JP2023063858A - 鋼トラス橋の鉛直材取替方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】鉛直材取替前後において鋼トラス橋全体の構造系に変化が生じない安全で確実な鋼トラス橋の鉛直材取替方法を提供する。【解決手段】鋼トラス橋B1の既設の鉛直材1を取り替える鋼トラス橋の鉛直材取替方法において、鋼トラス橋B1の既設の鉛直材1と連結された上弦材2を持ち上げてジャッキアップするための油圧ジャッキ11と、油圧ジャッキ11の反力を得るための仮設梁12と、鋼トラス橋B1の床版D1を上下に貫通する貫通孔h1に挿通された連結鋼材17で連結された上部架台15と下部架台16とを有する鋼材が組み合わされた上弦材持上機構13と、を備えた軸力除去装置10を用いて、上弦材2をジャッキアップし、既設の鉛直材1に作用する圧縮軸力を除去する軸力除去工程を行った後、既設の鉛直材1を新設の鉛直材1’に取り替える。【選択図】図3
Description
新規性喪失の例外適用申請有り
本発明は、鋼トラス橋の鉛直材取替方法に関する。
近年、高度成長期等に建てられた鋼トラス橋などの橋梁に部分的に腐食が進行し、経年劣化により補修を余儀なくされ、一部の部材を取り替える必要性があるものが見受けられるようになってきた。特に、鋼トラス橋の鉛直材取替のような主要部材取替の事例も増加している。しかし、鋼トラス橋の鉛直材は、常時の死荷重及び活荷重を受け持つ主要部材であるだけでなく、地震荷重や風荷重による応力を支点部に伝達する重要な役割も担っている。このため、鋼トラス橋の鉛直材を取り替える際には、鉛直材を撤去した状態でも鋼トラス橋全体が構造体として安定した状態でなおかつ安全な状態を確保する必要性がある。そのため、鉛直材取替前後において鋼トラス橋全体の構造系に変化が生じない施工方法が要求されている。
例えば、特許文献1には、上弦材1と下弦材2との間に仮弦材7を取り付けるとともに、仮弦材7と上弦材1とを複数の仮斜材8で連結して仮トラスを形成し、下弦材2及びこれに連結する斜材4の下端側を取り除いて新たな下弦材及び新たな斜材の下端側を取り付けるようにしたるトラス構造物の部材取替方法が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0022]~[0033]、図面の図2~図10等参照)。
また、同様に、特許文献2には、上弦材1と下弦材2との間に仮弦材7を取り付けるとともに、仮弦材7と上弦材1とを複数の仮斜材8で連結して仮トラスを形成し、下弦材2及びこれに連結する斜材4の下端側を取り除いて新たな下弦材及び新たな斜材の下端側を取り付けるようにしたトラス橋の部材取替方法が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0023]~[0034]、図面の図2~図10等参照)。
しかし、特許文献1及び2に記載のトラス橋(トラス構造物)の部材取替方法は、橋軸方向一端から他端に亘って延びる一直線状の「仮弦材7」を取り付けて仮トラスを形成することで仮弦材7の着脱に要する工数を削減して上弦材1の取替を行うことができるという発明であり、鉛直材の取替にそのまま適用できるものではなく、仮トラスを形成する必要があり、手間がかかり、さらなる工数の削減が必要であるという問題があった。
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、鉛直材取替前後において鋼トラス橋全体の構造系に変化が生じない安全で確実な鋼トラス橋の鉛直材取替方法を提供することにある。
請求項1に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法は、鋼トラス橋の既設の鉛直材を取り替える鋼トラス橋の鉛直材取替方法であって、前記鋼トラス橋の前記既設の鉛直材と連結された上弦材を持ち上げてジャッキアップするための油圧ジャッキと、前記油圧ジャッキの反力を得るための仮設梁と、前記鋼トラス橋の床版を上下に貫通する貫通孔に挿通された連結鋼材で連結された上部架台と下部架台とを有する鋼材が組み合わされた上弦材持上機構と、を備えた軸力除去装置を用いて、前記上弦材をジャッキアップし、前記既設の鉛直材に作用する圧縮軸力を除去する軸力除去工程を行った後、既設の鉛直材を新設の鉛直材に取り替えることを特徴とする。
請求項2に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法は、請求項1に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法において、前記軸力除去工程を行う前に、立体骨組解析により前記既設の鉛直材に発生している圧縮軸力を算出して発生している応力を把握する鉛直材応力把握工程を行い、前記軸力除去工程では、歪ゲージを用いて前記既設の鉛直材に作用している軸応力を計測し、立体骨組解析により算出した圧縮軸力と比較しながらジャッキアップを行うことを特徴とする。
請求項3に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法は、請求項1又は2に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法において、前記軸力除去工程では、レーザーレベルで前記既設の鉛直材の直上の橋面高さを常時計測し、橋面高さの変位量が所定の管理値を超えると警報を発することを特徴とする。
請求項4に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法は、請求項1ないし3のいずれかに係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法において、前記軸力除去工程では、地震時の橋軸直角方向の水平変位を制限する変位制限ストッパーを設置して前記既設の鉛直材に作用する圧縮軸力を除去することを特徴とする。
請求項5に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法は、請求項1ないし4のいずれかに係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法において、前記軸力除去工程で前記既設の鉛直材に作用する軸力を除去した状態で新設の鉛直材を設置する新設鉛直材設置工程を行い、その後、前記既設の鉛直材を撤去する既設鉛直材撤去工程を行うことを特徴とする。
請求項6に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法は、請求項5に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法において、前記既設鉛直材撤去工程を行った後、前記軸力除去装置を用いて前記上弦材をジャッキダウンし、歪ゲージを用いて前記新設の鉛直材に作用している軸応力を計測しつつ前記新設の鉛直材に圧縮軸力を導入する軸力導入工程を行うことを特徴とする。
請求項7に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法は、請求項5又は6に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法において、前記既設鉛直材撤去工程では、チェーンブロック用トロリーレールを用いて前記既設の鉛直材を橋軸直角方向外側に引出した後、揚重機で既設の鉛直材を吊り上げ撤去することを特徴とする。
請求項1~7に係る発明によれば、鉛直材取替前後において鋼トラス橋全体の構造系に変化が生じない構造安定性が確保された状態で鋼トラス橋の鉛直材を取り替えることができる。
特に、請求項2に係る発明によれば、実施工の軸力除去装置によるジャッキアップを立体骨組解析により算出した圧縮軸力と比較しながら行うことができ、実施工の妥当性を確認しながら軸力除去を行うことができ、不測の事態を確実に防ぐことができる。
特に、請求項3に係る発明によれば、レーザーレベルで既設の鉛直材の直上の橋面高さを常時計測し、橋面高さの変位量が所定の管理値を超えると警報を発するので、想定外の不測の事態が生じた場合に直ちに対応して対処・改善することができる。
特に、請求項4に係る発明によれば、変位制限ストッパーを設置して既設の鉛直材の圧縮軸力を除去するので、変位制限ストッパーを介して橋軸直角方向の水平力を支承部へ伝達することができ、鉛直材の圧縮軸力を除去した状態で万が一地震が起きた場合でも構造安定性を確保することができる。
特に、請求項5に係る発明によれば、鉛直材で死荷重等を支持できない状態を極力短くすることができ、構造安定性をさらに向上させることができる。
特に、請求項6に係る発明によれば、歪ゲージを用いて新設の鉛直材に作用している軸応力を計測しつつ新設の鉛直材に圧縮軸力を導入するので、ジャッキダウン時にもジャッキアップ時と同等の荷重が再移行できていることを確認することができ、鉛直材取替後の構造系に変化が生じないようにすることができる。
特に、請求項7に係る発明によれば、チェーンブロック用トロリーレールを用いて既設の鉛直材を橋軸直角方向外側に引出した後、揚重機で既設の鉛直材を吊り上げ撤去するので、短時間で安全に既設の鉛直材を撤去することができる。
以下、本発明に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1~図11を用いて、本発明の実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法について説明する。鉛直材のあるワーレントラスの鋼トラス橋B1の橋台側の鉛直材1が腐食劣化しており、その既設の鉛直材1を新しい新設の鉛直材1’に取り替える場合を例示して説明する(図3,図8等参照)。
鋼トラス橋B1全体の構造系に変化が生じない安全で確実な方法で鉛直材1を取り替えるには、鉛直材1に作用している死荷重による圧縮軸力を除去し、構造を安定させた状態で既設の鉛直材1を撤去する必要がある。
しかし、実際の橋梁は、道路等に応じて平面曲率R(実施工した橋梁では、R=600m)を有して左右いずれかに曲がっているものであり、トラスの弦材は各点位置で折れた配置としているので、橋軸直角方向(橋幅方向)の左右の床版張出し長が変化していることとなる。これにより鉛直材に生じる力も異なることから、取り替える既設の鉛直材1に作用している力を除去する方法を検討するにあたっては現状で鉛直材1に作用している圧縮軸力を詳細に把握する必要がある。
(1.鉛直材応力把握工程)
そこで、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、先ず、取り替える既設の鉛直材1に発生している応力を把握する鉛直材応力把握工程を行う。
そこで、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、先ず、取り替える既設の鉛直材1に発生している応力を把握する鉛直材応力把握工程を行う。
具体的には、立体骨組解析により鉛直材1に発生している死荷重による圧縮軸力を算出し、算出した圧縮軸力の妥当性を検証するためにX線残留応力計測装置を使用して実際の鉛直材1に作用している軸応力を計測し、両者を比較して検証する。
ここで、立体骨組解析とは、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を利用した構造解析の一手法であり、2次元応力解析に用いる要素剛性方程式を3次元の立体骨組構造の要素剛性マトリックスに拡張し、プログラミングにより要素剛性マトリックスを解いて各部材の応力を算出する解析である。立体骨組解析は、建設時の設計計算書、設計図面に基づく3次元の立体骨組構造に加え、現地による実地調査結果を反映する。
また、X線残留応力の計測は、図1のX線残留応力計測状況写真に示すように、X線残留応力計測装置により鋼材の板幅中央位置で計測し、鉛直材1の中央付近の4面で実施する。
本実施形態に係る立体骨組構造モデルの立体骨組解析で算出した取り替える鉛直材1に作用する応力(圧縮軸力)は、14MPaであった。これに対して、X線残量応力の測定結果は、258MPaであった。
このように立体骨組解析の算出応力とX線残量応力の測定結果とが大きく開いた原因は、計測した残留応力には、荷重による発生応力だけでなく、鋼板の製造過程で発生する残留応力、部材製作過程で溶接により発生する残留応力、表面処理による残留応力などが含まれていたからと推測される。
よって、X線残留応力計測装置で計測した残留応力は、想定していない荷重や変形に起因する発生応力ではないと推定することができたため、立体骨組解析により算出した圧縮軸力を後述の軸力除去を行う際の設計値として採用した。
(2.ジャッキアップ力算出工程)
次に、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、計画上のジャッキアップ力を算出するジャッキアップ力算出工程を行う。
次に、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、計画上のジャッキアップ力を算出するジャッキアップ力算出工程を行う。
具体的には、前述の立体骨組み解析で算出した圧縮軸力を基に図2に示す軸力除去のモデルを再現したFEM解析で後工程での鉛直材1の荷重除去に必要なジャッキアップ力を算出する。図2は、ジャッキアップ力を算出するための軸力除去のFEM解析モデルである。なお、この軸力除去のモデルのFEM解析では、必要なジャッキアップ力は、307kNと算出された。
また、ジャッキアップをする際に床版D1や壁高欄W1の剛性によりジャッキアップ力が大きくなることが懸念されたため、事前に床版D1と壁高欄W1を切断したモデルについても検討を実施した。その結果、ジャッキアップ力は、床版D1と壁高欄W1を切断することで70%程度に低減できることが判明した。
(3.軸力除去工程)
次に、図3~図5に示すように、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、軸力除去装置10を用いて上弦材2をジャッキアップし、取り替える既設の鉛直材1に作用する圧縮軸力を除去する軸力除去工程を行う。図3は、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の軸力除去工程を示す斜視図であり、図4は、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の軸力除去工程を示す平面図である。また、図5は、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の軸力除去工程を示す鋼トラス橋B1を橋軸直角方向に沿って見た側面図である。
次に、図3~図5に示すように、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、軸力除去装置10を用いて上弦材2をジャッキアップし、取り替える既設の鉛直材1に作用する圧縮軸力を除去する軸力除去工程を行う。図3は、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の軸力除去工程を示す斜視図であり、図4は、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の軸力除去工程を示す平面図である。また、図5は、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の軸力除去工程を示す鋼トラス橋B1を橋軸直角方向に沿って見た側面図である。
<軸力除去装置>
軸力除去装置10は、図3~図9に示すように、上弦材を持ち上げてジャッキアップするためのCH型の油圧ジャッキ11と、油圧ジャッキ11の反力を得るための反力受けである仮設梁12と、鋼材が組み合わされた上弦材持上機構13など、から構成されている。図6は、軸力除去装置10の床版D1より上方に設置する各部構成を主に示す斜視図であり、図7は、軸力除去装置10の床版D1より上方に設置する各部構成を主に示す図5のA部拡大側面図である。また、図8は、軸力除去装置10の床版D1より下方に設置する各部構成を主に示す斜視図であり、図9は、鋼トラス橋B1を橋軸直角方向に沿って切断して軸力除去装置10の各部構成を示す鉛直断面図である。
軸力除去装置10は、図3~図9に示すように、上弦材を持ち上げてジャッキアップするためのCH型の油圧ジャッキ11と、油圧ジャッキ11の反力を得るための反力受けである仮設梁12と、鋼材が組み合わされた上弦材持上機構13など、から構成されている。図6は、軸力除去装置10の床版D1より上方に設置する各部構成を主に示す斜視図であり、図7は、軸力除去装置10の床版D1より上方に設置する各部構成を主に示す図5のA部拡大側面図である。また、図8は、軸力除去装置10の床版D1より下方に設置する各部構成を主に示す斜視図であり、図9は、鋼トラス橋B1を橋軸直角方向に沿って切断して軸力除去装置10の各部構成を示す鉛直断面図である。
仮設梁12は、図3~図5に示すように、鋼トラスのトラス上弦材格点3上から橋台P1のパラペット4上まで達する所定の長さを有する左右一対のH形鋼120,121(900×300×16×28)が接合された梁材であり(図9も参照)、鋼トラス橋B1の床版D1上に載置される。勿論、仮設梁12は、一対のH形鋼に限られず、溝形鋼や角形鋼管など所定の長さを有し、ジャッキアップ力に耐え得る曲げ剛性を有する他の部材でもよい。なお、図9に示すように、一対のH形鋼120,121と上部架台15の隙間に、CH型の油圧ジャッキ11が固定されている。
また、図3,図5,図7に示すように、仮設梁12の長手方向の一端部がトラス上弦材格点3上に設置された鋼材組立架台14上に載置され、仮設梁12の長手方向の他端部が橋台P1のパラペット4上に設置された鋼材組立架台14’上に載置され、2つの鋼材組立架台14,14’上に架け渡されている。鋼材組立架台14,14’は、床版D1の勾配に応じて仮設梁12の水平を保つためのレベル調整として用いられる。
上弦材持上機構13は、図3~図9に示すように、H形鋼などの鋼材が平面H状に組み合わされた上部架台15と、上弦材2の下面に当接又は架台等を介在させて上弦材2を下方から持ち上げるための下部架台16と、を備えている。また、これらの架台15,16は、総ねじPC鋼棒であるゲビン棒などの高強度の鋼材かなる複数本の連結鋼材17で連結されている。そして、図3,図5,図7,図8に示すように、この連結鋼材17は、鋼トラス橋B1の床版D1を上下に貫通する貫通孔h1を削孔して、その貫通孔内に挿通され、床版D1上にある上部架台15と床版D1下にある下部架台16とを連結している。
本軸力除去工程では、軸力除去装置10の油圧ジャッキ11を伸びる方向に作動させて油圧ジャッキ11上に載置されている上部架台15を持ち上げることで、この上部架台15と連結鋼材17で連結されている下部架台16を持ち上げる。これにより、軸力除去装置10は、下部架台16上の上弦材2をジャッキアップし、上弦材2が持ち上げることで、この上弦材2と接続する既設の鉛直材1の圧縮軸力を取り除く仕組となっている(図3~図9参照)。なお、油圧ジャッキ11は、図示した仮設梁12と上部架台15との間に介在して上部架台15を持ち上げる構成に限られず、上部架台15の上に載置され、上部架台15をねじ上げる構成としても構わない。要するに、本発明に係る油圧ジャッキは、鋼材が組み合わされた上弦材持上機構13を油圧で持ち上げることができる構成であればよい。
(3.1 歪計測による発生応力度の管理)
また、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の軸力除去工程では、本軸力除去工程で鉛直材1の圧縮軸力を除去する際には、予め鉛直材1に設置した歪ゲージによりジャッキアップ時に鉛直材1に発生する部材発生応力の状況を監視する。実施工においては、施工誤差も見込まれ、不測の事態も発生し得るからである。
また、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の軸力除去工程では、本軸力除去工程で鉛直材1の圧縮軸力を除去する際には、予め鉛直材1に設置した歪ゲージによりジャッキアップ時に鉛直材1に発生する部材発生応力の状況を監視する。実施工においては、施工誤差も見込まれ、不測の事態も発生し得るからである。
具体的には、鉛直材応力把握工程のX線残留応力計測と同様に、板幅中央位置の鉛直材1の中央付近の4面に歪ゲージを設置し、歪ゲージによる圧縮応力の監視に加え、油圧ジャッキ11の反力により鉛直材1に生じる引張力も監視する。また、前述の立体骨組解析とFEM解析で算出した設計値と比較しながら本軸力除去工程の油圧ジャッキ11によるジャッキアップを実施することで、計画と実施工の軸力の推移と比較して妥当性を確認しながら本軸力除去工程を行う。
実際の施工では、ジャキアップ作業は、FEM解析による設計ジャッキアップ力である307kNの50%から段階的に反力を増加させた。設計ジャッキアップ力の170%の520kNを作用させた段階で、目視による浮きが確認されるとともに、歪み計測の値が58μεで上限となったため、発生軸力が0kNになったと判断し完了とした。
実際の工事におけるジャッキアップ時の歪計測の推移を次表1に示す。
実際の工事におけるジャッキアップ時の歪計測の推移を次表1に示す。
表1に示すように、歪計測値より算出される発生応力度は、11.6MPaであり、立体体骨組解析から算出した発生応力度の14.3MPaに対して81%であった。なお、A面及びC面は、橋軸方向に面する面であり、B面及びD面は、橋軸直角方向に面する面である。
(3.2 レーザーレベルによる橋面高さの監視)
それに加え、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の軸力除去工程では、レーザーレベル19による橋面高さを監視する。ジャッキアップ作業における実際の橋面高さについても大きな鉛直変位が生じていないかを監視するためである。
それに加え、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の軸力除去工程では、レーザーレベル19による橋面高さを監視する。ジャッキアップ作業における実際の橋面高さについても大きな鉛直変位が生じていないかを監視するためである。
具体的には、図3,図6に示すように、鉛直材1の直上の橋面(床版D1の上面)に、レーザーセンサー20を設置し、回転レーザーレベル19で常時橋面高さを計測し、前述のジャッキアップによる鉛直材1の直上面の高さ変位を監視する。この橋面高さ監視システムは、常時、橋面の鉛直変位(レベル変位)を監視し変位量が管理値である3mmを超えると警報音を発し、赤色灯を点灯して周囲の作業員に知らせるとともに、関係者の携帯端末にアラートが通報されるシステムとなっている。このため、不測の事態が生じた場合に直ちに対応して対処・改善することができる。
(3.3 変位制限ストッパー設置)
その上、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、鉛直材1が撤去された状態で地震が発生することを想定して、地震時の橋軸直角方向の水平変位を制限する変位制限ストッパー5を設置する(図6等参照)。地震時においても、構造安定性を確保するためである。
その上、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、鉛直材1が撤去された状態で地震が発生することを想定して、地震時の橋軸直角方向の水平変位を制限する変位制限ストッパー5を設置する(図6等参照)。地震時においても、構造安定性を確保するためである。
既設の鉛直材1が撤去されている状態や上弦材2がジャッキアップされて新設の鉛直材1’に軸力が導入されていない状態では橋軸直角方向の水平力を支承部へ伝達する機能が失われている。これを補完するために、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、壁高欄W1を介して橋軸直角方向の水平力を伝達する変位制限ストッパー5を設置する。なお、変位制限ストッパー5の部材設計に適用する設計水平震度はレベル2地震動の1/2とした。
図4,図6に示すように、変位制限ストッパー5は、スチフナープレートが溶接されて曲げ剛性が強化された左右一対のH形鋼50,51を主体とする部材である。これらのH形鋼50,51は、壁高欄W1の損傷を防ぐ緩衝ゴムを介して鋼トラス橋B1の壁高欄W1を挟み込んで鋼棒(ボルト)で連結されている。この変位制限ストッパー5は、橋台P1と鋼トラス橋B1の境界上に設置され、橋台P1のパラペット4上の壁高欄W1と鋼トラス橋B1の壁高欄W1を挟み込むことにより、鋼トラス橋B1の橋軸直角方向の水平力を支承部へ伝達する機能の一部を代替する(図11も参照)。
(4.新設鉛直材設置工程)
次に、図3,図8に示すように、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、軸力除去工程で既設の鉛直材1に作用する軸力を除去した状態で新設の鉛直材1’を設置する新設鉛直材設置工程を行う。新設の鉛直材1’を設置する位置は、取り替える既設の鉛直材1の近傍のトラス上弦材格点3側である(図10も参照)。
次に、図3,図8に示すように、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、軸力除去工程で既設の鉛直材1に作用する軸力を除去した状態で新設の鉛直材1’を設置する新設鉛直材設置工程を行う。新設の鉛直材1’を設置する位置は、取り替える既設の鉛直材1の近傍のトラス上弦材格点3側である(図10も参照)。
本工程では、上弦材2をジャッキアップして持ち上げ、既設の鉛直材1に軸力が作用しない状態で、その近傍に新設の鉛直材1’を設置する。このため、クレーン等の揚重機C1で新設の鉛直材1’を吊り上げて設置位置近傍の鋼トラス橋B1の外側まで運搬すれば、そこから新設の鉛直材1’を上弦材2の下方まで横方向(橋軸直角方向内側)に引き込んでボルト接合することで、極めて簡単に短時間で新設の鉛直材1’を所定の設置位置に設置することができる。
(5.既設鉛直材撤去工程)
次に、図10,図11に示すように、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、既設の鉛直材1を撤去する既設鉛直材撤去工程を行う。図10は、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の既設鉛直材撤去工程を示す工程説明図であり、(a)が鉛直材引出し時を示し、(b)が鉛直材1のクレーンフックへの玉掛時を示している。また、図11は、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の既設鉛直材撤去工程を示す工程説明図であり、鉛直材1をクレーンフックへ玉掛して吊り下げた状態を示している。
次に、図10,図11に示すように、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、既設の鉛直材1を撤去する既設鉛直材撤去工程を行う。図10は、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の既設鉛直材撤去工程を示す工程説明図であり、(a)が鉛直材引出し時を示し、(b)が鉛直材1のクレーンフックへの玉掛時を示している。また、図11は、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法の既設鉛直材撤去工程を示す工程説明図であり、鉛直材1をクレーンフックへ玉掛して吊り下げた状態を示している。
具体的には、図10(a)に示すように、既設の鉛直材1の接合ボルトを取り外した上、チェーンブロック用トロリーレール6を用いて既設の鉛直材1を橋軸直角方向外側に引出し、そこで図10(b),図11に示すように、クレーン等の揚重機C1のフックに既設の鉛直材1を玉掛けして吊り上げ撤去する。
(6.軸力導入工程)
次に、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、前述の軸力除去装置を用いて上弦材2をジャッキダウンし、取り替えた新設の鉛直材1’に圧縮軸力を導入する軸力導入工程を行う。
次に、本実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法では、前述の軸力除去装置を用いて上弦材2をジャッキダウンし、取り替えた新設の鉛直材1’に圧縮軸力を導入する軸力導入工程を行う。
具体的には、図示形態では、軸力除去装置10の油圧ジャッキ11を縮める方向に作動させて油圧ジャッキ11上に載置されている上部架台15を下降させ、この上部架台15と連結鋼材17で連結されている下部架台16も下降させる。これにより、軸力除去装置10は、下部架台16上の上弦材2をジャッキダウンし、上弦材2が下降することで、この上弦材2と接続する新設の鉛直材1’に圧縮軸力を導入する。
ここで、鉛直材取替後の構造系に変化が生じないようにするためには、ジャッキダウン時にもジャッキアップ時と同等の荷重が再移行できていることを確認する必要がある。そこで新設の鉛直材1’にも中央4面に歪ゲージを設置してジャッキダウン時にも歪計測を実施する。
実際の工事におけるジャッキダウン時の歪計測の推移を次表2に示す。
表2に示すように、歪量が67μεで上限となり、計測により得られた歪値より算出される発生応力度は、13.4MPaであり、立体骨組解析から算出した発生応力度14.3MPaに対して94%であった。これにより、取替前の既設の鉛直材1と取替後の新設の鉛直材1’は、同等の軸力が掛かっていることが数値により定量的に確認でき、問題なく荷重が再移行できたことが確認できた。
以上説明した本発明の実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法によれば、鉛直材取替前後において鋼トラス橋B1全体の構造系に変化が生じない構造安定性が確保された状態で鋼トラス橋B1の鉛直材1を取り替えることができる。
以上、本発明の実施形態に係る鋼トラス橋の鉛直材取替方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
特に、取り替える鉛直材1の位置が、橋台P1に一番近い鉛直材を例示したが、他の位置でも適用できることは云うまでもなく、その場合は、仮設梁12を載置する架台を設置する位置を鋼トラスのトラス上弦材格点3と他のトラス上弦材格点とし、それらに仮設梁12を架け渡すようにすればよい。
B1:鋼トラス橋
P1:橋台
D1:床版
W1:壁高欄
h1:貫通孔
C1:揚重機
1:既設の鉛直材(鉛直材)
1’:新設の鉛直材(鉛直材)
2:上弦材
3:トラス上弦材格点 0
4:パラペット(橋台)
5:変位制限ストッパー
50,51:H形鋼
6:チェーンブロック用トロリーレール
10:軸力除去装置
11:油圧ジャッキ
12:仮設梁
120,121:H形鋼
13:上弦材持上機構
14,14’:鋼材組立架台
15:上部架台(架台:上弦材持上機構)
16:下部架台(架台:上弦材持上機構)
17:連結鋼材(ケビン棒:PC鋼材)
18:鋼材組立架台
19:回転レーザーレベル(レーザーレベル)
20:レーザーセンサー
P1:橋台
D1:床版
W1:壁高欄
h1:貫通孔
C1:揚重機
1:既設の鉛直材(鉛直材)
1’:新設の鉛直材(鉛直材)
2:上弦材
3:トラス上弦材格点 0
4:パラペット(橋台)
5:変位制限ストッパー
50,51:H形鋼
6:チェーンブロック用トロリーレール
10:軸力除去装置
11:油圧ジャッキ
12:仮設梁
120,121:H形鋼
13:上弦材持上機構
14,14’:鋼材組立架台
15:上部架台(架台:上弦材持上機構)
16:下部架台(架台:上弦材持上機構)
17:連結鋼材(ケビン棒:PC鋼材)
18:鋼材組立架台
19:回転レーザーレベル(レーザーレベル)
20:レーザーセンサー
Claims (7)
- 鋼トラス橋の既設の鉛直材を取り替える鋼トラス橋の鉛直材取替方法であって、
前記鋼トラス橋の前記既設の鉛直材と連結された上弦材を持ち上げてジャッキアップするための油圧ジャッキと、前記油圧ジャッキの反力を得るための仮設梁と、前記鋼トラス橋の床版を上下に貫通する貫通孔に挿通された連結鋼材で連結された上部架台と下部架台とを有する鋼材が組み合わされた上弦材持上機構と、を備えた軸力除去装置を用いて、前記上弦材をジャッキアップし、前記既設の鉛直材に作用する圧縮軸力を除去する軸力除去工程を行った後、
既設の鉛直材を新設の鉛直材に取り替えること
を特徴とする鋼トラス橋の鉛直材取替方法。 - 前記軸力除去工程を行う前に、立体骨組解析により前記既設の鉛直材に発生している圧縮軸力を算出して発生している応力を把握する鉛直材応力把握工程を行い、
前記軸力除去工程では、歪ゲージを用いて前記既設の鉛直材に作用している軸応力を計測し、立体骨組解析により算出した圧縮軸力と比較しながらジャッキアップを行うこと
を特徴とする請求項1に記載の鋼トラス橋の鉛直材取替方法。 - 前記軸力除去工程では、レーザーレベルで前記既設の鉛直材の直上の橋面高さを常時計測し、橋面高さの変位量が所定の管理値を超えると警報を発すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の鋼トラス橋の鉛直材取替方法。 - 前記軸力除去工程では、地震時の橋軸直角方向の水平変位を制限する変位制限ストッパーを設置して前記既設の鉛直材に作用する圧縮軸力を除去すること
を特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の鋼トラス橋の鉛直材取替方法。 - 前記軸力除去工程で前記既設の鉛直材に作用する軸力を除去した状態で新設の鉛直材を設置する新設鉛直材設置工程を行い、
その後、前記既設の鉛直材を撤去する既設鉛直材撤去工程を行うこと
を特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の鋼トラス橋の鉛直材取替方法。 - 前記既設鉛直材撤去工程を行った後、前記軸力除去装置を用いて前記上弦材をジャッキダウンし、歪ゲージを用いて前記新設の鉛直材に作用している軸応力を計測しつつ前記新設の鉛直材に圧縮軸力を導入する軸力導入工程を行うこと
を特徴とする請求項5に記載の鋼トラス橋の鉛直材取替方法。 - 前記既設鉛直材撤去工程では、チェーンブロック用トロリーレールを用いて前記既設の鉛直材を橋軸直角方向外側に引出した後、揚重機で既設の鉛直材を吊り上げ撤去すること
を特徴とする請求項5又は6に記載の鋼トラス橋の鉛直材取替方法。
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---|---|---|---|
JP2021173909A JP2023063858A (ja) | 2021-10-25 | 2021-10-25 | 鋼トラス橋の鉛直材取替方法 |
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