<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係る在庫管理支援システム100について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る在庫管理支援システム100の構成を示す図である。図1に示すように在庫管理支援システム100は在庫管理支援装置10と端末装置20とを備える。
在庫管理支援装置10は、商品の在庫管理において利益評価の観点から、投入資源に対する利回りが大きくなるように発注方式(「在庫管理方式」とも称する。)の複数のパラメータそれぞれに最適な数値(パラメータ値)を選定し、端末装置20に表示させる表示データを出力する。ここでの「利益評価の観点」は、単に一時点の利益や価値というよりも、どれだけの資源をどれだけの期間投入して得られた利益かという、時間軸も含めた投入資源に対する利回り(投資効率)の観点を重視する。第1実施形態のパラメータは、投入資源に対する利回りを評価可能な指数で評価される。具体的には利益評価の観点から、商品への投入資源を表す「時間積分原価」との概念を導入し、この時間積分原価に対する利益の比率である「時間積分原価利益率」を評価指標として用いる。
「時間積分原価:time integrating cost」は、商品の原価と滞留期間(又は滞留時間)との積である。「商品の原価」には、購入原価だけでなく、調達原価なども含まれる。具体的には「商品の原価」には、商品の仕入れ価格だけでなく、商品の発注から売上計上までにかかった費用(例えば商品の調達、物流、販売などに費やされた費用)も含まれる。
ここでの「滞留期間」は、商品に関する債務の発生から売上の計上までの期間(又は時間)である。具体的には商品の発注や入庫で債務が発生してから商品が販売され売上が計上されるまでのすべての期間である。このような期間を「滞留期間」とすることで、カネ(原価)がモノ(商品)に変換したときからモノ(商品)がカネ(売上)に変換するまでの期間を漏れなく、資源を投入した期間として表すことができる。したがって、「時間積分原価」は、どれだけの資源(原価)をどれだけの期間(滞留期間)投入したとする投入資源そのものを表すことができる。なお、「時間積分原価」を棒グラフで表すときに、例えば商品の原価を縦軸、滞留期間を横軸にすればその面積が「時間積分原価」に相当する点では「時間積分原価」を「面積原価」と称することもできる。なお、上記「滞留期間」は、債務の発生時点が入庫時の場合を例示したが、これに限られない。例えば債務の発生時点が発注時であれば、「滞留期間」は発注時から売上計上までの期間である。
「時間積分原価利益率」は、「時間積分原価」に対する利益の比率である。第1実施形態ではこの「時間積分原価利益率」を評価指標として複数のパラメータを評価し、各パラメータに最適なパラメータ値を選定して表示する。このようなパラメータ値を商品の発注方式のパラメータに適用することで、投入資源に対する利回りを高める在庫管理を行うことができるようになる。
商品の発注方式としては、例えば定量発注方式、定期発注方式などが挙げられる。定量発注方式は、予め基準となる在庫量である「発注点」を定めておき、在庫量がその「発注点」を下回ったときに商品を一定の「発注量」で発注する方式である。したがって、これらのパラメータ値をどのように設定するかによって、投入資源に対する利回りも大きく変わる。
定期発注方式は、予め一定の期間に「発注間隔」を定めておき、在庫量や需要量に応じて「発注量」を算出して商品を発注する方式である。したがって、これらのパラメータ値をどのように設定するかによって、投入資源に対する利回りも大きく変わる。なお、発注方式のパラメータは上述したものに限られない。例えば「安全係数」などから算出される「安全在庫」もパラメータに含まれる場合がある。「安全在庫」は、商品の需要変動(需要のばらつき)などの不確定要素による欠品を防ぐために余裕として持つ在庫量である。
在庫管理支援装置10で適用する発注方式としては、上述した定量発注方式と定期発注方式に限られず、パラメータ値の選定が可能なあらゆる発注方式を適用可能である。他の発注方式としては例えば分納発注方式などが挙げられる。分納発注方式は、発注スケジュールを立て、必要数を何回かに分けて納品させる方式である。分納発注方式では、例えば分納の回数や間隔、各分納での発注量などがパラメータとなる。
なお、上述したように定期発注方式は一定の「発注間隔」で商品を発注するのに対して、定量発注方式は在庫量が「発注点」を下回ったときに商品を発注する。したがって、定期発注方式のパラメータには「発注点」がなく、定量発注方式のパラメータには「発注間隔」がない。このように発注方式によってパラメータが異なる。そのため、在庫管理支援装置10でパラメータ値を選定するパラメータも発注方式によって異なる。どのパラメータを評価して選定するかについての詳細は後述する。
第1実施形態の在庫管理支援装置10は、端末装置20をクライアントとするサーバコンピュータで構成する場合を例示する。在庫管理支援装置10は、複数台で分散処理するように構成してもよく、また1台のサーバ装置に設けられた複数の仮想マシンによって構成してもよい。また、在庫管理支援装置10は、パーソナルコンピュータで構成してもよく、クラウドサーバで構成してもよい。
在庫管理支援装置10と端末装置20とはインターネットなどのネットワークNを介して互いに通信可能に構成されている。なお、ネットワークNは、在庫管理支援装置10と端末装置20とを接続する企業内のイントラネットで構成してもよい。
端末装置20は、ユーザによって利用される情報処理装置である。端末装置20は、例えばスマートフォン、タブレット、PDA(Personal Digital Assistant)などの携帯端末や、デスクトップ型パーソナルコンピュータ、ノート型パーソナルコンピュータなどである。ネットワークNには単一の端末装置20が接続されていてもよく、複数の端末装置20が接続されていてもよい。
図2は、第1実施形態に係る在庫管理支援システム100の具体的構成例を示すブロック図である。図2に示す在庫管理支援装置10は、通信部11と制御部12と記憶部14とを備える。通信部11と制御部12と記憶部14とは、それぞれバスライン10Lに接続され、相互に情報(データ)のやり取りが可能である。
通信部11は、ネットワークNと有線又は無線で接続され、端末装置20との間で情報(データ)の送受信を行う。通信部11は、インターネットやイントラネットの通信インターフェースとして機能し、例えばTCP/IPを用いた通信などが可能である。
制御部12は、在庫管理支援装置10全体を統括的に制御する。制御部12は、MPU(Micro Processing Unit)などの集積回路で構成される。制御部12は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)を備える。制御部12は、必要なプログラムをROMにロードし、RAMを作業領域としてそのプログラムを実行することで、各種の処理(在庫管理支援処理など)を行う。
記憶部14は、制御部12で実行される各種プログラムやこれらのプログラムによって使用されるデータなどを記憶する。記憶部14は、ハードディスクや光ディスクなどの記憶装置で構成される。記憶部14の構成はこれらに限られず、記憶部14をRAMやフラッシュメモリなどの半導体メモリで構成してもよい。例えば記憶部14をSSD(Solid State Drive)で構成することもできる。
記憶部14は、プログラム記憶部15、データ記憶部16、パラメータ記憶部17、評価指標記憶部18などを備える。プログラム記憶部15は、制御部12で実行される各種プログラムを記憶する。制御部12は、プログラム記憶部15から必要なプログラムを読み出して、後述する在庫管理支援処理など各種の処理を実行する。
データ記憶部16には、例えば後述する図3に示すような商品需要データ161、在庫管理データ162などが記憶される。パラメータ記憶部17には、発注方式の複数のパラメータとそのパラメータ値が記憶される。在庫管理支援装置10は、データ記憶部16の商品需要データ161と在庫管理データ162とパラメータ記憶部17のパラメータ値を用いてパラメータ値毎の評価指数を算出する。評価指標記憶部18には、例えば後述する図9に示すように、評価指標の算出結果がパラメータ値毎に関連づけられて記憶される。
パラメータ記憶部17に記憶される発注方式の複数のパラメータは、特定パラメータ171(第1パラメータ)と、算出パラメータ172(第2パラメータ)と、固定パラメータ173(第3パラメータ)とに分けられる。これら複数のパラメータのうち上記評価指標によってパラメータ値が選定されるのは特定パラメータ171である。算出パラメータ172は特定パラメータ171に基づいてパラメータ値が算出されるパラメータである。固定パラメータ173は予めパラメータ値が設定されるパラメータである。
図2の制御部12は、取得部121と演算部122と選定部124と出力部126とを備える。これら制御部12の各構成要素は、物理的な回路で構成してもよく、CPUが実行可能なプログラムで構成してもよい。制御部12の構成は、図2に示す構成に限られない。
取得部121は、通信部11を介して端末装置20から特定パラメータ171の数値範囲を取得すると、パラメータ記憶部17に記憶する。なお、取得部121は、在庫管理支援システム100に設けられたキーボードやマウスなどの入力部(図示省略)から入力された特定パラメータ171の数値範囲を取得するようにしてもよい。
演算部122は、特定パラメータ171の評価指標を算出するためのシミュレーションを実行する。ここでのシミュレーションは、商品需要データ161及び在庫管理データ162に基づいて、特定パラメータ171のパラメータ値を選定するための評価指標を算出するシミュレーションである。なお、このシミュレーションは、在庫管理方式(発注方式)のパラメータ値を選定するためのシミュレーションでもあるので、以下では「在庫シミュレーション」と称する。在庫シミュレーションは、取得部121にて取得された数値範囲内で特定パラメータ171のパラメータ値を変えて実行され、そのパラメータ値毎に評価指標が算出される。特定パラメータ171が複数ある場合には、取得部121にて取得された特定パラメータ171それぞれの数値範囲内でパラメータ値の組合せを変えて在庫シミュレーションが実行され、その特定パラメータ171のパラメータ値の組合せ毎に評価指標が算出される。演算部122は算出した評価指標をその特定パラメータ171に関連づけて評価指標記憶部18に記憶する。
選定部124は、上記在庫シミュレーションにて評価指標記憶部18に記憶された評価指標に基づいて特定パラメータ171のパラメータ値を選定する。具体的には例えば評価指標記憶部18の評価指標の中から評価指標が最大となるパラメータ値を検出し、そのパラメータ値を特定パラメータ171のパラメータ値として選定する。特定パラメータ171が複数の場合は、評価指標が最大となるパラメータ値の組合せを検出し、各パラメータ値をそれぞれに関連づけられた特定パラメータ171のパラメータ値として選定する。
出力部126は、選定部124で選定された特定パラメータ171のパラメータ値を表示させる表示データを生成して出力する。表示データは、通信部11を介して端末装置20に送信される。端末装置20は、表示データに基づいて特定パラメータ171のパラメータ値を表示する。なお、表示データはWeb画面データであってもよい。この場合、在庫管理支援装置10は、Web画面に特定パラメータ171のパラメータ値を表示させて、端末装置20はそのWeb画面データを受信してブラウザに表示する。なお、在庫管理支援装置10からの表示データを表示させるのは、端末装置20の表示部26に限られない。例えば在庫管理支援装置10に接続されるディスプレイなどの表示部(図示省略)に表示させるようにしてよい。
ここで、第1実施形態において端末装置20の表示部26に表示される表示画面SC1の具体例を図7に示す。図7の表示画面SC1は、定量発注方式の在庫シミュレーションで選定された特定パラメータ171のパラメータ値を表示する表示画面の具体例である。図7に示すように表示画面SC1には、例えば基本情報表示欄261、特定パラメータ表示欄262、利益率表示欄263、算出パラメータ表示欄264、在庫推移表示欄265などが設けられる。ただし、表示画面SC1の表示欄はこれに限られない。少なくとも選定された特定パラメータ171のパラメータ値を表示される表示欄があればよい。例えば在庫推移表示欄265などは表示されていなくてもよい。
基本情報表示欄261には、在庫管理を行う商品の商品コードや発注方式などの基本情報が表示される。特定パラメータ表示欄262には、「特定パラメータの数値範囲」と「利回りを最大化するパラメータ値」の欄が表示される。「特定パラメータの数値範囲」の欄には、端末装置20から入力された特定パラメータ171の数値範囲が表示される。「利回りを最大化するパラメータ値」の欄には、選定部124で選定されたパラメータ値が表示される。このような表示によれば、特定パラメータ171の数値範囲で利回りを最大化できるパラメータ値(選定された特定パラメータ171のパラメータ値)を一目で確認できる。
利益率表示欄263には、評価指標とした「時間積分原価利益率」が表示される。利益率表示欄263には、上記の他に「売上高利益率」が表示されるようにしてもよい。算出パラメータ表示欄264には、上記特定パラメータ171により算出された算出パラメータ172が表示される。図7では「発注点K」と「安全在庫A」が算出パラメータ172として表示される。
在庫推移表示欄265には、特定パラメータ表示欄262に表示される特定パラメータ171によって在庫シミュレーションを実行した際の在庫の推移を表示する折れ線グラフや時間積分原価の棒グラフが表示される。図7の在庫推移表示欄265の表示範囲は当月を中心にその前後の月の一部である。ただし、在庫推移表示欄265の表示範囲は図示の場合に限られず、表示する月をユーザが選択できるようにしてもよい。なお、表示画面SC1の構成は図7に示すものに限られず、他の表示欄を設けてもよい。例えば固定パラメータ173の表示欄をさらに設けてもよい。また表示画面SC1に表示する表示欄をユーザが選択できるようにしてもよい。
次に、端末装置20の構成例について図2を参照しながら説明する。図2に示す端末装置20は、通信部21と制御部22と記憶部24と入力部25と表示部26とを備える。通信部21と、制御部22と、記憶部24と、入力部25と、表示部26とは、それぞれバスライン20Lに接続され、相互に情報(データ)のやり取りが可能である。
通信部21は、ネットワークNと有線又は無線で接続され、在庫管理支援装置10との間で情報(データ)の送受信を行う。通信部21は、インターネットやイントラネットの通信インターフェースとして機能し、例えばTCP/IPを用いた通信などが可能である。
制御部22は、端末装置20全体を統括的に制御する。制御部22は、MPU(Micro Processing Unit)などの集積回路で構成される。制御部22は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)を備える。制御部22は、必要なプログラムをROMにロードし、RAMを作業領域としてそのプログラムを実行することで、各種の処理を行う。
記憶部24は、制御部22で実行される各種プログラムやこれらのプログラムによって使用されるデータを記憶する。記憶部24は、ハードディスクや光ディスクなどの記憶装置で構成される。記憶部24の構成はこれらに限られず、記憶部24をRAMやフラッシュメモリなどの半導体メモリで構成してもよい。例えば記憶部24をSSD(Solid State Drive)で構成することもできる。
入力部25は、キーボード及びマウスなどを備え、ユーザからの操作入力を受け付けて操作内容に対応した制御信号を制御部22へ送信する。入力部25は、タッチパネルを備えていてもよい。
表示部26は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどであり、制御部22からの指示に従って各種情報を表示する。制御部22は、在庫管理支援装置10から通信部21を介して受信した表示データに基づいて特定パラメータ171のパラメータ値を表示部26に表示する。
次に発注方式のパラメータについて説明する。発注方式ごとにパラメータの種類は異なる。しかもパラメータの種類も多岐にわたり、それらのパラメータ値の組合せに応じて、利益だけでなく、在庫・原価・調達期間などすべての数値に関わっている。そのため、例えば発注方式のすべてのパラメータを在庫シミュレーションの変数にして最適なパラメータ値の組合せを求めるのは非常に困難である。
ところが、発注方式のパラメータの中には、商品の種類、発注方式、商品を扱うビジネスの種類や規模などに応じてパラメータ値を決めることができるものもある。そのようなパラメータは予め設定することができ、わざわざ変数にする必要もない。また、発注方式のパラメータの中には、他のパラメータ値に基づいて算出できるパラメータもある。そうすると、すべてのパラメータを在庫シミュレーションの変数にする必要はなく、一部のパラメータを変数にすれば足りるのでないか、ということに気づいたのが本発明者である。
そして、本発明者は実験を重ねたところ、発注方式の多数のパラメータのうち特定の一部のパラメータのみを変数にして在庫シミュレーションを実行すれば、利回りの高いパラメータ値の組合せを容易に見つけ出すことができることが分かった。そうすれば、見つけ出したパラメータ値の組合せに基づいて他の一部のパラメータのパラメータ値も算出できるので、結果的に発注方式のすべてのパラメータについて最適なパラメータ値の組合せを取得できる。
以上を踏まえ、本実施形態では、発注方式の多数のパラメータを、特定パラメータ171、算出パラメータ172、固定パラメータ173に分けることで、特定の一部のパラメータ(特定パラメータ171)のみについてパラメータ値の組合せを選定すれば足りるようにしている。
上記のパラメータのうち固定パラメータ173は、上述したように商品の種類、発注方式、商品を扱うビジネスの種類や規模などに応じてパラメータ値を決めることができるパラメータである。したがって、在庫シミュレーションの実行前に予め設定しておくことができる。算出パラメータ172は、特定パラメータ171のパラメータ値に基づいて算出できるパラメータである。したがって、算出パラメータ172の最適なパラメータ値は、特定パラメータ171のパラメータ値が選定されれば算出できる。これにより、在庫シミュレーションは、特定パラメータ171のパラメータ値だけを変えて実行すれば足りる。
これらの特定パラメータ171、算出パラメータ172、固定パラメータ173の数や種類は、発注方式の種類によって異なる。例えば定量発注方式では、基本となる重要な2つのパラメータ「発注量H」と「安全係数α」を特定パラメータ171とすることができる。これらのパラメータ値に基づいて算出できる算出パラメータ172としては「発注点K」と「安全在庫A」が挙げられる。これに対して、定期発注方式では、基本となる重要な2つのパラメータ「発注間隔M」と「安全係数α」を特定パラメータ171とすることができる。これにより、これらのパラメータ値に基づいて算出できる算出パラメータ172としては「発注量H」と「安全在庫A」が挙げられる。
なお、組み合わせる特定パラメータ171の種類については、上記に限られない。例えば定量発注方式では、上述した「発注量H」と「安全係数α」の組合せに限られず、「発注量H」と「調達期間T」とを特定パラメータ171として組み合わせてもよい。これらのパラメータは、いずれも商品の仕入れ先との交渉に使うことができる。このように、目的に応じて特定パラメータ171の組合せの種類を選ぶようにしてもよい。
また、組み合わせる特定パラメータ171の数については、2つのパラメータを組み合わせる場合を例示したが、1つのパラメータでもよいし、3つ以上のパラメータを組み合わせてもよい。特定パラメータ171として組み合わせるパラメータの数が多いほど、そのパラメータ値の組合せの数が増えるから、在庫シミュレーションの計算量も増大する。例えば2つのパラメータの組合せでは、評価指標を算出するパラメータ値の組合せが図9に示すように2次元配列で済むのに対して、3つのパラメータの組合せでは3次元配列になる。したがって、組み合わせる特定パラメータ171の数が少ない方が、在庫シミュレーションの計算量の負担を軽減できる。
第1実施形態では、定量発注方式の在庫管理処理を在庫管理支援装置10によって行う場合を例示する。図3は、データ記憶部16に記憶される商品需要データ161と在庫管理データ162の具体例を示す図である。図3は、毎日の商品需要データ161と在庫管理データ162であり、2月分の一部を抜粋したものである。商品需要データ161と在庫管理データ162はデータ記憶部16に予め記憶されている。例えば商品需要データ161と在庫管理データ162は、乱数で1年分算出された毎日の需要量と過去の実績などから得られるパラメータ値とを用いて算出される。商品需要データ161と在庫管理データ162は再計算可能である。なお、端末装置20から送信された商品需要データ161と在庫管理データ162がデータ記憶部16に記憶されるようにしてもよい。
商品需要データ161は、毎日の需要量に限られず、毎月の需要量であってもよい。需要量は乱数で算出される数値に限られない。例えば過去の需要量の実績であってもよい。また公知の需要予測手法による予測値であってもよい。需要予測手法としては、例えば移動平均モデル、指数平滑モデル、ウインターズモデル、ARIMA(Auto Regressive Integrated Moving Average)モデルが挙げられる。また、AI(人工知能)などの機械学習によって構築された学習済モデルを利用して予測された需要量の予測値を商品需要データ161としてもよい。この場合、例えば過去に蓄積された顧客データや天気データなどその商品の需要に相関のあるデータと需要量とを教師データとして学習させて学習済モデルを構築してもよい。
在庫管理データ162は、「当日初在庫」、「販売量」、「入庫量」、「当日末在庫」、「発注量」、「発注残」、「購入原価」、「調達原価」、「滞留期間」、「時間積分原価」を含む。「当日初在庫」はその日の商品販売前の在庫であり、前日の「当日末在庫」に相当する。「販売量」はその日に販売した商品の個数である。具体的には当日の「需要量」が「当日初在庫」と「入庫量」の合計値を上回る場合には、「販売量」はその合計値であり、欠品が発生する。他方、当日の「需要量」が「当日初在庫」と「入庫量」の合計値以下の場合は「販売量」は「需要量」であり、欠品は発生しない。
「入庫量」は当日に入庫した商品の個数であり、「当日末在庫」は前日の在庫から当日の「販売量」を引き算した在庫である。「発注量」は当日に発注した商品の個数であり、「発注残」は月初からその日までの「発注量」から「入庫量」を引き算した商品の個数である。「購入原価」は商品1個当たりの原価であり、「調達原価」は発注1回当たりに商品を調達するためのコストである。
ここでは、商品の入庫時に債務が発生し、月末締めで月末に売上が計上される場合を例示する。したがって、ここでの「滞留期間」は、商品の入庫から当月末までの日数である。当月に販売された商品は、当月に入庫されたものに限られず、前月に入庫された場合もある。「時間積分原価」は商品の原価と滞留期間との積である。例えば当月に販売された商品について「商品の原価」と「滞留期間」との積の総和が「時間積分原価」になる。ここでの「商品の原価」は、1回の入庫で発生する「購入原価」と「調達原価」を加えた金額である。
図4乃至図6は、定量発注方式でのパラメータ記憶部17の構成例を示す図である。図4は定量発注方式の特定パラメータ171と算出パラメータ172の具体例である。図5は定量発注方式の固定パラメータ173の具体例である。図6は、定量発注方式の特定パラメータ171の数値範囲の具体例である。
図4の特定パラメータ171は、定量発注方式の複数のパラメータのうち、評価指標によって選定される特定のパラメータである。図4では「発注量H」と「安全係数α」を特定パラメータ171とした場合を例示する。「発注量H」は、定量発注方式においては一定であり、「発注点K」を下回ったときに発注される商品の個数である。「安全係数α」は欠品をどれだけ許容するかを決める係数であり、「安全在庫A」を算出するために用いる係数である。「安全係数α」が大きいほど欠品許容率が小さくなり、「安全在庫A」が大きくなる。なお、図4の特定パラメータ171は、「発注量H」と「安全係数α」に限られない。
算出パラメータ172は、特定パラメータ171である「発注量H」と「安全係数α」からパラメータ値を算出できるパラメータである。図4では「発注点K」と「安全在庫A」を算出パラメータ172とした場合を例示する。「安全在庫A」は、需要変動などの不確定要素による欠品を防ぐために余裕として持つ在庫量であり、在庫管理に重要なパラメータである。定量発注方式での「安全在庫A」は例えば「安全係数α」、「調達期間T」、「需要の標準偏差σ」によって下記数式(1)で算出される。
「発注点K」は、商品を発注するタイミングを判断するための在庫量である。定量発注方式では、在庫量が「発注点K」を下回ったときが発注するタイミングになる。したがって、「発注点K」は定量発注方式の要になる重要なパラメータである。「発注点K」は、例えば「平均需要量D」、「調達期間T」、「安全在庫A」によって下記数式(2)で算出される。
K=D×T+A
・・・(2)
なお、ここでは「発注点K」と「安全在庫A」を算出パラメータ172とした場合を例示したが、これらに限られず、特定パラメータ171に基づいて算出される様々なパラメータを算出パラメータ172としてもよい。例えば図示しない「平均在庫Z」を算出パラメータ172としてもよい。定量発注方式での「平均在庫Z」は、例えば特定パラメータ171として例示した「安全在庫A」と「発注量H」によって下記数式(3)で算出できる。
Z=A+H/2
・・・(3)
図5の固定パラメータ173は、商品の種類、発注方式、商品を扱うビジネスの種類や規模などに応じてパラメータ値を決めることができるパラメータである。図5では定量発注方式の固定パラメータ173として「平均需要量D」、「需要の標準偏差σ」、「調達期間T」、「購入単価c」、「販売単価P」、「調達原価L」を例示する。「平均需要量D」は1日当たりの需要量の平均であり、「需要の標準偏差σ」は1日当たりの需要量の標準偏差である。「需要量」を乱数で算出する場合には、「平均需要量D」と「需要の標準偏差σ」から算出することができる。「調達期間T」は、発注から入庫までにかかる日数である。「購入単価P」は商品1個あたりの原価であり、「販売単価」は商品1個あたりの売値である。「調達原価L」は上述したように発注1回あたり商品を調達するためにかかるコストであり、商品調達にかかる販売管理費(販管費)などを含めてもよい。
図6の特定パラメータ171の数値範囲は、評価指標を算出するパラメータ値の数値範囲である。図6には「発注量H」と「安全係数α」の数値範囲を例示する。取得部121は通信部11を介して端末装置20から特定パラメータ171の数値範囲を取得すると、パラメータ記憶部17に記憶する。例えば図6の数値範囲は、特定パラメータ171の種類、最小値、最大値、分割数により構成される。この数値範囲で在庫シミュレーションが実行される。
図6によれば、特定パラメータ171の「発注量H」は最小値「1120」、最大値「1920」、分割数「10」である。分割数が「10」なので、「発注量H」は最小値「1120」から最大値「1920」まで「80」ずつ変化させる。「安全係数α」は最小値「0.00」、最大値「1.75」、分割数「7」である。分割数が「7」なので、「安全係数α」は最小値「0.00」から最大値「1.75」まで「0.25」ずつ変化させる。これら「発注量H」と「安全係数α」のパラメータ値の組合せ毎に評価指標が在庫シミュレーションによって算出される。後述する図9は、図6の数値範囲で「発注量H」と「安全係数α」のパラメータ値を変え、そのパラメータ値の組合せ毎に評価指標を算出した結果の具体例である。
このような構成の在庫管理支援装置10によれば、商品の原価と商品に関する債務の発生から売上の計上までの期間との積に対する商品の利益の比率(時間積分原価利益率)を評価指標として発注方式のパラメータのパラメータ値を評価でき、端末装置20にそのパラメータ値を表示させることができる。これによれば、利益評価の観点からパラメータ値を評価できる。しかも、商品の原価だけでなく、債務の発生から売上の計上までの期間を考慮した評価ができるので、投入資源に対する利回りの観点からパラメータ値を選定できる。取得部121で取得された数値範囲で評価指標が最大となるパラメータ値を選定することで、その数値範囲で投入資源に対する利回りを最大にする発注方式のパラメータのパラメータ値を選定して表示できる。これにより、そのパラメータ値を実際の在庫管理に用いることができるので、経験や勘に頼らなくても投入資源に対する利回りを高める在庫管理を行うことができる。
ところで、上述したように従来における発注方式のシミュレーションでは、商品が欠品しないように過剰にならないように、安全係数や発注量などの複数のパラメータについてパラメータ値が設定される。例えば平均在庫日数、平均在庫のバラツキなどのように在庫による評価指標によってパラメータが評価され、その在庫による評価指標に応じた最適なパラメータ値が設定される。このように在庫不足による販売機会の損失や在庫過剰による過剰コストの増大を抑えるため、在庫評価の観点からパラメータ値を設定することが従来から行われている。
しかしながら、「商品の在庫」は商品の滞留量のみを表しているに過ぎない。そのため、従来のような「在庫による評価指標」では、上述した平均在庫日数、平均在庫のバラツキなどのうち、どの指標で評価すれば高い利益が得られるかという利益評価の観点からパラメータ値を評価することは困難であり、どの評価指標を使うかは経験や勘に頼らざるを得なかった。
利益評価の観点からすれば、仮に売上高から商品の原価を差し引いた利益を評価指標とすることも考えられる。ところが、「商品の原価」は単に金額換算された商品の価値、すなわち時間軸を含まない一時点の商品の価値を表しているに過ぎない。利益評価の観点を重視するのであれば、単に一時点の利益や価値というよりも、どれだけの原価をどれだけの期間投入して得られた利益かという時間軸も含めた投入資源に対する「利回り」の観点から評価することが好ましい。ところが、このような投入資源に対する「利回り」の観点から発注方式のパラメータのパラメータ値を評価する手法は今までになかった。
例えば利益評価の観点から、仮に「売上高利益率」を評価指標としてそれを最大にするパラメータ値を選定したしても、その評価指標では一時点の利益でしか評価できない。例えば入庫から売上計上までの滞留期間を含む時間軸の長さまで評価することはできない。このように、一時点の利益でしかパラメータ値を評価しなければ、利益が最大になるようにパラメータ値を選定したはずなのに、投入資源に対する利回りは売上計上までの期間が長いほど悪くなってしまう。
そこで、在庫管理支援装置10では、一時点の利益ではなく、滞留期間のように時間軸の長さまで評価可能な「時間積分原価」に対する利益の比率である「時間積分原価利益率」を評価指標として発注方式のパラメータを設定する。これにより、投入資源に対する「利回り」の観点から最適なパラメータ値を選定できる。したがって、一時点の利益しか評価できない評価指標を用いるよりも「利回り」を大きくする在庫管理処理を行うことができる。
このような在庫管理支援装置10が行う在庫管理支援処理について図8を参照しながら説明する。図8は、在庫管理支援処理の具体例を示すフローチャートである。図8の在庫管理支援処理は、制御部12(取得部121、演算部122、選定部124、出力部126など)によってプログラム記憶部15から必要なプログラムが読み出されて実行される。
図8の在庫管理支援処理では、商品の「時間積分原価」を用いた利益率(時間積分原価利益率)を評価指標とする定量発注方式の在庫シミュレーションを実行する。これにより、端末装置20から取得された特定パラメータ171の数値範囲で利回りが最大になるように特定パラメータ171のパラメータ値を選定し、そのパラメータ値を端末装置20に表示させる。
先ず在庫管理支援装置10の制御部12は、図8のステップS110にて特定パラメータ171の数値範囲を取得する。具体的には取得部121が通信部11を介して端末装置20から特定パラメータ171の数値範囲を取得し、例えば図6のようにパラメータ記憶部17に記憶する。
なお、本実施形態での特定パラメータ171の種類は、発注方式に応じて予め記憶されている。例えば定量発注方式の特定パラメータ171の種類は、図4に示す「発注量H」と「安全係数α」である。ただし、特定パラメータ171の種類はこれに限られない。また、例えばユーザが端末装置20から特定パラメータ171の種類を入力部25で選択して入力できるようにしてもよい。この場合、入力部25から入力された特定パラメータ171の種類は、通信部11を介して在庫管理支援装置10で受信され、取得部121によってパラメータ記憶部17に記憶される。
本実施形態では算出パラメータ172と固定パラメータ173の種類も発注方式に応じて予め記憶されている。例えば定量発注方式の算出パラメータ172と固定パラメータ173の種類は、図4及び図5に示す通りである。ただし、算出パラメータ172と固定パラメータ173の種類もこれに限られない。算出パラメータ172と固定パラメータ173の種類についてもユーザが端末装置20の入力部25で選択して入力できるようにしてもよい。また固定パラメータ173のパラメータ値も入力部25から入力できるようにしてもよい。この場合、入力部25から入力された算出パラメータ172の種類、固定パラメータ173の種類やそのパラメータ値は、通信部11を介して在庫管理支援装置10で受信され、取得部121によってパラメータ記憶部17に記憶される。
次にステップS120(第1ステップ)にて制御部12は、特定パラメータ171のパラメータ値毎に評価指標を算出する。具体的には演算部122が、取得部121にて取得された数値範囲で在庫シミュレーションを実行する。演算部122は、例えば図6の特定パラメータ171の数値範囲でパラメータ値を変えて在庫シミュレーションを実行する。これにより、図3のような商品需要データ161及び在庫管理データ162から特定パラメータ171のパラメータ値の組合せ毎に評価指標(時間積分原価利益率)が算出される。
演算部122は、在庫シミュレーションで算出した評価指標を特定パラメータ171に関連づけて評価指標記憶部18に記憶する。例えば後述する図9に示すように特定パラメータ171が「発注量H」と「安全係数α」の場合には、そのパラメータ値の組合せ毎に評価指標が算出され評価指標記憶部18に記憶される。例えば図9において「発注量H」のパラメータ値「1200」と「安全係数α」のパラメータ値「0.75」との組合せでは評価指標(時間積分原価利益率)は「5.22」である。
次にステップS130(第2ステップ)にて制御部12は、評価指標が最大となる特定パラメータ171のパラメータ値を選定する。具体的には選定部124が評価指標記憶部18の評価指標の中から評価指標(時間積分原価利益率)が最大となるパラメータ値を検出する。選定部124は検出したパラメータ値を特定パラメータ171のパラメータ値として選定し、パラメータ記憶部17に記憶する。
図9によれば、その数値範囲での評価指標(時間積分原価利益率)の最大値は「5.22」であり、そのときのパラメータ値の組合せは「発注量H」が「1200」、「安全係数α」が「0.75」である。したがって、これらのパラメータ値「1200」、「0.75」が評価指標を最大にするパラメータ値の組合せとして選定され、図4のようにパラメータ記憶部17に記憶される。
なお、選定された「発注量H」と「安全係数α」のパラメータ値から、上記数式(1)と上記数式(2)により「発注点K」と「安全在庫A」とがそれぞれ算出される。算出された「発注点K」と「安全在庫A」とのパラメータ値はそれぞれ算出パラメータ172として図4のようにパラメータ記憶部17に記憶される。
次にステップS140(第3ステップ)にて制御部12は、特定パラメータ171のパラメータ値を端末装置20に表示させる。具体的には出力部126が、選定部124で選定された特定パラメータ171のパラメータ値の組合せを表示させる表示データを生成し出力する。表示データは、通信部11を介して端末装置20に送信される。端末装置20は、表示データに基づいて特定パラメータ171のパラメータ値などを表示部26に表示する。
例えば図7の表示画面SC1を表示する表示データが生成される。図7に示すように、表示データには、特定パラメータ171のパラメータ値を表示する表示データだけでなく、商品コードや発注方式などの基本情報、特定パラメータ171の数値範囲、利益率、発注点K、安全在庫Aなどの表示データや、在庫の推移などを図示する表示データが含まれていてもよい。このような表示データによって例えば図7では、基本情報表示欄261の発注方式に定量発注方式が表示され、特定パラメータ表示欄262に「発注量H」と「安全係数α」の数値範囲と利回りを最大化するパラメータ値が表示され、算出パラメータ表示欄264には「発注点K」と「安全在庫A」のパラメータ値が表示される。
次に、第1実施形態の在庫シミュレーションについて図9及び図10を参照しながら説明する。ここでは、定量発注方式の特定パラメータ171のパラメータ値毎に「時間積分原価利益率」を評価指標として算出する在庫シミュレーションを例示する。図9は、定量発注方式の在庫シミュレーションで評価指標として算出した「時間積分原価利益率」の具体例を示す図である。
具体的には図9には、「発注量H」と「安全係数α」のパラメータ値の組合せ毎に在庫シミュレーションを実行して「時間積分原価利益率」を算出した結果を示す。在庫シミュレーションは図6に示す数値範囲で「発注量H」と「安全係数α」のパラメータ値の組合せを変えて実行される。図9の算出結果は、端末装置20や在庫管理支援装置10に接続されるディスプレイなどに表示させるようにしてもよい。その場合、「時間積分原価利益率」の大きさに応じて塗りつぶしの色やパターンを変えたり、文字色を変えたりしてもよい。これにより、特定パラメータ171のパラメータ値の組合せと「時間積分原価利益率」の大きさとの関係が分かりやすくなる。なお、この場合、ユーザが「時間積分原価利益率」の大きさを見ながら特定パラメータ171のパラメータ値の組合せを選定できるようにしてもよい。
図10は、図9において「時間積分原価利益率」を最大にするパラメータ値の組合せによる定量発注方式の在庫推移の具体例を示す図である。図10には、例えば2月分の前後の在庫推移を折れ線グラフで表し、その2月分の時間積分原価を棒グラフで表す。在庫推移の折れ線グラフは、縦軸が在庫量であり、横軸が時間である。時間積分原価の棒グラフは、縦軸が原価であり、横軸が時間である。図10は、月末締めの場合であり、売上が2月末に計上される場合を例示している。
図10には、2月末に売上が計上される入庫毎の原価をC1〜C4で示す。C1〜C4は入庫時に債務が発生する場合の原価である。もし発注時に債務が発生する場合には発注毎の原価としてもよい。図10には、選定された特定パラメータ171のパラメータ値の組合せでの「時間積分原価利益率」(最大値)を表示し、同じパラメータ値の組合せでの「売上高利益率」も参考のために表示する。
ここで、在庫シミュレーションで算出される「時間積分原価利益率」について、「売上高利益率」と比較しながら説明する。毎月末に売上が計上される商品について当月に販売された商品の入庫は第1回〜第n回であったとすると、図10で用いられる文字の概要は以下の通りである。図10は、発注量が入庫量と同じ場合を例示する。
H:発注量(ここでは入庫量と同じ)
Sn(n=1〜4):第n回目の商品の販売個数(次回入庫までの販売個数)
K:発注点
T:調達期間(発注から入庫までの日数)
tn(n=1〜4):第n回目の滞留期間(入庫から売上計上までの日数)
Cn(n=1〜4):第n回目の商品の原価(次回入庫までの原価の総和)
第m回目(mは1〜nの整数)に入庫された商品が当月中に販売され売上が計上されるとすると、第m回目に入庫した商品の原価Cm=第m回目の入庫量(発注量H)×(購入単価c)+(調達原価L)となる。例えば図10では商品の原価C2及びC3が相当する。図10では分かりやすいように、商品の販売個数S2が第2回目の入庫量(発注量H)と同じになり、商品の販売個数S3が第3回目の入庫量(発注量H)と同じになるようにしている。ここでは、説明を簡単にするため、購入原価と調達原価Lが入庫時に発生するコストとした場合を例示する。なお、調達原価Lの債務が発注時に発生する場合には、調達原価Lを発注時のコストとして「時間積分原価」を算出してもよい。
もし前月の第m回目(mは1〜nの整数)に入庫された商品の一部が前月中に販売され、残りが当月中に販売された場合は、第m回目に入庫した商品の原価Cm=(第m回目の入庫量(発注量H)のうち当月に販売された商品の個数)×(購入単価c)+(調達原価L)となる。例えば図10では商品の原価C1が相当する。図10では第1回目の入庫量(発注量H)のうち当月に販売された商品の個数がS1に相当する。
もし当月の第m回目(mは1〜nの整数)に入庫された商品の一部が当月中に販売されずに残った場合は、第m回目に入庫した商品の原価Cm=(第m回目の入庫量(発注量H)のうち当月に販売された商品の個数)×(購入単価c)+(調達原価L)となる。例えば図10では商品の原価C4が相当する。図10では第4回目の入庫量(発注量H)のうち当月に販売された商品の個数がS4に相当する。
以上を踏まえつつ、入庫から売上が計上される月末までの期間を滞留期間「t1〜tn」とする。具体的には滞留期間t1は第1回の入庫から月末までの期間、滞留期間t2は第2回の入庫から月末までの期間、滞留期間t3は第3回の入庫から月末までの期間、滞留期間t4は第4回の入庫から月末までの期間である。そうすると、当月分の月末(一時点)の原価S[円]は下記数式(4)で示される。これに対して、当月分の時間積分原価St[円・日]は下記数式(5)で示される。
原価S=C1+C2+…+Cn
・・・(4)
時間積分原価St=C1×t1+C2×t2+…+Cn×tn
・・・(5)
例えば図10では、2月分の「原価」は上記数式(4)にてn=4として算出され、2月分の「時間積分原価」は上記数式(5)にてn=4として算出される。
そうすると、当月分の売上高利益率B[%]は下記数式(6)で算出されるのに対して、当月分の時間積分原価利益率Bt[%/日]は下記数式(7)で算出される。下記数式(6)及び数式(7)の「利益」は売上高−原価Sである。
売上高利益率B=(利益/売上高)×100%
・・・(6)
時間積分原価利益率Bt=(利益/時間積分原価St)×100%
・・・(7)
上記数式(6)によれば「売上高利益率」は、図10に示すように売上が計上される月末(一時点)の売上高に対する利益に過ぎない。「売上高利益率」では商品の滞留期間(時間軸の長さ)までは考慮されないから、滞留期間の長さによっては「売上高利益率」の数値は変わらない。したがって、「売上高利益率」を評価指標としても、投入資源に対する利回りまでは評価できない。
他方、上記数式(7)によれば「時間積分原価利益率」は、図10に示すように滞留期間tまで考慮した投入資源そのものを表す「時間積分原価」に対する利益率であるから、投入資源に対する利回りまで評価可能である。具体的には「時間積分原価利益率」は滞留期間が長いほど減少するから、「時間積分原価利益率」が小さければ利回りが悪いことが分かる。他方、「時間積分原価利益率」は「商品の滞留期間」が短いほど増大するから、「時間積分原価利益率」が大きければ利回りが良いことが分かる。
第1実施形態では定量発注方式の在庫シミュレーションでは、特定パラメータ171である「発注量H」と「安全係数α」のパラメータ値の組合せ毎に「時間積分原価利益率」が算出される。図9によれば「時間積分原価利益率」の最大値は「5.22」であり、そのときのパラメータ値の組合せは、「発注量H」のパラメータ値「1200」、「安全係数α」のパラメータ「0.75」である。このパラメータ値の組合せによる在庫の推移の折れ線グラフと時間積分原価の棒グラフは図10に示すようになる。
「発注量H」のパラメータ値が「1200」なので、図10の在庫推移では「発注点K」を下回る毎に1200個の商品が発注される。定量発注方式においては「発注量H」のパラメータ値は一定になる。「安全係数α」のパラメータ値は「0.75」なので、これにより算出される「安全在庫A」を用いて上記数式(2)によって「発注点K」のパラメータ値が算出される。この「発注点K」のパラメータ値によって発注タイミングも最適化される。したがって、このような「時間積分原価利益率」を最大にする特定パラメータ171のパラメータ値の組合せを実際の在庫管理に用いることで、利回りを最大にする定量発注方式による在庫管理ができるようになる。
このような定量発注方式の在庫シミュレーションにおいて、もし仮に「売上高利益率」を評価指標にして、この「売上高利益率」が高くなるように特定パラメータ171のパラメータ値を選定したとしても、「時間積分原価利益率」まで高くなるとは限らない。むしろ「売上高利益率」が高くなるパラメータ値の方が「時間積分原価利益率」が小さくなり、「利回り」が悪くなってしまうケースが多発する。上述した通り「売上高利益率」では商品の滞留期間(時間軸の長さ)までは表せないからである。
そこで、定量発注方式の在庫シミュレーションにおいて「売上高利益率」を評価指標にした比較例について説明する。図11及び図12は「売上高利益率」を評価指標にした比較例を示す図である。上記図9及び図10では「時間積分原価利益率」を評価指標にして特定パラメータ171のパラメータ値を選定する場合を例示したが、図11及び図12では「売上高利益率」を評価指標にして特定パラメータ171のパラメータ値を選定する場合を例示する。
図11は、図9と同様に「発注量H」と「安全係数α」を特定パラメータ171としている。図6に示す数値範囲で特定パラメータ171のパラメータ値を変えてそのパラメータ値の組合せ毎に在庫シミュレーションを実行して「売上高利益率」を算出した結果である。
図9及び図11によれば、「発注量H」と「安全係数α」について同じパラメータ値の組合せでの「時間積分原価利益率」と「売上高利益率」を比較できる。例えば図11において「売上高利益率」の最大値は「44.82」であり、そのときのパラメータ値の組合せは「発注量H」が「1840」、「安全係数α」が「0.25」である。図9において同じパラメータ値の組合せ「発注量H」が「1840」、「安全係数α」が「0.25」の「時間積分原価利益率」は「4.78」であり、「時間積分原価利益率」の最大値「5.22」よりもかなり低いことが分かる。
このように、定量発注方式において「売上高利益率」が最大になるようにパラメータ値を選定したとしても、他のパラメータ値の組合せより「時間積分原価利益率」が低くなり、かえって「利回り」が悪くなってしまうことが分かる。
図12は、図11にて「売上高利益率」が最大となるパラメータ値の組合せを選定した場合の定量発注方式の在庫推移の具体例を示す図である。図12では図10と同様に、折れ線グラフは在庫の推移を示し、棒グラフは時間積分原価を示す。図12で用いられる文字の意味は図10と同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
先ず、「売上高利益率」が最大の場合(図12)を、「時間積分原価利益率」が最大の場合(図10)と比較する。すると、「売上高利益率」を最大にする場合(図12)の方が、「時間積分原価利益率」を最大にする場合(図10)よりも入庫回数が少なく、1回の入庫での入庫量も多いことが分かる。これによれば、1回の入庫量を多くすることで「売上高利益率」を高くできても、入庫の回数が少なければ売上が計上されるまでの時間が長くなる商品の数が増えるので、かえって「時間積分原価利益率」が低くなり「利回り」が悪くなってしまうことが分かる。
このことは、「売上高利益率」を最大にする図12の方が「時間積分原価利益率」を最大にする図10よりも「時間積分原価」を示す面積が大きくなっていることからも理解できる。上述したとおり「時間積分原価」は投入資源そのものを表すので、「時間積分原価」を示す面積が大きくなるほど、上記数式(7)の分母も大きくなり「時間積分原価利益率」は低くなる。すなわち「時間積分原価」を示す面積が大きくなるほど、投入資源に対する「利回り」も低下する。したがって、定量発注方式において「売上高利益率」を最大にする図12の方が図10よりも「時間積分原価」を示す面積が大きいので、投入資源に対する「利回り」が低いことが分かる。
以上によれば、定量発注方式において「時間積分原価利益率」を最大にするパラメータ値を選定した方が、「売上高利益率」を最大にするパラメータ値を選定するよりも、投入資源に対する「利回り」を最大にできることが分かる。また「売上高利益率」を評価指標としても、投入資源に対する「利回り」を大きくできるかどうかまでは分からないことも理解できる。
このように第1実施形態では、「時間積分原価利益率」を定量発注方式の特定パラメータ171のパラメータ値を選定するための評価指標とすることで、利回りの観点から特定パラメータ171のパラメータ値を選定できるようになる。具体的には定量発注方式で重要なパラメータである「発注量H」と「安全係数α」のパラメータ値の組合せを投入資源に対する利回りの観点から評価できるから、利回りを高める最適なパラメータ値の組合せを選定できる。取得部121で取得された数値範囲で評価指標が最大となるパラメータ値の組合せを選定することで、投入資源に対する利回りを最大にする定量発注方式の特定パラメータ171のパラメータ値の組合せを選定できる。しかも、そのパラメータ値に基づいて定量発注方式で重要なパラメータである「発注点K」のパラメータ値を算出できるので、算出された「発注点K」のパラメータ値を実際の在庫管理に用いることで、利回りを高める定量発注方式の在庫管理を行うことができる。
また、発注方式の多数のパラメータのうち特定パラメータ171のパラメータ値の組合せ毎に一つの評価指標を算出することで、投入資源に対する利回りの観点からパラメータ値の組合せ毎に評価できる。そのため、トレードオフが発生する可能性のあるパラメータ同士を特定パラメータ171としても、利回りを高めることができるパラメータ値の最適な組合せを選定できる。例えば定量発注方式における「発注量H」と「安全係数α」との間には、トレードオフが発生する場合がある。在庫量を抑えようと「発注量H」を減らせば、需要の変化に対応できずに販売機会の損失に繋がる可能性が高まる。逆に需要の変化に対応しやすいように「安全係数α」を大きくすれば在庫量が増えてしまう。したがって、どちらの観点からパラメータ値を評価しても最適なパラメータ値の組合せを選定するのは難しい。このようにトレードオフが発生する可能性のあるパラメータ同士を特定パラメータ171に含めても、時間積分原価利益率を共通の評価指標としてパラメータ値の組合せを選定することで、利回りを高める絶妙なパラメータ値の組合せを得ることができる。
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態について説明する。以下に例示する各形態において実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。第1実施形態では、「時間積分原価利益率」を定量発注方式の特定パラメータ171のパラメータ値を選定するための評価指標とする場合を例示した。第2実施形態では、「時間積分原価利益率」を定期発注方式の特定パラメータ171のパラメータ値を選定するための評価指標とする場合を例示する。なお、第2実施形態の在庫管理支援装置10の構成は、第1実施形態と同様のためその詳細な説明を省略する。
図13は、第2実施形態における定期発注方式の特定パラメータ171と算出パラメータ172の具体例であり、図4に対応する。図14は、第2実施形態における定期発注方式の特定パラメータ171の数値範囲の具体例であり、図6に対応する。なお、定期発注方式の固定パラメータ173の種類は図5と同様であるため、ここでは図示を省略する。
図13の特定パラメータ171は、定期発注方式の複数のパラメータのうち、評価指標によって選定される特定のパラメータである。図13では「発注間隔M」と「安全係数α」を特定パラメータ171とした場合を例示する。図13の特定パラメータ171は、「発注間隔M」と「安全係数α」に限られない。算出パラメータ172は、特定パラメータ171である「発注間隔M」と「安全係数α」からパラメータ値を算出できるパラメータである。図13では「発注量H」と「安全在庫A」を算出パラメータ172とした場合を例示する。定期発注方式での「安全在庫A」は、例えば「安全係数α」、「調達期間T」、「需要の標準偏差σ」によって下記数式(8)で算出される。下記数式(8)には「調達期間T」も含まれる点で、定量発注方式における「安全在庫A」の上記数式(1)とは異なる。
定期発注方式での「発注量H」は、「発注間隔M」毎に在庫量や需要量に応じて発注される商品の個数である。したがって、「発注量H」は定期発注方式の要になる重要なパラメータである。「発注量H」は、例えば「平均需要量D」、「発注間隔M」「調達期間T」、「安全在庫A」、「発注残」、「現在庫」によって下記数式(9)で算出される。「発注残」は、「発注量H」の算出時において発注してから未だ入庫されていない商品の個数である。「現在庫」は、「発注量H」の算出時における在庫量である。
H=D×(M+T)−「発注残」−「現在庫」+A
・・・(9)
なお、ここでは「発注量H」と「安全在庫A」を算出パラメータ172とした場合を例示したが、これらに限られず、特定パラメータ171に基づいて算出される様々なパラメータを算出パラメータ172としてもよい。例えば図示しない「平均在庫Z」を算出パラメータ172としてもよい。定期発注方式での「平均在庫Z」は、例えば特定パラメータ171として例示した「安全在庫A」と「発注間隔M」と「平均需要量D」によって下記数式(10)で算出できる。
Z=A+D×M/2
・・・(10)
図14の特定パラメータ171の数値範囲は、評価指標を算出する特定パラメータ171のパラメータ値の数値範囲である。図14には「発注間隔M」と「安全係数α」の数値範囲を例示する。取得部121は通信部11を介して端末装置20から特定パラメータ171の数値範囲を取得すると、パラメータ記憶部17に記憶する。例えば図14の数値範囲は、図6と同様に特定パラメータ171の種類、最小値、最大値、分割数により構成される。定期発注方式の在庫シミュレーションはこの数値範囲で実行され、特定パラメータ171のパラメータ値毎に評価指標が算出される。
図14によれば、特定パラメータ171の「発注間隔M」は最小値「10」、最大値「31」、分割数「21」である。分割数が「21」なので、「発注間隔M」は最小値「10」から最大値「31」まで「1」ずつ変化させる。「安全係数α」は最小値「0.00」、最大値「2.25」、分割数「9」である。分割数が「9」なので、「安全係数α」は最小値「0.00」から最大値「2.25」まで「0.25」ずつ変化させる。これら「発注間隔M」と「安全係数α」のパラメータ値の組合せ毎に評価指標が算出される。後述する図16は、図14の数値範囲で「発注間隔M」と「安全係数α」のパラメータ値を変え、そのパラメータ値の組合せ毎に評価指標を算出した結果の具体例である。
第2実施形態において在庫管理支援装置10が行う在庫管理支援処理について図8を参照しながら説明する。第2実施形態の在庫管理支援処理では、時間積分原価利益率を評価指標とする定期発注方式の在庫シミュレーションを実行する。具体的には図8のステップS110にて制御部12は、特定パラメータ171の数値範囲を取得する。具体的には取得部121は、特定パラメータ171とする「発注間隔M」と「安全係数α」の数値範囲を端末装置20から取得すると、パラメータ記憶部17に記憶する。
次にステップS120にて制御部12は、特定パラメータ171のパラメータ値毎に評価指標を算出する。具体的には演算部122は、取得部121にて取得された数値範囲で在庫シミュレーションを実行する。演算部122は、例えば図14の数値範囲で特定パラメータ171のパラメータ値を変えて在庫シミュレーションを実行する。これにより、例えば図3に示す第1実施形態と同様の商品需要データ161及び在庫管理データ162から特定パラメータ171のパラメータ値の組合せ毎に評価指標(時間積分原価利益率)が算出される。
演算部122は、在庫シミュレーションで算出した評価指標を特定パラメータ171に関連づけて評価指標記憶部18に記憶する。例えば後述する図16に示すように特定パラメータ171が「発注間隔M」と「安全係数α」の場合には、そのパラメータ値の組合せ毎に評価指標が算出され評価指標記憶部18に記憶される。例えば図16において「発注間隔M」のパラメータ値「11」と「安全係数α」のパラメータ値「0.25」との組合せでは、評価指標(時間積分原価利益率)は「3.28」である。
次にステップS130にて制御部12は、評価指標が最大となる特定パラメータ171のパラメータ値を選定する。具体的には選定部124は、評価指標記憶部18の評価指標の中から評価指標(時間積分原価利益率)が最大となるパラメータ値を検出する。選定部124は検出したパラメータ値を特定パラメータ171のパラメータ値として選定し、パラメータ記憶部17に記憶する。
図16によれば、この数値範囲での評価指標(時間積分原価利益率)の最大値は「3.28」であり、そのときのパラメータ値の組合せは「発注間隔M」が「11」、「安全係数α」が「0.25」である。したがって、これらのパラメータ値「11」、「0.25」が評価指標を最大にするパラメータ値の組合せとして選定され、図13のようにパラメータ記憶部17に記憶される。
次にステップS140にて制御部12は、特定パラメータ171のパラメータ値を端末装置20に表示させる。具体的には出力部126は、選定部124で選定された特定パラメータ171のパラメータ値の組合せを表示させる表示データを生成し出力する。表示データは、通信部11を介して端末装置20に送信される。端末装置20は、表示データに基づいて特定パラメータ171のパラメータ値などを表示部26に表示する。
例えば図15の表示画面SC2を表示する表示データが生成される。図15の表示画面SC2の表示欄などの構成は、図7とほぼ同様である。図15に示すように、表示データには、特定パラメータ171のパラメータ値を表示する表示データだけでなく、商品コードや発注方式などの基本情報、特定パラメータ171の数値範囲、利益率、発注量H、安全在庫Aなどの表示データや、在庫の推移などを図示する表示データが含まれていてもよい。
このような表示データによって例えば図15では、基本情報表示欄261の発注方式に定期発注方式が表示され、特定パラメータ表示欄262に「発注間隔M」と「安全係数α」の数値範囲と利回りを最大化するパラメータ値が表示され、算出パラメータ表示欄264には「発注量H」と「安全在庫A」のパラメータ値が表示される。在庫推移表示欄265には、特定パラメータ表示欄262に表示される特定パラメータ171で在庫シミュレーションを実行した際の在庫の推移を表示する折れ線グラフや当月の時間積分原価の棒グラフが表示される。
次に、第2実施形態の在庫シミュレーションについて図16及び図17を参照しながら説明する。ここでは、定期発注方式の特定パラメータ171のパラメータ値毎に「時間積分原価利益率」を評価指標として算出する場合を例示する。図16は、定期発注方式の在庫シミュレーションで評価指標として算出した時間積分原価利益率の具体例を示す図である。時間積分原価利益率や売上高利益率の算出方法は、第1実施形態と同様なので、その詳細な説明を省略する。
図16は、「発注間隔M」と「安全係数α」を特定パラメータ171としてそのパラメータ値の組合せ毎に「時間積分原価利益率」を算出した結果を示す。なお、図16の算出結果では「時間積分原価利益率」の最大値を含まない一部の列を省略している。図16の算出結果は、図9の場合と同様に端末装置20や在庫管理支援装置10に接続されるディスプレイなどに表示させるようにしてもよい。
図17は、図16において「時間積分原価利益率」を最大にするパラメータ値の組合せによる定期発注方式の在庫推移の具体例を示す図である。図17には、例えば2月分の前後の在庫推移を折れ線グラフで表し、その2月分の時間積分原価を棒グラフで表す。在庫推移の折れ線グラフは、縦軸が在庫量であり、横軸が時間である。時間積分原価の棒グラフは、縦軸が原価であり、横軸が時間である。図17は、月末締めの場合であり、売上が2月末に計上される場合を例示している。
図17には、2月末に売上が計上される入庫毎の原価をC1〜C4で示す。C1〜C4は入庫時に債務が発生する場合の原価である。もし発注時に債務が発生する場合には発注毎の原価としてもよい。図17には、選定された特定パラメータ171のパラメータ値での「時間積分原価利益率」(最大値)を表示し、同じパラメータ値での「売上高利益率」も比較のために表示する。図17で用いられる文字のうち図10と同様の文字についてはその説明を省略する。図17に示す「M」は発注間隔である。Hn(H1〜H4)は、第n回目の発注量である。図17では、入庫量が発注量と同じ場合を例示する。
第2実施形態では定期発注方式の在庫シミュレーションでは、特定パラメータ171である「発注間隔M」と「安全係数α」のパラメータ値の組合せ毎に「時間積分原価利益率」が算出される。図16によれば「時間積分原価利益率」の最大値は「3.28」であり、そのときのパラメータ値の組合せは「発注間隔M」が「11」、「安全係数α」が「0.25」である。このパラメータ値の組合せによれば、在庫の推移の折れ線グラフと時間積分原価の棒グラフは図17に示すようになる。
「発注間隔M」のパラメータ値が「11」なので、図17の在庫推移では11日毎に発注が行われる。定期発注方式においては「発注間隔M」のパラメータ値は一定になる。「発注量」は発注毎に変わる。図17の入庫量は発注量と同じ場合を例示するので、例えば「H1」は第1回目に入庫する商品の発注量(入庫量)であり、「H2」は第2回目に入庫する商品の発注量(入庫量)であり、「H3」は第3回目に入庫する商品の発注量(入庫量)であり、「H4」は第4回目に入庫する商品の発注量(入庫量)である。「発注量」は、「発注間隔M」や「安全在庫A」などを用いて「平均需要量D」や「現在庫」などから上記数式(9)により算出される。したがって、これらの「時間積分原価利益率」を最大にするパラメータ値の組合せを実際の在庫管理に用いることで、利回りを最大にする定期発注方式による在庫管理ができるようになる。
第2実施形態による定期発注方式の在庫シミュレーションにおいても、「売上高利益率」が高くなるパラメータ値の方が「時間積分原価利益率」が小さくなり、「利回り」が悪くなってしまうケースが多発する。上述した通り「売上高利益率」では商品の滞留期間(時間軸の長さ)までは表せないからである。
そこで、定期発注方式の在庫シミュレーションにおいて「売上高利益率」を評価指標にした比較例について説明する。図18及び図19は「売上高利益率」を評価指標にした比較例を示す図である。上記図16及び図17では「時間積分原価利益率」を評価指標にして特定パラメータ171のパラメータ値を選定する場合を例示したが、図18及び図19では「売上高利益率」を評価指標にして特定パラメータ171のパラメータ値を選定する場合を例示する。
図18は、図16と同様に「発注間隔M」と「安全係数α」を特定パラメータ171としている。図14に示す数値範囲でパラメータ値を変えてそのパラメータ値の組合せ毎に在庫シミュレーションを実行して「売上高利益率」を算出した結果である。なお、図18の算出結果では「売上高利益率」の最大値を含まない一部の列を省略している。
図16及び図18によれば、「発注量H」と「安全係数α」について同じパラメータ値の組合せでの「時間積分原価利益率」と「売上高利益率」を比較できる。例えば図18において「売上高利益率」の最大値は「45.61」であり、そのときのパラメータ値の組合せは「発注間隔M」が「30」、「安全係数α」が「2.00」である。図16において同じパラメータ値の組合せ「発注間隔M」が「30」、「安全係数α」が「2.00」の「時間積分原価利益率」は「2.07」であり、「時間積分原価利益率」の最大値「3.28」よりもかなり低いことが分かる。
このように、定期発注方式においても「売上高利益率」が最大になるようにパラメータ値を選定したとしても、他のパラメータ値の組合せより「時間積分原価利益率」が低くなり、かえって「利回り」が悪くなってしまうことが分かる。
図19は、図18にて「売上高利益率」が最大となるパラメータ値の組合せを選定した場合の定期発注方式の在庫推移の具体例を示す図である。図19では図17と同様に、折れ線グラフは在庫の推移を示し、棒グラフは時間積分原価を示す。図19で用いられる文字の意味は図17と同様であるので、ここでは説明を省略する。
先ず、「売上高利益率」が最大の場合(図19)を、「時間積分原価利益率」が最大の場合(図17)と比較する。すると、「売上高利益率」を最大にする場合(図19)の方が、「時間積分原価利益率」を最大にする場合(図17)よりも入庫回数が少なく、1回の入庫での入庫量も多いことが分かる。これによれば、1回の入庫量を多くすることで「売上高利益率」を高くできても、入庫の回数が少なければ売上が計上されるまでの時間が長くなる商品の数が増えるので、かえって「時間積分原価利益率」が低くなり「利回り」が悪くなってしまうことが分かる。
このことは、「売上高利益率」を最大にする図19の方が「時間積分原価利益率」を最大にする図17よりも「時間積分原価」を示す面積が大きくなっていることからも理解できる。上述したとおり「時間積分原価」は投入資源そのものを表すので、「時間積分原価」を示す面積が大きくなるほど、上記数式(7)の分母も大きくなり「時間積分原価利益率」は低くなる。すなわち「時間積分原価」を示す面積が大きくなるほど、投入資源に対する「利回り」も低下する。したがって、定期発注方式においても「売上高利益率」を最大にする図19の方が図17よりも「時間積分原価」を示す面積が大きいので、投入資源に対する「利回り」が低いことが分かる。
以上によれば、定期発注方式においても「時間積分原価利益率」を最大にするパラメータ値を選定した方が、「売上高利益率」を最大にするパラメータ値を選定するよりも、投入資源に対する「利回り」を最大にできることが分かる。また「売上高利益率」を評価指標としても、投入資源に対する「利回り」を大きくできるかどうかまでは分からないことも理解できる。
このように第2実施形態では、「時間積分原価利益率」を定期発注方式の特定パラメータ171のパラメータ値を選定するための評価指標とすることで、利回りの観点から特定パラメータ171のパラメータ値を選定できるようになる。具体的には定期発注方式で重要なパラメータである「発注間隔」と「安全係数」のパラメータ値の組合せを投入資源に対する利回りの観点から評価できるから、利回りを高める最適なパラメータ値の組合せを選定できる。取得部121で取得された数値範囲で評価指標が最大となるパラメータ値の組合せを選定することで、投入資源に対する利回りを最大にする定期発注方式の特定パラメータ171のパラメータ値の組合せを選定できる。しかも、そのパラメータ値に基づいて定期発注方式で重要なパラメータである「発注量」のパラメータ値を算出できるので、算出された「発注量」のパラメータ値を実際の在庫管理に用いることで、利回りを高める定期発注方式の在庫管理を行うことができる。
<変形例>
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、例えば以降に説明する各種の応用・変形が可能である。また、これらの変形の態様および上述した各実施形態は、任意に選択された一または複数を適宜組み合わせることも可能である。また当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
(1)上記第1実施形態及び第2実施形態では、取得部121で取得された数値範囲で実行した在庫シミュレーション(以下「第1シミュレーション」とも称する)で算出された評価指標を評価指標記憶部18に記憶する場合を例示したが、これに限られない。例えば取得部121で取得された数値範囲の分割数よりも多い分割数で実行した在庫シミュレーション(第2シミュレーション)で算出された評価指標を、さらに評価指標記憶部18に記憶する。
このような構成によれば、取得部121で取得された分割数よりも多い分割数で評価指数を算出するので、取得部121で取得された分割数で算出される評価指数よりもさらに細かいパラメータ値の評価指数も含めた状態で特定パラメータ171のパラメータ値を選定できる。したがって、特定パラメータ171のパラメータ値の選定精度を高めることができる。なお、分割数の異なる在庫シミュレーションを実行する際は、第1シミュレーションの後に第2シミュレーションを実行してもよく、第1シミュレーションと第2シミュレーションとを並行して実行してもよい。
(2)上記第1実施形態及び第2実施形態では、取得部121で取得された数値範囲で実行した在庫シミュレーション(第1シミュレーション)で算出された評価指標を評価指標記憶部18に記憶する場合を例示したが、これに限られない。例えば取得部121で取得された数値範囲とは異なる数値範囲で実行した在庫シミュレーション(第2シミュレーション)で算出された評価指標を評価指標記憶部18にさらに記憶するようにしてもよい。例えば取得部121で取得された数値範囲の最小値よりも低い数値範囲で評価指標を算出して評価指標記憶部18にさらに記憶してもよく、また取得部121で取得された数値範囲の最大値よりも高い数値範囲で評価指標を算出して評価指標記憶部18にさらに記憶してもよい。なお、数値範囲の異なる在庫シミュレーションを実行する際は、第1シミュレーションの後に第2シミュレーションを実行してもよく、第1シミュレーションと第2シミュレーションとを並行して実行してもよい。
このような構成によれば、取得部121で取得された数値範囲とは異なる数値範囲で評価指数を算出するので、取得部121で取得された数値範囲にはないパラメータ値の評価指数も含めた状態でパラメータ値を選定できる。したがって、パラメータ値の選定精度を高めることができる。取得部121で取得された数値範囲で評価指数を最大にするパラメータ値があっても、他の数値範囲にはもっと評価指数が大きくなるパラメータ値があるかもしれない。そのようなパラメータ値を発見することができる。
上記課題を解決するために、本発明の在庫管理支援装置は、商品需要データ及び在庫管理データを記憶するデータ記憶部と、商品の原価と商品に関する債務の発生から売上の計上までの期間との積に対する商品の利益の比率を評価指標として記憶する評価指標記憶部と、商品の発注方式のパラメータのパラメータ値を記憶するパラメータ記憶部と、パラメータ値の数値範囲を取得する取得部と、取得部で取得された数値範囲でパラメータ値を変えて商品需要データ及び在庫管理データから評価指標を算出するシミュレーションを実行することで、パラメータ値毎に算出された評価指標を評価指標記憶部に記憶する演算部と、評価指標記憶部から評価指標が最大となるパラメータ値を選定してパラメータ記憶部に記憶する選定部と、選定部で選定されたパラメータ値を表示させる表示データを出力する出力部と、を備える。