JP2021171788A - 抵抗溶接制御システム及び抵抗溶接制御方法 - Google Patents

抵抗溶接制御システム及び抵抗溶接制御方法 Download PDF

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Abstract

【課題】量産抵抗溶接工程でも被溶接部材内の溶接部の温度を推定可能として溶接品質を保証することが可能な抵抗溶接制御システム及び抵抗溶接制御方法を提供する。【解決手段】抵抗溶接工程の通電初期以降には電極12、14の変位が安定化する時期があり、その状態では、被溶接部材10内の溶接部は熱膨張や熱収縮がないか又は少ないと考えられることから、被溶接部材10内の溶接部の温度変化がないか又は小さい、すなわち通電による発生熱が熱伝導によって全て放熱されていると考えられ、その条件下では、上記被溶接部材10の物性値からなる被溶接部材10内の熱伝導モデルと被溶接部材10内の電流密度−電極間電圧モデルから、小さい演算回数で溶接部の温度を適正に求めることができる。【選択図】図2

Description

本発明は、抵抗溶接制御システム及び抵抗溶接制御方法、特に、対向する電極の少なくとも一方が他方に対して離接方向に駆動される抵抗溶接の制御システム及び抵抗溶接制御方法に関する。
抵抗溶接は、歪みの少なさ、外観の良好さ、溶接所要時間の短さといった利点を有し、自動車産業では、特に車体の製造に広く採用されている。こうした抵抗溶接では、被溶接部材同士の加圧力管理が重要である。周知のように、一般にスポット溶接とも呼ばれる抵抗溶接は、主として被溶接部材同士の接触抵抗によるジュール熱が被溶接部材自体を溶融することでなされるが、この接触抵抗は被溶接部材同士の加圧力によって変化する。また、被溶接部材が溶融した際、電極の加圧によって被溶接部材の接触部分を保持し、相接する金属分子の有効な結合を可能としなければならない。近年では、対向する電極(ガンとも呼ばれる)の少なくとも一方をモータで離接方向に駆動して被溶接部材を加圧することが主流となっており、例えば、モータのトルクを管理することで被溶接部材の加圧力を一定にするように制御(サーボ制御)している。
一方、抵抗溶接される被溶接部材の溶接部の品質を確保するには、その溶接部の温度を求めることが最も確実である。すなわち、溶接部の温度が被溶接部材の融点を超えていれば、その溶接部は確実に溶融・凝固して溶接強度が確保される。こうした溶接部の温度推定方法としては、例えば下記特許文献1に記載されるものがある。この温度推定方法は、溶接電流と電極間電圧を検出し、それらの検出値から熱伝導モデルに基づいて被溶接部材内の温度分布を算出すると共に、通電開始後の電極移動量を検出し、その電極移動量から把握される被溶接部材の平均温度に基づいて上記算出された被溶接部材内の温度分布を修正するものである。通電開始後の電極移動量は、例えば、上記サーボ制御されるモータの回転角度から得られる。この溶接部の温度推定方法では、例えば、通電開始時、すなわち溶接開始時の被溶接部材の温度を室温とし、これにより溶接開始時の被溶接部材の電気抵抗率を室温における電気抵抗率に設定し、この溶接開始時の電気抵抗率と電極間電圧及び溶接電流から通電径を求め、この通電径を用いて、その後の溶接部材内の温度分布を熱伝導モデルに基づいて時系列的に算出するとされている。
特開平4−178275号公報
しかしながら、上記特許文献1に記載される被溶接部材の温度推定方法は、溶接開始から被溶接部材内の温度分布を時系列的に算出し続けることを前提としているのに対し、通電初期には上記接触抵抗の変化に加え、急激な温度上昇に伴う物理現象の急激な変化もあり、これらを考慮して被溶接部材内の温度分布を時系列的に正確に算出するには緻密なデータの取得と膨大な演算回数を必要とする。また、溶接初期にはちり(スパッタ)が生じやすく、ちりが生じると、時系列的に温度分布を正確に算出し続けること自体が困難になってしまう。以上より、溶接開始から被溶接部材内の温度分布を時系列的に算出し続ける温度推定方法は、量産抵抗溶接工程では実質的に実現困難である。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、量産抵抗溶接工程でも被溶接部材内の溶接部の温度を推定可能として溶接品質を保証することが可能な抵抗溶接制御システム及び抵抗溶接制御方法を提供することにある。
上記目的を達成するための抵抗溶接制御システムは、
対向する電極の少なくとも一方が他方に対して離接方向に駆動され、前記電極によって被溶接部材を設定された加圧力で挟持しながら該電極間に通電して抵抗溶接を行う抵抗溶接制御システムにおいて、
前記通電中の前記電極の変位を検出する電極変位検出手段と、少なくとも前記電極間電圧、前記被溶接部材内の電流密度、及び該被溶接部材の物性値を前記被溶接部材内の溶接部の温度推定のために必要な温度推定情報として取得する温度推定情報取得手段と、前記電極変位検出手段で検出された電極の変位及び前記電極間電圧の少なくとも一方が安定化した状態で前記温度推定情報取得手段によって取得された温度推定情報及び前記電極の変位から前記被溶接部材における溶接部の温度を推定する温度推定手段と、を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、抵抗溶接工程の通電初期以降には電極の変位及び/又は電極間電圧が安定化する時期、すなわち電極の変位及び/又は電極間電圧が変化しないか又は殆ど変化しない時期があり、その時期では、被溶接部材内の溶接部は熱膨張や熱収縮がないか又は少ない状態、すなわち被溶接部材内の溶接部の温度変化がないか又は小さい状態であり、通電による発生熱が熱伝導によって全て放熱されている状態であると考えられる。したがって、上記電極変位及び/又は電極間電圧が安定化している条件下では、例えば、被溶接部材の物性値からなる被溶接部材内の熱伝導モデル及び被溶接部材内の電流密度−電極間電圧モデルから溶接部の温度を求める場合に、上記熱伝導モデルにおける温度変化の要素が0か又は小さいことから、比較的小さい演算回数で溶接部の温度を適正に求めることが可能となる。また、上記通電初期以降で電極の変位及び/又は電極間電圧が安定化している状態では、接触抵抗の初期変化や急激な物理現象の変化が完了していることから、上記温度推定情報を緻密に取得する必要もなく、またちりも発生しにくい状態であることから、例えば、一時点における上記温度推定情報で被溶接部材内の溶接部の温度を推定することができる。以上より、本発明の抵抗溶接制御システムは、量産抵抗溶接工程でも被溶接部材内の溶接部の温度を小さな演算回数で正確に推定することができることから、この推定温度を用いて溶接品質を保証することが可能となる。
また、本発明の他の構成は、前記温度推定手段で推定された被溶接部材における溶接部の温度から該溶接部の状態を判定する溶接部状態判定手段を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、上記温度推定手段によって被溶接部材内の溶接部の温度を正確に推定することができることから、この溶接部の推定温度が被溶接部材の融点を超えていれば、溶接部の溶接強度が確保され、これにより溶接品質を保証することができる。
本発明の更なる構成は、前記温度推定手段は、前記電極の変位及び前記電極間電圧の少なくとも一方が安定化した状態で前記被溶接部材における溶接部の発生熱が熱伝導によって全て放熱される条件に基づいて該溶接部の温度を推定するように設定されてなることを特徴とする。
この構成によれば、通電中の溶接部の発生熱が熱伝導によって全て放熱される条件下では、溶接部における温度変化がないことを意味するから、例えば、上記被溶接部材の物性値からなる被溶接部材内の熱伝導モデルの温度変化の項が0であるか又は小さいものであるとすることができ、これにより溶接部の温度算出に必要な演算回数を低減することができ、もって溶接部の推定温度を正確なものとすることができる。
また、本発明の抵抗溶接制御方法は、
対向する電極の少なくとも一方が他方に対して離接方向に駆動され、前記電極によって被溶接部材を設定された加圧力で挟持しながら該電極間に通電して抵抗溶接を行う抵抗溶接制御方法において、
前記通電中の前記電極の変位を検出する電極変位検出ステップと、少なくとも前記電極間電圧、前記被溶接部材内の電流密度、及び該被溶接部材の物性値を前記被溶接部材内の溶接部の温度推定のために必要な温度推定情報として取得する温度推定情報取得ステップと、前記電極変位検出ステップで検出された電極の変位及び前記電極間電圧の少なくとも一方が安定化した状態で前記温度推定情報取得ステップによって取得された温度推定情報及び前記電極の変位から前記被溶接部材における溶接部の温度を推定する温度推定ステップと、を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、抵抗溶接工程の通電初期以降には電極の変位及び/又は電極間電圧が安定化する時期、すなわち電極の変位及び/又は電極間電圧が変化しないか又は殆ど変化しない時期があり、その時期では、被溶接部材内の溶接部は熱膨張や熱収縮がないか又は少ない状態、すなわち被溶接部材内の溶接部の温度変化がないか又は小さい状態であり、通電による発生熱が熱伝導によって全て放熱されている状態であると考えられる。したがって、上記電極変位及び/又は電極間電圧が安定化している条件下では、例えば、被溶接部材の物性値からなる被溶接部材内の熱伝導モデル及び被溶接部材内の電流密度−電極間電圧モデルから溶接部の温度を求める場合に、上記熱伝導モデルにおける温度変化の要素が0か又は小さいことから、比較的小さい演算回数で溶接部の温度を適正に求めることが可能となる。また、上記通電初期以降で電極の変位が安定化している状態では、接触抵抗の初期変化や急激な物理現象の変化が完了していることから、上記温度推定情報を緻密に取得する必要もなく、またちりも発生しにくい状態であることから、例えば、一時点における上記温度推定情報で被溶接部材内の溶接部の温度を推定することができる。以上より、本発明の抵抗溶接制御システムは、量産抵抗溶接工程でも被溶接部材内の溶接部の温度を小さな演算回数で正確に推定することができることから、この推定温度を用いて溶接品質を保証することが可能となる。
以上説明したように、本発明によれば、量産抵抗溶接工程でも被溶接部材内の溶接部の温度を小さな演算回数で正確に推定することができることから、この推定温度を用いて溶接部の溶接品質を保証することができる。そして、量産抵抗溶接工程における全ての溶接部の全数検査を実現することが可能となる。
本発明の抵抗溶接制御システム及び抵抗溶接制御方法が適用された抵抗溶接装置の一実施の形態の概略構成図である。 図1のコントローラで実行される演算処理のフローチャートである。 被溶接部材内の溶接部の説明図である。 鋼における温度依存物性値の説明図である。 図1のコントローラで読込まれる各測定値の説明図である。 電極間電圧モデル及び熱伝導モデルの説明図である。
以下に、本発明の抵抗溶接制御システム及び抵抗溶接制御方法の一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、この実施の形態の抵抗溶接装置の概略構成図である。この実施の形態の抵抗溶接装置では、例えば2枚の板状被溶接部材10を図の上下方向から電極(ガン)12、14で押圧挟持し、その状態で電極12、14間に電流を通電する。押圧挟持される被溶接部材10には、両者の接触部において接触抵抗が存在し、電極12、14間の通電によって接触抵抗部位にジュール熱が生じ、このジュール熱によって被溶接部材10自体が溶融・凝固して溶接が行われる。この溶融・凝固部分は、一般にナゲットと呼ばれている。なお、この実施の形態の抵抗溶接装置に用いられる被溶接部材10の枚数は2枚に限定されるものではないし、被溶接部材10も板材に限定されるものではない。また、被溶接部材10の材質は、同種であっても、異種であってもよい。
この実施の形態では、図1において上下に対向する2つの電極12、14のうち、図示下側の電極を固定側電極12とし、この固定側電極12に対し、図示上側の電極を離接方向に可動する可動側電極14とした。この可動側電極14は、モータ16によって固定側電極12に対して離接方向に駆動される。これら固定側電極12及び可動側電極14は、電極12、14間に挟持される被溶接部材10に対して電流を通電するだけでなく、前述のように、それら被溶接部材10を予め設定された加圧力で加圧する機能を併せ持つ。この電極12、14による被溶接部材10の加圧力は、一般的に、通電溶接中、一定に維持される。この実施の形態では、可動側電極14を駆動するモータ16のトルクを一定にすることで、被溶接部材10への加圧力が一定になるようにモータ16の駆動力制御を行う、いわゆるサーボ制御が行われる。
この電極12、14間の通電中、後述するような被溶接部材10の熱膨張・熱収縮に伴って、可動側電極14は固定側電極12から離れたり近づいたりして変位する。これは、被溶接部材10への加圧力が一定になるようにモータ16を定トルク制御しているために生じるものである。この実施の形態では、対向する電極12、14間の距離(実際には電極変位)を用いて被溶接部材10の溶接部(継手ともいう)の温度を推定するが、固定側電極12の位置は変わらないので可動側電極14の位置が分かれば、電極12、14間の距離が分かる。この可動側電極14の位置は、モータ16のロータ磁極位置を検出するための既設のエンコーダ(回転位置センサ)18を介してモータ16の回転位置を検出することで検出することができる。また、周知のように、対向する電極の双方を可動とし、両者の位置をそれぞれモータで駆動制御する抵抗溶接装置もある。そうした場合には、対向する電極間の通電中の距離を、例えばそれぞれのエンコーダ18の検出値の差分から求めればよい。
上記モータ16の駆動力制御や電極12、14間の溶接電流通電制御などは、コントローラ20によって行われる。このコントローラ20は、コンピュータシステムを備えて構成され、高度な演算処理能力を有する。このコントローラ20に搭載されるコンピュータシステムは、既存のコンピュータシステムと同様に、高い演算処理能力を有する演算処理装置に加えて、プログラムやデータを記憶する記憶装置、情報やデータなどを入出力するための入出力装置などを備えて構成される。例えば、上記エンコーダ18の検出信号はコントローラ20に読込まれ、このエンコーダ18の検出信号と合わせてモータ16への駆動電流をフィードバック制御する。なお、このコントローラ20には、図示しない種々のセンサから、上記電極12、14間の電圧(以下、電極間電圧)や電流値も読込まれる。また、抵抗溶接のみを司る抵抗溶接制御装置に個別のコンピュータシステムを加えて、後述する演算処理を実行するためのコントローラ20とすることも可能である。
図2は、第1の実施の形態として上記コントローラ20で実行される抵抗溶接制御システム及び制御方法のための演算処理のフローチャートである。この演算処理は、個別の上位演算処理によって実行される1つの溶接部位における抵抗溶接(図ではスポット溶接)工程の開始でスタートし、以降、終了まで継続して処理される。この演算処理は、上記被溶接部材10内の溶接部の温度を推定して、その溶接部の品質(溶接品質)を判定するものであり、電極12、14間の通電制御そのもの及びモータ16の駆動力制御は個別の演算処理によって実行される。この演算処理では、まずステップS1で、上記可動側電極14の電極位置、電極間電圧、通電電流などの測定値を温度推定情報として読込む。
次にステップS2に移行して、電極変位(図では電極ストローク)が安定化したか否かを判定し、電極変位が安定化した場合にはステップS3に移行し、そうでない場合には上記ステップS1に移行する。具体的には、例えば、上記エンコーダ18の検出信号から可動側電極14の位置(すなわち電極間距離)を読込み、その可動側電極位置(電極間距離)の前回値からの変化量を可動側電極変位(電極変位)として算出して求める。すなわち、電極変位は、電極12、14の離接方向への変位(移動量)である。この電極変位の安定化は、例えば、算出された電極変位が予め設定された規定時間、予め設定された規定範囲内に収まっていた場合に、電極変位が安定化したものと判定する。また、電極変位の規定範囲とは、予め設定された精度範囲内で、後述する溶接部の最高温度を求めることが可能な範囲とする。また、電極変位の安定化は、予め設定された傾きの範囲内で電極変位が変化している場合を含む。
上記ステップS3では、後段に詳述する手法に従って、被溶接部材内の溶接部の中心温度(最高温度)を設定する。
次にステップS4に移行して、後段に詳述する手法に従って、被溶接部材内の溶接部における熱伝導計算を行う。
次にステップS5に移行して、後段に詳述する手法に従って、被溶接部材内の溶接部の温度分布を作成する。
次にステップS6に移行して、後段に詳述する手法に従って、被溶接部材内の溶接部で生じる電位差を算出する。
次にステップS7に移行して、上記ステップS6で算出された電位差の算出値と測定値、すなわち上記検出された電極間電圧の差分値が許容範囲内であるか否かを判定し、電位差の算出値と測定値が許容範囲内である場合にはステップS8に移行し、そうでない場合には上記ステップS3に移行する。
上記ステップS8では、溶接部の品質判定を行ってから処理を終了する。具体的には、上記ステップS3で設定された溶接部の中心温度又はステップS5で作成された溶接部の温度分布が被溶接部材の融点を超えていれば溶接強度が確保され、溶接品質が保証されたものと判定する。
この演算処理によれば、電極間通電制御が開始された後、電極変位が安定化した状態で溶接部の最高温度が設定され、この最高温度に基づいた溶接部の温度分布から溶接部で生じる電位差を求め、この電位差が測定された電極間電圧の許容範囲にあるときに、設定された溶接部の最高温度及び温度分布に基づいて溶接品質の判定が行われる。一方、算出された溶接部の電位差が測定された電極間電圧の許容範囲にない場合には、溶接部の最高温度が再設定され、この再設定された最高温度に基づいた溶接部の温度分布から溶接部の電位差が再度求められる。すなわち、この演算処理では、設定された溶接部の最高温度に応じて溶接部で生じるべき電位差を求め、この電位差が電極間電圧の測定値の許容範囲に入るまで、溶接部の最高温度設定(及び溶接部の温度分布算出)を繰り返す。
次に、上記演算処理の原理について説明する。図3は、抵抗溶接における被溶接部材内の溶接部の説明のための断面図である。なお、図中の斜線で囲まれた領域は、この実施の形態で上記電位差や熱の移動を考察する領域であり、この領域が不明瞭になるのを回避するために、図中のハッチングを省略している。同図では、例えば、電極12、14で押圧挟持されている2枚の被溶接部材10内の長円の部分が上記ナゲットNであり(実際のナゲットは、必ずしもこうした形状ではない)、上記溶接部の主要部である。しかし、周知のように、このナゲットNの周りには、一般にコロナボンドと呼ばれる、固相溶接されたリング状の部分があり、さらにその外側には熱影響部も存在する。ここでは、上記ナゲットNを主要部として、電極12、14間で通電電流が主に流れる部分を溶接部として考える。この溶接部のうち、上記ナゲットNの中心部では、通電電流解析の結果、例えば可動側電極14から固定側電極12に向かう電流はほぼ直線状である。また、このナゲットNの中心部を通る比較的小さい断面積の領域(斜線が囲まれた部分)では、温度解析の結果、図の横方向への熱の移動が殆どない。そこで、この電流がほぼ直線状に流れ且つ熱の横移動が殆どない領域について考察する。
なお、以後の説明では、被溶接部材10の物性値を取り扱う。特に、この実施の形態で取り扱う物性値には、被溶接部材10の温度に依存するものも多い。図4は、鋼の温度依存性の物性値、具体的には電気抵抗率ρ、熱伝導率λ、比熱C、密度ψと温度の相関の一例を示す。これらの温度依存性物性値は、上記コントローラ20の記憶装置内に予め記憶されている。ちなみに、密度の量記号は、一般にρであるが、電気抵抗率ρと差別化するために、ここではψを用いている。
次に、上記熱の横移動が殆どなく且つ通電電流がほぼ直線状な領域の電位差について考察する。この領域における電位差Vは、この領域の長さ(距離)をL、被溶接部材10の電気抵抗率を温度Tの関数ρ(T)として、下記1式で表れる。なお、式中の電流密度jは、測定された通電電流を、例えば上記特許文献1にも記載される通電径で除した値となる。
Figure 2021171788
この領域を、例えば図5のような円柱体で表すと、領域の両端部間の距離(長さ)Lは、電極12、14間の距離、すなわち膨張状態にある2枚の被溶接部材10の総厚さとなる。この距離Lを微小長さdxの微小区間に区分し、各微小区間の電気抵抗率を長さ方向の位置(変位)xの関数ρ(x)と表せば、それぞれの微小区間の電位差を距離Lで積分した値が上記領域の両端部間の電位差Vとして下記2式で表れる。
Figure 2021171788
次に、上記熱の横移動が殆どなく且つ通電電流がほぼ直線状な領域の熱伝導について考察する。この領域の長さを二分した半分の領域(以下、半分領域)について考えると、2つに区分された領域の区分位置は、上記溶接部の中心部、すなわちナゲットNの中心部であり、このナゲットNの中心部から上下の何れかの電極に向かう半分領域では、そのナゲットNの中心部が最も高温であり、上記領域では前述のように横方向への熱の移動が殆どないので、ナゲットNの中心部から何れかの電極に向かう方向にのみ熱が移動すると考えてよい。すなわち、この半分領域では、熱の移動方向が一次元であり、このように熱が一次元に移動する場合の熱伝導方程式は、被溶接部材の密度をψ、比熱をC、温度をT、熱伝導率をλ、時間をt、変位(位置)をxとして下記3式で表れる。なお、式中のwは、単位体積発熱量を表す。
Figure 2021171788
この半分領域の断面積をS、長さ(距離)をL(=L/2)とし、上記3式の両辺にS・Lを乗ずると、半分領域全体の発熱量WはW=S・L・wであることから、上記3式は下記4式に変換される。
Figure 2021171788
上記4式の左辺は、単位時間当たりの温度変化を表す項であり、断面積がS、長さがLの上記半分領域で温度変化に費やされる熱(エネルギー)が単位時間当たりどの程度かを示す。また、4式の右辺第1項は、x方向(長さ方向)への熱伝導を表す項であり、断面積がS、長さがLの上記半分領域を通過する熱(エネルギー)が単位時間当たりどの程度かを示す。また、4式の右辺第2項は、外力を表す項であり、断面積がS、長さがLの上記半分領域で単位時間当たりどの程度の熱(エネルギー:ジュール熱)が発生するかを示す。
図6は、通電開始後の電極間電圧、電極変位、電流の経時変化を示しており、同図に示すナゲット径は、実際に抵抗溶接を行った被溶接部材を切断して得たナゲットNの直径(平均直径)を示している。前述のように、通電開始直後の通電初期には、電極間電圧の急激な変化やナゲット径の急激な増大に伴う接触抵抗の変化に加え、急激な温度上昇に伴う物理現象の急激な変化がある。また、通電初期には、ちり(スパッタ)も発生しやすい。しかし、この通電初期以降には、電極変位が安定し、安定化する時期がある。この電極変位の安定化状態では、電極間電圧も安定し、ナゲット径の増大も緩やかになる。この電極変位の安定化状態では、被溶接部材10内の溶接部に、熱膨張や熱収縮が生じていないか、又は少ししか生じていないと考えられる。被溶接部材10内の溶接部に熱膨張や熱収縮が生じていないか又は少ししか生じていないということは、上記熱の横移動が殆どない領域では、例えば、その領域を図3の上下方向に細かく区分した微小区間を考えたとき、それぞれの微小区間で温度変化がないか又は小さいことを意味する。そこで、この実施の形態では、電極変位の安定化状態の上記4式の左辺を0と考える。
4式の左辺を0として、更に4式を分析する。まず、外力に相当するジュール熱Wは、断面積がS、長さがLの上記半分の領域で、電流密度jを用いて下記5式で表れる。
Figure 2021171788
上記半分領域として、例えば、図5の円柱状領域の長さを二分した半分領域を考え、その半分領域を左方から右方に熱が移動しているものとして、その半分領域の入側の熱量Qと出側の熱量Qを以下のように表す。なお、式中のλは、半分領域のすぐ左方領域の熱伝導率、式中のλは、半分領域のすぐ右方領域の熱伝導率を示す。
Figure 2021171788
この半分領域では、横方向(図5の上下方向)への熱の移動(入出)はないので、Q+W=Qが成立する。夫々を代入して下記6式を得る。
Figure 2021171788
移行して、6式の両辺をS・Lで除して下記7式を得る。
Figure 2021171788
この半分の領域を、前述と同様に、微小区間の連続と考えるために、長さ(距離)Lを限りなく小さくする(L→0)と、領域内の熱伝導率がλであることから下記8式が得られる。
Figure 2021171788
上記2式と同様に、電気抵抗率ρ、熱伝導率λ、温度Tを夫々位置(変位)xの関数ρ(x)、λ(x)、T(x)として下記9式を得る。
Figure 2021171788
上記2式と9式の連立方程式を考えたとき、電位差(=電極間電圧)V、電流密度j、長さ(距離)Lは測定値である。また、電気抵抗率ρ(x)、熱伝導率λ(x)は、位置(変位)xにおける温度T(x)が分かれば定まる材料物性値であり、これらの温度依存物性値は記憶装置から取得可能である。したがって、式中の未知数は温度T(x)と位置(変位)xとなる。0≦x≦Lの範囲で、上記2式及び9式を満足する温度関数T(x)は1つしか存在しない。これを解析的に解くか、又は、温度依存パラメータを近似関数で定義するなどにより温度関数T(x)を求める。
以下は、温度関数T(x)の求め方の一例である。例えば、まず上記半分領域を前述と同様に微小距離dxの微小区間に区分する(但し、区分数を限定する)。上記半分領域は、ナゲットNの中心部から何れかの電極12、14に向けて熱が移動するだけの領域であるから、例えばナゲットNの中心部の温度、すなわち最高温度を適宜に設定することで、その中心部における温度依存性電気抵抗率ρが決まる。このナゲット中心部の微小区間は最高温度であり、前述のように、発生したジュール熱は全て電極側の隣接微小区間に放熱される。このナゲット中心部の微小区間で発生するジュール熱は、上記5式の距離Lを微小区間の微小距離dxとして得られる。例えば、ナゲット中心部の微小区間で発生するジュール熱をQとしたとき、その電極側の隣接微小区間における温度勾配∂T/∂xは下記10式で求まる。
Figure 2021171788
ナゲット中心部の微小区間における温度勾配∂T/∂xは0であるから、ナゲット中心部の微小区間とその電極側の隣接微小区間の温度変化の傾きは、ルンゲ・クッタ法(2次)に従って、2つの微小区間の温度勾配の平均値から求まる。したがって、ナゲット中心部の電極側の隣接微小区分の温度は、求めた温度変化の傾き(負値)に微小区分間の距離(=微小距離dx)を乗じた値とナゲット中心部の微小区分の温度(=最高温度)の加算値から求まる。同様に、ナゲット中心部の電極側の隣接微小区分に放熱された熱も全てその隣接微小区分に放熱されることから、二つの微小区分間の温度勾配∂T/∂xが得られ、既にナゲット中心部の電極側の隣接微小区分の温度も得られているので、電極までの微小区分の温度が次々と得られ、結果として全ての微小区間の温度、すなわち溶接部の温度分布が得られる(以上が、図2のステップS4)。
このように半分領域の各微小区間の温度が求められると、記憶装置から各微小区間における温度依存性電気抵抗率ρが得られるので、上記2式で考察した各微小区間の電位差が得られ、その積分値(加算値)からなる総電位差が上記半分領域、すなわち電極間距離の半分の距離で生じる電位差となる。したがって、この半分領域の電位差の2倍値が図3の斜線で囲まれた全領域の電位差(以下、全領域電位差)となり、その全領域電位差が上記電極間電圧とほぼ等しければ、設定したナゲット中心部の最高温度や各微小区間の温度分布は適正である。
しかし、上記全領域電位差が電極間電圧と乖離していた場合には、ナゲット中心部の最高温度も各微小区間の温度(=溶接部の温度分布)も適正でない。そこで、前述と同様に、前提条件となるナゲット中心部の最高温度を変更して再設定し(図2のステップS3)、再度各微小区間の温度を求めて溶接部の温度分布を求め(図2のステップS5)、各微小区間の電位差の積分値(加算値)の2倍値から全領域電位差を求め(図2のステップS6)、その全領域電位差と電極間電圧の比較を行う(図2のステップS7)。但し、一般に、電極間電圧が大きければ、ナゲット中心部の最高温度も各微小区間の温度分布も大きくなるので、この関係に基づいてナゲット中心部の最高温度を設定すれば、比較的小さい演算回数で溶接部の適正な温度分布を得ることができる。
したがって、上記図2の演算処理によれば、比較的小さい演算回数で被溶接部材内の溶接部の温度、より具体的にはナゲットNの中心部の最高温度や溶接部内の温度分布を適正に求めることができるので、この溶接部の温度を用いて、溶接部の溶接強度、すなわち溶接品質を判定することができる。そして、演算回数が小さい、すなわち演算負荷が小さいことから、全ての抵抗溶接部の全数検査が可能となる。
このように、この実施の形態の抵抗溶接制御システム及び抵抗溶接制御方法では、抵抗溶接工程の通電初期以降には電極12、14の変位が安定化する時期があり、その時期では、被溶接部材10内の溶接部は熱膨張や熱収縮がないか又は少ない状態、すなわち被溶接部材10内の溶接部の温度変化がないか又は小さい状態であり、通電による発生熱が熱伝導によって全て放熱されている状態であると考えられる。そして、電極変位の安定化条件下では、上記被溶接部材10の物性値からなる被溶接部材10内の熱伝導モデル及び被溶接部材10内の電流密度−電極間電圧モデルから溶接部の温度を求める場合に、熱伝導モデルの温度変化の要素が0か又は小さいことから、比較的小さい演算回数で溶接部の温度を適正に求めることが可能となる。また、上記通電初期以降で電極の変位が安定化している状態では、接触抵抗の初期変化や急激な物理現象の変化が完了していることから、電極間電圧や電流密度、被溶接部材の物性値といった温度推定情報を緻密に取得する必要もなく、またちりも発生しにくい状態であることから、一時点における上記温度推定情報で被溶接部材10内の溶接部の温度を推定することができる。したがって、この実施の形態の抵抗溶接制御システムは、量産抵抗溶接工程でも被溶接部材10内の溶接部の温度を小さな演算回数で正確に推定することができることから、この推定温度を用いて溶接品質を保証することが可能となる。
また、このように被溶接部材10内の溶接部の温度を正確に推定することができることから、この溶接部の推定温度が被溶接部材10の融点を超えていれば、溶接部の溶接強度が確保され、これにより溶接品質を保証することができる。
また、電極12、14の変位が安定化した状態で溶接部の発生熱が熱伝導によって全て放熱される条件下では、溶接部における温度変化がないことを意味するから、上記被溶接部材10の物性値からなる被溶接部材10内の熱伝導モデルの温度変化の項が0であるか又は小さいものであるとすることができ、これにより溶接部の温度算出に必要な演算回数を低減することができ、もって溶接部の推定温度を正確なものとすることができる。
以上、実施の形態に係る抵抗溶接制御システム及び抵抗溶接制御方法について説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、上記領域の熱伝導モデルにおいて上記温度変化の項が0であるとしたが、この温度変化の項を残したまま、解析的に溶接部の温度を推定することも可能である。
また、上記実施の形態では、電極変位を用いて安定化の判定を行ったが、この安定化の判定は、電極間電圧を用いて行うこともできる。すなわち、上記図2のステップS2は、電極変位及び電極間電圧の少なくとも一方が安定した場合と読み換えることができる。
また、この実施の形態における上記溶接部の温度推定手法は、溶接部の最高温度及び温度分布を求めるための手法の1つにすぎず、上記以外の算出法によって溶接部の温度を推定することも可能である。
10 被溶接部材
12 固定側電極(電極)
14 可動側電極(電極)
16 モータ
18 エンコーダ
20 コントローラ

Claims (5)

  1. 対向する電極の少なくとも一方が他方に対して離接方向に駆動され、前記電極によって被溶接部材を挟持しながら該電極間に通電する抵抗溶接制御システムにおいて、
    前記通電中の前記電極の変位を検出する電極変位検出手段と、
    少なくとも前記電極間電圧、前記被溶接部材内の電流密度、及び該被溶接部材の物性値を前記被溶接部材内の溶接部の温度推定のために必要な温度推定情報として取得する温度推定情報取得手段と、
    前記電極変位検出手段で検出された電極の変位及び前記電極間電圧の少なくとも一方が安定化した状態で前記温度推定情報取得手段によって取得された温度推定情報及び前記電極の変位から前記被溶接部材における溶接部の温度を推定する温度推定手段と、を備えたことを特徴とする抵抗溶接制御システム。
  2. 対向する電極の少なくとも一方が他方に対して離接方向に駆動され、前記電極によって被溶接部材を設定された加圧力で挟持しながら該電極間に通電して抵抗溶接を行う抵抗溶接制御システムにおいて、
    前記通電中の前記電極の変位を検出する電極変位検出手段と、
    少なくとも前記電極間電圧、前記被溶接部材内の電流密度、及び該被溶接部材の物性値を前記被溶接部材内の溶接部の温度推定のために必要な温度推定情報として取得する温度推定情報取得手段と、
    前記電極変位検出手段で検出された電極の変位及び前記電極間電圧の少なくとも一方が安定化した状態で前記温度推定情報取得手段によって取得された温度推定情報及び前記電極の変位から前記被溶接部材における溶接部の温度を推定する温度推定手段と、を備えたことを特徴とする抵抗溶接制御システム。
  3. 前記温度推定手段で推定された被溶接部材における溶接部の温度から該溶接部の状態を判定する溶接部状態判定手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の抵抗溶接制御システム。
  4. 前記温度推定手段は、前記電極の変位及び前記電極間電圧の少なくとも一方が安定化した状態で前記被溶接部材における溶接部の発生熱が熱伝導によって全て放熱される条件に基づいて該溶接部の温度を推定するように設定されてなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の抵抗溶接制御システム。
  5. 対向する電極の少なくとも一方が他方に対して離接方向に駆動され、前記電極によって被溶接部材を設定された加圧力で挟持しながら該電極間に通電して抵抗溶接を行う抵抗溶接制御方法において、
    前記通電中の前記電極の変位を検出する電極変位検出ステップと、
    少なくとも前記電極間電圧、前記被溶接部材内の電流密度、及び該被溶接部材の物性値を前記被溶接部材内の溶接部の温度推定のために必要な温度推定情報として取得する温度推定情報取得ステップと、
    前記電極変位検出ステップで検出された電極の変位及び前記電極間電圧の少なくとも一方が安定化した状態で前記温度推定情報取得ステップによって取得された温度推定情報及び前記電極の変位から前記被溶接部材における溶接部の温度を推定する温度推定ステップと、を備えたことを特徴とする抵抗溶接制御方法。
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