JP2023108642A - 抗菌性複合体、抗菌性複合体溶液、抗菌性組成物、及びその製造方法 - Google Patents

抗菌性複合体、抗菌性複合体溶液、抗菌性組成物、及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来の銅剤より少ない銅含有量もしくは少ない施用量で、環境への影響が小さく、かつ従来と同等もしくはそれを上回る抗菌効果が得られる、農業用途に特に適した抗菌性組成物の有効成分として、並びに、農業用途以外の各種の用途に適用することができる抗菌性組成物の有効成分として使用するのに適した抗菌性複合体を提供する。【解決手段】本発明の抗菌性複合体は、生体高分子からなるナノ構造体である担体と、前記担体に担持されたナノ粒子である金属または金属酸化物と、多価の正電荷を有する補助剤とを含有し、前記担体の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.01以上15以下である。【選択図】なし

Description

本発明は、抗菌性複合体、抗菌性複合体溶液、抗菌性組成物、及びその製造方法に関する。
従来、有機農業(有機栽培)でも使用可能な農薬として無機銅剤が知られている。例えば、ボルドー液は、硫酸銅と水酸化カルシウムの混合溶液であり、広範囲の病害に対する優れた予防効果と残効性を有し、かつ安価であることなどから、果樹や野菜などの幅広い作物で使用されている。
一方、近年の有機農業の広まりと共に、無機銅剤の使用量も増え、土壌中の銅蓄積による汚染が問題になりつつある。また、上述したボルドー液に含まれる硫酸銅は水棲生物に対して強い毒性を有するため、河川等への流入を防ぐ必要がある。加えて、硫酸銅は葉や果実には銅害を引き起こすため、硫酸銅を含有する製剤は、使用時期が限られる。したがって、より少ない銅含有量の製剤で、従来と同等の効果が得られることが望ましい。
より少ない施用量の銅含有製剤で対象の農作物等を処理する試みとしては、特許文献1において、「水溶性ポリマーを含み、かつ1~200nmの一次粒径を有する銅塩粒子の有効量で処理することによる植物病原性微生物の防除方法であって、前記銅塩が、銅イオンと沈殿物を形成し、かつヒドロキシドではないアニオンを含む、前記方法」が提案されている。
特表2013-512870号公報
本発明は、従来の銅剤より少ない銅含有量もしくは少ない施用量で、環境への影響が小さく、かつ従来と同等もしくはそれを上回る抗菌効果が得られる、農業用途に特に適した抗菌性組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、抗菌性組成物に含まれる金属の種類として、一定の抗菌作用を有する金属(例えば、銅、銀、金、白金、亜鉛、コバルト、ニッケル、パラジウム、アルミニウム、及びこれらの組み合わせなど)を用いる、あるいは、金属酸化物(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム、酸化ジルコニウム、及びこれらの組み合わせなどの、光触媒反応による抗菌作用を有する化合物)を含有させることで、農業以外の医療、介護、畜水産、食品などの産業用途、並びに、一般用途に適用可能な抗菌性組成物を提供することも目的とする。
また、本発明は、上記抗菌性組成物の有効成分として使用するのに適した抗菌性複合体、及び抗菌性複合体溶液を提供することも目的とする。
本発明の抗菌性複合体は、生体高分子からなるナノ構造体である担体と、前記担体に担持されたナノ粒子である金属または金属酸化物と、多価の正電荷を有する補助剤とを含有し、前記担体の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.01以上15以下であり、これにより上記課題を解決する。
前記金属または金属酸化物の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]は、0.3以上200以下であってもよい。
前記担体の含有量に対する前記金属または金属酸化物の含有量の質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]は、0.02以上0.5以下であってもよい。
上記の抗菌性複合体において、前記担体の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.02以上15以下であり、前記金属または金属酸化物の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、0.5以上200以下であり、前記担体の含有量に対する前記金属または金属酸化物の含有量の質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.04以上0.5以下であり、水溶性テトラゾリウム塩還元反応を基にした微生物代謝活性測定法によって測定される、前記金属または金属酸化物の含有量換算の、大腸菌及び/または黄色ブドウ球菌の最小生育阻止濃度(MIC)の値が、参照試料について測定されるMIC値に対する比で、0.8以下であってもよい。
上記の抗菌性複合体において、前記金属または金属酸化物の粒径が、1nm以上250nm以下であってもよい。
また、前記金属は、銅、銀、金、白金、亜鉛、コバルト、ニッケル、パラジウム、アルミニウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されてもよい。
また、前記金属酸化物は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム、酸化ジルコニウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されてもよい。
また、前記生体高分子は、セルロース、キトサン、キチン、シルク、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、デンプン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されてもよい。
また、前記担体は、ナノファイバーであってもよい。
また、前記補助剤は、マグネシウム塩、カルシウム塩、またはこれらの組み合わせ、あるいは、第4級アンモニウム塩であってもよい。
本発明の抗菌性複合体溶液は、上記の抗菌性複合体と、任意の溶媒とを含有し、これにより上記課題を解決する。
上記の抗菌性複合体溶液において、前記担体が、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーであり、前記金属または金属酸化物が、銅のナノ粒子であり、前記補助剤が、マグネシウム塩、カルシウム塩、またはこれらの組み合わせであり、前記担体の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.5以上5以下であり、前記金属または金属酸化物の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、5以上50以下であり、前記担体の含有量に対する前記金属または金属酸化物の含有量の質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.03以上0.25以下であってもよい。
また、上記の抗菌性複合体溶液において、前記担体が、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーであり、前記金属または金属酸化物が、銅のナノ粒子であり、前記補助剤が、第4級アンモニウム塩であり、前記担体の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.1以上12.5以下であり、前記金属または金属酸化物の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、0.5以上85以下であり、前記担体の含有量に対する前記金属または金属酸化物の含有量の質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.03以上0.25以下であってもよい。
また、上記の抗菌性複合体溶液において、前記担体が、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーであり、前記金属または金属酸化物が、銀のナノ粒子であり、前記補助剤が、第4級アンモニウム塩であり、前記担体の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.3以上5以下であり、前記金属または金属酸化物の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、5以上200以下であり、前記担体の含有量に対する前記金属または金属酸化物の含有量の質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.02以上0.1以下であってもよい。
本発明の抗菌性組成物は、上記の抗菌性複合体、または、上記の抗菌性複合体溶液を含有し、これにより上記課題を解決する。
本発明の農業用抗菌性組成物は、上記の抗菌性複合体溶液を含有し、これにより上記課題を解決する。
本発明の抗菌性複合体溶液の製造方法は、前記担体を含有する担体溶液を調製することと、前記担体溶液に金属ナノ粒子の分散液を添加し、撹拌混合することと、得られた混合液に前記補助剤を添加し、さらに撹拌混合することとを包含する。
本発明によれば、従来の銅剤より少ない銅含有量もしくは少ない施用量で、環境への影響が小さく、かつ従来と同等もしくはそれを上回る抗菌効果が得られる、農業用途に特に適した抗菌性組成物の有効成分として、並びに、農業用途以外の各種の用途に適用することができる抗菌性組成物の有効成分として使用するのに適した抗菌性複合体が提供される。即ち、本発明の抗菌性複合体は、これを含有する溶液をそのまま、あるいは任意の希釈剤で希釈するなどして抗菌性組成物とすることで、農業をはじめとする各種の用途に適用することができる。
本発明の抗菌性複合体溶液の例示的な製造方法を示すフローチャートである。 実施例の試験例4で用いた試験溶液に関し、質量比[(補助剤)/(金属)]の値と、大腸菌に対するMIC値(Cu ppm)または黄色ブドウ球菌に対するMIC値(Cu ppm)とを両対数グラフ上にプロットした結果を示す図である。 実施例の試験例4で用いた試験溶液に関し、質量比[(補助剤)/(金属)]の値と、大腸菌に対するMIC値(BzCl ppm)または黄色ブドウ球菌に対するMIC値(BzCl ppm)とを両対数グラフ上にプロットした結果を示す図である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[抗菌性複合体:Antimicrobial Composite]
本発明の抗菌性複合体(以下、単に「複合体」とも称する。)は、生体高分子からなるナノ構造体である担体と、当該担体に担持されたナノ粒子である金属または金属酸化物と、多価の正電荷を有する補助剤とを含有する。
なお、本発明において、上記担体と、上記金属または金属酸化物と、上記補助剤とを含有するとは、上記担体と、上記金属または金属酸化物と、上記補助剤とを配合してなることをも意味する。
[担体:Support]
本明細書において、「担体」とは、後述する金属または金属酸化物を固定する土台となる物質を意味する。即ち、本発明において、担体は、金属または金属酸化物を担持する支持体(Supporting Body)である。
担体は、ナノ構造体(Nanostructure)である。ナノ構造体としては、例えば、ナノ粒子、ナノファイバー、ナノワイヤー、ナノロッド、ナノチューブ、ナノフィルムなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、本発明で用いる担体の構造(形状)は、一種類であってもよく、複数種類であってもよい。
本明細書において、「ナノ構造体」とは、当該構造体の形状に応じて通常用いられる大きさの指標(長さ、幅、直径など)のうちの少なくとも一つが、ナノオーダー(1nm~1000nmの範囲)であるものを意味する。例えば、ナノ粒子の場合、粒子(粒子状物質)の平均径(以下、単に「粒径」ともいう。)が1nm~1000nmの範囲であるものが意図される。また、ナノファイバーの場合、ファイバー(繊維状物質)の直径が1nm~1000nmの範囲であるものが意図される。より狭義には、ナノファイバーとしては、直径が1nm~100nmの範囲であり、長さが直径の100倍以上の繊維状物質が意図される。
本明細書において、担体を構成する「生体高分子」とは、生物の細胞が作り出す天然の高分子を意味し、生体由来高分子とも呼ばれる。一般に、生体高分子は、分子を構成する繰り返しの単位であるモノマーと、生体高分子の構造によって、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、及び多糖の3つの主要なクラスに分類される。本発明においては、これらの3つのクラスに分類されるいずれの生体高分子であっても、担体として使用することができる。
具体的には、生体高分子は、セルロース、キトサン、キチン、シルク、ゼラチン、コラーゲン、デンプン、及びアルギン酸からなる群より選択されることが好ましい。中でも、多糖に分類される生体高分子として、植物を構成するセルロース;カニやエビ、甲虫の殻の主成分であるキチン;及びキチンから得られるキトサンは、天然に多く存在する高分子であり、生分解性を有するため、環境への影響が少ないと考えられることから、担体として使用するのに好適である。
[金属または金属酸化物:Metal / Metal Oxide]
ナノ粒子である金属または金属酸化物は、上述した担体に担持されている。言い換えると、本発明の抗菌性複合体において、ナノ粒子である金属または金属酸化物は、担体を構成する生体高分子に固定されている。この固定様式は特に限定されないが、例えば、静電相互作用などの物理的相互作用もしくは化学的相互作用(共有結合、イオン結合、金属結合、配位結合などの化学結合の形成)による吸着が挙げられる。
本明細書において、金属または金属酸化物に関して用いられる「ナノ粒子」とは、粒径が1nm~1000nmの範囲である微粒子を意味する。ナノ粒子の粒径は、レーザー光源を用いる動的光散乱法(Dynamic Light Scattering:DLS)によって得られる値を使用するものとする。具体的には、ISO 22412:2017に準拠した手法を用い、溶液中に分散している微粒子にレーザー光を照射し、その散乱光を光子検出器で観測することによって、当該微粒子の粒径を測定する。
本発明で用いる金属または金属酸化物のナノ粒子の粒径としては特に制限されないが、粒径がより小さい値であると、担体の一定の範囲に対して担持される金属または金属酸化物の微粒子の数が多くなり、これらの微粒子の表面のより広い範囲が対象物と接触することができる。そのため、例えば銅ナノ粒子の場合には、金属銅の抗菌作用のメカニズムの一つであると考えられている活性酸素の発生や、金属銅の表面からの銅(II)イオンの溶出が生じやすくなるなど、金属ナノ粒子が有する抗菌性がより効果的に発揮されることが期待される。また、金属酸化物ナノ粒子の場合には、微粒子の表面のより広い範囲で光を吸収することができ、光触媒反応による抗菌作用がより効果的に得られることが期待される。具体的には、金属または金属酸化物のナノ粒子の粒径は、1nm以上250nm以下であってもよく、1nm以上200nm以下であってもよく、1nm以上150nm以下であってもよく、1nm以上100nm以下であってもよい。
金属ナノ粒子を構成する金属としては、一定の抗菌性を有するものであれば、その種類は特に限定されない。言い換えると、ある種の金属には一定の抗菌作用(もしくは殺菌作用)があることは従来知られているので、使用目的や対象物などに応じて、任意の金属を選択することができる。例えば、農業用途の場合には、対象の農作物に発生し得る病気の原因菌(植物病原細菌)に対する抗菌作用が知られているもしくは期待される金属を使用することができる。また、金属は一種類であってもよく、複数種類を組み合わせてもよい。但し、人畜や環境に対する影響を考慮して、金属を選択することが好ましい。
具体的には、本発明において好ましく使用し得る金属としては、例えば、銅、銀、金、白金、亜鉛、コバルト、ニッケル、パラジウム、アルミニウム、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
金属酸化物ナノ粒子を構成する金属酸化物としては、一定の抗菌性を有するものであれば、その種類は特に限定されない。例えば、従来、ある種の金属酸化物が光触媒反応による抗菌作用を有することが知られているので、使用目的や対象物などに応じて、任意の金属酸化物を選択することができる。もちろん、金属酸化物による抗菌作用のメカニズムは、光触媒反応以外のものであっても構わない。また、金属酸化物は一種類であってもよく、複数種類を組み合わせてもよい。但し、人畜や環境に対する影響を考慮して、金属酸化物を選択することが好ましい。
具体的には、本発明において好ましく使用し得る金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム、酸化ジルコニウム、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。なお、上で列挙した金属酸化物はいずれも、光触媒反応による抗菌作用を有する化合物である。
なお、金属または金属酸化物の抗菌性の評価基準としては、生菌数(viable bacteria count;一般生菌数とも呼ばれる)を用いることができる。これは、食品の衛生学的品質を評価する衛生指標菌(汚染指標菌)の一つであり、寒天培地で一定の温度条件や栄養条件を整えた際、その中で発育する菌の数を測定したものである。ここで、測定対象の菌としては、大腸菌・大腸菌群、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌などがある。
また、金属を用いた抗菌加工製品の抗菌性に関しては、JIS規格において、大腸菌及び黄色ブドウ球菌が評価対象とされている。そのため、本発明の抗菌性複合体の抗菌性の評価に際しては、大腸菌及び/または黄色ブドウ球菌を用いた試験を採用することができる。後述する実施例では、実際にこれらの菌を用いた試験により、本発明の抗菌性複合体を含有する抗菌性複合体溶液、抗菌性組成物の抗菌性能を評価した試験例について説明する。
[補助剤:Auxiliary Agent]
本明細書において、「補助剤」とは、金属または金属酸化物が担体に担持された構造を形成しやすくする、及び/または、当該構造を維持しやすくする目的で、並びに/あるいは、複合体が有する抗菌性を維持もしくは高める目的で、複合体に含有される物質を意味する。言い換えると、補助剤は、一般に農薬などの薬剤の有効成分の効力を維持もしくは増強したり、施用(使用)を容易にしたりするための物質(アジュバント:Adjuvant)としての意味と、これらの目的で製造時もしくは製剤時に添加される物質(添加剤:Additive)としての意味の少なくとも一方または両方を有し得る。
補助剤は、多価の正電荷を有する物質である。補助剤が多価の正電荷を有することにより、金属または金属酸化物が担体に担持された構造が形成されやすくなり、かつ/または、当該構造が維持されやすくなる。これにより、複合体が有する抗菌性を効果的に維持することができる。加えて、補助剤がそれ単独で抗菌性・殺菌性を有する場合には、複合体が有する抗菌性を高めることができる。具体的には、補助剤としては、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、第4級アンモニウム塩などが挙げられるが、これらに限定されない。
マグネシウム塩及びカルシウム塩は、それぞれ、水溶液中で電離してマグネシウムイオン(Mg2+)及びカルシウムイオン(Ca2+)を生じる。これらはいずれも、環境中の存在量が多い、多価の陽イオンとして知られている。
マグネシウム塩としては、例えば、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、L-グルタミン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウムが挙げられる。
カルシウム塩としては、塩化カルシウム、酸化カルシウム、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウムが挙げられる。
上記のマグネシウム塩及びカルシウム塩はいずれも、食品添加物として使用し得る物質であるので、安全性の観点で好ましい。
また、第4級アンモニウム塩も自然界に存在し、塩化アセチルコリン、トリメチルグリシン、L-カルニチンなどの生体内化合物として知られている。これまで第4級アンモニウム塩として多数の化合物が合成されており、様々な用途が報告されている。
中でも、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムは、抗菌性を有することが知られており、低水準消毒薬として使用されているので、本発明において、補助剤として使用するのに好適である。また、塩化セチルピリジニウムは、歯磨き剤、うがい薬、洗口剤などに使用されている殺菌成分であるので、本発明において、補助剤として使用することができる。本発明の抗菌性複合体がこれらの第4級アンモニウム塩を含有することで、第4級アンモニウム塩が有する抗菌・殺菌効果と、金属または金属酸化物が有する抗菌効果とが相加的もしくは相乗的に作用することが期待できる。具体的には、例えば、本発明の抗菌性複合体が、金属または金属酸化物として銅のナノ粒子を含有し、かつ、補助剤として塩化ベンザルコニウムを含有する場合には、塩化ベンザルコニウムによる即効的な抗菌活性と、金属銅の表面からの銅(II)イオンの溶出や活性酸素の発生などによる遅効的な抗菌活性の両方の効果が、二段階に組み合わさった形態で、または、これらの効果が掛け合わさった形態で、対象物に作用することが期待できる。言い換えると、使用目的や対象物などに応じて予め選択された金属または金属酸化物の種類を考慮して、それと組み合わせる補助剤を選択することで、所望の抗菌効果がより効率的に発揮される複合体とすることができる。
[各構成成分の含有割合]
次に、上述した本発明の抗菌性複合体に含有される各構成成分の含有割合、具体的には、担体、金属または金属酸化物、及び補助剤の含有量の質量比について説明する。
上記担体の含有量に対する上記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(担体)]は、0.01以上15以下であることが好ましい。これにより、担体が金属または金属酸化物を担持した構造がより確実に維持される。言い換えると、複合体の製造時において、担体に対する補助剤の質量比が上記範囲内となるように配合すると、担体が金属または金属酸化物を担持した構造が形成されやすい。なお、このような作用は、本質的には、複合体に含有される担体の分子数と補助剤の分子数(イオン化している場合にはイオン数)の関係が影響しているものと考えられる。しかし、本発明の抗菌性複合体において想定され得る担体と補助剤のすべての組み合わせについて、当該関係を分析し、一定の指標を導くことはおよそ現実的ではない。そのため、本発明では、分子数(イオン数)の関係に代わる指標として、質量比を用いることとする。後述する質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]、及び、質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]についても同様である。
この質量比[(補助剤)/(担体)]は、使用する補助剤の種類によって調整することができる。例えば、補助剤が、マグネシウム塩、カルシウム塩、またはこれらの組み合わせである場合には、当該質量比は、0.05以上15以下であってもよく、0.05以上10以下であってもよく、0.1以上10以下であってもよく、0.1以上5以下であってもよく、0.5以上5以下であってもよい。また、補助剤が、第4級アンモニウム塩である場合には、当該質量比は、0.025以上15以下であってもよく、0.05以上15以下であってもよく、0.05以上12.5以下であってもよく、0.1以上12.5以下であってもよく、0.1以上10以下であってもよく、0.1以上5以下であってもよく、0.1以上2.5以下であってもよい。
上記金属または金属酸化物の含有量に対する上記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]は、0.3以上200以下であることが好ましい。これにより、金属または金属酸化物が担体に担持された構造がより確実に維持され、複合体が有する抗菌性がより効率的に発揮される。言い換えると、複合体の製造時において、金属または金属酸化物に対する補助剤の質量比が上記範囲内となるように配合すると、金属または金属酸化物が担体に担持された構造が形成されやすく、当該構造がより確実に維持されるため、複合体に含有される金属または金属酸化物が有する抗菌性がより効率的に発揮されやすい。
この質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]は、使用する補助剤の種類によって調整することができる。例えば、補助剤が、マグネシウム塩、カルシウム塩、またはこれらの組み合わせである場合には、当該質量比は、0.45以上150以下であってもよく、0.5以上100以下であってもよく、1以上100以下であってもよく、5以上75以下であってもよく、5以上50以下であってもよく、5以上45以下であってもよく、5以上40以下であってもよい。また、補助剤が、第4級アンモニウム塩である場合には、当該質量比は、0.3以上150以下であってもよく、0.3以上100以下であってもよく、0.5以上85以下であってもよく、0.5以上50以下であってもよく、0.5以上25以下であってもよく、0.5以上10以下であってもよい。特に、後者の場合には、第4級アンモニウム塩が有する抗菌・殺菌効果と、金属または金属酸化物が有する抗菌効果とが相加的もしくは相乗的に作用することが期待できる一方、使用目的や対象物などによっては、第4級アンモニウム塩の含有量が少ないことが望ましい場合があるので、当該質量比は、比較的小さい値(例示的には25以下、または、10以下)であってもよい。これに対して、前者の場合には、マグネシウム塩及び/またはカルシウム塩の含有量が多く、当該質量比が比較的大きい値であっても、人畜や環境への影響はそれほど大きくないと考えられるが、製造効率や製造コストなどの観点からは、マグネシウム塩及び/またはカルシウム塩の含有量を少なくし、当該質量比を50以下とすることが好ましい。
上記担体の含有量に対する上記金属または金属酸化物の含有量の質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]は、0.02以上0.5以下であることが好ましい。これにより、複合体に含有される、金属または金属酸化物が担体に担持された構造体が、対象物に対して発揮し得る抗菌性をより高めることができる。言い換えると、例えば、金属または金属酸化物の含有量が多く、当該質量比が大きい値であると、理論上は、金属または金属酸化物が有する抗菌性が発揮されやすいと考えられるが、対象物への付着性が低下することで、残効性が減少する可能性がある。一方、金属または金属酸化物の含有量が少なく、当該質量比が小さい値であると、担体を構成する生体高分子の性質によって対象物への付着性が向上し得るが、担体に担持されている金属または金属酸化物の数が少ないことに起因して抗菌性が低下する可能性がある。この点、質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が上記範囲内であると、所望の抗菌性を発揮することが可能であり、かつ、対象物への付着性が良好であり、十分な残効性を有する複合体とすることができる。
このような観点から、この質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]は、使用する金属または金属酸化物及び担体の種類によって調整することができる。さらには、使用する補助剤の種類を考慮してもよい。
例えば、金属または金属酸化物が、銅のナノ粒子である一態様において、当該質量比は、0.03以上0.25以下であってもよい。この態様において、担体としては、例えば、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーであってもよい。さらに、補助剤としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、またはこれらの組み合わせであってもよい。
また、金属または金属酸化物が、銅のナノ粒子である別の態様において、当該質量比は、0.03以上0.25以下であってもよい。この態様において、担体としては、例えば、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーであってもよい。さらに、補助剤としては、第4級アンモニウム塩であってもよい。
また、金属または金属酸化物が、銀のナノ粒子である別の態様において、当該質量比は、0.02以上0.1以下であってもよい。この態様において、担体としては、例えば、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーであってもよい。さらに、補助剤としては、第4級アンモニウム塩であってもよい。
ここで、上述した三種類の質量比について、例示的な好ましい実施形態では、以下の条件を満たす:
上記質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.02以上15以下であり、
上記質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、0.5以上200以下であり、
上記質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.04以上0.5以下である。
さらに、この実施形態に係る抗菌性複合体は、水溶性テトラゾリウム塩還元反応を基にした微生物代謝活性測定法によって測定される、金属または金属酸化物の含有量換算の、大腸菌及び/または黄色ブドウ球菌の最小生育阻止濃度(Minimal Inhibitory Concentration:MIC)の値が、参照試料よりも低い。
ここで、「参照試料」とは、上記三種類の質量比の条件を満たさず、かつ、これらの範囲の下限もしくは上限に近いものであって、含有される担体、金属または金属酸化物、補助剤の種類が、当該実施形態に係る抗菌性複合体と実質的に同種のもので作製された試料が意図される。即ち、参照試料は、本発明の抗菌性複合体の抗菌性を評価するための基準として用いられる試料である。例えば、上述した無機銅剤のように、既存の薬剤が存在する場合には、当該薬剤との対比によって本発明の抗菌性複合体の抗菌性を評価することができるが、そのような薬剤が存在しない場合や、使用する金属または金属酸化物、あるいは補助剤の種類によっては、既存の薬剤との対比によって本発明の抗菌性複合体の抗菌性を評価することが適切ではない場合もあり得る。そのような事情を考慮すると、上記参照試料を用いることの意義は理解されるはずである。また、そのような参照試料を作製する際の条件等も、当業者であれば、適宜設定することが可能である。
また、上記実施形態に係る抗菌性複合体、及び参照試料の抗菌性は、水溶性テトラゾリウム塩還元反応を基にした微生物代謝活性測定法によって測定される、金属または金属酸化物の含有量換算の、大腸菌及び/または黄色ブドウ球菌の最小生育阻止濃度(MIC)の値を用いて評価することができる。当該微生物代謝活性測定法の具体的な手順の一例は、後述する実施例の試験例4に記載される通りである(参考文献 日本食品化学工業会誌62巻7号321-327、2015)。ここで、本実施形態に係る抗菌性複合体によって得られるMIC値が、参照試料のMIC値よりも低いとは、両者のMIC値の比([本実施形態の複合体]/[参照試料])が1未満であることを意図する。当該比は、0.8以下であることが好ましく、0.75以下であることがより好ましい。特に、補助剤が第4級アンモニウム塩である態様では、第4級アンモニウム塩が有する抗菌・殺菌効果と、金属または金属酸化物が有する抗菌効果とが相加的もしくは相乗的に作用することで本実施形態の複合体が高い抗菌活性を示す結果、上記比は、0.5以下、0.25以下、0.125以下、あるいは、0.1未満であり得る。
[抗菌性複合体溶液]
本発明の抗菌性複合体は、任意の溶媒と混合された状態で、抗菌性複合体溶液としても提供され得る。即ち、本発明の抗菌性複合体溶液は、上記抗菌性複合体と、任意の溶媒とを含有する。
なお、本発明において、上記抗菌性複合体と、上記任意の溶媒とを含有するとは、上記担体と、上記金属または金属酸化物と、上記補助剤と、上記任意の溶媒とを配合してなることをも意味する。
溶媒の種類としては特に制限されず、溶液の用途、対象物などに応じて適宜選択することができる。例えば、典型的な一実施形態では、溶媒は水である。また、別の実施形態では、溶媒は、水、アルコール類(例えば、メタノール、エタノールなど)、及びこれらの混合溶媒であってもよい。
ここで、本発明の抗菌性複合体溶液に含有される複合体の各構成成分(担体、金属または金属酸化物、及び補助剤)の含有割合に関して上述した三種類の質量比について、より具体的な実施形態を例示すると以下の通りである。
<実施形態L1>
上記質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.5以上5以下であり、
上記質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、5以上50以下であり、
上記質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.03以上0.25以下である。
ここで、上記担体は、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーであってもよい。
また、上記金属または金属酸化物は、銅のナノ粒子であってもよい。
また、上記補助剤は、マグネシウム塩、カルシウム塩、またはこれらの組み合わせであってもよい。
<実施形態L2>
上記質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.1以上12.5以下であり、
上記質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、0.5以上85以下であり、
上記質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.03以上0.25以下である。
ここで、上記担体は、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーであってもよい。
また、上記金属または金属酸化物は、銅のナノ粒子であってもよい。
また、上記補助剤は、第4級アンモニウム塩であってもよい。
<実施形態L3>
上記質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.3以上5以下であり、
上記質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、5以上200以下であり、
上記質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.02以上0.1以下である。
ここで、上記担体は、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーであってもよい。
また、上記金属または金属酸化物は、銀のナノ粒子であってもよい。
また、上記補助剤は、第4級アンモニウム塩であってもよい。
実施形態L1は、金属または金属酸化物を、銅のナノ粒子とし、補助剤を、マグネシウム塩、カルシウム塩、またはこれらの組み合わせとすることで、農業用途に好適に使用し得る。また、農業用途以外にも、人畜に対する影響が小さいこと(安全性が高いこと)や、環境への負荷の低減がより重視される用途に使用するのに適している。
実施形態L2は、金属または金属酸化物を、銅のナノ粒子とし、補助剤を、第4級アンモニウム塩とすることで、一般細菌などに対する抗菌性がより確実に得られることが重視される用途(例えば、医療、介護など)に好適に使用し得る。
実施形態L3は、金属または金属酸化物を、銀のナノ粒子とし、補助剤を、第4級アンモニウム塩とすることで、実施形態L2と同様に、一般細菌などに対する抗菌性がより確実に得られることが重視される用途(例えば、医療、介護など)に好適に使用し得る。
加えて、実施形態L1~実施形態L3のいずれも、担体を、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーとすることで、対象物への付着性が良好であり、十分な残効性を有する複合体を含有する抗菌性複合体溶液となる。さらに、上記質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が0.04以上であると、対象物への付着性と残効性により優れた抗菌性複合体溶液とすることができる。
なお、上述した金属または金属酸化物、補助剤、及び担体の組み合わせは例示であって、これら以外の組み合わせであっても、目的の用途に適した抗菌性複合体溶液を得ることが可能であることに留意されたい。
[抗菌性複合体溶液の製造方法]
次に、本発明の抗菌性複合体溶液の製造方法について説明する。
図1は、本発明の抗菌性複合体溶液の例示的な製造方法を示すフローチャートである。
ステップS110:担体を含有する担体溶液を調製する。
担体溶液の溶媒としては特に制限されない。上述した本発明の抗菌性複合体溶液の溶媒と同様に、溶液の用途、対象物などに応じて適宜選択すればよい。例えば、典型的な一実施形態では、担体溶液の溶媒は水である。また、別の実施形態では、担体溶液の溶媒は、水、アルコール類(例えば、メタノール、エタノールなど)、及びこれらの混合溶媒であってもよい。
ステップS120:ステップS110で得られた担体溶液に金属ナノ粒子または金属酸化物ナノ粒子の分散液を添加し、撹拌混合する。
金属ナノ粒子または金属酸化物ナノ粒子の分散液の溶媒としては、担体溶液との混和性が良好であるものが選択される。典型的な一実施形態では、金属ナノ粒子または金属酸化物ナノ粒子の分散液の溶媒は、担体溶液の溶媒と同じであり、例えば、水である。また、別の実施形態では、担体溶液の溶媒が複数種類の溶媒の混合溶媒である場合、金属ナノ粒子または金属酸化物ナノ粒子の分散液の溶媒は、当該混合溶媒と同じ組成を有する溶媒であってもよく、当該混合溶媒と実質的に同じ組成もしくは類似の組成を有しかつ混和性が良好な溶媒であってもよい。
なお、撹拌混合する際の撹拌速度、撹拌時間などの条件は、溶液の液量などを考慮して適宜設定すればよい。
ステップS130:ステップS120で得られた混合液に補助剤を添加し、さらに撹拌混合する。
上記混合液への補助剤の添加方法は、補助剤の形態(固体であるか、液体であるかなど)、添加量などを考慮して適宜選択すればよい。また、撹拌混合する際の撹拌速度、撹拌時間などの条件は、ステップS120と同様に、溶液の液量や添加した補助剤の量などを考慮して適宜設定すればよい。
[抗菌性組成物]
次に、本発明の抗菌性組成物について説明する。
本発明の抗菌性組成物は、上で説明した本発明の抗菌性複合体、または、本発明の抗菌性複合体溶液を含有する。即ち、本発明の抗菌性組成物は、本発明の抗菌性複合体、または、本発明の抗菌性複合体溶液を有効成分として含有する。また、本発明の抗菌性組成物は、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤、着色剤、増量剤、防腐剤、凍結防止剤、安定化剤、及び/または、pH調節剤などの任意成分を含有し得る。
本発明の抗菌性組成物は、使用目的や対象物などに応じて、所望の剤型に製剤化することができる。製剤としては、具体的には、粉剤、水和剤、顆粒水和剤、水溶剤、顆粒水溶剤、粒剤などの固形製剤;乳剤、液剤、マイクロエマルション剤、水性懸濁製剤、水性乳濁製剤、サスポエマルション製剤などの液状製剤のいずれの剤型であってもよく、幅広い製剤の種類に製剤化することができる。また、上に例示した具体的な剤型以外の剤型であっても、直接または希釈した後で、対象物と接触させるなどして適用可能な任意の製剤とすることができる。
ここで、本発明の抗菌性組成物の代表的な一実施形態として、農業用途に特に適した農業用抗菌性組成物について説明する。
本明細書において、「農業用途に特に適した」とは、典型的には、病気や害虫による農作物への被害を防ぐことを目的として使用するのに特に適していることを意図する。
本明細書において、「農作物」とは、典型的には、田畑につくる栽培植物を意味する。加えて、山野に自生し、食用に供される植物、すなわち、山菜も、農作物に含めるものとする。栽培植物に関し、その栽培方法(栽培手法)は特に限定されない。例えば、露地栽培、ハウス栽培、水耕栽培、促成栽培、原木栽培、菌床栽培、工場栽培などが挙げられる。また、野生植物に人間が手を加え、野生と栽培の中間的な状態で育てる半栽培であってもよい。
本実施形態に係る抗菌性組成物の一態様は、上述した本発明の抗菌性複合体において、金属または金属酸化物が、銅のナノ粒子であり、補助剤が、マグネシウム塩、カルシウム塩、またはこれらの組み合わせ、あるいは、第4級アンモニウム塩である。
即ち、本態様に係る抗菌性組成物は、農業用途に特に適した、抗菌性を有する、銅含有組成物である。また、本態様に係る抗菌性組成物は、本発明の抗菌性複合体溶液を含有することが好ましく、当該溶液の溶媒は、水であることがより好ましい。
本態様に係る抗菌性組成物を液状製剤(例えば、水性懸濁製剤)に製剤化した場合、当該製剤(銅剤)は、そのまま使用可能なものであってもよいし、任意の溶媒(例えば、水)で適宜希釈して使用可能なものであってもよい。
本態様に係る抗菌性組成物は、典型的には、青果物に使用するのに好適である。しかし、本態様に係る抗菌性組成物を適用可能な農作物は青果物に限定されない。例えば、農作物の別の態様としては、穀類(イネ;大麦、小麦、ライ麦などの麦類;トウモロコシ;そば等)が挙げられる。
本明細書において、「青果物」とは、典型的には、栽培された果樹、食用樹木、木本植物、草本植物等から得られる作物を意味するが、山菜も、青果物に含めるものとする。
具体的には、青果物には、果物、野菜、きのこ、山菜が含まれる。果物とは、食用に供される果実を意味する。野菜には、利用される部位による分類として、葉菜類、根菜類、果菜類が含まれる。キノコとは、菌類に分類される生物群のうち、肉眼的な大きさの子実体を形成するもの、またはその子実体そのものであって、食用に供されるものを意味する。山菜とは、山野に自生し、食用に供される植物を意味する。
ここで、果物、野菜、山菜の例には、例えばイチゴのように果物にも野菜(果菜類)にも分類され得るものがある。また、アサツキのように野菜(葉菜類)にも山菜にも分類され得るものがある。このように、青果物に含まれる作物について、必ずしも1つの作物を1つの分類に当てはめることができない場合があり得ることに留意されたい。一方で、本態様に係る抗菌性組成物は、汎用性が高いことをその特徴の一つとしているが、青果物に含まれる作物について網羅的にその効果を実証することはおよそ実際的ではなく、不可能であると言える。
そこで、以下では、本態様に係る抗菌性組成物を適用可能な青果物の分類(グループ分け)の一例として、農林水産省が所管する農薬登録における適用作物の分類を参照した場合の態様について説明する。
・参照URL:
https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sasshin/group/top.html
https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sasshin/group/sakumotu_bunrui.html
本態様では、青果物には、果樹類(Fruits)、野菜類(Vegetables)、きのこ類(Edible fungi)が含まれる。
果樹類には、かんきつ類(Citrus fruits)、仁果類(Pome fruits)、核果類(Stone fruits)、ベリー類等の小粒果実類(Berries and other small fruits)が含まれる。
野菜類には、いも類(Tuberous and corm vegetables)、根菜類(Root vegetables)、鱗茎類(Bulb vegetables)、豆類(種実)(Pulses)、豆類(未成熟)(Legume vegetables)、うり類(Fruiting vegetables, Cucurbits)、なす科果菜類(Fruiting vegetables, Solanaceous plants)、あぶらな科野菜(花蕾及び茎)(Brassica vegetables(Flowerhead and Stem Brassicas))、葉菜類(Leafy vegetables)、茎野菜類(Stalk and Stem vegetables)、食用花類(Edible flowers)が含まれる。
きのこ類としては、えのきたけ、エリンギ(カオリヒラタケ)、しいたけ、なめこ、ひらたけ、ぶなしめじ、まいたけ、マッシュルーム(ツクリタケ)が含まれる。
より詳細には、果樹類に含まれる核果類としては、もも類(Peaches)、小粒核果類(Small stone fruits)、おうとう(さくらんぼ)が含まれる。
もも類としては、もも、ネクタリンが含まれる。
小粒核果類としては、あんず(アプリコット)、うめ、すもも(プラム、プルーン)、及び、これらの作物間の交配種が含まれる。
ここで、もも栽培における病害として、モモせん孔細菌病が知られている。
日本国においては、モモせん孔細菌病の病原細菌は、前年の秋季に枝に感染してそのまま越冬し、翌年の春季に伝染源である春型枝病斑(スプリングキャンカー)を形成して周囲に飛散することが知られている。春型枝病斑の発生が多い場合には、モモせん孔細菌病の被害が大きくなる危険性が高くなるため、病斑のせん除や農薬散布が重要な防除対策となる。また、春型枝病斑は長期間にわたって発生するため、病斑のせん除や農薬散布を複数回実施する必要がある。具体的な防除方法としては、従来、開花始めにボルドー液を散布して春型枝病斑からの感染を防ぐ;次いで、落花期から収穫期まで10日~14日間隔で抗生物質剤を中心に予防散布する;この開花始めから収穫期直前までの間に病斑のせん除作業を複数回行う;さらに、収穫期後の9月中下旬~10月上旬に2~3回ボルドー液を散布して枝への秋季感染を防ぐ、などの手法が採用されている。また、圃場の周囲に防風ネットや防風垣を設置することや、果実袋を早期にかけることで果実被害を軽減するといった対策も行われている。
このように、モモせん孔細菌病による被害の低減には、圃場内の菌の密度を常に低い状態に保っておくことが重要であるが、農業従事者の負担軽減の観点から、農薬散布による効果的な防除方法が求められている。
一方、上述したように、従来のボルドー液は、抗菌・殺菌性能には優れるが、硫酸銅を含有することに起因する銅害(薬害)の問題がある。また、薬害の問題が発生しにくい農薬として有機銅剤があるが、有機農業には使用できず、環境への負荷をできる限り低減した農業生産方法を志向する観点では望ましくない。
このような事情に鑑み、本態様に係る抗菌性組成物を、従来のボルドー液をはじめとする無機銅剤に代わる薬剤として使用することにより、より少ない銅含有量もしくは少ない施用量で、環境への影響が小さく、かつ従来と同等もしくはそれを上回る抗菌効果が得られることが期待される。後述する実施例では、実際にモモせん孔細菌病原細菌、及び、モモのポット樹を用いた試験により、本発明の抗菌性複合体を含有する抗菌性複合体溶液、抗菌性組成物の抗菌性能を評価した試験例について説明する。
なお、モモせん孔細菌病は、もものほか、あんず、ネクタリン、すももの栽培においても発生することが知られている。そのため、モモせん孔細菌病に対して一定の効果を有する薬剤(抗菌性組成物)は、上述した核果類の栽培において有効であり得る。さらには、モモせん孔細菌病と病徴・症状が類似する他の植物病害や、病原細菌の感染・発病部位が類似する病害など、植物の防御機構の観点から、かんきつ類や仁果類などのより広範な果樹類に対して適用できる可能性があり、また、野菜類やきのこ類への適用可能性をも期待することができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
[金属ナノ粒子の作製]
ナノ粒子製造方法は、大きな塊を粉砕するトップダウン(粉砕)法と分子レベルの小さな原料から成長させていくビルドアップ(凝集)法に大別される。後者には乾式(気相)法と湿式(液相)法があり、代表的な乾式法としては、加熱蒸発法、レーザービーム法、スパッタリング法、CVD(気相反応)法などがある。代表的な湿式法としては、熱分解法、化学還元法、プラズマ法などがある。
参考文献:兵野篤、米澤徹著、ナノテクノロジー講座(第VII講)「金属ナノ粒子の基礎と最近の話題」色材協会誌82巻10号468-474(2009)。
目的とする複合体作製にはいずれの方法で製造したナノ粒子でも適用可能である。本実施例における金属ナノ粒子作製は、湿式法を用いた。
〔金属ナノ粒子分散液の作製〕
金属ナノ粒子分散液作製法の例を以下に示す。
国際公開番号:WO2003/032932号公報
“水中でチタン族金属電極と対極を有する高圧放電発生装置を用いて該金属と対極の間でプラズマ水中放電して、水中にチタン族金属超微粒子を超微分散させることを特徴とする水中にチタン族超微粒子が微分散してなる毛髪修正液の製造方法。”(請求の範囲 第2項)
上記の製造方法の電極に銅電極を使用して銅ナノ粒子分散液の作製を行った。
また、電極に銀電極を用いたこと以外は上記と同じ製造方法で、銀ナノ粒子分散液の作製を行った。
得られた銅ナノ粒子及び銀ナノ粒子の粒径を、レーザー光源を用いた動的光散乱法(DLS)により測定した。
得られた銅ナノ粒子及び銀ナノ粒子の濃度を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いて測定した。
〔銅ナノ粒子分散液の作製〕
銅ナノ粒子作製法の別の例を以下に示す。
特許公開番号:特開2017-071816号公報
“銅イオンとクエン酸とを含み、pH10以上pH12未満の範囲に調整された第1の水溶液を用意する工程と、
アスコルビン酸を含み、pH10以上pH12未満の範囲に調整された第2の水溶液を用意する工程と、
前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを混合して、前記銅イオンを還元して銅ナノ粒子の分散液を得る工程と、
を含む、銅ナノ粒子の製造方法。”(請求項1)
を参考にして銅ナノ粒子分散液の作製を行った。
〔銀ナノ粒子分散液の作製〕
銀ナノ粒子作製法の別の例を以下に示す。
特許公開番号:特開2008-88480号公報
“酸化銀(平均粒子径1.5μm)1.0g、溶性デンプン1.0gを蒸留水98g中に投入した。続いて攪拌しながら60℃で1時間加熱を行った。溶液は初め酸化銀が懸濁した黒色を呈していたが、還元反応が進むにつれ黄色に変化し、最終的には黄褐色になり、銀が生成していることが確認された。
溶液の一部をとり蒸留水で希釈して電子顕微鏡にて観察したところ、粒子径10-30nmの銀ナノ粒子が得られていることが分かった”(段落0025、実施例1、図1)
を参考にして銀ナノ粒子分散液の作製を行った。
得られた銅ナノ粒子及び銀ナノ粒子の粒径を、レーザー光源を用いた動的光散乱法(DLS)により測定した。
得られた銅ナノ粒子及び銀ナノ粒子の濃度を、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いて測定した。
[抗菌性複合体の作製]
〔抗菌性銅ナノ粒子担持セルロースナノファイバーの作製〕
純水500mLに、担体として濃度2wt%のセルロースナノファイバー((株)スギノマシン製)83.5gを添加して、撹拌機で30分間撹拌した。その後、上記銅ナノ粒子分散液835mL(銅含有量87.6mg、104.9ppm)を加え、さらに撹拌混合し、茶褐色の懸濁液を得た。
次いで、その中に、補助剤として塩化マグネシウム3.3gを添加した後、30分間撹拌混合し、銅ナノ粒子をセルロースナノファイバーに静電相互作用によって吸着させることで、銅ナノ粒子がセルロースナノファイバーに担持された銅ナノ粒子担持セルロースナノファイバーと、塩化マグネシウムとを含有する複合体を得た。
得られた複合体は、水と混合された状態(即ち、抗菌性複合体と、溶媒である水とを含有する溶液)であり、撹拌後の反応容器中の溶液の上清は透明であった。このことから、上記の方法によって得られた抗菌性複合体溶液では、もともと溶媒の水中に分散していた銅ナノ粒子がセルロースナノファイバーに担持されていることで、当該溶液の上清が透明になることが確認された。
[抗菌性複合体溶液の調製]
以下の表1に示す通りの成分組成を有する抗菌性複合体溶液を、上記方法と同様の手順に従って調製した。
表2には、各抗菌性複合体溶液に含有される複合体の各構成成分(担体、金属ナノ粒子、及び補助剤)の含有割合に関して上述した三種類の質量比を示した。
(例1~例7)
担体としてキトサンナノファイバー、キチンナノファイバー、及びセルロースナノファイバー(いずれも(株)スギノマシン製)を用いた。セルロースナノファイバーは、TEMPO法により作製されたもの、及び機械粉砕法により作製されたものの二種類を用いた。
金属ナノ粒子として上記銅ナノ粒子分散液を用いた。
補助剤として塩化マグネシウムを用いた。
なお、例5Aと例5Bは、抗菌性複合体溶液の成分組成は同じであるが、使用した担体に関し、例5Aでは、TEMPO法により作製されたセルロースナノファイバーを用いたのに対して、例5Bでは、機械粉砕法により作製されたセルロースナノファイバーを用いた点で異なる。
例1~例7の溶液はいずれも、調製後の溶液の上清は透明であり、銅ナノ粒子が所定の担体に担持されていることが確認された。
(例8~例15)
担体としてTEMPO法により作製されたセルロースナノファイバー、及び機械粉砕法により作製されたセルロースナノファイバー(いずれも(株)スギノマシン製)を用いた。
金属ナノ粒子として上記銅ナノ粒子分散液を用いた。
補助剤として塩化ベンザルコニウム水溶液(濃度10w/v%)を用いた。
例8~例15の溶液はいずれも、調製後の溶液の上清は透明であり、銅ナノ粒子が所定の担体に担持されていることが確認された。
(例16~例18)
担体としてキトサンナノファイバー、キチンナノファイバー、及びTEMPO法により作製されたセルロースナノファイバー(いずれも(株)スギノマシン製)を用いた。
金属ナノ粒子として上記銀ナノ粒子分散液を用いた。
補助剤として塩化ベンザルコニウム水溶液(濃度10w/v%)を用いた。
例16~例18の溶液はいずれも、調製後の溶液の上清は透明であり、銀ナノ粒子が所定の担体に担持されていることが確認された。
(例19~例25)
比較のために、表1に示す通りの条件で、例19~例25の溶液を調製した。使用した撹拌機及び撹拌条件は、例1~例18と同様とした。
担体としてキトサンナノファイバー、キチンナノファイバー、及び機械粉砕法により作製されたセルロースナノファイバー(いずれも(株)スギノマシン製)を用いた。
金属ナノ粒子として上記銅ナノ粒子分散液を用いた。
補助剤として塩化ベンザルコニウム水溶液(濃度10w/v%)を用いた。
例19~例21では、補助剤を含有しない、担体と銅ナノ粒子の混合溶液を得た。調製後の溶液の上清は茶褐色を示した。このことから、例19~例21の溶液では、銅ナノ粒子は担体に担持されておらず、上清中に留まっていると考えられる。
例22の溶液は、金属ナノ粒子を含有しない、担体と補助剤の混合溶液である。
例23の溶液は、例8~例18で補助剤として用いた塩化ベンザルコニウムの水溶液(濃度10w/v%)である。
例24及び例25の溶液は、それぞれ銅ナノ粒子の含有量が260ppm及び210ppmとなるように調整した、銅ナノ粒子分散液である。
なお、表1の備考欄の記載は、後掲の表3、表6、表7、及び図3についても適用されるものとする。
このようにして調製された例1~例25の溶液について、以下に示す方法により、抗菌性試験を行った。
なお、以下では、便宜的に、例1~例15、例19~例21、例24及び例25の溶液を「銅含有溶液」とも称し、例16~例18の溶液を「銀含有溶液」とも称する。
[抗菌性試験]
<試験例1>
試験菌として、植物病原細菌であるモモせん孔細菌病菌(学名:Xanthomonas arboricola pv. pruni)を用い、最小生育阻止濃度(MIC)を評価した。
MIC値の測定には、水溶性テトラゾリウム塩還元反応を基にした微生物代謝活性測定法(参考文献 日本食品化学工業会誌62巻7号321-327、2015)を用いた。
・モモせん孔細菌病菌の生育判定に用いる検量線の作製
モモせん孔細菌病菌を普通ブイヨン(NB)液体培地に懸濁し、27℃で一晩培養後に約10cfu/mLとなるように希釈し、これに対してさらに10倍希釈の系列希釈を行い、10cfu/mLまで用意した。希釈には全てNB液体培地を用いた。
この系列希釈した希釈液のうち、10~10cfu/mLの溶液から95μLずつを96ウェルプレートに添加し、各ウェルは約10~10cfuの菌量を含むようにした。
そこに、NB液体培地95μLと1-methoxy-PMS(1-Methoxy-5-methylphenazinium methylsulfate)とWST-1[2-(4-Iodophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-(2,4-disulfophenyl)-2H-tetrazolium, monosodium salt]の混合液(終濃度はそれぞれ0.04mMと0.5mM)10μLを加えて、各ウェルの総量を200μLとした。
NB液体培地190μLに1-methoxy-PMSとWST-1の混合液10μLを添加したものを対照とした。
各希釈液及び対照は3ウェル分用意した。
用意したプレートをプレートリーダーに設置し、温度条件を27℃とし、450nmの吸光度を1時間ごとに測定した。
各菌量の吸光度は3ウェルの平均値を代表値とした。
測定結果からそれぞれの菌量のウェルの吸光度が0.5を超える培養時間(単位は時間)を縦軸に、菌量の自然対数を横軸に取り、検量線を作製した。この検量線から、初期菌量が1cfuの場合、吸光度が0.5を超えるまで約50時間かかることが分かった。つまり、50時間以上培養した後の吸光度が0.5未満であれば、菌の生育は無いと判断できる。
・MIC値の測定
例1、例5A、例5B、例8、例24の溶液、及び、硫酸銅溶液を試験に供した。
銅含有溶液をそれぞれ銅濃度が100ppmとなるように希釈し、それを原液として2倍希釈の段階希釈で16倍まで希釈し、原液を含め6種類の希釈液(銅含有組成物)を作製した。
硫酸銅溶液は、硫酸銅・五水和物から銅濃度が1000ppmとなるように水に溶かして調製し、そこから銅濃度が100ppmとなるように希釈し、以降の段階希釈は他の銅含有溶液と同様に行った。
希釈には全てNB液体培地を用いた。
各銅含有溶液及び硫酸銅溶液の6種類の希釈液95μLを96ウェルプレートに添加した。
そこへ約10cfu/mLとなるようにNB液体培地で調製したモモせん孔細菌病菌の懸濁液95μLと1-methoxy-PMSとWST-1の混合液(終濃度は上述と同じようにそれぞれ0.04mMと0.5mM)10μLを加えて各ウェル総量を200μLとした。
対照には菌の懸濁液の代わりにNB液体培地を添加した。
各希釈液及び対照は3ウェル分用意した。
用意したプレートをプレートリーダーに設置し、温度条件を27℃として70時間程度培養し、その間450nmの吸光度を1時間おきに測定した。
銅含有溶液(銅含有組成物)に菌液を添加した吸光度の平均値からそれぞれの対照の平均値を引いたものを代表値とし、この代表値が培養中に0.5を超えない最小の銅濃度を各銅含有溶液のMIC値とした。硫酸銅溶液についても同様である。
結果を表3に示す。
表3に示すように、例1、例5A、例5B、例8について、硫酸銅溶液と同等もしくはそれを上回る抗菌効果が確認された。
特に、例1及び例8では、硫酸銅溶液で得られたMIC値(23.8ppm)を有意に下回るMIC値(5.9ppm及び1.5ppm未満)が得られ、かつ、例24の溶液(銅ナノ粒子分散液)で得られたMIC値(11.9ppm)よりも小さい値であった。このことから、本発明の抗菌性組成物は、銅ナノ粒子単体での抗菌効果を上回る抗菌効果が得られることが分かった。
加えて、菌量(cfu)の常用対数を縦軸に、試験溶液(6種類の希釈液)中の銅濃度(ppm)の常用対数を横軸に取り、銅濃度と菌量の関係を両対数グラフ上にプロットすると、例1では、例24の溶液(銅ナノ粒子分散液)よりも低い銅濃度で菌量が減少する傾向が得られた。また、補助剤として塩化ベンザルコニウム水溶液を用いた例8では、塩化マグネシウムを用いた例よりもとりわけ低い銅濃度で菌量が減少しており、このことは、少なくとも銅ナノ粒子による抗菌活性のみならず塩化ベンザルコニウムによる抗菌活性が効果的に作用していることを示唆している。
なお、例5Aと例5Bの試験結果が同じであったことから、本試験例では、担体として使用したセルロースナノファイバーの製法の違いによるMIC値の差は見られなかった。また、上述した両対数グラフ上のプロットにおいても、例5Aと例5Bは同様の抗菌活性の傾向を示した。
<試験例2>
モモのポット樹を用いた薬害の確認試験を実施した。
試験溶液として、例2の溶液、例2の溶液の10倍希釈液、市販の無機銅農薬(コサイド(登録商標)3000、銅濃度3000ppm)の2000倍希釈液(モモせん孔細菌病に対する収穫後~落葉期のメーカー推奨散布濃度)、及び水を用いた。
ここで、例2の溶液、及び例2の溶液の希釈液中の銅濃度は、市販の無機銅農薬の希釈液中の銅濃度(150ppm)とほぼ同程度となるように調整した。
各試験溶液500mLを3鉢に3回散布した後、全葉について調査を行い、調査枚数に占める薬害発生枚数の割合を薬害発生率(%)とした。
各試験溶液について、3鉢の平均±標準偏差を表4に示す。
表4に示すように、例2の溶液は、希釈の有無にかかわらず、いずれも市販の無機銅農薬よりも薬害発生率が低かった。このことから、本発明の抗菌性組成物は、従来の銅剤より少ない施用量で、従来と同等もしくはそれを上回る抗菌効果が得られる、農業用途に特に適した抗菌性組成物であることが分かった。
<試験例3>
モモのポット樹を用いた防除効果の確認試験を実施した。
試験溶液として、例3の溶液、例6の溶液、市販の無機銅農薬(試験例2で用いた薬剤)の1000倍希釈液(モモせん孔細菌病に対する開花までの時期のメーカー推奨散布濃度)、及び水を用いた。
各試験溶液500mLを3鉢に散布し、翌日、苗木を揺らしてある程度葉を落とした後、菌液(1×10cfu/mL)500mLを噴霧した。
この工程を2週間おきに3回繰り返した後、鉢を翌春の開花時期まで約6か月圃場に静置した。
新芽が出そろった後に春型枝病斑を確認し、発病芽の全調査芽数に占める割合(%)を求めた。
各試験溶液について、3鉢の平均±標準偏差を表5に示す。
表5に示すように、例3及び例6の溶液は、いずれも市販の無機銅農薬よりも低い銅濃度であるにもかかわらず、発病率はそれと同等以下であった。このことから、本発明の抗菌性組成物は、従来の銅剤より少ない銅含有量で、従来と同等もしくはそれを上回る抗菌効果が得られる、農業用途に特に適した抗菌性組成物であることが分かった。
<試験例4>
一般細菌に対する抗菌性を、水溶性テトラゾリウム塩還元反応を基にした微生物代謝活性測定法(参考文献 日本食品化学工業会誌62巻7号321-327、2015)にて評価した。
試験に供した溶液を、表6に示す。
ここで、例1、例4、例5A、例5B、例7、例8~例11、例15、例17、例18の溶液については、それぞれ表6に示す銅濃度の値となる溶液を原液とし、2倍希釈の段階希釈で128倍まで普通ブイヨン(NB)液体培地で希釈し、原液を含め8種類の希釈液(銅含有組成物)を用いた。
また、比較のために、例24の溶液(銅ナノ粒子分散液)、及び、例24の溶液の銅濃度と同じ濃度の硫酸銅溶液(濃度260ppm)についても、同様にNB液体培地で段階希釈をして用いた。
各試験溶液(原液及び希釈液)を培養容器(96穴マイクロプレートのウェル)に100μLずつ添加した。
そこへ、NB液体培地に懸濁した大腸菌(ATCC8739株)または黄色ブドウ球菌(ATCC6538株)を約1x10cfu/80μL添加した。
さらに、検出試薬として5mMのWST-1と0.2mMの1-methoxy-PMSの混合液20μLを添加し、35℃にて培養しながら、一定間隔(大腸菌は20分間隔、黄色ブドウ球菌は30分間隔)で450nmの吸光度を約16~24時間経過するまで測定した。
得られた結果から、吸光度が0.5を超えるまでの時間を求め、あらかじめ播種菌数を変えて測定しておいた検量線から、初発菌数(cfu)を推定し、初発菌数が0となる供試溶液の最小生育阻止濃度(MIC)を求めた。
結果を表6に示す。
表6に示すように、大腸菌については、例24の溶液(銅ナノ粒子分散液)では硫酸銅溶液と同じMIC値であったが、例1、例4、例5A、例5B、例7、例8~例11、例15、例17、例18の溶液はいずれも、例24の溶液及び硫酸銅溶液よりも有意に低いMIC値が得られた。中でも、補助剤として塩化ベンザルコニウムを含有する例8~例11、例15の溶液では、MIC値が、例24の溶液及び硫酸銅溶液のそれよりも大幅に低く、高い抗菌活性を示すと共に、質量比[(補助剤)/(金属)]の値が高いほど、MIC値が低下する傾向が認められた。また、金属が銀である例17、例18の溶液についても、同様の傾向が認められた。
加えて、初発菌数(cfu)の常用対数を縦軸に、試験溶液(8種類の希釈液)中の銅濃度(ppm)の常用対数を横軸に取り、銅濃度と初発菌数の関係を両対数グラフ上にプロットすると、補助剤として塩化マグネシウムを用いた場合に初発菌数の減少が見られる銅濃度は、例24の溶液及び硫酸銅溶液と同程度である傾向が認められた。このことは、本発明の抗菌性組成物は、従来の銅剤より少ない銅含有量で、従来と同等もしくはそれを上回る抗菌効果が得られることを示唆している。さらに、補助剤として塩化ベンザルコニウムを用いた場合には、とりわけ低い銅濃度で初発菌数が減少する傾向が認められ、このことは、銅ナノ粒子による抗菌活性のみならず塩化ベンザルコニウムによる抗菌活性が効果的に作用していることを示唆している。
一方、黄色ブドウ球菌については、例24の溶液では、硫酸銅溶液よりもMIC値が2倍高い。しかし、大腸菌について上述したのと同様にして得られた両対数グラフ上のプロットからは、銅濃度に対する初発菌数の減少傾向は同様であることが確認された。つまり、例24の溶液と硫酸銅溶液とのMIC値の差は、初発菌数が0であると認められた濃度(希釈段階)が、例24の溶液と硫酸銅溶液とで1段階の差があったことに起因していることで説明することができる。これと同様に、例1、例4、例5Aの溶液と硫酸銅溶液とを比較すると、例4及び例5Aの溶液では硫酸銅溶液よりもMIC値が高い結果となっているが、上述した両対数グラフ上のプロットでは、例4及び例5Aの溶液について初発菌数の減少が見られる銅濃度は、硫酸銅溶液と同程度である傾向が認められた。即ち、試験例1で示したモモせん孔細菌病菌に対する結果と上述した大腸菌に対する試験結果も併せて考慮すると、細菌の種類によって若干の違いはあるものの、黄色ブドウ球菌に対する試験結果からも、本発明の抗菌性組成物は、従来の銅剤より少ない銅含有量で、従来と同等もしくはそれを上回る抗菌効果が得られることが示唆されていると言える。
さらに、補助剤として塩化ベンザルコニウムを含有する例8~例11の溶液では、MIC値が、例24の溶液及び硫酸銅溶液のそれよりも大幅に低く、高い抗菌活性を示すと共に、質量比[(補助剤)/(金属)]の値が高いほど、MIC値が低下する傾向が認められた。また、上述した両対数グラフ上のプロットにおいても、大腸菌に対する試験結果と同様に、補助剤として塩化ベンザルコニウムを用いた場合には、とりわけ低い銅濃度で初発菌数が減少する傾向が認められ、このことは、銅ナノ粒子による抗菌活性のみならず塩化ベンザルコニウムによる抗菌活性が効果的に作用していることを示唆している。
ここで、上述した質量比[(補助剤)/(金属)]の値と、大腸菌に対するMIC値または黄色ブドウ球菌に対するMIC値とを両対数グラフ上にプロットした結果を、図2に示す。
図2において、白菱形のプロットは、例1、例5A、例5B、及び例7の溶液の、大腸菌に対するMIC値であり、黒菱形のプロットは、例8~例11、及び例15の溶液の、大腸菌に対するMIC値である。白四角形のプロットは、例1、及び例5Aの溶液の、黄色ブドウ球菌に対するMIC値であり、黒四角形のプロットは、例8~例11の溶液の、黄色ブドウ球菌に対するMIC値である。黒丸形及び白丸形のプロットは、それぞれ、例24の溶液の、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対するMIC値である。
図2に示すように、質量比[(補助剤)/(金属)]の値が高いほど、MIC値が低下する傾向は、補助剤として塩化マグネシウムを含有する場合に比べて、塩化ベンザルコニウムを含有する場合においてより顕著である。
そこで、補助剤として塩化ベンザルコニウムを含有し、かつ、担体として使用したセルロースナノファイバーの製法が共通する例9~例11、及び例15の溶液に関し、表6に示す銅換算のMIC値(Cu ppm)に代えて、塩化ベンザルコニウム換算のMIC値(BzCl ppm)を算出し、このMIC値(BzCl ppm)と質量比[(補助剤)/(金属)]の値(即ち、質量比[(BzCl)/(Cu)]の値)とを両対数グラフ上にプロットしたところ、図3に示すような結果が得られた。
図3において、黒菱形のプロットは、例9~例11、及び例15の溶液の、大腸菌に対するMIC値であり、黒四角形のプロットは、例9~例11の溶液の、黄色ブドウ球菌に対するMIC値である。黒丸形及び白丸形のプロットは、それぞれ、例24の溶液の、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対するMIC値である。
図3に示すように、塩化ベンザルコニウム換算のMIC値との関係では、質量比[(補助剤)/(金属)]の値が高いほど、当該MIC値は上昇する傾向が得られた。
このことは、補助剤として塩化ベンザルコニウムを含有する態様においては、抗菌性材料である金属(銅)の存在により、塩化ベンザルコニウムが有する抗菌性との相乗効果が得られ得ることを示唆している。
また、この効果は、組成物中の塩化ベンザルコニウムの含有量が低く、かつ、金属の含有量も同程度に低い場合(即ち、これにより質量比[(補助剤)/(金属)]の値が小さい場合)に、より発揮されやすいと考えられる。
一方、本試験例の結果について、補助剤の種類に着目すると、以下のことが分かる。
補助剤として塩化マグネシウムを含有する点で共通する例1、例4、例5A、例5B、例7の溶液について見ると、例1、例4、例5A、例5Bの溶液では、大腸菌に対するMIC値は、例7の溶液でのMIC値(87.5ppm)に比べて低くなっている。例えば、例5A、例5Bの溶液でのMIC値(64.5ppm)は、例7の溶液でのMIC値に対する比で、約0.74である。
同様に、補助剤として塩化ベンザルコニウムを含有する点で共通する例8~例11、例15の溶液について見ると、例8~例11の溶液では、大腸菌に対するMIC値は、例15の溶液でのMIC値(22.9ppm)に比べて低くなっている。例えば、例11の溶液でのMIC値(13.9ppm)は、例15の溶液でのMIC値に対する比で、約0.61である。
即ち、例7の溶液及び例15の溶液は、いずれも、例24の溶液(銅ナノ粒子分散液)及び硫酸銅溶液との比較においては優れた抗菌活性を示すと言えるが、これらを、上述した「参照試料」と位置付けた場合には、例1、例4、例5A、例5Bの溶液、及び、例8~例11の溶液は、より優れた抗菌活性を示すと評価することができる。
このように、本発明の抗菌性複合体の抗菌性の評価においては、当該複合体に含有される各構成成分の種類や含有割合(含有量の質量比)などを種々組み合わせ、多面的に評価することが可能である。そして、使用目的や対象物などに応じて、所望の抗菌効果が得られる組成物として、農業、あるいは、農業以外の医療、介護、畜水産、食品などの産業用途、並びに、一般用途に適用可能な抗菌性組成物を提供することができる。
<試験例5>
基材に対する付着性及び残効性を、以下の方法で評価した。
基材としては、メンブレンフィルター(アドバンテック東洋社製、セルロース混合エステルタイプ、孔径0.20μm)を用いた。
試験に供した溶液を、表7に示す。
ここで、例1、例4、例5A、例7、例8~例11、例15の溶液については、それぞれ銅濃度が表7に示す値となるように希釈した希釈液(銅含有組成物)を用いた。
また、比較のために、例22、例23、例25の溶液(銅ナノ粒子分散液)、及び、例25の溶液の銅濃度と同じ濃度の硫酸銅溶液(濃度210ppm)を用いた。
例5A、例8、例9、例11、例15、例22、例23、例25の溶液、及び、硫酸銅溶液の各1mLを超純水9mLで希釈し、メンブレンフィルターでろ過し、真空中で4h乾燥した。
例1及び例4の溶液については、溶液中の担体濃度が他の銅含有溶液と比べて高いため、各0.4mLを超純水9.6mLで希釈し、例7の溶液については、0.2mLを超純水9.8mLで希釈し、例10の溶液については、0.5mLを超純水9.5mLで希釈し、それぞれメンブレンフィルターでろ過し、真空中で4h乾燥した。
このように、各溶液中の担体濃度を考慮して希釈割合を調整することで、ろ過・乾燥後にメンブレンフィルター上に残留する物質がメンブレンフィルターから剥離しないようにした。
各々のメンブレンフィルターを5×20mmの大きさにカットし、超純水中に10分間撹拌浸漬し、真空中で4h乾燥した。超純水中への撹拌浸漬、真空乾燥の工程を2回繰り返した後、メンブレンフィルターを立てた状態で96穴マイクロプレート内にセットし、エチレンオキサイドガスにて滅菌した。
その後、各ウェル内に菌液(1×10cfu/180μL NB培地)とWST-1試薬(5mM WST-1と200μM 1-methoxy-PMSの混合液20μL)を添加し、35℃にて培養しながら、一定間隔(20分、30分または1時間間隔)で450nmの吸光度を約16、24または70時間経過するまで測定した。
試験菌としては、大腸菌(ATCC8739株)、黄色ブドウ球菌(ATCC6538株)、またはモモせん孔細菌病菌を用いた。
また、超純水中への撹拌浸漬・真空乾燥の工程の回数による影響の有無を測定するため、各々のメンブレンフィルターを5×20mmの大きさにカットしただけの試料、及び、カットしたメンブレンフィルターを超純水中への撹拌浸漬・真空乾燥の工程に1回供した試料及びこの工程に2回供した試料についても同様の試験を行った。
加えて、対照として、いずれの溶液もろ過していない、メンブレンフィルターのみについても同様の試験を行った。
得られた結果から、吸光度が0.5を超えるまでの時間を求め、あらかじめ播種菌数を変えて測定しておいた検量線から、初発菌数を推定し、播種菌数に占める割合(生菌率)を求めた。試験はn=3で実施した。
結果を表7に示す。
なお、表7において、「浸漬0回」、「浸漬1回」、「浸漬2回」との項目名は、カットした各メンブレンフィルターを、上述した超純水中への撹拌浸漬・真空乾燥の工程に供した回数を意味する。
表7に示すように、大腸菌について、例1、例4、例5A、例7、例8~例11、例15の溶液を用いた場合はいずれも、「浸漬0回」の生菌率は、対照のメンブレンフィルターのみの結果(64.9%)よりも低く、メンブレンフィルターに複合体が付着している(保持されている)ことで、当該複合体の抗菌性が発揮されていることが分かる。
一方、例22の溶液を用いた場合は、「浸漬0回」では抗菌活性を示さなかった。例23の溶液を用いた場合は、塩化ベンザルコニウムが有する抗菌作用により、「浸漬0回」の生菌率が、対照のメンブレンフィルターのみよりも低い結果になったと考えられる。
例25の溶液を用いた場合は、銅濃度が高い溶液をろ過することで、銅のナノ粒子がメンブレンフィルター上に多く残留する結果、銅ナノ粒子単体の抗菌性が作用し、「浸漬0回」の生菌率が特に低くなったと考えられるが、これよりも銅濃度が低い、例8の溶液(銅濃度126.9ppm)を用いた場合でも、同様に低い生菌率(<0.001%)が得られていることにも注目されたい。これに対して、同じ銅濃度であっても、硫酸銅溶液を用いた場合には、「浸漬0回」の生菌率は100%を上回る結果となった。
これらの結果は、本試験例で用いたメンブレンフィルターや、これと同様の材質・性状を有する基材に付着した状態(保持された状態)で抗菌活性を発現させるためには、抗菌性材料である金属(銅)の存在のみならず、その形態がナノ粒子であることが必要であることを示唆している。
次に、大腸菌について、「浸漬0回」、「浸漬1回」、「浸漬2回」の各々の生菌率について見ると、例4、例7、例15の溶液を用いた場合において、生菌率が高いことが分かる。これらの溶液について共通する特徴としては、質量比[(金属)/(担体)]の値が、0.037(例4)、0.035(例7)、0.030(例15)であり、他の溶液のそれと比べて低いことである。なお、例1の溶液については質量比[(金属)/(担体)]の値が0.048であり、優れた抗菌活性を示していることから、担体の種類の違いによる影響も一因として考えられ得る。しかしながら、本試験例で用いたメンブレンフィルターの材質上、メンブレンフィルターに保持できる担体(ナノファイバー)の量には限りがある(約60μg/cm程度)ことも併せて考えると、所定の基材に対して良好な付着性を有し、かつ、基材への付着(保持)後も抗菌活性を維持することで残効性を発揮するためには、質量比[(金属)/(担体)]が高いことが望ましく、具体的には、質量比[(金属)/(担体)]が0.04以上であることを一つの目安としてもよいと言える。
上述した大腸菌についての結果及び考察は、黄色ブドウ球菌及びモモせん孔細菌病菌についても同様に当てはまる。
即ち、例5、例8の溶液を用いた場合には、黄色ブドウ球菌及びモモせん孔細菌病菌のいずれについても、「浸漬0回」、「浸漬1回」、「浸漬2回」の生菌率が低く、優れた抗菌活性を示した。ここで、例5、例8の溶液では、質量比[(金属)/(担体)]の値が0.177、0.176であり、さらには、質量比[(補助剤)/(担体)]、及び、質量比[(補助剤)/(金属)]の値も互いに近しいことは、注目に値する。上述したように、補助剤が塩化マグネシウムである場合と、塩化ベンザルコニウムである場合とでは、補助剤自体が有する抗菌性の有無によって、複合体が発揮し得る抗菌活性自体には差が生じ得るが、言い換えると、当該複合体に含有される各構成成分の含有割合(含有量の質量比)を同程度として、それらの構成成分の種類(組み合わせ)を変えることで、様々な目的や用途に適した抗菌性を有し、かつ、対象物(基材)に対する付着性及び残効性に優れた組成物を調製することができると言える。
本発明の抗菌性複合体は、これを含有する溶液をそのまま、あるいは任意の希釈剤で希釈するなどして抗菌性組成物とすることで、農業をはじめとする各種の用途に適用することができる。
特に、金属ナノ粒子として銅ナノ粒子を用いた場合には、従来の銅剤よりも少ない銅含有量もしくは少ない施用量で、環境への影響が小さく、かつ従来と同等もしくはそれを上回る抗菌効果が得られる、農業用抗菌性組成物として利用することができる。
また、本発明では、金属の種類として、銅や銀など、一定の抗菌作用を有する金属のナノ粒子を用いることができるので、農業用途以外にも、医療、介護、畜水産、食品などの産業用途、並びに、一般用途への適用も可能である。
さらに、本発明の抗菌性複合体は、基材への付着性が良好であるので、農業用途の場合に対象となる農作物の樹皮などのほかに、例えば不織布などの材料に付着させた状態で抗菌性を発現させることができ、一定の残効性をも発揮することが期待できる。

Claims (17)

  1. 生体高分子からなるナノ構造体である担体と、
    前記担体に担持されたナノ粒子である金属または金属酸化物と、
    多価の正電荷を有する補助剤と
    を含有し、
    前記担体の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.01以上15以下である、抗菌性複合体。
  2. 前記金属または金属酸化物の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、0.3以上200以下である、請求項1に記載の抗菌性複合体。
  3. 前記担体の含有量に対する前記金属または金属酸化物の含有量の質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.02以上0.5以下である、請求項1または2に記載の抗菌性複合体。
  4. 前記担体の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.02以上15以下であり、
    前記金属または金属酸化物の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、0.5以上200以下であり、
    前記担体の含有量に対する前記金属または金属酸化物の含有量の質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.04以上0.5以下であり、
    水溶性テトラゾリウム塩還元反応を基にした微生物代謝活性測定法によって測定される、前記金属または金属酸化物の含有量換算の、大腸菌及び/または黄色ブドウ球菌の最小生育阻止濃度(MIC)の値が、参照試料について測定されるMIC値に対する比で、0.8以下である、
    請求項1~3のいずれか一項に記載の抗菌性複合体。
  5. 前記金属または金属酸化物の粒径が、1nm以上250nm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗菌性複合体。
  6. 前記金属は、銅、銀、金、白金、亜鉛、コバルト、ニッケル、パラジウム、アルミニウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗菌性複合体。
  7. 前記金属酸化物は、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム、酸化ジルコニウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗菌性複合体。
  8. 前記生体高分子は、セルロース、キトサン、キチン、シルク、ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、デンプン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗菌性複合体。
  9. 前記担体は、ナノファイバーである、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗菌性複合体。
  10. 前記補助剤は、マグネシウム塩、カルシウム塩、またはこれらの組み合わせ、あるいは、第4級アンモニウム塩である、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗菌性複合体。
  11. 請求項1~10のいずれか一項に記載の抗菌性複合体と、任意の溶媒とを含有する、抗菌性複合体溶液。
  12. 前記担体が、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーであり、
    前記金属または金属酸化物が、銅のナノ粒子であり、
    前記補助剤が、マグネシウム塩、カルシウム塩、またはこれらの組み合わせであり、
    前記担体の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.5以上5以下であり、
    前記金属または金属酸化物の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、5以上50以下であり、
    前記担体の含有量に対する前記金属または金属酸化物の含有量の質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.03以上0.25以下である、
    請求項11に記載の抗菌性複合体溶液。
  13. 前記担体が、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーであり、
    前記金属または金属酸化物が、銅のナノ粒子であり、
    前記補助剤が、第4級アンモニウム塩であり、
    前記担体の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.1以上12.5以下であり、
    前記金属または金属酸化物の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、0.5以上85以下であり、
    前記担体の含有量に対する前記金属または金属酸化物の含有量の質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.03以上0.25以下である、
    請求項11に記載の抗菌性複合体溶液。
  14. 前記担体が、セルロース、キトサン、キチン、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される生体高分子のナノファイバーであり、
    前記金属または金属酸化物が、銀のナノ粒子であり、
    前記補助剤が、第4級アンモニウム塩であり、
    前記担体の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(担体)]が、0.3以上5以下であり、
    前記金属または金属酸化物の含有量に対する前記補助剤の含有量の質量比[(補助剤)/(金属・金属酸化物)]が、5以上200以下であり、
    前記担体の含有量に対する前記金属または金属酸化物の含有量の質量比[(金属・金属酸化物)/(担体)]が、0.02以上0.1以下である、
    請求項11に記載の抗菌性複合体溶液。
  15. 請求項1~10のいずれか一項に記載の抗菌性複合体、または、請求項11~14のいずれか一項に記載の抗菌性複合体溶液を含有する抗菌性組成物。
  16. 請求項12または13に記載の抗菌性複合体溶液を含有する農業用抗菌性組成物。
  17. 請求項11に記載の抗菌性複合体溶液の製造方法であって、
    前記担体を含有する担体溶液を調製することと、
    前記担体溶液に金属ナノ粒子の分散液を添加し、撹拌混合することと、
    得られた混合液に前記補助剤を添加し、さらに撹拌混合することと
    を包含する、方法。
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