩化ナトリウムを含むpH7.5の移動相にて溶出することを特徴とする。
また、一態様において、本発明の方法は、(i)本発明のアスパラギン酸異性化バリアント、(ii)それを酵素消化して得られたisoAsp残基またはAsu残基を含有するペプチド、あるいは(iii)アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含むペプチドであって、当該配列のN末端側から1番目、4番目、および5番目の位置のうちの1つ、2つ、または3つにおけるアスパラギン酸(Asp、D)残基がスクシンイミド(Asu)残基またはイソアスパラギン酸(isoAsp)残基に変化したペプチドを標準品として使用し、定量分析、定性分析、および構造解析からなる群より選択される1つまたは複数の分析を行う工程を含む。(iii)のペプチドの例としては、配列番号3のアミノ酸配列のN末端側から1番目、4番目、および5番目の位置のうちの1つがAsu残基またはisoAsp残基に変化したペプチドが挙げられる。(iii)のペプチドの別の例としては、配列番号3のアミノ酸配列のN末端側から1番目、4番目、および5番目の位置のうちの2つがAsu残基またはisoAsp残基に変化したペプチドであって、
1番目の位置がisoAsp残基であり、かつ5番目の位置がAsu残基であるペプチド;
1番目の位置がAsu残基であり、かつ5番目の位置がisoAspであるペプチド;
1番目および5番目の位置がAsu残基であるペプチド;
1番目および5番目の位置がisoAsp残基であるペプチド;
4番目の位置がisoAsp残基であり、かつ5番目の位置がAsu残基であるペプチド;
4番目の位置がAsu残基であり、かつ5番目の位置がisoAsp残基であるペプチド;
4番目および5番目の位置がAsu残基であるペプチド;
4番目および5番目の位置がisoAsp残基であるペプチド;
1番目の位置がisoAsp残基であり、かつ4番目の位置がAsu残基であるペプチド;
1番目の位置がAsu残基であり、かつ4番目の位置がisoAsp残基であるペプチド;
1番目および4番目の位置がAsu残基であるペプチド;または
1番目および4番目の位置がisoAsp残基であるペプチド
が挙げられ、好ましくは、
1番目および4番目の位置がisoAsp残基であるペプチド;
1番目および5番目の位置がisoAsp残基であるペプチド;
4番目および5番目の位置がisoAsp残基であるペプチド;
1番目の位置がisoAsp残基であり、かつ5番目の位置がAsu残基であるペプチド;
または
4番目の位置がisoAsp残基であり、かつ5番目の位置がAsu残基であるペプチド;
が挙げられる。
別の局面において、本発明は、上記のような検出方法および分析方法のうちの1つまたはそれらの組み合わせを実施することによって、ネモリズマブを含有する医薬組成物の製造および品質管理を行うことができる。したがって、本発明は、上記のような検出方法および分析方法の実施、またはそれらの方法を組み合わせる工程を含む、ネモリズマブを含有する医薬組成物の品質管理方法に関する。また、本発明は、そのような検出方法、分析方法、および品質管理方法のうちの1つまたは複数を実施する工程を含む、ネモリズマブを含有する医薬組成物の製造方法にも関する。
本発明の製造方法においては、ネモリズマブを含む溶液を、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、電荷に基づく分離、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、またはそれらの組み合わせによって精製することによって、アスパラギン酸異性化バリアントの含有率が低い、ネモリズマブ含有医薬組成物を製造することができる。アスパラギン酸異性化バリアントの含有率が低い、そのようなネモリズマブ含有医薬組成物は、ネモリズマブが治療および/または予防効果を発揮する疾患、例えば、アトピー性皮膚炎、透析掻痒症および他の掻痒症の治療および/または予防のための手段として有用である。
一態様において、本発明の製造方法は、ネモリズマブをコードする遺伝子を組み込んだネモリズマブ産生細胞(例えば、CHO細胞)を培養する工程を含む。当該培養工程は、ネモリズマブ産生細胞(例えば、CHO細胞)の培養に適した当業者に公知の条件で実施することができ、例えば、市販の基礎培地(動物細胞培養用基礎培地)を用いることができる。
一態様において、本発明の製造方法は、ネモリズマブ産生細胞の培養液を遠心分離およびろ過してネモリズマブ含有溶液(Harvest Cell Culture Fluid:HCCF)を得る工程を含む。得られたネモリズマブ含有溶液からのネモリズマブ精製は、一般的なカラムクロマトグラフィー、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィーなどの組み合わせによって行うことができる。特定の態様において、本発明の製造方法は、ネモリズマブ産生細胞から得られたネモリズマブ含有溶液をアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー)によって精製する工程を含む。アフィニティークロマトグラフィーによる精製後の抗体含有溶液の次の工程までの保持時間(hold time)は、特に限定されないが、当該時間を短くすることによって、アスパラギン酸異性化バリアントの含有率を低減することができる。したがって、本発明の製造方法によって得られるネモリズマブ含有医薬組成物における抗体および抗体バリアントの生物活性を許容可能な程度に維持するためには、アフィニティークロマトグラフィーによる精製後の抗体含有溶液の次の工程までの保持時間を所定の範囲内(例えば、約138時間以内、約72時間以内、約48時間以内、または約24時間以内)とすることが好ましい。
別の局面において、本発明は、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体(例えば、ネモリズマブ)およびそのバリアント(例えば、アスパラギン酸異性化バリアント)を含む医薬組成物であって、該医薬組成物中の全抗体分子(前記抗体およびそのバリアントを含む)における該バリアントの割合が低く抑えられている、医薬組成物に関する。そのようなバリアントの割合が低く抑えられている本発明の医薬組成物は、アトピー性皮膚炎、透析掻痒症および他の掻痒症の治療および/または予防において好適に用いることができる。一態様において、本発明の医薬組成物は、アトピー性皮膚炎、透析掻痒症、および他の掻痒症のうちの少なくとも1つの治療および予防のうちの一方または両方に用いるための医薬組成物である。また、本発明は、本発明の医薬組成物を投与する工程を含む、アトピー性皮膚炎、透析掻痒症、および他の掻痒症のうちの少なくとも1つを治療または予防する方法にも関する。
一態様において、本発明の医薬組成物は、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー)による精製を含む精製工程により得られる。前述の通り、例えば、前記抗体(例えば、ネモリズマブ)を含む抗体溶液をプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにて精製した後の抗体含有溶液の次の工程までの保持時間(例えば、18~28℃または18~23℃、好ましくは、室温、18℃、または23℃での保持時間)を短く設定することにより、得られた組成物中の全抗体分子におけるアスパラギン酸異性化バリアントの割合を低く抑えることができる。
本発明の医薬組成物中の抗体分子におけるアスパラギン酸異性化バリアントの割合は、上記のアスパラギン酸異性化バリアント検出/分析方法を含む種々の方法によって評価することができる。抗体等のタンパク質の分析方法としては、例えば、酵素消化等によりタンパク質をペプチド断片へと分解し、それを種々のクロマトグラフィーで分離して質量分析や紫外吸収測定を行うことで、タンパク質のアミノ酸配列や翻訳後修飾の情報を得るペプチドマッピング法が知られている。本願の実施例にも記載されているように、本発明のアスパラギン酸異性化バリアントの構造および含量をペプチドマッピング法によって分析することができる。
一態様において、本発明の医薬組成物中の抗体分子におけるアスパラギン酸異性化バリアントの割合は、本発明の医薬組成物の酵素消化により得られるアスパラギン酸異性化バリアント由来のスクシンイミド残基含有ペプチド及びイソアスパラギン酸残基含有ペプチドの、当該バリアント由来ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチド(スクシンイミド残基またはイソアスパラギン酸残基への修飾部位がアスパラギン酸であり、他は当該バリアント由来ペプチドと同じアミノ酸配列を有する未修飾ペプチド)の合計に対する割合(本明細書においては、ペプチド単位でのアスパラギン酸異性化バリアントの割合と称することもある)によって表すことができる。消化酵素として、例えば、トリプシン、Lys-C等を用いることができる。本発明の医薬組成物中のペプチド単位でのイソアスパラギン酸体(isoAsp体)の割合(ペプチド単位でのアスパラギン酸体との比較における割合)は、例えば、25%以下、20%以下、15%以下、または9.4%以下である。また、本発明の医薬組成物中のペプチド単位でのスクシンイミド体(Asu体)の割合(ペプチド単位でのアスパラギン酸体との比較における割合)は、例えば、25%以下、20%以下、15%以下、または9.8%以下である。
また、本願の実施例6に記載しているように、酵素消化後により得られるアスパラギン酸異性化バリアント由来のスクシンイミド残基含有ペプチド及びイソアスパラギン酸残基含有ペプチドの、当該バリアント由来ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチド(スクシンイミド残基またはイソアスパラギン酸残基への修飾部位がアスパラギン酸であり、他は当該バリアント由来ペプチドと同じアミノ酸配列を有する未修飾ペプチド)の合計に対する割合(ペプチド単位でのアスパラギン酸異性化バリアントの割合)は、陰イオン交換クロマトグラフィー(AE-HPLC)でのアスパラギン酸異性化バリアント溶出ピーク群のピーク面積の、全ピーク面積に対する割合(ピークエリア比率)と相関性がある(図3)。したがって、本発明の医薬組成物中の抗体分子におけるアスパラギン酸異性化バリアントの割合は、本発明の医薬組成物を陰イオン交換クロマトグラフィー(AE-HPLC)で分析した際のスクシンイミド体(Asu体)やイソアスパラギン酸体(isoAsp体)が溶出するピーク群を総合したピーク面積の、全ピーク面積に対する割合(ピークエリア比率)によって表すことができる。この評価方法は、ペプチドマッピング法による検出/分析と比べてスループット性が高く、ネモリズマブの品質管理において有利である。
一態様において、本発明の医薬組成物を陰イオン交換クロマトグラフィー(AE-HPLC)で分析した際のイソアスパラギン酸体(isoAsp体)およびスクシンイミド体(Asu体)の溶出画分は、本発明の医薬組成物の主成分であるネモリズマブを含む主要ピークと比べて塩基性側の領域(主要ピークと比べて保持時間(retention time)が短い領域)であり、本明細書においてはPre-Regionと称することもある。この領域(Pre-Region)に含まれる8つのピークを含む領域のうち、ネモリズマブを含む主要ピークに近い3つのピークを含む領域(本明細書においてはPre-Region 1と称することもある)にてイソアスパラギン酸体(isoAsp体)が主に溶出し、残り5つのピークを含む領域(本明細書においてはPre-Region 2と称することもある)にてスクシンイミド体(Asu体)が主に溶出する。したがって、陰イオン交換クロマトグラフィー(AE-HPLC)を用いる本発明の分析方法によって評価した場合、本発明の医薬組成物中の全抗体分子におけるイソアスパラギン酸体(isoAsp体)、スクシンイミド体(Asu体)の割合(抗体単位での割合)は、それぞれPre-Region 1、Pre-Region 2のピーク面積の割合で表すことができる。
一態様において、陰イオン交換クロマトグラフィー(AE-HPLC)を用いる本発明の分析方法によって評価した場合の本発明の医薬組成物中の全抗体分子におけるイソアスパラギン酸体(isoAsp体)の割合(Pre-Region 1の面積割合)は、例えば、50.2 area%以下、40.3 area%以下、30.4 area%以下、または19.3 area%以下である。一態様において、陰イオン交換クロマトグラフィー(AE-HPLC)を用いる本発明の分析方法によって評価した場合の本発明の医薬組成物中の全抗体分子におけるスクシンイミド体(Asu体)の割合(Pre-Region 2の面積割合)は、例えば、36.6 area%以下、29.1 area%以下、21.6 area%以下、または13.8 area%以下である。
さらに、本願の実施例6に記載しているように、ペプチド単位でのアスパラギン酸異性化バリアントの割合を元に、二項分布に基づいて理論的な抗体単位でのアスパラギン酸異性化バリアントの最大割合を計算することができる。
ペプチド単位でのアスパラギン酸異性化バリアントの割合を元に計算した、本発明の医薬組成物中の抗体分子におけるイソアスパラギン酸体(isoAsp体)の、当該isoAsp体および修飾を受けていない抗体の合計に対する割合(抗体単位での割合)は、例えば、43.8%以下、36.0%以下、27.8%以下、または17.9%以下である。また、本発明の医薬組成物中の抗体分子における、2本の重鎖がisoAsp残基を含有するisoAsp体の抗体単位での割合は、例えば、6.3%以下、4.0%以下、2.3%以下、または0.9%以下である。本発明の医薬組成物中の抗体分子における、2本のうち1本の重鎖がisoAsp残基を含有するisoAsp体の抗体単位での割合は、例えば、37.5%以下、32.0%以下、25.5%以下、または17.0%以下である。
同様に、本発明の医薬組成物中の抗体分子におけるスクシンイミド体(Asu体)の、当該Asu体および修飾を受けていない抗体の合計に対する割合(抗体単位での割合)は、例えば、43.8%以下、36.0%以下、27.8%以下、または18.7%以下である。また、本発明の医薬組成物中の抗体分子における、2本の重鎖がAsu残基を含有するAsu体の、当該Asu体および修飾を受けていない抗体の合計に対する割合は、例えば、6.3%以下、4.0%以下、2.3%以下、または1.0%以下である。本発明の医薬組成物中の抗体分子における、2本のうち1本の重鎖がAsu残基を含有するAsu体の、当該Asu体および修飾を受けていない抗体の合計に対する割合は、例えば、37.5%以下、32.0%以下、25.5%以下、または17.7%以下である。
別の局面において、本発明は、アスパラギン酸異性化バリアントの含有率が低く抑えられた医薬組成物の製造方法、およびアスパラギン酸異性化バリアントの生成を抑制する方法に関する。アスパラギン酸異性化バリアントの生成量は、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体(例えば、ネモリズマブ)を含む抗体含有溶液をアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー)にて精製した後の抗体含有溶液の次の工程までの保持時間(hold time)を短く設定することにより、低く抑えることができる。したがって、上記方法は、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体(例えば、ネモリズマブ)を産生する細胞から得られた抗体含有組成物をアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー)により精製する工程を含み、当該アフィニティークロマトグラフィーによる精製後の抗体含有溶液の次の工程までの保持時間が短いことを特徴とする。一態様において、アフィニティークロマトグラフィーによる精製後の抗体含有溶液の次の工程までの保持時間(例えば、18~28℃または18~23℃、好ましくは、室温、18℃、または23℃での保持時間)は、約138時間以内、例えば、約72時間以内、約48時間以内、約24時間以内であり、好ましくは約48時間以内であり、より好ましくは約24時間以内である。
別の局面において、本発明は、抗体含有組成物の精製方法であって、抗体含有組成物(例えば、抗体産生細胞の培養液を遠心分離およびろ過して得たHCCF(Harvest Cell Culture Fluid))をアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー)により精製する工程を含む、精製方法に関する。当該方法の一態様において、抗体は、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体である。特定の態様において、抗体はネモリズマブである。当該方法の一態様において、アフィニティークロマトグラフィーによる精製後の抗体含有溶液の次の工程までの保持時間(例えば、18~28℃または18~23℃、好ましくは、室温、18℃、または23℃での保持時間)は、約138時間以内、例えば、約72時間以内、約48時間以内、約24時間以内であり、好ましくは約72時間以内、より好ましくは約48時間以内、さらにより好ましくは約24時間以内である。
別の局面において、本発明は、以下の構造のうちいずれかを有する抗体バリアントに関する:
(1) ネモリズマブの重鎖におけるEUナンバリング224位のシステイン同士で結合した、2本の重鎖で形成された構造(HH dimer);
(2) ネモリズマブの軽鎖におけるEUナンバリング214位のシステイン同士で結合した、2本の軽鎖で形成された構造(LL dimer);
(3) ネモリズマブの軽鎖におけるEUナンバリング214位のシステインと、ネモリズマブの重鎖におけるEUナンバリング224位のシステインが結合し、さらに重鎖のEUナンバリング227位及び230位のシステインが1本の重鎖内で結合した、1本の軽鎖と1本の重鎖で形成された構造(HL体);
(4) ネモリズマブの軽鎖におけるEUナンバリング214位のシステインと遊離のシステインが結合した、1本の軽鎖で形成された構造(Cysteinylated light chain);または
(5) ネモリズマブの2本の重鎖と1本の軽鎖から構成されており、2本の重鎖がEUナンバリング227位及び230位の2箇所のシステイン同士でそれぞれ結合し、さらに1本目の重鎖におけるEUナンバリング224位のシステインが軽鎖におけるEUナンバリング214位のシステインと結合し、さらに2本目の重鎖におけるEUナンバリング224位のシステインが遊離のシステインと結合した構造(Cysteinylated HHL体)。
このような構造を有する抗体バリアントは、2本の重鎖と2本の軽鎖から構成されるネモリズマブよりも小さな分子量を有する低分子量バリアント(LMWS:Low molecular weight species)であり、本明細書においてネモリズマブの低分子量バリアントと称することもある。さらに別の局面において、本発明は、ネモリズマブおよびその低分子量バリアント(LMWS)を含む医薬組成物であって、該医薬組成物中の全抗体分子における該低分子量バリアントの割合が低く抑えられている(例えば、当該割合が11.0 CPA(Corrected Peak Area)%以下である)、医薬組成物に関する。
別の局面において、本発明は、ネモリズマブの重鎖におけるKabatナンバリング55位のアスパラギンが脱アミド化している抗体バリアント、および該抗体バリアントを含む医薬組成物に関する。一態様において、当該医薬組成物を酵素消化した後の当該抗体バリアント由来の脱アミド化含有ペプチドの、該脱アミド化含有ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチドの合計に対する割合は2.0%以下である。
本明細書において用いる場合、「・・・を含む(comprising)」との表現により表される態様は、「本質的に・・・からなる(essentially consisting of)」との表現により表される態様、ならびに「・・・からなる(consisting of)」との表現により表される態様を包含する。
本明細書に記載の数値は、例えば機器、測定条件、当業者の手技に起因して、一定の範囲内で変動し得るものであり、本発明の目的を達成できる範囲内であれば、例えば10%程度変動することはあり得る。
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書に参照として取り込まれる。
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、下記の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕アニオン交換高速液体クロマトグラフィー(AE-HPLC)法によるネモリズマブ含有溶液の分離
〔1.1〕ネモリズマブ含有溶液の調製
WO2010/064697にも記載されている抗ヒトIL-31RA抗体であるネモリズマブ(別名CIM331;H鎖、配列番号9;L鎖、配列番号10)を、前記特許文献の記載に従って、当業者公知の方法で作製した。簡潔に述べると、ネモリズマブをコードする遺伝子が導入されたベクターを含む宿主細胞を培養する工程、および培養工程で得られたネモリズマブを含む溶液を精製する工程を含む方法により、ネモリズマブ含有溶液(原薬)を作製した。また、この原薬を用いて、WO2021/100794に記載されている方法によりネモリズマブ製剤を作製した。
〔1.2〕アニオン交換高速液体クロマトグラフィーによるネモリズマブ含有溶液の分離
ネモリズマブを含有する溶液をとり,移動相Aを加えてネモリズマブとして0.5 mg/mL(ネモリズマブおよびそのバリアントの合計濃度)になるよう調製し,試料溶液とした。移動相Aを空試験液とした。試料溶液及び空試験液20μL(TSK DEAE NPR(内径4.6 mm,長さ35 mm,粒径2.5 μm)及び塩濃度勾配条件1を使用した場合は10μL)につき,次の条件でアニオン交換高速液体クロマトグラフィーによる分離試験を行った。
〔試験条件〕
検出器:紫外可視吸光光度計(測定波長280 nm)
カラム:TSK DEAE NPR(内径4.6 mm,長さ35 mm,粒径2.5 μm)、TSK DEAE NPR(内径7.5 mm,長さ75 mm,粒径2.5 μm)又はそれらの同等品
ガードカラム:TSK guard column DEAE NPR(内径4.6 mm,長さ5 mm,粒径5.0 μm)
カラム温度:40℃ 付近の一定温度
移動相 A:25 mmol/L Tris 緩衝液,pH 7.5 ± 0.1
移動相 B:250 mmol/L 塩化ナトリウムを含む25 mmol/L Tris 緩衝液,pH 7.5 ± 0.1
流量:1.0 mL/min
移動相の送液:移動相 A 及び移動相 B の混合比を次のように変えて濃度勾配制御した。
Figure 2023159309000001
Figure 2023159309000002
カラムとしてTSK DEAE NPR(内径4.6 mm,長さ35 mm,粒径2.5 μm)を用い、上記濃度調整条件1で分離を行った結果、図1Aに示すクロマトグラムが得られた。一方、カラムとしてTSK DEAE NPR(内径7.5 mm,長さ75 mm,粒径2.5 μm)を用い、上記濃度調整条件2で分離を行った結果、図1Bに示すクロマトグラムが得られた。
図1A~Bに示すように、Main peakを含むMain Regionよりも保持時間(retention time)が早い(保持時間が短い)領域(Main Regionよりも低塩濃度で溶出された画分を含む領域)をPre-Region、Main Regionよりも保持時間が遅い(保持時間が長い)領域(Main Regionよりも高塩濃度で溶出された画分を含む領域)をPost-Regionと定義した。また、Pre-Region中の各ピークを、Main Regionに近い順(すなわち保持時間が遅い順)にb1~b8ピークと定義し、Post-Region中の各ピークを、Main Regionに近い順(すなわち保持時間が早い順)にa1~a6ピークと定義した。Pre-Regionについては、保持時間が遅い順にPre-Region 1(b1~b3ピークを含む領域)とPre-Region 2(b4~b8ピークを含む領域)に分けて定義した。
図1Aと図1Bを比べたところ、図1Bの方がb1ピークとMain peakの分離が良好であった。そこで、以下の分離試験では、図1Bの条件(カラム:TSK DEAE NPR(内径7.5 mm,長さ75 mm,粒径2.5 μm)、塩濃度勾配条件:表2)を用いた。
図1Bに示すPre-Region 1, Pre-Region 2, Post-Regionの各ピークに含まれるネモリズマブのバリアントの情報を以下の表3にまとめた。表3に記載されている生物活性は、実施例5に記載されているように評価した結果である。
Figure 2023159309000003
HC: heavy chain; LMWS: low molecular weight species; HMWS: high molecular weight species
〔実施例2〕Pre-Region 2におけるアスパラギン酸異性化バリアント(isoAsp体及びスクシンイミド体)の評価
実施例1に記載のカラム及び移動相にて分離・取得した各ピークを含む画分を、塩化グアニジウムを含むpH5.5の変性剤溶液で希釈した後、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンにて還元を行った。その後、2-モルホリノエタンスルホン酸及び尿素を含むpH5.5の消化緩衝液にバッファー交換を行った後、トリプシンにて消化反応を行った。
得られた消化反応溶液にギ酸を加え、逆相高速液体クロマトグラフィーに注入し分離を行い、質量分析器にてペプチドの同定及びペプチド単位での修飾割合の算出を行った。ペプチド単位での関心対象の修飾の割合は、MSクロマトグラムにおけるピーク面積から求め、これをペプチド単位での関心対象のバリアントの割合とした。MSクロマトグラム上で、未修飾のペプチドのピークに一部のisoAsp残基を含むペプチドのピークがオーバーラップすることが確認されたため、ペプチド単位での修飾割合は、以下の計算式により求めた。

ペプチド単位での修飾割合(%)=(関心対象の修飾されたペプチド*1のピーク面積)÷{(関心対象の修飾されたペプチドのピーク面積)+(関心対象の修飾されたペプチドに対応する未修飾のペプチド*2のピーク面積)-(一部のisoAsp残基を含むペプチドのピーク面積)}× 100
(*1: アスパラギン酸異性化バリアントに由来するisoAsp残基含有ペプチドまたはスクシンイミド残基含有ペプチドを指す)
(*2: 修飾されたペプチドにおける修飾箇所以外は修飾されたペプチドと同じアミノ酸配列を有する、修飾を受けていないNative体のペプチドのことを指す)
解析の結果、全てのAE-HPLCのピークのうち、Pre-Region 2の一部のピークであるb8ピークを含む画分において、最も高いレベルのスクシンイミド残基含有ペプチドが検出された。具体的には、b8ピークにおけるAsp103(Kabatナンバリング99位のAsp残基)のスクシンイミド残基(Asu103)への変化(修飾)が54.0%の割合で検出された。一方で、Asp99(Kabatナンバリング95位のAsp残基)のスクシンイミド残基への修飾率は低く(2.7%)、またAsp102(Kabatナンバリング98位のAsp残基)のスクシンイミド残基への修飾、及びAsp99, Asp102, Asp103のisoAsp残基への修飾は検出されなかった(Not detected)。
Figure 2023159309000004
このように、実施例1に記載のカラム及び移動相にて分離・取得した、主成分であるネモリズマブが含まれるMain peak (Asu99及びAsu102: Not detected, Asu103: 3.4%))に比べ、アスパラギン酸異性化バリアント(Asu体)はPre-Region 2にて主に溶出することが確認された。
〔実施例3〕Pre-Region 1におけるアスパラギン酸異性化バリアント(isoAsp体及びスクシンイミド体)の評価
実施例2と同様に、実施例1に記載のカラム及び移動相にて分離・取得した各ピークを含む画分を塩化グアニジウムを含むpH5.5の変性剤溶液で希釈した後、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンにて還元を行った。その後、2-モルホリノエタンスルホン酸及び尿素を含むpH5.5の消化緩衝液にバッファー交換を行った後、トリプシンにて消化反応を行った。
得られた消化反応溶液にギ酸を加え、逆相高速液体クロマトグラフィーに注入し分離を行い、質量分析器にてペプチドの同定及びペプチド単位での修飾割合の算出を行った。ペプチド単位での関心対象の修飾の割合は、MSクロマトグラムにおけるピーク面積から求め、これをペプチド単位での関心対象のバリアントの割合とした。MSクロマトグラム上で未修飾のペプチドのピークに一部のisoAsp残基を含むペプチドのピークがオーバーラップすることが確認されたため、ペプチド単位での修飾割合は、以下の計算式により求めた。

ペプチド単位での修飾割合(%)=(関心対象の修飾されたペプチド*1のピーク面積)÷{(関心対象の修飾されたペプチドのピーク面積)+(関心対象の修飾されたペプチドに対応する未修飾のペプチド*2のピーク面積)-(一部のisoAsp残基を含むペプチドのピーク面積)}× 100
(*1: アスパラギン酸異性化バリアントに由来するisoAsp残基含有ペプチドまたはスクシンイミド残基含有ペプチドを指す)
(*2: 修飾されたペプチドにおける修飾箇所以外は修飾されたペプチドと同じアミノ酸配列を有する、修飾を受けていないNative体のペプチドのことを指す。)
IsoAsp体としては、理論的には以下の3種類の構造体(上段はAsp99におけるisoAsp残基への修飾、中段はAsp102におけるisoAsp残基への修飾、下段はAsp103におけるisoAsp残基への修飾)が考えられるが、これらのうち、どのAsp部位にて実際に異性体化が起こっているかは特定されていない。構造の変化に伴い分子量が変化する場合は、ペプチドマップによるタンデム質量分析(MSMS解析)により、構造が変化したアミノ酸部位を特定することが可能であるが、isoAspはAspと同じ分子量を有していることから、MSMSによる前記特定が難しいためである。
Figure 2023159309000005
解析の結果、全てのAE-HPLCのピークのうち、Pre-Region 1の一部のピークであるb1ピークを含む画分において、最も高いレベルのisoAsp残基含有ペプチドが検出された(11.6%及び2.7%の2種類のisoAsp残基含有ペプチド)。また、b1ピークにおけるAsp99のスクシンイミド残基への変化(Asu99)の割合は1.1%、Asp102のスクシンイミド残基への変化(Asu102)は0.2%、Asp103のスクシンイミド残基への変化(Asu103)は4.7%だった。
このように、実施例1に記載のカラム及び移動相にて分離・取得した、主成分であるネモリズマブが含まれるMain peak (Asp99, Asp102, Asp103のいずれかにおけるisoAsp残基への修飾が0.5%)に比べ、アスパラギン酸異性化バリアント(isoAsp体)はPre-Region 1にて主に溶出することが確認された。
〔実施例4〕Pre-Region 1におけるLow molecular weight species(LMWS)の評価
〔4.1〕Non-reduced LC-ESI-MSによる評価
実施例1に記載のカラム及び移動相にて分離・取得した各ピークを含む画分を、0.1%ギ酸にて希釈した後、高速液体クロマトグラフィーに注入し脱塩カラムにて脱塩後、質量分析器にてLMWSの特定を行った。
その結果、Pre-Region 1の一部のピークであるb2,b3ピークにHH dimer及びLL dimerが含まれていることが特定された。
〔4.2〕Non-reduced tryptic peptide mapping評価
実施例1に記載のカラム及び移動相にて分離・取得した各ピークを含む画分を塩化グアニジウムを含むpH7.0の変性剤溶液で希釈し変性処理を行った。その後、ヨード酢酸にてシステイン側鎖のキャッピングを行い、トリス、尿素、EDTAを含むpH7.0の消化緩衝液にバッファー交換を行い、トリプシンにて消化反応を行った。得られた消化反応溶液にギ酸を加え、逆相高速液体クロマトグラフィーに注入し分離を行い、質量分析器にてペプチドの同定を行った。結果、HH dimerは、通常軽鎖のC214とジスルフィド結合を形成する重鎖のC224が、重鎖間同士で結合した構造を有していることが特定された。また、LL dimerは、通常重鎖のC224とジスルフィド結合を形成する軽鎖のC214が、軽鎖間同士で結合した構造を有していると推定された(図2)。
〔4.3〕Non-reduced CE-SDS評価
実施例1に記載のカラム及び移動相にて分離・取得した各ピークを含む画分を0.1 mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液にバッファー置換した後、N-エチルマレイミドを含むSDS溶液と混和、加熱し変性及びシステイン側鎖のキャッピングを行った。そののち、液にシアン化カリウム及びFQ-dyeを含む色素反応液を加え、加熱を行い蛍光色素によるラベリングを行った。得られた液にSDS溶液を加え、キャピラリ電気泳動-SDSによる分析を行った。
その結果、b2,b3ピークにおけるHH dimer及びLL dimerの含量はそれぞれ18.4 CPA(Corrected Peak Area)%及び8.6 CPA%であった。
〔実施例5〕アスパラギン酸異性化バリアント(isoAsp体及びスクシンイミド体)の生物活性の評価
IL-31依存的に増殖するBaF/hIL-31R細胞(ヒトIL-31Rを発現させたBaF細胞)の増殖阻害活性を測定することにより、各バリアントの生物学的活性を評価した。
具体的には、実施例1に記載のカラム及び移動相にて分離・取得した各ピークを含む画分に、IL-31を含むFBS・RPMI培地を加えて各種濃度の希釈液を調製した。希釈液を96穴マイクロプレートの各ウェルにそれぞれ添加し、BaF/hIL-31R細胞懸濁液を各ウェルに添加した後に37℃のCO2インキュベータにて24時間培養した。その後、ろ過したalamarBlueを加え、さらに37℃のCO2インキュベータにて3時間培養した後にマイクロプレートリーダーにより吸光度(OD570-OD600)を測定した。
その結果、Main peakを基準にした(Main peak: 100%とノーマライズした)とき、b8ピークの生物活性はMain peakに対して21%であり、b8ピークに主に含まれているスクシンイミド体 (54.0 %相当のAsu103変化体) の生物活性は著しく減弱していることが示された。
また、b1ピーク(isoAsp体の含有量が11.6%)の生物活性はMain peakに対して41%と減弱していることが示された。本isoAsp体におけるAsp異性化は、CDRにおける化学変化であるため、生物活性に影響することが強く示唆される。 (Harris RJ. Heterogeneity of recombinant antibodies: linking structure to function. Dev Biol (Basel) 2005; 122:117-27; Dick, LWJ, et al, Identification and measurement of isoaspartic acid formation in the complementarity determining region of a fully human monoclonal antibody. J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci, 2009;877:3841-9)
〔実施例6〕AE-HPLCがアスパラギン酸異性化バリアント(isoAsp体及びスクシンイミド体)の管理分析法となることの確認
ネモリズマブを発現する宿主細胞の培養工程で得られたネモリズマブを含む溶液の精製工程中、生産培養後の遠心分離・ろ過によるハーベスト工程後(HCCF)及びそれに続くプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによる精製工程の後(Affinity pool)の抗体含有溶液の次の工程までの保持時間(各精製工程後のサンプル保持時間)がアスパラギン酸異性化バリアント(isoAsp体及びスクシンイミド体)の含量に与える影響を確認するため、各種サンプル(HCCF(23℃, 0/72時間保持後)、Affinity pool (23℃, 0/24/48/72/138時間保持後))のisoAsp体及びスクシンイミド体の含量を確認した。未修飾体と比較したバリアントの含量は、実施例2および実施例3と同様に、各サンプルのトリプシンによる消化およびHPLCによる分離を行い、その後、MS分析によるMS強度を用いた定量化を行うことにより、ペプチド単位で求めた。ペプチド単位でのバリアントの含量は、以下の計算式により求めた。

ペプチド単位でのバリアントの含量(強度%)=(関心対象の修飾されたペプチド*1のMS強度*2)÷{(関心対象の修飾されたペプチドのMS強度)+(関心対象の修飾されたペプチドに対応する未修飾のペプチド*3のMS強度)}× 100
(*1: アスパラギン酸異性化バリアントに由来するisoAsp残基含有ペプチドまたはスクシンイミド残基含有ペプチドを指す)
(*2: MS強度は、当該ペプチド由来のMSスペクトルの強度。)
(*3: 修飾されたペプチドにおける修飾箇所以外は修飾されたペプチドと同じアミノ酸配列を有する、修飾を受けていないNative体のペプチドのことを指す。)

結果、Affinity poolにおいて、アスパラギン酸異性化バリアント(isoAsp体及びスクシンイミド体)が時間依存的に有意に増加する現象が認められた(表4)。
また、上記サンプル(HCCF(23℃, 0/72時間保持後)、Affinity pool (23℃, 0/24/48/72/138時間保持後))を、実施例1と同様にAE-HPLCにより分離し、HPLCクロマトグラムにおける各領域の面積割合を求めた。これらの分析により得られた、ペプチド単位でのisoAsp体含量とAE-HPLCのPre-Region 1の面積割合、及びペプチド単位でのスクシンイミド体含量とAE-HPLCのPre-Region 2の面積割合の相関性をそれぞれ確認したところ、isoAsp体含量に関してはPre-Region 1の面積割合と相関があることが見いだされた(図3)。また、スクシンイミド体の含量に関してはPre-Region 2の面積割合と相関があることが見いだされ(図3)、AE-HPLCがこれらバリアントの含量の管理分析法となることが示された。
また、Affinity poolでの1時間当たりのPre-Region 2の面積増加率は0.0552 area%/h、Pre-Region 1の面積増加率は0.0448 area%/hであり(表4)、時間当たりの面積増加率が高く、ネモリズマブの品質担保の上では、アフィニティークロマトグラフィーによる精製工程後、次の工程までの適切なサンプル保持時間の設定が重要であることがわかった。
Figure 2023159309000006
〔実施例7〕原薬の製造においてアスパラギン酸異性化バリアント(isoAsp体及びスクシンイミド体)の生成を抑制する方法
〔7.1〕Pre-Region 1
ネモリズマブ製剤の有効期間内規格は、臨床実績、生物活性、PK、安全性及び免疫原性へ予想される影響に基づき、AE-HPLCのPre-Region 1の面積割合19.3%以下と設定した。IsoAsp体は抗体医薬に一般的に認められる修飾体であり、安全性及び免疫原性への影響は低いと考えられた。生物活性に関しては、b1ピークがCIM331標準物質(ネモリズマブ)に対し45%と低い生物活性を有していることが認められた(表3)。しかし、AE-HPLCのPre-Region 1の面積割合19.3%までの増加は、製剤全体の生物活性には重大な影響を与えないと考えられた。
次に、ネモリズマブ製剤の長期安定性試験から36カ月保管によるPre-Region 1の増加量を推定した。結果、保存期間(M)及びPre-Region 1の面積割合(area%)に関して得られた、Slopeの95%信頼区間上限値は0.154 area%/Mであり、よって36Mまでに増加する面積割合は5.5 area%と推定された(0.154 area%/M ×36 M = 5.544 area%)。そのため、原薬の出荷規格は、当該面積割合13.8 area%(19.3%-5.5%)以下と設定された。また、前述のとおり、Affinity poolでの1時間当たりのPre-Region 1の面積増加率は0.0448 area%/hであり(表4)、精製工程において最も面積増加率が高く、品質担保の上ではAffinity poolの適切な保持時間(hold time)の設定が重要であることがわかった。これら安定性の結果から、適切な品質を担保するためには、Affinity pool(18℃-28℃)での保持時間は24時間(1.08 area%相当の増加幅)以内が好ましいことがわかった。
上記のように、ペプチド単位でのisoAsp体含量をX軸とし、AE-HPLCのPre-Region 1の面積割合をY軸としてプロットされたデータ(図3)をもとに、近似直線を得た。得られた近似直線を用い、Pre-Region 1の面積割合19.3%に対応するペプチド単位での総isoAsp体含量を計算したところ、isoAsp体と、isoAsp残基及びAsu残基への修飾を受けていない対応する未修飾ペプチド(isoAsp残基及びAsu残基への修飾部位がアスパラギン酸であり、他はisoAsp体と同じアミノ酸配列を有する未修飾ペプチド)との合計に対する割合として9.4%と導くことができた。このペプチド単位での含量を元に、二項分布による以下の式により、理論的な抗体単位でのisoAsp体の最大含量*1を計算した。
*1: Asu体が0%の時に相当する。

ペプチド単位での含量:X (%) <9.4%>
両重鎖がisoAsp残基への異性化を受けたisoAsp体:X2 < (0.094)2 x 100 = 0.00883 → 0.88%>
両重鎖が修飾を受けていないNative体:(1-X)2 <(1-0.094) x (1-0.094) = 0.8208 → 82.1%>
片方の重鎖がisoAsp残基への異性化を受けたisoAsp体:X(1-X) + (1-X)X = 2X(1-X) <2 x 0.094 x (1-0.094) = 0.1703 → 17.0%>
したがって、ペプチド単位での総isoAsp体の含量9.4%(AE-HPLCのPre-Region 1の面積割合19.3%)は、最大含量として2本の重鎖がisoAsp残基を含有するisoAsp体:0.88%と、2本のうち1本の重鎖がisoAsp残基を含有するisoAsp体:17.0%とを合算した抗体単位での総isoAsp体の含量:17.9%に相当することが分かった。
〔7.2〕Pre-Region 2
ネモリズマブ製剤の有効期間内規格は、臨床実績、生物活性、PK、安全性及び免疫原性へ予想される影響に基づき、AE-HPLCのPre-Region 2の面積割合13.8%以下と設定した。Asu体は抗体医薬に一般的に認められる修飾体であり、安全性及び免疫原性への影響は低いと考えられた。生物活性に関しては、b8ピークがCIM331標準物質(ネモリズマブ)に対し23%と低い生物活性を有していることが認められた(表3)。しかし、 AE-HPLCのPre-Region 2の面積割合13.8%までの増加は、製剤全体の生物活性には重大な影響を与えないと考えられた。
次に、ネモリズマブ製剤の長期安定性試験から36カ月保管によるPre-Region 2の増加量を推定した。結果、保存期間(M)及びPre-Region 2の面積割合(area%)に関して得られた、Slopeの95%信頼区間上限値は0.123 area%/Mであり、よって36Mまでに増加する面積割合は4.4 area%と推定された(0.123 area%/M ×36 M = 4.428 area%)。そのため、原薬の出荷規格は、当該面積割合9.4 area%(13.8%-4.4%)以下と設定された。また、前述のとおり、Affinity poolでの1時間当たりのPre-Region 2の面積増加率は0.0552 area%/hであり(表4)、精製工程において最も面積増加率が高く、品質担保の上ではAffinity poolの適切な保持時間(hold time)の設定が重要であることがわかった。これら安定性の結果から、適切な品質を担保するためには、Affinity pool(18℃-28℃)での保持時間は24時間(1.32 area%相当の増加幅)以内が好ましいことがわかった。
上記のように、ペプチド単位でのAsu体含量をX軸とし、AE-HPLCのPre-Region 2の面積割合をY軸としてプロットされたデータ(図3)をもとに、近似直線を得た。得られた近似直線を用い、Pre-Region 2の面積割合13.8%に対応するペプチド単位での総Asu体含量を計算したところ、Asu体と、isoAsp残基及びAsu残基への修飾を受けていない対応する未修飾ペプチド(isoAsp残基及びAsu残基への修飾部位はアスパラギン酸であり、他はAsu体と同じアミノ酸配列を有する未修飾ペプチド)との合計に対する割合として9.8%と導くことができた。このペプチド単位での含量を元に、二項分布による以下の式により、理論的な抗体単位でのAsu体の最大含量*1を計算した。
*1: isoAsp体が0%の時に相当する。

ペプチド単位での含量:X (%) <9.8%>
両重鎖がAsu残基への異性化を受けたAsu体:X2 < (0.098)2 x 100 = 0.00960 → 0.96%>
両重鎖が修飾を受けていないNative体:(1-X)2 <(1-0.098) x (1-0.098) = 0.8136 → 81.4%>
片方の重鎖がAsu残基への異性化を受けたAsu体:2X(1-X) <2 x 0.098 x (1-0.098) = 0.1767 → 17.7%>
したがって、ペプチド単位での総Asu体の含量9.8%(AE-HPLCのPre-Region 2の面積割合13.8%)は、最大含量として2本の重鎖がAsu残基を含有するAsu体:0.96%と、2本のうち1本の重鎖がAsu残基を含有するAsu体:17.7%とを合算した抗体単位での総Asu体の含量:18.6%に相当することが分かった。
〔実施例8〕Post-RegionにおけるCDR内deamidation体の評価
実施例1に記載のカラム及び移動相にて分離・取得した各ピークを含む画分を塩化グアニジウムを含むpH7.0の変性剤溶液で希釈した後、ジチオスレイトールにて還元を行った。その後、ヨード酢酸にてシステイン側鎖のキャッピングを行い、トリス、尿素、EDTAを含むpH7.0の消化緩衝液にバッファー交換を行い、トリプシンにて消化反応を行った。得られた消化反応溶液にギ酸を加え、逆相高速液体クロマトグラフィーに注入し分離を行い、質量分析器にてペプチドの同定及びバリアントの定量を行った。
その結果、全てのAE-HPLCのピークのうち、Post-Regionの一部のピークであるa6ピークを含む画分において、ネモリズマブ重鎖のCDR内Asn55でのdeamidationが14.9%という最も高いレベルを示した。当該ピークにおけるdeamidationのレベルが低かったため、生物活性測定によって直接的にAsn55でのdeamidationによる生物活性への影響を評価することはできなかったが、CDRは抗原との結合に重要な役割を果たしていることから、CDR内でのAsn55でのdeamidationは生物活性に影響することが強く示唆される。
Harris, R.J., et al., Identification of multiple sources of charge heterogeneity in a recombinant antibody. J Chromatogr B Biomed Sci Appl, 2001. 752(2): p. 233-45
Yan B, Steen S, Hambly D, et al. Succinimide formation at Asn 55 in the complementarity determining region of a recombinant monoclonal antibody IgG1 heavy chain. J Pharm Sci 2009; 98:3509-21.
Qi P, Volkin DB, Zhao H, et al. Characterization of the photodegradation of a human IgG1 monoclonal antibody formulated as a high-concentration liquid dosage form. J Pharm Sci 2009; 98:3117-30
さらに、40℃にて12週間保存した原薬を同様の手法により分析したところ、40℃にて12週間保存した原薬でも、上記deamidationの含量はペプチド単位で1.6%であり、また30℃における製剤の保管中においてもその含量は大きくは増加しないことが推定された(例えば、ペプチド単位で1.6%)。
〔実施例9〕Post-RegionにおけるLMWSの評価
〔9.1〕Non-reduced LC-ESI-MSによる評価
実施例1に記載のカラム及び移動相にて分離・取得した各ピークを含む画分を0.1%ギ酸にて希釈した後、高速液体クロマトグラフィーに注入し脱塩カラムにて脱塩後、質量分析器にてLMWSの特定を行った。
その結果、Post-Regionの一部のピークであるa2, a3ピークを含む画分にはHL体が、a1ピークを含む画分にはCysteinylated light chain及びCysteinylated HHL体が含まれていることが特定された。
〔9.2〕Non-reduced tryptic peptide mappingによる評価
実施例1に記載のカラム及び移動相にて分離・取得した各ピークを含む画分を塩化グアニジウムを含むpH7.0の変性剤溶液で希釈し変性処理を行った。その後、ヨード酢酸にてシステイン側鎖のキャッピングを行い、トリス、尿素、EDTAを含むpH7.0の消化緩衝液にバッファー交換を行い、トリプシンにて消化反応を行った。得られた消化反応溶液にギ酸を加え、逆相高速液体クロマトグラフィーに注入し分離を行い、質量分析器にてペプチドの同定を行った。
その結果、a2, a3ピークに含まれているHL体は1本の重鎖内のCys227とCys230がジスルフィド結合を形成している構造であると結論付けられた(図4)。
一方で、a1ピークに含まれているCysteinylated light chain及びCysteinylated HHL体のCysteinylation部位の特定には至らなかったものの、図5に記載の構造体であると推定された。
〔9.3〕Non-reduced CE-SDSによる評価
実施例1に記載のカラム及び移動相にて分離・取得した各ピークを含む画分を0.1 mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液にバッファー置換した後、N-エチルマレイミドを含むSDS溶液と混和しシステイン側鎖のキャッピングを行った。そののち、液にシアン化カリウム及びFQ-dyeを含む色素反応液を加え、蛍光色素によるラベリングを行った。得られた液にSDS溶液を加え、キャピラリ電気泳動-SDSによる分析を行った。
その結果、a2, a3ピークを含む画分におけるHL体の含量は16.7 CPA%、a1ピークを含む画分におけるCysteinylated light chainの含量は14.5 CPA%であることが特定された。
〔実施例10〕LMWSの管理
〔10.1〕Low molecular weight speciesの評価法 (CE-SDS)
ネモリズマブの原薬および製剤をそれぞれ0.1 mol/Lのリン酸ナトリウム緩衝液にバッファー置換した後、N-エチルマレイミドを含むSDS溶液と混和しシステイン側鎖のキャッピングを行った。そののち、液にシアン化カリウム及びFQ-dyeを含む色素反応液を加え、蛍光色素によるラベリングを行った。得られた液にSDS溶液を加え、キャピラリ電気泳動-SDS(CE-SDS)にて分離をおこない、ネモリズマブの原薬および製剤の主成分(ネモリズマブ)よりも短い移動時間を有するピーク群を、ネモリズマブよりも小さな分子量を有するピーク群と定義した。このピーク群を、LMWSの管理分析法での評価対象と設定した。
〔10.2〕Low molecular weight speciesの含量管理 (CE-SDS)
ネモリズマブ製剤の有効期間内規格は、臨床実績、生物活性、PK、安全性及び免疫原性へ予想される影響に基づき、CE-SDSにより分析されるLMWS(AE-HPLCによるb2,b3ピークを含む画分およびa1, a2, a3ピークを含む画分にて特定されたLMWSを含む)の含量は11.0 CPA%以下と設定した。製剤の安定性試験ではLMWS含量の増加が認められなかったため、原薬及び製剤の出荷規格も同様に11.0 CPA%以下と設定された。
本発明者らは、ネモリズマブと比べて生物活性が低い抗体バリアント、およびその分析方法を見出した。本発明の抗体バリアントおよび分析方法は、ネモリズマブの原薬および製剤の品質評価に有用である他、本発明の抗体バリアントの含有率が抑えられたネモリズマブ製剤の開発や、本発明の抗体バリアントの生成を抑制する方法の開発において有用である。また、ネモリズマブを含み且つ本発明の抗体バリアントの含有率が低く抑えられた本発明の医薬組成物は、アトピー性皮膚炎、透析掻痒症および他の掻痒症の治療および/または予防のための手段として有用である。

Claims (31)

  1. アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体のバリアントであって、
    (a)前記配列のN末端側から1番目の位置におけるアミノ酸残基D、
    (b)前記配列のN末端側から4番目の位置におけるアミノ酸残基D、または
    (c)前記配列のN末端側から5番目の位置におけるアミノ酸残基D
    がスクシンイミド残基またはイソアスパラギン酸残基である、抗体バリアント。
  2. 前記配列がCDR配列である、請求項1に記載の抗体バリアント。
  3. 前記配列が重鎖に含まれる配列である、請求項1に記載の抗体バリアント。
  4. アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する前記抗体が、
    (1)配列番号1に記載のCDR1、配列番号2に記載のCDR2、および配列番号3に記載のCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに、配列番号4に記載のCDR1、配列番号5に記載のCDR2、および配列番号6に記載のCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、
    (2)配列番号7に記載の重鎖可変領域、および、配列番号8に記載の軽鎖可変領域を含む抗体、または
    (3)配列番号9に記載の重鎖、および、配列番号10に記載の軽鎖を含む抗体
    のいずれかである、請求項1に記載の抗体バリアント。
  5. アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する前記抗体がネモリズマブである、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体バリアント。
  6. 陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて分離した場合に、アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する前記抗体よりも保持時間(retention time)が短い、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体バリアント。
  7. アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する前記抗体よりも生物活性が低い、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体バリアント。
  8. 請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体バリアントを含む、医薬組成物。
  9. 請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体バリアントを含む医薬組成物であって、該医薬組成物中のイソアスパラギン酸残基含有抗体バリアントの、該抗体バリアントおよび修飾を受けていない抗体の合計に対する割合が36%以下であり、かつ/あるいは酵素消化後の該医薬組成物中の該抗体バリアント由来のイソアスパラギン酸残基含有ペプチドの、該イソアスパラギン酸残基含有ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチドの合計に対する割合が20%以下である、医薬組成物。
  10. 請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体バリアントを含む医薬組成物であって、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて該医薬組成物を分離した場合の全ピーク面積に対する、イソアスパラギン酸残基含有抗体バリアント含有ピークの面積の割合が40.3 area%以下である、医薬組成物。
  11. 請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体バリアントを含む医薬組成物であって、該医薬組成物中のスクシンイミド残基含有抗体バリアントの、修飾を受けていない抗体に対する割合が36%以下であり、かつ/もしくは酵素消化後の該医薬組成物中の該抗体バリアント由来のスクシンイミド残基含有ペプチドの、該スクシンイミド残基含有ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチドの合計に対する割合が20%以下である、医薬組成物。
  12. 請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体バリアントを含む医薬組成物であって、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて該医薬組成物を分離した場合の全ピーク面積に対する、イソアスパラギン酸残基含有抗体バリアント含有ピークの面積の割合が29.1 area%以下である、医薬組成物。
  13. ネモリズマブを含む、請求項8~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
  14. アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体あるいは酵素処理された該抗体を含む試料を、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、電荷に基づく分離、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、またはそれらの組み合わせによって分離する工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体バリアントの検出方法。
  15. 前記イオン交換クロマトグラフィーがアニオン交換クロマトグラフィーであることを特徴とする、請求項14に記載の検出方法。
  16. 前記アニオン交換クロマトグラフィーが、内径4.6-7.5 mm、長さ35-150 mm、粒径2.5-10 μmのカラムを、カラム温度25-50℃で用いて、pH6.0-10.0の移動相により溶出することを特徴とする、請求項15に記載の検出方法。
  17. 酵素処理された前記抗体を含む試料を分離する前記工程に続いて、質量分析及び/または紫外吸収測定によってペプチドを定量する工程を含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の検出方法。
  18. 請求項14~17のいずれか一項に記載の検出方法を実施する工程を含む、ネモリズマブを含有する組成物の製造方法。
  19. ネモリズマブを含有する組成物の製造方法であって、ネモリズマブを含む溶液を、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、電荷に基づく分離、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、またはそれらの組み合わせによって精製する工程を含む、製造方法。
  20. 前記精製する工程が、ネモリズマブ産生細胞から得られたネモリズマブ含有組成物をアフィニティークロマトグラフィーによって精製することを含む、請求項19に記載の製造方法。
  21. 前記アフィニティークロマトグラフィーによる精製後のネモリズマブ含有溶液の保持時間(hold time)が72時間以内であることを特徴とし、該保持時間がより長い場合と比べて組成物中の請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体バリアントの含有率が低い、請求項20に記載の製造方法。
  22. アミノ酸配列DGYDDGPYTLET(配列番号3)を含む可変領域を有する抗体を産生する細胞から得られた抗体含有組成物をアフィニティークロマトグラフィーにより精製する工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体バリアントの含有率を抑制する方法。
  23. 前記アフィニティークロマトグラフィーによる精製後のネモリズマブ含有溶液の保持時間が72時間以内であることを特徴とし、該保持時間がより長い場合と比べて組成物中の請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体バリアントの含有率が低い、請求項22に記載の方法。
  24. ネモリズマブの重鎖におけるEUナンバリング224位のシステイン同士で結合した、2本の重鎖で形成された構造を有していることを特徴とする、ネモリズマブの抗体バリアント。
  25. ネモリズマブの軽鎖におけるEUナンバリング214位のシステイン同士で結合した、2本の軽鎖で形成された構造を有していることを特徴とする、ネモリズマブの抗体バリアント。
  26. ネモリズマブの軽鎖におけるEUナンバリング214位のシステインと、ネモリズマブの重鎖におけるEUナンバリング224位のシステインが結合し、さらに重鎖のEUナンバリング227位及び230位のシステインが1本の重鎖内で結合した、1本の軽鎖と1本の重鎖で形成された構造を有していることを特徴とする、ネモリズマブの抗体バリアント。
  27. ネモリズマブの軽鎖におけるEUナンバリング214位のシステインと遊離のシステインが結合した、1本の軽鎖で形成された構造を有していることを特徴とする、ネモリズマブの抗体バリアント。
  28. ネモリズマブの2本の重鎖と1本の軽鎖から構成されており、2本の重鎖がEUナンバリング227位及び230位の2箇所のシステイン同士でそれぞれ結合し、さらに1本目の重鎖におけるEUナンバリング224位のシステインが軽鎖におけるEUナンバリング214位のシステインと結合し、さらに2本目の重鎖におけるEUナンバリング224位のシステインが遊離のシステインと結合した構造を有していることを特徴とする、ネモリズマブの抗体バリアント。
  29. 請求項24~28のいずれか一項に記載の抗体バリアントを含む医薬組成物であって、該医薬組成物中の全抗体分子における該抗体バリアントの割合が11.0 CPA%以下である、医薬組成物。
  30. ネモリズマブ重鎖Kabat番号55位におけるアスパラギンが脱アミド化していることを特徴とする、ネモリズマブの抗体バリアント。
  31. 請求項30に記載の抗体バリアントを含む医薬組成物であって、該医薬組成物を酵素消化した後の該抗体バリアント由来の脱アミド化含有ペプチドの、該脱アミド化含有ペプチドおよび対応する修飾を受けていないペプチドの合計に対する割合が2.0%以下である、医薬組成物。
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