JP2022126281A - 免疫抑制剤なしで拒絶制御を可能にする脂肪由来間葉系幹細胞の誘導方法ならびに移植方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 免疫抑制剤を使用せずに糖尿病患者に対して細胞移植をすること。【解決手段】 本発明に係る細胞移植方法は、血管新生誘導因子によって皮下脂肪組織移植部位を前処置して免疫抑制反応能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSCs)を該移植部位内に誘導する幹細胞誘導手段と、当該皮下脂肪組織移植部位内に膵島細胞などの移植素材を移植し、免疫抑制剤を使用せずに細胞移植を継続して行う細胞移植手段とからなり、糖尿病を治療することが可能な細胞移植を提供する。【選択図】なし
Description
本発明は、免疫抑制剤なしで拒絶制御を可能にする脂肪由来間葉系幹細胞の誘導方法ならびに移植方法に関する。
さらに詳細には、本発明は、免疫抑制剤を使用しない新規細胞移植方法であって、皮下脂肪組織移植部位を血管新生誘導因子にて前処置し皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞を誘導し、該間葉系幹細胞が誘導された該移植部位に膵島細胞などの移植素材を移植することによって、免疫抑制剤を使用せずに拒絶反応を制御しつつ細胞移植を可能にする画期的な新規細胞移植方法に関する。
さらに詳細には、本発明は、免疫抑制剤を使用しない新規細胞移植方法であって、皮下脂肪組織移植部位を血管新生誘導因子にて前処置し皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞を誘導し、該間葉系幹細胞が誘導された該移植部位に膵島細胞などの移植素材を移植することによって、免疫抑制剤を使用せずに拒絶反応を制御しつつ細胞移植を可能にする画期的な新規細胞移植方法に関する。
近年、難病に対する新規治療として再生医療が注目され、喪失した細胞機能をiPS/ES細胞より創生した細胞の移植により補完しようとする新規治療法の開発が進められている。中でも糖尿病に於いては従来のインスリン注射に替わり、異種膵島細胞やiPS/ES細胞より創製したインスリン産生細胞を移植に用いる治療法などが試みられている。
具体的には、細胞移植に伴う拒絶反応の制御を目的とした新規免疫抑制剤の開発、また免疫抑制剤を使用しない場合は、免疫隔離膜を有する装置(デバイス)に細胞を封入し、細胞移植に用いる手法が開発されている。しかしながら、現状では、細胞移植後生涯にわたって使用しなければならない免疫抑制剤による副作用や、装置への封入細胞の機能不全の問題が解決できずに、いずれの治療法も成功には至っていない。
糖尿病は、膵臓に存在するランゲルハンス島(膵島)のβ細胞から分泌されるペプチドホルモンの一種であるインスリンが不足したり、またはその働きが失われたりすることによって発症する疾患であり、炭水化物、脂質ならびにタンパク質を適切に維持利用できない疾患である。糖尿病はまた、様々な遺伝的、環境的要因により生起されるインスリン産生欠乏もしくはインスリン機能低下による異常な高血糖レベルに特徴がある。糖尿病の症状が進行すると、網膜症、腎症、神経障害等の合併症を引き起こし、脳卒中、脳血管障害等の発症の原因となり、その結果、患者の生活の質(QOL)の著しい低下をもたらし、最終的には患者を致命的な予後に至らしめる根治が困難な複雑な慢性疾患である。
糖尿病患者は、若年者に多く発症する1型糖尿病(T1DM)と、成人に多く発症する2型糖尿病(T2DM)の2つの主要な症例の患者に分類される。このうち、2型糖尿病は、総糖尿病患者数の約90%を占めていて、インスリン産生膵β細胞の機能不全によるインスリン産生不足や筋肉や、肝臓の細胞が膵臓で産生されたインスリンに適切に反応できないなどのインスリンの相対的不足により発症する慢性疾患である。この2型糖尿病はまた、代表的な生活習慣関連疾患であり、肥満、運動不足の生活習慣、加齢によって急激に増加していて、大人に最も頻繁に発生するが、若者にも増加していることには注意すべきである。
一方、1型糖尿病は、約5~10%の糖尿病患者が1型糖尿病であり、自己免疫異常によるインスリン産生膵β細胞が特異的に破壊され、そのインスリン産生能力を喪失して血液中のグルコース値の急激な変動を引き起こし、最終的には生命に関わる高血糖(高血糖症)に関連する重篤な合併症を発症する。したがって、1型糖尿病患者は、かかる生死に関わる高血糖(高血糖症)合併症を予防するため、生涯外部からインスリンを投与するインスリン注射やインスリンポンプによるインスリン療法に依存しなければならない(たとえば、非特許文献1参照)。
しかし、1型糖尿病患者は、たとえ血糖測定とインスリン投与(インスリン集中治療)という非常に厳格な高度治療を受けたとしても、血中グルコース濃度を安定的にかつ持続的に長期間維持して、高血糖症による長期にわたる慢性的な臓器障害を引き起こす合併症を予防するのは非常に困難である。一方で、インスリン療法は、インスリン過剰投与の原因ともなり、それにより致命的にもなりうる重大な意識変調を伴う急性低血糖症発症の危険性を増加させる結果にもなりうる。しかしながら、かかる困難と危険性があるにもかかわらず、インスリン療法は、1型糖尿病患者を突然死に繋がる緊急状態から救命するという点では非常に重要な役割を果たしている。ただし、インスリン療法は、あくまでも対処治療であって、1型糖尿病を完全に根治する療法にはなりえず、低血糖症の危険性や長期にわたる合併症の発症などの非常に困難な問題が未解決のまま残されている。
1型糖尿病を根治する治療法としては、膵臓または膵臓と腎臓を同時に移植するインスリン産生膵β細胞の置換療法が行われている。この臓器移植方法は、非常に厳格な血糖調節を可能にし、低血糖や合併症の発症を長期間にわたる抑制を可能にする優れた方法である。しかしながら、このような臓器移植は、手術侵襲が大きく、また移植臓器に付随して移植される外分泌腺による合併症の危険があることは問題である。
この他に、膵臓から単離したランゲルハンス島のインスリン産生膵β細胞を直接移植する膵島細胞移植法が行われている。この膵島細胞移植法は、膵島細胞に障害を有する糖尿病患者にとっては理論的には優れた方法であって、臨床においても1960年代後半から幅広い試みがなされている移植膵島細胞によるインスリン補完療法である。この膵島細胞移植は今では1型糖尿病治療に対し非常に有望な取り組みであり、膵島細胞を肝臓の門脈に点滴にて注入するだけで移植可能な簡便な方法である。したがって、この膵島細胞移植は、全臓器を移植する手術に比べて、手術的にも極めて安全であるところから、危険性が高い患者にとっても実施できるという利点がある。また、この膵島細胞移植は、腹部の手術や血管吻合の必要がないこと、さらに、たとえ移植拒否反応が起こった場合でも移植細胞の除去が必要ではなく、患者の負担が極めて低いという大きな利点もある。
しかしながら、この膵島細胞移植法は、移植細胞の生着率が極めて低いという欠点に直面している。ドナーから膵島細胞の移植を受けたとしても、移植細胞が早期に喪失する割合は移植細胞総数の60%程度にも達すると推定されている。したがって、現在の膵島細胞移植においては、レシピエント1人の糖尿病患者を良好な状態に治療するためにはドナー2人もしくはそれ以上のドナーから膵島細胞の提供を繰り返し受ける必要がある。しかしながら、膵島細胞を提供できるドナーの数が圧倒的に少ないことから、細胞移植にとって、ドナーが少ないということは喫緊に解決すべき問題であるが、ドナーを急速に増やすことは現実的には不可能である。
また、この膵島細胞移植は、移植膵島細胞が末梢門脈中に塞栓を形成し糖尿病患者の肝臓内に着床し、対応領域において虚血性変質を引き起こすという危険性をも有している。さらに、膵島細胞や臓器などの異物を移植する生体内移植する場合、避けて通れない大問題が免疫拒絶反応に対する対応である。つまり、生体に移植細胞などの異物が侵入してくれば、当然のことながら、生体防御機能が作動して炎症性サントカインが放出されて、移植細胞が拒絶されるという厄介で困難な問題が未解決のままで残っている。そのために、現状において、患者は、移植した細胞や臓器などの移植に対する拒絶反応を制御するために移植後生涯免疫抑制剤を使用する必要がある。
したがって、免疫抑制剤を使用せずに移植細胞に対する拒絶反応制御法の開発は移植医療にとって極めて重要な最終的な目標であり、この拒絶反応制御法が成功すれば、これまでの細胞移植後生涯免疫抑制剤の投与が必要であった糖尿病患者にとっては画期的な成果となり、社会への貢献度も測り知れないものとなる。
さらに、細胞移植の場合は移植を実行する移植部位の選択が可能となることから、移植部位を何らかの処置をして局所的に免疫不応答の状態を創生できれば、かかる免疫不応答状態の環境下に細胞などを移植することで移植細胞などに対する拒絶反応を、免疫抑制剤を使用しないで制御できる可能性がある。
これまでも免疫抑制剤を使用しない拒絶反応制御法が試みられている。たとえば、非特許文献2には、移植同種膵島細胞(islet allograft)の拒絶反応が、移植前にドナー組織を高酸素濃度下でインビトロ(in vitro)培養で処理すれば防止できると報告されている。また、本発明者らも、リンパ節、外分泌物などの夾雑物を除いたラット異種移植膵島細胞を移植前7日間培養してマウスに移植しても、その生存が免疫抑制剤を使用しないでも顕著に増長されることを報告している(非特許文献3)。
本発明者らはまた、STZ誘導糖尿病マウスの精巣にラット異種膵島細胞を移植した場合でも、その生存が増長したとの報告している(非特許文献4)。さらに、ラット同種膵島細胞をレシピエントラットの精巣や脳内空間に免疫抑制剤を使用せずに移植しても拒絶反応が防止されたとの報告がある(非特許文献5、6)。これらの報告は、移植前のドナー膵島細胞の処置ばかりではなく、移植部位の選択も免疫抑制剤を使用しないでの同種ならびに異種膵島細胞移植に対する拒絶予防に与することを示している。
しかしながら、上記移植部位に細胞移植することは臨床ではほとんど応用されていない。しかしながら、上記知見は、臨床応用が可能な新しい移植部位が開発されれば、簡単な前処置のみで同種膵島細胞移植が免疫抑制剤を使用せずに生着する適切な環境を構築する新しい方策を提供することが実現可能となり、現実的になることを示唆している。
この意味において、本発明者らは最近、鼠径部皮下脂肪組織(inguinal subcutaneous white adipose tissue: ISWAT)が現在臨床で移植部位として使用している肝臓(非特許文献7、8、9、10)よりも優れた新移植部位であることを報告している(特許文献2)。さらに、この移植部位は、肝臓内移植が有する課題:低移植効率、生検や回収が困難などの、臨床上の障害も克服可能になることを報告している(非特許文献11)。
また、非特許文献12には、移植部位の前処置について、レシピエントラット背部皮下組織内に形成した空隙に、線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor: FGF)を含むアガロースロッドを膵島細胞移植したところ、他家移植にもかかわらず、免疫抑制剤の投与をしないで、移植効率は極めて低かったけれども、長期間にわたって拒絶反応が起こらず移植を維持できたと報告されている。
さらに、特許文献2には、移植を予定する部位(移植部位)をFGFで前処置し、膵島や幹細胞から人為的に分化誘導した疑似膵島細胞等を移植することによって、制御性T細胞(Treg)や骨髄由来抑制細胞(MDSC)の免疫抑制性細胞が誘導されること報告されている。このような免疫抑制性細胞が誘引されると、免疫寛容部位が形成され、細胞移植後に恒常的に必要だった免疫抑制剤の投与が必要なくなった、と報告されている。また、これにより、免疫抑制剤の副作用による各種感染症や腫瘍の発生リスクを無くす共に、免疫抑制剤の副作用による臓器への障害や高血糖、高血圧などのリスクも無くすことができ、さらには移植組織全体に対する免疫寛容が誘導されるために特定の分子を対象としないという利点もあると報告されている。
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上記事情を背景として、本発明では、免疫抑制剤を使用せずに移植細胞に対する拒絶反応を制御しうる技術の提供を課題とする。
すなわち、本発明は、主な形態として、血管新生誘導因子にて皮下脂肪組織を前処置することによって誘導増殖させた免疫抑制能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(MSCs)と、膵島細胞等の移植素材とを細胞移植することにより、免疫抑制剤を使用せずに免疫拒絶反応を抑制しつつ細胞移植を継続して実施することができる細胞移植方法を提供することを目的としている。
すなわち、本発明は、主な形態として、血管新生誘導因子にて皮下脂肪組織を前処置することによって誘導増殖させた免疫抑制能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(MSCs)と、膵島細胞等の移植素材とを細胞移植することにより、免疫抑制剤を使用せずに免疫拒絶反応を抑制しつつ細胞移植を継続して実施することができる細胞移植方法を提供することを目的としている。
本発明は、別の形態として、免疫抑制剤を使用しないで拒絶制御を可能にする脂肪由来間葉系幹細胞の誘導方法ならびに移植方法であって、皮下脂肪組織移植部位を血管新生誘導因子で処置し免疫拒絶反応抑制能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(MSCs)を誘導し、該間葉系幹細胞が誘導された該移植部位に膵島細胞などの移植素材を移植することによって、免疫抑制剤を使用せずに拒絶反応を制御しつつ細胞移植を長期間可能にする画期的な新規細胞移植方法を提供することを目的とする。
本発明は、別の形態として、前記MSCsと、膵島細胞等の移植素材と一緒に組み合わせて同時に(実質的に同時であることを含む)、レシピエントの皮下脂肪組織内移植部位に共移植する細胞共移植手段からなる細胞移植方法を提供することを目的としている。
本発明は、さらに別の形態として、皮下脂肪組織内移植部位を血管新生誘導因子によって前処置することによって誘導新生して得られた拒絶制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系細胞(MSCs)からなる共移植用細胞製剤を提供することを目的とする。
本発明は、さらに別の形態として、前記MSCsと膵島細胞等の移植素材とからなる共移植用細胞製剤を提供することを目的とする。
本発明は、さらに別の形態として、前記MSCsからなる共移植用細胞製剤を膵島細胞等の移植素材を組み合わせた細胞製剤、または前記MSCsと膵島細胞等の移植素材とからなる共移植用細胞製剤を共移植する共移植手段からなる細胞移植方法を提供することを目的としている。
本発明は、さらに別の形態として、前記共移植用細胞製剤をレシピエントの皮下脂肪組織内移植部位に共移植することからなる細胞移植方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、ストレプトゾトシン(STZ)誘導C57BL/6糖尿病マウス(streptozotocin-induced diabetic C57BL/6 mice)の鼠径部皮下脂肪組織(ISWAT)を移植前に線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor: bFGF)で前処置した後、BALB/c マウスの同種細胞をISWATに細胞移植したところ、その血糖値が1年間以上も正常値であったことを見いだした。
また、機構的には、この同種膵島細胞移植に対する拒絶防止には、IL-10ではなく、TGFβが関与していることを見いだした。
この知見は、この好ましい拒絶防止効果は、IL-10欠損マウスをレシピエントとして用いたときには消滅しなかったが、抗TGFβ抗体で処置したときには消滅したことから明らかになった。また、重要なことであるが、この知見は、bFGFで前処置したマウスのISWATから単離した同系(syngeneic)間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem cells: MSCs) を同種膵島細胞と一緒に糖尿病マウスの腎被膜下に共移植したところ、移植同種細胞移植は免疫拒絶されることなく許容されたこと(acceptance)から、このbFGFで前処置によって皮下脂肪組織内に拒絶制御能を有するMSCsが誘導増殖し、免疫抑制剤を使用しないで免疫拒絶反応を防止することが可能であることを示している。さらに、誘導されたMSCs (induced MSCs: iMSCs)との共移植によって同種移植膵島が生着したレシピエントに対し移植後180-240日目に反対側腎被膜下に最初と同じストレインのマウスから単離した膵島を移植した。2回目の移植膵島は拒絶されたが、最初に移植した同種移植膵島は拒絶されずに許容された。これらの知見はドナーiMSCsを使用しないで、別の移植部位に行ったその後の2回目の膵島細胞移植によって誘導された全身的な拒絶から最初に移植した同種移植膵島は保護されたことを示している。
つまり、この許容性(acceptance)は、全身的な不応答性(unresponsiveness)ではなく、むしろ局所的な不応答性によって介在されたものと考えられる。
この知見は、この好ましい拒絶防止効果は、IL-10欠損マウスをレシピエントとして用いたときには消滅しなかったが、抗TGFβ抗体で処置したときには消滅したことから明らかになった。また、重要なことであるが、この知見は、bFGFで前処置したマウスのISWATから単離した同系(syngeneic)間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem cells: MSCs) を同種膵島細胞と一緒に糖尿病マウスの腎被膜下に共移植したところ、移植同種細胞移植は免疫拒絶されることなく許容されたこと(acceptance)から、このbFGFで前処置によって皮下脂肪組織内に拒絶制御能を有するMSCsが誘導増殖し、免疫抑制剤を使用しないで免疫拒絶反応を防止することが可能であることを示している。さらに、誘導されたMSCs (induced MSCs: iMSCs)との共移植によって同種移植膵島が生着したレシピエントに対し移植後180-240日目に反対側腎被膜下に最初と同じストレインのマウスから単離した膵島を移植した。2回目の移植膵島は拒絶されたが、最初に移植した同種移植膵島は拒絶されずに許容された。これらの知見はドナーiMSCsを使用しないで、別の移植部位に行ったその後の2回目の膵島細胞移植によって誘導された全身的な拒絶から最初に移植した同種移植膵島は保護されたことを示している。
つまり、この許容性(acceptance)は、全身的な不応答性(unresponsiveness)ではなく、むしろ局所的な不応答性によって介在されたものと考えられる。
これより、発明者らは、血管新生誘導因子による皮下脂肪組織移植部位の前処置により該移植部位内に誘導される免疫抑制能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSCs)の免疫拒絶抑制能を検討した結果、血管新生誘導因子によりMSCsが誘導された該移植部位に同種膵島細胞を移植したところ、移植同種膵島細胞が免疫抑制剤を使用せずに免疫拒絶反応を受けることなく移植細胞が長期間維持されることを見いだした。
発明者らは、当該知見に基づき、免疫抑制剤を使用せずに移植細胞に対する拒絶反応を制御しうる一連の発明を完成させた。
発明者らは、当該知見に基づき、免疫抑制剤を使用せずに移植細胞に対する拒絶反応を制御しうる一連の発明を完成させた。
本発明の第一の構成は、皮下脂肪組織由来間葉系細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSCs)またはインビトロ培養されたMSCsとからなる共移植用細胞製剤である。
本発明の第二の構成は、第一の構成に記載の共移植用細胞製剤において、前記拒絶制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系細胞(MSCs)が、皮下脂肪組織を血管新生誘導因子によって前処置することによって誘導新生されたまたはインビトロ培養されたMSCsである共移植用細胞製剤である。
本発明の第三の構成は、第一又は第二の構成に記載の共移植用細胞製剤において、前記血管新生誘導因子が、線維芽細胞増殖因子-1または塩基性線維芽増殖因子から選ばれる線維芽細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、または炎症惹起因子である共移植用細胞製剤である。
本発明の第四の構成は、第一ないし第三の構成いずれかに記載の共移植用細胞製剤において、前記共移植用細胞製剤が、移植素材をさらに含んでいる共移植用細胞製剤である。
本発明の第五の構成は、第四の構成に記載の共細胞製剤において、前記移植素材が、同種もしくは異種膵島細胞、人工由来細胞のiPS細胞もしくはES細胞などのインスリン産生細胞、または、かかる細胞もしくは骨髄を含む組織や臓器である共移植用細胞製剤である。
本発明の第二の構成は、第一の構成に記載の共移植用細胞製剤において、前記拒絶制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系細胞(MSCs)が、皮下脂肪組織を血管新生誘導因子によって前処置することによって誘導新生されたまたはインビトロ培養されたMSCsである共移植用細胞製剤である。
本発明の第三の構成は、第一又は第二の構成に記載の共移植用細胞製剤において、前記血管新生誘導因子が、線維芽細胞増殖因子-1または塩基性線維芽増殖因子から選ばれる線維芽細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、または炎症惹起因子である共移植用細胞製剤である。
本発明の第四の構成は、第一ないし第三の構成いずれかに記載の共移植用細胞製剤において、前記共移植用細胞製剤が、移植素材をさらに含んでいる共移植用細胞製剤である。
本発明の第五の構成は、第四の構成に記載の共細胞製剤において、前記移植素材が、同種もしくは異種膵島細胞、人工由来細胞のiPS細胞もしくはES細胞などのインスリン産生細胞、または、かかる細胞もしくは骨髄を含む組織や臓器である共移植用細胞製剤である。
本発明の共移植用細胞製剤によれば、これを移植素材と同時に共移植することで、免疫抑制剤を用いることなく、免疫拒絶反応を抑制することが可能となる。
本発明の第六の構成は、拒絶制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSCs)と移植素材と同時に共移植することを特徴とする細胞移植方法である。
本発明の第七の構成は、第六の構成に記載の細胞移植方法において、前記細胞移植方法が、免疫抑制剤を使用しない細胞移植方法であって、皮下脂肪組織移植部位を血管新生誘導因子によって前処置することにより拒絶制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSCs)を該移植部位内に誘導する幹細胞誘導手段と、前記間葉系幹細胞が誘導された前記移植部位に移植素材を移植して、免疫抑制剤を使用しないで移植を維持する細胞移植手段とからなる細胞移植方法である。
本発明の第八の構成は、第七の構成に記載の細胞移植方法において、前記MSCsが血管新生誘導因子を用いて前処置することによって誘導増殖されたものまたはインビトロ培養して得られたMSCsである細胞移植方法である。
本発明の第九の構成は、第六ないし第八の構成いずれかに記載の細胞移植方法において、前記細胞増殖因子が、線維芽細胞増殖因子-1(acid fibroblast growth factor; aFGF)または塩基性線維芽増殖因子(basic fibroblast growth factor; bFGF)から選ばれる線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factors; FGFs)、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor VEGF)、血小板由来増殖因子(Platelet-derived growth factor; PDGF)、または炎症惹起因子である細胞移植方法である。
本発明の第十の構成は、第六ないし第九の構成いずれかに記載の細胞移植方法において、前記皮下脂肪組織移植部位が鼠径部、腋下、背中または腹部である細胞移植方法である。
本発明の第十一の構成は、第六ないし第十の構成いずれかに記載の細胞移植方法において、前記移植細胞が、同種もしくは異種膵島細胞、人工由来細胞のiPS細胞もしくはES細胞などのインスリン産生細胞、または、かかる細胞もしくは骨髄を含む組織や臓器である細胞移植方法である。
本発明の第七の構成は、第六の構成に記載の細胞移植方法において、前記細胞移植方法が、免疫抑制剤を使用しない細胞移植方法であって、皮下脂肪組織移植部位を血管新生誘導因子によって前処置することにより拒絶制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSCs)を該移植部位内に誘導する幹細胞誘導手段と、前記間葉系幹細胞が誘導された前記移植部位に移植素材を移植して、免疫抑制剤を使用しないで移植を維持する細胞移植手段とからなる細胞移植方法である。
本発明の第八の構成は、第七の構成に記載の細胞移植方法において、前記MSCsが血管新生誘導因子を用いて前処置することによって誘導増殖されたものまたはインビトロ培養して得られたMSCsである細胞移植方法である。
本発明の第九の構成は、第六ないし第八の構成いずれかに記載の細胞移植方法において、前記細胞増殖因子が、線維芽細胞増殖因子-1(acid fibroblast growth factor; aFGF)または塩基性線維芽増殖因子(basic fibroblast growth factor; bFGF)から選ばれる線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factors; FGFs)、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor VEGF)、血小板由来増殖因子(Platelet-derived growth factor; PDGF)、または炎症惹起因子である細胞移植方法である。
本発明の第十の構成は、第六ないし第九の構成いずれかに記載の細胞移植方法において、前記皮下脂肪組織移植部位が鼠径部、腋下、背中または腹部である細胞移植方法である。
本発明の第十一の構成は、第六ないし第十の構成いずれかに記載の細胞移植方法において、前記移植細胞が、同種もしくは異種膵島細胞、人工由来細胞のiPS細胞もしくはES細胞などのインスリン産生細胞、または、かかる細胞もしくは骨髄を含む組織や臓器である細胞移植方法である。
本発明の細胞移植方法により、免疫抑制剤を用いることなく、免疫拒絶反応を抑制することが可能となる。
本明細書にて使用する用語「細胞」およびこの関連用語は、膵島細胞ばかりではなく、その他の移植可能な細胞、骨髄等の組織、臓器などの移植可能なあらゆる移植素材をも包含すると共に、文脈によって、同種ばかりではなく、異種のものでもよく、またiPS細胞やES細胞などの人工由来細胞などをも包含する意味として使用することもある。
加えて、本明細書において使用する用語「移植素材」または関連する用語は、膵島細胞等の細胞、骨髄等の組織、臓器などの移植素材を意味して、また用語「細胞移植」または関連する用語は、膵島細胞等の細胞移植ばかりではなく、骨髄移植等の組織移植や臓器移植をも包含する意味として使用している。
また、本明細書にて使用する用語「前処置」は、膵島細胞などの移植素材を細胞移植する前に、後述する皮下脂肪組織移植部位を、血管新生誘導因子によって皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(MSCs)を誘導するための処置を意味して使用している。
さらに、本明細書にて使用する用語「皮下脂肪組織移植部位」およびこの関連用語は、膵島細胞などの移植素材を移植可能な皮下脂肪組織の存在する鼠径部などの生体組織部位を意味して使用している。
さらに、用語「移植部位」は、文脈によっては、この単語を単独で使用した場合でも、皮下脂肪組織内移植部位を意味して使用している。つまり、これらの用語は、移植素材を移植するために当該移植部位を切開などして人為的に形成される移植素材の収納場所、たとえばポケット状空間などをも包含する意味として使用している。したがって、例えば、「移植部位を前処置」といった文言は、移植部位に形成したポケット状空間を前処置する、いう意味に使用している。
さらに、本明細書にて使用する用語「間葉系幹細胞」および「MSCs」は、これらの単語を単独で使用した場合でも、免疫抑制反応能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(MSCs)をそれぞれ意味して使用している。
さらに、本明細書にて使用する用語「共移植」は、膵島細胞などの移植素材と、幹細胞誘導手段によって誘導された間葉系幹細胞(MSCs)とを移植部位に一緒にまたは実質的に一緒に移植することを意味して使用している。
また、本発明の細胞製剤の調製方法およびその移植方法は、常法に従って、一般医薬品の製剤調製方法および移植方法と同様にして実施することができる。
なお、本発明の細胞製剤についての、MSCs、細胞、前処置手段、細胞移植手段などの構成要素は、発明の主旨が実質的に変わらない限り、上記細胞移植方法の場合と同一または実質的に同一の意味で使用することが可能である。
本発明者らが完成した免疫抑制剤を使用しない拒絶反応制御法、細胞移植方法ならびに共移植用細胞製剤は、上述したような様々な細胞移植の課題のブレイクスルーとなる可能性を有する新規糖尿病治療技術であり、今後予想される再生医療領域における細胞移植医療の発展に大いに寄与することが想定される。
本発明は、血管新生誘導因子による皮下脂肪組織移植部位の前処置により免疫抑制剤を使用せずに免疫抑制反応能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(MSCs)を該移植部位内に誘導することが可能である。これによって、本発明は、該移植部位内に、膵島細胞などの移植素材を細胞移植して、免疫抑制剤をせずに長期間免疫拒絶反応を制御した上で細胞移植を実行することが可能となる。
その結果、本発明は、特に1型糖尿病患者にとっては、これまでは細胞移植を受けても移植後生涯免疫抑制剤の投与を受けなければならなかった負担や副作用からの危険リスクからの解放ならびにその投与による生活の質(QOL)の低下などから免れることができるという画期的な再生医療を可能にする。
その結果、本発明は、特に1型糖尿病患者にとっては、これまでは細胞移植を受けても移植後生涯免疫抑制剤の投与を受けなければならなかった負担や副作用からの危険リスクからの解放ならびにその投与による生活の質(QOL)の低下などから免れることができるという画期的な再生医療を可能にする。
本発明に係る細胞移植方法は、血管新生誘導因子を用いて前処置することによって誘導増殖して得られた、またはインビトロ培養して得られた拒絶制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSCs)を、移植素材と組み合わせて移植することによって、免疫抑制剤を使用しないで免疫拒絶反応を抑制して長期間移植することが可能であることを特徴としている。
さらに詳細には、本発明に係る細胞移植方法は、皮下脂肪組織移植部位を血管新生誘導因子による前処置によって免疫拒絶反応制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(MSCs)を当該移植部位内に誘導する幹細胞誘導手段と、該間葉系幹細胞が誘導された該移植部位に、膵島細胞などの移植素材を細胞移植する細胞移植手段とからなる細胞移植方法であって、免疫抑制剤を使用することなしに、しかも拒絶反応の生起を制御して移植した細胞を長期間継続維持することが可能な再生医療にとって画期的な方法である。
なお、本発明において、血管新生誘導因子による皮下脂肪組織移植部位の前処置によって誘導増殖された免疫拒絶反応制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(MSCs)の他に、外部でインビトロ(in vitro)培養したMSCsも同様に使用可能である。なお、この場合のMSCsのインビトロ(in vitro)培養方法は、慣用されている細胞培養と同様に実施することが可能である。
本発明の幹細胞誘導手段は、血管新生誘導因子によって皮下脂肪組織移植部位を前処置することによって、移植細胞に対し免疫反応制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(MSCs)を当該移植部位内に誘導し増殖することが可能である。
つまり、本発明の幹細胞誘導手段においては、血管新生誘導因子による皮下脂肪組織移植部位の前処置は、たとえば、血管新生誘導因子を外部から該移植部位内部に送達するドラッグデリバリー手段としての装置(デバイス)を介して皮下脂肪組織移植部位内部に形成した移植空間に埋込んで行うことにより、該移植空間内に血管新生誘導因子を放出して皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞を誘導し、増殖させることができる。
本発明の幹細胞誘導手段による前処置に使用する血管新生誘導因子としては、たとえば、細胞増殖因子が、たとえば、線維芽細胞増殖因子-1(acid fibroblast growth factor; aFGF)、塩基性線維芽増殖因子(basic fibroblast growth factor; bFGF)などの線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factors; FGFs)、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor VEGF)、血小板由来増殖因子(Platelet-derived growth factor; PDGF)などが挙げられる。これらのうち、bFGFが特に好ましい。また炎症により血管新生が誘導されることから炎症惹起因子も含まれる。
本発明の細胞移植方法によって、MSCsと膵島細胞等の移植素材は、レシピエントとしての哺乳動物の皮下脂肪組織内移植部位に対して移植され、哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の家畜、サル等の実験動物、イヌ、ネコ等のペット動物、ヒト、チンパンジー等の霊長類の哺乳動物が挙げられる。また、皮下脂肪組織内移植部位としては、移植細胞の生着に必須の酸素や栄養素などを補給する栄養補給血管がその領域に広範に循環・分布している皮下脂肪組織の部位を選択する必要があり、たとえば、鼠径部、腋下、背中および腹部などの皮下脂肪組織の部位を選択するのがよいが、鼠径部が特に好ましい。
また、血管新生誘導因子を外部から皮下脂肪組織移植部位内に送達するための該移植部位内の移植場所となる移植空間は、その移植空間にドラッグデリバリー手段の装置(デバイス)を埋込むのに適した形状や大きさであれば特に限定されるものではなく、ポケット状空間などの形状であればよい。また移植空間の形成方法にしても、皮下脂肪組織移植部位の所定場所を電気メスなどで小さく切開するなどの常法に従って形成するのがよい。
さらに、該血管新生誘導因子を該移植部位に送達する装置(デバイス)は、該血管新生誘導因子を移植空間内に放出できる構造であれば特に限定されるものではなく、例えば、該血管新生誘導因子を装置内に吸着したり、または挿入したりする構造、例えば、ロッド状、チューブ状などの構造であるのがよい。また、かかる装置の材質にしても、生体適合性材料であって、かつ、該血管新生誘導因子を吸着・挿入するのに適した材料があるのがよく、たとえば、デンプン、グリコーゲン、アガロース、ペクチン等のゲル構成多糖成分や、セルロース誘導体などのハイドロゲル素材からなる多孔性の素材であるのが好ましい。
本発明において、血管新生誘導因子を含有する装置を皮下脂肪組織移植部位内に埋設して滞留させる期間は、血管新生誘導因子が装置から継続的に放出されて、移植部位内にMSCsが充分に誘導され増殖可能な時間であれば、特に限定されないが、たとえば、1日から4週間、好ましくは1週間から2週間程度がよい。
次に、本発明に係る細胞移植方法は、血管新生誘導因子により前処置して皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞が誘導した皮下脂肪組織移植部位内に、移植膵島細胞や膵臓等の臓器などの移植素材を移植することにより、免疫抑制剤を使用せずに移植を長期間維持することが可能になる。本発明の細胞移植方法は、常法の移植処理手段に従って実行することが可能である。
つまり、本発明の細胞移植方法においては、該誘導因子にて該間葉系幹細胞を該移移植部位内に誘導した前処置後、血管新生誘導因子を該移植部位内に搬送したデリバリー用装置を摘出した該移植部位に、または摘出しないでそのままの状態の該移植部位に、膵島細胞などの移植素材を常法の移植処理に従って細胞移植することにより、免疫抑制剤を使用せずに移植を長期間維持することが可能になる。
ここで特に注目すべきは、本発明の細胞移植手段において細胞移植する細胞などには、同種膵島細胞、組織や臓器ばかりではなく、異種細胞、組織、臓器なども含め、ES細胞やiPS細胞から作成されたインシュリン産生細胞などを使用することができ、さらに免疫抑制反応が生起することなく細胞移植を長期間実行継続することが可能であることである。
また、本発明の細胞移植方法によれば、1人のドナーからの膵島細胞を、1人もしくは複数人の糖尿病レシピエントに細胞移植することが可能となる。たとえば、1人のレシピエントに対し、1人のドナーの膵島細胞数の1/1~1/10、好ましくは1/2~1/5程度を細胞移植することも可能である。
なお、本発明の細胞移植方法は、従来の膵島細胞移植方法の手順と同じ手順に従って実施することが可能である。
さらに、本発明は、その別の形態として、血管新生誘導因子により前処置して皮下脂肪組織移植部位内に誘導増殖した皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(MSCs)を、移植膵島細胞などの移植素材とを一緒にまたは実質的に一緒に移植部位に共移植する共移植手段によって、免疫抑制剤を使用しないで細胞移植の長期間維持することが可能である。
なお、膵島細胞などの移植素材と共移植するMSCsは、該移植部位に埋設した血管新生誘導因子を含む装置(デバイス)を該移植部位から摘出し、誘導増殖したMSCsを回収してもよく、またはインビトロ(in vitro)で培養し増殖したMSCsであってもよい。
また、該間葉系幹細胞(MSCs)と膵島細胞などの移植素材とを共移植する移植部位としては、MSCsを誘導した該移植部位と同一でも、別の移植部位でもよいが、レシピエントに新たな負担を掛けないという観点から、同一の移植部位に共移植するのが好ましい。
なお、本発明の共移植手段からなる細胞移植方法も、常法の細胞移植方法と実質的に同様な方法で実施することができる。
さらに、上述したように、本発明に係る細胞移植方法は、免疫抑制剤を使用することなく免疫拒絶反応を制御することが可能であることから、皮下脂肪組織移植部位内に移植した細胞の早期拒絶を大幅に防止することができ、移植部位への細胞の生着率を著しく改善することが可能となる。その結果、移植すべき細胞数を顕著に減少できることになり、細胞提供者が少ないという移植治療現場に対しても極めて大きな助けになる。
なお、本発明において最も重要な知見は、ISWATを移植部位として選択したこと、またそのISWATを移植前にbFGFで前処置をして間葉系幹細胞を誘導すること、さらに誘導した間葉系幹細胞とマウス膵島細胞など移植素材とを共移植することにより、免疫抑制剤を使用しないで移植マウス膵島細胞の拒絶反応を防止できることである。機構的には、bFGF前処置により移植部位であるレシピエントマウスのISWATに抑制性MSCsが誘導され増殖し、移植膵島細胞が免疫抑制剤を使用せずに拒絶反応を受けずに長期間生存できることである。このことは、bFGF前処置後同系(syngeneic)マウスのISWATから単離したMSCsを、同種膵島細胞と共移植したときにも、免疫抑制剤を使用せずに移植した同種膵島細胞に対する拒絶反応を防止できるとの知見によって確認されている。
なお、bFGFは、最初に血管新生因子として発見され、現在では褥瘡や皮膚潰瘍などの虚血性疾患の局所治療薬として患部の血管新生促進のために使用されている。一方、bFGFは、iPS細胞やES細胞などの幹細胞の増殖をin vitroで維持するための必須因子であるとの報告もある。
また、本発明者は、bFGF前処置後、皮下脂肪組織内でMSCsをin vivoで増殖し、この誘導されたMSCs(iMSCs)を、同種異系膵島細胞と共移植したときに、免疫抑制剤を使用せずに拒絶反応予防に対して強力な抑制効果を有していることを見いだした。
さらに、本発明者は、免疫抑制剤を使用しないで同種異系膵島細胞移植に対して拒絶防止に対する良好な効果を媒介する分子に関しては、IL-10ではなく、TGFβが 不可欠の役割を果たしていることを見いだした。なお、iMSCsがTGFβに応答して誘導される作用機序や、TGFβに連携して拒絶防止に関与する作用機序、さらにはどの細胞群が前処置後の皮下脂肪組織内でのTGFβ産生に関与しているのかについては今後の研究課題である。
ところで、骨髄や脂肪細胞から作成されたMSCs自体は移植同種細胞に対して拒絶防止効果を有していることは周知の事実であって、臓器移植の臨床現場では移植後の拒絶防止、また骨髄移植の臨床現場では移植後の移植片対宿主病(graft vs host disease: GVHD)の処置に利用されている。しかしながら、MSCsによって得られた上記の有効な効果はすべて免疫抑制剤を使用した場合に得られたものである。
したがって、本発明者のこの知見は、bFGF処置後にマウスISWATにおいて誘導された同系MSCsが、同種異系ドナー膵島細胞と共移植したときに、移植同種細胞を免疫抑制剤を使用しないで生存させることが可能であることを示す最初の報告である。また有効な拒絶防止効果が、同種異系iMSCsではなく、同系iMSCsとの共移植によって得られたという知見は、iMSCsが拒絶反応防止のために存在していること、また処置後一定期間同種異系膵島細胞に密接して存在していることが必須であることを示唆している。事実、iMSCsは、組織学的には、移植30日後にレシピエントマウスの移植部位である腎臓被膜下の同種異系膵島細胞移植片に隣接して検出されている。一方、それに対して、bFGFで同様に処置して誘導された同種異系MSCsは、おそらく拒絶によって消滅してしまったようで、全く観察されなかった。
移植同種膵島細胞とiMSCsとの共移植後、移植同種膵島細胞が受ける拒絶反応に対する不応答性に関しては、全身的よりもむしろ局所的に媒介されていることを見いだした。このことは、レシピエントマウスの右側腎臓被膜下へのドナー特異的膵島細胞を2回目の移植した実験結果によって確認された。この実験では、このレシピエントマウスの左側腎臓被膜下に同種膵島細胞を初回目の細胞移植をした場合には、拒絶されずに許容されたのに対して、反対側の右側腎臓被膜下に同種膵島細胞を2回目の移植をしたところ、この2回目移植をした膵島細胞は拒絶された。つまり、初回目移植の同種膵島細胞は、2回目移植によって誘導された拒絶から保護されていることになる。
このように拒絶が誘導された後、膵島細胞移植部位で不応答性が維持されることに関与する正確な細胞機構を調べることは極めて興味のあることである。1つの可能性のある説明としては、同種異系膵島細胞と共移植した抑制性同系iMSCsは同種膵島細胞移植部位に存在し続けて、2回目移植により誘導される拒絶から移植した同種膵島細胞の保護に役立っているとの仮説である。ただし、この仮説は、CD44について染色したMSCsが移植後30日目に同定された組織学的知見によって示されているかもしれない。しかしながら、このことは、それらが共移植したMSCsまたはレシピエントマウスに由来するのかどうかを確認する必要がある。
免疫拒絶反応の取り扱いにMSCsを使用することの現在の課題のなかで、異種起源のMSCs細胞群に潜在的に起因するとともに、異なる経過を経て、かつ、一方が骨髄で他方が脂肪組織という発生源である個々のバッチのMSCsの違いに依存する拒絶を防止および/または処理能力に違いがありうるとの報告がされている。したがって、現在でも、拒絶を処理する有効性について、MSCsの効力を移植前に予測するのは困難である。言い換えれば、拒絶反応防止に本質的な役割を果たす MSCsの表現型(phenotype)を特定する指標がない。この点においては、本発明の知見は、bFGF処置によってISWATに誘導されたMSCsが、免疫抑制剤を使用しないで同種膵島細胞の拒絶を防止するのに充分な効力を有していることを示している。また、この知見は、今後の研究で、免疫抑制剤を使用しない細胞移植への拒絶防止に対し好ましい効果を果たす主因となるMSCsの特定の表現型の解明に資すると考えられる。
本発明による別の重要な知見としては、組織学的知見において非常に興味深いことであるが、拒絶防止が許容された同種膵島細胞が、ISWAT内の移植同系膵島細胞には認められなかった密な繊維状組織によって囲まれていることが見いだされたことである。なぜならば、線維症は様々な病態の起因となる体内組織内のTGFβによって発症し、TGFβが免疫応答における抑制性分子として作用しているので、本発明者の現モデルを使った実験では、TGFβが同種膵島細胞の拒絶防止に本質的な役割を果たしているかもしれないと考えられる。
そこで、本発明では、この仮説を抗TGFβ抗体を用いて確認した。つまり、膵島細胞移植後にレシピエントマウスに抗TGFβ抗体を投与した場合には、ISWATに移植した同種膵島細胞の拒絶が防止されなくなった。しかしながら、TGFβ産生に関わる細胞群や、また同種免疫拒絶の抑制に関連する同種膵島細胞を取り囲むISWATの局部環境下で繊維症が発症する機序は未解明のままである。
本発明はまた、強力な抑制効果を有するMSCsがbFGFで処置したISWATに増殖し、同種膵島細胞が免疫抑制剤を使用せずに拒絶防止が許容される局部環境の構築を推進することを示している。しかしながら、ナイーブマウスから単離したMSCsがin vitroでbFGFに応答して増殖するが、in vitroで増殖したMSCsと同種異系膵島細胞とを共移植すると、拒絶が防止されないという知見は、bFGF処置後のISWATにin vivoで産生した未知の他の因子が、bFGFに加えて、拒絶防止に関与していることを示唆している。もしこれらの因子が同定されれば、数多くのiMSCsがin vitroで創製できることになり、もしこれらが臨床に応用可能になれば、膵島細胞やそれに由来するiPS細胞やES細胞などによる糖尿病治療に有用なインスリン産生細胞の移植を含む細胞移植の分野に免疫抑制剤を使用しない同種免疫拒絶防止に対する新しい道を開くことが可能になる。
免疫抑制剤を使用しない免疫拒絶防止に関する今日の関心事は、レシピエントの免疫細胞が、移植細胞を入れた装置(デバイス)に機械的に侵入しない膜を設けたミクロまたはマクロデバイスの開発にある。重要なことは、装置内の細胞生存に必須の栄養素と酸素は局所環境内の拡散だけによって供給されることから、装置内のほとんどの細胞の生存力は、移植後栄養素と酸素の供給不足により急激に低下する。同系細胞を装置無しで移植したときには、レシピエントから移植細胞への血管新生が新たに発生し、それによって栄養素と酸素が供給され、移植細胞を効率よく生存させることになる。したがって、血管新生を妨げることなく、局所環境下で拒絶防止ができる免疫隔離(immuno-isolation)をする新規な膜が開発されたならば理想的である。この意味で、本発明のモデルは、上記範疇を充足するものであり、装置を用いないで、MSCsのような生物物質を用い免疫抑制効果を有する「生物学的免疫隔離(immuno-isolation)」と呼べる新しい概念を提供するものである。
また、本発明は、さらに別の形態として、皮下脂肪組織内移植部位を血管新生誘導因子によって前処置することによって誘導新生した拒絶制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSCs)またはインビトロ培養した前記MSCsを、膵島細胞等の移植素材と同時に(実質的に同時であることを含む)レシピエントに共移植するための共移植用細胞製剤であって、免疫抑制剤を使用しないでも免疫拒絶反応を抑制可能な共移植用細胞製剤を提供する。
さらに、本発明は、前記MSCsと、膵島細胞等の移植素材とを含み、レシピエントに共移植することによって、免疫抑制剤を使用しないでも免疫拒絶反応を免疫抑制可能な共移植用細胞製剤を提供する。
本発明の共移植用細胞製剤には、レシピエントの皮下脂肪組織内移植部位での血管新生誘導因子による前処理において自然浸出してくる細胞移植に全く悪影響を及ぼさない体液成分や血液成分や、細胞製剤の製造に一般的に使用されている生理食塩水、リン酸系緩衝液等の緩衝液、細胞移植上ならびに細胞製剤上許容される他の成分が含まれていてもよい。
また、本発明の共移植用細胞製剤において、ドナー由来の膵島細胞等の移植素材には、例えば、ドナー由来の脾臓細胞、B細胞または樹状細胞などの免疫細胞などが含まれていてもよい。また、かかる免疫細胞は、例えば、血液、骨髄液等の組織を常法に従って調製し、必要に応じて、細胞培養を行って細胞数を増やしてから使用することができる。また、例えば、ドナー由来の体細胞からiPS細胞を誘導し、移植細胞に分化誘導して使用してもよい。
本発明に係る共移植用細胞製剤は、レシピエントとしての哺乳動物の皮下脂肪組織内移植部位、特に好ましくは、鼠径部に細胞移植することにより、免疫抑制剤を使用しないでも免疫拒絶反応を抑制することが可能である極めて画期的な細胞製剤である。
本発明において、レシピエントとしての哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の家畜、サル等の実験動物、イヌ、ネコ等のペット動物、ヒト、チンパンジー等の霊長類の哺乳動物が挙げられる。
なお、本発明の細胞製剤およびその移植方法において使用されるMSCs、細胞などの構成要素は、上記細胞移植方法などに使用している場合と同じもしくは実質的に同じ意味で使用している。
本発明を総合的に捉えると、本発明は免疫抑制剤を使用しない移植同種膵島細胞の拒絶防止の新規な手法を提供する。なお、同種同系膵島細胞に加えて、iPS/ES細胞由来や異種ブタ細胞などのインスリン産生細胞などが、インスリン依存糖尿病患者の糖尿病処置のために移植されている屍体のドナーからの同種膵島細胞に代わる無限の潜在的ドナー供給源として考察されている。将来、もし本発明が提案する「生物学的免疫隔離」が臨床的に現実となれば、糖尿病患者の処置に対し途方もない影響を及ぼすとになろう。
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に詳細に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を単に具体的に説明するだけの目的で記載されるものであって、本発明を一切限定する目的で記載されるものではない。
(bFGFのデリバリー装置としてのアガロースロッドの製造方法)
凍結乾燥アガロースロッドはその大きさとbFGF溶液濃度を調整して先行技術に従って作製した。つまり、4.5%アガロース溶液をアガロース(Seakem GTG agarose; Cambrex Bio Science Rockland, Inc., Rockland, ME)450 mgを2回蒸留した水10mLに混ぜ、得られた溶液をオートクレーブで溶解・殺菌して調製した。このアガロース溶液を内径2.5mmのプラスチック製ピペットに回収し、氷上でゲル化した。次いで、プラスチック製ピペットをその先端から2-3cm離れたところで切断し、ピペット内のアガロースをピペット内から押し出して長さ10mmのロッド状に切断し、-30℃で一夜冷凍し、減圧下で24時間凍結乾燥した。続いて、この凍結乾燥アガロースロッドをプラスチック製96孔ウエルに置き、その上にbFGF溶液(Kaken Pharmaceutical Co., Tokyo, Japan; 200μg/ml solution)50 μlを均一に滴下し、使用前4℃で一夜放置して溶液を吸収させた。
凍結乾燥アガロースロッドはその大きさとbFGF溶液濃度を調整して先行技術に従って作製した。つまり、4.5%アガロース溶液をアガロース(Seakem GTG agarose; Cambrex Bio Science Rockland, Inc., Rockland, ME)450 mgを2回蒸留した水10mLに混ぜ、得られた溶液をオートクレーブで溶解・殺菌して調製した。このアガロース溶液を内径2.5mmのプラスチック製ピペットに回収し、氷上でゲル化した。次いで、プラスチック製ピペットをその先端から2-3cm離れたところで切断し、ピペット内のアガロースをピペット内から押し出して長さ10mmのロッド状に切断し、-30℃で一夜冷凍し、減圧下で24時間凍結乾燥した。続いて、この凍結乾燥アガロースロッドをプラスチック製96孔ウエルに置き、その上にbFGF溶液(Kaken Pharmaceutical Co., Tokyo, Japan; 200μg/ml solution)50 μlを均一に滴下し、使用前4℃で一夜放置して溶液を吸収させた。
(アガロースロッドの埋込方法)
マウスISWATにアガロースロッドを埋込む方法は、先行技術(非特許文献11)に記載した移植部位と同じ膵島細胞移植部位に移植するのと全く同じで方法で実施した。つまり、レシピエントC57BL/6マウスの左側鼠径部を垂直に切開し、ISWAT内の下部上腹部動脈と静脈を確認し、小さなポケット状空間を作成した。次に、ISWATのポケットの空洞を上方に広げ、鉗子で充分に広い空間を作り、その空間にbFGF含有アガロースロッドを配置した後、ポケットの開口は縫合糸で閉じた。
マウスISWATにアガロースロッドを埋込む方法は、先行技術(非特許文献11)に記載した移植部位と同じ膵島細胞移植部位に移植するのと全く同じで方法で実施した。つまり、レシピエントC57BL/6マウスの左側鼠径部を垂直に切開し、ISWAT内の下部上腹部動脈と静脈を確認し、小さなポケット状空間を作成した。次に、ISWATのポケットの空洞を上方に広げ、鉗子で充分に広い空間を作り、その空間にbFGF含有アガロースロッドを配置した後、ポケットの開口は縫合糸で閉じた。
(膵島細胞の単離)
bFGF含有アガロースロッドの埋込後11日目にレシピエントマウスにストレプトゾシン(STZ, 180mg/kg, Sigma)をiv注射して糖尿病を発症させた。続いて、膵臓から膵島細胞を単離し、直径 150-250 μmの細胞を手分けして選別、DMEM培地で培養、10%ウシ胎児血清(FBS)を用いてCO2インキュベータ(95% air + 5% CO2)で1-3日間処理した。得られた膵島細胞をドナーとして使用した。
bFGF含有アガロースロッドの埋込後11日目にレシピエントマウスにストレプトゾシン(STZ, 180mg/kg, Sigma)をiv注射して糖尿病を発症させた。続いて、膵臓から膵島細胞を単離し、直径 150-250 μmの細胞を手分けして選別、DMEM培地で培養、10%ウシ胎児血清(FBS)を用いてCO2インキュベータ(95% air + 5% CO2)で1-3日間処理した。得られた膵島細胞をドナーとして使用した。
(膵島細胞の細胞移植)
STZのiv注射後3日目にアガロースロッドを埋込んで14日目に、レシピエントマウスのISWAT に埋込んだアガロースロッドを除去したポケット状空間に、BALB/cマウス膵島細胞を、以下のようにして移植した。まず、レシピエントマウスの左側ISWATに埋込んだアガロースロッドで形成した細長い溝部の皮膚を垂直に切開し(図1)、アガロースロッド上の皮下組織と脂肪組織とを電気メスで切開してアガロースロッドを露出させた(図1)。続いて、ISWAT内のアガロースロッドを摘出した後、アガロースロッドを除去してBALB/c マウス膵島細胞をポケット内部に埋設した。なお、膵島細胞移植法は、以前報告した方法と全く同じ方法で、ドナー膵島細胞をPE50チューブに充填しハミルトン注射器でポケット内部に挿入した。
STZのiv注射後3日目にアガロースロッドを埋込んで14日目に、レシピエントマウスのISWAT に埋込んだアガロースロッドを除去したポケット状空間に、BALB/cマウス膵島細胞を、以下のようにして移植した。まず、レシピエントマウスの左側ISWATに埋込んだアガロースロッドで形成した細長い溝部の皮膚を垂直に切開し(図1)、アガロースロッド上の皮下組織と脂肪組織とを電気メスで切開してアガロースロッドを露出させた(図1)。続いて、ISWAT内のアガロースロッドを摘出した後、アガロースロッドを除去してBALB/c マウス膵島細胞をポケット内部に埋設した。なお、膵島細胞移植法は、以前報告した方法と全く同じ方法で、ドナー膵島細胞をPE50チューブに充填しハミルトン注射器でポケット内部に挿入した。
レシピエントマウスの尾部静脈から採血した試料を用いて、非絶食時血糖値をSTZ注射前と注射後2回、移植後30日までは週3回、その後は週1回測定した。免疫反応拒絶は、レシピエントマウスの移植後の連続血糖値が移植前レベルの400 mg/dlを超えたときに発生したと考えられる。血糖値はGlucoCard DIA メータ(Arkray, Kyoto, Japan)で測定した。
(免疫組織化学的検査)
同種膵島細胞移植を受けたマウスのISWATは移植後適切な時に先行技術に従って回収し、4%PFAに固定、加工してパラフィンに包埋し、組織学的分析のために切片を作製した。次に、切片はヘマトキリシンとエオシンで染色した。使用した一次抗体と二次抗体は次の通りである。guinea pig anti-insulin (DAKO, 1:200)、rabbit anti-glucagon (Thermo, 1:200)。また使用した二次抗体は、488-alexa anti-rabbitまたはanti-guinea pig IgG (Molecular Probes), Cy3 anti-rabbit IgG (Jackson)。細胞核はDAPI (Sigma-Aldrich, 1mg/ml)で共染色した。画像は蛍光顕微鏡法(Keyence BZ-9000)と共焦点顕微鏡法 (Zeiss LSM710)によって得た。
同種膵島細胞移植を受けたマウスのISWATは移植後適切な時に先行技術に従って回収し、4%PFAに固定、加工してパラフィンに包埋し、組織学的分析のために切片を作製した。次に、切片はヘマトキリシンとエオシンで染色した。使用した一次抗体と二次抗体は次の通りである。guinea pig anti-insulin (DAKO, 1:200)、rabbit anti-glucagon (Thermo, 1:200)。また使用した二次抗体は、488-alexa anti-rabbitまたはanti-guinea pig IgG (Molecular Probes), Cy3 anti-rabbit IgG (Jackson)。細胞核はDAPI (Sigma-Aldrich, 1mg/ml)で共染色した。画像は蛍光顕微鏡法(Keyence BZ-9000)と共焦点顕微鏡法 (Zeiss LSM710)によって得た。
(FACS分析)
ISWAT内のMSCsは、先行技術に記載の方法に従ってISWAT内の間質細胞を分離した。つまり、切除したマウスISWATをハサミでペトリ皿にミンチにし、14ml円錐形チューブに移し、Hank’s溶液で2回洗浄し、続いて37℃の振とう水浴で30分間コラゲナーゼ溶液(0.4mg/ml Hank’s 溶液)にて消化した。次に、得られた消化物は、Hank’s溶液で2回洗浄し、40 μM メッシュで濾過した。得られた細胞は次のフローサイトメトリーの実験に供した。
ISWAT内のMSCsは、先行技術に記載の方法に従ってISWAT内の間質細胞を分離した。つまり、切除したマウスISWATをハサミでペトリ皿にミンチにし、14ml円錐形チューブに移し、Hank’s溶液で2回洗浄し、続いて37℃の振とう水浴で30分間コラゲナーゼ溶液(0.4mg/ml Hank’s 溶液)にて消化した。次に、得られた消化物は、Hank’s溶液で2回洗浄し、40 μM メッシュで濾過した。得られた細胞は次のフローサイトメトリーの実験に供した。
(フローサイトメトリー)
このフローサイトメトリーに使用した抗体は次の通りである。
抗マウスFcRgII/III (2.4G2) 抗体、PE-複合抗CD3e (145-2C11) 抗体、ペリジニン-クロロフィルタンパク (PerCP)-複合抗CD4 (RM4-5) 抗体、PE-Cy7-複合抗CD8 (53-6.7) 抗体およびアロフィコシアニン(APC)-複合抗CD69(H1.2F3)抗体。全ての抗体はBioLegend (San Diego)から購入した。FACS分析はFACS-CantoII(BD)を用いて行い、FlowJoソフトウエアで解析した。
このフローサイトメトリーに使用した抗体は次の通りである。
抗マウスFcRgII/III (2.4G2) 抗体、PE-複合抗CD3e (145-2C11) 抗体、ペリジニン-クロロフィルタンパク (PerCP)-複合抗CD4 (RM4-5) 抗体、PE-Cy7-複合抗CD8 (53-6.7) 抗体およびアロフィコシアニン(APC)-複合抗CD69(H1.2F3)抗体。全ての抗体はBioLegend (San Diego)から購入した。FACS分析はFACS-CantoII(BD)を用いて行い、FlowJoソフトウエアで解析した。
(ISWATからMSCsの単離)
マウス左側ISWATからのMSCsは、マウスISWATの間質細胞として単離されたMNCsを一夜in vitro培養した後、FACS分析について記載した先行技術の方法と同様にして組織培養した培養皿に接着性細胞として得られた。つまり、左側ISWATのコラゲナーゼ消化後得られたMNCsをD-MEM培地に懸濁し、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加し、組織培養デイッシユに接種し、CO2インキュベータ(95% air + 5% CO2)を用いて37℃でin vitro培養した。一晩in vitro培養した後、培養皿の非接着性細胞は、培地変更して除去し、接着性細胞はさらに培養を続け、in vitro培養後3日目にPBSの 0.05%トリプシン溶液によって取り出し、その数をサイトメータで計数し、移植同種膵島細胞と共移植して以下の実験に供した。またMSCsを1x105 /dishの用量でさらに組織培養デイッシユに播種し、接着性細胞を、その接着性細胞がコンフルエントになる度に5-7日毎に次の工程を繰り返した。この接着性細胞はin vitro培養後適切な時に共移植の研究に供した。
マウス左側ISWATからのMSCsは、マウスISWATの間質細胞として単離されたMNCsを一夜in vitro培養した後、FACS分析について記載した先行技術の方法と同様にして組織培養した培養皿に接着性細胞として得られた。つまり、左側ISWATのコラゲナーゼ消化後得られたMNCsをD-MEM培地に懸濁し、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加し、組織培養デイッシユに接種し、CO2インキュベータ(95% air + 5% CO2)を用いて37℃でin vitro培養した。一晩in vitro培養した後、培養皿の非接着性細胞は、培地変更して除去し、接着性細胞はさらに培養を続け、in vitro培養後3日目にPBSの 0.05%トリプシン溶液によって取り出し、その数をサイトメータで計数し、移植同種膵島細胞と共移植して以下の実験に供した。またMSCsを1x105 /dishの用量でさらに組織培養デイッシユに播種し、接着性細胞を、その接着性細胞がコンフルエントになる度に5-7日毎に次の工程を繰り返した。この接着性細胞はin vitro培養後適切な時に共移植の研究に供した。
(MSCsの組織学的分析)
単離したMSCsを190Gで1分間遠心分離してペレットを作製し、得られたペレットを4% PFAで固定し、免疫組織化学的分析のために加工した。次に、bFGF処置前後のマウスISWAT内のMSCs局在を検出するために、bFGF含有ロッドを埋設したまたは埋設していないISWATを埋設14日目に摘出し、4% PFAで固定し、免疫組織学的分析のために加工した。続いて、試料切片をヘマトキシリンとエオシンで染色し、CD44、 Sca-1、CD26とCD109について免疫組織化学的に分析した。次の抗体を免疫組織化学的分析に使用した。Anti-CD44 抗体 (ab157107) (Rabbit) (Abcam)、Anti-Sca1 / Ly6A/E 抗体 [EPR3355] (ab109211) (Rabbit) (Abcam)、(CD29) Anti-Integrin beta 1 抗体 [EPR16895] (ab179471) (Rabbit) (Abcam)、(CD106) Anti-VCAM1 抗体 [EPR5047] (ab134047) (Rabbit) (Abcam)。コントロール抗体として Rabbit IgG, monoclonal [EPR25A]-Isotype Control (ab172730) (Abcam)を使用した。
単離したMSCsを190Gで1分間遠心分離してペレットを作製し、得られたペレットを4% PFAで固定し、免疫組織化学的分析のために加工した。次に、bFGF処置前後のマウスISWAT内のMSCs局在を検出するために、bFGF含有ロッドを埋設したまたは埋設していないISWATを埋設14日目に摘出し、4% PFAで固定し、免疫組織学的分析のために加工した。続いて、試料切片をヘマトキシリンとエオシンで染色し、CD44、 Sca-1、CD26とCD109について免疫組織化学的に分析した。次の抗体を免疫組織化学的分析に使用した。Anti-CD44 抗体 (ab157107) (Rabbit) (Abcam)、Anti-Sca1 / Ly6A/E 抗体 [EPR3355] (ab109211) (Rabbit) (Abcam)、(CD29) Anti-Integrin beta 1 抗体 [EPR16895] (ab179471) (Rabbit) (Abcam)、(CD106) Anti-VCAM1 抗体 [EPR5047] (ab134047) (Rabbit) (Abcam)。コントロール抗体として Rabbit IgG, monoclonal [EPR25A]-Isotype Control (ab172730) (Abcam)を使用した。
STZ誘導糖尿病C57BL/6マウスの腎臓被膜下へのC57BL/6マウスのISWATから単離したMSCsとBALB/cマウス同種膵島細胞との共移植
培地内のBALB/cマウスの膵島細胞400個のバッチとMSCsを1.5ml微量遠心管に別々に移した。膵島細胞とMSCsを管底部に静置し、それぞれ190Gで1分間遠心分離し、約50 μlの培地が残った各管から上澄液を除去した。続いて、膵島細胞とMSCsを長さ約20cm の同じPE50ポリエチレンチューブ(Beckton Dickinson, Sparks, MD)内にハミルトン注射器(Hamilton Company, Reno, Nevada)を用いて吸引し、PE50チューブを15ml円錐状チューブに傾けて置いた後、190Gで1分間遠心分離し、PE50チューブの中心部に膵島細胞とMSCsからなるペレットを作成した。ドナー塊の目的指標としてペレットの長さ(図2a)の測定後、PE50ペレットをその先端から約1mm離れた箇所で切断し、そのチューブの別の端をハミルトン注射器に結合した。
培地内のBALB/cマウスの膵島細胞400個のバッチとMSCsを1.5ml微量遠心管に別々に移した。膵島細胞とMSCsを管底部に静置し、それぞれ190Gで1分間遠心分離し、約50 μlの培地が残った各管から上澄液を除去した。続いて、膵島細胞とMSCsを長さ約20cm の同じPE50ポリエチレンチューブ(Beckton Dickinson, Sparks, MD)内にハミルトン注射器(Hamilton Company, Reno, Nevada)を用いて吸引し、PE50チューブを15ml円錐状チューブに傾けて置いた後、190Gで1分間遠心分離し、PE50チューブの中心部に膵島細胞とMSCsからなるペレットを作成した。ドナー塊の目的指標としてペレットの長さ(図2a)の測定後、PE50ペレットをその先端から約1mm離れた箇所で切断し、そのチューブの別の端をハミルトン注射器に結合した。
膵島細胞の腎臓被膜下への移植は、先行技術記載の方法を少し変えて行った。簡単に言えば、左側腎臓を露出させた後、腎臓被膜を少し切開し、被膜下にガラス製へらで空間を作成し、PE50チューブに充填した膵島細胞とMSCsを入れた。
対側腎臓被膜下への2回目膵島細胞移植
左腎臓被膜下に共移植したMSCsと同種膵島細胞を手術用顕微鏡(Olympus, Tokyo, Japan)で観察した。移植後MSCsと同種膵島細胞を含む腎臓を摘出し、その腎臓を4% PFAで固定し、パラフィンに包埋し、組織学的分析に供した。
左腎臓被膜下に共移植したMSCsと同種膵島細胞を手術用顕微鏡(Olympus, Tokyo, Japan)で観察した。移植後MSCsと同種膵島細胞を含む腎臓を摘出し、その腎臓を4% PFAで固定し、パラフィンに包埋し、組織学的分析に供した。
BALB/cマウス膵島細胞とMSCsとを左腎被膜下に共移植後正常血糖値を示すレシピエントマウス(C57BL/6)に対し、移植後180-240日に反対側である右側腎臓被膜下へBALB/cマウスまたは3rd partyであるC3H膵島細胞の2回目移植を行った。次に、初回目移植膵島細胞を含む腎臓を摘出し、血糖値を2回測定、3-5日後に2回目膵島細胞移植した右側腎臓も摘出して組織学的調査をした。
(統計学的分析)
FACSデータの統計学的有意差は、Student’s t testを用いて行った。測定値は個々の実験からのs mean ± SEMとして表した。カプランーマイヤーカーブはlog-rank testによって決定した。P値0.05以下の相違は全て統計学的に優位さありと考えた。
FACSデータの統計学的有意差は、Student’s t testを用いて行った。測定値は個々の実験からのs mean ± SEMとして表した。カプランーマイヤーカーブはlog-rank testによって決定した。P値0.05以下の相違は全て統計学的に優位さありと考えた。
実施例1は、マウスをbFGFで局所的に前処置してISWATに移植した同種膵島細胞の拒絶防止に関する実験である。
実施例1では、Iwataらの先行技術に記載されているラットの背部皮下脂肪組織ではなく、マウス鼠径部皮下脂肪組織(ISWAT)を移植前にbFGFで処置し、マウス同種膵島細胞を細胞移植した場合、免疫抑制剤を使用しないでマウス同種膵島細胞移植の拒絶反応を防止できるかどうかを確認した。
bFGFで前処置したSTZ誘導糖尿病C57BL/6マウスの背部皮下脂肪組織内にBALB/c膵島細胞を移植したところ、移植BALB/c膵島細胞全てが拒絶されたことを示している(図9参照)。
一方、本発明の実験では、最初に、C57BL/6マウスの左側ISWATに埋設したbFGF注入アガロースロッドを介してbFGFを投与した。続いて、1から3週間後、埋設アガロースロッドを除去した後の空間(図1)にBALB/cマウス膵島細胞を移植した。レシピエントマウスは、移植3日前にSTZ(180mg/kg)を静注して糖尿病を誘導した。レシピエントマウスには膵島移植の前後には免疫抑制剤を投与しなかった。このモデルには、bFGF濃度、ロッド除去後の埋込と膵島移植間の時間差、アガロースロッドのサイズ等の多くの変数が含まれているので、かかる個々の変数を1つずつ評価して、免疫抑制剤を使用しないで同種細胞移植に対する拒絶が防止可能な最適条件を見いだした。その結果、2ドナ-BALB/cマウスから単離した膵島細胞400個を移植したSTZ誘導糖尿病C57BL/6マウスの高血糖症が寛解した。そのうち、レシピエントマウス14匹のうち11匹が移植後90日以上正常血糖値を保持した(非絶食時血糖値レベル;<200mg/dl)。なお、移植処理は、直径2.5mmx長さ10mmサイズのアガロースロッドにbFGF 10μg 含有溶液50μlを注入し、2週間埋設を継続した(図2a左パネル参照)。膵島移植90日後に移植した機能性同種膵島細胞を有するISWATを摘出したところ、レシピエントマウスは直ぐに高血糖症に戻った(*印、図2a左パネル)。このことは、レシピエントマウスの正常血糖値は移植した同種膵島細胞に依存していたことを示している。
肉眼的ならびに顕微鏡的検査では、先行技術(非特許文献11)で報告したように、移植した膵島細胞は、移植同系膵島細胞に類似する膵島細胞が集合した塊からなる大きなクラスターを形成しているのが認められた。この膵島細胞の塊には単核細胞の浸潤は認められず、膵島細胞そのものの細胞が認められた。
対照的に、ビーイクルを含むアガロースロッドをISWATに埋込み、C57BL/6マウスの膵島細胞400個を移植したレシピエントC57BL/6 マウスの高血糖症は移植後に寛解したが、レシピエントマウス17匹のうち13匹(76%)は移植後90日目までに高血糖症を再発した(図2b左パネル)。この実験では、組織学的には、高血糖症のレシピエントでは移植同種膵島細胞が拒絶されたこと、また移植膵島細胞へ浸潤した単核細胞の蓄積が認められた(図2b、右パネル)。このことは、移植同種異系膵島細胞は高血糖症レシピエントマウスでは拒絶されることを示している。
これに加えて、いずれの未処置マウスでは全て(n=6)移植同種膵島細胞が拒絶され、移植14日目までに高血糖症が再発した(図2c)。この実験結果は以前報告した結果と全く同じであった(非特許文献11)。bFGF処置群とビーイクル処置群の間の移植同種膵島細胞の生存率の違いはLog-rank test (P<0.05)により統計的に有意差があると認められた(図2d)。
したがって、直径2.5mmx長さ10mmサイズのアガロースロッドにbFGF 10μg/50μl 溶液を注入し、2週間埋設を継続したモデルを今後の実験において使用した。
続いて、反対側の移植部位である右側ISWATに同種膵島細胞を移植したときに同種移植細胞が拒絶されるかどうかを調べた。また、この実験は、ISWATをbFGFで前処置して得られる有効な拒絶防止効果が局所的にまたは全身的に介在されるかどうかの疑問にも答えることになる。この実験の結果、左側のISWATをbFGFで処置した後に、同種膵島細胞を反対側の移植部位である右側ISWATに移植したときに拒絶された(図2e)。このことは、bFGF処置後のISWATが移植部位であるときにだけ、その処置によって局所的に不応答性が達成されることを示している。
実施例2は、移植同種膵島細胞を許容しないで拒絶するISWAT内のCD8 T細胞の増殖を示す実験である。ISWAT内での移植同種細胞に対する単核細胞の免疫応答を分析するために、ISWATの単核細胞を単離し、フローサイトメトリーで調べた。
同種異系(BALB/cマウス)膵島細胞400個を移植した未処置STZ誘導糖尿病C57BL/6マウスの左側ISWATから単核細胞を単離したときに、CD3T細胞、実際にはISWATに浸潤しているCD8T細胞が、移植7日後同数の同系(C57BL/6)膵島細胞を移植したISWATから単離したCD8T細胞の数に比べて統計的に有意な数増加していることが判明した(図3a)。さらに、同種膵島細胞を拒絶するマウスISWAT内のCD8T細胞への活性化マーカーのCD69の発現が増加していることも判明した(図3b)。
これに対して、bFGFで処置したマウスISWAT内のCD69+CD8T細胞を含むCD8 T細胞の数は、移植同種膵島細胞を拒絶したマウスのそれに比べて、増加していなかった(図3b)。この知見は、拒絶に関連するISWAT内のCD8T細胞の増殖を表す同種異系膵島移植後のISWAT内の免疫反応が処置によって抑制されていることを示している。
実施例3では、免疫抑制が起こらず許容性(acceptance)を維持できる期間を調べるために、前処置後にISWATに同種異系膵島細胞を移植する実験を行った。移植同種膵島細胞を免疫抑制なしに許容したマウスのうち、4匹が移植後1年以上も正常血糖値を維持した。また、驚いたことに、これらのマウスは、観察が終了するまでは正常血糖値を維持したが、観察を終了して移植同種膵島細胞をISWATから回収するとすぐに高血糖値に戻った(図4、*印左パネル)。組織学的には、膵島細胞そのものからなる大きなクラスターが観察された(図4、右パネル)。この知見は、前処置後にレシピエントマウスのISWATに移植した同種膵島細胞がその機能を免疫抑制が起こることなしに1年以上維持したことを示している。
実施例4は、同種膵島移植が免疫抑制を起こさずに許容性(acceptance)を介在する分子が、IL-10ではなく、TGFβであることを確認する実験である。サイトカインのうち、IL-10とTGFβは免疫抑制効果を有する分子であることが知られている。したがって、本実験では、まず、IL-10欠損マウスをレシピエントとして使用して、bFGF処置が同種膵島移植に対して有効な拒絶防止効果を及ぼすかどうかを調べたところ、bFGF処置したSTZ誘導糖尿病IL-10 欠損マウス7匹のうち4匹が移植90日後も正常血糖値を維持した(図5a、右パネル)。一方、bFGF未処置のSTZ誘導糖尿病IL-10 欠損マウスに対して同様の実験を行ったところ、IL-10 欠損マウス5匹全部が移植21日後までに高血糖値に戻った(図5a、左パネル)。後者の実験では、レシピエントマウス全部のISWATには膵島細胞ではなく単核細胞の病巣だけが認められたことから、拒絶が組織学的に確認された。この知見は、bFGF処置による拒絶防止に対する有効な拒絶防止効果が、IL-10欠損マウスをレシピエントとして使用したときでも消失しなくて、IL-10欠損が処置後の移植同種膵島の生存結果に影響を及ぼさなかったことを示している。
他方、抗TGFβ抗体の投与がbFGF処置による良好な拒絶防止効果に影響を及ぼすかどうかの実験をした。実験の結果、同種膵島細胞移植後抗TGFβ抗体を投与したbFGF処置レシピエントマウス9匹のうち1匹だけが移植90日後まで正常血糖値であった(図5b、左パネル)。これに対して、アイソタイプコントロールとしてマウスIgG1を移植後投与したレシピエントマウス7匹のうち6匹が同種膵島細胞移植90日後でも正常血糖値を維持するという著しい効果を示した(図5b、右パネル)。
上記2つのグループ間の移植同種膵島細胞の生存率の違いは統計学的に有意差がある(図5c, Log-rank test, P<0.01)。この知見は、bFGF処置による有効な拒絶防止効果が抗TGFβ抗体の処置によっても消失していないこと、また処置によって達成される移植同種膵島細胞の拒絶反応防止がTGFβに依存していることを示している。
実施例5は、bFGF処置がISWAT内での間葉系幹細胞(MSCs)の増殖を示す実験である。本発明者は、bFGF処置後のISWAT内のMSCsが一定の役割を果たすのではないかという仮説を立てて、ISWATなどの脂肪組織には、移植同種膵島細胞の拒絶に対し抑制効果を有するMSCsが含まれていることについての報告がある。
実施例5では、ISWATのbFGF前処置がMSCsに対して如何なる効果を及ぼすかどうかを調べるために、前処置前後のMSCsの数を調べた。まず、各マウスから左側ISWATを切除し(図6a)、重量を測定後、MSCsを先行技術記載の方法に従って単離した。測定の結果、非常に驚いたことに、また非常に重要なことであるが、ナイーブマウスのISWAT内のMSCsの数があまりにも少なくて正確に計測することが不可能であった(図6b、上パネル)。これとは著しく対照的に、bFGF前処置後のISWAT内のMSCsの数は顕著に増加していた(図6b、下パネル)。また、培養デイッシユに接着したMSCsの数が、in vitro培養後の処置には関係なく2倍以上に増加していたことも注目に値する(図6b)。つまり、in vitro培養3日目に処置したISWATから単離したMSCsの数は、7.12 ± x 105 /100 mg fat tissue (n=4, mean ± SD) であったのに対して、ナイーブマウスのISWATから単離したMSCsの数は非常に少ないままで0.77x105 ± /100mg fat tissue (n=4) であった(図6b、図6c)。またビーイクルで処置し3日間培養したマウスISWATから単離したMSCsの数は、bFGF処置マウスISWTから単離したMSCsの数よりも有意的に少なかった(図6c)。
実施例6では、bFGF前処置後のマウスISWAT内でのMSCsの増殖状況ならびに場所を分析するために、まず、前処置後のISWATから単離したMSCsの特性を免疫組織染色で調べた。染色の結果、bFGF前処置マウスISWATから単離したMSCsはCD44, Sca-1, CD29ならびにCD106に対し陽性であった(図6d)。このことは以前報告したMSCsの特性と合致した。
次に、bFGF前処置前後のマウスISWATについて調べたところ、ナイーブマウスのISWATではCD44に対して陽性であるMSCsは非常に少なく、ほとんど存在していなかった(図6e、上部パネル)。また、興味が持てることに、CD44とSca-1に対して陽性であったbFGF前処置MSCsは主にbFGF含有アガロースロッドの外表面に沿って線状に局在していた(図6e、下部パネル)。つまり、これらの知見は、MSCsがbFGFに直接応答して増殖可能であることを示している。
実施例7は、bFGF前処置によってISWAT内に増殖した同系MSCs(同種異系MSCsではなく)と膵島細胞とを共移植した場合、移植同種膵島細胞に対し免疫拒絶が起こらないで拒絶反応を防止できるかどうかの実験である。この実験では、bFGF前処置したISWATにおいて数が増加したMSCsが免疫抑制剤なしに移植同種膵島細胞の拒絶反応防止に対して抑制効果を有するかどうかを調べた。
本実施例では、腎臓被膜下の空隙を、ISWATの代わりに移植部位として使用した別の膵島細胞移植モデルとして利用した実験である。この実験では、前処置をしたC57BL/6マウスのISWATに移植した同種膵島細胞が、免疫抑制を受けずに拒絶防止が可能かどうかを調べた。ISWATの代わりに腎臓被膜下を移植部位に選択した理由は、腎臓被膜下にはMSCsが存在しないので、MSCsを共移植したときの移植同種膵島細胞に対する拒絶防止効果が、MSCsを主に含んでいるISWATを共移植部位に選択した場合に比べてより明確に現れると考えられるからである。
これらの実験で共移植に必要な十分な数のMSCsを得るために、マウス4匹の左側ISWATを切除してコラゲナーゼ消化を施し、得られた消化物を培養デイッシユ4個に播種した。これによって各培養デイッシユには各マウス単独からの各脂肪細胞片由来の消化物が含有されていることを示している。
次いで、接着MSCsを3日間培養して以下の移植実験に供した。まず、MSCsの容量はPE50チューブ内の膵島細胞400個のそれとほぼ同数であるから、各移植に、処置ISWATから単離したMSCs 2x105個を使用した(図7a)。従って、MSCs対ドナー膵島細胞の比率はほぼ1対1であった。
実験の結果、BALB/cマウスのドナー2匹からの膵島細胞400個を共移植した糖尿病レシピエントマウス8匹のうち7匹(88%)が免疫抑制を受けずに移植90日後でも正常血糖値を維持した(図7b、上部左側パネル)。しかし、移植膵島細胞とMSCsを有する腎臓を摘出すると、それらのレシピエントマウスはすぐに再び高血糖症に戻った(図7b、上部左側パネルの* 印)。このことは、レシピエントマウスの高血糖症が移植膵島細胞に依存していることを示している。肉眼観察では、見た目が白っぽい繊維状で血管新生した構造に囲まれた黄色の移植膵島細胞自体は、移植部位の腎臓皮膜下に観察された(図7bの上部右側パネル)。組織学的には、単核細胞の浸潤がない密な繊維状組織で囲まれた移植膵島細胞自体は腎臓皮膜下に検出された(図7bの上部右側パネル)。
一方、コントロールとして、ビーイクルで処置したISWATから単離したMSCs 2x105 個を有する同種BALB/cマウス膵島細胞を使用した場合、レシピエントマウス11匹中10匹が移植90日までに拒絶された(図7b、中央左側パネル)。この事例では、単核細胞が浸潤した膵島細胞が組織学的に認められた(図7b、中央右側パネル)。両群の移植組織片の生存率の違いは統計学的に有意差があった(図7b、下部パネル、Log-rank test, P<0.001)。これらの知見は、処置後のISWATから単離されたMSCsとの共移植が免疫抑制を起こさない移植同種膵島細胞の拒絶反応防止を促進することを示している。
続いて、MSCsとの共移植が同種膵島移植の拒絶防止に対して有利な拒絶防止効果を果たすかどうかの実験をした。ここでは、共移植のためのMSCsの数を2x105 個から4x104 個に減らして実験した。その結果、レシピエントマウス6匹のうち4匹が移植後90日目までに移植同種膵島細胞を拒絶した。MSCs4x104 個とMSCs2x105 個との共移植の場合での生存率の違いは統計学的に有意差があった(Log-rank test, P<0.05)。この知見はまた、MSCsとの共移植による同種膵島細胞移植に対する拒絶防止はMSCsの用量依存的であることを示している。
実施例8では、MSCsによって得られる有効な拒絶防止効果が、in vitro培養期間中にMSCsが急速に増殖することから拒絶防止に対する抑制効果の特性が変化するかもしれないことから、共移植するMSCsを移植前に長期間in vitro培養を行って調べた。この実験のために、数工程後に共移植するためにMSCsを準備した。上述したように、培養デイッシユ中のMSCsがコンフルエントになったとき、デイッシユ中のMSCsの数は1日目から3日目までに2倍になった(図6b、6c)。次の工程のために、MSCsを 1x105の用量で各デイッシユに播種し、この行程を5日~7日毎に同様に繰り返した。その結果、10日間と16日間培養したMSCsを移植同種膵島細胞との共移植に使用したとき、移植後90日目の移植細胞の生存率はそれぞれ14%(1/7)と0%(0/4)であった(図7d、7e)。この結果は、処置後のISWATから単離したMSCsの抑制効果は培養期間中に消失してしまったことを示している。
実施例9では、処置後ISWATに増殖した同種異系MSCs(同系MSCsではなく)を共移植に使用したとき、免疫抑制が起こらないで移植同種膵島細胞に対する拒絶反応防止が達成できるかどうかを調べた。実験の結果、処置後のBALB/cマウス(図7f)またはC3Hマウス(図7g)のISWATから単離した同種異系MSCsを共移植に使用したとき、STZ誘導糖尿病C57BL/6マウスの腎臓被膜下に移植したBALB/cマウス同種膵島細胞に対する拒絶防止はされなかった。
本実施例では、bFGF処置後のマウスISWATに増殖したMSCsと共移植した同種膵島細胞に対する拒絶防止に関与している分子について調べた。かかる拒絶防止に関与している分子としては、処置後マウスのISWATにおいて免疫抑制が起きないで移植同種膵島細胞に対する拒絶防止の場合と同様に(図5b)、TGFβが本質的な役割を果たしていることが考えられる。事実、処置後ISWAT内でin vivo的に増殖したMSCsと共移植した場合、移植同種膵島細胞の拒絶防止に対する有効な効果は、抗TGFβ抗体の投与で消失してしまった。この事象は、C57BL/6マウス8匹全てがBALB/cマウスの移植同種膵島細胞が拒絶された(図7f)のに対して、著しく対照的に、アイソタイプコントロールとしてマウスIgG1を投与したマウスでは、10匹全ての移植同種膵島細胞は拒絶されないで、移植したマウス全てが移植後90日目でも正常血糖値であった(図7g)。また両群間の生存率の違いは統計的に有意差があった(図7h)。
実施例11では、膵島細胞をin vivo増殖MSCsと共移植した場合、移植同種膵島細胞が免疫抑制を受けずに許容されるのは、そこには全身的な不応答性よりはむしろ局所的な不応答性が介在しているからではないかを調べた。bFGF処置したISWATでin vivo増殖したMSCsとの共移植によって、移植同種膵島細胞が免疫抑制を受けずに許容されるかどうかを知ることは非常に重要である。
そこで、本実施例において、in vivo増殖したMSCsとSTZ糖尿病マウスの左腎被膜下に共移植したBALB/cマウス同種膵島細胞移植(初回目)を許容する正常血糖値マウスの右側腎臓被膜下に、初回目移植後180日~240日目に細胞移植をしたときに、ドナー特異的 (donor-specific) マウス(BALB/cマウス)または第三者(third party)マウス(C3Hマウス)の同種膵島細胞移植は拒絶されるか、または許容されるかどうかを調べた。さらに、拒絶された場合、初回目移植で許容された移植同種膵島細胞は膵島細胞移植(2回目)によって誘導される拒絶から保護されるかまたは障害を受けるかどうかを調べた。ドナー特異的BALB/cマウスの同種膵島細胞を2回目移植のドナーとして使用した場合、レシピエントマウスは2回目移植後60日目でも正常血糖値であった(図8a左パネル)。なお、移植(初回目)BALB/cマウス同種膵島細胞を有する左側腎臓を摘出するとすぐにレシピエントマウスは高血糖症に戻ってしまった(図8a左パネル)。組織学的には、移植膵島細胞はレシピエントマウスの左側腎臓被膜下に認められた。また単核細胞の病巣は移植膵島細胞に隣接して観察された(図8a、左側組織パネル)。また、左側腎臓の除去4日後、2回目の膵島細胞移植を受けた右側の腎臓を切除し組織学的調査をしたところ、膵島細胞は認められず、単核細胞の累積物だけが右側腎臓被膜下に観察された(図8a、右側組織パネル)。これらの知見は、右側ISWATに2回目移植したBALB/cマウス膵島細胞は拒絶されたけれども、初回目移植では許容された移植BALB/cマウス膵島細胞は2回目膵島細胞移植によっても拒絶から保護されていることを示している。
一方、C3Hマウス膵島細胞を右側腎臓被膜下に移植したとき、右側腎臓被膜下のBALB/cマウス膵島細胞を有するレシピエントマウスは2回目移植後60日間以上も正常血糖値であった。しかし、初回目移植のBALB/cマウス膵島細胞を有する左側腎臓を摘出するとすぐに再び高血糖症に戻った(図8b、左パネル)。組織学的には、BALB/cマウス膵島細胞がそのまま左側腎臓被膜下に認められたことになる(図8b、左側組織学パネル)。これに対して、右側腎臓被膜下では移植膵島は認められないが、単核細胞だけが観察された(図8b、右側組織学パネル)。このことは、右側腎臓被膜下の移植C3Hマウス同種膵島細胞は拒絶されたが、左側腎臓被膜下のBALB/cマウス移植同種膵島細胞は拒絶されなかったことを示している。これらの知見は、iMSCsとの共移植後に左側腎臓被膜下の初回目移植のBALB/c同種膵島細胞が許容されたことが、全身的な不応答性よりもむしろ局所的な不応答性を介して維持されたことを示している。
Claims (11)
- 皮下脂肪組織由来間葉系細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSCs)またはインビトロ培養されたMSCsとからなる共移植用細胞製剤。
- 請求項1に記載の共移植用細胞製剤において、前記拒絶制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系細胞(MSCs)が、皮下脂肪組織を血管新生誘導因子によって前処置することによって誘導新生されたまたはインビトロ培養されたMSCsであること。
- 請求項1または2に記載の共移植用細胞製剤において、前記血管新生誘導因子が、線維芽細胞増殖因子-1または塩基性線維芽増殖因子から選ばれる線維芽細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、または炎症惹起因子であること。
- 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の共移植用細胞製剤において、前記共移植用細胞製剤が、移植素材をさらに含んでいること。
- 請求項4に記載の共細胞製剤において、前記移植素材が、同種もしくは異種膵島細胞、人工由来細胞のiPS細胞もしくはES細胞などのインスリン産生細胞、または、かかる細胞もしくは骨髄を含む組織や臓器であること。
- 拒絶制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSCs)と移植素材と同時に共移植することを特徴とする細胞移植方法。
- 請求項6に記載の細胞移植方法において、前記細胞移植方法が、免疫抑制剤を使用しない細胞移植方法であって、皮下脂肪組織移植部位を血管新生誘導因子によって前処置することにより拒絶制御能を有する皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells: MSCs)を該移植部位内に誘導する幹細胞誘導手段と、前記間葉系幹細胞が誘導された前記移植部位に移植素材を移植して、免疫抑制剤を使用しないで移植を維持する細胞移植手段とからなること。
- 請求項7に記載の細胞移植方法において、前記MSCsが血管新生誘導因子を用いて前処置することによって誘導増殖されたものまたはインビトロ培養して得られたMSCsであること。
- 請求項6ないし8のいずれか1項に記載の細胞移植方法において、前記細胞増殖因子が、線維芽細胞増殖因子-1(acid fibroblast growth factor; aFGF)または塩基性線維芽増殖因子(basic fibroblast growth factor; bFGF)から選ばれる線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factors; FGFs)、血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor VEGF)、血小板由来増殖因子(Platelet-derived growth factor; PDGF)、または炎症惹起因子であること。
- 請求項6ないし9のいずれか1項に記載の細胞移植方法において、前記皮下脂肪組織移植部位が鼠径部、腋下、背中または腹部であること。
- 請求項6ないし10のいずれか1項に記載の細胞移植方法において、前記移植細胞が、同種もしくは異種膵島細胞、人工由来細胞のiPS細胞もしくはES細胞などのインスリン産生細胞、または、かかる細胞もしくは骨髄を含む組織や臓器であること。
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