JP2023155547A - 燃料電池システム - Google Patents
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Abstract
【課題】低温での燃料電池システムの始動時において、濡らし運転から暖機運転への移行時にセルの電圧が負電圧となることを抑制する。
【解決手段】燃料電池システムは、燃料電池と、燃料電池に供給されるエアの圧力値を計測する圧力センサと、圧力センサの計測圧力値が伝達される制御部であって、少なくとも燃料電池におけるエアの入り口要求圧力値を算出し、燃料電池の運転を制御する制御部と、を備える。制御部は、燃料電池システムの始動時において、燃料電池に濡らし運転を行わせ算出された要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値が、5kPa未満になった場合に、燃料電池を濡らし運転から、より発電効率の高い暖機運転に移行させる。
【選択図】図2
【解決手段】燃料電池システムは、燃料電池と、燃料電池に供給されるエアの圧力値を計測する圧力センサと、圧力センサの計測圧力値が伝達される制御部であって、少なくとも燃料電池におけるエアの入り口要求圧力値を算出し、燃料電池の運転を制御する制御部と、を備える。制御部は、燃料電池システムの始動時において、燃料電池に濡らし運転を行わせ算出された要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値が、5kPa未満になった場合に、燃料電池を濡らし運転から、より発電効率の高い暖機運転に移行させる。
【選択図】図2
Description
本開示は、燃料電池システムに関する。
氷点下では、燃料電池車両に搭載された燃料電池中の水分が凍結することによって、燃料電池中のガス流路が閉塞する場合がある。このため、燃料電池システム稼働時または停止時に、燃料電池中の水分量を減少させる掃気処理を行う。掃気処理によりセルの高分子膜が過度に乾燥すると、イオン伝導率が低下するために発電性能が低下する。そこで、燃料電池システム始動時には、特許文献1に記載されているように、エアの流入を通常時より減少させ、小さい発電効率で燃料電池を発電させる暖機運転を行うことで、セルを適切な温度まで昇温させるとともに、化学反応により生成した水分をセルに供給する。
しかし、エアの流入口から最も遠いセルは、掃気による乾燥に加えて、暖機運転時にエアが届きにくいため、発電により十分な生成水量を得られない場合がある。また、燃料電池システムがモジュールとして提供される場合、利用環境によってはエア配管が交換され、エア配管の容積がモジュール出荷時(初期設置時)よりも増大する。このため、燃料電池に供給されるエアの圧力が不足し、最も遠いセルまでエアが届かず、過乾燥状態が発生する頻度が高まる。過乾燥状態のセルが存在する状態で発電を行うと、当該セルで電圧が反転し負電圧となるおそれがある。負電圧は、燃料電池の性能を低下させるだけでなく、燃料電池の破損を招く場合もあるので、セルの過乾燥を抑止する技術が求められる。
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
本開示の一形態によれば、燃料電池システムが提供される。この燃料電池システムは、燃料電池と、前記燃料電池に供給されるエアの圧力値を計測する圧力センサと、前記圧力センサの計測圧力値が伝達される制御部であって、少なくとも前記燃料電池におけるエアの入り口要求圧力値を算出し、前記燃料電池の運転を制御する制御部と、を備える。前記制御部は、前記燃料電池システムの始動時において、前記燃料電池に濡らし運転を行わせ、算出された前記要求圧力値から前記計測圧力値を差し引いた圧力値が、5kPa未満になった場合に、前記燃料電池を前記濡らし運転から、より発電効率の高い暖機運転に移行させる。
この形態の燃料電池システムによれば、燃料電池の濡らし運転中に、算出された要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値が、5kPa未満になった場合に、燃料電池を濡らし運転から、より発電効率の高い暖機運転に移行させている。これにより、燃料電池のエア入り口から最も遠いセルにも十分にエアが届いた状態で、濡らし運転から、より発電効率の高い暖機運転への移行が行われる。したがって、エア入り口から最も遠いセルにおいても、発電により水が生成され、セルの乾燥状態が解消されるので、セルが負電圧となることを抑制することができる。また、モジュールとして燃料電池システムが提供され、エア配管の容積がモジュール出荷時(初期設置時)よりも増大する場合であっても、燃料電池のエア入り口から最も遠いセルにも十分にエアが届いた状態で、濡らし運転から、より発電効率の高い暖機運転への移行が行われる。したがって、セルが負電圧となることを抑制することができる。
本開示は、種々の形態で実現することも可能である。例えば、燃料電池システムの運転の移行の制御処理、かかる処理を実現するためのコンピュータプログラム、またはかかるプログラムを記憶する記憶媒体等の形態で実現することができる。
この形態の燃料電池システムによれば、燃料電池の濡らし運転中に、算出された要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値が、5kPa未満になった場合に、燃料電池を濡らし運転から、より発電効率の高い暖機運転に移行させている。これにより、燃料電池のエア入り口から最も遠いセルにも十分にエアが届いた状態で、濡らし運転から、より発電効率の高い暖機運転への移行が行われる。したがって、エア入り口から最も遠いセルにおいても、発電により水が生成され、セルの乾燥状態が解消されるので、セルが負電圧となることを抑制することができる。また、モジュールとして燃料電池システムが提供され、エア配管の容積がモジュール出荷時(初期設置時)よりも増大する場合であっても、燃料電池のエア入り口から最も遠いセルにも十分にエアが届いた状態で、濡らし運転から、より発電効率の高い暖機運転への移行が行われる。したがって、セルが負電圧となることを抑制することができる。
本開示は、種々の形態で実現することも可能である。例えば、燃料電池システムの運転の移行の制御処理、かかる処理を実現するためのコンピュータプログラム、またはかかるプログラムを記憶する記憶媒体等の形態で実現することができる。
A.第1実施形態:
A1.装置構成:
図1は、本開示の一実施形態としての燃料電池システム100の概略構成を示すブロック図である。燃料電池システム100は、例えば燃料電池自動車(Fuel Cell Electric Vehicle,FCEV)に搭載され、負荷90の要求電力および外部給電の要求電力を出力する。負荷90は、駆動力源である走行モータやその他の燃料電池車両内の補機類および電装品等を含む。燃料電池システム100は、燃料電池10と、カソードガス給排系20と、アノードガス給排系30と、冷却系50と、セルモニタ60と、DC/DCコンバータ70と、制御部80と、負荷90と、を備える。
A1.装置構成:
図1は、本開示の一実施形態としての燃料電池システム100の概略構成を示すブロック図である。燃料電池システム100は、例えば燃料電池自動車(Fuel Cell Electric Vehicle,FCEV)に搭載され、負荷90の要求電力および外部給電の要求電力を出力する。負荷90は、駆動力源である走行モータやその他の燃料電池車両内の補機類および電装品等を含む。燃料電池システム100は、燃料電池10と、カソードガス給排系20と、アノードガス給排系30と、冷却系50と、セルモニタ60と、DC/DCコンバータ70と、制御部80と、負荷90と、を備える。
燃料電池10は、カソードガスとアノードガスとの電気化学反応により発電を行う。本実施形態において、カソードガスは空気(エア)であり、アノードガスは水素である。燃料電池10は、一対のエンドターミナル11,12と、燃料電池スタック13と、を有する。
一対のエンドターミナル11,12は、燃料電池スタック13の積層方向における両端部に配置されている。具体的には、第1エンドターミナル11は、燃料電池10の一方の端部に配置され、第2エンドターミナル12は、燃料電池10の他方の端部に配置される。第1エンドターミナル11には、後述するカソードガス供給流路21およびカソードガス排出流路24と接続する開口が設けられている。第2エンドターミナル12には、後述するアノードガス供給流路32およびアノードガス循環流路36と接続する開口が設けられている。
燃料電池スタック13は、積層した複数の燃料電池セルにより構成されている。各燃料電池セルは、1枚でもカソードガスとアノードガスとの電気化学反応によって発電する固体高分子型の燃料電池である。各燃料電池セルは、イオン伝導性を有する高分子電解質膜の両面に電極を配置した膜電極接合体と、膜電極接合体を挟持する一対のセパレータとを有する。本実施形態において、複数の燃料電池セルのうちで、第2エンドターミナル12に最も近い燃料電池セルを1ch(チャネル)とよぶ。他方で、第1エンドターミナル11に最も近い燃料電池セルをNchとよぶ。即ち、複数の燃料電池セルのうちで、カソードガス給排系20から供給されるカソードガスが最初に到達する燃料電池セルがNchであり、カソードガスが最後に到達する燃料電池セルが1chである。したがって、1chは、カソードガス給排系20から供給されるカソードガスが最も届きにくい燃料電池セルである。
カソードガス給排系20は、燃料電池10へのカソードガスの供給および燃料電池10からカソードオフガスの排出を行う。カソードオフガスは、燃料電池10の発電で消費されなかったカソードガスおよび燃料電池10の発電で生成された水分等を含む。カソードガス給排系20の給排気の制御は、制御部80によって行われる。カソードガス給排系20は、カソードガス供給流路21と、エアコンプレッサ22と、圧力センサ23と、カソードガス排出流路24と、調圧弁25と、を備える。
カソードガス供給流路21は、燃料電池10にカソードガスを導く流路である。カソードガス供給流路21の一端は、開口している。この開口を通じて、カソードガスを取り込むことができる。カソードガス供給流路21の他端は、第1エンドターミナル11の開口を介して、燃料電池10に接続している。
エアコンプレッサ22は、カソードガス供給流路21の開口から取り込まれたカソードガスを吸入し、圧縮する。圧縮されたカソードガスは、燃料電池10に送り込まれる。送り込まれるカソードガスの圧力は、制御部80がエアコンプレッサ22を制御することにより調整される。エアコンプレッサ22は、カソードガス供給流路21に設けられる。
圧力センサ23は、燃料電池10に供給されるカソードガスの圧力を測定する。測定された圧力は、制御部80に伝達される。圧力センサ23は、燃料電池10とエアコンプレッサ22との間のカソードガス供給流路21に設けられる。したがって、圧力センサ23が計測する圧力は、エアコンプレッサ22により圧送されるカソードガスの圧力である。
カソードガス排出流路24は、燃料電池10から排出されるカソードオフガスを導く流路である。カソードガス排出流路24の一端は開口している。この開口を通じて、カソードオフガスを燃料電池システム100の外部に排出する。カソードガス排出流路24の他端は、第1エンドターミナル11の開口を介して、燃料電池10に接続している。
調圧弁25は、燃料電池10から排出されるカソードオフガスの圧力を調整する。調圧弁25は、カソードガス排出流路24に設けられる。
アノードガス給排系30は、燃料電池10へのアノードガスの供給および燃料電池10からアノードオフガスの排出を行う。アノードオフガスは、燃料電池10の発電で使用されなかったアノードガスおよび水分等を含む。アノードガス給排系30の給排気の制御は、制御部80により行われる。アノードガス給排系30は、アノードガスタンク31と、アノードガス供給流路32と、開閉弁33と、レギュレータ34と、インジェクタ35と、アノードガス循環流路36と、気液分離器37と、循環ポンプ38と、アノードガス排出流路39と、排気排水弁40と、を備えている。
アノードガスタンク31は、燃料電池10に供給されるアノードガスを貯蔵する容器である。アノードガスタンク31は、例えば高圧の水素ガスを貯蔵している。
アノードガス供給流路32は、アノードガスタンク31から燃料電池10に、アノードガスを導く流路である。アノードガス供給流路32の一端は、アノードガスタンク31に接続し、アノードガス供給流路32の他端は、第2エンドターミナル12の開口を介して、燃料電池10に接続している。
開閉弁33は、アノードガスタンク31から供給されるアノードガス量の調整を行う。具体的には、開閉弁33が開かれることで、アノードガスタンク31中のアノードガスをアノードガス供給流路32に流通させる。開閉弁33は、アノードガス供給流路32に設けられる。
レギュレータ34は、アノードガスタンク31から供給されたアノードガスの圧力の調整を行う。レギュレータ34の圧力の調整は、制御部80により制御される。レギュレータ34は、開閉弁33よりも下流のアノードガス供給流路32に設けられる。アノードガス供給流路32における下流とは、燃料電池10のある方向をいう。
インジェクタ35は、レギュレータ34によって圧力が調整されたアノードガスを燃料電池10に噴射する。燃料電池10に供給されるアノードガス量は、制御部80がインジェクタ35を制御することにより、調整される。インジェクタ35は、レギュレータ34よりも下流のアノードガス供給流路32に設けられる。
アノードガス循環流路36は、燃料電池10から排出されるアノードオフガスをアノードガス供給流路32に循環させるための流路である。アノードガス循環流路36の一端は、第2エンドターミナル12の開口を介して、燃料電池10に接続されている。アノードガス循環流路36の他端は、インジェクタ35よりも下流でアノードガス供給流路32に接続されている。
気液分離器37は、燃料電池10から排出されたアノードオフガスから水分を分離する。分離された水分は、アノードガス排出流路39に導かれる。水分が分離されたアノードオフガスは、循環ポンプ38に導かれる。
循環ポンプ38は、気液分離器37によって水分が分離されたアノードオフガスをアノードガス供給流路32に圧送する。圧送されたアノードオフガスは、再び燃料電池10に供給される。循環ポンプ38は、気液分離器37よりも下流のアノードガス循環流路36に設けられる。アノードガス循環流路36における下流とは、アノードガス供給流路32に接続する方向をいう。
アノードガス排出流路39は、気液分離器37によって分離された水分を燃料電池システム100の外部に排出するための流路である。アノードガス排出流路39の一端は、気液分離器37に接続しており、アノードガス排出流路39の他端は、上述したカソードガス排出流路24に接続している。アノードガス排出流路39とカソードガス排出流路24との接続点は、調圧弁25よりも下流である。カソードガス排出流路24における下流とは、カソードガス排出流路24の開口がある方向をいう。
排気排水弁40は、気液分離器37で分離された水分と、37を通過するアノードオフガスの一部と、の排出を制御する弁である。排気排水弁40は、アノードガス排出流路39に設けられる。
冷却系50は、燃料電池10の冷却を行う。かかる冷却の制御は、制御部80によって制御される。冷却系50は、冷媒供給流路51と、ラジエータ52と、冷媒排出流路53と、冷却ポンプ54と、温度センサ55と、を備える。
冷媒供給流路51は、燃料電池10に冷媒を供給するための流路である。冷媒は、例えば冷却水である。冷媒供給流路51の一端は、第1エンドターミナル11を介して、燃料電池10に接続している。冷媒供給流路51の他端は、ラジエータ52に接続している。
ラジエータ52は、冷媒供給流路51を介して送られた冷媒を冷却する。ラジエータ52は、ラジエータファンから送られる風を利用して、放熱を行う。ラジエータ52は、冷媒供給流路51の他端および冷媒排出流路53の一端と接続している。
冷媒排出流路53は、ラジエータ52で冷却された冷媒を燃料電池10に供給する流路である。冷媒排出流路53の一端は、ラジエータ52と接続している。冷媒排出流路53の他端は、第1エンドターミナル11の開口を介して、燃料電池10と接続している。
冷却ポンプ54は、ラジエータ52で冷却された冷媒を燃料電池10に送り込む。冷却ポンプ54は、冷媒排出流路53に設けられる。
温度センサ55は、冷媒の温度を計測する。計測された温度は、制御部80に送信される。制御部80は、送信された計測温度を燃料電池10の温度として検出し、燃料電池システム100の運転の制御に用いる。温度センサ55は、冷媒排出流路53に設けられる。
セルモニタ60は、燃料電池スタック13のセル電圧を計測する。本実施形態において、セルモニタ60は、1chからNchまでの単セルごとにセル電圧を測定することができる。また、計測された各セルの電圧の総和を、燃料電池スタック13の総電圧として測定することができる。計測された電圧は、制御部80に伝達される。
DC/DCコンバータ70は、燃料電池10から出力される電力を、制御部80からの制御に応じて負荷90に供給可能な電力(電圧及び電流)に変換して出力する電力制御回路である。例えば、燃料電池10から取り出す電流を制御し、負荷90へ出力する電圧および電流を制御する。
制御部80は、例えばCPUを備えるコンピュータにより構成される。制御部80は、燃料電池システム100の動作を制御するための信号を出力する。制御部80は、燃料電池システム100の各部を制御して燃料電池10を発電させる。また、本実施形態において制御部80は、エアの入り口要求圧力値の算出を行う。ここで、エアの入り口要求圧力値とは、燃料電池10を発電するために必要なカソードガス(エア)圧力であり、エアコンプレッサ22により圧送されるエアに要求される圧力値をいう。エアの入り口要求圧力値は、燃料電池システム100の運転状態や、燃料電池10に求められる出力等に応じて算出される。制御部80は、算出したエアの入り口要求圧力値および圧力センサ23から送られる計測圧力に応じて、燃料電池10を濡らし運転から、より発電効率の高い暖機運転へ移行させるように制御する。かかる移行の制御処理については、後述する。
A2.移行制御処理:
図2は、制御部80により行われる移行制御処理のフローチャートである。制御部80は、低温(例えば氷点下)において燃料電池システム100が始動されたときに、移行制御処理を実行する。
図2は、制御部80により行われる移行制御処理のフローチャートである。制御部80は、低温(例えば氷点下)において燃料電池システム100が始動されたときに、移行制御処理を実行する。
制御部80は、濡らし運転を開始するように制御する(ステップS105)。本実施形態において、濡らし運転とは、後述する暖機運転時の発電と比較して、より低効率発電で燃料電池10を運転させることをいう。濡らし運転を実行することで、燃料電池スタック13の各セルは、発電を行い、水を生成する。生成された水により、セルの乾燥状態を解消することができる。また、濡らし運転の発電損失により熱が発生し、燃料電池10の温度が上昇する。
制御部80は、エアの入り口要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値が、5kPa未満か否かを判定する(ステップS110)。制御部80は、エアの入り口要求圧力値を、燃料電池システム100の運転状態等に応じて算出する。計測圧力は、圧力センサ23により計測され、制御部80に伝達される。制御部80は、エアの入り口要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値が、5kPa未満であると判定するまで、ステップS110の処理を繰り返し実行する。
制御部80は、エアの入り口要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値が、5kPa未満であると判定すると(ステップS110:YES)、燃料電池システム100を暖機運転に移行させる(ステップS115)。本実施形態において、暖機運転とは、上述した濡らし運転時と比較して高効率発電であって、通常運転時と比較して、低効率発電で燃料電池10を運転させることをいう。低効率発電は、例えば通常運転時よりも空気供給量を低下させ、空気のストイキ比(stoichiometric air-fuel ratio)を低下させることで、実行される。なお、本実施形態において通常運転とは、燃料電池10に供給される空気量を、上述の低効率発電状態における空気量よりも十分に増加させた状態で、低効率発電状態よりも効率良く行い、燃料電池10から電流の取り出しを行う運転のことをいう。換言すると、燃料電池10のI-V特性を示すI-V特性曲線上に動作点が存在するように、供給される反応ガスの量が制御されている運転ともいえる。空気供給量の調整は、制御部80がカソードガス給排系20を制御することで実行される。具体的には、空気供給量の調整は、制御部80がエアコンプレッサ22の稼働を制御し、燃料電池10に供給される空気量を調整することで実行される。暖機運転においても、濡らし運転と同様に発電損失が熱に変換される。かかる熱により、燃料電池10の温度を、発電に適した温度(例えば70℃~90℃)まで上昇させることができる。
制御部80が、エアの入り口要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値が5kPa未満であると判定した場合に、燃料電池10を濡らし運転から暖機運転に移行させる理由について、以下に説明する。図3は、低温下での燃料電池システム始動時における、濡らし運転から暖機運転に移行する際の燃料電池スタック13の電流と、1chのセル電圧と、エアの入り口要求圧力値と、エアの計測圧力値と、時間と、の関係を示すグラフである。横軸は、時間(ms)を示す、低温下で燃料電池システム100の濡らし運転が開始された時刻が0である。縦軸は、上から順番に、電流(A)、電圧(V)、圧力(kPa)を示す。実線L1は、本実施形態による方法で濡らし運転から暖機運転に移行した場合の燃料電池10のスタック電流を示す。破線L2は、比較例により濡らし運転から暖機運転に移行した場合の燃料電池10のスタック電流を示す。実線L3は、本実施形態による方法で濡らし運転から暖機運転に移行した場合の1chセル電圧を示す。破線L4は、比較例により濡らし運転から暖機運転に移行した場合の1chセル電圧を示す。実線L5は、本実施形態および比較例のエアの計測圧力値を示す。実線L6は、本実施形態および比較例のエアの入り口要求圧力値を示す。時刻t0は、比較例により濡らし運転から暖機運転に移行する時刻を示す。時刻t1は、本実施形態による方法で濡らし運転から暖機運転に移行する時刻を示す。時刻t2は、比較例により濡らし運転から暖機運転に移行したことで、電流が0になった時刻を示す。
まず、比較例により濡らし運転から暖機運転に移行した場合について説明する。実線L5が示すように、燃料電池システム100の濡らし運転が開始されると、燃料電池10に供給されるエアの圧力は、徐々に高くなる。実線L6が示すように、制御部80により算出されるエアの入り口要求圧力値は、発電の要求に応じて高くなっていく。比較例では、制御部80は、時刻t0で燃料電池10を暖機運転に移行させている。時刻t0は、燃料電池10が発電した電気量が所定値に達した時刻である。即ち、電気量は電流に時間を乗算した値であるため、暖機運転に移行させる時刻t0は、燃料電池システム100の始動時から経過した時間によって決定されている。しかし、時刻t0で暖機運転に移行すると、破線L4に示すように、1chのセル電圧が急激に低下し、負電圧となる。これは、1chが過乾燥状態にも関わらず暖機運転に移行されたことにより生じているものと推定される。1chは、エアが最も届きにくいセルであり、燃料電池10に送り込まれるエアの圧力(即ち、計測圧力)が不足していると、十分に発電を行うことができない。このため、1chでは発電により生成される水分量が不足している。したがって、時刻t0においては、1chは過乾燥状態である。過乾燥状態のセルでは、水素イオンの移動抵抗が増加して、電流の流れを妨げ出力が低下する。この現象は、ドライアウトまたはドライアップと呼ばれる。破線L2が示すように、このような状態で暖機運転が継続されると、燃料電池スタック13の電流は、例えば時刻t2において0になり、燃料電池10が電力を供給することができなくなる。さらに、このまま燃料電池システム100を稼働させ続けると、1chのセルが破損するだけでなく、燃料電池10の破損を招くおそれがある。
次に、本実施形態による方法で濡らし運転から暖機運転に移行した場合について説明する。上述したように、時刻t0で燃料電池10が暖機運転に移行した場合、1chには十分エアが届いていない状態である。本発明者は、エアの入り口要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値が5kPa未満となった場合に、1chにも十分なエアが届いた状態で暖機運転に移行できることを見出した。時刻t1は、エアの入り口要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値が、5kPa未満となった時刻であり、本実施形態において濡らし運転から暖機運転に移行した時刻である。実線L3が示すように、制御部80が時刻t1で燃料電池10を暖機運転に移行させることで、1chのセル電圧は、負電圧にならない。これは、1chに十分なエアが届くことで発電により水分が生成され、1chの過乾燥状態が解消したためである。実線L1が示すように、暖機運転移行後(時刻t1後)でも燃料電池スタック13の電流は安定しており、燃料電池10は、負荷90または外部の要求に応じて、電力を供給することができる。
以上説明した実施形態の燃料電池システム100によれば、制御部80が、燃料電池10の濡らし運転中に、算出された要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値が、5kPa未満になった場合に、燃料電池10を濡らし運転から暖機運転に移行させている。このため、燃料電池10のエア入り口から最も遠いセルである1chにも十分エアが届いている状態で、濡らし運転から暖機運転への移行が行われる。これにより、1chでも発電が行われ、発電により生成された水が1chに供給されるので、1chの過乾燥状態を解消することができる。したがって、低温下での燃料電池システム100始動における濡らし運転から暖機運転への移行の際に、1chのセル電圧が反転し、負電圧となることを抑制することができる。
また、燃料電池システム100がモジュールとして提供される際に、エア配管が交換され、エア配管の容積がモジュール出荷時(初期設置時)よりも増大する場合がある。かかる場合、配管の容積の増大によりエアの圧力が低下することで、1chに十分なエアが届かない状態で濡らし運転から暖機運転への移行が実行されるおそれがある。しかし、実施形態の燃料電池システム100によれば、算出された要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値が、5kPa未満になった場合に、燃料電池10を濡らし運転から暖機運転に移行させている。これにより、1chまで十分にエアが届く状態で濡らし運転から暖機運転に移行させることができるので、エア配管の容積がモジュール出荷時よりも増大した場合であっても、1chのセル電圧が負電圧となることを抑制することができる。
B.その他の実施形態:
(B1)第1実施形態において、燃料電池10の濡らし運転中に、算出された要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値は、5kPaに代えて、任意の圧力設定値未満となった場合に燃料電池10を濡らし運転から暖機運転に移行させてもよい。かかる方法によれば、例えば燃料電池スタック13を構成するセルの枚数が比較的多く(例えば500枚超)、エアの入り口から1chまでの距離が比較的遠い場合であっても、要求圧力値と計測圧力値との差を適切な圧力値に設定することで、1chに十分なエアが届いている状態で、濡らし運転から暖機運転に移行させることができる。かかる方法によっても、低温における濡らし運転から暖機運転への移行時に、1chが負電圧となってしまうことを抑制できる。
(B1)第1実施形態において、燃料電池10の濡らし運転中に、算出された要求圧力値から計測圧力値を差し引いた圧力値は、5kPaに代えて、任意の圧力設定値未満となった場合に燃料電池10を濡らし運転から暖機運転に移行させてもよい。かかる方法によれば、例えば燃料電池スタック13を構成するセルの枚数が比較的多く(例えば500枚超)、エアの入り口から1chまでの距離が比較的遠い場合であっても、要求圧力値と計測圧力値との差を適切な圧力値に設定することで、1chに十分なエアが届いている状態で、濡らし運転から暖機運転に移行させることができる。かかる方法によっても、低温における濡らし運転から暖機運転への移行時に、1chが負電圧となってしまうことを抑制できる。
(B2)各実施形態において、燃料電池スタック13の1つのチャネルは、1枚のセルにより構成されている燃料電池システム100について説明したが、この構成に代えて、1つのチャネルは、複数のセルにより構成されていてもよい。例えば、1つのチャネルは、4枚のセルにより構成されていてもよい。かかる場合、セルモニタ60は、1つのチャネル毎に電圧を測定してもよい。
(B3)各実施形態において、温度センサ55は、冷媒排出流路53に代えて、冷媒供給流路51に設けられてもよい。
本開示は、上記各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
10…燃料電池、11…第1エンドターミナル、12…第2エンドターミナル、13…燃料電池スタック、20…カソードガス給排系、21…カソードガス供給流路、22…エアコンプレッサ、23…圧力センサ、24…カソードガス排出流路、25…調圧弁、30…アノードガス給排系、31…アノードガスタンク、32…アノードガス供給流路、33…開閉弁、34…レギュレータ、35…インジェクタ、36…アノードガス循環流路、37…気液分離器、38…循環ポンプ、39…アノードガス排出流路、40…排気排水弁、50…冷却系、51…冷媒供給流路、52…ラジエータ、53…冷媒排出流路、54…冷却ポンプ、55…温度センサ、60…セルモニタ、70…DC/DCコンバータ、80…制御部、90…負荷、100…燃料電池システム
Claims (1)
- 燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池に供給されるエアの圧力値を計測する圧力センサと、
前記圧力センサの計測圧力値が伝達される制御部であって、少なくとも前記燃料電池におけるエアの入り口要求圧力値を算出し、前記燃料電池の運転を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記燃料電池システムの始動時において、前記燃料電池に濡らし運転を行わせ、算出された前記要求圧力値から前記計測圧力値を差し引いた圧力値が、5kPa未満になった場合に、前記燃料電池を前記濡らし運転から、より発電効率の高い暖機運転に移行させる、
燃料電池システム。
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- 2022-04-11 JP JP2022064935A patent/JP2023155547A/ja active Pending
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