JP2023078940A - ポリグリシジルアミン及び脂質ナノ粒子 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、細胞に送達可能な遺伝子送達キャリアとなる脂質ナノ粒子及び当該脂質ナノ粒子の構成脂質となるポリグリシジルアミンを提供することを課題とする。【解決手段】下記一般式(1)[式中、Xは、ステロイド骨格、ビタミンD骨格、又はルパン骨格を有する、1~4価の基;R1及びR2は、独立して、エーテル結合性酸素原子を有していてもよく、かつ置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、又はR1及びR2が互いに連結して脂肪族5~7員環を形成し;p1及びp2は、p1とp2の和が1以上4以下を満たす0~4の整数;n1及びn2は、独立して、1~40の実数;黒丸は、他の基との結合手であることを表す]で表される構造を有する、ポリグリシジルアミン、及び前記ポリグリシジルアミンを含有する脂質ナノ粒子。TIFF2023078940000036.tif48170【選択図】なし

Description

本発明は、細胞に送達可能な遺伝子送達キャリアとして有用な脂質ナノ粒子及び当該脂質ナノ粒子の構成成分に関する。
近年、脂溶性薬物や、siRNA(short interfering RNA)又はmRNA等の核酸を封入し、標的細胞へ送達するためのキャリアとして、脂質ナノ粒子(LNP)が利用されている。例えば、siRNAなどの核酸を効率的に標的細胞内へ送達するためのキャリアとなる脂質ナノ粒子として、pH感受性カチオン性脂質を構成脂質として含む脂質ナノ粒子が報告されている(特許文献1)。また、脂質ナノ粒子表面に標的リガンドを修飾することにより、受容体を介して標的細胞内に取り込ませることができる脂質ナノ粒子も開発されている。
肝臓は、その血管構造や生理学的性質から、全身投与したキャリアのアクセスが容易である。このため、肝臓を標的とした遺伝子送達キャリアの報告は多い。一方、肝臓以外の臓器において特異的に遺伝子発現を達成するキャリアは、依然として少ない。そこで、特定の臓器に特異的に送達可能な脂質ナノ粒子の開発が望まれている。例えば、脂質ナノ粒子表面に標的リガンドを修飾することにより、受容体を介して標的細胞内に取り込ませることができる脂質ナノ粒子が開発されている。しかし、標的化リガンドとなる糖鎖やペプチド、抗体などは、非常に高価なものが多く、汎用的に活用できるものは限られる。
最近、脂質ナノ粒子に様々な機能性を付与するために、脂質ナノ粒子の構成成分として、各種の疎水性鎖を有する化合物が使用されている。疎水性鎖を有する化合物としては、グリシジル基を有する化合物を開環重合させて得られる重合体(ポリオキシエチレン類)が挙げられる。なかでも、グリシジルアミンは、アミノ基に様々な官能基を導入することができるため、これをモノマーとして重合させることにより、多種多様な特性の疎水性鎖を有する化合物を合成することができる。
一方で、グリシジルアミンの重合反応では、得られる重合物の重合度の制御は困難である場合が多く、一般的には非常に分子量分布が広い重合物しか得られない場合が多い。より重合反応を制御して所望の重合度の重合物を合成する方法も開発されている。例えば、N,N-二置換グリシジルアミン誘導体をモノマーとする開環重合反応について、触媒としてt-Bu-P4塩基を用い、開始剤としてアルコールを用いることにより、開始剤を起点としたN,N-二置換グリシジルアミン誘導体の開環重合反応を制御し、所望の重合度のポリグリシジルアミンを、非常に狭い分子量分布で得られることが報告されている(非特許文献1)。
国際公開第2018/230710号
Isono et al., Macromolecules, 2015, vol.48, p.3217-3229. Yuan et al., Carbohydrate Polymers, 2014, vol.114, p.530-536.
開環重合反応により得られるポリグリシジルアミンは、一般的に、重合度や構造にばらつきのある重合物の集合体であり、このため、この重合物を原料として製造された脂質ナノ粒子も、品質のばらつきが大きくなるおそれがあり、特に医薬品としては問題となる。
本発明は、脂質ナノ粒子の構成成分として好適なポリグリシジルアミンと、当該ポリグリシジルアミンを用いて製造された脂質ナノ粒子を提供することを目的とする。
本発明者らは、特定の置換基を有するN,N-二置換グリシジルアミン誘導体と特定の構造の水酸基を有する化合物とからt-Bu-P4塩基を触媒とした開環重合反応により得られたポリグリシジルアミンを構成成分として脂質ナノ粒子を製造したところ、細胞への遺伝子キャリアとして有用であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のポリグリシジルアミン等を提供するものである。
[1] 下記一般式(1)
Figure 2023078940000001
[式中、Xは、ステロイド骨格、ビタミンD骨格、又はルパン骨格を有する、1~4価の基であり;R及びRは、それぞれ独立して、エーテル結合性酸素原子を有していてもよく、かつ置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である、又はR及びRが互いに連結して脂肪族5~7員環を形成しており;p1及びp2は、p1とp2の和が1以上4以下を満たす0~4の整数であり;n1及びn2は、それぞれ独立して、1~40の実数であり;黒丸は、他の基との結合手であることを表す]
で表される構造を有する、ポリグリシジルアミン。
[2] 前記エーテル結合性酸素原子を有していてもよく、かつ置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基が、エーテル結合性酸素原子と置換基を有していない炭素数1~6のアルキル基、エーテル結合性酸素原子を有しているが置換基は有していない炭素数1~6のアルキル基、又は、フェニル基で置換されており、かつエーテル結合性酸素原子を有していない炭素数1~6のアルキル基である、前記[1]のポリグリシジルアミン。
[3] 前記R及びRが互いに連結して脂肪族5~7員環を形成しており、前記脂肪族5~7員環が、ピロリジン、イミダゾリジン、オキサゾリジン、チアゾリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン、アゼパン、1,3-ジアゼパン、又は1,4-ジアゼパンである、前記[1]のポリグリシジルアミン。
[4] 下記一般式(2)
Figure 2023078940000002
[式中、R及びRは、それぞれ独立して、エーテル結合性酸素原子を有していてもよく、かつ置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である、又はR及びRが互いに連結して脂肪族5~7員環を形成している]
で表されるグリシジルアミンと、下記一般式(3)
Figure 2023078940000003
[式中、Xは、ステロイド骨格、ビタミンD骨格、又はルパン骨格を有する、1~4価の基であり;p3は、1~4の整数である]
で表される化合物とを開環重合させて得られる、前記[1]~[3]のいずれかのポリグリシジルアミン。
[5] 前記一般式(3)で表される化合物が、ステロイド、ビタミンD、ビタミンD誘導体、ベツリン、又はベツリン誘導体である、前記[4]のポリグリシジルアミン。
[6] 前記一般式(2)で表される化合物が、下記一般式(2-1)~(2-5)
Figure 2023078940000004
[式中、R及びRは、それぞれ独立して、エーテル結合性酸素原子を有していてもよく、かつ置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である、又はR及びRが互いに連結して脂肪族5~7員環を形成している]
で表される化合物である、前記[4]又は[5]のポリグリシジルアミン。
[7] 下記一般式(2)
Figure 2023078940000005
[式中、R及びRは、それぞれ独立して、エーテル結合性酸素原子を有していてもよく、かつ置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である、又はR及びRが互いに連結して脂肪族5~7員環を形成している]
で表されるグリシジルアミンと、下記一般式(3)
Figure 2023078940000006
[式中、Xは、ステロイド骨格、ビタミンD骨格、又はルパン骨格を有する、1~4価の基であり;p3は、1~4の整数である]
で表される化合物とを開環重合させて、ポリグリシジルアミンを製造する、ポリグリシジルアミンの製造方法。
[8] 前記[1]~[6]のいずれかのポリグリシジルアミンを含有する、脂質ナノ粒子。
[9] 核酸を含有する、前記[8]の脂質ナノ粒子。
[10] 前記核酸が、脾臓細胞内で発現させる遺伝子である、前記[9]の脂質ナノ粒子。
[11] 前記[8]~[10]のいずれかの脂質ナノ粒子を有効成分とする、医薬用組成物。
[12] がんワクチンとして用いられる、前記[11]の医薬用組成物。
[13] 抗がん治療のために用いられる、前記[11]の医薬用組成物。
[14] 前記[8]~[10]のいずれかの脂質ナノ粒子であって、細胞内で発現させる目的の外来遺伝子を封入した脂質ナノ粒子を、被験動物(但し、ヒトを除く)へ投与し、前記被験動物の体内で前記外来遺伝子を発現させる、外来遺伝子の発現方法。
本発明に係るポリグリシジルアミンは、分子量分布が狭く、非常に均質な重合物である。このため、当該ポリグリシジルアミンを構成成分とすることにより、分散度が小さく、粒度分布が狭くて均質な脂質ナノ粒子が安定的に製造できる。このため、当該脂質ナノ粒子は、免疫治療や遺伝子治療に用いられる遺伝子送達キャリアとして有用である。
実施例1において、各脂質ナノ粒子を導入したHeLa細胞(A)とA549細胞(B)における、ルシフェラーゼ遺伝子発現のヒートマップである。 実施例2において、Chol-Rac-GA05-10、Chol-Rac-GA05-30、Chol-Rac-GA06-5、及びChol-Rac-GA06-7を静脈投与したマウスの脾臓細胞と肝臓細胞における、脂質ナノ粒子が取り込まれた細胞(DiD陽性細胞)の測定結果を示した図である。 実施例2において、Chol-Rac-GA05-30を静脈投与したマウスの肺、肝臓、脾臓、腎臓、及び心臓における、脂質ナノ粒子が取り込まれた細胞(DiD陽性細胞)の測定結果を示した図である。 実施例3において、Chol-R-GA05-30、Chol-S-GA05-30、Chol-iso-GA05-30、及びChol-Rac-GA05-30を静脈投与したマウスの脾臓細胞における、脂質ナノ粒子が取り込まれた細胞(DiD陽性細胞)の測定結果を示した図である。 実施例4において、各脂質ナノ粒子を静脈投与したマウスの脾臓細胞における、脂質ナノ粒子が取り込まれた細胞(DiD陽性細胞)の測定結果を示した図である。 実施例5において、Estriol-Rac-GA05-30を静脈投与したマウスの各脾臓免疫細胞について、脂質ナノ粒子が取り込まれた細胞(DiD陽性細胞)の比率(%)の測定結果を示した図である。 実施例6において、Estriol-Rac-GA05-30を静脈投与した7日後に腫瘍細胞を接種したマウスの腫瘍体積を経時的に測定した結果を示した図である。 実施例6において、腫瘍細胞接種から7日後及び10日後にEstriol-Rac-GA05-30を静脈投与したマウスの腫瘍体積を経時的に測定した結果を示した図である。
以下、本発明の実施態様について具体的に説明する。本願明細書において、「X1~X2(X1とX2は、X1<X2を満たす実数)」は、「X1以上X2以下」を意味する。
<ポリグリシジルアミン>
本発明に係るポリグリシジルアミンは、N,N-二置換グリシジルアミン誘導体の開環重合反応により得られる重合体であり、下記一般式(1)で表される構造を有する。黒丸は、他の基との結合手であることを表す。
Figure 2023078940000007
一般式(1)中、R及びRは、それぞれ独立して、エーテル結合性酸素原子を有していてもよく、かつ置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基(C1-6アルキル基)である。一般式(1)中、RとRは、互いに同じ基であってもよく、異なる基であってもよい。
及びRがC1-6アルキル基の場合、当該C1-6アルキル基としては、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。C1-6アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。R及びRがC1-6アルキル基の場合、本発明に係るポリグリシジルアミンとしては、R及びRは、それぞれ独立して、直鎖状のC1-6アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、又はn-プロピル基が好ましい。
及びRがC1-6アルキル基の場合、当該C1-6アルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基を有しているC1-6アルキル基とは、C1-6アルキル基の炭素原子に結合している水素原子の1又は複数個、好ましくは1~3個が、他の官能基に置換されている基である。2個以上の置換基を有する場合、置換基同士は互いに同種であってもよく、異種であってよい。当該置換基としては、アリール基、ヘテロアリール基等が挙げられる。当該アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、9-フルオレニル基等が挙げられ、フェニル基が特に好ましい。R及びRが置換基を有しているC1-6アルキル基の場合、本発明に係るポリグリシジルアミンとしては、R及びRは、それぞれ独立して、ベンジル(フェニルメチル)基、フェネチル(フェニルエチル)基等が挙げられ、ベンジル基が好ましい。
及びRの炭素原子が2以上の場合、すなわち炭素数2~6のアルキル基(C2-6アルキル基)の場合には、当該アルキル基は、炭素原子間にエーテル結合性の酸素原子を有していてもよい。なお、「エーテル結合性の酸素原子」とは、炭素原子間を連結する酸素原子であり、酸素原子同士が直列に連結された酸素原子は含まれない。本発明に係るポリグリシジルアミンとしては、R及びRとしては、それぞれ独立して、直鎖状のC2-6アルキル基中の炭素原子間に1個のエーテル結合性の酸素原子が挿入された基が好ましく、エチル基又はn-プロピル基中の炭素原子間に1個のエーテル結合性の酸素原子が挿入された基がより好ましい。
一般式(1)中、R及びRは、互いに連結して脂肪族5~7員環を形成していてもよい。当該脂肪族5~7員環は、R及びRが結合している窒素原子に加えて、他のヘテロ原子を有していてもよい。当該ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子が挙げられる。当該脂肪族5~7員環としては、例えば、ピロリジン、イミダゾリジン、オキサゾリジン、チアゾリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン、アゼパン、1,3-ジアゼパン、及び1,4-ジアゼパン等が挙げられる。R及びRが互いに連結して脂肪族5~7員環を形成している場合、本発明に係るポリグリシジルアミンとしては、R及びRがピペリジン又はモルホリンを形成していることが特に好ましい。
本発明に係るポリグリシジルアミンとしては、R及びRが、それぞれ独立して、置換基とエーテル性酸素原子を有していない直鎖状C1-6アルキル基、フェニル基で置換されており、かつエーテル性酸素原子を有していない直鎖状C1-6アルキル基、又は、直鎖状のC2-6アルキル基中の炭素原子間に1個のエーテル結合性の酸素原子が挿入された基が好ましく、R及びRが、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n-プロピル基、ベンジル基、フェネチル基、エチル基中の炭素原子間に1個のエーテル結合性の酸素原子が挿入された基、又はn-プロピル基中の炭素原子間に1個のエーテル結合性の酸素原子が挿入された基であることが特に好ましい。
一般式(1)中、n1及びn2は、それぞれ独立して、1~40の実数である。n1及びn2は、重合性モノマーであるN,N-二置換グリシジルアミン誘導体の重合度を示す。本発明に係るポリグリシジルアミンとしては、n1及びn2は、それぞれ独立して、3~30の実数であることが好ましい。
一般式(1)中、Xは、ステロイド骨格、ビタミンD骨格、又はルパン骨格を有する、1~4価の基である。また、p1及びp2は、p1とp2の和が1以上4以下を満たす0~4の整数である。p1とp2のいずれか一方が0の場合、一般式(1)で表されるポリグリシジルアミンは、ポリオキシエチレン鎖部分の末端にX基が結合している。p1とp2の両方が1以上の場合、一般式(1)で表されるポリグリシジルアミンは、ポリオキシエチレン鎖部分の途中にX基が結合している。
ステロイド骨格とは、飽和四環炭化水素であるシクロペンタノヒドロフェナントレン環を意味する。一般的に、ステロイド骨格中、5員環をD環と呼び、D環と縮合している6員環をC環、C環と縮合している6員環をB環、B環とのみ縮合している6員環をA環と呼ぶ。ステロイド骨格を有する基には、シクロペンタノヒドロフェナントレン環の炭素原子同士の飽和結合の一部が不飽和結合である構造を有する基も含まれる。ステロイド骨格としては、下記式(s1)~(s5)で表される構造が挙げられる。
Figure 2023078940000008
ビタミンD骨格とは、ステロイド骨格のB環が開環した構造を意味する。ビタミンD骨格を有する基には、シクロペンタノヒドロフェナントレン環の炭素原子同士の飽和結合の一部が不飽和結合である基中のB環が開環した構造を有する基も含まれる。
ルパン骨格とは、飽和五環炭化水素であるシクロペンタノヒドロクリセン環を意味する。ルパン骨格を有する基には、シクロペンタノヒドロクリセン環の炭素原子同士の飽和結合の一部が不飽和結合である構造を有する基も含まれる。
本発明に係るポリグリシジルアミンの大きさは、括弧内の構造単位の繰り返し数(重合度)に依存し、特に限定されるものではない。本発明に係るポリグリシジルアミンとしては、重合体の重合度、すなわち、n1とn2の和が、1~100であることが好ましく、1~70であることがより好ましく、3~50であることがさらに好ましく、3~30であることがよりさらに好ましい。
本発明に係るポリグリシジルアミン中のポリオキシエチレン部分の大きさは、当該構造単位の繰り返し数(n1とn2の和)により、特に限定されるものではない。本発明に係るポリグリシジルアミンルとしては、ポリオキシエチレン部分の数平均分子量が、3,000~100,000Da(3kDa~100kDa)であるものが好ましい。ポリオキシエチレン部分の数平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析により測定することができる。
本発明に係るポリグリシジルアミンとしては、大きさのばらつきが小さく、分子量分布が狭いものが好ましい。具体的には、例えば、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が1.2未満であることが好ましい。ポリグリシジルアミンの数平均分子量及び重量平均分子量は、SEC分析により測定することができる。
本発明に係るポリグリシジルアミンは、下記一般式(2)で表されるグリシジルアミンと、下記一般式(3)で表される化合物とを開環重合させることによって合成できる。一般式(3)で表される化合物は、開環重合の開始剤として機能する。一般式(2)中のR及びRは、一般式(1)中のR及びRと同じである。一般式(3)中のXは、一般式(1)中のXと同じである。一般式(3)中のp3は、1~4の整数である。
Figure 2023078940000009
一般式(2)で表されるグリシジルアミンと一般式(3)で表される化合物との開環重合反応は、例えば、トルエン等の極性が比較的低い非プロトン性有機溶媒中で、塩基性触媒を利用することにより、室温程度の温度で効率よく行うことができる。当該塩基性触媒としては、金属塩基等の無機塩基触媒であってもよいが、有機塩基触媒が好ましい。なかでも、ホスファゼン塩基や有機リチウム化合物、二環性グアニジン型有機塩基のようなブレンステッド強塩基性の有機触媒が好ましく、ホスファゼン塩基がより好ましい。二環性グアニジン型有機塩基としては、TBD(トリアザビシクロデセン、CAS No.:5807-14-7)、MTBD(メチルトリアザビシクロデセン、CAS No.:84030-20-6)が好ましい。ホスファゼン塩基としては、t-Bu-P塩基(CAS No.:111324-04-0)が特に好ましい。
本発明に係るポリグリシジルアミンとしては、所望の重合度への制御が容易であり、分子量分布が狭いポリグリシジルアミンが得られることから、非特許文献1に記載されている合成方法を利用して、t-Bu-P塩基を触媒とした開環重合反応により合成することが好ましい。t-Bu-P塩基を触媒とすることにより、一般式(3)で表される化合物を開環重合反応の起点とする重合体を優先的に合成できる。このため、得られた重合反応物には、一般式(2)で表されるグリシジルアミンのみからなる重合体はほとんど含まれておらず、ほぼ全ての重合体は、ポリオキシエチレン部分の末端又は途中に、一般式(3)で表される化合物由来の構造を有する。一般式(3)で表される化合物が、水酸基を2個以上有している場合には、ポリオキシエチレン部分の途中に、一般式(3)で表される化合物由来の構造を有する。
一般式(3)で表される化合物としては、ステロイド、ビタミンD、ビタミンD誘導体、ベツリン(CAS No:473-98-3)、又はベツリン誘導体であって、少なくとも1個の水酸基を有する化合物であることが好ましい。
ステロイドは、ステロイド骨格を有する化合物である。ステロイドとしては、式(s1)~(s5)のいずれかで表されるステロイド骨格に、1個以上の水酸基を含む各種の置換基を導入した化合物が挙げられる。水酸基以外の置換基としては、グリシジルアミンの開環重合反応を阻害しない基であれば特に限定されるものではなく、例えば、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、アルコキシ基等が挙げられる。当該アルキル基やアルケニル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。当該アルコキシ基は、アルキル基部分が直鎖であっても分岐鎖であってもよい。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。また、当該アルキル基、アルケニル基、及びアルコキシ基は、水酸基、カルボキシ基等の置換基を有していてもよい。
ステロイドとしては、例えば、コレステロール、デスモステロール、デヒドロデスモステロール、チモステロール、ラノステロール、スチグマステロール、エルゴステロール、コレスタン、エストラジオール、テストステロン、エストリオール、プレグナン、コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸、シクロアストラゲノール等の既知のステロイドを用いることができる。これらのステロイドの誘導体や、これらのステロイドを各種置換基で修飾した化合物も、同様に用いることができる。
ビタミンD誘導体は、ビタミンD骨格に各種置換基が導入された化合物である。ビタミンD骨格に導入される置換基は、グリシジルアミンの開環重合反応を阻害しない基であれば特に限定されるものではない。ビタミンD誘導体としては、生体内で酵素処理等を受けることによってビタミンDが産生される誘導体も好ましい。ビタミンDとしては、カルシフェロール、コレカルシフェロール、カルシトリオール等が挙げられる。ビタミンD誘導体としては、例えば、(6Z)-タカルシオール、マキサカルシトール等が挙げられる。
ベツリン誘導体は、ベツリン中のルパン骨格に、各種置換基が導入された化合物である。ルパン骨格に導入される置換基は、グリシジルアミンの開環重合反応を阻害しない基であれば特に限定されるものではない。ベツリン誘導体としては、例えば、ベツリン酸、ルペオール等が挙げられる。
一般式(2)で表されるグリシジルアミンとしては、例えば、下記一般式(2-1)~(2-5)で表される化合物が挙げられる。一般式(2-1)~(2-5)中、R11は、C1-6アルキル基を表す。R12は、C2-6アルキル基中の炭素原子間に1個のエーテル結合性の酸素原子が挿入された基を表す。R13は、フェニル基で置換されたC1-3アルキル基を表す。Yは炭素原子、酸素原子、又は窒素原子を表す。一の化合物中、複数あるR11、R12、及びR13は、互いに同じ基であってもよく、異なる基であってもよい。
Figure 2023078940000010
本発明において重合反応のモノマーとして用いられるグリシジルアミンは、一般式(2)で表されるように、アミノ基に2個の疎水性基が導入されているため、開環重合反応で得られるポリグリシジルアミンは、十分な疎水性を有しており、脂質ナノ粒子の構成脂質として好適である。
一般式(2)で表されるグリシジルアミンには、R体とS体があるが、本発明に係るポリグリシジルアミンは、R体とS体のいずれを原料として合成された重合体であってもよい。R体のみ又はS体のみを原料とすることにより、立体規則性がイソタクチック(主鎖に対して置換基の向きが全て同一)であるポリグリシジルアミンが得られる。またR体とS体の両方を含むラセミ体を原料とすることにより、立体規則性がアタクチック(主鎖に対して置換基の向きが無秩序)であるポリグリシジルアミンが得られる。アタクチックなポリグリシジルアミンを含む脂質ナノ粒子は、脾臓特異性が高く、動物に投与された際に、脾臓に高選択的に取り込まれる。また、培養細胞への取り込み効率も、アタクチックなポリグリシジルアミンを含む脂質ナノ粒子のほうが、イソタクチックなポリグリシジルアミンを含む脂質ナノ粒子よりも高い傾向にある。
本発明に係る脂質ナノ粒子は、脂質膜を構成する脂質成分として、本発明に係るポリグリシジルアミンを含有する。本発明に係るポリグリシジルアミン中のポリオキシエチレン部分は、鎖状構造であり、脂質ナノ粒子を構成するリン脂質等との親和性が高く、脂質成分として有用である。特に、分子量分布が狭いポリグリシジルアミンを構成脂質とすることにより、粒子径のばらつき(分散度)が小さく、品質が均質な脂質ナノ粒子を製造することができる。
<脂質ナノ粒子>
本発明に係る脂質ナノ粒子としては、脂質ナノ粒子を構成する全脂質が本発明に係るポリグリシジルアミンであってもよく、ポリグリシジルアミンとその他の脂質とを含有していてもよい。本発明に係る脂質ナノ粒子を構成する全脂質量に対する本発明に係るポリグリシジルアミンの含有量は、30~100%(モル)が好ましく、50~100%(モル)がより好ましく、70~100%(モル)がさらに好ましく、85~100%(モル)がよりさらに好ましい。
本発明に係る脂質ナノ粒子の構成脂質のうち、本発明に係るポリグリシジルアミン以外の脂質としては、一般的にリポソームを形成する際に使用される脂質を用いることができる。このような脂質としては、例えば、リン脂質、ステロール、又は飽和若しくは不飽和の脂肪酸等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
リン脂質としては、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、セラミドホスフォリルグリセロールホスファート、ホスファチジン酸などを挙げることができる。ステロールとしては、例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール等の動物由来のステロール;スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等の植物由来のステロール(フィトステロール);チモステロール、エルゴステロール等の微生物由来のステロールなどが挙げられる。本発明に係る脂質ナノ粒子としては、ステロールを含むことが好ましく、コレステロールを含むことがより好ましい。
本発明に係る脂質ナノ粒子は、脂質成分としてポリアルキレングリコール修飾脂質を含有することが好ましい。ポリアルキレングリコールは親水性ポリマーであり、ポリアルキレングリコール修飾脂質を脂質膜構成脂質として用いて脂質ナノ粒子を構築することにより、脂質ナノ粒子の表面をポリアルキレングリコールで修飾することができる。ポリアルキレングリコールで表面修飾することにより、脂質ナノ粒子の血中滞留性などの安定性を高めることができる場合がある。
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコールなどを用いることができる。ポリアルキレングリコールの分子量は、例えば300~10,000程度、好ましくは500~10,000程度、さらに好ましくは1,000~5,000程度である。
例えば、脂質のポリエチレングリコールによる修飾には、ステアリル化ポリエチレングリコール(例えばステアリン酸PEG45(STR-PEG45)など)を用いることができる。その他、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000]-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[メトキシポリエチレングリコール-2000]-1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000]-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-750]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール(PEG-DMG)などのポリエチレングリコール誘導体などを用いることもできるが、ポリアルキレングリコール化脂質はこれらに限定されることはない。
本発明に係る脂質ナノ粒子を構成する全脂質量に対する、ポリアルキレングリコール修飾脂質の割合は、本発明に係るポリグリシジルアミンによる遺伝子発現活性を損なわない量であれば特に限定されるものではない。例えば、脂質ナノ粒子を構成する全脂質量に対する、ポリアルキレングリコール修飾脂質の割合は、1~3モル%とすることが好ましい。
本発明に係る脂質ナノ粒子には、必要に応じて適宜の表面修飾などを行うことができる。
本発明に係る脂質ナノ粒子は、表面を親水性ポリマー等で修飾することにより、血中滞留性を高めることができる。これらの修飾基で修飾された脂質を脂質ナノ粒子の構成脂質として使用することにより、表面修飾を行うことができる場合もある。
本発明に係る脂質ナノ粒子の製造にあたり、血中滞留性を高めるための脂質誘導体として、例えば、グリコフォリン、ガングリオシドGM1、ホスファチジルイノシトール、ガングリオシドGM3、グルクロン酸誘導体、グルタミン酸誘導体、ポリグリセリンリン脂質誘導体などを利用することもできる。また、血中滞留性を高めるための親水性ポリマーとして、ポリアルキレングリコールのほかにデキストラン、プルラン、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン-無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル-無水マレイン酸交互共重合体、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンなどを表面修飾に用いることもできる。
また、本発明に係る脂質ナノ粒子の核内移行を促進するために、例えば、脂質ナノ粒子を3糖以上のオリゴ糖化合物で表面修飾することもできる。3糖以上のオリゴ糖化合物の種類は特に限定されないが、例えば、3~10個程度の糖ユニットが結合したオリゴ糖化合物を用いることができ、好ましくは3~6個程度の糖ユニットが結合したオリゴ糖化合物を用いることができる。中でも、好ましくはグルコースの3量体ないし6量体であるオリゴ糖化合物を用いることができ、さらに好ましくはグルコースの3量体又は4量体であるオリゴ糖化合物を用いることができる。より具体的には、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘキサオースなどを好適に用いることができ、これらのうち、グルコースがα1-4結合したマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘキサオースがさらに好ましい。特に好ましいのはマルトトリオース又はマルトテトラオースであり、最も好ましいのはマルトトリオースである。オリゴ糖化合物による脂質ナノ粒子の表面修飾量は特に限定されないが、例えば、総脂質量に対して1~30モル%程度、好ましくは2~20モル%程度、より好ましくは5~10モル%程度である。
オリゴ糖化合物で脂質ナノ粒子を表面修飾する方法は特に限定されないが、例えば、脂質ナノ粒子をガラクトースやマンノースなどの単糖で表面を修飾したリポソーム(国際公開第2007/102481号)が知られているので、この刊行物に記載された表面修飾方法を採用することができる。上記刊行物の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。
また、本発明に係る脂質ナノ粒子には、例えば、温度変化感受性機能、膜透過機能、遺伝子発現機能、及びpH感受性機能などのいずれか1つ又は2つ以上の機能を付与することができる。これらの機能を適宜付加することにより、脂質ナノ粒子の血液中での滞留性を向上させ、標的細胞におけるエンドサイトーシスの後にエンドソームから効率的に脂質ナノ粒子を脱出させて、封入された核酸を標的細胞内でより効率よく発現させることができる。
本発明に係る脂質ナノ粒子は、トコフェロール、没食子酸プロピル、パルミチン酸アスコルビル、又はブチル化ヒドロキシトルエンなどの抗酸化剤、荷電物質、及び膜ポリペプチドなどからなる群から選ばれる1種又は2種以上の物質を含んでいてもよい。正荷電を付与する荷電物質としては、例えば、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの飽和若しくは不飽和脂肪族アミンなどを挙げることができ、負電荷を付与する荷電物質としては、例えば、ジセチルホスフェート、コレステリルヘミスクシネート、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸などを挙げることができる。膜ポリペプチドとしては、例えば、膜表在性ポリペプチド、又は膜内在性ポリペプチドなどが挙げられる。これらの物質の配合量は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
本発明に係る脂質ナノ粒子の大きさは、生体内の組織細胞に高い送達効率が得られやすいことから、その平均粒子径が、500nm以下であることが好ましく、100~400nmであることがより好ましく、100~350nmであることがさらに好ましく、100~300nmであることがよりさらに好ましい。なお、脂質ナノ粒子の平均粒子径とは、動的光散乱法(Dynamic light scattering:DLS)により測定された個数平均粒子径を意味する。動的光散乱法による測定は、市販のDLS装置等を用いて常法により行うことができる。
本発明に係る脂質ナノ粒子の多分散度指数(PDI)は0.05~0.5程度、好ましくは0.1~0.4程度、さらに好ましくは0.1~0.3程度である。ゼータ電位は-50mV~20mVの範囲、好ましくは-30mV~10mVの範囲とすることができる。
本発明に係る脂質ナノ粒子の形態は特に限定されないが、水系溶媒に分散した形態であることが好ましい。当該形態としては、例えば、脂質を含有するコアの表面に親水性物質からなる一分子層が形成されたナノ粒子が挙げられる。また、一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、球状ミセルなどを挙げることができ、両親媒性の脂質分子からなる不定型の層状構造物であってもよい。例えば、本発明に係るポリグリシジルアミンとポリアルキレングリコール修飾脂質と核酸とからなる脂質ナノ粒子は、ポリグリシジルアミンと核酸とからなるコアと、ナノ粒子表面にポリアルキレングリコール層を有するナノ粒子である。
本発明に係る脂質ナノ粒子は、脂質膜で覆われた粒子内部に、標的の細胞内に送達する目的の成分を内包していることが好ましい。本発明に係る脂質ナノ粒子が粒子内部に内包する成分としては、内包可能な大きさであれば特に限定されるものではなく、本発明に係る脂質ナノ粒子には、核酸、糖類、ペプチド類、低分子化合物、金属化合物など任意の物質を封入することができる。
本発明に係る脂質ナノ粒子に内包させる成分としては、核酸が好ましい。核酸としては、DNAであってもよく、RNAであってもよく、これらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)やホスホロチオエートDNAなど)であってもよい。本発明に係る脂質ナノ粒子に内包させる核酸は、1本鎖核酸であってもよく、2本鎖核酸であってもよく、線状であってもよく、環状であってもよい。
本発明に係る脂質ナノ粒子に内包させる核酸は、標的細胞内で発現させるための外来遺伝子を含むことが好ましく、細胞内に取り込まれることによって外来遺伝子を細胞内で発現させるために機能する核酸であることがより好ましい。当該外来遺伝子は、標的細胞(好ましくは脾臓組織細胞)のゲノムDNA中に本来含まれている遺伝子であってもよく、ゲノムDNA中に含まれていない遺伝子であってもよい。このような核酸としては、発現させる目的の遺伝子をコードする塩基配列からなる核酸を含む遺伝子発現ベクターが挙げられる。当該遺伝子発現ベクターは、導入された細胞内において、染色体外遺伝子として存在するものであってもよく、相同組換えによりゲノムDNA中に取り込まれるものであってもよい。
本発明に係る脂質ナノ粒子に内包させる遺伝子発現ベクターとしては、特に限定されるものではなく、一般的に遺伝子治療等で使用されるベクターを用いることができる。本発明に係る脂質ナノ粒子に内包させる遺伝子発現ベクターとしては、プラスミドベクター等の核酸ベクターであることが好ましい。プラスミドベクターは、環状のままであってもよく、予め線状に切断した状態で本発明に係る脂質ナノ粒子に封入させてもよい。遺伝子発現ベクターは、発現させる対象の遺伝子の塩基配列情報に基づいて、一般的に使用される分子生物学的ツールを利用して常法により設計でき、公知の各種の方法で製造することができる。
本発明に係る脂質ナノ粒子に内包させる核酸は、標的細胞内に存在する標的遺伝子の発現を制御する機能性核酸であることも好ましい。当該機能性核酸としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA、microRNA等が挙げられる。また、細胞内でsiRNAを発現させるsiRNA発現ベクターであってもよい。siRNA発現ベクターとしては、市販のsiRNA発現ベクターから調製することができ、また、これを適宜改変してもよい。
本発明に係る脂質ナノ粒子の製造方法は特に限定されず、当業者に利用可能な任意の方法を採用することができる。一例を挙げれば、全ての脂質成分をクロロホルムなどの有機溶媒に溶解し、エバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことによって脂質膜を形成した後、当該脂質ナノ粒子に封入させる成分、例えば核酸等を含む水系溶媒を乾燥した上記の混合物に添加し、さらにホモジナイザーなどの乳化機、超音波乳化機、又は高圧噴射乳化機などにより乳化することで製造することができる。また、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法などによっても製造することができる。脂質ナノ粒子の大きさを制御したい場合には、孔径のそろったメンブランフィルターなどを用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。
水系溶媒(分散媒)の組成は特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩液などの緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地などを挙げることができる。これら水系溶媒(分散媒)は脂質ナノ粒子を安定に分散させることができるが、さらに、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトースなどの二糖類、ラフィノース、メレジノースなどの三糖類、シクロデキストリンなどの多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトールなどの糖アルコールなどの糖(水溶液)や、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)などを加えてもよい。この水系溶媒に分散した脂質ナノ粒子を安定に長期間保存するには、凝集抑制などの物理的安定性の面から水系溶媒中の電解質を極力排除することが望ましい。また、脂質の化学的安定性の面からは水系溶媒のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0~8.0程度)に設定し、及び/又は窒素バブリングなどにより溶存酸素を除去することが望ましい。
得られた脂質ナノ粒子の水性分散物を凍結乾燥又は噴霧乾燥する場合には、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトースなどの二糖類、ラフィノース、メレジノースなどの三糖類、シクロデキストリンなどの多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトールなどの糖アルコールなどの糖(水溶液)を用いると安定性を改善できる場合がある。また、上記水性分散物を凍結する場合には、例えば、前記の糖類やグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)を用いると安定性を改善できる場合がある。
遺伝子発現ベクターを封入した本発明に係る脂質ナノ粒子を動物個体に投与すると、当該脂質ナノ粒子に封入された遺伝子発現ベクターは、他の臓器よりも脾臓組織において選択的に発現する。同様に、siRNA発現ベクターを封入した本発明に係る脂質ナノ粒子を動物個体に投与すると、当該脂質ナノ粒子に封入されたsiRNA発現ベクターは、他の臓器よりも脾臓組織において選択的に発現し、当該発現ベクターが標的とする遺伝子の発現が抑制される。例えば、脾臓組織細胞内で発現させる目的の外来遺伝子を封入した本発明に係る脂質ナノ粒子を、被験動物へ投与すると、当該被験動物の脾臓組織内で当該外来遺伝子を発現させることができる。
一般式(2-4)又は(2-5)で表されるグリシジルアミンと一般式(3)で表される化合物とを、t-Bu-P塩基を触媒とした開環重合反応により重合させて得られたポリグリシジルアミンを用いた脂質ナノ粒子は、脾臓組織、特に樹状細胞とB細胞への特異性が高い。このため、当該ポリグリシジルアミンを脂質成分として含有する脂質ナノ粒子は、動物に投与された際に脾臓に高選択的に取り込まれるため、脂質ナノ粒子表面に標的リガンド等を修飾せずとも、脾臓特異的な送達キャリアとして有用である。すなわち、当該脂質ナノ粒子は、塩基性物質を脾臓組織特異的に送達するキャリアとして有用であり、特に、脾臓組織内で発現させるための外来遺伝子を内包する脾臓特異的遺伝子送達キャリアとして非常に優れている。
この脾臓組織に対する高選択的な取り込みにより、本発明に係る脂質ナノ粒子は、脾臓組織を標的とする送達キャリアとして機能する。このため、本発明に係る脂質ナノ粒子は、脾臓疾患の治療のための塩基性の薬効成分を脾臓組織へ送達するためのキャリアとして有用であり、特に、脾臓組織を標的臓器とする免疫治療や遺伝子治療に用いられる医薬用組成物の有効成分として有用である。
また、樹状細胞は抗原提示細胞として機能する重要な免疫細胞であり、B細胞も、液性免疫に重要な細胞である。このため、一般式(2-4)又は(2-5)で表されるグリシジルアミンと一般式(3)で表される化合物の重合により得られたポリグリシジルアミンを含む脂質ナノ粒子は、がん予防ワクチンやガン免疫療法への応用が期待できるほか、免疫細胞のリプログラミングによる自己免疫疾患や臓器移植時における拒絶反応の抑制などが期待できる。
本発明に係る脂質ナノ粒子が投与される動物は、特に限定されるものではなく、ヒトであってもよく、ヒト以外の動物であってもよい。非ヒト動物としては、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等の哺乳動物や、ニワトリ、ウズラ、カモ等の鳥類等が挙げられる。また、本発明に係る脂質ナノ粒子を動物に投与する際の投与経路は、特に限定されるものではないが、経静脈投与、経腸投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与等の非経口投与であることが好ましい。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
また、以降の実験においては、特に記載のない限り、「%」は「質量%」を意味する。
以降の実験で使用された全てのin vivo実験は、実験動物の管理及び使用に関するガイドラインに従って、北海道大学動物管理委員会によって承認された。
[試薬等]
コレステロール(Sigma-Aldrich社製)、エピクロロヒドリン(東京化成工業社製、99.9%)、ジベンジルアミン(東京化成工業社製、> 97.0%)、ビス(2-メトキシエチル)-アミン(Sigma-Aldrich社製、98.0%)、テトラ-n-ブチルアンモニウム硫酸水素塩(TBAHS)(東京化成工業社製、> 98.0%)、N、N-ジイソプロピルエチルアミン(東京化成工業社製、> 98.0%)、t-Bu-P4塩基(Sigma-Aldrich社製、n-ヘキサン溶液、1mol/L)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン-N-[メトキシ-(ポリエチレングリコール)-2000](アンモニウム塩)(DMG-PEG2k)(日油社製)、(DOPE)(Sigma-Aldrich社製)、及びQuantiRibogreenキット(ThermofisherScientific社製)は、購入したものをそのままの状態で使用した。N、N-ジベンジルグリシジルアミン(DBGA:GA06)、N-ベンジル-N-メチルグリシジルアミン(BMGA:GA05)、及びN-グリシジルモルホリン(GM:GA03)は、非特許文献1において報告された方法に従って調製し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、CaHで真空蒸留を2回行った後、アルゴン雰囲気下で保存したものを用いた。(R)-エピクロロヒドリン及び(S)-エピクロロヒドリン(鏡像体過剰率(ee)> 99.0%)は、SANYO FINE社から提供されたものをそのまま使用した。市販の乾燥トルエン(関東化学社製、> 99.5%、含水率<0.001%)は、MB-KOL-CカラムとMB-KOLを備えたMBRAUN MBSPSコンパクト溶媒精製システムでさらに精製した後に、重合反応にそのまま使用した。
コレステロール類似体(スチグマステロール、エルゴステロール、5α-コレスタン-3β-オール、2-メトキシ-β-エストラジオール、α-エストラジオール、β-エストラジオール、カルシフェロール、コレスカルシフェロール。ベツリン、5β-プレグナン-3α-ジオール、フェニルプロパノール(PPA)、ピレンメタノール(PyOH)、コール酸、エストリオール、シクロアストラゲノール)は、東京化成工業社から入手したものを用いた。
ルシフェラーゼをコードするmRNA(Fluc mRNA)、EGFPをコードするmRNA(EGFP mRNA)、及びオバルブミンをコードするmRNA(Ova mRNA)は、TriLink Biotechnologies社から購入したものを用いた。
[機器等]
重合反応は、ガス精製システム(モレキュラーシーブ及び銅触媒)を備えたMBRAUNステンレス鋼グローブボックス内で、乾燥アルゴン雰囲気(HO、O<1ppm)で実行された。グローブボックス内の水分と酸素の含有量は、それぞれ、MB-MO-SE1水分センサーとMB-OX-SE1酸素センサーによって監視した。
H NMR(400MHz)及び13C NMR(100MHz)スペクトルは、25℃で、JEOLJNM-ESC400を使用して取得した。
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、Shodex KF-Gガードカラム(4.6mm×10mm;粒子サイズ8μm)、Shodex Asahipak GF-310 HQカラム(線形;粒子サイズ5μm;7.6mm×300mm;除外限界4×10)、及びShodex Asahipak GF-7 M HQカラム(線形;粒子サイズ9μm;7.6mm×300mm;除外限界1×10)を備えたJasco高速液体クロマトグラフィーシステム(PU-980インテリジェントHPLCポンプ、CO-965カラムオーブン、RI-930インテリジェントRI検出器、及びShodex DEGAS KT-16)を用いて、40℃で、塩化リチウム(0.01mol/L)を含むDMF溶媒を流速0.6mL/minで使用して実行した。
[ポリグリシジルアミンの分子量及び分散度]
重合体(ポリグリシジルアミン)の数平均分子量(Mn、SEC)及び分散度(Mw/Mn)は、ポリスチレンキャリブレーションに基づいて計算された。分析HPLCは、ChiralpakICを備えたJasco高速液体クロマトグラフィーシステム(PU-2080 PlusインテリジェントHPLCポンプ、RI-2031 PlusインテリジェントRI検出器、及びDG-2080°sser)を用いて、周囲温度で、EtOH/n-ヘキサン(1/99、容量比)を流速1.0mL/minで使用して実施した。SECで測定されたポリグリシジルアミンの数平均分子量(Mn,SEC)と分散度(Mw/Mn)は、1,200~1,320,000g/molの範囲の標準ポリスチレン(PS)サンプルをもとに作成した分子量校正曲線によって計算された。
[統計分析]
以降の実験において、全ての結果は、平均±SDとして表される、特に明記されていない限り、全ての実験で2回の独立した施行が行われた。また、動物のサンプルサイズを事前に決定するためには、統計的方法は使用しなかった。
複数の処理間の比較には、一元配置分散分析(ANOVA)に続いてボンフェローニ又はStudent-Newman-Keuls検定を行った。時間と処理の両方を比較したときには、二元配置分散分析を行った。全ての統計分析は、GraphPad Prismバージョン8(GraphPad Software社製)を使用して行った。P値(*:P≦0.05、**:P≦0.01、***:P≦0.001、***:P≦0.0001)は、統計的に有意であると見なされ、複数の比較が有意である場合には、ボンフェローニ事後検定又はダネットの事後検定がなされた。全ての実験で、代表的な画像、ドットプロット、又はヒストグラムが表示された。
[実施例1]
コレステロールを開始剤として、各種グリシジルアミンの開環重合反応を行い、ポリグリシジルアミンを合成した。
(1)グリシジルアミン(GA01~GA06)の合成
Figure 2023078940000011
グリシジルアミンモノマーとして、N,N-ビス(2-メトキシエチル)グリシジルアミン(GA01)、N-(オキシラン-2-イルメチル)-N-プロピルプロパン-1-アミン(GA02)、N-グリシジルモルホリン(GA03)、N-ベンジル-N-メチルグリシジルアミン(GA05)は、公知の方法で合成した(非特許文献1及び2)。
具体的には、例えば、GA01の場合、ビス(2-メトキシエチル)アミン(40.0g、300mmol)を、エピクロロヒドリン(55.5g、600mmol)とTBAHS(5.09g、15.0mmol)を50質量%の水酸化ナトリウム水溶液(36mL)に溶解させた溶液に、0℃で撹拌しながら滴下した。滴下終了後の溶液を室温で4時間撹拌した後、得られた反応混合物を水で希釈し、ジクロロメタン(150mL×2回)で抽出した。有機層をブライン(200mL×3回)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濃縮乾固した。残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー、続いて真空下でCaH上で蒸留(2回)することにより精製して、無色の液体を得た。光学的に純粋なモノマーは、(R)-エピクロロヒドリン及び(S)-エピクロロヒドリン(鏡像体過剰率(ee)> 99.0%)を使用して合成した。得られたモノマー(GA01)は、H及び13C NMRを使用して確認された。
N,N-ジベンジルグリシジルアミン(GA06)は、次のように合成した(非特許文献1)。まず、(S、R、及びRac)-エピクロロヒドリン(15.3g、165mmol)をメタノール(125mL)に溶解した溶液に、ジベンジルアミン(25.0g、127mol)を、撹拌しながらゆっくりと加えた。滴下終了後の溶液を室温で48時間撹拌した後、得られた反応混合物から、溶媒と過剰の(S、R、及びRac)-エピクロロヒドリンを蒸発により除去して、淡黄色の油を得た。当該油性物質をtert-ブタノール(100mL)に溶解させ、次に水酸化カリウム水溶液(9.08g(162mmol)のKOHを水(20mL)に溶解させた溶液)を加えた。得られた混合物を室温で48時間撹拌した。白色固体を除去した後、加熱せずに蒸発により溶媒を除去した。次に、残留物をジクロロメタン(200mL)に溶解し、水(300mL×4)で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮して淡黄色の油を得た。得られた油状生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー、続いて真空下でCaH上で蒸留(2回)することにより精製して、無色の液体として(S、R、及びRac)-DBGA(14.7g)を得た。
(2)ポリグリシジルアミンの合成
コレステロールと各種グリシジルアミン(GA01~GA06)との開環重合反応を行い、ポリグリシジルアミンを合成した。
Figure 2023078940000012
Figure 2023078940000013
開始剤(コレステロール)をトルエンに溶解させた溶液に、触媒(t-Bu-P4塩基)及びグリシジルアミンモノマーを添加し、室温で48時間、又はモノマー転化率が100%に達するまで撹拌して開環重合反応を行った。反応系へ添加する開始剤とグリシジルアミンモノマーの比率は、目的の重合度となるように、すなわち、ポリオキシエチレン部分の数平均分子量が目的の大きさ(重合度)となるように算出した理論値にしたがって調整した。反応終了後、過剰の安息香酸の添加によりクエンチした。得られた混合物をアルミナのパッドに通し、ジクロロメタンで溶出するか、又は冷メタノールで沈殿させた後、蒸発により乾燥させて、粘稠な淡黄色の液体としてコレステロール-GA脂質(ポリグリシジルアミン)を得た。
合成されたポリグリシジルアミンは、「(使用した開始剤)-(立体規則性)-(使用したグリシジルアミン)-(ポリオキシエチレン部分の重合度)」として命名した。合成されたポリグリシジルアミンについて、分子量と分散度を調べた結果を表1~6に示す。表中、「DPtheo」は、重合度、「Mn,theo」は、グリシジルアミンモノマーと開始剤のモル比とモノマー転化率から算出された理論数平均分子量([Mn,theo]=[開始剤の分子量]+[グリシジルアミンの分子量]×Conv×([グリシジルアミンのモル数]/[開始剤のモル数])であり、「Mn,NMR」は、H NMRの測定結果に基づいて算出された数平均分子量([Mn,NMR]=[(DPNMR)×170.25×(グリシジルアミンの分子量)]+[開始剤の分子量])であり、「Mn,SEC」は、SECの測定結果に基づいて算出された数平均分子量であり、「Mw/Mn」は分散度である。
Figure 2023078940000014
Figure 2023078940000015
Figure 2023078940000016
Figure 2023078940000017
Figure 2023078940000018
Figure 2023078940000019
モノマーとして、R体のみを用いて得られたポリグリシジルアミン(Chol-(R)-GA0X)とS体のみを用いて得られたポリグリシジルアミン(Chol-(S)-GA0X)は、イソタクチックなポリグリシジルアミンであった。モノマーとしてラセミ体を用いて得られたポリグリシジルアミン(Chol-(Rac)-GA0X)の立体規則性はアタクチックであった。合成されたポリグリシジルアミンはいずれも、単分散であり、かつ分酸度が1.0~1.3の範囲内であり、大部分が1.0~1.2の範囲内であった。これらの結果が示すように、t-Bu-P4塩基を触媒とし、コレステロールを開始剤として、各種グリシジルアミンの開環重合反応を行うことによって、所望の重合度で、分子量分布が非常に狭いポリグリシジルアミンを合成できた。
[脂質ナノ粒子の調製]
以降の実験において、特に記載のない限り、核酸を内包する脂質ナノ粒子は、エタノール希釈法により調製した。脂質ナノ粒子の構成脂質としては、ポリグリシジルアミンとDOPEとDMG-PEG2kとを用い、内包する核酸としては、Fluc mRNA、EGFP mRNA、又はOva mRNAを用いた。
Figure 2023078940000020
具体的には、まず、ポリグリシジルアミンとDOPEとDMG-PEG2kとを、エタノールに溶解させた脂質エタノール溶液(ポリグリシジルアミン:DOPE:DMG-PEG2k=6:3.5:0.5(モル比))と、mRNAをクエン酸/クエン酸ナトリウムバッファー(10mM、pH4)に溶解させたmRNA溶液とを調製した。脂質エタノール溶液とmRNA溶液とをピペットで急速に混合し(脂質エタノール溶液:mRNA溶液=3:1(体積比))、室温で15分間のインキュベーションを行い、mRNAを内包した脂質ナノ粒子を製造した。得られたmRNA搭載脂質ナノ粒子は、1×滅菌PBSで3倍に希釈した。希釈により得られた脂質ナノ粒子のPBS懸濁液を、以降の実験における脂質ナノ粒子溶液として用いた。
[脂質ナノ粒子の平均粒子径、PDI、及びゼータ電位の測定]
脂質ナノ粒子の平均粒子径、多分酸度(PDI)、及びゼータ電位は、DLS装置(製品名:「Zetasizer Nano ZS」、マルバーン・パナリティカル社製:He-Neレーザー、λ=632nm)を用いた動的光散乱法(DLS)により測定した。脂質ナノ粒子の流体力学的直径は、パーセント強度モードで測定され、3回の独立した測定値の平均を、当該脂質ナノ粒子の平均粒子径とした。
[核酸回収率及び脂質ナノ粒子への封入率の評価]
核酸を封入した脂質ナノ粒子について、核酸回収率及び脂質ナノ粒子への封入率は、核酸定量試薬(製品名:「Quant-iT RiboGreen assay」、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて評価した。
脂質ナノ粒子溶液をTEバッファー(10mM Tris-HCl、1mM EDTA、pH8)で40倍希釈し、デキストラン硫酸入りRiboGreen希釈液、デキストラン硫酸及びTriron X-100入り希釈液のそれぞれと等量混合し、5分間混合して、分析用サンプルを調製した。この分析用サンプルを、プレートリーダーで蛍光を測定した。濃度既知の核酸溶液を用いて作成した検量線に基づき、脂質ナノ粒子調製後の核酸量と脂質ナノ粒子に封入されていない核酸量を算出し、回収率及び封入率(カプセル化効率)を、以下の式で算出した。
[回収率(%)]=[調製後の全核酸量(μg)(デキストラン硫酸とTriton X-100を入れた際の核酸量)]/[実験の最初に入れた核酸量(μg)]×100
[封入率(%)]=100-[外側の核酸量(μg)(デキストラン硫酸のみを入れた際の蛍光)]/[調製後の全核酸量(μg)(デキストラン硫酸とTriton X-100を入れた際の核酸量)]×100
透過型電子顕微鏡(TEM)イメージングは、加速電圧80kVのJEM-2100電子顕微鏡(JEOL社製)を使用して実行した。サンプル調製のために、処方された脂質ナノ粒子溶液の液滴を、炭素膜で覆われたTEMグリッド上に置き、2% リンタングステン酸で染色した。その後、過剰な液体は濾紙で吸い上げた。
製造した脂質ナノ粒子の平均粒子径、PDI、及びゼータ電位を測定し、さらに核酸回収率及び脂質ナノ粒子への核酸の封入率(EE%)も測定した。測定結果を表7~12に示す。
Figure 2023078940000021
Figure 2023078940000022
Figure 2023078940000023
Figure 2023078940000024
Figure 2023078940000025
Figure 2023078940000026
いずれの脂質ナノ粒子も、PDIが0.34以下であり、原料としたポリグリシジルアミンと同様に、分子量分布が狭く、かつ核酸封入率も高かった。分子量分布が狭いことは、得られた脂質ナノ粒子が均質であるということであり、当該特性は、特に医薬用組成物とする場合、品質安定性、再現性の点から重要である。この点から、本願発明に係る脂質ナノ粒子は、医薬用組成物として非常に好適であるといえる。
[脂質ナノ粒子による細胞への遺伝子導入及び発現効率の測定]
Fluc mRNAを内包した脂質ナノ粒子(Fluc発現用脂質ナノ粒子又はOva発現用脂質ナノ粒子)の培養細胞への導入及び当該mRNAの発現効率は、以下の通りにして行った。なお、脂質ナノ粒子は、ラセミ体のポリグリシジルアミンを含む物を用いた。
培養細胞としては、HeLa細胞(ATCC Number:CRM-CCL-2)又はA549細胞を用いた。HeLa細胞は、10% 熱不活化ウシ胎児血清(hiFBS、Gibco社製)とペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(4500mg/Lグルコース含有)で、37℃、5%CO環境下で培養した。
実験の1日前に、24ウェルの不透明白色プレートに、ウェルあたり1×10個のHeLa細胞を播種した。一晩培養した後、各ウェルにmRNAを内包する脂質ナノ粒子を、ウェルあたりのmRNAの添加量が50ngとなるように添加し、8時間インキュベートした。その後、各ウェルの細胞に対して、d-ルシフェリン(GoldBio社製)を添加して、発光強度(RLU)を測定した(n=3)。各細胞の発光強度は、脂質ナノ粒子未処理の細胞の発光強度を基準とした相対発光強度とした。
この結果、いずれの脂質ナノ粒子を導入したHeLa細胞でも、ルシフェラーゼによる発光が確認され、これらの脂質ナノ粒子が、細胞への遺伝子キャリアとして有用であることが確認された。図1に、各脂質ナノ粒子を導入したHeLa細胞(A)とA549細胞(B)における、ルシフェラーゼ遺伝子発現のヒートマップを示す。横軸は、使用した脂質ナノ粒子の原料としたグリシジルアミンであり、縦軸は、各細胞の相対発光強度である。特に、疎水性の高いグリシジルアミンであるGA05とGA06から合成されたポリグリシジルアミンを含む脂質ナノ粒子が、特に高い遺伝子発現効率を示した。また、ポリグリシジルアミンの重合度が5~10の脂質ナノ粒子が、高い発現効率が確認できた。同じ傾向が、A549細胞でも確認された。
[脂質ナノ粒子を導入した細胞の細胞生存率の測定]
脂質ナノ粒子を導入した細胞の細胞生存率は、MTTアッセイにより行った。
24ウェルプレート(Costar社製)に、ウェルあたり5×10個のHeLa細胞を播種し、一晩培養した後、各ウェルにEGFP mRNAを内包する脂質ナノ粒子を、ウェルあたりのmRNAの添加量が50ngとなるように添加し、8時間インキュベートした。このインキュベート後のHeLa細胞に対して、MTTアッセイを、Tecan Infinite M200 Proプレートリーダー(Tecan 社製)を用いて、常法により行った(n=3)。
この結果、いずれの脂質ナノ粒子を導入したHeLa細胞においても、生存率は80%以上であり、これらの脂質ナノ粒子は、有意な細胞毒性を示さなかった。
[実施例2]
実施例1で遺伝子発現効率が非常に高かったChol-Rac-GA05-3~Chol-Rac-GA05-50及びChol-Rac-GA06-3~Chol-Rac-GA06-10をそれぞれマウスに導入し、各組織におけるルシフェラーゼ発現を調べた。
[マウスへの脂質ナノ粒子の投与と各組織での遺伝子発現の評価]
脂質ナノ粒子を、一匹当たりのmRNA投与量が0.25mg/kgとなるように、C57BL/6のICRマウス(雌、4~6週齢)に尾静脈内投与し、投与から6時間後に、ルシフェラーゼの発現を生きた動物の生物発光イメージングによって評価した。具体的には、マウスをイソフルラン下で麻酔した後、100μLの基質溶液(d-ルシフェリンを30mg/mLの濃度でPBSに溶解させた溶液)を腹腔内注射した。麻酔下で10分間経過後、肺、肝臓、脾臓、腎臓、及び心臓を回収し、各臓器のルシフェラーゼ由来発光の強度を測定することによって、各組織へのmRNA送達効率を測定した。各臓器のルシフェラーゼ由来発光の強度は、イメージングシステム(IVIS Luminaシステム、Perkin Elmer社製)を用いて画像化して測定した。画像は、「Living Imageソフトウェアv.4.3」(64ビット、Caliper Life Sciences社製)で処理した。
この結果、いずれの脂質ナノ粒子も、脾臓と肝臓においては、ルシフェラーゼ遺伝子の発現が確認されたが、肺、腎臓、及び心臓においては、ルシフェラーゼ遺伝子の発現は確認されないか、非常に弱かった。
マウスでの遺伝子発現を調べた脂質ナノ粒子のうち、脾臓での発現が大きかったChol-Rac-GA05-10、Chol-Rac-GA05-30、Chol-Rac-GA06-5、及びChol-Rac-GA06-7について、以下の方法でマウスの組織分布を測定し、脾臓と肝臓へ取り込み状況を調べた。
[脂質ナノ粒子のin vivoにおける組織分布の測定]
脂質ナノ粒子の動物の体内における組織分布を調べるために、赤色蛍光物質DiDで標識した脂質ナノ粒子を、一匹当たりのmRNA投与量が0.5mg/kgとなるように、C57BL/6のICRマウス(雌、4~6週齢)に投与した。投与から6時間後に、各マウスから肺、肝臓、脾臓、腎臓、及び心臓を回収し、各臓器のルシフェラーゼ由来発光をイメージングシステム(IVIS Luminaシステム、Perkin Elmer社製)を用いて測定した。
回収した組織の細胞に、9mLのRPMI培地を加えて、500g、4℃で5分間遠心分離して、上清を捨てた。このRPMI培地による細胞の洗浄処理を2回繰り返した。洗浄後の細胞に、5mLの培地(RPMI1640に、10% 熱不活化FBS、100U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン、10mM HEPES、100mM ピルビン酸ナトリウム、及び50nM 2-メルカプトエタノールを含有させた培地)を添加して、細胞懸濁液を調製した。当該細胞懸濁液をナイロンメッシュに通過させて、細胞凝集体を全て除去した。ナイロンメッシュを通過させた後の細胞懸濁液を、500g、4℃で5分間遠心分離した後、上清を除去した。得られた細胞沈殿物に、1mLのACK溶解バッファー(LONZA社製)を添加して単細胞懸濁液を調製した後、室温で5分間インキュベートした。当該単細胞懸濁液の細胞数を数え、1.5mL容チューブあたり10個の細胞を分注した。
1.5mL容チューブに分注した細胞は、FACSバッファーに懸濁させた後、フローサイトメーター(CytoFLEX)で分析した。死細胞を検出するための分析の前に、10μLの7-AAD(Biolegend社製)を各サンプルの1mLに対して加えた。
脾臓と肝臓の細胞のうち、脂質ナノ粒子が取り込まれた細胞(DiD陽性細胞)のフローサイトメトリーによる検出結果を図2に示す(n=3)。図2に示すように、Chol-Rac-GA05-10、Chol-Rac-GA05-30、及びChol-Rac-GA06-7は、肝臓よりも脾臓に選択的に取り込まれたことが確認された。
脾臓でのルシフェラーゼ遺伝子発現が最も高かったChol-Rac-GA05-30について、肺、肝臓、脾臓、腎臓、及び心臓における、脂質ナノ粒子が取り込まれた細胞(DiD陽性細胞)のフローサイトメトリーによる検出結果を図3に示す(n=3)。図中、「****」は、P<0.0001を意味する。Chol-Rac-GA05-30は、マウスに投与されたほぼ全量が脾臓に取り込まれており、非常に効率的かつ高選択的な脾臓特異的遺伝子送達キャリアであることが示された。
[実施例3]
実施例1及び2で脾臓に高選択的な遺伝子発現が観察されたChol-Rac-GA05-30について、ポリグリシジルアミンの立体規則性がナノ粒子のin vivo挙動に与える影響を評価した。
脂質ナノ粒子として、実施例1で製造されたChol-R-GA05-30、Chol-S-GA05-30、及びChol-Rac-GA05-30を用いた。また、Chol-R-GA05-30とChol-S-GA05-30を1:1で混合した、組成物全体として光学不活性の混合物を、Chol-iso-GA05-30として用いた。
[in vitroにおける遺伝子発現]
Fluc mRNAに代えてEGFP mRNAを封入させた以外は実施例1と同様にして、mRNA含有脂質ナノ粒子をHeLa細胞へ取り込ませた。脂質ナノ粒子添加から8時間インキュベートした後、EGFPの蛍光強度(FI)を測定してEGFPの発現効率を調べた。EGFPの蛍光強度は、Tecan Infinite M200 Proプレートリーダー(Tecan 社製)を用いて蛍光を定量化した。
この結果、Chol-R-GA05-30、Chol-S-GA05-30、Chol-iso-GA05-30、及びChol-Rac-GA05-30のいずれも、細胞内への良好な取り込みが確認されたが、特に、Chol-Rac-GA05-30の取り込み効率に優れていた。
[in vivoにおける遺伝子発現]
実施例2と同様にして、各脂質ナノ粒子をマウスに投与した後、回収した脾臓細胞のうちの脂質ナノ粒子が取り込まれた細胞(DiD陽性細胞)を、フローサイトメトリーにより検出した。検出結果を図4に示す(n=3)。図4に示すように、培養細胞とは異なり、ラセミ体モノマーから得られるアタクチックポリマーであるChol-Rac-GA05-30が、イソタクチックなその他の脂質ナノ粒子よりも、高い脾臓選択性を示すことが判明した。
実施例1で製造されたChol-R-GA06-7、Chol-S-GA06-7、及びChol-Rac-GA06-7と、Chol-R-GA06-7とChol-S-GA06-7を1:1で混合したChol-iso-GA06-7を用いた場合も、同様の結果が得られた。すなわち、in vitroではイソタクチックなポリグリシジルアミンを含む脂質ナノ粒子のほうが、アタクチックなポリグリシジルアミンを含む脂質ナノ粒子よりも遺伝子発現効率が良好であり、逆にin vivoではアタクチックなポリグリシジルアミンを含む脂質ナノ粒子が最も脾臓特異性が高かった。
[実施例4]
実施例1及び2で脾臓に高選択的な遺伝子発現が観察されたChol-Rac-GA05-30について、開始剤の構造がナノ粒子のin vivo挙動に与える影響を評価した。
開始剤として、コレステロールに代えて、スチグマステロール、エルゴステロール、5a-コレスタン-3β-オール、カルシフェロール、コレカルシフェロール、β-エストラジオール、ベツリン、5β-プレグナン-3a,20a-ジオール、シクロアストラゲノール、エストリオール、又はコール酸を用いた以外は、実施例1におけるChol-Rac-GA05-30と同様にして、それぞれポリグリシジルアミンを合成した。また、比較対象として、コレステロールに代えて、フェニルプロパノール(PPA)又はピレンメタノール(PyOH)を用いて同様にして、ポリグリシジルアミンを合成した。各水酸基から重合が進むため、水酸基の数に応じたポリオキシエチレン鎖が形成されてポリグリシジルアミンが合成される。
Figure 2023078940000027
Figure 2023078940000028
合成したポリグリシジルアミンを原料として、実施例1と同様にして、Fluc mRNAを封入した脂質ナノ粒子を製造した。製造した脂質ナノ粒子の平均粒子径、PDI、及びゼータ電位を測定し、さらに核酸回収率及び脂質ナノ粒子への核酸の封入率(EE%)も測定した。測定結果を表13に示す。
Figure 2023078940000029
実施例2と同様にして、各脂質ナノ粒子をマウスに投与した後、回収した脾臓細胞のうちの脂質ナノ粒子が取り込まれた細胞(DiD陽性細胞)を、フローサイトメトリーにより検出した。検出結果を図5に示す(n=3)。図5に示すように、ステロイド骨格を持たないフェニルプロパノールを開始剤にしたポリグリシジルアミンを含む脂質ナノ粒子は、脾臓での発現が観察されなかったが、その他の脂質ナノ粒子では、脾臓での遺伝子発現が確認された。これらの結果から、開始剤をコレステロールに代えて各種のステロイド骨格やビタミンD骨格、ラパン骨格を有する化合物として得られたポリグリシジルアミンであっても、脾臓細胞を標的とする遺伝子キャリアとして有用であることが示された。なかでも、エストリオールを開始剤としたポリグリシジルアミンを含む脂質ナノ粒子は、コレステロールを開始剤としたポリグリシジルアミンを含む脂質ナノ粒子よりも、脾臓特異性が向上していた。
[実施例5]
実施例4において、脾臓特異性に優れていたEstriol-Rac-GA05-30について、脾臓内のどの細胞に分布しているかを調べた。脂質ナノ粒子として、Fluc mRNAを封入したEstriol-Rac-GA05-30を用いた。
まず、実施例2の[脂質ナノ粒子のin vivoにおける組織分布の測定]と同様にして、各脂質ナノ粒子をマウスに投与した後、脾臓細胞を回収し、ACK溶解バッファーを添加した後に1.5mL容チューブあたり10個の細胞を分注した。1.5mL容チューブに分注した細胞は、FACSバッファーに懸濁させた後、抗マウスCD16/32抗体と氷上で15分間インキュベートして、Fc受容体をブロックした。次いで、1μgのFITC標識抗マウス/ヒトCD45R/B220抗体及び0.25μgのPE標識抗マウスCD3抗体、又は0.25μgのFITC標識抗マウスF4/80抗体及び0.25μgのPE標識抗マウスCD11c抗体を添加して、氷上で30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞をFACSバッファーで洗浄し、ナイロンメッシュを通過させた後に、フローサイトメーター(CytoFLEX)で分析した。死細胞を検出するための分析の前に、10μLの7-AAD(Biolegend社製)を各サンプルの1mLに対して加えた。CD45R/B220及びCD3の発現、又はF4/80及びCD11cの発現は、脾臓細胞のうちの脂質ナノ粒子を取り込んだ細胞を決定するために、DiD陽性細胞のゲーティング後に決定された。
フローサイトメトリーにおいて、脾臓を構成する免疫細胞のうち、CD3陽性細胞をT細胞として、B220陽性細胞をB細胞として、CD11c陽性細胞を樹状細胞として、F4/80陽性細胞をマクロファージとして、それぞれ識別した。各免疫細胞全体に占めるDiD陽性細胞の存在比率(%)を求めた。各免疫細胞におけるDiD陽性細胞の分布の結果を図6に示す。この結果、抗原提示細胞であるB細胞と樹状細胞において、脂質ナノ粒子の蓄積が認められた。特に樹状細胞においては、70%以上の細胞が脂質ナノ粒子を蓄積していることが判明した。同じ傾向が、Chol-Rac-GA05-30を投与したマウスでも観察された。
[実施例6]
実施例5において樹状細胞へ高効率的に送達されることが確認された脂質ナノ粒粒子Estriol-Rac-GA05-30について、ガン予防ワクチンや抗腫瘍用医薬用組成物へ応用できるか調べた。
脂質ナノ粒子として、Ova mRNAを封入したEstriol-Rac-GA05-30と、Fluc mRNAを封入したEstriol-Rac-GA05-30と、を用いた。また、腫瘍細胞として、Ova抗原を安定発現するマウスリンパ腫細胞株EL4細胞(E.G.7-OVA細胞)を用いた。
[がんワクチン]
脂質ナノ粒子を、一匹当たりのmRNA投与量が0.2mg/kgとなるように、C57BL/6のICRマウス(雌、4~6週齢)に尾静脈内投与した。脂質ナノ粒子投与から7日間後のマウスに対して、脇腹領域に8×10個の腫瘍細胞を接種した。その後、各マウスの腫瘍体積を、経時的に測定した。腫瘍体積のモニタリングは、予防的研究のために、腫瘍細胞接種から30日間行った。対照として、脂質ナノ粒子に代えて、脂質ナノ粒子に封入されていないOva mRNA又はPBSを同様にマウスに投与し、腫瘍細胞も接種させた後、腫瘍体積のモニタリングを行った。
[腫瘍体積(mm)]=[腫瘍の長軸(mm)]×[腫瘍の短軸(mm)])×0.52
腫瘍体積をモニタリングした結果を図7に示す。この結果、Ova mRNAを封入したEstriol-Rac-GA05-30を予め投与したマウスにおいては、腫瘍細胞の増殖は起こらず、抗腫瘍活性物質を内包したEstriol-Rac-GA05-30が、予想通りがん予防ワクチンとして機能することが確認できた。
[抗腫瘍用医薬用組成物]
C57BL/6のICRマウス(雌、4~6週齢)に、脇腹領域に8×10個の腫瘍細胞を接種し、経時的に測定した。腫瘍体積のモニタリングは、治療的研究のために、腫瘍細胞接種から24日間行った。腫瘍細胞接種から7日目及び10日目に、Ova mRNAを封入したEstriol-Rac-GA05-30を尾静脈内投与した。対照として、脂質ナノ粒子に代えてPBSを同様にマウスに投与し、腫瘍体積のモニタリングを行った。
腫瘍体積をモニタリングした結果を図8に示す。この結果、Ova mRNAを封入したEstriol-Rac-GA05-30を投与したマウスにおいては、腫瘍細胞の増殖が抑制されており、抗腫瘍活性物質を内包したEstriol-Rac-GA05-30が、予想通り抗腫瘍用医薬用組成物として機能することが確認できた。

Claims (14)

  1. 下記一般式(1)
    Figure 2023078940000030
    [式中、Xは、ステロイド骨格、ビタミンD骨格、又はルパン骨格を有する、1~4価の基であり;R及びRは、それぞれ独立して、エーテル結合性酸素原子を有していてもよく、かつ置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である、又はR及びRが互いに連結して脂肪族5~7員環を形成しており;p1及びp2は、p1とp2の和が1以上4以下を満たす0~4の整数であり;n1及びn2は、それぞれ独立して、1~40の実数であり;黒丸は、他の基との結合手であることを表す]
    で表される構造を有する、ポリグリシジルアミン。
  2. 前記エーテル結合性酸素原子を有していてもよく、かつ置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基が、エーテル結合性酸素原子と置換基を有していない炭素数1~6のアルキル基、エーテル結合性酸素原子を有しているが置換基は有していない炭素数1~6のアルキル基、又は、フェニル基で置換されており、かつエーテル結合性酸素原子を有していない炭素数1~6のアルキル基である、請求項1に記載のポリグリシジルアミン。
  3. 前記R及びRが互いに連結して脂肪族5~7員環を形成しており、前記脂肪族5~7員環が、ピロリジン、イミダゾリジン、オキサゾリジン、チアゾリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン、アゼパン、1,3-ジアゼパン、又は1,4-ジアゼパンである、請求項1に記載のポリグリシジルアミン。
  4. 下記一般式(2)
    Figure 2023078940000031
    [式中、R及びRは、それぞれ独立して、エーテル結合性酸素原子を有していてもよく、かつ置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である、又はR及びRが互いに連結して脂肪族5~7員環を形成している]
    で表されるグリシジルアミンと、下記一般式(3)
    Figure 2023078940000032
    [式中、Xは、ステロイド骨格、ビタミンD骨格、又はルパン骨格を有する、1~4価の基であり;p3は、1~4の整数である]
    で表される化合物とを開環重合させて得られる、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリグリシジルアミン。
  5. 前記一般式(3)で表される化合物が、ステロイド、ビタミンD、ビタミンD誘導体、ベツリン、又はベツリン誘導体である、請求項4に記載のポリグリシジルアミン。
  6. 前記一般式(2)で表される化合物が、下記一般式(2-1)~(2-5)
    Figure 2023078940000033
    [式中、R11は、炭素数1~6のアルキル基であり;R12は、炭素数2~6のアルキル基中の炭素原子間に1個のエーテル結合性の酸素原子が挿入された基であり;R13は、フェニル基で置換された炭素数1~3のアルキル基であり;式中、複数あるR11、R12、及びR13は、互いに同じ基であってもよく、異なる基であってもよい]
    で表される化合物である、請求項4又は5に記載のポリグリシジルアミン。
  7. 下記一般式(2)
    Figure 2023078940000034
    [式中、R及びRは、それぞれ独立して、エーテル結合性酸素原子を有していてもよく、かつ置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基である、又はR及びRが互いに連結して脂肪族5~7員環を形成している]
    で表されるグリシジルアミンと、下記一般式(3)
    Figure 2023078940000035
    [式中、Xは、ステロイド骨格、ビタミンD骨格、又はルパン骨格を有する、1~4価の基であり;p3は、1~4の整数である]
    で表される化合物とを開環重合させて、ポリグリシジルアミンを製造する、ポリグリシジルアミンの製造方法。
  8. 請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のポリグリシジルアミンを含有する、脂質ナノ粒子。
  9. 核酸を含有する、請求項8に記載の脂質ナノ粒子。
  10. 前記核酸が、脾臓細胞内で発現させる遺伝子である、請求項9に記載の脂質ナノ粒子。
  11. 請求項8~10のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子を有効成分とする、医薬用組成物。
  12. がんワクチンとして用いられる、請求項11に記載の医薬用組成物。
  13. 抗がん治療のために用いられる、請求項11に記載の医薬用組成物。
  14. 請求項8~10のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子であって、細胞内で発現させる目的の外来遺伝子を封入した脂質ナノ粒子を、被験動物(但し、ヒトを除く)へ投与し、前記被験動物の体内で前記外来遺伝子を発現させる、外来遺伝子の発現方法。
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