JP2022115790A - 質量分析装置 - Google Patents

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【課題】一度の測定で、質量分析と、異性体を識別するための電子線回折測定の両方を実行可能な装置を提供する。また、そのような装置において、従来よりも効率よく電子線回折測定を行うことができる技術を提供する。【解決手段】試料からイオンを生成するイオン化部201と、イオン化部で生成されたイオンを質量分離する質量分離部231、235と、質量分離部で質量分離されたイオンを検出するイオン検出器237と、質量分離部で質量分離されたイオンを捕捉するイオン捕捉部31と、イオン捕捉部に捕捉されたイオンにより回折された電子線を検出する電子線検出部32とを備える質量分析装置1。【選択図】図1

Description

本発明は、質量分析装置に関する。
試料に含まれる成分の同定や定量に質量分析装置が広く用いられている。質量分析装置では、試料成分から生成したイオンを質量分離し、質量電荷比毎のイオン強度を測定する。そして、質量電荷比とイオンの強度を二軸とするマススペクトルを作成し、既知物質のマススペクトルとの一致度などに基づいて当該成分を同定する。また、マススペクトル上のマスピークの強度に基づいて当該成分を定量する。
試料成分が比較的大きい分子である場合には、試料成分から生成したイオンそのものから当該成分を同定することが難しい。そこで、試料成分から生成したイオンの中から特定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオンとして選択し、そのプリカーサイオンを開裂させて生成したプロダクトイオンを質量分離して質量電荷比毎のイオンの強度を測定するMS/MS分析が行われる。MS/MS分析では、種々のプロダクトイオンの質量電荷比から試料成分の部分構造を推定して試料成分を同定する。
質量分析はイオンを質量電荷比に応じて分離するものであるため、質量電荷比が同一であるイオンを分離することができない。例えば、ブタンとイソブタンはメチル基の結合位置が異なる構造異性体であるが、両者の質量は同一であるためこれらのイオンを分離することはできない。また、構造異性体の場合、プリカーサイオンを開裂させてプロダクトイオンを生成しても同一種のプロダクトイオンのみが生成されることが多く、両者を識別することが困難である。
そこで、従来、質量分析では得ることができない、分子の幾何学的構造(原子間距離や結合角)の情報を得るために別の測定法が用いられている。そのような測定法には、例えば、回転スペクトル測定、電子線回折測定、及びX線回折測定がある。回転スペクトル測定では、マイクロ波を試料ガスに照射して吸光度を測定(吸光測定)したり、試料ガスからの発光を分光測定したりするが、電子線回折測定やX線回折測定といった回折法に比べて感度が悪い。また、X線回折測定の弾性散乱断面積は電子線回折の弾性散乱断面積の10-5~10-4倍と小さく(例えば非特許文献1)、試料ガスを対象とする測定では電子線回折に比べると感度が悪い。これらの点から、従来、非特許文献2-5に記載のような電子線回折測定により分子の幾何学的構造を得ることが提案されている。
非特許文献2及び3には電子線回折装置が記載されている。これらの装置では、中性気体分子をイオントラップの内部に導入してレーザ光を照射することによりイオン化(光イオン化)し、生成した複数種類のイオンをイオントラップに捕捉した後、該イオントラップで質量選別を行って解析対象のイオンのみを捕捉する。その後、イオントラップ内に捕捉したイオンに電子線を照射して電子線回折像を取得する。この電子線回折像を解析することにより分子の幾何学的構造の情報を得る。
非特許文献4には、電子線回折測定を実行するための装置と質量分析装置とを組み合わせた装置が記載されている。この装置は、イオン化部下流に、イオンの飛行方向を偏向させる偏向部を備えており、該偏向部により偏向方向を切り替えることによって、イオン化部で生成したイオンをイオントラップ又は飛行時間型質量分離部のいずれかに導入する。イオントラップでは、非特許文献2及び3の装置と同様に電子線の照射により回折像を取得し、イオンの分子構造の情報を得る。一方、飛行時間型質量分離部ではマススペクトルを得ることでイオン源でのイオン生成の状態をモニタリングする。
羽田真毅、「テーブルトップ型フェムト秒電子線回折法を用いた超高速構造ダイナミクスの観測」、Journal of the Vacuum Society of Japan、59巻 (2016)、2号 加藤景子、学位論文要旨「イオントラップ電子回折装置の開発と分子イオンの構造決定および反応追跡への応用」、2006年、東京大学大学院理学系研究科、[online]、[2020年12月21日検索]、インターネット<URL:http://gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/gazo.cgi?no=121041> 田中秀昂 他3名、第9回分子科学討論会2015東京講演要旨「分子イオンの幾何学的構造決定のためのイオントラップ電子回折装置」、[online]、2015年8月31日、分子科学会、[2020年12月21日検索]、インターネット<URL:http://molsci.center.ims.ac.jp/area/2015/PDF/pdf/1P012_w.pdf> D. Schooss, M.N. Blom, J.H. Parks, B.V. Issendorff, H. Haberland, and M.M. Kappes, "The structure of Ag55+ and Ag55-: Trapped ions electron diffraction and density functional theory", Nano Lett. 5 (2005) 1972. M. Marier-Brost, D. B. Cameron, M. Rokni, and J.H. Parks, "Electron diffraction of trapped cluster ions", Phys. Rev. A 59 (1999) R3162.
非特許文献2-5に記載されているような、電子線回折測定を実行するための構成を質量分析装置と組み合わせることにより、一つの装置で、質量分析を基本としつつ、質量分析による識別が困難な構造異性体などを同定する際に回転スペクトル測定やX線回折測定よりも高感度で分子の幾何学的構造(原子間距離や結合角)の情報を取得して試料成分を同定することが可能となる。しかし、従来提案されている電子線回折装置では、解析に足る強度の回折像を得るために、例えば5~6時間という長時間にわたり電子線を照射し続けなければならない。一方、質量分析は数分程度の短時間で実行可能である。このように、従来の構成では補助的に行う電子線回折測定に要する時間が、主たる測定である質量分析に要する時間よりも大幅に長くなってしまう。そのため、より効率よく電子線回折測定を行うことができる技術が求められている。
ここでは、質量分析に加えて分子の幾何学的構造の情報を得るための測定を行う場合を例に説明したが、質量分析に加えて、質量分析では得られない情報を得るための様々な副測定を行う場合に上記同様の問題があった。
本発明が解決しようとする課題は、一度の測定で、質量分析と、質量分析では得られない情報を得るための副測定の両方を実行可能な装置を提供することである。また、そのような装置において、従来よりも効率よく副測定を行うことができる技術を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、
試料からイオンを生成するイオン化部と、
前記イオン化部で生成されたイオンを質量分離する質量分離部と、
前記質量分離部で質量分離されたイオンを検出するイオン検出器と、
前記質量分離部で質量分離されたイオンを捕捉するイオン捕捉部と、
前記イオン捕捉部に捕捉されたイオンの、質量電荷比以外の物理量を測定する副測定部と
を備える。
本発明に係る質量分析装置では、イオン化部で生成されたイオンを質量分離部で質量分離し、イオン検出器で検出することにより質量分析を行うことができる。また、イオン化部で生成されたイオンを質量分離部で質量分離して解析対象のイオンを選別したあと、イオン捕捉部に捕捉して質量電荷比以外の物理量を測定(副測定)することもできる。副測定は、例えば、イオン捕捉部に捕捉されたイオンに対して電磁波(光線等)や粒子線を照射し、該イオン捕捉部から出射する電磁波(光等)や粒子を検出するものとすることができる。具体的には、例えば、イオン捕捉部内に解析対象のイオンを蓄積した後、所定時間、それらに対して電子線を照射し、イオン捕捉部内のイオンによって回折された電子線を検出することにより電子線回折測定を行うことができる。質量分析のみでは質量電荷比が同一である異性体などを識別することができないが、本発明に係る質量分析装置は、副測定として、例えば上記のような電子線回折測定を実行することにより、分子構造の情報を取得して異性体などを識別することができる。また、本発明に係る質量分析装置では、イオンの飛行経路を適宜に変更することにより、一度の測定で、イオン化部で生成したイオンを質量分離して検出する質量分析と、該質量分離後のイオンを捕捉して、該イオンの質量電荷比以外の物理量を測定する副測定の両方を行うことができる。
イオン捕捉部(典型的には三次元イオントラップ)に過剰な量のイオンを捕捉した状態で該イオン捕捉部において質量分離を行おうとすると、イオン自身の電荷(空間電荷)によってイオン捕捉部内の電場が歪められて正常に質量分離することができなくなる。そのため、従来のようにイオン捕捉部で質量分離を行う構成では、該イオン捕捉部に捕捉可能なイオンの量には限界がある。また、従来の装置を用いて、試料から生成されたイオンを最大量捕捉しても、その後に行う質量分離によってイオンの量は減少する。これに対し、本発明に係る質量分析装置では、質量分離部によって解析対象のイオンを選別し、該解析対象イオンのみをイオン捕捉部に導入するため、最大量の解析対象イオンを捕捉して副測定に供することができ、従来よりも効率よく短時間で高強度の測定データが得られる。
なお、上記イオン捕捉部は、例えば質量分離部とイオン検出器の間に配置してもよく、質量分離部とイオン検出器の間にイオンの飛行方向を偏向する偏向部を設け、該偏向部で偏向されたイオンの飛行経路上にイオン捕捉部を配置してもよい。前者の場合は、イオン捕捉部を動作させず質量分離部で質量分離されたイオンをそのまま通過させてイオン検出器で検出して質量分析を行い、また、質量分離部で質量分離されたイオンをイオン捕捉部に捕捉して副測定を行えばよい。また、後者の場合は、質量分析時のイオンの飛行経路と副測定時のイオンの飛行経路が異なるため、両測定を並行して行うことができる。
本発明に係る質量分析装置の一実施例の概略構成図。 本実施例の質量分析装置を用いた測定例における対象化合物の測定条件。 本実施例において実行される測定内容を説明する図。 本実施例においてイオントラップに印加する矩形電圧について説明する図。 本実施例の質量分析装置において用いられるイオントラップ。 イオントラップに印加する矩形電圧の位相が0°であるときのイオントラップ内でのイオンのX軸方向の広がりに関するシミュレーション結果。 イオントラップに印加する矩形電圧の位相が90°であるときのイオントラップ内でのイオンのX軸方向の広がりに関するシミュレーション結果。 イオントラップに印加する矩形電圧の位相が180°であるときのイオントラップ内でのイオンのX軸方向の広がりに関するシミュレーション結果。 イオントラップに印加する矩形電圧の位相が270°であるときのイオントラップ内でのイオンのX軸方向の広がりに関するシミュレーション結果。 イオントラップに印加する矩形電圧の位相が0°であるときのイオントラップ内でのイオンのZ軸方向の広がりに関するシミュレーション結果。 イオントラップに印加する矩形電圧の位相が90°であるときのイオントラップ内でのイオンのZ軸方向の広がりに関するシミュレーション結果。 イオントラップに印加する矩形電圧の位相が180°であるときのイオントラップ内でのイオンのZ軸方向の広がりに関するシミュレーション結果。 イオントラップに印加する矩形電圧の位相が270°であるときのイオントラップ内でのイオンのZ軸方向の広がりに関するシミュレーション結果。 電子線回折測定について説明する図。 本実施例の質量分析装置を用いたクロマトグラフ質量分析装置。 本実施例の質量分析装置を用いたイオン移動度分析-質量分析装置。 本実施例の質量分析装置を用いたクロマトグラフ-イオン移動度分析-質量分析装置。 変形例の質量分析装置における各部の配置例。 本発明に係る質量分析装置において実施可能な副測定の例。 各種の副測定を行う質量分析装置の概略構成例。 各種の副測定を行う質量分析装置の別の概略構成例。
本発明に係る質量分析装置の一実施例について、以下、図面を参照して説明する。
図1は、本実施例の質量分析装置1の概略構成図である。本実施例の質量分析装置1は、装置本体10と制御・処理部4で構成されている。装置本体10には、イオン化室20、第1中間真空室21、第2中間真空室22、及び分析室23が設けられている。また、分析室23には、電子線照射部30が接続されている。装置本体10内の各部には、制御・処理部4による制御に基づいて、測定実行中に電圧印加部5から適宜の電圧が印加される。
イオン化室20は略大気圧であり、第1中間真空室21はロータリーポンプ(図示略)により真空排気された低真空室、第2中間真空室22及び分析室23並びに電子線照射部30内はターボ分子ポンプ(図示略)により真空排気された高真空室となっている。第1中間真空室21、第2中間真空室22、及び分析室23は、この順に段階的に真空度が高くなる多段差動排気系の構成を有している。
イオン化室20には、試料溶液に電荷を付与して噴霧するエレクトロスプレイイオン化用プローブ(ESIプローブ)201が設置されている。イオン化室20と第1中間真空室21との間は細径の加熱キャピラリ202を通して連通している。本実施例ではイオン化部としてESIプローブ201を使用しているが、試料の特性に応じて適宜のイオン化部を用いることができる。
第1中間真空室21には、イオンを収束させつつ後段へ輸送する、複数枚の円環状の電極で構成されたイオンレンズ211が配置されている。第1中間真空室21と第2中間真空室22との間は頂部に小孔を有するスキマー212で隔てられている。
第2中間真空室22にはイオンを収束させつつ後段へ輸送する、それぞれが複数のロッド電極で構成された、第1イオンガイド221と第2イオンガイド222が配置されている。第2中間真空室22と分析室23の間は、隔壁に形成された小孔を通じて連通している。
分析室23には、前段四重極マスフィルタ(Q1)231、コリジョンセル232、後段四重極マスフィルタ(Q3)235、偏向部236、及びイオン検出器237が配置されている。前段四重極マスフィルタ231はプリロッド電極2311、メインロッド電極2312、及びポストロッド電極2313で構成されている。コリジョンセル232の内部には四重極ロッド電極234が配置されている。また、コリジョンセル232には、アルゴンガス、窒素ガスなどの衝突誘起解離ガス(CIDガス)を導入するためのガス導入口が設けられている。後段四重極マスフィルタ235はプリロッド電極2351、メインロッド電極2352、及びポストロッド電極2353で構成されている。偏向部236には、4本のロッド電極2361が配置されている。本実施例では、偏向部236により後述するようにイオンの飛行方向を偏向させるが、偏向部としては、イオンの飛行方向を偏向可能な適宜の構成のものを用いることができる。
また、分析室23には、イオントラップ31及び電子線検出部32が配置されている。イオントラップ31は、リング電極311と、該リング電極311を挟んで配置された入口側エンドキャップ電極312及び出口側エンドキャップ電極313で構成されている。入口側エンドキャップ電極312にはイオン及び電子線を導入するための開口314が設けられている。また、出口側エンドキャップ電極313にはイオン及び電子線を排出するための開口315が設けられている。イオントラップ31は、真空槽316内に配置されており、該真空槽316の壁面には、上記開口314、315に対応する開口に加えて、イオントラップ31内にクーリングガスを導入するためのガス導入口317が設けられている。また、真空槽316の内部はターボ分子ポンプ(図示略)により高真空に排気される。
電子線検出部32は、ファラデーカップ321、マルチチャンネルプレート322、蛍光スクリーン323、及びCCDカメラ324を備えている。マルチチャンネルプレート322は、イオントラップ31内の出口側エンドキャップ電極313の外側に配置される。ファラデーカップ321は、マルチチャンネルプレート322の表面近傍の、電子線の照射軸C2上の位置に配置される。蛍光スクリーン323はマルチチャンネルプレート322の裏面に取り付けられる。CCDカメラ324は蛍光スクリーン323の裏面側の、該裏面を撮像可能な位置に配置される。
電子線照射部30には電子銃301と、電子レンズ302が配置されている。この電子線照射部30では、電子線回折測定を行う際にイオンに照射する電子線の入射エネルギーを変更することができる。
制御・処理部4は、記憶部41に加えて、機能ブロックとして、測定条件設定部43、測定制御部44、解析処理部45、電子線回折像推定部46、分子構造推定部47を備えている。記憶部41には化合物データベース411が保存されている。また、分子構造推定部47には、第1分子構造推定部471、第2分子構造推定部472、及び第3分子構造推定部473が含まれている。制御・処理部4の実体は一般的なパーソナルコンピュータであり、該コンピュータに予めインストールされた質量分析プログラム42を実行することによりパーソナルコンピュータのプロセッサが上記各部として機能する。また、制御・処理部4には、入力部6、表示部7が接続されている。
化合物データベース411には、多数の既知化合物に関する測定条件や解析結果などの情報が収録されている。測定条件としては、例えば液体クロマトグラフのカラムから流出する時間(保持時間)、当該化合物を特徴づけるプリカーサイオンとプロダクトイオンの組(MRMトランジション)の質量電荷比が含まれる。また、解析結果の情報としては、例えば各化合物のMS/MSスペクトルデータや電子線回折像のデータが含まれる。電子線回折像のデータは標準試料の測定によって実験的に得られたものであっても良く、あるいは当該化合物の分子構造に基づいて理論的に計算されたものであってもよい。こうした理論計算には、例えば第一原理計算を用いることができる。
次に、本実施例の質量分析装置1を用いた試料の測定について説明する。ここでは、質量分析装置1の前段に液体クロマトグラフを配置して(図15参照)、試料を液体クロマトグラフに導入し、液体クロマトグラフのカラム内で試料に含まれる成分を相互に分離して質量分析装置1で測定する場合を例に説明する。ただし、クロマトグラフ等の成分分離手段を備えることは本発明に必須ではない。例えば、複数の化合物を含有した試料を測定する場合であっても、質量分離のみで測定対象の化合物由来のイオンを他の化合物由来のイオンと分離することができる場合には、成分分離手段を使用せず、試料を直接質量分析装置1に導入すればよい。
まず、測定条件設定部43が、化合物データベース411に収録されている化合物の一覧を読み出して表示部7に表示する。使用者がその一覧から測定の対象とする化合物を選択すると、測定条件設定部43は、化合物データベース411に記載されている測定条件を記載したメソッドファイルを作成する。そして、それらのメソッドファイルから測定を実行するためのバッチファイルを作成する。なお、本実施例において使用者が化合物データベース411から測定対象の化合物を選択する処理は、本発明における、分子構造候補の情報の入力に相当し、本実施例の測定条件設定部43は本発明における分子構造候補入力受付部(後述の[態様]参照)として機能する。
具体的な一例として、ここでは、図2に示す化合物A~Dを測定対象とする場合を説明する。化合物A~Dのうち、化合物Cと化合物Dは構造異性体である。構造異性体の中には液体クロマトグラフやガスクロマトグラフのカラムで相互に分離可能なものもあるが、ここでは、化合物Cと化合物Dについて、液体クロマトグラフのカラムから流出する保持時間、プリカーサイオン、及びプロダクトイオンはいずれも同じである(つまり、液体クロマトグラフ質量分析のみでは化合物Cと化合物Dを識別することができない)場合を考える。従って、この例では、化合物A~化合物Dの全てについてMRM測定を行い、化合物C及びDについてはさらに電子線回折測定を行う。つまり、図3に示すように、時間帯1では化合物AのMRM測定を行い、時間帯2では化合物A及びBのMRM測定を交互に行い、時間帯3では化合物BのMRM測定を行い、時間帯4では化合物C及びDのMRM測定及び電子線回折測定を行うという内容のバッチファイルが作成される。なお、電子線回折測定の有無は、使用者が指定してもよく、あるいは、保持時間、プリカーサイオンの質量電荷比及びプロダクトイオンの質量電荷比が同じである化合物の組について、測定条件設定部43が自動的に電子線回折測定を設定するようにしてもよい。また、ここでは説明を容易にするために1つの化合物について1つのMRMトランジションのみを測定するものとしたが、複数のMRMトランジションを測定してもよい。
バッチファイルの作成後、使用者が所定の入力操作により測定実行を指示すると、測定制御部44により以下のような手順で測定が行われる。
まず、試料が液体クロマトグラフに導入される。クロマトグラフのカラムで分離された試料成分は順次、ESIプローブ201に導入され、イオン化される。
測定開始後、バッチファイルに記載された最初の時間帯(時間帯1)になると、当該時間帯に記載された化合物の測定を行う。時間帯1では化合物AのMRM測定が行われる。その後、各時間帯において、バッチファイルに記載された内容に基づきMRM測定及び電子線回折測定が行われる。
時間帯1~4において行われるMRM測定について簡単に説明する。MRM測定の測定条件は従来同様である。
液体クロマトグラフのカラムから流出した試料成分は、ESIプローブ201でイオン化されたあと、加熱キャピラリ202を通して第1中間真空室21に導入され、続いてイオンレンズ211によりイオン光軸C1上に収束される。イオンレンズ211で収束されたイオンはスキマー212を通って第2中間真空室22に入射する。第2中間真空室22に入射したイオンは、第1イオンガイド221と第2イオンガイド222によってイオン光軸C1上に収束されて分析室23に入射する。
分析室23では、まず、前段四重極マスフィルタ231により測定対象化合物のプリカーサイオンが選別され、コリジョンセル232に導入される。コリジョンセル232には予め所定量の所定の種類の不活性ガス(典型的にはアルゴンガス)が衝突ガスとして封入されている。前段四重極マスフィルタ231のポストロッド電極2313とコリジョンセル232の入口の間には電位差が設けられており、その電位差によって測定対象化合物のプリカーサイオンにエネルギー(衝突エネルギー)を与えてコリジョンセルに入射させる。コリジョンセル232内では、不活性ガスの分子と衝突することにより、プリカーサイオンからプロダクトイオンが生成される。
続いて、後段四重極マスフィルタ235において、予め決められた(メソッドファイルに記載されている)質量電荷比を有するプロダクトイオンのみが選別される。後段四重極マスフィルタ235で選別されたイオンはそのまま偏向部236を通過し、イオン検出器237で検出される。イオン検出器237からの出力信号は、順次、記憶部41に送信され保存される。
次に、時間帯4において行われる電子線回折測定について説明する。
電子線回折測定では、上記MRM測定時と同様に、前段四重極マスフィルタ231において予め決められた質量電荷比のイオンをプリカーサイオンとして選択し、コリジョンセル232においてプリカーサイオンを解離させてプロダクトイオンを生成する。そして、後段四重極マスフィルタ235において予め決められた質量電荷比のイオンを解析対象のイオンとして選別する。電子線回折測定では、後段四重極マスフィルタ235で選択する上記予め決められた質量電荷比のイオンとして、質量電荷比は同一であるが分子構造が異なる部分を含むプロダクトイオンを解析対象として使用する。
電子線回折測定を行う際には、予め真空槽316の内部を高真空に排気し、イオントラップ31の内部に残留している中性ガス分子を排出しておく。そして、偏向部236の4本のロッド電極2361のうちの1つ(図1において左下に位置するロッド電極2361)にはプロダクトイオンと逆極性の電圧を印加し、他のロッド電極2361にはプロダクトイオンと同極性の電圧を印加する。これら4本のロッド電極2361に対して適切な大きさの電圧を印加することにより、後段四重極マスフィルタ235を通過したイオンの飛行方向が90度(図1において下方向に)偏向される。
偏向部236によって飛行方向が偏向されたプロダクトイオンはイオントラップ31で捕捉され、ガス導入口317を通じてイオントラップ31に一時的に導入されるクーリングガス(典型的にはヘリウムガス)との衝突により冷却されてイオントラップ31の中央部に集まる。イオントラップ31でプロダクトイオンを所定時間蓄積、冷却した後、電子線照射部30からイオントラップ31の内部に電子線を照射する。
従来、提案されている電子線回折測定では、試料から生成したイオンを直接イオントラップに蓄積し、その後、イオントラップ内で質量分離を行って測定対象のイオンを選別していた。試料から生成されたイオンを蓄積する際に、過剰な量のイオンを蓄積しようとするとイオン自身の電荷(「空間電荷」と呼ばれる。)によってイオントラップ内部の電場が歪められ、正常な質量分離を行うことができなくなる。従って、まず、試料から生成されたイオンを蓄積する段階で、イオントラップに蓄積可能な量に限界がある。また、従来、試料から生成したイオンをイオントラップに導入し、該イオントラップ内で測定対象のイオンを質量分離し選別していたため、最初の時点で仮に蓄積可能な最大量のイオンを蓄積していたとしてもその中に含まれる解析対象イオンの量はそれよりも少なくなっていた。
これに対し、本実施例の質量分析装置では、前段四重極マスフィルタ231、コリジョンセル232、及び後段四重極マスフィルタ235によって解析対象のプロダクトイオンを選別した上でイオントラップ31に導入する。このため、イオントラップ31内で質量分離を行う必要がなく、イオントラップ31へのイオンの蓄積量を制限することなくイオントラップ31に解析対象のプロダクトイオンのみを導入することができる。
また、従来、入口側エンドキャップ電極と出口側エンドキャップ電極を接地電位とし、高周波正弦電圧をリング電極に印加することによりイオントラップにイオンを捕捉し、正弦電圧の周波数を一定に保ったまま振幅を大小させる(電圧駆動する)ことにより、捕捉するイオンの質量電荷比(範囲)を大小させていた。従来の方式では、捕捉しようとするイオンの質量電荷比が大きくなるほど正弦電圧の振幅を大きくしなければならず、そのためには高電圧を出力可能な大型で高価な電源を用いる必要があった。また、高電圧を印加することにより放電が生じやすくなる、時間変動する高電圧の印加によって電子線の飛行経路に悪影響を及ぼす、という問題があった。
一方、本実施例では、入口側エンドキャップ電極312と出口側エンドキャップ電極313を接地電位とし、デジタル回路を用いて電圧印加部5で生成した矩形電圧をイオントラップ31のリング電極311に印加する。このように矩形電圧を印加してイオンを捕捉するイオントラップは、デジタルイオントラップ(DIT)とも呼ばれる。DITでは、矩形電圧の振幅を一定に保ったまま、周波数を広い範囲で変化させて(周波数駆動して)イオントラップ31に捕捉するイオンの質量電荷比(範囲)を変更する。デジタルイオントラップでは、捕捉するイオンの質量電荷比に関わらず矩形電圧の振幅が一定であるため、大型で高価な電源を用いる必要がない。また、放電が生じる心配もない。さらに、周波数駆動では、広い範囲で周波数を変更することができるため、従来の電圧駆動型のものに比べ、より広い質量電荷比範囲をカバーし、より多くの種類のイオンを捕捉することができる。例えば、周波数を低くすることにより、従来の電圧駆動型のイオントラップでは捕捉することが困難であるような大きな質量電荷比のイオンを捕捉したり、イオンに比べて遥かに大きい微細な帯電粒子を捕捉したりすることができる。さらに、大きな質量電荷比を有するプリカーサイオンを捕捉するため周波数の低い矩形電圧を印加した状態で、捕捉されたプリカーサイオンにレーザ光などを用いて断片化(すなわち解離)し、プリカーサイオンの断片化により生成される、小さな質量電荷比を有するフラグメントイオンをイオントラップ内に捕捉するよう、矩形電圧の周波数を瞬時に高く切り替える(周波数をジャンプさせる)こともできる。加えて、後述するように矩形電圧(高周波電圧)が所定の位相になるタイミングに合わせて電子線を入射することで、電子線の飛行経路に悪影響を与える可能性を排除することができる。
本実施例の質量分析装置1では、所定の時間、この矩形電圧をリング電極311に印加してプロダクトイオンをイオントラップ31に捕捉する。このときリング電圧311に印加される矩形電圧の位相の変化に伴って、イオントラップ31の内部でのイオンの空間分布が変化する。以下の説明では、図4に示すように、印加電圧が負から正に転じる時点の位相を0°、正から負に転じる時点の位相を180°とする。また、図5に示すように、イオントラップ31の対称軸(入口側エンドキャップ電極312の開口314と出口側エンドキャップ電極313の開口315を通る軸)をZ軸、それに垂直な一方向をX軸とする。
矩形電圧の位相とイオンの運動状態(空間分布と速度分布)の相関について本発明者が行ったシミュレーションの結果を説明する。
図6~図9はそれぞれ、矩形電圧の位相0°、90°、180°、及び270°のときの、イオントラップ31内でのイオンの位置のX軸方向の広がり(X)とX軸方向の速度(Vx)をシミュレーションした結果である。これらの結果から、リング電極311に印加する矩形電圧の位相が変化しても、イオンの位置のX軸方向の広がりに大きな変化が見られないことが分かる。
図10~図13はそれぞれ、矩形電圧の位相0°、90°、180°、及び270°のときの、イオントラップ31内でのイオンの位置のZ軸方向の広がり(Z)とZ軸方向の速度(Vz)をシミュレーションした結果である。X軸方向と異なり、これらの結果から、リング電極311に印加する矩形電圧の位相が変化すると、イオンの位置のZ軸方向の広がりも変化することが分かる。これらのうち、特に位相が270°であるときにイオンがZ軸方向に最も伸びた状態に広がり、X軸方向には最も狭く分布していることが分かる。電子線照射部30からの電子線はZ軸方向(Z軸の負方向)に照射されることから、このタイミングで電子線をイオントラップ31の内部に照射すると、イオントラップ31内に捕捉されたイオンに対して最も効率よく電子線を照射することができる。つまり、イオンのクラウドと電子ビームの空間的重なりが大きくなる。従って、本実施例では、リング電極311に対して印加される矩形電圧の位相が270°になるタイミングの前後(図4においてハッチングを付したタイミング)で、電子線照射部30からの電子線をイオントラップ31内に照射する。
さらに、従来、イオントラップ内に捕捉したイオンに対して連続的に電子線を照射していたが、リング電極に印加される高周波正弦電圧は時間的に変化するため、それによって電子線が偏向される方向や大きさが時間的に変化していた。その結果、回折に寄与しないバックグラウンドが増大し、電子線回折像が不鮮明なものになっていた。
これに対し、本実施例の質量分析装置1では、矩形電圧の位相が270°である前後のタイミングにパルス状の電子線を照射する。つまり、電子線を照射するタイミングでイオントラップ31の内部に形成されている電場が常に同じであるため、その電場が電子線の経路に与える影響を予め考慮し、それを補償するように電子線の照射方向等の測定条件を決定することができる。
プロダクトイオンによって回折されることなくイオントラップ31を通過した電子線は、ファラデーカップ321に入射する。ファラデーカップ321では入射した電子線の量に応じた電流が発生し、その電流の大きさに基づいて電子線照射部30から照射された電子線の量が推定される。
イオントラップ31内に捕捉されたプロダクトイオンによって回折された電子線は、マイクロチャンネルプレート322に入射する。マイクロチャンネルプレート322には、電子増倍管が二次元的に配列されており、電子増倍管に入射した電子が増幅されて反対側から出射する。電子増倍管から出射した電子は蛍光スクリーン323に入射する。蛍光スクリーン323の表面には蛍光物質が予め塗布されており、蛍光スクリーン323に入射した電子はその入射位置で蛍光物質から蛍光を生じさせる。蛍光スクリーン323の裏面側にはCCDカメラ324が配置されており、蛍光スクリーン323から発せられる蛍光を所定の周期で撮影し、その撮影データを順次、制御・処理部4に送信する。制御・処理部4では受信した撮影データが記憶部41に保存される。
全ての時間帯の測定が終了すると、解析処理部45は、各化合物について得られたMRM測定データを読み出す。そして、MRM測定におけるイオン強度から当該化合物の有無を判定する。また、必要に応じて当該化合物を定量する。化合物の定量は、予め対象化合物の検量線の情報を保存しておき、MRM測定におけるイオン強度を検量線に照らすことにより行うことができる。
解析処理部45は、時間帯4において取得した電子線回折像のデータを読み出す。また、化合物データベース411を参照し、時間帯4における測定対象である化合物C及びDの電子線回折像のデータを読み出す。このとき、化合物C及びDのいずれかの電子線回折像のデータが化合物データベース411に収録されていない場合には、電子線回折像推定部46が、当該化合物の分子構造情報に基づいて電子線回折像を理論的に(例えば第一原理計算により分子構造を推定し、各原子の寄与から電子線回折像を理論的に求める)推定して電子線回折像のデータを作成する。
続いて、解析処理部45は、測定により得られた電子線回折像の測定データを、化合物Cの電子線回折像のデータと照合する。そして、両者の一致度に基づき、化合物C及びDの有無(化合物Cのみ、化合物Dのみ、あるいは化合物C及びDの両方が含まれている)を判定する。
ここで一例として、図14を参照して、四塩化炭素(CCl4)の電子線回折像について説明する。四塩化炭素では、炭素原子(C)と4つの塩素原子(Cl)が原子間距離rで結合している。これに電子線が照射されると、電子は様々な方向に散乱されるが、ある方向θではCから散乱された電子とClから散乱された電子の波(ドブロイ波)が互いに強め合う。一方、角度θ'では互いに打ち消し合う。分子の向きはランダムであるから、検出面には干渉による同心円状の縞ができる。この同心円の半径は、距離rに関係しており、距離rをパラメータとして変えたときの理論的な干渉縞と観測される干渉縞を比較することで、距離rを求めることができる。四塩化炭素(CCl4)の場合、C-Cl平衡距離とCl-Cl平衡距離に相当する二つのピークが動径分布関数上に求まる。
しかし、液体クロマトグラフ質量分析等で測定される化合物の原子数は一般に四塩化炭素よりも多い。そうした化合物の電子線回折像では原子間距離に相当するピークが互いに重なり合う。そのため、電子線回折像のみから分子内の各結合の原子間距離を決定することが難しい。
これに対し、本実施例では、先に質量分析を行うことで当該イオンの質量電荷比を知ることができるため、その質量電荷比に基づいて当該化合物の分子構造に含まれる官能基を想定しておくことができ、当該官能基に特有の干渉縞の有無によってその官能基が含まれているか否かを推定することができる。また、構造異性体についても、それら構造異性体の分子構造が異なる位置と当該官能基との位置関係によって現れる干渉縞の違いから、測定した化合物が複数の構造異性体のいずれであるかを推定することができる。
また、最近では、第一原理計算により求められる分子構造(分子内における各原子の位置)の精度が向上しており、その分子構造から電子線回折像に現れる干渉縞を高い精度で推定することができる。こうした理論計算に基づくシミュレーションから得られた電子回折像と実際の測定で得られた電子線回折像を照らし合わせることで、構造異性体を識別したり、それらの混合物の割合を求めたりすることができる。
本実施例の質量分析装置1では、上述した例以外にも様々な測定を行うことができる。上記例では、MRM測定と電子線回折測定を組み合わせたが、プロダクトイオンスキャン測定と電子線回折測定を組み合わせることもできる。例えば、測定対象の化合物について、まずプロダクトイオンスキャン測定を行ってプロダクトイオンスペクトルを測定し、該スペクトル上に現れたピークに対応するイオンの構造を解析するために、電子線回折測定を行うことが考えられる。
また、上記例では試料から生成された、所定の質量電荷比のプリカーサイオンをコリジョンセル232で解離させて生成したプロダクトイオンを測定(質量分析及び電子線回折測定)したが、コリジョンセル232にてイオンを解離させず、試料から生成されたイオンを前段四重極マスフィルタ231又は後段四重極マスフィルタ233で質量分離したイオンを測定(質量分析及び電子線回折測定)することもできる。
上記の例では、液体クロマトグラフのカラムでは分離されない(保持時間が同じである)化合物C及びDを電子線回折する場合を説明したが、カラムで分離可能な異性体の場合でも、液体クロマトグラフのカラムでは化合物を分離するのみであり、化合物の分子構造の情報を得ることはできない。そのため、上記の例と同様に電子線回折測定を行い、化合物の分子構造の情報を併せて取得することにより、より高い精度で液体クロマトグラフにより分離した各化合物を解析することができる。また、上記の例は、本実施例の質量分析装置1には、液体クロマトグラフ(LC)に限らず、ガスクロマトグラフ(GC)を組み合わせることもできる(図15)。
さらに、本実施例の質量分析装置1にイオン移動度分析装置(IMS)を組み合わせたり(図16)、上流側から順にクロマトグラフ装置(液体クロマトグラフやガスクロマトグラフ)、イオン移動度分析装置、及び本実施例の質量分析装置1を組み合わせたりした構成(図17)の装置を用いた測定を行うこともできる。
イオン移動度分析装置では、イオンの衝突断面積の大きさに応じてイオンを分離するものであり、異性体を識別することが可能であるとされている。しかし、イオンの衝突断面積の大きさの理論値と実測値は合致しないことが多い。また、イオンの衝突断面積の測定値は装置の構成(例えばメーカー毎)や、イオンを衝突させるガスの種類によっても変化する。そのため、測定により得られたイオンの衝突断面積の大きさをデータベースに収録された値と照合しても分子構造を同定することができない場合がある。つまり、クロマトグラフ装置と同様に、化合物を分離できる場合であっても化合物の分子構造の情報を得ることはできない。図16及び図17に示すように、イオン移動度分析装置を本実施例の質量分析装置1と組み合わせることにより、イオンの衝突断面積の大きさだけでなく、電子線回折測定により分子構造情報を取得して、より高い精度で試料に含まれる化合物を解析することができる。なお、イオン移動度分析装置を組み合わせる場合には、質量分析装置1のイオン化部とそれ以外の構成(図では、電子線照射部等を含めて質量分析部と記載)を分離し、これらの間にイオン移動度分析部を配置する。
上記のとおり、電子線回折像には、電子の波(ドブロイ波)の干渉によって同心円状の縞が現れるため、その波長を変化させることにより、同一の分子から異なる電子線回折像を得ることができる。電子線回折測定に用いる電子線の波長を変更すると、その波長の電子線を強めあう原子間距離が変わるため、観測される干渉縞に差異が生じる。干渉縞の全体的なパターンの一致度を判定する本手法では、入射電子のエネルギーが重要なパラメータとなる。そこで、本実施例の質量分析装置1では、例えば上記例の測定のみでは試料に含まれる成分が構造異性体のいずれであるかを十分な確度で特定することができなかった場合に、エネルギーが異なる電子線を照射する電子線回折測定を行うことができる。使用者は、測定条件設定部43を通じて電子線回折測定の条件として異なるエネルギーの電子線を照射することを測定条件として設定し、測定制御部44による測定時に複数の異なる波長の(複数の異なるエネルギーの)電子線をそれぞれ用いた測定を行うことにより複数の電子線回折像を取得する。測定終了後、第2分子構造推定部472はそれら複数の電子線回折像に現れる干渉縞の相違を解析して分子構造を推定する。
また、電子線は原子核と電子の両方によって散乱されるが、原子核と電子の数はいずれも原子番号が大きい原子ほど多い。つまり、原子番号が大きい原子ほど散乱強度が大きくなる。そこで、本実施例の質量分析装置1では、構造異性体間で分子構造が異なる位置や、その近傍に、原子番号の大きい原子(又は原子番号の大きい原子を含む官能基)を予め付加又は置換した試料を調製し、それを用いた電子線回折測定を行うこともできる。この場合には、測定終了後、第3分子構造推定部473が、付加された原子又は官能基に対応する干渉縞を電子線回折像から抽出して分子構造を推定する。
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
上記実施例ではイオン化部としてESIプローブ201を用いたが、大気圧化学イオン化装置等のイオン化部を用いることができる。また、ガス試料を測定する場合には電子イオン化装置や化学イオン化装置を用いることもできる。
上記実施例では質量分析部として三連四重極型のものを用いたが、例えば四重極-飛行時間型などの他の質量分析部を用いることができる。また、電子イオン化装置のような、イオン化時にフラグメントイオンを生じさせるイオン化部を用いる場合には、質量分離部を1つのみ備えた(例えば1つの四重極マスフィルタのみを備えた)質量分析部を使用してもよい
上記実施例では偏向部236を備えた構成としたが、偏向部236を用いずに構成することもできる。例えば、図18にブロック図で示すように構成してもよい。この構成では、質量分析を行う際(実線)には、イオントラップに電圧を印加せず質量分析部で質量分離されたイオンを、イオントラップを通過させてイオン検出器で検出する。電子線回折測定を行う際(破線)には、イオントラップに電圧を印加してイオンを蓄積し、電子線照射部から電子線を照射し、電子線検出部でその回折像を取得すればよい。
また、上記実施例の質量分析装置1は、分子構造の情報を取得するために電子線回折を行う構成を兼ね備えたものであるが、同様の考え方に基づいて、回転スペクトル測定やX線回折測定を行う構成を兼ね備えた質量分析装置を構成することもできる。
なお、分子構造の推定にNMRが用いられることもがあるが、NMRは質量分析に比べて2桁程度以上、著しく感度が低いため、同一試料を測定する場合には質量分析に用いる試料よりも測定対象の成分を濃縮した試料を別途調製しなければならない。試料によっては合成や調整が難しいものもあり、さらに前述のようなプロダクトイオンの測定はできない。また、測定自体も質量分析とは別に行う必要がある。これに対し、上記実施例の質量分析装置では、一連の測定で質量分析と電子線回折測定の両方を一度にかつ高い感度で行うことができる。
上記の実施例や変形例では、質量分析とともに電子線回折測定を行ったが、電子線回折測定以外にも様々な副測定を行うことができる。本発明では、質量分離後に、特定の質量電荷比(又は特定の質量電荷比範囲内の質量電荷比)を有するイオンのみを測定対象のイオンとしてイオントラップに多く捕捉し、該測定対象イオンに関する様々な物理量を測定(物性情報を取得)することができる。
図19に、本発明に係る質量分析装置において実施可能な副測定の例として、イオントラップに電磁波(光線等)や粒子線を入射し、イオントラップに捕捉したイオン(捕捉イオン)と相互作用した後に、イオントラップから出射する電磁波(光等)や粒子を検出する測定法を示す(上記実施例における電子線回折測定を含む)。ここで、相互作用とは、電磁波を入射する場合には、捕捉イオンによる該電磁波の吸収もしくは散乱などが一例として挙げられる。電磁波を吸収して励起状態に遷移したイオンは、入射した電磁波とは異なる波長を持つ電磁波を放出したり、粒子線を放出したりすることで基底状態に戻る。また、電磁波がイオンによって吸収されずに弾性・非弾性散乱(回折を含む)する場合もある。粒子線を入射する場合には、捕捉イオンとの相互作用の一例として散乱が挙げられる。入射粒子からエネルギーを得て励起状態に遷移したイオンは、電磁波を放出したり、粒子線を放出したりすることで基底状態に戻る。また、入射粒子が弾性・非弾性散乱(回折を含む)する場合もある。また、他の副測定の例には、イオントラップに電磁波(光線など)や粒子線を入射し、捕捉イオンと相互作用せずに、イオントラップから出射する電磁波(光線など)や粒子を検出する測定法も含まれる。吸光度測定においては、捕捉イオンと相互作用せずにイオントラップを透過した電磁波を検出する。また、副測定には、捕捉するイオン種を変えて測定結果の違いを比較するものなども含まれうる。
これらに共通して使用可能な装置の構成例を図20及び図21に示す。図20は上記実施例と同様に偏向部を備えた構成であり、図21は上記変形例と同様に偏向部を用いない構成である。図20及び図21において、実線は質量分析を行うための構成要素、破線は副測定を行うための構成要素を示す。
例えば、捕捉イオンに電子線を照射し該イオンによって回折される電子線を測定することにより電子線回折測定を行ってイオンの分子構造の情報を得ることができる。また、捕捉イオンに電子線を照射して励起し、該イオンによって散乱される電子を測定することにより電子エネルギー損失分光を行ってイオンの電子状態の情報を得ることができる。また、捕捉イオンに電子線を照射して励起し、該イオンから発せられる光を測定する電子線マイクロプローブアナライザー(EPMA)として用いることによりイオンの電子構造解析や元素分析を行うことができる。また、捕捉イオンに該イオンとは別のイオンのビーム(イオンビーム)を照射して励起し、該イオンによって散乱されるイオンを検出することによりイオン散乱分光を行って元素分析を行うことができる。また、イオンビームを捕捉イオンに照射して励起し、該イオンから発せられる光を検出することにより粒子蛍光分光を行って元素分析を行うことができる。また、捕捉イオンに光線を照射して励起し、該イオンから発せられる光を検出することにより原子吸光分光を行って元素分析を行うことができる。また、捕捉イオンに光線を照射し、該イオンにより回折された光を検出することによりレーザ回折測定やX線回折測定を行ってイオンの形状や分子構造の情報を取得することができる。また、捕捉イオンに光を照射し、該イオンを透過した光を検出することによりイオンによる光吸収量を測定する、X線吸収端測定やフーリエ赤外分光を行ってイオンの分子内結合の情報を取得することができる。また、捕捉イオンに光を照射し、該イオンで散乱された光を検出することによりラマン分光測定を行って、イオンの分子内結合の情報を取得することができる。また、捕捉イオンに光を照射し、該イオンから放出される電子を測定する光電子分光測定を行うことによっても、イオンの電子状態や結合状態の情報を取得することができる。
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
(第1項)
一態様に係る質量分析装置は、
試料からイオンを生成するイオン化部と、
前記イオン化部で生成されたイオンを質量分離する質量分離部と、
前記質量分離部で質量分離されたイオンを検出するイオン検出器と、
前記質量分離部で質量分離されたイオンを捕捉するイオン捕捉部と、
前記イオン捕捉部に捕捉されたイオンの、質量電荷比以外の物理量を測定する副測定部と
を備える。
第1項の質量分析装置では、イオン化部で生成されたイオンを質量分離部で質量分離し、イオン検出器で検出することにより質量分析を行うことができる。また、イオン化部で生成されたイオンを質量分離部で質量分離して解析対象イオンを選別したあと、イオン捕捉部に捕捉して質量電荷比以外の物理量を測定(副測定)することもできる。副測定は、例えば、イオン捕捉部に捕捉されたイオンに対して電磁波(光線等)や粒子線を照射し、イオン捕捉部から出射する電磁波(光等)や粒子を検出するものとすることができる。具体的には、例えば、イオン捕捉部内に解析対象のイオンを蓄積した後、所定時間、それらに対して電子線を照射し、イオン捕捉部内のイオンによって回折された電子線を検出することにより電子線回折測定を行うことができる。質量分析のみでは質量電荷比が同一である異性体などを識別することができないが、第1項の質量分析装置では、副測定として、例えば上記のような電子線回折測定を実行することにより、分子構造の情報を取得して異性体などを識別することができる。また、第1項の質量分析装置では、イオンの飛行経路を適宜に変更することにより、一度の測定で、イオン化部で生成したイオンを質量分離して検出する質量分析と、該質量分離後のイオンを捕捉して、該イオンの質量電荷比以外の物理量を測定する副測定の両方を行うことができる。
イオン捕捉部(典型的には三次元イオントラップ)に過剰な量のイオンを捕捉した状態で該イオン捕捉部において質量分離を行おうとすると、イオン自身の電荷(空間電荷)によってイオントラップ内部の電場が歪められて正常に質量分離することができなくなる。また、従来、提案されている装置では、試料から生成したイオンをイオン捕捉部に導入し、該イオン捕捉部内で解析対象のイオンを選別していたため、イオン捕捉部に捕捉可能なイオンの量には限界があった。そして、最初の時点で仮に最大量のイオンを捕捉してもその中に含まれる解析対象イオンの量は最大量未満となっていた。これに対し、第1項の質量分析装置では、イオン捕捉部の外部にある質量分離部によって解析対象のイオンを選別し、該解析対象イオンのみをイオン捕捉部に導入するため、最大量の解析対象イオンを捕捉して電子線回折測定に供することができ、従来よりも効率よく高強度の回折像が得られる。
(第2項)
第1項に記載の質量分析装置において、
前記質量分離部が、
前記イオン化部で生成されたイオンの中から特定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオンとして選別する前段質量分離部と、
前記プリカーサイオンを解離させてプロダクトイオンを生成する解離部と、
前記プロダクトイオンの中から特定の質量電荷比を有するイオンを選別する後段質量分離部と
を備える。
第2項に記載の質量分析装置では、前段質量分離部と後段質量分離部でそれぞれプリカーサイオンとプロダクトイオンを選択することにより測定対象の化合物に特徴的なイオンを用いた質量分析を行ったり、構造異性体の、分子構造が異なる位置を含む局所的な部分構造を有するプロダクトイオンを選択して電子線回折測定を行ったりすることができる。
(第3項)
第1項又は第2項に記載の質量分析装置において、さらに、
前記質量分離部と前記イオン検出器の間に設けられ、前記質量分離部から出射するイオンの飛行方向を偏向する偏向部
を備え、
前記イオン捕捉部が、前記偏向部で飛行方向が偏向されたイオンの飛行経路上に設けられている。
第3項に記載の質量分析装置では、質量分離部で分離されたイオンを偏向させてイオン捕捉部に導入するため、イオンを中性分子から分離してイオン捕捉部内に解析対象のイオンのみを導入することで、中性分子による電子の散乱に起因して生じる電子線回折像のバックグラウンドを低減することができる。また、第3項に記載の質量分析装置では、試料から生成された、所定の質量電荷比を有するイオンをイオン捕捉部に捕捉し、そこに電子線を照射して電子線回折測定を行いつつ、並行して新たにイオン化部で生成したイオンの質量分析を行うこともできる。
(第4項)
第1項から第3項のいずれかに記載の質量分析装置において、さらに、
前記イオン捕捉部にイオンを捕捉するための矩形波電圧を印加する電圧印加部
を備える。
第4項に記載の質量分析装置では、矩形波電圧の振幅を一定にしたまま周波数を変更することによりイオン捕捉部に捕捉するイオンの質量電荷比(範囲)を変更することができるため、大型の電源が不要である。また、高電圧の印加によって放電が生じたり、電子線の飛行経路を偏向させたりする心配もない。
(第5項)
第1項から第4項のいずれかに記載の質量分析装置において、前記副測定部が、
前記イオン捕捉部に捕捉されたイオンに電磁波又は粒子線を照射する照射部と、
前記イオン捕捉部から出射する電磁波又は粒子を検出する検出部と
を備える。
第5項の質量分析装置では、以下に記載のような様々な測定を行うことができる。例えば、イオン捕捉部に捕捉したイオン(捕捉イオン)に電子線を照射し該イオンによって回折される電子線を測定することにより電子線回折測定を行ってイオンの分子構造の情報を得ることができる。また、捕捉イオンに電子線を照射して励起し、該イオンによって散乱される電子を測定することにより電子エネルギー損失分光を行ってイオンの電子状態の情報を得ることができる。また、捕捉イオンに電子線を照射して励起し、該イオンから発せられる光を測定する電子線マイクロプローブアナライザー(EPMA)として用いることによりイオンの電子構造解析や元素分析を行うことができる。さらに、イオンビームを捕捉イオンに照射して励起し、該イオンによって散乱されるイオンを検出することによりイオン散乱分光を行って元素分析を行うことができる。あるいは、イオンビームを捕捉イオンに照射して励起し、該イオンから発せられる光を検出することにより粒子蛍光分光を行って元素分析を行うことができる。また、捕捉イオンに光線を照射して励起し、該イオンから発せられる光を検出することにより原子吸光分光を行って元素分析を行うことができる。また、捕捉イオンに光線を照射し、該イオンにより回折された光を検出することによりレーザ回折測定やX線回折測定を行ってイオンの形状や分子構造の情報を取得することができる。また、捕捉イオンに光を照射し、該イオンを透過した光を検出することによりイオンによる光吸収量を測定する、X線吸収端測定やフーリエ赤外分光を行ってイオンの分子内結合の情報を取得することができる。また、捕捉イオンに光を照射し、該イオンで散乱された光を検出することによりラマン分光測定を行って、イオンの分子内結合の情報を取得することができる。また、捕捉イオンに光を照射し、該イオンから放出される電子を測定する光電子分光測定を行うことによっても、イオンの電子状態や結合状態の情報を取得することができる。
(第6項)
第4項及び第5項に記載の質量分析装置において、
前記電圧印加部から所定の位相の矩形波電圧が前記イオン捕捉部に印加されているときに、前記照射部がパルス状の電磁波又は粒子線を前記イオン捕捉部の内部に照射する。
第5項に記載の質量分析装置では、予めシミュレーションや予備実験を行うことにより、イオン捕捉部内で電磁波や粒子線の照射経路上にイオンが広がった状態になる矩形波電圧の位相を、上記所定の位相として決定しておくことで、より多くのイオンに電磁波や粒子線を照射し、高強度の信号強度を取得することができる。従来のように、高周波正弦電圧をリング電極に印加してイオントラップの内部にイオンを捕捉する構成の質量分析装置では、共振回路をドライブする電圧と、実際に電極に印加される共振回路の出力電圧には位相差が発生する。これは電極の負荷インピーダンスに依存するもので、電極形状やその保持方法などにより変化する。そのため、高周波正弦電圧が特定の位相になる瞬間に電磁波や粒子線を照射することは困難である。仮に位相を合わせることが出来たとしても、測定対象であるイオンの質量電荷比に応じて、高周波正弦電圧の振幅を変える必要があり、これに応じて電磁波や粒子線の入射光学系の電圧設定値も変える必要がある。これに対し、第5項に記載の質量分析装置では、共振回路を経ることなく直接ドライブ電圧を電極に印加するため、最適な位相に合わせて電磁波や粒子線を照射するように制御することができる。また、測定対象であるイオンの質量電荷比が変わっても、矩形波電圧の周波数が変わるのみで振幅は一定であるため、電磁波や粒子線の入射光学系の電圧設定値を変える必要がない。
(第7項)
第5項又は第6項に記載の質量分析装置において、
前記照射部が前記イオン捕捉部に電子線を照射する電子線照射部であり、
前記検出部が前記イオンにより回折された電子線を検出するものである。
第7項に記載の質量分析装置では、イオン捕捉部に捕捉した特定の質量電荷比(又は質量電荷比範囲)のイオンの電子線回折測定を行って該イオンの分子構造の情報を得ることができる。
(第8項)
第7項に記載の質量分析装置において、さらに、
分子構造候補の情報の入力を受け付ける分子構造候補入力受付部と、
試料を測定することにより得られた電子線回折像と、当該分子構造候補について予め用意された電子線回折像を比較することにより、当該試料に含まれる分子の分子構造を推定する第1分子構造推定部と
を備える。
第8項に記載の質量分析装置では、予め用意された電子線回折像(例えば、標準試料の電子線回折により得られた電子線回折像や、次項に記載のような理論計算に基づき推定された電子線回折像)を用いることで、測定により得られた電子線回折像をより簡便に解析することができる。また、第6項に記載の質量分析装置では、一般的な電子線回折測定で取得される回折ピークとは異なり、回折像として同心円状の干渉縞のデータが得られる。こうしたデータは一種の画像データとして処理することが可能である。そこで、第1分子構造推定部として、例えば、様々な化合物の電子線回折測定及び/又は理論計算により得られた回折像全体のパターンを機械学習させることにより作成した識別器を用いることができる。
(第9項)
第8項に記載の質量分析装置において、さらに、
前記分子構造情報入力受付部が受け付けた分子構造に基づく理論計算により電子線回折像を推定する電子線回折像推定部と
を備える。
第9項に記載の質量分析装置では、化合物データベースに収録されていない化合物についても電子線回折像を推定することができる。
(第10項)
第7項から第9項のいずれかに記載の質量分析装置において、
前記電子線照射部が照射する電子線のエネルギーが可変である。
(第11項)
第10項に記載の質量分析装置において、さらに、
異なるエネルギーの電子線の照射により得られた電子線回折像に基づいて、試料分子の構造を推定する第2分子構造推定部
を備える。
第10項及び第11項に記載の質量分析装置では、異なるエネルギーの電子線を用いた電子線回折測定を行うことにより、同一の分子について異なる電子線回折像を取得し、分子構造の解析に使用することができる。
(第12項)
第7項から第11項のいずれかに記載の質量分析装置において、さらに、
予め決められた種類の原子を試料分子の特定の位置に結合させた化合物の測定により得られた電子線回折像に基づいて前記試料分子の分子構造を推定する第3分子構造推定部
を備える。
第12項に記載の質量分析装置では、原子番号が大きく、より多くの電子を散乱させる原子を上記予め決められた種類の原子として、分子内で着目する位置(例えば異性体間で構造が異なる位置やその近傍)に付加しておくことにより当該原子による電子線の散乱をより大きくし、当該着目する構造を反映した干渉縞を高強度で得ることができる。
(第13項)
第1項から第12項のいずれかに記載の質量分析装置において、さらに、
前記質量分離部においてイオンを質量分離する前に試料に含まれる化合物を分離する分離手段
を備える。
(第14項)
第13項に記載の質量分析装置において、
前記分離手段が、クロマトグラフ装置及び/又はイオン移動度分析装置である。
第13項に記載の質量分析装置では、試料に含まれる化合物を相互に分離してイオン源に導入するため、測定の対象となる化合物のみを選別し、他の化合物による影響を排除してより高い精度で質量分析及び電子線回折測定を行うことができる。そのような分離手段としては、第14項に記載のように、クロマトグラフ装置(例えば液体クロマトグラフやガスクロマトグラフ)やイオン移動度分析装置を用いることができる。なお、分離手段がクロマトグラフ装置である場合には、試料に含まれる化合物を分離した後に各化合物を前記イオン化部に導入してイオン化する。この場合、分離手段は前記質量分析装置の前段に配置される。一方、分離手段がイオン移動度分析装置である場合には、試料に含まれる化合物を前記イオン化部でイオン化した後、各化合物由来のイオンをイオン移動度分析装置で分離し、前記質量分離部に導入する。この場合、分離手段は前記質量分析装置のイオン化部と、質量分離部の間に配置される。このように、上記化合物の分離には、各化合物由来のイオンを分離する構成も含まれる。
異性体の種類によっては、クロマトグラフ装置のカラムで分離可能な場合もあるが、クロマトグラフ装置による分離のみで化合物の分子構造の情報を得ることはできないため、電子線回折測定を併せて行い、化合物の分子構造の情報を得ることで、より高い精度で試料に含まれる化合物を解析することができる。
また、イオン移動度分析装置では異性体を識別することが可能であるとされているが、イオンの衝突断面積の大きさの理論値と実測値は合致しないことが多く、また衝突断面積の大きさは装置の構成(例えばメーカー毎)や、イオンを衝突させるガスの種類によっても変化する。そのため、測定により得られたイオンの衝突断面積の大きさを、データベースに収録された値と照合することが難しく、分子構造を同定することができない場合がある。イオン移動度分析装置を本実施例の質量分析装置と組み合わせることにより、イオンの衝突断面積の大きさだけでなく、電子線回折測定により分子構造情報を取得して、より高い精度で試料に含まれる化合物を解析することができる。
1…質量分析装置
10…装置本体
20…イオン化室
21…第1中間真空室
22…第2中間真空室
23…分析室
231…前段四重極マスフィルタ
232…コリジョンセル
234…四重極ロッド電極
235…後段四重極マスフィルタ
236…偏向部
2361…ロッド電極
237…イオン検出器
30…電子線照射部
301…電子銃
302…電子レンズ
31…イオントラップ
311…リング電圧
312…入口側エンドキャップ電極
313…出口側エンドキャップ電極
316…真空槽
317…ガス導入口
32…電子線検出部
321…ファラデーカップ
322…マイクロチャンネルプレート
322…マルチチャンネルプレート
323…蛍光スクリーン
324…CCDカメラ
4…制御・処理部
41…記憶部
411…化合物データベース
42…質量分析プログラム
43…測定条件設定部
44…測定制御部
45…解析処理部
46…電子線回折像推定部
47…分子構造推定部
471…第1分子構造推定部
472…第2分子構造推定部
473…第3分子構造推定部
5…電圧印加部
6…入力部
7…表示部

Claims (14)

  1. 試料からイオンを生成するイオン化部と、
    前記イオン化部で生成されたイオンを質量分離する質量分離部と、
    前記質量分離部で質量分離されたイオンを検出するイオン検出器と、
    前記質量分離部で質量分離されたイオンを捕捉するイオン捕捉部と、
    前記イオン捕捉部に捕捉されたイオンの、質量電荷比以外の物理量を測定する副測定部と
    を備える質量分析装置。
  2. 前記質量分離部が、
    前記イオン化部で生成されたイオンの中から特定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオンとして選別する前段質量分離部と、
    前記プリカーサイオンを解離させてプロダクトイオンを生成する解離部と、
    前記プロダクトイオンの中から特定の質量電荷比を有するイオンを選別する後段質量分離部と
    を備える、請求項1に記載の質量分析装置。
  3. さらに、
    前記質量分離部と前記イオン検出器の間に設けられ、前記質量分離部から出射するイオンの飛行方向を偏向する偏向部
    を備え、
    前記イオン捕捉部が、前記偏向部で飛行方向が偏向されたイオンの飛行経路上に設けられている、請求項1又は2に記載の質量分析装置。
  4. さらに、
    前記イオン捕捉部にイオンを捕捉するための矩形波電圧を印加する電圧印加部
    を備える、請求項1から3のいずれかに記載の質量分析装置。
  5. 前記副測定部が、
    前記イオン捕捉部に捕捉されたイオンに電磁波又は粒子線を照射する照射部と、
    前記イオン捕捉部から出射する電磁波又は粒子線を検出する検出部と
    を備える、請求項1から4のいずれかに記載の質量分析装置。
  6. 前記副測定部が、
    前記イオン捕捉部に捕捉されたイオンに電磁波又は粒子線を照射する照射部と、
    前記イオン捕捉部から出射する電磁波又は粒子線を検出する検出部と
    を備え、
    前記電圧印加部から所定の位相の矩形波電圧が前記イオン捕捉部に印加されているときに、前記照射部がパルス状の電磁波又は粒子線を前記イオン捕捉部の内部に照射する、請求項4に記載の質量分析装置。
  7. 前記照射部が前記イオン捕捉部に電子線を照射する電子線照射部であり、
    前記検出部が前記イオンにより回折された電子線を検出するものである、請求項5又は6に記載の質量分析装置。
  8. さらに、
    分子構造候補の情報の入力を受け付ける分子構造候補入力受付部と、
    試料を測定することにより得られた電子線回折像と、当該分子構造候補について予め用意された電子線回折像を比較することにより、当該試料に含まれる分子の分子構造を推定する第1分子構造推定部と
    を備える、請求項7に記載の質量分析装置。
  9. さらに、
    前記分子構造情報入力受付部が受け付けた分子構造に基づく理論計算により電子線回折像を推定する電子線回折像推定部と
    を備える、請求項8に記載の質量分析装置。
  10. 前記電子線照射部が照射する電子線のエネルギーが可変である、請求項7から9のいずれかに記載の質量分析装置
  11. さらに、
    異なるエネルギーの電子線の照射により得られた電子線回折像に基づいて、試料分子の構造を推定する第3分子構造推定部
    を備える、請求項10に記載の質量分析装置。
  12. さらに、
    予め決められた種類の原子を試料分子の特定の位置に結合させた化合物の測定により得られた電子線回折像に基づいて前記試料分子の分子構造を推定する第3分子構造推定部
    を備える、請求項7から11のいずれかに記載の質量分析装置。
  13. さらに、
    前記質量分離部においてイオンを質量分離する前に試料に含まれる化合物を分離する分離手段
    を備える、請求項1から12のいずれかに記載の質量分析装置。
  14. 前記分離手段が、クロマトグラフ装置及び/又はイオン移動度分析装置である、請求項13に記載の質量分析装置。
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