JP2022035388A - アルミニウム合金の粘性特性算出方法と粘性特性算出プログラム - Google Patents

アルミニウム合金の粘性特性算出方法と粘性特性算出プログラム Download PDF

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Abstract

【課題】本発明はアルミニウム合金の粘性特性算出方法と算出プログラムを提供する。【解決手段】本発明は、半凝固領域におけるアルミニウム合金の固相同士の接触面積率(固相結合率C)を3水準に変量した実験で得られた粘性特性値k、mを用い、半凝固領域全体の粘性特性値を固相結合率の関数として、(1)~(4)式に従って求める。3水準の固相結合率は、C=0、Ce/2、Ce、Ceは共晶凝固温度Teの固相結合率、kとmは以下の(5)式の粘性構成式の係数、εcreepはクリープひずみ速度、σは応力。m=f(C)(0≦C≦Ce)…(1)式、m=f(Ce)(Ce<C≦1)…(2)式、logk=g(C)(0≦C≦Ce)…(3)式、logk=g(Ce)(Ce<C≦1)…(4)式、εcreep=kσ1/m…(5)式。f(C)とg(C)は実験で得られた3水準の特性値の組(n,C)、(logk,C)の各々3点より作成した二次関数である。【選択図】図1

Description

本発明は、アルミニウム合金の粘性特性算出方法と粘性特性算出プログラムに関する。
アルミニウム合金は、組成の多様化に伴い鋳造時に凝固割れを生じるリスクが高くなってきている。熱応力解析による鋳造時の割れ予測技術の開発が求められているが、解析に必要な半凝固領域の伸びや強度あるいは粘性特性といった引張特性を実験で取得するには、多大な実験コストと時間を要する問題があるため、前記引張特性を予測する手法の提案が求められている。
例えば、以下の非特許文献1には、半凝固領域の合金の強度の支配因子として、固相の結合率Cが示唆されると記載され、その固相結合率Cが粒界における液相の二面角θを用いて以下の3つの式から理論的に求めることができると記載されている。
ここで半凝固とは、固相と液相が共存していることを意味し、したがって半凝固領域は固相線温度と液相線温度の間の領域を意味する。
C=1-fLGB…(a)式
LGB=2.64{(1-fs)/k}1/2…(b)式
k=√3+{3/tan(30-θ/2)}-{(30-θ/2)/60}×π/{sin(30-θ/2)}…(c)式
ただし、各式において、fLGBは粒界の全面積に対する液相で濡れた面積の割合を定量化した指標であり、微細等軸晶で表される固相の形状と固相の結合している部分に粒界三重点を示す金属組織を想定すると、前記二面角θと固相率fsの関数でfLGBが与えられる。
早稲田大学(院)遠藤直輝他、「凝固割れ予測のための半凝固状態におけるAl-Mg系,Al-Cu系合金の引張特性の支配因子の検討」、公益社団法人日本鋳造工学会編、第169回、全国講演大会概要集(P103)、(2017.5.東京)
また、前述の非特許文献1では、凝固割れの予測を行うためには半凝固状態の合金種毎の割れ発生に関連した延性曲線が必要であるが、合金種毎の引張特性の取得は困難としている。このため、(a)式~(c)式を用いるとともに、任意の温度に対する固相率fsが主溶質元素の固相内拡散を考慮したClyne-Kurzモデルにより決定できると仮定し、二面角θを取得することでfLGBを求めている。また、半凝固状態の最大真応力と伸びを取得し、規格化した最大真応力σmaxおよび伸びとfLGBの関係から、fLGBが最大真応力と伸びの支配因子であると報告している。
しかし、最大真応力、伸びを合金種毎、温度毎に取得する必要がある点は解決されておらず、鋳造解析に必要な引張特性の取得は、前記実験工数の多さから、未だ実施が容易ではない問題がある。
そこで本発明者らは上記課題に鑑み、合金種の違いが引張特性に及ぼす影響を調査した。その結果、粘性特性に関して、半凝固状態のアルミニウム合金の合金種にかかわらずにその値を推測することが可能であることを知見した。
(1)本形態の粘性特性算出方法は、半凝固領域におけるアルミニウム合金の固相同士の接触面積率(固相結合率C)を3水準に変量した実験で得られた粘性特性値kおよびmを用い、半凝固領域全体の粘性特性値を前記固相結合率の関数として、以下の(1)式~(4)式に従って求めることを特徴とする。
ここで、前記3水準の固相結合率とは、C=0、C/2、Cであり、Cは共晶凝固温度Tに対応する固相結合率を示し、kおよびmは以下の(5)式で示される粘性構成式における係数を意味し、εcreepはクリープひずみ速度を意味し、σは応力を意味する。
m=f(C) (0≦C≦C)…(1)式
m=f(C) (C<C≦1)…(2)式
logk=g(C) (0≦C≦C)…(3)式
logk=g(C) (C<C≦1)…(4)式
εcreep=kσ1/m …(5)式
ただし、f(C)およびg(C)は実験で得られた前記3水準の特性値の組(n,C)および(logk,C)それぞれ3点より作成した二次関数であることを意味する。なお、クリープひずみ速度εcreepは一般にはドットを伴った表記とするが、(5)式では単にεcreepで表記している。
(2)本形態の粘性特性算出方法において、前記固相結合率Cの温度依存関数C(T)をC(T)=1-fLGB(T)と表記する場合、fLGBが液相の固相間浸入角(二面角)θと固相率fsを用いた以下の(6)式と(7)式で表されることが好ましい。
LGB=2.64{(1-fs)/k}1/2 …(6)式
k=√3+{3/tan(30-θ/2)}-{(30-θ/2)/60}×π/{sin(30-θ/2)}…(7)式
ここでfLGBは粒界の全面積に対する固相と液相の接触面積の割合を定量化した指標である。
(3)本形態の粘性特性算出方法において、前記アルミニウム合金の凝固組織において面積率で70%以上が初晶α-Alであることが好ましい。
(4)本形態の粘性特性算出プログラムは、アルミニウム合金の凝固時の粘性特性を算出するプログラムであって、半凝固領域におけるアルミニウム合金の固相同士の接触面積率(固相結合率C)を3水準に変量した実験で得られた粘性特性値kおよびmを用い、コンピュータを、半凝固領域全体の粘性特性値を前記固相結合率の関数として、以下の(1)式~(4)式に従って求める手段として機能させることを特徴とする。
ここで、前記3水準の固相結合率とは、C=0、C/2、Cであり、Cは共晶凝固温度Tに対応する固相結合率を示し、kおよびmは以下の(5)式で示される粘性構成式における係数を意味し、εcreepはクリープひずみ速度を意味し、σは応力を意味する。
m=f(C) (0≦C≦C)…(1)式
m=f(C) (C<C≦1)…(2)式
logk=g(C) (0≦C≦C)…(3)式
logk=g(C) (C<C≦1)…(4)式
εcreep=kσ1/m …(5)式
ただし、f(C)およびg(C)は実験で得られた前記3水準の特性値の組(n,C)および(logk,C)それぞれ3点より作成した二次関数であることを意味する。
(5)本形態の粘性特性算出プログラムにおいて、前記固相結合率Cの温度依存関数C(T)をC(T)=1-fLGB(T)と表記する場合、その関係は液相の固相間浸入角(二面角)θと固相率fsを用いた以下の(6)式と(7)式を満たすことが好ましい。
LGB=2.64{(1-fs)/k}1/2 …(6)式
k=√3+{3/tan(30-θ/2)}-{(30-θ/2)/60}×π/{sin(30-θ/2)}…(7)式
ここでfLGBは粒界の全面積に対する固相と液相の接触面積の割合を定量化した指標である。
(6)本形態の粘性特性算出プログラムにおいて、凝固組織において面積率で70%以上が初晶α-Alであるアルミニウム合金に適用することが好ましい。
本発明によれば、半凝固状態のアルミニウム合金の合金種にかかわらずに少ない測定項目で半凝固状態のアルミニウム合金の粘性特性を把握することが可能である。
本発明で適用する3種のアルミニウム合金に関し、二面角(θ)を求めた場合の測定結果の一例を示すグラフ。 アルミニウム合金において二面角を測定する場合の測定基準を示すもので、(a)は初晶2つと共晶生成物の界面三重点において二面角を規定する場合の一例を示す模式図、(b)はAl―2%Cu合金において二面角を測定している状態の一例を示す組織写真、(c)はAl―2%Cu合金において初晶と共晶析出物の粒界の一例を示す組織写真、(d)はAl―10%Mg合金において初晶と共晶析出物の粒界の一例を示す組織写真。 同3種のアルミニウム合金に関し、固相結合率(C)と固相率(fs)の関係を計算した結果の一例を示すグラフ。 同3種のアルミニウム合金に関し、粘性特性を示す(m)と固相結合率(C)の関係を計算した結果の一例を示すグラフ。 同3種のアルミニウム合金に関し、粘性特性を示す(logk)と固相結合率(C)の関係を計算した結果の一例を示すグラフ。 実施形態に係る粘性特性算出方法の一例を示すフローチャート。 実施形態に係るフローを実施する場合に用いる粘性特性算出装置の一例を示すブロック図。 実施形態において計算に用いた3種のアルミニウム合金に対し、粘性特性を示す(m)と固相結合率(C)との関係を実測した結果を示すグラフ。 実施形態において計算に用いた3種のアルミニウム合金に対し、粘性特性を示す(logk)と固相結合率(C)との関係を実測した結果を示すグラフ。
以下、本発明に係るアルミニウム合金の粘性特性算出方法と粘性特性算出プログラムについて、添付図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明の第1実施形態に係るアルミニウム合金の粘性特性算出方法を実施するには、該当するアルミニウム合金の半凝固領域における固相結合率(C)と固相率(fs)と二面角(θ)を利用する。
二面角は、半凝固状態のアルミニウム合金において液相が固相間に染み渡る角度であり、アルミニウム合金の合金組成により二面角が異なること、また、二面角の大きさでアルミニウム合金の凝固割れ感受性を定量化できることが知られている。二面角の大きい合金(液相が固相間にしみ渡りにくい合金)は鋳造時に割れにくく、二面角の小さい合金(液相が固相間にしみ渡り易い合金)は鋳造時に割れ易いと判断できる。
アルミニウム合金の合金組成により異なる凝固組織を定量化できることから、二面角はこれまで半凝固状態のアルミニウム合金における力学特性の支配因子として着目されてきた。
そこで、本発明者らは、二面角を実測し、固相結合率を算出した上で半凝固状態のアルミニウム合金の力学特性に着目し、種々の研究を行った。
本実施形態では、まず、対象とするアルミニウム合金供試材として、必要とする複数の組成のアルミニウム合金を選択し、それぞれのアルミニウム合金の二面角を求める二面角測定ステップを実施する。
「二面角(θ)の測定」
図1は、Al-2Cu-Ti-B合金とAl-5Mg-Ti-B合金とAl-0.5Si-0.4Fe-1.0Cu-1.15Mn-Ti-B合金の3種の合金について、以下に説明する方法により二面角(θ)を求めた結果を示すグラフである。このグラフに示す二面角の測定結果は、「軽金属,第69巻,第4号(2019),P257-259,半凝固状態のアルミニウム合金の最大引張力および伸び値の支配因子」に記載されている実験の内容に基づいて求めた。
各合金にTiとBを添加しているのは、それぞれの合金の組織を微細化するためであり、Ti、Bを微量程度添加することで、それぞれの合金の結晶粒径の差異を小さくして凝固中の初晶の形状を正六角形状に近似できるように工夫するためである。粗大等軸組織よりも微細等軸組織の方が単純化した組織形態に近いと考える。
第1のAl-2Cu-Ti-B合金は、Cu:1.94質量%、Si:0.006質量%、Zn:0.001質量%、Fe:0.004質量%、Ti:0.049質量%、B:0.006質量%、残部Al及び不可避不純物の組成を有する。以下、この合金をAl-2Cu合金と略称することがある。
第2のAl-5Mg-Ti-B合金は、Si:0.001質量%、Mg:4.68質量%、Zn:0.003質量%、Fe:0.004質量%、Mn:0.004質量%、Ni:0.001質量%、Ti:0.053質量%、B:0.010質量%、残部Al及び不可避不純物の組成を有する。以下、この合金をAl-Mg系合金と略称することがある。
第3のAl-0.5Si-0.4Fe-1.0Cu-1.15Mn-Ti-B合金は、Si:0.5質量%、Fe:0.4質量%、Cu:1.0質量%、Mn:1.15質量%、Ti:0.053質量%、B:0.010質量%、残部Al及び不可避不純物の組成を有する。以下、この合金をAl-Mn-Cu系合金と略称することがある。
これら3種のアルミニウム合金を用い、引張試験片を作製する。引張試験片は、半凝固状態のアルミニウム合金の真応力-真ひずみ曲線を測定可能な引張試験装置により作製した。この引張試験装置は、横長のロッド状試験片を鋳造可能な金型を有する試験装置であり、金型の湯口から溶解した供試材料(720℃)を注湯し、半凝固状態の試験片(全長230mm、幅16mm、高さ20mm、長さ方向中央部に幅50mmの薄肉部を有し、薄肉部の上面中央部(7.5×15mm)の部分を測定域とする)を作製した。この試験片にロードセル、モータを接続した引張り棒を鋳ぐるみ、一体化することで試験片を拘束できる引張試験装置であり、詳細は上述の論文に記載されている。
また、上記引張試験装置を用い、「軽金属,第63巻,第9号(2013),P310-317,半凝固状態における引張試験を用いたAl-Mg系合金の弾粘塑性構成式の構築」に示すような手順を踏むことで、後述の粘性特性値kおよびmを取得することができる。
それぞれの合金試験片に対し、結晶粒径、デンドライト二次枝間隔(DAS II)および粒界で液相がなす二面角を測定する。組織の定量化に用いたサンプルは、引張試験片の中央部から切り出した。各サンプルにおいて、測定域の中央部断面(試験片の長さ方向に直交する断面)を鏡面加工後エッチングし、観察面とした。そして、以下の手順によって凝固組織形態を定量化する。
本実施形態では、二面角を測定する種々の方法のうち、凝固完了後に粒界に形成した共晶生成物が粒界でなす二面角(θ)を測定する方法を採用した。その模式図を図2(a)と(b)に示す。本実施形態では、共晶生成物の形状は、凝固中の共晶固相線温度直上における液相の形状と同一であると仮定する。
測定手順は下記の3過程とする。
「1」図2(a)に示すように、初晶と共晶生成物の界面に沿って5点o、a、b、cおよびdの座標を測定する。点oは初晶2つと共晶生成物の界面三重点である。
「2」3点o-a-bおよびo-c-dのそれぞれを通る2つの円を決定する。
「3」図2(b)に示すように、点oを通る2つの内接円の接線を2つ求め、それら接線のなす角度を算術的に求める。
以上の手順でそれぞれの合金に対し100箇所の二面角を測定し、その累積分布関数(累積率と二面角の関係)を作成した。その中央値(累積率50%)に対応する角度を3種のアルミニウム合金の二面角の代表値として採用する。
上述のアルミニウム合金では、Al-2Cu-Ti-B合金の二面角の代表値12.5°、Al-5Mg-Ti-B合金の二面角の代表値39°、Al-0.5Si-0.4Fe-1.0Cu-1.15Mn-Ti-B合金の二面角の代表値10°を得ることができる。
図1に示すようにAl-Mn-Cu系合金は、他の2つの合金に比べて二面角が小さいので、凝固割れ感受性が高いことが示唆される。
上述のように二面角を求めたならば、以下に説明する固相結合率と粘性特性の関係を利用し、粘性特性を算出する。
「固相結合率と粘性特性の関係」
半凝固領域におけるアルミニウム合金の固相同士の接触面積率(固相結合率C)を3水準に変量した実験で得られた粘性特性値kおよびmを用い、半凝固領域全体の粘性特性値を前記固相結合率の関数として、以下の(1)式~(4)式に従って求めることができる。
ここで、前記3水準の固相結合率とは、C=0、C/2、Cであり、Cは共晶凝固温度Tに対応する固相結合率を示し、kおよびmは以下の(5)式で示される粘性構成式における係数を意味し、εcreepはクリープひずみ速度を意味し、σは応力を意味する。
m=f(C) (0≦C≦C)…(1)式
m=f(C) (C<C≦1)…(2)式
logk=g(C) (0≦C≦C)…(3)式
logk=g(C) (C<C≦1)…(4)式
εcreep=kσ1/m …(5)式
ただし、f(C)およびg(C)は実験で得られた前記3水準の特性値の組(n,C)および(logk,C)それぞれ3点より作成した二次関数であることを意味する。なお、クリープひずみ速度εcreepは一般にはドットを伴った表記とするが、(5)式では単にεcreepで表記している。
「固相結合率の固相率依存性」
Campbell により提案された固相率(fs)と固相結合率(C)の関係式を用い、固相率から固相結合率を計算することができる。その数式を下記に示す。このモデルの詳細については、以下の文献に記載されている。J. Campbell: Metallography, 4 (1971), 269-278,
LGB=2.64{(1-f)/k}1/2 …(6)式
k=√3+{3/tan(30-θrep/2)}-{(30-θ/2)/60}×π/{sin(30-θ/2)}…(7)式
ここでfLGBは粒界の全面積に対する固相と液相の接触面積の割合を定量化した指標であり、固相結合率に対してC=1-fLGBの関係となる。また、固相率(fs)はClyne-Kurzモデル等の温度-固相率関係により、温度から換算することができる。
図3は、図1に示すように実測した二面角を用い、上記(6)式と(7)式に基づき、固相率(fs)と固相結合率(C)の関係を求めた結果を示すグラフである。
図3に示す結果から、二面角の大きい合金は二面角の小さい合金より低固相率で固相の結合を開始していることが分かる。また、同一固相率における固相結合率を比較すると、二面角の大きい合金は二面角の小さい合金より固相の結合面積率が大きいことが分かる。
すなわち、同一固相率における荷重負担面積率が二面角の大きさにより異なることが示唆される。
「粘性特性の算出」
半凝固状態のアルミニウム合金の力学特性について、数値解析に必要となる粘性特性(m,k)を以下に示すように取得することができる。
まず、以下の表1に示すように各合金の固相線温度(T)、共晶凝固温度(T)、固相結合開始温度(引張強度発生温度、T)を求める。各合金に対応するこれらの温度は物性値データベースあるいは熱力学計算ソフトウエア(例えば、JmatPro ver.7, 英国Thermo Tech 社製)の計算結果等から得ることができる。
Figure 2022035388000002
表1に示す二面角を求め、それらの値を基に、先に示した(6)式と(7)式に基づき図3と表1に例示したように、C(共晶凝固温度対応固相結合率)、Cave(平均固相結合率)を求めることができる。なお、C(固相線温度対応固相結合率)は1であり、C(固相結合開始温度対応固相結合率)は0とする。これら固相結合率の条件で前記引張試験を行うことでそれぞれの固相結合率に対応する粘性特性値(m,k)を取得することができる。
表1に示す各数値をグラフにプロットした結果について図4と図5に示す。
図4は固相結合率(C)と(1)式に示す粘性特性値(m)との関係を示し、図5は固相結合率(C)と(3)式に示す粘性特性値kの対数(logk)との関係を示す。
図4と図5における、C~Cまでの領域に関し、Al-Mn-Cu合金とAl-Cu合金についてはプロットした点の間を直線で結ぶことができる。
また、C~Cの間の領域は、CとC、およびCaveに対応する点を通過する二次曲線にてこれらの間の値を近似できる。
これらの直線または二次曲線にて各プロット点の間の領域を結んだ状態を図4、図5に示している。これらの直線と曲線を描くことで、これらのプロット点以外の領域について試験を行わなくとも、粘性特性値(m,k)を求めることができる。
これらの結果から、粘性特性と固相結合率の関係について、固相結合開始から共晶凝固開始までの範囲(C=0~Ce)においては、粘性特性が固相結合率の増加にともない減少し、その後の共晶域(C=Ce~1)では粘性特性が一定に推移することがわかる。
共晶域において粘性特性が一定に推移する理由について、この温度域では液相から共晶生成物が晶出することで固相結合率の算出値は増加しているが、共晶生成物を除いた同相同士の結合面積率自体は共晶凝固開始から変化しないためであると考えられる。
以上のように、固相結合率により組成が異なる合金の粘性特性の挙動を統一的に説明できることが示唆された。
・共晶域で粘性特性が一定であるため、C=1における値は実験で取得しなくてもC=Cの実験値から推定することができる。
・逆にC=1の実験値があれば、C=Cにおける実験値の取得は不要となる。
図6にこれまで説明した粘性特性算出手順のフローチャートを示す。
ステップS1では半凝固領域におけるアルミニウム合金の引張試験を行い、基準となる粘性特性(m,k)と、二面角測定用の凝固組織画像を取得する。
ステップS2では凝固組織画像から二面角を測定する。
ステップS3では得られた二面角を元に、固相率と固相結合率の関係を求める。
その際に、先の(6)式と(7)式の関係を用いることができる。また、物性値データベースや熱力学計算ソフトなどの物性値供給手段から得られた温度と固相率の関係を用いて、温温度-固相率-固相結合率関係を求めることができる。
ステップS4では、ここまでに得られた基準となる粘性特性と固相結合率との結果から、先の(1)式~(4)式の関係に従って半凝固領域全体の固相結合率-粘性特性関係を求める。
粘性特性を算出したならば、該当するアルミニウム合金のヤング率や密度、熱伝導率なども勘案し、鋳造工程を再現した鋳造シミュレーションを行うことができる。
鋳造シミュレーションの実現には、変量項目として、型および鋳物の冷却条件、鋳造速度、鋳造温度などが挙げられる。一概に、どの場合であれば凝固割れが発生し易いかの判断は難しいが、鋳造シミュレーションの結果を見て、応力やひずみが特定箇所に集中する場合はその箇所が割れ易く、またいずれの箇所にも応力やひずみの集中がない場合は割れが発生し難い製造条件であると判断できる。
凝固割れ予測の一例として、「軽金属,第69巻 第8号(2019),P400-409,熱応力解析による鋳造凝固割れ予測」などの文献を参考にすることができる。
図7は、本実施形態に係る上述のステップS3とステップS4を実施するソフトウエアが記憶された粘性特性算出装置の一例を示す。
この例の粘性特性算出装置1は、所謂コンピュータであって、主として入力手段2と、制御部3と、記憶手段4と、出力手段5と、算出手段6を備えている。
入力手段2は、例えば、文字や数字を入力するキーボードなどであり、これによってAl合金の組成や実測した二面角、基準となる粘性特性などの情報を記憶手段4または制御部3に入力することができる。
制御部3は、所謂CPU(中央演算処理装置)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などで構成されており、プログラムによって様々な数値計算や情報処理、機器制御などを行うことができる。
記憶手段4は、例えばHDD(ハードディスクドライブ)やSSD(ソリッドステートドライブ)などの情報記録媒体であり、算出手段6の実行に必要な、前記物性値データベースや熱力学計算ソフトなどのプログラムや、先に説明した(1)式~(7)式に基づいて計算を行うプログラム、図4などに示すグラフを表示する出力機能などを必要に応じて呼び出したり、これらによって得られた結果などの保存や読み出しを実行することができる。
出力手段5は、例えばモニターやプリンターなどであり、各ソフトやプログラムから得られる各種の情報を画面上又は紙面上に必要に応じて表示または印刷することができる。
なお、記憶手段4にインターネットやネットワークへの通信機能のみを備え、インターネットやネットワークに接続された他のパーソナルコンピュータに備えられた記憶手段や算出手段を利用して粘性特性算出装置1と同様に計算し結果を算出できるように構成しても良いのは勿論である。
図7に示す粘性特性算出装置1により、対象とするアルミニウム合金の粘性特性を算出することができる。なお、粘性特性の算出自体は手計算などの手段により行っても良い。
次に、これらの直線と二次曲線を描くことによる近似が、実際の試験結果に合致しているか否かを検証するための実証試験を行った。
実証試験は、実験により、Al-2Cu-Ti-B合金と、Al-5Mg-Ti-B合金と、Al-0.5Si-0.4Fe-1.0Cu-1.15Mn-Ti-B合金に対し半凝固状態の粘性特性値(m、logk)を求めた。
図8は実験により求めた各合金の固相結合率(C)と粘性特性値(m)との関係を示し、図9は固相結合率(C)と粘性特性値kの対数(logk)との関係を示す。
実験は「軽金属,第63巻,第9号(2013),P310-317,半凝固状態における引張試験を用いたAl-Mg軽合金の弾粘性塑性構成式の構築」に記載されている実験方法(P312~313)と実験装置(P312、Fig2)を用い、温度を変えて引張試験を行って求めた。1回の実験で得られた時間-応力―ひずみの関係から、図8と図9に示すプロットを1組得ることができる。先に説明した図4、5は、同様に取得した3組の実験値を用いて間を近似式で補完したものである。
図4と図8を対比し、図5と図9を対比して明らかなように、上述の粘性特性算出方法により粘性特性を算出する方法は合金種別によらずに、半凝固状態の粘性特性値(m,k)を求める場合に有効であることが明らかとなった。
このため、任意組成のアルミニウム合金に対し鋳造を行う場合、上述の粘性特性算出方法により粘性特性を把握することができる。また、この粘性特性を利用し、前述の鋳造シミュレーションを行うことで、実際に鋳造する前に凝固割れ発生の有無について予測することができ、割れを有していない鋳塊を得るための条件決定の指針とすることができる。
また、例えば、同一の解析条件で合金種(入力する力学特性)のみを変えることで、その製造条件においてどちらの合金が割れ易いかを予測することができる。
1…粘性特性算出装置、2…入力手段、3…制御部、4…記憶手段、5…出力手段、6…算出手段。

Claims (6)

  1. 半凝固領域におけるアルミニウム合金の固相同士の接触面積率(固相結合率C)を3水準に変量した実験で得られた粘性特性値kおよびmを用い、半凝固領域全体の粘性特性値を前記固相結合率の関数として、以下の(1)式~(4)式に従って求めることを特徴とする粘性特性算出方法。
    ここで、前記3水準の固相結合率とは、C=0、C/2、Cであり、Cは共晶凝固温度Tに対応する固相結合率を示し、kおよびmは以下の(5)式で示される粘性構成式における係数を意味し、εcreepはクリープひずみ速度を意味し、σは応力を意味する。
    m=f(C) (0≦C≦C)…(1)式
    m=f(C) (C<C≦1)…(2)式
    logk=g(C) (0≦C≦C)…(3)式
    logk=g(C) (C<C≦1)…(4)式
    εcreep=kσ1/m …(5)式
    ただし、f(C)およびg(C)は実験で得られた前記3水準の特性値の組(n,C)および(logk,C)それぞれ3点より作成した二次関数であることを意味する。
  2. 前記固相結合率Cの温度依存関数C(T)を、粒界の全面積に対する固相と液相の接触面積の割合を定量化した指標であるfLGBを用いてC(T)=1-fLGB(T)と表記する場合、fLGBが液相の固相間浸入角(二面角)θと固相率fsを用いた以下の(6)式と(7)式で表されることを特徴とする請求項1に記載の粘性特性算出方法。
    LGB=2.64{(1-fs)/k}1/2 …(6)式
    k=√3+{3/tan(30-θ/2)}-{(30-θ/2)/60}×π/{sin(30-θ/2)}…(7)式
  3. 前記アルミニウム合金の凝固組織において面積率で70%以上が初晶α-Alであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の粘性特性算出方法。
  4. アルミニウム合金の凝固時の粘性特性を算出するプログラムであって、半凝固領域におけるアルミニウム合金の固相同士の接触面積率(固相結合率C)を3水準に変量した実験で得られた粘性特性値kおよびmを用い、コンピュータを、半凝固領域全体の粘性特性値を前記固相結合率の関数として、以下の(1)式~(4)式に従って求める手段として機能させることを特徴とする粘性特性算出プログラム。
    ここで、前記3水準の固相結合率とは、C=0、C/2、Cであり、Cは共晶凝固温度Tに対応する固相結合率を示し、kおよびmは以下の(5)式で示される粘性構成式における係数を意味し、εcreepはクリープひずみ速度を意味し、σは応力を意味する。
    m=f(C) (0≦C≦C)…(1)式
    m=f(C) (C<C≦1)…(2)式
    logk=g(C) (0≦C≦C)…(3)式
    logk=g(C) (C<C≦1)…(4)式
    εcreep=kσ1/m …(5)式
    ただし、f(C)およびg(C)は実験で得られた前記3水準の特性値の組(n,C)および(logk,C)それぞれ3点より作成した二次関数であることを意味する。
  5. 前記固相結合率Cの温度依存関数C(T)を、粒界の全面積に対する固相と液相の接触面積の割合を定量化した指標であるfLGBを用いてC(T)=1-fLGB(T)と表記する場合、fLGBが液相の固相間浸入角(二面角)θと固相率fsを用いた以下の(6)式と(7)式で表されることを特徴とする請求項4に記載の粘性特性算出プログラム。
    LGB=2.64{(1-fs)/k}1/2 …(6)式
    k=√3+{3/tan(30-θ/2)}-{(30-θ/2)/60}×π/{sin(30-θ/2)}…(7)式
  6. 凝固組織において面積率で70%以上が初晶α-Alであるアルミニウム合金に適用することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の粘性特性算出プログラム。

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