JP2022182285A - 前縁高揚力装置、翼および航空機、ならびに緩衝部材 - Google Patents

前縁高揚力装置、翼および航空機、ならびに緩衝部材 Download PDF

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光宏 村山
Mitsuhiro Murayama
亨 平井
Toru Hirai
一臣 山本
Kazuomi Yamamoto
政孝 香西
Masataka Kozai
陽亮 上野
Yosuke Ueno
和秀 磯谷
Kazuhide Isotani
賢司 葉山
Kenji Hayama
賢亮 林
Kensuke Hayashi
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    • B64C9/14Adjustable control surfaces or members, e.g. rudders forming slots
    • B64C9/22Adjustable control surfaces or members, e.g. rudders forming slots at the front of the wing
    • B64C9/24Adjustable control surfaces or members, e.g. rudders forming slots at the front of the wing by single flap

Abstract

【課題】スラット内舷端部やスラット支持機構から発生する騒音を低減させることができる前縁高揚力装置に関する技術を提供する。【解決手段】本発明の一形態に係る前縁高揚力装置は、機体の母翼前縁に対して展開収納可能な前縁高揚力装置であって、スラット本体と、緩衝部とを具備する。前記スラット本体は、前縁部と、展開時に前記母翼との間に隙間を形成する後縁部と、前記前縁部の下縁に形成されたカスプ部と、前記カスプ部と前記後縁部との間に形成されたコブ部と、前記前縁部と前記コブ部との間に形成され前記機体の胴体側に位置する内舷端面と、を有する。前記緩衝部は、前記内舷端面および前記コブ部の内舷側表面を含む前記スラット本体の内舷端部に設けられ、前記内舷端面または前記コブ部の内舷側表面における気流の圧力変動を低減する。【選択図】図12

Description

本発明は、航空機の翼に設置される前縁高揚力装置、並びにこれを備えた翼および航空機に関する。
航空機が空港を離発着する際の低速飛行を実現するために主翼から高揚力装置が展開される。特に旅客機などでは主翼前縁にスラットをはじめとする前縁高揚力装置が取り付けられ、低速飛行時に大きな揚力を発生する。
スラットは、母翼前縁との間に隙間を設けることにより、主翼の揚力の上限(最大揚力)を増加させる機能を有する反面、着陸進入時の飛行条件において大きな空力騒音も発生する。主翼に収納するための制約からスラットの下面には凹み(コブ)があり、そこに形成される逆流領域の乱流が騒音を発生する原因となる。
そこで、スラット下面のコブ内に形成される逆流領域の乱流による騒音を抑える代表的な技術として、例えば、スラット下面に逆流領域のせん断層に沿った曲面形状を付加することでコブの逆流領域を無くす「コブフィラー」という概念が知られている(特許文献1参照)。また、逆流領域の発生個所となるスラット下面のカスプに「セレーション」を設置してコブのせん断層を積極的に混合させ大きな圧力変動の発生を抑制する方法が提案されている(特許文献2参照)。
米国特許第6457680号明細書 特開2011-162154号公報
一方、旅客機実機や風洞実験模型の音源探査を行うと、スラット下面のコブ内のせん断層の乱流によってもたらされる騒音のほかに、スラット内舷端部や、スラットを母翼前縁から展開可能に支持するスラット支持機構から大きな騒音が発生していることが確認されている。これらの騒音は、上記特許文献1,2の構成では抑えることができない。また、スラット内舷端部やスラット支持機構からの騒音は前述のコブ内に形成される逆流領域によってもたらされる騒音よりも周波数帯によっては大きくなることがある。したがって、スラット内舷端部等の低騒音化を実現できないと、航空機全体としての騒音レベルを低下させることができないことになる。
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、スラット内舷端部やスラット支持機構から発生する騒音を低減させることができる前縁高揚力装置に関する技術を提供することにある。
本発明の一形態に係る前縁高揚力装置は、機体の母翼前縁に対して展開収納可能な前縁高揚力装置であって、スラット本体と、緩衝部とを具備する。
前記スラット本体は、前縁部と、展開時に前記母翼との間に隙間を形成する後縁部と、前記前縁部の下縁に形成されたカスプ部と、前記カスプ部と前記後縁部との間に形成されたコブ部と、前記前縁部と前記コブ部との間に形成され前記機体の胴体側に位置する内舷端面と、を有する。
前記緩衝部は、前記内舷端面および前記コブ部の内舷側表面を含む前記スラット本体の内舷端部に設けられ、前記内舷端面または前記コブ部の内舷側表面における気流の圧力変動を低減する。
前記緩衝部は、前記内舷端面に当接する第1外面部と、前記前縁部から前記コブ部へ向かう気流を整流する湾曲面を含む第2外面部と、を有する構造体であってもよい。
前記構造体は、前記母翼前縁への収納時に前記スラット本体と前記母翼との間の隙間に収容可能に変形する可撓性材料で構成されてもよい。
前記緩衝部は、前記内舷端面に設けられ前記前縁部から前記コブ部へ向かう気流を整流する湾曲面を含む曲面部であってもよい。
前記緩衝部は、前記内舷端部に設けられたフェンス部材であり、前記フェンス部材は、前記内舷端面よりも前記機体の胴体側に延びる第1延出部と、前記第1延出部の先端に設けられ前記前縁部側に向かって延びる第2延出部と、を有してもよい。
前記フェンス部材は、前記内舷端面と前記コブ部の内舷側表面との境界である縁部の一部または全領域に設けられてもよい。
前記フェンス部材は、前記母翼前縁への収納時に前記スラット本体と前記母翼との間の隙間に収容可能に変形する可撓性材料で構成されてもよい。
前記緩衝部は、前記内舷端面および前記コブ部の内舷側表面の少なくとも一方に配置された多孔質層であってもよい。
前記緩衝部は、前記カスプ部を形成し前記機体の胴体側で前記機体の前記母翼側の隅部が切り欠かれたブレード部材であってもよい。
前記緩衝部は、前記カスプ部を形成するブレード部材であり、前記ブレード部材は、前記機体の胴体側で当該ブレード部材の内舷側端部に設けられた多孔質層を有してもよい。
本発明によれば、スラット内舷端部やスラット支持展開機構から発生する騒音を低減させることができる。
航空機の一方の主翼の一構成例であって上面側から見た部分斜視図である。 上記主翼の下面側から見た部分斜視図である。 母翼の翼長方向に垂直なスラットの概略断面図である。 図3に示すスラットにおける着陸時の流れ場の数値シミュレーション結果を示す図である。 着陸時における右翼側のスラットの内舷端部近傍の非定常流れ場の一例を示す数値シミュレーション結果である。 左翼側のスラットの内舷端部近傍を概略的に示す斜視図である。 図6の矢印方向に流れが作用したときの非定常流れ場の一例を示す数値シミュレーション結果である。 図7においてスラットの後方側から見た非定常流れ場の数値シミュレーション結果である。 図6に示すスラットの翼厚方向に垂直な概略断面図であり、スラットの内舷端に生じる渦の発生の様子を示している。 本発明の一実施形態である構成例1-1に係るスラットの模式図であり、左翼側のスラットの翼厚方向に垂直な概略断面図である。 右翼側のスラット本体の一構成例を示す図であり、左上は、スラット本体の内舷側から見た部分斜視図、右上は、スラット本体の内舷側から見た側面図、左下は、スラット本体の内舷後方側から見た部分斜視図、右下はスラット本体の後方側から見た部分背面図である。 上記構成例1-1に係るスラットの構成を示す図であって、左上は、スラットの内舷側から見た部分斜視図、右上は、スラットの内舷側からみ側面図、左下は、スラットの内舷後方側から見た部分斜視図、右下はスラットの後方側から見た部分背面図である。 本発明の一実施形態である構成例1-2に係るスラットの模式図であり、左翼側のスラットの翼厚方向に垂直な概略断面図である。 右翼側の上記スラットの内舷側から見た側面図である。 フェンス部材の概略断面図である。 本発明の一実施形態である構成例1-3に係るスラットの模式図であり、左翼側のスラットの翼厚方向に垂直な概略断面図である。 右翼側の上記スラットの内舷側から見た側面図である。 構成例1-3の変形例を示すスラットの内舷側から見た側面図である。 構成例1-3の変形例を示すスラットの図16に対応する模式図である。 本発明の一実施形態である構成例1-4に係るスラットの模式図であり、左翼側のスラットの翼厚方向に垂直な概略断面図である。 右翼側の上記スラットの内舷後方側から見た部分斜視図である。 図21に示すスラットの他の構成例を示す部分斜視図である。 内舷スラットの内舷端部の機体直下方向の低騒音化効果の周波数特性を示す一実験結果である。 本発明の一実施形態である構成例2-1に係るスラットの構成を示す図であり、左翼側のスラットの内舷端部を後方側から見た部分斜視図である。 上記スラットの一作用を説明する図8と同様な数値シミュレーション結果である。 図24に示すスラットにおいて緩衝部材の有無による低騒音化効果を比較した風洞実験結果である。 本発明の一実施形態である構成例2-2に係るスラットの構成を示す図であり、左翼側のスラットの内舷端部を後方側から見た部分斜視図である。 低騒音化対策前の基本形状のスラットを基準とした構成例1-1、構成例2-1、および構成例1-1と2-1の組み合わせ(図24)について、内舷スラット内舷端領域の機体直下方向のOASPL(Over-All Sound Pressure Level)を比較した風洞実験結果である。 本発明のその他の実施形態に係るスラットの概略構成図である。 本発明のその他の実施形態に係るスラットの概略構成図である。 本発明のその他の実施形態を説明するカスプ部の内舷端部の概略構成図である。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
[高揚力装置の概要]
図1は航空機の一方の主翼(左翼)100の一構成例であって上面側から見た部分斜視図、図2は主翼100の下面側から見た部分斜視図である。
主翼100は、母翼10と、母翼10の前縁10a側に配置されたスラット20と、母翼10の後縁10b側に配置されたフラップ30とを有する。
なお、上記航空機の他方の主翼(右翼)についても主翼100と同様に構成される。
スラット20は、母翼10の前縁10aに展開収納可能に構成される。スラット20は、巡航時は、図示するように母翼10の前縁10aに収納され、着陸時あるいは離陸時は、スラット支持装置11によって母翼10の前縁10aに対して展開される。母翼10の前縁10aとは、スラット20の翼弦線方向においてスラット20と対向する領域をいう。なお、以下の説明では、前縁10aを、母翼前縁10aとも称する。
フラップ30は、母翼10の後縁10bに展開収納可能に構成される。フラップ30は、巡航時は、図示するように母翼10の後縁10bに収納され、着陸時あるいは離陸時は、フラップ支持装置12によって母翼10の後縁10bに対して展開される。
スラット20は、通常、エンジン40を挟んで母翼前縁10aに沿って複数に分割されていることが多い。翼長方向における各スラット20の長さは、配置領域に応じて必要な長さに任意に設定される。フラップ30も同様に、通常、母翼10の後縁10bに沿って各々任意の長さで複数に分割して配置されることが多い。スラット20およびフラップ30は、例えば、アルミニウム合金やステンレス鋼等の金属材料、あるいは、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)やGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)等の複合材料で構成される。
スラット20は、前縁高揚力装置の一つであり、展開時において母翼10との間に気流が通過できる隙間を設けることにより、主翼100の最大揚力(揚力の上限)を増加させるとともに、主翼100が失速を起こす迎角を増大させる。スラット20と母翼10との間の隙間の大きさは、母翼10に対するスラット20の展開の大きさ(角度)によって調整される。典型的には、離陸時と比較して、着陸時の方がスラット20はより大きく展開される。
[スラットの技術的課題]
次に、図3に示す断面形状のスラット201および図6に示す構成のスラット202を用いてスラットの技術的課題について説明する。なお、スラット201およびスラット202は、後述する数値シミュレーションに用いたモデルであるため、ここでは各部の詳細な説明については省略する。
図3は、母翼10の翼長方向に垂直なスラット201の概略断面図であり、スラット201が母翼前縁10aに対して最大に展開(全開)した着陸時の状態を示す。
スラット201は、前縁部21と、後縁部22と、カスプ部23と、コブ部24と、上面部26とを有する。図3に示すようにスラット201の断面形状は、前縁部21と、後縁部22と、カスプ部23と、コブ部24と、上面部26との間で囲まれる閉空間の形状をなす。ここで、上面部26とは、概ね、スラット201の翼厚方向にコブ部24と対向する領域を意味する。
スラット201は、母翼前縁10aとの間に隙間Gを設けることにより、主翼100の揚力の上限(最大揚力)を増加させる機能を有する。その反面、スラット201は、着陸進入時の飛行条件において大きな空力騒音を発生させる。その騒音の発生源の一つは、スラット201のコブ部24であり、そのコブ部24に形成される逆流領域の乱流が騒音を発生させる。
その一例として図4に、図3に示すスラット201における着陸時の流れ場の数値シミュレーション結果を示す。同図に示すように、カスプ部23から剥離したせん断層は、コブ部24に渦状の逆流領域を形成し、この逆流領域の形成に伴い、せん断層の乱流が生成される。生成された乱流せん断層は、コブ部24に再付着した後、スラット201と母翼10との間の隙間Gを通過する。乱流せん断層が隙間Gを通過する際、地上および上空に向けて騒音を発生させる。騒音は主に、乱流せん断層が付着するコブ部24の再付着点における圧力変動と、後縁部22における圧力変動とによって発生し、地上および上空に向けて伝播される。
カスプ部23から剥離したせん断層に起因する騒音の発生を抑える方法としては、上述のように、コブ部24に「コブフィラー」を設置して逆流領域のせん断層に沿った曲面形状を付加する方法(特許文献1)や、逆流領域の発生個所となるスラット下面のカスプ部23に「セレーション」を設置してコブ部24のせん断層を積極的に混合させる方法(特許文献2)などが知られている。
一方、旅客機実機や風洞実験模型の音源探査を行うと、コブ部内のせん断層の乱流によってもたらされる騒音のほかに、スラット内舷端部や、スラットを母翼前縁から展開可能に支持するスラット支持機構から大きな騒音が発生していることが確認されている。例えば図5に、着陸時における右翼側のスラット202の内舷端部近傍の非定常流れ場の一例を示す数値シミュレーション結果を示す。同図は、物体表面の圧力係数分布と渦度の大きさの等値面を可視化したものである(後述する図7および図8についても同様)。
図5に示すように、スラット202の内舷端付近の流れ場を見ると、以下のような流れの剥離や干渉が大きな圧力変動を引き起こして、騒音発生の原因になっていると考えられる。
(1)スラット202の内舷端面25からの流れの剥離(領域C1参照)
(2)カスプ部23の内舷側角部からスパン方向(翼長方向)への渦生成(矢印C2参照)
(3)上記(1),(2)とスラット支持装置11との干渉(領域C3参照)
図6は、左翼側のスラット202の内舷端部近傍を概略的に示す斜視図、図7は、図6の矢印方向に流れが作用したときの非定常流れ場の一例を示す数値シミュレーション結果、そして、図8は、図7においてスラット202の後方側から見た非定常流れ場の数値シミュレーション結果である。
ここで、図5の領域C1は、図7において矢印C1で示す渦、および図8において破線で囲った領域C1の渦にそれぞれ相当する。図5の矢印C2は、図7において矢印C2で示す渦、および図8において破線で示す矢印C2にそれぞれ相当する。そして、図5の領域C3は、図7において破線で囲った領域C3の渦、および図8において破線で囲った領域C3の渦にそれぞれ相当する。
図9は、スラット202の翼厚方向に垂直な概略断面図であり、スラット202の内舷端に生じる渦V1,V2の発生の様子を示している。渦V1と渦V2の集合は、図5、図7および図8に示すC1の渦に相当する。
渦V1は、図7の矢印C1のうち右列側(手前側)の4つの黒色矢印に相当する。渦V1は、内舷端面25がその周縁部の一部に内舷側に張り出したスキン部25sを有する場合により顕著に発生しやすい。
一方、渦V2は、図5と図8の領域C1および、図7の矢印C1のうち左列側(奥側)の2つの白抜き矢印に相当する。渦V2は、渦V1の流れと合わさって形成されるものとも考えらえる。
また、図8において矢印C2で示す渦は、カスプ部23の内舷側角部23cから剥離した流れに起因して、スパン方向へ向けて生成される。
さらに、図8において領域C1および矢印C2で示す渦、特にC2で示す渦が、スラットコブ部24を通ってスラット支持装置11に衝突し、C1およびC2で示す渦とスラット支持装置11との干渉により騒音源となる乱流を引き起こす。
以上のようなスラット内舷側の騒音は、上記特許文献1,2の記載の「コブフィラー」あるいは「セレーション」では抑えることができない。また、スラット内舷端部やスラット支持機構からの騒音は前述のコブ内に形成される逆流領域によってもたらされる騒音よりも周波数帯によっては大きくなることがある。したがって、スラット内舷端部等の低騒音化を実現できないと、航空機全体としての騒音レベルを低下させることができないことになる。
そこで、スラット内舷端部の低騒音化を実現するため、本実施形態の前縁高揚力装置は、以下の手段を備える。
(1)スラット内舷端面からの剥離による圧力変動を減らす。具体的には、
(1-1)スラット内舷端部の整流化により剥離そのものを減らす。
(1-2)剥離領域をコブ部表面から離す。
(1-3)剥離する流れの流速を落とす。
(1-4)コブ部表面に圧力変動を与える流体速度を落とす。
(2)カスプ部23の内舷側角部からの強い渦の発生を抑える、または、干渉を避けるように渦生成の経路を変更することで、スラット内舷端部に生じる圧力変動を減らす。具体的には、
(2-1)カスプ部23の内舷側端部の形状変更
(2-2)カスプ部23の内舷側端部の材質変更
以下、実施形態を分けて、本発明の前縁高揚力装置であるスラットの詳細について説明する。
[第1の実施形態]
(構成例1-1)
図10は、構成例1-1を説明する本実施形態のスラット20Aの模式図であり、左翼側のスラット20Aの翼厚方向に垂直な概略断面図である。なお、右翼側のスラットについては、左翼側のスラットと左右対称に構成される。
本実施形態のスラット20Aは、スラット本体210と、その内舷側の端部に配置された緩衝部としての緩衝部材31とを備える。
スラット本体210は、前縁部221と、後縁部222と、カスプ部223と、コブ部224と、内舷端面225と、上面部226とを有する(図11参照)。スラット本体210は、例えば、アルミニウム合金やステンレス鋼等の金属材料、あるいは、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)やGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)等の複合材料で構成される。スラット本体210は、空力性能のみに対して最適化された従来構造のスラットに相当する。
緩衝部材31は、スラット本体210の内舷端面225およびコブ部224の内舷側表面を含むスラット本体210の内舷端部230(図11参照)に設けられ、内舷端面225およびコブ部224の内舷側表面における気流の圧力変動を低減する。本実施形態では、緩衝部材31は、スラット本体210の前縁部221からコブ部224へ向かう気流を整流することでスラット210の内舷端部における流れの剥離を防止し、これによりスラット210の内舷端部における圧力変動を抑制する。
図11は、右翼側のスラット本体210の一構成例を示す図であり、左上は、スラット本体210の内舷側から見た部分斜視図、右上は、スラット本体210の内舷側から見た側面図、左下は、スラット本体210の内舷後方側から見た部分斜視図、右下はスラット本体210の後方側から見た部分背面図である。
前縁部221は、前方(母翼10側とは反対側)へ凸なる流線形状を有し、上面部226と連続的に形成される。
後縁部222は、コブ部224の後方端部と上面部226の後方端部とにより形成されるエッジの先端部であり、展開時において母翼10との間に隙間G(図3参照)を形成する。
カスプ部223は、前縁部221の下縁に配置された、母翼前縁10aに向かって突出するブレードシールBSの先端部で形成される。ブレードシールBSは、カスプ部223を形成する延伸部として構成され、母翼10へのスラット収納時において母翼10とスラット前縁部下縁との間の隙間を遮蔽する機能をも有する。
コブ部224は、スラット本体210の下面であって、カスプ部223と後縁部222との間に形成された凹面である。コブ部224は、収納時に母翼前縁10aに近接する部位であり、ここでは図11に示すように第1平面部224a、第2平面部224bおよび第3平面部224cを有する多面体形状で形成される。第1平面部224aは、前縁部221の下縁側に形成される平面部であり、第3平面部224cは後縁部222側に形成される平面部であり、第2平面部224bは第1平面部224aと第3平面部224cとの間を連結する平面部である。なお、コブ部224は図示する多面体形状に形成される例に限られず、前方へ凸なる曲面形状に形成されてもよい。
スラット本体210の内舷端面225は、スラット本体210の内舷側の側面をいい、エンジン40(図1、2参照)よりも内舷側に位置するスラット(以下、内舷スラットともいう)の場合は機体の胴体1側の側面をいい、エンジン40よりも外舷側に位置するスラットの場合はエンジン側の側面をいう。内舷端面225は、前縁部221とコブ部224と上面部226との間で囲まれたほぼ平坦な平面部で形成される。内舷端面225は、その周縁部の一部に内舷側に張り出したスキン部225sを有する。スキン部225sは、ブレードシールBSから前縁部221および上面部226を介して後縁部222に至る周縁部に形成される。
スラット本体210の内舷端部230は、内舷端面225およびコブ部224の内舷側表面224sを含む領域をいう。コブ部224の内舷側表面224sは、コブ部224の第1~第3平面部224a~224cの内舷側の領域であり、その範囲は、図8に示す領域C1に相当する領域と、カスプ部223を形成するブレードシールBSの内舷側の表面領域をも含む。
図12は、上述のスラット本体210に緩衝部材31が装着された本実施形態のスラット20Aの構成を示す図であって、左上は、スラット20Aの内舷側から見た部分斜視図、右上は、スラット20Aの内舷側からみ側面図、左下は、スラット20Aの内舷後方側から見た部分斜視図、右下はスラット20Aの後方側から見た部分背面図である。
図12に示すように、緩衝部材31は、スラット本体210の内舷端面225とその周縁部のスキン部225sとの間に形成された空間を埋めるように、内舷端面225に設置される。緩衝部材31は、スラット20Aの内舷側から見た側面形状が、スラット本体210の内舷端面225の形状と同一又はほぼ同一の形状に形成される。
緩衝部材31は、スラット本体210の内舷端面225に当接する第1外面部310と、スラット本体210の前縁部221からコブ部224へ向かう気流を図10において矢印A1で示すように整流する第2外面部320とを有する。
第1外面部310は、内舷端面225に対向する緩衝部材31の側面部であり、スラット本体210の内舷端面225に対応する平面形状に形成される。緩衝部材31は、ボルト等の適宜の締結具を用いて第1外面部310と内舷端面225が相互に固定される。緩衝部材31の翼長方向に沿った厚みは、内舷端面225からのスキン部225sの突出高さと同等以下の大きさとされる。
第2外面部320は、スラット20Aの内舷の外観を形成する表面領域であり、平坦部321と、第1湾曲面部322と、第2湾曲面部323とを有する。平坦部321は、スラット本体210の前縁部221の内舷側に位置し翼弦線方向に平行な平面部で形成される。第1湾曲面部322は、平坦部321とコブ部224の第1平面部224aとの間を滑らかに(連続的に)接続する曲面部で形成される。第2湾曲面部323は、平坦部321とコブ部224の第2平面部224bとの間を滑らかに(連続的に)接続する曲面部で形成される。第1湾曲部322および第2湾曲部323は、前縁部221からコブ部224へ向かう気流を整流する湾曲面を形成する。
緩衝部材31は、典型的には、金属材料等の剛体で構成されるが、ゴム材料等の弾性体で構成されてもよいし、所定形状に変形可能な可撓性材料で構成されてもよい。特に、緩衝部材31が可撓性材料で構成される場合、母翼10へのスラット20Aの収納時において緩衝部材31がスラット20Aの内舷端面225と母翼10との間の隙間に収容可能に変形し、母翼10へのスラット20Aの収納性を高めることができる。また、母翼10への収納時においてスラット20Aの内舷端面225と母翼10との間の隙間を緩衝部材31で埋めることができるため、巡航時における主翼10の目的とする空力性能を確保することができる。
この場合、緩衝部材31は、例えば、展開時に目的とする形状に膨張し、収納時に潰れることが可能な材料(弾性材料、形状記憶合金など)あるいは各種機構部(リンク機構など)を内蔵する構造体で構成される。
以上のように構成される本実施形態のスラット20Aにおいては、スラット本体210の内舷端面225に上述した構成の緩衝部材31が設置されているため、緩衝部材31が設置されていない場合と比較して、スラット内舷端部の段差を極力減らすことが可能となる。特に、緩衝部材31の第2外周面320がコブ部24の内舷側表面に連続する第1湾曲面部322および第2湾曲面部323を有するため、スラット20Aの前縁部221からコブ部224へ向かう気流を円滑に整流することができる。これにより、母翼10からの展開時においてスラット20Aの内舷端部における気流の剥離を防止でき、スラット20Aの内舷端部における圧力変動を減らして騒音の発生を抑えることができる。
さらに本実施形態によれば、スラット本体210の内舷端部230における気流の剥離を防止できるため、その内舷端部230で剥離した気流のスラット支持装置11との干渉も防止できる。これにより、内舷端部230で剥離した気流(渦)とスラット支持装置11との干渉に起因する騒音の発生も低減することができる。
[第2の実施形態]
(構成例1-2)
図13は、構成例1-2を説明する本実施形態のスラット20Bの模式図であり、左翼側のスラット20Bの翼厚方向に垂直な概略断面図である。図14は、右翼側のスラット20Bの一構成例を示す図であり、内舷側から見た側面図である。
本実施形態のスラット20Bは、スラット本体210と、その内舷端部230に設けられた緩衝部としてのフェンス部材41とを備える。スラット本体210は、第1の実施形態と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
フェンス部材41は、スラット本体210の内舷端部230(図11参照)に設けられ、内舷端面225およびコブ部224の内舷側表面における気流の圧力変動を低減する。本実施形態において、フェンス部材41は、スラット本体210の内舷端面225とコブ部224の内舷側表面224sとの境界である縁部の一部または全領域に設けられる。
図15は、フェンス部材41の概略断面図である。フェンス部材41は、スラット本体210の内舷端面225よりも内舷側(機体の胴体1側)に延びる第1延出部411と、第1延出部411の先端に設けられ前縁部211側に向かって延びる第2延出部412と、内舷端面225に固定される固定部413とを有する。
第2延出部412は、典型的には、第1延出部411の先端部を前縁部221側に向けて屈曲させることで形成される。第1延出部411に対する第2延出部412の屈曲角度は特に限定されず、例えば90度である。
なお、フェンス部材41は、スラット本体210の内舷端面225に固定される場合に限られず、例えば、コブ部224の内舷側表面224sに固定されてもよい。この場合、固定部413は、第1延出部411と平行に形成される。
フェンス部材41の第1延出部411および第2延出部412は、スラット本体210の内舷端面225のスキン部225sに対向する。これにより、内舷端面225とコブ部224との間がフェンス部材41により仕切られる。その結果、スラット20Bの展開時は、図13に示すように、内舷端面225において剥離した気流(渦V1)がフェンス部材41の外側を回り込む渦V1'に変換される。このようにフェンス部材41によって気流の剥離領域をコブ部224から離すことで、コブ部224の内舷側表面224sでの圧力変動を低減し、騒音の発生を抑制することができる。
さらに本実施形態によれば、フェンス部材41によって内舷端面225で剥離した気流がコブ部224の表面に到達することを阻止するとともにコブ部224の内舷側表面224sにおける気流の剥離を防ぐことができるため、内舷端面225およびコブ部224の表面で剥離した気流のスラット支持装置11との干渉も防止できる。これにより、スラット本体210の内舷端部230で剥離した気流(渦)とスラット支持装置11との干渉に起因する騒音の発生も低減することができる。
フェンス部材41は、例えば、アルミニウム合金やステンレス鋼等の金属材料、あるいは、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)やGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)等の複合材料で構成される。フェンス部材41は、スラット本体210と別部材で構成される例に限られず、スラット本体210の一部として一体的に形成されてもよい。
あるいは、フェンス部材41は、母翼前縁10aへの収納時にスラット本体210と母翼10との間の隙間に収容可能に変形する可撓性材料で構成されてもよい。これにより、母翼10へのスラット20Bの収納性を高めることができる。
[第3の実施形態]
(構成例1-3)
図16は、構成例1-3を説明する本実施形態のスラット20Cの模式図であり、左翼側のスラット20Cの翼厚方向に垂直な概略断面図である。図17は、右翼側のスラット20Cの一構成例を示す図であり、内舷側から見た側面図である。
本実施形態のスラット20Cは、スラット本体210と、その内舷端面225に設けられた緩衝部としての多孔質層51とを備える。スラット本体210は、第1の実施形態と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
多孔質層51は、複数の孔が層内において相互に連通した多孔質材料で構成される。多孔質材料は、典型的には、金属材料、金属酸化物材料などの無機材料で構成されるが、これに限られず、合成樹脂材料、セラミック材料などで構成されてもよい。多孔質層51は、スラット本体210の内舷端面225に設置される板状部材であってもよいし、内舷端面225を表面加工することで形成された多孔質の構造面であってもよい。
多孔質層51は、スラット本体210の内舷端面225の全域またはほぼ全域に設けられることで、多孔質層51を通過する流れの速さを低下させる。これにより、内舷端面225における気流の圧力変動を低減することができる。また、内舷端面225における流速を低下できるため、コブ部224の表面における流れの剥離も低減でき、これによりコブ部224の表面における渦V2の発生を軽減できる。その結果、スラット本体210の内舷端部230における圧力変動が低減し、騒音の低下を実現することができる。
さらに本実施形態によれば、内舷端面225およびコブ部224の表面で剥離した気流のスラット支持装置11との干渉も防止できる。これにより、スラット本体210の内舷端部230で剥離した気流(渦)とスラット支持装置11との干渉に起因する騒音の発生も低減することができる。
多孔質層51は、スラット本体210の内舷端面225の一部の領域にのみ選択的に設けられてもよい。この場合、スラット20C(スラット本体210)の翼弦長をCsとしたとき、例えば図18および図19に示すように、多孔質層51は、内舷端面225において前縁部221からコード方向(翼弦線方向)に翼弦長Csの80%の長さの範囲内に設けられるのが好ましい。
この際、多孔質層51は、スラット本体210の内舷端面とコブ部224との境界部を被覆するように設けられるのが好ましい。また、前縁部221側に関しては、多孔質層51は、内舷端面225の周縁部からスキン部225sの突出量に相当する長さの約半分程度離れた位置に設けられてもよい。このように設定された多孔質層51の配置領域は、内舷端面225における気流の圧力変動が発生しやすい領域である。このため、当該領域に多孔質層51を設置することで、多孔質52の設置領域を最小限に抑えつつ、内舷端面225における圧力変動を最も効果的に低減することができる。
[第4の実施形態]
(構成例1-4)
図20は、構成例1-4を説明する本実施形態のスラット20Dの模式図であり、左翼側のスラット20Dの翼厚方向に垂直な概略断面図である。図21は、右翼側のスラット20Dの一構成例を示す図であり、内舷後方側から見た部分斜視図である。
本実施形態のスラット20Dは、スラット本体210と、そのコブ部224の内舷側表面224sに設けられた緩衝部としての多孔質層52とを備える。スラット本体210は、第1の実施形態と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
多孔質層52は、上述の多孔質層51と同様に、複数の孔が層内において相互に連通した多孔質材料で構成される。多孔質材料は、典型的には、金属材料、金属酸化物材料などの無機材料で構成されるが、これに限られず、合成樹脂材料、セラミック材料などで構成されてもよい。多孔質層52は、コブ部224の内舷側表面224sに設置される板状部材であってもよいし、コブ部224の内舷側表面224sを表面加工することで形成された多孔質の構造面であってもよい。
多孔質層52は、コブ部224の内舷側表面224sの全域またはその一部の領域に設けられることで、多孔質層52を通過する流れの速さを低下させ、コブ部224の表面における渦V2の生成を軽減する。これにより、コブ部224の内舷側表面224sにおける圧力変動が低減するため、コブ部224の内舷側表面224sにおける騒音の低下を実現することができる。
さらに本実施形態によれば、コブ部224の表面で剥離した気流のスラット支持装置11との干渉も防止できるので、スラット支持装置11との干渉に起因する騒音の発生も低減することができる。
さらに本実施形態は、上述の第3の実施形態と組み合わされてもよい。この場合、図22に示すスラット20Eのように、スラット本体210の内舷端面225に多孔質層51が設けられる。これにより、コブ部224の内舷側表面224sにおける圧力変動だけでなく、内舷端面225における圧力変動を低減できるため、スラット210の内舷端部230における低騒音化効果をより一層向上させることができる。
多孔質層52が設けられるコブ部224の内舷側表面224sの領域は、任意に設定可能である。例えば図21に示すように、コブ部224において内舷端面225からスパン方向(翼幅方向)にスラット20Dの翼弦長(Cs)程度の長さの範囲を、コブ部224の内舷側表面224sと設定されてもよい。このようにして設定された領域は、コブ部224における気流の圧力変動が発生しやすい領域であるため、当該領域に多孔質層52を設置することで、コブ部224の内舷側表面224sにおける圧力変動を最も効果的に低減することができる。この場合、多孔質層52は、上記領域の全域に設けられる場合に限られず、同図に示すように、内舷端面225からスパン方向に0.5Cs程度の長さの領域に部分的に配置されることによっても、圧力変動の十分な低減効果を得ることができる。
なお、コブ部224のコード方向(翼弦線方向)に関しては、上述の構成例1-3(図18)と同様に、コブ部224においてカスプ部223側から後縁部222に向かって、例えば翼弦長Csの80%の長さの範囲内の領域に多孔質層52が設けられてもよい。当該領域に多孔質層52を設置することで、多孔質52の設置領域を最小限に抑えつつ、コブ部224の内舷側表面224sにおける圧力変動を最も効果的に低減することができる。
[特性評価1]
図23に、上述した各構成例のスラットについて行った風洞実験の結果を示す。同図は、マイクロホンアレイシステムを用いた騒音源探査法により内舷スラットの内舷端部付近の騒音レベルの変化を調べた結果で、実機換算後の機体直下方向の低騒音化効果の周波数特性(比較基準形態からの差分)を示している。比較基準形態とは、スラット本体210単独でスラットが構成された形態をいう。
図23において、構成例1-1は、第1の実施形態におけるスラット20A、構成例1-2は、第2の実施形態におけるスラット20B、そして、構成例1-3と1-4の組み合わせは、第3の実施形態と第4の実施形態の組み合わせに係るスラット20Eにそれぞれ相当する。同図に示すように、各構成例に係るスラットにおいては、一部の周波数帯域で騒音レベルの増加が見られるものの、全般的に低騒音化効果が得られていることが確認できる。特に、構成例1-3と1-4の組み合わせに係るスラット20Eによれば、ほぼ全周波数帯域において低騒音化効果が認められた。
[第5の実施形態]
(構成例2-1)
図24は、構成例2-1を説明する本実施形態のスラット20Fの構成を示す図であり、左翼側のスラット20Fの内舷端部を後方側から見た部分斜視図である。
本実施形態のスラット20Fは、スラット本体210と、そのカスプ部223を形成する緩衝部としてのブレード部材61とを備える。スラット本体210は、第1の実施形態と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
ブレード部材61は、ブレードシールBSに相当し、スラット本体210の前縁部221の下縁から母翼10に向かって突出する板状の部材である。図24において細い二点鎖線で示すように、通常のブレードシールBSにはその内舷側(機体の胴体1側)に直角な角部223cを有する。このため、当該角部223cが前縁部221からのカスプ部223へ向かう流れに比較的強い渦を生じさせて騒音源を形成する。そこで本実施形態では、ブレードシールBSの内舷側の隅部の形状を変更することにより、角部223cからの強い渦の発生を抑えるようにしている。
具体的に、本実施形態のブレード部材61は、その内舷側(機体の胴体1側)で機体の母翼10側の隅部が切り欠かれた形状を有する。内舷側の隅部が切り欠かれた形状としては、本実施形態では図24において実線で示すように、滑らかな曲線形状の曲線部223rで形成される。これ以外にも、図24において太い二点鎖線で示すように、内角が鈍角である複数のコーナー部を組み合わせた多段形状の隅部223vであってもよいし、同図において破線で示すように、隅部を直線的に切り落とした直線部223sであってもよい。
さらに本実施形態では、図24に示すように、スラット本体210の内舷端面に上述の第1の実施形態において説明した緩衝部材31が設置されている。これは、本構成例2-1と上述の構成例1-1(第1の実施形態)との組み合わせに相当する。この場合、スラット本体210の内舷端部230における圧力変動を抑えることができるため、低騒音化効果をより一層高めることができる。
図25は、本構成例に係るスラット20Fについて行った図8と同様なシミュレーション結果である。ここでは、スラット本体210の内舷端面に構成例1-1に係る緩衝部材31が設置されるとともに、ブレード部材61の端部が直線部223sで形成された例を示す。同図に示すように、図8と比較して、領域C1における渦の発生が効果的に抑えられている。これは、緩衝部材31の整流効果によるものである。また、図8と比較して、ブレード部材61への直線部223sの形成により、カスプ部223の内舷側端部における渦(図8の矢印C2および領域C3で示す渦)の発生を軽減できるとともに、発生した当該渦とスラット支持装置11との干渉も軽減できている。
例えば図26に、本実施形態のスラット20Fにおいて緩衝部材31の有無による低騒音化効果を比較した風洞実験結果を示す。同図は、実機換算後の内舷スラットの内舷端部の機体直下方向の低騒音化効果の周波数特性を示している。同図において「構成例2-1」は、緩衝部材31が無いときのスラット20Fに相当し、「構成例2-1と1-1の組み合わせ」は、緩衝部材31が有るときのスラット20F(図24参照)に相当する。
構成例2-1の実験結果より、ブレード部材61の端部を直線部223sに変更することで、ほぼ全周波数帯域において低騒音化効果を得られることが確認された。また、これに緩衝部材31を設置することで、特定の周波数帯域においてより大きな低騒音化効果が得られることが確認された。
[第5の実施形態]
(構成例2-2)
図27は、構成例2-2を説明する本実施形態のスラット20Gの構成を示す図であり、左翼側のスラット20Gの内舷端部を後方側から見た部分斜視図である。
本実施形態のスラット20Gは、スラット本体210と、そのブレードシールBSの内舷側(機体の胴体1側)に形成された緩衝部としての多孔質層62とを備える。スラット本体210は、第1の実施形態と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
多孔質層62は、カスプ部223を形成するブレードシールBSの内舷側端部(機体の胴体1側の端部。以下同様)であって、当該ブレード部材BSの内表面に設けられる。多孔質層62は、上述の第3および第4の実施形態で説明した多孔質層51,52と同様に、複数の孔が層内において相互に連通した多孔質材料で構成される。多孔質材料は、典型的には、金属材料、金属酸化物材料などの無機材料で構成されるが、これに限られず、合成樹脂材料、セラミック材料などで構成されてもよい。多孔質層62は、ブレードシールBSの内舷側表面に設置される板状部材であってもよいし、ブレードシールBSの内舷側表面を表面加工することで形成された多孔質の構造面であってもよい。
ブレードシールBSにはその内舷側(機体の胴体1側)に直角な角部223cを有する。このため、当該角部223cが前縁部221からのカスプ部223へ向かう流れに比較的強い渦を生じさせて騒音源を形成する。そこで本実施形態では、ブレードシールBSの内舷側の隅部の材質を多孔質材料に変更することにより、角部223cからの強い渦の発生を抑えるようにしている。
さらに本実施形態では、図27に示すように、スラット本体210の内舷端面に上述の第1の実施形態において説明した緩衝部材31が設置されている。これにより、スラット本体210の内舷端部230における圧力変動を抑えることができるため、低騒音化効果をより一層高めることができる。
[特性評価2]
図28は、低騒音化対策前の基本形状のスラット(スラット本体210に相当)を基準とした構成例1-1、構成例2-1、および構成例1-1と2-1の組み合わせ(図24)について、マイクロホンアレイシステムを用いた騒音源探査法により内舷スラットの内舷端部付近の騒音レベルの変化を調べた結果で、機体直下方向のOASPL(Over-All Sound Pressure Level)を比較した風洞実験結果を示している。同図に示すように、各構成例について基本形状のスラットよりも1dB以上の低騒音化効果が確認された。また、構成例1-1よりも構成例2-1の方が大きな低騒音化効果が認められた。さらに、構成例1-1と2-1を組み合わせることで、大幅な低騒音化効果が得られることが確認された。
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
例えば以上の第1の実施形態(構成例1-1)では、緩衝部として、スラット本体210の内舷端面225に緩衝部材31を設置したが、これに代えて、例えば図29に示すスラット20H1のように、スラット本体210の内舷端面225のコブ部224との境界面を湾曲させた曲面部225rが設けられてもよい。この場合においても、スラット20H1の内舷端部における流れを整流化でき、当該部分における圧力変動を抑制して低騒音化を図ることができる。
また、図30に示すスラット20H2のように、緩衝部材31の湾曲部322の下流側に内舷端面225の曲面部225rが設けられてもよい。この場合、緩衝部材31により内舷端面225における流れの剥離を防止できるため、スラット内舷端部における低騒音化効果をより一層高めることができる。
さらに以上の第5の実施形態(構成例2-2)では、緩衝部として、カスプ部223を形成するブレードシールBSの内舷側端部の内表面に多孔質層62を設置したが、これに代えて又はこれに加えて、ブレードシールBSの内舷側端部の外表面に多孔質層62が設置されてもよい。多孔質層62をブレードシールBSの内舷側端部の外表面に設置することで、ブレードシールBSの内舷側端部においてその外表面から内表面に向かって巻き上がる気流の速度を軽減し、ブレードシールBSの内舷側端部における圧力変動を低減することができる。
図31は、カスプ部223を形成するブレードシールBSの内舷側端部への多孔質層62の他の設置例を示す概略図である。
同図(A)は、カスプ部223の内舷側端部223eの端面(内舷側の側面)E0に、多孔質層62aが設置された例を示している。
同図(B)は、内舷側端部223eの内表面E1および外表面E2に、端面E0を跨ぐように多孔質層62bが設置された例を示している。
同図(C)は、内舷端部223eの内表面E1に、多孔質層62cが一体形成された例を示しており、同図(D)は、内舷端部223eの端面E0、内表面E1および外表面E2に、多孔質層62dが一体形成された例を示している。
そして、同図(E)は、内舷端部223eの全体が、端面E0、内表面E1および外表面E2を形成する多孔質材料(多孔質層62e)で構成された例を示している。
このような構成例においても、上述と同様の作用効果を得ることができる。
10…母翼
20,20A,20B,20C,20D,20E,20F,20G,20H1,20H2…スラット(前縁高揚力装置)
31…緩衝部材
41…フェンス部材
51,52,62,62a,62b,62c,62d,62e…多孔質層
61…ブレード部材
100…主翼
221…前縁部
222…後縁部
223…カスプ部
223e…内舷端部
224…コブ部
224s…(コブ部の)内舷側表面
225…内舷端面
230…内舷端部

Claims (13)

  1. 機体の母翼前縁に対して展開収納可能な前縁高揚力装置であって、
    前縁部と、展開時に前記母翼との間に隙間を形成する後縁部と、前記前縁部の下縁に形成されたカスプ部と、前記カスプ部と前記後縁部との間に形成されたコブ部と、前記前縁部と前記コブ部との間に形成され前記機体の胴体側に位置する内舷端面と、を有するスラット本体と、
    前記内舷端面および前記コブ部の内舷側表面を含む前記スラット本体の内舷端部に設けられ、前記内舷端面または前記コブ部の内舷側表面における気流の圧力変動を低減する緩衝部と
    を具備する前縁高揚力装置。
  2. 請求項1に記載の前縁高揚力装置であって、
    前記緩衝部は、前記内舷端面に当接する第1外面部と、前記前縁部から前記コブ部へ向かう気流を整流する湾曲面を含む第2外面部と、を有する構造体である
    前縁高揚力装置。
  3. 請求項2に記載の前縁高揚力装置であって、
    前記構造体は、前記母翼前縁への収納時に前記スラット本体と前記母翼との間の隙間に収容可能に変形する可撓性材料で構成される
    前縁高揚力装置。
  4. 請求項1~3のいずれか1つに記載の前縁高揚力装置であって、
    前記緩衝部は、前記内舷端面に設けられ前記前縁部から前記コブ部へ向かう気流を整流する湾曲面を含む曲面部である
    前縁高揚力装置。
  5. 請求項1に記載の前縁高揚力装置であって、
    前記緩衝部は、前記内舷端部に設けられたフェンス部材であり、
    前記フェンス部材は、前記内舷端面よりも前記機体の胴体側に延びる第1延出部と、前記第1延出部の先端に設けられ前記前縁部側に向かって延びる第2延出部と、を有する
    前縁高揚力装置。
  6. 請求項5に記載の前縁高揚力装置であって、
    前記フェンス部材は、前記内舷端面と前記コブ部の内舷側表面との境界である縁部の一部または全領域に設けられる
    前縁高揚力装置。
  7. 請求項5又は6に記載の前縁高揚力装置であって、
    前記フェンス部材は、前記母翼前縁への収納時に前記スラット本体と前記母翼との間の隙間に収容可能に変形する可撓性材料で構成される
    前縁高揚力装置。
  8. 請求項1に記載の前縁高揚力装置であって、
    前記緩衝部は、前記内舷端面および前記コブ部の内舷側表面の少なくとも一方に配置された多孔質層である
    前縁高揚力装置。
  9. 請求項1~8のいずれか1つに記載の前縁高揚力装置であって、
    前記緩衝部は、前記カスプ部を形成し前記機体の胴体側で前記機体の前記母翼側の隅部が切り欠かれたブレード部材である
    前縁高揚力装置。
  10. 請求項1~8のいずれか1つに記載の前縁高揚力装置であって、
    前記緩衝部は、前記カスプ部を形成するブレード部材であり、
    前記ブレード部材は、前記機体の胴体側で当該ブレード部材の内舷側端部に設けられた多孔質層を有する
    前縁高揚力装置。
  11. 請求項1~10のいずれか1つに記載の前縁高揚力装置を備えた翼。
  12. 請求項1~10のいずれか1つに記載の前縁高揚力装置を備えた航空機。
  13. 機体の母翼前縁に対して展開収納可能な前縁高揚力装置の内舷端部に取り付けられる緩衝部材であって、
    前記高揚力装置の前縁部とコブ部との間に形成され前記機体の胴体側に位置する内舷端面に当接する第1外面部と、
    前記前縁部から前記コブ部へ向かう気流を整流する湾曲面を含む第2外面部と
    を具備する緩衝部材。
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