JP2023067298A - 船舶の造波抵抗低減システム、船舶及び船舶の造波抵抗低減方法 - Google Patents

船舶の造波抵抗低減システム、船舶及び船舶の造波抵抗低減方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2023067298A
JP2023067298A JP2021178394A JP2021178394A JP2023067298A JP 2023067298 A JP2023067298 A JP 2023067298A JP 2021178394 A JP2021178394 A JP 2021178394A JP 2021178394 A JP2021178394 A JP 2021178394A JP 2023067298 A JP2023067298 A JP 2023067298A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
water
suction
wave
ship
bow
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2021178394A
Other languages
English (en)
Inventor
茂 山本
Shigeru Yamamoto
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Individual
Original Assignee
Individual
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Individual filed Critical Individual
Priority to JP2021178394A priority Critical patent/JP2023067298A/ja
Publication of JP2023067298A publication Critical patent/JP2023067298A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Classifications

    • YGENERAL TAGGING OF NEW TECHNOLOGICAL DEVELOPMENTS; GENERAL TAGGING OF CROSS-SECTIONAL TECHNOLOGIES SPANNING OVER SEVERAL SECTIONS OF THE IPC; TECHNICAL SUBJECTS COVERED BY FORMER USPC CROSS-REFERENCE ART COLLECTIONS [XRACs] AND DIGESTS
    • Y02TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE
    • Y02TCLIMATE CHANGE MITIGATION TECHNOLOGIES RELATED TO TRANSPORTATION
    • Y02T70/00Maritime or waterways transport
    • Y02T70/10Measures concerning design or construction of watercraft hulls

Landscapes

  • Other Liquid Machine Or Engine Such As Wave Power Use (AREA)

Abstract

【課題】排水量型の船舶において、船首部における造波抵抗を低減する。【解決手段】少なくとも、船舶1、1Aが計画航走速度Vsdで前進方向に航走しているときに、船首部2aに設けた吸引開口部11において、計画航走速度Vsdの50%以上でかつ150%以下の平均相対吸引流速Vamで水Waを吸引することで、干渉用波を発生させて、この干渉用波を船首部2aで発生する船首波に干渉させる。さらには、吸引開口部11の上側で、かつ、航走時の水面を切る位置に設けた流入開口部31から航走時の水面の近傍の水Wbを、計画航走速度Vsdの-25%以上でかつ+25%以下の平均相対流入流速Vbmで流入させることで、船首部2aの水面近傍で発生する波の発生を抑制する。【選択図】図1

Description

本発明は、船首部で発生する船首波による造波抵抗を低減する船舶の造波抵抗低減システム、船舶及び船舶の造波抵抗低減方法に関し、より詳細には、船首部に設けた吸引開口部における水の吸込み現象により、船首部で発生する波(ここでは船首波と言うことにする)と逆位相の干渉用波を発生させて、この干渉用波を船首波と干渉させることにより、船首部における造波抵抗を低減する船舶の造波抵抗低減システム、船舶及び船舶の造波抵抗低減方法に関する。
水上を航行する排水量型の船舶においては、移動する際に船体が水面(自由表面)に影響を及ぼして、船体の主として船首部と前方肩部と後方肩部と船尾部とから波を発生する。なお、船首部と船尾部で発生する波に比べて、前方肩部と後方肩部で発生する波は比較的小さい。そして、これらの波には、船舶と共に移動する局部波と船舶の後方に伝搬していく自由波とがある。
この船首部で発生する自由波は船舶の造波抵抗に大きく関係している。この自由波に関して、波無し船型の船首系波に関する造波抵抗理論では、船体前半部の形状を「等価連続吹き出し分布」で、船首バルブ(球状船首)を「二重吹き出し」で、それぞれ表現する場合がある。そして、この船首バルブを含まない船体前半部で発生する船首系波と船首バルブで発生する波(以下、「干渉用波」と言うことにする)とを干渉させることにより、船体前半部全体で発生する波を低減させている。なお、以下、「船体前半部」は、船首バルブ等の干渉用波の発生手段を含まない船体形状を言い、「船体前半部全体」は、船首バルブ等の干渉用波の発生手段を含んだ形状(「船体前半部」+「船首バルブ」等)と言うことにする。
この船体前半部と船首バルブとの関係に関しては、例えば、船体前半部の容積の4%ほどの容積の船首バルブで波無し船形を構成している。この船首バルブの形状及び大きさにより、船首バルブによる干渉用波の振幅(大きさ)を調整し、船首バルブの前後位置(船首端からの前方への突出量)により、干渉用波の位相差を調整している。より詳細には、局所非船型影響等で船首系波の起点が船長Lの約6%程度先進することに対して、船首バルブを船首部から突出させることにより、両方の波の関係を逆位相の関係にしている。
そのため、船首バルブの大きさ、形状及び位置は、一つの「積載状態(通常は満載状態)及び速度(計画航走速度)」に対して、波消し効果が最も大きく成るように、その状態の船体前半部の形状に対応させて、船首バルブの大きさ、形状及び位置の最適化が行われている。
その結果、バルブ付船首(バルバスバウ船首形状)の船舶においては、満載状態では船首バルブの効果が大きく造波抵抗が少なくなるが、その一方で、軽荷状態では、船体前半部の船首系波と船首バルブの干渉用波との干渉が十分に行われなくなる上に船首バルブによる抵抗増加が生じるという問題がある。この問題に対しては、船首水平フィン(HBF)を設けたり、軽荷状態用のバルブと満載状態用の船首バルブの2つのバルブを設けて2段バルブ構造としたり、船首バルブの形状や前後位置や上下位置を変化できるように構成したりすることが提案されてきている。
この船首水平フィンに関しては、例えば、前下がりの造波誘起手段(フィン)を船首バルブの側方に突出させて設けて、船舶のバラスト状態での走行時に船首バルブの上面に乗り上げる波を誘起して、船首バルブの抵抗を軽減する抵抗軽減船首形状が提案されている(特許文献1参照)。また、船首バルブにフィンを左右対称に取り付けて、バラスト航行状態において波の上昇を抑え、反射方向を側方あるいは後方に変化させることにより波浪中の抵抗増加を低減することができる船首フィン付き船舶が提案されている(特許文献2参照)。
また、2段バルブ構造としては、バラスト喫水線の下に船首バルブを、バラスト喫水線の上に補助バルブを設けて、さらに、バラスト喫水状態では補助バルブの下側面部で水の流れの盛り上がりを抑制して、満載喫水状態およびバラスト喫水状態のいずれの場合も航走時の造波抵抗を減少させるようにした2段バルブのバルブ付き船首部構造が提案されている(特許文献3、4参照)。
また、船首バルブの形状の変化に関しては、排水量型の船舶において、船首バルブの相異なる2つの航行条件での造波特性の変化に対応して、両条件で船体の造波抵抗を極小化する船首バルブを提供するために、船首バルブを構成する可動外板面の位置とつなぎ面を変更することにより、段差を生じない曲面の滑らかさを保ちつつ、船首バルブの大きさと外側の形状を変更する外面形状が変更可能な船体が提案されている(特許文献5参照)。また、軽荷状態に合わせた船首バルブにバウパッドを上乗せして満載状態における造波抵抗を低減する船舶用造波抵抗減少装置も提案されている(特許文献6参照)。
上記のような提案が幾つかなされたものの、現状では、バラスト状態(軽荷状態)において水面に半露出する船首バルブを球状バルブから水線入角の小さい長突出薄型バルブに船首バルブの形状を変更して造波抵抗を減少することに落ち着いているようである。
その一方で、限られた積載状態や船速に限定されることなく、多様な積載状態と船速の組み合わせに対しても造波抵抗を低減することが試みられており、船首部の正面の一部に開口部を設けて、船首部に向かって来る水を流入したり、吸引したりすることで、船首部で発生する波を低減することも提案されてきている。
例えば、船首の下部における高圧ゾーンの水を吸い込んで船尾の低圧ゾーンに移送することで、船首波の形成を低減する船首波を最小化するシステム(特許文献7参照)や、船首部の正面の水面近傍に開口部を設けて、船首部に向かって来る水を取り込んで、船首先端部に最も近い低い静圧部(船側や船底)に吐出する造波抵抗低減船舶(特許文献8参照)が提案されている。また、満載吃水線と軽喫水線を包含するラッパ形開口から吸い込んだ水を船首側の近傍の船底部の開口部から吸い出させる開口式造波抵抗減衰船型(特許文献9参照)等が提案されている。
これらの提案では、船首部の開口部で水を吸い込んで、船首部の高圧部分を消滅又は減少することにより、この部分での造波を消滅又は減少することで、船全体の造波抵抗を低減しようとしている。しかしながら、船首部の開口部以外の残余の部分で発生する波の抵抗に関しては低減できないという問題がある。また、開口部の数が多く、各開口部の大きさも比較的小さい場合には、吸い込んだ水の水路の抵抗も大きく、排水も船体に沿って流れ船体表面の摩擦抵抗の増加をもたらすという問題がある。
一方、造波抵抗理論では、船体前半部を「等価吹き出し分布」で表現していることを考慮して、船首部に船首バルブを設けることなく、船首部の喫水線下の同一位置に海水の吹出口と吸込口を形成して、吸込口から吸い込んだ海水を吹出口から吹出すことで、バルブ効果を得ようとする船舶の造波抵抗軽減装置が提案されている(特許文献10参照)。しかしながら、この吸込口と吹出口の水流れで二重吹出し(船首バルブ)の代わりとするためには、非常に難しい海水の流量調整制御が必要であり、実用的には難しいと考える。
また同様に、航行速力の変更や航行状態の変化に追従させて、船体の船首部部位に吹出孔と吸引孔の対を多数設けて、それぞれの対の近傍の水の局所流を変化させることで、船舶の船首部形状の見掛けの形状を変化させて、船舶の船首部における全体の水流である外部流によって生じる船首波形を制御して造波抵抗を低減し、船舶の全体の抵抗を減少する船舶及び船舶の抵抗減少方法が提案されている(特許文献11参照)。しかしながら、この吹出孔と吸引孔による水の局所流の制御には、非常に難しい流量調整制御が必要であり、実用的には難しいと考える。
特開2017-24638号公報 特開2006-321306号公報 特開平9-290797号公報 特開平9-66885号公報 特開2012-148627号公報 特開2011-126510号公報 特開2019-142482号公報 特開2016-107784号公報 特開昭54-57787号公報 特開平9-169295号公報 特開2015-168377号公報
上記のように、従来技術のバルバスバウ船首の船舶においては、主に満載状態で、かつ、計画航走速度における造波抵抗の低減を図るために、船体前半部の形状により発生する船首波に対して、船首バルブで発生する干渉用波を干渉させることで、造波抵抗の低減を図っている。そして、満載状態と計画航走速度の特定の組み合わせ以外の造波抵抗の低減に対しては、上記のように水平フィンや補助バルブを設けることが提案されているが、これらの構成も、特定の組み合わせ以外のもう一つ載荷状態(主に軽荷状態)とその航走速度の組み合わせに対する対策であり、多様な載荷状態や多様な船速における造波抵抗の低減には不十分な対策となっている。
また、船首部に開口を設けて水を流入させたり吸引したりして、船首波の大きさを低減する対策も行われているが、この対策の場合には、船首部における高圧部分を無くすことで船首部における波の発生を減少する造波低減方法であり、開口部以外の残余の船首部で発生する造波抵抗を低減できないという問題がある。
さらに、船首部で流入した水を船尾側で排水する場合には、船首から船尾に至る長い導水路における摩擦抵抗が発生する上に、この長い導水路の容積が必要になるという問題がある。また、船首部からの水を船首近傍の船側開口部や船底開口部で排水する場合には、吸引した水の方向を船舶の前後方向から左右方向又は上下方向に変化させているので、船舶の前後方向に関しての水の運動量の変化に伴って船舶に抵抗が発生するという問題がある。
本発明は上記のことを鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、船首部に設けた吸引開口部における水の吸引で発生する「吸込み現象」により、船首部の開口部以外の残余の部分で発生する波(ここでは「船首波」と言うことにする)と逆位相の干渉用波を発生させて、この干渉用波を船首波と干渉させることにより、船首部における造波抵抗を低減する船舶の造波抵抗低減システム及び船舶の造波抵抗低減方法を提供することにある。
上記のような目的を達成するための本発明の船舶の造波抵抗低減システムは、航走時に水面下の船体没水部を有し、前記船体没水部の船首部に設けた吸引開口部と、前記吸引開口部から吸引した水を船外に噴射する噴射部と、前記吸引開口部と前記噴射部とを連結する吸引水路と、前記吸引水路に設けた吸引装置とを備えている船舶の造波抵抗低減システムであって、少なくとも、計画航走速度で前進方向に航走しているときには、水没している前記吸引開口部で吸引する水の平均相対吸引流速を前記計画航走速度の50%以上でかつ150%以下の流速とすることを特徴とする船舶の造波抵抗低減システムである。
ここで言う「船体没水部」は、船舶が航走するときに没水している部分、言い換えれば、浸水表面を有する部分である。「吸引装置」は吸引開口部で水を吸引するための機構である。「少なくとも、計画航走速度で前進方向に航走しているときには」は「計画航走速度で前進方向に航走していないときは、除外してもよい。」という意味である。「平均相対吸引流速」とは、船舶と共に移動する移動座標系から見たときの吸引流速の平均流速であり、船舶の外の空間工程座標系から見た場合の平均吸引流速は、「(船舶の航走速度)+(平均相対吸引流速)」となる。
この「吸引装置」は、船首部の吸引開口部に流入してくる水の流入流速(航走速度に近い速度)を更に増加させて吸引する必要がある。そのため、「吸引装置」は吸引用として、噴射用装置とは別に独立して設けてもよいが、吸引した水を噴射部で噴射するための噴射用装置と兼用で構成してもよい。例えば、「吸引装置」として、ウォータージェット推進で用いているような「高圧ポンプ(軸流水ポンプ)」、「インペラと呼ばれるプロペラ」とよばれる装置を採用することが考えられる。吸引水路内にプロペラを配置したりすることが考えられる。しかしながら、この「吸引装置」では、船首部の吸引開口部で吸引する水の水量が多い上に、「吸引装置」の上流側の水の流速が非常に大きい点が、従来技術のウォータージェット推進と異なる。
また、この「吸引装置」として、吸引水路内にプロペラを配置することも考えられる。この場合には、サイドスラスター、ポッド推進器等の動力伝達機構やプロペラが参考になる。そして、この「吸引装置」では、ポッド推進器で設けている旋回機構が不要になるので、より構造を単純化できる。なお、本発明では、吸引水路内の水を吸引して噴射できればよいので、吸引水路の内径とプロペラの直径との関係は、必ずしも、ダクトプロペラのダクトの内径とプロペラの直径との関係、コルトノズルの内径とプロペラの直径との関係等のように、隙間の小さいもので有る必要はない。
なお、「吸引装置」で吸込速度を大きくするためには、吸引水路の噴射側吸引水路を複数に分岐することで、「高圧ポンプ」や「プロペラ」における流速を小さくすることが容易にできる。つまり、吸引開口部の近傍の入口側吸引水路の流路断面積に比べて、「高圧ポンプ」や「プロペラ」を配置する噴射側吸引水路の全体としての流路断面積を大きくする。これにより、吸引流速よりも噴射流速を遅くすることができる。例えば、吸引開口部からの水を、流路断面積の小さい入口側吸引水路で大きな吸引流速で吸引して、流路断面積の大きい減速用水路若しくは減速用タンクに導いた後、複数の流路断面積の小さい噴射側吸引水路に導いて、この噴射側吸引水路で「高圧ポンプ」や「プロペラ」により噴射部に送り出す構成が考えられる。
上記の構成によれば、船首部に吸引開口部を設けて、この吸引開口部から水を吸引して「吸込み現象」を起こすことで、干渉用波(Bw)を発生させて、吸引開口部を除いた船首部の残余の部分により発生する船首波(Aw)と、干渉させることにより、船体前半部全体で発生する波を低減させることができるようになる。なお、従来技術の船首バルブ船型では、船首バルブ無しの船体(造波抵抗理論上では「吹き出し分布(Source Distribution)」で表現される場合がある)が発生する波(Cw)に対して、船首バルブ(同上「二重吹き出し(Doublet)」)が発生する波(Dw)を干渉させて、船首バルブ付船体の造波を減少しているが、本発明では、波(Cw)よりも吸引開口部により船首部が減少する分だけ小さくなる船首波(Aw)を、「吸込み現象」(ここでは「吸出し点(Point Sink)で表現されると考えている)で発生する干渉波(Bw)で干渉させて造波を減少する。
つまり、本発明では、吸引開口部で吸引する水の平均相対吸引流速を計画航走速度の50%以上でかつ150%以下の流速とすることで、従来技術の開口による船首部の容積減少に伴う造波の減少効果ではなく、「吸込み現象」によって発生する干渉用波と船首波との干渉による造波の減少であることを明確して、従来技術との差別化を図っている。
そして、この構成によれば、吸引開口部の前後位置により干渉用波(Bw)の位相を、船首波(Aw)の位相と逆位相に合わせることができる。また、吸引開口部の水深、及び、水の吸引水量(平均相対吸引流速と開口面積)により、干渉用波(Bw)の振幅(波高)を調整及び制御できる。従って、吸引開口部の水深、及び、吸引開口部の流路断面積と吸引水量(ポンプ能力)の調整及び制御により、多様な載荷状態と船速において発生する多様な船首波(Aw)に対応できることになる。従って、広範囲の載荷状態と航走速度において造波抵抗を低減することができるようになる。なお、この吸引開口部の開口部位置は、船首部の前端(船首垂線:F.P.)から船長Lの20%の前方の位置から船長Lの20%の後方の位置までの範囲内となると考える。
特に、従来技術の船型のように、船首部形状又は船首バルブの形状を変更することなく、開口量と吸引流速(吸い込み量)の調整及び制御、又は、開口位置の調整により、多様な載荷状態及び航走速度に対応できる。そのため、模型船を用いた水槽試験やCFDなどの数値ミュレーション計算において、船型を変更する必要が無くなり、模型船の変更または変形、船形データの修正入力等が不要になる。従って、船型の設計や実験や計算の手間を大幅に減少することができるようになる。
なお、吸引開口部を、水没させたまま、水面近傍に配置することで、吸引開口部における水の吸込みによる干渉用波の発生の効果を、吸引開口部を水深の深い位置に配置する場合に比べて、より大きくできるので、より小さい開口面積とより少ない吸引水量で、効率的に干渉波を大きくすることができる。
上記の船舶の造波抵抗低減システムにおいて、前記噴射部の噴射口は、船舶の前後方向に関して船体前半部となる領域に船体表面から離間して配置され、更に、前記噴射部の主噴射方向は、前進方向に航走しているときに、船舶の前後方向に対して、船首方向を0度として、時計回りで、150度以上でかつ210度以下(好ましくは、160度以上でかつ200度以下、さらにより好ましくは、170度以上でかつ190度以下)の角度範囲内となる実質的に後方で、かつ、前記船体没水部から逸れた方向になるように構成されており、少なくとも、船舶が計画航走速度で前進方向に航走しているときには、水没している前記吸引開口部から吸引する水が前記吸引水路内で前記吸引装置を用いて吸引されて、この吸引された水が前記噴射部から前記実質的に後方に向けて、かつ、前記船体没水部から逸れた方向に噴射されることにより、船舶の航走時に必要な推進力の一部又は全部を得られるように構成されていると、次のような効果が有る。
この「実質的に後方」とは、船舶の前後方向に関する成分が船舶の幅方向の成分より大きい方向のことを言い、具体的には、水の主たる噴射方向(主噴射方向)が「船舶の前後方向に対して、船首方向を0度として、時計回りで、特定の角度の範囲の内側」にあることを言う。なお、この「特定の角度の範囲」とは、150度から210度で、より好ましくは、160度から200度で、さらに好ましくは、170度から190度である。
この構成によれば、船首部の正面の吸引開口部から吸引した水を、船尾まで導くことなく、船尾側ではなく、好ましくは船体前半部に設けた噴射部から実質的に後方に向けて噴射されるので、正面から流入してくる水の持つ運動エネルギーを、比較的短い吸引水路で、効率よく推進力に変更することができる。
より詳細には、この構成では、船舶の前後方向に関して、前方から後方に向かってくる水を、横方向や斜め横方向や下方向や斜め下方向ではなく、実質的に後方に向けて噴射するので、水の持つ運動量の船舶の前後方向の変化量が少なくなり、吸引水路を介して船舶に作用する抵抗が少なくなる。また、噴射方向が実質的に後方であるので、噴射による反力の方向が実質的に前進方向を向くので、推進方向の成分が大きくなり、推進効率が良くなる。
また、噴射部が船尾側で無く船体前半部に配置されていると、吸引水路の長さも、従来技術の船首から船尾まで延びる導水路に比べて、著しく短くなり、吸引水路における摩擦抵抗も小さくなる。また、吸引水路に必要な容積も著しく小さくて済む。
更に、噴射部の噴射口が船体表面から離間して配置されることで、噴射される水がそのまま船体表面に沿って流れることを回避できる。また、噴射部から噴射される水の主噴射方向が船体没水部から逸れた方向に、言い換えれば、船体表面と離れる方向に向いていることにより、噴射される水が、コアンダ効果(粘性流体の噴流や流れが近くの壁に引き寄せられる効果)によって船体表面に付着して船体表面に沿って流れることを回避できる。これらにより、噴射される水が船体表面に沿って流れて船体表面の流速を増速することを回避できるので、船体表面における摩擦抵抗の増加を回避することができる。
そして、船舶が前進方向に航走しているときには、噴射流の大部分が船体没水部に当たらなくなるので、噴射流と船体没水部との干渉を避けることができ、船体没水部に対する噴射流の影響を著しく減少できる。その結果、船体没水部の抵抗の評価と、噴射流による推進力の評価を分離して、船体抵抗と推進力を個別に評価できるようになる。
さらに、噴射部を船底に近い位置、言い換えれば、できるだけ水深の深い位置に配置すると、噴射部で水を噴射することにより発生する波が小さくなり、この波による船体没水部への影響を少なくすることができる。なお、水の噴射で発生する波のエネルギー損失は、水の噴射時におけるエネルギー損失であり、船型によって発生する造波抵抗への寄与は無く、噴射部の工夫である程度まで小さくできると考える。例えば、渦流の発生を抑制したり、噴射流速を落としたり、整流することにより、噴射流における攪乱エネルギーを少なくしたりする。
なお、本発明の技術的思想とは異なる、マイクロバブルなどの気泡を混入した混合水と船体表面との間の摩擦抵抗を減少する技術の場合には、逆に混合水を船体表面に沿わせることが行われる。よって、この噴射された水が船体表面に流れないようにする構成は、これらのマイクロバブルなどの気泡混入による摩擦抵抗低減のための機構との大きな差異となる。
また、水の噴射流速は、従来技術のウォータージェット推進における水の噴射流速に比べて、水量が多い分、遅くてもよく、理論的には、多量の水量で僅かな流速の増加で噴射することがよいと言われているので、従来技術のウォータージェット推進との差を強調するためには、本発明の権利範囲として、この噴射する水の流速を直進航行時の船速の5%から40%増しとし、より好ましくは10%から30%増すとし、更に、より好ましくは15%から25%増しとすることも考えられる。
この船舶の造波抵抗低減システムの実現性として、噴射部の排出面積(Sout)と噴射流速(Vc)を考えてみる。例えば、吸引面積(Sin)で計画航走速度(Vsd)と同じ相対平均吸引流速(Vam=100%Vs)で水を吸引して、両舷側に配置した噴射部で船速の4分の1の噴射流速(Vc=25%Vsd)で吸引した水を噴射する場合には、片舷の噴射部の排出面積(Sout)は吸引面積(Sin)の2倍となる。一方、吸引開口部は、残余の船首部の部分より水面に近く配置することで、干渉用波の造波効率は残余の船首部の部分の造波効率よりも良くなる。従って、吸引開口部の投影正面面積(吸引面積(Sin))は、残余の船首部の部分(例えば、船首先端から船長の10分の1後方位置までの範囲)の正面面積(Sr)よりも小さくなる(Sin<Sr)と考えられる。従って、船型と噴射部の配置には工夫が必要であるが、本発明の船舶の造波抵抗低減システムは実現可能な範囲にあると考える。
上記の船舶の造波抵抗低減システムにおいて、少なくとも、船舶の航走時において、前記噴射部が、左舷側と右舷側のそれぞれに配置されていると共に、それぞれの前記噴射部から噴射される水の流量と流速を制御するように構成されている。
この噴射部の構成により、左舷側と右舷側のそれぞれの推進力を制御することで操船用の旋回モーメントを発生できるようになる。つまり、これらの左右の噴射部で発生する推進力を、それぞれの噴射部に対応する吸引装置又は噴射装置の制御により、噴射部で噴射する水の流量(噴射量)の調整や変化で、船舶の旋回モーメントを得ることができる。従って、本発明の船舶の造波抵抗低減システムを操船用のシステムの一部又は全部として利用できる。
そして、この構成では、従来技術の船尾配置のウォータージェット推進のように、操船のために、噴射部を左右に動かして、水の噴射方向を変更する必要が無い。そのため、噴射部の構造を著しく単純化できる。なお、従来システムのウォータージェット推進システムを流用することで、コストダウンできる場合もあるので、その場合は、噴射部における噴射方向を左右に動かして操船してもよい。
上記の船舶の造波抵抗低減システムにおいて前記吸引開口部の上側で、かつ、航走時の水面を切るように流入開口部を設けて、船舶が計画航走速度で前進方向に航走しているときに、前記流入開口部から航走時の水面の近傍の水を流入させるとともに、この流入する水の船首部に対する平均相対流入流速を計画航走速度の-25%以上でかつ+25%以下とするように構成されていると、次のような効果を発揮できる。
この構成によれば、航走時に水面近傍の水を吸引開口部とは別の半没している流入開口部から流入させることにより、船首部周りで発生していた自由表面衝撃波や砕波等の局部波の発生を低減することができ、干渉用波による造波抵抗の低減効果に加えて、さらに、船首部における造波抵抗を低減できる。
この局所波の減少は、「吸込み現象」で発生する干渉波によるものではないので、半没している流入開口部における水の流入流速には吸引開口部の吸引流速ほどの速い流速が必要とされない。そこで、例えば、必ずしも、流入水路に吸引装置を設けることなく、流入開口部の流入水路を吸引開口部の吸引水路に合流させて、落下及び吸引水路側の動圧により、流入開口部から流入した水を吸引水路に吸引させる構成が考えられる。
なお、流入開口部を吸引開口部と別にする理由は、次のようなものである。つまり、吸引開口部で船首部の水面近傍の水を吸引すると空気も吸引してしまうので、吸引装置に空気吸込みが発生し、吸引装置をポンプ等で構成した場合には効率が著しく悪くなる。そのため、吸引開口部は、航走時に水没していることが好ましい。そこで、半没している流入開口部が必要となる。
上記の船舶の造波抵抗低減システムにおいて、前記吸引開口部を上下方向に複数に分割して設けて、船舶の積載状態の変化によって、航走時の水面を切る位置になった前記吸引開口部を前記流入開口部として使用するように構成されている。なお、より好ましくは、前記吸引開口部及び前記流入開口部に、開口量を調整制御できる開口部閉鎖扉を設ける。
この構成によれば、船首部の喫水が深いときは、最上位の半没している流入開口部で、水面近傍の水を流入させ、船首部の喫水が浅いときは、水面近傍の半没している吸引開口部の吸引水路の吸引装置を稼働せずに、水没している吸引開口部及びその吸引水路の吸引装置のみを稼働する。これにより、船首部の喫水が浅いときは、船首部で発生する船首波も小さいので、水没している吸引開口部によって、少ない開口面積で、必要な干渉用波を発生することができるようになる。従って、水面近傍の半没している吸引開口部とその吸引水路を、流入開口部及び流入水路として使用することができると共に、水没している吸引開口部の吸引装置を使用して、効率よく干渉用波を発生することができる。
また、船首波と干渉用波の干渉が最適化されるように、船首部の残余部分と開口部との正面投影面積の比率を変更できるように、吸引開口部に開口部閉鎖扉を設けることが好ましい。この開口部閉鎖扉により、満載状態で船首部の残余部分を大きくしたいときは、一部の吸引開口部を閉鎖し、逆に、軽荷状態で船首部の残余部分を小さくしたいときは、この吸引開口部を開口する。また、開口部閉鎖扉の開口量を調整することで、吸込流速と吸込水量を調整する。なお、軽荷状態等で、完全に空中に露出された状態になる流入開口部及び吸引開口部は、風圧抵抗を低減するために、それぞれの開口部に設けられた開口部閉鎖扉を閉鎖することが好ましい。
なお、吸引装置が、空気混入によって機能低下しない装置である場合には、半没状態の吸引開口部で、局所波を減少させてもよい。この場合は、流入開口部を半没状態の吸引開口部で兼用するので、平均相対流入流速は、平均相対吸引流速と同じとなり、計画航走速度の-25%以上でかつ+25%以下の流速とはならないが、半没状態の吸引開口部の存在により、局所波が発生する船首部分が無くなるので、局所波による造波抵抗を減少できる。
そして、上記の目的を達成するための船舶は、上記の船舶の造波抵抗低減システムを備えられて構成されていることを特徴とする。この構成により、上記の船舶の造波抵抗低減システムと同様の効果を発揮できる。
そして、上記の船舶において、前記船体没水部の後半部は、船舶の上下方向に関して、満載喫水線または計画喫水線より下側において、深さ方向の少なくとも50%の範囲において、連続的又は断続的に水線面形状の70%が対称翼の後半部の形状で形成されている。言い換えれば、船体没水部の後半部の水線面形状の70%が対称翼の後半部の形状の70%と一致する。
この構成によれば、船体没水部の後半部の大半を対称翼の後半部の形状で形成するので、船尾側における流れを単純化でき、後方肩部及び船尾による波の発生を抑制できる。従って、船体没水部の後半部で発生する造波抵抗を減少することができるので、船舶全体としての造波抵抗を減少することができる。
そして、上記の目的を達成するための船舶の造波抵抗減方法は、少なくとも、船舶が計画航走速度で前進方向に航走しているときに、船首部に設けた吸引開口部において、前記計画航走速度の50%以上でかつ150%以下の平均相対吸引流速で水を吸引することで、干渉用波を発生させて、この干渉用波を前記船首部で発生する船首波に干渉させることで、前記船首部における波の発生を抑制して造波抵抗を低減することを特徴とする船舶の造波抵抗低減方法である。
この船舶の造波抵抗低減方法によれば、船首部に吸引開口部を設けて、この吸引開口部から水を吸引して「吸込み現象」を起こすことで、干渉用波を発生させて、吸引開口部を除いた残余の船首部の形状により発生する船首波と、干渉させることにより、船体前半部で発生する波を低減させることができる。また、吸引開口部の面積と吸引水量(ポンプ能力)と吸引開口部の前後位置の調整及び制御により、多様な載荷状態と船速において発生する多様な船首波に対応できることになる。従って、広範囲の載荷状態と航走速度において造波抵抗を低減することができるようになる。
そして、上記の船舶の造波抵抗減方法において、少なくとも、船舶が前記計画航走速度で前進方向に航走しているときに、前記吸引開口部の上側で、かつ、航走時の水面を切る位置に設けた流入開口部から航走時の水面の近傍の水を、前記計画航走速度の-25%以上でかつ+25%以下の平均相対流入流速で流入させることで、前記船首部の水面近傍で発生する波の発生を抑制して、造波抵抗を低減する。
この船舶の造波抵抗減方法によれば、航走時の水面の近傍の水を吸引開口部とは別の流入開口部に平均相対流入流速がゼロに近い状態で流入させることにより、船首部周りで発生していた自由表面衝撃波や砕波等の局部波の発生を低減することができ、干渉用波による造波抵抗の低減効果に加えて、さらに、船首部における造波抵抗を低減できる。
本発明の船舶の造波抵抗低減システム及び船舶の造波抵抗低減方法によれば、船首部に設けた吸引開口部における水の吸引で発生する「吸い込み現象」により、船首部で発生する船首波と逆位相の干渉用波を発生させて、この干渉用波を船首波と干渉させることにより、船首部における造波抵抗を低減することができる。
図1は本発明の第1の実施の形態の船舶の第1例を示す正面図で、船首部に吸引開口部を設けると共に、噴射部を両舷の水面上で舷側の船体表面から離間して設けている例を示す図である。 図2は本発明の第1の実施の形態の船舶の第2例を示す正面図で、船首部に吸引開口部を設けると共に、噴射部を両舷の水面下で舷側の船体表面から離間して設けている例を示す図である。 図3は本発明の第1の実施の形態の船舶の第3例を示す正面図で、船首部に吸引開口部を設けると共に、噴射部を両舷の水面下で上下方向に2段連続して舷側の船体表面から離間して設けている例を示す図である。 図4は本発明の第1の実施の形態の船舶の第4例を示す正面図で、船首部に吸引開口部を設けると共に、噴射部を両舷の水面下で上下方向に2段に分離して舷側の船体表面から離間して設けている例を示す図である。 図5は本発明の第1の実施の形態の船舶の第5例を示す正面図で、船首部に吸引開口部を設けると共に、噴射部を単一にして船底の船体表面から離間して設けている例を示す図である。 図6は本発明の第1の実施の形態の船舶の第6例を示す正面図で、船首部に吸引開口部を設けると共に、噴射部を両舷側に分離して船底の船体表面から離間して設けている例を示す図である。 図7は本発明の第1の実施の形態の船舶の第1例に対応する造波抵抗低減システムの吸引水路を模式的に示す側面図である。 図8は本発明の第1の実施の形態の船舶の第2例に対応する造波抵抗低減システムの吸引水路を模式的に示す側面図である。 図9は本発明の第1の実施の形態の船舶の第3例に対応する造波抵抗低減システムの吸引水路を模式的に示す側面図である。 図10は本発明の第1の実施の形態の船舶の第4例に対応する造波抵抗低減システムの吸引水路を模式的に示す側面図である。 図11は本発明の第1の実施の形態の船舶の第5例及び第6例に対応する造波抵抗低減システムの吸引水路を模式的に示す側面図である。 図12は吸引開口部の前後位置の例を模式的に示す側断面図で、(a)は吸引開口部を船首部の略先端の位置に、(b)は吸引開口部を船首部の船端の位置より前方の位置に、(c)は吸引開口部を船首部の先端の位置より後方の位置に配置した状態を示す図である。 図13は観音開きの開口部開閉扉を使用している場合の吸引開口部の前後位置を模式的に例示する側断面図で、(a)は吸引開口部を船首部の略先端の位置に、(b)は吸引開口部を船首部の船端の位置より前方の位置に、(c)は吸引開口部を船首部の先端の位置より後方の位置に配置した状態を示す図である。 図14は吸引開口部の上下位置を変更するために観音開きの開口部開閉扉を使用する例を模式的に示す側断面図で、吸引開口部を上側の位置に変更した状態を示す図である。 図15は図14の構成で、吸引開口部を下側の位置に変更した状態を示す図である。 図16は吸引開口部の上下位置を変更するために上下方向にスライドする開口部開閉扉を使用する例を模式的に示す側断面図で、吸引開口部を中間位置に変更した状態を示す図である。 図17は本発明の第1の実施の形態の船舶の第1例及び第2例に対応する造波抵抗低減システムの吸引水路を模式的に例示する平面図である。 図18は本発明の第1の実施の形態の船舶の第1例及び第2例に対応する造波抵抗低減システムの吸引水路を模式的に例示する平面図である。 図19は本発明の第1の実施の形態の船舶の第3例及び第4例に対応する造波抵抗低減システムの吸引水路を模式的に例示する平面図である。 図20は本発明の第1の実施の形態の船舶の第5例に対応する造波抵抗低減システムの吸引水路を模式的に例示する平面図である。 図21は本発明の第1の実施の形態の船舶の第6例に対応する造波抵抗低減システムの吸引水路を模式的に例示する平面図である。 図22は本発明の第1の実施の形態の船舶で、噴射部の舷側配置と船底の中央配置の例を模式的に示す平面図である。 図23は本発明の第1の実施の形態の船舶で、噴射部の舷側配置と船底の並行配置の例を模式的に示す平面図である。 図24は噴射部の噴射口を船体没水部の幅広部に設けている船舶を模式的に示す平面図である。 図25は噴射部の噴射口を船体没水部の幅広部よりも後方の部位に設けている船舶を模式的に示す平面図である。 図26は噴射部の噴射口を船体没水部の凹部の前方の部位に設けている船舶を模式的に示す図で、(a)は平面図で、(b)はB-B断面図である。 図27は翼型形状を有する船体没水部に造波抵抗低減システムを配置した船舶を模式的に示す平面図である。 図28は船体表面から離間して配置されている噴射部を模式的に示す図で、(a)は後方から見たA-A矢視図で、(b)は上方から見た図で、(c)は側方から見た図である。 図29は船体表面の凹部に配置されている噴射部を模式的に示す図で、(a)は後方から見たA-A矢視図で、(b)は上方から見た図で、(c)は側方から見た図である。 図30は船体表面の段部から突出して配置されている噴射部を模式的に示す図で、(a)は後方から見たA-A矢視図で、(b)は上方から見たB-B断面図で、(c)は側方から見た図である。 図31は船体表面の段部に噴射口を開口して配置されている噴射部を模式的に示す図で、(a)は後方から見たA-A矢視図で、(b)は上方から見たB-B断面図で、(c)は側方から見た図である。 図32は噴射部を配管と弁機構を組み合わせて構成した例を模式的に示す平面図である。 図33は造波抵抗低減システムに流路断面の変更機構を設けた状態を示す説明図で、(a)は、開閉扉を設けた例を示す図で、(b)は弁機構を設けた例を示す図である。 図34は本発明の第2の実施の形態の船舶の第1例を示す正面図で、第1の実施の形態の船舶の第1例の構成に加えて、吸引開口部の上に流入開口部を設けている例を示す図である。 図35は本発明の第2の実施の形態の船舶の第2例を示す正面図で、第1の実施の形態の船舶の第2例の構成に加えて、吸引開口部の上に流入開口部を設けている例を示す図である。 図36は本発明の第2の実施の形態の船舶の第3例を示す正面図で、第1の実施の形態の船舶の第3例の構成に加えて、吸引開口部の上に流入開口部を設けている例を示す図である。 図37は本発明の第2の実施の形態の船舶の第4例を示す正面図で、第1の実施の形態の船舶の第4例の構成に加えて、吸引開口部の上に流入開口部を設けている例を示す図である。 図38は本発明の第2の実施の形態の船舶の第5例を示す正面図で、第1の実施の形態の船舶の第4例の構成に加えて、吸引開口部の上に連続して流入開口部を設けている例を示す図である。 図39は本発明の第2の実施の形態の船舶の第6例を示す正面図で、第1の実施の形態の船舶の第5例の構成に加えて、吸引開口部の上に連続して流入開口部を設けている例を示す図である。 図40は本発明の第2の実施の形態の船舶の船首部の第7例を示す正面図で、第1の実施の形態の船舶の第6例の構成に加えて、吸引開口部の上に連続して流入開口部を設けている例を示す図である。 図41は本発明の第2の実施の形態の船舶において、吸引水路と独立して設けた流入水路の構成を模式的に例示する側面図である。 図42は本発明の第2の実施の形態の船舶において、吸引水路と独立して設けた流入水路の構成を模式的に例示する平面図である。 図43は本発明の第2の実施の形態の船舶において、拡大吸引水路に接続して設けた流入水路の構成を模式的に例示する側面図である。 図44は本発明の第2の実施の形態の船舶において、拡大吸引水路に接続して設けた流入水路の構成を模式的に例示する平面図である。 図45は本発明の第2の実施の形態の船舶において、吸引装置よりも後流側で噴射側水路に接続して設けた流入水路の構成を模式的に例示する側面図である。 図46は本発明の第2の実施の形態の船舶において、吸引装置よりも後流側で噴射側水路に接続して設けた流入水路の構成を模式的に例示する平面図である。 図47は両舷側の噴射部における推進力の差異を利用する第1の旋回方法を説明するための模式的な平面図である。 図48は噴射部における推進力の方向の変化を利用する第2の旋回方法を説明するための模式的な平面図である。 図49は噴射部における推進力の差異と方向の変化を利用する第3の旋回方法を説明するための模式的な平面図である。
〔イントロ及び図の概説〕以下、図面を参照して本発明に係る船舶の造波抵抗低減システム、船舶及び船舶の造波抵抗低減方法の実施の形態について説明する。本発明に係る第1及び第2の実施の形態の船舶1、1Aは排水量型の船舶である。
また、本発明の第1及び第2の実施の形態の船舶の造波抵抗低減システム(以下、略して「造波抵抗低減システム」とする)10、10Aとしては、噴射部12の噴射口12bが船体表面から離間して配置されているシステムと、噴射口12bの後方に船体没水部2の船体表面が無いシステム、例えば、噴射口12bよりも後方の船体表面に凹部2dや段差部2e等の空間部があるシステムとがある。
図1~図33は、第1の実施の形態の造波抵抗低減システム10とそれを備えた船舶1を示す図である。より詳細には、図1~図6は、吸引開口部11と噴射部12の配置を模式的に示す正面図であり、図7~図11は、造波抵抗低減システム10を模式的に示す側面図である。また、図12及び図13は、吸引開口部11の開口の前後位置を模式的に示す図であり、図14~図16は、吸引開口部11の開口部Roの上下位置を変更する機構を示す図である。
また、図17~図23は、造波抵抗低減システム10の吸引水路13を模式的に示す平面図である。図24~図27は、船体没水部2の船型形状と噴射部12との位置関係を模式的に示す平面図である。図28~図31は、船体没水部2に対しての噴射部12の構造を模式的に示す三面図である。図32は配管21で構成された噴射部12を模式的に示す平面図で、図33は、吸引水路13における流量調整のための変更機構17A、17Bを模式的に示す平面図である。
また、図34~図46は、第2実施の形態の造波抵抗低減システム10Aとそれを備えた船舶1Aを示す図である。より詳細には、図34~図43は、第2の実施の形態の造波抵抗低減システム10Aにおける局部波用システム30の流入開口部31の配置を模式的に示す正面図である。そして、図34~図40は、局部波用システム30の流入開口部31の配置を模式的に示す正面図であり、また、図41~図43は、局部波用システム30の流入水路33の配置を模式的に示す側面図である。さらに、図44~図46は、船舶1、1Aにおける旋回方法に関連して、旋回モーメントMaの発生を説明するための図である。
なお、ここで示す図面は本発明を説明するための概略図であり、必ずしも正確な寸法の比率で示されているものでもなく、また、必ずしも正確な位置を示しているものでもない。なお、符号「Lc」は船体中央断面を示す船体中央線であり、平面図と底面図、正面線図と背面図などでも同じ符号「Lc」を用いている。
〔用語の定義〕以下の説明に先立って、ここで用いる座標系と各用語(「前後範囲」、「船首部」、「船体前半部」、「噴射部の主噴射方向」、「実質的に後方」)の定義をしておく。
まず、座標系として、船舶1、1Aに固定した直交座標系として右手系のX-Y-Z座標系(船舶と共に移動する移動座標系)を採用し、X方向を「船舶の前後方向(以下、略して「前後方向」と言う)」とし、Y方向を「船舶の幅方向(以下、略して「幅方向」と言う)」とし、Z方向を「船舶の上下方向(以下、略して「上下方向」と言う)」とする。なお、ここでは方向を明確にするための補助として座標系を用いているので、座標系の原点は特に固定して論じる必要はないが、操船に関しての説明では、説明を簡略化するために座標系の原点を船舶1、1Aの重心位置としている。
次に、「前後範囲」を定義する参照記号「Si」に関して、図17に示すように、船舶1、1Aの船体没水部2の全長Lbを「基準長(Lb)」としたときに、船舶1、1Aの船体没水部2の先端2aaから基準長Lbの20%、30%、40%、50%後方のそれぞれの位置を「S2」、「S3」、「S4」、「S5」(=Pm)とする。また、船体没水部2の先端2aaから基準長Lbの2.5%、5.0%、7.5%後方のそれぞれの位置を、「Sa」、「Sb」、「Sc」とする。
そして、ここでは、「船首部(2a)」は「S2」より前方の範囲(S2の位置を含む。以下同様)とし、また、「船体前半部(2b)」は、「S5」より前方の範囲とする。また、「噴射部の主噴射方向(以下、略して「主噴射方向」と言う)」とは、噴射部12が周囲(船体没水部、その他の水流等)の影響を排除した単独の状態で、噴射部12から離れた位置での噴射方向に垂直な断面における噴射量分布の中心を噴射部12からの距離の変化に応じて追跡した軌跡の方向を言う。
また、「実質的に後方」とは、前後方向Xに関する成分が幅方向Yの成分より大きい方向のことを言い、具体的には、図8、図11、図17、及び、図20に示すように、噴射される水Wcの主たる噴射方向(主噴射方向)が「前後方向Xに対して、船首方向を0度として、時計回りで、特定の「角度範囲Rαi(i=1、2、3)の内側(境界を含む)」にあることを言う。
この「特定の角度範囲Rαi」としては、150度(degree)から210度の第1角度範囲Rα1、より好ましくは、160度以上200度以下の第2角度範囲Rα2、さらにより好ましくは、170度以上190度以下の第3角度範囲Rα3が選択される。この「特定の角度範囲Rαi」内に噴射部12の主噴射方向を向ける。なお、噴射部12を旋回可能に構成して、水Wcの噴射力を船舶1、1Aの旋回等の操船に用いる場合には、船舶1、1Aが前進方向に航走しているときに、「特定の角度範囲Rαi」内に噴射方向を向けることができるように構成するものとする。
〔本発明の対象〕そして、本発明が対象とする船舶1、1Aに関しては、本発明では船首部2aの造波抵抗を低減することを目的としているので、排水量型の船舶が対象となり、大型タンカーや大型鉱石運搬船などの比較的低速の船舶も含むが、むしろ、造波抵抗成分が大きいコンテナ船や大型フェリーや艦艇等の比較的高速の船舶が主な対象となる。
〔本発明に係る第1及び第2の実施の形態〕本発明に係る第1及び第2の実施の形態の船舶1、1Aは、航走時に水面下の船体没水部2を有する船舶であり、以下で説明する本発明の第1及び第2の実施の形態の造波抵抗低減システム(以下、造波抵抗低減システム)10、10Aを備えている。この造波抵抗低減システム10、10Aは、船首バルブの代わりとなるシステムであるので、この船舶1、1Aの船首部2aの形状は船首バルブ無しの船首形状となる。
従って、船舶1、1Aは、「バルバスバウ」以外の「垂直艦首」、「クリッパー・バウ」、「アトランチック・バウ」、「ダブルカーブド・バウ」、「スプーン(カッター)・バウ」等の船首形状やその他の船首形状を採用できることになる。なお、船首バルブのある船首部の構成に、本発明の造波抵抗低減システム10、10Aを加えることで、より造波抵抗を低減できる可能性が有るので、船首バルブのある船首部を有する船舶への適用を除外するものではない。
〔第1の実施の形態の造波抵抗低減システム〕最初に、図1~図33を参照しながら、本発明の第1の実施の形態の造波抵抗低減システム10について説明する。この造波抵抗低減システム10は、航走時に水面下の船体没水部2を有する船舶1において、船体没水部2の船首部2aに設けた吸引開口部11と、吸引開口部11から吸引した水Waを船外に噴射する噴射部12と、吸引開口部11と噴射部12とを連結する吸引水路13と、吸引水路13に設けた吸引装置14とを備えているシステムである。
そして、少なくとも、計画航走速度Vsdで前進方向に航走しているときには、水没している吸引開口部11で吸引する水Waの平均相対吸引流速Vamを計画航走速度Vsの50%以上でかつ150%以下の流速とする。つまり、「0.50×Vsd≦Vam≦1.50×Vsd」とする。なお、この「相対吸引流速」とは船舶1の移動座標系からみた「吸引流速」のことを言い、「平均相対吸引流速」とは、開口部における「相対吸引流速」の開口面積に対しての平均のことを言い、吸引開口部11で吸引する水Waの吸引量を吸引開口部11の流入断面積で割った値のことを言う。
さらには、この造波抵抗低減システム10では、噴射部12は、次のように構成される。つまり、噴射部12の噴射口12bは、前後方向Xに関して船体前半部2bに船体表面から離間して配置され、更に、噴射部12の主噴射方向は、前進方向に航走しているときに、前後方向Xに対して、船首方向を0度として、時計回りで、150度から210度の第1角度範囲Rα1内(好ましくは、160度から200度の第2角度範囲Rα2内、より好ましくは、170度から190度の第3角度範囲Rα3内)となる実質的の後方で、かつ、船体没水部2から逸れた方向になるように構成されている。
そして、少なくとも、船舶1が計画航走速度Vsdで前進方向に航走しているときには、水没している吸引開口部11から吸引する水Waが吸引水路13内で吸引装置14を用いて吸引されて、この吸引された水Waが噴射部12から実質的に後方に向けて、かつ、船体没水部(2)から逸れた方向に噴射されることにより、航走時に必要な推進力の一部又は全部を得られるように構成されている。
〔吸引開口部〕そして、吸引開口部11は、航走時に船首部2aに向かってくる水Waを吸引水路13に導入するためのものである。この吸引開口部11は、船首部2aのよどみ点近傍の圧力を除去して波の発生を回避する開口部とは異なり、積極的に、水Waを吸引することで発生する「吸込み現象」により、干渉用波を発生させるための開口部である。
〔吸引開口部の幅方向配置〕また、幅方向Yに関する吸引開口部11の配置に関しては、図1~図6に示すように、船舶1の正面から見て、船首部2aの船体中央線Lcを含んで、この船体中央線Lcに対して線対称に配置する。この吸引開口部11は、船体中心線Lcを含んでもよい。言い換えれば、船体中心線Lcを挟んで連続して両側に設けてもよい。あるいは、図13(b)、図18、図23、及び図27に示すように、船体中心線Lcを挟んで離間して両側に設けてもよい。言い換えれば、船首部2aの船体中心線Lcの部分を上下方向全体に亘って全部残した配置でもよい。
〔吸引開口部の上下位置〕また、上下方向Zに関する吸引開口部11の配置に関しては、例えば、図1~図11に示すように配置する。この吸引開口部11は、水Waを積極的に吸引することで発生する「吸込み現象」により、干渉用波を発生させるための開口部であり、干渉用波を効率よく発生させるためには、水面に近い位置に開口部を設ける方がより効果的である。そのため、吸引開口部11の上下方向Zの位置に関しては、干渉用波の造波の効率がよい水面近傍に設けることが好ましい。
しかしながら、航行時に吸引開口部11で水Waと共に空気を吸い込むと、吸引装置14における吸引効率が悪化したり、吸引流速と吸引水量の調整が難しくなったりするので、吸引開口部11の上端は、航行時には常時水没する位置に設けることが好ましい。また、波浪中を航行する場合も考えると、航行水域の波浪状態に合わせて常に水没状態となる水深に吸引開口部11の上端を設けることが好ましい。
実用的には、吸引開口部11で水Waを吸引することにより、船首部2aの水面が低下する可能性があるので、必ずしも、航走時の船首部2aの水面は、航走時喫水線WL(計画航行状態の積載状態での静止状態における喫水線を航走時喫水線(WL)と言うことにする、)より上になるとは限らないが、吸引開口部11の上端は、波浪中における航走状態を考慮に入れて、航走時喫水線WLよりも下に設けるのが好ましいと考える。
そして、この吸引開口部11の上下位置は、航走状態が幾つかの状態に固定され、船首部2aの没水状態が決まっている場合は、それらの状態に合わせて、基本的には固定して設ける。この場合の好ましい配置の例としては、例えば、図1及び図7に示すように、吸引開口部11を第1上下領域Rz1の領域内に設ける。この第1上下領域Rz1は、計画航行状態の積載状態での静止状態における喫水線を航走時喫水線WLとし、この航走時喫水線WLと船首部2aの最下部との間の垂直距離を船首喫水深さdfとしたときに、航走時喫水線WLの位置を第1上下位置Z1とし、第1上下位置Z1よりも船首喫水深さdfの60%(好ましくは50%、より好ましくは40%)低い位置を第2上下位置Z2として、第1上下位置Z1と第2上下位置Z2の間の領域を第1上下領域Rz1とする。
しかしながら、航走状態の変化により、船首部2aの没水状態が変動する場合は、これらの全ての没水状態に対応できる位置、例えば、上記の第1上下領域Rz1に限定せずに船底側の低い位置に設けてもよく、あるいは、図4及び図10に示すように、載荷状態の喫水位置WL1、WL2のそれぞれに対して吸引開口部11を設けてもよい。また、吸引開口部11を二段に限らず、連続的に多段で設けることで、多くの喫水状態に対応させてもよい。
〔吸引開口部の前後方向配置〕また、前後方向Xに関する吸引開口部11の配置に関しては、吸引開口部11の前後位置と干渉用波の位相との関係を水槽実験や数値計算などにより把握して、船首部2aの残余の部分で発生する船首波の位相と逆位相にすることが特に重要である。この吸引開口部11の前後位置の設定は、従来技術における船首バルブの前後位置の設定と同じようにして設定することができる。例えば、模型船による水槽実験や数値計算等で吸引開口部11の前後位置を変更しながら、波形解析したり、余剰抵抗の変化を検討したりすることで容易に設定できる。
この吸引開口部11の前後位置の実用的な範囲としては、船首部2aの前端(船首垂線:F.P.)2aaの船長Lの20%の前後になると考える。つまり、吸引開口部11の開口部位置は船首部2aの前端(船首垂線:F.P.)2aaから船長Lの20%の前方の位置から船長Lの20%の後方の位置までの範囲となると考える。
図12と図13に吸引開口部11の前後位置Xoの例を模式的に示す。図12は、側面から見た図であり、図12(a)では船首部2aの先端2aaの近傍に配置している。また、図12(b)では船首部2aの先端2aaよりも前方に配置している。これらの配置で、吸引開口部11を船体中心線Lc上に配置できる場合は船体中心線Lc上に配置する。一方、図12(c)では、船首部2aの先端2aaよりも後方に、両舷に分けて吸引開口部11を配置している。この場合には、吸引開口部11の間に船首部2aが存在することになるが、この吸引開口部11の前方に前方凹部2fを設けるか、あるいは、吸引開口部11の前方の船首部2aを上から見て細い形状とする等して、吸引される水Waが吸引開口部11に円滑に吸引されるようにする。
なお、図13は、観音開きの開口部閉鎖扉11bを使用している例を示す平面図である。この観音開きの開口部閉鎖扉11bを使用する場合には、吸引開口部11の上下の通路の壁面の形成が難しくなるが、造波された干渉用波は主に水平方向に伝搬することを考えると、実験等で確認する必要があるが、吸引開口部11の上下の通路の壁面は省略しても大きな影響はないのではないかと考える。
また、航行時の船速が大きく変化すると、この船速に応じて船首波及び干渉用波の波長や波の起点が変化するので、この船速の変化に応じて、干渉用波の位相を船首波の逆位相にするために吸引開口部11の前後位置Xoを移動可能に構成することが好ましい。この場合では、図示しないが、吸引開口部11の開口部を有する筒状体を前後にスライドさせる構成などで対応することも考えられる。
〔吸引開口部の形状〕この吸引開口部11の形状は、できるだけ、水Waの吸引抵抗が小さい形状にする。なお、吸引開口部11の形状は通常は正面から見た場合に、吸引開口部11の上下運動による抵抗や衝撃を減少させることを考えて、四角形形状よりも円形形状、楕円形形状、菱形形状、下側がV字形状、U字形状の形状等にすることが好ましい。なお、これらの形状に限定されることなく、それぞれの船首部2aの形状や船首部2aに配置する装備品(例えば、ソナー)等に合わせて、適切な形状を採用する。
〔吸引開口部の設定〕そして、これらの吸引開口部11の位置と形状と大きさは、模型船による水槽実験や数値計算の結果により設定したり、実船での航走時において開口部閉鎖扉11bの開閉量等で調整したりすることで、吸引開口部11を水没状態にすることができる。さらに、吸引水路13に気水分離機構(図示しない)を設けておくことにより、ある程度の空気吸引や予期せぬ空気吸引に対応できるようにしておくことが好ましい。なお、この吸引開口部11を水没させる構成は、後述する流入開口部31(水面付近の水を流入させることで局所波や外部の波の抵抗を減少させる半没の状態の開口部)の構成と識別するための特徴となっている。
〔保護用格子〕この吸引開口部11には、水Wa以外の漂流物や生物などの異物が吸引水路13に入らないように、保護用格子11aを設ける。この保護用格子11aの形状は、異物が外側に沿って流れ易い形状に形成する。また、この保護用格子11aは、後述の開口部閉鎖扉11bの開閉に支障がなく、また、水Waの通過抵抗が小さい形状にする。この保護用格子11aの形状や枠の間隔は、航行領域における異物の種類や量と吸引装置14の構造等を考慮して設定する。なお、保護用格子11aに加えて、又は、保護用格子11aの代わりに、吸引水路13の内部に異物を分離して、吸引水路13から排除するための異物除去機構(図示しない)を設けることがより好ましい。
〔開口部閉鎖扉〕そして、この吸引開口部11は、開口したままでもよいが、必要に応じて、開口部閉鎖扉11bを設ける。例えば、図14及び図15に示すように、吸引開口部11の上下部分にそれぞれ開口部閉鎖扉11bを設けて、これらの開口部閉鎖扉11bを開閉することにより、開口部Roの位置を変化させてもよい。または、図16に示すように、開口部閉鎖扉11bを上下にスライドさせることにより、開口部Roの位置を上下させてもよい。
これらの開口部Roの位置を上下させる場合には、入口側吸引水路13aに連続する昇降水路11cを設けて、吸引する水Waの流れが乱れて抵抗が増加しないようにする。なお、図14及び図15では、開口部閉鎖扉11bはヒンジ11bc回りに旋回して開く観音開きで構成され、昇降水路11cは開口部閉鎖扉11bのヒンジ11ca周りに回動する構成となっている。一方、図16では、開口部閉鎖扉11bは船首ラインに沿って昇降するように構成され、昇降水路11cは開口部閉鎖扉11bのヒンジ11ca周りに回動し、他端11cbは、入口側吸引水路13aの壁面をスライドする構成となっている。
これらの開口部閉鎖扉11bにより、船首部2aの残余部分と吸引開口部11との正面投影面積の比率を変更できるようになるので、より、船首波と干渉用波の干渉を最適化できるようになる。そして、これらの開口部閉鎖扉11bにより、満載状態で船首部2aの残余部分を大きくしたいときは、一部の吸引開口部11を閉鎖し、逆に、軽荷状態で船首部2aの残余部分を小さくしたいときは、吸引開口部11を開口する。また、開口部閉鎖扉11bの開口量を調整することで、吸込流速と吸込水量を調整する。なお、軽荷状態等で、完全に空中に露出された状態になる吸引開口部11は、風圧抵抗を低減するために、それぞれの吸引開口部11に設けられた開口部閉鎖扉11bを閉鎖することが好ましい。
〔噴射部〕次に、図1~図11及び図17~図27を参照しながら、噴射部12(12cp、12cs、12p、12s)について説明する。この噴射部12は、水Wcを空中または水中に噴射するための装置であり、噴射ノズル12aと噴射口12bで構成され、吸引水路13の後端に設けられている。なお、噴射部12で発生する推進力の調整をより容易とするために、この噴射する水Wcは、吸引装置14で吸引された水Waの全部であってもよいが、その一部(但し、多くの部分)であってもよく、また、吸引装置14で吸引された水Wa以外の水Wb(後述する流入開口部31から流入する水)等を含んでいてもよい。
〔噴射部の数〕さらに、この噴射部12は、各舷側において、吸引水路13と1対1対応で形成してもよく、幾つかの吸引水路13を合流させて、吸引水路13より少ない数又は単独の噴射部12としたり、逆に、吸引水路13における噴射部12の近傍を分岐して、吸引水路13より多い数の噴射部12としたりしてもよい。
〔噴射口の離間配置〕噴射部12の噴射口12bに関しては、この噴射口12bは、少なくとも、計画航走速度Vsdで前進方向に航走しているときには、前後方向Xに関して船体前半部2bに船体表面から離間して配置される。図5、図6、図17、図18、図19、図22、図23に示すように、この船体表面と噴射口12bとの離間距離Sは、船体表面と噴射流の干渉を回避できる距離であり、水槽や風洞における模型実験やCFD(数値流体力学、計算流体力学)等の数値計算により、求めることができる。
〔噴射部の主噴射方向〕この噴射部12の主噴射方向は、図8、図11、図17、及び、図20に示すように、少なくとも、船舶1が計画航走速度Vsdで前進方向に航走しているときに、「実質的に後方」となる方向にする。かつ、この主噴射方向は、噴射部12から噴射された水Wcが船体没水部2から逸れる方向、言い換えれば、船体表面に沿って流れない方向とする。そして、この水Wcの噴射により、船舶1の推進力の一部又は全部を得る。
〔噴射流の干渉回避〕この噴射口12bの船体表面からの離間配置と主噴射方向に関する噴射部12の配置により、噴射される水Wcと船体没水部2との干渉を避ける構成とすることができる。これらの構成により、噴射部12の噴射口12bから実質的に後方に向けて噴射される水Wcが、コアンダ効果などによって船体表面に沿って流れて、船体表面における水の流速が増加することに起因する摩擦抵抗の増加を回避する。この構成により、噴射部12の噴射口12bから噴射部12で発生する推進力と船体没水部2の抵抗を分離して考えることができるようになる。
〔噴射口の上下位置〕そして、上下方向Zに関する噴射部12の噴射口12bの位置は、空中に配置する場合と、水中に配置する場合とがある。なお、噴射口12bを、空中と水中の境に、即ち、水面を切る位置に配置してもよく、また、複数の噴射口12bを空中と水中にそれぞれ配置してもよい。
〔噴射口の空中配置〕そして、噴射口12bを空中に配置する場合は、従来技術の多くのウォータージェット推進と同様、図1及び図7に示すように、噴射口12bの位置が航走時における水面より上になるように構成する。この構成では、噴射口12bは水圧の影響を受けない。しかしながら、水面に落下する水Wcによる騒音と水流の乱れが発生する。
〔噴射口の水中配置〕また、噴射口12bを水中に配置する場合は、図2~図4、図8~図10、図17~図19、図22、及び、図23に示すように、舷側2baに設ける場合と、図5、図6、図11、及び、図20~図23に示すように、船底2bbに設ける場合がある。このときには、噴射口12bは水深による水圧の影響を受けるが、水面に落下する水Wcによる騒音は発生しなくなる。従って、空中騒音や水中騒音の発生を嫌う客船や艦艇などでは水面よりも下に噴射口12bを設けることが好ましい。この噴射部12は、舷側2baに設けたり、船底2bbに設けたりする。なお、特に図示しないが、噴射口12bを船体没水部2のビルジ部に設けてもよい。
噴射部12を舷側2baに設ける場合では、噴射部12を航走時における水面より下に配置する。この場合に、図2、図6、及び、図8に示すように、各舷側に単独の噴射部12を設けてもよく、図3、及び、図9に示すように、各舷側に複数の噴射部12を上下方向に連続して設けてもよく、図4、及び、図10に示すように、各舷側に複数の噴射部12を上下方向に離間して設けてもよい。
なお、各舷側にそれぞれ複数の噴射部12を設ける場合には、前後方向Xの位置は略同じでもよく、前後方向Xの位置を変えて配置してもよい。この場合は、前後方向Xの位置とともに上下方向Zの位置を変えて、前方の噴射口12bからの噴射流が後方の噴射口12bに及ぼす影響を少なくするように配置することが好ましい。
また、噴射部12を船体没水部2の船底2bbに配置する場合では、図5、図20、及び、図22に示すように、船舶1において、航走時に船体没水部2の船底2bbの船体中央線Lcの上に配置する。また、噴射部12を前後方向Xにずらせて複数基の船体中央線Lcの上に配置してもよい。
また、船底2bbに複数基の噴射部12を配置する場合には、図6、図21、及び、図23に示すように幅方向Yに並列的に、好ましくは、船体中央線Lcに線対称に配置する。この場合に、前後方向Xの位置は略同じでもよく、前後方向Xの位置を変えて配置してもよい。また、前後方向Xの位置とともに幅方向Yの位置を変えて、前方の噴射口12bからの噴射流が後方の噴射口12bに及ぼす影響を少なくするように配置することが好ましい。
さらに、多数基の噴射部12を配置する場合には、舷側2baと船底2bbの両方に配置してもよい。この場合には、図22に示すように船底2bbの船体中央線Lcの上と舷側2baの両方に配置したり、図23に示すように船底2bbの船体中央線Lcに線対称の位置と舷側2baの両方に配置したりする。なお、噴射部12の噴射流で生じる推進力を操船に使用する場合は、その操船操作に便利なように、船体中心線Lcに対して線対称に噴射部12を配置する。
〔噴射口の前後位置〕そして、前後方向Xに関する噴射部12の噴射口12bの位置は、主に、船舶1の形状に関係する。この噴射口12bの位置は、噴射口12bから噴射される水Wcと船体没水部2との干渉を避けるために、例えば、図24~図27に示すように、船体没水部2の最大幅Bmaxを持つ幅広部(例えば、船体の「平行部」と呼ばれる部位)Rb、又は、この幅広部Rbの最前の部位、又は、この最前の部位の近傍に船体表面から離間距離Sを保って配置するのが好ましい。
〔噴射部と船体表面との関係〕図28~図31に示すように、噴射部12の噴射口12bは、船体没水部2の船体前半部2bの船体表面から離間距離Sの分だけ離れて配置される。これにより、噴射口12bから噴射される水Wcがコアンダ効果等により船体表面に沿って流れて、船体表面の摩擦抵抗が増加するのを回避する。
基本的には、噴射口12bは図28等に示すように、噴射部12に連結されている噴射側吸引水路13cの一部が船体前半部2bの船体表面から外側に導かれて、この噴射側吸引水路13cの一部の先端側に噴射部12が設けられることにより、噴射口12bは船体前半部2bの船体表面から離間距離Sを有して離間した状態に配置される。
しかしながら、噴射部12を船体表面から大きく離間して配置すると、接岸などの作業時に邪魔になったり、他船との接触し易くなったりするので、これらを回避するために、図29~図31に示すように、船体没水部2を船体表面に凹部2dを有して構成してもよい。この凹部2dは、少なくとも、船舶1が計画航走速度Vsdで前進方向に航走しているときには、噴射部12から噴射される水Wcが船体表面に沿って流れないような構成とする。
なお、図29では、凹部2dは噴射部12の前方の船体表面から徐々にまた滑らかに窪んでいく形状となっている。一方、図30と図31では、凹部2dは噴射部12の近傍で船体表面から段差部2eを有して形成されている。また、図30では、この段差部2eから噴射部12が突出して設けられているが、図31では、段差部2eの前方の船体表面の内側に噴射部12が配置され、噴射口12bが段差部2eの面で開口するように噴射部12が設けられている。なお、図30と図31では凹部2dの周囲を角部で形成しているが、丸み付けを行って、凹部2dの近傍における流れの大きな乱れや渦の発生を防止することが好ましい。
〔噴射部の構成〕この造波抵抗低減システム10では、船舶1における操船用の旋回モーメントを、左右舷の噴射部12からの水Wcの噴射量と噴射流速の変化により得ることができるため、必ずしも、船舶1に対して旋回モーメントを得るために、噴射ノズル12aにおいて、水平方向の旋回機能(デフレクタ機構:水流偏向機構)を設ける必要ない。ただし、より強い旋回モーメントを得るために、デフレクタ機構を設けて構成してもよい。また、船舶1の後進力を得るために、噴射ノズル12aに、リバースバスケット等のリバーサ機構を設ける構成としてもよい。
なお、ステアリングノズル等のデフレクタ機構を設けて、噴射部12の噴射ノズル12aを旋回可能に構成して、水Wcの噴射による推進力を船舶1の旋回にも用いる場合には、前進方向に航走しているときに、噴射部12の噴射方向を、実質的後方に、言い換えれば、所定の角度範囲Rα1(好ましくはRα2、より好ましくはRα3)の内部の方向に向けることができるように構成する。
また、リバーサ機構やデフレクタ機構の代わりに、構成を単純化するために、図32に示すように、噴射部12の構成を配管21(21a、21b、21c)と弁機構23(23a、23b)を組み合わせて構成してもよい。つまり、後方向きの第1噴射部22aを有する第1配管21aと前方向きの第2噴射部22bを有する第2配管21bを設けて、第1弁機構23aにより水Wcの噴出先を第1配管21a又は、第2配管21bに切り換え可能に構成してもよい。更には、必要に応じて、操船機能を高めるために横力も発生できるように、舷側に対して外側向きの第3噴射部22cを有する第3配管21cと第2弁機構23bを設けて水Wcの噴出方向を三方向に切替できるように構成してもよい。
なお、これらの配管21a、21b、21cは、船体前半部2bの外部に露出させてもよいが、船体前半部2bの内部に収納して、第2配管21bと第3配管21cの出口側の開口部となる第2噴射部22bと第3噴射部22cを船体前半部2bの船体表面から突出させて設ける構成にしてもよい。なお、船舶1の前進時に抵抗とならないように、第2噴射部22b等には、使用時のみに開口する扉24bを設けることが好ましい。
〔噴射部の格納〕また、噴射部12を船体表面から離間させて配置しているので、船舶1の接岸時に邪魔にならないように、噴射部12を船舶1の内部や甲板上に格納することが好ましい。この格納方式としては、噴射部12を船舶1の側面の一部に上から回動させて横に位置するような回動方式、噴射部12の支持部材16を折って船舶1の凹部または上甲板の上に移動させる転倒方式、船舶1の側面の一部から噴射部12を側方に伸縮する伸縮方式、上甲板より降ろす昇降方式、その他の方法等様々な方式を用いることができる。
なお、船舶1が接岸する側が決まっている場合には、必ずしも、接岸しない側の噴射部12は収納可能に構成しなくてもよい。また、接岸に際しては、必ずしも船体没水部2を接岸させる必要がなく、人員と物資の通路の確保ができれば良いので、通路を接岸時に架橋することで対応するように、舷側2baに設けた噴射部12を格納せずに固定したままとする固定方式としてもよい。この固定方式は、貨物船などの乗客の乗降がない商船、特に港に寄らず、沖合バースで荷役するタンカー等で採用することができる。
また、噴射部12を船舶1の船底2bbに配置する場合には、船舶1が港湾等の浅海を航走する際には邪魔にならないように、噴射部12を船舶1の内部に格納するか、あるいは、舷側2baに移動させることが好ましい。この格納方式としては、噴射部12を船舶1の船底2bbの内部に上昇させて格納する昇降方式、噴射部12の支持部材16を折って船底2bbの凹部に格納する転倒方式、船底2bbから転倒して舷側2baに、更には、上甲板の上に移動するような回動方式等様々な方式を採用することができる。
また、噴射部12を船舶1の舷側2ba及び船底2bbに配置する場合に、上記のように横断面内(Y-Z面内)で噴射部12を移動させる構成としてもよく、縦断面内(Z-X面内)で噴射部12を移動させる構成としてもよく、水平面内(X-Y面内)で噴射部12を移動させる構成としてもよい。ただし、浅海域や港湾内や接岸時に船底と海底との間に余裕がある場合には、噴射部12を船底2bbに固定する固定方式を採用してもよい。
〔吸引水路と吸引装置と流量調整装置〕次に、図7~図11、及び、図17~図23を参照しながら、吸引水路13と吸引装置14と流量調整装置について説明する。
〔吸引水路〕この吸引水路13は、船首部2aの吸引開口部11から水Waを吸引して、噴射部12に導く水路である。この吸引水路13は、入口側吸引水路13aと拡大吸引水路13bと噴射側吸引水路13cとで構成される。そして、吸引装置14が、吸引開口部11から水Waを吸引するために設けられる。この吸引装置14は、入口側吸引水路13aに配置すると、船舶1の航走速度が速い場合には、非常に高い流速で吸引する必要が生じるので、拡大吸引水路13bより下流となる噴射側吸引水路13cに配置して、比較的遅い流速で吸引するのが好ましい。
なお、船舶1の航走速度が遅く、また、吸引装置14が流速が早い領域でも吸引可能で、必要とする吸引流速を実現できる場合には、必ずしも、拡大吸引水路13bは必要ない。この拡大吸引水路13bを設けない場合には、吸引装置14は、入口側吸引水路13aに設けてもよいが、噴射部12における推力調整を考えると噴射側吸引水路13cに設けるのが好ましい。
〔入口側吸引水路〕この入口側吸引水路13aは、吸引開口部11と拡大吸引水路13bとを連結する水路であり、開口部閉鎖扉11bによって吸引開口部11の開口度合いが調整されたり、上下位置が変更されたりする場合には、入口側吸引水路13aに段差が生じないように、図14~図16に示すように、昇降水路11cを設けることが好ましい。また、この入口側吸引水路13aにおいては、吸引開口部11の開口面から拡大吸引水路13bまでの間を一つの入口側吸引水路13aで構成する場合と、中央分離壁を設けて入口側吸引水路13aを左右の2つに分岐する場合と、図18及び図23に示すように、左右の2つの吸引開口部11から水Waを吸引するために、2つ入口側吸引水路13aを離間して設ける場合とが有る。
〔拡大吸引水路〕また、拡大吸引水路13bは、吸引開口部11で吸引した水Waの吸引流速Vaを航走速度Vsの50%~150%の速度にする必要があるために、一旦、拡大吸引水路13bで流速を低減した上で、噴射用吸引水路13cで噴射用の水Wcの噴射流速Vcにするための水路であり、いわば、一時的な貯水の機能を持つタンクであるとも言える。つまり、拡大吸引水路13bにおいて、入口側吸引水路13aからの吸引面積Aaに対して、噴射用吸引水路13cへの流出面積Adを広くすることにより、入口側吸引水路13aの吸引流速Vaよりも噴射用吸引水路13cへの流出流速Vdを遅くして吸引装置14の負担を軽減する。
この拡大吸引水路13bを設けることにより、噴射用吸引水路13cにおける吸引装置(例えばポンプ、スクリュー等)14を低流速の領域で使用できるようにすることができるので、従来のウォータージェット噴射用の装置や旋回用推進器のプロペラ機構などを使用できるようになる。なお、高流速の領域でも吸引能力を十分に発揮できる吸引装置14を用いることができて、吸引開口部11で必要な吸引流速Vaを実現できる場合には、拡大吸引水路13bを設ける必要はない。
また、図面では、拡大吸引水路13bへの入口側吸引水路13aの接続部位と、噴射用吸引水路13cの接続部位の形状は、図示していないが、入口損失や出口損失等のエネルギー損失が大きくならない形状で接続する。
〔噴射側吸引水路〕そして、噴射側吸引水路13cは、拡大吸引水路13bから噴射用の水Wcを噴射部12に導く水路である。噴射部12で噴射する水Wcの噴射流速Vcは、噴射部12の外側における流速よりも早い必要があるが、噴射部12における流速に近い方が運動量理論の面では推進効率が良いとされているので、できれば、噴射部12の基数を多くしたり、噴射部12の噴射面積Acを大きくしたりして、噴射流速Vcを低くする。
そして、この造波抵抗低減システム10では、噴射部12を船体前半部2bの船体表面から離間して、船体没水部2の外部に設けている関係で、噴射側吸引水路13cの一部は、船体外部に設けられることになり、この外部配置の部分は必要に応じて支持部材16で支持される。また、この噴射側吸引水路13cの外部配置の部分は、図1及び図7に示すように、噴射部12が水面WLの上(空中)に配置される場合は空気抵抗を受け、図2~図6、及び、図8~図11に示すように、噴射部12が水面WLの下(水中)に配置される場合は水による抵抗を受けることになる。そのため、噴射側吸引水路13cの外部配置の部分のそれぞれの外形は、水又は空気に対する流体抵抗が少ない形状、例えば、翼型形状などの流線型形状に形成される。
さらに、吸引開口部11から拡大吸引水路13bまでの入口側吸引水路13aに関しては、船の種類、例えば、艦艇等によっては、吸引開口部11及び入口側吸引水路13aにおける万一の閉塞を考慮しておく必要があり、この場合には、吸引開口部11とは別に、舷側2baや船底2bbに、開閉扉付きの非常時用開口部と非常時用水路を設けておき、非常時に、この非常時用開口部を開けて、非常時用水路から水Waを吸引又は流入させるように構成しておくことが好ましい。
この吸引水路13の形状は、できるだけ少ないエネルギー損失で、吸引開口部11から吸引する水Waを円滑に吸引装置14に導くと共に、吸引装置14から吐出される水Wcを噴射部12に導いて、噴射部12から噴出することが望まれる。そのため、吸引開口部11から吸引する水Waの吸引量Winと、その吸引流速Vaと、噴射部12から噴射する水Wcの噴射量Woutとその噴射流速Vcに対応して、吸引装置14の前後における吸引水路13の断面積や形状が設定される。
なお、通常は吸引量Winと噴射量Woutは同じであるが、噴射口12bで発生する推進力の大きさとの関係で、吸引開口部11以外から流入または吸引する水や噴射部12以外へ排出する水Wdがあってもよく、その場合は、吸引量Winと噴射量Woutは異なることになる。
なお、入口側吸引水路13aが複数有る場合には、必要に応じて、各入口側吸引水路13aの相互間における吸引量Winを調整したり、入口側吸引水路13aを個別に閉鎖したりするために、図33に示すように、入口側吸引水路13aに開閉扉17Aや流量調整弁や開閉弁等の流量調整装置17Bを設ける。また、吸引開口部11に設けた開口部閉鎖扉11bを左右個別に閉鎖量を調整できるように構成してもよい。
また、保護用格子11aが損傷した場合のバックアップとして、異物排除機構(図示しない)を吸引水路13の途中に設けて、吸引装置14を多重に保護しておくことが望ましい。なお、この異物排除機構は、吸引開口部11から保護用格子11aをすり抜けて吸い込んだ異物を排除することにも使用できる。さらに、吸引開口部11から空気を吸い込む可能性が有る場合には、吸引水路13の途中に気水分離機構(図示しない)を設けて吸引装置14に空気が入り込まないように構成する。
〔吸引装置〕次に、吸引装置14について説明する。この吸引装置14は拡大吸引水路13bから水Wcを吸引して、加圧又は増速して噴射部12に送り噴射口12bから噴射するための装置である。これにより、前後方向Xに関して、噴射口12bにおける水Wcの運動量を吸引開口部11における水Waの運動量よりも大きくする。この吸引装置14としては、ウォータージェット推進で用いているような「高圧ポンプ(軸流水ポンプ)」、「インペラと呼ばれるプロペラ」とよばれる装置を使用することができる。また、ポッド推進器やサイドスラスター等の動力伝達機構やプロペラを使用することもできる。
〔ウォータージェット推進〕ただし、従来技術のウォータージェット推進では、水を船底から吸い込むのに対して、本発明では、水Waを船首部2aの吸引開口部11から吸引する。そのため、この吸引装置14では、水量が多い点、吸引装置14の上流側の水流の流速が比較的大きい点、噴射口12b部から噴射する際の流速は、船速よりも少し大きい程度でよい点等が、従来技術のウォータージェット推進と異なる。
従来技術のウォータージェット推進のポンプ(「ウォータージェットポンプ」、「インペラ」、「高圧ポンプ」と呼ばれている、)の装置、又は、これに類似した装置では、水頭圧の高い船尾側の船底から吸い込んだ水を、船尾後方において、水頭圧が吸引開口部11よりも低い位置に配置された噴射ノズル12a、あるいは、空中にある噴射ノズル12aに、圧送して噴射することで、推進力を得ている。
このウォータージェット推進のポンプは、基本的には水ポンプのターボ形ポンプで構成され、このターボ形ポンプには、軸流ポンプ、斜流ポンプ(斜流ポンプ、渦巻き斜流ポンプ)、遠心ポンプ(渦巻ポンプ、デイフューザーポンプ)が有る。そして、主機関からの動力をインペラ(プロペラ)に伝達する主軸(インペラ駆動軸)、インペラ、案内羽根などを備えて構成される。この案内羽根により、インペラに流入する水の流れを整流してインペラに流入させたり、水にインペラで与えられた旋回流をインペラの軸方向に整流したりする。
そして、ウォータージェット推進で用いているようなポンプで本発明の吸引装置14を構成する場合には、従来のウォータージェット推進における船底から水を吸引する方式と異なり、拡大吸引水路13bで一旦貯留した水Waから噴射用の水Wcを水頭圧の差が比較的少ない状態で噴射側吸引水路13cに吸引して、比較的速い噴射流速Vcに加圧(又は加速)する。そのため、インペラの形状(ピッチ)や回転速度をこの造波抵抗低減システム10の仕様に適合させる必要がある。
また、噴射側吸引水路13c内にポッド推進器、サイドスラスター等の動力伝達機構やプロペラを用いて吸引装置14を構成する場合には、ポッド推進器に設けられている旋回機構が不要になるので、より構造を単純化できる。なお、本発明では、噴射側吸引水路13cから水Wcを吸引して、この水Wcを加圧又は加速できればよく、噴射側吸引水路13cの内径とサイドスラスター若しくはポッド推進機構のプロペラの直径との関係は、必ずしも、ダクトプロペラのダクトの内径とプロペラの直径との関係、コルトノズルの内径とプロペラの直径との関係等のように、隙間の小さいもので有る必要はない。
また、船舶1の停止時から航走速度までの広範囲で推力を得る必要がある場合には、ポンプ14のインペラ、又は、サイドスラスター若しくはポッド推進機構のプロペラを、固定ピッチプロペラ(FPP)で構成し、回転数制御としてもよいが、可変ピッチプロペラ(CPP)とすることが好ましい。この可変ピッチプロペラの採用により、旋回や針路保持などの操船操作で推進力のより微妙な制御を行えるようになる。
この吸引装置14を少ない基数で構成する場合には、吸引装置14の一基当たりの発生推力が大きくなる。これに対して、吸引装置14を多数基で構成すると、吸引装置14の一基当たりの発生推力が小さくなり、既に実用化されている装置を使用できるようになる。なお必要に応じて、噴射側吸引水路13cを分岐したり合流させたりすることで、吸引装置14と噴射部12を必ずしも1対1対応させる必要もなくなる。言い換えれば、一つの噴射部12に対して複数の吸引装置14から水Wcを送ったり、逆に一つの吸引装置14から複数の噴射部12に水Wcを送ったりする構成にしてもよい。
なお、航走速度Vsに合わせて吸引開口部11で吸引する水Waの吸引量Winを調整する必要がある場合には、吸引開口部11に設けた流量調整用の扉17Aを開閉したり、吸引水路13に設けた弁機構17B等で調整したりする。また、必要に応じて、入口側吸引水路13aに吸引装置14を設けて、この吸引装置14の制御により、吸引する水Waの吸引量Winを調整してもよい。
〔造波抵抗低減システムにおける吸引による効果〕上記の構成の造波抵抗低減システム10によれば、船首部2aに吸引開口部11を設けて、この吸引開口部11から水Waを吸引して「吸込み現象」を起こすことで、干渉用波(Bw)を発生させて、吸引開口部11を除いた船首部2aの残余の部分により発生する船首波(Aw)と、干渉させることにより、船体前半部2bの全体で発生する波(Tw)を低減できる。
つまり、この造波抵抗低減システム10では、吸引開口部11で吸引する水Waの平均相対吸引流速Vamを計画航走速度Vsdの50%以上でかつ150%以下の流速(0.5×Vsd≦Vam≦1.5×Vsd)とする。これにより、従来技術の開口による船首部2aの容積減少に伴う造波の減少効果ではなく、「吸込み現象」によって発生する干渉用波(Bw)と船首波(Aw)との干渉による造波の減少を行う。
そして、この造波抵抗低減システム10によれば、吸引開口部11の前後位置Xoにより干渉用波(Bw)の位相を、船首波(Aw)の位相と逆位相に合わせることができる。また、吸引開口部11の水深、及び、吸引する水Waの吸引量Win(平均相対吸引流速Vamと吸引面積Aa)により、干渉用波(Bw)の振幅(波高)を調整及び制御できる。従って、吸引開口部11の水深、及び、吸引開口部11の吸引面積Aaと吸引量Winの調整及び制御により、多様な載荷状態と航走速度Vsにおいて発生する多様な船首波(Aw)に対応できることになる。従って、広範囲の載荷状態と航走速度Vsに対して造波抵抗を低減することができる。
特に、従来技術の船型のように、船首部形状又は船首バルブの形状を変更することなく、開口位置の調整、又は、開口量と吸引流速Va(吸引量Win)の調整及び制御により、多様な載荷状態及び航走速度Vsに対応できるので、模型船を用いた水槽試験やCFDなどの数値ミュレーション計算において、船型を変更する必要が無く、模型船の変更または変形、船形データの修正入力等が不要になる。従って、船型の設計や実験や計算の手間を大幅に減少することができるようになる。
なお、吸引開口部11を、水没させたまま、水面WLの近傍に配置することで、吸引開口部11における水Waの吸込みによる干渉用波(Bw)の発生の効果を、吸引開口部11を水深の深い位置に配置する場合に比べて、より大きくできるので、より小さい吸引面積Aaとより少ない吸引量Winで、効率的に干渉波(Bw)を大きくすることができる。
〔造波抵抗低減システムにおける噴射による効果〕また、噴射部12を船体前半部2bへの配置と主噴射方向の設定により、船首部2aの正面の吸引開口部11から吸引した水Waを、船尾まで導くことなく、船体前半部2bに設けた噴射部12から実質的に後方に向けて噴射されるので、正面から吸引する水Waの持つ運動エネルギーを、比較的短い吸引水路13で、推進力に効率よく変更することができる。
より詳細には、この構成では、前後方向Xに関して、前方から向かってくる水Waを、横方向や斜め横方向や下方向や斜め下方向ではなく、実質的に後方に向けて噴射するので、水Waの持つ運動量の前後方向Xの変化量が少なくなり、吸引水路13を介して船舶1に作用する抵抗が少なくなる。また、噴射方向が実質的に後方であるので、噴射による反力の方向が船舶1の実質的に前進方向に向くので、推進方向の成分が大きくなり、推進効率が良くなる。
また、噴射部12が船体前半部2bに配置されていると、吸引水路13の長さも、従来技術の船首から船尾まで延びる導水路に比べて、著しく短くなり、吸引水路13における摩擦抵抗も小さくなる。また、吸引水路13に必要な容積も著しく小さくて済む。
更に、噴射部12の噴射口12bが船体表面から離間して配置されることで、噴射される水Wcがそのまま船体表面に沿って流れることを回避できる。また、噴射部12から噴射される水Wcの主噴射方向が船体表面から逸れる方向に、言い換えれば、船体表面と離れる方向に向いていることにより、噴射された水Wcが、コアンダ効果(粘性流体の噴流や流れが近くの壁に引き寄せられる効果)によって船体表面に付着して船体表面に沿って流れることを回避できる。これらにより、噴射された水Wcが船体表面に沿って流れて船体表面の流速を増速することを回避できるので、船体表面における摩擦抵抗の増加を回避することができる。
そして、船舶1が前進方向に航走しているときには、噴射流の大部分が船体没水部2に当たらなくなるので、噴射流と船体没水部2との干渉を避けることができ、船体没水部2に対する噴射流の影響を著しく減少できる。その結果、船体没水部2の抵抗の評価と、噴射流による推進力の評価を分離して、船体抵抗と推進力を個別に評価できるようになる。
さらに、噴射部12を船底2bbに近い位置、言い換えれば、できるだけ水深の深い位置に配置すると、噴射部12で水Wcを噴射することにより発生する波(Ew)が小さくなり、この波(Ew)による船体没水部2への影響を少なくすることができる。なお、水Wcの噴射で発生する波(Ew)のエネルギー損失は、水Wcの噴射時におけるエネルギー損失であり、船型によって発生する造波抵抗への寄与は無く、噴射部12の工夫である程度まで小さくできると考える。
〔吸引水路における摩擦損失〕この造波抵抗低減システム10の吸引水路13における水路壁の摩擦抵抗と水路の形状に基づく抵抗はエネルギー損失となるので、この摩擦抵抗と形状抵抗の低減方法について考える。この吸引水路13における抵抗の低減方法の第1の方法としては、吸引開口部11と噴射部12の間の吸引水路13の長さを短くすることが有効な対策となる。
また、吸引水路13における抵抗の低減方法の第2の方法としては、吸引水路13の形状、特に入口側吸引水路13aと拡大吸引水路13bとの接続部分と噴射側吸引水路13cと拡大吸引水路13bとの接続部分の形状と、噴射側吸引水路13cの形状を抵抗の少ない形状とすることが有効な対策となる。
そして、吸引水路13における抵抗の低減方法の第3の方法としては、噴射側吸引水路13cの流路断面で考えて中央部に近い水Wcの流速を大きくすることで、噴射側吸引水路13cの水路壁に近い水Wcの流速を小さくする。つまり、図示しないが、噴射側吸引水路13cの水Wcの一部の水Wcaみを分岐した水路でポンプ14にて加速し、この加速した水Wcaを噴射側吸引水路13cの中央部に配置した分岐水路の出口から噴出することで、噴射側吸引水路13cの水Wcの全体を加速する。これにより、噴射側吸引水路13cの壁面における摩擦抵抗を減少する。
あるいは、噴射側吸引水路13cの流路断面で考えて中央部に配置したプロペラの直径を噴射側吸引水路13cの内径よりも小さく形成して、噴射側吸引水路13cの中央部側に近い領域の水Wccのみを加速する。これらの構成により、吸引装置14で加圧又は加速した水Wcは噴射側吸引水路13cの中央部側では流速が大きく、壁面側では流速が小さくなる。なお、噴射部12に近づくほど、水Wcの粘性のため水Wcの流速は均一化されるが、噴射部12に至るまでの途中では、壁面近傍の流速は全体の均一流速よりも小さくなっているので、全体として摩擦抵抗の低減効果を得ることができる。
そして、吸引水路13における抵抗の低減方法の第4の方法としては、吸引水路13の水路壁を加熱することで、水路壁に接する水Wa、Wcの温度を上昇させて、水Wa、Wcの粘性抵抗を低減する。これにより、吸引水路13の壁面における摩擦抵抗を減少する。例えば、海水の動粘性係数ν(cm/s)は、15℃から30℃で、約0.0119から約0.0085となり、約30%減となる。なお、吸引水路13の壁面の加熱のムラにより、水蒸気や気泡が発生して吸引装置14に入る可能性のある場合には、吸引装置14よりも後方の噴射側吸引水路13cの水路壁を加熱する。この水路壁の加熱するために主機の排熱を利用することが考えられる。
また、吸引水路13における抵抗の低減方法の第5の方法としては、吸引装置14より後方で、噴射側吸引水路13cの壁面から噴射側吸引水路13c内に水蒸気を壁面に沿わせて流すことで、噴射側吸引水路13cの壁面における摩擦抵抗を低減することが考えられる。この場合は、吸引装置14の後方において、水Wcの流速が増している部分に水蒸気供給孔を設けることで、水蒸気を噴射側吸引水路13cの中を流れる水流で吸い込んで、水Wcに水蒸気を混入する。
〔本発明に係る第2の実施の形態〕本発明に係る第2の実施の形態の船舶1Aは、航走時に水面下の船体没水部2を有する船舶1Aであり、以下で説明する本発明の第2の実施の形態の造波抵抗低減システム(以下、造波抵抗低減システム)10Aを備えている。
〔局所波用システム〕次に、図34~図46を参照しながら、本発明の第2の実施の形態の造波抵抗低減システム10Aについて説明する。この造波抵抗低減システム10Aは、第1の実施の形態の造波抵抗低減システム10に加えて、流入開口部31と流入水路33を有する局所波用システム30を備えて構成される。この局所波用システム30は、吸引開口部11の上側で、かつ、航走時の水面を切るように流入開口部31を設けて、船舶1Aが計画航走速度Vsdで前進方向に航走しているときに、この流入開口部31から航走時の水面の近傍の水Wbを流入させる。この流入開口部31は、船舶1の船首部2aの前端2aaに配置される。
この局所波用システム30では、航走時に水面近傍の水Wbを半没している流入開口部31から流入させることで、船首部2a周りで発生していた自由表面衝撃波や砕波等の局部波(Fw)の発生を低減する。従って、干渉用波(Bw)による造波抵抗の低減効果に加えて、さらに、船首部2aにおける造波抵抗を低減できる。
〔流入開口部〕そして、この流入開口部31は、船首部2a周りで発生する局部波(Fw)の発生を低減することが目的であるので、流入開口部31では、積極的に水Wbを吸引する必要は無く、船舶1Aの航行に応じて流入させる構造であればよい。つまり、半没している流入開口部31における水Wbの流入流速Vbには吸引開口部11の吸引流速Vaほどの速い流速が必要とされない。言い換えれば、船舶1Aに対する平均相対流入流速Vbmは略ゼロでよい。これを具体的な数値に示すと、この流入開口部31に流入する水Wbの船首部2aに対する平均相対流入流速Vbmが計画航走速度Vsdの-25%以上でかつ+25%以下(-0.25×Vsd≦Vbm≦0.25×Vsd)の流速となる。
この流入開口部31の大きさと位置は、上下方向Z及び幅方向Yに関しては、図34~図40に示すように、船首部2aでは発生する局所波の大半を吸収できる範囲をカバーできる大きさと位置とする。これらの流入開口部31の大きさと位置は水槽実験や数値実験(例えばCFD)等で設定することができる。
より詳細には、この流入開口部31の上下方向Zに関しては、吸引開口部11の上側で、かつ、航走時の水面を切る位置に設けられる。また、この流入開口部31の幅方向Yに関しては、船舶1Aの正面から見て、流入開口部31は船体中心線Lcに線対称に開口される。この流入開口部31は、単一の開口又は各舷側に分離した複数の開口で形成される。
また、前後方向Xに関しては、通常は、船首部2aの先端2aaの位置、又は、吸引開口部11と同じ位置に配置するが、吸引開口部11の前後位置Xoに対して前後した位置にしてもよい。流入開口部31の前後位置は、局所波(Fw)の発生を低減する目的であるので、干渉用波(Bw)の位相を考慮して決まる吸引開口部11の前後位置Xoに比べて、配置の自由度は大きい。
〔流入水路〕そして、流入水路33は、流入開口部31から流入する水Wbを船外に排出するための水路である。この流入開口部31から流入する水Wbは吸引する必要がなく、流入させればよいので、この局所波用システム30には吸引装置を設ける必要はない。しかし、流入する水Wbを推力発生に使用する場合には、吸引装置を設けて、積極的に吸引してもよい。ただし、吸引する場合は、流入開口部31における吸引流速(流入流速Vb)と吸引量(流入量Wb)によっては、吸込み現象による波(Gw)の発生を考慮する必要が生じる。
この流入水路33は、図41に示すように、舷側に設けた排出口に接続して、流入した水Wbを空気Abとともにそのまま船外に排出してもよい。この流入水路33では、元々の船首部2aの形状よりも、前後方向Xに関する船舶1Aの抵抗を少なくするために、図42に示す分岐路33aにおける形状を砕波が発生し難い鋭角形状にする。また、図42に示すように、流入した水Wbを実質的に後方に排出して、前後方向Xに関する水Wbの運動量の変化による抵抗増加を抑制する。
また、図43~図46に示すように、流入水路33を吸引開口部11の吸引水路13に合流させて、水Wbの作用する重力による落下、及び、吸引水路13側の動圧による吸引効果により、流入開口部31から流入した水Wbを吸引水路13に吸引させるように構成してもよい。なお、図43及び図44では、流入水路33を拡大吸引水路13bに接続し、図45及び図46では、流入水路33を噴射側吸引水路13cの吸引装置14の後流側に接続している。なお、流入開口部31から流入する空気Abは、吸引装置14に吸い込まれないように気水分離して、空気配管35で大気中に放出する。
〔吸引開口部の流用〕また、図4、図10、図37、図38に示すように、船舶1、1Aの載荷状態に変化に対応するために、吸引開口部11と吸引水路13を上下方向に複数に分割して設けている場合は、船舶1、1Aの積載状態の変化によって、航走時の水面を切る位置になった吸引開口部11を流入開口部31として機能させてもよい。
この場合には、船首部2aの喫水が深いときは、最上位の半没している流入開口部31で、水面近傍の水Wbを流入させ、船首部2aの喫水が浅いときは、水面近傍の半没している吸引開口部11の吸引水路13の吸引装置14を稼働せずに、水没している吸引開口部11及びその吸引水路13の吸引装置14のみを稼働する。これにより、水面近傍の半没している吸引開口部11とその吸引水路13を、局所波用システム30として使用する。
なお、この場合では、船首部2aの喫水が浅いときは、船首部2aで発生する船首波(Aw)も小さいので、水没している吸引開口部11によって、少ない開口面積で、必要な干渉用波(Bw)を効率よく発生することができる。なお、より好ましくは、吸引開口部11及び流入開口部31に、開口量を調整制御できる開口部閉鎖扉11bを設ける。
一方、吸引装置14が、空気混入によって機能低下しない装置である場合には、半没状態の吸引開口部11で、局所波(Ew)を低減させてもよい。この場合は、流入開口部31の代わりに半没状態の吸引開口部11を用いるので、平均相対流入流速Vbmは、平均相対吸引流速Vamとなり、計画航走速度Vsの-25%以上でかつ+25%以下の流速にはならないが、局所波(Ew)が発生する船首部分が無くなるので、局所波(Ew)による造波抵抗を低減できる。
〔吸引水路の選択使用〕次に、上記の第1及び第2の実施の形態の船舶1、1Aにおける吸引水路13の選択使用について説明する。この吸引水路13の選択使用を行う場合には、造波抵抗低減システム10において、図4、図10、図37、及び、図38に示すように、吸引開口部11を上下方向Zに複数分離して設け、吸引開口部11毎に、吸引水路13と吸引装置14と噴射部12を設けて構成し、航走時における船首部2aの水没状態に応じて、吸引開口部11のそれぞれに対応する吸引装置14を個別に稼動及び制御を行う制御装置を備えて構成する。
この構成によれば、満載状態WL1と軽荷状態WL2、高速航走状態と低速航走状態など、航走時において船首部2aの水没状態が異なる場合に、それぞれの船首部2aの水没状態に応じて、吸引装置14を選択的に稼働及び制御することで、吸引装置14を効率の良い状態で使用でき、推進効率を向上できる。
より詳細には、上下方向Zに配置した吸引水路13の吸引装置14を個別に制御可能に構成して、吸引装置14を選択的に使用することで、船首部2aの喫水が深く、水Waを吸引する吸引開口部11が多いときには、水Waを吸引している吸引装置14の稼働で推進力を発生する。また、船首部2aの喫水が浅く、水Waを吸引している吸引開口部11と水Waを吸引していない吸引開口部11が混在するときには、没水していない吸引装置14を稼働せずに、没水している吸引装置14のみを稼働する。これにより、効率よく吸引装置14を使用して、推進力を効率よく発生することができる。
〔その他の構成〕また、特に図示しないが、吸引装置14を設けない吸引水路、言い換えれば、吸引開口部11から吸引する水Waを排出口に導くだけの排水路を追加して設けて、本発明の造波抵抗低減システム10、10Aと共存させてもよい。さらには、吸引開口部11から吸引した水Waを、加圧又は加速して噴射する水Wcとそのまま排出する水Wdとに分けて、吸引した水Waの一部である噴射する水Wcのみを吸引水路13から分岐した水路内内で加圧又は加速して吸引水路13に戻して噴射部12から噴出し、その他の水Wdはそのまま吸引水路13から分岐した排水路経由で排出口から排出する構成としてもよい。この構成により、噴射部12で噴射する水Wcの噴射量と噴射流速を吸引する水Waの吸引量Wainから独立させて制御することができるようになる。
〔船舶の推進力の前方配置〕この造波抵抗低減システム10、10Aで船舶1、1Aの推進力の一部のみを得る場合では、その他の推進力を発生するためのシステム、例えば、従来技術の船尾配置のスクリュープロペラ、ウォータージェット推進等が必要になる。一方、この造波抵抗低減システム10、10Aで船舶1、1Aの推進力の全部を得る場合では、従来技術の船尾配置のスクリュープロペラ、ウォータージェット推進等が不要になる。
そして、従来技術の船舶では、一般的にスクリュープロペラ推進器等の推進用機器を船尾に配置している。一方、本発明の造波抵抗低減システム10、10Aを船尾ではなく、好ましくは、船体前半部2bに配置することで、船尾側に配置した推進用機器で発生する推進力を減少又は不要にすることができる。これにより、この推進用機器を駆動するための機関を配置するのに必要な船尾側の容積を減少又は不要にできる。
〔船尾形状の自由度の増加〕その結果、船尾形状を従来の複雑な船尾形状から大きく変形できるようになるので、船尾形状の自由度を増加することができる。言い換えれば、船尾形状を流線型形状や翼型形状やそれらの近似形状等の非常に単純な形状に変化させることができる。その結果、船体没水部2の船尾部分で発生するビルジ渦と、船尾配置の推進用機器で発生する水流と、舵による流れの間の船尾における相互干渉を減少又は無くした船尾形状にすることができる。また、船尾部分及び船尾側の肩部で発生する船尾系波(Hw)も減少できる。その結果、船尾における圧力抵抗や船尾系波(Hw)の造波抵抗を低減できる。
〔船舶〕そして、本発明の実施の形態の船舶1、1Aは、上記の造波抵抗低減システム10、10Aを備えて構成される。この構成により、船舶1、1Aは、上記の造波抵抗低減システム10、10Aと同様の効果を発揮できる。
この船舶1、1Aにおいて、更に、図24~図27に示すように、船体没水部2を船体前半部2bに最大幅Bmaxを持つ幅広部Rbを有すると共に、幅広部Rbよりも後方の部位では、最大幅Bmax以下の幅になるように構成する。そして、図24に示すように、噴射部12の噴射口12bを幅広部Rbの部位に設ける。または、図25に示すように、噴射部12の噴射口12bを幅広部Rbよりも後方の部位Rcに設ける。なお、吸引水路13の長さを短くしたり、操船し易くしたりするために、この噴射口12bを、幅広部Rbの部位の後端から船体没水部2の前後方向Xの中心Pmまでの範囲に、言い換えれば、噴射口12bを、船体没水部2の前半部2bに配置することがより好ましい。
また、船舶1、1Aにおいて、図26に示すように、少なくとも、計画航走速度Vsで前進方向に航走しているときには、噴射口12bから噴射される水Wcが船体没水部2の船体表面に沿って流れないように、噴射口12bの後方において、凹部2dを有するように船体没水部2を構成する。
これらの構成により、噴射口12bから噴射される水Wcを船体表面に沿うことなく、前後方向Xに近い方向、即ち、実質的に後方に噴射することができ、水Wcの噴射による反力をより効率よく推進力として利用できるようになる。
また、上記の造波抵抗低減システム10、10Aと船舶1、1Aの形状との組み合わせに関しては、図27に示すように、船体没水部2を、上下方向Zに関して、満載喫水線または計画喫水線より下側において、深さ方向の少なくとも50%の範囲において、連続的又は断続的に水線面形状を対称翼形状で形成する。なお、図27では、翼型形状として、「NACA0020」の翼型形状を用いている。この船尾形状を対象翼形状で形成することにより、船尾における流れを円滑にして、船尾側の圧力抵抗と造波抵抗を低減できるので、船舶1、1Aの抵抗を大きく低減できる。
〔船舶の推進力〕次に、船舶1、1Aの推進力について説明する。船舶1、1Aの噴射部12から噴射する水Wcの反力で発生する推進力Tp、Tsは、噴射口12bから噴射される水Wcの噴射量Woutと噴射流速Vc、言い換えれば、噴射される水Wc運動量に関係する。従って、推進力Tp、Tsを増加するためには、噴射部12の噴射口12bから噴射する水Wcを増量または増速する必要があり、この場合は、吸引開口部11から吸引した水Waを噴射する水Wcとして吸引装置14で増速したり、流入開口部31から流入してくる水Wbを水Waに加えて噴射する水Wcを増量したりする。あるいは、吸引開口部11や流入開口部31以外にも水供給用の開口部を設けて、そこから吸引した水を吸引した水Waや流入した水Wbに加えて、噴射する水Wcとして吸引装置14で増速して噴射する。
そして、噴射される水Wcの噴射量Wout又は噴射流速Vcを制御して推進力Tp、Tsを制御するためには、吸引装置14による流量調整だけでなく、図33に示すように、吸引開口部11、噴射部12または吸引水路13に開閉扉17A(図33(a))や弁機構17B(図33(b))等の流路断面積の変更機構を設けて、流路断面積を変更することによって、吸引する水Waの吸引量Win又は吸引流速Vaの調整を行う。
一方、推進力Tp、Tsを減少するためには、噴射部12の噴射口12bから噴射する水Wcを減量または減速する必要があり、この場合は、吸引装置14や流路断面積の変更機構で水Wcの噴射量Woutを減少する。なお、噴射ノズル12aが旋回機能や後進機能を有している場合で、一時的に船舶1、1Aの推進力Tp、Tsを減少する場合には、噴射ノズル12aの旋回機能を用いて、主噴射方向を前後方向Xから逸らすことにより、前後方向Xの推進力Tp、Tsを減少させることができる。
また、推進力Tp、Tsが不要なときには、吸引装置14のインペラ又はプロペラを空回りさせて、推進力Tp、Tsが発生しないようにすると共に、吸引水路13における抵抗を少なくする。さらに、船舶1、1Aの航走を停止する場合には、吸引装置14のインペラ又はプロペラを回転しないように固定状態にして抵抗を発生させる。また、後進用の推進力を発生させる場合では、吸引装置14のインペラ又はプロペラを逆転させて、水没している噴射口12bから水Waを吸い込んで、吸引開口部11から噴射すること後進用の推力を得ることができる。なお、吸引装置14のインペラ又はプロペラが可変ピッチプロペラで構成されている場合は、回転はそのままで、ピッチを変更させることで後進力を発生できる。また、噴射部12がリバース機構を備えている場合には、このリバース機構により、後進力を発生する。
〔造波抵抗低減システムにおける操船〕そして、上記の造波抵抗低減システム10、10Aにおいて、少なくとも、航走時において、噴射部12を、左舷側と右舷側のそれぞれに配置すると共に、それぞれの噴射部12から噴射される水Wcの噴射量Woutと噴射流速Vcを制御するように構成する。
図47~図49に示すように、この噴射部12の水Waの噴射量Woutと噴射流速Vcの制御により、左舷側と右舷側のそれぞれ噴射部12における推進力Tp、Tsを制御する。これにより、操船用のモーメントMaを発生できるようになる。つまり、これらの左右の噴射部12で発生する推進力Tp、Tsを、それぞれの噴射部12に対応する吸引装置14の制御により、噴射部12で噴射する水Wcの噴射量Woutの調整や変化で、船舶1、1Aの旋回モーメントMaを得ることができる。従って、この造波抵抗低減システム10、10Aを操船用として利用できる。
そして、この造波抵抗低減システム10、10Aでは、従来技術の船尾配置のウォータージェット推進のように、操船のために、噴射部12を左右に動かして、水Wcの噴射方向を変更する必要が無い。そのため、噴射部12の構造を著しく単純化できる。なお、従来システムのウォータージェット推進システムを流用することで、コストダウンできる場合もあるので、その場合は、噴射部12における噴射方向を左右に動かして操船してもよい。
〔船舶の操船:旋回〕次に、図47~図49を参照しながら、より具体的に、船舶1、1Aの旋回方法について説明する。船舶1、1Aに旋回モーメントMaを発生させる方法としては、噴射部12で発生する推進力Tp、Tsの大きさを左舷側と右舷側とで異ならせることにより、船舶1、1Aを旋回させる旋回モーメントMaを発生させる第1の旋回方法と、噴射部12における主噴射方向を変化させて推進力Tp、Tsの方向を変化させることにより、船舶1、1Aを旋回させる旋回モーメントMaを発生させる第2の旋回方法と、第1の旋回方法と第2の旋回方法とが混在する第3の旋回方法がある。
第1の旋回方法では、図47に示すように、左舷側の噴射部12p(右舷側の噴射部12s)で発生する推進力Tp(Ts)の大きさを右舷側の噴射部12s(左舷側の噴射部12p)で発生する推進力Ts(Tp)よりも小さくする。これにより、旋回中心Pc周りの旋回モーメントMaを発生させる。この旋回モーメントMaにより、船体没水部2が角度θだけ、進路から逸れる。
第2の旋回方法では、図48に示すように、両舷に配置されている噴射部12p、12sの主噴射方向を角度βだけ右舷側に変更し、推進力Tp、Tsの方向を変化させる。これにより、「Tp×sin(β)+Ts×sin(β)」の横力(幅方向Yの力)を発生させる。これにより、旋回中心Pc周りの旋回モーメントMaを発生させる。この旋回モーメントMaにより、船体没水部2が角度θだけ、進路から逸れる。この第2の旋回方法は、特に噴射部12cp、12csが船底2bbに配置されている場合に、主噴射方向を旋回させても、水Wcの噴射流れと船体没水部2との干渉が少なく、横力の見積もりが容易であるので、より適している。
第3の旋回方法では、図49に示すように、噴射部12p、12sを舷側2baに配置した場合に用いられる。この第3の旋回方法では、水Wcの噴射流れと船体没水部2との干渉を少なくするために、左舷側の噴射部12p(または右舷側の噴射部12s)の主噴射方向はそのままにして、右舷側の噴射部12s(左舷側の噴射部12p)の主噴射方向だけを角度βだけ右舷側(左舷側)に変更し、推進力Ts(Tp)の方向を変化させる。これにより、「Ts×sin(β)」(「Tp×sin(β)」)の横力(幅方向Yの力)を発生させ、旋回中心Pc周りの旋回モーメントMaを発生させる。
このときに、主噴射方向が前後方向Xを向いたままの左舷側の噴射部12p(右舷側の噴射部12s)で発生する推進力Tp(Ts)の大きさと、主噴射方向が変更された右舷側の噴射部12s(左舷側の噴射部12p)で発生する推進力Ts(Tp)の大きさが、同じままであると、前後方向Xの推進力Tp、Tsの差が生じ、逆方向のモーメントが発生するので、第1の旋回方法と同様に、左舷側の噴射部12p(右舷側の噴射部12s)で発生する推進力Tp(Ts)の大きさを右舷側の噴射部12s(左舷側の噴射部12p)で発生する推進力Ts(Tp)よりも小さくする。これらにより、この両方の旋回モーメントの和となる旋回モーメントMaが生じ、船体没水部2が角度θだけ、進路から逸れる。
なお、この旋回性能に関しては、噴射部12の幅方向Yに関しての配置は、船体中心線Lc、より厳密には、旋回中心Pcから離れている距離が大きい程、旋回モーメントMaが大きくなる。これを考慮しながら、噴射部12を配置できる場所と、噴射部12で発生可能な推進力の大きさと、船舶1、1Aに要求される旋回モーメントMaの大きさ等を勘案して、噴射部12のそれぞれの配置場所を決めることになる。
そして、いずれの場合も、船体没水部2が角度θだけ進路から逸れると、船体没水部2に船舶1、1Aに向かって流入してくる水Wによる流体力が作用し、作用力Fが圧力中心Ppに発生し、この作用力Fにより船体没水部2自体で旋回モーメントMbが発生するので、この旋回モーメントMbが旋回モーメントMaに加わった旋回モーメントMtで船舶1、1Aが旋回することになる。
そして、上記の旋回方法で発生する旋回モーメントMaなどは、実験や実機計測等で、船舶1、1Aの迎角θ、揚力F、噴射部12における各推進力Tp、Tsの大きさ等の関係を推定できる。そして、実船での旋回時では、針路の旋回角度θ、旋回角速度、旋回角加速度等を検出しながら、各推進力を制御することで、船舶1、1Aを旋回できる。なお、従来技術の船尾配置の推進用機器や舵、又は、船首部や船尾部に配置したサイドスラスター等を備えている場合には、これらの従来技術の旋回用システムと本発明の造波抵抗低減システム10、10Aとにおいて、片方のみを使用してもよく、両方を併用してもよい。
〔針路保持方法〕この旋回方法に対して、船舶1、1Aの前進時における針路保持方法に関しては、船舶1、1Aの針路(船首の方向)の変化、即ち、ヨーイングの角度θ、角速度、角加速度などを検出して、船舶1、1Aに向かって流入してくる水Wの流れに対して迎角θが生じた場合に、この迎角θを小さくする方向の旋回モーメントを発生させる必要がある。これは、上記の第1~第3の旋回方法を用いて、船舶1、1Aの旋回を弱める方向の旋回モーメントを発生させることで容易に達成できる。
〔船舶の造波抵抗低減方法〕次に、本発明に係る実施の形態の船舶の造波抵抗低減方法(以下、造波抵抗低減方法)について説明する。この造波抵抗減方法は、少なくとも、船舶1、1Aが計画航走速度Vsdで前進方向に航走しているときに、船首部2aに設けた吸引開口部11において、計画航走速度Vsdの50%以上でかつ150%以下の相対吸引流速Vamで水Waを吸引することで、干渉用波(Bw)を発生させて、この干渉用波(Bw)を船首部2aで発生する船首波(Aw)に干渉させることで、船首部2aにおける波(Aw+Bw)の発生を抑制して造波抵抗を低減することを特徴とする方法である。
この造波抵抗低減方法によれば、船首部2aに吸引開口部11を設けて、この吸引開口部11から水Waを吸引して「吸込み現象」を起こすことで、干渉用波(Bw)を発生させて、吸引開口部11を除いた残余の船首部2aの形状により発生する船首波(Aw)と、干渉させることにより、船体前半部2bで発生する波(Aw+Bw)を低減させることができる。また、吸引開口部11の吸引断面積Aaと吸引量Win(ポンプ能力)の調整及び制御により、多様な載荷状態と船速において発生する多様な船首波(Aw)に対応できることになる。従って、広範囲の載荷状態と航走速度において造波抵抗を低減することができるようになる。
そして、上記の造波抵抗減方法において、更に、少なくとも、船舶1、1Aが計画航走速度Vsdで前進方向に航走しているときに、吸引開口部11の上側で、かつ、航走時の水面を切る位置に設けた流入開口部31から航走時の水面の近傍の水を、計画航走速度Vsdの-25%以上でかつ+25%以下の平均相対流入流速Vbmで流入させることで、船首部2aの水面近傍で発生する波(Fw)の発生を抑制して、造波抵抗を低減する。
この造波抵抗減方法によれば、航走時の水面の近傍の水Wbを吸引開口部11とは別の流入開口部31に平均相対流入流速Vbmがゼロに近い状態で流入させることにより、船首部2a周りで発生していた自由表面衝撃波や砕波等の局部波(Fw)の発生を低減することができ、干渉用波(Bw)による造波抵抗の低減効果に加えて、さらに、船首部2aにおける造波抵抗を低減できる。
〔本発明の効果〕上記のように、本発明の船舶の造波抵抗低減システム10、10A、船舶1、1A、及び、船舶の造波抵抗低減方法によれば、船首部2aに設けた吸引開口部11における水Waの吸引で発生する「吸い込み現象」により、船首部2aで発生する船首波(Aw)と逆位相の干渉用波(Bw)を発生させて、この干渉用波(Bw)を船首波(Aw)と干渉させることにより、船首部2aにおける造波抵抗を低減することができる。
1、1A 船舶
2 船体没水部
2a 船首部
2aa 船首部の先端
2ac 船首中央部
2b 船体前半部
2d 凹部
2e 段差部
2f 前方凹部
10、10A 造波抵抗低減システム
11 流入開口部
11a 保護用格子
11b 開口部閉鎖扉
11c 昇降水路
12 噴射部
12a 噴射ノズル
12b 噴射口
12c 船底噴射部
12cp 左舷側船底噴射部
12cs 右舷側船底噴射部
12p 左舷側の噴射部
12s 右舷側の噴射部
13 吸引水路
13a 入口側吸引水路
13b 拡大吸引水路
13c 噴射側吸引水路
14 吸引装置(ポンプ又はプロペラ等)
16 支持部材
17A 開閉扉(流路断面の変更機構)
17B 弁機構(流路断面の変更機構)
21a 第1配管
21b 第2配管
21c 第3配管
22a 第1噴射部
22b 第2噴射部
22c 第3噴射部
23a 第1弁機構
23b 第2弁機構
24b 扉
Lb 基準長(船体没水部の全長)
Lc 船体中央線
Pc 船舶の旋回中心
Pm 船体没水部の中央位置
Pp 船体没水部の圧力中心
Ro 開口部
Sa 船体没水部の先端から基準長Lbの2.5%後方の位置
Sb 船体没水部の先端から基準長Lbの5.0%後方の位置
Sc 船体没水部の先端から基準長Lbの7.5%後方の位置
S1 船体没水部の先端から基準長Lbの10%後方の位置
S2 船体没水部の先端から基準長Lbの20%後方の位置
S3 船体没水部の先端から基準長Lbの30%後方の位置
S4 船体没水部の先端から基準長Lbの40%後方の位置
S5 船体没水部の先端から基準長Lbの50%後方の位置
T 推進力
Tp 左舷側の推進力
Ts 右舷側の推進力
W 船舶に向かって流入してくる水
Wa 吸引する水
Wb 流入する水
Wc 噴射する水
Wd 排出する水
WL 水面(航走時喫水線)
WL1 満載喫水線(計画満載喫水線)
WL2 軽荷吃水線(計画軽荷喫水線)
X 前後方向(船舶の前後方向)
Y 幅方向(船舶の幅方向)
Z 上下方向(船舶の上下方向)

Claims (9)

  1. 航走時に水面下の船体没水部(2)を有し、前記船体没水部(2)の船首部(2a)に設けた吸引開口部(11)と、前記吸引開口部(11)から吸引した水(Wa)を船外に噴射する噴射部(12)と、前記吸引開口部(11)と前記噴射部(12)とを連結する吸引水路(13)と、前記吸引水路(13)に設けた吸引装置(14)とを備えている船舶の造波抵抗低減システム(10)であって、
    少なくとも、計画航走速度(Vs)で前進方向に航走しているときには、
    水没している前記吸引開口部(11)で吸引する水(Wa)の平均相対吸引流速(Vam)を前記計画航走速度(Vs)の50%以上でかつ150%以下の流速とすることを特徴とする船舶の造波抵抗低減システム。
  2. 前記噴射部(12)の噴射口(12b)は、船体表面から離間して配置され、
    更に、前記噴射部(12)の主噴射方向は、前進方向に航走しているときに、船舶の前後方向(X)に対して、船首方向を0度として、時計回りで、150度以上でかつ210度以下の角度範囲(Rα1)内となる実質的に後方で、かつ、前記船体没水部(2)から逸れた方向になるように構成されており、
    少なくとも、船舶(1、1A)が計画航走速度(Vs)で前進方向に航走しているときには、
    水没している前記吸引開口部(11)から吸引する水(Wa)が前記吸引水路(13)内で前記吸引装置(14)を用いて吸引されて、この吸引された水(Wa)が前記噴射部(12)から前記実質的に後方に向けて、かつ、前記船体没水部(2)から逸れた方向に噴射されることにより、船舶(1、1A)の航走時に必要な推進力の一部又は全部を得られることを特徴とする請求項1に記載の船舶の造波抵抗低減システム。
  3. 少なくとも、船舶(1、1A)の航走時において、前記噴射部(12)が、左舷側と右舷側のそれぞれに配置されていると共に、それぞれの前記噴射部(12)から噴射される水(Wa)の流量と流速を制御するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の船舶の造波抵抗低減システム。
  4. 前記吸引開口部(11)の上側で、かつ、航走時の水面を切るように流入開口部(31)を設けて、船舶(1、1A)が計画航走速度(Vs)で前進方向に航走しているときに、前記流入開口部(31)から航走時の水面の近傍の水(Wb)を流入させるとともに、この流入する水(Wb)の船首部(2a)に対する平均相対流入流速(Vbm)を計画航走速度(Vs)の-25%以上でかつ+25%以下の流速とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の船舶の造波抵抗低減システム。
  5. 前記吸引開口部(11)を上下方向(Z)に複数に分割して設けて、船舶(1、1A)の積載状態の変化によって航走時の水面を切る位置になった前記吸引開口部(11)を前記流入開口部(31)として使用するように構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の船舶の造波抵抗低減システム。
  6. 請求項1~5のいずれか1項に記載の船舶の造波抵抗低減システム(10、10A)が備えられていることを特徴とする船舶。
  7. 前記船体没水部(2)の後半部は、船舶の上下方向(Z)に関して、満載喫水線(WL1)または計画喫水線より下側において、深さ方向の少なくとも50%の範囲において、連続的又は断続的に水線面形状の70%が対称翼の後半部の形状で形成されていることを特徴とする請求項6に記載の船舶。
  8. 少なくとも、船舶(1、1A)が計画航走速度(Vs)で前進方向に航走しているときに、
    船首部(2a)に設けた吸引開口部(11)において、前記計画航走速度(Vs)の50%以上でかつ150%以下の平均相対吸引流速(Vam)で水(Wa)を吸引することで、干渉用波を発生させて、この干渉用波を前記船首部(2a)で発生する船首波に干渉させることで、前記船首部(2a)における波の発生を抑制して造波抵抗を低減することを特徴とする船舶の造波抵抗低減方法。
  9. 少なくとも、船舶(1、1A)が計画航走速度(Vs)で前進方向に航走しているときに、
    前記吸引開口部(11)の上側で、かつ、航走時の水面を切る位置に設けた流入開口部(31)から航走時の水面の近傍の水(Wb)を、前記計画航走速度(Vs)の-25%以上でかつ+25%以下の平均相対流入流速(Vbm)で流入させることで、前記船首部(2a)の水面近傍で発生する波の発生を抑制して造波抵抗を低減することを特徴とする請求項8に記載の船舶の造波抵抗低減方法。
JP2021178394A 2021-10-30 2021-10-30 船舶の造波抵抗低減システム、船舶及び船舶の造波抵抗低減方法 Pending JP2023067298A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2021178394A JP2023067298A (ja) 2021-10-30 2021-10-30 船舶の造波抵抗低減システム、船舶及び船舶の造波抵抗低減方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2021178394A JP2023067298A (ja) 2021-10-30 2021-10-30 船舶の造波抵抗低減システム、船舶及び船舶の造波抵抗低減方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2023067298A true JP2023067298A (ja) 2023-05-16

Family

ID=86325706

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2021178394A Pending JP2023067298A (ja) 2021-10-30 2021-10-30 船舶の造波抵抗低減システム、船舶及び船舶の造波抵抗低減方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2023067298A (ja)

Similar Documents

Publication Publication Date Title
US6167829B1 (en) Low-drag, high-speed ship
KR20060127871A (ko) 저항력 선박 선체
WO1991005695A1 (en) Monohull fast sealift or semi-planing monohull ship
US9315234B1 (en) High speed ship
CN113291444A (zh) 一种水航体新型倒航结构装置
US5231946A (en) Monohull fast sealift or semi-planing monohull ship
JP2007210537A (ja) ウォータージェット推進船
US6966271B2 (en) Waveless hull
RU2610754C2 (ru) Быстроходное судно
US5545063A (en) Chambered anti-Coanda jet marine propulsion device with gaseous boundary layer for a thrust jet flow stream exhibiting staged controlled boundary layer separation properties, vessel trim adjustment, and movable thrust vector application points(s)
KR20070089622A (ko) 3개의 샤프트 라인을 구비하는 전기 배 추진 시스템
JP2023067297A (ja) 航走体の推進力発生システム、航走体及び航走体の抵抗低減方法
KR101194722B1 (ko) 타력 향상과 틈새 캐비테이션 억제용 혼 내부의 제트유동 분출장치
JP2023067298A (ja) 船舶の造波抵抗低減システム、船舶及び船舶の造波抵抗低減方法
US6932013B1 (en) Maneuvering of submerged waterjet propelled sea craft
JP6234835B2 (ja) 船舶のスラスター
JP6975724B2 (ja) 大排水量船舶
KR20160128337A (ko) 주 및 이차 추진 디바이스들에 의해 제공되는 선박 추진과 관련된 개선 사항들
US7144282B1 (en) Contoured rudder maneuvering of waterjet propelled sea craft
WO2007042483A1 (en) Marine drive system with partially submerged propeller
US9428248B2 (en) Boat
CA2373462A1 (en) Course-holding, high-speed, sea-going vessel having a hull which is optimized for a rudder propeller
KR20110036148A (ko) 선박의 터널 스러스터
JP2023082737A (ja) 船舶の曳波低減システム、船舶、船舶の曳波低減方法、及び、船舶の造波抵抗低減方法
JP6198232B1 (ja) 船体形状と推進装置