JP2021145637A - 微生物の増殖促進方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、微生物の制御として特に微生物の増殖に関し、培養前の培地に添加した成分の濃度を調節することなく簡易に微生物の増殖を促進する方法を提供することを目的とする。【解決手段】微生物を増殖させるときに、気体成分としてバニリン及び/又はヨノンを当該微生物に接触させる工程を実施する。また、微生物の増殖を促進するために、気体成分としてバニリン及び/又はヨノンを含むガスを提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、微生物の増殖を促進する方法に関する。より具体的には、本発明は、所定の期待成分を微生物により接触させることにより微生物の増殖を促進する方法に関する。
微生物、特に菌類(子嚢菌、担子菌、藻菌類など)は、タンパク質、有機酸、色素、抗生物質などの有用物質生産などで工業的に多く利用されている。また、菌類の一部は上記に加えて酒や醤油等の発酵食品の生産や食品としても利用されている。このような産業利用において微生物の制御は重要な課題であり、使用する微生物の遺伝的制御や微生物の培養環境の制御、あるいはその両方を組み合わせた方法をとることにより、目的に合った微生物の増殖や生産制御が行われている。
一般に行われている微生物の遺伝的制御には、遺伝子変異等による代謝改変、遺伝子改変、遺伝子の発現調節などの手法がある。また、微生物の制御における培養環境のファクターとしては、培地の成分、培地のpH、培養温度、浸透圧、酸素濃度、光量、湿度、圧力等の変化等が挙げられる。
微生物の制御には微生物の増殖促進と、逆に微生物の増殖抑制とがあるが、現状では微生物の増殖抑制を対象とすることが多く見られる。例えば、特許文献1では、所定の温度条件下で気体中にイオンを発生させ、当該イオンを含む気体を利用して微生物の増殖を防止する技術が開示されている。また、微生物の増殖とは別に、炭素源として一酸化炭素や二酸化炭素を利用して微生物の代謝産物の生成量を調整する方法も報告されている(特許文献2、3)。炭素源ではなく水素を利用して微生物の代謝産物を調整する方法も報告されている(特許文献4)。
特開平8−56630号公報 特表2011−500100号公報 特表2016−511009号公報 特表2016−528924号公報
上述した微生物制御における培養環境のうち培地の成分は拡散性があるものの、可逆的な調節が困難である。例えば微生物の増殖を誘導する物質を培地に加えた場合、添加した増殖誘導物質のみを物質生産が進行している状態で除去することは、技術的に困難であり多大なコストを要する。そこで本発明は、微生物の制御として特に微生物の増殖に関し、培養前の培地に添加した成分の濃度を調節することなく簡易に微生物の増殖を促進する方法を提供することを目的とする。
課題を解決しようとする手段
上記の課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した結果、制御物質を拡散して微生物に暴露する方法として、ガス化した制御物質の利用を着想した。気体による微生物の制御方法としては、酸素、二酸化炭素、及び窒素の3種類のガスの利用が主である。しかし、これらのガス利用の多くは、微生物の増殖というよりもむしろその増殖を阻害することが目的とされている。そのような例としては、二酸化炭素や窒素ガスによる好気性菌の増殖抑制である。ガスによる菌の増殖や生産促進に用いられている例として、嫌気性光合成細菌であるラン藻類の二酸化炭素ガスによる制御事例があるものの(特開2019−122387)、菌類をふくむ好気性菌には用いることができない。また、植物由来のエチレンセンサードメインの遺伝子を導入した菌をエチレンガスで制御する方法が報告されているが(特開2015−63522)、菌にはエチレンセンサー遺伝子がないため当該遺伝子の対象菌への導入が必要となる。
本発明者らはさらに検討を進め、通常の培養温度で気体になる化合物の利用を着想した。そして、そのような揮発性化合物の中でも特に植物由来の低分子化合物に着目し、その中から好気性菌を対象とした制御物質の探索を行った。微生物の制御方法として植物由来の低分子化合物やそれを含む精油の培地への添加は知られているが、それは微生物の増殖促進ではなく微生物の生育阻害を目的としている。また、特定の物質に関して、同一の培養条件下において菌の生育や増殖に対する培地添加と徐放の効果との相違を比較した事例もない。このような状況の中から、本発明者らは、バニリン又はヨノンを徐放性物質として利用することにより、効果的に微生物の増殖を促進できることを見出した。かかる知見に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。
本発明は、好ましくは以下に記載するような態様により行われるが、これに限定されるものではない。
[態様1]気体成分としてバニリン及び/又はヨノンを微生物に接触させる工程を含む、微生物の増殖促進方法。
[態様2]微生物が真菌である、態様1に記載の方法。
[態様3]真菌が糸状菌である、態様2に記載の方法。
[態様4]糸状菌がアスペルギルス属菌、ペニシリウム属菌、又はトリコデルマ属菌である、態様3に記載の方法。
[態様5]気体成分としてバニリン及び/又はヨノンを含有する、微生物の増殖促進用ガス。
本発明の方法を用いることによって、培養前の培地に添加した成分の濃度を調節することなく、簡易に微生物の増殖を促進することができる。本発明の方法において、微生物の増殖促進に寄与する制御物質は低沸点で揮発性が高く、通常の培養温度でガス(気体)となることから、必要に応じて微生物の培養環境中から除去することは容易である。また、本発明において使用される気体成分は、植物由来の低分子化合物であって食品添加物としても利用されるものであり、人体にとって安全であることは十分に考えられる。本発明の方法は、工業生産カビなどの真菌に利用することができ、発酵生産の制御などに工業的に活用することが可能である。
以下に、本発明について詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものである。
(1)微生物の増殖促進方法
本発明の一態様は、気体成分としてバニリン及び/又はヨノンを微生物に接触させる工程を含む、微生物の増殖促進方法である。
本発明では、バニリン及び/又はヨノンが気体成分として使用される。本明細書において気体成分とは、気体の状態である成分を意味する。本発明において気体成分は、微生物に接触する時点で気体の状態であればよい。そのため、本発明における気体成分は、使用前の状態は液体であっても固体であってもよく、これが気化して気体の状態になって微生物に接触すればよい。
バニリンは、バニロイド類に属する有機化合物の一つであり、下記の化学構造式にて表される。バニリンのIUPAC名は4−ヒドロキシ−3−メトキシベンズアルデヒド(4−Hydroxy−3−methoxybenzaldehyde)であり、バニリンのCAS登録番号は121−33−5である。
Figure 2021145637
本発明において用いられるバニリンの量は、対象とする微生物の種類などに応じて適宜設定することができる。バニリンの量は、気体中の成分含有量で表すことができる。特に限定されるわけではないが、バニリンの量は、例えば0.05μg/cm以上、好ましくは0.2μg/cm以上、より好ましくは0.5μg/cm以上、さらに好ましくは1.5μg/cm以上である。また、バニリンの量は、特に限定されないが、例えば1000μg/cm以下、好ましくは800μg/cm以下、より好ましくは600μg/cm以下、さらに好ましくは400μg/cm以下である。典型的に、バニリンの量は、例えば0.05〜1000μg/cm、好ましくは0.2〜800μg/cm、より好ましくは0.5〜600μg/cm、さらに好ましくは1.5〜400μg/cmであるが、特にこれらに限定されない。バニリンの量は、当業者に公知のガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)を利用して測定することができる。バニリンの量は気体中で時間経過とともに変動することから、本発明において上記のバニリンの量は、微生物に初めて接触した時点(すなわち、使用開始時)の量として特定される。
ヨノンは、別名でイオノンとも称され、テルペノイド化合物の一種である。ヨノンには、二重結合の位置が異なる3種類の異性体が存在しており、それぞれα−ヨノン、β−ヨノン、及びγ−ヨノンと称される。本発明では、特に限定されないが、これらのうちα−ヨノンが好適に用いられる。
α−ヨノン(α−イオノン)のIUPAC名は(E)−4−(2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−2−エニル)ブタ−3−エン−2−オンであり、α−ヨノンのCAS登録番号は127−41−3である。α−ヨノンには(R)−(+)体と(S)−(−)体とが存在しており、それぞれ下記の化学構造式にて表される(左:(R)−(+)体、右:(S)−(−)体)。本発明において用いられるα−ヨノンは、(R)−(+)体であっても(S)−(−)体であってもよく、或いはそれらの混合物であってもよい。
Figure 2021145637
本発明において用いられるヨノンの量は、対象とする微生物の種類などに応じて適宜設定することができる。ヨノンの量は、気体中の成分含有量で表すことができる。特に限定されるわけではないが、ヨノンの量は、例えば0.05μg/cm以上、好ましくは0.2μg/cm以上、より好ましくは1.0μg/cm以上、さらに好ましくは3.5μg/cm以上である。また、ヨノンの量は、特に限定されないが、例えば1000μg/cm以下、好ましくは800μg/cm以下、より好ましくは600μg/cm以下、さらに好ましくは400μg/cm以下である。典型的に、ヨノンの量は、例えば0.05〜1000μg/cm、好ましくは0.2〜800μg/cm、より好ましくは0.5〜600μg/cm、さらに好ましくは1.5〜400μg/cmであるが、特にこれらに限定されない。ヨノンの量は、当業者に公知のガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)を利用して測定することができる。ヨノンの量は気体中で時間経過とともに変動することから、本発明において上記のヨノンの量は、微生物に初めて接触した時点(すなわち、使用開始時)の量として特定される。
ヨノンのうち、α−ヨノン、β−ヨノン、及びγ−ヨノンのうち2種以上を使用する場合、上記のヨノンの量は、使用した各種ヨノンの合計量を意味する。また、α−ヨノンのうち(R)−(+)体と(S)−(−)体とを使用する場合、両者の合計量が上記のヨノンの量に相当する。
本発明において用いられるバニリン及びヨノンは、化学的に合成したものであってもよいし、或いは植物等の天然物からの抽出物であってもよい。バニリンは、バニラやチョウジなどの精油に多く含まれており、これらの植物から当業者に公知の方法を用いて抽出することができる。また、ヨノンは、バラやチャなどの精油に多く含まれており、これらの植物から当業者に公知の方法を用いて抽出することができる。バニリン及びヨノンは、当業者に公知の方法を用いて自ら精製したものを用いてもよいし、或いは市販品を用いてもよい。
バニリン及びヨノンの両方共を微生物に接触させる場合、バニリン及びヨノンの重量比(バニリン:ヨノン)は、特に限定されないが、例えば10:1〜1:10、5:1〜1:5、又は3:1〜1:3である。
本発明で対象とされる微生物は特に限定されないが、気体成分を接触させた状態で培養可能という点で、好気性の微生物であることが好ましい。本発明で対象とされる微生物としては、特に真菌が好ましい。真菌の中では、糸状菌、酵母、及びキノコのいずれであってもよいが、糸状菌であることが好ましい。糸状菌においては、例えば、子嚢菌、担子菌、不完全菌、及び藻菌類(接合菌、卵菌など)などが挙げられる。特に限定されないが、これらの糸状菌の中では子嚢菌、担子菌、及び卵菌を対象とすることが好ましく、特に子嚢菌が好ましい。
糸状菌としては、例えば、アスペルギルス属菌(Aspergillus oryzae、Aspergillus niger、Aspergillus bombycis、Aspergillus pseudotamariiなど)、ペニシリウム属菌(Penicillium ulaiense、P. italicumなど)、トリコデルマ属菌(Trichoderma virens、Trichoderma koningiopsis、Trichoderma deliquescens、Trichoderma harzianumなど)、ホモプシス属菌(Phomopsis sp.)、モニリニア属菌(Monilinia fructicolaなど)、アルテルナリア属菌(Alternaria solaniなど)、ビポラリス属菌(Bipolaris oryzaeなど)、ペスタロチオプシス属菌(Pestalotiopsis maculansなど)、コレトトリカム属菌(Colletotrichum coccodesなど)が挙げられる。特に限定されないが、これらの糸状菌の中ではアスペルギルス属菌、ペニシリウム属菌、及びトリコデルマ属菌を対象とすることが好ましい。
糸状菌のうち担子菌としては、例えば、プッチニア属菌(Puccinia reconditaなど)、ウスチラゴ属菌(Ustilago maydisなど)が挙げられる。
糸状菌のうち卵菌としては、例えば、フィトフトラ属菌(Phytophthora infestansなど)、ピシウム属菌(Pythium sp.)が挙げられる。
バニリン及びヨノンのそれぞれについて、これらを微生物に接触させるときの温度は、特に限定されないが、対象とする微生物の培養温度に設定することが好ましい。そのような温度としては、例えば10〜40℃、好ましくは15〜35℃、より好ましくは20〜30℃であるが、特にこれらに限定されない。バニリン及びヨノンのそれぞれを微生物に接触させる温度は、微生物の種類に応じて適宜設定することができる。
バニリン及びヨノンのそれぞれについて、これらを微生物に接触させる時間は、特に限定されないが、対象とする微生物の培養時間に設定することができる。あるいは、バニリン及びヨノンのそれぞれを微生物に接触させる時間は、対象微生物から代謝産物を採取する時間に設定してもよい。バニリン及びヨノンのそれぞれを微生物に接触させる時間としては、特に限定されないが、例えば、6時間以上、12時間以上、24時間以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、7日以上、10日以上、又は14日以上である。また、バニリン及びヨノンのそれぞれを微生物に接触させる時間としては、特に限定されないが、例えば、2ヶ月以下、1.5ヶ月以下、1ヶ月以下、25日以下、20日以下、又は15日以下である。典型的に、バニリン及びヨノンのそれぞれを微生物に接触させる時間は、例えば1〜14日、好ましくは1〜10日、より好ましくは1〜7日であるが、特にこれらに限定されない。
バニリン及びヨノンはいずれも、寒天培地などの固体上に存在している微生物に対して接触させてもよいし、あるいは、液体培地などの液体中に存在している微生物に対して接触させてもよい。微生物が固体上に存在している場合であれば、バニリン及びヨノンは気体成分として微生物に直接吹き付けることができる。あるいは、閉塞された空間の中で、バニリン及びヨノンのそれぞれを含む溶液を準備し、当該溶液からバニリン及びヨノンのそれぞれを気体成分として徐放させながら、微生物に接触させてもよい。微生物が液体中に存在している場合であれば、エアレーションなどの方法を用いて、バニリン及びヨノンのそれぞれを含む気体を微生物に接触させることができる。
バニリン及びヨノンのいずれにおいても、これらを微生物に接触させる際には、新たに気体成分としてバニリン及びヨノンを追加してもよい。気体成分としてのバニリン及びヨノンは揮散性があり、いずれも時間経過とともに気体中の量が変動し、多くの場合はその量が減少する。そのため、低減したバニリン及びヨノンの量を補足する観点で、新たに気体成分としてバニリン及びヨノンを追加することは好ましい態様の一つである。また、液体中に存在している微生物に対してエアレーションなどによりバニリン及びヨノンのそれぞれを接触させる場合にも、バニリン及びヨノンのそれぞれが含まれる気体は短時間で液体の外に放出されてしまうため、新たに気体成分としてバニリン及びヨノンを追加することは一つの態様として好ましい。
バニリン及びヨノンのいずれも、特に限定されるわけではないが、微生物の培養中に接触させることが好ましい。そうすることにより、効果的に微生物の増殖を促進することができる。微生物の培養開始と同時に接触を開始してもよいし、微生物を培養してからしばらくの時間(例えば、6時間、12時間、24時間、2日、又は3日など)が経過してから接触を開始してもよい。
バニリン及びヨノンはいずれも、微生物の培地中に事前に添加しておくよりも、微生物の培地とは別にして、外的に付与して接触させることが好ましい。微生物の培地とは別にすることによって、バニリン及びヨノンのそれぞれを微生物に接触させるタイミング、微生物との接触時間、および微生物に接触させる量などを調整することができる。
バニリン及びヨノンはいずれも、微生物に対して繰り返して接触させてもよい。すなわち、本発明の方法は、気体成分としてバニリン及び/又はヨノンを微生物に接触させる工程を繰り返して行うことができる。その繰り返す回数は、特に限定されないが、例えば、2回以上、3回以上、4回以上、又は5回以上とすることができる。バニリン及びヨノンのそれぞれを微生物に対して繰り返して接触させる態様としては、例えば、一定期間バニリン及びヨノンのそれぞれを微生物に接触させ、その接触をいったん停止し、所定の時間が経過した後で、再度バニリン及びヨノンのそれぞれを微生物に接触させることなどが挙げられる。液体中の微生物に対してエアレーションによりバニリン及びヨノンのそれぞれを接触させる場合であれば、一定期間エアレーションを行い、そのエアレーションをいったん停止し、所定の時間が経過した後で、再度エアレーションを行うことによって、接触処理を繰り返して行うことができる。
(2)微生物の増殖促進用気体ガス
本発明の一態様は、気体成分としてバニリン及び/又はヨノンを含有する、微生物の増殖促進用気体ガスである。本発明のガスは気体であることから、前記の微生物の増殖促進用ガスは、2種類以上の気体成分を含む場合には、微生物の増殖促進用気体組成物と称することができる。
本発明のガスに用いられるバニリン及びヨノンについては、上述した通りである。また、本発明のガスに含まれる気体成分としてのバニリン及びヨノンの量も、上記の方法において説明した量と同様である。バニリン及びヨノンの両方共が本発明のガスに含まれる場合、両者の重量比(バニリン:ヨノン)も上述した通りである。本発明のガスは上記の方法に利用することができ、本発明のガスに関連する技術的要素は、本発明の方法に関して上記に説明した通りであるか、それらから自明である。
本発明のガスは、バニリン及びヨノンのそれぞれを気体成分として適宜配合することにより製造することができる。バニリン及びヨノンのいずれも、気体成分として直接容器に投入して本発明のガスを製造してもよいし、あるいは、バニリン及びヨノンのそれぞれが含まれる溶液から気化した気体成分を回収して本発明のガスを製造してもよい。
本発明のガスは、酸素や二酸化炭素など、バニリン及びヨノン以外の気体成分が含まれていてもよい。また、バニリン及びヨノン以外の気体成分の量も、使用状況などに応じて適宜設定することができる。
本発明のガスが充填される容器は、特に限定されないが、気体の漏出が少ない点から密閉容器であることが好ましい。使用可能な容器としては、バニリン及びヨノンのそれぞれを気体成分として使用することから、スプレー容器やスプレーガン容器などが挙げられるが、特に限定されない。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を変更しない限り下記の実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾及び変更を加えることができ、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
以下に記す実験例において、バニリンは東京化成化学工業から、α−ヨノンは富士フィルム和光純薬から入手した。また、バニリンとα−ヨノンは、それぞれエタノールで所定濃度に溶解した溶解液として使用した。
[実験例1]
<真菌の生育に対するバニリンの培地添加又は徐放の効果の検証>
バニリンの培地添加の効果を検証するため、次の通り実験を行った。バニリン濃度が250μg/μL又は500μg/μLであるバニリン溶液10μLを添加した寒天培地(YG培地;yeast Extract(Difco)0.5%、sucrose(和光純薬)2%、バクトアガー(和光純薬)2%)を準備し、当該培地10mLをプラスチック製の滅菌ペトリ皿(6cm直径、1.5cm高)に注入した。当該培地を乾固させた後、予め培養しておいた各菌の胞子塊を培地表面の中央付近に置き、蓋をして25℃±1℃で培養した。
また、バニリンの徐放の効果を検証するため、次の通り実験を行った。バニリン溶液を添加しないこと以外は上記と同様にして、バニリンを含まない寒天培地をペトリ皿に作製し、予め培養しておいた各菌の胞子塊を培地表面の中央付近に置いた。そして、250μg/μL又は500μg/μLのバニリン10μLを浸み込ませたろ紙(1cm直径)を蓋(ペトリ皿の内部に向く面)に貼り付け、その蓋をペトリ皿にかぶせ、通気性を有するサージカルテープでペトリ皿と蓋とを固定したうえで、蓋側を下にして25℃±1℃で静置培養した。なお、蓋側を下にした理由は、ろ紙が培地上に落下するのを防ぐためである。
本実験の対照区では、バニリン溶液の代わりに同量(10μL)のエタノールを添加した寒天培地を使用し、バニリンを含浸するろ紙を蓋に張り付けずに培養を行った。培養開始後6日目に培地上の菌の生育帯の直径を計測し、対照区での菌の生育帯の直径を100としたときの相対値(%)を求めた。なお、成長が早いトリコデルマ属菌等の菌については、培養開始後6日目よりも早く生育帯がペトリ皿の端に達するものが見られたため、培養開始後3日目までに培地上の菌の生育帯の直径を計測した。対照区での菌の生育帯に対する相対値が100未満の場合は菌の増殖(生育)が阻害され、100を超える場合は菌の増殖(生育)が促進されると評価した。
結果を下表に示す。バニリンについて、培地添加により増殖阻害効果がみられ、徐放により増殖促進効果がみられた菌は、Puccinia recondita(担子菌)、Phytophthora infestans(卵菌)、Phomopsis sp.(子嚢菌)、Monilinia fructicola(子嚢菌)、Alternaria alternata(子嚢菌)、Alternaria solani(子嚢菌)、Bipolaris oryzae(子嚢菌)、Pestalotiopsis maculans(子嚢菌)、Aspergillus niger(子嚢菌)、Aspergillus oryzae(子嚢菌)、Aspergillus bombycis(子嚢菌)、Aspergillus pseudotamarii(子嚢菌)、Colletotrichum coccodes(子嚢菌)、Trichoderma deliquescens(子嚢菌)、Trichoderma koningiopsis(子嚢菌)、Trichoderma harzianum(子嚢菌)、Penicillium ulaiense(子嚢菌)、Penicillium italicum(子嚢菌)であった。また、培地添加と徐放の両方共に増殖促進効果がみられた菌は、Pythium(卵菌)、Ustilago maydis(担子菌)であった。
Figure 2021145637
[実験例2]
<真菌の生育に対するα−ヨノンの培地添加又は徐放の効果の検証>
バニリンの代わりにα−ヨノンを用いて、上記実験例1に示した手順に従って、寒天培地の調製と各菌の培養とを行った。本実験例の対照区も、上記実験例1と同様にした。
培養開始後6日目に培地上の菌の生育帯の直径を計測し、対照区での菌の生育帯の直径を100としたときの相対値(%)を求めた。当該相対値が100未満の場合は菌の増殖(生育)が阻害され、100を超える場合は菌の増殖(生育)が促進されると評価した。
結果を下表に示す。α−ヨノンについて、培地添加と徐放の両方共に増殖促進効果がみられた菌は、Pythium(卵菌)、Aspergillus niger(子嚢菌)、Ustilago maydis(担子菌)であった。
Figure 2021145637
[実験例3]
<徐放されたバニリン及びα−ヨノンの成分量の分析>
バニリンとα−ヨノンについて、ろ紙からどれくらいの量が徐放されるか、ペトリ皿内の培地上部のヘッドスペース(空間)内に存在する量を分析することにより調べた。具体的には、上記実験例1に示した手順に従って、バニリン及びα−ヨノンを含まない寒天培地を調製した。また、上記実験例1及び2と同様にして、バニリン溶液(バニリン濃度:250μg/μL)又はα−ヨノン溶液(α−ヨノン濃度:250μg/μL)を10μL浸み込ませたろ紙を用いて、これをペトリ皿の蓋に貼り付けて25℃±1℃で静置保管した。なお、本実験例においては、菌は接種しなかった。
保管開始後1、3、及び5日目にペトリ皿内のヘッドスペースから気体を採取し、選択的イオン検出(SIM)に基づくガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)に供した。SIMにおいて、バニリンについてはm/z 151、123、81に設定し、α−ヨノンについてはm/z192、136、121に設定した。徐放量は、既知量の標準物質を用いて作製した検量線に基づいて、採取気体に含まれるバニリン又はα−ヨノンの量を算出し、そこからヘッドスペースに含まれる各物質量を算出して求めた。また、試験に供した各物質の全量(ろ紙に浸み込ませた各物質の量)に対する徐放量の割合(%)も算出した。
結果を下表に示す。バニリンについては、保管開始から時間経過とともに徐放量は減少し、保管開始1、3、5日目におけるその徐放量は、それぞれ試験に供した量の約0.3%、0.08%、0.04%であった。α−ヨノンも同様の様相が認められ、保管開始1、3、5日目におけるその徐放量は、それぞれ試験に供した量の約1%、0.2%、0.05%であった。バニリンとα−ヨノンはともに、徐放量は試験に供した量の1%乃至それ未満であった。このように、バニリンとヨノンいずれも、徐放量は保管開始1日目で最大となり、時間の経過とともに減少した。徐放量が保管とともに減少した原因としては、1)気化した当該物質の一部が培地や皿や蓋に吸着された、2)ろ紙に浸み込ませた当該物質が分解等の化学変化を受けたために気化しなかった、3)用いたペトリ皿と蓋の組み合わせは完全無通気構造とはならないため、気化した当該物質の一部が皿の外に漏洩した、が考えられる。バニリンやヨノンの存在下で菌の増殖が促進されたことは、当該物質を認識し、増殖制御を行う機構が菌に備わっていることを示唆する。この推測が正しい場合、物質認識から増殖促進に至るまでには一定の時間を要することから、前述の3つのケースのいずれにおいても、保管開始1日目で徐放された物質が菌に作用し、前述の機構を経て、結果として増殖の促進が起きたと考えられる。したがって本結果を基に徐放のタイミングや量などを厳密に制御できる技術が開発されれば、目的とする微生物の生育制御は可能であると考えられる。
Figure 2021145637
本発明により提供される技術は、微生物利用に関する工業分野において有用である。例えば、発酵や醸造などにおける微生物の生育制御において本発明の技術を利用することができる。

Claims (5)

  1. 気体成分としてバニリン及び/又はヨノンを微生物に接触させる工程を含む、微生物の増殖促進方法。
  2. 微生物が真菌である、請求項1に記載の方法。
  3. 真菌が糸状菌である、請求項2に記載の方法。
  4. 糸状菌がアスペルギルス属菌、ペニシリウム属菌、又はトリコデルマ属菌である、請求項3に記載の方法。
  5. 気体成分としてバニリン及び/又はヨノンを含有する、微生物の増殖促進用ガス。
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