JP2022178432A - 放射化抑制構造、及び放射化抑制構造構築方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、長期にわたって木材等の高い含水率を維持することなく、木材や木材複合製材からなる板材を用いて放射化を抑制することができる放射化抑制構造とその構築方法を提供することである。【解決手段】本願発明の放射化抑制構造は、中性子が発生する室内を閉鎖する壁体の放射化を抑制する構造であり、板状の遮蔽体と板状(あるいは薄膜状)の裏面板を備えたものである。このうち遮蔽体は、木材製(あるいは複合木材製)の木製板によって形成され、一方の裏面板は、ホウ素化合物を含有するものである。そして、壁体の前面に裏面板が配置されるとともに、裏面板の前面に遮蔽体が配置される。なお遮蔽体は、単位柱内に0.0261×1024個以上の炭素原子数を含むものである。【選択図】図2
Description
本願発明は、例えばホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)など中性子が発生する放射線医療施設や、研究施設、検査施設、産業施設といった室内において、その壁体の放射化を抑制する技術に関するものであり、より具体的には、木製板によって形成されるパネル状の遮蔽体を備えた放射化抑制構造と、この放射化抑制構造を構築する方法に関するものである。
ホウ素中性子捕捉療法は、癌細胞にホウ素化合物を取り込ませ、そのホウ素と中性子との核反応によって癌細胞を破壊する治療法である。ホウ素(特に10B)は、熱中性子をはじめとする低エネルギーの中性子と大きく反応する性質があり、癌細胞内のホウ素と中性子が核分裂反応する結果、粒子線(アルファ線)が発生し、この粒子線によって癌細胞が破壊される。
核分裂反応によって発生する粒子線の飛程は、癌細胞の直径程度(約10~14μm)であり、癌細胞以外の正常な細胞に影響を与えることがない。従来のX線やガンマ線による治療が、正常細胞に対しても癌細胞とほぼ同じ物理的ダメージを与えることから、ホウ素中性子捕捉療法は「癌細胞選択性治療」とも呼ばれ、特に悪性脳腫瘍や悪性黒色腫などの治療にとって現状では最も理想に近い治療法とされている。
ところでホウ素中性子捕捉療法では、照射器や加速器などを用いて患者に対する中性子線の照射が行われるが、当然ながらこの照射は、外部に中性子線が漏れないようコンクリート壁体などで閉鎖された室内で行われる。もちろん、照射された中性子線すべてが患者に吸収されるわけではなく、部分的には壁体等にも吸収される。中性子は電荷を持たないため、物質中の原子核に比較的容易に到達しやすく、しかもホウ素中性子捕捉療法で好適に使用される低エネルギーの中性子は吸収現象が顕著である。そして壁体を構成する物質の一部が、中性子を吸収した結果、安定同位体から放射性同位体となるいわゆる放射化現象を起こすことがある。
短半減期核種によって放射化したコンクリートは、多量の放射線を放出することが知られている。そのため、コンクリート壁体で閉鎖された室内にいる者は、無用な被曝を受けることとなる。また、長年にわたって中性子が照射されると、コンクリート壁体は放射化が進んで長半減期核種が多量に生成され、その結果、その放射化したコンクリート壁体は放射性廃棄物として処分する必要があり、通常の廃棄物に比べ多大な廃棄コストを強いられる。なお、被曝の原因となる主な物質は、発生するガンマ線のうちエネルギーが高いNa-24(ナトリウム24、半減期14.96時間)であり、一方、放射性廃棄物の原因となる主な物質はEu-152(ユーロピウム152、半減期13.52年)とCo-60(コバルト60、半減期5.27年)であることが知られている。Na-24は、熱エネルギー領域(0.5eV以下)を持つ中性子と、コンクリートに多く含まれるNa-23との核反応により生成され、Eu-152とCo-60は、熱エネルギー領域を持つ中性子と、コンクリートに微量に含まれるEu-151、Co-59との核反応により生成される。
このように、放射化の原因となる中性子が発生する施設等(以下、「中性子発生施設」という。)では、室内を閉鎖する壁体の放射化が一つの大きな問題となっていた。そこで、これまでにも中性子発生施設の壁体の放射化を抑制する種々の技術が提案されてきた。例えば特許文献1では、木材又は木材由来の材料によって形成された放射線遮蔽体を利用することで、壁体等の放射化を抑制する技術について提案している。
従来、中性子の遮蔽に用いる材料としては、ポリエチレンやパラフィン、あるいは水が主流であった。しかしながら、ポリエチレンやパラフィンは非常に高価であり、また液体である水は取り扱いが難しいという問題があった。その点、特許文献1に開示される技術は、木材又は木材由来の材料が水分を含むことに着目したものであり、放射線遮蔽体を形成する木材等に含まれる水分によって放射線を遮蔽することを特徴とする技術である。つまり、高価な材料を用いることなく、しかも固体である木材等を利用することによってその取り扱いを容易にしているわけである。そして特許文献1では、木材等の平均含水率が高いほど効果が期待できるとし、その平均含水率は30%以上が好適であって、50% 以上がより好適であり、さらに70% 以上を最も好適としている。
特許文献1の技術は、木材等が高い含水率を有することが肝要であるが、木材に含まれる水分は一部蒸発することから、長期にわたって高い含水率を維持することは容易ではない。仮に、水分が蒸発しないように乾燥防止手段を施したとしても、長期にわたって高い含水率を維持することは困難であるうえ、高い含水率が維持されていることを定期的に確認する必要があるため、当該技術を用いることは現実的とはいえない。
他方、木材や木材複合製材からなるパネル材(板材)は、調達しやすく、加工しやすく、比較的廉価であり、しかも景観上も優れているうえ、さらに放射化を抑制する特性も具備していることから、放射線の遮蔽体としては好ましい材料といえる。しかしながら、上記したとおり木材等に含まれる水分量は変動が著しいため、必要量を維持するよう制御することは難しい。
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、長期にわたって木材等の高い含水率を維持することなく、つまり木材等に含まれる水分量の変動を許容したうえで、木材や木材複合製材からなるパネル材(板材)を用いて放射化を抑制することができる放射化抑制構造と、その構築方法を提供することである。
本願の発明者らは、研究を重ねることによって、木材に含まれる炭素が中性子を遮蔽する能力を備えていることを突き止めた。そして本願発明は、炭素を含む木材等からなる遮蔽体を利用することに着目し、さらに中性子の遮蔽性能は板厚方向における炭素原子の個数に依存するという点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
本願発明の放射化抑制構造は、中性子が発生する室内を閉鎖する壁体の放射化を抑制する構造であり、板状の遮蔽体と板状(あるいは薄膜状)の裏面板を備えたものである。このうち遮蔽体は、木材製(あるいは複合木材製)の木製板によって形成され、一方の裏面板は、ホウ素化合物を含有するものである。そして、壁体の前面に裏面板が配置されるとともに、裏面板の前面に遮蔽体が配置される。なお遮蔽体は、単位柱(1cm×1cmの単位表面と板厚によって形成される四角柱)内に0.0261×1024個以上の炭素原子数を含むものである。
本願発明の放射化抑制構造は、遮蔽体が2以上の木製板(ただし、それぞれ材質が異なる)が板厚方向に重ねられたものとすることもできる。なお、2以上の木製板からなる遮蔽体の単位柱内には、0.0261×1024個以上の炭素原子数が含まれる。この場合、単位柱内に含まれる炭素原子数が多い木製板ほど壁体側に配置することもできる。
本願発明の放射化抑制構造構築方法は、本願発明の放射化抑制構造を構築する方法であって、遮蔽体計画工程と構造体設置工程を備えた方法である。このうち遮蔽体計画工程では、木材製(あるいは複合木材製)の木製板によって形成される板状の遮蔽体の仕様を計画する。また構造体設置工程では、ホウ素化合物を含有する板状(あるいは薄膜状)の裏面板が壁体の前面に配置されるとともに、遮蔽体が裏面板の前面に配置されるように、裏面板と遮蔽体を設置する。なお遮蔽体計画工程では、遮蔽体の単位柱内に含まれる「必要含有炭素原子数」を計画し、遮蔽体設置工程では、必要含有炭素原子数以上の炭素原子数を含む遮蔽体を設置する。
本願発明の放射化抑制構造構築方法は、単位柱内に含まれる必要含有炭素原子数を0.0261×1024個として計画することもできる。
本願発明の放射化抑制構造、及び放射化抑制構造構築方法には、次のような効果がある。
(1)本願発明で用いる遮蔽体(木製板)は、調達しやすく、加工しやすく、比較的廉価であり、この遮蔽体によって形成された放射化抑制構造は景観的に優れている。
(2)遮蔽体によって減速された熱中性子を裏面板が吸収することによって、従来技術に比してさらに効果的に壁体の放射化を抑制することができる。その結果、中性子発生室内にいる者の無用な被曝を回避することができ、放射性廃棄物の排出を極力抑えることができる。
(3)高い含水率を維持するための乾燥防止手段を要することなく、しかも気乾状態や絶乾状態にある木材など様々な含水率の木材等を利用することができる。
(1)本願発明で用いる遮蔽体(木製板)は、調達しやすく、加工しやすく、比較的廉価であり、この遮蔽体によって形成された放射化抑制構造は景観的に優れている。
(2)遮蔽体によって減速された熱中性子を裏面板が吸収することによって、従来技術に比してさらに効果的に壁体の放射化を抑制することができる。その結果、中性子発生室内にいる者の無用な被曝を回避することができ、放射性廃棄物の排出を極力抑えることができる。
(3)高い含水率を維持するための乾燥防止手段を要することなく、しかも気乾状態や絶乾状態にある木材など様々な含水率の木材等を利用することができる。
1.全体概要
本願発明の放射化抑制構造、及び放射化抑制構造構築方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。図1は、中性子が発生する空間(以下、「中性子発生室」という。)に設置された本願発明の放射化抑制構造100を上方から見た平面図である。この図に示す中性子発生室は、コンクリート製の壁体(以下、単に「コンクリート壁体CW」という。)で閉鎖(密閉)されており、室内には中性子が発生する加速器NDが設置されている。なお、図1では加速器NDが設置された中性子発生室を示しているが、加速器NDに限らず中性子が発生する中性子発生室であれば本願発明を効果的に実施することができる。
本願発明の放射化抑制構造、及び放射化抑制構造構築方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。図1は、中性子が発生する空間(以下、「中性子発生室」という。)に設置された本願発明の放射化抑制構造100を上方から見た平面図である。この図に示す中性子発生室は、コンクリート製の壁体(以下、単に「コンクリート壁体CW」という。)で閉鎖(密閉)されており、室内には中性子が発生する加速器NDが設置されている。なお、図1では加速器NDが設置された中性子発生室を示しているが、加速器NDに限らず中性子が発生する中性子発生室であれば本願発明を効果的に実施することができる。
2.放射化抑制構造
次に、本願発明の放射化抑制構造100の例について図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の放射化抑制構造構築方法は、本願発明の放射化抑制構造100を構築する方法であり、したがってまずは本願発明の放射化抑制構造100について説明し、その後に本願発明の放射化抑制構造構築方法について説明することとする。
次に、本願発明の放射化抑制構造100の例について図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の放射化抑制構造構築方法は、本願発明の放射化抑制構造100を構築する方法であり、したがってまずは本願発明の放射化抑制構造100について説明し、その後に本願発明の放射化抑制構造構築方法について説明することとする。
本願発明の放射化抑制構造100は、図1に示すようにコンクリート壁体CWの室内側(前面)に、すなわちコンクリート壁体CWの表面を覆うように設置される。また、図2に詳しく示すように放射化抑制構造100は、遮蔽体110と裏面板120を備えた構造であり、コンクリート壁体CWの室内側(前面)に裏面板120が配置されるとともに、この裏面板120の室内側(前面)に遮蔽体110が配置される。図2は、図1の平面図に示すA-A矢視の断面図であって、放射化抑制構造100とコンクリート壁体CWを鉛直面で切断した断面図である。なお図1や図2では、壁面を形成するコンクリート壁体CWの前面(室内側)に放射化抑制構造100を設置しているが、壁面に限らず天井面や床面を形成するコンクリート壁体CWの前面に放射化抑制構造100を設置することもできる。
裏面板120は、ホウ素含有樹脂からなる板状あるいは薄膜状の部材であり、例えばB4Cを含む樹脂を成型した部材を用いることができる。もちろん、ホウ素を含有する樹脂材であればB4C樹脂に限らず、無水ホウ酸を樹脂に混ぜた部材や、粉状の灰ホウ石を樹脂に混ぜた部材など、他の部材を裏面板120として用いることもできる。
遮蔽体110は、「木製板」によって形成されるものである。ここで「木製板」とは、木材(例えば、パープルハートやイペといったハードボード等)、あるいは集成材やCLT(Cross Laminated Timber)といった複合木材からなるパネル状(板状)の部材である。
既述したとおり本願の発明者らは、木材に含まれる炭素が中性子を遮蔽する能力を備えていることを突き止めた。そして中性子を効果的に遮蔽するためには、遮蔽体110(つまり木製板)に係る板厚方向の「必要含有炭素原子数」が重要であって、遮蔽体110の厚さ(以下、「板厚」という。)も影響することも見出している。ここで「必要含有炭素原子数」について、図3を参照しながら説明する。図3(a)は室内側のから見た遮蔽体110の表面を示す正面図であり、図3(b)は「単位柱」を説明する斜視図である。必要含有炭素原子数を決定するためには、まずは「単位柱」を設定する必要がある。具体的には、図3(a)に示すように遮蔽体110の表面に1cm×1cmの矩形(以下、「単位表面」という。)を設定し、図3(b)に示すようにこの単位表面と板厚(図2)によって設定される四角柱が「単位柱」である。換言すればこの単位柱は、単位表面を底面とし、板厚を高さとする四角柱である。そして、この単位柱内に含まれる炭素原子数が「含有炭素原子数」であり、さらに中性子を遮蔽するために必要な最小の含有炭素原子数が「必要含有炭素原子数」である。
コンクリート壁体CWの放射化を抑制するには、板厚方向における中性子の移動を規制することとなる。そのため、遮蔽体110の表面のうちどこを通過しても必ず必要含有炭素原子数以上であることが望ましい。遮蔽体110の表面のうちある範囲では含有炭素原子数が著しく多いが、他のある範囲では含有炭素原子数が著しく少ないと、そこが弱点となってコンクリート壁体CWの放射化が進行してしまうわけである。したがって放射化抑制構造100に採用される遮蔽体110は、その表面のうちどこで単位表面を設定したとしても、その単位表面に係る(つまり、単位柱に係る)含有炭素原子数が必要含有炭素原子数以上となるものが望ましい。
以下、本願の発明者らが実施した解析結果や実験結果について説明する。なお発明者らは、必要含有炭素原子数を解明するための解析(以下、「第1の解析」という。)、適切な板厚を解明するための解析(以下、「第2の解析」という。)の2種類の解析と、遮蔽体110(つまり木製板)の含水率にかかわらず中性子を遮蔽し得ることを確認する実験(以下、「確認実験」という)を行っている。
(第1の解析)
含有炭素原子数が異なる複数種類の木製板を用意(想定)し、それぞれのケースでコンクリートに生成されるEu-152とCo-60の変化を確認するためのシミュレーション解析を行った。使用したシミュレーション解析コードは、JAEA等が開発したPHITSコードとDCHAINコードである。また、シミュレーション解析に用いた中性子のエネルギー条件は、今後拡大が期待され本願発明にとっても最も効果的と考えられるBNCT施設で使用され、中性子を用いたエンジンや燃料電池などの研究開発施設で使用される熱外中性子(40keV)とした。
含有炭素原子数が異なる複数種類の木製板を用意(想定)し、それぞれのケースでコンクリートに生成されるEu-152とCo-60の変化を確認するためのシミュレーション解析を行った。使用したシミュレーション解析コードは、JAEA等が開発したPHITSコードとDCHAINコードである。また、シミュレーション解析に用いた中性子のエネルギー条件は、今後拡大が期待され本願発明にとっても最も効果的と考えられるBNCT施設で使用され、中性子を用いたエンジンや燃料電池などの研究開発施設で使用される熱外中性子(40keV)とした。
コンクリートの放射化量は、コンクリート表面における中性子スペクトルや中性子の照射時間と照射間隔、さらにコンクリートを構成する元素組成とその含有量によって変化する。第1の解析では、実際の施設利用形態に準じ、熱外中性子(40keV)がコンクリートに年間1588時間照射された場合の30年後(施設運用期間終了時)の放射化量を計算している。また、コンクリートの放射化で問題となるCo-60やEu-152はコンクリート内に微量に含まれる元素であり、そのコンクリート内での含有量や存在分布は一定ではなく複雑である。そのため、ここではコンクリートが含有するCo-60とEu-152の量として、アメリカ合衆国原子力規制委員会発行の標準含有量(NUREG/CR-3474)に示されている値を用いている。
具体的には、コンクリート表面にB4C板(板厚t=1cm)を配置し、さらにB4C板の前面に板厚8cmの木製板を配置したうえで、木製板の表面から中性子を照射したケースを想定して、コンクリート深さ(表面からの距離)ごとの放射化量を解析した。図4は、含有炭素原子数が異なる7種類の木製板T11~T17を配置したときのコンクリート深さごとの放射化量を示す解析結果図であり、(a)は放射化量としてEu-152を示し、(b)は放射化量としてCo-60を示している。なお比較のため、パネルなしのケース(T10)も併せて示している。
解析で設定した木製板T11の含有炭素原子数は、パープルハート木材と同等の0.0261×1024個としており、木製板T12の含有炭素原子数は木製板T11の2倍、つまり2×0.0261×1024個としている。同様に、木製板T13の含有炭素原子数は木製板T11の5倍(5×0.0261×1024個)、木製板T14の含有炭素原子数は木製板T11の1/2倍(1/2×0.0261×1024個)、木製板T15の含有炭素原子数は木製板T11の1/5倍(1/5×0.0261×1024個)、木製板T16の含有炭素原子数は木製板T11の1/10倍(1/10×0.0261×1024個)、木製板T17の含有炭素原子数は木製板T11の1/100倍(1/100×0.0261×1024個)としている。
コンクリートが放射性廃棄物として取り扱われる基準値(つまり、クリアランスレベル)は、Eu-152、Co-60いずれも0.1Bq/gとされている。したがって、図4から分かるように、Eu-152、Co-60ともにクリアランスレベル以下とするためには、含有炭素原子数が0.0261×1024個以上である遮蔽体110を配置する必要がある。すなわちこの解析によれば、本願発明の放射化抑制構造100に採用される遮蔽体110の必要含有炭素原子数は、Eu-152、Co-60ともに0.0261×1024個となる。
(第2の解析)
板厚が異なる複数種類の木製板を用意(想定)し、それぞれのケースでコンクリートに生成されるEu-152とCo-60の変化を確認するためのシミュレーション解析を行った。なお、使用したシミュレーション解析コードや、シミュレーション解析に用いた中性子のエネルギー(熱外中性子40keV)、年間照射時間(1588時間)、解析結果の時点(30年後)といった解析条件に関しては、第1の解析で説明したものと同じである。
板厚が異なる複数種類の木製板を用意(想定)し、それぞれのケースでコンクリートに生成されるEu-152とCo-60の変化を確認するためのシミュレーション解析を行った。なお、使用したシミュレーション解析コードや、シミュレーション解析に用いた中性子のエネルギー(熱外中性子40keV)、年間照射時間(1588時間)、解析結果の時点(30年後)といった解析条件に関しては、第1の解析で説明したものと同じである。
具体的には、コンクリート表面にB4C板(板厚t=1cm)を配置し、さらにB4C板の前面に含有炭素原子数が0.0261×1024個の木製板を配置したうえで、木製板の表面から中性子を照射したケースを想定して、コンクリート深さ(表面からの距離)ごとの放射化量を解析した。図5は、板厚が異なる木製板を配置したときのコンクリート深さごとの放射化量を示す解析結果図であり、(a)は放射化量としてEu-152を示し、(b)は放射化量としてCo-60を示している。
上記したとおり、コンクリートが放射性廃棄物として取り扱われるクリアランスレベルは、Eu-152、Co-60いずれも0.1Bq/gとされている。したがって、図5から分かるように、コンクリート全体で(つまり、コンクリート深さ5cmであっても)Eu-152、Co-60ともにクリアランスレベル以下とするためには、板厚が8cm以上の遮蔽体110を配置するとよい。なお便宜上ここでは、Eu-152、Co-60ともにクリアランスレベル以下とする遮蔽体110の最小の板厚のことを「最小板厚」ということとする。
(確認実験)
気乾状態や絶乾状態の遮蔽体110(木製板)を用意し、それぞれの遮蔽体110が中性子を遮蔽し得ることを確認する実験を行った。具体的には、コンクリート表面にB4C板(板厚t=1cm)を配置し、さらにB4C板の前面に板厚8cmのパープルハート(含有炭素原子数0.0261×1024個)を配置したうえで、このパープルハート(つまり、木製板)の表面から熱エネルギー領域~熱外エネルギー領域の成分を多く含む中性子(カドミニウム比5)を照射し、コンクリートの放射化量を測定した。この実験条件は、BNCT施設や中性子を用いたエンジンや燃料電池などの研究開発施設に近い条件である。ただし、コンクリート内に生成される放射化物質のうち、Eu-152とCo-60は生成確率(断面積)が小さく、年オーダーの時間をかけて中性子を照射しないと生成しないため、この確認実験では同じ熱エネルギー領域の中性子で生成され、かつ短時間の照射で生成されるNa-24とMn-56(マンガン56)を測定している。
気乾状態や絶乾状態の遮蔽体110(木製板)を用意し、それぞれの遮蔽体110が中性子を遮蔽し得ることを確認する実験を行った。具体的には、コンクリート表面にB4C板(板厚t=1cm)を配置し、さらにB4C板の前面に板厚8cmのパープルハート(含有炭素原子数0.0261×1024個)を配置したうえで、このパープルハート(つまり、木製板)の表面から熱エネルギー領域~熱外エネルギー領域の成分を多く含む中性子(カドミニウム比5)を照射し、コンクリートの放射化量を測定した。この実験条件は、BNCT施設や中性子を用いたエンジンや燃料電池などの研究開発施設に近い条件である。ただし、コンクリート内に生成される放射化物質のうち、Eu-152とCo-60は生成確率(断面積)が小さく、年オーダーの時間をかけて中性子を照射しないと生成しないため、この確認実験では同じ熱エネルギー領域の中性子で生成され、かつ短時間の照射で生成されるNa-24とMn-56(マンガン56)を測定している。
図6に確認実験の結果を示す。この図に示すように、コンクリート表面にB4C板と気乾状態のパープルハート(木製板)を配置したDのケースと、コンクリート表面にB4C板と絶乾状態のパープルハート(木製板)を配置したEのケースでは、コンクリートのみとしたAのケースやコンクリート表面に気乾状態のパープルハートを配置したBのケース、コンクリート表面に絶乾状態のパープルハートを配置したCのケース、コンクリート表面にB4C板を配置したFのケース、石灰石コンクリートのみとしたGのケースよりもNa-24とMn-56の生成が抑制され、また気乾状態のパープルハート(Dケース)と絶乾状態のパープルハート(Eケース)を比較すると両者では顕著な差が認められない。なお、コンクリート表面にB4C板と気乾状態のパープルハートを配置したケース(DとE)を除けば、コンクリート表面にB4C板を配置したケース(F)、コンクリート表面にパープルハートを配置したケース(BやC)の順でNa-24とMn-56の生成が抑制されており、やはりコンクリートのみとしたケース(AやG)ではNa-24とMn-56の生成があまり抑制されない。ただし、通常のコンクリート(Aのケース)よりも低放射化コンクリートである石灰石コンクリート(Gのケース)を配置した方がNa-24とMn-56の生成が抑制されることが分かる。すなわち本願発明の放射化抑制構造100は、遮蔽体110(つまり木製板)の含水率にかかわらず中性子を遮蔽することができ、換言すれば、木製板に含まれる水分量の変動を許容したうえでコンクリートの放射化を抑制することができる。
以上説明したように、本願発明の放射化抑制構造100を構成する遮蔽体110は、その含有炭素原子数を必要含有炭素原子数である0.0261×1024個以上とする必要がある。特に、含有炭素原子数が0.0261×1024個である遮蔽体110(つまり木製板)を用いる場合、その板厚を最小板厚(例えば、8cm)以上とすることが望ましい。なお遮蔽体110は、図2に示すように1種類の木製板で形成することもできるし、図7に示すように材質が異なる2以上の木製板(図では2種類の木製板)を重ねて(積層して)形成することもできる。図7は、材質が異なる2種類の木製板からなる遮蔽体110を模式的に示す断面図である。
図7では、コンクリート壁体CWの室内側(前面)に裏面板120が配置されるとともに、この裏面板120の室内側(前面)に第1の木製板111が配置され、さらに第1の木製板111の室内側(前面)に第2の木製板112が配置されている。そして、第1の木製板111と第2の木製板112によって遮蔽体110が形成されている。この場合、木製板111と第2の木製板112は、材質が異なる、つまりその含有炭素原子数が異なる材料を用いるとよい。なお、2以上の木製板からなる遮蔽体110も、やはりその含有炭素原子数を0.0261×1024個以上とすることが望ましい。また、含有炭素原子数が0.0261×1024個である遮蔽体110(つまり木製板)を用いる場合は、その板厚を最小板厚である8cm以上とすることが望ましい。ただし、2以上の木製板からなる遮蔽体110に設定される単位柱、すなわちそれぞれの木製板(図7では、第1の木製板111と第2の木製板112)によって設定される単位柱を連続した単位柱において、その含有炭素原子数が必要含有炭素原子数(つまり、0.0261×1024個)以上となるように2以上の木製板を組み合わせるとよい。
2以上の木製板によって遮蔽体110を形成する場合、含有炭素原子数が少ない木製板ほど室内側に配置し、含有炭素原子数が多い木製板ほどコンクリート壁体CW側に配置するとよい。当然ながら、含有炭素原子数が多い木製板ほど中性子の遮蔽効果が高い。一方、室内側はどうしても不測の接触等による損傷のおそれが高くなる。したがって、遮蔽効果が比較的低い木製板(含有炭素原子数が少)を室内側に配置し、遮蔽効果が比較的高い木製板(含有炭素原子数が多)をコンクリート壁体CW側に配置するわけである。これにより、室内側の木製板が破損等したとしても、この含有炭素原子数が少の木製板のみを交換することによって、すなわち含有炭素原子数が多の木製板はそのまま維持したうえで、引き続き本願発明の放射化抑制構造100の機能を継続させることができる。
3.放射化抑制構造構築方法
続いて、本願発明の放射化抑制構造構築方法ついて、図8を参照しながら説明する。なお、本願発明の放射化抑制構造構築方法は、ここまで説明した放射化抑制構造100を構築する方法であり、したがって放射化抑制構造100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の放射化抑制構造構築方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.放射化抑制構造」で説明したものと同様である。
続いて、本願発明の放射化抑制構造構築方法ついて、図8を参照しながら説明する。なお、本願発明の放射化抑制構造構築方法は、ここまで説明した放射化抑制構造100を構築する方法であり、したがって放射化抑制構造100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の放射化抑制構造構築方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.放射化抑制構造」で説明したものと同様である。
図8は、本願発明の放射化抑制構造構築方法の主な工程を示すフロー図であり、(a)は遮蔽体110と裏面板120が一体化されたものをコンクリート壁体CWの前面に設置するケースであり、(b)は遮蔽体110と裏面板120をそれぞれ個別にコンクリート壁体CWの前面に設置するケースである。
図8(a)に示すように、まずは本願発明の放射化抑制構造を構成する遮蔽体110の仕様を計画する(Step10)。このとき、少なくとも遮蔽体110の必要含有炭素原子数が計画され、さらに最小板厚を計画するとよい。そして、ここで計画された必要含有炭素原子数や最小板厚を満たす木製板を製作するとともに、1又は2以上の木製板によって遮蔽体110を製作し、さらにこの遮蔽体110と裏面板120を積層したうえで固定し、このように形成された構造体を現地(現場)に搬入する(Step21)。遮蔽体110と裏面板120が一体化された構造体が搬入されると、その構造体をコンクリート壁体CWの前面に設置する(Step30)。
図8(a)では、遮蔽体110と裏面板120が一体化された構造体を設置する例を説明したが、別体として遮蔽体110と裏面板120を搬入して設置することもできる。この場合、図8(b)に示すように遮蔽体110の仕様を計画すると(Step10)、必要含有炭素原子数や最小板厚を満たす木製板を製作し、別体である遮蔽体110と裏面板120をそれぞれ現地(現場)に搬入する(Step22)。そして、裏面板120をコンクリート壁体CWの前面に設置し(Step31)、裏遮蔽体110を裏面板120の前面に設置する(Step32)。
本願発明の放射化抑制構造、及び放射化抑制構造構築方法は、陽子線治療や重粒子線治療、ホウ素中性子捕捉療法、PET(ポジトロン断層法検査)施設など中性子が発生する医療施設をはじめ研究施設や検査施設、産業施設などにおいて特に有効に利用することができる。本願発明は、中性子が発生する施設が現状抱える課題を解決するものであり、すなわち粒子線がん治療の普及を促進するとともに、放射線業務従事者の無用な被ばくを低減し、放射性廃棄物の発生を低減することを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
100 本願発明の放射化抑制構造
110 (放射化抑制構造の)遮蔽体
111 (遮蔽体の)第1の木製板
112 (遮蔽体の)第2の木製板
120 (放射化抑制構造の)裏面板
CW コンクリート壁体
ND 加速器
110 (放射化抑制構造の)遮蔽体
111 (遮蔽体の)第1の木製板
112 (遮蔽体の)第2の木製板
120 (放射化抑制構造の)裏面板
CW コンクリート壁体
ND 加速器
Claims (5)
- 中性子が発生する室内を閉鎖する壁体の放射化を抑制する構造であって、
木材製又は複合木材製の木製板によって形成される板状の遮蔽体と、
ホウ素化合物を含有する板状又は薄膜状の裏面板と、を備え、
前記壁体の前面に前記裏面板が配置されるとともに、該裏面板の前面に前記遮蔽体が配置され、
前記遮蔽体は、1cm×1cmの単位表面と板厚からなる単位柱内に0.0261×1024個以上の炭素原子数を含む、
ことを特徴とする放射化抑制構造。 - 前記遮蔽体は、それぞれ材質が異なる2以上の前記木製板が板厚方向に重ねられて形成され、
2以上の前記木製板からなる前記遮蔽体の前記単位柱内には、0.0261×1024個以上の炭素原子数が含まれる、
ことを特徴とする請求項1記載の放射化抑制構造。 - 前記遮蔽体は、前記単位柱内含まれる炭素原子数が多い前記木製板ほど、前記壁体側に配置される、
ことを特徴とする請求項2記載の放射化抑制構造。 - 中性子が発生する室内を閉鎖する壁体の放射化を抑制する放射化抑制構造を、構築する方法であって、
木材製又は複合木材製の木製板によって形成される板状の遮蔽体の仕様を計画する遮蔽体計画工程と、
ホウ素化合物を含有する板状又は薄膜状の裏面板が前記壁体の前面に配置されるとともに、前記遮蔽体が該裏面板の前面に配置されるように、該裏面板と該遮蔽体を設置する構造体設置工程と、を備え、
前記遮蔽体計画工程では、1cm×1cmの単位表面と板厚からなる単位柱内に含まれる最小の炭素原子数を計画し、
前記構造体設置工程では、前記最小の炭素原子数以上の炭素原子数を含む該遮蔽体を、設置する、
ことを特徴とする放射化抑制構造構築方法。 - 前記遮蔽体計画工程では、前記単位柱内に含まれる最小の炭素原子数を0.0261×1024個として計画する、
ことを特徴とする請求項4記載の放射化抑制構造構築方法。
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JP2021085228A JP2022178432A (ja) | 2021-05-20 | 2021-05-20 | 放射化抑制構造、及び放射化抑制構造構築方法 |
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JP7348697B1 (ja) * | 2023-05-02 | 2023-09-21 | ツナガルデザイン株式会社 | 核シェルター構造 |
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2021
- 2021-05-20 JP JP2021085228A patent/JP2022178432A/ja active Pending
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