JP2023146105A - 腎保護有用剤 - Google Patents

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Toshihiro Sakurai
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Abstract

【課題】本発明は、本件発明者が既に取得している3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とした各有用剤の発明につき、さらに開発を行い、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とした腎保護有用作用を有する腎保護有用剤など各有用剤を提供することを目的とする。【解決手段】本発明は、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とする腎保護有用作用を有することを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、腎保護有用剤に係り、特に3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とする腎保護有用作用を有する腎保護有用剤に関するものである。
酸化ストレス状態とは、細胞内における酸化と抗酸化機能のバランスが崩れた状態のことを意味し、例えば過剰な活性酸素種(ROS:reactive oxygen species)が細胞内に蓄積する状態が挙げられる。
そして、酸化ストレス状態は人間の老化や腎臓病などの様々な疾患の原因となる。
ここで、細胞と細胞内に存するミトコンドリアについて述べると、ミトコンドリアとは、真核生物の細胞小器官であり、二重の生体膜からなり、独自のDNA(ミトコンドリアDNA=mtDNA)を持ち、分裂、増殖する。
前記mtDNAはATP(アデノシンに3分子のリン酸が結合したヌクレオチドをいい、生体内のエネルギーの貯蔵・供給・運搬を仲介している重要物質をいう。ADP(アデノシン 2 リン酸)への加水分解に伴いエネルギーを放出するアデノシン3リン酸である)の合成以外の生命現象にも関与するほか、酸素呼吸(好気呼吸)の場として知られている。
また、細胞のアポトーシスにおいても重要な役割を担っている。mtDNAとその遺伝子産物は一部が細胞表面にも局在し、その突然変異は自然免疫系が特異的に排除する。
ヒトにあっては、肝臓、腎臓、筋肉、脳などの代謝の活発な細胞に数百、数千個のミトコンドリアが存在し、細胞質の約40%を占めている。平均では1細胞中に300-400個のミトコンドリアが存在し、全身で体重の10%を占めている。
ミトコンドリアでは、高エネルギーの電子と酸素分子を利用して、エネルギー源であるATP(アデノシンに3分子のリン酸が結合したヌクレオチドをいい、生体内のエネルギーの貯蔵・供給・運搬を仲介している重要物質をいう。ADP(アデノシン 2 リン酸)への加水分解に伴いエネルギーを放出するアデノシン3リン酸)を合成する。しかしATPを産生する際には副産物として前述の過剰な活性酸素種(ROS)が産生されるものとなる。
そして、酸化ストレスの亢進状態で、特にミトコンドリアの機能が低下し、過剰な活性酸素種(ROS)が産生される。その活性酸素種(ROS)はラジカル連鎖によって更に過酸化脂質の生成を促し、悪循環に陥る。したがって、ROSの産生と除去のバランスを保つためにミトコンドリアの機能維持は重要であると考えられる。
また、腎臓の近位尿細管細胞には特にミトコンドリアが多く存在する(Bhargava P and Schnellmann RG, Nat Rev Nephrol, 13: 629-646, 2017)。その理由は栄養素などを再吸収する際にATPが大量に必要になるからと考えられている。よって、腎臓の近位尿細管細胞においてミトコンドリアは重要な役割を果たすと考えられる。
マガキはウグイスガイ目イタボガキ科に属する二枚貝で、その生息地は日本を初めとして東アジア全域に及んでいる。マガキは、グリコーゲンやタンパク質のほか、カルシウム、亜鉛などのミネラルを多量に含む、栄養価の高い食材である。
本件発明者は、マガキから生理活性物質の探索と研究を行い、マガキの抽出物より抗酸化能を有する物質を探索した結果、画期的な抗酸化物質3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol (以下、DHMBAという)を見出し、それを使用した多くの有用剤を発明した。
これまでに、DHMBAによるラジカル消去能及びKeap1-Nrf2経路の活性化とそれに伴う抗酸化遺伝子群(HO-1やNQO1など)の発現誘導が確認されている(Fuda H, Watanabe M, et al., Food Chem, 176: 226-33, 2015; Joko S, Watanabe M, et al., J Funct Foods, 35: 245-255, 2017)。
前者を直接抗酸化能と言い、後者を間接抗酸化能と言うが、DHMBAはその両方の機能を併せ持つ物質であることが実証された。更に、DHMBAは既存の抗酸化物質よりも細胞毒性が低いことが明らかになった。しかしながら、これまでにDHMBAが腎保護作用に有用であるかどうかは確認されていないものであった。そこで本発明ではミトコンドリアに着目し、ヒト腎近位尿細管細胞HK-2を用いてDHMBAのミトコンドリアに対する各保護の有用効果等を検証し、確認した。さらに前記の検証から本発明が腎保護有用作用等の有用作用を有することが確認された。
特開2017-132753号公報
本発明は、本件発明者が既に取得している3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とした各有用剤の発明につき、さらに開発を行い、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とした腎保護有用作用を有する腎保護有用剤など各有用剤を提供することを目的とするものである。
本発明は、
3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とする腎保護有用作用を有する腎保護有用剤である、
ことを特徴とし、
または、
3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の酸化ストレス刺激下におけるミトコンドリア内ROSの減少効果を有する酸化ストレス刺激下におけるヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)のミトコンドリア内ROSの減少促進剤である、
ことを特徴とし、
または、
3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞毒性抑制作用を有し、ヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞生存率の増加作用を有するヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞毒性抑制剤及びヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞生存率増加剤である、
ことを特徴とし、
または、
3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞内に蓄積した活性酸素の増加抑制作用を有するヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞内に蓄積した活性酸素の増加抑制剤である、
ことを特徴とし、
または、
3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞のミトコンドリア内に蓄積した活性酸素の増加抑制作用を有するヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞のミトコンドリア内に蓄積した活性酸素の増加抑制剤である、
ことを特徴とし、
または、
3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞のミトコンドリアの呼吸を活性させる作用を有するヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞のミトコンドリアの呼吸活性剤である、
ことを特徴とし、
または、
3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞のミトコンドリア数の増加作用を有するヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞のミトコンドリア数増加促進剤である、
ことを特徴とし、
または、
3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞内ミトコンドリアの断片化を抑制する作用を有し、前記ミトコンドリアの生合成経路を活性化させるミトコンドリアの生合成経路を活性させる作用を有するヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)内のミトコンドリアの断片化抑制剤及びミトコンドリアの生合成経路活性剤である、
ことを特徴とし、
または
3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)細胞内ミトコンドリアの基礎呼吸と最大呼吸、ATP産生の上昇作用を有するヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)内ミトコンドリアの基礎呼吸と最大呼吸、ATP産生の上昇剤、
ことを特徴とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)内ミトコンドリアの基礎呼吸と最大呼吸、ATP産生の上昇剤である。
本発明によれば、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とした各有用剤の発明のみならず、さらに、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とした腎保護有用作用を有する腎保護有用剤など各有用剤を提供出来るとの優れた効果を奏する。
ミトコンドリア機能改善効果を探索するための戦略を説明する説明図である。 酸化ストレス刺激下におけるDHMBAの細胞保護効果を説明する説明図である。HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを1-500 μMで培養した後、細胞毒性(A)と細胞生存率(B)による細胞保護試験を行っている。Mean ± SD (n = 5-6)。 酸化ストレス刺激下におけるDHMBAの細胞内ROSの減少効果を説明する説明図である。HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを250、500 μMで培養した後、DCFDA染色によって細胞内ROS蛍光画像(A)と蛍光強度(B)の測定を行っている。Mean ± SD (n = 6)。 酸化ストレス刺激下におけるDHMBAのミトコンドリア内ROSの減少効果を説明する説明図である。HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを250、500 μMで培養した後、DHR123染色によってミトコンドリア内ROS蛍光画像(A)と蛍光強度(B)の測定を行っている。Mean ± SD (n = 6)。 酸化ストレス刺激下におけるDHMBAの細胞及びミトコンドリア障害関連遺伝子の発現量変化を説明する説明図である。HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを250、500 μMで培養した後、qPCRによって遺伝子発現量の測定を行っている。Mean ± SD (n = 4)。 酸化ストレス刺激下におけるDHMBAのミトコンドリア生合成関連遺伝子の発現量変化を説明する説明図である。HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを250、500 μMで培養した後、qPCRによってミトコンドリア生合成関連遺伝子発現量の測定を行っている。Mean ± SD (n = 4)。 酸化ストレス刺激下におけるDHMBAのミトコンドリア形態への影響及び融合と分裂関連遺伝子の発現量変化を説明する説明図である。HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを250、500 μMで培養した後、MitoTracker(登録商標)Green FM蛍光染色によってミトコンドリア形態の観察(A)、qPCRによってミトコンドリア融合及び分裂関連遺伝子発現量(B)の測定を行っている。Mean ± SD (n = 4)。 DHMBAのミトコンドリア酸素消費速度に対する影響を説明する説明図である。HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを500 μMで24時間培養した後、細胞外フラックスアナライザーを用いて酸素消費速度を測定している(A)。酸素消費速度の変動よりミトコンドリア機能評価における主要な指標を算出できる(B)。Mean ± SD (n = 3-4)。 DHMBAのミトコンドリア機能に対する影響を説明する説明図である。HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを500 μMで24時間培養した後、細胞外フラックスアナライザーを用いて酸素消費速度を測定し、ミトコンドリア機能評価における主要な指標(基礎呼吸、ATP産生、最大呼吸、予備呼吸能、プロトンリーク、ミトコンドリア非依存的酸素消費)の算出を行っている。Mean ± SD (n = 3-4)。
以下、本発明を図に示す一実施例に基づいて説明する。
まず、DHMBAが腎保護作用などに有用性が示せるか否かを検証するために各種の検証を行ったのでその内容を説明する。
「各検証実験の材料と実験の方法」
(細胞培養を行った)
ヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)を10 % fetal bovine serum、1% penicillin-streptmycin含有Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM、ナカライテスク)を用いて37°C、5% CO2インキュベーターで継代培養した。
(細胞毒性・生存率試験を行った)
酸化ストレスに対するDHMBAのヒト腎近位尿細管細胞HK-2細胞保護作用を確認するため、酸化ストレス誘導剤buthionine sulfoximine (BSO)を用いて、細胞の毒性や生存率を評価した。
具体的に、HK-2細胞を96-well plateに3.0×103 cells/wellとなるよう播種し、24時間培養した。
次に、BSOを終濃度100 μMとDHMBA を終濃度1-500 μMとなるよう150 μL/well添加した。48時間培養後、培地上清を50 μL取って新たな96-well plateへ移し、LDH Cytotoxicity Detection Kit(タカラバイオ株式会社)のcatalyst液と dye solution液の混合液(45 : 1)を50 μL/well添加した。室温で30分静置した後、プレートリーダー(Wallac 1420 ARVO Mx plate reader, PerkinElmer)で490 nmの吸光度を測定し、細胞毒性の測定を行った。また、細胞が培養されていたplateにはCCK-8試薬(株式会社同仁化学研究所)を10 μL/well添加し、37°Cで2時間培養後、プレートリーダー(Wallac 1420 ARVO Mx plate reader)で450 nmの吸光度を測定し、細胞の生存率を評価した。細胞の毒性及び生存率はコントロール(control、0 μg/mL)に対する吸光度の値から計算した(各群n = 5-6)。
(細胞内ROS産生量測定を行った)
酸化ストレス刺激下においてDHMBAによる細胞内ROSの変化を評価するために細胞内ROSの産生量を測定した。
HK-2 細胞を黒色96-well plateに3.0×103 cells/wellとなるよう播種し、24時間培養した。次に、BSOを終濃度100 μMとDHMBA を終濃度250、500 μMとなるよう100 μL/well添加した。24時間後、上清を除去し無血清DMEMで25 μMに希釈したDCFDA試薬(Sigma)を100 μL/well添加し、37°Cで40分間培養した。さらにPBSで洗浄した後、100 μL/well PBSを加えて、プレートリーダー(Wallac 1420 ARVO Mx plate reader)により励起波長485 nmと蛍光波長535 nmで蛍光を測定し(各群n = 6)、蛍光顕微鏡BZ-9000(Keyence)で観察し写真を撮影した。
(ミトコンドリア内ROS産生量測定を行った)
酸化ストレス刺激で促進されるミトコンドリア内ROS産生に対するDHMBAの効果を検証するために、DHR123を用いてミトコンドリア内ROSの観察と蛍光強度の測定を行った。
黒色の24-well plateにHK-2 細胞を2.0×104 cells/wellとなるよう播種し、24時間培養した。次に、BSOを終濃度100 μMとDHMBA を終濃度250、500 μMとなるよう500 μL/well添加した。24時間後、上清を除去し無血清DMEMで5 μMに希釈したDHR123試薬(富士フイルム和光純薬)を250 μL/well添加し、37°Cで40分間培養した。
さらにPBSで洗浄した後、500 μLのPBSを加えて蛍光顕微鏡BZ-9000(Keyence)で観察し写真を撮影した。その後、スクレーパーで細胞を底から剥がして十分ピペッティングした後、200 μL/wellを黒色の96-well plateに移し、プレートリーダー(Wallac 1420 ARVO Mx plate reader)により励起波長 505 nm と蛍光波長 534 nm で蛍光を測定した(各群n = 6)。
(細胞及びミトコンドリア障害関連遺伝子発現量の測定を行った)
酸化ストレス刺激下で、ミトコンドリアに存在するENDOGが核に移行し、核DNAの断片化に働き、また核DNAが損傷するとBIKが増加し、ミトコンドリア内因子と作用し、細胞死の一つであるアポトーシスを誘導する(Li LY, et al., Nature, 412: 95-99, 2001; Kutuk O, et al., PLoS One, 12: e0182809, 2017)。
したがって本発明では、酸化ストレス刺激下において増加する細胞死マーカーBIK及びENDOGに対するDHMBAの効果を検証した。
6-well plateにHK-2細胞を5.0×104 cells/wellとなるよう播種し、24時間培養した。次に、BSOを終濃度100 μMとDHMBA を終濃度250、500 μMとなるよう2 mL/well添加した。24時間後、total RNAの抽出はNucleoSpin(登録商標)RNA キット(MACHEREY-NAGEL)を用いて回収した。精製されたRNAの濃度はNanodrop(Invitrogen)により定量された。Total RNA 1.0 μgから、ReverTra Ace(登録商標)qPCR RT Master Mix with gDNA Remover (TOYOBO)のプロトコルに従い、cDNAを合成した。遺伝子発現量の測定には、THUNDERBIRD(登録商標)SYBR(登録商標)qPCR Mix(TOYOBO)のプロトコルに従って実施された。CFX ConnectTMリアルタイムPCR解析システム(BioRad)を用いて測定し、2-(ΔΔCT) 法にて解析を行った。
コントロール群の遺伝子発現量を1として比較を行った。図は平均値±SDで表された(各群n = 4)。各々の発現量はハウスキーピング遺伝子である β-actinの発現量で補正した。使用したプライマーの配列は表1の通りである。
Figure 2023146105000002
(ミトコンドリア生合成の関連遺伝子発現量の測定を行った)
ミトコンドリアの生合成はPPARα/PGC1α/NRF1/TFAM 経路の活性化を介して調節されることが報告されている(Uittenbogaard M and Chiaramello A, Current pharmaceutical design, 20: 5574-5933, 2014)。
ミトコンドリア生合成に関連する遺伝子の発現量の測定は前項と同様に行った。コントロール群を1として比較を行った。図は平均値±SDで表された(各群n = 3)。各々の発現量を β-actinの発現量で補正した。使用したプライマーの配列は表2の通りである。
Figure 2023146105000003
(ミトコンドリアの形態観察を行った)
過剰に産生されたROSはミトコンドリアの分裂を誘導し、ミトコンドリアの断片化と機能障害が起こる(Zorov D, et al., Cells, 8: 175, 2019)。酸化ストレス刺激下において、DHMBAがミトコンドリアの形態変化に影響を与えるかどうかを観察するために、ミトコンドリアの膜電位差に反応するMitoTracker (登録商標) Green FM (Thermo Fisher Scientific)と核DNAに結合するHoechst33342 (株式会社同仁化学研究所)によりミトコンドリアと核の2重染色を行った。
HK-2細胞を35 mm dishに5.0×104 cells/dishとなるよう播種し、24時間培養した。次に、BSOを終濃度100 μMとDHMBAを終濃度250、500 μMとなるように2 mL/well添加した。24時間後、0.1 μM MitoTracker (登録商標) Green FMと5 μg/mL Hoechst33342の混合溶液を2 mL/dish添加し、20分間37°Cで培養し、PBSで洗浄した後、1 mL PBSを加えて蛍光顕微鏡 BZ-9000(Keyence)を用いて100倍で蛍光画像を得た。
(ミトコンドリアの融合及び分裂関連遺伝子発現量の測定を行った)
ミトコンドリアの融合に関連する遺伝子(OPA1)及び分裂に関連する遺伝子(DRP1及びFIS1)の発現量の測定は前項と同様に行った。コントロール群を1として比較を行った。図は平均値±SDで表された(各群n = 4)。各々の発現量は β-actinの発現量で補正した。使用したプライマーの配列は表3の通りである。
Figure 2023146105000004
(ミトコンドリアの呼吸能の測定を行った)
細胞外フラックスアナライザーXFp(Agilent Technologies)を用いて酸化ストレスにおけるDHMBAのミトコンドリア呼吸能の改善作用について検討した。
XFp Cell Culture Miniplate(Agilent Technologies)にHK-2細胞を1.5×104 cells/wellで播種し、24時間培養した。次に、BSOを終濃度100 μMとDHMBAを終濃度250、500 μMとなるよう200 μL/well添加した。24時間培養後、20 mM GlutaMAX(Gibco)、10 mM Pyruvate(Gibco)、Glucose(10 mM)を含むランニング培地(XF DMEM Medium、pH 7.4、Agilent Technologies)に交換し、37°C CO2制御無しのインキュベーターで1時間培養した。24時間水和したキャリブレーション用プレートを細胞外フラックスアナライザーXFpにセットし、キャリブレーションを行った。キャリブレーション終了後、キャリブレーション用プレートと細胞プレートを交換し、酸素消費速度(oxygen consumption rate、OCR)を計測した。基礎呼吸速度を最初に測定し、続いてオリゴマイシン(終濃度: 2 μM)を添加しATP産生を阻害した。次に FCCP(終濃度: 1 μM)を添加し、最大呼吸速度を測定した。最後にロテノン/アンチマイシン A(終濃度: 0.25 μM)を添加し、ミトコンドリアによらない呼吸速度を測定した。全ての測定においては3回ずつ測定を行った。
(統計処理を行った)
得られたデータは平均値±標準偏差(standard deviation, SD)で表し、JMP Pro 16(SAS Institute Inc.)を用いて解析した。群間の多重比較においてはDunnett検定を用い、p < 0.05を統計学的有意水準とした。
(結果と考察)
(細胞毒性及び生存率について)
HK-2細胞に100 μM BSO(100 μM BSO + 0 μM DHMBA群)を添加し、強い細胞毒性(図2A)と低い細胞生存率(図2B)が観察された。次に、100 μM BSOとDHMBAの共処理によって、3.9 μM以上のDHMBAが細胞毒性を抑制し(図2A)、細胞生存率の増加が観察された(図2B)。
この結果は、BSO刺激によって細胞死が起きたが、DHMBAはそれを抑制したことを示すと考えられた。
(細胞内ROS産生量について)
BSOを添加した細胞に細胞内ROSの増加が観察され、DHMBAとの共処理ではROSの産生量がcontrol群と同程度まで減少した(図3A)。また、図3Bの蛍光強度を測定した値からも同じ結果を得た。したがって、BSO刺激により細胞内ROSが蓄積したが、DHMBAはそれを抑制することが明らかとなった。
ここで、図3は、酸化ストレス刺激下におけるDHMBAの細胞内ROSの減少効果を示した図であり、HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを250、500 μMで培養した後、DCFDA染色によって細胞内ROS蛍光画像(A)と蛍光強度(B)の測定を行ったものである。
(ミトコンドリア内ROS産生量について)
図4Aに示したように、BSOの添加によりミトコンドリア内においてもROS蓄積が観察され、DHMBAを同時添加した群において、ミトコンドリア内ROSの蓄積が抑制されることが観察された。また、図4Bの蛍光強度を測定した値からも同じ結果を得た。この結果から、BSO刺激によりミトコンドリア内ROSが蓄積したが、DHMBAはその増加を抑制することが明らかとなった。
ここで、図4は、酸化ストレス刺激下におけるDHMBAのミトコンドリア内ROSの減少効果を示した図であり、HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを250、500 μMで培養した後、DHR123染色によってミトコンドリア内ROS蛍光画像(A)と蛍光強度(B)の測定を行ったものである。Mean ± SD (n = 6)。
(細胞及びミトコンドリア障害関連遺伝子発現量について)
図5に示したように、酸化ストレス刺激下においてBIKとENDOGの遺伝子発現量は増加したが、DHMBA添加によってcontrol群と同程度まで減少した。これらの結果から、BSO刺激により細胞死が起きたが、DHMBA添加により細胞障害が減少し細胞死が抑制されたと考えられた。
ここで、図5は、酸化ストレス刺激下におけるDHMBAの細胞及びミトコンドリア障害関連遺伝子の発現量変化を示した図であり、HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを250、500 μMで培養した後、qPCRによって遺伝子発現量の測定を行ったものである。Mean ± SD (n = 4)。
(ミトコンドリア生合成の関連遺伝子発現量について)
図6に示したように、酸化ストレスによりミトコンドリア生合成に関連するPPARαの遺伝子発現量が増加したが、PGC1α遺伝子の発現量が減少した。更に、DHMBA添加により、PGC1αとTFAMの発現量が増加した。この結果は、DHMBA添加によってミトコンドリアの生合成経路が活性化され、ミトコンドリア数が増加した可能性があると示唆された。
ここで、図6は、酸化ストレス刺激下におけるDHMBAのミトコンドリア生合成関連遺伝子の発現量変化を示したものであり、HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを250、500 μMで培養した後、qPCRによってミトコンドリア生合成関連遺伝子発現量の測定を行ったものである。Mean ± SD (n = 4)。
(ミトコンドリアの形態観察及び融合と分裂関連遺伝子発現量の測定について)
図7Aに示したように、control群ではミトコンドリアが長い線状となり、ネットワークを形成しているように観察された。一方、酸化ストレス刺激下では、ミトコンドリアの断片化を誘導し、DHMBAとの共処理によってその断片化したミトコンドリアは減少し、control群と類似したミトコンドリア形態が観察された。この結果から、BSO添加による細胞とミトコンドリア内ROSの増加がミトコンドリア断片化の原因となったが、DHMBAによって断片化が抑制されたと推察された。
さらに、ミトコンドリアの融合に関連するOPA1、分裂に関連する DRP1及びFIS1遺伝子の発現量について調べた。酸化ストレス条件下では、OPA1の発現量が抑制され、FIS1の発現量が亢進した(図7B)。これらの遺伝子の変化によってミトコンドリアの断片化を誘導したと考えられ、図7Aのミトコンドリアの形態観察の結果と一致した。また、DHMBAの添加によりFIS1の発現量が低下したことから、ミトコンドリアの断片化に対してDHMBAが抑制的に働いたと考えられた。
ここで、図7は、酸化ストレス刺激下におけるDHMBAのミトコンドリア形態への影響及び融合と分裂関連遺伝子の発現量変化を示した図であり、HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを250、500 μMで培養した後、MitoTracker (登録商標) Green FM蛍光染色によってミトコンドリア形態の観察(A)、qPCRによってミトコンドリア融合及び分裂関連遺伝子発現量(B)の測定を行ったものである。Mean ± SD (n = 4)。
(ミトコンドリアの呼吸能について)
ミトコンドリアはエネルギー産生において重要な役割を担うため、本研究ではDHMBAがミトコンドリア呼吸能に与える影響を評価した。ミトコンドリアの電子伝達系に対する阻害剤を添加し経時的に酸素消費速度(OCR)を測定した結果を図8Aに示す。また、各種阻害剤による酸素消費速度の変動は図8Bのように解釈することができる。更に、図9に各種ミトコンドリア機能の変化を示した。24時間BSOの添加により、ミトコンドリア機能への障害が認められなかったが、DHMBA添加によってミトコンドリアの基礎呼吸と最大呼吸、ATP産生が上昇した。DHMBAはそれらのミトコンドリア機能を上昇させる効果が期待できることが示唆された。
ここで、図8は、DHMBAのミトコンドリア酸素消費速度に対する影響を示した図であり、HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを500 μMで24時間培養した後、細胞外フラックスアナライザーを用いて酸素消費速度を測定したものである(図8A)。酸素消費速度の変動よりミトコンドリア機能評価における主要な指標を算出できる(図8B)。Mean ± SD (n = 3-4)。
さらに、図9は、DHMBAのミトコンドリア機能に対する影響
HK-2細胞に対してBSOを100 μM、DHMBAを500 μMで24時間培養した後、細胞外フラックスアナライザーを用いて酸素消費速度を測定し、ミトコンドリア機能評価における主要な指標(基礎呼吸、ATP産生、最大呼吸、予備呼吸能、プロトンリーク、ミトコンドリア非依存的酸素消費)の算出を行った。Mean ± SD (n = 3-4)。
(結論)
BSO添加により誘導された酸化ストレス状態下において、細胞とミトコンドリア内のROS量を増大させて細胞死を誘導したが、そこにDHMBAを添加することによりROSの産生量が減少し、細胞保護効果が認められた。
また、DHMBA添加によってミトコンドリアの断片化が抑制され、ミトコンドリアの生合成経路が活性化され、酸化ストレス障害からミトコンドリアを保護したと考えられる。
更にミトコンドリア呼吸能の測定結果から、酸化ストレス状態下において、ミトコンドリアの基礎呼吸とATP産生、最大呼吸が上昇した。以上の結果から、酸化ストレス刺激下のヒト腎近位尿細管細胞HK-2において、DHMBAが細胞やミトコンドリアに対する保護効果やミトコンドリア機能促進作用があることが示された。
(本発明の製造方法について)
前述した3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とする腎保護有用作用を有する腎保護有用剤等の製造方法につき述べる。
3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)は前記したようにマガキから取得することが出来、本件発明者は前記マガキから3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を効率よく抽出して製造する方法につき多くの特許を既に取得している。また、3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)は合成により生成することも出来、該合成方法についても本件発明者は特許を既に取得している。
そして、本発明では3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)についてはヒトの各臓器につき多くの保護有用性があることを推し量り、それを検証すべく実験を行って発明をするに至った。
よって、本件発明の有用剤は、これら検証を行った上で製造されるものである。

Claims (9)

  1. 3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とする腎保護有用作用を有する、
    ことを特徴とする腎保護有用剤。
  2. 3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の酸化ストレス刺激下におけるミトコンドリア内ROSの減少効果を有する、
    ことを特徴とする酸化ストレス刺激下におけるヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)のミトコンドリア内ROSの減少促進剤。
  3. 3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞毒性抑制作用を有し、ヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞生存率の増加作用を有する、
    ことを特徴とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞毒性抑制剤及びヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞生存率増加剤。
  4. 3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞内に蓄積した活性酸素の増加抑制作用を有する、
    ことを特徴とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞内に蓄積した活性酸素の増加抑制剤。
  5. 3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞のミトコンドリア内に蓄積した活性酸素の増加抑制作用を有する、
    ことを特徴とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞のミトコンドリア内に蓄積した活性酸素の増加抑制剤。
  6. 3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞のミトコンドリアの呼吸を活性させる作用を有を有する、
    ことを特徴とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞のミトコンドリアの呼吸活性剤。
  7. 3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞のミトコンドリア数を増加させる作用を有する、
    ことを特徴とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞のミトコンドリア数増加剤。
  8. 3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)の細胞内ミトコンドリアの断片化を抑制する作用を有し、前記ミトコンドリアの生合成経路を活性化させる作用を有する、
    ことを特徴とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)内のミトコンドリアの断片化抑制剤及びミトコンドリアの生合成経路活性剤。
  9. 3、5-ジヒドロキシ-4-メトキシベンジルアルコール(3、5-dihydroxy-4-methoxybenzyl alcohol)を有効成分とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)細胞内ミトコンドリアのミトコンドリアの基礎呼吸と最大呼吸、ATP産生の上昇作用を有する、
    ことを特徴とするヒト腎近位尿細管細胞(HK-2)内のミトコンドリアのミトコンドリアの基礎呼吸と最大呼吸、ATP産生の上昇剤。
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