JP2022130321A - ホスト分子の包接能の変更方法、包接体の製造方法、包接体、単結晶、複合体、及び標的分子捕捉用キット - Google Patents
ホスト分子の包接能の変更方法、包接体の製造方法、包接体、単結晶、複合体、及び標的分子捕捉用キット Download PDFInfo
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Abstract
【課題】ホスト分子の包接能の変更方法、包接体の合成方法、包接体、単結晶、複合体、及び標的分子捕捉用キット、を提供する。【解決手段】内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷のホスト分子の包接能の変更方法であって、特定の蓋状分子と、前記ホスト分子と、前記ホスト分子の内部空間内に包接させる予定の分子とを、同一系内に共存させるステップを有することを特徴とする、ホスト分子の包接能の変更方法と、この方法に関連する、包接体の合成方法、包接体、単結晶、複合体、及び標的分子捕捉用キット。【選択図】 図1
Description
特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年9月7日、錯体化学会第71回討論会 講演要旨集にて公開 (2)令和3年9月17日、錯体化学会第71回討論会にて公開
本発明は、ホスト分子の包接能の変更方法、包接体の製造方法、包接体、単結晶、複合体、及び標的分子捕捉用キットに関する。
内部に空間を有し、その空間内に分子やイオンを包接する性質を有する分子(以下、この分子を「ホスト分子」といい、ホスト分子の内部の空間内に包接された分子やイオンを「ゲスト分子」ということがある。)が知られている。特に、ホスト分子の中には、その内部空間内にゲスト分子を選択的に包接するものがあり、これまでに種々の利用方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、多核金属錯体の内部空間にゲスト分子が包接されて成る包接体の単結晶を得た後、得られた単結晶を試料として用いて結晶構造解析を行い、ゲスト分子の分子構造を決定する方法が記載されている。
また、特許文献2には、ゲスト分子を選択的に取り込むこと等が可能な高分子錯体を用いて、アルコールを選択的に分離する技術が記載されている。
上記のように、ホスト分子が選択的な包接能を有するため、結晶構造解析用試料を作製したり、分離精製処理を行ったりすることができるという利点がある一方で、標的分子をホスト分子の内部空間内に取り込ませることができず、目的の包接体を形成することができないという問題が生じることがあった。このような場合、その標的分子を包接することができる別のホスト分子を用意する必要があり、余計な時間や費用を要していた。
本発明はこの問題を解決するものであり、簡便な方法によりホスト分子の包接能を変化させることで、従来包接させることが困難であった標的分子を、ホスト分子の内部空間内に取り込ませる方法を提供すること等を目的とする。
すなわち、本発明は、ホスト分子の包接能の変更方法、包接体の製造方法、包接体、単結晶、複合体、及び標的分子捕捉用キット、を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、ホスト分子の包接能の変更方法、包接体の製造方法、包接体、単結晶、複合体、及び標的分子捕捉用キット、を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、内部空間と、開口部とを有するホスト分子について鋭意検討した。その結果、ホスト分子と標的分子が同種の電荷を有するとき、その標的分子はホスト分子の内部空間内に包接され難いことが分かった。
さらに、ホスト分子が有する電荷と異種の電荷を有する特定の分子をホスト分子と共存させることで、ホスト分子の包接能を変化させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
さらに、ホスト分子が有する電荷と異種の電荷を有する特定の分子をホスト分子と共存させることで、ホスト分子の包接能を変化させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして本発明によれば、下記〔1〕~〔5〕のホスト分子の包接能の変更方法、〔6〕の包接体の製造方法、〔7〕の包接体、〔8〕の単結晶、〔9〕の複合体、及び〔10〕標的分子捕捉用キット、が提供される。
〔1〕ホスト分子の包接能の変更方法であって、前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、下記の要件1、2及び3を満たす蓋状分子と、前記ホスト分子と、前記ホスト分子の内部空間内に包接させる予定の分子(標的分子)とを、同一系内に共存させるステップを有することを特徴とする、ホスト分子の包接能の変更方法。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
〔2〕前記蓋状分子と前記ホスト分子の開口部との間の親和的相互作用が、クーロン相互作用である、〔1〕に記載の、ホスト分子の包接能の変更方法。
〔3〕前記蓋状分子と前記標的分子との間の親和的相互作用が、クーロン相互作用、水素結合、疎水性相互作用、π-π相互作用、又はCH-π相互作用である、〔1〕又は〔2〕に記載の、ホスト分子の包接能の変更方法。
〔4〕前記ホスト分子が、前記開口部に金属イオンを有する多核金属錯体であって、前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の金属イオンとクーロン相互作用が可能なアニオン性基を有する分子である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の、ホスト分子の包接能の変更方法。
〔5〕前記多核金属錯体が、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Cd、Os、Ir、及びPtからなる群から選ばれる元素のイオンと、下記式(1)
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
〔2〕前記蓋状分子と前記ホスト分子の開口部との間の親和的相互作用が、クーロン相互作用である、〔1〕に記載の、ホスト分子の包接能の変更方法。
〔3〕前記蓋状分子と前記標的分子との間の親和的相互作用が、クーロン相互作用、水素結合、疎水性相互作用、π-π相互作用、又はCH-π相互作用である、〔1〕又は〔2〕に記載の、ホスト分子の包接能の変更方法。
〔4〕前記ホスト分子が、前記開口部に金属イオンを有する多核金属錯体であって、前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の金属イオンとクーロン相互作用が可能なアニオン性基を有する分子である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の、ホスト分子の包接能の変更方法。
〔5〕前記多核金属錯体が、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Cd、Os、Ir、及びPtからなる群から選ばれる元素のイオンと、下記式(1)
(Aは芳香族性を有するm価の基である。Xは2価の有機基、又はAとYの間を直接結ぶ単結合である。Yは配位原子、又は配位原子を含む1価の基である。mは2~6の整数を表す。複数のX同士は互いに異なっていてもよく、複数のY同士は互いに異なっていてもよい。)
で表される配位子を含むものである、〔4〕に記載の、ホスト分子の包接能の変更方法。
〔6〕標的分子がホスト分子の内部空間内に包接されて成る包接体の製造方法であって、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法を利用してホスト分子の包接能を変更し、標的分子をホスト分子の内部空間内に取り込ませるステップを有することを特徴とする、包接体の製造方法。
〔7〕ホスト分子と、蓋状分子と、ゲスト分子とを有し、ゲスト分子がホスト分子の内部空間内に包接されて成る包接体であって、前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、前記蓋状分子が、下記の要件1、2及び3を満たす分子であり、前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の少なくとも1つを覆っていることを特徴とする包接体。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記ゲスト分子と親和的相互作用が可能な分子である。
〔8〕前記〔7〕に記載の包接体が結晶化して成る単結晶。
〔9〕ホスト分子と、蓋状分子が会合して成る、標的分子包接用の複合体であって、
前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、前記蓋状分子が、下記の要件1、2及び3を満たす分子であり、前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の少なくとも1つを覆っていることを特徴とする標的分子包接用の複合体。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
〔10〕標的分子捕捉用キットであって、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷のホスト分子と、下記の要件1、2及び3を満たす蓋状分子と、を構成成分として含む、標的分子捕捉用キット。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
で表される配位子を含むものである、〔4〕に記載の、ホスト分子の包接能の変更方法。
〔6〕標的分子がホスト分子の内部空間内に包接されて成る包接体の製造方法であって、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法を利用してホスト分子の包接能を変更し、標的分子をホスト分子の内部空間内に取り込ませるステップを有することを特徴とする、包接体の製造方法。
〔7〕ホスト分子と、蓋状分子と、ゲスト分子とを有し、ゲスト分子がホスト分子の内部空間内に包接されて成る包接体であって、前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、前記蓋状分子が、下記の要件1、2及び3を満たす分子であり、前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の少なくとも1つを覆っていることを特徴とする包接体。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記ゲスト分子と親和的相互作用が可能な分子である。
〔8〕前記〔7〕に記載の包接体が結晶化して成る単結晶。
〔9〕ホスト分子と、蓋状分子が会合して成る、標的分子包接用の複合体であって、
前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、前記蓋状分子が、下記の要件1、2及び3を満たす分子であり、前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の少なくとも1つを覆っていることを特徴とする標的分子包接用の複合体。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
〔10〕標的分子捕捉用キットであって、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷のホスト分子と、下記の要件1、2及び3を満たす蓋状分子と、を構成成分として含む、標的分子捕捉用キット。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
本発明によれば、ホスト分子の包接能の変更方法、包接体の製造方法、包接体、単結晶、複合体、及び標的分子捕捉用キット、が提供される。
以下、本発明を、1)ホスト分子の包接能の変更方法、2)包接体の製造方法、3)包接体及び単結晶、4)複合体、並びに、5)標的分子捕捉用キット、に項分けして詳細に説明する。なお、図1~図9のカラー図面を、別途、物件提出書により提出する。
1)ホスト分子の包接能の変更方法
本発明の「ホスト分子の包接能の変更方法」(以下、「本発明の方法」と省略することがある。)は、ホスト分子の包接能を変化させる方法であって、前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、下記の要件1、2及び3を満たす蓋状分子と、標的分子とを、同一系内に共存させるステップを有することを特徴とするものである。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
本発明の「ホスト分子の包接能の変更方法」(以下、「本発明の方法」と省略することがある。)は、ホスト分子の包接能を変化させる方法であって、前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、下記の要件1、2及び3を満たす蓋状分子と、標的分子とを、同一系内に共存させるステップを有することを特徴とするものである。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
本明細書において、「分子」には、2つ以上の原子から構成される電荷的に中性な物質のみならず、2つ以上の原子から構成される電荷をもつ物質(イオン)も含むものとする。
「ホスト分子」とは、内部空間と、開口部とを有し、内部空間内にゲスト分子を包接する能力を有する分子を意味する。
「内部空間」とは、ホスト分子内の空間を意味する。ゲスト分子を包接できるものであれば、その形状に制限はなく、例えば、「細孔」のように、細長いものであってもよい。
「開口部」とは、内部空間の出入り口として機能する部分を意味する。
「ゲスト分子」とは、ホスト分子の内部空間内に包接された分子を意味する。なお、ゲスト分子(標的分子)には、金属イオンや、金属錯体を含むものとする。
「ホスト分子」とは、内部空間と、開口部とを有し、内部空間内にゲスト分子を包接する能力を有する分子を意味する。
「内部空間」とは、ホスト分子内の空間を意味する。ゲスト分子を包接できるものであれば、その形状に制限はなく、例えば、「細孔」のように、細長いものであってもよい。
「開口部」とは、内部空間の出入り口として機能する部分を意味する。
「ゲスト分子」とは、ホスト分子の内部空間内に包接された分子を意味する。なお、ゲスト分子(標的分子)には、金属イオンや、金属錯体を含むものとする。
「蓋状分子」とは、ホスト分子の開口部を塞ぐことが可能な大きさと、ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な部分構造とを有する分子を意味する。
「標的分子」とは、ホスト分子の内部空間内に包接させる分子を意味する。本明細書においては、この標的分子がホスト分子の内部空間内に包接された後は、「標的分子」と記載したり、「ゲスト分子」と記載したりすることがある。
「蓋状分子と、ホスト分子と、標的分子とを、同一系内に共存させる」とは、これらの3成分が互いに接触し得る状態に置くことを意味する。必ずしも、全体が単相系である必要はなく、例えば、水系溶媒と油系溶媒の二相系であっても、これらの界面でこれら3成分が接触できるのであれば、「同一系内に共存させる」に該当する。
「標的分子」とは、ホスト分子の内部空間内に包接させる分子を意味する。本明細書においては、この標的分子がホスト分子の内部空間内に包接された後は、「標的分子」と記載したり、「ゲスト分子」と記載したりすることがある。
「蓋状分子と、ホスト分子と、標的分子とを、同一系内に共存させる」とは、これらの3成分が互いに接触し得る状態に置くことを意味する。必ずしも、全体が単相系である必要はなく、例えば、水系溶媒と油系溶媒の二相系であっても、これらの界面でこれら3成分が接触できるのであれば、「同一系内に共存させる」に該当する。
〔ホスト分子〕
本発明の方法に用いるホスト分子は、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有する分子である。
内部空間は、ゲスト分子を包接する空間として用いられる。ゲスト分子の包接が可能である限り、内部空間の大きさは特に限定されない。
内部空間は、その中が分子鎖等により仕切られ、独立した複数の小空間を有するものであってもよい。
本発明の方法に用いるホスト分子は、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有する分子である。
内部空間は、ゲスト分子を包接する空間として用いられる。ゲスト分子の包接が可能である限り、内部空間の大きさは特に限定されない。
内部空間は、その中が分子鎖等により仕切られ、独立した複数の小空間を有するものであってもよい。
開口部は、標的分子が内部空間に出入りする際の出入り口として用いられる。ゲスト分子の通過が可能である限り、開口部の形状や大きさは特に限定されない。
開口部に内接する最大の円を想定したとき、その直径の長さは、例えば、0.1~5nm、好ましくは0.3~3nmである。
開口部の数は、通常、1~10、好ましくは1~5である。
開口部に内接する最大の円を想定したとき、その直径の長さは、例えば、0.1~5nm、好ましくは0.3~3nmである。
開口部の数は、通常、1~10、好ましくは1~5である。
本発明の方法に用いるホスト分子は、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子である。
後述するように、本発明の方法は、ホスト分子が有する電荷と異種の電荷を有する蓋状分子をホスト分子と相互作用させることにより、ホスト分子の電気的性質を変化させるものである。本発明の方法によれば、ホスト分子が有する電荷の種類(正電荷、負電荷、無電荷)に関わらず、その包接能を変更することができる。
後述するように、本発明の方法は、ホスト分子が有する電荷と異種の電荷を有する蓋状分子をホスト分子と相互作用させることにより、ホスト分子の電気的性質を変化させるものである。本発明の方法によれば、ホスト分子が有する電荷の種類(正電荷、負電荷、無電荷)に関わらず、その包接能を変更することができる。
ホスト分子の大きさは特に限定されない。ホスト分子を収容できる最小の直方体を想定したとき、直方体の最も長い辺の長さは、例えば、0.3~15nm、好ましくは1~10nmであり、最も短い辺の長さは、例えば、0.3~15nm、好ましくは0.5~10nmである。
ホスト分子としては、分子設計が比較的容易であり、また、対称性が比較的高いホスト分子が得られ易いことから、多核金属錯体が好ましい。また、近年、多核金属錯体を、ホスト分子として用いる試みが盛んに行われており、これまでに得られた知見を十分に利用することができるという観点からも、ホスト分子として多核金属錯体を用いることが好ましい。
多核金属錯体は、2以上の金属イオンと配位子とを含む金属錯体である。
例えば、配位性部位を2つ以上有する配位子及び中心金属としての金属イオンとを含む高分子金属錯体であって、前記配位子が前記金属イオンに配位して形成された三次元ネットワーク構造を有し、かつ、該三次元ネットワーク構造内に三次元的に規則正しく整列した細孔及び中空を有する高分子金属錯体が挙げられる。
例えば、配位性部位を2つ以上有する配位子及び中心金属としての金属イオンとを含む高分子金属錯体であって、前記配位子が前記金属イオンに配位して形成された三次元ネットワーク構造を有し、かつ、該三次元ネットワーク構造内に三次元的に規則正しく整列した細孔及び中空を有する高分子金属錯体が挙げられる。
金属イオンは、多核金属錯体を構成し得るものであれば特に制限されない。金属イオンとしては、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Cd、Os、Ir、及びPtからなる群から選ばれる元素のイオンが好ましく、周期表第8族、第9族,又は第10族元素のイオンがより好ましい。
金属イオンの価数は特に限定されず、通常1~4、好ましくは1~3、より好ましくは2である。
金属イオンの価数は特に限定されず、通常1~4、好ましくは1~3、より好ましくは2である。
配位子としては、ホスト分子の壁面や柱の役割を担う配位子(以下、「配位子(α)」と記載することがある。)や、その他の役割(多核金属錯体の電荷を調節したり、金属イオンの空の配位座を占め、多核金属錯体が高分子化するのを抑制したりする役割)を担うための配位子(以下、「配位子(β)」と記載することがある。)が挙げられる。
配位子(α)としては、芳香族性を有する基を中心骨格として含む多座配位子が好ましい。芳香族性を有する基を中心骨格として含む多座配位子は、比較的剛直で平面性に優れているため、ホスト分子の構造が維持され易い。
配位子(α)としては、例えば、以下の式(1)で表されるものが挙げられる。
配位子(α)としては、例えば、以下の式(1)で表されるものが挙げられる。
式(1)中、Aは芳香族性を有するm価の基である。Xは2価の有機基、又はAとYの間を直接結ぶ単結合である。Yは配位原子、又は配位原子を含む1価の基である。mは2~6の整数を表す。複数のX同士は互いに異なっていてもよく、複数のY同士は互いに異なっていてもよい。
Aで表される基の原子数(ただし水素原子を除く)は、通常6~100、好ましくは6~60、より好ましくは6~30である。
Aで表される基としては、6員環の芳香族基、複数の6員環の芳香族基が単結合で連結してなる基、ポルフィリン骨格を有する基等が挙げられる。
Aで表される基としては、6員環の芳香族基、複数の6員環の芳香族基が単結合で連結してなる基、ポルフィリン骨格を有する基等が挙げられる。
6員環の芳香族基としては、例えば、ベンゼン環、トリアジン環、ピリジン環、ピラジン環等の芳香環を有する基が挙げられる。
6員環の芳香族基は、-(-X-Y)以外の置換基を有していてもよい。
置換基としては、炭素数1~10のアルキル基;フッ素原子、臭素原子、塩素原子等のハロゲン原子;等が挙げられる。
6員環の芳香族基は、-(-X-Y)以外の置換基を有していてもよい。
置換基としては、炭素数1~10のアルキル基;フッ素原子、臭素原子、塩素原子等のハロゲン原子;等が挙げられる。
Aで表される基としては、以下のものが挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、「*」は結合手(Xとの結合位置)を表す。
上記式中、Mは金属イオンを表す。金属イオンとしては、多核金属錯体を構成する金属イオンとして例示したものと同様のものが挙げられる。これらの中でも、亜鉛イオンが好ましい。
Xで表される基の原子数(ただし水素原子を除く)は、通常2~30、好ましくは2~20、より好ましくは2~10である。
Xで表される基としては、例えば、前記Aで表される2価の基、メチレン基、エチレン基、1,2-エテンジイル、1,2-エチンジイル(アセチレン基)、p-フェニレン基、m-フェニレン基等の炭化水素基、アミド基(-C(=O)-NH-)、エステル基(-C(=O)-O-)、オキシメチレン基(-O-CH2-)、オキシエチレン基(-O-CH2CH2-)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、Xで表される基としては、これらの基が2以上結合してなる基であってもよい。そのような基としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
Xで表される基としては、例えば、前記Aで表される2価の基、メチレン基、エチレン基、1,2-エテンジイル、1,2-エチンジイル(アセチレン基)、p-フェニレン基、m-フェニレン基等の炭化水素基、アミド基(-C(=O)-NH-)、エステル基(-C(=O)-O-)、オキシメチレン基(-O-CH2-)、オキシエチレン基(-O-CH2CH2-)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、Xで表される基としては、これらの基が2以上結合してなる基であってもよい。そのような基としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
Yで表される配位原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子等が挙げられる。
Yで表される1価の基の原子数(ただし水素原子を除く)は、通常1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10である。
Yで表される1価の基としては、ピリジル基、アミノ基、水酸基、脱プロトン化アミド基、カルボキシレート基、スルホネート基、ホスホネート基、ジチオカルボキシレート基、シアノ基、これらの基を置換基として含む基等が挙げられる。
Yで表される1価の基としては、以下のものが挙げられる。
Yで表される1価の基の原子数(ただし水素原子を除く)は、通常1~20、好ましくは1~15、より好ましくは1~10である。
Yで表される1価の基としては、ピリジル基、アミノ基、水酸基、脱プロトン化アミド基、カルボキシレート基、スルホネート基、ホスホネート基、ジチオカルボキシレート基、シアノ基、これらの基を置換基として含む基等が挙げられる。
Yで表される1価の基としては、以下のものが挙げられる。
配位子(α)としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
配位子(α)としては、式(1)で表されるもの以外の配位子も用いることができる。そのような配位子としては、例えば、以下のものが挙げられる。
配位子(β)は、比較的低分子量の配位子が好ましい。低分子量の配位子は、配位子(α)の配位に対して、立体障害等の悪影響を与え難い。
配位子(β)としては、単座配位子、又はキレート配位子が挙げられる。
配位子(β)としては、単座配位子、又はキレート配位子が挙げられる。
配位子(β)として用いられる単座配位子としては、酸化物イオン(O2-)等の2価の陰イオン;水酸化物イオン(OH-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、チオシアン酸イオン(SCN-)等の1価の陰イオン;水、アンモニア、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン等の電気的に中性の配位性化合物;等が挙げられる。
配位子(β)として用いられるキレート配位子としては、エチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N、N、N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、2,2’-ビピリジル、1,2-シクロヘキサンジアミン等の2座のキレート配位子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
金属イオン、配位子(α)、配位子(β)を適宜選択し、従来公知の方法を利用することにより、ホスト分子として使用可能な多核金属錯体を合成することができる。
また、本発明の方法においては、包接能を有する公知の多核金属錯体をホスト分子として利用することができる。
そのような多核金属錯体の一例を、その多核金属錯体を構成する配位子(α)とともに以下に示す。なお多核金属錯体を構成する金属イオンと配位子(α)の量比を表す際に、金属イオンを「M」、配位子(α)を「L」と表し、必要に応じて第2の配位子(α)を「X]と表す。
また、本発明の方法においては、包接能を有する公知の多核金属錯体をホスト分子として利用することができる。
そのような多核金属錯体の一例を、その多核金属錯体を構成する配位子(α)とともに以下に示す。なお多核金属錯体を構成する金属イオンと配位子(α)の量比を表す際に、金属イオンを「M」、配位子(α)を「L」と表し、必要に応じて第2の配位子(α)を「X]と表す。
上記式中、Pdは、2座のキレート配位子(例えば、2,2’-ビピリジル)が配位したパラジウムイオンを表す。この多核金属錯体の主な成分比は[M6L4]であり、この多核金属錯体は開口部を4つ有する。Mは、2座のキレート配位子が配位したPdイオンやPtイオン等の金属イオンを表す。
上記式中、Pdは、2座のキレート配位子(例えば、エチレンジアミン)が配位したパラジウムイオンを表す。この多核金属錯体の主な成分比は[M6L3]であり、この多核金属錯体は開口部を2つ有する。式(L)中、MはZnイオン等の金属イオンを表す。
上記式中、Pdは、2座のキレート配位子(例えば、エチレンジアミン)が配位したパラジウムイオンを表す。この多核金属錯体の主な成分比は[M6L2X3]であり、この多核金属錯体は開口部を3つ有する。
上記式中、Pdは、2座のキレート配位子(例えば、エチレンジアミン)が配位したパラジウムイオンを表す。この多核金属錯体の主な成分比は[M6L1]であり、この多核金属錯体は開口部を1つ有する。
上記式中、Pdは、2座のキレート配位子(例えば、エチレンジアミン)が配位したパラジウムイオンを表す。この多核金属錯体の主な成分比は[M12L2]であり、この多核金属錯体は開口部を2つ有する。
上記式中、Pdは、2座のキレート配位子(例えば、エチレンジアミン)が配位したパラジウムイオンを表す。この多核金属錯体の主な成分比は[M12L4]であり、この多核金属錯体は開口部を2つ有する。
上記式中、Pdは、2座のキレート配位子(例えば、エチレンジアミン)が配位したパラジウムイオンを表す。左の多核金属錯体の主な成分比は[M10L4]であり、右の多核金属錯体の主な成分比は[M8L4]であり、これらの多核金属錯体はいずれも開口部を2つ有する。
上記式中、Pdは、2座のキレート配位子(例えば、エチレンジアミン)が配位したパラジウムイオンを表す。左の多核金属錯体の主な成分比は[M8L4]であり、右の多核金属錯体の主な成分比は[M6L4]であり、これらの多核金属錯体はいずれも開口部を2つ有する。
上記式中、Ptは、2座のキレート配位子(例えば、エチレンジアミン)が配位した白金イオンを表す。この多核金属錯体の主な成分比は[M4L4]であり、この多核金属錯体は開口部を2つ有する。
上記模式図中、球で表した部分は、2座のキレート配位子(例えば、エチレンジアミン)が配位したパラジウムイオンを表す。この多核金属錯体の主な成分比は[M6L2]であり、この多核金属錯体は、開口部を6つ有する。
上記模式図中、球で表した部分は、2座のキレート配位子(例えば、エチレンジアミン)が配位したパラジウムイオンを表す。この多核金属錯体の主な成分比は[M12L4]であり、この多核金属錯体は、開口部を8つ有する。
これらの多核金属錯体の合成方法等の詳細は、国際公開第2018/159692号に記載されている。
〔蓋状分子〕
本発明の方法に用いる蓋状分子は、下記の要件1、2及び3を満たすものである。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
本発明の方法に用いる蓋状分子は、下記の要件1、2及び3を満たすものである。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
本発明の方法に用いる蓋状分子は、上記要件1を満たすものである。
すなわち、蓋状分子とホスト分子は互いに異種の電荷を有するため、この蓋状分子がホスト分子に近づくことにより、ホスト分子の電気的性質が変化する。
すなわち、蓋状分子とホスト分子は互いに異種の電荷を有するため、この蓋状分子がホスト分子に近づくことにより、ホスト分子の電気的性質が変化する。
本発明の方法に用いる蓋状分子は、上記要件2を満たすものである。
蓋状分子が要件2を満たすことで、蓋状分子はホスト分子の開口部に留まることができる。このため、ホスト分子の電気的性質の変化が長時間維持される。
蓋状分子が要件2を満たすことで、蓋状分子はホスト分子の開口部に留まることができる。このため、ホスト分子の電気的性質の変化が長時間維持される。
蓋状分子と、ホスト分子の開口部との間の親和的相互作用としては、クーロン相互作用が挙げられる。
クーロン相互作用が生じる場合としては、ホスト分子の開口部が部分的に負の電荷を有するときに、その負の電荷に対応する位置に正の電荷を有する蓋状分子を添加した場合や、ホスト分子の開口部が部分的に正の電荷を有するときに、その正の電荷に対応する位置に負の電荷を有する蓋状分子を添加した場合が挙げられる。
クーロン相互作用が生じる場合としては、ホスト分子の開口部が部分的に負の電荷を有するときに、その負の電荷に対応する位置に正の電荷を有する蓋状分子を添加した場合や、ホスト分子の開口部が部分的に正の電荷を有するときに、その正の電荷に対応する位置に負の電荷を有する蓋状分子を添加した場合が挙げられる。
本発明の方法に用いる蓋状分子は、上記要件3を満たすものである。
蓋状分子が要件3を満たすことで、ホスト分子の内部空間内に包接されたゲスト分子を安定化することができる。
蓋状分子が要件3を満たすことで、ホスト分子の内部空間内に包接されたゲスト分子を安定化することができる。
蓋状分子と標的分子との間の親和的相互作用としては、クーロン相互作用、水素結合、疎水性相互作用、π-π相互作用、CH-π相互作用等が挙げられる。
蓋状分子は、構造維持の観点から、比較的剛直な化合物が好ましい。
このような蓋状分子としては、芳香族性を有する基を中心骨格として含み、さらにホスト分子や標的分子と親和的相互作用をし得る基を含む分子が好ましい。
このような蓋状分子としては、芳香族性を有する基を中心骨格として含み、さらにホスト分子や標的分子と親和的相互作用をし得る基を含む分子が好ましい。
芳香族性を有する基としては、先に、配位子(α)を構成する「A」として例示したものと同様のものが挙げられる。
ホスト分子や標的分子と親和的相互作用をし得る基としては、カルボキシレート基、スルホネート基、ホスホネート基等のアニオン性基;アンモニウム基、ホスホニウム基、ピリジニウム基等のカチオン性基;芳香族基、アミド基、エステル基等の電気的に中性の基;が挙げられる。
これらは、ホスト分子や標的分子が有する電荷や、生じさせる親和的相互作用の種類に合わせて適宜選択することができる。
これらは、ホスト分子や標的分子が有する電荷や、生じさせる親和的相互作用の種類に合わせて適宜選択することができる。
多核金属錯体をホスト分子として用いる場合、ホスト分子の開口部に金属イオンが存在することがある。この金属イオンは正の電荷を有するため、蓋状分子との間の親和的相互作用を生じさせる際に利用することができる。
この場合、蓋状分子としては、ホスト分子の開口部の金属イオンに対応する位置にアニオン性基を有する分子が好ましく用いられる。
この場合、蓋状分子としては、ホスト分子の開口部の金属イオンに対応する位置にアニオン性基を有する分子が好ましく用いられる。
例えば、後述する合成例1で得られる、[{(2,2’-ビピリジル)パラジウム}6(2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン)4]は、ほぼ正三角形の形状の開口部を有し、その正三角形の各頂点にパラジウムイオンが存在している。正三角形の重心からパラジウムイオンまでの平均距離は、0.8nmである。
したがって、例えば、アニオン性基に関する対称要素として3回回転軸を有する化合物であって、中心からアニオン性基までの距離が0.8nmに近い化合物は、[{(2,2’-ビピリジル)パラジウム}6(2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン)4]に対する蓋状分子として適している。このような化合物としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
したがって、例えば、アニオン性基に関する対称要素として3回回転軸を有する化合物であって、中心からアニオン性基までの距離が0.8nmに近い化合物は、[{(2,2’-ビピリジル)パラジウム}6(2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン)4]に対する蓋状分子として適している。このような化合物としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記式中、Zは、―SO3
-、-COO-、-O-、-COOH、-OHなどを表す。Rは、メチル基等のアルキル基を表す。3つのRは、互いに同一であっても相異なっていてもよい。
これらの中でも、入手が容易で、かつ、優れた本発明の効果を得ることができる観点から、下記の化合物が好ましい。
これらの中でも、入手が容易で、かつ、優れた本発明の効果を得ることができる観点から、下記の化合物が好ましい。
このように、結晶構造解析等によりホスト分子の開口部の構造が分かれば、その開口部に適する蓋状分子を比較的容易に見つけることができる。例えば、上記化19において、ベンゼン環とZで示される基とを連結する基はメチレン基(-CH2-)であるが、これを他の基に置き換えることにより、その長さ(例えば炭素鎖の長さ)を変化させることで、蓋状化合物の大きさを変化させることができる。従って、ホスト分子の開口部の構造に応じて、その開口部に適する蓋状分子を適宜選択することができる。
例えば、実施例4で得られる包接体においては、蓋状分子(1,3,5-ベンゼントリメタンスルホネート)のスルホネート基と、ホスト分子([{(2,2’-ビピリジル)パラジウム}6(2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン)4])の開口部のパラジウムイオンとの間に親和的相互作用(クーロン相互作用)があり、さらに、蓋状分子のスルホネート基と、ゲスト分子(1-アダマンチルアンモニウム)のアンモニウム基の間にも親和的相互作用(クーロン相互作用)があり、1,3,5-ベンゼントリメタンスルホネートは、要件2、及び要件3を満たしている。
蓋状分子の使用量は、本発明の効果が得られ易い観点から、ホスト分子1モルに対し、通常、0.5モル~10モル、好ましくは、1モル~6モルである。
なお、蓋状分子が塩である場合、本明細書において、塩の状態、カチオン又はアニオンの状態の両者について、「蓋状分子」と記載することがある。すなわち、実施例に記載するように、「蓋状分子」は、1,3,5-ベンゼントリメタンスルホン酸ナトリウム塩を意味する場合があり、また、1,3,5-ベンゼントリメタンスルホン酸イオンを意味する場合がある。
なお、蓋状分子が塩である場合、本明細書において、塩の状態、カチオン又はアニオンの状態の両者について、「蓋状分子」と記載することがある。すなわち、実施例に記載するように、「蓋状分子」は、1,3,5-ベンゼントリメタンスルホン酸ナトリウム塩を意味する場合があり、また、1,3,5-ベンゼントリメタンスルホン酸イオンを意味する場合がある。
〔標的分子〕
本発明の方法に用いる標的分子は、前記ホスト分子の内部空間内に包接させる分子である。標的分子は、ホスト分子の内部空間内に包接するものである限り、その性状は特に限定されず、常温(20℃)で固体状態のもの、常温で液状のもの、常温で気体状態のもの)のいずれであってもよい。
本発明の方法に用いる標的分子は、前記ホスト分子の内部空間内に包接させる分子である。標的分子は、ホスト分子の内部空間内に包接するものである限り、その性状は特に限定されず、常温(20℃)で固体状態のもの、常温で液状のもの、常温で気体状態のもの)のいずれであってもよい。
標的分子は、蓋状分子と親和的相互作用が可能な分子である。したがって、標的分子は、蓋状分子と親和的相互作用をし得る基、又は部位を含むものが好ましい。
蓋状分子と親和的相互作用をし得る基、又は部位としては、カルボキシレート基、スルホネート基、ホスホネート基等のアニオン性基;アンモニウム基、ホスホニウム基、ピリジニウム基、イミニウム基、ピリリウム基等のカチオン性基;金属イオン;芳香族基、アミド基、エステル基等の電気的に中性の基;水分子中の酸素原子又は水素原子;が挙げられる。
これらは、生じさせる親和的相互作用の種類に合わせて適宜選択することができる。
蓋状分子の使用量は、本発明の効果が得られ易い観点から、ホスト分子1モルに対し、通常、0.5モル~10モル、好ましくは、1モル~6モルである。
これらは、生じさせる親和的相互作用の種類に合わせて適宜選択することができる。
蓋状分子の使用量は、本発明の効果が得られ易い観点から、ホスト分子1モルに対し、通常、0.5モル~10モル、好ましくは、1モル~6モルである。
〔ホスト分子の包接能の変更方法〕
本発明の方法は、前記蓋状分子と、前記ホスト分子と、前記標的分子とを、同一系内に共存させるステップを有する。
本発明において、「ホスト分子の包接能の変更」とは、標的分子の、ホスト分子の内部空間内に包接されやすさが変化することを意味する。本発明においては、通常、蓋状分子が存在することによって、標的分子が、ホスト分子が有する内部空間により包接され易くなる。
本発明の方法は、前記蓋状分子と、前記ホスト分子と、前記標的分子とを、同一系内に共存させるステップを有する。
本発明において、「ホスト分子の包接能の変更」とは、標的分子の、ホスト分子の内部空間内に包接されやすさが変化することを意味する。本発明においては、通常、蓋状分子が存在することによって、標的分子が、ホスト分子が有する内部空間により包接され易くなる。
本発明の方法は、通常、溶媒の存在下で行われる。反応系は、全ての成分が完全に溶解した状態(溶液)であってもよいし、一部の成分が溶け残った状態(懸濁液)であってもよい。
溶媒は、ホスト分子、蓋状分子、標的分子等の溶解性、及び、これらの分子の溶媒中での安定性に応じて適宜選択することができる。
例えば、ホスト分子が水溶性の多核金属錯体である場合、溶媒としては、水、水-アルコール混合液等の水系溶媒が好ましく用いられる。
例えば、ホスト分子が水溶性の多核金属錯体である場合、溶媒としては、水、水-アルコール混合液等の水系溶媒が好ましく用いられる。
なお、本発明の方法を溶媒存在下で行う場合、通常、蓋状分子は、遊離の状態と、ホスト分子の開口部を塞いでいる状態の平衡状態にある。
したがって、ホスト分子が有する開口部が1つであって、その開口部がすでに蓋状分子で塞がれていたとしても、その蓋状分子が開口部から離れた後に標的分子の包接が行われる。
したがって、ホスト分子が有する開口部が1つであって、その開口部がすでに蓋状分子で塞がれていたとしても、その蓋状分子が開口部から離れた後に標的分子の包接が行われる。
後述する「ホスト分子と蓋状分子が会合してなる複合体」においては、ホスト分子はすでに蓋状分子の影響を受け、その電気的性質は変化している。したがって、この複合体を固体として得た場合、得られた固体を、溶媒の非存在下で気相中の標的分子と接触させることにより、気相中の標的分子をホスト分子の内部空間内に包接することができる。
本発明の方法により、ホスト分子の包接能が変化する理由としては以下のものが考えられる。
(1)蓋状分子は、ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子であるとともに、標的分子とも親和的相互作用が可能な分子である。
したがって、ホスト分子の内部空間内に包接された標的分子は、蓋状分子が存在しない状態に比べて安定化されるため、包接体の形成が促進される。
(2)ホスト分子が2以上の開口部を有し、かつ、全体として正の電荷を有するホスト分子と全体として負の電荷を有する蓋状分子の組み合わせ、又は、その逆の組み合わせである場合、ホスト分子の開口部の一部が蓋状分子によって覆われることで、ホスト分子の電荷が相殺され、標的分子がホスト分子の別の開口部を通過し易くなる。
(3)本発明の方法を溶媒の存在下で行い、かつ、全体として正の電荷を有する標的分子と全体として負の電荷を有する蓋状分子の組み合わせ、又は、その逆の組み合わせである場合、遊離の標的分子と遊離の蓋状分子の間にクーロン相互作用が生じることで、標的分子の電荷が相殺され、標的分子がホスト分子の開口部を通過し易くなる。
(1)蓋状分子は、ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子であるとともに、標的分子とも親和的相互作用が可能な分子である。
したがって、ホスト分子の内部空間内に包接された標的分子は、蓋状分子が存在しない状態に比べて安定化されるため、包接体の形成が促進される。
(2)ホスト分子が2以上の開口部を有し、かつ、全体として正の電荷を有するホスト分子と全体として負の電荷を有する蓋状分子の組み合わせ、又は、その逆の組み合わせである場合、ホスト分子の開口部の一部が蓋状分子によって覆われることで、ホスト分子の電荷が相殺され、標的分子がホスト分子の別の開口部を通過し易くなる。
(3)本発明の方法を溶媒の存在下で行い、かつ、全体として正の電荷を有する標的分子と全体として負の電荷を有する蓋状分子の組み合わせ、又は、その逆の組み合わせである場合、遊離の標的分子と遊離の蓋状分子の間にクーロン相互作用が生じることで、標的分子の電荷が相殺され、標的分子がホスト分子の開口部を通過し易くなる。
本発明の方法は、ホスト分子と標的分子が同種の電荷を有し、これらの間に排斥的相互作用が存在する場合に、この相互作用の影響を低減化し、ホスト分子の内部空間内に標的分子を包接させることを第1の目的とするものである。
したがって、本発明の方法においては、通常、ホスト分子と標的分子が同種の電荷を有する場合に好ましく用いられる。
したがって、本発明の方法においては、通常、ホスト分子と標的分子が同種の電荷を有する場合に好ましく用いられる。
また、ホスト分子と標的分子が互いに異種の電荷を有する場合や、ホスト分子と標的分子だけで包接体が得られることがすでに確認されている場合においても、本発明の方法は好適に用いられる。
すなわち、本発明の方法を用いることで、ホスト分子の内部空間内のゲスト分子の乱雑性が低下し、ゲスト分子の向きが揃うという効果や、ホスト分子の内部空間内においてゲスト分子の運動性を低下させるという効果を得ることもできる。
すなわち、本発明の方法を用いることで、ホスト分子の内部空間内のゲスト分子の乱雑性が低下し、ゲスト分子の向きが揃うという効果や、ホスト分子の内部空間内においてゲスト分子の運動性を低下させるという効果を得ることもできる。
このように、本発明の方法によれば、蓋状分子を利用することにより、ホスト分子の包接能を変化させることができ、従来包接が困難であった標的分子をホスト分子の内部空間内に包接することができる。したがって、ホスト分子の適用範囲が大きく広がることになる。
また、上記のように、本発明の方法を行うことで、ゲスト分子を規則的に包接することができ、良質の結晶構造解析用試料が得られ易くなる。
さらに、不安定なゲスト分子をホスト分子の内部空間内で安定化するとともに、ホスト分子の開口部を全て塞ぐことで外部の影響を遮断し、不安定なゲスト分子の長期保存が可能になる。
また、上記のように、本発明の方法を行うことで、ゲスト分子を規則的に包接することができ、良質の結晶構造解析用試料が得られ易くなる。
さらに、不安定なゲスト分子をホスト分子の内部空間内で安定化するとともに、ホスト分子の開口部を全て塞ぐことで外部の影響を遮断し、不安定なゲスト分子の長期保存が可能になる。
2)包接体の製造方法
本発明の「包接体の製造方法」は、標的分子がホスト分子の内部空間内に包接されて成る包接体の合成方法であって、前記発明(ホスト分子の包接能の変更方法)を利用して、ホスト分子の包接能を変更し、標的分子をホスト分子の内部空間内に取り込ませるステップを有することを特徴とする。
本発明の「包接体の製造方法」は、標的分子がホスト分子の内部空間内に包接されて成る包接体の合成方法であって、前記発明(ホスト分子の包接能の変更方法)を利用して、ホスト分子の包接能を変更し、標的分子をホスト分子の内部空間内に取り込ませるステップを有することを特徴とする。
一般に「包接体」とは、ホスト分子の内部空間内にゲスト分子が包接されて成るものをいい、「ホスト分子」と「ゲスト分子」の2成分で構成される。ただし、本発明の合成方法で得られる包接体においては、ホスト分子は、蓋状分子によってその包接能が変更されたものであるため、本発明の製造方法で得られる「包接体」は、ホスト分子、ゲスト分子、及び蓋状分子の3成分を必須の構成要素とするものである。
先に説明したように、前記蓋状分子と前記ホスト分子とが相互作用することにより、ホスト分子の電気的性質が変化する。このとき、系内に標的分子が存在すると、ホスト分子の開口部を容易に通過するとともに、ホスト分子の内部空間がその標的分子の包接に適した状態になっているため、標的分子はその内部空間に留まる。
このように、「ホスト分子の包接能の変更方法」の発明を利用することによって、ホスト分子は標的分子の包接に適した状態に変更されているため、特別な操作を行わなくても、反応系を静置することにより、目的の包接体を合成することができる。
このように、「ホスト分子の包接能の変更方法」の発明を利用することによって、ホスト分子は標的分子の包接に適した状態に変更されているため、特別な操作を行わなくても、反応系を静置することにより、目的の包接体を合成することができる。
静置時間は特に限定されないが、通常10秒から1日、好ましくは1分から2時間である。
静置時の反応系の温度は特に限定されないが、通常4~100℃、好ましくは15~60℃である。
静置時の反応系の温度は特に限定されないが、通常4~100℃、好ましくは15~60℃である。
3)包接体、及び単結晶
本発明の包接体は、ホスト分子と、蓋状分子と、ゲスト分子とを有し、ゲスト分子がホスト分子の内部空間内に包接されて成る包接体であって、前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、前記蓋状分子が、下記の要件1、2及び3を満たす分子であり、前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の少なくとも1つを覆っていることを特徴とするものである。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記ゲスト分子と親和的相互作用が可能な分子である。
本発明の包接体は、ホスト分子と、蓋状分子と、ゲスト分子とを有し、ゲスト分子がホスト分子の内部空間内に包接されて成る包接体であって、前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、前記蓋状分子が、下記の要件1、2及び3を満たす分子であり、前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の少なくとも1つを覆っていることを特徴とするものである。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記ゲスト分子と親和的相互作用が可能な分子である。
本発明の包接体を構成する「ホスト分子」、「蓋状分子」は、それぞれ、「ホスト分子の包接能の変更方法」の発明の中で説明したものと同じものである。
本発明の包接体を構成する「ゲスト分子」は、「ホスト分子の包接能の変更方法」の発明における「標的分子」が、ホスト分子の内部空間内に包接されたものである。
本発明の包接体を構成する「ゲスト分子」は、「ホスト分子の包接能の変更方法」の発明における「標的分子」が、ホスト分子の内部空間内に包接されたものである。
本発明の包接体を構成する蓋状分子は、ホスト分子が有する電荷と異種の電荷を有し(要件1)、さらに、ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である(要件2)。このため、本発明の包接体においては、蓋状分子がホスト分子の開口部を覆った状態が保たれ、ホスト分子の電気的性質は変化したまま維持されている。
また、蓋状分子とゲスト分子の間には親和的相互作用が生じている。
このように、蓋状分子がホスト分子の開口部を覆い続けることで、本発明の包接体の内部空間内は、元々のホスト分子の内部空間内に比べてゲスト分子の包接により適したものに変化しており、ゲスト分子が安定に包接される。
また、蓋状分子とゲスト分子の間には親和的相互作用が生じている。
このように、蓋状分子がホスト分子の開口部を覆い続けることで、本発明の包接体の内部空間内は、元々のホスト分子の内部空間内に比べてゲスト分子の包接により適したものに変化しており、ゲスト分子が安定に包接される。
一方で、蓋状分子にとっては、ホスト分子の内部空間内にゲスト分子が安定に存在することで、ホスト分子との会合状態が安定化されている。
すなわち、蓋状分子とゲスト分子の間に生じる親和的相互作用のために、蓋状分子はホスト分子の開口部から離れ難くなっている。
実際に、実施例2で得た複合体(ホスト分子と、蓋状分子が会合して成り、ゲスト分子を含まないもの)は、溶媒に溶かすと一部の蓋状分子が解離し、遊離の蓋状分子が生成するが、実施例4で得た包接体は、安定性が高く、溶媒存在下においても蓋状分子の解離は観られなかった。
すなわち、蓋状分子とゲスト分子の間に生じる親和的相互作用のために、蓋状分子はホスト分子の開口部から離れ難くなっている。
実際に、実施例2で得た複合体(ホスト分子と、蓋状分子が会合して成り、ゲスト分子を含まないもの)は、溶媒に溶かすと一部の蓋状分子が解離し、遊離の蓋状分子が生成するが、実施例4で得た包接体は、安定性が高く、溶媒存在下においても蓋状分子の解離は観られなかった。
このように、本発明の包接体は、ホスト分子、蓋状分子、及びゲスト分子の3成分が揃ったことで、高い安定性を獲得している。
本発明の包接体は、例えば、前記の「包接体の製造方法」の発明を利用して製造することができる。
本発明の包接体においては、蓋状分子とゲスト分子の親和的相互作用により、ゲスト分子が規則正しく収容される傾向がある。
したがって、本発明の包接体を単結晶化することで、結晶構造解析用試料としてより適した単結晶を得ることができる。
したがって、本発明の包接体を単結晶化することで、結晶構造解析用試料としてより適した単結晶を得ることができる。
4)複合体
本発明の複合体は、ホスト分子と、蓋状分子が会合してなる、標的分子包接用の複合体であって、前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、前記蓋状分子が、下記の要件1、2及び3を満たす分子であり、前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の少なくとも1つを覆っていることを特徴とするものである。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
本発明の複合体は、ホスト分子と、蓋状分子が会合してなる、標的分子包接用の複合体であって、前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、前記蓋状分子が、下記の要件1、2及び3を満たす分子であり、前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の少なくとも1つを覆っていることを特徴とするものである。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
本明細書において、本発明の「複合体」を、「ホスト分子-蓋状分子複合体」と記載する場合がある。
本発明の複合体を構成する「ホスト分子」、「蓋状分子」、「標的分子」は、それぞれ、「ホスト分子の包接能の変更方法」の発明の中で説明したものと同じものである。
本発明の複合体を構成する「ホスト分子」、「蓋状分子」、「標的分子」は、それぞれ、「ホスト分子の包接能の変更方法」の発明の中で説明したものと同じものである。
先に説明したように、本発明の複合体を構成する蓋状分子は、前記包接体(ホスト分子、蓋状分子、及びゲスト分子の3成分を含むもの)を構成する蓋状分子に比べて、解離し易い状態にあり、溶媒の存在下では、一部の蓋状分子が解離する。
したがって、本発明の複合体は、前記包接体を合成する際の原料化合物として好適に用いることができる。
したがって、本発明の複合体は、前記包接体を合成する際の原料化合物として好適に用いることができる。
また、先に説明したように、本発明の複合体を固体として得た場合、この固体は、気相中に存在する標的分子を包接する際に好適に用いることができる。
5)標的分子捕捉用キット
本発明の標的分子捕捉用キットは、標的分子を捕捉するためのキットであって、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷のホスト分子と、下記の要件1、2及び3を満たす蓋状分子と、を構成成分として含むものである。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
本発明の標的分子捕捉用キットは、標的分子を捕捉するためのキットであって、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷のホスト分子と、下記の要件1、2及び3を満たす蓋状分子と、を構成成分として含むものである。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
本発明の標的分子捕捉用キットを構成する「ホスト分子」と「蓋状分子」は、それぞれ、「ホスト分子の包接能の変更方法」の発明の中で説明したものと同じものである。
本発明の標的分子捕捉用キットにおける「標的分子」は、「ホスト分子の包接能の変更方法」の発明の中で説明したものと同じものである。
本発明の標的分子捕捉用キットにおける「標的分子」は、「ホスト分子の包接能の変更方法」の発明の中で説明したものと同じものである。
本発明の標的分子捕捉用キットにおいては、ホスト分子と蓋状分子は、それぞれ独立に存在していてもよいし、独立に存在していなくてもよい。
ホスト分子と蓋状分子が、それぞれ独立に存在している場合、ホスト分子や蓋状分子は、固体状態であってもよいし、それぞれ、溶媒中に溶解又は分散しているものであってもよい。
ホスト分子と蓋状分子が独立に存在していない場合、本発明の標的分子捕捉用キットは、固体のホスト分子と固体の蓋状分子の混合物を含むものであってもよいし、ホスト分子と蓋状分子を有する複合体を含むものであってもよいし、ホスト分子と蓋状分子が溶媒中に、溶解又は分散しているものであってもよい。
ホスト分子と蓋状分子が独立に存在していない場合、本発明の標的分子捕捉用キットは、固体のホスト分子と固体の蓋状分子の混合物を含むものであってもよいし、ホスト分子と蓋状分子を有する複合体を含むものであってもよいし、ホスト分子と蓋状分子が溶媒中に、溶解又は分散しているものであってもよい。
本発明の標的分子捕捉用キットは、前記「包接体の合成方法」の発明を実施する際に好適に用いられる。
また、本発明の標的分子捕捉用キットは、蓋状分子を反応系に添加せず、ホスト分子のみで標的分子の捕捉を試みてもよい。
このように、蓋状分子を系内に存在させたり、存在させなかったりすることで、ホスト分子が捕捉できる分子の対象が広がり、標的分子を効率よく捕捉することができる。
また、本発明の標的分子捕捉用キットは、蓋状分子を反応系に添加せず、ホスト分子のみで標的分子の捕捉を試みてもよい。
このように、蓋状分子を系内に存在させたり、存在させなかったりすることで、ホスト分子が捕捉できる分子の対象が広がり、標的分子を効率よく捕捉することができる。
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
〔合成例1〕
[{(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム}6(2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン)4](八面体型金属錯体の合成)
J.Am.Chem.Soc.2004,126,9172-9173に記載の方法に従って、下記に示す八面体型金属錯体(以下、「ホスト分子1」と記載することがある。)を合成した。
[{(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム}6(2,4,6-トリス(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン)4](八面体型金属錯体の合成)
J.Am.Chem.Soc.2004,126,9172-9173に記載の方法に従って、下記に示す八面体型金属錯体(以下、「ホスト分子1」と記載することがある。)を合成した。
〔合成例2〕
1,3,5-ベンゼントリメタンスルホン酸ナトリウム塩の合成
Inorg.Chem.2002,41,6986-6996に記載の方法に従って、1,3,5-ベンゼントリメタンスルホン酸ナトリウム塩(以下、「蓋状分子2」と記載することがある。)を合成した。
1,3,5-ベンゼントリメタンスルホン酸ナトリウム塩の合成
Inorg.Chem.2002,41,6986-6996に記載の方法に従って、1,3,5-ベンゼントリメタンスルホン酸ナトリウム塩(以下、「蓋状分子2」と記載することがある。)を合成した。
〔合成例3〕
1-アダマンチルアミン(0.102g,0.672mmol)を水に懸濁させ、次いで、1M HNO3を用いて中和した。沈殿を濾別し、得られた濾液を減圧下で濃縮し、さらに真空乾燥を行うことで、1-アダマンチルアンモニウム硝酸塩(以下、「カチオン性標的分子3」と記載することがある。)を白色粉末として得た(0.128g,0.5
99mmol,89%)。
1-アダマンチルアミン(0.102g,0.672mmol)を水に懸濁させ、次いで、1M HNO3を用いて中和した。沈殿を濾別し、得られた濾液を減圧下で濃縮し、さらに真空乾燥を行うことで、1-アダマンチルアンモニウム硝酸塩(以下、「カチオン性標的分子3」と記載することがある。)を白色粉末として得た(0.128g,0.5
99mmol,89%)。
〔合成例4〕
1,ω-アルカンジアミン(0.196~0.285mmol)を水に懸濁させ、次いで、1M HNO3を用いて中和した。沈殿を濾取し、真空乾燥を行うことで、1,ω-アルカンジアンモニウム二硝酸塩を白色粉末として得た。
以下、アルキレン鎖の炭素数が12のものを「カチオン性標的分子4a」と記載し、アルキレン鎖の炭素数が10のものを「カチオン性標的分子4b」と記載することがある。
1,ω-アルカンジアミン(0.196~0.285mmol)を水に懸濁させ、次いで、1M HNO3を用いて中和した。沈殿を濾取し、真空乾燥を行うことで、1,ω-アルカンジアンモニウム二硝酸塩を白色粉末として得た。
以下、アルキレン鎖の炭素数が12のものを「カチオン性標的分子4a」と記載し、アルキレン鎖の炭素数が10のものを「カチオン性標的分子4b」と記載することがある。
〔NMR測定〕
1H-NMRは、PABBOプローブを装着した測定装置(Bruker社製、AVANCE III HD 500)を用いて、500MHz、300Kの条件で測定した。
1H-NMRは、PABBOプローブを装着した測定装置(Bruker社製、AVANCE III HD 500)を用いて、500MHz、300Kの条件で測定した。
〔単結晶X線結晶構造解析〕
単結晶X線結晶構造解析は、Bruker社製、APEX-II/CCD diffractometer〔Mo-Kα線(波長0.71073Å)〕を用いて行った。
単結晶X線結晶構造解析は、Bruker社製、APEX-II/CCD diffractometer〔Mo-Kα線(波長0.71073Å)〕を用いて行った。
〔実施例1〕ホスト分子-蓋状分子複合体の合成、及び、1H-NMR測定
ホスト分子1のD2O溶液(1.67mM,0.75mL)に蓋状分子2を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
ホスト分子1:蓋状分子2(モル比)が1:1のとき、蓋状分子2のみで測定したときに比べて、蓋状分子2に由来するシグナルがかなりブロード化した。
この結果から、ホスト分子1の蓋状分子2の間には何らかの相互作用があることが示唆される。
さらに、ホスト分子1:蓋状分子2(モル比)が1:4のときは、ブロードなシグナルは、わずかに低磁場側にシフトした。
この測定結果から、蓋状分子2は、ホスト分子1の内部空間には包接されておらず、ホスト分子1の開口部と相互作用し、ホスト分子-蓋状分子複合体が生成していることが示唆される。
ホスト分子-蓋状分子複合体の生成過程を模式的に表した図を図1に示す。
ホスト分子1のD2O溶液(1.67mM,0.75mL)に蓋状分子2を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
ホスト分子1:蓋状分子2(モル比)が1:1のとき、蓋状分子2のみで測定したときに比べて、蓋状分子2に由来するシグナルがかなりブロード化した。
この結果から、ホスト分子1の蓋状分子2の間には何らかの相互作用があることが示唆される。
さらに、ホスト分子1:蓋状分子2(モル比)が1:4のときは、ブロードなシグナルは、わずかに低磁場側にシフトした。
この測定結果から、蓋状分子2は、ホスト分子1の内部空間には包接されておらず、ホスト分子1の開口部と相互作用し、ホスト分子-蓋状分子複合体が生成していることが示唆される。
ホスト分子-蓋状分子複合体の生成過程を模式的に表した図を図1に示す。
〔実施例2〕ホスト分子-蓋状分子複合体の合成、及び、X線結晶構造解析
ホスト分子1と蓋状分子2を含む水溶液(モル比1:1)を50℃で静置し、水をゆっくりと揮発させたところ、2週間後、単結晶が得られた。
この単結晶を測定試料として用いて結晶構造解析を行った。ホスト分子1-蓋状分子2複合体の分子構造を図2に示す。
ホスト分子1と蓋状分子2を含む水溶液(モル比1:1)を50℃で静置し、水をゆっくりと揮発させたところ、2週間後、単結晶が得られた。
この単結晶を測定試料として用いて結晶構造解析を行った。ホスト分子1-蓋状分子2複合体の分子構造を図2に示す。
〔実施例3〕包接体の合成、及び、1H-NMR測定
ホスト分子1のD2O溶液(0.50mM,2.0mL)に、蓋状分子2(ホスト分子1に対して5当量)とカチオン性標的分子3(ホスト分子1に対して10当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
その結果、ホスト分子1の内部空間内に収容されたカチオン性標的分子3由来のシグナルが観測された。また、この包接体を構成する各分子のモル比(ホスト分子1:蓋状分子2:カチオン性標的分子3)は、1:4:4であった。
ホスト分子1のD2O溶液(0.50mM,2.0mL)に、蓋状分子2(ホスト分子1に対して5当量)とカチオン性標的分子3(ホスト分子1に対して10当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
その結果、ホスト分子1の内部空間内に収容されたカチオン性標的分子3由来のシグナルが観測された。また、この包接体を構成する各分子のモル比(ホスト分子1:蓋状分子2:カチオン性標的分子3)は、1:4:4であった。
〔比較例1〕
ホスト分子1のD2O溶液(0.50mM,2.0mL)に、カチオン性標的分子3(ホスト分子1に対して10当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
その結果、ホスト分子1の内部空間内に収容されたカチオン性標的分子3由来のシグナルは観測されなかった。
ホスト分子1のD2O溶液(0.50mM,2.0mL)に、カチオン性標的分子3(ホスト分子1に対して10当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
その結果、ホスト分子1の内部空間内に収容されたカチオン性標的分子3由来のシグナルは観測されなかった。
〔実施例4〕包接体の合成、及び、X線結晶構造解析
ホスト分子1、蓋状分子2、及びカチオン性標的分子3を含む水溶液(モル比1:5:10)を50℃で静置し、水をゆっくりと揮発させたところ、2週間後、単結晶が得られた。
この単結晶を測定試料として用いて結晶構造解析を行った。包接体の分子構造を図3に示す。
また、包接体の分子構造を模式的に表した図と、ホスト分子と蓋状分子の間の相互作用と、標的分子と蓋状分子の間の相互作用を模式的に表した図を、それぞれ、図4、図5に示す。
ホスト分子1、蓋状分子2、及びカチオン性標的分子3を含む水溶液(モル比1:5:10)を50℃で静置し、水をゆっくりと揮発させたところ、2週間後、単結晶が得られた。
この単結晶を測定試料として用いて結晶構造解析を行った。包接体の分子構造を図3に示す。
また、包接体の分子構造を模式的に表した図と、ホスト分子と蓋状分子の間の相互作用と、標的分子と蓋状分子の間の相互作用を模式的に表した図を、それぞれ、図4、図5に示す。
〔実施例5〕包接体の合成、及び、1H-NMR測定
ホスト分子1のD2O溶液(1.0mM,1.0mL)に、蓋状分子2(ホスト分子1に対して5当量)とカチオン性標的分子4a(ホスト分子1に対して5当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
その結果、ホスト分子1の内部空間内に収容されたカチオン性標的分子4a由来のシグナルが観測された。また、この包接体を構成する各分子のモル比(ホスト分子1:蓋状分子2:カチオン性標的分子4a)は、1:4:2であった。
NMRピークの分裂パターンから推定される包接体の推定構造を図6に示す。
ホスト分子1のD2O溶液(1.0mM,1.0mL)に、蓋状分子2(ホスト分子1に対して5当量)とカチオン性標的分子4a(ホスト分子1に対して5当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
その結果、ホスト分子1の内部空間内に収容されたカチオン性標的分子4a由来のシグナルが観測された。また、この包接体を構成する各分子のモル比(ホスト分子1:蓋状分子2:カチオン性標的分子4a)は、1:4:2であった。
NMRピークの分裂パターンから推定される包接体の推定構造を図6に示す。
〔比較例2〕
ホスト分子1のD2O溶液(1.0mM,1.0mL)に、カチオン性標的分子4a(ホスト分子1に対して5当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
その結果、ホスト分子1の内部空間内に収容されたカチオン性標的分子4a由来のシグナルは観測されなかった。
ホスト分子1のD2O溶液(1.0mM,1.0mL)に、カチオン性標的分子4a(ホスト分子1に対して5当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
その結果、ホスト分子1の内部空間内に収容されたカチオン性標的分子4a由来のシグナルは観測されなかった。
〔実施例6〕包接体の合成、及び、1H-NMR測定
ホスト分子1のD2O溶液(1.0mM,1.0mL)に、蓋状分子2(ホスト分子1に対して5当量)とカチオン性標的分子4b(ホスト分子1に対して5当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
その結果、ホスト分子1の内部空間内に収容されたカチオン性標的分子4b由来のシグナルが観測された。また、この包接体を構成する各分子のモル比(ホスト分子1:蓋状分子2:カチオン性標的分子4b)は、1:4:2であった。
NMRピークの分裂パターンから実施例5で得られた包接体と同様の構造を有することが推定された。
ホスト分子1のD2O溶液(1.0mM,1.0mL)に、蓋状分子2(ホスト分子1に対して5当量)とカチオン性標的分子4b(ホスト分子1に対して5当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
その結果、ホスト分子1の内部空間内に収容されたカチオン性標的分子4b由来のシグナルが観測された。また、この包接体を構成する各分子のモル比(ホスト分子1:蓋状分子2:カチオン性標的分子4b)は、1:4:2であった。
NMRピークの分裂パターンから実施例5で得られた包接体と同様の構造を有することが推定された。
〔比較例3〕
ホスト分子1のD2O溶液(1.0mM,1.0mL)に、カチオン性標的分子4b(ホスト分子1に対して5当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
その結果、ホスト分子1の内部空間内に収容されたカチオン性標的分子4b由来のシグナルは観測されなかった。
ホスト分子1のD2O溶液(1.0mM,1.0mL)に、カチオン性標的分子4b(ホスト分子1に対して5当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定した。
その結果、ホスト分子1の内部空間内に収容されたカチオン性標的分子4b由来のシグナルは観測されなかった。
〔実施例7〕ゲスト分子の交換
ホスト分子1のD2O溶液(0.50mM,2.0mL)に、カチオン性標的分子3(ホスト分子1に対して10当量)と、1-デカノール(以下、「中性標的分子5」と記載することがある。)(ホスト分子1に対して10当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液の一部を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定したところ、ホスト分子1の内部空間内に、中性標的分子5が収容されていることが分かった。
次いで、上記のホスト分子1、カチオン性標的分子3、及び中性標的分子5を含有するD2O溶液に、蓋状分子2(ホスト分子1に対して5当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定したところ、ホスト分子1の内部空間内の中性標的分子5がカチオン性標的分子3に置換されていることが分かった。
ホスト分子1のD2O溶液(0.50mM,2.0mL)に、カチオン性標的分子3(ホスト分子1に対して10当量)と、1-デカノール(以下、「中性標的分子5」と記載することがある。)(ホスト分子1に対して10当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液の一部を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定したところ、ホスト分子1の内部空間内に、中性標的分子5が収容されていることが分かった。
次いで、上記のホスト分子1、カチオン性標的分子3、及び中性標的分子5を含有するD2O溶液に、蓋状分子2(ホスト分子1に対して5当量)を加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を測定試料として用いて、1H-NMRスペクトルを測定したところ、ホスト分子1の内部空間内の中性標的分子5がカチオン性標的分子3に置換されていることが分かった。
〔実施例8〕包接体の合成、及び、X線結晶構造解析
ホスト分子1の水溶液(1.0mM)1.0mLに、蓋状分子2(2.07mg,4.86μmol)、硝酸ランタン(14.2mg,32.9μmol)、安息香酸ナトリウム(1.45mg,10.1μmolを加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を50℃で静置し、水をゆっくりと揮発させたところ、1週間後、単結晶が得られた。
この単結晶を測定試料として用いて単結晶構造解析を行ったところ、ホスト分子1-蓋状分子2-ランタンイオン-安息香酸アニオンで構成された包接体であることが分かった。この包接体の分子構造を表した図と、この包接体に含まれるゲスト分子の分子構造を模式的に表した図を図7に示す。
ホスト分子1の水溶液(1.0mM)1.0mLに、蓋状分子2(2.07mg,4.86μmol)、硝酸ランタン(14.2mg,32.9μmol)、安息香酸ナトリウム(1.45mg,10.1μmolを加え、室温(25℃)で1時間撹拌した。得られた溶液を50℃で静置し、水をゆっくりと揮発させたところ、1週間後、単結晶が得られた。
この単結晶を測定試料として用いて単結晶構造解析を行ったところ、ホスト分子1-蓋状分子2-ランタンイオン-安息香酸アニオンで構成された包接体であることが分かった。この包接体の分子構造を表した図と、この包接体に含まれるゲスト分子の分子構造を模式的に表した図を図7に示す。
〔合成例5〕2,4,6-トリメチル-1,3,5-ベンゼントリメタンスルホン酸ナトリウム塩の合成
1,3,5-トリスブロモメチル-2,4,6-トリメチルベンゼン(1.00g,2.51mmol)、亜硫酸ナトリウム(1.00g,7.94mmol)、ヨウ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(83mg,0.22mmol)を水15mLに懸濁させ、加熱還流下24時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、析出した固体を水3mLに溶解させた。
得られた溶液に、アセトン50mLを加え、析出した固体をメタノール-水混合溶媒(メタノール:水=1:1(体積比))、メタノール、アセトンで順次洗浄し、さらに真空乾燥を行うことで、2,4,6-トリメチル-1,3,5-ベンゼントリメタンスルホン酸ナトリウム塩(以下、「蓋状分子6」と記載することがある。)を白色粉末として得た(0.609g,1.30mmol,52%)。
蓋状分子6(アニオン部)の分子構造を以下に示す。
1,3,5-トリスブロモメチル-2,4,6-トリメチルベンゼン(1.00g,2.51mmol)、亜硫酸ナトリウム(1.00g,7.94mmol)、ヨウ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(83mg,0.22mmol)を水15mLに懸濁させ、加熱還流下24時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、析出した固体を水3mLに溶解させた。
得られた溶液に、アセトン50mLを加え、析出した固体をメタノール-水混合溶媒(メタノール:水=1:1(体積比))、メタノール、アセトンで順次洗浄し、さらに真空乾燥を行うことで、2,4,6-トリメチル-1,3,5-ベンゼントリメタンスルホン酸ナトリウム塩(以下、「蓋状分子6」と記載することがある。)を白色粉末として得た(0.609g,1.30mmol,52%)。
蓋状分子6(アニオン部)の分子構造を以下に示す。
〔実施例9〕ホスト分子-蓋状分子複合体の合成
ホスト分子1の水溶液(20mM)30mLに、蓋状分子6(936.6mg,2.00mmol)を加え、これを100℃に加熱して固体を溶解させた。得られた溶液を室温(25℃)で静置したところ、淡黄色固体が析出した。析出した固体を回収し水で洗浄した後、さらに真空乾燥を行うことで、ホスト分子1と蓋状分子6とを1:4のモル比で含む複合体を黄色粉末として得た(2.13g,5.09mmol,85%)。
ホスト分子1の水溶液(20mM)30mLに、蓋状分子6(936.6mg,2.00mmol)を加え、これを100℃に加熱して固体を溶解させた。得られた溶液を室温(25℃)で静置したところ、淡黄色固体が析出した。析出した固体を回収し水で洗浄した後、さらに真空乾燥を行うことで、ホスト分子1と蓋状分子6とを1:4のモル比で含む複合体を黄色粉末として得た(2.13g,5.09mmol,85%)。
〔実施例10〕包接体の合成、及び、X線結晶構造解析
ホスト分子1の水溶液(0.50mM)2mLに、蓋状分子6(1.80mg,3.84μmol)とローダミン110(1.83mg,5.0μmol)を加え、60℃で30分加熱撹拌した。得られた溶液を50℃で静置し、水をゆっくりと揮発させたところ、1週間後、単結晶が得られた。
この単結晶を測定試料として用いて単結晶構造解析を行ったところ、ホスト分子1―蓋状分子6-ローダミン110で構成された包接体であることが分かった。この包接体の分子構造を表した図と、この包接体に含まれるゲスト分子の分子構造を模式的に表した図を図8に示す。
ホスト分子1の水溶液(0.50mM)2mLに、蓋状分子6(1.80mg,3.84μmol)とローダミン110(1.83mg,5.0μmol)を加え、60℃で30分加熱撹拌した。得られた溶液を50℃で静置し、水をゆっくりと揮発させたところ、1週間後、単結晶が得られた。
この単結晶を測定試料として用いて単結晶構造解析を行ったところ、ホスト分子1―蓋状分子6-ローダミン110で構成された包接体であることが分かった。この包接体の分子構造を表した図と、この包接体に含まれるゲスト分子の分子構造を模式的に表した図を図8に示す。
〔実施例11〕包接体の合成、及び、X線結晶構造解析
ホスト分子1の水溶液(10mM)0.1mLと蓋状分子6の水溶液(50mM)0.1mLと硝酸ランタン水溶液(100mM)0.1mLを混合し、60℃で30分間加熱撹拌した。得られた溶液を50℃で静置し、水をゆっくりと揮発させたところ、1週間後、単結晶が得られた。
この単結晶を測定試料として用いて単結晶構造解析を行ったところ、ホスト分子1-蓋状分子6-ランタンイオン9水和物で構成された包接体であることが分かった。この包接体の分子構造を表した図と、この包接体に含まれるゲスト分子の分子構造を模式的に表した図を図9に示す。
ホスト分子1の水溶液(10mM)0.1mLと蓋状分子6の水溶液(50mM)0.1mLと硝酸ランタン水溶液(100mM)0.1mLを混合し、60℃で30分間加熱撹拌した。得られた溶液を50℃で静置し、水をゆっくりと揮発させたところ、1週間後、単結晶が得られた。
この単結晶を測定試料として用いて単結晶構造解析を行ったところ、ホスト分子1-蓋状分子6-ランタンイオン9水和物で構成された包接体であることが分かった。この包接体の分子構造を表した図と、この包接体に含まれるゲスト分子の分子構造を模式的に表した図を図9に示す。
Claims (10)
- ホスト分子の包接能の変更方法であって、
前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、
下記の要件1、2及び3を満たす蓋状分子と、前記ホスト分子と、前記ホスト分子の内部空間内に包接させる予定の分子(標的分子)とを、同一系内に共存させるステップを有することを特徴とする、ホスト分子の包接能の変更方法。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。 - 前記蓋状分子と前記ホスト分子の開口部との間の親和的相互作用が、クーロン相互作用である、請求項1に記載の、ホスト分子の包接能の変更方法。
- 前記蓋状分子と前記標的分子との間の親和的相互作用が、クーロン相互作用、水素結合、疎水性相互作用、π-π相互作用、又はCH-π相互作用である、請求項1又は2に記載の、ホスト分子の包接能の変更方法。
- 前記ホスト分子が、前記開口部に金属イオンを有する多核金属錯体であって、
前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の金属イオンとクーロン相互作用が可能なアニオン性基を有する分子である、請求項1~3のいずれかに記載の、ホスト分子の包接能の変更方法。 - 標的分子がホスト分子の内部空間内に包接されて成る包接体の製造方法であって、
請求項1~5のいずれかに記載の方法を利用してホスト分子の包接能を変更し、標的分子をホスト分子の内部空間内に取り込ませるステップを有することを特徴とする、包接体の製造方法。 - ホスト分子と、蓋状分子と、ゲスト分子とを有し、ゲスト分子がホスト分子の内部空間内に包接されて成る包接体であって、
前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、
前記蓋状分子が、下記の要件1、2及び3を満たす分子であり、
前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の少なくとも1つを覆っていることを特徴とする包接体。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記ゲスト分子と親和的相互作用が可能な分子である。 - 請求項7に記載の包接体が結晶化して成る単結晶。
- ホスト分子と、蓋状分子が会合して成る、標的分子包接用の複合体であって、
前記ホスト分子が、内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷の分子であり、
前記蓋状分子が、下記の要件1、2及び3を満たす分子であり、
前記蓋状分子が、前記ホスト分子の開口部の少なくとも1つを覆っていることを特徴とする標的分子包接用の複合体。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。 - 標的分子捕捉用キットであって、
内部空間と、1又は2以上の開口部と、を有し、分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷のホスト分子と、
下記の要件1、2及び3を満たす蓋状分子と、を構成成分として含む、標的分子捕捉用キット。
(要件1)蓋状分子全体の電荷が、正電荷、負電荷、又は無電荷(ただし、前記ホスト分子全体の電荷が正電荷のときは正電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が負電荷のときは負電荷ではなく、前記ホスト分子全体の電荷が無電荷のときは無電荷ではない。)である。
(要件2)前記ホスト分子の開口部と親和的相互作用が可能な分子である。
(要件3)前記標的分子と親和的相互作用が可能な分子である。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2021028350 | 2021-02-25 | ||
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JP2022021240A Pending JP2022130321A (ja) | 2021-02-25 | 2022-02-15 | ホスト分子の包接能の変更方法、包接体の製造方法、包接体、単結晶、複合体、及び標的分子捕捉用キット |
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Country | Link |
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JP (1) | JP2022130321A (ja) |
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2022
- 2022-02-15 JP JP2022021240A patent/JP2022130321A/ja active Pending
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