JP2023102800A - 蓄電池劣化評価方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】蓄電池の劣化パラメータを推定し、蓄電池の劣化を評価し、その寿命を予測する。【解決手段】蓄電池の放電曲線に正極及び負極の放電曲線をフィッティングすることにより劣化パラメータを推定し、蓄電池の劣化を評価する方法であって、蓄電池の健全性が所定の値より高いかどうか判定し、蓄電池の健全性が所定の値より高い場合には、劣化パラメータの単一セットを探索し、蓄電池の健全性が所定の値以下の場合には、蓄電池が経年劣化していると判定し、劣化パラメータの複数セットを探索する。【選択図】図7

Description

本開示は、蓄電池劣化評価方法に関する。
運輸部門は、近年、急速に成長し、温室効果ガスの排出量増大の一因となるとともに、大気汚染の要因となっている。化石燃料の使用量を減らし、温室効果ガスの排出量を削減する方法として、運輸手段の電化がある。
自動車産業においては、電気自動車(EV)及びハイブリッド自動車(HEV)を設計する上で、動力伝達装置を駆動する蓄電池(バッテリー)が重要な技術として注目されている。
EV及びHEV(以下「EV等」という。)における主要な電源は、リチウムイオン電池である。
従来、リチウムイオン電池は、内燃機関と比較して、コストが高く、寿命が短い点で課題があった。しかし、リチウムイオン電池は、最近の技術の進歩により、他のバッテリーに比べ、エネルギー密度が高く、出力密度が高く、軽量で、自己放電率が低いという有利な特性を有するに至っている。このため、リチウムイオン電池は、EV等の用途に最も好適であると考えられている。
一般に、バッテリーが劣化すると、バッテリーの内部インピーダンスが大きくなり、所望の電力が得られなくなる場合がある。このため、バッテリーの劣化の程度を精確に推定することが重要である。
特許文献1には、非劣化時のバッテリの初期電気量に基づいて、バッテリにおける任意の開回路電圧に対応する電気量を推定するバッテリの充電状態推定方法において、任意時点での充放電可能な総電気量の、初期電気量に対する割合を劣化度として算出し、任意の開回路電圧に対応して推定した電気量に劣化度を乗じて任意時点のバッテリの充電状態を推定することが開示されている。
特開2004-354050号公報
リチウムイオン電池においては、その寿命及び信頼性に対する使用パターンの影響が大きい。バッテリーの健全性検知は、一般に、バッテリーの充電状態(SoC)や健全性(SoH)を検知することにより行われる。SoC及びSoHは、直接測定可能な量ではないため、バッテリーの電流、端子電圧、周囲温度等の二次的な測定値に基づいて推定されている。SoCやSoHの継続的な検知により、バッテリーの残存耐用期間(RUL)を推定することができる。
しかしながら、バッテリーの容量低下は、充放電の繰り返しにより発生する。また、しばらく使用しない状態が続くと、自己放電作用によっても容量低下が生じる。さらに、経年劣化によるインピーダンスが増加も問題となる。このように、バッテリーの容量低下の原因は多岐にわたり、原因を分けて定量化し、バッテリーの寿命を予測することは困難であった。
従来、リチウムイオン電池を分解することにより劣化メカニズムを検討する場合があった。しかしながら、注意深く分解を行っても、継続的な劣化挙動の痕跡を識別することは困難である。
バッテリーの寿命予測の信頼性及び精度を改善するため、正極及び負極の個々の特性を分離して評価できるようにする非破壊的方法が求められている。
特許文献1においては、複数のパラメータを個々のパラメータに分けて定量的にバッテリーの充電状態を推定することについては記載されていない。
本開示の目的は、蓄電池の劣化パラメータを推定し、蓄電池の劣化を評価し、その寿命を予測することにある。
本開示の蓄電池劣化評価方法は、蓄電池の放電曲線に正極及び負極の放電曲線をフィッティングすることにより劣化パラメータを推定し、蓄電池の劣化を評価する方法であって、蓄電池の健全性が所定の値より高いかどうか判定し、蓄電池の健全性が所定の値より高い場合には、劣化パラメータの単一セットを探索し、蓄電池の健全性が所定の値以下の場合には、蓄電池が経年劣化していると判定し、劣化パラメータの複数セットを探索する。
本開示によれば、蓄電池の劣化パラメータを推定し、蓄電池の劣化を評価し、その寿命を予測することができる。
バッテリーを構成するセル並びにその正極及び負極の電圧容量曲線を示すグラフである。 セル並びにその正極及び負極の電圧容量曲線を示すグラフである。 図2Aに対応する微分放電曲線を示すグラフである。 DCAモデルの劣化パラメータに基づくセルの寿命予測方法を示すフロー図である。 DCAモデルの最適化を用いた劣化パラメータの単一セットの推定に基づくバッテリーの寿命予測方法を示すフロー図である。 複数セットのDCAモデルの劣化パラメータの推定に基づくバッテリーの寿命予測方法を示すフロー図である。 広いパラメータ探索空間を分割するプロセスを含むバッテリーの寿命予測方法を示すフロー図である。 各パラメータに対する広いパラメータ探索空間から有用な探索空間を見つけるために開発したアルゴリズムを詳細に示すフロー図である。 DCAモデルの各パラメータに対する有用なパラメータ探索空間を見つけるステップ・バイ・ステップ・アルゴリズムを示すフロー図である。
本開示は、蓄電池の劣化評価及び寿命予測の方法及びシステムに関する。特に、本開示は、蓄電池の経年劣化モデルのパラメータ最適化による複数の解を見つけるためのアルゴリズムに関する。なお、本明細書においては、蓄電池を「バッテリー」と呼ぶこととする。そして、バッテリーは、セルの集合体、すなわち複数個のセルを直列又は並列に接続した組電池であるとする。ここで、「セル」は、単電池を意味する。また、本明細書においては、実施形態として、リチウムイオン電池のバッテリー及びセルについて説明するが、本開示の内容は、リチウムイオン電池に限定されるものではなく、鉛蓄電池にも適用可能である。
リチウムイオン電池においては、その寿命及び信頼性に対する使用パターンの影響が大きい。ゆえに、EV等のバッテリーの状態を正確に検知することは、バッテリーが極端な容量劣化や故障に至らないことを保証するために非常に重要である。バッテリーの健全性検知は、一般に、バッテリーの充電状態(SoC:State of Charge)を検知することにより行われる。ここで、SoCは、現在の容量と公称容量との比である。また、SoCとともに、バッテリーの健全性(SoH:State of Health、「劣化状態」ともいう。)を検知してもよい。ここで、SoHは、新品のバッテリーと比較した現在のバッテリーの状態を示す性能指数であり、具体的には、劣化時の満充電容量と初期の満充電容量との比である。
SoC及びSoHは、直接測定可能な量ではないため、バッテリーから得られる電流、端子電圧、周囲温度等の二次的な測定値に基づいて、適切なアルゴリズムを用いて推定する必要がある。
上記のような継続的な検知により、バッテリーの性能を示す値が許容可能な範囲外となった場合に、故障しきい値に達する前に、バッテリーの残存耐用期間(RUL:Remaining Useful Lifetime)を推定することができる。このような寿命予測及びRUL推定は、EV等のバッテリーの再利用及びリサイクルのために一層重要となる。
バッテリーの容量低下は、充放電の繰り返しにより発生する。ただし、どの程度低下するかは、負荷パターンの変動によっても異なる。さらに、しばらく使用しない状態が続くと、自己放電作用により、容量は、ある程度低下する。同様に、経年劣化によりバッテリーのインピーダンスが増加し、その結果、バッテリーの内部抵抗が増加する。このように、容量低下を定量化し、バッテリーの寿命を予測するためには、SoHの継続的な検知が不可欠である。
従来、リチウムイオン電池の劣化メカニズムの研究は、主として、劣化したリチウムイオン電池を分解することにより行われていた。この方法により、劣化したカソード、アノード及び電解質の特性について別々に調べることができる。しかしながら、注意深く分解を行っても、分解作業の影響がそれらの特性に及ぶ可能性がある。さらに、分解したとしても、継続的な劣化挙動の痕跡を識別することは困難である。
また、リチウムイオン電池のサイクル寿命及びカレンダー寿命についても研究がされ、継続的な劣化挙動が観察されている。しかしながら、研究対象となる特性は、容量及び抵抗に限定されている場合が多く、容量を減少させ、抵抗を増加させる主要なメカニズムを特定することは困難である。セルを分解して観察等を行う研究により、いくつかの劣化現象がセルの内部で自発的に生じることがわかっている。しかしながら、それぞれの現象がセルの容量及び抵抗に対して実際にどの程度影響するかについては、定量的に推定できるまでには至っていない。このため、寿命評価は、バッテリーの容量又は抵抗についての数学的な外挿である場合が多い。
このように、寿命予測の信頼性及び精度を改善するためには、正極及び負極の個々の特性を分離して評価できるようにする非破壊的方法が必要である。
従来、バッテリー寿命は、通常、カレンダー寿命試験又はサイクル寿命試験の容量低下データを外挿することによって推定されていた。外挿法は、容量低下が時間の平方根に比例すると仮定している。これはt1/2則と呼ばれている。この法則は、固体電解質中間相(SEI:Solid Electrolyte Interphase)の形成及び成長についての数学的モデルである。SEIは、負極表面において層間に入り込んだリチウムイオンと電解質との間で生じる副反応によって形成され、利用可能なリチウムイオンを消費する。t1/2則及びSEI形成を用いて行った容量低下予測は、特に、長期間にわたる試験又は過酷試験において、実際のデータと必ずしも一致しなかった。予測された容量低下と実際の容量低下との間の不整合は、容量低下の要因を、単にSEI形成と仮定し、他の要因の影響を無視していることが原因と考えられる。
また、劣化したリチウムイオン電池を分解して検討することによって、リチウムイオン電池の容量低下の要因を速度容量損失、活物質損失及びリチウムイオン損失に分ける方法も提案されている。この方法によれば、活物質損失を直接判別することが可能である。しかしながら、活物質損失の継続的な劣化を観察することはできない。
個々の電極の特性評価は、電圧と電気量との関係を示す放電・充電曲線を用いることが有望と考えられる。全電池(フルセル)の放電・充電曲線には、内部抵抗だけでなく、両方の電極に関する熱力学的情報が表れる。放電曲線解析(DCA:Discharge Curve Analysis)は、半電池(ハーフセル)の放電曲線を用いて全電池の放電曲線を再現する方法に基づく、簡単かつ正確で、実用的な状態解析法である。これにより、バッテリー寿命予測のための自動化DCAベースの経年劣化モデルを実現する際の課題を評価し、解決することができる。さらに、このような自動化モデルにより、予測精度を向上し、処理全体に要する時間を短縮することができる。
さらに、DCAのために、容量(Q)と微分電圧(dV/dQ)との関係を用いた非破壊的な方法として、「微分電圧解析」が開発されている。「微分電圧解析」は、セルの放電曲線を正極の放電曲線と負極の放電曲線とに正確に分離するために有望な方法であると考えられる。
バッテリーの寿命予測の精度は、その劣化現象を表現するために用いられる劣化モデルの精度に依存する。数学的に整理された微分電圧解析の技術により、リチウムイオン電池の放電曲線は、正極と負極とに視覚的に分離できる。分離の過程で、2種類の劣化指標を定量的に評価する。さらに、曲線解析の結果から、SEIの成長で消費されるリチウムイオンの不可逆的な損失が導かれる。ここで、3つの基本的な劣化パラメータである、不可逆な容量変化並びに使用可能な正極活物質及び負極活物質の損失は、互いに独立であると仮定している。
DCAは、非破壊的であるため、カレンダー寿命試験又はサイクル寿命試験を行っている最中においても、これらのパラメータの変化を取得することができる。しかしながら、劣化パラメータの推定は、経年劣化したバッテリーに対して複数の解を与えるモデルパラメータの最適化を必要とする。この場合における最適解の選択は、従来、専門的な知識を用いて手作業で行う必要があった。このため、最適化は、長時間を要し、得られる結果の精度も低かった。
バッテリーの現在の状態を判定し、残存寿命を予測するためには、バッテリーの劣化の高度な評価が必要である。DCAを用いたバッテリーの劣化評価及び寿命予測は、解決手段の一つと考えられる。
DCAを用いた経年劣化モデルは、局所最小解に従うフィッティングパラメータの最適化によりバッテリーの劣化を判定することができる。これらのフィッティングパラメータは、電極活物質の量及び不可逆的なイオン損失を表すものである。したがって、フィッティングパラメータは、寿命予測に直接使用することができる。
しかしながら、バッテリーの経年劣化やデータの誤差等があるため、モデルの最適化を行うと、複数の局所最小解が生じる。このため、寿命予測の精度は低下する。
本開示の蓄電池劣化評価方法は、複数の局所最小解を見つけ、最適な寿命予測関数を選択するDCA経年劣化モデルの自動パラメータ最適化アルゴリズムに関するものである。このアルゴリズムは、フィッティングパラメータの有用な探索空間を決定し、これらの探索空間を分割して複数の局所最小解を見つけることによって、複数の範囲の最適化を実行する。
この場合においては、分割した範囲の組み合わせの数が非常に多く、実行時間が長くなる問題がある。
本開示においては、その問題に対する解決手段についても説明する。
なお、本開示の蓄電池劣化評価方法は、コンピュータを用いて上記のアルゴリズムを自動的に演算するものである。この場合に用いるコンピュータは、入力部、出力部、演算部、記憶部(メモリ)等を備え、高次元の探索空間における大規模な最適化問題を短時間で処理する装置である。
以下、本開示の実施形態の詳細について、図面を参照して説明する。
放電曲線解析(DCA)は、半電池固有の放電曲線を用いて全電池の放電曲線を再現する方法に基づく、簡単かつ正確で、実用的な状態解析法である。
図1は、バッテリーを構成するセル並びにその正極及び負極の電圧容量曲線を示すグラフである。本図は、DCAの基本モデルである。横軸に容量Q、縦軸に電圧Vをとっている。
本図においては、初期状態におけるセルの放電曲線103、正極の放電曲線104及び負極の放電曲線105を実線で示している。正極の放電曲線104は関数v(q)で表され、負極の放電曲線105は関数v(q)で表される。ここで、正極の放電曲線104は正極活物質の放電曲線、負極の放電曲線105は負極活物質の放電曲線ともいうことができる。
maxは初期状態における正極の最大容量、q maxは初期状態における負極の最大容量を示している。
また、経年劣化した正極の放電曲線106及び負極の放電曲線107は、破線で示している。正極の放電曲線106に対応する正極の最大容量はm maxであり、負極の放電曲線107に対応する負極の最大容量はm maxである。
横軸の容量Qの負の領域は、便宜上、範囲外容量と定義し、δを正極の範囲外容量、δを負極の範囲外容量とする。また、mは正極の活物質利用量、mは正極の活物質利用量と呼ぶことにする。ここで、活物質利用量は、放電に寄与し得る活物質の質量である。
上記の4つのパラメータm,m,δ,δを用いて、以下の解析を進める。
正極の放電曲線104及び負極の放電曲線105が安定であれば、m,m,δ,δは、初期状態及び経年劣化後のセルの放電曲線の両方を再現するフィッティングパラメータとして扱うことができる。正極及び負極の放電曲線に対する横軸の容量Qの値は、適用可能な活物質利用量m,mに比例して変化する。一方、縦軸の電圧Vは、上記のパラメータに依存しない。
DCAを用いることにより、本図に示すように正極及び負極の放電曲線が経年劣化により収縮及び移動をすることを確認した。
活物質が減少することにより、正極及び負極の放電曲線が収縮する。この場合に、収縮は、m/mp0,m/mn0として評価される。ここで、mp0は初期状態における放電に寄与し得る正極活物質の質量、mn0は初期状態における放電に寄与し得る負極活物質の質量である。
SEIの形成に伴うLiイオンの損失により、正極及び負極の放電曲線が移動する。この場合における放電曲線の移動は、δ,δとして評価される。
そして、4つのパラメータm/mp0,m/mn0,δ,δをDCAモデルのフィッティングパラメータとして用いて、セルのRULを推定する。
図2Aは、セル並びにその正極及び負極の電圧容量曲線を示すグラフである。
本図においては、初期状態のセルについて一定時間充放電試験を行うことにより得られたQcellに対するVcellのデータ202、及びデータ202について曲線近似することにより得られたセルの放電曲線203、並びにセルの放電曲線203に対応する正極の放電曲線204及び負極の放電曲線205(正極及び負極の半電池放電曲線)を示している。そして、図1と同様に、正極の放電曲線204に対応する正極の最大容量m max、及び負極の放電曲線205に対応する負極の最大容量はm maxを示している。また、正極の範囲外容量δ及び負極の範囲外容量δも示している。
図2Bは、図2Aに対応する微分放電曲線を示すグラフである。横軸に容量Q、縦軸に|dV/dQ|をとっている。
図2Bにおいては、データ202に基づいて得られた差分データ210(|ΔV/ΔQ|)、及び差分データ210について曲線近似することにより得られたセルの微分放電曲線211(dVcell/dQcell)、並びにセルの微分放電曲線211に対応する正極の微分放電曲線212(dVsp,p/dq)及び負極の微分放電曲線213(dVsp,n/dq)を示している。
これらは、Vcell(Qcell)及びフィッティングパラメータm,m,δ,δに基づいて、経年劣化後のセルの放電曲線を推定するために用いられる。
上記のパラメータフィッティングを実行する最適化アルゴリズムをコンピュータに実行させることが望ましい。最適化を行った後、セルの放電曲線203、正極の放電曲線204及び負極の放電曲線205作成し、セルの微分放電曲線211、正極の微分放電曲線212及び負極の微分放電曲線213を作成する。
図3は、DCAモデルの劣化パラメータに基づくセルの寿命予測方法を示すフロー図である。
本図においては、まず、初期状態における正極の半電池放電曲線301及び負極の半電池放電曲線302を測定する(工程S351)。そして、所定の日数を経過するごとに充放電試験を行うことにより、セルの放電曲線303、304、305(V-Q曲線)を記録する(工程S352)。これにより、セルのカレンダー寿命試験データ(セルデータ)が得られる。この充放電試験を、バッテリーを構成するすべてのセルについて行うことにより、バッテリーのカレンダー寿命試験データ(バッテリーデータ)が得られる。
つぎに、カレンダー寿命試験データに対してDCAモデルの最適化を行い(工程S353)、劣化パラメータ308、309、310を別々に評価することができるようにする。劣化パラメータ308、309、310は、まとめて劣化パラメータ群311と呼ぶ。劣化パラメータ群311は、各電極における活物質の量の減少及び不可逆的なリチウム損失の増加を示す。
つぎに、劣化パラメータ308、309、310について、標準的な電力関数に基づいて内挿又は外挿の処理を行う(工程S354)。これにより、セルの寿命予測関数を求める(工程S355)。この処理を、バッテリーを構成するすべてのセルについて行うことにより、バッテリーの寿命予測関数が得られる。
,m,δ,δのフィッティングにより、同等に正確な複数の候補が得られる。セルのQ-V放電曲線は、扱いやすく単調な形状のために、不正確なパラメータに対しても、対応してしまうため、却って、得られたデータの不確実性が増大してしまう問題がある。
また、DCAによれば、変動を増幅して示す微分放電曲線を利用することができ、解析結果の選択肢の中から最も信頼性の高いフィッティング結果を区別するためのいくつかの手がかりが得られる。しかし、このような選択においては、ユーザは、所定の知識を有することを求められ、結果の確実性がユーザの知識に依存するものとなってしまう問題がある。バッテリーの経年劣化に伴い、劣化パラメータの候補の数は多くなり、ユーザの選択作業が複雑になる。さらに、バッテリーの寿命予測の精度も低下することになる。
ここで、カレンダー寿命は、バッテリーを非通電状態又は最小限の使用で貯蔵することができる時間であって、バッテリーの容量がその初期容量に対して所定の割合(本明細書においては80%を超える容量)残った状態を残した状態までの期間をいう。
カレンダー寿命試験は、各バッテリーモジュールを一定の温度で保管し、およそ2~3年間SoCを維持しておく試験である。この間、バッテリーの電気特性の経時変化を確認するため、定期的な特性評価を行う。
今回、0.7Ah級18650型円筒セルを製作し、これを用いてカレンダー寿命試験中の放電曲線を測定した。セルの活物質としては、正極にマンガン系の層状酸化物、負極に硬質炭素を用いた。正極集電体としてはアルミニウム箔、負極集電体としては銅箔を用い、これらの両面に、通常のスラリー塗布法により活物質層を形成した。これらの両電極をセパレータとともに巻回し、有機カーボネートの混合物中に1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウムを含有する電解質を有する円筒状缶に密封した。
セルの初期放電曲線及び初期放電容量は、24mAで4.1~2.7Vの間で測定した。この電流は、初期条件設定後に、セルの十分な容量を得るのに十分小さい電流とみなされた。この場合における平均初期容量は0.70Ahであり、それを定格容量として使用し、それによってCレートをカレンダー寿命試験の全期間中に定義した。
つぎに、セルの放電曲線の中間点である3.63Vまで充電し、25℃又は60℃で貯蔵した。そして、30日間経過後、25℃でC/25未満で放電、充電及び放電を行い、放電曲線及び容量を測定した(充放電試験)。つぎに、CC/CVモードで1Cの速度で3.63Vまで充電し、それぞれの所定の温度で再び貯蔵した。試験の間隔は、初期には30日とし、450日後からは60日に変更した。容量劣化予測技術の有効性を証明するために、この手順を貯蔵期間が960日となるまで繰り返した。
図4は、DCAモデルの最適化を用いた劣化パラメータの単一セットの推定に基づくバッテリーの寿命予測方法を示すフロー図である。
本図に示す方法は、バッテリーの状態によらず、劣化パラメータの探索空間が広くても適用可能である。
本図においては、まず、図3の工程S352で得られたバッテリーデータを用いて、推定SoHの高低にかかわらず、同じアルゴリズムを適用して演算を進める。DCAモデルの最適化(工程S451)においては、フィッティングパラメータがパラメータ探索空間401、402の範囲内で選択されるように、パラメータ探索空間401、402を調整する必要がある。
図3と同様にして、DCAモデルの最適化(工程S451)により、劣化パラメータ群311を得る。そして、劣化パラメータ群311について、セルの寿命予測関数を求める(工程S452)。この処理を、バッテリーを構成するすべてのセルについて行うことにより、バッテリーの寿命予測関数が得られる。
自動化DCAベースバッテリ寿命予測法の精度を改善するためには、まず、モデル最適化の局所最小解である可能性のあるすべての候補を挙げる必要がある。
図5は、複数セットのDCAモデルの劣化パラメータの推定に基づくバッテリーの寿命予測方法を示すフロー図である。
本図に示す最適化アルゴリズムにおいては、まず、図3と同様に、初期状態における正極の半電池放電曲線301及び負極の半電池放電曲線302を測定する(工程S351)。そして、所定の日数を経過するごとに充放電試験を行うことにより、セルの放電曲線303、304、305(V-Q曲線)を記録する(工程S352)。これにより、セルのカレンダー寿命試験データ(セルデータ)が得られる。この充放電試験を、バッテリーを構成するすべてのセルについて行うことにより、バッテリーのカレンダー寿命試験データ(バッテリーデータ)が得られる。
工程S351及び工程S352を、複数の局所解を見つけるために設定した異なるパラメータ探索空間501、502について行う。
つぎに、これらの複数のパラメータ探索空間501、502に基づいて、バッテリーデータに対してDCAモデルの最適化を行い(工程S551)、劣化パラメータ503、504、505、506、507、508を別々に評価することができるようにする。劣化パラメータ503、504、505、506、507、508は、複数の局所最小解となる。
つぎに、それぞれのバッテリーデータに対して最適解アルゴリズムの処理(工程S552)を行い、図3と同様に、劣化パラメータ308、309、310を別々に評価することができるようにする。劣化パラメータ308、309、310は、まとめて劣化パラメータ群511と呼ぶ。
そして、図3と同様に、劣化パラメータ群511について、標準的な電力関数に基づいて内挿又は外挿の処理を行う(工程S553)。これにより、セルの寿命予測関数を求める(工程S554)。この処理を、バッテリーを構成するすべてのセルについて行うことにより、バッテリーの寿命予測関数が得られる。
図6は、広いパラメータ探索空間を分割するプロセスを含むバッテリーの寿命予測方法を示すフロー図である。ここで、「広いパラメータ探索空間」とは、パラメータが存在し得る探索空間又は範囲をいう。
本図においては、まず、パラメータ探索空間401、402を更に小さい範囲に分割する(工程S651)。そして、これらの小さい範囲のすべてについて、可能な組み合わせのセットを作成する(工程S652)。
つぎに、すべての局所最小解を見つけるために、工程S652で作成した組み合わせのセットについてDCAモデルの最適化を実行する(工程S653)。これにより、複数の劣化パラメータ603、604を含む劣化パラメータ群611が得られる。そして、劣化パラメータ群611の中から最適のものを選択する(工程S654)。
そして、セルの寿命予測関数を求める(工程S655)。この処理を、バッテリーを構成するすべてのセルについて行うことにより、バッテリーの寿命予測関数が得られる。
上述のように、本開示においては、4つのフィッティングパラメータm,m,δ,δを用いた例(すなわち、フィッティングパラメータの数がn=4の場合)を示しているが、このように複数のフィッティングパラメータを用いる場合、組み合わせのセットが多くなる。このため、DCAモデルの最適化等の実行時間が非常に長くなる。高次元の探索空間に対する最適化問題となるからである。
具体的には、パラメータ探索空間がN個の範囲に等分割されると仮定すると、すべての可能な解を見つけるために、N回の最適化アルゴリズムを実行しなければならないことになる。
そこで、広いパラメータ探索空間から有用なパラメータ探索空間を見つけることにより、実行時間を短縮することができる。
図7は、各パラメータに対する広いパラメータ探索空間から有用な探索空間を見つけるために開発したアルゴリズムを詳細に示すフロー図である。
本図においては、まず、図3の工程S352で得られたバッテリーデータを用いて、推定SoHが所定の値より高いかどうか判定する(工程S751)。推定SoHが高ければ、バッテリーは健全であり、単一セットの劣化パラメータを探索する。この場合は、図4と同様のアルゴリズムに従って処理される。すなわち、DCAモデルの最適化(工程S752)を行い、セルの寿命予測関数を求める(工程S753)。そして、バッテリーの寿命予測関数を得る。
これに対して、推定SoHが所定の値以下であれば、バッテリーは経年劣化していると判定される。この場合は、複数セットの劣化パラメータを探索する。
各パラメータについて、有用な探索空間を見つけるためのアルゴリズムは、別々に実行される。
すなわち、まず、パラメータ探索空間401、402を更に小さい範囲に分割する(工程S754)。そして、これらの小さい範囲のすべてについて、有用な探索空間705、706を探索する(工程S755)。
つぎに、有用な探索空間705、706について、再度、更に小さい範囲に分割する(工程S756)。そして、これらの小さい範囲のすべてについて、可能な組み合わせのセットを作成する(工程S757)。
つぎに、すべての局所最小解を見つけるために、工程S757で作成した組み合わせのセットについてDCAモデルの最適化を実行する(工程S758)。これにより、複数の劣化パラメータ603、604を含む劣化パラメータ群611が得られる。そして、劣化パラメータ群611の中から最適のものを選択する(工程S759)。
そして、セルの寿命予測関数を求める(工程S760)。この処理を、バッテリーを構成するすべてのセルについて行うことにより、バッテリーの寿命予測関数が得られる。
つぎに、工程S754~S760における計算の負荷を減らす方法について説明する。
図8は、DCAモデルの各パラメータに対する有用なパラメータ探索空間を見つけるステップ・バイ・ステップ・アルゴリズムを示すフロー図である。
本図に示すアルゴリズムは、図7の工程S755の詳細を示すものである。このアルゴリズムは、パラメータ1~パラメータnから順次選択されたパラメータxについて行うものである。
まず、すべてのパラメータについての広いパラメータ探索空間801、802を、初期の電極質量及びセルの最大容量を基準として大まかに決定される。
つぎに、これらの広いパラメータ探索空間のうち、パラメータxの探索空間については、複数の範囲(理想的には3つ又は4つの範囲)に等分割する(工程S851)。
つぎに、各パラメータに対してモデルの最適化(工程S852)を行う。モデルの最適化(工程S852)は、パラメータx以外の他のパラメータの探索空間については広いものとして、分割された各範囲に対して行われる。これにより、分割された範囲を用いるこれらの最適化のためのフィッティングエラー803、804(フィッティング誤差)が記録される。フィッティングエラー803、804のうち最も小さいものをパラメータxの有用な探索空間806として選択する(工程S853)。
このアルゴリズムをすべてのパラメータ(パラメータ1~パラメータn)に適用することにより、工程S755の結果としての有用な探索空間705、706が得られる。すなわち、パラメータ1~パラメータnのすべてについての有用な探索空間705、706が得られる。
以下、具体例について説明する。
4つのパラメータm,m,δ,δを用いる場合において、例えば、広いパラメータ探索空間をm(=N/2)個の範囲に分割すると仮定すると、最適化が実行される総回数は、パラメータの数をnとして、n×m=4mである。
ここで、すべての局所解を見つけるために、すべてのパラメータに対する有用な探索空間を複数の等分割範囲に分割する。
1つのパラメータに対してN個の範囲を有する図6の最適化アルゴリズムと同じ結果を得るためには、有用な探索空間を2(=N/m)個の範囲に分割するのが妥当である。
したがって、N=6とした場合には、すべてのパラメータをN個の範囲に分割することによってすべての可能な解を見つけるために、各データセットについて最適化アルゴリズムが実行する総回数は、nm+(N/m)=4×(6/2)+2=28(回)である。
一方、図6の方法は、N=6=1296(回)の実行を必要とする。
したがって、アルゴリズムの実行速度は、1296/28≒46.3>46(倍)以上と大幅に高速化される。
よって、必要に応じて有用な探索空間の分割数を増やし、望ましい解を見つける可能性を高めることができる。
なお、モデルの最適化は、複数のパラメータ探索空間のすべてに対して実行されることが望ましい。また、不必要な計算負荷を回避するために、有用な局所解のみが記憶装置に保存されることが望ましい。複数の局所解を見つけた後、すべての可能な組み合わせセットを作成することが望ましい。
上記のアルゴリズムにより、作成されたすべての可能な組み合わせセットの中から、信頼性の高い最適解を見つけ出すことができ、電池寿命予測関数を得ることができる。
図8に示すように探索空間を縮小することにより、DCAモデルの最適化アルゴリズムの精度を高めることができる。
以下、本開示の望ましい実施形態について、まとめて説明する。
蓄電池劣化評価方法においては、複数のフィッティングパラメータに対する有用な探索空間を見つけ、有用な探索空間を複数の範囲に分割し、最適化問題に対する複数の局所最小解を得ることが望ましい。
蓄電池劣化評価方法においては、経年劣化していると判定された蓄電池の放電曲線解析のモデルのフィッティングパラメータについての最適化を実行することにより、複数の局所最小解を見つけることが望ましい。
蓄電池劣化評価方法においては、複数のフィッティングパラメータから選択された一部のフィッティングパラメータについて、その探索空間を複数の範囲に分割し、その他のフィッティングパラメータの探索空間については分割しないで、放電曲線解析のモデルの複数のフィッティングパラメータのすべてについての最適化を実行することにより、複数のフィッティングパラメータのそれぞれに対するフィッティングエラーを算出し、フィッティングエラーのうち最も小さいものを選択された一部のフィッティングパラメータの有用な探索空間として選択し、上記の工程を繰り返すことにより、複数のフィッティングパラメータのすべてについての有用な探索空間を見つけることが望ましい。
蓄電池劣化評価方法においては、有用な探索空間の分割数を増やすことにより、解の精度を高めることが望ましい。
蓄電池劣化評価方法においては、劣化パラメータを用いて蓄電池の寿命予測関数を求めることが望ましい。
103、203、303、304、305:セルの放電曲線、104、106、204:正極の放電曲線、105、107、205:負極の放電曲線、210:差分データ、211:セルの微分放電曲線、212:正極の微分放電曲線、213:負極の微分放電曲線、301:正極の半電池放電曲線、302:負極の半電池放電曲線、308、309、310、503、504、505、506、507、508、603、604:劣化パラメータ、311、511、611:劣化パラメータ群、401、402、501、502、801、802:パラメータ探索空間、705、706、806:有用な探索空間、803、804:フィッティングエラー。

Claims (9)

  1. 蓄電池の放電曲線に正極及び負極の放電曲線をフィッティングすることにより劣化パラメータを推定し、前記蓄電池の劣化を評価する方法であって、
    前記蓄電池の健全性が所定の値より高いかどうか判定し、
    前記蓄電池の前記健全性が前記所定の値より高い場合には、前記劣化パラメータの単一セットを探索し、
    前記蓄電池の前記健全性が前記所定の値以下の場合には、前記蓄電池が経年劣化していると判定し、前記劣化パラメータの複数セットを探索する、蓄電池劣化評価方法。
  2. 複数のフィッティングパラメータに対する有用な探索空間を見つけ、
    前記有用な探索空間を複数の範囲に分割し、
    最適化問題に対する複数の局所最小解を得る、請求項1記載の蓄電池劣化評価方法。
  3. 経年劣化していると判定された前記蓄電池の放電曲線解析のモデルのフィッティングパラメータについての最適化を実行することにより、複数の局所最小解を見つける、請求項2記載の蓄電池劣化評価方法。
  4. 前記複数のフィッティングパラメータから選択された一部のフィッティングパラメータについて、その探索空間を複数の範囲に分割し、その他のフィッティングパラメータの探索空間については分割しないで、前記放電曲線解析の前記モデルの前記複数のフィッティングパラメータのすべてについての最適化を実行することにより、前記複数のフィッティングパラメータのそれぞれに対するフィッティングエラーを算出し、
    前記フィッティングエラーのうち最も小さいものを前記選択された一部のフィッティングパラメータの有用な探索空間として選択し、
    上記の工程を繰り返すことにより、前記複数のフィッティングパラメータのすべてについての前記有用な探索空間を見つける、請求項3記載の蓄電池劣化評価方法。
  5. 前記有用な探索空間の分割数を増やすことにより、解の精度を高める、請求項2記載の蓄電池劣化評価方法。
  6. 前記劣化パラメータを用いて前記蓄電池の寿命予測関数を求める、請求項1記載の蓄電池劣化評価方法。
  7. 前記蓄電池は、リチウムイオン電池を含む、請求項1記載の蓄電池劣化評価方法。
  8. 前記蓄電池は、複数個の単電池を含む、請求項1記載の蓄電池劣化評価方法。
  9. 前記劣化パラメータは、前記蓄電池の不可逆な容量変化並びに使用可能な正極活物質及び負極活物質の損失である、請求項1記載の蓄電池劣化評価方法。
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