JP2022182938A - 高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】降伏強度が970MPa以上かつ引張強さが1470MPa以上であって、優れたLME割れ耐性を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。【解決手段】本発明の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板の表面にめっき層を有し、素地鋼板は所定の化学成分組成を満足し、素地鋼板の金属組織において、マルテンサイト(焼戻しマルテンサイトおよび自己焼戻しマルテンサイトを含む)が82体積%以上、フェライト、パーライトおよびベイナイトが13体積%以下、および残留オーステナイトが5体積%以下、であり、素地鋼板の金属組織を走査型電子顕微鏡で観察した像において、切断法で測定した総長300μmにおけるラスの個数が200個以上であり、降伏強度が970MPa以上かつ引張強さが1470MPa以上である。【選択図】図2

Description

本発明は、高強度冷延鋼板の表面に合金化亜鉛めっき層を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。
自動車の車体構造用部材に適用される鋼板は、衝突安全性の観点から、衝撃吸収エネルギーが高いことが要求される。
ここで、鋼板において、引張強さTS(Tensile Strength)が高く、かつ0.2%耐力σ0.2または上降伏点UYP(Upper Yield Point)が高いほど、当該鋼板の衝撃吸収エネルギーが高いことが知られている。以下では、鋼板の引張強さTSを単に「引張強さ」、0.2%耐力σ0.2および上降伏点UYPを総称して「降伏強度」ともいう。
そのため、自動車の車体構造用部材に適用される鋼板には、高い引張強さおよび高い降伏強度を有することが要求される。このような鋼板に対する高い引張強さおよび降伏強度の要求に応えるため、鋼板成分の高成分化、すなわち鋼板における添加元素の含有量の増加が進んでいる。このような添加元素の含有量の増加は、亜鉛めっき鋼板に用いられる素地鋼板においても進んでいる。
しかし、鋼板成分の高成分化に伴い、鋼板の溶接部における溶融金属脆化(Liquid Metal Embrittlement;LME)割れの発生が問題となっている。亜鉛めっき鋼板の溶接時等に当該亜鉛めっき鋼板に加えられる熱によってめっき層中の亜鉛が溶融し、溶融した亜鉛が溶接部の素地鋼板の結晶粒界に侵入し、溶接後の熱収縮等によって引張応力が作用すると割れが生じる。このようにして生じる割れを、以下では「LME割れ」という。
そのため、現在、自動車の車体構造用部材に適用される鋼板には、高い引張強さおよび高い降伏強度を有し、かつ優れたLME割れ耐性を有することが求められている。
これらの要求特性のうち、引張強さに関しては、例えば特許文献1には鋼組織として面積率で、オートテンパードマルテンサイトを80%以上有するとともに、フェライトが5%未満、ベイナイトが10%以下、残留オーステナイトが5%以下を満足し、該オートテンパードマルテンサイト中における5nm以上0.5μm以下の鉄系炭化物の平均析出個数が1mmあたり5×10個以上で、かつ引張強さが1400MPa以上であることを特徴とする高強度鋼板が開示されている。特許文献2には、金属組織全体に対して、マルテンサイトが93体積%以上であり、フェライト、パーライトおよびベイナイトが合計で2体積%以下であり、残留オーステナイトが7体積%以下であり、且つ前記金属組織を走査型電子顕微鏡で観察した像において、総長300μmを切断法にて測定したマルテンサイト中のラスの個数が240個以上であり、引張強さが1470MPa以上である高強度鋼板が開示されている。
また、LME割れに関しては、特許文献3には、LME割れの発生を抑制できる抵抗スポット溶接方法として、3つの溶接パルスが1つのスポット溶接計画内で使用され、第1の溶接パルスおよび第2の溶接パルスが、ナゲットの生成および液体金属ぜい化割れの発生の抑制に使用され、前記第1の溶接パルスは、直径3.75T1/2~4.25T1/2(式中、Tは鋼板の板厚を表す)を有するナゲットを生成し、前記第2の溶接パルスは、前記ナゲットをゆっくり成長させ、焼戻しパルスである第3の溶接パルスが、溶接スポットの塑性を改善するのに使用される抵抗スポット溶接方法が提案されている。特許文献4では鋼板の表層軟化部の厚みを5μm以上にすることで優れた耐LME特性を得る技術が提案されている。
特許第5365216号公報 特開2019-173156号公報 特表2019-536631号公報 特許第6787535号公報
しかし、特許文献1および特許文献2では、鋼板の引張強さに加えて加工性または降伏強度について検討されているにすぎず、LME割れ耐性については考慮されていない。
また、特許文献3で提案されたスポット溶接方法は、3枚以上の鋼板を含む種々の板組を溶接する場合や、溶接時に外乱条件が加わった場合については考慮されておらず、このような場合には、LME割れの発生を抑制できないおそれがある。特許文献4に開示された技術では、得られる鋼板の引張強さが1150MPa未満に過ぎず、特許文献4では1150MPa以上の高強度材のLME割れ耐性については対応策が考慮されていない。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、降伏強度が970MPa以上かつ引張強さが1470MPa以上であって、優れたLME割れ耐性を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板、およびこのような高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、種々検討した結果、上記目的は、以下の発明により達成されることを見出した。
本発明の一局面に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板の表面にめっき層を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記素地鋼板が質量%で、
C :0.19~0.30%、
Si:0%超、0.70%以下、
Mn:1.8~3.0%、
P :0%超、0.020%以下、
S :0%超、0.05%以下、
Al:0.015~0.060%、
Cr:0.05~0.8%、
Ti:0.015~0.080%、
B :0.0010~0.0150%、
Mo:0%超、0.40%以下、
N :0.0100%以下、および
O :0.0030%以下、
を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなり、
前記素地鋼板のCr量[Cr](質量%)およびSi量[Si](質量%)は、2×[Cr]-[Si]≧0.1を満足し、
前記素地鋼板の金属組織において、マルテンサイト(焼戻しマルテンサイトおよび自己焼戻しマルテンサイトを含む)が82体積%以上、フェライト、パーライトおよびベイナイトが13体積%以下、残留オーステナイトが5体積%以下であり、
前記素地鋼板の金属組織を走査型電子顕微鏡で観察した像において、切断法で測定した総長300μmにおけるラスの個数が200個以上であり、降伏強度が970MPa以上かつ引張強さが1470MPa以上である。
本発明の他の局面に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、上記組成を有するスラブを熱間圧延し、
熱間圧延により得られた熱延鋼板を620℃以上で巻き取り、
巻き取った前記熱延鋼板を繰り出して冷間圧延し、
冷間圧延により得られた冷延鋼板を加熱し、Ac3点以上の温度域で11s以上保持し、加熱、保持した前記冷延鋼板を540~580℃の温度域まで平均冷却速度3℃/s以上で冷却し、さらに90s以内に410~480℃の温度域まで冷却し、
前記冷延鋼板を冷却して得られた素地鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、
溶融亜鉛めっきを施して得られた溶融亜鉛めっき鋼板を550℃以下の温度域に加熱して前記溶融亜鉛めっきの合金化処理を行い、
前記溶融亜鉛めっき鋼板に合金化処理を行って得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を230~340℃の温度域まで平均冷却速度5℃/s以上で冷却することを含む。
本発明によれば、降伏強度が970MPa以上かつ引張強さが1470MPa以上であって、優れたLME割れ耐性を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。また、このような高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することができる。
図1は、本発明の実施形態に係る焼鈍工程のヒートパターンの模式図である。 図2は、試験片断面の走査型電子顕微鏡写真の一例である。 図3は、切断法でラスの個数を計測する状態の模式図である。 図4は、LME割れ耐性の評価用の試料の正面図である。 図5は、LME割れ観察用試料の光学顕微鏡写真の一例である。
以下、本発明の一実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板について説明する。
本実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板の表面にめっき層を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。以下では、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の各構成要素について説明する。
(素地鋼板)
本実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板は、以下の化学成分組成を有する。以下の化学成分組成の説明における「%」は「質量%」を意味する。以下では、素地鋼板および高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を総称して、単に「鋼板」ともいう。また、鋼板の引張強さTSを単に「引張強さ」、0.2%耐力σ0.2および上降伏点UYPを総称して「降伏強度」ともいう。「引張強さ」および「降伏強度」を総称して単に「強度」ともいう。
(C:0.19~0.30%)
Cは、鋼板の強度を確保するために必要な元素である。C量が不足すると、鋼板の引張強さが低下する。十分な鋼板の強度を確保するため、C量は0.19%以上とする。C量の下限は、好ましくは0.20%以上であり、より好ましくは0.21%以上である。しかしながら、C量が過剰になると、残留オーステナイトの体積率が過大となり、鋼板の降伏強度の低下を招くおそれがある。そこで、C量は0.30%以下とする。C量の上限は、好ましくは0.290%以下であり、より好ましくは0.280%以下であり、さらに好ましくは0.270%以下であり、さらにより好ましくは0.260%以下である。
(Si:0%超、0.70%以下)
Siは本発明における重要な元素の一つである。Siは固溶強化元素として知られており、鋼板の延性の低下を抑えつつ、引張強さを向上させることに有効に作用する元素である。また、Siはマルテンサイト組織の焼戻し軟化抵抗を高める効果を有する元素でもある。これらの効果を有効に発揮させるため、Si量は0%を超えた量とする。Si量の下限は、好ましくは0.06%以上である。さらに好ましくは、0.07%以上であり、さらにより好ましくは、0.08%以上である。しかしながら、Si量が過剰になると、残留オーステナイトの体積率が過大となり、鋼板の降伏強度の低下を招くおそれがある。またSi量が過剰になると、鋼板のLME割れ耐性を悪化させるおそれがある。そのためSi量は、0.70%以下とする。Si量の上限は、好ましくは0.60%以下であり、より好ましくは0.50%以下である。
(Mn:1.8~3.0%)
Mnは鋼板の高強度化に寄与する元素である。このような効果を有効に発揮させるため、Mn量は1.8%以上とする。Mn量の下限は、好ましくは1.9%以上であり、より好ましくは2.0%以上である。しかしながら、Mn量が過剰になると、スラブ折損、冷間圧延荷重の増大等を招くおそれがある。そのためMn量は、3.0%以下とする。Mn量の上限は、好ましくは2.9%以下であり、より好ましくは2.8%以下である。
(P:0%超、0.020%以下)
Pは鋼に不可避的に含まれる元素であり、鋼の結晶粒界に偏析して粒界脆化を助長する元素である。鋼板の加工時の破断等を回避するため、P量はできるだけ低減することが好ましい。そのためP量は0.020%以下とする。P量の上限は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.012%以下である。なお、Pは、上述のように鋼中に不可避的に混入する不純物であり、その量を0%にすることは工業生産上不可能である。
(S:0%超、0.05%以下)
SもPと同様に鋼に不可避的に含まれる元素である。Sは鋼中の他の元素とともに介在物を生成する。当該介在物に起因して鋼板の加工時に破断等が生じるおそれがある。このような鋼板の破断等を回避するため、S量はできるだけ低減することが好ましい。そのためS量は、0.05%以下とする。S量の上限は、好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。なお、SもPと同様に、その量を0%にすることは工業生産上不可能である。
(Al:0.015~0.060%)
Alは鋼において脱酸剤として作用する元素である。こうした作用を有効に発揮させるため、Al量は0.015%以上とする。Al量の下限は、好ましくは0.025%以上であり、より好ましくは0.030%以上である。しかしながら、Al量が過剰になると、鋼板中にアルミナなどの介在物が多く生成し、鋼板の加工時に破断を生じるおそれがある。そのため、Al量は0.060%以下とする。Al量の上限は、好ましくは0.055%以下であり、より好ましくは0.050%以下である。
(Cr:0.05~0.8%)
Crは本発明における重要な元素の一つである。Crは鋼板の高強度化に寄与する元素である。具体的には、Crは鋼板の焼入れ性を向上させる元素であり、焼入れ時に生成するベイナイトを低減させ、マルテンサイトのラスの数を増加させ、鋼板の高強度化に有効に作用する。さらに、Crは含有量を増加してもLME割れ耐性を悪化させにくい元素である。これらの効果を有効に発揮させるため、Cr量は0.05%以上とする。Cr量の下限は、好ましくは0.1%以上である。しかしながら、Cr量が過剰になると、溶融亜鉛めっき鋼板や合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、不めっきを発生させることがある。そのため、Cr量は0.8%以下とする。Cr量の上限は、好ましくは0.7%以下であり、より好ましくは0.6%以下である。
(Ti:0.015~0.080%)
Tiは、炭化物や窒化物を形成して鋼板の強度を向上させる元素である。また、Tiは、後述するBによる焼入れ性向上効果を有効に発揮させる上でも有効な元素である。すなわち、Tiは、窒化物を形成することによって鋼中のNを低減する。その結果、B窒化物の形成が抑制され、Bが固溶状態となって、Bによる焼入れ性向上効果が有効に発揮できる。このように、TiはBによる鋼板の焼入れ性を向上させることにより、鋼板の高強度化に寄与する。このような効果を有効に発揮させるため、Ti量は0.015%以上とする。Ti量の下限は、好ましくは0.018%以上であり、より好ましくは0.020%以上である。しかしながら、Ti量が過剰になると、Ti炭化物やTi窒化物が過剰となり、鋼板の加工時に割れを引き起こすおそれがある。そのため、Ti量は0.080%以下とする。Ti量の上限は、好ましくは0.070%以下であり、より好ましくは0.060%以下である。
(B:0.0010~0.0150%)
Bは、焼入れ性を向上させて鋼板の高強度化に寄与する元素である。このような効果を有効に発揮させるため、B量は0.0010%以上とする。B量の下限は、好ましくは0.0012%以上であり、より好ましくは0.0014%以上である。しかしながら、B量が過剰になると、その効果が飽和し、コストが増加するだけである。そのため、B量は0.0150%以下とする。B量の上限は、好ましくは0.0140%以下である。
(Mo:0%超、0.40%以下)
Moは、鋼板の高強度化に寄与する元素である。その効果はMo量が増加するにつれて増大する。その効果を有効に発揮させるため、Mo量は0%超とする。Mo量の下限は、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.20%以上である。しかしながら、Mo量が過剰になると、その効果が飽和するとともに、コストが増加する。そのため、Mo量は0.40%とする。Mo量の上限は、好ましくは0.30%以下である。
(Si量とCr量との関係)
本実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板のCr量およびSi量は、下記式(1)を満たす。式(1)を満たすことにより、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の焼入れ性を向上させることができる。焼入れ性を向上させることにより、焼入れ時におけるフェライトおよびベイナイトの生成量を制限することができる。また、式(1)を満たすことでSi量とCr量のバランスが適切となり、溶接部周辺の領域におけるLME割れの発生を低減することが可能となる。すなわち、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の高強度化と優れたLME割れ耐性とを両立させることができる。
2×[Cr]-[Si]≧0.1 …(1)
式(1)において、[元素記号]は、素地鋼板の当該元素の含有量(質量%)である。
(残部)
本実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板の基本成分は上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。ただし、原材料、資材、製造設備等の状況によって不可避的に持ち込まれる不純物が鋼中に含まれることは当然に許容される。すなわち、素地鋼板の基本成分の残部は、鉄および不可避不純物からなる。こうした不可避不純物としては、上述したP、Sの他、例えば、N、O等が含まれる。N、Oは、それぞれ以下の範囲であることが好ましい。
(N:0.0100%以下)
Nは鋼に不可避的に含まれる不純物元素である。N量が過剰であると、鋼板の加工時に割れを引き起こすおそれがある。そのため、N量は0.0100%以下とする。N量の上限は、好ましくは0.0060%以下である。N量を0%にすることは工業生産上困難である。
(O:0.0030%以下)
Oは鋼に不可避的に含まれる不純物元素である。O量が過剰であると、鋼板の加工時に割れを引き起こすおそれがある。そのため、O量は0.0030%以下とする。O量の上限は、好ましくは0.0020%以下である。O量を0%にすることは工業生産上困難である。
(任意元素)
本実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板には、必要に応じて、Caを以下に示す範囲で含有させてもよい。また、当該素地鋼板には、Caとともに、またはCaを含有させずに、Nb、V、Cu、Ni、Mg、および希土類元素(REM)からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を以下に示す範囲で含有させてもよい。これらの元素を単独または適宜組み合わせて含有させることにより、含有される元素に応じて素地鋼板の特性がより良好となる。
(Ca:0%超、0.0040%以下)
Caは、鋼中の硫化物を球状化し、鋼板の曲げ性を高めるのに有効な元素である。その効果は、Ca量が0%を超えた量であれば発揮され、Ca量が増加するにつれて増大する。その効果をより有効に発揮させるため、Ca量の下限は、好ましくは0.0005%以上であり、より好ましくは0.0010%以上である。しかしながら、Ca量が過剰になると、その効果が飽和するとともに、コストが増加する。そのため、Ca量の上限は、好ましくは0.0040%以下であり、より好ましくは0.0030%以下である。
(Nb:0%超、0.020%以下)
Nbは、鋼板の高強度化に寄与する元素である。その効果は、Nb量が0%を超えた量であれば発揮され、Nb量が増加するにつれて増大する。その効果を有効に発揮させるため、Nb量の下限は、好ましくは0.003%以上であり、より好ましくは0.005%以上である。しかしながら、Nb量が過剰になると、鋼板の焼入れ性を劣化させる。そのため、Nb量の上限は、好ましくは0.020%以下であり、より好ましくは0.018%以下であり、さらに好ましくは0.015%以下である。
(V:0%超、0.30%以下)
Vは、鋼板の高強度化に寄与する元素である。その効果は、V量が0%を超えた量であれば発揮され、V量が増加するにつれて増大する。その効果を有効に発揮させるため、V量の下限は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.010%以上である。しかしながら、V量が過剰になると、その効果が飽和するとともに、コストが増加する。そのため、V量の上限は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.25%以下であり、さらに好ましくは0.20%以下である。
(Cu:0%超、0.30%以下)
Cuは、鋼板の耐食性向上に有効な元素である。その効果は、Cu量が0%を超えた量であれば発揮され、Cu量が増加するにつれて増大する。その効果を有効に発揮させるため、Cu量の下限は、好ましくは0.01%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。しかしながら、Cu量が過剰になると、その効果が飽和するとともに、コストが増加する。そのため、Cu量の上限は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.20%以下であり、さらに好ましくは0.15%以下である。
(Ni:0%超、0.30%以下)
Niは、鋼板の耐食性向上に有効な元素である。その効果は、Ni量が0%を超えた量であれば発揮され、Ni量が増加するにつれて増大する。その効果を有効に発揮させるため、Ni量の下限は、好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。しかしながら、Ni量が過剰になると、その効果が飽和するとともに、コストが増加する。そのため、Ni量の上限は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.20%以下であり、さらに好ましくは0.15%以下である。
(Mg:0%超、0.0100%以下)
Mgは鋼板の成形性の向上に寄与する元素である。その効果は、Mg量が0%を超えた量であれば発揮される。しかしながら、Mg量が過剰になると、鋼板の酸洗性、溶接性、熱間加工性、経済性が悪化する。そのため、Mg量の上限は、好ましくは0.0100%以下であり、より好ましくは0.0040%以下である。
(REM:0%超、0.010%以下)
REMは、鋼板の成形性の向上に寄与する元素である。その効果は、REM量が0%を超えた量であれば発揮される。しかしながら、REM量が過剰になると、鋼板の酸洗性、溶接性、熱間加工性、経済性が悪化する。そのため、REM量の上限は、好ましくは0.010%以下であり、より好ましくは0.0040%以下である。
(素地鋼板の金属組織)
本実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板の金属組織は、マルテンサイト(焼戻しマルテンサイトおよび自己焼戻しマルテンサイトを含む)が82体積%以上、ベイナイトが13体積%以下、残留オーステナイトが5体積%以下である。これにより、本実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を規定の引張強さおよび降伏強度とすることができる。また、各金属組織の割合の測定方法は、後述の実施例において説明する方法とすることができる。
(マルテンサイト:82体積%以上)
金属組織中のマルテンサイトは、本実施形態に係る素地鋼板の基地組織である。マルテンサイトを、素地鋼板の金属組織全体に対して82体積%以上とすることで、鋼板の降伏強度および引張強さを上昇させる。マルテンサイトが82体積%未満となると、他の軟質な組織が低応力で塑性変形を開始してしまい、鋼板の降伏強度および引張強さが低下する。マルテンサイトの体積率は、より好ましくは83体積%以上である。マルテンサイトの体積率に上限はなく、100%でもよい。本実施形態のマルテンサイトは、焼入れままマルテンサイトだけでなく、焼戻しマルテンサイトおよび自己焼戻しマルテンサイト(オートテンパードマルテンサイト)を含む。
(フェライト、パーライトおよびベイナイト:合計で13体積%以下)
フェライト、パーライトおよびベイナイトは、素地鋼板の基地組織であるマルテンサイトに比べて軟質である。鋼板においてこれらの組織が増加すると、低応力でこれらの組織が塑性変形を開始してしまい、鋼板の降伏強度および引張強さが低下する。こうした観点から、フェライト、パーライトおよびベイナイトは、素地鋼板の金属組織全体に対して合計で13体積%以下とする。フェライト、パーライトおよびベイナイトの体積率に下限はなく、0体積%でもよい。以下では、フェライト、パーライトおよびベイナイトを総称して「ベイナイト等」ともいう。
(残留オーステナイト:5%体積以下)
金属組織中の残留オーステナイトは、素地鋼板の金属組織全体に対して、5体積%以下とする。残留オーステナイトのうち、マルテンサイトのラスの境界に存在する少量のフィルム状の残留オーステナイトは、鋼板に応力が付加された際に転位の移動を抑制することで、引張強さや降伏強度を高める効果を有する。しかし、残留オーステナイトそのものはマルテンサイト組織に比べて軟質である。そのため、フィルム状であっても残留オーステナイトが過剰に存在すると、鋼板の降伏強度および引張強さとも低下する。こうした観点から、残留オーステナイトは5体積%以下とする。残留オーステナイトは0体積%であってもよい。
後述の実施例で説明するように、残留オーステナイトの割合は、素地鋼板から切り出した試験片の研削面を化学研磨または電解研磨により研磨し、研磨後の研削面についてX線回折法を適用することにより測定することができる。研削面の研磨方法としては、環境への負荷を低減する観点から、化学研磨よりも電解研磨が好ましい。
(切断法で測定した総長300μmにおけるラスの個数が200個以上)
本実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板は、高い引張強さ、高い降伏強度を満足するため、素地鋼板の金属組織を走査型電子顕微鏡で観察した像において、切断法で測定した総長300μmにおけるラスの個数(以下、単に「総長300μmにおけるラスの個数」ともいう。)を200個以上とする。総長300μmにおけるラスの個数が200個未満となると、降伏強度および引張強さの少なくとも一方が低下する。総長300μmにおけるラスの個数は、好ましくは210個以上であり、より好ましくは220個以上である。
ここでいう「ラス」とは、マルテンサイトの下部組織であり、一方向に長く伸びた結晶である。マルテンサイトの構造は、以下に説明するように重層的になっている。マルテンサイトは、急冷されたオーステナイトが変態することにより形成される。一つの旧オーステナイト粒内には、同じ晶癖面を持つ粒の集合であるパケットが複数存在する。それぞれのパケットの内部には、平行な帯状領域であるブロックが存在する。さらに、それぞれのブロックには、ほぼ同じ結晶方位で高密度の転位を含んだラスの集合が存在する。
本発明で規定する、「切断法で測定した総長300μmにおけるラスの個数」は、鋼板の圧延方向に平行な断面の板厚1/4部において測定する。具体的には、研磨した鋼板の当該断面にナイタールを用いて腐食を施し、当該断面をFE-SEM(Field Emission Scanning Electron Microscope、電界放出走査型電子顕微鏡)を用いて倍率3000倍で写真を撮影する。この写真に切断法を適用してラスの個数を測定する。本実施形態での切断法とは、撮影したFE-SEM像上に総長300μmの線(直線または円弧の試験線)を描き、当該試験線と交差するラスの個数を求める方法である。切断法によるラスの個数の測定方法については、後述の実施例においてより具体的に説明する。
(めっき層)
めっき層は、素地鋼板の表面に形成された溶融亜鉛めっきに後述の合金化処理が施されたものである。溶融亜鉛めっきは、一般に使用されているものを適用でき、特に制限されない。
(高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法)
本実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
上記要件を満足する本実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、上述の素地鋼板の組成を有するスラブを熱間圧延し、所定の温度で巻き取り、巻き取った熱延鋼板を繰り出して冷間圧延し、冷間圧延により得られた冷延鋼板を焼鈍し、焼鈍後の冷延鋼板を冷却して得られた素地鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、溶融亜鉛めっきを施して得られた溶融亜鉛めっき鋼板に合金化処理を行い、その後冷却することにより得られる。以下、各工程について説明する。
(熱間圧延工程)
熱間圧延の条件は、例えば以下のとおりである。熱間圧延工程では、上述の鋼板の組成を有するスラブを熱間圧延する。熱間圧延前のスラブの加熱温度が低いと、TiC等の炭化物がオーステナイト中に固溶し難くなるおそれがある。そのため、熱間圧延前のスラブの加熱温度は、好ましくは1100℃以上である。この熱間圧延前のスラブの加熱温度は、さらに好ましくは1200℃以上である。しかしながら、熱間圧延前の加熱温度が高くなり過ぎるとコストアップとなる。そのため、熱間圧延前の加熱温度の上限は、好ましくは1350℃以下であり、さらに好ましくは1300℃以下である。
熱間圧延の仕上げ圧延温度が低いと、圧延時のスラブの変形抵抗が大きくなり、操業が困難になるおそれがある。そのため、仕上げ圧延温度は、好ましくは850℃以上であり、さらに好ましくは870℃以上である。しかしながら、仕上げ圧延温度が高くなり過ぎると熱延鋼板の強度が過度に高くなるおそれがある。そのため、仕上げ圧延温度は、好ましくは980℃以下であり、さらに好ましくは950℃以下である。
熱間圧延で得られた熱延鋼板の、仕上げ圧延から巻取りまでの平均冷却速度は、生産性を考慮して、好ましくは10℃/s以上であり、より好ましくは20℃/s以上である。一方、当該平均冷却速度が速くなり過ぎると、設備コストが高くなる。そのため、当該平均冷却速度は、好ましくは100℃/s以下であり、さらに好ましくは50℃/s以下である。
(熱延鋼板の巻き取り工程)
熱間圧延により得られた熱延鋼板は、620℃以上で巻き取る。熱延鋼板の巻取り温度が、620℃未満になると、熱延鋼板の強度が高くなり過ぎて、冷間圧延が困難となる。熱延鋼板の巻取り温度は、好ましくは630℃以上であり、より好ましくは640℃以上である。一方、熱延鋼板の巻取り温度が高くなり過ぎると、スケール除去のための酸洗性が劣化する。そのため、巻取り温度は、好ましくは800℃以下であり、より好ましくは750℃以下である。
(冷間圧延工程)
巻き取られた熱延鋼板は、繰り出された後、冷間圧延に供される。繰り出された熱延鋼板は、必要に応じてスケール除去のために酸洗が施される。
冷間圧延時の圧延率の下限は、好ましくは10%以上である。本実施形態における圧延率は、「圧下率」と同義である。具体的には、圧延前の鋼板の板厚をh1、圧延後の鋼板の板厚をh2としたとき、圧延率(%)は「(h1-h2)/h1×100」である。冷間圧延時の圧延率を10%未満とした場合、所定厚さの鋼板を得るには、熱間圧延工程で熱延鋼板の板厚を薄くしなければならない。熱延鋼板を薄くすると熱延鋼板の長さが長くなるため、酸洗に時間がかかり、生産性が低下する。冷間圧延時の圧延率の下限は、さらに好ましくは25%以上である。
一方、冷間圧延時の圧延率が70%を超えると、高い能力の冷間圧延機が必要となる。そのため、冷間圧延時の圧延率の上限は、好ましくは70%以下であり、さらに好ましくは65%以下である。
図1は、本実施形態に係る冷間圧延後の鋼板のヒートパターンの模式図である。図1に示すヒートパターンには、(a)均熱工程、(b)第1の冷却工程、(c)第2の冷却工程、(d)合金化工程、(e)第3の冷却工程、および(f)第4の冷却工程が含まれる。本実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得るには、冷間圧延後のヒートパターンに含まれる工程のうち、特に(a)から(e)までの各工程の条件を適切に調整することが重要である。
(a)均熱工程
均熱工程では、冷延鋼板を加熱し、Ac3点以上の温度域で11s以上保持する。加熱温度がAc3点未満の場合、鋼板の降伏強度や引張強さを低下させる軟質なフェライトが残存する可能性がある。そのため、均熱工程での保持温度の下限はAc3点とする。均熱工程での保持温度の下限は、好ましくは(Ac3点+5)℃である。また、均熱工程での保持温度は、冷延鋼板の固相線温度以下であればよく、上限については特に設けない。しかし、均熱工程での保持温度を上げすぎると生産性の悪化、または炉の燃費の増大による経済性の悪化が生じるため、均熱工程での保持温度の上限は、好ましくは980℃以下である。均熱工程では、冷延鋼板の温度を一定に保ってもよく、また、上記保持温度の範囲であれば冷延鋼板の温度が変動してもよい。
また、Ac3点以上の温度域での保持時間が11s未満であると、加熱前の冷延鋼板に存在していた炭化物および当該炭化物に固溶していた元素から均熱工程で鋼板に固溶する元素の量が不足し、焼入れ性が劣化する。そのため、Ac3点以上の温度域での保持時間は、11s以上とする。Ac3点以上の温度域での保持時間の下限は、好ましくは12s以上、より好ましくは15sである。Ac3点以上の温度域での保持時間の上限については特に設けない。しかし、当該保持時間が過度に長いと生産性が悪化するため、当該保持時間は、好ましくは600s未満である。
なお、Ac3点は、下記式(2)により算出することができる(William C.
Leslie著,「レスリー鉄鋼材料学」,丸善株式会社、p.273)。式(2)中の[元素記号]は、当該元素の含有量(質量%)を表す。
Ac3(℃)=910-203×[C]1/2-15.2×[Ni]+44.7×[Si]+104×[V]+31.5×[Mo]+13.1×[W]-{30×[Mn]+11×[Cr]+20×[Cu]-700×[P]-400×[Al]-120×[As]-400×[Ti]} …(2)
(b)第1の冷却工程
第1の冷却工程では、均熱工程でAc3点以上の温度域に加熱、保持した冷延鋼板を540~580℃の温度域(第1の温度域)まで平均冷却速度3℃/s以上で冷却する。具体的には、均熱工程で冷却を開始した後、Ac3点から第1の温度域まで平均冷却速度3℃/s以上で冷却する。この平均冷却速度が、3℃/s未満になると、フェライトが生成する可能性が高くなり、本発明で規定する降伏強度および引張強さの確保が難くなる。そのため、上記平均冷却速度は3℃/s以上とする必要があり、好ましくは4℃/s以上であり、より好ましくは5℃/s以上である。一方、上限は特に設けないが、上記平均冷却速度が50℃/sを超えると、鋼板温度を制御し難くなり、設備コストが増加する。そのため、上記平均冷却速度の上限は50℃/s以下、好ましくは40℃/s以下である。
(c)第2の冷却工程
第2の冷却工程では、第1の冷却工程の後、冷延鋼板を90s以内に410~480℃の温度域(第2の温度域)まで冷却して素地鋼板を得る。より具体的には、冷延鋼板を、第1の温度域から90s以下の時間でMs点以上の温度を確保しつつ第2の温度域まで冷却する。第1の温度域から第2の温度域まで冷却する時間が90sを超えるとベイナイトの増加が懸念されるため、第1の温度域から第2の温度域まで冷却する時間は90s以内とする。第1の温度域から第2の温度域まで冷却する時間の上限は、好ましくは70s以下である。第2の温度域の上限は、好ましくは470℃以下であり、より好ましくは460℃以下である。
第2の冷却工程では、冷延鋼板をMs点以上の温度に保つことが好ましい。第2の冷却工程で冷延鋼板がMs点未満となると、その後の合金化工程の前にマルテンサイトが生成し、熱処理終了後の最終組織としてラス間隔が減少して引張強さの低下を招くからである。
「Ms点」とは、オーステナイトがマルテンサイト変態を開始する温度であり、下記式(3)に基づいて、鋼板の化学成分組成から簡易的に求めることができる(「講座・現代の金属学 材料編第4巻 鉄鋼材料」,社団法人日本金属学会、1985年6月,p.45)。式(3)中の[元素記号]は、鋼板の当該元素の含有量(質量%)を表し、鋼板中に含有されていない元素は0として計算する。
Ms点(℃)=550-361×[C]-39×[Mn]-35×[V]-20×[Cr]-17×[Ni]-10×[Cu]-5×([Mo]+[W])+15×[Co]+30×[Al] …(3)
(d)合金化工程
第2の冷却工程の後、合金化工程に先立って、素地鋼板に溶融亜鉛めっきを施す。第2の温度域に冷却された素地鋼板は、溶融亜鉛めっき浴を収容するめっきポットに侵入し、めっき浴への浸漬処理が施される。この浸漬処理により、素地鋼板に溶融亜鉛めっきが施され、溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。合金化工程では、得られた溶融亜鉛めっき鋼板に合金化処理が施される。
合金化工程では、溶融亜鉛めっき鋼板を550℃以下の温度域に加熱して溶融亜鉛めっきの合金化処理を行う。具体的には、溶融亜鉛めっき鋼板を加熱することにより、溶融亜鉛めっきに含まれる亜鉛と、素地鋼板に含まれる鉄との合金化を行う。この合金化処理での加熱温度が550℃を超えると、素地鋼板にフェライトが生成する可能性が増し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の引張強さが低下するおそれがある。また、これに加えて、素地鋼板から溶融亜鉛めっきの亜鉛への鉄の拡散が過多となり、プレス成形時等にめっき層が剥離する可能性が高くなる。合金化工程での加熱温度の上限は、好ましくは540℃以下であり、より好ましくは530℃以下である。合金化工程での加熱温度は、めっき浴への浸漬処理直後の溶融亜鉛めっき鋼板の温度よりも高い温度であればよく、好ましくは420℃以上、より好ましくは430℃以上である。
(e)第3の冷却工程
第3の冷却工程では、合金化工程で得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、230~340℃の温度域(第3の温度域)まで平均冷却速度5.0℃/s以上で冷却する。より具体的には、合金化直後から第3の温度域の冷却停止温度まで平均冷却速度5.0℃/s以上で冷却する。これにより、上述の本実施形態に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。第3の冷却工程での平均冷却速度が5.0℃/s未満になると、ベイナイトの増加が懸念される。また、ベイナイトの生成を抑制しても、Ms点通過後に生成するマルテンサイトから未変態オーステナイトへの炭素の分配が進むことでオーステナイトが安定化し、マルテンサイトに変態するオーステナイト量が低下する。その結果、5体積%を超える残留オーステナイトを含みやすくなる。そのため、第3の冷却工程での平均冷却速度は、5.0℃/s以上とする。第3の冷却工程での平均冷却速度は、好ましくは8.0℃/s以上であり、より好ましくは10℃/s以上である。当該平均速度の上限は、特に規定しないが、冷却設備の冷却能力を増大すると、冷却設備に大きな負荷が生じるため、好ましくは50℃/s以下であり、より好ましくは40℃/s以下である。
(f)第4の冷却工程
第3の冷却工程後に引き続き第4の冷却工程を行う。第4の冷却工程では、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、第3の温度域から50℃以下の冷却停止温度まで平均冷却速度5.0℃/s以下で冷却することが好ましい。第4の冷却工程での平均冷却速度が5.0℃/sを超えると、素地鋼板のマルテンサイトの自己焼き戻しが進まず、脆性的な組織となるおそれがある。第4の冷却工程での平均冷却速度は、より好ましくは4.0℃以下である。また、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の生産性が悪化するため、第4の冷却工程での平均冷却速度は、好ましくは0.05℃/s以上であり、より好ましくは0.10℃/s以上である。
なお、第3の冷却工程での冷却停止温度が、230℃よりも高くなっている場合には、第3の冷却工程での冷却停止温度から230℃までの平均冷却速度は問わない。また、第4の冷却工程では、第3の冷却工程の後、加熱を行わない限り、室温まで任意の冷却速度で冷却してもよい。
(その他の工程)
第4の冷却工程の後に、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板に、必要に応じて加工を行ってもよく、焼き戻しを行ってもよい。
第4の冷却工程で冷却された高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、調質圧延を行わなくても十分に高い引張強さおよび降伏強度を有する。しかし、当該めっき鋼板に調質圧延等の加工を行うことにより加工硬化を生じさせ、さらに高い降伏強度を達成することも可能である。このような降伏強度の向上は、当該めっき鋼板の加工によって、素地鋼板のマルテンサイトの可動転位が減少することによる。素地鋼板のマルテンサイトの可動転位は、当該めっき鋼板の降伏強度を低下させるため、少ないことが好ましい。当該めっき鋼板の加工量の上限値は特に指定しない。しかし、当該めっき鋼板には、加工により、形状悪化や強度異方性が生じる。そのため、調質圧延での加工量の上限は、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の圧延方向の伸び率で、好ましくは5%以下であり、より好ましくは4%以下である。調質圧延以外の加工としては、レベラーを用いた加工を行ってもよい。レベラーを用いた加工でも、好ましい加工量は調質圧延と同様である。
また、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板に過度でない焼き戻しを行っても、高い引張強さを維持しながら、より高い降伏強度を達成することが可能である。これは、焼き戻しを行うことで、加工と同様に素地鋼板のマルテンサイトの可動転位が減少するからである。
焼き戻しの温度は特に指定しないが、概ね500℃を超えると、過度な焼き戻しが起こり、素地鋼板のマルテンサイトのラスの個数が低下して、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の引張強さ、降伏強度の低下を招く。そのため、焼き戻し温度の上限は、500℃以下が好ましい。
本発明の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、上記の製造方法によって、得られたものに限定されない。本発明の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、本発明で規定する要件を満足する限り、他の製造方法によって得られたものであってもよい。
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下にまとめる。
上述したように、本発明の一局面に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、素地鋼板の表面にめっき層を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記素地鋼板が質量%で、
C :0.19~0.30%、
Si:0%超、0.70%以下、
Mn:1.8~3.0%、
P :0%超、0.020%以下、
S :0%超、0.05%以下、
Al:0.015~0.060%、
Cr:0.05~0.8%、
Ti:0.015~0.080%、
B :0.0010~0.0150%、
Mo:0%超、0.40%以下、
N :0.0100%以下、および
O :0.0030%以下、
を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなり、
前記素地鋼板のCr量[Cr](質量%)およびSi量[Si](質量%)は、2×[Cr]-[Si]≧0.1を満足し、
前記素地鋼板の金属組織において、マルテンサイト(焼戻しマルテンサイトおよび自己焼戻しマルテンサイトを含む)が82体積%以上、フェライト、パーライトおよびベイナイトが13体積%以下、残留オーステナイトが5体積%以下であり、
前記素地鋼板の金属組織を走査型電子顕微鏡で観察した像において、切断法で測定した総長300μmにおけるラスの個数が200個以上であり、降伏強度が970MPa以上かつ引張強さが1470MPa以上である。
この構成によれば、降伏強度が970MPa以上、引張強さが1470MPa以上であって、優れたLME割れ耐性を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
上記構成の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、前記素地鋼板が、さらに、質量%で、Ca:0%超、0.0040%以下を含有してもよい。
この構成によれば、曲げ性にも優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
上記構成の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、前記素地鋼板が、さらに、質量%で、
Nb:0%超、0.020%以下、
V :0%超、0.30%以下、
Cu:0%超、0.30%以下、
Ni:0%超、0.30%以下、
Mg:0%超、0.0100%以下、および
REM:0%超、0.010%以下、
からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有してもよい。
この構成によれば、さらに強度に優れ、または耐食性もしくは成形性にも優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
また、本発明の他の局面に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法は、上記組成を有するスラブを熱間圧延し、
熱間圧延により得られた熱延鋼板を620℃以上で巻き取り、
巻き取った前記熱延鋼板を繰り出して冷間圧延し、
冷間圧延により得られた冷延鋼板を加熱し、Ac3点以上の温度域で11s以上保持し、加熱、保持した前記冷延鋼板を540~580℃の温度域まで平均冷却速度3℃/s以上で冷却し、さらに90s以内に410~480℃の温度域まで冷却し、
前記冷延鋼板を冷却して得られた素地鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、
溶融亜鉛めっきを施して得られた溶融亜鉛めっき鋼板を550℃以下の温度域に加熱して前記溶融亜鉛めっきの合金化処理を行い、
前記溶融亜鉛めっき鋼板に合金化処理を行って得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を230~340℃の温度域まで平均冷却速度5℃/s以上で冷却することを含む。
この構成によれば、降伏強度が970MPa以上、引張強さが1470MPa以上であって、優れたLME割れ耐性を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
上記構成の高強度の製造方法において、冷却した前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板に、伸び率5%以下で加工を行ってもよい。
この構成によれば、さらに降伏強度に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含有される。
(製造方法)
溶鋼を鋳造して表1に示す化学成分組成(鋼種:A、B、C、D、E、F、G、H、I、J)のスラブを製造した。表1中、「<」を付した数値は測定限界未満であったことを、それぞれ意味する。P、S、N、Oは、上述の通り不可避不純物であり、P、S、N、Oの欄に示した値は不可避的に含まれた量を意味する。表1に示す化学成分組成の残部は、鉄、およびP、S、N、O以外の不可避不純物である。
表1には、各鋼種のAc3点およびMs点も示した。Ac3点は上記式(2)、Ms点は上記式(3)を用いて算出した。Ac3点およびMs点を算出する際は、添加していない元素および測定限界未満であった元素の含有量は0とした。
また、表1には、各鋼種の「2×[Cr]-[Si]」の値(表1では「CS値」と記載した。)も示した。ここで、[Cr]および[Si]は、スラブの当該元素の含有量(質量%)である。CS値が0.1以上である場合、下記式(1)を満たす。
2×[Cr]-[Si]≧0.1 …(1)
Figure 2022182938000002
鋼種A~F、H~Jのスラブは1250℃まで、鋼種Gのスラブは1265~1275℃の温度範囲まで加熱し、板厚2.0~3.0mmの範囲まで熱間圧延を施し、熱延鋼板とした。仕上げ圧延完了時の熱延鋼板の温度は、鋼種A~F、H~Jにおいては900℃、鋼種Gにおいては920℃とした。また熱間圧延の仕上げ圧延完了から熱延鋼板の巻き取り開始までの熱延鋼板の平均冷却速度は10~30℃/sとした。熱延鋼板の巻取り開始温度は、鋼種A~Fでは650℃、鋼種G~Jでは680℃として、熱延鋼板のコイルの巻き取りおよびコイル巻き取り相当処理を行った。
得られた熱延鋼板を酸洗した後、表面研削および冷間圧延を組み合わせて、板厚1.4~1.6mmの冷延鋼板を得た。このときいずれの鋼種の冷延率(冷間圧延時の圧延率)は10~60%の範囲内であった。得られた鋼種A~Jの冷延鋼板に対して表2に示す熱処理No.1~14の熱処理を行い、実験No.1~18の鋼板(鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板)を作製した。熱処理No.1~7、13、14では、熱処理炉としてラボシミュレーターを使用し、熱処理No.8~12では、実機設備を使用した。実験No.11では、均熱工程(図1に示した工程(a))での「Ac3点~最高到達温度までの時間」が10sであり、この時間に「最高到達温度から冷却を開始してAc3点に至るまでの時間」を加えた「Ac3点以上の温度域での保持時間」は11s未満であった。
Figure 2022182938000003
熱処理No.1~7、13、14では、第2の冷却工程(図1に示した工程(c))の後、鋼板に溶融亜鉛めっき処理および合金化処理を行わなかった。熱処理No.8~12では、鋼板に第2の冷却工程の後、溶融亜鉛めっき処理および合金化処理(図1に示した工程(d))を実施した。
熱処理No.1~7、13、14を実施した鋼板については、溶融亜鉛めっき処理および合金化処理(図1に示した工程(d))を模擬した熱処理後に組織の観察および機械的特性の評価を行った。熱処理No.8~12を実施した鋼板は、めっき処理または指定の加工硬化処理(調質圧延)を施した後に組織の観察および機械的特性の評価を行った。
なお、熱処理No.1~7、13、14を実施した鋼板について、溶融亜鉛めっき処理および合金化処理を模擬した熱処理後に組織の観察および機械的特性の評価を行ったのは、めっきの有無によって鋼板の強度に大きな影響はないのに対し、熱処理の鋼板の強度への影響は大きいからである。
(組織観察および機械的特性の評価)
このようにして得られた実験No.1~18の各鋼板について、マルテンサイト、ベイナイトおよび残留オーステナイトの各組織の体積率、切断法で測定した総長300μmにおけるラスの個数、ならびに機械的特性(0.2%耐力σ0.2および引張強さTS)を下記の手順に従って測定した。
(各組織の体積率)
本実施例の製造方法によれば、各鋼板においてマルテンサイト、ベイナイトおよび残留オーステナイト以外の組織(例えば、フェライトやパーライト)が存在する可能性は極めて低い。そのため、マルテンサイト、ベイナイトおよび残留オーステナイト以外の組織は測定しなかった。以下では、各組織の体積率の測定方法について、残留オーステナイト、ベイナイトおよびマルテンサイトの順に説明する。
(残留オーステナイトの体積率)
残留オーステナイトの体積率は、次のように測定した。試験片は、熱処理後の鋼板(板厚1.4~1.6mm)から20mm×20mmの大きさに切り出した。この試験片を、表面から板厚の1/4部まで研削し、研削面を化学研磨(実験No.8)または電解研磨(実験No.16~18)により研磨した。研磨後の研削面について、X線回折法により残留オーステナイトの体積率を測定した(ISIJ Int.Vol.33.(1993),No.7,P.776)。測定には、2次元微小部X線回折装置(株式会社リガク製、RINT-RAPID II)を使用した。ターゲットはCoを使用した。
ただし、一部の試験片については、そのC量もしくはSi量、または第3の冷却条件もしくは第4の冷却条件での熱処理条件から、残留オーステナイトの体積率が5%以下であることが想定された。そのため、このような試験片についてはX線回折法による残留オーステナイトの体積率の測定を行わなかった。残留オーステナイトの体積率を測定しなかった鋼板(実験No.1~7、9~15)については、残留オーステナイトの体積率は、その最高値である5%を想定値として使用した。
(ベイナイトおよびマルテンサイトの体積率)
ベイナイトおよびマルテンサイトの体積率は、次の手順で測定、算出した。試験片は、熱処理後の鋼板(板厚1.4~1.6mm)から20mm×20mmの大きさに切り出した。この試験片の圧延方向と平行な断面を研磨し、研磨面にナイタール腐食を施した。ナイタール腐食を施した研磨面の板厚の1/4部の組織の写真(倍率3000倍)を、FE-SEMを用いて撮影した。組織写真の粒の色などに基づいて組織をベイナイトまたはマルテンサイトに区分し、ベイナイトおよびマルテンサイトの面積率を点算法で測定した。具体的には、撮影したFE-SEM像上に3μm間隔(写真上では9mm間隔)の直交格子を設け、格子が直角に交わる点(格子点)における組織をベイナイトまたはマルテンサイトに区分した。組織の区分は、格子点100点について行い、その結果を用いてベイナイトの面積率およびマルテンサイトの面積率を算出した。測定は、各試験片とも1視野(写真1枚)について行った。
図2は、試験片の圧延方向と平行な断面の、ナイタール腐食を施した研磨面の板厚の1/4部の組織の倍率3000倍の走査型電子顕微鏡写真の一例である。図2において、黒色に見える組織はベイナイトであり、残りの部分はマルテンサイトである。
以上の説明からわかるように、本実施例では、残留オーステナイトの体積率と、ベイナイトおよびマルテンサイトの面積率とを異なる方法で測定しているため、各組織の割合の合計は、必ずしも100%となるとは限らない。
そこで、本実施例では、ベイナイトの体積率およびマルテンサイトの体積率を決定するに当たっては、残留オーステナイト、ベイナイトおよびマルテンサイトの各体積率の合計が100体積%となるように調整を行った。具体的には、100体積%から、X線回折法で測定された残留オーステナイトの体積率(または残留オーステナイトの体積率の想定値)を減じた数値を求め、この数値をベイナイトおよびマルテンサイトの合計体積率とみなした。このベイナイトおよびマルテンサイトの合計体積率を、点算法で測定されたベイナイトおよびマルテンサイトの各面積率を用いて比例配分し、ベイナイトおよびマルテンサイトの各体積率とした。このようにして求めた各組織の体積率を表3に示した。
Figure 2022182938000004
(総長300μmにおけるラスの個数)
総長300μmにおけるラスの個数は、切断法で測定した。切断法は、通常粒径を測定する手法である(JIS G 0551:2013)。本実施例では、切断法をラスの個数を測定する手法として応用した。
ラスの個数の測定は、鋼板の圧延方向に平行な断面の板厚1/4部において行った。鋼板の当該断面を研磨し、ナイタールを用いて腐食を施し、FE-SEMを用いて倍率3000倍で写真を撮影した。撮影されたFE-SEM像において、白色であり、かつ最長部分の長さが1μm以上の領域をラスとした。図3は、切断法でラスの個数を計測する状態の模式図である。撮影したFE-SEM像上に、総長300μmの線(試験線)を描き、図3に示すように、その線がラスを通過した数(試験線と交差するラスの個数)を測定した。総長300μmの試験線と交差するラスの個数を、「総長300μmにおけるラスの個数」という。測定した総長300μmにおけるラスの個数を表3に示した。
(機械的特性の評価)
熱処理を実施した鋼板の機械的特性として、引張強さTSおよび0.2%耐力σ0.2を測定した。引張強さTSおよび0.2%耐力σ0.2は、冷間圧延の圧延方向と直角な方向が試験片の長手となるように採取したJIS5号試験片(板状試験片)を用いて測定した。実験No.11~15の測定条件は、JIS Z 2241:2011に基づく。実験No.1~10、16~18の測定条件は、クロスヘッド変位速度を10mm/minで一定とした以外は、JIS Z 2241:2011に基づく。測定した引張強さTSおよび0.2%耐力σ0.2を表3に示した。引張強さTSが1470MPa以上、かつ0.2%耐力σ0.2が970MPa以上の場合、機械的特性について合格とした。
(LME割れ耐性の評価)
LME割れ耐性は、鋼板の化学成分組成が大きく影響し、熱処理の影響は化学成分組成に比べて小さい。そのため、LME割れ耐性は、化学成分組成による評価が可能である。本実施例では、以下の方法で各鋼板のLME割れ耐性を評価した。
鋼種A~Fの冷間圧延まま鋼板に対し、亜鉛めっきの付着量が50g/mとなるように電気めっきを施した。得られた亜鉛めっき鋼板を350℃まで加熱し、亜鉛めっきの合金化処理を行った。得られた合金化亜鉛めっき鋼板をそれぞれ切断し、140mm×35mmの試料を2枚ずつ採取した。
図4は、LME割れ耐性の評価用の試料の正面図である。図4に示すように、採取した2枚の試料1で軟鋼板2を挟んで板組とし、この3枚板組の両端をクランプで固定した。2枚の試料1を、以下ではそれぞれ上板、下板ともいう。固定した3枚板組の中央に抵抗スポット溶接を実施し、LME割れ耐性評価用試料を作製した。軟鋼板2は、引張強さ270MPa、片側めっき付着量55g/m、寸法0.75mm×140mm×35mmのGA鋼板(合金化溶融亜鉛めっき鋼板)を使用した。鋼種A~Jのそれぞれについて1個ずつLME割れ耐性評価用試料を準備した。溶接条件は以下の通りとした。
溶接機:交流インバータ式抵抗溶接機
電極:上下DR型Cu-Cr(ドームラジアス製)
電極打角:5°
電極径:先端直径8mm
冷却水流量:上下約2L/分
加圧力:350kgf
初期化圧力時間:60サイクル/60Hz
アップスローブ:1サイクル/60Hz
通電1段目
電流値:7.2kA
時間(サイクル/60Hz):8
通電2段目
電流値:9kA
時間(サイクル/60Hz):17
ダウンスローブ(サイクル/60Hz):30
ホールド時間(サイクル/60Hz):5
(LME割れ観察方法)
このようにして作製したLME割れ耐性評価用試料から、LME割れ観察用試料を準備した。LME割れ観察用試料は、観察面が溶接ナゲットの直径を通る断面となるように作製した。光学顕微鏡を用いて25~100倍で、LME割れ観察用試料の上板および下板の表層部の観察を行い、割れの有無を調査した。図5は、LME割れ観察用試料の光学顕微鏡写真の一例である。図5に示すように、長さ50μm以上の割れを溶接部のLME割れと判断した。各鋼種のLME割れ耐性評価用試料の観察の結果、割れがあったものを×(不可)、割れがなかったものを〇(良好)として、表4に評価結果を示した。鋼種Gの評価結果は推定である。
Figure 2022182938000005
(評価結果)
(機械的特性)
表2に示した結果から、以下のように考察できる。実験No.2~4、8~10、12~18は、本発明で規定する化学成分組成を満足する鋼種(鋼種B、C、F~J)を用い、適切な熱処理条件で鋼板を製造した実施例である。これらの実施例の鋼板では、金属組織中の各組織の割合、および総長300μmにおけるラスの個数が適切に調整され、引張強さTSが1470MPa以上、かつ0.2%耐力σ0.2が970MPa以上であり、機械的特性について合格基準を満足していた。
これに対して実験No.1、5、6、11は、本発明で規定する要件のいずれかを満足しない比較例である。これらの比較例の鋼板は、機械的特性の合格基準を満足しなかった。
実験No.5、11は、本発明で規定する総長300μmにおけるラスの個数を満足しなかった例である。
実験No.5の鋼板は、第1の冷却工程(b)での到達温度が150℃と低く、金属組織は本発明の規定を満足していたが、本発明で規定する総長300μmにおけるラスの個数を満足しなかった。そのため、引張強さTSが低く、機械的特性について合格基準を満足しなかった。
実験No.11の鋼板は、均熱工程(a)でのAc3点以上の温度域での保持時間が11s未満であり、総長300μmにおけるラスの個数が本発明の規定よりも少なく、また、ベイナイト等の体積率が本発明の規定よりも高かった。そのため、引張強さTSおよび0.2%耐力σ0.2が低く、機械的特性について合格基準を満足しなかった。
実験No.1、6は、本発明で規定する化学成分組成を満足しない鋼種(表1の鋼種A、D)を使用した例である。
実験No.1の鋼板は、鋼種AのCr量が本発明の規定量よりも少なく、CS値が0.1未満であり、式(1)を満たさなかった。これにより、焼入れ性が不足し、ベイナイト等の体積率が本発明の規定よりも高かった。そのため、引張強さTSおよび0.2%耐力σ0.2が低く、機械的特性について合格基準を満足しなかった。
実験No.6の鋼板は、鋼種DのSi量が本発明の規定量よりも多く、CS値が0.1未満であり、式(1)を満たさなかった。これにより、焼入れ性が不足し、ベイナイト等の体積率が本発明の規定よりも高かった。そのため、引張強さTSおよび0.2%耐力σ0.2が低く、機械的特性について合格基準を満足しなかった。
なお、実験No.7の鋼板は、本発明で規定する化学成分組成を満足しない鋼種(表1の鋼種E)を使用した比較例であるものの、機械的特性について合格基準を満足していた。
(LME割れ耐性)
表4に示したように、本発明で規定する化学成分組成を満足する鋼種(鋼種B、C、F~J)の鋼板は、優れたLME割れ耐性を有していた。そのため、鋼種B、C、F~Jを使用した実験No.2~4、8~10、12~18の鋼板もLME割れ耐性に優れていたと考えられる。
一方、CS値が0.1未満であり、上記式(1)を満足しない鋼種A、Si量が本発明の規定量よりも多く、かつ上記式(1)を満足しない鋼種D、Si量が本発明の規定量よりも多い鋼種Eの各鋼板は、LME割れ耐性に劣っていた。そのため、鋼種A、D、Eを使用した実験No.1、6、7の鋼板もLME割れ耐性に劣っていたと考えられる。
1 試料
2 軟鋼板

Claims (5)

  1. 素地鋼板の表面にめっき層を有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、
    前記素地鋼板が質量%で、
    C :0.19~0.30%、
    Si:0%超、0.70%以下、
    Mn:1.8~3.0%、
    P :0%超、0.020%以下、
    S :0%超、0.05%以下、
    Al:0.015~0.060%、
    Cr:0.05~0.8%、
    Ti:0.015~0.080%、
    B :0.0010~0.0150%、
    Mo:0%超、0.40%以下、
    N :0.0100%以下、および
    O :0.0030%以下、
    を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなり、
    前記素地鋼板のCr量[Cr](質量%)およびSi量[Si](質量%)は、2×[Cr]-[Si]≧0.1を満足し、
    前記素地鋼板の金属組織において、マルテンサイト(焼戻しマルテンサイトおよび自己焼戻しマルテンサイトを含む)が82体積%以上、フェライト、パーライトおよびベイナイトが13体積%以下、残留オーステナイトが5体積%以下であり、
    前記素地鋼板の金属組織を走査型電子顕微鏡で観察した像において、切断法で測定した総長300μmにおけるラスの個数が200個以上であり、降伏強度が970MPa以上かつ引張強さが1470MPa以上である、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  2. 前記素地鋼板が、さらに、質量%で、
    Ca:0%超、0.0040%以下、
    を含有する、請求項1に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  3. 前記素地鋼板が、さらに、質量%で、
    Nb:0%超、0.020%以下、
    V :0%超、0.30%以下、
    Cu:0%超、0.30%以下、
    Ni:0%超、0.30%以下、
    Mg:0%超、0.0100%以下、および
    REM:0%超、0.010%以下、
    からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1または請求項2に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  4. 高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
    前記請求項1~3のいずれか1項で規定する組成を有するスラブを熱間圧延し、
    熱間圧延により得られた熱延鋼板を620℃以上で巻き取り、
    巻き取った前記熱延鋼板を繰り出して冷間圧延し、
    冷間圧延により得られた冷延鋼板を加熱し、Ac3点以上の温度域で11s以上保持し、加熱、保持した前記冷延鋼板を540~580℃の温度域まで平均冷却速度3℃/s以上で冷却し、さらに90s以内に410~480℃の温度域まで冷却し、
    前記冷延鋼板を冷却して得られた素地鋼板に溶融亜鉛めっきを施し、
    溶融亜鉛めっきを施して得られた溶融亜鉛めっき鋼板を550℃以下の温度域に加熱して前記溶融亜鉛めっきの合金化処理を行い、
    前記溶融亜鉛めっき鋼板に合金化処理を行って得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を230~340℃の温度域まで平均冷却速度5℃/s以上で冷却することを含む、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
  5. 冷却した前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板に、伸び率5%以下で加工を行う請求項4に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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