JP2023019942A - 細胞培養基材、及び細胞培養方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ゼラチン、コラーゲン等のタンパク質からなるナノファイバーを安価で簡便な処方により耐水性を付与し、多能性幹細胞を長期間、未分化培養できる、安価な培養基材を提供し、当該基材を用いた多能性幹細胞の培養方法を提供すること。【解決手段】ゼラチン又はコラーゲンからなる、物理架橋されたナノファイバーを含有してなり、該ナノファイバーは、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を用いたアミノ基定量法による架橋度が50~85%である、多能性幹細胞の培養基材。上記基材上に多能性幹細胞を播種し、該細胞を静置培養することを特徴とする、多能性幹細胞の維持増幅方法。【選択図】なし
Description
本発明は、細胞培養基材、及び細胞培養方法に関する。具体的には、本発明は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞、特にヒト多能性幹細胞の培養に適した培養基材、並びにそれを用いた多能性幹細胞の培養方法に関する。より詳細には、本発明は、ゼラチン、コラーゲン等のタンパク質からなるナノファイバーを用いた多能性幹細胞の培養用基材、並びにそれを用いて、継代時、酵素処理を行うことなく単一細胞にまで分散させることによる、多能性幹細胞の維持増幅方法に関する。
多能性幹細胞(ES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞、又は胚性生殖細胞(EG細胞)を含む)は無限に増殖することができ、人間のあらゆる体細胞に分化する性質を持つことより、再生医療や創薬スクリーニングなどの応用が期待されており、iPS細胞から作製された角膜や心筋シートなどが、既に臨床試験で使用されている。これまで報告されてきた多能性幹細胞の接着培養では遺伝子組み換えタンパクであるラミニンやマトリゲルといった細胞培養基材が使用されてきたが、これらの基材は培養開始までの準備工程が多くありコンタミネーションの危険性や、ロット間での性能の差があることなどが課題とされてきた。特にマトリゲルは動物由来であり、xenoフリーの基材材料ではない。
一方、これ以外の培養基材として電界紡糸法(エレクトロスピニング法)から作製されるナノファイバーを用いたiPS細胞の培養方法が提唱されている。特にゼラチンをナノファイバーに加工し、その上でiPS細胞を培養すると20継代以上の長期培養でも未分化状態と分化能を維持することが分かっている(非特許文献1)。また、ゼラチンナノファイバーとiPS細胞は比較的弱い接着力にて接着しているため、細胞を回収する際にトリプシン等のタンパク質分解酵素を使用しなくても回収できるため、細胞ダメージを最小限に抑えた培養ができ、多能性能がゼラチンナノファイバー以外の基材で培養した場合より高くなることも明らかとなっている。さらに、ゼラチンナノファイバーを用いることでヘテロなiPS細胞群から2つの性質の異なるiPS細胞をシングルレベルで単離することも可能となっており、性能の揃ったiPS細胞を供給できるため、より安全な細胞の供給や再現性の高い研究などへの期待ができる(非特許文献2)。そして、ゼラチンナノファイバー上で培養したiPS細胞を直接に神経、心筋細胞へ分化誘導させると、得られた神経と心筋細胞の成熟度が高く、機能性が高いことも報告されている(非特許文献3、4)。よって、ゼラチンナノファイバーは従来の培養方法では得られない高性能を持つiPS細胞、分化細胞の供給に期待ができる材料である。
ゼラチンナノファイバーはゼラチン粉末を溶媒に溶解した溶液をエレクトロスピニング法にて作製することができる。通常、ゼラチンナノファイバーは水に対する溶解性が極めて高いため、架橋処理により耐水性を付与する必要がある。
一般に、ゼラチンナノファイバーを細胞培養基材として使用する場合には化学架橋剤にてゼラチン分子間を架橋させ耐水化した後に使用するが、化学架橋剤には細胞毒性のある水溶性カルボジイミドやアルデヒド系の架橋剤が用いられる(特許文献1)。これらの薬剤はゼラチンナノファイバーを利用した細胞培養基材を製造するにあたり高コストの原因となる。架橋処理時間も数時間から数十時間を要することがゼラチンナノファイバーを利用した細胞培養基材の生産における実用上の課題であった。
L. Liu, et. al., Biomaterial 35, 6259-6267 (2014) doi: 10.1016/j.biomaterials.2014.04.024
L. Yu et. al., Stem Cell Reports. 11(1), 142-156 (2018)
Y. Tang, et. al., Journal of Materials Chemistry B 4, 3305-3312 (2016)
L. Yu et.al., Advanced Healthcare Materials 8(13), 190016 (2019) doi.org/10.1002/adhm.201900165
本発明の目的は、ゼラチン、コラーゲン等のタンパク質からなるナノファイバーを安価で簡便な処方により耐水性を付与し、多能性幹細胞を長期間、未分化培養できる、安価な培養基材を提供することである。また、本発明は、当該基材を用いた多能性幹細胞の培養方法を提供することも目的とする。
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、未架橋のゼラチンナノファイバーを物理的な処理により架橋させ、耐水化させる方法に着目した。
物理的な処理によりゼラチンを耐水化させる方法として、減圧下で140℃程度の高温で一定時間加熱する方法が提案されている(特許文献2)。この方法はマイクロファイバーからなるゼラチン不織布を加熱処理による脱水縮合反応を用いてゼラチン分子を架橋し耐水化させている。しかしこの方法は処理時間に48時間を要する。また、ゼラチンナノファイバーの耐水化は上記の条件では達成できない。
本発明者らは、エレクトロスピニング法にて作製したゼラチンナノファイバーをガラス製のカルチャーガラスに吹き付けた後、220℃前後の高温で加熱した。その結果、ゼラチンナノファイバーは耐水性を示し、水中でも繊維構造を維持していることを確認した。さらにヒトiPS細胞の10継代に及ぶ長期培養も可能であることが判明した。さらに、免疫細胞染色法とフローサイトメトリー法による評価にて10継代目のiPS細胞が90%以上未分化状態で維持増殖していることが分かり、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1] ゼラチン又はコラーゲンからなる、物理架橋されたナノファイバーを含有してなり、該ナノファイバーは、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を用いたアミノ基定量法による架橋度が50~85%である、多能性幹細胞の培養基材。
[2] 前記ナノファイバーは、前記TNBSを用いたアミノ基定量法による架橋度が75~80%である、[1]に記載の基材。
[3] 前記多能性幹細胞がiPS細胞である、[1]又は[2]に記載の基材。
[4] 前記多能性幹細胞がヒト由来である、[1]~[3]のいずれかに記載の基材。
[5] [1]又は[2]に記載の基材上に多能性幹細胞を播種し、該細胞を静置培養することを特徴とする、多能性幹細胞の維持増幅方法。
[6] 酵素を含まない解離液を用いて基材から多能性幹細胞を解離させ、該細胞を[1]又は[2]に記載の基材上に播種し、該細胞をさらに静置培養することを特徴とする、[5]に記載の方法。
[7] 継代時に、多能性幹細胞を単一細胞にまで分散させることを特徴とする、[6]に記載の方法。
[8] 多能性幹細胞を無血清培地で培養することを特徴とする、[5]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 前記無血清培地がxenoフリー培地である、[8]に記載の方法。
[10] 前記無血清培地がタンパク質不含培地である、[8]に記載の方法。
[11] 前記多能性幹細胞がiPS細胞である、[5]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12] 前記多能性幹細胞がヒト由来である、[5]~[11]のいずれかに記載の方法。
[1] ゼラチン又はコラーゲンからなる、物理架橋されたナノファイバーを含有してなり、該ナノファイバーは、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を用いたアミノ基定量法による架橋度が50~85%である、多能性幹細胞の培養基材。
[2] 前記ナノファイバーは、前記TNBSを用いたアミノ基定量法による架橋度が75~80%である、[1]に記載の基材。
[3] 前記多能性幹細胞がiPS細胞である、[1]又は[2]に記載の基材。
[4] 前記多能性幹細胞がヒト由来である、[1]~[3]のいずれかに記載の基材。
[5] [1]又は[2]に記載の基材上に多能性幹細胞を播種し、該細胞を静置培養することを特徴とする、多能性幹細胞の維持増幅方法。
[6] 酵素を含まない解離液を用いて基材から多能性幹細胞を解離させ、該細胞を[1]又は[2]に記載の基材上に播種し、該細胞をさらに静置培養することを特徴とする、[5]に記載の方法。
[7] 継代時に、多能性幹細胞を単一細胞にまで分散させることを特徴とする、[6]に記載の方法。
[8] 多能性幹細胞を無血清培地で培養することを特徴とする、[5]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 前記無血清培地がxenoフリー培地である、[8]に記載の方法。
[10] 前記無血清培地がタンパク質不含培地である、[8]に記載の方法。
[11] 前記多能性幹細胞がiPS細胞である、[5]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12] 前記多能性幹細胞がヒト由来である、[5]~[11]のいずれかに記載の方法。
発明者らは、ゼラチンナノファイバーの架橋処理における従来の問題を克服するべく、化学架橋法ではなく物理架橋法にてゼラチンナノファイバーに耐水性を付与することを考案した。本発明においてゼラチンナノファイバーの耐水化処理において化学架橋剤は一切使用しておらず、処理時間も従来の1/8(30分)程度になることでゼラチンナノファイバーを利用した細胞培養基材を安価で提供することが可能となる。これにより、従来のゼラチンナノファイバーを利用した細胞培養基材の製造における実用上の課題を解決できる。また、化学架橋剤による細胞への毒性問題も解決できる。さらに本発明の細胞培養基材を用いてiPS細胞の10継代までの未分化培養も確認することができ、実用に足る培養基材の開発に至っている。本発明の細胞培養基材を用いることにより、iPS細胞を従来より安価で大量に供給することができるようになると考えられる。
本発明は、ゼラチン又はコラーゲンからなる、物理架橋されたナノファイバーを含有してなり、該ナノファイバーは、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を用いたアミノ基定量法による架橋度が50~85%である、多能性幹細胞の培養基材(以下、本発明の培養基材と略記する場合がある)を提供する。
本発明の培養基材が適用可能な多能性幹細胞は、未分化状態を保持したまま増殖できる「自己増幅能」と三胚葉系列すべてに分化できる「分化多能性」とを有する未分化細胞であれば特に制限されず、例えば、ES細胞、iPS細胞の他、始原生殖細胞に由来する胚性生殖(EG)1細胞、精巣組織からのGS細胞の樹立培養過程で単離されるmultipotent germlinestem(mGS)細胞、骨髄から単離されるmultipotent adult progenitor cell(MAPC)等が挙げられる。ES細胞は体細胞から核初期化されて生じたES細胞であってもよい。好ましくはES細胞又はiPS細胞である。
架橋を大別すると、高分子化合物が化学反応による共有結合により連結された化学架橋と、高分子化合物が実質的に共有結合以外の分子間力(分子同士又は高分子化合物での離れた部位同士の間に働く力。例えば、水素結合、イオン結合、又は配位結合など。)により連結された物理架橋が挙げられる。このうち、本発明の培養基材は、後者の物理架橋されたナノファイバーを含有してなることを特徴とする。
本発明の培養基材を構成するナノファイバーは、ゼラチン又はコラーゲンからなる。ゼラチンは、例えば、ブタ、及び、ウシ等の哺乳類に由来するもの;ニワトリ、及び、ダチョウ等の鳥類に由来するもの;サケ、タラ、及び、チョウザメ等の魚類に由来するもの;等が挙げられる。ゼラチンは、典型的にはコラーゲンを変性して可溶化させたものであるところ、コラーゲンは、上記動物の皮、骨、及び、鱗等のいずれの部位から取得されたものであってもよい。好ましくは、本発明の培養基材を構成するナノファイバーは、ゼラチンからなるゼラチンナノファイバーである。
本発明の培養基材を構成するナノファイバーは、典型的には、エレクトロスピニング法にて作製できる。エレクトロスピニング法は従来公知の手法に従って実施することができる。エレクトロスピニング法の原理は、静電気力を高分子溶液に印加することでナノサイズの繊維にすることである。具体的には、例えば、ゼラチン、コラーゲン等のタンパク質を溶解した高分子溶液をシリンジに充てんし、先端に注射針のようなノズルを設置したものに、シリンジポンプを接続して流速を与えるようにする。ノズルから適当な距離の位置にナノファイバーが収集するコレクタを設置し、ノズル側に電源の+極、コレクタ側に-極を接続する。シリンジポンプの電源を入れるとともに、電圧をかけることにより、コレクタ上に高分子溶液の溶質が噴射され、ナノファイバーが形成される。
ここで、電圧、ノズルからコレクタまでの距離、ノズルの内径などにより、繊維形態や繊維径が変動するが、当業者であれば、これらを適宜選択して所望の繊維径を有し、かつ均一なナノファイバーを作製することができる。
なお、上述のコレクタは、平板でもよいし、巻き取り式とすることもできる。また、平板状のコレクタ上に基板、例えばガラス等を設置して、基板上にナノファイバーが形成されたものを培養基材とすることもできる。
ここで、電圧、ノズルからコレクタまでの距離、ノズルの内径などにより、繊維形態や繊維径が変動するが、当業者であれば、これらを適宜選択して所望の繊維径を有し、かつ均一なナノファイバーを作製することができる。
なお、上述のコレクタは、平板でもよいし、巻き取り式とすることもできる。また、平板状のコレクタ上に基板、例えばガラス等を設置して、基板上にナノファイバーが形成されたものを培養基材とすることもできる。
さらに、エレクトロスピニング法としては上述のノズルを使用する態様に限定されず、例えば、後述の実施例で用いたノズルを使用しない態様など、各種条件を採用することもできる。
具体的には、ノズルを使用しない態様としては、特開2008-025057に記載の方法を採用することができる。当該方法は、高分子溶液又は高分子融液に連続的に発生した泡に高電圧を印加することにより静電紡糸を行なうことを特徴としている。ここで、高分子溶液として、上述したゼラチン、コラーゲン等のタンパク質を溶解した高分子溶液を用いることで、任意の基材上にナノファイバーを堆積させることができる。なお、当該方法はノズルを使用せず、高分子溶液に発生させた泡(バブル)からナノファイバーを作製する手法であるため、本発明者らはこれを「エレクトロバブルスピニング法」とも称している。
具体的には、ノズルを使用しない態様としては、特開2008-025057に記載の方法を採用することができる。当該方法は、高分子溶液又は高分子融液に連続的に発生した泡に高電圧を印加することにより静電紡糸を行なうことを特徴としている。ここで、高分子溶液として、上述したゼラチン、コラーゲン等のタンパク質を溶解した高分子溶液を用いることで、任意の基材上にナノファイバーを堆積させることができる。なお、当該方法はノズルを使用せず、高分子溶液に発生させた泡(バブル)からナノファイバーを作製する手法であるため、本発明者らはこれを「エレクトロバブルスピニング法」とも称している。
上記のようにして生成するナノファイバーは、1~1000nm、好ましくは10~800nm、より好ましくは50~300nmの繊維径(繊維直径)を有するものであればよい。
本発明の培養基材では、ナノファイバーに耐水性を付与し、かつ継代時の細胞の解離を容易にするために、生成したナノファイバーは物理的な処理により架橋させ、耐水化させる。具体的には、生成したナノファイバーを、200℃以上、好ましくは220℃の温度条件で加熱し、ナノファイバーを物理架橋させる。加熱時間としては特に制限されず、温度条件に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱温度が200℃の場合、加熱時間は120分以上とすることが好ましい。加熱温度が220℃の場合、加熱時間は30分以上とすることが好ましい。
本発明の培養基材の耐水性は、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を用いたアミノ基定量法にて評価することができる。本発明の培養基材は、当該TNBSを用いたアミノ基定量法による架橋度が50~85%であり、好ましくは75~80%である。これにより、本発明の培養基材は、多能性幹細胞の培養基材として使用するのに適した耐水性を有し、10継代以上の長期培養が可能な培養基材となる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[ゼラチンナノファイバーの作製]
(1)材料
ゼラチン溶液
・ゼラチン(豚皮由来TypeA ゼラチン、APH 150; 新田ゼラチン(株))
・ジメチルアセトアミド(DMAC)
・精製水
カルチャーカバーガラス
・Φ25mm円形ガラス(C1200、松浪硝子工業(株))
(1)材料
ゼラチン溶液
・ゼラチン(豚皮由来TypeA ゼラチン、APH 150; 新田ゼラチン(株))
・ジメチルアセトアミド(DMAC)
・精製水
カルチャーカバーガラス
・Φ25mm円形ガラス(C1200、松浪硝子工業(株))
(2)操作手順
20wt%ゼラチン溶液の作製
20gのゼラチン粉末を16gの水に溶解させたのち、攪拌しながらDMACを投入し混合させた。
20wt%ゼラチン溶液の作製
20gのゼラチン粉末を16gの水に溶解させたのち、攪拌しながらDMACを投入し混合させた。
エレクトロスピニング法によるゼラチンナノファイバーの作製
上記にて作製したゼラチン溶液を径80mmステンレススチール製円筒容器に投入し底面から圧縮空気を供給しゼラチン溶液のバブルを発生させた。ゼラチンナノファイバーを吹き付けるガラスを固定したアルミ板をバブル表面から15cmの位置に設置した。ゼラチン溶液に55kVの直流高電圧を印加し、ガラス上にゼラチンナノファイバーを積層させた。図1は、本実施例で用いたエレクトロバブルスピニング法によりゼラチンナノファイバーを作製する様子を示す写真である。
上記にて作製したゼラチン溶液を径80mmステンレススチール製円筒容器に投入し底面から圧縮空気を供給しゼラチン溶液のバブルを発生させた。ゼラチンナノファイバーを吹き付けるガラスを固定したアルミ板をバブル表面から15cmの位置に設置した。ゼラチン溶液に55kVの直流高電圧を印加し、ガラス上にゼラチンナノファイバーを積層させた。図1は、本実施例で用いたエレクトロバブルスピニング法によりゼラチンナノファイバーを作製する様子を示す写真である。
加熱処理によるゼラチンナノファイバーの耐水化
上記にて作製したゼラチンナノファイバーを220℃で加熱したオーブンに投入し30分間加熱し耐水化した。
また、比較のために、加熱温度を140℃、180℃、200℃、260℃に設定し、上記と同様の方法で作製したゼラチンナノファイバーの耐水化処理を行った。
上記にて作製したゼラチンナノファイバーを220℃で加熱したオーブンに投入し30分間加熱し耐水化した。
また、比較のために、加熱温度を140℃、180℃、200℃、260℃に設定し、上記と同様の方法で作製したゼラチンナノファイバーの耐水化処理を行った。
[ヒト多能性幹細胞のゼラチンナノファイバー上への継代方法]
(1)材料
・mTeSR 1 STEM CELL ペリタス ST-05850
・Y-27632 Wako 257-00511(1mg) 253-00513(5mg)
・Cell Dissociation Buffer enzyme-free, Hanks’-based GIBCO 13150-016
・ヒト人工多能性幹細胞:253G1
(1)材料
・mTeSR 1 STEM CELL ペリタス ST-05850
・Y-27632 Wako 257-00511(1mg) 253-00513(5mg)
・Cell Dissociation Buffer enzyme-free, Hanks’-based GIBCO 13150-016
・ヒト人工多能性幹細胞:253G1
(2)操作手順
ナノファイバーの前処理
35mmディッシュ(6-well プレート)にゼラチンナノファイバーをセットし、99.5%エタノール 1mLで3回洗浄し滅菌処理した。3回目は丁寧に吸引し、クリーンベンチ内で乾燥した。ゼラチンナノファイバーを培地に浸し、37℃でインキュベートした。25mmガラスに作製したナノファイバーにはmTeSR 1を250μL、表面張力を利用してゼラチンナノファイバー上にのせた。
ナノファイバーの前処理
35mmディッシュ(6-well プレート)にゼラチンナノファイバーをセットし、99.5%エタノール 1mLで3回洗浄し滅菌処理した。3回目は丁寧に吸引し、クリーンベンチ内で乾燥した。ゼラチンナノファイバーを培地に浸し、37℃でインキュベートした。25mmガラスに作製したナノファイバーにはmTeSR 1を250μL、表面張力を利用してゼラチンナノファイバー上にのせた。
ナノファイバーからナノファイバーへの継代
PBSで2回細胞をリンスした後、酵素不含細胞解離液Cell Dissociation Buffer 1mLを加え、37℃で5分間インキュベートした後、該解離液を吸引除去した。mTeSR1(+Y27632)2mLで細胞を回収し(1mL×2回)、10回ぐらいピペッティングし、シングルセルにした。1000rpmで3分間遠心し上清を吸引除去し、mTeSR1(+Y27632)で、必要な細胞濃度に再懸濁した。前処理していたナノファイバー上の培地を吸引除去し、25mmガラスに作製したナノファイバーには、上記細胞懸濁液を250μL(細胞密度は1.5~2X10e5 cells/sample)を播種する。30分後、細胞は接着したら、2mLのmTeSR1(+Y27632)を添加した。2日目からY-27632を含まないmTeSR1で培養し、毎日培地交換を行った。
PBSで2回細胞をリンスした後、酵素不含細胞解離液Cell Dissociation Buffer 1mLを加え、37℃で5分間インキュベートした後、該解離液を吸引除去した。mTeSR1(+Y27632)2mLで細胞を回収し(1mL×2回)、10回ぐらいピペッティングし、シングルセルにした。1000rpmで3分間遠心し上清を吸引除去し、mTeSR1(+Y27632)で、必要な細胞濃度に再懸濁した。前処理していたナノファイバー上の培地を吸引除去し、25mmガラスに作製したナノファイバーには、上記細胞懸濁液を250μL(細胞密度は1.5~2X10e5 cells/sample)を播種する。30分後、細胞は接着したら、2mLのmTeSR1(+Y27632)を添加した。2日目からY-27632を含まないmTeSR1で培養し、毎日培地交換を行った。
(3)結果
ゼラチンナノファイバーの繊維形態、繊維径分布
Φ25mmの円形ガラスに吹き付けられたゼラチンナノファイバーの電子顕微鏡写真を図2に示す。図2中のスケールバーは、1μmである。また、図3に電子顕微鏡写真から繊維径を測定した結果を示す。図2及び図3から平均繊維径約100nm程度のゼラチンナノファイバーが得られ、繊維径分布も比較的均一であることが分かった(平均(AV):106nm、標準偏差(SD):15、変動係数(CV):14%)。
ゼラチンナノファイバーの繊維形態、繊維径分布
Φ25mmの円形ガラスに吹き付けられたゼラチンナノファイバーの電子顕微鏡写真を図2に示す。図2中のスケールバーは、1μmである。また、図3に電子顕微鏡写真から繊維径を測定した結果を示す。図2及び図3から平均繊維径約100nm程度のゼラチンナノファイバーが得られ、繊維径分布も比較的均一であることが分かった(平均(AV):106nm、標準偏差(SD):15、変動係数(CV):14%)。
ゼラチンナノファイバーの加熱処理条件に対する架橋度
ゼラチンナノファイバーの架橋度を、TNBSを用いたアミノ基定量法にて算出した。結果を図4に示す。図4に示す5つのグラフは、左側から右側の順に、加熱温度が260℃、220℃、200℃、180℃、140℃の場合である。いずれの温度条件の場合でも、加熱時間が長くなるにつれゼラチンナノファイバーの架橋度が上昇していく。加熱温度が260℃の場合、10分間の加熱で架橋度が約80%になり耐水性が付与されるが、炭化して着色してしまう。加熱温度が220℃の場合は30分間の加熱で架橋度が約80%になる。220℃の加熱では炭化は起こらない。加熱温度が200℃の場合は120分間の加熱で架橋度が約75%となる。一方、加熱温度が180℃、140℃の場合、それぞれ24時間、48時間加熱しても架橋度は30%以下となり、十分な耐水性が得られず、水中でナノファイバーが溶解して繊維構造が崩壊してしまう。以上の結果より、ゼラチンナノファイバーを物理架橋させる際の加熱処理条件としては、加熱温度が200℃以上であることが好ましく、加熱温度が220℃以上であるとより短い時間で75%以上、より具体的には80%程度の架橋度で架橋されたゼラチンナノファイバーを得られることが分かった。なお、後述するiPS細胞の培養試験では、短時間の加熱でゼラチンナノファイバーの炭化が起こらない条件である220℃で30分間の加熱処理を施したゼラチンナノファイバーを用いることとした。
ゼラチンナノファイバーの架橋度を、TNBSを用いたアミノ基定量法にて算出した。結果を図4に示す。図4に示す5つのグラフは、左側から右側の順に、加熱温度が260℃、220℃、200℃、180℃、140℃の場合である。いずれの温度条件の場合でも、加熱時間が長くなるにつれゼラチンナノファイバーの架橋度が上昇していく。加熱温度が260℃の場合、10分間の加熱で架橋度が約80%になり耐水性が付与されるが、炭化して着色してしまう。加熱温度が220℃の場合は30分間の加熱で架橋度が約80%になる。220℃の加熱では炭化は起こらない。加熱温度が200℃の場合は120分間の加熱で架橋度が約75%となる。一方、加熱温度が180℃、140℃の場合、それぞれ24時間、48時間加熱しても架橋度は30%以下となり、十分な耐水性が得られず、水中でナノファイバーが溶解して繊維構造が崩壊してしまう。以上の結果より、ゼラチンナノファイバーを物理架橋させる際の加熱処理条件としては、加熱温度が200℃以上であることが好ましく、加熱温度が220℃以上であるとより短い時間で75%以上、より具体的には80%程度の架橋度で架橋されたゼラチンナノファイバーを得られることが分かった。なお、後述するiPS細胞の培養試験では、短時間の加熱でゼラチンナノファイバーの炭化が起こらない条件である220℃で30分間の加熱処理を施したゼラチンナノファイバーを用いることとした。
ゼラチンナノファイバー上でのiPS細胞の培養
上述の、220℃で30分間、加熱処理を施したゼラチンナノファイバーを用いてiPS細胞の培養を行った。その結果、10継代の継代培養が可能となった。1継代目と10継代目のiPS細胞の顕微鏡写真を図5に示す。図5中のスケールバーは、500μmである。培養されたiPS細胞は綺麗なコロニー形成をしながら増殖していることが分かった。
上述の、220℃で30分間、加熱処理を施したゼラチンナノファイバーを用いてiPS細胞の培養を行った。その結果、10継代の継代培養が可能となった。1継代目と10継代目のiPS細胞の顕微鏡写真を図5に示す。図5中のスケールバーは、500μmである。培養されたiPS細胞は綺麗なコロニー形成をしながら増殖していることが分かった。
免疫染色法による多能性幹細胞マーカー発現
ゼラチンナノファイバー上で培養したiPS細胞(10継代目)を免疫染色することにより、多能性幹細胞マーカーであるNanog、OCT3/4及びDAPIの発現を調査した。結果を図6に示す。図6中のスケールバーは、100μmである。10継代目にて多能性幹細胞マーカーが強く発現していることが分かった。
ゼラチンナノファイバー上で培養したiPS細胞(10継代目)を免疫染色することにより、多能性幹細胞マーカーであるNanog、OCT3/4及びDAPIの発現を調査した。結果を図6に示す。図6中のスケールバーは、100μmである。10継代目にて多能性幹細胞マーカーが強く発現していることが分かった。
フローサイトメトリーによる多能性幹細胞マーカーの定量解析
ゼラチンナノファイバー上で10継代培養したiPS細胞における多能性幹細胞表面マーカーのSSEA4の発現を、フローサイトメトリーを用いて解析した。結果を図7に示す。ゼラチンナノファイバー上にて93.2%でSSEA4が発現していることが分かった。
ゼラチンナノファイバー上で10継代培養したiPS細胞における多能性幹細胞表面マーカーのSSEA4の発現を、フローサイトメトリーを用いて解析した。結果を図7に示す。ゼラチンナノファイバー上にて93.2%でSSEA4が発現していることが分かった。
以上の結果から、TNBSを用いたアミノ基定量法による架橋度が約80%であるゼラチンナノファイバーを含有してなる培養基材が、iPS細胞の培養基材として使用するのに好適であることが分かった。当該基材と同様に、TNBSを用いたアミノ基定量法による架橋度が約75%であるゼラチンナノファイバー(200℃で120分間の加熱処理を施したゼラチンナノファイバー)を含有してなる培養基材も、水中で繊維構造を維持できるので、iPS細胞の培養基材として使用できると考えられる。さらには、TNBSを用いたアミノ基定量法による架橋度が50~85%であるゼラチンナノファイバーを含有してなる培養基材は、水中で繊維構造を維持できる限りにおいて、iPS細胞の培養基材として使用できると考えられる。
従来のiPS細胞の培養方法では培養実験前にシャーレやカルチャーグラスにラミニンやマトリゲル等の基材をコーティングする作業を要するが、均一なコートが出来なかったり、速やかなコーティングをしないと基材がゲル化したりするなどの問題があった。これに対して、ゼラチン、コラーゲン等のタンパク質からなるナノファイバーから構成される本発明の培養基材では、そういった作業がなく実験作業者の負担が少ない。また、本発明の培養基材を構成するナノファイバーは非常に安定であり、室温保存半年以上でも品質は変わらない。そして、コスト面ではΦ25mmのカルチャーグラスを使用した場合、ラミニンは約600円~1200円、マトリゲルは約200円、従来の化学架橋で得られるゼラチンナノファイバーは約400円なのに対し、例えば上述の実施例で使用したエレクトロバブルスピニング法で得られるゼラチンナノファイバーは約100円となり、価格面でも優位となる。
さらに、近年ではiPS細胞の自動大量培養装置が開発され、全自動で大量のiPS細胞を作製する技術開発が行われている。その装置では培養基材を用いてiPS細胞を培養している。この様な装置の培養基材に本発明の培養基材を使用することで、安定的で安価なiPS細胞の供給に貢献できる。
Claims (12)
- ゼラチン又はコラーゲンからなる、物理架橋されたナノファイバーを含有してなり、該ナノファイバーは、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を用いたアミノ基定量法による架橋度が50~85%である、多能性幹細胞の培養基材。
- 前記ナノファイバーは、前記TNBSを用いたアミノ基定量法による架橋度が75~80%である、請求項1に記載の基材。
- 前記多能性幹細胞がiPS細胞である、請求項1又は2に記載の基材。
- 前記多能性幹細胞がヒト由来である、請求項1~3のいずれか一項に記載の基材。
- 請求項1又は2に記載の基材上に多能性幹細胞を播種し、該細胞を静置培養することを特徴とする、多能性幹細胞の維持増幅方法。
- 酵素を含まない解離液を用いて基材から多能性幹細胞を解離させ、該細胞を請求項1又は2に記載の基材上に播種し、該細胞をさらに静置培養することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
- 継代時に、多能性幹細胞を単一細胞にまで分散させることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
- 多能性幹細胞を無血清培地で培養することを特徴とする、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
- 前記無血清培地がxenoフリー培地である、請求項8に記載の方法。
- 前記無血清培地がタンパク質不含培地である、請求項8に記載の方法。
- 前記多能性幹細胞がiPS細胞である、請求項5~10のいずれか一項に記載の方法。
- 前記多能性幹細胞がヒト由来である、請求項5~11のいずれか一項に記載の方法。
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