JP2023083665A - マイオネクチンを有効成分とする筋萎縮抑制剤 - Google Patents

マイオネクチンを有効成分とする筋萎縮抑制剤 Download PDF

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【課題】筋萎縮により減少した骨格筋量を回復し、筋萎縮を特徴する疾患の予防又は治療に利用することのできる医薬を提供すること。【解決手段】マイオネクチンタンパク又はその誘導体を有効成分とする筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。【選択図】なし

Description

本発明はマイオネクチンを有効成分とする筋萎縮抑制剤に関する。より詳細には、本発明は、マイオネクチンを有効成分とする筋萎縮を特徴する疾患の予防及び/又は治療剤に関する。
近年、高齢化の進む諸国では高齢者の抱える問題が社会全体に大きな影響を及ぼすようになった。平均寿命が伸びた一方で、今後はいかに健康寿命を延ばすかが課題となっており、加齢に伴う恒常性の低下を意味するフレイルや、その原因となるサルコペニアに注目が集まっている。
サルコペニアは、加齢に伴う骨格筋量の減少と筋力低下を兼ね備えた状態と定義される。European Working Group on Sarcopenia for Older People(EWGSOP)による診断基準によると、筋肉量の減少を診断の中核とし、それに加えて筋力低下あるいは筋肉機能の低下を伴う場合にサルコペニアと診断することを提唱している(非特許文献1)。本邦のコホート研究である「国立長寿医療センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータによると、日本人高齢者におけるサルコペニア有病者は男性132万人、女性139万人と推計されている(非特許文献2)。
骨格筋細胞はさまざまな理由で萎縮するため、加齢による筋肉の減少(いわゆる筋肉枯れ)を防ぐことがサルコペニアを予防治療する上で重要であるといわれている。骨格筋量はタンパク質の合成と分解のバランスによって制御されていて、タンパク質合成を促進する代表的な経路としてPI3K-Akt-mTORがあり、またタンパク質分解を制御する代表としてユビキチン-プロテアソーム経路やオートファジー経路がある。Atrogin-1(muscle atrophy F-box)やMuRF1(muscle ring finger 1)はさまざまなタンパク質に結合するユビキチンリガーゼであり、結合されたタンパク質はユビキチンとプロテアソームの働きで分解される。Atrogin-1とMuRF1の発現は、PGC-1α(peroxisome proliferator-activated receptor γ coactivator 1α)によって負に制御されている(非特許文献3)。また、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)スーパーファミリーメンバーであるマイオスタチンも筋萎縮促進因子として報告されている(非特許文献4)。現在の日本は4人に一人が65歳以上の高齢者であり、今後も高齢化率の上昇とそれに伴うサルコペニア患者の増加が見込まれる。しかしながら、サルコペニアに対する有用な薬物療法は未だ確立されていないのが現状である。
マイオネクチン(CTRP15、エリスロフェロン)はC-terminal C1q/TNF-like domain を有するC1q/TNF-related protein(CTRP)ファミリーに属しており、運動により骨格筋から発現が上昇するアディポネクチンパラログとして、2012年に報告された(非特許文献5)。マイオネクチンは骨格筋、特にヒラメ筋などのtype1 muscle fiberに豊富に発現しており、心筋にはほとんど発現していない。マイオネクチンはこれまで、培養脂肪細胞や肝臓における脂質再取り込みを増加すること(非特許文献5)、肝臓におけるオートファジーの抑制(非特許文献6)、赤芽球の鉄吸収亢進による造血能の上昇(非特許文献7)が報告されている。また最近になって、心筋細胞アポトーシス抑制や心保護作用が報告されている(非特許文献8)。しかしながら、マイオネクチンの骨格筋機能への関与やマイオネクチンがサルコペニアの治療標的であることを示唆する報告はこれまでなかった。
Cruz-Jentoft AJ et al., Age and Ageing 39 412-423(2010) Yuki A et al., Clinical Calcium 28(9) 1183-1189(2018) Sandri M. et al., PNAS,103(44),16260-16265(2006) Taylor W.E. et al., Am J Physiol Endocrinol Metab.,280 E221-E228(2001) Marcus M. Seldin et al., J.Biol.Chem.,287(15),11968-11980 (2012) Marcus M. Seldin et al., J.Biol.Chem.,288(50),36073-36082(2013) Kautz L. et al., Nat. Genet.,46(7),678-84(2014) Otaka N. et al., Circ.Res.,123(12),1326-1338(2018)
本発明は、筋萎縮により減少した骨格筋量を回復し、サルコペニア又は筋ジストロフィー等の筋萎縮を特徴とする疾患の予防又は治療に利用することのできる医薬を提供することを目的とする。
本発明者らは、このような解題を解決するためにマイオネクチンの筋萎縮に対する作用を検討した。マイオネクチン遺伝子欠損(KO)マウスと野生型(WT)マウスを用いて坐骨神経切断筋萎縮モデルマウスを作成して腓腹筋とヒラメ筋重量の低下を比較したところ、KOマウスにおいてより重度の筋重量の減少を確認した。そこで、マイオネクチンタンパクを作成して坐骨神経切断筋萎縮モデルに投与したところ、神経切断誘導性の腓腹筋萎縮の抑制を確認した。さらに筋ジストロフィーモデルマウスにアデノウイルスベクターを用いて筋組織にマイオネクチンを過剰発現させたところ、腓腹筋量が増加することを見出した。本発明はかかる実験データに基づいて完成されたものである。
すなわち本発明は、以下の発明に関する。
[1]マイオネクチン(CTRP15)タンパク又はその誘導体を有効成分とする筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
[2]マイオネクチンタンパクが配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列を含むタンパクである、前記[1]に記載の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
[3]マイオネクチンタンパクが配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパクである、前記[1]又は[2]のいずれか一に記載の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
[4]マイオネクチンタンパクの誘導体が、配列番号1又は配列番号3と少なくとも90%以上同一のアミノ酸配列を有するタンパクであって、筋萎縮抑制作用及び/又は回復作用を有するタンパクである、前記[1]~[3]のいずれか一に記載の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
[5]配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパクをコードするポリヌクレオチド、又は配列番号1又は配列番号3と少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパクであって、筋萎縮抑制作用及び/又は回復作用を有するタンパクをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを有効成分とする筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
[6]前記ポリヌクレオチドが、配列番号2又は配列番号4の塩基配列からなるポリヌクレオチド又は配列番号2又は4と少なくとも90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドである、前記[5]に記載の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
[7]前記ポリヌクレオチドが骨格筋での発現を可能にするプロモーターと機能的に連結されたものである、前記[5]又は[6]のいずれか一に記載の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
[8]ベクターがアデノウイルスベクターである前記[5]~[7]のいずれか一に記載の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
[9]筋萎縮を特徴とする疾患が、サルコペニア又は筋ジストロフィーである前記[1]~[8]のいずれか一に記載の予防及び/又は治療剤。
[10]筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療における使用のための、マイオネクチンタンパク又はその誘導体。
[11]サルコペニア又は筋ジストロフィーの予防及び/又は治療における使用のための、マイオネクチンタンパク又はその誘導体。
[12]筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療における使用のための、マイオネクチンタンパク又はその誘導体をコードするポリヌクレオチド。
[13]サルコペニア又は筋ジストロフィーの予防及び/又は治療における使用のための、マイオネクチンタンパク又はその誘導体をコードするポリヌクレオチド。
[14]治療を必要とする対象に有効量のマイオネクチンタンパク又はその誘導体を投与する工程を含む、筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療方法。
[15]治療を必要とする対象に有効量のマイオネクチンタンパク又はその誘導体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを投与する工程を含む、筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療方法。
[16]筋萎縮を特徴とする疾患が、サルコペニア又は筋ジストロフィーである前記[14]又は[15]のいずれか一に記載の予防及び/又は治療方法。
[17]筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤の製造のための、マイオネクチンタンパク又はその誘導体の使用。
[18]筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤の製造のための、マイオネクチンタンパク又はその誘導体をコードするポリヌクレオチドの使用。
[19]筋萎縮を特徴とする疾患が、サルコペニア又は筋ジストロフィーである前記[17]又は[18]のいずれか一に記載の使用。
本発明のマイオネクチンタンパク、又はその誘導体は、筋萎縮モデルに対する筋萎縮抑制作用及び回復作用を有することから、筋萎縮を特徴とする疾患に対する予防及び/又は治療剤として適用が可能である。より詳細には、マイオネクチンタンパク、マイオネクチンタンパクの配列変異体、又はそれらの誘導体を有効成分とする筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤を提供することができる。
図1は坐骨神経切断により引き起こされる筋萎縮に及ぼす、マイオネクチン遺伝子欠損の影響を示す。図1中、Aは、マウス坐骨神経切断モデルにおける、神経切除5日後の野生型マウス(WT)およびマイオネクチン欠損マウス(KO)の腓腹筋(Gastroc.)(左図)およびヒラメ筋(Soleus)(右図)の体重1グラム当たりの重量(mg)(相対重量)を示す。図において、Denervation muscleは(右)坐骨神経を切断することにより筋萎縮が誘発された群を、Non-denervation muscleは前記群の個体の神経切断されていない側(左側)の群をそれぞれ意味する。図1中、Bは、Aの各群における、腓腹筋のリン酸化AMPK(pAMPK)発現レベルおよびPGC1α発現レベルを試験した結果を示す。左図は、pAMPK、AMPK(非リン酸化AMPK)、PGC1α及びチューブリンの発現レベルを、それぞれウエスタンブロッティングで試験した代表的な結果を示す。当該ウエスタンブロッティングで得られたシグナル強度を定量化し、pAMPK及びPGC1αの発現レベルをそれぞれチューブリン発現レベルに対する相対値として表したものが右図である。相対値は、それぞれ、野生型マウスの神経切除しない側におけるチューブリンの発現レベルに対するpAMPK又はPGC1α1の発現レベル(pAMPK/Tubulin又はPGC1α1/Tubulin)を1として示されている。図1中の各グラフにおいて、p<0.01は比較した群間でp<0.01の有意差が認められたことを、p<0.05は比較した群間でp<0.05の有意差が認められたことを、p<0.001は比較した群間でp<0.001の有意差が認められたことを、NS及びN.S.は有意差が無いことを、それぞれ示す。
図2は、坐骨神経切断による筋萎縮に及ぼすマイオネクチンタンパク投与の影響を示す図である。Aは、マウスにゼラチン粒子に結合させたマイオネクチンまたは溶媒(Veh)を皮下注射し、坐骨神経を切断してから5日後における、腓腹筋の相対重量を示す図である。Bは、Aで示した腓腹筋における、筋萎縮の促進因子であるマイオスタチンの発現量(マイオスタチンmRNAの内部標準である36B4に対する相対的な発現レベル)を示す図である。相対値は、それぞれ、溶媒を皮下注射したマウスの神経切除しない側(Non-denervation/Veh)における36B4の発現レベルに対するミオスタチンの発現レベル(Myostatin/36B4)を1として示されている。また、図において、p<0.001は比較した群間でp<0.001の有意差が認められたことを、p<0.05は比較した群間でp<0.05の有意差が認められたことを、N.S.は有意差が無いことを、それぞれ示す。
図3は、筋ジストロフィーモデルマウス(mdxマウス)において、マイオネクチン遺伝子を含むアデノウイルスベクターを用いて筋組織にマイオネクチンを過剰発現させ、腓腹筋の相対重量(mg/BW(g))を測定したときの、筋肉増強作用を示す図である。図において、Ad-β-galはβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を含むコントロールベクターを示し、Ad-Myonectinはマイオネクチン過剰発現用アデノウイルスベクターを示す。p<0.05は比較した群間でp<0.05の有意差が認められたことを示す。
図4は、マイオネクチンタンパクで前処置したC2C12細胞(マウス筋芽細胞株)にデキサメタゾン(Dex)を処置した時の細胞を観察し(上段の8パネル)、筋管径(Diameter)(μm)を測定した結果(下段)を示す図である。上段の8パネルの観察像のうち、下方の4パネルは、それぞれ、直上のパネル中で四角に囲った領域を拡大したものである。図において、“-”はマイオネクチンまたはデキサメタゾンを処置しない群、“+”はマイオネクチンまたはデキサメタゾンを処置した群を示す(上段の観察像及び下段のグラフに共通)。また、図において、p<0.001は比較した群間でp<0.001の有意差が認められたことを示す。
本明細書において「マイオネクチン」は、C1q/TNF-related protein 15(CTRP15)およびerythroferroneとしても知られるタンパクである。ヒト由来のマイオネクチンは、N末端からシグナルペプチド、N-terminal domain-1、short collagen domain、N-terminal domain-2およびC末端に球状のC1q/TNF like domainを含んだ357aaからなる分泌タンパクである。マイオネクチンは特にタイプI筋線維(遅筋線維)に高発現し、持続性運動にて骨格筋および血中で発現が上昇する。マイオネクチンは脂肪細胞や幹細胞での遊離脂肪酸の取り込み促進や鉄代謝に関与する。配列番号1はヒトマイオネクチンタンパクのアミノ酸配列(GenBank: AHL84165.1)を、配列番号3はマウスマイオネクチンタンパクのアミノ酸配列(GenBank: ADP00570.1)をそれぞれ示している。なお、ヒトとマウスのアミノ酸配列の比較は、Biochemistry.59(29) 2684-2697(2020)に記載があり、特にC末端のC1q/TNF like domainの配列は高度に保存されている。本発明において、マイオネクチンは、所望の生理学的機能を備える限り、どのような動物種に由来するポリペプチドであっても良いが、ヒト又はマウス由来のマイオネクチンが好ましい。好ましいマイオネクチンタンパクの代表的な例は、配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパクであるが、所望の生理学的機能を備える限り、これらの機能的フラグメントであっても良い。ここで、所望の生理学的機能を備えるとは、例えば、本発明の実施例に示される脱神経誘発性筋萎縮モデルマウス、DEX誘導性筋萎縮モデルマウス等において、筋萎縮抑制効果、萎縮筋回復効果、筋萎縮関連遺伝子の発現誘導(発現上昇)抑制効果、及び筋萎縮関連遺伝子の発現抑制効果から選択される少なくとも一の効果が、対照と比して有意に認められることを言う。別の例として、所望の生理学的機能を備えるとは、本発明の実施例に示される筋萎縮モデルマウスにおいて、筋萎縮抑制効果、萎縮筋回復効果、筋萎縮関連遺伝子の発現誘導(発現上昇)抑制効果、及び筋萎縮関連遺伝子の発現抑制効果から選択される少なくとも一の効果が、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトマイオネクチンタンパクが投与された場合の効果と比して、少なくとも50%、好ましくは60%超、より好ましくは70%超、さらに好ましくは80%超、最も好ましくは90%超のレベルで認められることを言う。
前記の「機能的フラグメント」とは、より具体的には、全長タンパクの部分断片配列を有するタンパクを意味する。すなわち、マイオネクチンタンパクの全長アミノ酸配列のN末端若しくはC末端のいずれか又は両側からアミノ酸が欠失した末端切断型のものである。ここで、「機能的」は、前記の「所望の生理学的機能を備える」と同様に理解されるものである。
本明細書において「タンパクの誘導体」とは、マイオネクチンタンパクと実質的に同じ生物学的機能又は活性を有するタンパクを意味する。ここで、「実質的に同じ生物学的機能又は活性を有する」とは、前記「所望の生理学的機能を備える」と同様に理解されるものである。また、「実質的に同じ生物学的機能又は活性を有する」と、後述の「機能的に同等な」との表現は、本発明において同義である。本発明において、「タンパクの誘導体」には、天然のマイオネクチンタンパクのアミノ酸配列上の変異体、及び/又は、天然のマイオネクチンタンパクに対して修飾基で修飾されたタンパクが含まれる。
天然のマイオネクチンタンパクのアミノ酸配列上の変異体の例は、配列番号1又は配列番号3と少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパクであって、筋萎縮抑制作用を有するタンパクである。また別の例は、配列番号1と少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパクであって、筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療活性を有するタンパクである。ここで言う筋萎縮抑制作用及び/又は萎縮筋回復作用、又は筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療活性とは、筋萎縮抑制作用及び/又は萎縮筋回復作用、又は筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療活性において、前記の「実質的に同じ生物学的機能又は活性を有する」や、前記「所望の生理学的機能を備える」範囲と同様の作用又は活性を有するものである。
ここで、基準アミノ酸配列に対する、対象アミノ酸配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列をアラインメントする。ここで、各アミノ酸配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列において、一致したアミノ酸の数を算出し、下記式(1)にしたがって、配列同一性を求めることができる。
配列同一性(%)=一致したアミノ酸の数/対象アミノ酸配列のアミノ酸の総数×100 (1)
天然のマイオネクチンタンパクのアミノ酸配列上の変異体の別の例は、配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸残基において、欠失、置換、付加又は挿入を含むアミノ酸配列からなるタンパクであって、筋萎縮抑制作用及び/又は萎縮筋回復作用、又は筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療活性を有するタンパクである。ここで複数個とは、例えば50個以下、好ましくは40個以下、より好ましくは30個以下、さらに好ましくは20個を意味する。
本発明において、マイオネクチンタンパク又はそのアミノ酸配列上の誘導体の別の例は、配列番号2又は配列番号4の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は、配列番号2又は配列番号4と少なくとも80%、好ましくは85%、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドによりコードされるタンパクであって、筋萎縮抑制作用及び/又は回復作用、又は、筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療活性を有するタンパクである。
続いて、天然のマイオネクチンタンパクに対して修飾基で修飾されたタンパクであるマイオネクチンタンパクの誘導体について述べる。該マイオネクチンタンパクの誘導体には、マイオネクチンタンパク(例えば、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク、配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパク)において、タンパク鎖のN末端のアミノ基をアセチル基などのアシル基やその他の修飾基で修飾した修飾タンパク、C末端のカルボキシキル基をカルボキシレート、アミド又はエステルなどに変換したタンパクが本発明に包含される。また、タンパク質精製に用いられるアフィニティータグを末端に有するタンパクも本発明に包含される。アフィニティータグの例としてはフラグタグ(FLAG tag)やヒスチジンタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ、ヘマグルニチン(HA)タグなどが知られている。タグは、マイオネクチンタンパクの生物学的機能又は活性を実質的に損なわない限りにおいて、どのような物であっても任意に用いることができる。さらに、血中半減期の延長を狙ってポリエチレングリコール付加(PEG化)されたタンパクや、糖鎖が付加されたタンパクも、マイオネクチンタンパクの生物学的機能又は活性を実質的に損なわない限りにおいて、マイオネクチンタンパクの誘導体の一態様として本発明に包含される。
本発明において、マイオネクチンタンパク、又はマイオネクチンタンパクの誘導体であってマイオネクチンタンパクと機能的に同等なタンパクは、L-アミノ酸、D-アミノ酸、又はこれらの組み合わせからなるものであってもよい。L-アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であり、D-アミノ酸は、L-アミノ酸残基のキラリティーが反転しているものである。また、筋萎縮抑制活性や萎縮筋回復活性を増加させるために、又は他の物性を最適化するために化学的修飾を受けていてもよい。即ち、本発明の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤は、マイオネクチンタンパク、又はマイオネクチンタンパクと機能的に同等なタンパク質に加え、マイオネクチンタンパクと機能的に同等なタンパク質の誘導体を含んでいてもよい。
本発明のマイオネクチンタンパク又はその誘導体は、製薬上許容される塩と共に用いることができる。本明細書において「製薬上許容される塩」としては、酸又は塩基との生理学的に許容される塩が挙げられる。この様な塩としては、例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸等の無機酸との塩;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸との塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウム等の無機塩基との塩;カフェイン、ピペリジン、トリメチルアミン、ピリジン等の有機塩基との塩;アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム等)、遷移金属(例えば、鉄、銅、亜鉛等)、アルミニウム、スズ等の2価、3価又は4価の金属との塩が挙げられる。前記の「製薬上許容される塩」の形態は、いずれも、周知の手法により当業者が適宜調製可能なものである。
本発明のマイオネクチンタンパク若しくはその誘導体、又はそれらの製薬上許容される塩は、いずれも、本発明において、溶媒和物の形態として使用しても良い。本明細書において「溶媒和物」としては、好ましくは水和物が挙げられる。溶媒は本発明のタンパクに対し、任意の数で配位していてもよい。前記の「溶媒和物」の形態は、いずれも、周知の手法により当業者が適宜調製可能なものである。
本明細書において、筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤(以下、「医薬組成物」と言うことがある。)は、少なくとも、本発明のマイオネクチンタンパク若しくはその誘導体、又は、マイオネクチンタンパク若しくはその誘導体をコードするポリヌクレオチドを含有したものであれば良く、任意にマイオネクチンタンパク又はその誘導体の製薬上許容される塩又はそれらの溶媒和物を含有していてもよい。
本明細書において、「マイオネクチンタンパク」は天然由来のタンパクとして単離・精製されたものであってもよいし、遺伝子組換え産物として発現させ、単離・精製されたものであっても良いし、人工的に化学合成して得られたタンパクであってもよい。天然物由来のタンパクとしては、天然に存在するオリゴペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、又はこれらを断片化した状態のもの等が挙げられる。天然物由来のタンパク質は、天然物から公知の回収法及び精製法により直接得ることができる。遺伝子組換え産物としてのマイオネクチンタンパクは、公知の遺伝子組換え技術により、当該タンパク質をコードする遺伝子を各種発現ベクター等に組込んで宿主細胞に導入し、発現させた後、公知の回収法及び精製法により得てもよい。あるいは、市販のキット、例えば、試薬キットTNTTM System(プロメガ)、PUREfrex(ジーンフロンティア)、無細胞タンパク質合成キット(エヌユープロテイン)等を用いた無細胞タンパク質合成系により当該タンパク質を産生し、公知の回収法及び精製法により得てもよく、限定はされない。遺伝子組み換え技術を用いて製造する場合は、アミノ酸配列に対応するポリヌクレオチド(DNAあるいはRNA)を製造し、当該ポリヌクレオチドを用いた通常の遺伝子工学的手法を用いて単離する。そして、得られる遺伝子をベクターに導入して組換えベクターを作製し、さらに組換えベクターを適当な宿主に導入して形質転換体を得る。組換えベクターを宿主内で機能し得るように発現ベクターとして構築すると、形質転換体を培養することによりマイオネクチンタンパクを単離精製することができる。また、化学合成タンパク質は、公知のタンパク質合成方法を用いて得ることができる。合成方法としては、例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、カルボイミダゾール法及び酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のタンパク質合成装置を使用してもよい。合成反応後は、クロマトグラフィー等の公知の精製法を組み合わせてタンパク質を精製することができる。
製造した本発明のタンパクは、タンパク化学の分野において一般に知られているタンパク質の単離、精製方法によって精製することができる。具体的には、例えば抽出、再結晶、硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムなどによる塩析、遠心分離、透析、限外濾過法、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過法、ゲル浸透クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法、向流分配などや、これらの組合せなどの処理操作が挙げられる。
本発明の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤は、マイオネクチンタンパクまたはその誘導体タンパクをコードするポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを発現可能に組み込んだベクターを含む。マイオネクチンタンパクをコードする核酸としては、配列番号2で表されるヒトマイオネクチンタンパクをコードする塩基配列(KEGG Entry No.151176)、配列番号4で表されるマウスマイオネクチンタンパクをコードする塩基配列(KEGG Entry No. 227358)からなる核酸等が挙げられる。また、配列番号2と少なくとも80%、好ましくは85%、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、筋萎縮抑制作用及び/又は萎縮筋回復作用、又は、筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療活性を有するタンパクをコードするポリヌクレオチドも本発明において用いることができる。
ここで、基準塩基配列に対する、対照塩基配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準塩基配列及び対象塩基配列をアラインメントする。ここで、各塩基配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準塩基配列及び対象塩基配列において、一致した塩基の塩基数を算出し、下記式(2)にしたがって、配列同一性を求めることができる。
配列同一性(%)=一致した塩基数/対象塩基配列の総塩基数×100 (2)
本発明の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤は、マイオネクチンタンパク又はその誘導体をコードする核酸のみを含むベクターからなるものであってもよいし、又は、当該核酸を含み、その他に遺伝子発現に寄与する公知の塩基配列(例えば、転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター配列等)を発現制御領域として含むベクターであってもよい。ここで、前記の遺伝子発現に寄与する転写プロモーター等の配列は、いずれも、マイオネクチンタンパク又はその誘導体をコードする核酸の配列と機能的に連結させて用いられる。これらの配列は前記核酸の配列と必ずしも直結させる必要はなく、前記核酸の5’又は3’側において、スペーサーとなる配列を介して連結されてもよく、前記核酸の遺伝子発現に寄与する限り「機能的に連結された」状態が達成される。所望の発現レベルを達成する目的において、プロモーターに加えて、エンハンサーなどのその他の発現制御領域をベクター内で適宜組み合わせて用いることができる。また、マイオネクチンタンパク又はその誘導体をコードする領域の5’側に、分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列を有していてもよい。
上述の発現ベクターにおいて、転写プロモーターは、骨格筋での遺伝子発現を可能とするものが好ましく用いられ、骨格筋でのマイオネクチンタンパク又はその誘導体の過剰発現を可能とするものがより好ましく用いられる。転写プロモーターは、骨格筋を含む諸組織で構成的な遺伝子発現を誘導する構成的なプロモーターであっても、骨格筋で特異的な遺伝子発現を誘導する組織特異的なプロモーターであっても良い。前者の発現用プロモーターとしては特に限定されず、例えば、EF1αプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウィルス)プロモーター、HSV-tkプロモーター、RSVプロモーター、CAGプロモーター等のプロモーターを挙げることができる。また、後者の例としてα-アクチンプロモーターが挙げられるが、これに限定されない。
本発明の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤である、マイオネクチンタンパク又はその誘導体をコードする核酸を含むベクターは、発現ベクターとして調製される。発現ベクターとしては特に制限されず、例えば、大腸菌等の細菌由来のプラスミド;酵母等の真菌由来プラスミド;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、センダイウイルス等のウイルスゲノム由来のウイルスベクター;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。中でも、高等脊椎動物の体内に直接投与する観点から、ベクターとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス又はレンチウイルスベクターが好ましく、アデノウイルスベクターが特に好ましい。ここで、アデノウイルスベクターは、安全に使用できるよう、ウイルスの増殖に必須なE1遺伝子を欠損させたものが好ましく用いられる。アデノウイルスベクター等の発現用ベクターは、市販のベクターを利用することができる。
マイオネクチンタンパク又はその誘導体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターは、本発明の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤の有効成分とするマイオネクチンタンパク又はその誘導体を遺伝子組換え体として調製する目的でも使用される。ベクターは発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては特に制限されず、例えば、pcDNA3.4、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のプラスミド;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のプラスミド;pSH19、pSH15等の酵母由来プラスミド;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、センダイウイルス等のウイルスゲノム由来のウイルスベクター;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
上述の発現ベクターにおいて、マイオネクチンタンパク、又はマイオネクチンタンパクと機能的に同等なタンパク質の発現用プロモーターとしては特に限定されず、例えば、EF1αプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウィルス)プロモーター、HSV-tkプロモーター等の動物細胞を宿主とした発現用のプロモーター、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、REF(rubber elongation factor)プロモーター等の植物細胞を宿主とした発現用のプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、p10プロモーター等の昆虫細胞を宿主とした発現用のプロモーター等を使用することができる。これらプロモーターは、マイオネクチンタンパク、又はマイオネクチンタンパクと機能的に同等なタンパク質を発現する宿主に応じて、適宜選択することができる。発現ベクターは、さらに、マルチクローニングサイト、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、複製起点等を有していてもよい。
本発明のタンパクは、後記する実験例において確認されたように、筋萎縮の抑制作用及び回復作用を有することから、加齢による筋肉の減少を特徴とする疾患に対する予防及び/又は治療剤として使用することができる。このような疾患としては、上述の加齢による筋肉の減少を特徴とするサルコペニアの他、筋ジストロフィー等の筋原性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、球脊髄性筋萎縮症等の神経原性筋萎縮症等が挙げられる。
さらに本発明のタンパクは、後記実施例に示すように、デキサメタゾン誘発筋萎縮、神経切断による筋萎縮、筋ジストロフィーの3種類のin vivoモデルや骨格筋細胞を用いたin vitroの筋萎縮モデルに有効であることから、サルコペニアや筋萎縮症だけでなく、筋萎縮を伴う各種の疾患、すなわち、脊髄小脳変性症、パーキンソン病、多発神経炎、重症筋無力症、筋肉ミオパシー、フリードライヒ運動失調、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー筋ジストロフィー、肢帯筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、緊張性筋ジストロフィー、眼球咽頭型筋ジストロフィー、末梢型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症およびエメリー-ドライフス型筋ジストロフィー、ハンチントン病、筋消耗性疾患、ロコモティブシンドローム、フレイル(frailty)脊髄損傷(SCI)後の筋肉機能不全および脳卒中後の筋肉機能不全といった、筋萎縮を伴うすべての疾患に対して本発明の効果が及ぶ。ただし、本発明の適用範囲から心筋の萎縮を除く。
本発明の医薬組成物の投与量及び投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、治療すべき症状の性質若しくは重篤度等を勘案して適宜選択される。マイオネクチンタンパク質をコードする核酸を含むベクター、又はマイオネクチンタンパクと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸を含むベクターを注射剤により筋肉内注射する場合、成人一人当たりに対し、1回の投与において1μg以上のベクターDNAの量を投与することが好ましく、10μg~3mgのベクターDNAの量を投与することがより好ましく、25μg~1mgのベクターDNAの量を投与することが特に好ましい。
また、マイオネクチンタンパク又はマイオネクチンタンパクと機能的に同等なタンパク質を注射剤により筋肉内注射する場合、成人一人当たりに対し、1回の投与において1kg体重当たり、100μg以上のタンパクの量を投与することが好ましく、200μg~3mg/kg体重のタンパクの量を投与することがより好ましく、400μg~1mg/kg体重のタンパクの量を投与することが特に好ましい。
投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口製剤、注射剤、デポ製剤、体内埋め込みゲル又は経皮製剤などで投与可能であるが、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射等の非経口的投与が好ましく、筋肉内注射及び皮下注射がより好ましい。投与回数としては、1週間平均当たり、1回~数回投与することが好ましい。
これらの各種製剤は、製剤上通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤、ゲル化剤等などを適宜選択し、常法により製造することができる。
上記各種製剤は、医薬的に許容される担体又は添加物を共に含むものであってもよい。このような担体及び添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、本発明の剤型に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。
なお注射剤は、非水性の希釈剤(例えば、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤、又は乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。また、注射剤は、用事調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1 坐骨神経切断筋萎縮モデルマウスに対するマイオネクチン遺伝子欠損の影響
8週齢のマイオネクチン欠損マウス(KO)と野生型マウス(WT)(C57BL/6:オリエンタルバイオ社)を実験に使用した。KO、WTとも各個体で片側の坐骨神経切断を行い、神経切断を行った側(Denervation)の脚と、神経切断を行った側と反対側(Non-denervation)の脚を試料とした(Non-denervation/WT N=6、Non-denervation/KO N=5、Denervation/WT N=6、Denervation/KO N=5)。坐骨神経切断は、8週齢のKOマウスとWTマウスの右坐骨神経を切断し、5日後に解剖を行なった。図1Aは、腓腹筋重量(mg/gBW)(左図)及びヒラメ筋重量(mg/gBW)(右図)を測定したときの結果を平均値と標準誤差で示す。なお、有意差検定は分散分析(ANOVA, Tukey-Kramer)を用いた。野生型マウス(WT)について、Non-denervation群と坐骨神経切断(Denervation)群との間で腓腹筋重量(mg/gBW)(左図)及びヒラメ筋重量(mg/gBW)(右図)を比較すると、それぞれ坐骨神経切断群で有意に(いずれもp<0.01)低下しており、坐骨神経切断誘導性の筋萎縮が認められた。また、坐骨神経切断群では、野生型(WT)群と比較して、マイオネクチン欠損群(KO)では腓腹筋重量(mg/gBW)(左図)及びヒラメ筋重量(mg/gBW)(右図)が有意に(それぞれ、p<0.01、p<0.05)低下し、マイオネクチン欠損による筋萎縮作用が認められた(A図)。一方、Non-denervation群では、野生型(WT)群とマイオネクチン欠損群(KO)との間で腓腹筋重量(mg/gBW)(左図)及びヒラメ筋重量(mg/gBW)(右図)のいずれにも有意差が認められなかった。
さらに、腓腹筋から蛋白を抽出し、Western blot法にてシグナル蛋白を解析した。図1Bは、リン酸化AMPK蛋白(pAMPK)、AMPK蛋白、PGC1α蛋白、α-tubulin蛋白(Tubulin)の発現量を示したものであり、左図はRepresentativeなWestern blot bandを示し、右図は、pAMPK/Tubulin、PGC1α/Tubulin蛋白を定量した結果を示す。各図において、各群の蛋白発現量は、野生型マウスの神経切除しない(Non-denervation)側におけるチューブリンの発現レベルに対するpAMPK又はPGC1α1の発現レベル(pAMPK/Tubulin又はPGC1α1/Tubulin)を1とした相対値として標準誤差と共に示される。なお、有意差検定は分散分析(ANOVA, Tukey-Kramer)を用いた。
野生型マウス(WT)について、坐骨神経切断(Denervation)群とNon-denervation群との間で蛋白発現レベルを比較すると、pAMPK(pAMPK/Tubulin)(右上図)では坐骨神経切断群では低下傾向が示されたものの群間で有意差が認められなかったのに対し、PGC1α(PGC1α/Tubulin)(右下図)では坐骨神経切断群に有意な(p<0.001)低下が認められた。また、坐骨神経切断群では、野生型(WT)群と比較して、マイオネクチン欠損群(KO)ではpAMPK(pAMPK/Tubulin)(右上図)及びPGC1α(PGC1α/Tubulin)(右下図)の蛋白発現レベルが有意な(いずれもp<0.05)低下を示し、マイオネクチン欠損により筋萎縮保護作用を有する蛋白の発現低下が認められた(B図)。
実施例2 坐骨神経切断筋萎縮モデルマウスに対するマイオネクチンタンパクの効果
マイオネクチン蛋白の筋萎縮抑制作用を検討するため、ゼラチン粒子を架橋したMedgel(Wako;PI5-95MS)によりマイオネクチン蛋白を徐放化し投与する検討を行った。なお、本試験に用いるマウスマイオネクチン蛋白は非特許文献8に記載の方法に従って調製した。8週齢のマウス(C57BL/6;オリエンタルバイオ社)を実験に使用した。体重をもとに、マイオネクチンタンパク投与(Myonectin)群と溶媒投与(Veh)群(各群についてN=5)にマウスを群分けした。ここでDenervation群とは、坐骨神経切断側の腓腹筋を示し、Non-denervation群とは、Denervation側の対側腓腹筋を示す。マイオネクチン投与群(Myonectin)では、坐骨神経切断手術と同時に、同側腓腹筋に5箇所程度に分けて、Medgelに浸透したマイオネクチン蛋白(12μg/mouse)を皮下投与し、神経切断5日後の腓腹筋重量(mg/gBW)を評価した(図2 A)。坐骨神経切断により、腓腹筋重量の有意な(p<0.001)低下が認められた(Non-denervation/Veh群とDenervation/Veh群の対比)。当該低下は、マイオネクチン投与により有意に(p<0.001)に抑制された(Denervation/Veh群とDenervation/Myonectin群の対比の対比)。なお、Non-denervation群では、マイオネクチン投与により腓腹筋重量は有意な変化をもたらさなかった(Non-denervation/Veh群とNon-denervation/Myonectin群の対比)。
さらに、神経切断5日後に腓腹筋からRNAを採取し、骨格筋萎縮の代表的な分子である、Myostatinの遺伝子発現を、定量的PCR法にて解析した(図2 B;内在性標準としてヒト酸性リボソームリン酸化タンパク質PO遺伝子36B4を使用)。各群の遺伝子発現量は、mRNA蓄積レベルについて、Non-denervation/Veh群の発現レベルを1とした相対値として、標準誤差と共に示される。なお、有意差検定は分散分析(ANOVA, Tukey-Kramer)を用いた。Myostatinの発現レベルは、坐骨神経切断にて低下する傾向を認めた(Non-denervation/Veh群と、Denervation/Veh群との対比;B図)ものの有意差は認めなかったが、除神経された腓腹筋においてMyonectin投与群では溶媒投与群と比較して有意な低下(p<0.05)を示し、(Denervation/Veh群とDenervation/Myonectin群の対比;B図)マイオネクチンによる筋萎縮関連蛋白の発現抑制作用が認められた。
なお、筋萎縮関連遺伝子の定量的PCR法による遺伝子発現解析に用いた特異的プライマーの配列情報は、以下に示すとおりである。
Myostatin:
Fw:5’-AAGTCTCTCCGGGACCTCTT-3’;(配列番号5)
Rv:5’-TGTAACCTTCCCAGGACCAG-3’;(配列番号6)
※マウス型タンパク
実施例3 筋ジストロフィーモデルマウスに対するマイオネクチンの効果
マイオネクチン蛋白の遺伝性筋萎縮モデルに対する作用を検討するため、Duchenne型筋ジストロフィーモデルマウスであるmdxマウス(4週齢;日本クレア株式会社)に、マイオネクチンを発現するアデノウイルスベクター(Ad-Myonectin)若しくはコントロールのβ-ガラクトシダーゼを発現するアデノウイルスベクター(β-gal)(いずれも、pAdEasy Adenoviral Vector Systems,Agilentを使用)を1.0×10 plaque-forming units (pfu)/mouseずつ右側腓腹筋に5箇所程度に分けて筋肉内注射により投与した(各群N=5)。8週齢時に解剖し、腓腹筋重量を測定した。図3は、腓腹筋重量(mg/gBW)を測定したときの結果を平均値と標準誤差で示す。なお、有意差検定はt検定を用いた。マイオネクチン投与群(Ad-Myonectin)では腓腹筋重量低下が有意に(p<0.05)抑制され、筋ジストロフィーモデルにおいても、マイオネクチンによる筋萎縮抑制作用が認められた(図3)。
実施例4 骨格筋細胞を用いたin vitro筋萎縮モデルに対するマイオネクチンの効果
マイオネクチン蛋白がステロイド誘導性の筋萎縮を抑制するかを、分子レベルにおいて検討するため、培養骨格筋細胞(C2C12)を用いた、in vitroの検討を行なった。マイオネクチン蛋白(Myonectin:5μg/mL)を30分間前投与の後、デキサメタゾン(DEX)を100μmol/L添加し、24時間後に筋繊維径を測定したところ、Myonectin非投与群では、DEX添加により筋繊維径が有意に(p<0.001)縮小したが(Myonectin -/DEX - とMyonectin -/DEX + との比較)、Myonectin投与群ではDEX投与による筋萎縮が有意に(p<0.001)抑制されており(Myonectin -/DEX + とMyonectin +/DEX + との比較)、培養細胞レベルにおいても、マイオネクチンによる筋萎縮抑制作用が認められた(図4)。
以上より、本発明の治療剤は、優れた筋萎縮抑制作用と萎縮筋回復作用を有しており、筋萎縮抑制及び/又は回復、サルコペニアの予防及び/又は治療に有用であることから、産業上利用可能性を有している。

Claims (9)

  1. マイオネクチンタンパク又はその誘導体を有効成分とする筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
  2. マイオネクチンタンパクが配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列を含むタンパクである、請求項1に記載の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
  3. マイオネクチンタンパクが配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパクである、請求項1又は2のいずれか一に記載の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
  4. マイオネクチンタンパクの誘導体が、配列番号1又は配列番号3と少なくとも90%以上同一のアミノ酸配列を有するタンパクであって、筋萎縮抑制作用及び/又は回復作用を有するタンパクである、請求項1~3のいずれか一に記載の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
  5. 配列番号1又は配列番号3のアミノ酸配列からなるタンパクをコードするポリヌクレオチド、又は配列番号1又は配列番号3と少なくとも90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパクであって、筋萎縮抑制作用及び/又は回復作用を有するタンパクをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを有効成分とする筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
  6. 前記ポリヌクレオチドが、配列番号2又は配列番号4の塩基配列からなるポリヌクレオチド又は配列番号2又は4と少なくとも90%以上の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドである、請求項5に記載の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
  7. 前記ポリヌクレオチドが骨格筋での発現を可能にするプロモーターと機能的に連結されたものである、請求項5又は6のいずれか一に記載の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
  8. ベクターがアデノウイルスベクターである請求項5~7のいずれか一に記載の筋萎縮を特徴とする疾患の予防及び/又は治療剤。
  9. 筋萎縮を特徴とする疾患が、サルコペニア又は筋ジストロフィーである請求項1~8のいずれか一に記載の予防及び/又は治療剤。
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