JP2022169060A - 荷電粒子ビーム輸送装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】荷電粒子ビームの周方向におけるビーム発散量のばらつきを低減する。【解決手段】荷電粒子ビーム輸送装置3は、密閉チャンバ3a内における荷電粒子ビーム1の側方に設けられた、荷電粒子ビーム1の発散量を測定する複数の測定器13が設けられる。複数の測定器13は、荷電粒子ビーム1の側方であって、荷電粒子ビーム1の互いに異なる径方向に設けられる。また、密閉チャンバ3a内に空間電荷中和剤としてのガスを導入する複数のガス導入口12が、複数の測定器13に対応して、荷電粒子ビーム1の側方であって、荷電粒子ビーム1の互いに異なる径方向に設けられる。制御装置14は、複数の測定器13の測定結果に基づいて、ガス導入口12から互いに異なる量のガスを密閉チャンバ3a内に導入させる。【選択図】図1

Description

本発明は、荷電粒子ビーム輸送装置に関する。
荷電粒子ビームの空間電荷効果によるビーム発散を低減させる技術が特許文献1に記載されている。この特許文献1には、「イオンビームを電子ビームの軌道領域に照射することで、電子ビームにより形成される空間電荷を中和し、空間電荷効果を低減することを特徴とする電子ビーム装置。」及び「イオン発生手段は、電子ビームの軌道に沿った該電子ビームの電流密度の大小に応じてイオンビーム密度を変えることを特徴とする」と記載されている。
特開2007-19195号公報
特許文献1には、電子ビームの電流密度に応じてイオンビームの照射位置を調整することで、空間電荷効果を効率良く低減する装置が記載されている。しかし、特許文献1に記載されている装置では、荷電粒子ビームの周方向における空間電荷量のばらつきに対応した空間電荷中和ができない。荷電粒子ビームの周方向において空間電荷量がばらついていると、荷電粒子ビームの周方向においてビーム発散量のばらつきが生じてしまう。
本発明の目的は、荷電粒子ビームの周方向におけるビーム発散量のばらつきを低減することにある。
本発明は、線形加速器における荷電粒子ビーム輸送装置であって、密閉チャンバ内における荷電粒子ビームの経路の側方であって、前記荷電粒子ビームの互いに異なる径方向に設けられた、前記荷電粒子ビームの発散量を測定する複数の測定器と、前記荷電粒子ビームの経路の側方であって、前記複数の測定器に対応して前記荷電粒子ビームの互いに異なる径方向に設けられ、空間電荷を中和する空間電荷中和剤を前記荷電粒子ビームに対して放出する複数の中和剤放出口と、前記複数の中和剤放出口からそれぞれ前記荷電粒子ビームに向かって放出される前記空間電荷中和剤の量を調整するための中和剤流量調整器と、前記複数の測定器の測定結果に基づいて、前記中和剤流量調整器を制御し、前記複数の中和剤放出口から互いに異なる量の前記空間電荷中和剤を前記荷電粒子ビームに向かって放射させる制御装置と、を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置である。
本発明によれば、荷電粒子ビームの周方向におけるビーム発散量のばらつきを低減することができる。
第1実施形態に係る荷電粒子ビーム輸送装置を含む線形加速器の構成概略図である。 荷電粒子ビーム輸送装置をビーム軸方向から見た時の概略図である。 第1実施形態に係る荷電粒子ビーム輸送装置の処理の流れを示すフローチャートである。 第2実施形態に係る荷電粒子ビーム輸送装置を含む線形加速器の構成概略図である。
以下、図面を用いて実施例を説明する。
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態を図1~図3に沿って説明する。図1は、第1実施形態に係る荷電粒子ビーム輸送装置3を含む線形加速器の構成概略図である。図1に示される線形加速器は、荷電粒子ビーム1を生成する荷電粒子ビーム生成装置2、及び、荷電粒子ビーム1を輸送する荷電粒子ビーム輸送装置3を含んで構成される。
荷電粒子ビーム生成装置2は、例えば、マイクロ波イオン源、ECR(Electron Cyclotron Resonance)イオン源、デュオプラズマトロン、あるいは電子銃などであってよい。本実施形態では、荷電粒子ビーム生成装置2としてマイクロ波イオン源を採用している。
荷電粒子ビーム生成装置2内でマイクロ波により生成されたプラズマ4は、引き出し電極5との電位差によって引き出される。これにより、荷電粒子ビーム1が生成される。本実施形態では、荷電粒子ビーム1は荷電粒子としての水素イオンにより構成される。
荷電粒子ビーム輸送装置3は、生成された荷電粒子ビーム1を輸送する装置である。荷電粒子ビーム輸送装置3は、密閉チャンバ3aを含んで構成される。荷電粒子ビーム生成装置2で生成された荷電粒子ビーム1は、密閉チャンバ3a内に入射され、密閉チャンバ3a内を通って輸送される。
密閉チャンバ3aの外壁に沿って収束コイル6が設けられている。荷電粒子ビーム1は、密閉チャンバ3a内で収束コイル6により収束されて、後段加速器7に入射される。収束コイル6としては、例えば磁性体を用いた磁極を用いることができる。ただし、荷電粒子ビーム1を構成する荷電粒子間における斥力により(換言すれば空間電荷効果により)、収束コイル6を設けたとしても、荷電粒子ビーム1の発散量を決めるエミッタンスが増大してしまう。
荷電粒子ビーム輸送装置3で輸送された荷電粒子ビーム1は、後段加速器7に入射される。後段加速器7は、例えば、高周波加速器などで、RFQ(Radio Frequency Quadrupole)やDTL(Drift Tube Linac)などであってよく、あるいはこれらの組み合わせであってもよい。また、後段加速器7として、コッククロフトウォルトン型やバンでグラーフ型など静電加速器とすることもできる。
密閉チャンバ3a内(具体的には後段加速器7へのビーム出射口の近傍)には、吸収体9が設けられている。密閉チャンバ3a内において発散した、不要なイオンなどを含んだ発散ビーム8は、吸収体9により受け止められる。これにより、発散ビーム8は後段加速器7には入射されない。
例えば、発散ビーム8には、荷電粒子ビーム1により形成される空間電荷効果により発散したビーム部と、水素イオン以外の重水素などの不要なイオンが含まれる。重水素イオンなどは、水素イオンより質量が大きいため、収束コイル6で収束されずに発散する。図1に示された線形加速器では、吸収体9の形状を荷電粒子ビーム1のビーム進行方向に厚みのある形状とした上で、荷電粒子ビーム1を通す貫通孔を設け、当該貫通孔をコーン形状(荷電粒子ビーム1のビーム経路の下流側程、孔径が小さくなる形状)とすることで、収束されなかった不要イオンを効率良く止めることができる。
上記のような線形加速器において、空間電荷効果によるビーム発散を低減させるために、荷電粒子ビーム輸送装置3は、空間電荷中和剤としてのガスを貯留するガスボンベ10、ガスボンベ10からのガスを密閉チャンバ3a内に(つまり荷電粒子ビーム1に対して)導入するための中和剤放出口としての複数のガス導入口12、及び、複数のガス導入口12それぞれから密閉チャンバ3a内に導入される導入ガスの量を調整するための中和剤流量調整器としての流量調整器11を含んで構成される。
流量調整器11は、例えば各ガス導入口12に連通するガス流路に設けられたガス電磁弁であってよい。ガス電磁弁は、ソレノイド、可動鉄片であるプランジャ、及びバルブを含んで構成され、ソレノイドに電流を流すことでプランジャを動作させ、それによりバルブの開閉を制御するものである。このようなガス電磁弁においては、バルブの開閉具合を制御することで、当該ガス電磁弁を流通するガスの量を調整することができる。
ガスボンベ10からのガスを、流量調整器11により流量調整してガス導入口12から密閉チャンバ3a内に導入することで、荷電粒子ビーム1とガスとの反応で生成された電離電子が、荷電粒子ビーム1の電荷による引力によって軌道上に蓄積するため、空間電荷が中和される。
具体例としては、荷電粒子ビーム1として正電荷を有する水素イオンビームを用いる場合、密閉チャンバ3a内に導入されるガスとして、水素ガスを用いることができる。この場合、荷電粒子ビーム1としての水素イオンビームが、密閉チャンバ3a内に導入された水素ガスの電子にぶつかることにより、水素ガスから電子が剥がされる。これにより、水素ガスは、正電荷を有する水素イオンと負電荷を有する電子とに分裂する。水素イオンは、荷電粒子ビーム1と同じく正電荷を有しているため、荷電粒子ビーム1との間の斥力によりはじかれる。一方、電子は、荷電粒子ビーム1との間の引力により、荷電粒子ビーム1の経路近傍に集まる。そうすると、荷電粒子ビーム1としての水素イオンビームと、その近傍に集まってきた電子との間に引力が生じることで、荷電粒子ビーム1を構成する荷電粒子(水素イオン)同士の間の斥力が低減される(これは「空間電荷が中和される」とも表現される)。これにより、荷電粒子ビーム1の空間電荷効果による発散が抑制される。
荷電粒子ビーム1として、負電荷を有する電子ビームや陰イオンビームを用いた場合には、荷電粒子ビーム1とガスとの反応で生じた、正電荷を持つ陽イオンが荷電粒子ビーム1の経路近傍に蓄積することで空間電荷を中和する。つまり、ガスを導入する空間電荷低減法は、正電荷、負電荷どちらの荷電粒子ビーム1にも適用可能である。
空間電荷の中和量は、密閉チャンバ3a内に導入されたガスの電離電子若しくは電離イオンの量で決まるため、ガスの導入量(複数のガス導入口12から導入されるガスの総量)を調整することで、空間電荷の中和量を調整することが可能である。
空間電荷中和用ガスの総導入量は、電流モニタ15a,15bで測定した荷電粒子ビーム1の電流量に応じて調整する。ここで、電流モニタ15a,15bは、例えば、非接触型のCT(Current Transformer)などが用いられ、荷電粒子ビーム1の総電流量を測定するものである。例えば、電流モニタ15a,15bは、荷電粒子ビーム1がその内部空間を通る円形あるいは円筒状の磁器コアと、当該磁器コアに巻き付けられた巻線を含んで構成される。荷電粒子ビーム1が磁器コアの内部空間を通過することにより磁器コアに磁束が生じ、当該磁束により巻線に2次電流が生じる。当該2次電流を測定することで、荷電粒子ビーム1の電流が測定される。電流モニタ15a,15bで測定された総電流量は、制御装置14によって読み取られる。詳細は後述するが、制御装置14は、荷電粒子ビーム輸送装置3に設けられ、上述の流量調整器11を制御して、各ガス導入口12から密閉チャンバ3a内に導入される導入ガスの量を制御する装置である。
第1電流検出器としての電流モニタ15aは、引き出し電極5の近傍に設けられる。つまり、電流モニタ15aは、密閉チャンバ3aに入る荷電粒子ビーム1の総電流量を測定する。第2電流検出器としての電流モニタ15bは、荷電粒子ビーム1の経路において、電流モニタ15aよりも下流側に設けられる。本実施形態では、電流モニタ15bは、密閉チャンバ3aのビーム出口近傍に設けられる。つまり、本実施形態では、電流モニタ15bは、密閉チャンバ3aから出てくる荷電粒子ビーム1の総電流量を測定する。
荷電粒子ビーム1が発散することにより、電流モニタ15bが測定した総電流量は、電流モニタ15aが測定した総電流量よりも小さくなる。したがって、電流モニタ15aが測定した総電流量と、電流モニタ15bが測定した総電流量との差分が、荷電粒子ビーム1の発散量を示す指標となる。換言すれば、電流モニタ15aが測定した総電流量と、電流モニタ15bが測定した総電流量との差分から、密閉チャンバ3a内におけるビーム損失率が計算できる。ここで、ビーム損失率とは、荷電粒子ビーム輸送装置3に入る荷電粒子ビームの量(荷電粒子の量、密度、ビームの電流値とも言い換えることができる)に対する、密閉チャンバ3aから出てくる荷電粒子ビームの量の割合である。
密閉チャンバ3a内に導入された導入ガスの総量が不足している場合、空間電荷効果が大きくなり、不要な荷電粒子だけでなく必要な荷電粒子も発散して吸収体9で止められてしまうため、ビーム損失率が高くなる。一方で、導入ガスの総量が多すぎる場合にも、荷電粒子ビーム1とガスとの反応が増えるために、ビーム損失率が高くなる。
そのため、制御装置14は、電流モニタ15a,15bが測定した電流値からビーム損失率を演算し、演算したビーム損失率に応じて流量調整器11を制御する。これにより、導入ガスの総量を適切に調整し(換言すればビーム損失率に応じた量のガスが密閉チャンバ3a内に導入され)、ビーム損失率、すなわち空間電荷効果による荷電粒子ビーム1の発散を抑制する。
また、荷電粒子ビーム輸送装置3には、密閉チャンバ3a内の不純物を取り除いて真空化するための真空ポンプ(不図示)、及び、密閉チャンバ3a内の真空度を測定する真空計16が設けられる。ここで、当該真空ポンプの調子などに起因して、密閉チャンバ3a内の真空度が変化することがあり、空間電荷中和用のガスの密度に過不足が生じ得る。そのため、制御装置14は、上述のビーム損失率に加えてあるいは代えて、真空計16が測定した真空度に応じて、密閉チャンバ3a内に導入する導入ガスの総量を決定するようにしてもよい。具体的には、真空度が大きい程、密閉チャンバ3a内に導入されたガスの量が少ないので、制御装置14は、導入ガスの総量を多くするように制御し、真空度が小さい程、密閉チャンバ3a内に導入されたガスの量が多いので、制御装置14は、導入ガスの総量を少なくするように制御する。
ここで、荷電粒子ビーム1の周方向において、電流密度差に起因した空間電荷量のばらつきが生じる場合がある。例えば、荷電粒子ビーム1の進行方向から見た場合、荷電粒子ビーム1の上側よりも下側の方が空間電荷量が多い、の如くである。空間電荷量にばらつきが生じると、荷電粒子ビーム1の周方向においてビーム発散量にばらつきが生じる。例えば、荷電粒子ビーム1の進行方向から見た場合、荷電粒子ビーム1の上側よりも下側の方がビーム発散量が大きい、の如くである。
図2は、密閉チャンバ3a内を通過する荷電粒子ビーム1を、その進行方向から見た図である。本実施形態では、荷電粒子ビーム1の周方向におけるビーム発散量のばらつきを低減すべく、図2に示すように、密閉チャンバ3a内において、荷電粒子ビーム1の側方に複数の測定器13及び複数のガス導入口12が配置される。
測定器13は、荷電粒子ビーム1の発散量を測定するものである。測定器13は、例えば電極を含む電流計であってよく、荷電粒子ビーム1の経路の側方に配置される。発散して荷電粒子ビーム1の経路から外れた発散ビーム8(発散荷電粒子)は、測定器13の電極に入射する。これにより、電極において電流が生じ、測定器13は当該電流を測定する。測定器13が測定した電流値が大きい程、ビーム発散量が大きいと言える。
具体的には、複数の測定器13は、荷電粒子ビーム1の側方であって、荷電粒子ビーム1の互いに異なる径方向に設けられる。図2の例では、荷電粒子ビーム1の中心から上側へ向かう径方向に測定器13aが設けられ、荷電粒子ビーム1の中心から右側へ向かう径方向に測定器13bが設けられ、荷電粒子ビーム1の中心から下側へ向かう径方向に測定器13cが設けられ、荷電粒子ビーム1の中心から左側へ向かう径方向に測定器13dが設けられる。なお、本実施形態では、4つの測定器13が設けられているが、測定器13は、2つ、3つ、あるいは5つ以上設けられてもよい。
また、複数のガス導入口12は、複数の測定器13に対応して、荷電粒子ビーム1の側方であって、荷電粒子ビーム1の互いに異なる径方向に設けられる。測定器13に対応して、とは、測定器13と同じ径方向にガス導入口12が設けられることを意味する。図2の例では、測定器13aに対応して、荷電粒子ビーム1の中心から上側へ向かう径方向にガス導入口12aが設けられ、測定器13bに対応して、荷電粒子ビーム1の中心から右側へ向かう径方向にガス導入口12bが設けられ、測定器13cに対応して、荷電粒子ビーム1の中心から下側へ向かう径方向にガス導入口12cが設けられ、測定器13dに対応して、荷電粒子ビーム1の中心から左側へ向かう径方向にガス導入口12dが設けられる。なお、本実施形態では、4つのガス導入口12が設けられているが、ガス導入口12は、測定器13に対応して、2つ、3つ、あるいは5つ以上設けられてもよい。
なお、本実施形態においては、複数の測定器13は、荷電粒子ビーム1の進行方向に垂直な同一垂直面に配置されている。つまり、複数の測定器13は、荷電粒子ビーム1の周方向に沿って並んで配置されている。換言すれば、密閉チャンバ3aの荷電粒子ビーム1の入り口から各測定器13までの距離は同じになっている。複数のガス導入口12も同様に、荷電粒子ビーム1の進行方向に垂直な同一垂直面に配置されている。しかしながら、複数の測定器13は、荷電粒子ビーム1の側方であって、荷電粒子ビーム1の互いに異なる径方向に設けられる限りにおいて、荷電粒子ビーム1の進行方向に垂直な同一垂直面に配置されなくてもよい。すなわち、密閉チャンバ3aの荷電粒子ビーム1の入り口から各測定器13までの距離は互いに異なっていてもよい。複数のガス導入口12も、各測定器13に応じて、荷電粒子ビーム1の進行方向に垂直な同一垂直面に配置されなくてもよい。
荷電粒子ビーム1の周方向における空間電荷量のばらつき、すなわち、荷電粒子ビーム1の周方向におけるビーム発散量のばらつきが生じると、複数の測定器13が測定するビーム発散量が互いに異なることになる。例えば、荷電粒子ビーム1の上側よりも下側の方がビーム発散量が多いならば、測定器13aが測定するビーム発散量よりも測定器13cが測定するビーム発散量の方が大きくなる。これに応じ、制御装置14は、複数の測定器13の測定結果に基づいて、流量調整器11を制御して、複数のガス導入口12から密閉チャンバ3a内に導入されるガスの量を調整する。具体的には、測定器13が測定したビーム発散量が大きい程、当該測定器13に対応するガス導入口12から導入されるガスの量を多くし、測定器13が測定したビーム発散量が少ない程、当該測定器13に対応するガス導入口12から導入されるガスの量を少なくする。荷電粒子ビーム1の周方向における空間電荷量がばらついており、荷電粒子ビーム1の周方向におけるビーム発散量が異なるならば、複数のガス導入口12からは、互いに異なる量のガスが密閉チャンバ3a内に導入されることになる。
具体的には、荷電粒子ビーム輸送装置3が有するメモリ(不図示)には、予め、測定器13で測定した荷電粒子ビーム1の発散量と、ガス導入口12から密閉チャンバ3a内に導入されるガスの量との関係を示す変換テーブルが記憶される。当該変換テーブルは、荷電粒子ビーム輸送装置3の管理者などによって作成されてよい。制御装置14は、当該変換テーブルを参照しつつ、各測定器13の測定値に基づいて、各ガス導入口12から導入するガスの量を決定する。
なお、本実施形態では、上述のように、制御装置14は、電流モニタ15a,15bの測定値から得られるビーム損失率、及び、真空計16の測定値から得られる密閉チャンバ3a内の真空度の少なくとも一方に基づいて、密閉チャンバ3a内に導入する導入ガスの総量を決定している。したがって、本実施形態では、制御装置14は、各測定器13の測定値に基づいて、決定した導入ガスの総量を一定に保ちつつ、それぞれのガス導入口12から導入するガスの流量比を調整する。
このように、本実施形態では、荷電粒子ビーム1の周方向において空間電荷量(すなわちビーム発散量)のばらつきが生じたとしても、制御装置14の制御により、空間電荷量が多い位置に対応するガス導入口12から、より多くのガスが導入されることになる。ガス導入口12から密閉チャンバ3a内に導入されたガスは、当該ガス導入口12の近辺においてより濃度が高くなる。つまり、空間電荷量が多い位置に対応するガス導入口12から、より多くのガスを導入することで、空間電荷量が多い位置においてガスの濃度を高くし、空間電荷量が少ない位置においてガスの濃度を低くするという状態を形成することができる。すなわち、空間電荷量が多くビーム発散量が多い位置には、より多くの電子を導入してより強く荷電粒子ビーム1の発散を抑制することができる。これにより、荷電粒子ビーム1の周方向における空間電荷量のばらつきが低減され、荷電粒子ビームの周方向におけるビーム発散量のばらつきが低減される。
次に、本実施形態による空間電荷中和のための導入ガス流量調整処理のフローを図3を参照しつつ説明する。
最初に、制御装置14は、電流モニタ15a,15bの測定値に基づいてビーム損失率を演算する。また、制御装置14は、真空計16の測定値を読み取りって密閉チャンバ3aの真空度を取得する(ステップS101)。
次いで、制御装置14は、ステップS101で取得したビーム損失率及び真空度が、予め設定された許容範囲内に収まっているか否かを判定する(ステップS102)。
ステップS102において許容範囲内ではないと判定された場合は、ステップS103に進み、制御装置14は、測定したビーム損失率及び真空度に対して、予め設定された導入ガスの総量になるように流量調整器11を制御して、導入ガスの流量を調整する。
ステップS102において許容範囲内であると判定された場合は、制御装置14は、複数の測定器13の測定値に基づいて、荷電粒子ビーム1の径方向毎の発散ビーム8の量を測定する(ステップS104)。
次に、ステップS104で測定した発散ビーム8の量の径方向依存性(すなわち、各径方向間におけるビーム発散量の差)が許容範囲内に収まっているか否かを判定する(ステップS105)。
ステップS105において、許容範囲内ではないと判定された場合は、ステップS106に進み、制御装置14は、発散ビーム8の量の径方向依存性を基に、予め設定した導入ガスの流量比になるように流量調整器11を制御して、各ガス導入口12から導入されるガスの流量を調整する。
ステップS105において、許容範囲内であると判定された場合は導入ガスの流量調整を終了する。
<第2実施形態>
第1実施形態では空間電荷中和剤としてガスを用いていたが、第2実施形態では、空間電荷中和剤として電子ビーム(電子)又はイオンビームを用いる。第1実施形態では、ガスを荷電粒子ビーム1に衝突させることで、ガスから電子又はイオンを得ていたが、第2実施形態では、空間電荷を中和するための電子又はイオンを直接密閉チャンバ3a内に導入するものである。図4に沿って、第2実施形態に係る荷電粒子ビーム輸送装置3’を説明する。なお、第2実施形態の説明においては、図1及び2と同じ構成には同一の符号を示し、その説明は省略する。
図4は、第2実施形態に係る荷電粒子ビーム輸送装置3’を含む線形加速器の構成概略図である。荷電粒子ビーム輸送装置3’は、第1実施形態に係る荷電粒子ビーム輸送装置3に比して、ガスボンベ10、流量調整器11、複数のガス導入口12に代えて、複数のビーム照射装置17が設けられる。なお、図4には、真空計16が示されていないが、第2実施形態に係る荷電粒子ビーム輸送装置3’も真空計を有していてもよい。
以下、荷電粒子ビーム1が正電荷を有しており、ビーム照射装置17から電子ビームが照射される例について説明する。ビーム照射装置17は、電子ビーム19を生成する電子銃18、電子銃18からの電子ビーム19を加速する複数の電極20、及び、電子ビーム19の出口である、中和剤放出口としてのビーム照射口17aを含んで構成される。電極20を静電レンズとして、電子ビームを収束させる構成であってもよい。ビーム照射装置17は、制御装置21からの指示に応じて、ビーム照射口17aから照射する電子の量を調整することが可能となっている。すなわち、第2実施形態では、ビーム照射装置17が中和剤流量調整器としての機能を発揮する。
複数のビーム照射装置17(より具体的にはビーム照射口17a)は、密閉チャンバ3a内における荷電粒子ビーム1の経路の側方であって、荷電粒子ビーム1の互いに異なる径方向に設けられる。すなわち、第2実施形態においては、図2に示す第1実施形態のガス導入口12がビーム照射口17aに置き換わった構造であると言える。
第2実施形態でも、制御装置21は、複数の測定器13の測定結果に基づいて、複数のビーム照射装置17を制御して、複数のビーム照射口17aから密閉チャンバ3a内に照射される電子の量を調整する。具体的には、測定器13が測定したビーム発散量が大きい程、当該測定器13に対応するビーム照射口17aから照射される電子の量を多くし、測定器13が測定したビーム発散量が少ない程、当該測定器13に対応するビーム照射口17aから照射される電子の量を少なくする。荷電粒子ビーム1の周方向における空間電荷量がばらついており、荷電粒子ビーム1の周方向におけるビーム発散量が異なるならば、複数のビーム照射口17aからは、互いに異なる量の電子が密閉チャンバ3a内に照射されることになる。
具体的には、荷電粒子ビーム輸送装置3’が有するメモリ(不図示)には、予め、測定器13で測定した荷電粒子ビーム1の発散量と、ビーム照射口17aから密閉チャンバ3a内に照射される電子の量との関係を示す変換テーブルが記憶される。制御装置14は、当該変換テーブルを参照しつつ、各測定器13の測定値に基づいて、各ビーム照射口17aから照射する電子の量を決定する。なお、第2実施形態でも、電流モニタ15a,15bの測定値から得られるビーム損失率、及び、真空計16の測定値から得られる密閉チャンバ3a内の真空度の少なくとも一方に基づいて決定した照射電子の総量を一定に保ちつつ、各測定器13の測定値に基づいて、それぞれのビーム照射口17aから導入する電子の量の比を調整する。
ビーム照射装置17は、比較的緩やかな勢いでビーム照射口17aから密閉チャンバ3a内に電子ビームを照射する。したがって、密閉チャンバ3a内に導入された電子は、当該ビーム照射口17aの近辺においてより濃度が高くなる。つまり、空間電荷量が多い位置に対応するビーム照射口17aから、より多くの電子を導入することで、空間電荷量が多い位置において電子の濃度を高くし、空間電荷量が少ない位置において電子の濃度を低くするという状態を形成することができる。すなわち、空間電荷量が多くビーム発散量が多い位置には、より多くの電子を導入してより強く荷電粒子ビーム1の発散を抑制することができる。これにより、荷電粒子ビーム1の周方向における空間電荷量(すなわち荷電粒子ビーム1のビーム発散量)のばらつきが低減される。
なお、荷電粒子ビーム1が負電荷を有する荷電粒子から成る場合、ビーム照射装置17から正電荷を持つ陽イオンビームを照射することで、空間電荷効果を低減することができる。
また、ビーム照射装置17に代えて、中和剤放出口としてのプラズマ照射口を有するプラズマ導入装置を設け、電子又はイオンに代えて、陽イオンと電子を含む、空間電荷中和剤としてのプラズマを密閉チャンバ3a内に導入するようにしてもよい。この場合でも、プラズマ導入装置は、制御装置21からの指示に応じて、プラズマ照射口から照射するプラズマの量を調整することが可能となっており、プラズマ導入装置が中和剤流量調整器としての機能を発揮する。
これによれば、荷電粒子ビーム1が正電荷を有する場合、プラズマに含まれる電子によって空間電荷が中和され、荷電粒子ビーム1が負電荷を有する場合、プラズマに含まれる陽イオンによって空間電荷が中和される。つまり、プラズマを導入する空間電荷低減法は、正電荷、負電荷どちらの荷電粒子ビーム1にも適用可能である。
なお、第1実施形態あるいは第2実施形態で説明した線形加速器で生成され加速された荷電粒子ビーム1は、種々の目的で利用することができる。例えば、本発明によって発散が抑制された荷電粒子ビーム1を、核融合発電を行う核融合システム(あるいは核融合炉)に適用することができる。この場合、本発明に係る荷電粒子ビーム輸送装置3は、当該核融合システムの一部を構成する装置となる。また、本発明によって発散が抑制された荷電粒子ビーム1を、粒子線治療を行う粒子線治療システムに適用することができる。この場合、本発明に係る荷電粒子ビーム輸送装置3は、当該粒子線治療システムの一部を構成する装置となる。そのような粒子線治療システムにおいては、例えば、本発明に係る荷電粒子ビーム輸送装置3からの荷電粒子ビーム1がシンクロトロンなどに入力されて、さらに加速された荷電粒子ビーム1が治療対象物(例えば癌細胞)に照射される。
1 荷電粒子ビーム、2 荷電粒子ビーム発生装置、3 荷電粒子ビーム輸送装置、3a 密閉チャンバ、4 プラズマ、5 引き出し電極、6 収束コイル、7 後段加速器、8 発散ビーム、9 吸収体、10 ガスボンベ、11 流量調整器、12 ガス導入口、13 測定器、14,21 制御装置、15a,15b 電流モニタ、16 真空計、17 ビーム照射装置、17a ビーム照射口、18 電子銃、19 電子ビーム、20 電極。

Claims (7)

  1. 線形加速器における荷電粒子ビーム輸送装置であって、
    密閉チャンバ内における荷電粒子ビームの経路の側方であって、前記荷電粒子ビームの互いに異なる径方向に設けられた、前記荷電粒子ビームの発散量を測定する複数の測定器と、
    前記荷電粒子ビームの経路の側方であって、前記複数の測定器に対応して前記荷電粒子ビームの互いに異なる径方向に設けられ、空間電荷を中和する空間電荷中和剤を前記荷電粒子ビームに対して放出する複数の中和剤放出口と、
    前記複数の中和剤放出口からそれぞれ前記荷電粒子ビームに向かって放出される前記空間電荷中和剤の量を調整するための中和剤流量調整器と、
    前記複数の測定器の測定結果に基づいて、前記中和剤流量調整器を制御し、前記複数の中和剤放出口から互いに異なる量の前記空間電荷中和剤を前記荷電粒子ビームに向かって放射させる制御装置と、
    を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
  2. 請求項1に記載の荷電粒子ビーム輸送装置であって、
    前記制御装置は、前記測定器で測定した前記荷電粒子ビームの発散量と、前記荷電粒子ビームに向かって放出される前記空間電荷中和剤の量との関係を示す変換テーブルを参照して、各前記中和剤放出口から放出される前記空間電荷中和剤の量を決定する、
    ことを特徴とした荷電粒子ビーム輸送装置。
  3. 請求項1又は2に記載の荷電粒子ビーム輸送装置であって、
    前記荷電粒子ビームの総電流量を測定する第1電流検出器と、
    前記第1電流検出器よりも前記荷電粒子ビームの経路の下流側において前記荷電粒子ビームの総電流量を測定する第2電流検出器と、
    をさらに備え、
    前記制御装置は、前記第1電流検出器が測定した総電流量と、前記第2電流検出器が測定した総電流量との差分に応じて、前記複数の中和剤放出口から放出される前記空間電荷中和剤の総放出量を決定する、
    ことを特徴とした荷電粒子ビーム輸送装置。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム輸送装置であって、
    前記密閉チャンバ内の真空度を測定する真空計と、
    をさらに備え、
    前記制御装置は、前記真空計が測定した前記真空度に応じて、前記複数の中和剤放出口から放出される前記空間電荷中和剤の総放出量を決定する、
    ことを特徴とした荷電粒子ビーム輸送装置。
  5. 請求項1に記載の荷電粒子ビーム輸送装置において、
    前記中和剤放出口は、前記空間電荷中和剤としてのガスを前記荷電粒子ビームに対して導入するガス導入口である、
    ことを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
  6. 請求項1に記載の荷電粒子ビーム輸送装置において、
    前記中和剤放出口は、前記空間電荷中和剤としての電子ビーム又はイオンビームを前記荷電粒子ビームに照射するビーム照射口である、
    ことを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
  7. 請求項1に記載の荷電粒子ビーム輸送装置において、
    前記中和剤放出口は、前記空間電荷中和剤としてのプラズマを前記荷電粒子ビームに照射するプラズマ照射口である、
    ことを特徴とする荷電粒子ビーム輸送装置。
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