JP2022053653A - ボルト接合部のfrp補強構造および補強方法 - Google Patents

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【課題】鋼材同士の既設ボルト接合部に対して、FRPで容易に補強できる補強構造とその方法を提供する。【解決手段】重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部の補強構造であって、既存ボルトを撤去したボルト孔に充填物を挿入し、該充填物を被うように両鋼材にわたって延びるFRPが両鋼材に接着されていることを特徴とするボルト接合部のFRP補強構造、および補強方法。【選択図】図1

Description

本発明は、ボルト接合部のFRP(繊維強化プラスチック)補強構造および補強方法に関し、とくに、重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部のFRPによる補強構造および補強方法に関する。
例えば鉄骨造建築物において、地震時の水平変形に対する十分な耐力と塑性変形能力を持たせるために、柱間をつなぐブレース(筋交い)が多用されている。柱にはガセットと呼ばれる平板が溶接され、ブレースはこのガセットとボルトで摩擦接合されているのが一般的である。しかし、既存建物においては、接合部が、とくにブレースが、ボルト孔による断面欠損によって地震力に抵抗できる接合耐力を保有しておらず、早期にブレースが破断することがあることが分かっている。
既存建物の耐震性能を上げるために、既存ブレースが肉厚になるように当て板を溶接する方法や、ガセットを肉厚なものに取り替える方法が採られることがある。しかし、当て板の溶接や、ガセットを取替え・再設置する場合、切断や溶接などで高熱を発する工事を要するが、工場などのように火気の取り扱いを容易にできないような建物や場所では、この方法は採用されにくい。
近年、軽量かつ高剛性・高強度な繊維強化プラスチック(FRP)、とくに炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を補強材として用いた接着補強・補修方法が開発され、既存建物の耐震補強に採用されてきた。CFRPと構造物との一体化は接着であり、簡単に施工でき、かつ火気不要な工事となることもあって、溶接が安易にできないような既設建物への適用もされている。
CFRPによる補強法として、現場で、ドライの炭素繊維(CF)シートに常温硬化型樹脂を塗布し、含浸ローラー等を使って樹脂を炭素繊維に含浸・硬化させて補強する方法(ハンドレイアップ工法)や、工場で成形したCFRP帯板材をパテ状の接着剤で貼り付けて補強する方法(ラミネート工法)が一般的である。近年では、航空機の部材や風車の部材などで使われているVaRTM成形(Vacuum-assisted Resin Transfer Molding)を応用して、橋梁や建築物を現場で補強する技術が開発されている(VaRTM工法)。例えば、特許文献1には、腐食欠損した既設の鋼構造物に対しVaRTM成形を適用することにより、鋼構造物とFRP材とを一体化して補強する成形・接合技術が示されている。
一般的なボルト接合部の補強の場合、接合部には複数のボルトが整列し、配置されている。ボルトのヘッド部は突起状に出ているため、接合部をまたいでCFRP補強をする場合、特許文献2のように、ハンドレイアップ工法を使ってボルトの合間にCF紐を配置する方法が提案されているが、定着力や施工手間、補強量によっては長期施工の可能性がある。一方、VaRTM工法を使う場合、ボルトが障害物となり、VaRTM工法における真空空間を形成する密閉用フィルムを損傷する可能性がある。これを回避するために、ボルトを避けてフィルムを貼ることが考えられるが、そうすると非常に手間がかかり、施工が難しくなることが多い。
特開2017-8609号公報 特開2014-227743号公報
そこで本発明の課題は、上記のような実情に鑑み、鋼材同士の既設ボルト接合部に対して、FRPで容易に補強できる補強構造および補強方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。
(1)重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部の補強構造であって、既存ボルトを撤去したボルト孔に充填物を挿入し、該充填物を被うように両鋼材にわたって延びるFRPが両鋼材に接着されていることを特徴とする、ボルト接合部のFRP補強構造。
(2)充填物が、重なり合う鋼材を貫通するようにボルト孔に埋設されている、(1)に記載のボルト接合部のFRP補強構造。
(3)充填物のボルト孔延在方向の両端面は、重なり合う鋼材の外面と面一に配置されている、(1)または(2)に記載のボルト接合部のFRP補強構造。
(4)充填物が、金属、樹脂、木、ゴム、鉱物、セラミックのいずれか、またはこれらを任意に組み合わせた混合物からなる、(1)~(3)のいずれかに記載のボルト接合部のFRP補強構造。
(5)充填物が、既存ボルトからその頭部を鋼材の外面に合わせて切断、除去した既存ボルトの胴部からなる、(1)~(3)のいずれかに記載のボルト接合部のFRP補強構造。
(6)両鋼材にわたって延びるFRPの少なくとも一端部は、厚みが徐々に減少するテーパー部に形成されている、(1)~(5)のいずれかに記載のボルト接合部のFRP補強構造。
(7)FRPの強化繊維に炭素繊維が含まれている、(1)~(6)のいずれかに記載のボルト接合部のFRP補強構造。
(8)FRPのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂からなる、(1)~(7)のいずれかに記載のボルト接合部のFRP補強構造。
(9)重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部を補強する方法であって、既存ボルトを接合部から撤去した後、空いたボルト孔に充填物を挿入し、該充填物を被うように両鋼材にわたって延びるFRPを両鋼材に接着することを特徴とする、ボルト接合部のFRP補強方法。
(10)重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部を補強する方法であって、既存ボルトの頭部を、鋼材の外面に合わせて切断、除去し、既存ボルトの胴部をボルト孔内に残存させた状態にて、ボルト孔を被うように両鋼材にわたって延びるFRPを両鋼材に接着することを特徴とする、ボルト接合部のFRP補強方法。
本発明によれば、重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部を補強するに際し、既存ボルトを撤去したボルト孔に充填物を挿入し、該充填物を被うように両鋼材にわたって延びるFRPが両鋼材に接着されるので、既存ボルト撤去後も、鋼材1と鋼材2の位置および位置関係がすれることなく、その状態のままFRPにより補強でき、補強施工後の補強対象部の精度は問題なく確保できるとともに、施工も極めて簡単に行うことができる。
また、既存ボルトは基本的に撤去されるので、ボルト、特にボルト頭部を避けてFRPを配置する手間は不要であり、FRPの配置上の精度や配置されるFRPの精度を気にせず容易に施工ができる。しかも、FRPやその強化繊維を、容易に鋼材の外面に合わせて配置することが可能となり、強化繊維を該外面上で所望の直線状態に維持することが可能となり、安定した補強効果を得ることができる。
さらに施工時において、既存ボルトが撤去されたボルト孔内には充填物が挿入されてボルト孔が実質的に埋められているので、該充填物が挿入されたボルト孔を被うように両鋼材にわたって延びるFRPが設けられる際、FRPが局部的に変形してボルト孔内に侵入することが阻止される。その結果、FRPの局部的変形に伴う強化繊維配向の乱れが防止され、所定の強化繊維配向方向により期待される補強効果が、期待通りに安定して得られることになる。
とくに、高剛性の充填物を採用する場合、重なり合う鋼材同士に外力などが作用することで生じる位置関係のずれに対して、充填物の支圧力と接着されたFRPとの双方で抵抗することができ、補強効果が向上することになる。
本発明の一実施態様に係るボルト接合部のFRP補強構造を示しており、図1(A)は概略平面図、図1(B)は概略縦断面図である。
以下に、本発明について、実施の形態とともに、図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明に係るボルト接合部のFRP補強構造は、重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部の補強構造であって、既存ボルトを撤去したボルト孔に充填物を挿入し、該充填物を被うように両鋼材にわたって延びるFRPが両鋼材に接着されていることを特徴とするものである。本発明に係るボルト接合部のFRP補強方法は、重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部を補強する方法であって、既存ボルトを接合部から撤去した後、空いたボルト孔に充填物を挿入し、該充填物を被うように両鋼材にわたって延びるFRPを両鋼材に接着することを特徴とする方法である。また、本発明に係るボルト接合部のFRP補強方法は、重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部を補強する方法であって、既存ボルトの頭部を、鋼材の外面に合わせて切断、除去し、既存ボルトの胴部をボルト孔内に残存させた状態にて、ボルト孔を被うように両鋼材にわたって延びるFRPを両鋼材に接着することを特徴とする方法である。
図1は、本発明の一実施態様に係るボルト接合部のFRP補強構造100を示している。図1に示すボルト接合部のFRP補強構造100においては、端部が重なり合う鋼材同士、つまり鋼材1(符号1)と鋼材2(符号2)をボルト(図示略)により繋いだ既存のボルト接合部3が補強されるが、既存ボルトを撤去したボルト孔4に充填物5が挿入され、該充填物5を被うように両鋼材1、2にわたって延びるFRP6が両鋼材1、2に接着される。本実施態様では、FRP6は、両鋼材1、2の両面側に設けられており、両鋼材1、2の両面側に接着されている。また、FRP6は、本実施態様では、両鋼材1、2にわたって延びるシート状(帯状)のFRPからなり、少なくとも、両鋼材1、2の長手方向に延びる強化繊維を有している。
充填物5は、本実施態様では、ボルト接合部3において重なり合う両鋼材1、2を貫通するようにボルト孔4に埋設されている。充填物5のボルト孔4延在方向の両端面は、重なり合う各鋼材1、2の外面と面一になるように配置されていることが好ましい。
充填物5の材質としては、ボルト孔4内に充填可能なものであれば特に限定されず、金属、樹脂、木、ゴム、鉱物、セラミックのいずれか(例えば、樹脂粒や砂等)、またはこれらを任意に組み合わせた混合物(例えば、金属混入樹脂等)等が例示できる。また、充填物5として、既存ボルトからその頭部を鋼材の外面に合わせて切断、除去した既存ボルトの胴部、つまり頭部が切断、除去され、ボルト孔4内に残存された既存ボルトの胴部を使用することもできる。あるいは、既存ボルトを撤去したボルト孔4に、所定長の、元々頭部の無い寸切りボルトを挿入してもよく、単なる鋼棒を挿入してもよい。
両鋼材1、2にわたって延びるFRP6の(本実施態様では、両鋼材1、2の両面側に設けられたFRP6のいずれもの)少なくとも一端部は、本実施態様では両端部が、厚みが徐々に減少するテーパー部7に形成されている。テーパー部7に形成することにより、FRP6の端部応力集中の緩和が可能となり、FRP6の端部の各鋼材1、2への定着の安定化をはかることが可能になる。
FRP6の強化繊維としては、特に限定されず、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等の使用が可能であるが、強度的に高い補強効果が得られる面からは、炭素繊維が含まれていることが好ましい。強化繊維の配向方向としては、上記実施態様では、両鋼材1、2の長手方向とされることが好ましく、その場合、FRP6として、両鋼材1、2の長手方向を繊維配向方向とする一方向材を用いることができる。もちろん、この一方向材に加え、例えば±45°を繊維配向方向とするクロス材を併用(例えば、積層して併用)することもできる。
FRP6のマトリックス樹脂としても、特に限定されず、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも使用可能であるが、現場での施工容易性、例えば現場で樹脂を加熱によりあるいは常温で容易に硬化できる面からは、熱硬化性樹脂からなることが好ましい。
FRP6を各鋼材1、2に接着する接着剤についても、特に限定されず、一般に使用されているもの、例えばエポキシ系接着剤が使用されればよい。
上記のようなボルト接合部のFRP補強構造100とその補強方法においては、既存のボルト接合部3を補強するに際し、既存ボルトを撤去したボルト孔4に充填物5が挿入された状態で、該充填物5を被うように両鋼材1、2にわたって延びるFR6Pが両鋼材1、2に接着されるので、既存ボルト撤去後にあっても、両鋼材1、2の位置および位置関係がすれることはなく、所定の位置および位置関係のままFRP6により補強でき、補強施工後の補強対象部の精度は問題なく高精度に確保され、施工も極めて簡単に効率よく行われる。
また、既存ボルトは基本的に撤去され、特にボルト頭部の無い状態でFRP6を配置できるので、従来のようにボルトを避けてFRPを配置する手間のかかる作業は不要であり、FRP6は、配置する際の精度や配置されるFRP6の形状等の精度を気にせず容易に施工することが可能になる。また、特にボルト頭部の無い状態での施工であるから、FRP6やその強化繊維を、容易に各鋼材1、2の外面に合わせて配置することが可能となり、強化繊維を該外面上で所望の直線状態に維持することが可能となって、安定した補強効果が得られる。
さらに、施工時において、既存ボルトが撤去されたボルト孔4内には充填物5が挿入されてボルト孔4が実質的に充填物5で埋められているので、FRP6が設置される際、FRP6が局部的に変形してボルト孔4内に侵入する(ボルト孔4内にめり込む)ことが阻止される。その結果、FRP6の局部的変形に伴う強化繊維配向の乱れが防止され、目標とした所定の強化繊維配向方向が確保されて、FRP6により期待される補強効果が、期待通りに安定して得られることになる。すなわち、この既存ボルトを撤去したボルト孔4に挿入される充填物5は、FRP6のボルト孔4内への侵入を阻止する機能も有しており、それによって強化繊維配向の乱れが防止されて所望の補強効果がより確実に得られることになる。
本発明に係るボルト接合部のFRP補強構造および補強方法は、とくに、重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部の補強に有効である。
1 鋼材1
2 鋼材2
3 ボルト接合部3
4 ボルト孔
5 充填物
6 FRP
7 テーパー部
100 ボルト接合部のFRP補強構造

Claims (10)

  1. 重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部の補強構造であって、既存ボルトを撤去したボルト孔に充填物を挿入し、該充填物を被うように両鋼材にわたって延びるFRPが両鋼材に接着されていることを特徴とする、ボルト接合部のFRP補強構造。
  2. 充填物が、重なり合う鋼材を貫通するようにボルト孔に埋設されている、請求項1に記載のボルト接合部のFRP補強構造。
  3. 充填物のボルト孔延在方向の両端面は、重なり合う鋼材の外面と面一に配置されている、請求項1または2に記載のボルト接合部のFRP補強構造。
  4. 充填物が、金属、樹脂、木、ゴム、鉱物、セラミックのいずれか、またはこれらを任意に組み合わせた混合物からなる、請求項1~3のいずれかに記載のボルト接合部のFRP補強構造。
  5. 充填物が、既存ボルトからその頭部を鋼材の外面に合わせて切断、除去した既存ボルトの胴部からなる、請求項1~3のいずれかに記載のボルト接合部のFRP補強構造。
  6. 両鋼材にわたって延びるFRPの少なくとも一端部は、厚みが徐々に減少するテーパー部に形成されている、請求項1~5のいずれかに記載のボルト接合部のFRP補強構造。
  7. FRPの強化繊維に炭素繊維が含まれている、請求項1~6のいずれかに記載のボルト接合部のFRP補強構造。
  8. FRPのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂からなる、請求項1~7のいずれかに記載のボルト接合部のFRP補強構造。
  9. 重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部を補強する方法であって、既存ボルトを接合部から撤去した後、空いたボルト孔に充填物を挿入し、該充填物を被うように両鋼材にわたって延びるFRPを両鋼材に接着することを特徴とする、ボルト接合部のFRP補強方法。
  10. 重なり合う鋼材同士をボルトにより繋いだ既存のボルト接合部を補強する方法であって、既存ボルトの頭部を、鋼材の外面に合わせて切断、除去し、既存ボルトの胴部をボルト孔内に残存させた状態にて、ボルト孔を被うように両鋼材にわたって延びるFRPを両鋼材に接着することを特徴とする、ボルト接合部のFRP補強方法。
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