JP2022041275A - ジルコニア仮焼体の製造方法 - Google Patents

ジルコニア仮焼体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高い透光性及び高い強度を兼ね備えた品質に優れるジルコニア焼結体を収率よく製造するための、ジルコニア仮焼体の製造方法を提供すること。【解決手段】過熱水蒸気の存在下で、ジルコニア粒子と有機成分とを含むジルコニア成形体を加熱する仮焼工程を含む、ジルコニア仮焼体の製造方法。ジルコニア粒子の平均一次粒子径は30nm以下であることが好ましい。また、ジルコニア仮焼体は、IUPAC分類に従うIV型等温線の窒素吸着及び/又は脱着を示すことが好ましい。ジルコニア成形体は、ジルコニア粒子を含む粉末をプレス成形することにより得られたものであることが好ましい。ジルコニア粒子を含む粉末が、ジルコニア粒子を含むスラリーを乾燥させることにより得られたものであることが好ましい。【選択図】なし

Description

本発明は、ジルコニア仮焼体の製造方法などに関する。
ジルコニア焼結体が、近年、歯科用補綴物等の歯科材料の用途に使用されている。歯科用補綴物は、多くの場合、ジルコニア粒子をプレス成形したりジルコニア粒子を含む組成物を用いて成形したりするなどして円盤状或いは角柱状等の所望の形状を有するジルコニア成形体とし、次いでこれを仮焼して仮焼体(ミルブランク)とし、これを目的とする歯科用補綴物の形状に切削(ミリング)した上で、さらに焼結することにより製造されている。
ジルコニア焼結体には、高い透光性及び高い強度を兼ね備えることが求められる場合がある。このような課題を解決する方法として、ジルコニア粒子を含む粉末(顆粒)を用い、これを一軸プレスして上記のような円盤状或いは角柱状等の所望の形状とした後、さらに冷間等方圧加圧(CIP)処理等の加圧処理を施すことによりジルコニア成形体を得る方法が知られている(例えば、特許文献1~3等を参照)。
また、上記ジルコニア成形体には、成形性を向上させるためバインダー、可塑剤等の有機成分が含まれているが、ユーザーでの焼成工程の短縮化のために、仮焼工程にてジルコニア成形体から予め有機成分を除去(脱脂)する必要がある(例えば、特許文献4等を参照)。
特開2010-222466号公報 国際公開第2015/098765号 特開2016-60687号公報 特開2010-220779号公報
しかしながら、従来のジルコニア仮焼体の製造方法では、ジルコニア成形体から有機成分を除去(脱脂)する際に欠け或いは割れなどの欠損が生じやすく、品質が低下したり、収率が低下したりする場合があった。
そこで本発明は、高い透光性及び高い強度を兼ね備えた品質に優れるジルコニア焼結体を収率よく製造するための、ジルコニア仮焼体の製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、当該製造方法により得られるジルコニア仮焼体、ならびに、当該ジルコニア仮焼体を用いるジルコニア焼結体の製造方法及びそれにより得られるジルコニア焼結体を提供することを目的とする。
本発明者は、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、過熱水蒸気を用いてジルコニア成形体を仮焼することで、高い透光性及び高い強度を兼ね備えた品質に優れるジルコニア焼結体が収率よく得られることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1]過熱水蒸気の存在下で、ジルコニア粒子と有機成分とを含むジルコニア成形体を加熱する仮焼工程を含む、ジルコニア仮焼体の製造方法;
[2]ジルコニア粒子の平均一次粒子径が30nm以下である、[1]に記載のジルコニア仮焼体の製造方法;
[3]ジルコニア成形体がさらに、安定化剤を含む、[1]又は[2]に記載のジルコニア仮焼体の製造方法;
[4]安定化剤がイットリアであり、イットリアの含有率が2.0~9.0モル%である、[3]に記載のジルコニア仮焼体の製造方法;
[5]ジルコニア仮焼体が、IUPAC分類に従うIV型等温線の窒素吸着及び/又は脱着を示す、[1]~[4]のいずれかに記載のジルコニア仮焼体の製造方法;
[6]加熱温度が120℃以上である、[1]~[5]のいずれかに記載のジルコニア仮焼体の製造方法;
[7]仮焼工程の最高温度が、900℃未満である、[1]~[6]のいずれかに記載のジルコニア仮焼体の製造方法;
[8]仮焼工程の最高温度が、800℃未満である、[1]~[7]のいずれかに記載のジルコニア仮焼体の製造方法;
[9]さらにジルコニア粒子を含む粉末をプレス成形する工程を含み、前記ジルコニア成形体が、ジルコニア粒子を含む粉末をプレス成形する工程により得られたものである、[1]~[8]のいずれかに記載のジルコニア仮焼体の製造方法;
[10]さらにジルコニア粒子と分散媒とを含むスラリーを乾燥させる工程を含み、前記ジルコニア粒子を含む粉末が、ジルコニア粒子と分散媒とを含むスラリーを乾燥させることにより得られたものである、[9]に記載のジルコニア仮焼体の製造方法;
[11]前記スラリーの分散媒が、25℃における表面張力が50mN/m以下の液体を含む、[10]に記載のジルコニア仮焼体の製造方法;
[12]前記有機成分が、樹脂を含む組成物であり、
さらにジルコニア粒子と、ジルコニア粒子と樹脂とを含む組成物を成形する工程を含み、
前記ジルコニア成形体が、ジルコニア粒子と樹脂とを含む組成物を成形する工程により得られたものである、[1]~[8]のいずれかに記載のジルコニア仮焼体の製造方法;
[13]前記有機成分が、重合性単量体を含む組成物であり、
前記ジルコニア成形体が、ジルコニア粒子と重合性単量体とを含む組成物を重合させることにより得られたものである、[1]~[8]のいずれかに記載のジルコニア仮焼体の製造方法;
[14][1]~[13]のいずれかに記載の製造方法により得られるジルコニア仮焼体;
[15][1]~[13]のいずれかに記載の製造方法により得られるジルコニア仮焼体を焼結する工程を含む、ジルコニア焼結体の製造方法;
[16]900℃以上1200℃以下で焼結する工程を含む、[15]に記載のジルコニア焼結体の製造方法;
[17]ジルコニア焼結体が歯科材料である、[15]又は[16]に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
本発明によれば、高い透光性及び高い強度を兼ね備えた品質に優れるジルコニア焼結体を収率よく製造することのできる、ジルコニア仮焼体の製造方法が提供される。また、本発明によれば、当該製造方法により得られるジルコニア仮焼体、ならびに、ジルコニア焼結体の製造方法及びそれにより得られるジルコニア焼結体が提供される。
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の記載は本発明を限定するものではない。
本発明のジルコニア仮焼体の製造方法は、過熱水蒸気の存在下で、ジルコニア粒子と有機成分とを含むジルコニア成形体を加熱する仮焼工程を含む。本発明において、ジルコニア仮焼体とは、ジルコニア(ZrO2)粒子(粉末)が完全には焼結していない状態(半焼結状態)でブロック化したものを意味する。本発明において、仮焼とは、ジルコニア粒子(粉末)が完全には焼結していない状態(半焼結状態)まで焼成することを意味する。有機成分としては、後述する他の成分(例えば、バインダー、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤など)に含まれる有機成分;樹脂及び樹脂を含む組成物;重合性単量体及び重合性単量体を含む組成物等が挙げられる。
本発明のジルコニア仮焼体の製造方法によって、高い透光性及び高い強度を兼ね備えた品質に優れるジルコニア焼結体を収率よく製造することのできる理由は定かではないが、以下のように推定される。まず、ジルコニア仮焼体の欠け或いは割れなどの欠損は、ジルコニア成形体を仮焼する工程においてジルコニア成形体の中心付近と表層付近との間に生じる温度差に起因する熱膨張率の差によって生じるものと考えられる。過熱水蒸気は空気等に比べて熱伝導性が高いという特徴を有するため、ジルコニア成形体を仮焼する工程中において、過熱水蒸気の存在下でジルコニア成形体を加熱することでジルコニア成形体の中心付近と表層付近との温度差が生じにくくなる。このため、ジルコニア成形体の中心付近と表層付近との熱膨張率差が小さくなることとから欠け或いは割れなどの欠損の発生が抑制されるものと考えられる。さらに、過熱水蒸気を用いた場合、バインダー、可塑剤の有機成分の燃焼状態は不完全燃焼が主となるため、有機物燃焼による局所的な発熱反応が抑制され、かつ燃焼ガス発生量が完全燃焼の場合より少ないことも関連していると推定される。
〔ジルコニア成形体の製造方法〕
本発明に係るジルコニア仮焼体の製造方法に用いるジルコニア成形体の製造方法は、特に限定されないが、ジルコニア粒子と有機成分とを加圧処理してジルコニア成形体を得る工程を含むことが好ましい。
・ジルコニア粒子
本発明において使用されるジルコニア成形体はジルコニア粒子を含む。使用されるジルコニア粒子の粒径に特に制限はないが、透光性及び強度により優れたジルコニア焼結体が得られると共に、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、ジルコニア粒子の平均一次粒子径は、30nm以下であることが好ましい。すなわち、ジルコニア粒子の平均一次粒子径が30nm以下であると、透光性及び強度により優れたジルコニア焼結体が得られることが期待される一方で、粒子が緻密に成形されるため、脱脂時にバインダー、可塑剤等の有機物由来の燃焼ガスが通過する流路が狭くなる。この狭い流路に起因し、従来の脱脂方法ではバインダー、可塑剤の有機成分の燃焼状態は完全燃焼が主反応であることから、たとえ仮焼体を得るための昇温速度を下げたとしても、局所的な発熱反応により発生した燃焼ガスの応力による欠け或いは割れなどの欠損を生じやすいという問題があった。本発明の過熱水蒸気を用いて仮焼することで、ジルコニア成形体の中心付近と表層付近との温度差を解消し、ジルコニア成形体内での熱膨張率差による欠け或いは割れなどの欠損の発生を抑制すると共にバインダー、可塑剤の有機成分の燃焼状態において不完全燃焼が主となるため、有機物燃焼による局所的な発熱反応を抑制し、かつ燃焼ガス発生量を低減することができ、本発明の効果をより奏することができる。ジルコニア粒子の平均一次粒子径は、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましく、10nm以下であってもよく、また、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。なお、ジルコニア粒子の平均一次粒子径は、例えば、ジルコニア粒子(一次粒子)を透過型電子顕微鏡(TEM)にて写真撮影し、得られた画像上の任意の粒子100個について各粒子の粒子径(最大径)を測定し、それらの平均値として求めることができる。
また、使用されるジルコニア粒子は、透光性及び強度により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、50nm以上の一次粒子の含有量が5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。当該含有量は、例えばゼータ電位測定装置などによって測定することができる。
ある好適な実施形態では、本発明のジルコニア仮焼体は、ジルコニアと、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤と、を含有する。該安定化剤は、部分安定化ジルコニアを形成可能なものが好ましい。該安定化剤としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、イットリア(Y23)、酸化セリウム(CeO2)、酸化スカンジウム(Sc23)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化ランタン(La23)、酸化エルビウム(Er23)、酸化プラセオジム(Pr611)、酸化サマリウム(Sm23)、酸化ユウロピウム(Eu23)及び酸化ツリウム(Tm23)等の酸化物が挙げられ、イットリアが好ましい。本発明のジルコニア仮焼体及びその焼結体中の安定化剤の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、蛍光X線分析等によって測定することができる。本発明のジルコニア仮焼体及びその焼結体において、該安定化剤の含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計molに対して、0.1~18mol%が好ましく、1~15mol%がより好ましく、1.5~10mol%がさらに好ましい。
使用されるジルコニア粒子に含まれるイットリアの含有率は、目的とするジルコニア焼結体におけるイットリアの含有率と同じものとすることができる。ある好適な実施形態では、透光性及び強度により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、ジルコニア粒子におけるイットリアの含有率は、2.0モル%以上であることが好ましく、3.0モル%以上であることがより好ましく、4.0モル%以上であることがさらに好ましく、4.5モル%以上であることが特に好ましく、5.0モル%以上、さらには5.5モル%以上であってもよく、また、9.0モル%以下であることが好ましく、8.0モル%以下であることがより好ましく、7.0モル%以下であることがさらに好ましい。なお、ジルコニア粒子におけるイットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計モル数に対するイットリアのモル数の割合(モル%)を意味する。
ジルコニア粒子の調製方法に特に制限はなく、例えば、粗粒子を粉砕して微粉化するブレークダウンプロセス、原子ないしイオンから核形成及び成長過程により合成するビルディングアッププロセスなどを採用することができる。このうち、高純度の微細なジルコニア粒子を得るためには、ビルディングアッププロセスが好ましい。
ブレークダウンプロセスは、例えば、ボールミル或いはビーズミルなどで粉砕することにより行うことができる。この際、微小サイズの粉砕メディアを使用することが好ましく、例えば、100μm以下の粉砕メディアを使用することが好ましい。また粉砕後に分級することが好ましい。
一方、ビルディングアッププロセスとしては、例えば、蒸気圧の高い金属イオンの酸素酸塩又は有機金属化合物を気化させながら熱分解して酸化物を析出させる気相熱分解法;蒸気圧の高い金属化合物の気体と反応ガスとの気相化学反応により合成を行う気相反応法;原料を加熱し気化させ、所定圧力の不活性ガス中で急冷することにより蒸気を微粒子状に凝縮させる蒸発濃縮法;融液を小液滴として冷却固化して粉末とする融液法;溶媒を蒸発させ液中濃度を高め過飽和状態にして析出させる溶媒蒸発法;沈殿剤との反応或いは加水分解により溶質濃度を過飽和状態とし、核生成-成長過程を経て酸化物、水酸化物等の難溶性化合物を析出させる沈殿法などが挙げられる。
沈殿法はさらに、化学反応により沈殿剤を溶液内で生成させ、沈殿剤濃度の局所的不均一をなくす均一沈殿法;液中に共存する複数の金属イオンを沈殿剤の添加によって同時に沈殿させる共沈法;金属塩溶液、金属アルコキシド等のアルコール溶液から加水分解によって酸化物又は水酸化物を得る加水分解法;高温高圧の流体から酸化物又は水酸化物を得るソルボサーマル合成法などに細別され、ソルボサーマル合成法は、水を溶媒として用いる水熱合成法;水、二酸化炭素等の超臨界流体を溶媒として用いる超臨界合成法などにさらに細別される。
いずれのビルディングアッププロセスについても、より微細なジルコニア粒子を得るために析出速度を速めることが好ましい。また得られたジルコニア粒子は分級することが好ましい。
ビルディングアッププロセスにおけるジルコニウム源としては、例えば、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、アルコキシドなどを用いることができ、具体的には、オキシ塩化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニルなどを用いることができる。
また、ジルコニア粒子に含まれるイットリアの含有量を上記範囲とするためにジルコニア粒子の製造過程でイットリアを配合することができ、例えばジルコニア粒子にイットリアを固溶させてもよい。イットリウム源としては、例えば、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、アルコキシドなどを用いることができ、具体的には、塩化イットリウム、酢酸イットリウム、硝酸イットリウムなどを用いることができる。
ジルコニア粒子は、必要に応じて、酸性基を有する有機化合物;飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド等の脂肪酸アミド;シランカップリング剤(有機ケイ素化合物)、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物などの公知の表面処理剤で予め表面処理されていてもよい。ジルコニア粒子を表面処理すると、後述するような、分散媒が25℃における表面張力が50mN/m以下の液体を含むスラリーを用いてジルコニア粒子を含む粉末を調製する場合にこのような液体との混和性を調整したり、また、後述するような、ジルコニア粒子及び重合性単量体を含む組成物を重合させる工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合などにおいて、ジルコニア粒子と重合性単量体との混和性を調整したりすることができる。上記の表面処理剤の中でも、25℃における表面張力が50mN/m以下の液体との混和性に優れ、また、ジルコニア粒子と重合性単量体との化学結合性を高めて得られるジルコニア成形体の強度を向上させることができることなどから、酸性基を有する有機化合物が好ましい。
酸性基を有する有機化合物としては、例えば、リン酸基、カルボン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する有機化合物が挙げられ、これらの中でも、リン酸基を少なくとも1個有するリン酸基含有有機化合物、カルボン酸基を少なくとも1個有するカルボン酸基含有有機化合物が好ましく、リン酸基含有有機化合物がより好ましい。ジルコニア粒子は1種の表面処理剤で表面処理されていてもよいし、2種以上の表面処理剤で表面処理されていてもよい。ジルコニア粒子を2種以上の表面処理剤で表面処理する場合には、それによる表面処理層は、2種以上の表面処理剤の混合物の表面処理層であってもよいし、表面処理層が複数積層した複層構造の表面処理層であってもよい。
リン酸基含有有機化合物としては、例えば、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシ-(1-ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
カルボン酸基含有有機化合物としては、例えば、コハク酸、シュウ酸、オクタン酸、デカン酸、ステアリン酸、ポリアクリル酸、4-メチルオクタン酸、ネオデカン酸、ピバリン酸、2,2-ジメチル酪酸、3,3-ジメチル酪酸、2,2-ジメチル吉草酸、2,2-ジエチル酪酸、3,3-ジエチル酪酸、ナフテン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、O-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、p-ビニル安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)酢酸(通称「MEEAA」)、2-(2-メトキシエトキシ)酢酸(通称「MEAA」)、コハク酸モノ[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エステル、マレイン酸モノ[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エステル、グルタル酸モノ[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エステル、マロン酸、グルタル酸、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキサン-1,1-ジカルボン酸、9-(メタ)アクリロイルオキシノナン-1,1-ジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデカン-1,1-ジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、12-(メタ)アクリロイルオキシドデカン-1,1-ジカルボン酸、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3’-(メタ)アクリロイルオキシ-2’-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、及びこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
また、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基等の、上記以外の酸性基を少なくとも1個有する有機化合物としては、例えば、国際公開第2012/042911号などに記載のものを用いることができる。
飽和脂肪酸アミドとしては、例えば、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸アミドとしては、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどが挙げられる。飽和脂肪酸ビスアミドとしては、例えば、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸ビスアミドとしては、例えば、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミドなどが挙げられる。
シランカップリング剤(有機ケイ素化合物)としては、例えば、R1 nSiX4-nで表される化合物などが挙げられる(式中、R1は炭素数1~12の置換又は無置換の炭化水素基であり、Xは炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又は水素原子であり、nは0~3の整数であり、ただし、R1及びXが複数存在する場合は、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい)。
シランカップリング剤(有機ケイ素化合物)の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等〕などが挙げられる。なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル」との表記は、メタクリロイルとアクリロイルの両者を包含する意味で用いられる。
これらの中でも、官能基を有するシランカップリング剤が好ましく、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
有機チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn-ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネートなどが挙げられる。
有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn-ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニルアセテートなどが挙げられる。
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物などが挙げられる。
表面処理の具体的な方法に特に制限はなく、公知の方法を採用することができ、例えば、ジルコニア粒子を激しく撹拌しながら上記の表面処理剤をスプレー添加する方法;適当な溶剤にジルコニア粒子と上記の表面処理剤とを分散又は溶解させた後、溶剤を除去する方法などを採用することができる。溶剤は後述するような25℃における表面張力が50mN/m以下の液体を含む分散媒であってもよい。また、ジルコニア粒子と上記の表面処理剤とを分散又は溶解させた後、還流或いは高温高圧処理(オートクレーブ処理等)をしてもよい。
・ジルコニア成形体の製造方法
本発明において使用されるジルコニア成形体は、ジルコニア粒子を成形する成形工程を有する方法により製造することができる。
ジルコニア粒子を成形する成形工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合における当該成形工程の種類に特に制限はないが、透光性及び強度により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該成形工程は、
(i)ジルコニア粒子を含むスラリーをスリップキャスティングする工程;
(ii)ジルコニア粒子を含むスラリーをゲルキャスティングする工程;
(iii)ジルコニア粒子を含む粉末をプレス成形する工程;
(iv)ジルコニア粒子及び樹脂を含む組成物を成形する工程;及び
(v)ジルコニア粒子及び重合性単量体を含む組成物を重合させる工程;
のうちのいずれかであることが好ましく、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、上記(iii)、(iv)及び(v)のうちのいずれかであることがより好ましく、上記(iii)であることがさらに好ましい。
(1)ジルコニア粒子を含むスラリー
ジルコニア粒子を含むスラリーの調製方法に特に制限はなく、例えば、ジルコニア粒子と分散媒とを混合することにより得ることができる。また、ジルコニア粒子を含むスラリーは、上記したブレークダウンプロセス或いはビルディングアッププロセスを経て得られるものであってもよいし、市販のものであってもよい。
ジルコニア粒子を含むスラリーが蛍光剤を含むと、蛍光剤を含むジルコニア成形体或いはジルコニア仮焼体、ひいては蛍光性を有するジルコニア焼結体を容易に得ることができる。このような観点から、ジルコニア粒子を含むスラリーは蛍光剤をさらに含んでいてもよい。
使用される蛍光剤の種類に特に制限はなく、いずれかの波長の光で蛍光を発することのできるもののうちの1種又は2種以上を用いることができる。このような蛍光剤としては金属元素を含むものが挙げられる。当該金属元素としては、例えば、Ga、Bi、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tmなどが挙げられる。蛍光剤はこれらの金属元素のうちの1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。これらの金属元素の中でも、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、Ga、Bi、Eu、Gd、Tmが好ましく、Bi、Euがより好ましい。使用される蛍光剤としては、例えば、上記金属元素の酸化物、水酸化物、酢酸塩、硝酸塩などが挙げられる。また蛍光剤は、Y2SiO5:Ce、Y2SiO5:Tb、(Y,Gd,Eu)BO3、Y23:Eu、YAG:Ce、ZnGa24:Zn、BaMgAl1017:Euなどであってもよい。
蛍光剤の使用量に特に制限はなく、蛍光剤の種類或いは最終的に得られるジルコニア焼結体の用途などに応じて適宜調整することができるが、最終的に得られるジルコニア焼結体を歯科用補綴物として好ましく使用できるなどの観点から、使用されるジルコニアの質量に対して蛍光剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。当該含有量が上記下限以上であることにより、ヒトの天然歯と比較しても蛍光性に劣ることのないジルコニア焼結体が得られ、また、当該含有量が上記上限以下であることにより、ジルコニア焼結体における透光性及び強度の低下を抑制することができる。
ジルコニア粒子を含むスラリーは、着色剤及び/又は透光性調整剤をさらに含んでいてもよい。当該スラリーが着色剤及び/又は透光性調整剤をさらに含むことにより、これらの成分を含むジルコニア成形体或いはジルコニア仮焼体、ひいてはこれらの成分を含むジルコニア焼結体が得られる。
ジルコニア焼結体が着色剤を含むことにより着色されたジルコニア焼結体となる。上記スラリーが含むことのできる着色剤の種類に特に制限はなく、セラミックスを着色するために一般的に使用される公知の顔料、公知の歯科用の液体着色剤などを用いることができる。着色剤としては金属元素を含むものなどが挙げられ、具体的には、鉄、バナジウム、プラセオジム、エルビウム、クロム、ニッケル、マンガン等の金属元素を含む酸化物、複合酸化物、塩などが挙げられる。また市販されている着色剤を用いることもでき、例えば、Zirkonzahn社製のPrettau Colour Liquidなどを用いることもできる。上記スラリーは1種の着色剤を含んでいてもよいし、2種以上の着色剤を含んでいてもよい。
着色剤の使用量に特に制限はなく、着色剤の種類或いは最終的に得られるジルコニア焼結体の用途などに応じて適宜調整することができるが、最終的に得られるジルコニア焼結体を歯科用補綴物として好ましく使用できるなどの観点から、使用されるジルコニアの質量に対して着色剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下、さらには0.05質量%以下であってもよい。
上記スラリーが含むことのできる透光性調整剤としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、二酸化ケイ素、ジルコン、リチウムシリケート、リチウムジシリケートなどが挙げられる。上記スラリーは1種の透光性調整剤を含んでいてもよいし、2種以上の透光性調整剤を含んでいてもよい。
透光性調整剤の使用量に特に制限はなく、透光性調整剤の種類或いは最終的に得られるジルコニア焼結体の用途などに応じて適宜調整することができるが、最終的に得られるジルコニア焼結体を歯科用補綴物として好ましく使用できるなどの観点から、使用されるジルコニアの質量に対して0.1質量%以下であることが好ましい。
(2)ジルコニア粒子を含む粉末
ジルコニア粒子を含む粉末の調製方法に特に制限はなく、例えば、粉末状のジルコニア粒子をそのまま用いてもよいし、粉末状のジルコニアと粉末状の任意成分(例えば、蛍光剤、着色剤、透光性調整剤等)とをドライブレンドして調製してもよいが、より均一で物性に優れたジルコニア成形体、ひいてはジルコニア仮焼体或いはジルコニア焼結体を得ることができることなどから、上記したようなジルコニア粒子を含むスラリーを乾燥させることによって得ることが好ましい。ここで乾燥に供される当該スラリーは、上記のとおり、蛍光剤、着色剤及び透光性調整剤のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。
乾燥に供される上記スラリーが蛍光剤を含む場合において蛍光剤の添加方法に特に制限はなく、粉末状の蛍光剤を添加してもよいが、ジルコニア粒子及び蛍光剤を含むスラリーの調製を、ジルコニア粒子を含むスラリーと液体状態の蛍光剤とを混合することにより行うと、粗大な粒子の混入が防止されるなどして、蛍光剤を含むにもかかわらず、透光性及び強度により優れたジルコニア焼結体を得ることができることから好ましい。液体状態の蛍光剤としては、例えば、上記蛍光剤の溶液或いは分散体などを用いることができ、蛍光剤の溶液が好ましい。当該溶液の種類に特に制限はなく、例えば、水溶液が挙げられる。当該水溶液は、希硝酸溶液、希塩酸溶液などであってもよく、使用される蛍光剤の種類などに応じて適宜選択することができる。
また、乾燥に供される上記スラリーが着色剤及び/又は透光性調整剤を含む場合において着色剤及び/又は透光性調整剤の添加方法に特に制限はなく、粉末状の着色剤及び/又は透光性調整剤をジルコニア粒子を含むスラリーに添加してもよいが、着色剤及び/又は透光性調整剤を、それぞれ、溶液或いは分散体などの液体状態でジルコニア粒子を含むスラリーと混合することが好ましい。
ジルコニア粒子を含むスラリーを乾燥させる際の乾燥方法に特に制限はなく、例えば、噴霧乾燥(スプレードライ)、超臨界乾燥、凍結乾燥、熱風乾燥、濾過乾燥、減圧乾燥などを採用することができる。このうち、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができ、透光性及び強度により優れたジルコニア焼結体となることなどから、噴霧乾燥、超臨界乾燥及び凍結乾燥のうちのいずれかが好ましく、噴霧乾燥及び超臨界乾燥のうちのいずれかがより好ましく、噴霧乾燥がさらに好ましい。
乾燥に供されるジルコニア粒子を含むスラリーは、分散媒が水であるスラリーであってもよいが、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、有機溶剤など、水以外の分散媒のスラリーであることが好ましい。
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブチルアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、グリセリン等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(通称「PGMEA」)等の変性エーテル類(好ましくはエーテル変性エーテル類及び/又はエステル変性エーテル類、より好ましくはエーテル変性アルキレングリコール類及び/又はエステル変性アルキレングリコール類)を含む);酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;ヘキサン、トルエン等の炭化水素;クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。これらの有機溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、生体に対する安全性と、除去の容易さの双方を勘案すると、有機溶剤は水溶性有機溶剤であることが好ましく、具体的には、エタノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、2-エトキシエタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アセトン、テトラヒドロフランがより好ましい。
また特に噴霧乾燥を採用する場合などにおいて、乾燥に供されるジルコニア粒子を含むスラリーの分散媒が、25℃における表面張力が50mN/m以下の液体を含むと、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができ、透光性及び強度により優れたジルコニア焼結体となることから好ましい。このような観点から、上記液体の表面張力は、40mN/m以下であることが好ましく、30mN/m以下であることがより好ましい。
25℃における表面張力は、例えば、Handbook of Chemistry and Phisicsに記載の値を使用することができ、これに記載のない液体については、国際公開第2014/126034号に記載の値を使用することができる。これらのいずれにも記載のない液体については、公知の測定方法によって求めることができ、例えば、吊輪法、Wilhelmy法などで測定することができる。25℃における表面張力は、協和界面科学(株)製の自動表面張力計「CBVP-Z」、又は、KSV INSTRUMENTS LTD社製の「SIGMA702」を用いて測定することが好ましい。
上記液体としては上記表面張力を有する有機溶剤を使用することができる。当該有機溶剤としては、上記したもののうち上記表面張力を有するものを用いることができるが、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、メタノール、エタノール、2-メトキシエタノール、1,4-ジオキサン、2-エトキシエタノール及び2-(2-エトキシエトキシ)エタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、メタノール、エタノール、2-エトキシエタノール及び2-(2-エトキシエトキシ)エタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
分散媒における上記液体の含有量は、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。
水以外の分散媒のスラリーは、分散媒が水であるスラリーに対して、分散媒を置換することにより得ることができる。分散媒の置換方法に特に制限はなく、例えば、分散媒が水であるスラリーに水以外の分散媒(有機溶剤等)を添加した後、水を留去する方法を採用することができる。水の留去においては、水以外の分散媒の一部又は全部が共に留去されてもよい。当該水以外の分散媒の添加及び水の留去は複数回繰り返してもよい。また、分散媒が水であるスラリーに水以外の分散媒を添加した後、分散質を沈殿させる方法を採用することもできる。さらに、分散媒が水であるスラリーに対して、分散媒を特定の有機溶剤で置換した後、さらに別の有機溶剤で置換してもよい。
なお、乾燥に供されるジルコニア粒子を含むスラリーが蛍光剤を含む場合において蛍光剤は、分散媒を置換した後に添加してもよいが、より均一で物性に優れたジルコニア焼結体を得ることができることなどから、分散媒を置換する前に添加することが好ましい。同様に、乾燥に供されるジルコニア粒子を含むスラリーが着色剤及び/又は透光性調整剤を含む場合において着色剤及び/又は透光性調整剤は、分散媒を置換した後に添加してもよいが、より均一で物性に優れたジルコニア焼結体を得ることができることなどから、分散媒を置換する前に添加することが好ましい。
乾燥に供されるジルコニア粒子を含むスラリーは、還流処理、水熱処理等の熱或いは圧力による分散処理が施されたものであってもよい。また、乾燥に供されるジルコニア粒子を含むスラリーは、ロールミル、コロイドミル、高圧噴射式分散機、超音波分散機、振動ミル、遊星ミル、ビーズミル等による機械的分散処理が施されたものであってもよい。上記各処理は、1つのみ採用してもよいし、2種以上採用してもよい。
乾燥に供されるジルコニア粒子を含むスラリーは、バインダー、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの他の成分のうちの1種又は2種以上をさらに含んでいてもよい。このような他の成分(特にバインダー、分散剤、消泡剤など)を含むことにより、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができる場合がある。他の成分としては、有機成分が好ましい。
バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、エチルセルロースなどが挙げられる。
可塑剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジブチルフタル酸などが挙げられる。
分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム(クエン酸三アンモニウム等)、ポリアクリル酸アンモニウム、アクリル共重合体樹脂、アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸、ベントナイト、カルボキシメチルセルロース、アニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等など)、非イオン系界面活性剤、オレイングリセリド、アミン系界面活性剤、オリゴ糖アルコールなどが挙げられる。
乳化剤としては、例えば、アルキルエーテル、フェニルエーテル、ソルビタン誘導体、アンモニウム塩などが挙げられる。
消泡剤としては、例えば、アルコール、ポリエーテル、ポリエチレングリコール、シリコーン、ワックスなどが挙げられる。
pH調整剤としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩(水酸化テトラメチルアンモニウム等の水酸化アンモニウムを含む)、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。
潤滑剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキレートエーテル、ワックスなどが挙げられる。
乾燥に供されるジルコニア粒子を含むスラリーにおける水分量は、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。当該水分量は、カールフィッシャー水分量計を用いて測定することができる。
上記各乾燥方法における乾燥条件に特に制限はなく、公知の乾燥条件を適宜採用することができる。なお、分散媒として有機溶剤を使用する場合には、乾燥時の爆発のリスクを下げるために、不燃性の気体の存在下に乾燥を行うことが好ましく、窒素の存在下に乾燥を行うことがより好ましい。
超臨界乾燥する場合における超臨界流体に特に制限はなく、例えば、水、二酸化炭素などを用いることができるが、粒子同士の凝集を抑制することができてより緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、超臨界流体は二酸化炭素であることが好ましい。
(3)ジルコニア粒子及び樹脂を含む組成物
ジルコニア粒子及び樹脂を含む組成物の調製方法に特に制限はなく、例えば、ジルコニア粒子(好ましくは上記のジルコニア粒子を含む粉末)と樹脂とを混合することにより得ることができる。
(4)ジルコニア粒子及び重合性単量体を含む組成物
ジルコニア粒子及び重合性単量体を含む組成物の調製方法に特に制限はなく、例えば、ジルコニア粒子(好ましくは上記のジルコニア粒子を含む粉末)と重合性単量体とを混合することにより得ることができる。
(i)スリップキャスティング
ジルコニア粒子を含むスラリーをスリップキャスティングする工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合において、スリップキャスティングの具体的な方法に特に制限はなく、例えば、ジルコニア粒子を含むスラリーを型に流し込んだ後に乾燥させる方法を採用することができる。
使用されるジルコニア粒子を含むスラリーにおける分散媒の含有量は、スラリーの型への流し込みが容易であると共に、乾燥に多大な時間がかかるのを防止することができ、型の使用回数も増加させることができることなどから、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
スラリーの型への流し込みは常圧下に行ってもよいが、加圧条件下で行うことが生産効率の観点から好ましい。スリップキャスティングに使用される型の種類に特に制限はなく、例えば、石膏、樹脂、セラミックス等からなる多孔質型などを用いることができる。樹脂或いはセラミックスからなる多孔質型は耐久性の点で優れる。
スリップキャスティングに使用される上記ジルコニア粒子を含むスラリーは、上記したような、バインダー、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの他の成分のうちの1種又は2種以上をさらに含んでいてもよい。
(ii)ゲルキャスティング
ジルコニア粒子を含むスラリーをゲルキャスティングする工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合において、ゲルキャスティングの具体的な方法に特に制限はなく、例えば、ジルコニア粒子を含むスラリーを型内でゲル化させるなどして賦形されたジルコニア成形体を得た後に、これを乾燥させる方法を採用することができる。
使用されるジルコニア粒子を含むスラリーにおける分散媒の含有量は、乾燥に多大な時間がかかるのを防止することができ、乾燥時におけるクラックの発生も抑制できることなどから、80質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
上記ゲル化は、例えば、ゲル化剤の添加によって行ってもよいし、重合性単量体を添加後にこれを重合することによって行ってもよい。使用される型の種類に特に制限はなく、例えば、石膏、樹脂、セラミックス等からなる多孔質型、或いは金属、樹脂等からなる無孔質型などを用いることができる。
ゲル化剤の種類に制限はなく、例えば水溶性ゲル化剤を用いることができ、具体的には、アガロース、ゼラチンなどを好ましく用いることができる。ゲル化剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ゲル化剤の使用量は、焼結時のクラックの発生を抑制するなどの観点から、ゲル化剤が配合された後のスラリーの質量に基づいて、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
また重合性単量体の種類に特に制限はなく、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。重合性単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
重合性単量体の使用量は、焼結時のクラックの発生を抑制するなどの観点から、重合性単量体が配合された後のスラリーの質量に基づいて、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
重合性単量体の重合によってゲル化を行う場合において、当該重合は重合開始剤を用いて行うことが好ましい。重合開始剤の種類に特に制限はないが、光重合開始剤が特に好ましい。光重合開始剤としては、一般工業界で使用されている光重合開始剤から適宜選択して使用することができ、中でも歯科用途に用いられている光重合開始剤が好ましい。
具体的な光重合開始剤としては、例えば、(ビス)アシルホスフィンオキシド類(塩を含む)、チオキサントン類(第4級アンモニウム塩等の塩を含む)、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α-アミノケトン系化合物などが挙げられる。光重合開始剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類及びα-ジケトン類からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、紫外領域(近紫外領域を含む)及び可視光領域の双方で重合(ゲル化)を行うことができ、特に、Arレーザー、He-Cdレーザー等のレーザー;ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、発光ダイオード(LED)、水銀灯、蛍光灯等の照明等のいずれの光源を用いても十分に重合(ゲル化)を行うことができる。
上記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(通称「TPO」)、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのナトリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドのカリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドのアンモニウム塩などが挙げられる。
上記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、ビスアシルホスフィンオキシド類としては、例えば、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,3,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドなどが挙げられる。さらに、特開2000-159621号公報に記載されている化合物などを用いることもできる。
これらの(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのナトリウム塩が好ましい。
α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンなどが挙げられる。これらの中でも、特に可視光領域の光源を使用する場合などにおいて、カンファーキノンが好ましい。
ゲルキャスティングに使用される上記ジルコニア粒子を含むスラリーについても、スリップキャスティングに使用されるスラリーと同様、上記したような、バインダー、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの他の成分のうちの1種又は2種以上をさらに含んでいてもよい。
賦形されたジルコニア成形体を乾燥させる際の乾燥方法に特に制限はなく、例えば、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、誘電加熱乾燥、誘導加熱乾燥、恒温恒湿乾燥などが挙げられる。これらは1種のみ採用してもよいし、2種以上を採用してもよい。これらの中でも乾燥時におけるクラックの発生を抑制できることなどから、自然乾燥、誘電加熱乾燥、誘導加熱乾燥、恒温恒湿乾燥が好ましい。
(iii)プレス成形
ジルコニア粒子を含む粉末をプレス成形する工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合において、プレス成形の具体的な方法に特に制限はなく、公知のプレス成形機を用いて行うことができる。プレス成形の具体的な方法としては、例えば、一軸プレスなどが挙げられる。
プレス成形に使用される上記ジルコニア粒子を含む粉末は、上記したような、蛍光剤、着色剤及び透光性調整剤のうちの少なくとも1つをさらに含んでいてもよいし、上記したような、バインダー、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの他の成分のうちの1種又は2種以上をさらに含んでいてもよい。これらの成分は粉末を調製する際に配合されてもよい。
(iv)樹脂を含む組成物の成形
ジルコニア粒子及び樹脂を含む組成物を成形する工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合において、当該組成物を成形するための具体的な方法に特に制限はなく、例えば、射出成形、注型成形、押出成形などを採用することができる。また、当該組成物を熱溶解法(FDM)で造形する方法、インクジェット法、粉末/バインダー積層法等の積層造形法(3Dプリンティング等)を採用してもよい。これらの成形方法の中でも、射出成形及び注型成形が好ましく、射出成形がより好ましい。
上記樹脂の種類に特に制限はなくバインダーとして機能するものを好ましく用いることができる。当該樹脂の具体例としては、例えば、パラフィンワックス、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、アタクチックポリプロピレン、メタクリル樹脂、ステアリン酸等の脂肪酸などが挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記ジルコニア粒子及び樹脂を含む組成物は、上記したような、蛍光剤、着色剤及び透光性調整剤のうちの少なくとも1つをさらに含んでいてもよく、上記したような、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの他の成分のうちの1種又は2種以上をさらに含んでいてもよい。
(v)重合性単量体を含む組成物の重合
ジルコニア粒子及び重合性単量体を含む組成物を重合させることにより、当該組成物中の重合性単量体が重合して組成物を硬化させることができる。当該重合させる工程を有する方法によりジルコニア成形体を製造する場合において、その具体的な方法に特に制限はなく、例えば、(a)ジルコニア粒子及び重合性単量体を含む組成物を型内で重合させる方法;(b)ジルコニア粒子及び重合性単量体を含む組成物を用いる光造形(ステレオリソグラフィー;SLA)法などを採用することができる。これらの中でも、(b)の光造形法が好ましい。光造形法によれば、最終的に得られるジルコニア焼結体における所望の形状に対応した形状をジルコニア成形体を製造する時点で付与することができる。そのため、特に本発明のジルコニア焼結体を歯科用補綴物等の歯科材料として用いる場合などにおいて、当該光造形法が好適な場合がある。
上記ジルコニア粒子及び重合性単量体を含む組成物における重合性単量体の種類に特に制限はなく、単官能性の(メタ)アクリレート、単官能性の(メタ)アクリルアミド等の単官能性の重合性単量体、及び、二官能性の芳香族化合物、二官能性の脂肪族化合物、三官能性以上の化合物等の多官能性の重合性単量体のうちのいずれであってもよい。重合性単量体は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特に光造形法を採用する場合などにおいて、多官能性の重合性単量体を用いることが好ましい。
単官能性の(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族基含有(メタ)アクリレート;2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン等の官能基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
単官能性の(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-2-エチルヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
これらの単官能性の重合性単量体の中でも、重合性が優れる点で、(メタ)アクリルアミドが好ましく、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドがより好ましい。
二官能性の芳香族化合物としては、例えば、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4-ビス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテートなどが挙げられる。これらの中でも、重合性或いは得られるジルコニア成形体の強度が優れる点で、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンが好ましい。2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンの中でも、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数が2.6である化合物(通称「D-2.6E」))が好ましい。
二官能性の脂肪族化合物としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2-エチル-1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)などが挙げられる。これらの中でも、重合性或いは得られるジルコニア成形体の強度が優れる点で、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称「TEGDMA」)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレートが好ましい。
三官能性以上の化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンなどが挙げられる。これらの中でも、重合性或いは得られるジルコニア成形体の強度が優れる点で、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンが好ましい。
上記(a)及び(b)のいずれの方法においても、組成物の重合は重合開始剤を用いて行うことが好ましく、当該組成物は重合開始剤をさらに含むことが好ましい。重合開始剤の種類に特に制限はないが、光重合開始剤が特に好ましい。光重合開始剤としては、一般工業界で使用されている光重合開始剤から適宜選択して使用することができ、中でも歯科用途に用いられている光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤の具体例は、ゲルキャスティングの説明において上記したものと同様であり、ここでは重複する説明を省略する。
上記ジルコニア粒子及び重合性単量体を含む組成物は、上記したような、蛍光剤、着色剤及び透光性調整剤のうちの少なくとも1つをさらに含んでいてもよいし、上記したような、可塑剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤などの他の成分のうちの1種又は2種以上をさらに含んでいてもよい。
ジルコニア粒子及び重合性単量体を含む組成物を用いる光造形法によってジルコニア成形体を製造する場合において光造形法の具体的な方法に特に制限はなく、公知の方法を適宜採用して光造形することができる。例えば、光造形装置を用い、液状の組成物を紫外線、レーザー等で光重合することで所望の形状を有する各層を順次形成していくことによって目的とするジルコニア成形体を得る方法などを採用することができる。
光造形法によってジルコニア成形体を得る場合、ジルコニア粒子及び重合性単量体を含む組成物におけるジルコニア粒子の含有量は、後の焼結性の観点などからは可及的に多いほうが好ましく、具体的には、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。一方で、光造形法では、その積層成形の原理から、当該組成物の粘度がある一定の範囲内にあることが望ましく、そのため、上記組成物におけるジルコニア粒子の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。当該組成物の粘度の調整は、容器の下側から該容器の底面を通して光を照射することにより層を硬化させてジルコニア成形体を一層ずつ順次形成していく規制液面法を実施する場合に、硬化した層を一層分だけ上昇させて、当該硬化した層の下面と容器の底面との間に次の層を形成するための組成物を円滑に流入させるために特に重要になることがある。
上記組成物の具体的な粘度としては、25℃での粘度として、20,000mPa・s以下であることが好ましく、10,000mPa・s以下であることがより好ましく、5,000mPa・s以下であることがさらに好ましく、また、100mPa・s以上であることが好ましい。当該組成物において、ジルコニア粒子の含有量が高いほど粘度が上昇する傾向があるため、用いる光造形装置の性能などに合わせて、光造形する際の速度と得られるジルコニア成形体の精度とのバランスなども勘案しながら、上記組成物におけるジルコニア粒子の含有量と粘度とのバランスを適宜調整することが好ましい。なお、当該粘度は、E型粘度計を用いて測定することができる。
・加圧処理
本発明のジルコニア成形体の製造方法は、上記のようにして得られたジルコニア成形体をさらに加圧処理する工程を含んでいてもよい。ジルコニア成形体を加圧処理することにより、目的とするジルコニア成形体の密度を向上させ、ジルコニア焼結体の透光性或いは強度の向上が期待できる。
加圧処理の方法に特に制限はなく、一軸プレス等の一方向に加圧する方法を採用することもできるが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、冷間等方圧加圧(CIP)処理(以下、単に「CIP処理」と称する場合がある)等の等方圧加圧処理が好ましい。
CIP処理は、例えば、神戸製鋼所社が製造する1000MPa程度に加圧可能なCIP装置を用いることができる。CIP処理の際の圧力は、高い方が所望とするジルコニア成形体が得られやすいため好ましい。CIP処理の際の圧力に特に制限はないが、透光性及び強度により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、好ましくは30MPa以上、より好ましくは50MPa以上、さらに好ましくは100MPa以上であり、また、好ましくは300MPa以下、より好ましくは250MPa以下、さらに好ましくは200MPa以下である。CIP処理の際の温度に特に制限はないが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上であり、また、好ましくは300℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは50℃以下、特に好ましくは35℃以下である。なお、加温した状態で等方圧加圧処理することを特に温間等方圧加圧(WIP)処理と呼ぶ場合もあるが、本明細書では、このような温間等方圧加圧(WIP)処理もCIP処理に含めるものとする。温間等方圧加圧(WIP)処理の際の温度としては、例えば50~120℃の範囲内とすることができる。また、温間等方圧加圧(WIP)処理を行う際の圧媒は水でなくてもよく、例えばシリコーンオイル等の水以外の圧媒を使用することもできる。CIP処理における加圧時間は、採用される圧力などに応じて適宜設定することができるが、通常、0.1~60分間とすればよい。
ジルコニア成形体の密度に特に制限はなく、ジルコニア成形体の製造方法などによっても異なるが、緻密なジルコニア焼結体を得ることができることなどから、当該密度は、3.0g/cm3以上であることが好ましく、3.2g/cm3以上であることがより好ましく、3.4g/cm3以上であることがさらに好ましい。当該密度の上限に特に制限はないが、例えば、6.0g/cm3以下、さらには5.8g/cm3以下とすることができる。
ジルコニア成形体の形状に特に制限はなく、用途に応じて所望の形状とすることができるが、歯科用補綴物等の歯科材料を製造するためのミルブランクとして使用するジルコニア仮焼体を得る場合における取り扱い性などを考慮すると、円盤状、角柱状(直方体状等)などが好ましい。なお、ジルコニア成形体の形状は、ジルコニア成形体の製造時に予め付与するのが簡便であり好ましい。また上述のように、ジルコニア成形体の製造において光造形法などを採用すれば、最終的に得られるジルコニア焼結体における所望の形状に対応した形状をジルコニア成形体に付与することができるが、本発明はこのような所望の形状を有するジルコニア成形体も包含する。さらに、ジルコニア成形体は単層構造であってもよいが、多層構造であってもよい。多層構造とすることで最終的に得られるジルコニア焼結体を多層構造とすることができ、その透光性などの物性を局所的に変化させることができる。
ジルコニア成形体は、取り扱い性の観点などから、その2軸曲げ強さが、2~10MPaの範囲内であることが好ましく、5~8MPaの範囲内であることがより好ましい。なお、ジルコニア成形体の2軸曲げ強さは、ISO 6872:2015に準拠して測定することができる。
上記の製造方法により得られるジルコニア成形体は、常圧下、1100℃で2時間焼結した後の結晶粒径が180nm以下であることが好ましい。これにより高い透光性を有するジルコニア焼結体を容易に製造することができる。透光性により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該結晶粒径は140nm以下であることがより好ましく、120nm以下であることがさらに好ましく、115nm以下であることが特に好ましく、110nm以下であってもよい。当該結晶粒径の下限に特に制限はないが、当該結晶粒径は、例えば、30nm以上、さらには50nm以上とすることができる。なお、ジルコニア焼結体における結晶粒径は、ジルコニア焼結体断面の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真を撮影し、その撮影画像にある任意の粒子を10個選択し、各々の円相当径(同一面積の真円の直径)の平均値として求めることができる。
上記の製造方法により得られるジルコニア成形体は、常圧下、1100℃で2時間焼結した後の3点曲げ強さが400MPa以上であることが好ましい。これにより高い強度を有するジルコニア焼結体を容易に製造することができる。強度により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該3点曲げ強さは500MPa以上であることがより好ましく、600MPa以上であることがさらに好ましく、650MPa以上であることが特に好ましく、700MPa以上であることが最も好ましく、800MPa以上であってもよい。当該3点曲げ強さの上限に特に制限はないが、当該3点曲げ強さは、例えば、1500MPa以下、さらには1000MPa以下とすることができる。なお、ジルコニア焼結体の3点曲げ強さは、ISO 6872:2015に準拠して測定することができる。
上記の製造方法により得られるジルコニア成形体は、常圧下、1100℃で2時間焼結した後の厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率が35%以上であることが好ましい。これにより高い透光性を有するジルコニア焼結体を容易に製造することができる。透光性により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該透過率は、40%以上であることがより好ましく、45%以上であることがさらに好ましく、46%以上、48%以上、50%以上、さらには52%以上であってもよい。当該透過率の上限に特に制限はないが、当該透過率は、例えば、60%以下、さらには57%以下とすることができる。なお、ジルコニア焼結体の厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率は、分光光度計を用いて測定すればよく、例えば、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、「日立分光光度計 U-3900H形」)を用い、光源より発生した光を試料に透過及び散乱させ、積分球を利用して測定することができる。当該測定においては、一旦、300~750nmの波長領域で透過率を測定した上で、波長700nmの光についての透過率を求めてもよい。測定に使用される試料としては、両面を鏡面研磨加工した直径15mm×厚さ0.5mmの円盤状のジルコニア焼結体を用いることができる。
〔ジルコニア仮焼体の製造方法〕
上記したジルコニア成形体を、過熱水蒸気の存在下でジルコニア成形体を加熱して脱脂することにより、本発明のジルコニア仮焼体を得ることができる。すなわち、過熱水蒸気とジルコニア成形体とを接触させつつ、加熱することで欠け或いは割れのないジルコニア仮焼体を製造できる。本発明における「過熱水蒸気」とは100℃よりも高い温度を有する水蒸気を意味する。過熱水蒸気の存在下での加熱温度は、目的とするジルコニア仮焼体が容易に得られるなどの観点から、120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましく、また、900℃未満であることが好ましく、850℃以下であることがより好ましく、800℃以下であることがさらに好ましい。過熱水蒸気の存在下での加熱温度が上記下限以上であることにより、有機物の残渣の発生を効果的に抑制することができる。また、仮焼温度が上記上限以下であることにより、焼結が過剰に進行して切削加工機での切削(ミリング)が困難になるのを抑制することができる。過熱水蒸気の存在下での加熱温度は、前記温度範囲内において変化させてもよく、一定であってもよく、またある時間では温度は変化し、かつ他の時間では温度が一定であってもよい。例えば、仮焼工程の昇温工程において、過熱水蒸気の存在下でジルコニア成形体を加熱する場合、過熱水蒸気の存在下での加熱温度は、前記温度範囲内であり、かつ後述する仮焼の際の昇温速度の範囲内であってもよい。ある好適な実施形態では、仮焼工程の昇温工程において、過熱水蒸気の存在下での加熱を行う、ジルコニア仮焼体の製造方法が挙げられる。また、ある他の好適な実施形態では、仮焼工程の昇温工程及び最高温度保持工程において、過熱水蒸気の存在下での加熱を行う、ジルコニア仮焼体の製造方法が挙げられる。また、仮焼工程の最高温度(以下、「仮焼最高温度」ともいう。)は、220℃以上であることが好ましく、280℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。また、仮焼最高温度は、900℃未満であることが好ましく、850℃未満であることがより好ましく、800℃未満であることがさらに好ましく、750℃未満であることが特に好ましい。仮焼最高温度が上記下限以上であることにより、有機物の残渣の発生を効果的に抑制することができる。また、仮焼温度が上記上限以下であることにより、焼結が過剰に進行して切削加工機での切削(ミリング)が困難になるのを抑制することができる。過熱水蒸気の存在下での加熱温度は、仮焼工程の最高温度を超えないものである。
仮焼の際の昇温速度は、0.1℃/分以上であることが好ましく、0.2℃/分以上であることがより好ましく、0.5℃/分以上であることがさらに好ましく、また、150℃/分以下であることが好ましく、50℃/分以下であることがより好ましく、20℃/分以下であることがさらに好ましい。昇温速度が上記下限以上であることにより生産性が向上する。また、昇温速度が上記上限以下であることにより、ジルコニア成形体或いはジルコニア仮焼体における内部と外部の体積差を抑制でき、また、ジルコニア成形体が有機物を含む場合に当該有機物の急激な分解を抑制できてクラック或いは破壊を抑制することができる。
ジルコニア成形体を仮焼する際の仮焼時間に特に制限はないが、目的とするジルコニア仮焼体を生産性よく効率的に安定して得ることができることなどから、仮焼時間は、0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましく、2時間以上であることがさらに好ましく、また、10時間以下であることが好ましく、8時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることがさらに好ましい。
仮焼は過熱水蒸気発生器を接続した仮焼炉を用いて行うことができる。過熱水蒸気発生器の種類に特に制限はなく、例えば、市販のスチームヒーターなどを用いることができる。また、上記仮焼温度範囲に制御できるものが好ましい。仮焼炉の種類に特に制限はなく、例えば、一般工業界で用いられる電気炉及び脱脂炉などを用いることができる。
ジルコニア仮焼体は、ジルコニア焼結体とする前に、切削(ミリング)によって用途に応じた所望の形状とすることができる。特に本発明によれば、高い透光性及び高い強度を兼ね備えた品質に優れるジルコニア焼結体を収率よく製造できることから、当該ジルコニア焼結体は歯科用補綴物等の歯科材料などとして特に好適であり、このような用途に使用されるジルコニア焼結体を得るために、それに対応する形状になるようにジルコニア仮焼体を切削(ミリング)することができる。切削(ミリング)の仕方に特に制限はなく、例えば公知のミリング装置を用いて行うことができる。
〔ジルコニア仮焼体〕
ジルコニア焼結体に蛍光剤を含ませる場合には、ジルコニア仮焼体においてこのような蛍光剤を含むことが好ましい。ジルコニア仮焼体における蛍光剤の含有量は、得られるジルコニア焼結体における蛍光剤の含有量などに応じて適宜調整することができる。ジルコニア仮焼体に含まれる蛍光剤の具体的な含有量は、ジルコニア仮焼体に含まれるジルコニアの質量に対して、蛍光剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
ジルコニア焼結体に着色剤を含ませる場合には、ジルコニア仮焼体においてこのような着色剤を含むことが好ましい。ジルコニア仮焼体における着色剤の含有量は、得られるジルコニア焼結体における着色剤の含有量などに応じて適宜調整することができる。ジルコニア仮焼体に含まれる着色剤の具体的な含有量は、ジルコニア仮焼体に含まれるジルコニアの質量に対して、着色剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下、さらには0.05質量%以下であってもよい。
ジルコニア焼結体に透光性調整剤を含ませる場合には、ジルコニア仮焼体においてこのような透光性調整剤を含むことが好ましい。ジルコニア仮焼体における透光性調整剤の含有量は、得られるジルコニア焼結体における透光性調整剤の含有量などに応じて適宜調整することができる。ジルコニア仮焼体に含まれる透光性調整剤の具体的な含有量は、ジルコニア仮焼体に含まれるジルコニアの質量に対して0.1質量%以下であることが好ましい。
ジルコニア仮焼体に含まれるイットリアの含有率は、得られるジルコニア焼結体におけるイットリアの含有率と同じものとすればよい。ジルコニア仮焼体におけるイットリアの含有率は、2.0モル%以上であることが好ましく、3.0モル%以上であることがより好ましく、4.0モル%以上であることがさらに好ましく、4.5モル%以上であることが特に好ましく、5.0モル%以上、さらには5.5モル%以上であってもよく、また、9.0モル%以下であることが好ましく、8.0モル%以下であることがより好ましく、7.0モル%以下であることがさらに好ましい。なお、ジルコニア仮焼体におけるイットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計モル数に対するイットリアのモル数の割合(モル%)を意味する。
ジルコニア仮焼体の密度に特に制限はなく、その製造に使用されるジルコニア成形体の製造方法などによっても異なるが、3.0~6.0g/m3の範囲内であることが好ましく、3.2~5.8g/m3の範囲内であることがより好ましい。
ジルコニア仮焼体の形状に特に制限はなく、用途に応じて所望の形状とすることができるが、歯科用補綴物等の歯科材料を製造するためのミルブランクとして使用する場合における取り扱い性などを考慮すると、円盤状、角柱状(直方体状等)、円柱状などが好ましい。なお、上述のように、ジルコニア仮焼体をジルコニア焼結体とする前に、切削(ミリング)によって用途に応じた所望の形状とすることができるが、本発明はこのような切削(ミリング)後の所望の形状を有するジルコニア仮焼体も包含する。また、ジルコニア仮焼体は単層構造であってもよいが、多層構造であってもよい。多層構造とすることで最終的に得られるジルコニア焼結体を多層構造とすることができ、その透光性などの物性を局所的に変化させることができる。また、ジルコニア成形体が角柱状、円柱状等の所定の厚さを有する形状である場合、ジルコニア成形体の中心付近と表層付近との間に生じる温度差に起因する熱膨張率の差が大きくなる。特に、ジルコニア成形体が所定の厚さを有する形状であり、ジルコニア成形体に含まれるジルコニア粒子の平均一次粒子径が30nm以下である場合には、粒子が緻密に成形されるため、脱脂時にバインダー、可塑剤等の有機物由来の燃焼ガスが通過する流路が狭くなり、この狭い流路に起因して、仮焼体を得るための昇温速度を下げて仮焼の時間を長くしたとしても、局所的な発熱反応により発生した燃焼ガスの応力による欠け或いは割れなどの欠損を生じやすいという問題があった。本発明では、ジルコニア成形体が角柱状、円柱状等の所定の厚さを有する形状であり、かつジルコニア粒子の平均一次粒子径は、30nm以下である場合において、昇温速度を下げずに仮焼するにもかかわらず、有機物燃焼による局所的な発熱反応を抑制し、かつ燃焼ガス発生量を低減することができ、かつジルコニア成形体の中心付近と表層付近との温度差を解消でき、ジルコニア成形体内での熱膨張差による欠け或いは割れなどの欠損の発生を顕著に抑制できる。ジルコニア成形体が角柱状の場合、底面における縦又は横の短辺:高さの比率は、特に限定されないが、底面における短辺:高さ=1:0.8~1:10程度であってもよく、1:1~1:5程度であってもよい。底面における縦と横の比率は、特に限定されないが、縦:横=1:3~3:1程度であってもよい。ジルコニア成形体が円柱状の場合、底面の直径:高さの比率は、特に限定されないが、底面の直径:高さ=1:0.8~1:10程度であってもよく、1:1~1:5程度であってもよい。
ジルコニア仮焼体の3点曲げ強さは、切削加工機を用いた加工時に加工物の形状を保持することができ、また切削自体も容易に行うことができるなどの観点から、10~70MPaの範囲内であることが好ましく、20~60MPaの範囲内であることがより好ましい。なお、ジルコニア仮焼体の3点曲げ強さは、5mm×40mm×10mmの試験片について、万能試験機を用いてスパン長30mm、クロスヘッドスピード0.5mm/分の条件で測定することができる。
上記の製造方法により得られるジルコニア仮焼体は、常圧下、1100℃で2時間焼結した後(ジルコニア焼結体にした後)の結晶粒径が180nm以下であることが好ましい。これにより高い透光性を有するジルコニア焼結体を容易に製造することができる。透光性により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該結晶粒径は140nm以下であることがより好ましく、120nm以下であることがさらに好ましく、115nm以下であることが特に好ましく、110nm以下であってもよい。当該結晶粒径の下限に特に制限はないが、当該結晶粒径は、例えば、50nm以上、さらには100nm以上とすることができる。なお当該結晶粒径の測定方法は、ジルコニア成形体における説明として上述したとおりである。
上記の製造方法により得られるジルコニア仮焼体は、常圧下、1100℃で2時間焼結した後(ジルコニア焼結体にした後)の3点曲げ強さが400MPa以上であることが好ましい。これにより高い強度を有するジルコニア焼結体を容易に製造することができる。強度により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該3点曲げ強さは500MPa以上であることがより好ましく、600MPa以上であることがさらに好ましく、650MPa以上であることが特に好ましく、700MPa以上であることが最も好ましく、800MPa以上であってもよい。当該3点曲げ強さの上限に特に制限はないが、当該3点曲げ強さは、例えば、1500MPa以下、さらには1000MPa以下とすることができる。なお当該3点曲げ強さの測定方法は、ジルコニア成形体における説明として上述したとおりである。
上記の製造方法により得られるジルコニア仮焼体は、常圧下、1100℃で2時間焼結した後(ジルコニア焼結体にした後)の厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率が35%以上であることが好ましい。これにより高い透光性を有するジルコニア焼結体を容易に製造することができる。透光性により優れたジルコニア焼結体が得られることなどから、当該透過率は、40%以上であることがより好ましく、45%以上であることがさらに好ましく、46%以上、48%以上、50%以上、さらには52%以上であってもよい。当該透過率の上限に特に制限はないが、当該透過率は、例えば、60%以下、さらには57%以下とすることができる。なお当該透過率の測定方法は、ジルコニア成形体における説明として上述したとおりである。
ジルコニア仮焼体は多孔質であるため、細孔の大きさ或いは吸着エネルギーの大小により、いくつかのパターンの窒素の吸脱着特性を示す。本発明の製造方法を用いて製造したジルコニア仮焼体のIUPAC分類に従う等温線の窒素吸着及び/又は脱着は特に限定されるものではないが、主たる傾向がIV型となっていることがある。ジルコニア仮焼体のIUPAC分類がIV型であると強度及び透光性が高くなる。「主たる傾向がIV型となっている」とは、吸着/脱着等温線全体としてはIV型に分類され、IV型等温線であるが、部分的に見ると異なる型(II型又はIII型)が見られることを意味する。また、ジルコニア仮焼体のIUPAC分類の主たる傾向がIV型であれば、その他の傾向、例えばII型或いはIII型の傾向を含んでいても構わない。IV型とは、細孔の大きさがメソポア(直径2~50nmの細孔)であることを意味する。II型及びIII型とは、細孔が存在しない又はマクロポア(直径50nm以上の細孔)であることを意味する。ジルコニア仮焼体のIUPAC分類は市販のガス吸着量測定装置(Gas Sorption Analyzer)を用いて測定することができ、例えばAS1-MP(Anton Paar社製)を用いて測定することができる。
〔ジルコニア焼結体の製造方法〕
上記したジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を好ましくは常圧下で焼結することによりジルコニア焼結体を得ることができる。ジルコニア成形体を焼結する場合及びジルコニア仮焼体を焼結する場合のいずれにおいても、焼結温度は、目的とするジルコニア焼結体が容易に得られるなどの観点から、900℃以上であることが好ましく、1000℃以上であることがより好ましく、1050℃以上であることがさらに好ましく、また、1200℃以下であることが好ましく、1150℃以下であることがより好ましく、1120℃以下であることがさらに好ましい。焼結温度が上記下限以上であることにより、焼結を十分に進行させることができ、緻密な焼結体を容易に得ることができる。また、焼結温度が上記上限以下であることにより、結晶粒径が上記範囲内にあるジルコニア焼結体を容易に得ることができ、また蛍光剤を含む場合にその失活を抑制することができる。
ジルコニア成形体を焼結する場合及びジルコニア仮焼体を焼結する場合のいずれにおいても、焼結時間に特に制限はないが、目的とするジルコニア焼結体を生産性よく効率的に安定して得ることができることなどから、焼結時間は、5分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましく、30分以上であることがさらに好ましく、また、6時間以下であることが好ましく、4時間以下であることがより好ましく、2時間以下であることがさらに好ましい。
焼結は焼結炉を用いて行うことができる。焼結炉の種類に特に制限はなく、例えば、一般工業界で用いられる電気炉及び脱脂炉などを用いることができる。特に歯科材料用途で用いる場合は、従来の歯科用ジルコニア用焼結炉以外にも、焼結温度が比較的低い歯科用ポーセレンファーネスを用いることもできる。
ジルコニア焼結体は、熱間等方圧加圧(HIP)処理なしでも容易に製造することができるが、上記常圧下での焼結後に熱間等方圧加圧(HIP)処理を行うことでさらなる透光性及び強度の向上が可能である。
〔ジルコニア焼結体〕
ジルコニア焼結体は蛍光剤を含んでいてもよい。ジルコニア焼結体が蛍光剤を含むことにより蛍光性を有する。ジルコニア焼結体における蛍光剤の含有量に特に制限はなく、蛍光剤の種類やジルコニア焼結体の用途などに応じて適宜調整することができるが、歯科用補綴物として好ましく使用できるなどの観点から、ジルコニア焼結体に含まれるジルコニアの質量に対して、蛍光剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。当該含有量が上記下限以上であることにより、ヒトの天然歯と比較しても蛍光性に劣ることがなく、また、当該含有量が上記上限以下であることにより、透光性及び強度の低下を抑制することができる。
ジルコニア焼結体は着色剤を含んでいてもよい。ジルコニア焼結体が着色剤を含むことにより着色されたジルコニア焼結体となる。ジルコニア焼結体における着色剤の含有量に特に制限はなく、着色剤の種類或いはジルコニア焼結体の用途などに応じて適宜調整することができるが、歯科用補綴物として好ましく使用できるなどの観点から、ジルコニア焼結体に含まれるジルコニアの質量に対して、着色剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下、さらには0.05質量%以下であってもよい。
ジルコニア焼結体における透光性の調整のため、ジルコニア焼結体は透光性調整剤を含んでいてもよい。ジルコニア焼結体における透光性調整剤の含有量に特に制限はなく、透光性調整剤の種類或いはジルコニア焼結体の用途などに応じて適宜調整することができるが、歯科用補綴物として好ましく使用できるなどの観点から、ジルコニア焼結体に含まれるジルコニアの質量に対して0.1質量%以下であることが好ましい。
ジルコニア焼結体に含まれるイットリアの含有量は、透光性及び強度により優れたジルコニア焼結体となることなどから、2.0モル%以上であることが好ましく、3.0モル%以上であることがより好ましく、4.0モル%以上であることがさらに好ましく、4.5モル%以上であることが特に好ましく、5.0モル%以上、さらには5.5モル%以上であってもよく、また、9.0モル%以下であることが好ましく、8.0モル%以下であることがより好ましく、7.0モル%以下であることがさらに好ましい。なお、ジルコニア焼結体におけるイットリアの含有量は、ジルコニアとイットリアの合計モル数に対するイットリアのモル数の割合(モル%)を意味する。
上記の製造方法により得られるジルコニア焼結体における結晶粒径は、透光性により優れるなどの観点から、180nm以下であることが好ましく、140nm以下であることがより好ましく、120nm以下であることがさらに好ましく、115nm以下であることが特に好ましく、110nm以下であってもよい。当該結晶粒径の下限に特に制限はないが、当該結晶粒径は、例えば、50nm以上、さらには100nm以上とすることができる。なお当該結晶粒径の測定方法は、ジルコニア成形体における説明として上述したとおりである。
上記の製造方法により得られるジルコニア焼結体の3点曲げ強さは、強度により優れるなどの観点から、400MPa以上であることが好ましく、500MPa以上であることがより好ましく、600MPa以上であることがさらに好ましく、650MPa以上であることが特に好ましく、700MPa以上であることが最も好ましく、800MPa以上であってもよい。当該3点曲げ強さの上限に特に制限はないが、当該3点曲げ強さは、例えば、1500MPa以下、さらには1000MPa以下とすることができる。なお当該3点曲げ強さの測定方法は、ジルコニア成形体における説明として上述したとおりである。
上記の製造方法により得られるジルコニア焼結体の厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率は、透光性により優れるなどの観点から、35%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、45%以上であることがさらに好ましく、46%以上、48%以上、50%以上、さらには52%以上であってもよい。当該透過率の上限に特に制限はないが、当該透過率は、例えば、60%以下、さらには57%以下とすることができる。なお当該透過率の測定方法は、ジルコニア成形体における説明として上述したとおりである。
上記の製造方法により得られるジルコニア焼結体の主結晶相は正方晶系及び立方晶系のいずれであってもよいが、主結晶相が立方晶系であることが好ましい。当該ジルコニア焼結体において、10%以上が立方晶系であることが好ましく、50%以上が立方晶系であることがより好ましく、70%以上が立方晶系であることがさらに好ましい。ジルコニア焼結体における立方晶系の割合は結晶相の解析によって求めることができる。具体的には、ジルコニア焼結体の表面を鏡面研磨加工した部分について、X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)測定を行い、以下の式により求めることができる。
c = 100 × Ic/(Im+It+Ic
ここで、fcはジルコニア焼結体における立方晶系の割合(%)を表し、Imは2θ=28度付近のピーク(単斜晶系の(11-1)面に基づくピーク)の高さを表し、Itは2θ=30度付近のピーク(正方晶系の(111)面に基づくピーク)の高さを表し、Icは2θ=30度付近のピーク(立方晶系の(111)面に基づくピーク)の高さを表す。なお、2θ=30度付近のピークが、正方晶系の(111)面及び立方晶系の(111)面の混相に基づくピークとして現れ、正方晶系の(111)面に基づくピークと立方晶系の(111)面に基づくピークとの分離が困難な場合には、リートベルト法を採用するなどして正方晶系と立方晶系の比を求めた上で、これを当該混相に基づくピークの高さ(It+c)に乗じることにより、It及びIcを求めることができる。
上記の製造方法により得られるジルコニア焼結体は、180℃熱水中に5時間浸漬させた後の正方晶系及び立方晶系に対する単斜晶系の割合が5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。当該割合が上記範囲内であることにより、例えば歯科用補綴物として用いる場合に、体積の経年変化を抑制できて破壊を防止することができる。当該割合は、ジルコニア焼結体の表面を鏡面研磨加工し、これを180℃の熱水中に5時間浸漬させた後、上記部分について、X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)測定を行い、以下の式により求めることができる。
m = 100 × Im/(It+c
ここで、fmはジルコニア焼結体における、180℃熱水中に5時間浸漬させた後の正方晶系及び立方晶系に対する単斜晶系の割合(%)を表し、Imは2θ=28度付近のピーク(単斜晶系の(11-1)面に基づくピーク)の高さを表し、It+cは2θ=30度付近のピーク(正方晶系の(111)面及び立方晶系の(111)面の混相に基づくピーク)の高さを表す。なお、2θ=30度付近のピークが、正方晶系の(111)面に基づくピークと立方晶系の(111)面に基づくピークとに分離して現れ、上記It+cを特定するのが困難な場合には、正方晶系の(111)面に基づくピークの高さ(It)と立方晶系の(111)面に基づくピークの高さ(Ic)との和を上記It+cとすることができる。
〔ジルコニア焼結体の用途〕
ジルコニア焼結体の用途に特に制限はないが、本発明によれば、高い透光性及び高い強度を兼ね備えた品質に優れるジルコニア焼結体を収率よく製造することができることから、当該ジルコニア焼結体は歯科用補綴物等の歯科材料などとして特に好適であり、中でも、歯頸部に使用される歯科用補綴物のみならず、臼歯咬合面或いは前歯切端部に使用される歯科用補綴物としても極めて有用である。本発明のジルコニア焼結体は、特に前歯切端部に使用される歯科用補綴物として使用することが好ましい。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等によって限定されるものではない。なお、各物性の測定方法は以下のとおりである。
(1)ジルコニア粒子の平均一次粒子径
ジルコニア粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)にて写真撮影し、得られた画像上で任意の粒子100個について各粒子の粒子径(最大径)を測定し、それらの平均値をジルコニア粒子の平均一次粒子径とした。
(2)液体の25℃における表面張力
Handbook of Chemistry and Phisics 101st the Editionに記載の値を使用した。
(3)ジルコニア仮焼体のIUPAC分類
ジルコニア仮焼体のIUPAC分類は全自動ガス吸着量測定装置AS1-MP(Quantachrome社製)を用いて下記測定条件にて測定した。
・試料:作製したジルコニア仮焼体を乳鉢で粉砕後、公称目開き(JIS Z8801-1:2019)が63μmである篩を通過させたものを用いた。
・脱気条件:試料を測定セルに入れ、200℃(真空下)で2日間脱気した。
・セルサイズ:1.5cm3
・吸着ガス:窒素
・測定項目:任意測定点の吸着/脱着等温線(全30点)
・解析項目:BET多点法による比表面積、全細孔容積、平均細孔直径
BJH法による細孔径分布(メソポア領域)
NLDFT法による細孔径分布(ミクロポア~メソポア領域)
(4)結晶粒径
ジルコニア焼結体における結晶粒径は、ジルコニア焼結体断面の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真を撮影し、その撮影画像にある任意の粒子を10個選択し、各々の円相当径(同一面積の真円の直径)の平均値として求めた。
(5)3点曲げ強さ
ジルコニア焼結体の3点曲げ強さは、ISO 6872:2015に準拠して測定し、n=10で測定した平均値を求めた。
(6)光の透過率(波長700nm、0.5mm厚)
ジルコニア焼結体の厚さ0.5mmにおける波長700nmの光の透過率は、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、「日立分光光度計 U-3900H形」)を用い、光源より発生した光を試料に透過及び散乱させ、積分球を利用して測定した。当該測定においては、一旦、300~750nmの波長領域で透過率を測定した上で、波長700nmの光についての透過率を求めた。測定には、両面を鏡面研磨加工した直径15mm×厚さ0.5mmの円盤状のジルコニア焼結体を試料として用い、n=3で測定した平均値を求めた。
鏡面研磨加工
(7)熱水処理後の単斜晶系の割合
ジルコニア焼結体の、180℃熱水中に5時間浸漬させた後の正方晶系及び立方晶系に対する単斜晶系の割合は、ジルコニア焼結体の表面を鏡面研磨加工し、これを180℃の熱水中に5時間浸漬させた後、上記部分について、X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)測定を行い、以下の式から求めた。
m = 100 × Im/(It+c
ここで、fmはジルコニア焼結体における、180℃熱水中に5時間浸漬させた後の正方晶系及び立方晶系に対する単斜晶系の割合(%)を表し、Imは2θ=28度付近のピーク(単斜晶系の(11-1)面に基づくピーク)の高さを表し、It+cは2θ=30度付近のピーク(正方晶系の(111)面及び立方晶系の(111)面の混相に基づくピーク)の高さを表す。
(8)ジルコニア焼結体の外観
ジルコニア焼結体の外観(色)は目視にて評価した。
(9)ジルコニア焼結体の蛍光性
ジルコニア焼結体の蛍光性はUV光下における蛍光の有無を目視にて評価した。
[実施例1]
イットリアを3モル%含む水系のジルコニアスラリー「MELox(登録商標) Nanosize 3Y」(ニッケイ・メル社製、ジルコニア粒子の平均一次粒子径13nm、ジルコニア濃度23質量%)に、当該ジルコニアスラリーの9体積倍のイソプロパノールを加え、これを遠沈管に入れて十分に混合し、4000rpmで10分間遠心した。白色物の沈降を確認した上で上清を取り除き、これに再度イソプロパノールを加えて十分に混合し、4000rpmで10分間遠心した。白色物の沈降を確認した上で上清を取り除き、これにメタノールを加えることによって使用したジルコニアスラリーと同体積となるようにし、さらに十分に混合してメタノール置換スラリーを得た。このメタノール置換スラリーの残存水分量をカールフィッシャー水分量計を用いて測定したところ0.05質量%であった。
このメタノール置換スラリーにSA-260(ジャパンコーティングレジン株式会社製アクリル系バインダー)をスラリー中のジルコニアに対して1質量%となるように添加した後、送り量5mL/分、入口温度150℃、出口温度100℃の条件でスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製、B-290)を用いて乾燥して、ジルコニア粒子とSA-260を含む粉末を得た。
得られた粉末を一軸プレスにて直径20mm×厚さ2.0mmの円盤状(10個)及び縦25mm×横20mm×厚さ15mmの角柱状(5個)に成形してジルコニア成形体とした。
これらのジルコニア成形体を冷間等方圧加圧(CIP)処理(圧力170MPa、加圧時間1分)して密度を上げてジルコニア成形体を得た。
これらのジルコニア成形体を焼成炉を用いて500℃で2時間仮焼してジルコニア仮焼体を得た。仮焼工程において室温から昇温し、昇温速度は1℃/分であった。仮焼中は150℃から過熱水蒸気を投入し、仮焼完了後、炉内温度が200℃になるまで過熱水蒸気の投入を継続した。過熱水蒸気の投入停止後、炉内の水蒸気の排出が完了すると、炉内から水蒸気は消失した。得られたジルコニア仮焼体は、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、角柱状5個)。得られたジルコニア仮焼体のIUPAC分類を上記した方法で評価した。主たる傾向がIV型であり、さらにII型及びIII型を示した。具体的には、相対圧が0~0.9まではIV型を示し、0.9よりも高い領域で吸着量の急激な上昇(II型及びIII型)を示した。
さらに、得られた角柱状ジルコニア仮焼体から縦20mm×横17mm×厚さ3mmの板状ジルコニア仮焼体を切り出した(5個)。これらの円盤状及び板状ジルコニア仮焼体を常圧下、1100℃で2時間焼結してジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった(蛍光性はなし)。円盤状及び板状ジルコニア焼結体について目視により欠け及び割れの発生の有無を確認したが、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、板状5個)。
得られた円盤状のジルコニア焼結体を用いて、上記した方法により結晶粒径、光の透過率及び熱水処理後の単斜晶系の割合をそれぞれ測定した。また、板状のジルコニア焼結体を用いて、上記した方法により3点曲げ強さを測定した(試験片サイズ:16mm×4mm×1.2mm、スパン長:12mm)。各測定結果を表1に示した。また、上記と同様にして作製した角柱状ジルコニア仮焼体に対して、ミリング装置(「カタナH-18」、クラレノリタケデンタル株式会社製)を用いて、歯冠形状のジルコニア仮焼体を切削し、これを常圧下、1100℃で2時間焼結して、歯冠形状の歯科用補綴物を得た。
[比較例1]
実施例1において、ジルコニア仮焼体作製時に過熱水蒸気を投入せずに仮焼を実施したこと以外は実施例1と同様にして試験を実施した。
得られた円盤状ジルコニア仮焼体は、いずれも欠け及び割れは認められなかったが(欠け及び割れがないものは10個)、角柱状ジルコニア仮焼体はすべて欠け及び割れが認められた(欠け及び割れがないものは0個)。
得られた円盤状のジルコニア焼結体を用いて、上記した方法により結晶粒径、光の透過率及び熱水処理後の単斜晶系の割合をそれぞれ測定した。また、板状ジルコニア焼結体を作製できなかったため、3点曲げ強さの測定は省略した。各測定結果を表1に示した。
Figure 2022041275000001
[実施例2]
ジルコニアスラリーとして、イットリアを5モル%含む水系のジルコニアスラリー「MELox Nanosize 5Y」(ニッケイ・メル社製、ジルコニア粒子の平均一次粒子径13nm、ジルコニア濃度23質量%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、メタノール置換スラリーを得た。このメタノール置換スラリーの残存水分量をカールフィッシャー水分量計を用いて測定したところ0.05質量%であった。
メタノール置換スラリーとして上記で得られたものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ジルコニア粒子とSA-260を含む粉末、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体及びジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア仮焼体は、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、角柱状5個)。得られたジルコニア焼結体は白色であった(蛍光性はなし)。円盤状及び板状ジルコニア焼結体について目視により欠け及び割れの発生の有無を確認したが、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、板状5個)。結果を表2に示した。
また、上記と同様にして作製したジルコニア仮焼体に対して、ミリング装置(「カタナH-18」、クラレノリタケデンタル株式会社製)を用いて、歯冠形状のジルコニア仮焼体を切削し、これを常圧下、1100℃で2時間焼結して、歯冠形状の歯科用補綴物を得た。
[実施例3]
仮焼の際の保持温度を400℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体及びジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア仮焼体は、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、角柱状5個)。得られたジルコニア焼結体は白色であった(蛍光性はなし)。円盤状及び板状ジルコニア焼結体について目視により欠け及び割れの発生の有無を確認したが、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、板状5個)。結果を表2に示した。
[実施例4]
仮焼の際の過熱水蒸気投入開始温度を200℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体及びジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア仮焼体は、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、角柱状5個)。得られたジルコニア焼結体は白色であった(蛍光性はなし)。円盤状及び板状ジルコニア焼結体について目視により欠け及び割れの発生の有無を確認したが、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、板状5個)。結果を表2に示した。
Figure 2022041275000002
[実施例5]
ジルコニアスラリーとして、イットリアを8モル%含む水系のジルコニアスラリー「MELox Nanosize 8Y」(ニッケイ・メル社製、ジルコニア粒子の平均一次粒子径13nm、ジルコニア濃度23質量%)を用いると共に、メタノールの代わりに2-エトキシエタノールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、2-エトキシエタノール置換スラリーを得た。この2-エトキシエタノール置換スラリーの残存水分量をカールフィッシャー水分量計を用いて測定したところ0.07質量%であった。この2-エトキシエタノール置換スラリーにポリビニルアルコール(重合度500、けん化度98.5モル%以上、ナカライテスク社製)をスラリー中のジルコニアに対して1質量%となるように添加した後、実施例1と同様にして、ジルコニア粒子とポリビニルアルコールを含む粉末、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体及びジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア仮焼体は、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、角柱状5個)。得られたジルコニア焼結体は白色であった(蛍光性はなし)。円盤状及び板状ジルコニア焼結体について目視により欠け及び割れの発生の有無を確認したが、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、板状5個)。結果を表3に示した。
[実施例6]
実施例2と同様にして得られたメタノール置換スラリーに対して、酢酸ニッケル(II)水溶液を、ジルコニアの質量に対するニッケル(II)の酸化物(NiO)換算の含有量が0.02質量%となるように添加し、ジルコニア粒子及び着色剤を含むスラリーを得た。これに実施例1と同様にSA-260を添加した後、送り量5mL/分、入口温度150℃、出口温度100℃の条件でスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製、B-290)を用いて乾燥して、ジルコニア粒子及び着色剤とSA-260を含む粉末を得た。
粉末として上記で得られたものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体及びジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア仮焼体は、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、角柱状5個)。得られたジルコニア焼結体は赤色に着色していた(蛍光性はなし)。円盤状及び板状ジルコニア焼結体について目視により欠け及び割れの発生の有無を確認したが、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、板状5個)。結果を表3に示した。
また、上記と同様にして作製したジルコニア仮焼体に対して、ミリング装置(「カタナH-18」、クラレノリタケデンタル株式会社製)を用いて、上顎中切歯単冠形状及び下顎第一大臼歯単冠形状のジルコニア仮焼体をそれぞれ切削し、これらを常圧下、1100℃で2時間焼結して、赤色に着色した歯冠形状の歯科用補綴物をそれぞれ得た。
[実施例7]
実施例2と同様にして得られたメタノール置換スラリーに対して、水酸化ビスマス水溶液を、ジルコニアの質量に対するビスマスの酸化物(Bi23)換算の含有量が0.02質量%となるように添加し、ジルコニア粒子及び蛍光剤を含むスラリーを得た。これに実施例1と同様にSA-260を添加した後、送り量5mL/分、入口温度150℃、出口温度100℃の条件でスプレードライヤー(日本ビュッヒ社製、B-290)を用いて乾燥して、ジルコニア粒子及び蛍光剤とSA-260を含む粉末を得た。
粉末として上記で得られたものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体及びジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア仮焼体は、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、角柱状5個)。得られたジルコニア焼結体は白色であり、また蛍光性を有していた。円盤状及び板状ジルコニア焼結体について目視により欠け及び割れの発生の有無を確認したが、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、板状5個)。結果を表3に示した。
また、上記と同様にして作製したジルコニア仮焼体に対して、ミリング装置(「カタナH-18」、クラレノリタケデンタル株式会社製)を用いて、上顎中切歯単冠形状及び下顎第一大臼歯単冠形状のジルコニア仮焼体をそれぞれ切削し、これらを常圧下、1100℃で2時間焼結して、蛍光性を有する歯冠形状の歯科用補綴物をそれぞれ得た。
[実施例8]
実施例2で得られたメタノール置換スラリーにエチルセルロース(富士フィルム和光純薬株式会社製)をスラリー中のジルコニアに対して1質量%添加したものを、超臨界乾燥装置を用いて、以下の手順により超臨界乾燥した。すなわち、メタノール置換スラリーを圧力容器に入れ、圧力容器を超臨界二酸化炭素抽出装置につなぎ、圧漏れのないことを確認した。その後、圧力容器と予熱管を60℃に加温したウォーターバスに漬け、80℃まで昇温すると共に、25MPaまで加圧して、安定化のため10分間静置した。次に、二酸化炭素及びエントレーナーとしてのメタノールを所定条件下(温度:80℃、圧力:25MPa、二酸化炭素の流量:10mL/分、エントレーナー(メタノール)の流量:1.5mL/分)で導入し、2時間経過時点でメタノール導入を停止し、二酸化炭素のみの導入を続けた。二酸化炭素のみの導入が2時間経過した後、二酸化炭素の送液を停止し、温度を80℃に保持したまま圧力を約20分かけて25MPaから徐々に下げて常圧に戻した。圧力容器をウォーターバスから出して常温まで冷却し、開封して処理済み試料を回収し、ジルコニア粒子とアクリル系バインダーを含む粉末を得た。
粉末として上記で得られたものを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ジルコニア成形体、ジルコニア仮焼体及びジルコニア焼結体をそれぞれ得た。得られたジルコニア仮焼体は、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、角柱状5個)。得られたジルコニア焼結体は白色であった(蛍光性はなし)。円盤状及び板状ジルコニア焼結体について目視により欠け及び割れの発生の有無を確認したが、いずれも欠け及び割れは認められなかった(欠け及び割れがないものは円盤状10個、板状5個)。結果を表3に示した。
Figure 2022041275000003

Claims (17)

  1. 過熱水蒸気の存在下で、ジルコニア粒子と有機成分とを含むジルコニア成形体を加熱する仮焼工程を含む、ジルコニア仮焼体の製造方法。
  2. ジルコニア粒子の平均一次粒子径が30nm以下である、請求項1に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
  3. ジルコニア成形体がさらに、安定化剤を含む、請求項1又は2に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
  4. 安定化剤がイットリアであり、イットリアの含有率が2.0~9.0モル%である、請求項3に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
  5. ジルコニア仮焼体が、IUPAC分類に従うIV型等温線の窒素吸着及び/又は脱着を示す、請求項1~4のいずれか1項に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
  6. 加熱温度が120℃以上である、請求項1~5のいずれかに記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
  7. 仮焼工程の最高温度が、900℃未満である、請求項1~6のいずれかに記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
  8. 仮焼工程の最高温度が、800℃未満である、請求項1~7のいずれかに記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
  9. さらにジルコニア粒子を含む粉末をプレス成形する工程を含み、前記ジルコニア成形体が、ジルコニア粒子を含む粉末をプレス成形する工程により得られたものである、請求項1~8のいずれか1項に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
  10. さらにジルコニア粒子と分散媒とを含むスラリーを乾燥させる工程を含み、前記ジルコニア粒子を含む粉末が、ジルコニア粒子と分散媒とを含むスラリーを乾燥させることにより得られたものである、請求項9に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
  11. 前記スラリーの分散媒が、25℃における表面張力が50mN/m以下の液体を含む、請求項10に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
  12. 前記有機成分が、樹脂を含む組成物であり、
    さらにジルコニア粒子と、ジルコニア粒子と樹脂とを含む組成物を成形する工程を含み、
    前記ジルコニア成形体が、ジルコニア粒子と樹脂とを含む組成物を成形する工程により得られたものである、請求項1~8のいずれか1項に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
  13. 前記有機成分が、重合性単量体を含む組成物であり、
    前記ジルコニア成形体が、ジルコニア粒子と重合性単量体とを含む組成物を重合させることにより得られたものである、請求項1~8のいずれかに記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
  14. 請求項1~13のいずれかに記載の製造方法により得られるジルコニア仮焼体。
  15. 請求項1~13のいずれかに記載の製造方法により得られるジルコニア仮焼体を焼結する工程を含む、ジルコニア焼結体の製造方法。
  16. 900℃以上1200℃以下で焼結する工程を含む、請求項15に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
  17. ジルコニア焼結体が歯科材料である、請求項15又は16に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
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