JP2023035141A - ボルトの素材として用いられる鋼材 - Google Patents

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Naoki Matsui
敏之 真鍋
Toshiyuki Manabe
清信 菅江
Kiyonobu Sugae
誠 小坂
Makoto Kosaka
聡 志賀
Satoshi Shiga
怜爾 竹島
Reiji Takeshima
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Abstract

【課題】優れた耐食性及び耐水素脆化特性を有する鋼材を提供する。【解決手段】本開示による鋼材は、質量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.01~0.50%、Mn:0.50~1.20%未満、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Cu:0.10~0.60%、Ni:0.10~0.60%、Cr:0~0.20%、Mo:0.01~0.60%、Sn:0.010~0.500%、Al:0.005~0.060%、N:0.0010~0.0080%、B:0.0002~0.0050%、Ti:0.005~0.100%を含有し、残部がFe及び不純物、からなり、式(1)で定義されるY1が10.00~70.00である。Y1=X1/X2 (1)X1=(Cu+4Sn)-Cr/2-Mn/10X2=V+10Nb+(Ti-3.4N)ここで、X1及びX2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。【選択図】なし

Description

本開示は、鋼材に関し、さらに詳しくは、ボルトの素材として用いられる鋼材に関する。
ボルトは、産業機械、自動車、橋梁及び建築物等の締結手段として用いられる。近年、産業機械及び自動車の高性能化、及び、建築物等の大型化に伴い、直径が20mmを超える太径のボルトが多用されている。
上述の用途のうち、橋梁や建築物等は、海浜地域に建てられたり、寒冷地に建てられる場合がある。海浜地域は塩分の多い腐食環境である。また、寒冷地では、融雪塩や凍結防止剤が使用される場合がある。融雪塩や凍結防止剤は、ボルトを構成する鋼材を腐食する。つまり、寒冷地も腐食環境である場合が多い。したがって、これらの腐食環境で用いられるボルトでは、優れた耐食性が求められる。
さらに、上述の腐食環境では、水素脆化が起こりやすい。したがって、腐食環境で用いられるボルトでは、優れた耐食性だけでなく、優れた耐水素脆化特性も求められる。
耐食性の向上及び耐水素脆化特性の向上に関する技術が、特開2008-274367号公報(特許文献1)及び特開2020-180325号公報(特許文献2)に提案されている。
特許文献1に開示された鋼材は、質量%で、C:0.15~0.6%、Si:0.05~0.5%、Mn及びCr:合計で0.5~3.5%、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Cu:0.3%未満、Ni:1%未満、O:0.01%以下、及び、Sn:0.05~0.50%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、Cu/Sn比が1以下である組成を有する。この文献では、Snを含有することで耐水素脆化特性を高める。さらに、SnによるCuの耐食性作用の低下を抑制するために、Cu/Snを1以下とする。これにより、耐食性を高めることができる、とこの文献には記載されている。
特許文献2に開示された鋼材は、質量%で、C:0.15%以上0.25%以下、Si:0.05%以上0.30%以下、Mn:0.50%以上1.80%以下、P:0.002%以上0.030%以下、S:0.0005%以上0.0200%以下、Al:0.010%以上0.065%以下、Cu:0.01%以上0.48%以下、Nb:0.005%以上0.030%以下、Sn:0.005%以上0.200%以下、Ti:0.005%以上0.200%以下、B:0.0001%以上0.0050%以下、N:0.0020%以上0.0100%以下、及び、O:0.0025%以下を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物の成分組成を有する。この文献では、Cu、Nb及びSnを含有することにより、耐食性が高まる、と記載されている。
特開2008-274367号公報 特開2020-180325号公報
特許文献1及び2に開示されるボルト用鋼材は、耐食性及び/又は耐水素脆化特性を高める。しかしながら、他の手段により、耐食性及び耐水素脆化特性を高めてもよい。
本開示の目的は、優れた耐食性及び優れた耐水素脆化特性を有する鋼材を提供することである。
本開示による鋼材は、次の構成を有する。
質量%で、
C:0.15~0.30%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.50~1.20%未満、
P:0.020%以下、
S:0.020%以下、
Cu:0.10~0.60%、
Ni:0.10~0.60%、
Cr:0~0.20%、
Mo:0.01~0.60%、
Sn:0.010~0.500%、
Al:0.005~0.060%、
N:0.0010~0.0080%、
B:0.0002~0.0050%、
Ti:0.005~0.100%、
V:0~0.050%、
Nb:0~0.030%、
Ca:0~0.0050%、
Mg:0~0.0050%、
希土類元素:0~0.0200%、及び、
残部:Fe及び不純物、からなり、
各元素含有量が上述の範囲を満たすことを前提として、式(1)で定義されるY1が10.00~70.00である、
鋼材。
Y1=X1/X2 (1)
X1=(Cu+4Sn)-Cr/2-Mn/10
X2=V+10Nb+(Ti-3.4N)
ここで、X1及びX2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
本開示による鋼材は、優れた耐食性及び優れた耐水素脆化特性を有する。
図1は、水素チャージ下でのSSRT試験により得られた侵入水素量と破断荷重との関係を示すグラフの一例の模式図である。
本発明者らは、優れた耐食性及び優れた耐水素脆化特性を有する鋼材について、調査及び検討を行った。その結果、次の事項が判明した。
耐水素脆化特性を高めるためには、鋼材中のCr含有量をなるべく低減することが有効である。さらに、Cu及びSnを含有することが有効である。一方、Cr含有量を低減した場合、鋼材の焼入れ性が低下する。上述のとおり、鋼材を素材として製造されるボルトでは、軸部の直径が20mm超となる場合がある。このような太径のボルトでも、十分な強度が得られるように、鋼材の焼入れ性を確保する必要がある。そこで、Crの代替として、Mo及びBを含有することが有効である。さらに、Cu、Ni及びSnは、耐食性の向上に有効である。
以上の化学組成の観点からの検討に基づいて、本発明者らは、優れた耐食性及び優れた耐水素脆化特性を有する鋼材の化学組成について検討を行った。その結果、本発明者らは、質量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.01~0.50%、Mn:0.50~1.20%未満、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Cu:0.10~0.60%、Ni:0.10~0.60%、Cr:0~0.20%、Mo:0.01~0.60%、Sn:0.010~0.500%、Al:0.005~0.060%、N:0.0010~0.0080%、B:0.0002~0.0050%、Ti:0.005~0.100%、V:0~0.050%、Nb:0~0.030%、Ca:0~0.0050%、Mg:0~0.0050%、希土類元素:0~0.0200%、及び、残部:Fe及び不純物、からなる化学組成であれば、優れた耐食性及び優れた耐水素脆化特性が得られると考えた。
しかしながら、上述の化学組成を有する鋼材であれば、耐食性に優れるものの、依然として耐水素脆化特性が低い場合があることが判明した。そこで、本発明者らは、上述の化学組成の鋼材の耐水素脆化特性について、特に、水素侵入量の観点からさらに検討を行った。その結果、次の事項が判明した。
腐食環境下において、水素脆化は、鋼材に水素が侵入することにより発生する。同じ腐食環境下であっても、鋼材の化学組成により、水素侵入量は変化する。鋼材への水素侵入量が多ければ、鋼材の耐水素脆化特性が低くなる。上述の化学組成のうち、Cr及びMnは、腐食環境下で鋼材への水素の侵入を促進する。一方、Cu及びSnは、腐食環境下で鋼材への水素の侵入を抑制する。したがって、Cu、Sn、Cr及びMnは、腐食環境下での鋼材の水素侵入の度合いに相互に関係する元素群である。
さらに、上述の化学組成のうち、V、Nb及びTiは、炭化物及び/又は炭窒化物(以下、炭化物等という)を形成し得る元素である。これらの元素が炭化物等を形成した場合、これらの元素の炭化物等が鋼材への水素侵入を促進する。したがって、V、Nb及びTiは、腐食環境下において、析出物として、鋼材の水素侵入の度合いに関係する元素群である。
以上の検討結果に基づいて、本発明者らは、Cu、Sn、Cr及びMnからなる元素群と、V、Nb及びTiからなる元素群とが、腐食環境下での鋼材への水素侵入の度合いに関係すると考えた。そこで、これらの元素群と、腐食環境下での水素侵入量との関係について、さらに調査を行った。その結果、本発明者らは、鋼材の化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であることを前提として、さらに、式(1)で定義されるY1が10.00以上であれば、腐食環境下において鋼材への水素侵入を十分に抑制でき、その結果、優れた耐水素脆化特性が得られることを知見した。
Y1=X1/X2 (1)
X1=(Cu+4Sn)-Cr/2-Mn/10
X2=V+10Nb+(Ti-3.4N)
ここで、X1及びX2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による鋼材は、次の構成を有する。
[1]
質量%で、
C:0.15~0.30%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.50~1.20%未満、
P:0.020%以下、
S:0.020%以下、
Cu:0.10~0.60%、
Ni:0.10~0.60%、
Cr:0~0.20%、
Mo:0.01~0.60%、
Sn:0.010~0.500%、
Al:0.005~0.060%、
N:0.0010~0.0080%、
B:0.0002~0.0050%、
Ti:0.005~0.100%、
V:0~0.050%、
Nb:0~0.030%、
Ca:0~0.0050%、
Mg:0~0.0050%、
希土類元素:0~0.0200%、及び、
残部:Fe及び不純物、からなり、
各元素含有量が上述の範囲を満たすことを前提として、式(1)で定義されるY1が10.00~70.00である、
鋼材。
Y1=X1/X2 (1)
X1=(Cu+4Sn)-Cr/2-Mn/10
X2=V+10Nb+(Ti-3.4N)
ここで、X1及びX2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
[2]
[1]に記載の鋼材であって、
V:0.001~0.050%、
Nb:0.001~0.030%、
Ca:0.0001~0.0050%、
Mg:0.0001~0.0050%、及び、
希土類元素:0.0001~0.0200%、からなる群から選択される1元素以上を含有する、
鋼材。
[3]
[1]又は[2]に記載の鋼材であってさらに、
前記各元素含有量が前記範囲を満たすことを前提として、式(2)で定義されるY2が60.00以上である、
鋼材。
Y2=(8.5×√C)×(1+3.1Mn)×(1+0.3Cu)×(1+0.2Ni)×(1+5.0Cr)×(1+3.1Mo)×(1+1.5×(0.9-C)) (2)
ここで、Y2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
[4]
[1]~[3]のいずれか1項に記載の鋼材であってさらに、
前記各元素含有量が前記範囲を満たすことを前提として、式(2)で定義されるY2が120.00以下であり、
ミクロ組織において、初析フェライトと、ベイナイト及び/又はマルテンサイトからなる硬質相との総面積率が90%以上であり、
前記鋼材の直径をDとしたとき、D/4位置でのビッカース硬さHVが190~260未満である、
鋼材。
Y2=(8.5×√C)×(1+3.1Mn)×(1+0.3Cu)×(1+0.2Ni)×(1+5.0Cr)×(1+3.1Mo)×(1+1.5×(0.9-C)) (2)
ここで、Y2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
以下、本実施形態による鋼材について詳述する。
なお、元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[本実施形態の鋼材の必須の特徴]
本実施形態の鋼材は、次の必須の特徴1及び2を備える。
(必須の特徴1)
化学組成中の各元素含有量が下記に示すとおりである。
(必須の特徴2)
化学組成中の各元素含有量が下記の範囲内であることを前提として、式(1)で定義されるY1が10.00~70.00である。
Y1=X1/X2 (1)
X1=(Cu+4Sn)-Cr/2-Mn/10
X2=V+10Nb+(Ti-3.4N)
ここで、X1及びX2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
以下、各特徴について説明する。
[(必須の特徴1)化学組成]
本実施形態による鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.15~0.30%
炭素(C)は、鋼材の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造されるボルトの強度を高める。C含有量が0.15%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、C含有量が0.30%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、C含有量は0.15~0.30%である。
C含有量の好ましい下限は0.18%であり、さらに好ましくは0.20%である。
C含有量の好ましい上限は0.28%であり、さらに好ましくは0.25%である。
Si:0.01~0.50%
シリコン(Si)は、固溶強化により、鋼材を素材として製造されるボルトの強度を高める。Si含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Si含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、Si含有量は0.01~0.50%である。
Si含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Si含有量の好ましい上限は0.30%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.10%である。冷間鍛造性をさらに高めるためのより有効なSi含有量の好ましい上限は0.05%未満である。
Mn:0.50~1.20%未満
マンガン(Mn)は、鋼材の焼入れ性を高めて、ボルトの強度を高める。Mn含有量が0.50%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mn含有量が1.20%以上であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、Mn含有量は0.50~1.20%未満である。
Mn含有量の好ましい下限は0.55%であり、さらに好ましくは0.60%である。
Mn含有量の好ましい上限は1.10%であり、さらに好ましくは1.00%であり、さらに好ましくは0.90%である。
P:0.020%以下
燐(P)は不純物である。つまり、P含有量の下限は0%超である。P含有量が0.020%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Pが粒界に偏析する。その結果、ボルトの耐水素脆化特性が低下する。
したがって、P含有量は0.020%以下である。
P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
P含有量の好ましい上限は0.015%であり、さらに好ましくは0.010%である。
S:0.020%以下
硫黄(S)は不純物である。つまり、S含有量の下限は0%超である。S含有量が0.020%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Sが粒界に偏析する。その結果、ボルトの耐水素脆化特性が低下する。
したがって、S含有量は0.020%以下である。
S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
S含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Cu:0.10~0.60%
銅(Cu)は、腐食環境下での鋼材の耐食性を高める。Cuはさらに、鋼材への水素の侵入を抑制する。そのため、Cuは、鋼材を素材としたボルトの耐食性及び耐水素脆化特性を高める。Cu含有量が0.10%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Cu含有量が0.60%を超えれば、鋼材が脆化する。そのため、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性や冷間鍛造性が低下する。
したがって、Cu含有量は、0.10~0.60%である。
Cu含有量の好ましい下限は0.20%であり、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.35%である。
Cu含有量の好ましい上限は0.55%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.45%である。
Ni:0.10~0.60%
ニッケル(Ni)は、鋼材の焼入れ性を高め、ボルトの強度を高める。Niはさらに、ボルトの耐食性を高める。Niはさらに、Cuとともに含有されて、鋼材の熱間加工時の疵の発生を抑制する。その結果、Cuを含有する本実施形態の鋼材において、Niは、鋼材の熱間加工性を高める。Ni含有量が0.10%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ni含有量が0.60%を超えれば、鋼材の焼入れ性が過剰に高くなる。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、Ni含有量は0.10~0.60%である。
Ni含有量の好ましい下限は0.20%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.35%である。
Ni含有量の好ましい上限は0.55%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.45%である。
好ましくは、Cu含有量のNi含有量に対する比(つまり、Cu/Ni)を1.0よりも大きくする。この場合、鋼材の熱間加工性を十分に維持できる。Cu/Niの上限は特に限定されない。Cu/Niの好ましい上限は5.0であり、さらに好ましくは4.0であり、さらに好ましくは3.0である。
Cr:0~0.20%
本実施形態の鋼材において、Crは不純物である。本実施形態において、Cr含有量は小数第二位までの数値で規定する。この有効数字でCr含有量を規定する場合、Cr含有量が0%となる場合がある。
Crは、鋼材への水素の侵入を促進する。そのため、ボルトの耐水素脆化特性が低下する。Cr含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、ボルトの耐水素脆化特性が顕著に低下する。
したがって、Cr含有量は0~0.20%である。
Cr含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、Cr含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、Cr含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Cr含有量の好ましい上限は0.15%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.07%である。耐水素脆化特性をさらに高めるためのより有効なCr含有量の好ましい上限は0.05%未満である。
Mo:0.01~0.60%
モリブデン(Mo)は、鋼の焼入れ性を高め、ボルトの強度を高める。土木及び建築用途のボルトでは、直径が20mmを超える場合がある。このような太いボルトの強度を高めるために、その素材となる鋼材の焼入れ性を高める必要がある。Moは鋼材の焼入れ性を高めやすい。
Moはさらに、Ti、V及びNbと同様に、微細な炭化物を形成して、ボルトの耐水素脆化特性を高める。Moはさらに、Ti、V及びNbと比較して、腐食環境下での鋼材への水素の侵入を促進しない。そのため、Moはボルトの強度を高めるだけでなく、ボルトの耐水素脆化特性も高める。Mo含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mo含有量が0.60%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材が過剰に硬くなる。この場合、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、Mo含有量は0.01~0.60%である。
Mo含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.20%である。
Mo含有量の好ましい上限は0.50%であり、さらに好ましくは0.45%であり、さらに好ましくは0.40%である。
Sn:0.010~0.500%
スズ(Sn)は、Cuと同様に、腐食環境下での鋼材への水素の侵入を抑制し、鋼材の耐水素脆化特性を高める。Sn含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Sn含有量が0.500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Snが粒界に偏析する。この場合、鋼材の熱間加工性及び冷間鍛造性が低下する。さらに、ボルトの耐水素脆化特性が低下する。
したがって、Sn含有量は0.010~0.500%である。
Sn含有量の好ましい下限は0.030%であり、さらに好ましくは0.050%であり、さらに好ましくは0.100%である。
Sn含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%であり、さらに好ましくは0.200%であり、さらに好ましくは0.150%である。
Al:0.005~0.060%
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Al含有量が0.005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼の脱酸が不十分となる。この場合、粗大な酸化物が生成する。そのため、ボルトの耐水素脆化特性が低下する。
一方、Al含有量が0.060%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なAl窒化物が生成する。粗大なAl窒化物は破壊の起点になる。そのため、鋼材の加工性が低下する。
したがって、Al含有量は0.005~0.060%である。
Al含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.020%である。
Al含有量の好ましい上限は0.050%であり、さらに好ましくは0.045%であり、さらに好ましくは0.040%である。
本実施形態の鋼材の化学組成において、Al含有量は、全Al(Total-Al)含有量を意味する。
N:0.0010~0.0080%
窒素(N)は、Al又はTiと結合して窒化物又は炭窒化物を形成する。これらの窒化物及び炭窒化物は、ピンニング効果により結晶粒の粗大化を抑制する。その結果、鋼材の冷間鍛造性を高める。N含有量が0.0010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、N含有量が0.0080%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な窒化物が生成する。粗大な窒化物は破壊の起点になり、鋼材の冷間鍛造性を低下させる。さらに、ボルトの耐水素脆化特性が低下する。
したがって、N含有量は0.0010~0.0080%である。
N含有量の好ましい下限は0.0015%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0025%である。
N含有量の好ましい上限は0.0070%であり、さらに好ましくは0.0065%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0055%であり、さらに好ましくは0.0050%である。
B:0.0002~0.0050%
ボロン(B)は、鋼材の焼入れ性を高め、ボルトの強度を高める。上述のとおり、本実施形態の鋼材では、腐食環境下での鋼材への水素の侵入を抑制するために、Cr含有量を抑制している。土木及び建築用途では、直径が20mmを超える太径のボルトが用いられる場合がある。Bは、Moとともに、Crの代替として、鋼材の焼入れ性を高めて、太径のボルトの強度を高める。B含有量が0.0002%未満であれば、上記効果が十分に得られない。
一方、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なB窒化物が生成する。粗大なB窒化物は破壊の起点になる。その結果、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、B含有量は0.0002~0.0050%である。
B含有量の好ましい下限は0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0015%である。
B含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%である。
Ti:0.005~0.100%
チタン(Ti)は、Nと結合してTi窒化物を形成し、BがNと結合するのを抑制する。これにより、Bが鋼材の焼入れ性を高めることができる。Ti含有量が0.005%未満であれば、上記効果が十分に得られない。
一方、Ti含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、炭化物、炭窒化物等のTi析出物が過剰に多く生成する。この場合、鋼材の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、Ti含有量は0.005~0.100%である。
Ti含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.018%である。
Ti含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
本実施形態による鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態による鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素(Optional Elements)]
本実施形態の鋼材はさらに、Feの一部に代えて、次の元素群から選択された1元素以上を含有してもよい。
V:0~0.050%、
Nb:0~0.030%、
Ca:0~0.0050%
Mg:0~0.0050%
希土類元素(REM):0~0.0200%
これらの元素は任意元素である。以下、各元素について説明する。
[第1群:V及びNb]
本実施形態の鋼材は、Feの一部に代えて、V及びNbからなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の強度を高める。
V:0~0.050%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、V含有量が0%超である場合、Vは、炭化物、炭窒化物等のV析出物を形成する。V析出物はボルトの強度を高める。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、V含有量が0.050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、V析出物が多く生成する。この場合、鋼材への水素侵入量が多くなる。その結果、鋼材の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、V含有量は0~0.050%である。
V含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
V含有量の好ましい上限は0.030%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.010%である。水素侵入量をさらに低減させるためのより有効なV含有量の好ましい上限は、0.005%未満である。
Nb:0~0.030%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Nb含有量が0%超である場合、Nbは、炭化物、炭窒化物等のNb析出物を形成する。Nb析出物はボルトの強度を高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Nb含有量が0.030%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Nb析出物が多く生成する。この場合、鋼材への水素侵入量が多くなる。その結果、鋼材の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、Nb含有量は0~0.030%である。
Nb含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
Nb含有量の好ましい上限は0.020%であり、さらに好ましくは0.010%である。水素侵入量をさらに低減させるためのより有効なNb含有量の好ましい上限は、0.005%未満である。
以上のとおり、本実施形態の鋼材は、上述の第1群の元素群から選択される1元素以上を含有してもよい。つまり、本実施形態の鋼材は、V:0.001~0.050%、及び、Nb:0.001~0.030%からなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。
[第2群:Ca、Mg及び希土類元素]
本実施形態の鋼材は、Feの一部に代えて、Ca、Mg及び希土類元素(REM)からなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材中のMnSを微細化して、鋼材の耐水素脆化特性を高める。
Ca:0~0.0050%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。Caが含有される場合、つまり、Caが0%超である場合、CaはMnSを微細化する。そのため、鋼材の耐水素脆化特性が高まる。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ca含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なCa酸化物が生成する。この場合、鋼材の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、Ca含有量は0~0.0050%である。
Ca含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
Ca含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
Mg:0~0.0050%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。Mgが含有される場合、つまり、Mgが0%超である場合、MgはMnSを微細化する。そのため、鋼材の耐水素脆化特性が高まる。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mg含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なMg酸化物が生成する。この場合、鋼材の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、Mg含有量は0~0.0050%である。
Mg含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
Mg含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
希土類元素(REM):0~0.0200%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。REMが含有される場合、つまり、REMが0%超である場合、REMはMnSを微細化する。そのため、鋼材の耐水素脆化特性が高まる。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、REM含有量が0.0200%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物が生成する。この場合、鋼材の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、REM含有量は0~0.0200%である。
REM含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0050%である。
REM含有量の好ましい上限は0.0150%であり、さらに好ましくは0.0100%である。
本明細書におけるREMとは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)、原子番号39番のイットリウム(Y)、及び、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)~原子番号71番のルテチウム(Lu)からなる群から選択される1元素以上の元素である。本明細書におけるREM含有量とは、これらの元素の合計含有量である。
以上のとおり、本実施形態の鋼材は、上述の第2群の元素群から選択される1元素以上を含有してもよい。つまり、本実施形態の鋼材は、Ca:0.0001~0.0050%、Mg:0.0001~0.0050%、及び、希土類元素:0.0001~0.0200%からなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。
[鋼材の化学組成の測定方法]
本実施形態の鋼材の化学組成は、周知の成分分析法で測定できる。具体的には、ドリルを用いて、鋼材の表面から1mm深さ以上の内部から、切粉を採取する。採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得る。溶液に対して、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)を実施して、化学組成の元素分析を実施する。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)により求める。N含有量については、周知の不活性ガス溶融-熱伝導度法を用いて求める。
なお、各元素含有量は、本実施形態で規定された有効数字に基づいて、測定された数値の端数を四捨五入して、本実施形態で規定された各元素含有量の最小桁までの数値とする。たとえば、本実施形態の鋼材のC含有量は小数第二位までの数値で規定される。したがって、C含有量は、測定された数値の小数第三位を四捨五入して得られた小数第二位までの数値とする。
本実施形態の鋼材のC含有量以外の他の元素含有量も同様に、測定された値に対して、本実施形態で規定された最小桁までの数値の端数を四捨五入して得られた値を、当該元素含有量とする。
なお、四捨五入とは、端数が5未満であれば切り捨て、端数が5以上であれば切り上げることを意味する。
[(必須の特徴2)侵入水素量抑制指数Y1について]
本実施形態の鋼材はさらに、各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、式(1)で定義されるY1が10.00~70.00である。
Y1=X1/X2 (1)
X1=(Cu+4Sn)-Cr/2-Mn/10
X2=V+10Nb+(Ti-3.4N)
ここで、X1及びX2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
上述のとおり、鋼材中の元素のうち、Cu及びSnは、固溶状態で鋼材への水素の侵入を抑制する元素である。一方、Cr及びMnは、鋼材への水素の侵入を促進する元素である。したがって、X1は、固溶元素による鋼材の水素侵入の抑制度合いを示す指標である。
さらに、鋼材中の元素のうち、V、Nb及びTiは、炭化物等を形成し得る元素である。これらの元素が炭化物等を形成した場合、これらの元素の炭化物等が鋼材への水素侵入を促進する。したがって、X2は、V炭化物等、Nb炭化物等及びTi炭化物等による鋼材への水素侵入の促進度合いを示す指標である。したがって、X1及びX2で構成されるY1は、鋼材への水素侵入量に関する指標である。
鋼材中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、Y1が10.0未満である場合、鋼材への水素侵入を十分に抑制できない。そのため、鋼材(ボルト)の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、Y1は10.00以上である。
Y1の好ましい下限は15.00であり、さらに好ましくは20.00であり、さらに好ましくは25.00であり、さらに好ましくは30.00である。
一方、Y1が過剰に高くなれば、鋼材への水素侵入量は抑制できるものの、鋼材の熱間加工性が低下する。特に、Y1が70.00を超えれば、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Y1は70.00以下である。
Y1の好ましい上限は68.00であり、さらに好ましくは66.00であり、さらに好ましくは60.00であり、さらに好ましくは55.00である。
以上のとおり、本実施形態の鋼材は、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり(必須の特徴1)、かつ、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であることを前提として、Y1が10.00~70.00である。そのため、本実施形態の鋼材は、耐食性に優れる。さらに、本実施形態の鋼材は水素侵入量を抑制できるため、耐水素脆化特性に優れる。さらに、本実施形態の鋼材は、熱間加工性に優れる。
[本実施形態の鋼材の好ましい特徴について]
本実施形態の鋼材は、上述の必須の特徴1及び2を備えるとともに、次の好ましい特徴1及び/又は好ましい特徴2を備えてもよい。
[好ましい特徴1]
化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、Y1が10.00~70.00であることを前提として、式(2)で定義されるY2が60.00以上である。
Y2=(8.5×√C)×(1+3.1Mn)×(1+0.3Cu)×(1+0.2Ni)×(1+5.0Cr)×(1+3.1Mo)×(1+1.5×(0.9-C)) (2)
ここで、Y2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
[好ましい特徴2]
化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、Y1が10.00~70.00であることを前提としてさらに、Y2が120.00以下であり、ミクロ組織において、初析フェライトと、ベイナイト及び/又はマルテンサイトからなる硬質相との総面積率が90%以上であり、D/4位置でのビッカース硬さHVが190~260未満である。
以下、これらの好ましい特徴1及び2について説明する。
[好ましい特徴1について]
好ましくは、本実施形態の鋼材では、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、Y1が10.00~70.00であることを前提として、式(2)で定義されるY2が60.00以上である。
Y2=(8.5×√C)×(1+3.1Mn)×(1+0.3Cu)×(1+0.2Ni)×(1+5.0Cr)×(1+3.1Mo)×(1+1.5×(0.9-C)) (2)
ここで、Y2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
Y2は、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、Y1が10.00~70.00であることを前提として、高強度と耐水素脆化特性とを両立するための指標である。式(2)で定義されるY2が60.00以上であれば、優れた耐水素脆化特性と、本実施形態の鋼材を素材としたボルトでの1100MPa以上の引張強度との両立が可能となる。
Y2のさらに好ましい下限は63.00であり、さらに好ましくは66.00であり、さらに好ましくは69.00であり、さらに好ましくは75.00である。
[好ましい特徴2について]
本実施形態の鋼材のミクロ組織は、特に限定されない。本実施形態の鋼材が、ボルトの素材として使用される場合、鋼材の硬さが高すぎれば、球状化焼鈍処理が実施される。球状化焼鈍された鋼材の冷間鍛造性は高まる。そのため、本実施形態の鋼材を素材として冷間鍛造を実施し、ボルトを製造することが可能である。したがって、本実施形態の鋼材のミクロ組織は特に限定されない。
好ましくは、本実施形態の鋼材では、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、Y1が10.00~70.00であることを前提としてさらに、次の要件1及び要件2を満たす。
(要件1)
式(2)で定義されるY2が120.00以下である。
(要件2)
鋼材のミクロ組織では、初析フェライトと、ベイナイト及び/又はマルテンサイトからなる硬質相との総面積率が90%以上であり、かつ、鋼材の直径をDとしたとき、鋼材の長手方向に垂直な断面での表面から径方向にD/4深さ位置でのビッカース硬さHVが190~260未満である。
この場合、本実施形態の鋼材の冷間鍛造性が高まる。上述のとおり、鋼材を素材としてボルトを製造する場合、鋼材を冷間鍛造する。鋼材の冷間鍛造性が高ければ、鋼材に対して球状化焼鈍処理を実施することなく、冷間鍛造を実施することができる。以下、各要件について説明する。
[好ましい特徴2の要件1について]
上述のとおり、Y2は強度の指標である。Y2はさらに、冷間鍛造性の指標にもなる。具体的には、Y2が120.00以下であれば、要件2を満たすことを前提として、高い冷間鍛造性が得られる。
Y2のさらに好ましい上限は110.00であり、さらに好ましくは105.00であり、さらに好ましくは100.00であり、さらに好ましくは95.00であり、さらに好ましくは90.00である。
[好ましい特徴2の要件2について]
本実施形態の鋼材の化学組成の場合、ミクロ組織は初析フェライト、硬質相、及び、パーライトを含有する可能性がある。ここで、パーライトは、鋼材の硬さばらつきの原因となる。そのため、パーライトの面積率が高い場合、鋼材の冷間鍛造性が低下する。一方、フェライト及び硬質相では、パーライトと比較して、硬さのばらつきが生じにくい。
そこで、好ましくは、鋼材のミクロ組織において、初析フェライト及び硬質相の総面積率を90%以上とする。この場合、ミクロ組織中のパーライトは10%以下となる。そのため、パーライトに起因する硬さばらつきを低減でき、鋼材の冷間鍛造性を高めることができる。
ここで、鋼材のミクロ組織において、初析フェライト及び硬質相の総面積率が90%以上であっても、硬質相中のマルテンサイトの面積率が高すぎれば、鋼材全体の硬さが過剰に高くなる。この場合、硬さばらつきは抑制されるものの、硬さ自体が高いため、結局、鋼材の冷間鍛造性が低くなる。
そこで、好ましくは、本実施形態の鋼材ではさらに、鋼材の直径をDとしたとき、鋼材の長手方向に垂直な断面での表面から径方向にD/4深さ位置でのビッカース硬さHVを190~260未満とする。
後述の光学顕微鏡によるミクロ組織観察において、コントラストに応じて、初析フェライト、パーライト、硬質相を区別することが可能である。しかしながら、硬質相中のベイナイトとマルテンサイトとを、コントラストで区別することは極めて困難である。一方、初析フェライトの硬さ、ベイナイトの硬さ、及び、マルテンサイトの硬さはそれぞれ異なる。したがって、鋼材のビッカース硬さは、鋼材のミクロ組織中の初析フェライト、ベイナイト及びマルテンサイトの面積率を反映している。
ミクロ組織中の初析フェライト及び硬質相の総面積率が90%以上であり、さらに、D/4深さ位置でのビッカース硬さHVが190~260未満であれば、そのミクロ組織中の硬質相中のベイナイト面積率とマルテンサイト面積率とが適切な範囲であることを意味する。そのため、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、Y1が10.00~70.00であり、Y2が120.00以下であることを前提として、鋼材の冷間鍛造性がさらに高まる。
初析フェライト及び硬質相の総面積率の好ましい下限は92%であり、さらに好ましくは95%であり、さらに好ましくは97%である。
D/4深さ位置でのビッカース硬さHVの好ましい下限は195であり、さらに好ましくは200であり、さらに好ましくは205であり、さらに好ましくは210である。
D/4深さ位置でのビッカース硬さHVの好ましい上限は245であり、さらに好ましくは240であり、さらに好ましくは235である。
[初析フェライト及び硬質相の総面積率測定方法]
初析フェライト及び硬質相の総面積率は、次の方法で求めることができる。
鋼材の長手方向に垂直な断面において、鋼材の表面から径方向にD/4深さ位置を含む表面を観察面と定義する。観察面を含むサンプルを採取する。サンプルの観察面を鏡面研磨する。鏡面研磨された観察面に対して、3%硝酸アルコール(ナイタール腐食液)を用いてエッチングを行う。エッチングされた観察面のうち、任意の観察視野(0.5mm×0.5mm)を、500倍の光学顕微鏡で観察する。
観察視野において、初析フェライト、パーライト、硬質相の各々は、相ごとにコントラストが異なる。具体的には、初析フェライトは白く観察される。硬質相は初析フェライトよりも黒く観察される。パーライトではラメラ組織が観察される。したがって、初析フェライトと、硬質相と、パーライトとは、コントラストに基づいて容易に区別できる。
観察視野において、初析フェライト及び硬質相の総面積を求める。観察視野の面積と、初析フェライト及び硬質相の総面積とに基づいて、初析フェライト及び硬質相の総面積率(%)を求める。
[D/4深さ位置でのビッカース硬さHVの測定方法]
D/4深さ位置でのビッカース硬さHVは次の方法で測定できる。
鋼材の長手方向に垂直な断面を観察面とするサンプルを採取する。サンプルの観察面は、鋼材の長手方向に垂直な断面全体とする。つまり、サンプルの観察面の直径はDである。観察面を鏡面研磨する。鏡面研磨後の観察面において、鋼材の表面から径方向にD/4深さの任意の測定位置を測定位置P1とする。測定位置P1から、サンプルの観察面の中心(つまり、鋼材の横断面の中心に相当)周りに30°ピッチで測定位置P2~P12を決定する。この12箇所のD/4深さ位置である測定位置P1~P12でビッカース硬さを測定する。
各測定点P1~P12において、JIS Z 2244:2009に準拠したビッカース硬さ試験を実施する。試験力は0.98Nとする。各測定位置で2点ビッカース硬さを測定し、2つのビッカース硬さの算術平均値を、その測定位置でのビッカース硬さHVと定義する。
本実施形態の鋼材が好ましい特徴2を備える場合、求めた12箇所のビッカース硬さHVの全てが、190~260未満の範囲内に含まれる。
[本実施形態の鋼材の用途]
本実施形態の鋼材は、産業機械、自動車、橋梁及び建築物等の締結手段の1種であるボルトの素材として適用可能である。特に、直径が20mmを超える太径のボルトの素材として、好適である。なお、本実施形態の鋼材が上記用途以外の用途に用いられてもよい。
[鋼材の製造方法]
本実施形態の鋼材の製造方法の一例を説明する。以降に説明する鋼材の製造方法は、本実施形態の鋼材を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有する鋼材は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の鋼材の製造方法の好ましい一例である。
本実施形態の鋼材の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程1)素材を準備する工程(素材準備工程)
(工程2)素材を熱間加工して鋼材を製造する工程(熱間加工工程)
以下、各工程について説明する。
[(工程1)素材準備工程]
素材準備工程では、本実施形態の鋼材の素材を準備する。具体的には、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、かつ、Y1が10.00~70.00である溶鋼を製造する。精錬方法は特に限定されず、周知の方法を用いればよい。たとえば、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉での精錬(一次精錬)を実施する。転炉から出鋼した溶鋼に対して、周知の二次精錬を実施する。二次精錬において、溶鋼中の合金元素の含有量を調整して、各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、かつ、Y1が10.00~70.00である化学組成を有する溶鋼を製造する。
製造された溶鋼を用いて、周知の鋳造法により素材を製造する。たとえば、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造してもよい。また、溶鋼を用いて連続鋳造法によりブルーム又はビレットを製造してもよい。以上の方法により、素材(インゴット、ブルーム又はビレット)を製造する。
[(工程2)熱間加工工程]
熱間加工工程では、素材準備工程にて準備された素材(インゴット、ブルーム又はビレット)に対して、熱間加工を実施して、本実施形態の鋼材を製造する。鋼材の形状は特に限定されないが、たとえば、棒鋼又は線材である。以下の説明では、一例として鋼材が線材である場合について説明する。しかしながら、鋼材が棒鋼であっても、同様の熱間加工工程で製造可能である。
熱間加工工程は、次の工程を含む。各工程には、主要な製造条件も記載する。
(工程21)分塊圧延工程
(工程22)仕上げ圧延工程
好ましい加熱温度T1 :900~1000℃
好ましい仕上げ温度FT :800~900℃未満
(工程23)冷却工程
好ましい平均冷却速度CR1:0.6~1.8℃/秒
以下、各工程について説明する。
[(工程21)分塊圧延工程]
分塊圧延工程では、素材を熱間圧延してビレットを製造する。
具体的には、分塊圧延工程では、分塊圧延機により素材に対して熱間圧延(分塊圧延)を実施して、ビレットを製造する。分塊圧延機の下流に連続圧延機が配置されている場合、分塊圧延後のビレットに対してさらに、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、さらにサイズの小さいビレットを製造してもよい。連続圧延機では、一対の水平ロールを有する水平スタンドと、一対の垂直ロールを有する垂直スタンドとが交互に一列に配列される。
以上のとおり、分塊圧延工程では、分塊圧延機を用いて、又は、分塊圧延機と連続圧延機とを用いて、素材をビレットに製造する。
分塊圧延工程での加熱温度は、周知の温度範囲でよい。加熱温度は例えば、1100~1300℃である。分塊圧延工程により製造されたビレットは、仕上げ圧延工程前に、常温まで放冷(空冷)される。
[(工程22)仕上げ圧延工程]
仕上げ圧延工程では、初めに、常温まで冷却されたビレットを、加熱炉を用いて加熱する。加熱後のビレットに対して、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、鋼材である線材を製造する。
仕上げ圧延工程での好ましい条件は次のとおりである。
好ましい加熱温度T1 :900~1000℃
好ましい仕上げ温度FT:800~900℃未満
[好ましい加熱温度T1について]
仕上げ圧延工程での加熱炉での加熱温度T1は原則、周知の範囲でよい。
好ましくは、加熱温度T1を900~1000℃とする。加熱温度T1が900℃以上であれば、他の好ましい条件(好ましい仕上げ圧延温度FT、好ましい平均冷却速度CR1)を満たすことを前提として、製造後の鋼材のミクロ組織において、初析フェライトと、ベイナイト及び/又はマルテンサイトからなる硬質相との総面積率が90%以上となり、D/4位置でのビッカース硬さHVが190~260未満となる。
一方、加熱温度T1が1000℃以下であれば、仕上げ圧延中の鋼材において、オーステナイト粒の粗大化が抑制される。この場合、製造後の鋼材において、マルテンサイトの生成が抑制される。そのため、他の好ましい条件(好ましい仕上げ圧延温度FT、好ましい平均冷却速度CR1)を満たすことを前提として、製造後の鋼材のD/4位置でのビッカース硬さHVが190~260未満となる。
[好ましい仕上げ温度FTについて]
仕上げ圧延工程では、一列に配列された複数の圧延スタンドを備える連続圧延機により熱間圧延(仕上げ圧延)を実施する。連続圧延機を用いた熱間圧延において、最後に鋼材を圧下したスタンドの出側での鋼材温度を、仕上げ温度FT(℃)と定義する。なお、鋼材温度とは、鋼材の表面温度を意味する。仕上げ温度FTは原則、周知の範囲でよい。
好ましくは、仕上げ温度FTを800~900℃未満とする。仕上げ温度FTが800℃以上であれば、他の好ましい条件(好ましい加熱温度T1、好ましい平均冷却速度CR1)を満たすことを前提として、製造後の鋼材のミクロ組織において、初析フェライトと、硬質相との総面積率が90%以上となる。
仕上げ温度FTが900℃未満であれば、他の好ましい条件(好ましい仕上げ圧延温度FT、好ましい平均冷却速度CR1)を満たすことを前提として、仕上げ圧延中の鋼材において、オーステナイト粒の粗大化が抑制される。この場合、製造後の鋼材において、マルテンサイトの生成が抑制される。そのため、他の好ましい条件(好ましい仕上げ圧延温度FT、好ましい平均冷却速度CR1)を満たすことを前提として、製造後の鋼材のD/4位置でのビッカース硬さHVが190~260未満となる。
[(工程23)冷却工程]
冷却工程では、仕上げ圧延工程後の鋼材を冷却する。冷却工程での好ましい製造条件は次のとおりである。
好ましい平均冷却速度CR1:0.6~1.8℃/秒
ここで、平均冷却速度CR1は、仕上げ温度FT~300℃での冷却速度の平均値を意味する。
冷却工程での平均冷却速度CR1は周知の範囲でよい。
好ましくは、平均冷却速度CR1を0.6~1.8℃/秒とする。平均冷却速度CR1が0.6℃/秒以上であれば、冷却工程において、鋼材中にパーライトが生成するのを抑制できる。そのため、他の好ましい条件(好ましい仕上げ圧延温度FT、好ましい平均冷却速度CR1)を満たすことを前提として、初析フェライトと、ベイナイト及び/又はマルテンサイトからなる硬質相との総面積率が90%以上となり、さらに、製造後の鋼材のD/4位置でのビッカース硬さHVが190~260未満となる。
さらに、平均冷却速度CR1が1.8℃/秒以下であれば、冷却工程において、鋼材中にマルテンサイトが生成するのを抑制できる。この場合、他の好ましい条件(好ましい加熱温度T1、好ましい仕上げ圧延温度FT)を満たすことを前提として、初析フェライトと、ベイナイト及び/又はマルテンサイトからなる硬質相との総面積率が90%以上となり、製造後の鋼材のD/4位置でのビッカース硬さHVが190~260未満となる。
なお、上述の製造工程の熱間加工工程では、分塊圧延工程を実施せずに、仕上げ圧延工程を実施してもよい。つまり、分塊圧延工程は任意の工程である。たとえば、素材準備工程でビレットを準備した場合、分塊圧延工程を省略して、仕上げ圧延工程を実施してもよい。
[本実施形態の鋼材を素材としたボルトの製造方法]
本実施形態の鋼材を素材としたボルトの製造方法は、周知の製造方法である。ボルトの製造方法は例えば、次の工程を含む。
(工程31)伸線加工工程
(工程32)冷間鍛造工程
(工程33)焼入れ及び焼戻し工程
以下、各工程について説明する。
[(工程31)伸線加工工程]
伸線加工工程では、上述の鋼材に対して周知の伸線加工を実施して鋼線を製造する。伸線加工は、一次伸線のみであってもよいし、二次伸線等、複数回の伸線加工を実施してもよい。
[(工程32)冷間鍛造工程]
冷間鍛造工程では、伸線加工工程後の鋼線に対して、周知の冷間鍛造を実施して、ボルト形状の中間品を製造する。
[(工程33)焼入れ及び焼戻し工程]
焼入れ及び焼戻し工程では、中間品に対して、焼入れ及び焼戻しを実施する。
[焼入れ]
焼入れは周知の方法で実施される。焼入れ温度及び焼入れ温度での保持時間は特に限定されない。焼入れ温度は例えば、840~970℃である。焼入れ温度での保持時間は例えば、15分~360分(6時間)である。保持時間経過後の中間品を急冷する。具体的には、中間品に対して水冷又は油冷を実施する。
[焼戻し]
焼入れ後の中間品に対して、焼戻しを実施する。焼戻し温度及び焼戻し温度での保持時間は特に限定されない。焼戻し温度は例えば、400~550℃である。焼戻し温度での保持時間は、0.5~6.0時間である。
以上の製造方法により、本実施形態の鋼材を素材としたボルトを製造することができる。製造されたボルトは、耐食性に優れる。さらに、腐食環境下での水素侵入が抑制されるため、耐水素脆化特性に優れる。
実施例により本実施形態の鋼材の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の鋼材の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の鋼材はこの一条件例に限定されない。
[素材準備工程]
表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。溶鋼を用いて連続鋳造法により素材(鋳片)を製造した。
Figure 2023035141000001
表1中の「-」は、対応する元素含有量が、実施形態に規定の有効数字(最小桁までの数値)において、0%であることを意味する。換言すれば、対応する元素含有量において、上述の実施形態で規定の有効数字(最小桁までの数値)での端数を四捨五入した場合に0%であることを意味する。
例えば、本実施形態で規定されたV含有量は小数第三位までの数値で規定されている。したがって、表1中の試験番号1では、測定されたV含有量を小数第四位で四捨五入した場合に、0%であったことを意味する。
また、本実施形態で規定されたCa含有量は小数第四位までの数値で規定されている。したがって、表1中の試験番号1では、測定されたCa含有量を小数第五位で四捨五入した場合に、0%であったことを意味する。
また、本実施形態で規定されたCr含有量は小数第二位までの数値で規定されている。したがって、試験番号19では、測定されたCr含有量を小数第三位で四捨五入した場合に、0%であったことを意味する。
なお、四捨五入とは、規定された最小桁の下の桁(端数)が5未満であれば切り捨て、5以上であれば切り上げることを意味する。
[熱間加工工程]
製造した素材に対して分塊圧延工程を実施して、ビレットを製造した。分塊圧延工程では、素材を1100~1300℃に加熱した後、分塊圧延機及び連続圧延機を用いて熱間圧延を実施した。分塊圧延工程により製造されたビレットを常温まで放冷した。
製造されたビレットに対して、仕上げ圧延工程を実施した。仕上げ圧延工程では、ビレットを表2に示す加熱温度T1(℃)で加熱した。加熱後のビレットに対して、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、直径21.5mmの鋼材(丸棒)を製造した。熱間圧延での仕上げ温度FT(℃)は表2に示すとおりであった。
Figure 2023035141000002
[冷却工程]
熱間圧延後の鋼材(棒鋼)に対して冷却を実施した。このとき、鋼材温度が仕上げ温度FT~300℃までの平均冷却速度CR1は表2に示すとおりであった。
以上の製造工程により、各試験番号の直径21.5mmの鋼材(丸棒)を製造した。
[評価試験について]
製造された各試験番号の鋼材に対して、次の鋼材評価試験(試験1~試験5)を実施した。
[鋼材評価試験]
(試験1)鋼材の化学組成測定試験
(試験2)ミクロ組織観察試験
(試験3)ビッカース硬さ試験
(試験4)熱間加工性評価試験
(試験5)冷間鍛造性評価試験
さらに、鋼材を素材として製造されるボルトを想定したボルト模擬材を用いて、次のボルト評価試験(試験6~試験9)を実施した。
[ボルト評価試験]
(試験6)引張強度測定試験
(試験7)耐食性評価試験
(試験8)侵入水素量測定試験
(試験9)耐水素脆化特性評価試験
以下、各試験について説明する。
[鋼材評価試験について]
上述の試験1~試験5を次の方法で実施した。
[(試験1)鋼材の化学組成測定試験]
各試験番号の鋼材に対して、上述の[鋼材の化学組成の測定方法]に基づいて化学組成を分析した。その結果、いずれの試験番号の化学組成も、表1に示すとおりであった。
[(試験2)ミクロ組織観察試験]
各試験番号の鋼材に対して、上述の[初析フェライト及び硬質相の総面積率測定方法]に記載の方法に基づいて、D/4深さ位置での初析フェライト及び硬質相の総面積率(%)を求めた。求めた総面積率を表2中の「初析F+硬質相総面積率(%)」欄に示す。
[(試験3)ビッカース硬さ試験]
各試験番号の鋼材に対して、上述の[D/4深さ位置でのビッカース硬さHVの測定方法]に記載の方法に基づいて、D/4深さ位置の測定位置P1~P12でのビッカース硬さHVを求めた。測定した12箇所のビッカース硬さHVに基づいて、表2中の「D/4ビッカース硬さ(HV)」欄において、次のとおり表記する。
E:12箇所のビッカース硬さHVの全てが190~260未満である。
B1:12箇所のビッカース硬さHVのうち、少なくとも1つが260以上である。
B2:12箇所のビッカース硬さHVのうち、少なくとも1つが190未満である。
[(試験4)熱間加工性評価試験]
各試験番号の鋼材の熱間加工性を次の試験で評価した。
初めに、鋼材の長手方向に垂直な断面における中心位置から、試験片を採取した。試験片は直径10mm、長さ120mmの丸棒試験片であった。試験片の長手方向は、鋼材の長手方向と平行であった。試験片の中心軸は、鋼材と同軸であった。
試験片を用いて、熱間引張試験機による熱間引張試験を実施した。熱間引張試験には、富士電波株式会社製グリーブル試験機を使用した。具体的には、試験片を1100℃に加熱し、5分間保持した。その後、1℃/秒の冷却速度で試験片を900℃まで冷却した。その後、1/秒のひずみ速度で引張試験を行い、破断させた。破断した試験片を室温まで冷却した後、試験片の断面積から絞り値を測定した。得られた絞り値に基づいて、熱間加工性を評価した。
評価結果を表2中の「熱間加工性」欄に示す。絞り値が75%以上である場合、熱間加工性に優れると判断した(表2中ので「E」(Excellent)で表示)。一方、絞り値が75%未満である場合、熱間加工性が低いと判断した(表2中で「B」(Bad)で表示)。
[(試験5)冷間鍛造性評価試験]
各試験番号の鋼材の冷間鍛造性を、限界圧縮試験により評価した。
初めに、各試験番号の鋼材から、複数の限界圧縮試験片を採取した。限界圧縮試験片の直径は10mmであり、長さは15mmであった。限界圧縮試験片の長手方向は、各試験番号の鋼材の長手方向と平行であった。限界圧縮試験片の長手方向の中央位置で、周方向に環状の切欠きを形成した。切欠き角度は30°であり、切欠き深さは0.8mmであり、切欠き底の曲率半径は0.15mmであった。
限界圧縮試験には、500ton油圧プレス機を用いた。作製された限界圧縮試験片に対して、次の方法により限界圧縮試験を実施した。各限界圧縮試験片に対して、拘束ダイスを使用して10mm/分の速度で冷間圧縮を行った。切り欠き近傍に0.5mm以上の微小割れが生じたときに圧縮を停止し、その時の圧縮率(%)を算出した。この測定を合計10回行い、累積破損確率が50%となる圧縮率(%)を求めた。求めた圧縮率を、限界圧縮率(%)とした。
表2中の「冷間鍛造性」欄に評価結果を示す。限界圧縮率が38%以上である場合、冷間鍛造性に優れると判断した(表2中で「E」で表示)。一方、限界圧縮率が38%未満である場合、冷間鍛造性が低いと判断した(表2中で「B」で表示)。
[ボルト評価試験]
各試験番号の鋼材を素材として製造されるボルトを想定して、各試験番号の次のボルト模擬材を製造した。
[ボルト模擬材の製造]
各試験番号の鋼材(直径21.5mmの棒鋼)に対して、次の焼入れ処理及び焼戻し処理を実施した。
焼入れ処理は熱処理炉を用いて実施した。焼入れ温度を880℃とし、焼入れ温度での保持時間を60分とした。保持時間経過後の鋼材を水冷して焼入れを行った。なお、熱処理炉内はArガスを充填させた雰囲気とし、鋼材の脱炭を抑制した。
焼入れ処理後に焼戻し処理を実施した。焼戻し処理は熱処理炉を用いて実施した。焼戻しでは、ボルト模擬材の引張強度が1000~1200MPaの範囲内となるように、表2に示す焼戻し温度(℃)で0.5~4.0時間保持した。保持時間経過後の鋼材を水冷した。
以上の製造工程により、ボルト模擬材を製造した。
ボルト評価試験のうち、試験6、試験8及び試験9では、各試験番号のボルト模擬材を用いて、試験を実施した。一方、試験7の耐食性評価試験では、棒鋼(丸棒)形状のボルト模擬材ではなく、棒鋼の代替材として鋼板を用いて、板状のボルト模擬材を製造し、板状のボルト模擬材を用いて後述の耐食性評価試験を実施した。
[(試験6)引張強度測定試験]
各試験番号の引張強度を次の方法で測定した。
初めに、ボルト模擬材の長手方向に垂直な断面における中心位置から試験片を採取した。試験片の長さは80mmであり、平行部の長さは40mmであり、直径は6.0mmであった。試験片の中心軸はボルト模擬材と同軸であった。試験片は各試験番号ごとに2本準備した。
JIS Z2241:2011に準拠して、常温、大気中で引張試験を実施して、引張強度(MPa)を得た。2つの引張強度の算術平均値を、その試験番号の鋼材を素材としたボルト模擬材の引張強度(MPa)と定義した。
各試験番号の引張強度は、試験番号26及び27の鋼材を除き、全て1100~1200MPaの範囲内であった。一方、試験番号26、27については、Y2が小さかった。そのため、これらの試験番号の引張強度は、1000~1100MPa未満の範囲内であった。具体的には、試験番号26の引張強度は1045MPaであった。試験番号27の引張強度は1059MPaであった。
[(試験7)耐食性評価試験]
各試験番号のボルト模擬材の耐食性を、次の試験により評価した。
耐食性評価試験では、耐食性の評価のしやすさを考慮して、棒鋼(丸棒)を素材とせず、棒鋼を代替した各試験番号の鋼板を次の方法で製造した。具体的には、表1の化学組成を有する素材に対して仕上げ圧延工程及び冷却工程を実施して、板厚が20mmの鋼板を製造した。素材の加熱温度T1(℃)、仕上げ温度FT(℃)、及び、冷却工程での平均冷却速度CR1は表2に示すとおりであった。
製造された鋼板を用いて、各試験番号のボルト模擬材を製造した。具体的には、各試験番号の鋼板に対して、上述の[ボルト模擬材の製造]に記載の焼入れ処理を実施した。さらに、焼入れ後の鋼板に対して、表2に示す焼戻し温度で1.0時間保持する焼戻しを実施して、ボルト模擬材を製造した。以上の製造工程により、耐食性評価試験用のボルト模擬材(鋼板)を製造した。
製造されたボルト模擬材(鋼板)から、100mm×60mm×厚さ3mmの板状試験片を採取した。採取した板状試験片の表面に対してショットブラストを実施して、板状試験片の表面において、JIS B0601:2001に準拠した十点平均粗さRzjisが75μmとなるように調整した。
ショットブラスト後の板状試験片の表面に塗装を行い、厚さ120μmの下塗り(神東塗料株式会社製の商品名:ネオゴーセイ#2300PS)、厚さ30μmの中塗り(神東塗料株式会社製の商品名:シントーフロン#100)、厚さ25μmの上塗り(神東塗料株式会社製の商品名:シントーフロン#100)で構成される塗膜を形成した。
カッターを用いて素地(鋼板)に達する塗膜欠陥を形成した。塗膜欠陥の総長さを500mmとした。
塗膜欠陥を有する板状試験片を用いて、塩水浸漬が可能な乾湿繰り返し試験機により、米国規格SAE J2334に準拠した腐食試験を実施した。具体的には、次の3つのステップ(合計24時間)を1サイクルとする試験を実施した。
(ステップ1:湿潤工程)
板状試験片を50℃、相対湿度100%RHの環境で、6時間保持する。
(ステップ2:塩水浸漬工程)
ステップ1後の板状試験片を、0.5%NaCl、0.1%CaCl及び0.075%NaHCOを含有する、pH8の水溶液中に15分間浸漬する。
(ステップ3:乾燥工程)
ステップ2後の板状試験片を、60℃、50%RHの環境で、17.75時間保持する。保持後の板状試験片を乾燥する。
上記ステップ1~ステップ3を1サイクルとして、80サイクル実施した。
80サイクル実施後の板状試験片の塗膜のうち、塗膜欠陥を起点とし、試験片表面から剥離している塗膜部分(以下、塗膜剥離部という)をカッターで除去した。塗膜剥離部を除去した後、板状試験片の塗膜を平面視した画像を生成した。画像処理により、板状試験片の表面のうち、塗膜が残存している領域と鋼板が露出している領域(塗膜剥離部)とを区別した。そして、塗膜剥離部の総面積(剥離面積)を求めた。
さらに、上述の試験により塗膜欠陥に生じた腐食生成物をハンマー及びスクレーパー等で力学的に除去した。さらに、10質量%のクエン酸水素二アンモニウム水溶液と2質量%朝日化学株式会社製イビットとの混合溶液中に板状試験片を24時間浸漬して酸洗浄し、表面に固着している腐食生成物を除去した。
物理的、化学的に腐食生成物を除去した後、塗膜剥離部を略均等に20区画に分けた。各区画ごとでの最大腐食深さを、ポイントマイクロメーターで求めた。得られた最大腐食深さの算術平均値を、その試験番号の腐食深さ(mm)と定義した。
剥離面積と腐食深さとに基づいて、耐食性を評価した。評価結果を表2中の「耐食性」欄に示す。剥離面積が30%以下で、かつ、腐食深さが0.2mm以下の場合、耐食性に優れると評価した(表2中で「E」で表示)。一方、剥離面積が30%を超えた、又は、腐食深さが0.2mmを超えた場合、耐食性が低いと評価した(表2中で「B」で表示)。
[(試験8)侵入水素量測定試験]
各試験番号の侵入水素量を次の方法で測定した。
初めに、ボルト模擬材の長手方向に垂直な断面における中心位置から試験片を採取した。試験片は直径7mm、長さ100mmの丸棒試験片とした。試験片の中心軸は、ボルト模擬材と同軸とした。試験片は各試験番号ごとに2本準備した。
試験7と同じ条件で、米国規格SAE J2334に準拠した腐食試験を実施し、腐食試験後の各試験片の侵入水素量を測定した。
具体的には、ステップ1~ステップ3を1サイクルとして、56サイクル試験後の試験片について侵入水素量を測定した。腐食試験後の試験片に侵入した水素が離脱しないように、侵入水素量を測定する直前まで、腐食試験後の試験片を液体窒素中に浸漬した。侵入水素量の測定前に、サンドブラストを使って試験片の表面に付着した腐食生成物を完全に除去した。腐食生成物を除去した試験片に対して、昇温脱離分析装置を用いて侵入水素量を測定した。具体的には、昇温脱離分析装置により室温から200℃までに脱離反応によって検出された拡散性水素量を測定し、侵入水素量とした。得られた2本の試験片の侵入水素量の算術平均値を、その試験番号の鋼材の侵入水素量He(ppm)と定義した。求めた侵入水素量を表2中の「侵入水素量」欄に示す。
[(試験9)耐水素脆化特性評価試験]
各試験番号の鋼材の耐水素脆化特性を、次の試験により評価した。
初めに、ボルト模擬材の長手方向に垂直な断面における中心位置から試験片を採取した。試験片は直径7mm、長さ70mmの環状切欠き付き丸棒試験片とした。試験片の長手方向中央位置には、環状の切欠きを形成した。切欠きの深さは1.4mm、切欠き角度は60°であり、切欠き底の曲率半径は0.175mmであった。
準備した環状切り欠き付き丸棒試験片を用いて、SSRT(Slow Strain Rate Technique)試験を実施した。具体的には、3%NaCl溶液に3g/LのNHSCNを加えた水素チャージ溶液を準備した。水素チャージ溶液中に環状切欠き付き丸棒試験片を浸漬した状態で、試験片に付与する電流密度を調整し、試験片への水素侵入量を調整した。
各電流密度で水素チャージした環状切欠き付き丸棒試験片に、水素が脱離しないようめっき処理を施した。めっき処理後の環状切欠き付き丸棒試験片を、8時間以上室温で放置した。その後、0.005mm/minの速度で引張試験を実施して、環状切欠き付き丸棒試験片を破断させた。破断後、環状切欠き付き丸棒試験片の侵入水素量(ppm)を、昇温脱離分析装置を用いて測定した。
以上の試験により、図1に例示するような、侵入水素量(ppm)と破断荷重(kN)とのグラフを作成した。作成したグラフに基づいて、侵入水素量が[(試験8)侵入水素量測定試験]で求めた侵入水素量(He)の2倍となる水素量(2He)での破断荷重(σ2He)を求めた。
さらに、各試験番号の水素チャージしていない環状切欠き付き丸棒試験片に対して0.005mm/minの速度で引張試験を実施して、環状切欠き付き丸棒試験片を破断させ、破断荷重(σ)を求めた。
水素チャージしたときの破断荷重σ2Heを、水素チャージしていないときの破断荷重(σ)で除して、破断荷重比(σ2He/σ)を求めた。
破断荷重比(σ2He/σ)に基づいて、耐水素脆化特性を評価した。評価結果を表2中の「耐水素脆化特性」欄に示す。破断荷重比が0.8以上であれば、耐水素脆化特性に優れると判断した(表2中で「E」で表示)。破断荷重比が0.8未満であれば、耐水素脆化特性が低いと判断した(表2中で「B」で表示)。
[評価結果]
評価結果を表2に示す。
試験番号1~32では、化学組成が適切であり、Y1が式(1)を満たした。そのため、これらの試験番号では、優れた耐食性が得られた。さらに、侵入水素量が0.050ppm以下と低かった。そのため、優れた耐水素脆化特性が得られた。また、これらの試験番号はいずれも、熱間加工性に優れた。
また、試験番号1~25、28~32ではさらに、Y2が60.00以上であった。そのため、これらの試験番号ではさらに、耐水素脆化特性に優れるとともに、引張強度が1100MPa以上となった。なお、試験番号26では、Y2が60.00未満であるために、耐水素脆化特性に優れるものの、引張強度は1000MPa以上1100MPa未満の1045MPaであった。
また、試験番号1~26では、Y2が120.00以下であり、かつ、仕上げ圧延工程での加熱温度T1、仕上げ温度FT、及び、冷却工程での平均冷却速度CR1がいずれも適切であった。そのため、これらの試験番号の鋼材のミクロ組織では、初析フェライトと硬質相との総面積率が90%以上であり、D/4位置でのビッカース硬さHVが190~260未満であった。そのため、冷間鍛造性評価試験において優れた冷間鍛造性を示した。
なお、試験番号27では、Y2が60.00未満であり、さらに、鋼材のミクロ組織において、初析フェライトと、ベイナイト及び/又はマルテンサイトからなる硬質相との総面積率が90%未満であった。そのため、耐食性、耐水素脆化特性及び熱間加工性に優れたものの、引張強度は1000MPa以上1100MPa未満の1059MPaであった。また、冷間鍛造性については、試験番号1~25よりも低かった。
試験番号28では、Y2が120.00を超えた。そのため、耐水素脆化特性及び熱間加工性に優れたものの、冷間鍛造性については、試験番号1~26よりも低かった。
また、試験番号29では、仕上げ圧延工程での加熱温度T1及び仕上げ温度FTが低かった。そのため、D/4位置での12箇所のビッカース硬さHVのうち、少なくとも1つが260以上であった。そのため、耐食性、耐水素脆化特性及び熱間加工性に優れたものの、冷間鍛造性については、試験番号1~26よりも低かった。
試験番号30では、仕上げ圧延工程での加熱温度T1及び仕上げ温度FTが高かった。そのため、D/4位置での12箇所のビッカース硬さHVのうち、少なくとも1つが260以上であった。そのため、耐食性、耐水素脆化特性及び熱間加工性に優れたものの、冷間鍛造性については、試験番号1~26よりも低かった。
試験番号31では、仕上げ圧延工程後の冷却工程での平均冷却速度CR1が速かった。そのため、D/4位置での12箇所のビッカース硬さHVのうち、少なくとも1つが260以上であった。そのため、耐食性、耐水素脆化特性及び熱間加工性に優れたものの、冷間鍛造性については、試験番号1~26よりも低かった。
試験番号32では、仕上げ圧延工程後の冷却工程での平均冷却速度CR1が遅かった。そのため、鋼材のミクロ組織において、初析フェライトと、ベイナイト及び/又はマルテンサイトからなる硬質相との総面積率が90%未満であった。さらに、12箇所のビッカース硬さHVのうち、少なくとも1つが190未満であった。そのため、耐食性、耐水素脆化特性及び熱間加工性に優れたものの、冷間鍛造性については、試験番号1~26よりも低かった。
一方、試験番号33では、Cu含有量が低かった。そのため、侵入水素量が0.050ppmを超え、耐食性及び耐水素脆化特性が低かった。
試験番号34では、Cu含有量が高かった。そのため、熱間加工性及び冷間鍛造性が低かった。
試験番号35では、Ni含有量が低かった。そのため、耐食性及び熱間加工性が低かった。
試験番号36では、Cr含有量が高かった。そのため、侵入水素量が0.050ppmを超え、耐水素脆化特性が低かった。
試験番号37では、Sn含有量が低かった。そのため、侵入水素量が0.050ppmを超え、耐水素脆化特性が低かった。
試験番号38では、Sn含有量が高かった。そのため、熱間加工性、冷間鍛造性、及び、耐水素脆化特性が低かった。
試験番号39では、V含有量が高かった。そのため、侵入水素量が0.050ppmを超えた。そのため、耐水素脆化特性が低かった。
試験番号40では、Nb含有量が高かった。そのため、侵入水素量が0.050ppmを超えた。そのため、耐水素脆化特性が低かった。
試験番号41~43では、Y1が低かった。そのため、侵入水素量が0.050ppmを超えた。その結果、耐水素脆化特性が低かった。
試験番号44~46では、Y1が高かった。そのため、熱間加工性が低かった。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.15~0.30%、
    Si:0.01~0.50%、
    Mn:0.50~1.20%未満、
    P:0.020%以下、
    S:0.020%以下、
    Cu:0.10~0.60%、
    Ni:0.10~0.60%、
    Cr:0~0.20%、
    Mo:0.01~0.60%、
    Sn:0.010~0.500%、
    Al:0.005~0.060%、
    N:0.0010~0.0080%、
    B:0.0002~0.0050%、
    Ti:0.005~0.100%、
    V:0~0.050%、
    Nb:0~0.030%、
    Ca:0~0.0050%、
    Mg:0~0.0050%、
    希土類元素:0~0.0200%、及び、
    残部:Fe及び不純物、からなり、
    各元素含有量が上述の範囲を満たすことを前提として、式(1)で定義されるY1が10.00~70.00である、
    鋼材。
    Y1=X1/X2 (1)
    X1=(Cu+4Sn)-Cr/2-Mn/10
    X2=V+10Nb+(Ti-3.4N)
    ここで、X1及びX2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
  2. 請求項1に記載の鋼材であって、
    V:0.001~0.050%、
    Nb:0.001~0.030%、
    Ca:0.0001~0.0050%、
    Mg:0.0001~0.0050%、及び、
    希土類元素:0.0001~0.0200%、からなる群から選択される1元素以上を含有する、
    鋼材。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の鋼材であってさらに、
    前記各元素含有量が前記範囲を満たすことを前提として、式(2)で定義されるY2が60.00以上である、
    鋼材。
    Y2=(8.5×√C)×(1+3.1Mn)×(1+0.3Cu)×(1+0.2Ni)×(1+5.0Cr)×(1+3.1Mo)×(1+1.5×(0.9-C)) (2)
    ここで、Y2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
  4. 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の鋼材であってさらに、
    前記各元素含有量が前記範囲を満たすことを前提として、式(2)で定義されるY2が120.00以下であり、
    ミクロ組織において、初析フェライトと、ベイナイト及び/又はマルテンサイトからなる硬質相との総面積率が90%以上であり、
    前記鋼材の直径をDとしたとき、D/4位置でのビッカース硬さHVが190~260未満である、
    鋼材。
    Y2=(8.5×√C)×(1+3.1Mn)×(1+0.3Cu)×(1+0.2Ni)×(1+5.0Cr)×(1+3.1Mo)×(1+1.5×(0.9-C)) (2)
    ここで、Y2中の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
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