JP2023013992A - セルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法 - Google Patents

セルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】セルロースナノファイバーによる補強効果を向上させた熱可塑性エラストマー組成物を実現する。【解決手段】セルロースナノファイバーを含有する熱可塑性エラストマー組成物からなり、前記セルロースナノファイバーと熱可塑性エラストマーの官能基とが化学結合しており、前記セルロースナノファイバーの数平均繊維径が2nm以上30nm以下である、セルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物を用いる。【選択図】なし

Description

この発明は、セルロースナノファイバーを化学結合させた熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法に関する。
ポリウレタン系の樹脂組成物は、弾性、引張強度、耐摩耗性などに優れたプラスチックの一種として、様々な用途に使用されている。例えば、接着剤や塗料の原材料、伸縮性の高いスポーツ用品向けの繊維や、ウレタンフォームとしてクッションやスポンジなど、用途は多岐に亘る。基本的にはポリオールとポリイソシアネートとを重合させたポリウレタンであるが、これに様々な添加物を加えて物性を改良しようとする試みが多々検討されている。
一方、植物繊維をナノレベルにまで細かく解繊したセルロースナノファイバーを樹脂に含有させることにより、引張強度などの各種強度を向上させる技術が知られている。しかし、セルロースナノファイバーは水酸基を多く有することから親水性で極性が高いため、疎水性で極性が低い樹脂との相溶性は十分ではない。そこで、親水性が高いポリオール中にセルロースナノファイバーを分散させ、そのポリオールを重合反応に使用することで、合成した樹脂中にセルロースナノファイバーを含有させて樹脂の強度を向上させることが提案されている。
特許文献1には、セルロースナノファイバーを含む液状の多価アルコール又は液状かつ複数の水酸基を有する多価アルコールの誘導体を準備し、それらの水酸基と結合する官能基を複数有する化合物を反応させて高分子化合物を合成する、セルロース繊維強化複合体の製造方法が提案されている。
非特許文献1には、セルロースナノクリスタル(CNC)の凍結乾燥物をDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)に分散させ、プレポリマー法によりポリウレタンを合成することが記載されている。ポリイソシアネートとCNCとが共有結合することで、CNCが未添加のポリウレタンに比べて、強度が大幅に向上する。
特許第5116012号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、セルロースナノファイバーが樹脂中に分散して存在するものの、セルロース繊維のネットワーク構造のみで補強しているため、補強効果が不十分であった。
また、非特許文献1に記載の方法では、CNCをDMF中に分散させるため、一旦凍結乾燥させなければならない。この凍結乾燥により、ナノオーダーのCNCが一部凝集して分散状態を維持できず、補強効果が不十分であった。
そこでこの発明は、セルロースナノファイバーによる補強効果をさらに向上させた樹脂組成物を実現することを目的とする。
この発明は、セルロースナノファイバーを含有する熱可塑性エラストマー組成物からなり、前記セルロースナノファイバーと熱可塑性エラストマーの官能基とが化学結合しており、前記セルロースナノファイバーの数平均繊維径が2nm以上30nm以下である、
セルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物により、上記の課題を解決した。
前記セルロースナノファイバーが単に熱可塑性エラストマーの中に存在するだけでは、数平均繊維径が2nm以上30nm以下の状態で、凝集せずに分散されたまま、緻密なネットワーク構造を形成できたとしても、補強効果はその構造が寄与するのみである。しかし、前記セルロースナノファイバーが熱可塑性エラストマーの官能基と化学結合していると、ネットワーク構造の補強効果をさらに増幅させることができる。特に、ポリオールとポリイソシアネートとが重合して得られる熱可塑性エラストマーでは、セルロースナノファイバーの水酸基が一部のポリオールに代わってポリイソシアネートと反応して化学結合を形成し、主鎖の一部に前記セルロースナノファイバーを取り込んだ高分子が合成されることで、全体に前記セルロースナノファイバーが均一に分散し、補強効果がさらに向上した組成物とすることができる。
この発明にかかるセルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物を製造する手順としては、再分散剤と、セルロースナノファイバーと、水と、を含有するセルロースナノファイバー組成物を、有機溶媒と混合して、液中にセルロースナノファイバーを分散させたセルロースナノファイバー再分散液を調製し、このセルロースナノファイバー再分散液を、熱可塑性エラストマーのソフトセグメントとなるポリオール化合物及びポリイソシアネートと混合して反応させてプレポリマーを合成し、その後ハードセグメントとなる鎖伸長剤を添加して反応させることで得られるというもので、この場合は溶液重合プレポリマー法と呼ぶ。セルロースナノファイバー再分散液は、有機溶媒中でセルロースナノファイバーが良く分散されており、それをソフトセグメントとなるポリオール化合物及びポリイソシアネートと混合すると、ポリイソシアネートは全てがポリオール化合物と反応するのではなく、一部は分散されたセルロースナノファイバーの水酸基とも反応して化学結合を生じる。このとき、有機溶媒の一部あるいは全部をポリオール化合物に置き換えてセルロースナノファイバー再分散液を調製し、そこへポリイソシアネートを混合して反応させてプレポリマーを合成してもよい。なお、有機溶媒の全部をポリオール化合物に置き換えるとバルク重合となり、この場合はバルク重合プレポリマー法と呼ぶ。溶液重合プレポリマー法とバルク重合プレポリマー法とのいずれの製造方法であっても、セルロースは複数の水酸基を有するので、ポリイソシアネートと結合したセルロースナノファイバーは、ポリオール化合物の代わりに熱可塑性エラストマープレポリマーの主鎖に取り込まれる。その後、ハードセグメントとなる鎖伸長剤を添加させて反応させることで、熱可塑性エラストマーが得られる。こうして出来るセルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物は、その構造の内部に、化学結合されたセルロースナノファイバーを分散して含有することになり、セルロースナノファイバーによる補強効果が十分に発揮される。
このセルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマーを製造する製造方法としては、前記セルロースナノファイバー組成物が、含水率が1質量%以上10質量%以下であり、前記セルロースナノファイバーと前記ポリオール化合物との質量混合比が1:2~1:20である実施形態を採用できる。
この発明にかかるセルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物は、組成物中に熱可塑性エラストマーと化学結合されたセルロースナノファイバーが均一に分散して取り込まれているため、組成物全体でセルロースナノファイバーによる補強効果を発揮し、優れた性質を提供できる。
溶液重合プレポリマー法の実施例1と溶液重合ワンショット法の比較例1との重合方法の違いによる強度測定結果を示すグラフ セルロースナノファイバーが分散された実施例2と、凍結乾燥物を用いた比較例2との違いによる強度測定結果を示すグラフ (a)実施例2のフィルム断面の蛍光顕微鏡写真、(b)比較例2のフィルム断面の蛍光顕微鏡写真 セルロースナノファイバーの添加量の違いによる強度測定結果を示すグラフ セルロースナノファイバーの種類の違いによる強度測定結果を示すグラフ (a)溶液重合ワンショット法で得られたフィルム同士のセルロースナノファイバーの有無によるIR測定結果の違いを示すグラフ、(b)溶液重合プレポリマー法で得られたフィルム同士のセルロースナノファイバーの有無によるIR測定結果の違いを示すグラフ 別の再分散剤を用いた場合における、セルロースナノファイバーの有無による強度測定結果を示すグラフ ソフトセグメントの違いによる強度測定結果を示すグラフ バルク重合プレポリマー法で得られたフィルム同士のセルロースナノファイバーの有無による強度測定結果を示すグラフ 実施例及び比較例における熱可塑性エラストマー組成物のDMFへの溶解状況を示す写真
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、セルロースナノファイバーを含有する熱可塑性エラストマー組成物からなり、前記セルロースナノファイバーの数平均繊維径が2nm以上30nm以下であり、前記セルロースナノファイバーと熱可塑性エラストマーの官能基とが化学結合したセルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物である。
この発明において用いるセルロースナノファイバー(以下、「CNF」と略記する)は、セルロース材料に加工を加えて微細繊維化したものである。セルロースの分子構造に変化のないものだけでなく、セルロースの分子構造の一部を化学変性したものと一旦化学変性したものをセルロースに再生したものであってもよく、これらを含みうる。
化学変性したセルロースとしては、例えば、TEMPO(2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxyl radical)酸化したTEMPO酸化セルロース、カルボキシメチル化したカルボキシメチルセルロース、リン酸エステル化したリン酸エステル化セルロース、アルカリ処理したセルロースに二硫化炭素を加えてザンテート基(-OCSS)を導入したザンテート化セルロースなどが挙げられる。パルプ等の材料からなるセルロース材料を化学変性すると、セルロース材料をそのまま解繊するよりも容易にナノファイバーの状態にしやすい。この化学変性して解繊されたCNFを「化学変性CNF」と呼ぶ。なお、化学変性したセルロースのうち、リン酸エステル化セルロースとザンテート化セルロースは、再生処理して容易にセルロースに戻すことが可能なため好ましい。化学変性CNFの化学変性したセルロースの分子構造をセルロースに戻す再生処理をして得られるCNFを「再生CNF」と呼ぶ。
この発明においては、以下の説明の中で、単純にセルロース材料を解繊したものだけでなく、上記の化学変性CNFや再生CNFを含めてCNFと呼ぶ。また、再生CNFの中には、水酸基から一旦ザンテート基などの他の官能基に変性したものの全てが元の水酸基に戻されているものだけでなく、一部が他の官能基として残っているものが含まれていてもよい。さらに、これらのCNFは、必要があれば精製処理を施して使用してもよい。
この発明で用いるCNFとしては、化学変性をしていないセルロースや、再生CNFのように非イオン性のものが好ましい。ザンテート化セルロースやTEMPO酸化セルロースなどのイオン性の化学変性をしたセルロースは、保存安定性や着色などの問題があるため好ましくないが、ザンテート化セルロースなどの一旦はイオン性の化学変性をしたセルロースであっても、それを十分に再生してセルロースに戻したものであれば好適に用いることができる。イオン性のナノファイバーは後述する再分散剤を添加して組成物を調製した段階で凝集しやすく、熱可塑性エラストマー組成物中で十分な分散性が確保しにくくなるが、非イオン性であれば何れの段階でも凝集しにくく、熱可塑性エラストマー組成物中の分散性が確保しやすいためである。また、化学変性した官能基や結合したイオン基によって、熱可塑性エラストマーの合成反応に影響を及ぼすおそれがない。
CNFの数平均繊維径は2nm以上である必要があり、3nm以上であると好ましい。これより小さくても本発明は実施できるが、2nm未満とするには多大なエネルギーが必要である上に、作業効率の面でもあまり現実的ではなくなる。一方で、CNFの数平均繊維径は30nm以下である必要がある。30nmを超えていると、十分に分散していないか、あるいは一旦分散したものが凝集してしまっているため、得られる組成物の中で塊状になって均一に分散できなくなるなど、補強効果が小さくなってしまう。
この発明にかかるCNF化学結合熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性エラストマー中に上記のCNFが熱可塑性エラストマーの官能基と化学結合するようにして含有させたものである。個々のCNFの数平均繊維径が上記の範囲であると、化学結合して含有されるCNFは、熱可塑性エラストマーの高分子鎖の中に適度に分散した状態で一体化したものとなる。
この発明で用いる熱可塑性エラストマーとしては、熱可塑性を有するエラストマーの中で一般的なものを、目的に応じて選択することができる。例えば、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどが挙げられる。これらのエラストマーは1種類で用いてもよいし、2種類以上のエラストマーを組み合わせて用いてもよい。ただし、少なくともいずれかのモノマーは、CNFが有する水酸基と化学結合できる官能基を有していることが必要となる。
上記のポリウレタン系エラストマーとしては、例えば、ポリオール(以下、「第一のポリオール」ということがある。)とポリイソシアネートとを重合したポリウレタンエラストマーが挙げられる。この重合に用いられるポリオールは、エステル型ポリオールとエーテル型ポリオール、ポリカーボネート型ポリオールが挙げられる。エステル型ポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHA)、ポリ3-メチルペンタンアジペート(PMPA)、ポリカプロラクトン(PCL)などが挙げられる。また、エーテル型ポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロプレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)などのポリオールが挙げられる。さらに、ポリカーボネート型ポリオールとしては、例えば、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(PHC)、ポリヘキサメチレンカーボネートと他のエステル型ポリオールやエーテル型ポリオールとの共縮合物などが挙げられる。
一方、ここで用いるポリイソシアネートとしては、一つの分子の中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物であって、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)やジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、あるいはポリオールと過剰のポリイソシアネートを反応させた中間物であるイソシアネート基末端のポリウレタンプレポリマーなどを使用することができる。
これらのポリオール及びポリイソシアネートからなるポリウレタンエラストマーを、1種類で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
上記のポリエステル系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントにポリブチレンテレフタレート(PBT)、ソフトセグメントにポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)を用いたポリエステル・エーテルタイプ、ハードセグメントにポリブチレンテレフタレート(PBT)、ソフトセグメントにポリブチレンアジペート(PBA)を用いたポリエステル・エステルタイプなどが挙げられる。これらのいずれかの樹脂を1種類で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
上記のポリアミド系エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントにナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ソフトセグメントにポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロプレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)などを用いたポリエーテルエステルタイプ、ソフトセグメントにポリプロピレンジアミン、ポリブチレンジアミンなどを用いたポリエーテルアミドタイプなどが挙げられる。これらのいずれかの樹脂を1種類で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
この発明にかかるCNF化学結合熱可塑性エラストマー組成物中における、前記熱可塑性エラストマーに対するCNFの含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であるとより好ましい。0.1質量%未満では、CNF化学結合熱可塑性エラストマー組成物の強度物性に対するCNFによる補強効果が十分に発揮されないおそれがある。一方で、CNFの含有量は2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であるとより好ましい。2質量%を超えると、一つのプレポリマーに化学結合するCNFが多くなって凝集し易くなる上に、フィラーを添加する場合とは異なり、組成物の伸びを維持したまま、引張強度などの機械的強度を所望の程度に増強することが難しくなるおそれがある。
この発明にかかるCNF化学結合熱可塑性エラストマー組成物において、CNFは凝集塊を形成することなく分散して、エラストマーの分子鎖の一部として化学結合していることが望ましい。組成物中でCNFの分布が偏って塊状となった箇所があると、強度物性にばらつきが生じやすくなってしまう。このCNFが良好に分散している分散性の指標としては、例えば、CNF化学結合熱可塑性エラストマー組成物中のCNFの凝集物の量で評価することができる。具体的には、CNF化学結合熱可塑性エラストマー組成物をフィルム状に成形して、セルロースと選択的に反応する蛍光試薬を用いて処理し、蛍光顕微鏡で観察したときの画像のうち、CNF凝集物が占める面積率を用いることができる。ソフトウェアで処理する場合は、例えば、撮影した画像をCNFの凝集物とそうでないものとが区分できる閾値で二値化処理し、画像中の着色部をCNFの凝集物として、画像全体に対する着色部の面積率を算出して評価する。この面積率は2.0%以下であると分散性の点から好ましく、1.0%以下であるとより好ましい。
この発明にかかるCNF化学結合熱可塑性エラストマー組成物を製造する際には、CNFが上記のように塊状とならずに均一に分散したまま、熱可塑性エラストマーの官能基と化学結合するようにエラストマーの重合を進行させることが重要である。熱可塑性エラストマーがポリウレタン系である場合に一般的に用いられるワンショット法では、ハードセグメントとなる鎖伸長剤が優先的にポリイソシアネートと反応するため、CNFを化学結合させることが困難になる。そこで、そのような反応を回避してCNFをポリイソシアネートと化学結合させることができるプレポリマー法を用いることが望ましい。これを実現するための手順例を説明する。
まず、CNFと、水と、再分散剤となるポリオール化合物とを含有するCNF組成物を調製する(S1)。実際にCNFは、単独では分散性を維持することが困難であり、CNFを水または水を含む極性溶媒中で分散したCNF水分散液として取り扱うことが多い。CNF水分散液と再分散剤とを混合すると、CNFを液中で均一に分散させたままで維持することができるとともに、熱可塑性エラストマーのソフトセグメントとなる材料と混合した際に、CNFを凝集させることなく反応を進行させることができる。
ここで用いる再分散剤としては、ポリオール化合物を用いることができる。それにより、再分散剤と混合したCNFを、一旦乾燥させた乾燥物として保存した後の再分散時にもCNFの凝集を抑止する効果を発揮するとともに、ポリオール化合物が熱可塑性エラストマーのソフトセグメントの一部として重合に寄与する効果も発揮される。
このポリオール化合物とは、分子中に複数の水酸基を有する化合物であり、水と相溶し、熱可塑性エラストマーのソフトセグメントになりうる物質である必要がある。具体的には、ジオールやグリセリン、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのポリオールに加え、酢酸モノグリセリドなどのグリセリン脂肪酸モノエステルのような、その誘導体であるポリオール誘導体の中で水酸基を二つ以上有するもの、又はその両方が用いられる。ここで、再分散剤として用いるポリオール化合物を、以下で「第二のポリオール」ということがある。なお、このポリオール化合物とともに、他の極性溶媒が混合されていても、CNF組成物を得ることはできる。
前記第二のポリオールとしては、例えば、トリエチレングリコール(TEG)、ポリエチレングリコール(PEG:平均分子量1000以下)、ジプロピレングリコール(DPG)、トリプロピレングリコール(TPG)、ポリプロピレングリコール(PPG:平均分子量400以下)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(MPD)が挙げられる。これらを1種類で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。この中でも、2級水酸基や枝分かれ炭素鎖を有するものが、後述の鎖伸長剤となりにくいため好ましい。ただし、1,3-ブタンジオールは、2級水酸基を有するものの、炭素鎖が短く、鎖伸長剤として作用してしまうため好ましくない。なお、前記第二のポリオールが前記第一のポリオールと異なる化合物である必要はなく、共通する化合物が選択されてもよい。
前記CNF組成物における、前記CNFと前記ポリオール化合物との質量混合比は、1:2~1:20が好ましい。前記ポリオール化合物の種類にもよるが、1:2よりも前記CNFが多すぎると、分散性を維持するための前記ポリオール化合物が少ないため、CNF組成物を水または前記ポリオール化合物中に再度分散させようとしても、うまく分散できないおそれがある。一方、1:20よりも前記ポリオール化合物が多いと、分散自体は十分に可能であるが、それ以上再分散性が向上することはほとんどないだけでなく、前記ポリオール化合物がソフトセグメントとして熱可塑性エラストマーに取り込まれるため、熱可塑性エラストマーの物性が大きく変化するおそれがある。また、水を除去しても、前記ポリオール化合物の質量によって前記CNF組成物全体の質量が大きいままになり、前記CNF組成物を用いる利点が低下してしまう。
前記CNF組成物の含水率は、10質量%以下であると好ましく、7質量%以下であるとより好ましい。前記CNF組成物を有機溶媒に再分散した後にポリイソシアネートと反応させる際、ポリイソシアネートがセルロースナノファイバー再分散液中の水と反応してしまうため、できるだけ少ない方が望ましい。一方、1質量%未満にまで乾燥させることは困難であり、1質量%以上が現実的である。
前記CNF組成物の製造手順としては、まず、CNFの水懸濁液中に、再分散剤として前記ポリオール化合物を添加して混合し、次いでこの混合物を乾燥させて含水率を減らし、前記CNF組成物を得る。乾燥方法としては、常温で放置しても乾燥させることはできるが、製造時間を短縮するために加熱することが望ましい。乾燥温度としては、50℃以上が好ましく、60℃以上であるとより好ましい。50℃未満では、混合物から水分が蒸発する速度が遅すぎて、前記CNF組成物の製造に時間がかかり過ぎてしまう。一方、110℃以下が好ましく、90℃以下であるとより好ましい。110℃を超えると、再分散剤となる前記ポリオール化合物まで蒸発してしまい、CNFの再分散が困難になってしまう。前記ポリオール化合物の選択にもよるが、90℃以下とすると、前記ポリオール化合物の蒸発もより抑制することができる。なお、前記CNF組成物を得るための乾燥方法には、公知の熱風乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、または真空乾燥など、あるいはそれら二種類以上を組み合わせた方法を利用することができる。具体的な乾燥設備としては、ドラムドライヤーやディスクドライヤー、あるいはそれらを真空式としたドライヤー、さらにコニカルドライヤー、スプレードライヤーなどが挙げられる。
前記CNF組成物は、CNFを解繊させた後の水懸濁液の状態よりも含水率が大きく減少していることから、保管、輸送などを容易に行うことができる。一方で、分散性を確保しやすい性質を有しており、このCNF組成物を用いて水や有機溶媒等に再分散することにより、CNFの高い分散性を実現することができる。
次に、このCNF組成物を有機溶媒と混合して、CNFがこの有機溶媒中に好適に分散されたCNF再分散液を調製する(S2)。この有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが使用できる。この中でも、熱可塑性エラストマー(TPE)の溶解性が高く、CNFと化学結合していなければ反応時に生成する熱可塑性エラストマーが析出しないことから、ジメチルホルムアミドが最も好ましい。
このとき(S2)、前記有機溶媒の一部あるいは全部を、ソフトセグメントとなる前記ポリオール化合物に置き換えてもよく、このポリオール化合物は第一のポリオールと同じか、または目的とする熱可塑性エラストマー組成物の物性によっては、第一のポリオールの中で異なる種類のものを使用してもよい。なお、前記有機溶媒の全部を前記ポリオール化合物に置き換えた場合は、バルク重合となる。またこのとき(S2)、ソフトセグメントとしてポリイソシアネートとの反応に必要な前記ポリオール化合物の全量を添加してもよい。その場合は、後述するS3において前記ポリオール化合物の添加を省略する。
このCNF再分散液におけるCNFの含有量は0.1質量%以上であると好ましく、0.2質量%以上であるとより好ましい。CNFの含有量が0.1質量%未満であると、有機溶媒の量が多くなり、相対的に反応時のポリオール化合物やポリイソシアネートの濃度が低くなるため、反応の進行が遅くなってしまう。一方で、2.0質量%以下であると好ましく、1.5質量%以下であるとより好ましい。含有量が2.0質量%を超えると、CNF再分散液の粘度が高くなり、次の工程S3及びS4において十分に分散することが難しく、反応が均一に進行しなくなってしまうおそれがある。
また、前記CNF再分散液の含水率は、0.5質量%以下であると好ましく、0.2質量%以下であるとより好ましい。含水率が0.5質量%を超えると、前記ポリウレタン系エラストマーの合成反応中にポリイソシアネートが水分と反応するため、余分にポリイソシアネートを添加することが必要になるだけでなく、ポリイソシアネートと水の反応物により熱可塑性エラストマーの物性に影響が生じる可能性があるため、できるだけ含水率は小さい方が望ましい。
また、このCNF再分散液中におけるCNFは、遠心分離を行ってもCNFの沈降が生じないことが好ましい。例えば、この沈降性は、CNF再分散液を遠心分離機(ベックマンコールター社製、AvantiJ-251)を用いて遠心分離(1400G、3分間)することで評価されるが、予めCNFの含有量が0.3質量%の水分散液を調製し、遠心分離を行った後に、紫外可視分光光度計(V-730、日本分光(株)製)を使用して光路長10mmの波長660nmの光透過率を測定し、その値が7.0%以上であるとCNFの沈降は認められないと判断できるため、事前評価の目安として有用に用いることができる。
この再分散剤となるポリオール化合物を含むCNF再分散液に、ポリイソシアネートと熱可塑性エラストマーのソフトセグメントとなるモノマーとを添加して(S3)、CNFとの化学結合を一部に形成させながら熱可塑性エラストマープレポリマーを合成する。なお、CNFがポリオール化合物に分散されている場合はバルク重合となって、ポリイソシアネートのみを添加する。ここで、ソフトセグメントとなるモノマーは、後述するハードセグメントとして添加される鎖伸長剤よりも反応性が低く、熱可塑性エラストマーの物性に応じて任意のものを用いることができる。ポリウレタン系エラストマーの場合、上記の第一及び第二のポリオールを用いる。上記の再分散剤が存在することで、ポリイソシアネートと第一及び第二のポリオールとの反応中にCNFが均一に分散した状態が維持されており、分散したままのCNFと一部のポリイソシアネートとが化学結合して、ポリウレタンの高分子鎖の一部にCNFが分散して介在した熱可塑性エラストマープレポリマーが形成される。また、高分子鎖の一部には上記の再分散剤も結合されうる。
上記の第一及び第二のポリオールとポリイソシアネートとの官能基数の比は、1:2~1:4であると好ましい。上記の再分散剤とCNFがどちらも第一及び第二のポリオールの代替としてポリイソシアネートと反応しうるため、ポリイソシアネートが過剰であることが望ましい。また、この後でハードセグメントとなる鎖伸長剤として後述する第三のポリオールを添加する場合、それと反応できるようにイソシアネート基が残存している必要がある。
このとき(S3)、またはその後の過程(S4)において、反応の進行を促進するため、触媒を添加しても良い。触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、ピリジンなどの塩基性触媒やテトラブチルすず、ジブチルすずジラウリレートなどのルイス酸触媒などが挙げられる。添加量としては、使用するポリオール化合物の合計100質量部に対して0.01~10質量部が好ましい。
またこのとき(S3)、反応系の濃度調整のために、前記有機溶媒を添加しても良い。
上記のS3でCNFとモノマーとの化学結合を含む反応を進行させた後、ハードセグメントとなる鎖伸長剤を添加して(S4)、熱可塑性エラストマーの合成を最後まで進行させる。ハードセグメントとなる鎖伸長剤は、熱可塑性エラストマーの種類により適宜選択する。ポリウレタン系エラストマーである場合には、ハードセグメントとして低分子量で反応性が高いジオールなどのポリオール(以下、「第三のポリオール」ということがある。)を用いることができる。このようなジオールとしては、例えば、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、1,6-ヘキサンジオールなどが挙げられる。
ハードセグメントとなる鎖伸長剤に第三のポリオールを用いる場合、目的とする熱可塑性エラストマーの物性に応じて適宜添加量を変更することが可能で、系内に存在する水酸基の当量数が熱可塑性エラストマーのプレポリマー中に残存するイソシアネート官能基当量数に近いほど好ましい。すなわち、第一、第二、第三のポリオールを合わせた水酸基の当量数が、ポリイソシアネート中のイソシアネート官能基当量数に近いほど好ましく、等量であるとより好ましい。
上記のS4の後、反応を十分に進行させ終わったら、分散媒を除去し、CNF化学結合熱可塑性エラストマー組成物を得る。ここで除去する分散媒とは、上記の有機溶媒、残存する未反応のポリオール化合物、さらにCNF組成物に含まれていた水や、その他含有されている場合はその他の極性溶媒等である。このとき、フィルムやシート状とするにはキャスト法を、繊維状物とするには湿式紡糸法などを用いて成形してもよい。また、バルク重合を行った場合、組成物は塊状で得られるので、熱溶融することで射出成形、押出成形、ブロー成形、カレンダー成形、プレス成形などの一般的な成形方法を適用することができる。
本発明のCNF化学結合熱可塑性エラストマー組成物において、有機溶媒に溶解させたときに残る未溶解分の量の比、すなわち未溶解率は、CNFの添加量に対して5倍以上であることが好ましく、8倍以上であるとより好ましい。ソフトセグメントとポリイソシアネートの反応中にCNFが十分に分散してポリイソシアネートと化学結合を起こす頻度が高いほど、CNFが高分子鎖に取り込まれて有機溶媒に溶解しなかった熱可塑性エラストマー分が増加していると考えられる。なお、ここで用いる有機溶媒としては、CNFとの化学結合のない熱可塑性エラストマーであれば全量溶解できるものを用いる。例えばポリウレタンエラストマーの場合には、DMFが好適に用いられる。
以下、この発明を具体的に実施した実施例を示す。
まず、CNFの再分散液を得るための前段階としてザンテート化CNFを製造する。そのザンテート化CNFの水懸濁液から再生CNFの水分散液を得る。この再生CNFの水分散液を再分散剤と混合した後に乾燥させてCNF組成物とし、このCNF組成物を有機溶媒中に再分散させることでCNF再分散液を調製する。このCNF再分散液を、ソフトセグメントとなるポリオール化合物及びポリイソシアネートと混合して反応させる。さらにその後、ハードセグメントとなる鎖伸長剤を添加して反応させて、CNF化学結合熱可塑性エラストマー組成物を得る。
ザンテート化CNF製造の材料として、以下のものを用いた。
・クラフトパルプ(日本製紙(株)製:NBKP、α-セルロース含有率:90質量%)以下、「NBKP」と表記する。
<アルカリ処理>
NBKPをパルプ固形分(パルプ中の水分を除いたものをパルプ固形分とする。以下同じ。)100gとなるように秤量した。これに8.5質量%水酸化ナトリウム水溶液2500gを加え、室温にて3時間撹拌してアルカリ処理を行った。このアルカリ処理後のパルプを遠心脱水機((株)コクサン製、H-110A、ろ布400メッシュ)により固液分離してアルカリセルロースの脱水物を得た。このアルカリセルロースの脱水物における水酸化ナトリウム含有率は7.5質量%、パルプ固形分含有率は27.4質量%であった。
<ザンテート化処理>
上記で調製したアルカリセルロースの脱水物を、パルプ固形分100gとなるように秤量した。これに二硫化炭素を35g(対パルプ固形分として35質量%)加え、室温で4.5時間硫化反応を進行させてザンテート化処理を行い、ザンテート化セルロースを得た。
<ザンテート置換度測定>
前記ザンテート化セルロースについて、平均ザンテート置換度をBredee法により測定したところ、0.312であった。なお、このザンテート置換度はセルロースのグルコース単位当たりにザンテート基が導入されている度合に対する値である。Bredee法の手順は次のように行った。ザンテート化セルロースを1.5g秤量し、飽和塩化アンモニウム水溶液(5℃)を40mL添加して混合した。15分間放置後ろ過して、飽和塩化アンモニウム水溶液で十分に洗浄し、0.5M水酸化ナトリウム水溶液(5℃)を50mL添加して撹拌した。15分間放置後、1.5M酢酸水溶液で中和した。そこへ蒸留水を250mL添加してよく撹拌し、1.5M酢酸水溶液10mL、0.05mol/Lヨウ素水溶液10mLを添加した。この溶液を0.05mol/Lチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定し、チオ硫酸ナトリウム水溶液の滴定量、サンプル中のセルロース含有量より次式(1)からザンテート置換度を算出した。なお、ザンテート化セルロース中のセルロース含有量は、ザンテート化セルロースに水を加えて分散させ、塩酸を添加して再生処理を行い、次に再生処理後のセルロースをろ過し、十分に洗浄後、絶乾してセルロースのみの質量を測定して求めた。
ザンテート置換度=(0.05×10×2-0.05×チオ硫酸ナトリウム滴定量(mL))÷1000÷(サンプル中のセルロース含有量(g)/162.1)……(1)
<解繊処理>
上記のザンテート化処理で調製したザンテート化セルロースを、パルプ固形分100gとなるように秤量し、パルプ固形分濃度5質量%となるように蒸留水を添加して分散させた。前記遠心脱水機を使用して遠心脱水しながら、蒸留水を掛け回して十分に洗浄し、不純物、アルカリ、未反応の二硫化炭素等を除去した。洗浄後のザンテート化セルロースをすべて回収し、蒸留水を添加してザンテート化セルロースに含まれるセルロース分の濃度(以下、「セルロース濃度」と表記する。)0.5質量%の水懸濁液20kgとした。この水懸濁液を、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング(株)製、H20型)を用いて、流速2.5L/分、圧力40MPaで計5回パスさせて解繊処理して、ザンテート化CNFを得た。
<CNFの解繊の度合い>
前記ザンテート化CNFの水懸濁液(セルロース濃度0.5質量%)に、蒸留水を添加してセルロース濃度を0.1質量%に希釈した。この希釈した水懸濁液を、遠心分離機(ベックマンコールター社製、Avanti J-25I)を使用して12000Gで10分間遠心分離して未解繊物を沈降させた。上清は分離して、沈降した未解繊物に蒸留水を添加して再度遠心分離を行い、未解繊物を洗浄した後に絶乾し、未解繊物の質量を測定した。未解繊物の質量とザンテート化セルロース中のセルロース含有量より、生成したナノファイバーの生成率を次式(2)から求めたところ、99.0質量%であった。
ナノファイバーの生成率(質量%)=(ザンテート化セルロース中のセルロース含有量-未解繊物の質量)÷(ザンテート化セルロース中のセルロース含有量)×100……(2)
<CNFの繊維径の測定>
蒸留水でセルロース濃度0.1質量%に希釈したザンテート化CNFの水懸濁液を、前記遠心分離機を使用して12000Gで10分間遠心分離を行い、遠心上清を回収した。この遠心上清を蒸留水で希釈後に染色を施し、支持膜上で乾燥して乾燥検体とした。透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JEM-1400:以下「TEM」と表記する)を使用し、加速電圧120kVで乾燥検体の観察を行った。得られた50,000倍の画像中のナノファイバー50本を選択し、繊維径を測定したところ、繊維径は3.0nmから7.4nmであり、それらの測定値の平均である数平均繊維径は6.1nmであった。
<再生処理及び再分散処理>
上記の手順で得られたザンテート化CNFの水懸濁液16.4kg(セルロース濃度0.5質量%)に、1M硫酸水溶液を360ml添加し、アジテーターで1時間撹拌して再生処理を行った。処理終了後、1M水酸化ナトリウム水溶液にて中和して、再生CNF水懸濁液を得た。平均ザンテート置換度を測定したところ、測定下限である0.001未満であったので、酸処理によりザンテート基がほぼ完全に脱離して水酸基に戻っていることが確認された。
上記で得られた再生CNF水懸濁液を、前記遠心脱水機を使用して遠心脱水しながら、蒸留水を添加して十分に洗浄した。洗浄後の再生CNFをすべて回収し、蒸留水を添加してCNF濃度1.0質量%の水懸濁液8kgとした。この水懸濁液を、前記高圧ホモジナイザーを用いて、流速2.5L/分、圧力40MPaで計3回パスさせて再分散処理した。処理後、再分散液中の再生CNFのTEM画像から繊維径を測定したところ、繊維径は3.0nmから7.4nmで、それらの測定値の平均である数平均繊維径は6.0nmであった。
<再生CNF組成物の調製>
上記にて調製した再生CNF水懸濁液に、再分散剤(ポリオール化合物:第二のポリオール)としてポリエチレングリコール#400(ナカライテスク社製、以下PEG400と略す。)を、再生CNFに対して5倍量となるように添加し、CNF濃度0.7質量%、再分散剤濃度3.5質量%の混合物30gを調製した。この混合物を、熱風乾燥機を用いて60℃で、所定の時間乾燥させてCNF組成物を得た。得られた組成物のCNF固形分は16.3質量%、含水率は3.7質量%、PEG400含有率は80.0質量%となった。
<再生CNF組成物の有機溶媒への再分散処理>
上記のCNF組成物に有機溶媒としてN,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)(関東化学(株)製)を添加し、回転式ホモジナイザー((株)日本精機製作所製、AM-7)を使用して10000rpmで10分間撹拌混合処理を行い、再生CNFをDMF中に分散したDMF再分散液(再生CNF再分散液)を調製した。再生CNFのDMF再分散液の再生CNFの含有率は0.8質量%で、含水率は0.2%であった。
<再生CNFの繊維径>
上記再生CNFのDMF再分散液を、DMFを用いてセルロース濃度0.001質量%に希釈した。この希釈液を雲母板に1μL塗布し、コーンラージ棒で拡げて乾燥して検体とした。DMF再分散液では、TEM観察にDMFや有機溶媒が影響するため、原子間力顕微鏡((株)島津製作所製、SPM-9700)を使用し、位相モード、視野範囲5μm×5μmにて、この検体の観察を行った。こうして得られた画像よりナノファイバー50本を選択し、繊維径を測定したところ、繊維径は2.0nmから4.0nmであり、それらの測定値の平均である数平均繊維径は3.1nmであった。
(実施例1)
<ポリウレタン重合(溶液重合プレポリマー法)及びフィルム作製>
実施例1として下記表1のように、再生CNFのDMF再分散液、ソフトセグメントの第一のポリオールとしてPEG400(再分散剤:第二のポリオールと共通する化合物)及びポリテトラメチレンエーテルグリコール(ポリテトラメチレンオキシド、富士フィルム和光純薬(株)製、平均分子量1000、以下「PTMG」と略す。)、ポリイソシアネートとしてジフェニルメタンジイソシアネート(東京化成工業(株)製、以下「MDI」と略す。)、触媒として1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(東京化成工業(株)製、以下「DABCO」と略す。)を添加し、モレキュラーシーブ3A(ナカライテスク(株)製)にて脱水した脱水DMFを加えて溶液濃度を10質量%に調整し、前記回転式ホモジナイザーを使用して8000rpmで5分間撹拌混合処理を行った。その後90℃に加熱し、窒素気流下で2時間反応させてプレポリマーを合成し、そこにハードセグメントとして1,4-ブタンジオール(東京化成工業(株)製、以下「1,4-BG」と略す。)を添加して、さらに3時間反応を行った。この反応後の溶液を、作製後のフィルム膜厚が0.2mm以上となる量採取してトレーに移し、80℃の定温乾燥機中で24時間静置して有機溶媒を除去することで、ポリウレタンエラストマーのフィルムを作製した。
Figure 2023013992000001
<フィルムの膜厚測定>
得られたフィルムにおいて、(株)尾崎製作所製膜厚測定機ダイヤルゲージ0.001mmを用いて、無作為に10か所を測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
<引張強度の測定>
得られたフィルムから、横幅15mm縦幅100mmの短冊状試験片を打ち抜き、(株)A&D製テンシロン万能材料試験機 RTG-1210を用いて、つかみ幅25mm、引張速度100mm/分の条件で引張試験(n=5)を行って、その結果から引張弾性率、引張応力を求めた。その結果を表1に示す。
(比較例1:溶液重合ワンショット法でのポリウレタン重合)
表2に示す配合比で、再生CNFのDMF再分散液、ソフトセグメントとしてPEG400及びPTMG、ポリイソシアネートとしてMDI、ハードセグメントとして1,4-BG、触媒としてDABCOを添加し、モレキュラーシーブ3Aにて脱水した脱水DMFを加えて溶液濃度を10質量%に調整し、前記回転式ホモジナイザーを使用して8000rpmで5分間撹拌混合処理を行った。その後90℃に加熱し、窒素気流下で5時間反応させた。すなわち、溶液重合プレポリマー法で行った実施例1に対して、最初からハードセグメントとなる鎖伸長剤を導入した溶液重合ワンショット法で合成を行った。反応後の溶液を用いて、実施例1と同様の手順でポリウレタンエラストマーのフィルムを作製し、強度測定を行った。その結果を表2に示す。
Figure 2023013992000002
<溶液重合プレポリマー法と溶液重合ワンショット法の比較>
(実施例1と比較例1の対比)
これらの強度測定結果を図1に示す。特許文献1に記載の溶液重合ワンショット法で調製したポリウレタンエラストマー(比較例1)と比較して、本発明にかかる実施例1のポリウレタンエラストマーでは、伸びを維持したまま、応力が向上した。本発明にかかる溶液重合プレポリマー法を用いることにより、CNFとポリイソシアネートが反応して化学結合し、応力向上と伸びの維持を両立できることが示された。
<CNF添加方法の比較>
(実施例2)
実施例1において、表1に記載の通り、CNF添加率が半分になるように再生CNFのDMF再分散液の量を半分にした以外は実施例1と同様の手順により、フィルムを作製して、強度等を測定した。その結果を表1に示す。
(比較例2:CNFの凍結乾燥物)
実施例1において調製した再生CNF水懸濁液100gに、tert-ブチルアルコール(ナカライテスク社製)200g、蒸留水700gを添加し、前記回転式ホモジナイザーを使用して8000rpmで5分間撹拌混合処理を行った後、凍結乾燥して再生CNF凍結乾燥物1.07gを得た。得られた再生CNF凍結乾燥物に脱水DMFを267g添加し、前記回転式ホモジナイザーを使用して10000rpmで10分間撹拌して再分散処理を行った。この再生CNFの凍結乾燥物のDMF再分散液を、上記例と同様に希釈して、同様の手順により繊維径を求めた。繊維径は13.3nmから67nmであり、それらの測定値の平均である数平均繊維径は34.3nmであった。得られた再生CNF凍結乾燥物のDMF分散液のCNF固形分は0.4質量%、含水率は0.3質量%となった。この再生CNF凍結乾燥物のDMF再分散液を使用し、実施例1と同様の操作を行い、得られたフィルムの強度測定を行った。その結果を表2に示す。
(実施例2と比較例2の対比)
これらの強度測定結果を図2に示す。これらのCNF添加量(質量%)は同一である。しかし、非特許文献1に記載の凍結乾燥CNFをDMFに分散させて調製したポリウレタンエラストマー(比較例2)と比較すると、本発明の実施例2のCNF添加ポリウレタンエラストマーでは伸びを維持したまま、応力が向上する。凍結乾燥CNFを添加した場合においても化学結合により応力向上は見られるが、その効果は本発明の実施例2に比べて小さい。本発明にかかる熱可塑性エラストマーでは、一旦CNF組成物を調製し、それをDMFに再分散させて添加することにより、CNFが重合反応中に効率よく分散しており、CNFとポリウレタンエラストマーの化学結合部位が多くなる上に、緻密なネットワーク構造が形成されている。これに対して、凍結乾燥物を用いると、CNFの数平均繊維径は大きいことから、CNFが塊状になっていることが推測され、本発明にかかる熱可塑性エラストマーほどの、CNFの緻密なネットワーク構造が形成されていないと考えられる。
CNF凝集物が存在していると、エラストマーの重合物鎖の中でCNFが均一に分散されて結合しているのではなく、偏在するようになってしまっていると考えられる。そこで、セルロースと選択的に反応して蛍光を発する蛍光薬品を用いて、熱可塑性エラストマー組成物中のCNF凝集物の有無を確認した。
実施例2、比較例2にて作製したポリウレタンフィルムの断面に、Fungi-Fluor(登録商標) Kit (PSI Polysciences, Inc.)を使用してカルコフロールホワイト染色を施した。その後、蛍光顕微鏡BZ-X800((株)キーエンス製)を使用し、対物レンズ(倍率2倍)、BZ-X DAPI 蛍光フィルタを通して観察を行った。得られた画像を10μm以上のCNFの凝集物とそうでないものとが蛍光強度にて区分できる閾値で二値化処理し、画像中の着色部をCNFの凝集物として、画像全体に対する着色部の面積率を算出して評価した。その結果を図3(a)、(b)に示す。
比較例2(凍結乾燥物)では、蛍光顕微鏡観察した際に10μm以上のCNF凝集物が観察され、CNF凝集物の面積率は3.1%となった。なお、面積率(%)=蛍光面積(μm)/総計面積(μm)×100である。一方、実施例2では、CNF凝集物はほとんど確認されず、面積率も0.1%と低い値となった。このことから、実施例2は、再生CNF乾燥物を経てDMF再分散液とし、ポリウレタン重合反応系に添加しているため、ポリウレタン中でのCNFの分散性が向上して、フィルムの強度物性向上に繋がっていると考えられる。
<再生CNF添加量の検討>
(実施例3,4)
実施例1において、表1に示すように、再生CNFのDMF再分散液を減少させ、PEG400を増加させた以外は、実施例1と同様の操作によりフィルムを作製し、強度測定を行った。その結果を表1に示す。
(比較例3)
実施例1において、PEG400を増加させたが、再生CNFのDMF再分散液を添加せず、それ以外は実施例1と同様の操作によりフィルムを作製し、強度測定を行った。その結果を表2に示す。
(実施例1~4、比較例3の対比)
これらの強度測定結果を図4に示す。ブランク(比較例3:CNF未添加)に比べると、実施例1~4ではCNFの添加量が増加するにつれて(実施例1:1%、実施例2:0.5%、実施例3:0.1%、実施例4:0.2%)、フィルムの伸びを維持したまま、応力が向上する効果が確認された。
<繊維径の検討>
(比較例4)
実施例1の再生CNFの代わりに、物理処理で微細化された微小繊維状セルロース(セリッシュ:品番KY100S:ダイセルミライズ(株)製:平均繊維径198nm)を使用した以外は同様の操作を行い、微小繊維状セルロース組成物を得た。得られた組成物のCNF固形分は14.2質量%、含水率は5.9質量%、PEG400含有率は79.9質量%となった。この微小繊維状セルロース組成物から調製したDMF再分散液中の微小繊維状セルロースの含有率は0.8質量%で、含水率は0.3%であった。この微小繊維状セルロースのDMF再分散液を使用し、表2の組成にて実施例1と同様の操作によりフィルムを作製し、強度測定を行った。その結果を表2に示す。
(実施例1と比較例4との対比)
これらの強度測定結果を図5に示す。再生CNFの代わりにセリッシュを添加した比較例4では、表1及び2に示すように、実施例1に比べて引張弾性率は向上するが、伸びが大幅に低下した。繊維径が大きすぎるため、セルロース繊維とポリウレタンエラストマーの化学結合部位が少なく、またポリウレタンエラストマー中でのネットワーク構造が、再生CNFを添加した場合より緻密ではないため、伸びが大幅に低下したと考えられる。
<IR測定による化学結合の検討>
(比較例5・溶液重合ワンショット法・CNF未添加)
比較例1(溶液重合ワンショット法)において、CNFを添加しないこと以外は同様の手順によりフィルムを測定した。
(実施例1、比較例1、比較例3,比較例5)
溶液重合プレポリマー法(実施例1:CNF1%、比較例3:CNF無し)と溶液重合ワンショット法(比較例1:CNF1%、比較例5:CNF無し)とのそれぞれにより合成した熱可塑性エラストマー組成物について、IR測定を行った。その結果を図6に示す。図6(a)上段が比較例5,図6(a)下段が比較例1、図6(b)上段が比較例3、図6(b)下段が実施例1である。
溶液重合ワンショット法で合成したポリウレタン同士の比較である図6(a)では、CNFの添加の有無(下段:CNF添加:比較例1、上段:CNF未添加:比較例5)によるIRスペクトルを比較しているが、比較例1には1100cm-1付近、1650cm-1付近にCNFそのもののピークがポリウレタンのそれに重なって見られる以外は、ほとんど違いは認められなかった。このことにより、溶液重合ワンショット法ではCNFとポリウレタンエラストマーの化学結合はほとんど無いと考えられる。
一方、溶液重合プレポリマー法で合成したポリウレタン同士の比較である図6(b)では、CNFの添加の有無(下段:CNF添加:実施例1、上段:CNF未添加:比較例3)により、IRスペクトルに変化が見られた。約1700cm-1付近の2つに割れた吸収はウレタン結合のC=O結合のピークだが、1710cm-1付近のピークは水素結合しているC=O基由来の吸収である。図6(b)下段のCNF添加ポリウレタンエラストマー(実施例1)では、水素結合を形成していないC=O基由来の吸収(1730cm-1)が大きくなっている。このことから、溶液重合プレポリマー法による重合反応では、CNFのセルロースの水酸基とポリイソシアネートとが反応して化学結合を形成し、そのCNFから伸びたポリウレタン分子は、他のCNFと化学結合していないポリウレタンのようにハードセグメントの疑似架橋が起こらなかったため、水素結合していないC=O基由来のピークが大きくなったと考えられる。
<再分散剤による効果の検討>
(実施例5)
実施例1の再分散剤と、ソフトセグメントとなる第一のポリオールとで用いたPEG400を、どちらも3-メチル-1,5ペンタンジオール(ナカライテスク(株)製、表中では「MPD」と略す。)に変更した以外は同様の操作を行い、再生CNF組成物を得た。得られた組成物のCNF固形分は16.2質量%、含水率は3.9質量%、MPD含有率は79.9質量%となり、再生CNFのDMF再分散液中の再生CNFの含有率は0.8質量%で、含水率は0.5%であった。この再生CNFのDMF再分散液を使用し、実施例1と同様の操作を行い、得られたフィルムの強度測定を行った。その結果を表1に示す。
(比較例6)
実施例5において、表2に示す組成のように、再生CNFのDMF再分散液を添加せず、ソフトセグメントとなる第一のポリオールとしてのMPDの量を総量が同じになるようポリウレタン重合時に補充したこと以外は実施例5と同様の操作を行い、得られたフィルムの強度測定を行った。その結果を表2に示す。
(実施例5、比較例6の対比)
これらの強度測定結果を図7に示す。CNF組成物調製時の再分散剤及び第一のポリオールをPEG400(実施例1)からMPD(実施例5)に変更した場合でも、ブランク(CNF未添加、比較例6)と比較して、CNF添加ポリウレタンエラストマーでは伸びを維持したまま、応力が向上した。
<ソフトセグメントのその他の実施形態>
(実施例6)
実施例1のポリウレタン重合において、ソフトセグメントの第一のポリオールの一つであるPTMGをポリカーボネート系ポリオール((株)クラレ製、C-1090)に変更し、表1の組成にて重合反応を行った以外は同様の操作を行い、フィルムを作製し、強度測定を行った。その結果を表1に示す。
(比較例7)
実施例6において、表2に示す組成のように、再生CNFのDMF再分散液を添加せず、ソフトセグメントとなる第一のポリオールとしてのPEG400の量を総量が同じになるようポリウレタン重合時に補充した以外は、実施例6と同様の操作を行い、得られたフィルムの強度測定を行った。その結果を表2に示す。
(実施例6、比較例7の対比)
これらの強度測定結果を図8に示す。ソフトセグメントをポリエーテル系のPTMGからポリカーボネート系のC-1090に変更した場合(実施例6)でも、ブランク(CNF未添加、比較例7)と比較して、CNF添加ポリウレタンエラストマーでは伸びを維持したまま、応力が向上した。
<溶液重合プレポリマー法によるCNFとポリイソシアネートとの化学結合生成の検討>
溶解試験として、実施例1,2及び比較例1,2,3,5で作製したポリウレタンフィルムを5mm片に裁断後、1g秤量しDMF20gを添加して、室温にて2日間振盪した。未溶解分をろ過し、DMFにて洗浄、乾燥後に質量を測定した。その結果を表1及び2に示す。なお、未溶解率(%)=未溶解分量(g)/サンプル量(g)×100である。
CNF未添加の比較例3、5では、溶液重合ワンショット法、溶液重合プレポリマー法に依らず、フィルムはDMFにすべて溶解した。比較例1(溶液重合ワンショット法、RCNFとポリイソシアネートとの反応なし)において、CNF添加率1%に対して未溶解率が1.1%となったが、CNF添加率と未溶解率がほぼ同等であることから、添加したCNFはポリイソシアネートと反応しなかったと考えられる。
CNFに凍結乾燥物を用いた比較例2(溶液重合プレポリマー法、凍結乾燥CNF0.5%添加)では、未溶解率が1.6%(CNF添加率に対して3.6倍)であったことから、凍結乾燥CNFを使用した場合においてもポリイソシアネートとCNFが反応したと類推される。だが、実施例2(CNF-DMF再分散液添加)では、凍結乾燥物(比較例2)と比較して、未溶解率が6.6%(CNF添加率に対して13.2倍)と著しく高かったことから、溶液中でCNFがより分散し、ポリイソシアネートと反応したCNFの量が比較例2に比べて多かったと考えられる。
CNFの添加率に対して未溶解率が高くなる理由は、ポリイソシアネートと反応したCNFの量が多くなることに起因すると考えられる。未溶解率はCNFとポリウレタンエラストマーの化学結合の度合の目安であり、CNF添加率に対して5倍以上であることが好ましい。
<有機溶媒の代わりにポリオール化合物中に分散させたバルク重合での実施例>
(実施例7)
<再生CNF組成物の調製2>
上記にて調製した再生CNF水懸濁液に、再分散剤(ポリオール化合物:第二のポリオール)としてジプロピレングリコール(キシダ化学(株)製、以下「DPG」と略す。)を、再生CNFに対して6倍量となるように添加し、CNF濃度1.0質量%、再分散剤濃度6.0質量%の混合物30gを調製した。この混合物を、熱風乾燥機を用いて60℃で、所定の時間乾燥させてCNF組成物2を得た。得られた組成物のCNF固形分は13.8質量%、含水率は3.8質量%、DPG含有率は82.4質量%であった。
<再生CNF組成物のポリオール化合物への再分散処理>
上記のCNF組成物2に有機溶媒の代わりとしてポリカーボネートジオール(ベネビオールNL1030B、以下「PCD」と略す。」)(三菱ケミカル(株)製)を添加し、ホモディスパー(プライミクス社製、LABOLUTION)を使用して5000rpmで10分間撹拌混合処理を行い、再生CNFをポリオール化合物中に分散したポリオール化合物再分散液(再生CNF再分散液)を調製した。再生CNFのポリオール化合物再分散液の再生CNFの含有率は1.0質量%で、含水率は0.3%であった。
<ポリウレタン重合(バルク重合プレポリマー法及び成膜処理)>
下記表3のように、再生CNFのポリオール化合物再分散液(ソフトセグメントの第一のポリオールとしてポリカーボネートジオール、第二のポリオール及び再分散剤としてDPGを含む)に、ポリイソシアネートとしてMDIと、触媒としてDABCOを添加した。その後80℃に加熱し、窒素気流下で2時間反応させてプレポリマーを合成した。一度60℃まで温度を下げ、そこにハードセグメントとして1,4-ブタンジオール(三菱ケミカル(株)製、以下「1,4-BG」と略す。)を添加して、80~90℃で5時間30分反応を行った。この反応後の樹脂塊を1.0g取り出し、試験用小型プレス機を用いて180℃、7MPaの条件で5分間プレスすることで、ポリウレタンエラストマーのフィルムを作製した。この得られたフィルムについて、上記の実施例と同様に物性評価を行った。その結果を表3に示す。
Figure 2023013992000003
(比較例8)
実施例7において、再生CNFのポリオール化合物再分散液を添加しなかったこと以外は実施例7と同様の操作を行い、得られたフィルムの物性評価を行った。その結果を表3に示す。
(実施例7、比較例8の対比)
これらの強度測定結果を図9に示す。バルク重合である実施例7においても、CNFを未添加である比較例8に比べて、伸びを維持したまま、弾性率と応力が向上した。
さらに、表1及び2に示す実施例及び比較例について、ポリウレタンエラストマーフィルムのDMFへの溶解の状況を図10の光学写真に示す。溶液重合ワンショット法にてCNFを添加した場合(比較例1)はフィルム形状を維持できず、残渣が分散してしまった。一方、溶液重合プレポリマー法にCNFを添加した実施例1では、フィルム形状が残った。比較例1では、CNFとポリイソシアネートが反応せず、ポリウレタンエラストマー中にCNFが存在しているだけであるためと考えられる。なお、CNFが未添加の比較例3,5では残渣が見られなかった。
溶液重合プレポリマー法同士で比較を行うと、凍結乾燥CNFを添加した場合(比較例2)はフィルム形状を維持できず、残渣が分散したが、CNF再分散液を添加した場合(実施例2)はフィルム形状が残った。実施例2のこの液をろ過して残渣を確認したところ、CNFのみではなく透明ゲル状物であったことから、CNFと化学結合したポリウレタンエラストマーはDMFに溶解せず、ゲル状物としてろ別されたと考えられる。比較例2に示す凍結乾燥CNFの場合は、凍結乾燥によりCNFが部分的に凝集しており、化学結合も少なく、ネットワーク構造が緻密ではない。これに対して、本発明のCNF組成物から調製した再分散液を添加した実施例2では化学結合部位も多く、CNFがポリウレタンエラストマー中で緻密で強固なネットワーク構造を形成していると考えられる。
また、バルク重合で製造した再生CNFを含む実施例7では、未溶解残渣により試験管の底が白濁していることが確認されたが、再生CNFを含まない比較例8では未溶解残渣が見られず透明な溶液となった。さらに、未溶解率を比較すると、比較例8に対して、実施例7は7.9%(CNF添加率に対して13.2倍)と著しく高かった。このため、バルク重合でも再生CNFを含むと、CNFがポリイソシアネートと反応して化学結合する上に、CNFがポリウレタンエラストマー中に緻密で強固なネットワーク構造を形成していると考えられる。

Claims (5)

  1. セルロースナノファイバーを含有する熱可塑性エラストマー組成物からなり、前記セルロースナノファイバーと熱可塑性エラストマーの官能基とが化学結合しており、
    前記セルロースナノファイバーの数平均繊維径が2nm以上30nm以下である、
    セルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物。
  2. 前記熱可塑性エラストマーが、ポリオール化合物とポリイソシアネートとをモノマーとして有するポリウレタンであり、
    前記セルロースナノファイバーが前記モノマーとして前記熱可塑性エラストマー組成物の主鎖中に存在する
    請求項1に記載のセルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物。
  3. 再分散剤と、セルロースナノファイバーと、水と、を含有するセルロースナノファイバー組成物を、有機溶媒と混合して、液中にセルロースナノファイバーを分散させたセルロースナノファイバー再分散液を調製し、
    前記セルロースナノファイバー再分散液中における前記セルロースナノファイバーの数平均繊維径が2nm以上30nm以下であり、
    このセルロースナノファイバー再分散液を、熱可塑性エラストマーのソフトセグメントとなるポリオール化合物及びポリイソシアネートと混合して反応させ、その後ハードセグメントとなる鎖伸長剤を添加して反応させる、セルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
  4. 再分散剤と、セルロースナノファイバーと、水と、を含有するセルロースナノファイバー組成物を、熱可塑性エラストマーのソフトセグメントとなるポリオール化合物と混合して、液中にセルロースナノファイバーを分散させたセルロースナノファイバー再分散液を調製し、
    前記セルロースナノファイバー再分散液中における前記セルロースナノファイバーの数平均繊維径が2nm以上30nm以下であり、
    このセルロースナノファイバー再分散液を、ポリイソシアネートと混合して、前記ポリオール化合物と前記ポリイソシアネートとを反応させ、その後ハードセグメントとなる鎖伸長剤を添加して反応させる、セルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
  5. 前記セルロースナノファイバー組成物が、含水率が1質量%以上10質量%以下であり、前記セルロースナノファイバーと前記ポリオール化合物との質量混合比が1:2~1:20である請求項3又は請求項4に記載のセルロースナノファイバー化学結合熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
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