以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
図1は、本発明に係る実施形態の乾式水耕栽培システム1を示す図である。図2は、本発明に係る実施形態の乾式水耕栽培システム1の乾式水耕栽培装置10を示す図である。
図2(a)は、乾式水耕栽培装置10の栽培ケース部12を昇降リフト部4から移動ケース部14に載せ替えている様子を示す図あり、図2(b)は、乾式水耕栽培装置10の断面図である。
図3は、本発明に係る実施形態の乾式水耕栽培システム1の乾式水耕栽培装置10の上段側フェルト部16を示す図である。図3(a)は、上段側フェルト部16の平面図であり、図3(b)は、1枚の上段側フェルト16bの拡大図であり、図3(c)は、上段側フェルト16bに設けれられる種床部(くぼみ40)の拡大図である。
乾式水耕栽培システム1は、複数のフロア部2で構成される多層階フロア部と各フロア部2間を移動するための昇降リフト部4とを有する建物と、複数の乾式水耕栽培装置10と、図示しない中央管理室とを備えている。建物は、日本の食料増産に寄与する工場であり、地域全体を対象としたものであるため、規模は大きくなる。
各フロア部2は、複数の乾式水耕栽培装置10を所定の間隔をあけて配置可能なエリアである。各フロア部2は、一辺が100mの正方形であるものとして説明するが、これに準じた大きさであればよく、長方形でも良い。
建物の高さは、50mとすると、15階前後になる。この場合、建物の底面積は、10000m2=100a=1haになる。坪数であれば、3000坪=10反=1町歩である。
1つの乾式水耕栽培装置10の大きさは、幅が2mであり、奥行きが10mであり、高さが1mであるものとして説明するが、もちろん、適宜変更することが可能である。
ここで、上記のように、底面積は、100×100=10000m2であるため、25個の乾式水耕栽培装置10を所定の間隔をあけて並んだ列を図1に示されるように、4列配置することで合計1つの階に100個の乾式水耕栽培装置10が配置されることになり、これが限度であると考える。図1では、4つの領域11に夫々25個の乾式水耕栽培装置10が配置されている。
100個の乾式水耕栽培装置10の配置が限度となるのは、4台の昇降リフト部4、図示しない人用エレベータ、乾式水耕栽培装置10の移動の為の通路や作業員が作業を行う為の通路、器具、及び、機材の収納庫などに場所を取られるため、図1に示されるように、一定程度スペースを空ける必要があるからである。
したがって、床面積が10000m2であったとしても、実際の乾式水耕栽培装置10を用いた耕地面積は、元の5分の1の略2000m2になってしまう。耕地面積を広げる手段として高層化が考えられる。建物の高さを50m、例えば、15階とした場合、15倍の面積になるので、上記と差し引きして、敷地面積の3倍の耕地面積ということになる。
ここで、建物の1階部分は作業場や収納場所であり、乾式水耕栽培装置10を配置することができないため、上記の耕地面積を確保する場合には、実際の建物の高さは、16階位にする必要がある。
乾式水耕栽培システム1の建物には、電気と水に関しても特徴がある。まず、電気は、当然のように太陽光と風力発電を行い、屋上には全面の太陽光パネルを設置し、同時に適所に風力発電設備も設置する。
また、南側の壁は、全て、その緯度の角度を付けた太陽光パネルで覆われている。建物の周辺にも同様に発電施設を設置する。そして、建物の地下室には巨大な蓄電池を設置し、夜間の余剰電力も活用する。
水に関しては、下水処理水や雨水も使用するが、海の近くに建物が建てられている場合は、逆浸透膜を利用して海水の淡水化を行う。潅漑液の成分には、塩分も多量に入っているため、淡水化の途中の液を用いてもよい。
また、洗浄などの時には、よりレベルの低い半淡水化水でもいいと思われる。そして、海の近くの工場は、数十メートルの高台に建て、津波の被害に合わないようにすると共に周辺住民の避難場所として提供する。
上述した建物は、敷地面積(底面積)が100m×100mの大型工場であるが、敷地面積が50m×50mで、高さが30mくらいの中型工場であってもよい。
乾式水耕栽培装置10は、栽培ケース部12と、移動ケース部14とを備えている。栽培ケース部12は、上段側フェルト部16と、上段側金網部18と、下段側フェルト部20と、下段側金網部22と、キャスター部26を備えている。
栽培ケース部12は、上段側フェルト部16と下段側フェルト部20とが内部に装着され、天井面が開口されている。栽培ケース部12の大きさは、幅が2mで奥行が10mで高さが1mのケースである。
栽培ケース部12は、移動ケース部14内に出し入れ可能であり、昇降リフト部4で所望のフロア部2まで上昇させた後で、移動ケース部14に載せて、予め決められた配置位置まで移動される。
上段側フェルト部16は、所定の面積の矩形形状を有し、複数の種42を配置するための種床部(くぼみ40)が所定の間隔をあけて複数設けられている。上段側フェルト部16は、栽培ケース部12内において、図2(b)に示されるように、下段側フェルト部20よりも上方に配置される。
上段側フェルト部16は、10×2m程の栽培ケース部12に2×2m程のフェルトの培地を5枚並べて置かれて形成される。上段側フェルト部16の厚みは、20cmであり、目が粗い上段側金網部18の上に載置されている。
上段側フェルト部16には、作物によって異なるが20cm~50cmの間隔で直径10cm程のくぼみ40(種床部)が形成されており、くぼみ40の深さは1cm位である。くぼみ40の中に種42が2~4個(図3では4個)蒔かれていて、くぼみ40の中央46を通る潅水用チューブ部44から漏れ出した培養液によって浸されている。やがて、種42は、発芽して成長するが、成長するに従って1本ずつ間引いていき、最後に一番丈夫な苗を一本残すのである。
下段側フェルト部20は、所定の面積の矩形形状を有し、上段側フェルト部16の下方に所定の間隔をあけて配置される。下段側フェルト部20は、10×2m程の栽培ケース部12に2×2m程のフェルトの培地を5枚並べて置かれて形成される。下段側フェルト部20の厚みは、10cmであり、目が粗い下段側金網部22の上に載置されている。
上段側フェルト部16と下段側フェルト部20との間は、約20cm程度あけられている。また、上の培地のフェルトである上段側フェルト部16は、作物によって目の粗さや厚さが決められていて、下の段のフェルトである下段側フェルト部20は原則的に目が細かく水を通さない構造となっている。下段側フェルト部20は、根と水のストッパーとしての役割を担う。
上段側フェルト部16に撒かれた種42は、フェルトの中に根を張り、やがて、上段側フェルト部16を突き抜けて上段側フェルト部16と下段側フェルト部20の間にある空間に伸びていく。空間は、上述したように、上下方向の間隔が20cm位である。培養液は上段側フェルト部16から垂れて下段側フェルト部20まで落ちていくので、根の先端に絶えず垂れて溜まっていて根の成長に支障は無い。
中には下段側フェルト部20の目の細かいフェルトの中に根を張っていくものもある。しかし、下段側フェルト部20のフェルトの下面までは水も根も届かず、その下にある下段側金網部22や栽培ケース部12の底には培養液は無く、乾いた状態である。このため、病気や菌が隣接する苗に移る可能性が低くなり、更に有機養液栽培を取り入れることにより病害がより少なくなると思われる。
潅水用チューブ部44は、上段側フェルト部16内に挿通され、複数のくぼみ40(種床部)の各中央46に点滴のように水分を漏出するための漏出部を有する。このように、潅水用チューブ部44により、点滴のように少量ずつ作物に投与する点滴潅漑農法を取り入れている。一般的に、点滴潅漑というのは、土壌栽培の時に使用するが、それを水耕栽培用のフェルトに作物を植えて、そこに点滴潅水をするのが特徴である。
潅水用チューブ部44は、くぼみ40の中央46を通るチューブであり、50cm間隔の種床部(くぼみ40)の場合、くぼみ40の数は横が4列になるので4本が通っている。そして栽培ケース部12の縦10m、横幅2mの長さの中では、くぼみ40にあたる縦20か所、横4か所に小さな穴が開いていて、そこから培養液が漏れ出ている。
漏れ出し方は、24時間持続的に微量ずつ漏れるものと、一定時間毎に一定量が漏れるものがあり、それぞれ中央管理室の制御装置において、コンピュータや人工知能(AI)により管理されている。また培養液の成分も作物毎に異なり、更に栽培時期によっても変わるので、これも同様に自動管理されている。
移動ケース部14は、栽培ケース部12を収納可能である。移動ケース部14は、送風部32と、発光素子部34と、栽培ケース部12の上方に送風部32及び発光素子部34を装着するための天井面部36と、天井面部36を支持するために移動ケース部14に立設置される支柱部33と、移動ケース部14の底面に設けられて転動可能なキャスター部30を有する底面部38とを備えている。
発光素子部34は、上段側フェルト部16の上方に設けられ、複数の種42に向けて発光する。発光素子部34は、移動ケース部14の天井面部36に設けられたLEDランプであり、光の波長、強さ、照射時間を微妙に変えながら中央管理室の指示通りに照射されている。
送風部32は、上段側フェルト部16の上方に設けられ、複数の種42に向けて風を吹き付ける。空気は、温度と湿度とさらに二酸化炭素の濃度まで管理されており、移動ケース部14の天井面部36に設けられた送風部32の送風口から、強さや風向、時間を調整しながら噴き出している。また、移動ケース部14の天井面部36からは、図2に示されるようにビニールの膜が両側に垂れていて、その空気を逃がさないように外と隔絶されている。
昇降リフト部4は、多層階(ここでは、15階)のフロア部2間を移動するための昇降機を含んで構成されている。図1に示される例では、4つの昇降リフト部4が設置されているものとして説明するが、もちろん、増減させてもよい。
続いて、上記構成の乾式水耕栽培システム1の作用について説明する。上述したように、2030年頃に発生する可能性があるとされている世界的な食料危機が来てしまった場合に、外国からは十分な食料の輸入は望めないのため、日本国内で様々な食物を作れるようにしなければならない。しかしながら、日本国内では余剰な耕地は少なく、山が多く平地の少ない国土では、これ以上耕地を増やすことは困難である。
そこで、一つの案として考えられるものに、空中に耕地を作るという方法がある。すなわち、何十階建の建物を作り、その中で農業をするのである。その場合に必要な技術として、水耕栽培がある。なお、建物の中での土壌栽培は、様々な要因から困難であるため、水耕栽培が適していると思われる。
しかしながら、水耕栽培は多量の水を必要とし、その重さは、例えば、10×2mの栽培ケース部12の場合、潅流液の深さが1cmの時には水の重さは200kg、10cmの時は2000kg、すなわち、2トンになる。一般的に、潅流液の深さは30cm前後であるため、6トン程の重さになると思われる。
その栽培ケース部12を一つの階に100個置けば600トンの重さになり、15階建の建物なら9000トンになってしまい建物に多大な負荷をかけることになる。地震などの時に危険になり、建物の安全性を揺るがすことになりかねない。このような課題に対し、本発明に係る実施形態の乾式水耕栽培システム1は、顕著な効果を発揮する。
10×2mの栽培ケース部12に置かれた上段側フェルト部16には、20~50cm間隔で約10cmのくぼみ40が80~500個ほどあり、その深さは1cm位である。そこには年間計画に従って、2~4個の作物の種42を撒いていく。その作業は種42の植え付け作業場で専門の担当者によって、栽培ケース部12と種42の種類に間違いがないように注意深く行われる。
上段側フェルト部16は、専門の工場で無菌に近い状態で作られ、潅水用チューブ部44もその中に設置された状態で工場(建物)に運ばれてくる。くぼみ40に種42がまかれた2×2mの上段側フェルト部16が、昇降リフト部4の所まで運ばれてから栽培ケース部12に合計5枚が置かれる。
上段側フェルト部16の中に予め埋設された潅水用チューブ部44がお互いに結合され、その後、中央配管と接合する為の根本の部分から色の付いた液体を注入される。そして、各接合部からの漏れやくぼみ40の中央46から正確に漏れ出しているかを確認した後、液体は排出され、潅水用チューブ部44は水で洗浄される。
その後、各種床(くぼみ40)の上に保温、保湿、遮光の為の溶ける紙が置かれ、それらは種42が発芽した後、溶けて養分になる。これらの一連の作業が終わった後、栽培ケース部12は、昇降リフト部4で、それぞれのフロア部2に移動され、図2(a)に示されるように、移動ケース部14に載せ替えられる。
次に、フロア部2内の所定の場所に自動で、あるいは、作業員によって運ばれて設置される。所定の位置に来ると、中央配管から水と空気と電気を作業員によって栽培ケース部12と移動ケース部14に接続されるが、栽培ケース部12には水、移動ケース部14には空気と電気が接合される。
そして、中央配管との接合部にあるサテライト・ポートと名付けた中央管理室の分室のような所で、これらは精密に管理されている。そして、点滴潅水の為の培養液や二酸化炭素を多く含んだ空気を栽培ケース部12の中に送り込まれる。
また、例えば、水は微量元素の入った容器を通り、管理室の指示通りの濃度と配合で培養液を作り出し、潅水用チューブ部44の中に送り込まれる。1つの階の100×100m位の広い空間に100台ほどある乾式水耕栽培装置10を一人の作業員が見廻り監視していて、何かの異常があれば中央管理室と連絡を取り合うことができる。
そして、数か月が経ち成熟した苗3(図2(b)参照)をまた昇降リフト部4の所へ移動ケース部14を移動させ、昇降リフト部4に載せ替えて1階に降ろす。1階では数人で作物を収穫し、その後、上段側フェルト部16の苗床ごと古い株を栽培ケース部12から取り除き、下段側フェルト部20も取った後、栽培ケース部12の洗浄と消毒を行う。
当然、上段側金網部18及び下段側金網部22も、上段側フェルト部16及び下段側フェルト部20と同様に外され、その後、上段側フェルト部16及び下段側フェルト部20を乗せるときに新しい消毒された上段側金網部18及び下段側金網部22が乗せられる。
1階の種42の植え付け場所で、予定表に書かれた次の種42が種床部(くぼみ40)にまかれた後、上段側フェルト部16の苗床は昇降リフト部4の所まで運ばれ栽培ケース部12に乗せられる。
そして、また、それぞれの階に上がって行くのだが、これを一日に一つの階で1~2台、15階建てなら20台余り行う。昇降リフト部4が4基なら1基に付き5台余りの栽培ケース部12が昇降し、処理をすることになる。
上記のように、各フロア部2に設定された乾式水耕栽培装置10は、電気も接合され、最適に調整された発光素子部34によって照射される。そうやって計画通りに中央管理室で管理育成され、数か月後の収穫まで作業員によって24時間体制で管理されていく。
もし、異常事態や非常事態の発生があれば、それに合わせて適切な処置がなされる。種は通常発芽率が70~80%位だが、1か所につき最大4個まいた時は、不発芽率がほぼ0%になると思われ、もし不発芽種床が多い場合は、その種床部(くぼみ40)に追加で種42を蒔く。
また、複数発芽した時は、その中で最も成長がいいものを残し、残りは成長に合わせて順次間引かれる。更に、発芽しにくい種42や発芽から成長時間がかかる苗は、あらかじめ別の場所で発芽させ、ある程度成長してから苗床に直接植え替える。その中には1粒が高価な種や、成育、成熟期間が長く、集約的農業に適さない作物も含まれる。
上記の建物(植物工場)では年中気候に関係なく作物が作られるので、年3~6回は収穫が出来て、また一株当たりの収穫量や単位面積当たりの株数が集約農法を行う為に増えるので更に増産になり、その上段落0025で述べたように、耕地面積が敷地面積の3倍になるので総収穫量は少なく見積もっても10~20倍になる可能性がある。
言い換えれば、日本の耕地面積が、局地的ではあるが10倍から20倍広がったともいえる。この工場(建物)を日本国中に作れば、日本の農業生産はかなり増加すると思われる。そして、この方法の利点は、南方でも北方でも荒地でも山間部でも環境条件に影響を受けることなく作られるということである。
一般的に、水耕栽培では潅流液が使用されている。そして、潅流液を使うと重量的に運搬や構造物の耐久性で大量生産の工場は不可能である。しかしながら、乾式水耕栽培システム1によれば、潅流液を使わないので栽培ケース部12の重量が軽くなり、それによって大量の栽培ケース部12による多階層の植物工場を作ることができるという顕著な効果を奏する。
次に、乾式水耕栽培システム1の変形例である乾式水耕栽培システム1aについて説明する。図4は、本発明に係る実施形態の乾式水耕栽培システム1aを示す図である。
乾式水耕栽培システム1aは、案内レール部7が設けられる複数のフロア部2で構成される多層階フロア部と各フロア部2間を移動するための昇降リフト部5とを有する建物と、複数の乾式水耕栽培装置50と、図示しない中央管理室とを備えている。
乾式水耕栽培システム1aと乾式水耕栽培システム1の相違点は、乾式水耕栽培装置50及び案内レール部7であり、その他はほぼ同じであるため、以下では相違点を中心に説明する。
乾式水耕栽培装置50は、乾式水耕栽培装置10とほぼ同様の構成要素を有し、上段側フェルト部16と、上段側金網部18と、下段側フェルト部20と、下段側金網部22と、送風部32と、発光素子部34を備える栽培棚である。相違点は、乾式水耕栽培装置10のようにフロア部2を移動することなく、所定の位置に固定されている点である。
乾式水耕栽培装置50は、例えば、横幅が約2mで奥行が約50mの大きさであれば、図4に示されるように、フロア部2の上側(図4の紙面上の上側)に25個並んで配置されている。25個の乾式水耕栽培装置50の間は、約2mの間隔の通路をあけて配置されており、この通路には、案内レール部7が配置される。
また、フロア部2の下側(図4の紙面上の下側)も25個並んで配置されている。25個の乾式水耕栽培装置50の間は、約2mの間隔の通路をあけて配置されており、この通路には、案内レール部7が配置される。
案内レール部7は、図4に示されるように、上側の乾式水耕栽培装置50と下側の乾式水耕栽培装置50の間を通る幹部と、当該幹部から隣接する乾式水耕栽培装置50の間の通路を通る枝部とを備える。
続いて、乾式水耕栽培システム1aの作用について説明する。乾式水耕栽培システム1aも乾式水耕栽培システム1と同様の構成を有するため、同様の効果を奏する。また、乾式水耕栽培システム1aと乾式水耕栽培システム1との相違は、乾式水耕栽培システム1では移動ケース部14を用いて移動させていたのに対して、乾式水耕栽培システム1aでは栽培棚(乾式水耕栽培装置50)を動かさずに、当該フロア部2で全て処理することが出来る点である。
具体的には、成熟した苗の収穫、苗床の上段側フェルト部16、下段側フェルト部20等の交換、消毒、種まき、各配管との接合を1か所で行う。そうすると、乾式水耕栽培システム1において、移動の為に必要であった空間や時間も有効利用できて、設置する乾式水耕栽培装置50の栽培面積が増え苗も増えるので増産できる。
その分の利益で、そのフロア部2を担当する人数も増やせる。その増えた人員で、全ての処理を同一階で行う。また、図4に示されるように、乾式水耕栽培装置50の間には案内レール部7を敷かれているため、その上を移動する台の上に荷物や備品や作物を置くことが出来る。
案内レール部7は、昇降リフト部5のところに繋がっていて、昇降リフト部5にそれらを載せて上下し、一階に運んだり各階に運んだりする。将来的には、それらの作業を殆ど自動化して、AIロボットが自動的に全てを処理するようになる。
乾式水耕栽培装置50は、組み立て式で小さな部品を接合するので、乾式水耕栽培装置50自体を移動させることは無く、乾式水耕栽培装置50の間の通路は部品が通れる空間領域があればよい。上段側フェルト部16、下段側フェルト部20の大きさも2×2m位なので、上段側フェルト部16、下段側フェルト部20等が通れる空間があればいいし、縦にすれば、フロア部2の高さが2m以上あれば良い。
作業員は、上段側フェルト部16、下段側フェルト部20の交換のみをするグループが何組かあり、それが全館の乾式水耕栽培装置50の上段側フェルト部16、下段側フェルト部20を交換していく。乾式水耕栽培装置50は、100m×100mの建物の場合、半分の50mの長さがあり、その一列全てを同時に上段側フェルト部16、下段側フェルト部20を交換していく。
乾式水耕栽培装置50は、横方向に25列並んでいるため、一つの階には50mの棚が50列存在することになる。50mの長さを取ることができず、仮に40mであるとしても乾式水耕栽培システム1に比べて倍の耕地面積となる。段落0067で総収穫量、段落0068で耕地面積が10~20倍になると述べたが、更にそれが20~40倍になるということが出来る。また、40mの長さを20mや10m毎に区切ってもよい。
また、乾式水耕栽培システム1aによれば、乾式水耕栽培装置50を動かさないため、多段にすることも出来る。これにより、2段、3段の苗床にもなり得る。
収穫は、各階で、その階の専属の作業者が行う。成熟したものから収穫していき、1つの列で収穫時期が異なるものもあるので、全ての苗が収穫し終わった時点で、あるいは、ほぼ終了した時に苗床の交換を行う。
一つの列の洗浄と消毒をする為に、排水設備が必要になる。上段側フェルト部16及び下段側フェルト部20と、上段側金網部18及び下段側金網部22を外した後で、乾式水耕栽培装置50を強力噴射する水で洗浄し、消毒液を吹き付けるが、それらの水は乾式水耕栽培装置50の下方に通した排水管で中央配管に誘導する。
乾式水耕栽培システム1の移動式と異なり、1つの階のみでそれを行うので、他の階の病原菌や害虫が伝染することが無い。その階で、消毒・殺菌を完全にすれば、病虫害の発生を防げる。
洗浄の際には、強力噴射水で乾式水耕栽培装置50を洗うが、その時、サイドのビニールの膜を下ろして、飛沫が外に飛び散らないようにする。消毒の時も同様だが、その時の空気は、空調によって全て吸込み、外に放出する。サイドのビニールは、洗浄の度に、新しいものに交換する。
また、案内レール部7は、運搬用のレールで、その上に乗っている台が荷物や作物を運ぶものとして説明したが、レールでなく、例えば、床に張ったラインでも良い。また、ゴルフ場のカートのように自動で動く、あるいは、携帯端末などで動かすようなものであってもよい。
次に、乾式水耕栽培ユニット60について説明する。乾式水耕栽培ユニット60は上段側フェルト部16とほぼ同一のものである。潅水用チューブの構造のみが潅水用チューブ部44と潅水用チューブ部68とで異なる。図5は、乾式水耕栽培ユニット60を示す図である。乾式水耕栽培ユニット60は、下面側フェルト部62と、シート部64と、潅水用チューブ部68と、上面側フェルト部66とを備えている。
下面側フェルト部62は、所定の面積の矩形形状を有し、天井面に格子状の線が描かれた第1格子部63を有する。下面側フェルト部62は、2m×2mで厚さが20cmのフェルトの天井面に、50cm毎(50cm間隔)に設けられた線が縦横に描かれている。
また、フェルト自体に線を描く代わりに、このような格子状の線が描かれてシート部64と同様の材質の紙で構成されたシートをフェルトの天井面上に貼り付けていてもよい。
シート部64は、下面側フェルト部62上に設けられ、第1格子部63と同一の格子状の線が描かれた第2格子部65を有する。シート部64は、透明性を有する水溶性の紙で構成されている。シート部64には、2m×2mの紙で構成されており、50cm毎(50cm間隔)に設けられた線が縦横に描かれている。
潅水用チューブ部68は、シート部64上において、第2格子部65の格子状の線の複数の交点部65aに点滴のように水分を漏出するための漏出部71を設けるように敷設される。
潅水用チューブ部68は、50cm毎に小さな漏出部71が開けられている。その漏出部71が下面側フェルト部62の天井面に描かれた第1格子部63の交点部63aに合うように、シート部64が下面側フェルト部62上に重ねられる。
潅水用チューブ部68の基本構造は、潅水用チューブ部44と同様である。そして、潅水用チューブ部68は、図5(a)に示されるように、フォークの先端部のような櫛歯状の形状を有する。
上面側フェルト部66は、所定の面積と同一の面積の矩形形状を有し、下面側フェルト部62に重ね合わせた際の第1格子部63の格子状の線の複数の交点部63aに対応する位置に予め形成された複数の貫通孔69を有する。
上面側フェルト部66は、2m×2mで厚さが1cmの薄いフェルトに、縦横50cmの間隔で直径10cmの貫通孔69が形成されている。上面側フェルト部66は、下面側フェルト部62に重ねられたシート部64に重ねて設置される。
続いて、上記構成の乾式水耕栽培ユニット60を製造する方法及び乾式水耕栽培ユニット60の作用効果について説明する。
最初に、下面側フェルト部62と、上面側フェルト部66と、潅水用チューブ部68が敷設されたシート部64を準備し、下面側フェルト部62を設置する(ステップ1)。このとき、第1格子部63が天井側に向くように配置する。
次に、潅水用チューブ部68が敷設されたシート部64の第2格子部65の格子状の線の交点部65aと下面側フェルト部62の第1格子部63の格子状の線の交点部63aとが重なるように位置決めを行ってシート部64を下面側フェルト部62上に設置する(ステップ2)。下面側フェルト部62とシート部64とは、それぞれ2m×2mで大きさが同じであるため、外周部が重なるように位置合わせすることで、交点部63aと交点部65aとを簡単に重ね合わせることが出来る。
次いで、下面側フェルト部62の厚み方向に沿った側面と、上面側フェルト部66の厚み方向に沿った側面とが面一になるように上面側フェルト部66を下面側フェルト部62上に設置する(ステップ3)。下面側フェルト部62と上面側フェルト部66とは、それぞれ2m×2mで大きさが同じであるため、外周部が重なるように位置合わせすることで、それぞれの側面を図5(b)に示されるように面一にすることが出来る。これにより、乾式水耕栽培ユニット60の製造が終わる。
このように製造された乾式水耕栽培ユニット60を用いて、図2に示されるような栽培ケースに装着される場合には、下段側フェルト部20と上段側フェルト部16とは所定の間隔(例えば、20cm)をあけて配置されており、下段側フェルト部20は下段側金網部に載置されており、上段側フェルト部16は上段側金網部に載置されている。
なお下段側フェルト部20と上段側フェルト部16の間は暫定的に20cmとするが、作物の種類で増減する。株や根の大きな作物は間をもっと広げ、小さな作物は狭くする。この空間が空いていることにより、根の発達が、20cmの空間部分全てがフェルトで埋め尽くされているより良くなる可能性がある。灌漑水がフェルトに染み込まずに殆ど根に伝わり、根が灌漑水を独占するからである。但し、この空間を別の物質、例えばもっと目の粗いフェルトや目が粗く隙間の多いスポンジなどで埋めて、水は保水しないが根の支持基盤としては有効な物に置き換えてもよい。また根の部分は遮光して、暗くする。それにより、根は充分な栄養と水分と暗闇によって、重力の方向、すなわち、下に向かって伸びていく。また、水平方向にも自由に伸びれるので、横にも広がり大きな根となり、大量の栄養と水分を吸収して葉や実の可食部分を増産することになる。金網は、もし無かったらフェルトがたわんでしまい、それを防ぐにはフェルトを固くせねばならず、フェルトの柔らかさや疎な部分を維持出来なくなる。
ステップ3の工程を終えると、2m×2mで厚さが20cmのフェルトの上に縦横50cmの間隔で直径が10cmで深さが1cmの穴が、乾式水耕栽培ユニット60の表面に出来たことになる。
この直径10cmで深さが1cmの穴(貫通孔69)が種床になり、その中央に潅水用チューブ部68の漏出部71が位置することにより、ここから漏れ出る灌漑液によって植物の成長を促す。
この乾式水耕栽培ユニット60の製造方法の利点は、製造工程が簡単であり、予め作っておいた2×2mで厚さが20cmの下面側フェルト部62と、2×2mで厚さが1cmの上面側フェルト部66を重ねるだけで、直径10cmで深さ1cmの種床を作ることが出来る点である。
また、潅水用チューブ部68を予めシート部64に敷設して固定しておくことで、細かな位置調整が不要となり、簡単かつ正確に種床の中央に位置決めすることが出来る。
熟練工がいらずに経済的に安く仕上げることができ、さらに、下面側フェルト部62、潅水用チューブ部68が敷設されたシート部64、上面側フェルト部66は植物工場とは別の場所で専門的に作るようにして、その工場はできるだけ無菌状態に近い環境で製造することで、雑菌やカビの付着を防ぎ、生育過程で雑菌やカビによる害を少なくすることが出来るという利点がある。
2m×2mの苗床は、1つの植物工場で年間数万個必要となると思われるので、それを補充するには大量生産が簡単にできて、しかも、安価で短時間で製作出来ねばならない。よって、この方法が最も安易な方法になると考えられる。
特許文献1~3の様に一つ一つの苗床に操作し、手間をかけていては、大量生産や安価には出来ない。各苗床に切れ込みを入れて、他の部材に嵌め込み、一つ一つの苗に注水管を取り付けていれば、何万という苗を扱う植物工場では恐らく営農は不可能と考える。
工数や経費を考慮しても膨大なものになり、小工場や実験的なものなら可能かもしれないが、大植物工場と言われる何万平方メートルもの工場で何十万という苗を扱う場合は現実的ではない。
短時間で、更に低コストで出来る製品でないと採算が合わず赤字経営となり継続できなくなる虞がある。本発明に係る実施形態の乾式水耕栽培ユニット60の製造方法によれば、1つの2×2mの苗床を作るのに3つの操作だけで作ることが出来る。
すなわち、2×2×0.2mの下面側フェルト部62の上に、潅水用チューブ部68を配置したシート部64を置き、更に、その上に、2×2×0.01mの穴の開いた上面側フェルト部66を配置するだけで乾式水耕栽培ユニット60が出来上がるのである。
それらの部材は、別の工場において、無菌状態で作ればよく、組み立て工場ではその3つを、やはり無菌状態で組み立てるだけである。それを無菌梱包して植物工場に移送し、植物工場では包装をはずして苗床の棚に置くだけである。
莫大な量の苗床の入れ換えが必要なので、これくらい簡単でないと人件費がかさんでしまい、やはり経営的に苦しくなると考える。
部品のコストも本発明に係る実施形態の乾式水耕栽培ユニット60の製造方法によれば、2×2×0.2mの下面側フェルト部62と、潅水用チューブ部68を配置したシート部64と、2×2×0.01mの穴の開いた上面側フェルト部66で構成することができるため、非常に安価に生成することが出来る。また、時間的にもほとんど問題にならない程の短時間で出来る。
特許文献1~3に開示された方法では、これの何倍、何十倍のコストがかかるか分からず、時間も膨大なものになると思われる。この植物工場は野菜の単価が比較的安いので、大型にすることで徹底した低コスト化が求められるのである。
さらに、本発明に係る実施形態の乾式水耕栽培ユニット60の製造方法によれば、工場が巨大化すればする程、低コストになると考えられ、他の方法とは比べものにならないくらい差別化が図れることにより、これを代替する方法は現時点ではないと言える。本発明に係る実施形態の乾式水耕栽培ユニット60の製造方法によれば、他に追随を許さない簡便さと低コストを実現できるという顕著な効果を奏する。