JP2023156825A - 金属結合相の表面欠乏深さの算出方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】選択腐食がなされた後の欠乏層内において、硬質粒子間にわずかに金属結合相が残存することによって、界面でなだらかに変化する金属結合相量を効率的に算出して、非破壊で腐食深さを正しく算出することを可能とする、金属結合相の表面欠乏深さの算出方法を提供する。【解決手段】超硬合金母体の組成と、その超硬合金母体を工具に加工して金属結合相を選択腐食した後で上面から特性X線分析で計測した組成と、選択腐食された金属結合相の欠乏領域で硬質粒子間にわずかに残存する金属結合相の組成と、特性X線分析で特性X線が放出されることにより計測される分析深さの4つの情報から、金属結合相の欠乏深さを算出する。【選択図】図5
Description
本発明は、超硬工具を構成する超硬合金に含まれる硬質粒子相と金属結合相のうち、超硬合金の表面において金属結合相のみを選択腐食するにあたって、金属結合相の表面欠乏深さを算出する方法に関する。
切断工具として用いられる超硬工具の特性の向上に関して、近年、硬質粒子相と金属結合相からなる超硬合金のうち、金属結合相を工具表面から除去し、硬質粒子相のみをその表面に残して工具として使用することによって、その特性が向上することが、特許文献1において報告されている。
この金属結合相の除去に際して、化学エッチングや物理エッチングがその手段として用いられる。例えば特許文献2では、王水や硝酸溶液での表面金属結合相の除去プロセスが開示されている。
上述したように、金属結合相を化学エッチングや物理エッチングの方法で選択除去すると、その表面は、特定の使用環境において、耐摩耗性、耐電圧性、潤滑性等が改善することがわかっている。しかし、硬質粒子相の割合が高い超硬合金の金属結合相を表面からエッチングで除去していくと、金属結合相は、硬質粒子相を網の目状に残して、トンネル状に選択腐食が進んでいく。
図1(a)は、腐食前の表面を走査型電子顕微鏡で撮影したものであり、図1(b)に腐食後の表面の硬質粒子1と金属結合相2を示しているが、触針式の表面粗さ計で計っても、数μmオーダーの硬質粒子の隙間をプローブが下降することに関して、プローブの応答性には限界があるうえに、さらに網目状に深く入った腐食深さを正しく計測することはほぼ不可能である。
図2は、このような腐食の断面の様子を模式的に表したものである。超硬工具を構成する超硬合金に含まれる硬質粒子1と金属結合相2のうち、金属結合相2のみを選択腐食する。図2において、研磨後の平滑表面3と、金属結合相2の選択腐食後の表面4を示しているが、硬質粒子密着部に残存する金属結合相5が存在している。
このような腐食深さを測る数少ない方法の一つは、イオンビームを用いて作製された断面試料の観察であるが、これは製品の破壊検査に当たるため、測定時間とそのコストを考えると量産製品の品質保証には使いづらい測定方法である。
欠乏深さを測定するために、電子顕微鏡に付随する分析機器やX線測定装置を用いても、界面でなだらかに変化する金属結合相量を定量値で表現することには、大きな困難を伴う。
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、選択腐食がなされた後の欠乏層内において、硬質粒子間にわずかに金属結合相が残存することによって、界面でなだらかに変化する金属結合相量を効率的に算出して、非破壊で腐食深さを正しく算出することを可能とする、金属結合相の表面欠乏深さの算出方法を提供することを目的とする。
以上の課題を解決するために、本発明は、超硬工具を構成する超硬合金に含まれる硬質粒子相と金属結合相のうち、超硬合金の表面において金属結合相のみを選択腐食する際に、金属結合相の欠乏深さを特性X線分析により算出することを特徴とする金属結合相の表面欠乏深さの算出方法である。
また、本発明においては、前記選択腐食における金属結合相の欠乏深さは、超硬合金母体の組成と、その超硬合金母体を工具に加工して金属結合相を選択腐食した後で上面から特性X線分析で計測した組成と、選択腐食された金属結合相の欠乏領域で硬質粒子間にわずかに残存する金属結合相の組成と、特性X線分析で特性X線が放出されることにより計測される分析深さの4つの情報から算出することができる。
これにより、選択腐食がなされた後の欠乏層内において、硬質粒子間にわずかに金属結合相が残存することによって、界面でなだらかに変化する金属結合相量を効率的に算出して、非破壊で腐食深さを正しく算出することが可能となる。なお、選択腐食の深さは、強度保持の観点から、硬質粒子の平均粒径と同程度の深さとすることを前提としている。
本発明によると、選択腐食がなされた後の欠乏層内において、硬質粒子間にわずかに金属結合相が残存することによって、界面でなだらかに変化する金属結合相量を効率的に算出して、非破壊で腐食深さを正しく算出することを可能とする、金属結合相の表面欠乏深さの算出方法を実現することができる。
以下に、本発明に係る金属結合相の表面欠乏深さの算出方法を、その実施形態に基づいて説明する。
本発明は、超硬工具を構成する超硬合金に含まれる硬質粒子相と金属結合相のうち、超硬合金の表面において金属結合相のみを選択腐食する際に、金属結合相の欠乏深さを特性X線分析により算出するものであり、より詳細には、超硬合金母体の組成と、その超硬合金母体を工具に加工して金属結合相を選択腐食した後で上面から特性X線分析で計測した組成と、選択腐食された金属結合相の欠乏領域で硬質粒子間にわずかに残存する金属結合相の組成と、特性X線分析で特性X線が放出されることにより計測される分析深さの4つの情報から、金属結合相の欠乏深さを算出するものである。
図3は、超硬合金製工具の表面の金属結合相の選択腐食後の断面と、その際の金属結合相の主成分であるCO量の変化を模式的に示したものである。選択腐食がなされた後の欠乏層内では、硬質粒子間にわずかに金属結合相が残存するために、CO量は完全にゼロとはならない値で変動を持って推移する。金属結合相が腐食によって除去された領域から、未反応の領域ではなだらかなCO量の遷移が起きており、この領域で欠乏深さを定義する必要がある。
そこで本発明者は、図4に示す直線的な成分変化を仮定し、金属結合相の欠乏深さを定義することとした。母体のCO量をm1、硬質粒子間に残る少量のCO量をm2とし、m2、m1はそれぞれ一定値、m2からm1への遷移は、図4に示すように、直線的な変化が起きるものと仮定する。
この直線的な変化が起きるCO量の遷移位置を、金属結合相の欠乏深さdと定義する。これらの定義と、特性X線分析で照射するX線が計測する分析深さD、実際に特性X線分析で測定したCo量mxを用いて、Co量の質量保存で等式を作ると、以下の式(1)が得られる。
式(1)を欠乏深さdで解けば、式(2)が得られる。
ここで、硬質粒子間に残る金属結合相の濃度は、あらかじめ、走査型電子顕微鏡に付属する分析方法等でその残分を推定しておく必要がある。また分析深さは、使用する特性X線分析装置のX線強度と、分析される超硬合金の組成で定まる。
特性X線分析装置とは、エネルギー分散型特性X線分析装置(EDS)や、波長分散型特性X線分析装置(WDS)などを指す。いずれの装置も、試料表面から放出される特性X線を検出することにより、試料の化学組成を測定する装置であり、EDSは特性X線のエネルギーを測定するものであり、WDSは特性X線の波長を測定するものである。
EDSは、特性X線の反応領域が、深さ方向に数μmと比較的浅い一方、WDSは10μmを超える分析深さを有している。本発明においては、被分析素材が数μm程度の硬質粒子径を持つことを考えると、複数粒子分の深さが測定できる波長分散型特性X線分析装置(WDS)の方が、より望ましい分析装置であると言える。
このような単純化された定義の欠乏深さではあるが、この欠乏深さは算術上、一義的に定まるものであり、またCo量の遷移領域と必ず交わるために、取り決めとして仕様書などにうたう場合に、大変扱いやすい定義となる。またこの測定方法は非破壊であるために、直接的に出荷検査に用いることが可能になり、同時に異常時の原因分析に用いることもできる。
図5に、以上説明した、超硬合金中の表面金属結合相の欠乏深さ測定方法のフローチャートを示す。
上述したように、超硬合金母体の組成m1、これと同一の母体を工具に加工し、金属結合相を選択腐食した後で上面から特性X線分析で計測した組成mx、選択腐食された金属結合相の欠乏領域で硬質粒子間にわずかに残存する金属結合相の組成m2、および特性X線分析で特性X線が放出されることにより計測する分析深さDの4つの情報から、金属結合相の欠乏深さdを算出することが可能となる。このようにして得られる腐食深さは、実際には境界があいまいな腐食前面の深さを非破壊で一義的に定義できる。
上述したように、超硬合金母体の組成m1、これと同一の母体を工具に加工し、金属結合相を選択腐食した後で上面から特性X線分析で計測した組成mx、選択腐食された金属結合相の欠乏領域で硬質粒子間にわずかに残存する金属結合相の組成m2、および特性X線分析で特性X線が放出されることにより計測する分析深さDの4つの情報から、金属結合相の欠乏深さdを算出することが可能となる。このようにして得られる腐食深さは、実際には境界があいまいな腐食前面の深さを非破壊で一義的に定義できる。
以下に、金属結合相の欠乏深さdについて、計算値と実測値との比較についての試験内容と、その結果について説明する。
図6に、欠乏深さ算出のためのフローチャートを示す。
ここでは、粒子径が異なる3つの材種(細粒、中粒、粗粒)を対象とし、それぞれの平均粒径は、細粒が0.6~1.0μm、中粒が2.0~4.0μm、粗粒が5.0μm以上である。
図6に、欠乏深さ算出のためのフローチャートを示す。
ここでは、粒子径が異なる3つの材種(細粒、中粒、粗粒)を対象とし、それぞれの平均粒径は、細粒が0.6~1.0μm、中粒が2.0~4.0μm、粗粒が5.0μm以上である。
細粒、中粒、粗粒のそれぞれについてサンプルを製作し、エッチング処理前のサンプルについて、波長分散型特性X線分析装置(WDS)とエネルギー分散型特性X線分析装置(EDS)により成分分析して、母相の金属結合相量を同定し、これを未処理の計算基準値として用いる。
その後、サンプルをエッチング処理して、エッチング処理されたサンプルの成分分析を行い、処理後の金属結合相量を同定する。この処理済みサンプルの断面をイオンビームミリングで加工し、金属結合相が欠乏している深さをSEMで実測し、これを用いて、細粒、中粒、粗粒ごとに、WDSとEDSについての分析深さDを算出する。
金属結合相が欠乏している深さをSEMで実測した欠乏深さ分析を行ったところ、その平均値は、細粒で0.14μm、中粒で0.85μm、粗粒で1.29μmであった。欠乏深さの測定は、数か所について実測を行い、その平均値とした。この際の処理液濃度は10.0wt%とし、処理時間は、細粒で60秒、中粒で60秒、粗粒で100秒とした。
これに基づいて得られる分析深さDは、細粒について、WDSで4.0μm、EDSで0.6μmであり、中粒について、WDSで6.0μm、EDSで1.6μmであり、粗粒について、WDSで6.5μm、EDSで2.8μmであった。この分析深さDに基づいて、細粒、中粒、粗粒のそれぞれについて、金属結合相の欠乏深さdを求める式を決定する。
以上説明した分析深さDの決定に使用していないサンプルについて、金属結合相の欠乏深さdを、WDS分析とEDS分析により算出するとともに、分析深さDの決定に使用していないサンプルの断面をイオンビームミリングで加工し、金属結合相が欠乏している深さをSEMで実測する。このようにして得られた計算値と実測値との比較を行った。
次に、図6に示すフローチャートに記載の方法で定めた分析深さDを用いて、計算により求めた欠乏深さdと、その実測値との比較について説明する。
図7から図9に、欠乏深さdの計算値と実測値の対比を示す。図7(a)は、細粒についてのWDSでの結果であり、図7(b)は、細粒についてのEDSでの結果である。図8(a)は、中粒についてのWDSでの結果であり、図8(b)は、中粒についてのEDSでの結果である。また、図9(a)は、粗粒についてのWDSでの結果であり、図9(b)は、粗粒についてのEDSでの結果である。なお、図7から図9における処理深さは、欠乏深さと同意である。
図7から図9に、欠乏深さdの計算値と実測値の対比を示す。図7(a)は、細粒についてのWDSでの結果であり、図7(b)は、細粒についてのEDSでの結果である。図8(a)は、中粒についてのWDSでの結果であり、図8(b)は、中粒についてのEDSでの結果である。また、図9(a)は、粗粒についてのWDSでの結果であり、図9(b)は、粗粒についてのEDSでの結果である。なお、図7から図9における処理深さは、欠乏深さと同意である。
計算による欠乏深さは、細粒については、WDSで0.14μm、EDSで0.12μmであり、中粒については、WDSで0.71μm、EDSで0.68μmであり、粗粒については、WDSで1.32μm、EDSで1.31μmであった。
一方、実測欠乏深さの平均値は、細粒については、0.12μm、中粒については、0.79μm、粗粒については、1.24μmであった。実測欠乏深さの平均値は、サンプルの断面をイオンビームミリングで加工し、金属結合相が欠乏している深さをSEMで数か所について実測を行い、その平均値である。図10は、細粒についてSEMにより欠乏深さの実測を行った図である。図11は、中粒についてSEMにより欠乏深さの実測を行った図である。図12は、粗粒についてSEMにより欠乏深さの実測を行った図である。測定の結果、計算値と実測値のとの差は、細粒については、WDSで0.02μm、EDSで0.00μmであり、中粒については、WDSで0.08μm、EDSで0.11μmであり、粗粒については、WDSで0.08μm、EDSで0.07μmであった。
上述した欠乏深さの計算値と実測値との差の評価について、以下に説明する。
欠乏深さの計算値と実測値との差は、細粒、中粒、粗粒のいずれの場合についても、硬質粒子の粒子径の半分以下となっている。硬質粒子の粒子径の半分という数値は、硬質粒子が脱落するか否かを定める境界値であると認識でき、欠乏深さの計算値と実測値との差が硬質粒子の粒子径の半分を超えると、選択腐食を行うにあたって、超硬工具の機能に悪影響を与えることになる。しかし、試験結果によると、欠乏深さの計算値が、実測値に対して硬質粒子の粒子径の半分よりも極めて小さい差しか生じないことから、本発明による欠乏深さの計算値の算出手法は極めて有効であることを確認できた。
欠乏深さの計算値と実測値との差は、細粒、中粒、粗粒のいずれの場合についても、硬質粒子の粒子径の半分以下となっている。硬質粒子の粒子径の半分という数値は、硬質粒子が脱落するか否かを定める境界値であると認識でき、欠乏深さの計算値と実測値との差が硬質粒子の粒子径の半分を超えると、選択腐食を行うにあたって、超硬工具の機能に悪影響を与えることになる。しかし、試験結果によると、欠乏深さの計算値が、実測値に対して硬質粒子の粒子径の半分よりも極めて小さい差しか生じないことから、本発明による欠乏深さの計算値の算出手法は極めて有効であることを確認できた。
本発明は、選択腐食がなされた後の欠乏層内において、硬質粒子間にわずかに金属結合相が残存することによって、界面でなだらかに変化する金属結合相量を効率的に算出して、非破壊で腐食深さを正しく算出することを可能とする、金属結合相の表面欠乏深さの算出方法として、超硬工具の加工の分野において広く利用することができる。
1 硬質粒子
2 金属結合相
3 研磨後の平滑表面
4 金属結合相の選択腐食後の表面
5 硬質粒子密着部に残存する金属結合相
2 金属結合相
3 研磨後の平滑表面
4 金属結合相の選択腐食後の表面
5 硬質粒子密着部に残存する金属結合相
Claims (2)
- 超硬工具を構成する超硬合金に含まれる硬質粒子相と金属結合相のうち、超硬合金の表面において金属結合相のみを選択腐食する際に、金属結合相の欠乏深さを特性X線分析により算出することを特徴とする金属結合相の表面欠乏深さの算出方法。
- 前記選択腐食における金属結合相の欠乏深さは、超硬合金母体の組成と、その超硬合金母体を工具に加工して金属結合相を選択腐食した後で上面から特性X線分析で計測した組成と、選択腐食された金属結合相の欠乏領域で硬質粒子間にわずかに残存する金属結合相の組成と、特性X線分析で特性X線が放出されることにより計測される分析深さの4つの情報から算出することを特徴とする請求項1記載の金属結合相の表面欠乏深さの算出方法。
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Cited By (1)
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CN117483739A (zh) * | 2023-11-06 | 2024-02-02 | 郑州机械研究所有限公司 | 一种出刃高度可控的硬质合金串珠及其制备方法和应用 |
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2022
- 2022-04-13 JP JP2022066419A patent/JP2023156825A/ja active Pending
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